(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005473
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】洪水監視装置、洪水監視システムおよび洪水監視方法
(51)【国際特許分類】
G01F 23/292 20060101AFI20240110BHJP
G08B 27/00 20060101ALI20240110BHJP
G01F 23/64 20060101ALI20240110BHJP
G01F 1/20 20060101ALI20240110BHJP
G01P 5/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01F23/292 Z
G08B27/00 A
G01F23/64 A
G01F1/20 A
G01P5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105663
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000202361
【氏名又は名称】綜合警備保障株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加沢 徹
【テーマコード(参考)】
2F013
2F014
2F030
5C087
【Fターム(参考)】
2F013AA02
2F013AA03
2F013AA05
2F013AB04
2F013CA15
2F013CA16
2F014FA04
2F030CC05
2F030CE27
5C087AA02
5C087AA09
5C087AA10
5C087AA25
5C087AA37
5C087AA44
5C087BB20
5C087DD02
5C087DD49
5C087EE14
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087FF16
(57)【要約】
【課題】高価なセンサを用いずに河川の水深および水流速度を精度よく算出することができる洪水監視装置、洪水監視システムおよび洪水監視方法を提供する。
【解決手段】河川に浮かぶブイと、ブイと接続線により接続され、接続線の繰り出しおよび引き戻しが可能な、河川の川底または川底近傍に固定された繰り出し機構と、を有するブイ型センサのうち、水面上のブイを撮像する撮像装置によって撮像された撮像画像を取得する取得部と、撮像画像から、繰り出し機構に対して鉛直方向の水面の位置からのブイの水平方向の変位、およびブイの水没状態を導出し、変位、水没状態、およびブイに作用する重力、浮力、水流による力および張力のつり合いの第1の関係に基づいて、河川の水深および水流速度を算出する第1の算出部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川に浮かぶブイと、前記ブイと接続線により接続され、前記接続線の繰り出しおよび引き戻しが可能な、前記河川の川底または川底近傍に固定された繰り出し機構と、を有するブイ型センサのうち、水面上の前記ブイを撮像する撮像装置によって撮像された撮像画像を取得する取得部と、
前記撮像画像から、前記繰り出し機構に対して鉛直方向の水面の位置からの前記ブイの水平方向の変位、および該ブイの水没状態を導出し、前記変位、前記水没状態、および該ブイに作用する重力、浮力、水流による力および張力のつり合いの第1の関係に基づいて、前記河川の水深および水流速度を算出する第1の算出部と、
を備えた洪水監視装置。
【請求項2】
前記第1の算出部は、
前記撮像画像から、前記ブイのうち水面上に現れた部分の水面からの高さを前記水没状態として導出し、
前記高さから該ブイの水没体積を算出し、前記水没体積に基づいて該ブイの前記浮力を算出し、前記変位、該浮力、および前記第1の関係に基づいて、前記水深および前記水流速度を算出する請求項1に記載の洪水監視装置。
【請求項3】
前記第1の算出部は、前記撮像画像から、前記水没状態として前記ブイの鉛直方向に対する傾きを、前記接続線の鉛直方向に対する傾斜角として導出し、
前記変位および前記傾斜角から、前記接続線の長さを算出し、前記長さおよび該傾斜角から、前記水深を算出し、
前記長さから、前記ブイと前記接続線との接続点で該ブイに作用する張力を算出し、前記張力および前記傾斜角にも基づいて、該ブイに作用する水流による力を算出し、前記水流による力から前記水流速度を算出する請求項1に記載の洪水監視装置。
【請求項4】
前記ブイは、表面にマークが付され、
前記第1の算出部は、前記撮像画像から、前記ブイにおける前記マークの位置に基づいて前記傾きを導出する請求項3に記載の洪水監視装置。
【請求項5】
前記第1の算出部は、
前記撮像画像から、前記ブイのうち水面上に現れた部分の水面からの高さを前記水没状態として導出し、
前記撮像画像から、前記接続線の方向に対してずれ角を有する前記ブイの傾きを前記水没状態として導出し、
前記変位、前記水没状態、前記第1の関係、ならびに、鉛直面における前記ブイと前記接続線との接続点の周りの前記重力、前記浮力および前記水流による力の各モーメントのつり合いの第2の関係に基づいて、前記水深および前記水流速度を算出する請求項1に記載の洪水監視装置。
【請求項6】
前記第1の算出部は、
前記撮像画像から、前記ブイの水平面での水平ずれ角を導出し、
前記水平ずれ角、および、水平面における前記ブイと前記接続線との接続点の周りの前記水流による力の各モーメントのつり合いの第3の関係に基づいて、前記水流速度を算出する請求項1に記載の洪水監視装置。
【請求項7】
所定の地図情報、および、前記第1の算出部により算出された前記水深および前記水流速度に基づいて、前記河川からの浸水領域を予測する予測部を、さらに備えた請求項1~6のいずれか一項に記載の洪水監視装置。
【請求項8】
前記予測部により予測された前記浸水領域を迂回する避難経路および避難時間を算出する第2の算出部を、さらに備えた請求項7に記載の洪水監視装置。
【請求項9】
前記地図情報に対して、前記予測部により予測された前記浸水領域、ならびに、前記第2の算出部により算出された前記避難経路および前記避難時間を、重畳して情報端末に表示させる表示制御部を、さらに備えた請求項8に記載の洪水監視装置。
【請求項10】
河川に浮かぶブイと、前記ブイと接続線により接続され、前記接続線の繰り出しおよび引き戻しが可能な、前記河川の川底または川底近傍に固定された繰り出し機構と、を有するブイ型センサと、
水面上の前記ブイを撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により撮像された撮像画像に基づいて、前記河川の水深および水流速度を算出する洪水監視装置と、
を含み、
前記洪水監視装置は、
前記撮像装置から前記撮像画像を取得する取得部と、
前記撮像画像から、前記繰り出し機構に対して鉛直方向の水面の位置からの前記ブイの水平方向の変位、および該ブイの水没状態を導出し、前記変位、前記水没状態、および該ブイに作用する重力、浮力、水流による力および張力のつり合いの第1の関係に基づいて、前記水深および前記水流速度を算出する第1の算出部と、
