(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054727
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】船舶推進器および船舶推進器の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240410BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20240410BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F02D29/02 321B
F02D29/02 A
F02P5/15 E
B63H20/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161147
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100149009
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 稔久
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 公隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩
(72)【発明者】
【氏名】大石 真也
【テーマコード(参考)】
3G022
3G093
【Fターム(参考)】
3G022EA01
3G022GA01
3G022GA07
3G022GA08
3G093AA19
3G093BA20
3G093CA01
3G093CB15
3G093DA02
3G093DA06
3G093DA07
3G093DA08
3G093DA12
3G093EA13
3G093EC02
(57)【要約】
【課題】船舶推進器において、エンジン始動時の白煙量を低減することが可能な構成を提供すること。
【解決手段】船舶推進器1は、エンジン14と、クランク軸22と、傾斜角度センサ67と、制御部と、を備える。エンジン14は、シリンダ31と、シリンダ31の内側に配置されたピストン36と、ピストンに接続されたコンロッド37と、を有する。クランク軸22は、コンロッド37が接続されている。傾斜角度センサ67は、クランク軸22の反対側がクランク軸22側より下がるようなシリンダ31の傾斜を検出する。ECU61は、シリンダ31の傾斜とエンジン14の停止時間とに基づいて、クランキング時間を伸ばす第1クランキング制御を行う。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダの内側に配置されたピストンと、前記ピストンに接続されたロッドと、を有するエンジンと、
前記ロッドが接続されたクランク軸と、
前記クランク軸の反対側が前記クランク軸側より下がるような前記シリンダの傾斜を検出する傾斜検出部と、
前記シリンダの傾斜と前記エンジンの停止時間とに基づいて、クランキング時間を伸ばす第1クランキング制御を行う制御部と、を備えた、
船舶推進器。
【請求項2】
前記制御部は、前記エンジンの停止時間が所定時間以上であり、前記シリンダの傾斜が検出された場合、前記第1クランキング制御を行う、
請求項1に記載の船舶推進器。
【請求項3】
前記制御部は、前記エンジンの停止時間が前記所定時間未満の場合または前記シリンダの傾斜が検出されない場合、前記第1クランキング制御よりもクランキング時間が短い第2クランキング制御を行う、
請求項2に記載の船舶推進器。
【請求項4】
前記エンジンは、燃料を点火する点火部を更に有し、
前記制御部は、
前記第1クランキング制御では、前記ピストンの駆動開始から所定時間が経過した後に、前記点火部による点火を行い、
前記第2クランキング制御では、前記ピストンの駆動開始とともに前記点火部による点火を行う、
請求項3に記載の船舶推進器。
【請求項5】
前記エンジンは、
前記シリンダに配置された排気バルブを更に有し、
前記制御部は、前記第1クランキング制御では、前記第2クランキング制御時よりも初爆までの前記排気バルブの開放時間を長くする、
請求項4に記載の船舶推進器。
【請求項6】
クランク軸にロッドを介して接続されたピストンが内側に配置されたシリンダが、前記クランク軸の反対側が前記クランク軸側より下がるように傾斜していることを検出する傾斜検出ステップと、
前記シリンダの傾斜とエンジンの停止時間とに基づいて、クランキング時間を伸ばす第1クランキング制御を行う制御ステップと、を備えた、
