IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日機装株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-血液浄化装置 図1
  • 特開-血液浄化装置 図2
  • 特開-血液浄化装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054703
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20240410BHJP
   A61M 60/113 20210101ALI20240410BHJP
   A61M 60/279 20210101ALI20240410BHJP
   A61M 60/546 20210101ALI20240410BHJP
【FI】
A61M1/16 110
A61M60/113
A61M60/279
A61M60/546
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161112
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】古橋 智洋
(72)【発明者】
【氏名】村上 智也
(72)【発明者】
【氏名】早水 亮貴
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077DD07
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077JJ03
4C077JJ16
(57)【要約】
【課題】治療過程における血液の実効流速の測定精度を十分に向上させることができる血液浄化装置を提供する。
【解決手段】被しごきチューブ1aを扱くことにより血液を送液する血液ポンプ4と、血液ポンプ4の駆動により流動する血液回路の血液の流速を検出する流速センサ7と、血液ポンプ4の駆動により動脈圧を検出し、その検出値に基づいて血液回路の血液の流速を算出する動脈圧センサ8及び演算部12と、血液ポンプ4の駆動を制御して所定工程を実行する制御部13と、制御部13が実行する所定工程において、流速センサ7で検出された流速及び演算部12で算出された流速に基づいて流速センサ7の検出値を校正する補正値を取得するとともに、血液浄化治療時において流速センサ7の検出値を補正値で補正して血液の実効流速を算出する実効流速算出部14とを備えたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液又は透析液を流動させる可撓性チューブから成る血液回路と、
前記血液回路に接続された被しごきチューブを扱くことにより前記血液回路内で血液又は透析液を送液するポンプと、
前記ポンプの駆動により流動する前記血液回路の液体の流速を検出する第1検出部と、
前記ポンプの駆動により前記血液回路内を流動する液体の圧力を検出し、その検出値に基づいて前記血液回路の液体の流速を算出する第2検出部と、
前記ポンプの駆動を制御して所定工程を実行する制御部と、
前記制御部が実行する所定工程において、前記第1検出部で検出された流速及び前記第2検出部で算出された流速に基づいて前記第1検出部の検出値を校正する補正値を取得するとともに、血液浄化治療工程において前記第1検出部の検出値を前記補正値で補正して液体の実効流速を算出する実効流速算出部と、
を備えた血液浄化装置。
【請求項2】
前記第1検出部は、前記血液回路内を流動する液体に光又は超音波を照射し、その反射又は透過した光又は超音波を検出して流速を検出する流速センサを有する請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記第2検出部は、前記ポンプより上流側において前記血液回路内を流動する液体の圧力である回路内圧を検出するまたは間接的に推測する回路内圧センサを有し、前記回路内圧センサで検出された回路内圧と任意に設定された前記ポンプの駆動速度である設定ポンプ速度とに基づいて前記血液回路の液体の流速を算出する請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項4】
