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特開2024-54754歪抵抗膜および物理量センサおよび歪抵抗膜の製造方法
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  • 特開-歪抵抗膜および物理量センサおよび歪抵抗膜の製造方法 図1
  • 特開-歪抵抗膜および物理量センサおよび歪抵抗膜の製造方法 図2
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  • 特開-歪抵抗膜および物理量センサおよび歪抵抗膜の製造方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054754
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】歪抵抗膜および物理量センサおよび歪抵抗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/22 20060101AFI20240410BHJP
   G01L 9/04 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01L1/22 M
G01L9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161188
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】縄岡 孝平
(72)【発明者】
【氏名】海野 健
(72)【発明者】
【氏名】笹原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
(72)【発明者】
【氏名】波多 徹雄
【テーマコード(参考)】
2F049
2F055
【Fターム(参考)】
2F049BA13
2F049CA07
2F049DA04
2F055AA40
2F055BB20
2F055CC02
2F055DD01
2F055DD05
2F055EE12
2F055FF11
2F055GG49
(57)【要約】
【課題】比較的高いk-factorを維持し、TCRの制御が容易な歪抵抗膜と、その抵抗膜を有する物理量センサを提供すること。
【解決手段】式Cr100-x-y-z Alx y z で表される組成を有する歪抵抗膜である。5≦x≦50、0.1≦y≦20、0.1≦z≦17、およびy+z≦25の関係を満足する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Cr100-x-y-z Alx y z で表される組成を有し、5≦x≦50、0.1≦y≦20、0.1≦z≦17、およびy+z≦25の関係を満足する歪抵抗膜。
【請求項2】
10nm以上の膜厚を有する請求項1に記載の歪抵抗膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歪抵抗膜を有する物理量センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の歪抵抗膜を製造する方法であって、
前記歪抵抗膜を薄膜法により製造する際に、雰囲気ガスの酸素量と窒素量とを制御することで、前記歪抵抗膜のk-factorおよびTCRを制御することを特徴とする歪抵抗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪に応じて抵抗値が変化する歪抵抗膜およびこれを用いる物理量センサに関する。
【背景技術】
【0002】
CrAl膜あるいはCrAlN膜は、高いk-factorを高温まで示す材料であり、高温対応の圧力センサ、歪センサの検出材料として注目されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
この種のCrAl膜あるいはCrAlN膜は、一定のAl量の比率において伝導特性が金属から半導体へと変化する。この伝導特性を制御することにより抵抗温度係数(TCR)を制御することが可能となっている。
【0004】
上記の伝導特性の一つであるTCRは、これまでは、同一のCr-Al比においてはアニール温度にて制御されてきた。また、k-factorは、Cr-Al組成比とアニール温度とを変化させて制御していた。このためTCRを製品ごとに調整する場合、材料のCr-Al組成比を製品ごとに調整する必要性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-91848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、比較的高いk-factorを維持し、TCRの制御が容易な歪抵抗膜と、その抵抗膜を有する物理量センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、Cr、AlおよびNを含む歪抵抗膜について鋭意検討した結果、Oをさらに含ませ、特にNとOの組成比を制御することで、比較的高いk-factorを維持し、TCRの制御を容易にできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る歪抵抗膜は、