船舶推進器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進器および船舶推進器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶推進器には、エンジンで発生する動力がクランク軸を介してプロペラに伝達され、プロペラが回転するものがある。船舶推進器のエンジンは、燃焼室と、燃焼室の内側に配置されたピストンと、ピストンとクランク軸を接続するロッドと、を有している。多くの船舶推進器では、クランク軸が縦置きであり、燃焼室が水平になるようにレイアウトされている。
【0003】
一方、船舶推進器には、航走性能向上や係留保管中の防食のため、チルト機構が設けられているものがあり、保管の際に長時間にわたって船舶推進器の姿勢が変更される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにチルト機構を用いて船舶推進器の姿勢を変えると、エンジンも姿勢を変えることになる。保管時にエンジンの姿勢を変更し、クランク軸とは反対側がクランク軸側より下がるように燃焼室が傾斜していると、オイルがピストンリングを超えて燃焼室に溜まりやすくなる。このように燃焼室にオイルが溜まった状態でエンジンを始動させると大量の白煙が発生する。
【0006】
本開示の目的は、エンジン始動時の白煙量を低減することが可能な船舶推進器および船舶推進器の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係る船舶推進器は、エンジンと、クランク軸と、傾斜検出部と、制御部と、を備える。エンジンは、シリンダと、シリンダの内側に配置されたピストンと、ピストンに接続されたロッドと、を有する。クランク軸は、ロッドが接続されている。傾斜検出部は、クランク軸の反対側がクランク軸側より下がるようなシリンダの傾斜を検出する。制御部は、シリンダの傾斜とエンジンの停止時間とに基づいて、クランキング時間を伸ばす第1クランキング制御を行う。
【0008】
本開示の第2の態様に係る船舶推進器の制御方法は、傾斜検出ステップと、制御ステップと、を備える。傾斜検出ステップは、クランク軸にロッドを介して接続されたピストンが内側に配置されたシリンダが、クランク軸の反対側がクランク軸側より下がるように傾斜していることを検出する。制御ステップは、シリンダの傾斜とエンジンの停止時間とに基づいて、クランキング時間を伸ばす第1クランキング制御を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリンダの傾斜とエンジンの停止時間とに基づいて、シリンダにオイルが溜まっているか否かを判断し、オイルが溜まっていると判断した場合にクランキング時間を伸ばすように制御することで、オイルをシリンダ内より排出することができる。このため、エンジン始動時の白煙量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る船舶推進器が取り付けられた船舶を示す図。
【
図3】エンジンの内部の構成を示す模式的上面図である
【
図4】吸気用カムシャフトと排気用カムシャフトとを回転駆動する駆動機構を示す上面図。
【
図5】船舶推進器がチルト機構によって姿勢が変えられた状態を示す側面図。
【
図8】第1クランキング制御と第2クランキング制御を行う場合の条件を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
【0012】
<構成>
図1は、実施形態に係る船舶推進器1が取り付けられた船舶100を示す斜視図である。船舶100の船尾には、船舶推進器1が取り付けられる。船舶推進器1は、船舶100を推進させるスラストを発生させる。本実施形態において、船舶推進器1は、船外機である。
【0013】
図2は、実施形態1に係る船舶推進器1の側面図である。船舶推進器1は、ブラケット16を介して船の船尾に取り付けられる。
図2では、水面がWSとして示されている。
【0014】
船舶推進器1は、上部ケーシング11、下部ケーシング12、エキゾーストガイド部13、エンジン14を有する。上部ケーシング11、下部ケーシング12、およびエンジン14はエキゾーストガイド部13に固定されている。
【0015】
エンジン14は、上部ケーシング11内に配置される。エンジン14は、クランク軸22を有する。下部ケーシング12内には、駆動軸21が配置される。駆動軸21は、下部ケーシング12内において上下方向に沿って配置される。駆動軸21は、エンジン14のクランク軸22に連結されている。下部ケーシング12の下部には、プロペラ23が配置される。プロペラ23は、エンジン14の下方に配置されている。プロペラ23にはプロペラシャフト24が連結されている。プロペラシャフト24は、前後方向に沿って配置されている。プロペラシャフト24は、シフト機構25を介して駆動軸21の下部に連結される。シフト機構25は、駆動軸21からプロペラシャフト24へ伝達される動力の回転方向を切り換える。シフト機構25は、例えば、複数のギアと、ギアの噛み合いを変更するクラッチと、を含む。