を備えた洪水監視システム。
【請求項11】
洪水監視装置が実行する洪水監視方法であって、
河川に浮かぶブイと、前記ブイと接続線により接続され、前記接続線の繰り出しおよび引き戻しが可能な、前記河川の川底または川底近傍に固定された繰り出し機構と、を有するブイ型センサのうち、水面上の前記ブイを撮像する撮像装置によって撮像された撮像画像を取得する工程と、
前記撮像画像から、前記繰り出し機構に対して鉛直方向の水面の位置からの前記ブイの水平方向の変位、および該ブイの水没状態を導出し、前記変位、前記水没状態、および該ブイに作用する重力、浮力、水流による力および張力のつり合いの第1の関係に基づいて、前記河川の水深および水流速度を算出する工程と、
を含むことを特徴とする洪水監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洪水監視装置、洪水監視システムおよび洪水監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、増加する大雨、地震等の自然災害に伴い、海または河川の近傍の領域において津波または氾濫等により海水または川の水が浸水することによる洪水被害が多く発生している。
【0003】
このような洪水を監視する技術として、河川監視カメラの監視画像について通常時の監視画像からの差分を分析することにより河川の水位(水深)を計測する方法が開示されている(例えば特許文献1)。また、水位、雨量等の影響で時々刻々と変化する実際の洪水情報を配信して避難を促す方法が開示されている(例えば特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-057994号公報
【特許文献2】特開2004-197554号公報
【特許文献3】特開2003-162785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、水深(水位)を測定はするものの、河川における水流速度を測定することができず、洪水領域を予測するための情報としては不足しており、当該予測の精度が高くないという問題がある。また、河川の水位等を測定するための高価なセンサを河川に大量に配置する場合、コストが増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高価なセンサを用いずに河川の水深および水流速度を精度よく算出することができる洪水監視装置、洪水監視システムおよび洪水監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、河川に浮かぶブイと、前記ブイと接続線により接続され、前記接続線の繰り出しおよび引き戻しが可能な、前記河川の川底または川底近傍に固定された繰り出し機構と、を有するブイ型センサのうち、水面上の前記ブイを撮像する撮像装置によって撮像された撮像画像を取得する取得部と、前記撮像画像から、前記繰り出し機構に対して鉛直方向の水面の位置からの前記ブイの水平方向の変位、および該ブイの水没状態を導出し、前記変位、前記水没状態、および該ブイに作用する重力、浮力、水流による力および張力のつり合いの第1の関係に基づいて、前記河川の水深および水流速度を算出する第1の算出部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高価なセンサを用いずに河川の水深および水流速度を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る洪水監視システムの全体構成を説明する図である。
【
図2】
図2は、ブイに作用する力を説明する図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る予測管理サーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る情報端末のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る予測管理サーバの機能ブロックの構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る予測管理サーバの水深・水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態に係る予測管理サーバの別の水深・水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態に係る情報端末において地図情報に避難経路が表示された状態の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る情報端末において地図情報に予測浸水領域および避難のための迂回経路が表示された状態の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、ブイに作用する力およびモーメントを説明する図である。
【
図11】
図11は、変形例1に係る予測管理サーバの水深・水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、非対称のブイに作用する力およびモーメントを説明する図である。
【
図13】
図13は、変形例2に係る予測管理サーバの水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら、本発明に係る洪水監視装置、洪水監視システムおよび洪水監視方法の実施形態を詳細に説明する。また、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、およびいわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換、変更および組み合わせを行うことができる。
【0011】
なお、コンピュータソフトウェアとは、コンピュータの動作に関するプログラム、その他コンピュータによる処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるものをいう(以下、コンピュータソフトウェアは、ソフトウェアという)。アプリケーションソフトとは、ソフトウェアの分類のうち、特定の作業を行うために使用されるソフトウェアの総称である。一方、オペレーティングシステム(OS)とは、コンピュータを制御し、アプリケーションソフト等がコンピュータ資源を利用可能にするためのソフトウェアのことである。オペレーティングシステムは、入出力の制御、メモリやハードディスク等のハードウェアの管理、プロセスの管理といった、コンピュータの基本的な管理・制御を行っている。アプリケーションソフトウェアは、オペレーティングシステムが提供する機能を利用して動作する。プログラムとは、コンピュータに対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わせたものをいう。また、プログラムに準ずるものとは、コンピュータに対する直接の指令ではないためプログラムとは呼べないが、コンピュータの処理を規定するという点でプログラムに類似する性質を有するものをいう。例えば、データ構造(データ要素間の相互関係で表される、データの有する論理的構造)がプログラムに準ずるものに該当する。