式Cr100-x-y-z Alx y z で表される組成を有し、5≦x≦50、0.1≦y≦20、0.1≦z≦17、およびy+z≦25の関係を満足する。
【0009】
この歪抵抗膜では、たとえばセンサのゲージ率に対応するk-factorを4以上に高く維持しつつ、TCRの制御が容易になる。たとえば上記の組成比を満足する歪抵抗膜では、k-factorを4以上に高く維持しつつ、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、抵抗温度係数(TCR)の絶対値を、好ましくは2000ppm/℃以下、さらに好ましくは1000ppm/℃以下にすることが可能になる。抵抗温度係数(TCR)の絶対値を所定値以下とすることで、温度の影響による歪検出(あるいは圧力検出など)の誤差を抑制することが可能になる。
【0010】
この歪抵抗膜を製造するには、CrとAlの比率自体は固定してあるターゲットを用いて、たとえば雰囲気ガス中の窒素および酸素の量を制御することで、得られる歪抵抗膜に含まれる窒素および/または酸素の含有量を制御し、歪抵抗膜のk-factorおよびTCRを制御することができる。
【0011】
すなわち、CrとAlの比率が異なる複数のターゲットを用意することなく、CrとAlの比率が固定してあるターゲットを用いて、k-factorおよびTCRが制御された複数種類の歪抵抗膜を容易に製造することが可能になる。その結果、歪抵抗膜の生産速度が向上すると共に、生産効率が向上する。
【0012】
また、上記の組成比を満足する歪抵抗膜では、k-factorを4以上に高く維持しつつ、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、感度温度係数(TCS)の絶対値を、好ましくは2000ppm/℃以下、さらに好ましくは1000ppm/℃以下にすることが可能になる。感度温度係数(TCS)の絶対値を所定値以下とすることで、温度の影響による歪検出(あるいは圧力検出など)の誤差を抑制することが可能になる。
【0013】
さらに、上記の組成比を満足する歪抵抗膜では、歪抵抗膜の抵抗率(ρ)を1~15Ω・μmに制御することが容易である。抵抗率を特定の範囲にすることで、たとえばホイートストーンブリッジ回路などのセンサ用回路などを、歪抵抗膜を用いて容易に製造することができる。
【0014】
好ましくは、歪抵抗膜は、10nm以上の膜厚を有する。所定以上の膜厚を有する歪抵抗膜を用いることにより、歪抵抗膜のk-factorおよびTCRを制御することが容易になる。
【0015】
本発明の物理量センサは、上記に記載の歪抵抗膜を有する。物理量センサとしては、特に限定されず、たとえば歪センサ、圧力センサなどが例示される。
【0016】
本発明の歪抵抗膜の製造方法は、歪抵抗膜を製造する方法であって、
前記歪抵抗膜を薄膜法により製造する際に、雰囲気ガスの酸素量と窒素量とを制御することで、前記歪抵抗膜のk-factorおよびTCRを制御することを特徴とする。
【0017】
この歪抵抗膜の製造方法によれば、たとえばCrとAlの比率自体は固定してあるターゲットを用いて、雰囲気ガス中の窒素および/または酸素の量を制御することで、得られる歪抵抗膜に含まれる窒素および酸素の含有量を制御し、歪抵抗膜のk-factorおよびTCRを制御することができる。
【0018】
すなわち、CrとAlの比率が異なる複数のターゲットを用意することなく、CrとAlの比率が固定してあるターゲットを用いて、k-factorおよびTCRが制御された複数種類の歪抵抗膜を容易に製造することが可能になる。その結果、歪抵抗膜の生産速度が向上すると共に、生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係る圧力センサの概略断面図である。
図2図2は、図1のIIで示す部分の拡大断面図である。
図3A図3Aは、図1に示す圧力センサに含まれる電極付き歪抵抗膜のパターン配列の一例を示す概略図である。
図3B図3Bは、実施例に係る歪抵抗膜を説明する概念図である。
図4図4は、N+Oの含有量とk-factorの関係を表すグラフである。
図5A図5Aは、N+Oの含有量とTCRの関係を表すグラフである。
図5B図5Bは、Oの含有量とTCRの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