【0016】
船舶推進器1では、エンジン14により発生される駆動力が、駆動軸21およびプロペラシャフト24を介してプロペラ23に伝達される。それにより、プロペラ23が前進方向又は後進方向に回転する。その結果、船舶推進器1が取り付けられた船舶2を前進または後進させる推進力が発生する。
【0017】
また、
図2に示すように、船舶推進器1の内部には、排気通路30が形成されている。排気通路30は、エンジン14から下方に延びている。排気通路30はエンジン14の排気ポートに接続されており、プロペラ23のプロペラボス(図示せず)の内部空間に連通している。エンジン14からの排気は、排気通路30を通り、プロペラボスの内部空間を通って、水中へ排出される。
【0018】
図3は、エンジン14の内部の構成を示す模式的上面図である。本実施形態におけるエンジン14は、クランクケース32と複数のシリンダ31とを有する。シリンダ31の数は、特に限定されるものではない。以下、
図3に基づいて、エンジン14の1つのシリンダ31の構成について説明するが、エンジン14の複数のシリンダ31は全て、
図3に示すシリンダ31と同様の構成を有する。
【0019】
シリンダ31は、
図1に示す状態では、水平方向に延びるように配置されている。
図2に示すように、シリンダ31の中心軸Oが水平に配置されている。シリンダ31は、
図2に示すように、シリンダヘッド33とシリンダブロック34とを有する。シリンダヘッド33は、シリンダブロック34に取り付けられている。シリンダブロック34の内部には、シリンダ室35が形成されている。シリンダ室35内には、ピストン36が、シリンダ室35の軸線方向に移動可能に配置されている。ピストン36には、コンロッド37(ロッドの一例)の一端が連結されている。コンロッド37の他端は、クランク軸22に連結されている。
【0020】
シリンダヘッド33は、吸気ポート41と排気ポート42と燃焼室43とを有する。吸気ポート41と排気ポート42とは、それぞれ燃焼室43に連通している。吸気ポート41は、吸気バルブ44によって開閉される。排気ポート42は、排気バルブ45によって開閉される。吸気ポート41には、吸気管46が接続されている。吸気管46には、燃料噴射装置47が取り付けられている。燃料噴射装置47は、燃焼室43に供給する燃料を噴射する。また、吸気管46には、スロットル弁48が配置されている。スロットル弁48の開度が変更されることにより、燃焼室43へ送られる混合気の量が調整される。排気ポート42には、排気管50が接続されている。また、シリンダヘッド33には、点火装置49(点火部の一例)が取り付けられている。点火装置49は、燃焼室43内に挿入されており、燃料に点火する。
【0021】
吸気バルブ44は、図示しないコイルスプリングなどの付勢部材により、吸気ポート41を閉じる方向に付勢されている。吸気バルブ44は、吸気用カムシャフト51が回転駆動されることによって、開閉される。排気バルブ45は、図示しないコイルスプリングなどの付勢部材により、排気ポート42を閉じる方向に付勢されている。排気バルブ45は、排気用カムシャフト52が回転駆動されることによって、開閉される。
【0022】
図4は、吸気用カムシャフト51と排気用カムシャフト52とを回転駆動する駆動機構を示す上面図である。この駆動機構は、例えばエンジン14の上面に配置されている。
図4に示すように、吸気用カムプーリ53が吸気用カムシャフト51の端部に固定されている。排気用カムプーリ54が、排気用カムシャフト52の端部に固定されている。また、クランクプーリ55がクランク軸22に固定されている。そして、吸気用カムプーリ53と、排気用カムプーリ54と、クランクプーリ55と、複数の中間プーリ56a,56b,56cの間にカムベルト57が掛け渡されている。クランク軸22の駆動力が、カムベルト57を介して、吸気用カムシャフト51と排気用カムシャフト52とに伝達される。なお、クランク軸22の端部には、フライホイール58が固定されている。
【0023】
クランク軸22の回転によってカムベルト57を介して吸気用カムプーリ53および排気用カムプーリ54が回転する。これによって、吸気用カムプーリ53に固定されている吸気用カムシャフト51も回転し、吸気バルブ44が開閉する。また、排気用カムプーリ54に固定されている排気用カムシャフト52も回転し、排気バルブ45が開閉する。例えば、クランク軸22が2回転する間に、吸気バルブ44および排気バルブ45が1回ずつ開閉する。
