IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図1
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図2
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図3
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図4
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図5
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図6
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図7
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図8
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図9
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図10
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図11
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図12
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図13
  • 特開-トルクセンサ及び車両操向装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054717
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】トルクセンサ及び車両操向装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 25/00 20060101AFI20240410BHJP
   G01L 3/10 20060101ALI20240410BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01L25/00 C
G01L3/10 305
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161131
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】太田 明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大剛
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB13
3D333CC30
3D333CD16
3D333CE21
(57)【要約】
【課題】磁石式トルクセンサの検出値の直線性誤差を精度良く補正する。
【解決手段】トルクセンサ1は、磁気検出素子47aが出力する検出値と補正値との間の関係を示す補正マップを記憶した記憶部47cを備える。入力軸82aと出力軸82bとの間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの第1検出値Tdmaxと、第2方向の相対回転量が最大許容量に達したときの第2検出値Tdminと、の間の変化幅を4つの領域に等分し、検出値の大小順に小さい順に第1領域R1~第4領域R4と定義した場合に、第2領域R2及び第3領域R3よりも第1領域R1及び第4領域R4に多くの補正点が設定されている。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸及び出力軸と、
一端が前記入力軸に固定され、他端が前記出力軸に固定されたトーションバーと、
前記入力軸及び前記出力軸のうちの一方の軸に固定された永久磁石と、
前記入力軸及び前記出力軸のうちの他方の軸に固定された、前記永久磁石に面する第1ステータ部材及び第2ステータ部材を備えるステータと、
前記第1ステータ部材から前記第2ステータ部材へ流れる磁束の磁束密度に応じた検出値を出力する磁気検出素子と、
前記検出値と補正値との間の関係を示す補正マップを記憶した記憶部と、
前記補正値で前記検出値を補正して出力信号を出力する補正回路と、を備え、
前記補正マップは、3つ以上の補正点における前記検出値と前記補正値との対応関係を記憶し、
前記入力軸と前記出力軸との間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの前記検出値である第1検出値と、第2方向の相対回転量が最大許容量に達したときの前記検出値である第2検出値と、の間の変化幅を4つの領域に等分し、前記4つの領域を前記検出値の大小順に小さい順に第1領域、第2領域、第3領域及び第4領域と定義した場合に、前記第2領域及び前記第3領域よりも前記第1領域及び前記第4領域に多くの前記補正点が設定されている、
ことを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
前記第1領域と前記第4領域に略同数の前記補正点がされていることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記トーションバーの捻れ角が略ゼロである場合に出力される前記検出値に前記補正点が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
前記第1検出値の近傍と前記第2検出値の近傍の各々に前記補正点が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項5】
前記ステータが、一体の板金状部材を折り曲げ加工することで形成されたフランジ部と歯部を備えることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項6】
前記ステータは、前記入力軸及び前記出力軸のうちの前記他方の軸にスリーブを介して固定され、
前記スリーブの内周面にはエンボス加工によって形成された凸部が形成され、
前記他方の軸の外周面には軸方向に沿う凹溝が形成され、
前記凸部と前記凹溝が係合していることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項7】