血液浄化治療の過程において、前記回路内圧センサで検出された回路内圧が所定範囲内である場合に限り、前記第1検出部の検出値に対する前記補正値による補正を行う請求項3記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記所定工程は、血液浄化治療開始から所定時間経過するまでの期間に行われる請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記所定工程は、前記ポンプを互いに異なる駆動速度で駆動させるとともに、それぞれの駆動速度において前記第1検出部による流速の検出及び前記第2検出部による流速の検出を行って前記第1検出部を校正する請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項7】
血液浄化治療中の治療情報又は設定情報を表示する表示部を具備するとともに、前記実効流速算出部で算出された液体の実効流速を前記表示部で表示する請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記実効流速算出部による前記補正値の取得前は、前記第2検出部で算出された液体の流速を表示するとともに、前記実効流速算出部による前記補正値の取得後は、前記実効流速算出部で算出された液体の実効流速を表示する請求項7記載の血液浄化装置。
【請求項9】
前記ポンプは、血液を送液する血液ポンプである請求項1又は請求項3記載の血液浄化装置。
【請求項10】
前記回路内圧センサは、血液の動脈圧または脱血圧を検出する請求項3又は請求項4記載の血液浄化装置。
【請求項11】
前記実効流速算出部により算出された液体の実効流速が任意に設定された前記ポンプの駆動速度である設定ポンプ速度に対して所定割合以下の場合、その旨を前記表示部に表示する請求項7記載の血液浄化装置。
【請求項12】
前記実効流速算出部により算出された液体の実効流速が任意に設定された前記ポンプの駆動速度である設定ポンプ速度に対して所定割合以下の場合、前記制御部は、
算出された前記液体の実効速度に前記設定ポンプ速度が近似するように前記ポンプを制御する請求項1記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を体外循環させつつ血液浄化治療する血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、血液浄化治療時においては、採取した患者の血液を体外循環させて再び体内に戻すための血液回路が用いられており、かかる血液回路は、例えば中空糸膜(血液浄化膜)を具備したダイアライザ(血液浄化器)と接続し得る動脈側血液回路及び静脈側血液回路から主に構成されている。そして、動脈側血液回路に配設された血液ポンプを駆動させることにより、患者の血液を血液回路にて体外循環させつつダイアライザにて浄化して血液浄化治療が行われる。
【0003】
血液ポンプは、通常、動脈側血液回路に接続された被しごきチューブを扱くことにより血液を送液し得るしごき型ポンプ(蠕動式ポンプ)にて構成されており、任意の駆動速度にて駆動することにより、血液回路内で血液等の液体を任意流速で流動させ得るようになっている。従来の血液浄化装置として、例えば特許文献1にて開示されているように、血液浄化治療中において、動脈圧及びポンプの角速度を計測することにより、血液の流速(実効流速)を算出するものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-99484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の血液浄化装置においては、以下の課題があった。
血液回路及び被しごきチューブは、血液浄化治療後、廃棄されるディスポーザブル品(使い捨て品)であるため、治療開始時点においては、被しごきチューブの弾力はほぼ設定通りとなっているものの、治療過程において、血液ポンプにて継続的に扱かれることから、へたってしまい、弾力(復元力)が低下してしまう虞がある。このように、被しごきチューブの弾力が低下すると、患者に穿刺した穿刺針と血液ポンプとの間の陰圧が緩和して動脈圧が上昇してしまうので、動脈圧から算出される血液の実効流速が実際の血液の流速に比べて乖離してしまい、実効流速の測定精度が低下してしまう不具合があった。
【0006】