【0024】
図5は、本実施形態の船舶推進器1が、チルト機構によって姿勢が変えられた状態を示す側面図である。
図6は、
図5のシリンダ31近傍を示す拡大図である。船舶推進器1は、ブラケット16の回転軸16aを中心に傾斜することができる。
【0025】
図5および
図6に示すように、シリンダ31のクランク軸22側の端は、31aで示され、クランク軸22の反対側の端が31bで示されている。
図5および
図6に示す傾斜状態では、シリンダ31は、端31bが端31aより下がるように傾斜している。このような傾斜状態で保管されていると、
図6に示すように、オイルWが、ピストン36の周囲に配置されたピストンリング38を超えて端31bに向かって移動し、燃焼室43に溜まることがある。燃焼室43にオイルWが溜まった状態で、エンジン14を始動させると大量の白煙が発生するが、本実施形態では、このようなエンジン始動時に発生する白煙量を低減する構成を提供する。
【0026】
(エンジン14の制御系)
図7は、エンジン14の制御システムの構成を示す図である。船舶推進器1は、ECU(Engine Control Unit)61(制御部の一例)を含む。エンジン14は、ECU61によって制御される。ECU61には、操作装置110と、エンジン14に関する情報を検出する各種のセンサ62-67から信号が入力される。
【0027】
(操作装置110)
操作装置110は、船舶100に設けられている。操作装置110は、スロットル・シフト操作装置111と、ステアリング操作装置112と、スタートスイッチ113と、を含む。スロットル・シフト操作装置111は、船舶推進器1のエンジン回転速度を調整するために、オペレータによって操作可能である。また、スロットル・シフト操作装置111は、船舶推進器1の前進・後進を切り替えるために、オペレータによって操作可能である。
【0028】
スロットル・シフト操作装置111は、スロットルレバー114を含む。スロットルレバー114は、中立位置から、前進位置と後進位置とに操作可能である。スロットル・シフト操作装置111は、スロットルレバー114の操作位置を示すスロットル信号を出力する。ECU61は、スロットル・シフト操作装置111からのスロットル信号を受信する。ECU61は、スロットルレバー114の操作位置に応じて、シフトアクチュエータ68を制御して、シフト機構25を駆動する。シフトアクチュエータ68は、シフト機構25のクラッチを駆動することにより、ギアの噛み合いを変更する。それにより、プロペラシャフト24の回転方向が、前進方向と後進方向とに切り替えられる。また、ECU61は、スロットルレバー114の操作位置に応じて、エンジン回転速度を制御する。
【0029】
ステアリング操作装置112は、船舶推進器1の舵角を調整するために、オペレータによって操作可能である。ステアリング操作装置112は、例えばステアリングホイールである。或いは、ステアリング操作装置112は、ジョイスティックなどの他の操作装置であってもよい。ステアリング操作装置112は、中立位置から左右に操作可能である。ステアリング操作装置112は、ステアリング操作装置112の操作位置を示すステアリング信号を、船舶100に設けられているコントローラ(図示せず)に出力する。船舶100のコントローラは、ステアリング操作装置112の操作位置に応じてステアリングアクチュエータ120を制御することで、船舶推進器1の舵角が制御される。ステアリングアクチュエータ120は、船舶100に配置されている。ステアリングアクチュエータ120は、例えば電動モータである。或いは、ステアリングアクチュエータ120は、電動ポンプと油圧シリンダとを含んでもよい。
【0030】
スタートスイッチ113は、エンジン14の始動と停止とを行うために、オペレータによって操作可能である。スタートスイッチ113は、ステアリング操作装置112の近傍に配置されている。スタートスイッチ113は、例えば、キースイッチであり、オペレータによって操作されると、エンジン14を始動または停止するための操作信号を船舶推進器1のECU61に出力する。
【0031】
(センサ62-67)
クランク角センサ62は、クランク軸22の回転角を検出する。クランク角センサ62は、磁気センサであり、
図6に示すようにクランク軸22の複数の突起部22aの通過を検出する。なお、
図6では、複数の突起部22aのうちの一部にのみ符号22aを付している。クランク軸22の表面には、複数の突起部22aが規則的に配列されている。ただし、クランク軸22の表面は、欠落部22bを含む。欠落部22bは、突起部22aが形成されておらず、隣り合う突起部22aの間隔が他の突起部22aの間隔と異なる部分である。
【0032】