入力軸及び出力軸と、
一端が前記入力軸に固定され、他端が前記出力軸に固定されたトーションバーと、
前記入力軸及び前記出力軸のうちの一方の軸に固定され、軸方向に延びる複数の凸条が円周方向に沿って形成された磁性材料のセンサシャフト部と、
前記センサシャフト部と同軸に配置されるように前記入力軸及び前記出力軸のうちの他方の軸に固定され、前記凸条に対向する位置に窓が形成された導電性且つ非磁性の材料の円筒部材と、
前記窓を包囲するように配置されてインダクタンスに応じた検出値を出力する検出コイルと、
前記検出値と補正値との間の関係を示す補正マップを記憶した記憶部と、
前記補正値で前記検出値を補正して出力信号を出力する補正回路と、を備え、
前記補正マップは、3つ以上の補正点における前記検出値と前記補正値との対応関係を記憶し、
前記入力軸と前記出力軸との間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの前記検出値である第1検出値と、第2方向の相対回転量が最大許容量に達したときの前記検出値である第2検出値と、の間の変化幅を4つの領域に等分し、前記4つの領域を前記検出値の大小順に小さい順に第1領域、第2領域、第3領域及び第4領域と定義した場合に、前記第2領域及び前記第3領域よりも前記第1領域及び前記第4領域に多くの前記補正点が設定されている、
ことを特徴とするトルクセンサ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のトルクセンサと、
車両の操舵系に付与する操舵反力を発生させるアクチュエータと、
前記トルクセンサの検出結果に応じて前記アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ制御部と、
を備えることを特徴とする車両操向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクセンサ及び車両操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクセンサとして、トーションバーと、永久磁石と、磁気センサを備えた磁石式トルクセンサが知られている。
例えば、下記特許文献1には、トーションバーの両端にそれぞれ永久磁石とステータとが固定され、磁石からステータに流れる磁束密度を磁気検出素子で検出することにより入力トルクを検出する磁石式トルクセンサが記載されている。この磁石式トルクセンサは、磁気検出素子が出力する検出値と入力トルクとの間の直線性(リニアリティ)誤差を訂正するための校正データを記憶部に格納する。校正データは、磁気検出素子が出力する検出値の取りうる範囲である値域内の複数の点(例えば校正点)におけるそれぞれの補正値で構成されている。以下の説明において、磁気検出素子の検出値の値域内の点のうち補正値が記憶された点を「補正点」と表記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-000621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記憶部の記憶容量には限りがあり、補正値を記憶できる補正点の数には限界がある。したがって補正点は離散的に設定される。このため、隣接した補正点の間において補間により検出値を補正すると、隣接した補正点の間における直線性が低下することがある。
本発明は、上記の事情を鑑みて考案されたものであり、磁石式トルクセンサの検出値の直線性誤差を精度良く補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によるトルクセンサは、入力軸と、出力軸と、一端が入力軸に固定され、他端が出力軸に固定されたトーションバーと、入力軸及び出力軸のうちの一方の軸に固定された永久磁石と、入力軸及び出力軸のうちの他方の軸に固定された、永久磁石に面する第1ステータ部材及び第2ステータ部材を備えるステータと、第1ステータ部材から第2ステータ部材へ流れる磁束の磁束密度に応じた検出値を出力する磁気検出素子と、検出値と補正値との間の関係を示す補正マップを記憶した記憶部と、補正値で検出値を補正して出力信号を出力する補正回路と、を備える。
【0006】
補正マップは、3つ以上の補正点における検出値と補正値との対応関係を記憶し、入力軸と出力軸との間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの検出値である第1検出値と、第2方向の相対回転量が最大許容量に達したときの検出値である第2検出値と、の間の変化幅を4つの領域に等分し、4つの領域を検出値の大小順に小さい順に第1領域、第2領域、第3領域及び第4領域と定義した場合に、第2領域及び第3領域よりも第1領域及び第4領域に多くの補正点が設定されている。
【0007】
本発明の他の態様によるトルクセンサは、入力軸及び出力軸と、一端が入力軸に固定され、他端が出力軸に固定されたトーションバーと、入力軸及び出力軸のうちの一方の軸に固定され、軸方向に延びる複数の凸条が円周方向に沿って形成された磁性材料のセンサシャフト部と、センサシャフト部と同軸に配置されるように入力軸及び出力軸のうちの他方の軸に固定され、凸条に対向する位置に窓が形成された導電性且つ非磁性の材料の円筒部材と、窓を包囲するように配置されてインダクタンスに応じた検出値を出力する検出コイルと、上記と同様の補正マップを記憶した記憶部と、補正値で検出値を補正して出力信号を出力する補正回路と、を備える。
【0008】
本発明の更なる他の態様による車両操向装置は、上記のトルクセンサと、車両の操舵系に付与する操舵反力を発生させるアクチュエータと、トルクセンサの検出結果に応じてアクチュエータを駆動制御するアクチュエータ制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁石式トルクセンサの検出値の直線性誤差を精度良く補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。
図2】実施形態の電動パワーステアリング装置の分解斜視図である。
図3】実施形態の電動パワーステアリング装置の断面図である。
図4図3とは異なる平面で実施形態の電動パワーステアリング装置を切断した断面図である。
図5図4の一部の拡大図である。
図6】実施形態のマグネット及びステータ等を示す分解斜視図である。
図7】出力軸と第2スリーブの間の周方向の位置決め手段の一例の説明図である。
図8】トルクセンサの直線性誤差の概念図である。