【0012】
(洪水監視システムの全体構成)
図1は、実施形態に係る洪水監視システムの全体構成を説明する図である。
図1を参照しながら、本実施形態に係る洪水監視システム1の全体構成について説明する。
【0013】
図1に示す洪水監視システム1は、河川等の水深および水流速度を算出し、氾濫等による洪水が発生した場合に、洪水による浸水領域を予測するシステムである。なお、本実施形態では、洪水監視システム1は、河川における水深および水流速度を算出し、洪水が発生した場合における浸水領域を予測する動作について説明する。
図1に示すように、洪水監視システム1は、予測管理サーバ10(洪水監視装置)と、河川等に複数設置されたブイ型センサ20と、監視カメラ30と、を含む。
【0014】
予測管理サーバ10は、監視カメラ30により撮像されたブイ型センサ20に対する撮像画像に基づいて、河川の水深および水流速度を算出し、氾濫等による洪水が発生した場合に、洪水による浸水領域を予測するサーバ装置である。
【0015】
ブイ型センサ20は、河川に複数設置され、監視カメラ30により撮像されることにより、予測管理サーバ10による河川の水深および水流速度の算出に寄与するセンサ機構である。ブイ型センサ20は、
図1に示すように、ブイ21と、ワイヤ繰り出し機構22と、ワイヤ23(接続線)と、を含む。
【0016】
ブイ21は、ワイヤ23を介して川底等に設置されたワイヤ繰り出し機構22に接続され、河川の水面に浮かべられた浮標である。ブイ21の表面には、
図1に示すように、ブイ21の傾き等を導出するための文字、図形または記号等のマーク21aが付されている。
【0017】
ワイヤ繰り出し機構22は、ワイヤ23を巻き付けたゼンマイバネを内蔵するリールを備え、当該リールから引き出されたワイヤ23を介してブイ21と接続し、ブイ21の水面上での移動によってブイ21から受ける力に応じて、ワイヤ23がリールから繰り出され、この結果ゼンマイバネによって発生するワイヤ23を引き戻す力を利用して、ワイヤ23に張力を発生させるための機構である。ワイヤ繰り出し機構22は、例えば、川底、または川底に近い橋梁等に固定設置される。
【0018】
ワイヤ23は、ブイ21とワイヤ繰り出し機構22とを接続し、ワイヤ繰り出し機構22により発生する張力をブイ21に伝える接続線である。例えば、ワイヤ23のいずれかの部分にコイルバネ等の弾性体が接続されており、当該弾性体のばね定数と、ワイヤ繰り出し機構22によって発生する張力に応じて、当該弾性体が所定の長さだけ伸びるものとする。したがって、ワイヤ23の長さ(ワイヤ長)と、当該ワイヤ23に発生する張力(ワイヤ繰り出し機構22により発生する張力とワイヤ23のいずれかの部分に接続された弾性体による張力の合成力)とは所定の関係式によって関係付けられ、一方が求まれば、他方も導き出すことができる。なお、ワイヤ23の長さ(ワイヤ長)と、当該ワイヤ23に発生する張力の関係を、あらかじめ実験的に取得しておいてもよい。原則としては、ワイヤ23の長さ(ワイヤ長)が長くなるほど、張力が大きくなる。なお、ワイヤ23は、金属製に限定されるものではなく、例えば樹脂製のワイヤであってもよい。
【0019】
監視カメラ30は、水面に浮遊する複数のブイ21を撮像する撮像装置である。監視カメラ30は、撮像した撮像画像を、情報端末40に対して無線送信する。無線通信するための規格としては、3G、LTE(Long Term Evolution)、4G、5G、またはWi-Fi(登録商標)(Wireless Fidelity)等が挙げられる。
【0020】
情報端末40は、予測管理サーバ10により予測された予測浸水領域等の情報を受信して地図情報上に表示させるアプリケーション(以下、単にアプリと称する場合がある)がインストールされたスマホ、タブレット端末またはPC(Personal Computer)等の情報処理装置である。なお、情報端末40にインストールされたアプリは、ネイティブアプリまたはWebアプリのいずれであってもよい。
【0021】
(ブイに作用する力等について)
図2は、ブイに作用する力を説明する図である。
図2を参照しながら、ブイ21に作用する力等について説明する。
【0022】
まず、ブイ21に作用する力について説明する。ブイ21は、既知の質量を有するため、重心(
図2のハッチング付きの×印)に、鉛直下向きの重力Gが作用すると考えることができる。上述のように、ブイ21の質量は既知であるため、重力Gの値も既知の定数である。なお、ブイ21の重心と中心(
図2の塗り潰しの×印)とがずれているのは、ブイ21の搖動を抑制するために、ブイ21とワイヤ23とを接続する支点21c(接続点)寄りにおもり21bが内蔵されているためである。
【0023】
また、ブイ21は、水面上を浮かぶ浮標であるため、ブイ21の体積のうち水面下に沈んだ体積部分(水没体積)があり、当該体積部分の水圧差に伴う鉛直上向きの浮力Uが作用する。具体的には、浮力Uは、水没体積と水の密度と重力加速度との積で算出される。
図1では、当該浮力Uが、ブイ21の中心に作用する力として図示している。ここで、ブイ21のうち水面上に現れた部分の水面からの高さを頂点高さΔh(水没状態の一例)とする。
【0024】
また、ブイ21は河川に浮かぶ浮標であるため、河川の流れによる力、すなわち水流による力Wを受ける。また、ブイ21は、上述のように、ワイヤ繰り出し機構22と、ワイヤ23で接続されているため、ワイヤ23から、支点21cにおいてワイヤ長Lに応じた当該ワイヤ23方向の張力Tを受ける。
【0025】
また、ブイ21は、河川には流れがあるため水流による力Wを受けることにより、ワイヤ繰り出し機構22の鉛直方向の水面の位置から水平方向の変位Δxだけ移動する。そして、ブイ21が水平方向に変位Δxだけ移動することにより、ワイヤ23の方向は、
図1に示すように、鉛直方向から傾斜角θだけ傾くことになる。
【0026】
次の上述の各変数および定数の関係について説明する。ここで、予測管理サーバ10の算出対象となる河川の深さを水深dとし、流れの速さを水流速度vとする。
【0027】
ワイヤ長L、傾斜角θ、変位Δx、水深dとの間には、
図2に示すように、Lcosθ=d、Lsinθ=Δxの関係があるため、tanθ=Δx/dが導かれる。すなわち、傾斜角θは、変位Δxおよび水深dの関数であるため、それを特に明示する場合、θ(d,Δx)と表記するものとする。
【0028】
また、頂点高さΔhは、監視カメラ30により撮像された撮像画像から導出することが可能である。なお、撮像画像から頂点高さΔhを導出するために、ブイ21の表面のマーク21aの位置を用いるものとしてもよい。例えば、ブイ21が球形状で、体積が既知である場合には、頂点高さΔhが導出されることによって、ブイ21の水没体積が算出される。そして、上述のように、水没体積と水の密度と重力加速度との積により浮力Uを算出することができる。すなわち、浮力Uは、頂点高さΔhの関数であるため、それを特に明示する場合、U(Δh)と表記するものとする。