ここで、クランク角センサ62に対向する位置を突起部22aが通過したときは磁界が強くなるので、検出信号には周期的な起伏が形成される。一方、クランク角センサ62に対向する位置を欠落部22bが通過したときには、検出信号に起伏は形成されず、同じ信号強度が持続する。このため、クランク角センサ62の検出信号には、周期的な起伏が形成されるクランク起伏領域と、起伏が形成されず同じ信号強度(平坦な信号)が持続するクランク平坦領域が交互に表れる。これらの領域が検出されることにより、クランク軸22の回転数と回転角とが検知される。
【0033】
スロットル開度センサ63は、スロットル弁48の開度を検出する。吸気圧センサ64は、吸気管46内の圧力を検出する。排気圧センサ65は、排気管50内の圧力を検出する。燃料流量センサ66は、エンジン14に供給される燃料の流量を検出する。
【0034】
傾斜角度センサ67(傾斜検出部の一例)は、船舶推進器1の傾斜角度を検出する。傾斜角度センサ67は、シリンダ31の傾斜角度に関する情報を検出し、検出した情報をECU61に出力する。傾斜角度センサ67は、例えば、IMU(Inertial Measurement Unit)を用いることができるが、これに限られるものではなく、ポテンショメータ等が用いられてもよい。傾斜角度センサ67は、ブラケット16に配置することができる。傾斜角度センサ67は、ブラケット16の回転軸16aの回転角度を検出してもよい。
【0035】
(ECU61)
ECU61は、記憶部71と、CPU(Central Processing Unit)72と、タイマー73と、を含む。記憶部71は、電子データの書き込み及び読出しが可能な記憶装置である。記憶部71は、RAM或いはROMなどのメモリ、及び、HDD(Hard Disk Drive)或いはSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を含む。記憶部71は、予め定められた運転状態に対応した制御プログラムを記憶している。記憶部71は、後述する角度θの閾値、エンジンの停止時間の閾値、点火待機時間およびクランク軸22の回転数の閾値を記憶する。タイマー73は、経過時間を計測し、CPU72に出力する。
【0036】
ECU61は、スタートスイッチ113からエンジン14を始動するための操作信号を受信すると、クランキング制御を行ってエンジン14を始動する。
【0037】
船舶推進器1は、スタータモータ69を更に有する。船舶100は、バッテリ130を更に有する。スタータモータ69は、クランキング制御において、クランク軸22を回転させる。ECU61は、エンジン14を始動するための操作信号を受信すると、スタータモータ69に駆動指令を出力する。スタータモータ69は、バッテリ130から給電されて駆動し、クランク軸22を回転する。なお、船舶推進器1が、発電機および発電した電力を蓄えるバッテリを備えている場合は、船舶推進器1内においてバッテリからスタータモータ69に給電を行ってもよい。
【0038】
ECU61は、クランク軸22の回転に応じて燃料噴射装置47、スロットル弁48,および点火装置49の制御を行う。点火装置49の起動によって初爆が起こり、クランク軸22の回転数が所定閾値以上になるとクランキング制御が完了する。例えば、スタータモータ69による回転数は、250rpm程度であり、所定閾値を500rpmに設定することができる。この所定閾値は、記憶部71に記憶されている。
【0039】
本実施形態では、クランキング制御は、第1クランキング制御と第2クランキング制御を含む。ECU61は、傾斜角度センサ67の検出値と、タイマー73からの経過時間に基づいて、エンジン14の始動時に第1クランキング制御または第2クランキング制御を行う。
【0040】
図8は、第1クランキング制御と第2クランキング制御を行う場合の条件を示す図である。
図8では、横軸が放置時間を示し、縦軸が保管姿勢を示す。ドットで示されている領域R1において、第1クランキング制御が実行される。また、ハッチングで示されている領域R2において、第2クランキング制御が実行される。
【0041】
放置時間が3日以上、且つ端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜している場合、第1クランキング制御(領域R1参照)が行われる。ECU61は、第1クランキング制御では、スタータモータ69によってクランク軸22を回転させ、点火待機時間経過後に点火装置49による点火を行う。