図9】ホールICの機能構成の一例のブロック図である。
図10】校正データの一例を概念的に示す表である。
図11】(a)及び(b)は直線性誤差が残る理由の概念図である。
図12】(a)及び(b)は補正点を等間隔に設定した場合の直線性誤差の概念図であり、(c)及び(d)は補正点を不等間隔に設定した場合の直線性誤差の概念図である。
図13】実施形態における補正点の設定例の概念図である。
図14】変形例のトルクセンサの構成の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。図2は、本実施形態の電動パワーステアリング装置の分解斜視図である。図3は、本実施形態の電動パワーステアリング装置の断面図である。
【0013】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、中間シャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、を備えピニオンシャフト87に接合されている。以下の説明においては、電動パワーステアリング装置80が搭載された車両における前方は単に前方と記載され、車両における後方は単に後方と記載される。また、電動パワーステアリング装置80は、図2に示すように、ギアボックス920と、中間プレート10と、コラムハウジング820と、を備える。ギアボックス920が車両に取り付けられており、コラムハウジング820が中間プレート10を介してギアボックス920に固定されている。
【0014】
図1及び図3に示すように、ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、トーションバー82cと、を備える。入力軸82aは、図3に示すコラムハウジング820に軸受を介して支持されている。入力軸82aは、コラムハウジング820に対して回転できる。入力軸82aの一端は、ステアリングホイール81に連結されている。入力軸82aの他端は、トーションバー82cに連結されている。トーションバー82cは、入力軸82aの中心に設けられた穴に嵌まっており、ピンを介して入力軸82aに固定されている。以下の説明において、入力軸82aの回転軸Zと平行な方向は、軸方向と記載される。回転軸Zに対して直交し且つ回転軸Zを通る直線と平行な方向は、径方向と記載される。回転軸Zを中心とした円周に沿う方向は、周方向と記載される。
【0015】
図3に示すように、出力軸82bは、軸受71を介して中間プレート10に支持され、且つ軸受72を介してギアボックス920に支持されている。例えば、軸受71は中間プレート10に圧入されており、軸受72はギアボックス920に圧入されている。出力軸82bは、中間プレート10及びギアボックス920に対して回転できる。出力軸82bの一端は、トーションバー82cに連結されている。出力軸82bの他端は、ユニバーサルジョイント84に連結されている。トーションバー82cは、出力軸82bの中心に設けられた穴に圧入されることで出力軸82bに固定されている。
【0016】
また、入力軸82aの前方端部は、出力軸82bの内側に位置する。入力軸82aの外周面及び出力軸82bの内周面の一方に設けられた凸部が他方に設けられた凹部に嵌まっている。凸部と凹部との間には周方向の隙間が設けられている。これにより、トーションバー82cが連結部材として機能しなくなった場合でも、入力軸82aと出力軸82bとの間でトルクが伝達される。
【0017】
入力軸82aと出力軸82bには、図示しない回り止めが設けられている。回り止めは、例えば入力軸82aの端部付近に設けられて入力軸82aの端部付近から径方向外側に突出する複数の(例えば8つの)凸部と、出力軸82bの端部付近に設けられて出力軸82bの端部付近から径方向外側に突出する複数の(例えば8つの)凸部とを備えてよい。これらの凸部同士が当接することにより入力軸82aと出力軸82bの間の相対的な回転が規制される。
【0018】
図1に示すように、中間シャフト85は、ユニバーサルジョイント84とユニバーサルジョイント86とを連結している。中間シャフト85の一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87の一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、ピニオンシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。ユニバーサルジョイント84及びユニバーサルジョイント86は、例えばカルダンジョイントである。ステアリングシャフト82の回転が中間シャフト85を介してピニオンシャフト87に伝わる。すなわち、中間シャフト85はステアリングシャフト82に伴って回転する。
【0019】
図1に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。
【0020】
図1に示すように、操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ93とを備える。減速装置92は、例えばウォーム減速装置であって、図2及び図3に示すようにギアボックス920と、ウォームホイール921と、ウォーム922と、を備える。電動モータ93で生じたトルクは、ウォーム922を介してウォームホイール921に伝達され、ウォームホイール921を回転させる。ウォーム922及びウォームホイール921は、電動モータ93で生じたトルクを増加させる。ウォームホイール921は、出力軸82bに固定されている。例えば、ウォームホイール921が出力軸82bに圧入されている。このため、減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。
【0021】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)であるコントローラ90と、トルクセンサ1と、車速センサ95と、を備える。電動モータ93、トルクセンサ1及び車速センサ95は、コントローラ90と電気的に接続される。トルクセンサ1は、入力軸82aに伝達された操舵トルクを通信によりコントローラ90に出力する。車速センサ95は、電動パワーステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速を通信によりコントローラ90に出力する。
【0022】