【0029】
また、上述のように、ワイヤ23のワイヤ長Lと、当該ワイヤ23に発生する張力とは所定の関係式によって関係付けられ、一方が求まれば、他方も導き出すことができるため、張力Tは、ワイヤ長Lの関数であり、それを特に明示する場合、T(L)と表記するものとする。また、張力Tは、ワイヤ23に傾斜角θがあることにより、
図2に示すように、水平方向の成分Tsinθと、鉛直方向の成分Tcosθとに分解することができる。
【0030】
また、河川においてブイ21に作用する水流による力Wは、水流速度vの関数であり、それを特に明示する場合、W(v)と表記するものとする。
【0031】
また、上述したブイ21に作用する鉛直方向の力は、下記の式(1)で表されるつり合いの式で関係付けられる。
【0032】
U(Δh)=G+T(L)・cosθ(d,Δx) ・・・(1)
【0033】
すなわち、浮力Uは、重力Gと、張力Tの鉛直方向の成分Tcosθとの合力と等しい。
【0034】
また、ブイ21に作用する水平方向の力は、下記の式(2)で表されるつり合いの式で関係付けられる。
【0035】
W(v)=T(L)・sinθ(d,Δx) ・・・(2)
【0036】
すなわち、水流による力Wは、張力Tの水平方向の成分Tsinθに等しい。
【0037】
以上から、予測管理サーバ10は、変数間の関数による関係、および上記の式(1)および(2)により、数値計算により水深dおよび水流速度vを算出することができる。なお、上述の式(1)および(2)は、第1の関係に相当する。
【0038】
(予測管理サーバのハードウェア構成)
図3は、実施形態に係る予測管理サーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3を参照しながら、本実施形態に係る予測管理サーバ10のハードウェア構成について説明する。
【0039】
図3に示すように、予測管理サーバ10は、CPU(Central Processing Unit)501と、ROM(Read Only Memory)502と、RAM(Random Access Memory)503と、補助記憶装置505と、ネットワークI/F508と、ディスプレイ509と、キーボード511と、マウス512と、を備えている。
【0040】
CPU501は、予測管理サーバ10全体の動作を制御する演算装置である。ROM502は、予測管理サーバ10用のプログラムを記憶している不揮発性記憶装置である。RAM503は、CPU501のワークエリアとして使用される揮発性記憶装置である。
【0041】
補助記憶装置505は、各種データおよびプログラム等を記憶するHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の記憶装置である。
【0042】
ネットワークI/F508は、監視カメラ30および情報端末40との間でデータを無線通信するためのインターフェースである。無線通信するための規格としては、3G、LTE、4G、5G、またはWi-Fi(登録商標)等が挙げられる。
【0043】
ディスプレイ509は、カーソル、メニュー、ウィンドウ、文字または画像等の各種情報を表示する液晶または有機EL等によって構成された表示装置である。
【0044】
キーボード511は、文字、数字、各種指示の選択、およびカーソルの移動等を行う入力装置である。マウス512は、各種指示の選択および実行、処理対象の選択、ならびにカーソルの移動等を行うための入力装置である。
【0045】
上述のCPU501、ROM502、RAM503、補助記憶装置505、ネットワークI/F508、ディスプレイ509、キーボード511およびマウス512は、アドレスバスおよびデータバス等のバスライン510によって互いに通信可能に接続されている。
【0046】
なお、
図3に示した予測管理サーバ10のハードウェア構成は一例を示すものであり、
図3に示した構成要素を全て含む必要はなく、または、その他の構成要素を含むものとしてもよい。
【0047】
(情報端末のハードウェア構成)
図4は、実施形態に係る情報端末のハードウェア構成の一例を示す図である。
図4を参照しながら、本実施形態に係る情報端末40のハードウェア構成について説明する。
【0048】
図4に示すように、情報端末40は、CPU401と、ROM402と、RAM403と、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)404と、撮像部405と、撮像I/F406と、加速度・方位センサ407と、GPS(Global Positioning System)受信部408と、を備えている。
【0049】
CPU401は、情報端末40全体の動作を制御する演算装置である。ROM402は、IPL(Initial Program Loader)等のCPU401の駆動に用いられるプログラムを記憶する不揮発性記憶装置である。RAM403は、CPU401のワークエリアとして使用される揮発性記憶装置である。EEPROM404は、プログラム等および各種データを記憶する不揮発性記憶装置である。
【0050】
撮像部405は、CPU401による制御に従って、CCD(Charge-Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサにより被写体を撮像して画像データを得る内蔵型の撮像装置である。撮像I/F406は、撮像部405の駆動を制御するためのインターフェースである。
【0051】
加速度・方位センサ407は、地磁気を検知する電子磁気コンパス、ジャイロコンパス、加速度センサ等の各種センサである。
【0052】
GPS受信部408は、GPS衛星からGPS信号を受信する受信装置である。なお、GPSに限定されず、その他のGNSS(Global Navigation Satellite System)を採用するものとしてもよい。
【0053】
また、
図4に示すように、情報端末40は、さらに、遠距離通信回路410と、アンテナ410aと、近距離通信回路411と、アンテナ411aと、マイク412と、スピーカ413と、音入出力I/F414と、ディスプレイ415と、外部機器接続I/F416と、バイブレータ417と、タッチパネル418と、を備えている。
【0054】
遠距離通信回路410は、Wi-Fi(登録商標)等の規格により、アンテナ410aを介して他の機器と無線通信をする通信回路である。
【0055】
近距離通信回路411は、NFC(Near Field Communication)またはBluetooth(登録商標)等の規格により、アンテナ411aを介して他の機器と近距離の無線通信をする通信回路である。
【0056】
マイク412は、音を電気信号に変える内蔵型の集音装置である。スピーカ413は、電気信号を物理振動に変えて音楽または音声等の音を出力する内蔵型の音響装置である。音入出力I/F414は、CPU401による制御に従って、マイク412およびスピーカ413との間で音信号の入出力を処理するインターフェースである。
【0057】