図5において説明したように、端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜した状態で長時間保管された場合、オイルWが燃焼室43に溜まる。点火装置49による点火を行わず、所定の点火待機時間の間、クランク軸22を回転することによってクランク軸22の回転と連動してピストン36が駆動するとともに排気バルブ45も開閉し、燃焼室43からオイルWを排出することができる。このため、第1クランキング制御を行うことによって初爆時の白煙の発生を抑制することができる。例えば、第1クランキング制御が6秒以内に終了するように、点火待機時間が設定される。点火待機時間は、記憶部71に記憶されている。
【0042】
ECU61は、傾斜角度センサ67からの検出値に基づいて、端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜しているか否かを判定する。例えば、
図5に示すように、ECU61は、傾斜角度センサ67の検出値から、水平方向Hに対するシリンダ31の中心軸Oの角度θを算出する。例えば、シリンダ31が水平状態から端31bが端31aに対して下方に移動するように傾斜した場合の角度をプラスの値とし、端31bが端31aに対して上方に移動するように傾斜した場合の角度をマイナスの値とする。予め、誤差を考慮してプラスの値の所定閾値が設定され、記憶部71に記憶されている。ECU61は、算出した角度θが所定閾値以上の場合に、端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜していると判定する。
【0043】
ECU61は、タイマー73で検出される経過時間に基づいて、エンジン14の停止時間(
図8に示す放置時間といえる)が3日以上であるか否かを判定する。この3日との閾値は、記憶部71に記憶されている。なお、エンジン14の停止時間の閾値は3日でなくてもよく、エンジン14の形状によって適宜変更すればよい。
【0044】
また、放置時間が3日以上、且つ端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜している場合以外は、第2クランキング制御(領域R2参照)が実行される。第2クランクキング制御は、通常の制御である。EUC61は、第2クランキング制御では、クランク軸22の回転開始とともに点火装置49による点火を行う。第2クランキング制御は、3秒以内で終了する。
【0045】
このように、第1クランキング制御は、第2クランキング制御よりもクランキング時間が長く設定されている。第1クランキング制御は、第2クランキング制御よりもクランク軸22の回転する時間が長いため、ピストン36の動作時間も長くなり、排気バルブ45の開放時間も長くなる。このように第2クランクキング制御では、ピストン36の駆動時間および排気バルブ45の開放時間が長くなるため、燃焼室43から排気通路30にオイルWを排出することができる。
【0046】
<動作>
次に、本実施形態の船舶推進器1の制御動作について説明する。
図9は、本実施形態の船舶推進器1の制御動作を示すフロー図である。
【0047】
オペレータが始動のためにスタートスイッチ113を操作すると、ステップS10において、エンジン14を始動するための操作信号がECU61に入力され、ECU61は、始動操作を検知する。
【0048】
次に、ステップS11において、ECU61は、3日以上、且つ端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜した状態で放置されているか否かを判定する。ECU61は、タイマー73から入力される経過時間に基づいて、エンジン14の停止時間が3日以上であるか否かを判定する。また、ECU61は、傾斜角度センサ67からの検出値に基づいて角度θを算出し、角度θが所定閾値以上の場合に、端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜していると判定する。ECU61は、放置時間が3日以上、且つ端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜していると判定した場合、ステップS12~S15に示される第1クランキング制御を行う。ステップS11は、傾斜検出ステップの一例に対応する。ステップS12~S15は、制御ステップの一例に対応する。
【0049】
ステップS12において、ECU61は、スタータモータ69を駆動してクランク軸22を回転させる。クランク軸22の回転と連動してピストン36も駆動し、排気バルブ45も開閉する。
【0050】
次に、ステップS13において、ECU61は、タイマー73からの経過時間情報に基づいて、点火待機時間が経過したかを判定する。ECU61は点火待機時間が経過するまでクランク軸22を回転させる。この点火待機時間において、ピストン36が駆動するとともに排気バルブ45も開閉するため、燃焼室43からオイルWを排出することができる。
【0051】