一方、近赤外光の反射光からドップラー方式で液体の流速を検出可能な流速センサを具備し、流速センサで治療中における血液の実効流速を検出すれば、上記不具合を解消することができると思われる。しかし、このような流速センサは、光学式の測定のため、近赤外光の吸光特性に影響を与える赤血球の大きさのばらつきや光の屈折率に変化を与えるタンパク濃度の影響により、実際の血液の流速変化に対する追従性は良好なものの乖離した状態は解消されず、実効流速の測定精度の向上は十分ではない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、治療過程における血液の実効流速の測定精度を十分に向上させることができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一実施形態の血液浄化装置は、血液又は透析液を流動させる可撓性チューブから成る血液回路と、前記血液回路に接続された被しごきチューブを扱くことにより前記血液回路内で血液又は透析液を送液するポンプと、前記ポンプの駆動により流動する前記血液回路の液体の流速を検出する第1検出部と、前記ポンプの駆動により前記血液回路内を流動する液体の圧力を検出し、その検出値に基づいて前記血液回路の液体の流速を算出する第2検出部と、前記ポンプの駆動を制御して所定工程を実行する制御部と、前記制御部が実行する所定工程において、前記第1検出部で検出された流速及び前記第2検出部で算出された流速に基づいて前記第1検出部の検出値を校正する補正値を取得するとともに、血液浄化治療工程において前記第1検出部の検出値を前記補正値で補正して液体の実効流速を算出する実効流速算出部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1検出部で検出された流速及び第2検出部で算出された流速に基づいて第1検出部の検出値を校正する補正値を取得するとともに、血液浄化治療時において第1検出部の検出値を補正値で補正して液体の実効流速を算出するので、治療過程における血液の実効流速の測定精度を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
図2】同血液浄化装置の治療過程における治療時間と血液流量/動脈圧との関係を示すグラフ
図3】同血液浄化装置における制御内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、血液透析治療を行うための透析装置から成り、図1に示すように、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2を有した血液回路と、血液浄化器としてのダイアライザ3と、血液ポンプ4と、動脈側エアトラップチャンバ5と、静脈側エアトラップチャンバ6と、流速センサ7と、動脈圧センサ8と、静脈圧センサ9と、装置本体10に配設された表示部11、演算部12、制御部13及び実効流速算出部14とを具備している。
【0012】
動脈側血液回路1は、所定の液体を流通させ得る可撓性チューブから成るもので、その先端にコネクタcを介して動脈側穿刺針aが取り付け可能とされている。かかる動脈側血液回路1には、被しごきチューブ1aが接続されており、かかる被しごきチューブ1aを血液ポンプ4に取り付けることが可能とされている。被しごきチューブ1aは、血液ポンプ4にて径方向に圧縮されつつ長手方向にしごかれて内部の液体を送液させ得るものであり、動脈側血液回路1を構成する他の可撓性チューブより軟質且つ大径の可撓性チューブから成る。
【0013】
血液ポンプ4は、血液回路内でプライミング液や患者の血液(液体)を送液させるもので、回転駆動するロータ及びローラを具備した所謂しごきポンプから成るとともに、ロータの回転駆動に伴ってその回転方向(長手方向)に向かってローラで被しごきチューブ1aをしごき得るものとされている。かかるしごき作用により、動脈側血液回路1内の血液がロータの回転方向に流動して送液することとなるので、血液回路内で体外循環させることが可能とされている。
【0014】
また、動脈側血液回路1における血液ポンプ4の配設位置より上流側(コネクタcと血液ポンプ4との間)には、動脈側エアトラップチャンバ5及び流速センサ7がそれぞれ配設されている。動脈側エアトラップチャンバ5は、動脈側血液回路1の途中に接続されたチャンバから成り、その内部で血液を通過させるとともに、上部には空気層が形成されるようになっている。
【0015】
流速センサ7は、血液回路内を流動する血液(液体)に光又は超音波を照射し、その反射又は透過した光又は超音波を検出して流速を検出するものである。本実施形態に係る流速センサ7は、ドップラー効果から血液の流速を検出する光学式センサから成るもので、近赤外光(具体的には近赤外レーザ)を照射する照射部7aと、照射部7aから照射されて血液回路を流動する血液の成分(赤血球)で反射した反射光を受光する受光部7bとを具備している。