ディスプレイ415は、被写体の画像、各種アイコン等を表示する液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置である。外部機器接続I/F416は、各種の外部機器を接続するためのUSB(Universal Serial Bus)等の規格のインターフェースである。
【0058】
バイブレータ417は、CPU401による制御に従って、物理的な振動を発生させる装置である。
【0059】
タッチパネル418は、利用者がディスプレイ415をタッチ操作することにより、情報端末40の各種機能を発揮させるための入力装置である。
【0060】
上述のCPU401、ROM402、RAM403、EEPROM404、撮像I/F406、加速度・方位センサ407、GPS受信部408、遠距離通信回路410、近距離通信回路411、音入出力I/F414、ディスプレイ415、外部機器接続I/F416、バイブレータ417およびタッチパネル418は、アドレスバスおよびデータバス等のバスライン409によって互いに通信可能に接続されている。
【0061】
なお、
図4に示した情報端末40のハードウェア構成は一例であり、すべての構成機器を備えている必要はなく、また、他の構成機器を備えているものとしてもよい。
【0062】
(予測管理サーバの機能ブロックの構成および動作)
図5は、実施形態に係る予測管理サーバの機能ブロックの構成の一例を示す図である。
図5を参照しながら、本実施形態に係る予測管理サーバ10の機能ブロックの構成および動作について説明する。
【0063】
図5に示すように、予測管理サーバ10は、取得部101と、第1の算出部102と、予測部103と、第2の算出部104と、表示制御部105と、を有する。
【0064】
取得部101は、監視カメラ30により撮像された複数のブイ型センサ20のブイ21に対する撮像画像を、ネットワークI/F508を介して取得する機能部である。
【0065】
第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像に基づいて、河川の水深dおよび水流速度vを算出する機能部である。第1の算出部102による水深dおよび水流速度vの算出方法の詳細については、
図6および
図7で後述する。
【0066】
予測部103は、河川で氾濫等が生じた場合に、氾濫等の箇所から広がっていく浸水領域を、予め用意されている地図情報、ならびに第1の算出部102により算出した水深dおよび水流速度vに基づいて、時系列に予測する機能部である。この場合、地図情報は、例えば、土地の高さ等の地形情報、道路情報、ならびに建物の大きさおよび位置の情報等を含む。
【0067】
第2の算出部104は、予測部103により予測された浸水領域(予測浸水領域)に基づいて、当該浸水領域を迂回する避難経路および当該避難経路を通った場合の避難時間を算出する機能部である。例えば、第2の算出部104は、情報端末40のユーザの自宅から所定の避難所までの避難経路として、最短、かつ予測浸水領域を迂回する経路を算出する。
【0068】
表示制御部105は、ネットワークI/F508を介して、例えばWebアプリが実行されている情報端末40の表示動作を制御する機能部である。表示制御部105は、例えば、情報端末40のディスプレイ415に表示された地図情報に対して、予測部103により予測された予測浸水領域を重畳して表示させ、かつ、第2の算出部104により算出された避難経路および避難時間を重畳して表示させる。
【0069】
上述の取得部101、第1の算出部102、予測部103、第2の算出部104および表示制御部105は、
図3に示したCPU501によりプログラムが実行されることによって実現される。なお、これらの機能部のうち少なくともその一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0070】
なお、
図5に示す予測管理サーバ10の各機能部は、機能を概念的に示したものであって、このような構成に限定されるものではない。例えば、
図5に示す予測管理サーバ10で独立した機能部として図示した複数の機能部を、1つの機能部として構成してもよい。一方、
図5に示す予測管理サーバ10で1つの機能部が有する機能を複数に分割し、複数の機能部として構成するものとしてもよい。
【0071】
(予測管理サーバの水深・水流速度の算出処理の流れ)
図6は、実施形態に係る予測管理サーバの水深・水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6を参照しながら、本実施形態に係る予測管理サーバ10による水深・水流速度の算出処理の流れについて説明する。
【0072】
<ステップS11>
予測管理サーバ10の取得部101は、監視カメラ30により撮像された複数のブイ型センサ20のブイ21に対する撮像画像を、ネットワークI/F508を介して取得する。予測管理サーバ10の第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像から、ブイ型センサ20のブイ21の頂点高さΔhを導出する。なお、第1の算出部102は、撮像画像から頂点高さΔhを導出するために、ブイ21の表面のマーク21aの位置を用いるものとしてもよい。そして、ステップS12へ移行する。
【0073】
<ステップS12>
第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像から、河川の水面に浮かんでいるブイ21の水平方向の変位Δxを導出する。そして、ステップS13へ移行する。
【0074】
<ステップS13>
そして、第1の算出部102は、重力Gおよび頂点高さΔhから決定される浮力U等、ならびに上述の式(1)および(2)等に基づいて、水深dおよび水流速度vを算出する。例えば、傾斜角θ、張力T、ワイヤ長Lおよび水流による力Wは、水深dおよび水流速度vの依存値といえるため、水深dおよび水流速度vは、数値計算により算出可能である。
【0075】
以上のステップS11~S13の流れで予測管理サーバ10による水深・水流速度の算出処理が実行される。
【0076】
ここで、ステップS13における水深dおよび水流速度vの具体的な算出方法の一例を以下に説明する。
【0077】
第1の算出部102は、導出した頂点高さΔhから、ブイ21の水没体積を算出する。そして、第1の算出部102は、水没体積と水の密度と重力加速度との積により、浮力Uを算出する。
【0078】
次に、第1の算出部102は、既知である重力G、および算出した浮力U、ならびに上述の式(1)から、張力Tの鉛直方向の成分Tcosθを算出する。また、上述のステップS12で算出された変位Δxは、ワイヤ長Lおよび傾斜角θを用いて、Δx=Lsinθで表される。
【0079】
次に、第1の算出部102は、算出した張力Tの鉛直方向の成分Tcosθ、および導出した変位Δx(=Lsinθ)から、ワイヤ長Lおよび傾斜角θを算出する。張力Tは、上述のようにワイヤ長Lの関数であり、ワイヤ長Lを用いて表すことができるため、ワイヤ長Lと傾斜角θとの連立方程式として解くことができる。
【0080】
次に、第1の算出部102は、ワイヤ長Lおよび傾斜角θから、水深d(=Lcosθ)を算出する。