ステップS13において、点火経過時間が経過すると、制御はステップS14に進む。
【0052】
ステップS14において、ECU61は、燃料噴射装置47およびスロットル弁48を制御し、点火装置49による点火を行う。
【0053】
ステップS15において、ECU61は、クランク軸22の回転数が所定閾値以上になると、初爆が完了したとして、スタータモータ69の駆動および点火装置49による点火を停止して、第1クランキング制御を終了する。
【0054】
一方、ステップS11において、3日以上、且つ端31bが端31aより下がるようにシリンダ31が傾斜した状態で放置されていないと判定した場合、ECU61は、ステップS16~S18に示される第2クランキング制御を行う。
【0055】
ステップS16において、ECU61は、スタータモータ69を駆動してクランク軸22を回転させる。クランク軸22の回転と連動してピストン36も駆動し、排気バルブ45も開閉する。
【0056】
ステップS17において、ECU61は、燃料噴射装置47およびスロットル弁48を制御し、点火装置49による点火を行う。
【0057】
ステップS18において、ECU61は、クランク軸22の回転数が所定閾値以上になると、初爆が完了したとして、スタータモータ69の駆動および点火装置49による点火を停止して、第2クランキング制御を終了する。
【0058】
以上説明した本実施形態に係る船舶推進器1では、燃焼室43にオイルWが溜まりやすいように傾斜した状態において長時間保管されていると判定した場合、クランキング時間が長めに設定される。このようにクランキング時間を長めに設定することで、燃焼前に燃焼室43内のオイルWを排気通路30に排出することができる。燃焼室43のオイルWを排気通路30に排出した後に点火装置49による点火が行われるため、白煙を低減することができる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
上記実施形態では、スタートスイッチ113が設けられており、スタートスイッチ113の操作に基づいてECU61がクランク軸22を回転させるが、スタートスイッチ113が設けられていなくてもよく、スタータロープが設けられていてもよい。スタータロープを引っ張ることでクランク軸22が駆動することになる。この場合、ステップS10における始動操作の検知は、例えば、クランク軸22の回転をクランク角センサ62によって検出することで行うことができる。
【0061】
上記実施形態では、エンジンの停止時間の閾値と傾斜角度の閾値がそれぞれ独立して設定されているが、エンジンの停止時間の閾値と傾斜角度の閾値が関連して設定されていてもよい。例えば、傾斜角度の値が大きい程、エンジンの停止時間の閾値を短く設定してもよい。
【0062】
上記実施形態では、点火待機時間は一定に設定されているが、エンジンの停止時間が長い程、点火待機時間を長く設定してもよい。また、傾斜角度が大きい程、点火待機時間を長く設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、エンジン始動時の白煙量を低減することが可能な船舶推進器および船舶推進器の制御方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:船舶推進器、2:船舶、11:上部ケーシング、12:下部ケーシング、13:エキゾーストガイド部、14:エンジン、16:ブラケット、16a:回転軸、21:駆動軸、22:クランク軸、22a:突起部、22b:欠落部、23:プロペラ、24:プロペラシャフト、25:シフト機構、30:排気通路、31:シリンダ、31a:端、31b:端、32:クランクケース、33:シリンダヘッド、34:シリンダブロック、35:シリンダ室、36:ピストン、37:コンロッド、38:ピストンリング、41:吸気ポート、42:排気ポート、43:燃焼室、44:吸気バルブ、45:排気バルブ、46:吸気管、47:燃料噴射装置、48:スロットル弁、49:点火装置、50:排気管、51:吸気用カムシャフト、52:排気用カムシャフト、53:吸気用カムプーリ、54:排気用カムプーリ、55:クランクプーリ、56a:中間プーリ、56b:中間プーリ、56c:中間プーリ、57:カムベルト、58:フライホイール、61:ECU、62:クランク角センサ、63:スロットル開度センサ、64:吸気圧センサ、65:排気圧センサ、66:燃料流量センサ、67:傾斜角度センサ、68:シフトアクチュエータ、69:スタータモータ、71:記憶部、73:タイマー、100:船舶、110:操作装置、111:シフト操作装置、112:ステアリング操作装置、113:スタートスイッチ、114:スロットルレバー、120:ステアリングアクチュエータ、130:バッテリ