コントローラ90は、電動モータ93の動作を制御する。コントローラ90は、トルクセンサ1及び車速センサ95からの信号を取得する。コントローラ90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。コントローラ90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。コントローラ90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値を調節する。コントローラ90は、電動モータ93の誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。コントローラ90が電動モータ93を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0023】
図4は、図3とは異なる平面で本実施形態の電動パワーステアリング装置を切った断面図である。図5は、図4の一部の拡大図である。図6は、本実施形態のマグネット及びステータ等を示す分解斜視図である。
図3に示すように、トルクセンサ1は、コラムハウジング820とギアボックス920との間に配置されている。より具体的には、トルクセンサ1は、コラムハウジング820と中間プレート10とに挟まれる空間に位置する。
【0024】
図3図5に示すようにトルクセンサ1は、第1スリーブ21と、マグネット25と、第2スリーブ31と、キャリア32と、ステータ35と、センサハウジング40と、集磁部材46と、プリント基板43と、ホールIC47と、第1カバー48と、第2カバー49と、を備える。
第1スリーブ21は、非磁性体であって金属である。非磁性体の金属の具体例としては、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)が挙げられる。第1スリーブ21は筒状の部材であって、図3に示すように、入力軸82aに取り付けられている。第1スリーブ21は、例えば深絞り加工によって形成される。
【0025】
マグネット25は、硬質磁性体を含む。硬質磁性体の具体例としてはネオジウム又はフェライトが挙げられる。マグネット25は、例えば磁石粉と樹脂と混合した材料を固化することによって形成される。マグネット25は、ボンド磁石と呼ばれる。マグネット25は、例えばネオジウム及びポリフェニレンサルファイド、又はフェライト及びポリフェニレンサルファイドで円筒状に形成されている。マグネット25において、S極及びN極が周方向に交互に配置されている。図5に示すように、マグネット25は接着剤27によって第1スリーブ21に取り付けられている。
【0026】
第2スリーブ31は非磁性体であって金属である。非磁性体の金属の具体例としては、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)が挙げられる。第2スリーブ31は筒状の部材であって、図3に示すように出力軸82bに取り付けられている。具体的には、第2スリーブ31は、出力軸82bの外周面に圧入されている。
キャリア32は非磁性体である。例えば、キャリア32は樹脂である。樹脂の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)又はポリアセタール樹脂(POM)が挙げられる。キャリア32は、筒状の部材であって第2スリーブ31を介して出力軸82bに取り付けられている。キャリア32は、射出成形で第2スリーブ31と一体に形成されている。
【0027】
図6に示すように、ステータ35は、第1ステータ部材351と、第2ステータ部材352と、を含む。第1ステータ部材351及び第2ステータ部材352は、軟質磁性体である。軟質磁性体の具体例としては、ニッケル-鉄合金が挙げられる。第1ステータ部材351及び第2ステータ部材352は、キャリア32に固定されている。第1ステータ部材351及び第2ステータ部材352は、出力軸82b、第2スリーブ31及びキャリア32と共に回転する。第1ステータ部材351は、第1フランジ部351aと、複数の第1ティース部(歯部)351bと、を備える。第1フランジ部351aは、軸方向に対して直交する板である。第1ティース部351bは、第1フランジ部351aから前方に突出している。複数の第1ティース部351bは、周方向に等間隔に配置されている。例えば、一体の板金状部材を折り曲げ加工するにより、第1フランジ部351aと第1ティース部351bとを形成してよい。
【0028】
第2ステータ部材352は、第2フランジ部352aと、複数の第2ティース部352bと、を備える。第2フランジ部352aは、第1フランジ部351aと平行な板であって、第1フランジ部351aの前方に位置する。第2ティース部352bは、第2フランジ部352aから後方に突出している。複数の第2ティース部352bは、周方向に等間隔に配置されている。例えば、一体の板金状部材を折り曲げ加工するにより、第2フランジ部352aと第2ティース部352bとを形成してよい。
1つの第2ティース部352bは、2つの第1ティース部351bの間に位置する。すなわち、第1ティース部351bと第2ティース部352bとが周方向に交互に配置されている。第1ティース部351b及び第2ティース部352bは、マグネット25に面している。
【0029】
また、出力軸82bとステータ35との間の周方向の位置関係は、トルクセンサ1に入力トルクが加えられていない中立状態(すなわちトーションバー82cの捻れ角が略ゼロである状態)で、第1ティース部351b及び第2ティース部352bの周方向中心位置とマグネット25のS極とN極との境界とが一致し、マグネット25の磁束が第1ステータ部材351から第2ステータ部材352へ、又は第2ステータ部材352から第1ステータ部材351へ流れないように位置決めされる。
【0030】
図7を参照する。たとえば、出力軸82bとステータ35との間の周方向の位置関係は第2スリーブ31の内周面と出力軸82bの外周面に形成した凸部と凹溝とを係合させるように位置決めしてよい。図7の例では、第2スリーブ31の内周面にはエンボス加工によって形成された凸部311が形成され、出力軸82bの外周面には軸方向に沿う凹溝82b1が形成され、凸部311と凹溝82b1とを係合することによって、出力軸82bとステータ35との間の周方向の位置関係が定められる。
【0031】
センサハウジング40は、非磁性体である。例えば、センサハウジング40は樹脂である。樹脂の具体例としてはポリブチレンテレフタレート(PBT)又はポリアミド66である。センサハウジング40は、ボルト等の締結部材によって中間プレート10に固定されている。