【0081】
次に、第1の算出部102は、算出したワイヤ長Lから張力Tを算出する。そして、第1の算出部102は、算出した張力Tおよび傾斜角θから、上述の式(2)を用いて、水流による力Wを算出する。そして、第1の算出部102は、水流による力Wの逆関数である水流速度vを算出する。
【0082】
以上のように、第1の算出部102によって水深dおよび水流速度vが算出される。
【0083】
上述の
図2に示したように、例えば水流速度vが所定値以上に存在する場合等において、ブイ21の鉛直方向に対する傾き(水没状態の一例)は、ワイヤ23方向の傾斜角θとみなせる場合がある。すなわち、この場合、ブイ21の頂点(マーク21aが存在する位置)がワイヤ23の延長線上に位置する。この場合における水深dおよび水流速度vの算出処理を、以下で
図7を参照しながら説明する。
【0084】
図7は、実施形態に係る予測管理サーバの別の水深・水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7を参照しながら、ブイ21の頂点(マーク21aが存在する位置)がワイヤ23の延長線上に位置する場合における水深・水流速度の算出処理の流れについて説明する。
【0085】
<ステップS21>
予測管理サーバ10の取得部101は、監視カメラ30により撮像された複数のブイ型センサ20のブイ21に対する撮像画像を、ネットワークI/F508を介して取得する。予測管理サーバ10の第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像から、ブイ型センサ20のブイ21のマーク21aの位置に基づいて、ブイ21の傾きを傾斜角θとして導出する。そして、ステップS22へ移行する。
【0086】
<ステップS22>
第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像から、河川の水面に浮かんでいるブイ21の水平方向の変位Δxを導出する。そして、ステップS23へ移行する。
【0087】
<ステップS23>
第1の算出部102は、変位Δxがワイヤ長Lおよび傾斜角θを用いてΔx=Lsinθで表されることから、当該変位Δxおよび傾斜角θから、ワイヤ長Lを算出する。続いて、第1の算出部102は、ワイヤ長Lおよび傾斜角θから、水深d(=Lcosθ)を算出する。そして、ステップS24へ移行する。
【0088】
<ステップS24>
第1の算出部102は、算出したワイヤ長Lから張力Tを算出する。続いて、第1の算出部102は、算出した張力Tおよび傾斜角θから、上述の式(2)を用いて、水流による力Wを算出する。そして、ステップS25へ移行する。
【0089】
<ステップS25>
そして、第1の算出部102は、水流による力Wの逆関数である水流速度vを算出する。
【0090】
以上により、ブイ21の頂点(マーク21aが存在する位置)がワイヤ23の延長線上に位置する場合において、第1の算出部102により水深dおよび水流速度vが算出される。
【0091】
(情報端末における予測浸水領域、ならびに避難経路および避難時間の表示動作)
図8は、実施形態に係る情報端末において地図情報に避難経路が表示された状態の一例を示す図である。
図9は、実施形態に係る情報端末において地図情報に予測浸水領域および避難のための迂回経路が表示された状態の一例を示す図である。
図8および
図9を参照しながら、情報端末40での地図情報に予測浸水領域、ならびに避難経路および避難時間の表示動作について説明する。
【0092】
図8に示す例では、河川が氾濫していない場合において、表示制御部105によって、情報端末40のディスプレイ415に、第2の算出部104により算出された避難経路および避難時間を地図情報に重畳して表示された状態が示されている。具体的には、
図8では、情報端末40のディスプレイ415において、情報端末40のユーザの自宅から避難所までの避難経路LT1および避難時間が、地図情報に重畳して表示されている。
【0093】
次に、
図9に示す例では、河川が氾濫した場合において、表示制御部105によって、情報端末40のディスプレイ415に、予測部103により予測された特定の時刻の予測浸水領域FA、ならびに、第2の算出部104により算出された当該予測浸水領域FAを迂回する避難経路LT2および避難時間が、地図情報に重畳して表示されている。
【0094】
なお、現時刻からの何分後の予測浸水領域FAであるのかは、情報端末40において選択操作できるものとしてもよい。この場合、選択された時間の経過後の予測浸水領域が、改めて予測部103により予測され、第2の算出部104により当該予測浸水領域を迂回する避難経路および避難時間が算出されるものとすればよい。
【0095】
以上のように、本実施形態に係る予測管理サーバ10では、取得部101は、河川に浮かぶブイ21と、ブイ21とワイヤ23により接続され、ワイヤ23の繰り出しおよび引き戻しが可能な、河川の川底または川底近傍に固定されたワイヤ繰り出し機構22と、を有するブイ型センサ20のうち、水面上のブイ21を撮像する監視カメラ30によって撮像された撮像画像を取得し、第1の算出部102は、撮像画像から、ワイヤ繰り出し機構22に対して鉛直方向の水面の位置からのブイ21の水平方向の変位Δx、およびブイ21の水没状態(頂点高さΔh、ブイ21の傾き)を導出し、変位Δx、水没状態、およびブイ21に作用する重力G、浮力Uおよび水流による力Wのつり合いの式(1)および(2)に基づいて、河川の水深dおよび水流速度vを算出するものとしている。これによって、ブイ21について何らかの信号または情報を送受信するための電力が不要であるため、高価なセンサを用いずに河川の水深dおよび水流速度vを精度よく算出することができる。
【0096】
また、本実施形態に係る予測管理サーバ10では、予測部103は、所定の地図情報、および、第1の算出部102により算出された水深dおよび水流速度vに基づいて、河川からの浸水領域を時系列に予測し、第2の算出部104は、予測部103により予測された浸水領域を迂回する避難経路および避難時間を算出し、表示制御部105は、地図情報に対して、予測部103により予測された浸水領域、ならびに、第2の算出部104により算出された避難経路および避難時間を、重畳して情報端末40に表示させるものとしている。これによって、情報端末40のユーザは、予測精度の高い浸水領域を確認することができ、かつ、当該浸水領域を迂回する避難経路および避難時間を確認することができるため、洪水による浸水が発生しても、安全に避難所まで避難することが可能となる。
【0097】
(変形例1)
次に、変形例1に係る予測管理サーバ10について、上述の実施形態に係る予測管理サーバ10と相違する点を中心に説明する。本変形例では、鉛直面におけるブイ21の支点21cの周りの力のモーメントにより生じるブイ21の傾きのずれを考慮した水深dおよび水流速度vの算出処理について説明する。
【0098】
図10は、ブイに作用する力およびモーメントを説明する図である。
図10を参照しながら、ブイ21に作用する力および力のモーメントについて説明する。
【0099】