【0016】
この流速センサ7は、流速センサ7の受光部7bで受光した反射光から液体(血液)の流量(流速)を検出可能とされており、例えば、受光した近赤外光とドップラーシフトした光が重なりあうときに生じるビート信号の周波数を演算して流量(すなわち流速)に変換し得るよう構成されている。本実施形態の流速センサ7は、血液ポンプ4の駆動により流動する血液回路の血液(液体)の流速を検出する第1検出部を構成している。
【0017】
本実施形態の如く、レーザドップラ方式の流速センサ7によれば、図2に示すように、検出される血液の流速(同図のC5参照)は実際の血液の流速(同図のC3参照)に対して追従性が高く、被しごきチューブ1aの弾力(復元力)低下に伴う動脈圧の上昇に影響を受けないものとされるが、光学式の測定のため、血液や血液回路の個体差により誤差が生じてしまう。誤差要因として、吸光度に影響を及ぼす患者毎の赤血球の大きさのばらつきや、屈折率に影響を及ぼすタンパク濃度のばらつきや血液回路の製造ばらつき等が挙げられる。
【0018】
なお、流速センサ7は、レーザドップラ方式の光学式に限らず、例えばドップラ方式にて測定する超音波式やトランジットタイム方式にて測定する超音波式であってもよい。すなわち、流速センサ7は、血液回路内を流動する液体に光又は超音波を照射し、その反射又は透過した光又は超音波を検出して流速を検出するものであれば、他の形態のものであってもよい。
【0019】
さらに、本実施形態においては、動脈側エアトラップチャンバ5に接続された動脈圧センサ8(回路内圧センサ)を具備している。本実施形態に係る動脈圧センサ8は、動脈側エアトラップチャンバ5の空気層の圧力を検出することにより、血液ポンプ4より上流側において血液回路内を流動する血液の圧力である動脈圧を検出し得るよう構成されており、装置本体10に形成された演算部12と接続されている。この演算部12及び動脈圧センサ8は、血液ポンプ4の駆動により血液回路内を流動する液体の圧力を検出し、その検出値に基づいて血液回路の液体の流速を算出する第2検出部を構成するものである。なお、演算部12は、装置本体10に配設されたマイコン等で構成される。
【0020】
演算部12は、動脈圧センサ8で検出された動脈圧と任意に設定された血液ポンプ4の駆動速度である設定血液ポンプ速度とに基づいて血液回路の液体の流速(実効流速算出部14で補正される前の実効流速)を算出するもので、例えば以下の演算式により実効流速を算出可能とされている。なお、実効流速(実効血流量)とは、流速センサ7又は動脈圧センサ8等の検出値に基づいて推定(算出)した血液の速度を指す。
実効流速=設定血液ポンプ速度×(1-(動脈圧)×(-0.075/100))
【0021】
このように、動脈圧に基づいて実効流速を算出すれば、被しごきチューブ1aの弾力(復元力)が低下する前の血液浄化治療初期(序盤)においては検出精度が高いものの、血液浄化治療が続いて被しごきチューブ1aの弾力が低下して動脈圧が高くなる(図2のC6参照)と、検出される実効流速(同図のC2参照)は、実際の血液の流速(同図のC3参照)に比べて乖離が大きくなってしまう。
【0022】
静脈側血液回路2は、所定の液体を流通させ得る可撓性チューブから成るもので、その先端にコネクタdを介して静脈側穿刺針bが取り付け可能とされるとともに、静脈側エアトラップチャンバ6が接続されている。静脈側エアトラップチャンバ6は、ダイアライザ3で清浄化された血液を除泡するもので、その空気層には静脈圧を検出するための静脈圧センサ9が接続されている。
【0023】
ダイアライザ3は、微小孔(ポア)が形成された複数の中空糸を筐体部に収容して成るものであり、その筐体部に、血液導入ポート3a、血液導出ポート3b、透析液導入ポート3c及び透析液導出ポート3dが形成されており、このうち血液導入ポート3aには動脈側血液回路1の基端が、血液導出ポート3bには静脈側血液回路2の基端がそれぞれ接続されている。また、透析液導入ポート3c及び透析液導出ポート3dは、装置本体10から延設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2とそれぞれ接続されている。
【0024】