【0032】
図5に示すように、集磁部材46は、第1集磁部材461と、第2集磁部材462と、を含む。第1集磁部材461及び第2集磁部材462は、軟質磁性体であって、例えばニッケル-鉄合金である。第1集磁部材461及び第2集磁部材462は、センサハウジング40に固定されている。図5に示すように、第1集磁部材461は、第1フランジ部351aに面している。第1集磁部材461と第1フランジ部351aとの間には隙間C2がある。第1ステータ部材351の磁化に応じて、第1集磁部材461が磁化する。第2集磁部材462は、第2フランジ部352aに面している。第2集磁部材462と第2フランジ部352aとの間には隙間C3がある。第2ステータ部材352の磁化に応じて、第2集磁部材462が磁化する。例えば、隙間C3の軸方向の長さは、隙間C2の軸方向の長さとほぼ等しい。
【0033】
プリント基板43は、センサハウジング40に固定されている。ホールIC47は、プリント基板43に取り付けられている。ホールIC47は、第1集磁部材461と第2集磁部材462との間に配置されている。ホールIC47と第1集磁部材461との間、及びホールIC47と第2集磁部材462との間には隙間がある。ホールIC47は、第1集磁部材461と第2集磁部材462との間の磁束密度の変化に応じて出力する信号を変化させる。ホールIC47は、信号をコントローラ90に出力する。
【0034】
ステアリングホイール81が操作されると、入力軸82aにトルクが伝達される。出力軸82bがトーションバー82cを介して入力軸82aに連結されているので、入力軸82aが出力軸82bに対して相対的に回転する。このため、マグネット25が、第1ティース部351b及び第2ティース部352bに対して相対的に回転する。これにより、第1ステータ部材351及び第2ステータ部材352それぞれの磁化の強さが変化する。このため、第1集磁部材461と第2集磁部材462の間の磁束密度が変化する。ホールIC47は、この磁束密度の変化を検出する。コントローラ90は、ホールIC47の出力信号に基づき算出した操舵トルクを用いて電動モータ93を制御する。
【0035】
第1カバー48は、非磁性体である。例えば、第1カバー48は樹脂である。樹脂の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)又はポリアミド66が挙げられる。図4に示すように、第1カバー48は、センサハウジング40の後方端部に取り付けられている。第1カバー48は、プリント基板43を覆っている。
【0036】
第2カバー49は、非磁性体である。例えば、第2カバー49は樹脂である。樹脂の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)又はポリアミド66が挙げられる。図4に示すように、第2カバー49は、センサハウジング40の前方端部に取り付けられている。図5に示すように、第2カバー49は、環状の本体部491と、複数の爪部492と、を備える。複数の爪部492は、周方向に等間隔に配置されている。爪部492は、本体部491から前方に突出している。複数の爪部492は、軽圧入により中間プレート10に挿入されており、中間プレート10の内周面に接している。
【0037】
なお、第1スリーブ21は、必ずしも入力軸82aに取り付けられなくてもよい。例えば、第1スリーブ21及びマグネット25が出力軸82bに取り付けられ、第2スリーブ31及びステータ35が入力軸82aに取り付けられてもよい。第1スリーブ21は、出力軸82bに取り付けられる場合でも、出力軸82bの外周面に圧入される。
【0038】
次に、トルクセンサ1の直線性誤差について説明する。トルクセンサ1の出力信号である出力トルクToutは、トルクセンサ1に入力される入力トルクTinと比例関係にあることが望ましい。
しかしながら、マグネット25の磁束密度の径方向成分の強さは、おおむねN極とS極にて最大値となる略正弦波状に変化するため、磁極に近づくほど非線形的に大きくなる。このため、ホールIC47の磁気検出素子で検出する磁束密度は、トルクセンサ1に入力される入力トルクTinの変化(すなわちマグネット25とステータ35との間の周方向の相対位置の変化)に対して非線形に変化する。この結果、ホールIC47の磁気検出素子の検出値は、入力トルクTinに対して比例関係にならない(すなわち直線性誤差を有する)。
図8において実線L0は磁気検出素子の検出値Tdの入出力特性曲線を示し、一点鎖線Lidは原点補正前のトルクセンサ1の理想的な入出力特性である理想直線を示す。入出力特性曲線L0と理想直線Lidとの間の誤差が直線性誤差である。
【0039】
上記のとおり、入力軸82aと出力軸82bには回り止めが設けられており、入力軸82aと出力軸82bと間の相対回転量(すなわちトーションバー82cの捻れ角)は許容最大量以下に制限される。第1検出値Tdmaxは、入力軸82aと出力軸82bとの間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの磁気検出素子の検出値であり、第2検出値Tdminは、入力軸82aと出力軸82bとの間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの磁気検出素子の検出値である。入力トルクTimax及びTiminは、それぞれ入力軸82aと出力軸82bとの間の第1方向及び第2方向の相対回転量が最大許容量に達したときの入力トルクTiである。
【0040】
磁気検出素子の検出値Tdの直線性を向上するために、ホールIC47は、直線性誤差を補正する校正データを記憶する。図9は、ホールIC47の機能構成の一例のブロック図である。
ホールIC47は、磁気検出素子であるホールセンサ47aと、検出回路47bと、記憶部47cと、減算器47dを備える。検出回路47bは、ホールセンサ47aから磁束密度に応じて出力されるアナログ信号をディジタル形式の信号に変換する。
【0041】
記憶部47cには、検出値Tdの値域(すなわち第1検出値Tdmaxから第2検出値Tdminまでの範囲)の複数の補正点における検出値Tdと補正値dcとの対応関係が校正データとして記憶されている。なお、図8の丸プロットは、値tdの検出値Tdに設定された補正点を表している。同様に図11(a)及び図11(b)、図12(a)及び図12(b)並びに図13においても補正点を丸プロットで表している。
【0042】