図10に示すように、ブイ21に作用する力については、上述の
図2で説明したものと同様である。ただし、以下で説明する鉛直面における支点21c周りの力のモーメントに関して、力のベクトルの線上に支点21cが存在する張力Tについては、支点21c周りの力のモーメントに寄与しないため、
図10では図示していない。
【0100】
図10に示すように、鉛直面における支点21c周りの力のモーメントとしては、浮力Uのモーメント、重力Gのモーメント、および水流による力Wのモーメントが存在する。そして、これらの力のモーメントは互いに釣り合っている場合、ブイ21は支点21cを中心とする回転運動が停止する。
【0101】
浮力Uのモーメントは、
図10に示すように、浮力Uのベクトルのうち始点(
図10の例ではブイ21の中心)と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分と、当該始点と支点21cとの距離(以下、距離r1と表す)との積で表される。より正確には、浮力Uのモーメントは、ブイ21の水没体積部分の各点に作用する浮力のベクトルのうち始点と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分と、当該始点と支点21cとの距離との積を、当該水没体積部分の全体で積分することにより得られる。
図10に示す例では、浮力Uのモーメントは、支点21cを中心として右回りの回転に寄与する。
【0102】
重力Gのモーメントは、
図10に示すように、重力Gのベクトルのうち始点(
図10の例ではブイ21の重心)と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分と、当該始点と支点21cとの距離(以下、距離r2と表す)との積で表される。より正確には、重力Gのモーメントは、ブイ21内の各質点に作用する重力のベクトルのうち始点と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分と、当該始点と支点21cとの距離との積を、ブイ21の全体積で積分することにより得られる。
図10に示す例では、重力Gのモーメントは、支点21cを中心として左回りの回転に寄与する。
【0103】
水流による力Wのモーメントは、
図10に示すように、ブイ21の水没部分の表面の各点に作用する水流による力のベクトル(左向き)のうち始点と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分と、当該始点と支点21cとの距離との積を、当該水没部分の表面全体で積分することにより得られる。ただし、水流による力Wのモーメントのうち、支点21cを中心として左回りの回転に寄与するモーメントをW1とし、右回りの回転に寄与するモーメントをW2と表すものとする。
【0104】
以上のような浮力Uのモーメント、重力Gのモーメント、および水流による力Wのモーメントが互いにつり合っているものとすると、下記の式(3)に示すつり合いの式で関係付けられる。
【0105】
r1・U(Δh)・sin(θ-φ)+W2=r2・G・sin(θ-φ)+W1
・・・(3)
【0106】
式(3)に示すずれ角φは、ブイ21に対して支点21cを中心とする各力のモーメントが作用した結果、
図10に示すように、ブイ21の頂点(支点21cと重心とを結ぶ直線が表面と交わる点)と支点21cとを結ぶ直線の、ワイヤ23の方向に対するずれ角である。したがって、ブイ21の傾き(水没状態の一例)は、θ-φで表される。なお、上述の式(3)は、第2の関係に相当する。
【0107】
図11は、変形例1に係る予測管理サーバの水深・水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図11を参照しながら、本変形例に係る予測管理サーバ10による水深・水流速度の算出処理の流れについて説明する。
【0108】
<ステップS31>
予測管理サーバ10の取得部101は、監視カメラ30により撮像された複数のブイ型センサ20のブイ21に対する撮像画像を、ネットワークI/F508を介して取得する。予測管理サーバ10の第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像から、ブイ型センサ20のブイ21の頂点高さΔhを導出する。なお、第1の算出部102は、撮像画像から頂点高さΔhを導出するために、ブイ21の表面のマーク21aの位置を用いるものとしてもよい。また、第1の算出部102は、撮像画像におけるブイ21のマーク21aの位置から、ブイ21の傾きであるθ-φを導出する。そして、ステップS32へ移行する。
【0109】
<ステップS32>
第1の算出部102は、取得部101により取得された撮像画像から、河川の水面に浮かんでいるブイ21の水平方向の変位Δxを導出する。そして、ステップS33へ移行する。
【0110】
<ステップS33>
そして、第1の算出部102は、重力Gおよび頂点高さΔhから決定される浮力U等、ならびに上述の式(1)~(3)等に基づいて、水深d、水流速度vおよびずれ角φを算出する。例えば、他の値は、水深d、水流速度vおよびずれ角φの依存値といえるため、水深d、水流速度vおよびずれ角φは、数値計算により算出可能である。
【0111】
以上のステップS31~S33の流れで予測管理サーバ10による水深・水流速度の算出処理が実行される。
【0112】
以上のように、本変形例に係る予測管理サーバ10では、第1の算出部102は、撮像画像から、ブイ21のうち水面上に現れた部分の水面からの頂点高さΔhを水没状態として導出し、撮像画像から、ワイヤ23の方向に対してずれ角φを有するブイの傾きを水没状態として導出し、変位Δx、水没状態、式(1)および(2)、ならびに、鉛直面におけるブイ21とワイヤ23との接続点である支点21cの周りの重力G、浮力Uおよび水流による力Wの各モーメントのつり合いの式(3)に基づいて、水深dおよび水流速度vを算出するものとしている。これによって、ブイ21について何らかの信号または情報を送受信するための電力が不要であるため、高価なセンサを用いずに河川の水深dおよび水流速度vを精度よく算出することができると共に、ブイ21の傾きにずれ角φがある場合においても、水深dおよび水流速度vを精度よく算出することができる。
【0113】
(変形例2)
次に、変形例2に係る予測管理サーバ10について、上述の実施形態に係る予測管理サーバ10と相違する点を中心に説明する。本変形例では、水平面における左右非対称のブイ21の支点21cの周りの水流による力Wのモーメントにより生じるブイ21の水流方向に対するずれ角を考慮した水流速度vの算出処理について説明する。
【0114】
図12は、非対称のブイに作用する力およびモーメントを説明する図である。
図12を参照しながら、水平面におけるブイ21に作用する水流による力Wのモーメントについて説明する。
【0115】
図12では、上面から見たブイ21の状態を示しており、ブイ21は、左右非対称のブイであるものとしている。また、水面上表出部21dは、ブイ21のうち水面上に表出した体積部分である。