そして、ダイアライザ3に導入された患者の血液は、内部の中空糸膜内(血液流路)を通過して血液導出ポート3bから排出される一方、透析液導入ポート3cから導入された透析液が当該中空糸膜外(透析液流路)を通過して透析液導出ポート3dから排出されるよう構成されている。これにより、血液流路を通過する血液中の老廃物等を透析液側に透過させ、清浄化することができ、その清浄化された血液を静脈側血液回路2を介して患者の体内に戻すことができる。
【0025】
このように、動脈側血液回路1と静脈側血液回路2との間にダイアライザ3を接続するとともに、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態にて血液ポンプ4を駆動させることにより、血液回路(動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2)及びダイアライザ3を通じて患者の血液を体外循環させることができ、ダイアライザ3で血液を清浄化して患者に戻すことができる。
【0026】
本実施形態に係る装置本体10は、透析液導入ラインL1を介して透析液をダイアライザ3に供給するとともに、透析液排出ラインL2を介して排出された排液を外部に排出可能なもので、表示部11と、演算部12と、制御部13と、実効流速算出部14とを有して構成されている。このうち演算部12は、既述のように、動脈圧センサ8に接続されて検出された動脈圧から校正前の実効流速を算出するものである。
【0027】
表示部11は、装置本体10に配設されたタッチパネル機能を備えた液晶モニタ等から成り、血液浄化治療中の治療情報又は設定情報を表示し得るよう構成されている。制御部13は、装置本体10に配設されたマイコン等から成り、血液浄化治療において電磁弁や各種センサを制御し得るとともに、血液ポンプ4の駆動を制御して所定工程を実行し得るよう構成されている。
【0028】
実効流速算出部14は、装置本体10に配設されたマイコン等から成り、制御部13が実行する所定工程において、第1検出部(流速センサ7)で検出された流速及び第2検出部(動脈圧センサ8及び演算部12)で算出された流速に基づいて流速センサ7の検出値を校正する補正値を取得するとともに、血液浄化治療時において流速センサ7の検出値を補正値で補正して液体の実効流速を算出するものである。
【0029】
また、本実施形態においては、流速センサ7の検出値を校正するための所定工程は、血液浄化治療開始から所定時間経過するまでの期間(治療の序盤)に行われるものとされている。さらに、本実施形態における所定工程は、血液ポンプ4を互いに異なる駆動速度で駆動させるとともに、それぞれの駆動速度において流速センサ7(第1検出部)による流速の検出及び動脈圧センサ8、演算部12(第2検出部)による流速の検出を行って流速センサ7の検出値を校正するよう構成されている。
【0030】
加えて、本実施形態においては、実効流速算出部14で算出された血液の実効流速を表示部11で表示するものとされている。また、表示部11は、実効流速算出部14による補正値の取得前は、動脈圧センサ8及び演算部12で算出された血液の流速を表示するとともに、実効流速算出部14による補正値の取得後は、実効流速算出部14で算出された血液の実効流速を表示するよう構成されている。
【0031】
さらに、実効流速算出部14により算出された血液の実効流速が設定血液ポンプ速度(任意に設定された血液ポンプの駆動速度)に対して所定割合以下の場合、その旨を表示部11に表示するのが好ましく、或いは実効流速算出部14により算出された液体の実効流速が設定血液ポンプ速度に対して所定割合以下の場合、制御部13は、算出された血液の実効速度に設定血液ポンプ速度が近似するように血液ポンプ4を制御するものとしてもよい。またさらに、血液浄化治療の過程において、動脈圧センサ8で検出された動脈圧が所定範囲内である場合に限り、流速センサ7の検出値に対する補正値による補正を行うものとしてもよい。
【0032】
次に、本実施形態に係る血液浄化装置における所定工程の制御について、図3のフローチャートに基づき、図2のグラフを用いて説明する。なお、C1:血液ポンプ速度、C2:動脈圧と血液ポンプ速度から算出した実効流速、C3:実際の血流量、C4:補正後の実効流速、C5:補正前の光学/超音波式の実効流速、C6:動脈圧(但し、C1~C5の単位は[mL/min]、C6の単位は[mmHg])である。血液浄化治療が開始されると、医師が処方した流速である設定血液ポンプ速度(図3のS1)にて血液ポンプ4が駆動される(S1)。そして、第1の校正時点t1に至ると、動脈圧センサ8により動脈圧を検出して演算部12により校正前の実効流速P1を算出するとともに、流速センサ7により校正前の実効流速D1を検出する(S2)。