図10は、校正データの一例を概念的に示す表である。校正データは、補正点となる検出値Td(図9の例では検出値td)と、この検出値tdにおける補正値dcとの一対一の対応関係を表すデータである。例えば校正データは、検出値Tdと補正値dcとが対応付けて記憶された補正マップであってよい。補正値dcは、各補正点における検出値tdと理想直線Lidとの間の差分を予め算出することにより取得してよい。
図9を参照する。減算器47dは、検出回路47bが出力する検出値Tdから補正値dcを減算することにより検出値Tdを補正し、差分(Td-dc)をホールIC47の出力トルクToutとして出力する。
【0043】
しかしながら、このような校正データによって検出値Tdを補正しても、補正後の出力トルクToutにおいて直線性誤差がゼロにはならないことがある。特に図8の入出力特性曲線L0の曲率が大きな箇所で、大きな直線性誤差が残ることがある。
図11(a)及び図11(b)は、補正後の出力トルクToutに直線性誤差が残る理由の概念図である。なお、図11(a)及び図11(b)は、補正する前の検出値Tdと入力トルクTinとの間の入出力特性曲線、および、補正後の出力トルクToutと入力トルクTinとの間の入出力特性曲線の一部を抜き出したものである。破線は補正値dcで補正する前の検出値Tdと入力トルクTinとの間の入出力特性曲線を示し、実線は補正後の出力トルクToutと入力トルクTinとの間の入出力特性曲線を示し、一点鎖線Lidは理想直線を示している。換言すると、補正する前の検出値Tdは、補正点td1と補正点td2において、補正量dc1、dc2だけオフセットされる。なお、補正点td1と補正点td2の間では、補正する前の検出値Tdは、dc1、dc2を線形補完した補正量によりオフセットされる。
【0044】
上記のとおり記憶部47cの記憶容量には限りがあり、補正値を記憶できる補正点の数には限界がある。このため、補正点は離散的に設定され、隣接する補正点td1とtd2との間の区間では、補正点td1及びtd2にそれぞれ対応する補正値dc1及びdc2を補間することによって補正値を決定する。例えば、検出回路47bが出力する検出値Tdが補正点td1よりも大きく補正点td2よりも小さい場合(td1<Td<td2)には、補正値(dc1+(Td-td1)×(dc2-dc1)/(td2-td1))で検出値Tdを補正して出力トルクToutを得る。
【0045】
このため、隣接する補正点td1とtd2との間の区間では、補正前の検出値Tdの入出力特性曲線(破線)の曲率を残したまま補正値dc1及びdc2でオフセットされた曲線が、補正後の出力トルクToutの入出力特性曲線(実線)となる。この結果、図11(a)及び図11(b)に示すように、隣接する補正点td1とtd2との間の区間で直線性誤差ea及びebが残り、補正点td1とtd2との間の区間の曲率が大きい場合の直線性誤差ebが、曲率の小さい場合の直線性誤差eaよりも大きくなる。すなわち、補正前の検出値Tdの入出力特性曲線の曲率が大きな区間では、より大きな直線性誤差が補正後の出力トルクToutに残ることになる。
【0046】
そこで本発明では、補正前の検出値Tdの入出力特性曲線の曲率が小さい区間(すなわち直線性が良好な区間)に設定する補正点の数を減らし、曲率が大きい区間(すなわち直線性が不良な区間)に設定する補正点の数を増やすことにより、曲率が大きい区間における直線性誤差の増加を抑制する。図12(a)~図12(d)を参照して、本発明における補正点の設定方法を模式的に説明する。図12(a)~図12(d)において、実線L0は、補正前の検出値Tdの入出力特性曲線を示し、実線L1は補正後の出力トルクToutの入出力特性曲線を示し、一点鎖線Lidは理想直線を示す。
【0047】
図12(a)及び図12(b)は、補正点の入力トルクTi1、Ti2、Ti3及びTi4が等間隔となるように補正点を設定した場合の補正結果を説明する模式図である。入力トルクがTi1~Ti3である区間では、補正前の検出値Tdの入出力特性曲線L0の曲率が小さく直線性が良好である。一方で入力トルクがTi3~Ti4である区間では、入出力特性曲線L0の曲率が大きく直線性が不良である。このため、区間Ti1~Ti3では補正後の出力トルクToutの入出力特性曲線L1の直線性が良好になり、区間Ti3~Ti4では直線性が悪く直線性誤差eが大きくなる。
【0048】
ここで、補正前の検出値Tdの元々の直線性が良好な区間内の補正点(例えば入力トルクがTi2である補正点Pc1)に着目する。補正点Pc1の前後の範囲では直線性が良好であるため、補正点Pc1を設定するか否かにかかわらず区間Ti1~Ti3で補正後の入出力特性曲線L1の直線性は良好になる。すなわち、補正点Pc1を省略しても直線性誤差は悪化しない。
【0049】
このため、図12(c)及び図12(d)に示すように区間Ti1~Ti3における補正点Pc1を省略して、曲率が大きい区間Ti3~Ti4内の入力トルクがTiαである点に新たな補正点Pc2を追加する。新たな補正点Pc2を追加することにより区間Ti3~Ti4における直線性誤差eが低減される。これにより、記憶部47cに補正値tcを格納する補正点の総数を変えずに、補正後の出力トルクToutの直線性を向上させることができる。
【0050】
図13は、実施形態における補正点の設定例の概念図である。マグネット25が発生する磁束密度が略正弦波状に変化する特性上、ホールセンサ47aから出力される検出値Tdの絶対値が大きい範囲の方が小さい範囲よりも検出値Tdの入出力特性曲線の曲率が大きくなる。言い換えれば第1検出値Tdmaxと第2検出値Tdminに近い範囲の方が、検出値Tdがゼロとなる点に近い範囲よりも検出値Tdの入出力特性曲線の曲率が大きくなる。このため、検出値Tdの絶対値が大きい範囲における補正点の密度が、検出値Tdの絶対値が小さい範囲における補正点の密度よりも高くなるように補正点を設定する。
なお、図13に示すように、第1検出値Tdmaxと第2検出値Tdminとを結んだ直線を理想直線Lidと設定してよい。これに代えて、所定の点を通り且つ所定の傾きを有する直線をLidと定義してもよい。例えば入力トルクTinがゼロ(Tin=0)のとき検出値Tdが値Tdnである場合、Tin=0、Td=Tdnの点を通り、且つ所定の傾きを有する直線をLidと定義してよい。
【0051】
具体的には、第1検出値Tdmaxと第2検出値Tdminとの間の変化幅(すなわち検出値Tdの値域)を4つの領域に等分し、これら4つの領域を検出値Tdが小さい順に第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4と定義する。そして、第2領域R2及び第3領域R3よりも第1領域R1及び第4領域R4により多くの補正点を設定する。