図12に示すように、水平面における支点21c周りの力のモーメントとしては、水流による力Wのモーメントが存在する。浮力Uおよび重力Gについては、水平面に垂直の向きに作用する力であるため、水平面における支点21c周りの力のモーメントとして寄与しない。
【0116】
水流による力Wのモーメントは、
図12に示すように、ブイ21の水没部分の表面の各点に作用する水流による力のベクトル(左向き)のうち始点と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分と、当該始点と支点21cとの距離(以下、距離rと表す)との積を、当該水没部分の表面全体で積分することにより得られる。ここで、水流による力Wのモーメントのうち、支点21cを中心として左回りの回転に寄与するモーメントに関して、ブイ21の水没部分の表面の各点に作用する水流による力のベクトルのうち始点と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分をW3と表す。一方、水流による力Wのモーメントのうち、支点21cを中心として右回りの回転に寄与するモーメントに関して、ブイ21の水没部分の表面の各点に作用する水流による力のベクトルのうち始点と支点21cとを結ぶ直線に垂直な成分をW4と表す。
【0117】
以上のようなブイ21の水没部分の表面の各点に作用する水流による力のモーメントが互いにつり合っているものとすると、下記の式(4)に示すつり合いの式で関係付けられる。
【0118】
∫r×W3(v,λ,r)dr=∫r×W4(v,λ,r)dr ・・・(4)
【0119】
式(4)に示す水平ずれ角λは、ブイ21に対して支点21cを中心とする水流による力のモーメントが作用した結果、
図12に示すように、ブイ21の頂点(支点21cと重心とを結ぶ直線が表面と交わる点)と支点21cとを結ぶ直線の、ワイヤ23の方向に対する水平面でのずれ角である。この場合、W3およびW4は、水流速度v、水平ずれ角λおよび距離rの関数となる。なお、上述の式(4)は、第3の関係に相当する。
【0120】
水流による力のモーメントがつり合い状態において、ブイ21が転倒等を起こさずに左右非対称を保証するためには、非対称体積部分の半分以上が水面下である必要がある。そして、ブイ21の水没部分におもり21bを位置させることによって、転倒を抑制することができる。
【0121】
図13は、変形例2に係る予測管理サーバの水流速度の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図13を参照しながら、本変形例に係る予測管理サーバ10による水流速度の算出処理の流れについて説明する。
【0122】
<ステップS41>
予測管理サーバ10の取得部101は、監視カメラ30により撮像された複数のブイ型センサ20のブイ21に対する撮像画像を、ネットワークI/F508を介して取得する。また、第1の算出部102は、撮像画像におけるブイ21のマーク21aの位置から、ブイ21の水平面での水平ずれ角λを導出する。そして、ステップS42へ移行する。
【0123】
<ステップS42>
第1の算出部102は、水平ずれ角λ、および、上述のブイ21の水没部分の表面の各点に作用する水流による力のモーメントのつり合いの式(4)から、水流速度vを数値計算で算出する。
【0124】
以上のステップS41~S42の流れで予測管理サーバ10による水流速度の算出処理が実行される。
【0125】
以上のように、本変形例に係る予測管理サーバ10では、第1の算出部102は、撮像画像から、ブイ21の水平面での水平ずれ角λを導出し、水平ずれ角λ、および、水平面におけるブイ21とワイヤ23との接続点である支点21cの周りの水流による力の各モーメントのつり合いの式(4)に基づいて、水流速度vを算出するものとしている。これによって、ブイ21について何らかの信号または情報を送受信するための電力が不要であるため、高価なセンサを用いずに河川の水流速度vを精度よく算出することができる。
【0126】
なお、上記で説明した実施形態および各変形例の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。
【0127】
また、上述の実施形態および各変形例の予測管理サーバ10で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込まれて提供するように構成してもよい。
【0128】
また、上述の実施形態および各変形例の予測管理サーバ10で実行されるプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Compact Disc-Recordable)、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録してコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供するように構成してもよい。
【0129】
また、上述の実施形態および各変形例の予測管理サーバ10で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、上述の実施形態および各変形例の予測管理サーバ10で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0130】
また、上述の実施形態および各変形例の予測管理サーバ10で実行されるプログラムは、上述した各機能部を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU501(プロセッサ)がROM502または補助記憶装置505からプログラムを読み出して実行することにより上述の各機能部がRAM503(主記憶装置)上にロードされ、各機能部がRAM503上に生成されるようになっている。
【符号の説明】
【0131】
1 洪水監視システム
10 予測管理サーバ
20 ブイ型センサ
21 ブイ
21a マーク
21b おもり
21c 支点
21d 水面上表出部
22 ワイヤ繰り出し機構
23 ワイヤ
30 監視カメラ
40 情報端末
101 取得部
102 第1の算出部
103 予測部
104 第2の算出部
105 表示制御部
401 CPU
402 ROM
403 RAM
404 EEPROM
405 撮像部
406 撮像I/F
407 加速度・方位センサ
408 GPS受信部
409 バスライン
410 遠距離通信回路
410a アンテナ
411 近距離通信回路
411a アンテナ
412 マイク
413 スピーカ
414 音入出力I/F
415 ディスプレイ
416 外部機器接続I/F
417 バイブレータ
418 タッチパネル
501 CPU
502 ROM
503 RAM
505 補助記憶装置
508 ネットワークI/F
509 ディスプレイ
510 バスライン
511 キーボード
512 マウス
d 水深
FA 予測浸水領域
G 重力
L ワイヤ長
LT1、LT2 避難経路
T 張力
U 浮力
v 水流速度
W 水流による力
θ 傾斜角
λ 水平ずれ角
φ ずれ角
Δh 頂点高さ
Δx 変位