【0033】
その後、血液ポンプ4の駆動速度を低下させ(S3)、第2の校正時点t2に至ると、動脈圧センサ8により動脈圧を検出して演算部12により校正前の実効流速P2を算出するとともに、流速センサ7により校正前の実効流速D2を検出する(S4)。そして、再び設定血液ポンプ速度にて血液ポンプ4が駆動されるとともに、実効流速算出部14により校正のための算出が行われる(S5)。
【0034】
校正のための算出は、流速センサ7(第1検出部)で検出された流速(校正前の実効流速D1、D2)及び動脈圧センサ8、演算部12(第2検出部)で算出された流速(校正前の実効流速P1、P2)に基づいて流速センサ7の検出値を校正する補正値(α、β)を取得することにより行われ、例えば、以下の演算式によって実効流速算出部14により校正後の実効流速(図2のC4参照)が算出される。
【0035】
α=(校正前の実効流速P2-校正前の実効流速P1)/(校正前の実効流速D2-校正前の実効流速D1)
β=校正前の実効流速P2-(α×校正前の実効流速D2)
校正後の実効流速=α×(流速センサ7で検出した校正前の実効流速)+β
【0036】
これにより、流速センサ7で検出した校正前の実効流速(図2のC5参照)は、校正によって実効速度(図2のC4参照)となり、実際の血液の流速C3に近似させることができる。その後、校正が成功したか否か判定され(S6)、校正が成功した場合(補正値(α、β)の取得後)、実効流速算出部14で算出された実効流速(すなわち、補正値(α、β)で補正した実効流速)を表示部11にて表示する(S7)とともに、校正が成功しない場合(補正値(α、β)の取得前)、演算部12で算出された校正前の実効流速(すなわち、動脈圧から算出された実効流速)を表示部11にて表示する(S8)。
【0037】
以上により所定工程による校正が終了し、続いて通常の血液浄化治療が行われることとなる。このように、本実施形態においては、所定工程が血液浄化治療開始から所定時間経過するまでの期間(序盤)に行われているが、血液浄化治療における他の期間、或いは血液浄化治療の開始前に所定工程を行って校正するようにしてもよい。
【0038】
本実施形態によれば、流速センサ7で検出された流速及び動脈圧センサ8、演算部12で算出された流速に基づいて流速センサ7の検出値(校正前の実効流速)を校正する補正値(α、β)を取得するとともに、血液浄化治療時において流速センサ7の検出値を補正値(α、β)で補正して血液(液体)の実効流速を算出するので、治療過程における血液の実効流速の測定精度を十分に向上させることができる。
【0039】
特に、本実施形態においては、流速センサ7による校正前の実効流速の測定の利点と動脈圧センサ8による校正前の実効流速の測定の利点とを兼ね備えつつ流速センサ7による実効流速の測定の欠点と動脈圧センサ8による校正前の実効流速の測定の欠点を補完することができるので、血液の実効流速を実際の血液の流速に近い値となるよう高精度に測定することができ、透析効率の低下を防止することができるとともに、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの正常な穿刺状態の判定等を正確に行わせることができる。
【0040】
第1検出部は、血液回路内を流動する液体に光又は超音波を照射し、その反射又は透過した光又は超音波を検出して流速を検出する流速センサ7を有するので、図2に示すように、検出される血液の流速(同図のC5参照)は実際の血液の流速(同図のC3参照)に比べて追従性が高く、且つ、直線性を有し、被しごきチューブ1aの弾力(復元力)低下に伴う動脈圧の上昇に影響を受けない。
【0041】
また、第2検出部は、血液ポンプ4より上流側において血液回路内を流動する血液の圧力である動脈圧を検出する動脈圧センサ8を有し、動脈圧センサ8で検出された動脈圧と任意に設定された血液ポンプ4の駆動速度である設定血液ポンプ速度とに基づいて血液回路の血液の流速を算出するので、被しごきチューブ1aの弾力(復元力)が低下する前の血液浄化治療初期(序盤)の所定工程において検出精度が高い。
【0042】
さらに、血液浄化治療の過程において、動脈圧センサ8で検出された動脈圧が所定範囲内である場合に限り、流速センサ7の検出値に対する補正値(α、β)による補正を行うようにすれば、例えば動脈圧が過度に高い場合など、測定誤差が大きくなる時間帯における補正を行わず、警報等の注意喚起のみ行わせることができる。また、血液浄化治療の過程において、動脈圧センサ8により動脈圧の監視を行わせることができる。