【0052】
なお、検出値Tdの入出力特性曲線は、理想的には入力トルクTinがゼロの状態で検出値Tdもゼロになることが好ましい。しかしながら、実際には入力トルクTinがゼロの状態で検出値Tdがゼロにならないことがある。図13の例では、入力トルクTinがゼロのとき検出値Tdは正の値Tdn≠0を有している。以下の説明において入力トルクTinがゼロのときの検出値Tdがゼロにならないことを「原点ズレ」と表記する。原点ズレは、主に以下の理由により発生する。
【0053】
上述の出力軸82bとステータ35との間の周方向の位置関係は、入力トルクTinがゼロの状態で、マグネット25の磁束が第1ステータ部材351から第2ステータ部材352へ、又は第2ステータ部材352から第1ステータ部材351へ流れないように定められている。すなわち、入力トルクTinがゼロの状態でホールIC47が第1集磁部材461と第2集磁部材462の間の磁束を検出しないように定められている。
【0054】
しかしながら、このような理想的な位置関係を実現するのは難しく、実際には、機械的な誤差等の理由により位置ずれが発生することがある。例えば上述のように出力軸82bとステータ35との間の周方向の位置関係を、第2スリーブ31に形成されたエンボス加工の凸部311と、出力軸82bに形成された凹溝82b1との係合によって定めると、エンボス加工の加工誤差によって位置ずれが発生することがある。この結果、入力トルクTinがゼロの状態で第1集磁部材461と第2集磁部材462の間に磁束が発生すると、この磁束をホールIC47が検出するため、入力トルクTinがゼロの状態で検出値Tdがゼロにならず原点ズレが発生する。
【0055】
このように原点ズレが発生すると、第1検出値Tdmax又は第2検出値Tdminのどちらか一方で曲率が大きい領域(直線性が悪い領域)が発生する。図13の例では、第1検出値Tdmaxにおいて曲率が大きい領域が発生する。さらに、原点ズレの方向(すなわち入力トルクTinがゼロのときの検出値Tdが正負のどちらになるのか)を制御することも困難である。
【0056】
そこで、第1領域R1と第4領域R4に設定される補正点の数を略同数(又は全く同数)に設定してよい。第1検出値Tdmax又は第2検出値Tdminのどちらに直線性が悪い領域が発生しても、この領域における直線性誤差を多くの補正点で補正できる。これにより補正後に残存する直線性誤差を低減することができる。
【0057】
また、入力トルクTinが略ゼロの状態(トーションバー82cの捻れ角が略ゼロである状態)に出力される検出値Tdnに補正点Pnを設定してもよい。入力トルクTinが略ゼロの状況では、ステアリングホイール81が動き出す時の微小な入力トルクTinが入力される。したがって、入力トルクTinが略ゼロのときの検出値Tdnに補正点Pnを設定することにより、ステアリングホイール81が動き出す時の微小な入力トルクTinを精度よく検出できる。
【0058】
また、第1検出値Tdmaxの近傍と第2検出値Tdminの近傍の各々に補正点を設定してもよい。直線性誤差は、第1検出値Tdmaxの近傍と第2検出値Tdminの近傍のどちらかで最大になる可能性が高い。第1検出値Tdmaxの近傍と第2検出値Tdminの近傍の各々に補正点を設定することにより、補正後に大きな直線性誤差が残存するのを防止できる。
なお、第1検出値Tdmaxの近傍とは、例えば第1検出値Tdmaxの95%から100%の領域であってよく、第2検出値Tdminの近傍とは、例えば第2検出値Tdminの95%から100%の領域であってよい。
【0059】
例えば、入力トルクTinが略ゼロとなる点に1個の補正点Pnを設けるとともに、入力トルクTinが0より大きい領域に4個の補正点を設け、入力トルクTinが0より小さい領域に4個の補正点を設けてもよい。入力トルクTinが0より大きい領域に設けた4個の補正点のうち3個を第4領域に設け、残りの1個を第3領域に設けてよい。入力トルクTinが0より小さい領域に設けた4個の補正点のうち3個を第1領域に設け、残りの1個を第2領域に設けてよい。
【0060】
(実施形態の効果)
(1)トルクセンサ1は、入力軸82a及び出力軸82bと、一端が入力軸82aに固定され、他端が出力軸82bに固定されたトーションバー82cと、入力軸82a及び出力軸82bのうちの一方の軸に固定されたマグネット25と、入力軸82a及び出力軸82bのうちの他方の軸に固定された、マグネット25に面する第1ステータ部材351及び第2ステータ部材352を備えるステータ35と、第1ステータ部材351から第2ステータ部材352へ流れる磁束の磁束密度に応じた検出値を出力するホールセンサ47aと、検出値と補正値との間の関係を示す補正マップを記憶した記憶部47cと、補正値で検出値を補正して出力信号を出力する補正回路と、を備える。
【0061】
補正マップは、3つ以上の補正点における検出値と補正値との対応関係を記憶し、入力軸82aと出力軸82bとの間の第1方向の相対回転量が最大許容量に達したときの検出値である第1検出値Tdmaxと、第2方向の相対回転量が最大許容量に達したときの検出値である第2検出値Tdminと、の間の変化幅を4つの領域に等分し、4つの領域を検出値の大小順に小さい順に第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4と定義した場合に、第2領域R2及び第3領域R3よりも第1領域R1及び第4領域R4に多くの補正点が設定されている。
これにより、入力トルクに対する検出値の入出力特性曲線の曲率が大きな領域において補正後に残る直線性誤差を低減できるため、トルクセンサ1の検出値の直線性誤差を精度良く補正できる。
【0062】
(2)第1領域と第4領域に略同数の補正点がされていてもよい。第1検出値Tdmax又は第2検出値Tdminのどちらに直線性が悪い領域が発生しても、この領域における直線性誤差を多くの補正点で補正できる。これにより補正後に残存する直線性誤差を低減することができる。
【0063】
(3)トーションバー82cの捻れ角が略ゼロである場合に出力される検出値に補正点を設定してもよい。トーションバー82cの捻れ角が略ゼロである状況では、ステアリングホイール81が動き出す時の微小な入力トルクがトルクセンサ1に入力される。したがって、トーションバー82cの捻れ角が略ゼロの状態の検出値に補正点を設定することで、ステアリングホイール81が動き出す時の微小な入力トルクを精度よく検出できる。
【0064】