【0043】
またさらに、所定工程は、血液浄化治療開始から所定時間経過するまでの期間(序盤)に行われるので、動脈圧センサ8及び演算部12により高精度に算出された実効流速に基づいて流速センサ7の校正を行うことができる。また、所定工程は、血液ポンプ4を互いに異なる駆動速度で駆動させるとともに、それぞれの駆動速度において流速センサ7による流速の検出(校正前の実効流速D1、D2)及び動脈圧センサ8、演算部12による流速の検出(校正前の実効流速P1、P2)を行って流速センサ7の検出値を校正するので、円滑且つ精度よく流速センサ7の検出値の校正を行うことができる。
【0044】
加えて、血液浄化治療中の治療情報又は設定情報を表示する表示部11を具備するとともに、実効流速算出部14で算出された血液の実効流速を表示部11で表示するので、血液浄化治療過程において、精度の高い血液の実効流速を表示させることができる。また、表示部11は、実効流速算出部14による補正値の取得前(校正が成功しない場合を含む)は、動脈圧センサ8及び演算部12で算出された血液の流速を表示するとともに、実効流速算出部14による補正値の取得後(校正が成功した場合を含む)は、実効流速算出部14で算出された血液の実効流速を表示するので、表示された実効流速の信頼性を向上させることができる。
【0045】
さらに、実効流速算出部14により算出された血液の実効流速が設定血液ポンプ速度に対して所定割合以下の場合、その旨を表示部11に表示するようにすれば、医師等医療従事者に注意喚起することができ、血液浄化効率の低下を把握して適切に対処することができる。またさらに、実効流速算出部14により算出された血液の実効流速が設定血液ポンプ速度に対して所定割合以下の場合、制御部13は、算出された血液の実効速度に設定血液ポンプ速度が近似するように血液ポンプ4を制御すれば、算出された血液の実効速度に応じて血液ポンプ4をフィードバック制御することができる。
【0046】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば、動脈圧センサ8を他の形態のセンサとすることができ、動脈側血液回路1における血液ポンプ4の上流側(動脈側血液回路1の先端側)に接続された所謂ピローや圧力ポッドダイアフラムと称される部位の変形や血液ポンプ4に設置された被しごきチューブ1aの変形に基づいて動脈圧を算出するものであってもよい。また、演算部12、制御部13、及び実効流速算出部14は、各々マイコン等で構成されていなくともよく、単一のマイコン等で構成されてもよい。さらに、演算部12、制御部13、及び実効流速算出部14は、マイコンではなく、例えば、FPGA、又はASICへ代替してもよく、これらを併用して構成してもよい。
【0047】
本発明の第1の実施の態様は、血液又は透析液を流動させる可撓性チューブから成る血液回路と、前記血液回路に接続された被しごきチューブを扱くことにより前記血液回路内で血液又は透析液を送液するポンプと、前記ポンプの駆動により流動する前記血液回路の液体の流速を検出する第1検出部と、前記ポンプの駆動により前記血液回路内を流動する液体の圧力を検出し、その検出値に基づいて前記血液回路の液体の流速を算出する第2検出部と、前記ポンプの駆動を制御して所定工程を実行する制御部と、前記制御部が実行する所定工程において、前記第1検出部で検出された流速及び前記第2検出部で算出された流速に基づいて前記第1検出部の検出値を校正する補正値を取得するとともに、血液浄化治療工程において前記第1検出部の検出値を前記補正値で補正して液体の実効流速を算出する実効流速算出部と、を備えた血液浄化装置である。これにより、治療過程における血液の実効流速の測定精度を十分に向上させることができるという効果を奏する。
【0048】
本発明の第2の実施の態様は、第1の実施の態様において、第1検出部が、血液回路内を流動する液体に光又は超音波を照射し、その反射又は透過した光又は超音波を検出して流速を検出する流速センサとすることである。これにより、被しごきチューブの経時的変化に影響を受けずに実行流速を測定できるという効果を奏する。
【0049】
本発明の第3の実施態様は、第1の実施の態様において、第2検出部が、ポンプより上流側において血液回路内を流動する液体の圧力である回路内圧を検出するまたは間接的に推測する回路内圧センサを有し、前記回路内圧センサで検出された回路内圧と任意に設定された前記ポンプの駆動速度である設定ポンプ速度とに基づいて前記血液回路の液体の流速を算出することである。これにより、治療初期の段階において、光学式測定に比べて実際の血液の流速に対する追従性を良好にすることができるという効果を奏する。
【0050】
本発明の第4の実施の態様は、第3の実施の態様において、血液浄化治療の過程における、回路内圧センサで検出された回路内圧が所定範囲内である場合に限り、第1検出部の検出値に対する補正値による補正を行うことである。これにより、測定誤差が大きくなる時間帯における補正を行わず、警報等の注意喚起のみ行わせることができるという効果を奏する。
【0051】
本発明の第5の実施の態様は、第1の実施の態様において、所定工程が、血液浄化治療開始から所定時間経過するまでの期間に行われることである。これにより、第2検出部により高精度に算出された実効流速に基づいて流速センサ7の校正を行うことができるという効果を奏する。
【0052】
本発明の第6の実施の態様は、第1の実施の態様において、所定工程が、ポンプを互いに異なる駆動速度で駆動させるとともに、それぞれの駆動速度において第1検出部による流速の検出及び第2検出部による流速の検出を行って前記第1検出部を校正することである。これにより、円滑且つ精度よく第1検出部の検出値の校正を行うことができるという効果を奏する。
【0053】
本発明の第7の実施の態様は、第1の実施の態様において、血液浄化治療中の治療情報又は設定情報を表示する表示部を具備するとともに、実効流速算出部で算出された液体の実効流速を表示部で表示することである。これにより、血液浄化治療過程において、精度の高い血液の実効流速を表示させることができるという効果を奏する。
【0054】
本発明の第8の実施の態様は、第7の実施の態様において、表示部が、実効流速算出部による補正値の取得前は、第2検出部で算出された液体の流速を表示するとともに、前記実効流速算出部による前記補正値の取得後は、前記実効流速算出部で算出された液体の実効流速を表示することである。これにより、表示された実効流速の信頼性を向上させることができるという効果を奏する。
【0055】
本発明の第9の実施の態様は、第1または第3の実施の態様において、ポンプが、血液を送液する血液ポンプである。これにより、血液ポンプを補正前の実行流速測定用として兼用することで、装置点数を削減することができる。
【0056】
本発明の第10の実施の態様は、第3または第4の実施の態様において、回路内圧センサが、血液の動脈圧または脱血圧を検出することである。これにより、血液の動脈圧または脱血圧を検出するセンサを補正前の実行流速測定用として兼用することで、装置点数を削減することができる。
【0057】
本発明の第11の実施の態様は、第7の実施の態様において、実効流速算出部により算出された液体の実効流速が任意に設定された前記ポンプの駆動速度である設定ポンプ速度に対して所定割合以下の場合、その旨を前記表示部に表示することである。これにより、医師等医療従事者に注意喚起することができ、血液浄化効率の低下を把握して適切に対処することができる。
【0058】
本発明の第12の実施の態様は、第1の実施の態様において、実効流速算出部により算出された液体の実効流速が任意に設定されたポンプの駆動速度である設定ポンプ速度に対して所定割合以下の場合に、制御部が、算出された前記液体の実効速度に前記設定ポンプ速度が近似するように前記ポンプを制御することである。これにより、算出された血液の実効速度に応じてポンプをフィードバック制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明と同様の趣旨であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 動脈側血液回路
1a 被しごきチューブ
2 静脈側血液回路
3 ダイアライザ(血液浄化器)
3a 血液導入ポート
3b 血液導出ポート
3c 透析液導入ポート
3d 透析液導出ポート
4 血液ポンプ
5 動脈側エアトラップチャンバ
6 静脈側エアトラップチャンバ
7 流速センサ(第1検出部)
7a 照射部
7b 受光部
8 動脈圧センサ(第2検出部)
9 静脈圧センサ
10 装置本体
11 表示部
12 演算部(第2検出部)
13 制御部
14 実効流速算出部
a 動脈側穿刺針
b 静脈側穿刺針
c、d コネクタ
図1
図2
図3