(4)第1検出値Tdmaxの近傍と第2検出値の近傍の各々に補正点を設定してもよい。第1検出値Tdmaxの近傍と第2検出値Tdminの近傍のどちらかで直線性誤差が最大になる可能性が高い。第1検出値Tdmaxの近傍と第2検出値Tdminの近傍の各々に補正点を設定することにより、補正後に大きな直線性誤差が残存するのを防止できる。
【0065】
(5)ステータ35が、一体の板金状部材を折り曲げ加工することで形成されたフランジ部と歯部を備えてもよい。このように折り曲げ加工により歯部を形成する場合には、切削加工に比べて歯部の加工精度が低くなりやすく、入力トルクTinがゼロの状態で検出値Tdがゼロにならない状況である原点ズレが発生し易い。実施形態によれば、原点ズレが発生して第1検出値Tdmax又は第2検出値Tdminのどちらに直線性が悪い領域が発生しても、この領域における直線性誤差を多くの補正点で補正できる。これにより補正後に残存する直線性誤差を低減することができる。
【0066】
(6)ステータ35は、出力軸82bに第2スリーブ31を介して固定され、第2スリーブ31の内周面にはエンボス加工によって形成された凸部が形成され、出力軸82bの外周面には軸方向に沿う凹溝が形成され、凸部と凹溝が係合している。このような凸部と凹溝が係合によりステータ35と出力軸82bとの間の周方向の位置関係を決定すると、エンボス加工で凸部を形成する場合、切削加工と比べて凸部の加工精度が低くなりやすく、原点ズレが発生し易い。実施形態によれば、原点ズレが発生して第1検出値Tdmax又は第2検出値Tdminのどちらに直線性が悪い領域が発生しても、この領域における直線性誤差を多くの補正点で補正できる。これにより補正後に残存する直線性誤差を低減することができる。
【0067】
(変形例)
上記の実施形態の説明では、永久磁石と、第1ステータ部材から第2ステータ部材を有するステータと、第1ステータ部材から第2ステータ部材へ流れる磁束の磁束密度に応じた検出値を出力する磁気検出素子を備えるトルクセンサに本発明を適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は様々な形式のトルクセンサの検出値の直線性誤差の訂正に適用可能である。
【0068】
図14は、変形例のトルクセンサの構成の模式図である。変形例のトルクセンサ100は、入力軸82aに形成されたセンサシャフト部111と、コラムハウジング820の内側に配置された1対の検出コイル113a及び113bと、両者の間に配置された円筒部材112とを備える。
センサシャフト部111は磁性材料で構成されており、センサシャフト部111の表面には、図14に示すように、軸方向に延びた複数(図14の例では9個)の凸条111aが円周方向に沿って等間隔に形成されている。また、凸条111aの間には溝部111bが形成されている。
【0069】
センサシャフト部111の外側には、センサシャフト部111に接近して導電性で且つ非磁性の材料、例えばアルミニウムで構成された円筒部材112がセンサシャフト部111と同軸に配置されており、円筒部材112は出力軸82bに固定されている。
なお、本変形例ではセンサシャフト部111が入力軸82aに固定され、円筒部材112は出力軸82bに固定されているが、円筒部材112が入力軸82aに固定され、センサシャフト部111が出力軸82bに固定されるように構成してもよい。
【0070】
円筒部材112には、前記したセンサシャフト部111の表面の凸条111aに対向する位置に、円周方向に等間隔に配置された複数個(図14の例では9個)の長方形の窓112aからなる第1の窓列と、当該第1の窓列から軸方向にずれた位置に、窓112aと同一形状で、円周方向の位相が異なる複数個(図14の例では9個)の長方形の窓112bからなる第2の窓列とが設けられている。
円筒部材112の外周は、同一規格の検出コイル113a及び113bが捲回されたコイルボビン118を保持するヨーク115a及び115bで包囲されている。即ち、検出コイル113a、113bは円筒部材112と同軸に配置され、検出コイル113aは窓112aからなる第1の窓列部分を包囲し、検出コイル113bは窓112bからなる第2の窓列部分を包囲する。
【0071】
検出コイル113a、113bの出力線は、図9に示すホールセンサ47aに代えて検出回路47bに接続され、検出回路47bが検出コイル113a、113bの出力電圧をディジタル形式の信号に変換して、これら出力電圧の差分を検出値Tdとして取得する。
トーションバー82cが捻れると、センサシャフト部111と円筒部材112とが相対角変位し、凸条111aに対して、窓112a及び112bの一方は近づき他方は離れるので、検出コイル113a及び113bのインダクタンスは、一方は増加し他方は減少することになる。このインダクタンスの差を検出することにより、実施形態のトルクセンサ1と同様に、入力軸82aと出力軸82bの捻れ量を検出できる。
この種のトルクセンサでもセンサの直線性誤差が問題になるが、本願の発明を適用することによって直線性を改善できる。
【符号の説明】
【0072】
1…トルクセンサ、10…中間プレート、21…第1スリーブ、25…マグネット、27…接着剤、31…第2スリーブ、311…凸部、32…キャリア、35…ステータ、351…第1ステータ部材、351a…第1フランジ部、351b…第1ティース部、352…第2ステータ部材、352a…第2フランジ部、352b…第2ティース部、40…センサハウジング、43…プリント基板、46…集磁部材、461…第1集磁部材、462…第2集磁部材、47a…磁気検出素子、47a…ホールセンサ、47b…検出回路、47c…記憶部、47d…減算器、48…第1カバー、49…第2カバー、491…本体部、492…爪部、66…ポリアミド、71…軸受、72…軸受、80…電動パワーステアリング装置、81…ステアリングホイール、82…ステアリングシャフト、82a…入力軸、82b…出力軸、82b1…凹溝、82c…トーションバー、820…コラムハウジング、83…操舵力アシスト機構、84…ユニバーサルジョイント、85…中間シャフト、86…ユニバーサルジョイント、87…ピニオンシャフト、88…ステアリングギヤ、88a…ピニオン、88b…ラック、89…タイロッド、90…コントローラ、92…減速装置、920…ギアボックス、921…ウォームホイール、922…ウォーム、93…電動モータ、95…車速センサ、98…イグニッションスイッチ、99…電源装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14