図1は、一実施形態に係る歪抵抗膜32を用いる圧力センサ10の概略断面図である。図1に示すように、圧力センサ10は、圧力に応じた変形を生じるメンブレン22を有する。メンブレン22は、図1では、中空筒状のステム20の一端に形成してある端壁で構成してあるが、実施例のような平板状のSi基板122(図3B参照)で構成することもできる。ステム20の他端は中空部の開放端となっており、ステム20の中空部は、接続部材12の流路12bに連通してある。
【0022】
圧力センサ10では、流路12bに導入される流体が、ステム20の中空部からメンブレン22の内面22aに導かれて、流体圧をメンブレン22に作用するようになっている。ステム20は、たとえばステンレスなどの金属で構成される。ただし、ステム20に相当する形状は、シリコン基板をエッチングにより加工したり、平板状のシリコン基板を他部材に接合したりすることで、構成されていてもよい。
【0023】
ステム20の開放端の周囲には、フランジ部21がステム20の軸芯から外方に突出するように形成してある。フランジ部21は、接続部材12と抑え部材14との間に挟まれ、メンブレン22の内面22aへと至る流路12bが密封されるようになっている。
【0024】
接続部材12は、圧力センサ10を固定するためのねじ溝12aを有する。圧力センサ10は、測定対象となる流体が封入してある圧力室などに対して、ねじ溝12aを介して固定されている。これにより、接続部材12の内部に形成されている流路12bおよびステム20におけるメンブレン22の内面22aは、測定対象となる流体が内部に存在する圧力室に対して、気密に連通する。
【0025】
抑え部材14の上面には、回路基板16が取り付けてある。回路基板16は、ステム20の周囲を囲むリング状の形状を有しているが、回路基板16の形状としてはこれに限定されない。回路基板16には、たとえば、歪抵抗膜32からの検出信号が伝えられる回路などが内蔵してある。
【0026】
図1に示すように、メンブレン22の外面には、歪抵抗膜32などが設けられている。歪抵抗膜32と回路基板16とは、ワイヤボンディングなどによる中間配線72などを介して電気的に接続してある。
【0027】
図2は、図1に示す圧力センサ10に含まれる歪抵抗膜32の一部およびその周辺部分を拡大して表示した模式断面図である。
【0028】
図2に示すように、歪抵抗膜32は、メンブレン22の外面22bに、たとえば下地絶縁層52を介して設けられている。下地絶縁層52は、メンブレン22の外面22bのほぼ全体を覆うように形成してあり、たとえばSiOなどのシリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物などで構成される。下地絶縁層52の厚みは、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1~5μmである。下地絶縁層52は、たとえばCVDなどの蒸着法によりメンブレン22の外面22bに形成することができる。
【0029】
なお、メンブレン22の外面22bが絶縁性を有する場合には、下地絶縁層52は、形成することなく、メンブレン22の外面22bに直接に歪抵抗膜32を成膜してもよい。たとえば、メンブレン22がアルミナなどの絶縁材料からなる場合には、歪抵抗膜32がメンブレン22に直接設けられてもよい。
【0030】
図2に示すように、電極部36は、歪抵抗膜32の上に設けられる。図3Aは、図1および図2に示す電極付き歪抵抗膜30を上方から見た模式平面図であり、電極付き歪抵抗膜30のパターン配列を示している。
【0031】
図3Aに示すように、歪抵抗膜32には、第1抵抗体R1、第2抵抗体R2、第3抵抗体R3および第4抵抗体R4が、所定パターンで形成してある。第1~第4抵抗体R1、R2、R3、R4は、メンブレン22の変形に応じた歪を生じ、メンブレン22の変形に応じて抵抗値が変化する。これらの第1~第4抵抗体R1~R4は、電気配線34によりホイートストーンブリッジ回路を構成するように接続してある。
【0032】
図1に示す圧力センサ10は、図3に示す第1~第4抵抗体R1~R4によるホイートストーンブリッジ回路の出力から、メンブレン22に作用する流体圧を検出する。すなわち、第1~第4抵抗体R1~R4は、図1および図2に示すメンブレン22が、流体圧により変形して歪む位置に設けられており、その歪み量に応じて抵抗値が変化するように構成してある。
【0033】
第1~第4抵抗体R1~R4を有する歪抵抗膜32は、たとえば、所定の材料の導電性の薄膜を、パターニングすることにより作製することができる。本実施形態では、歪抵抗膜32は、式Cr100-x-y-z Alx y z で表される組成を有し、5≦x≦50、0.1≦y≦20、0.1≦z≦17、およびy+z≦25の関係を満足する。
【0034】
xの下限は、好ましくは12.7以上、あるいは23以上、または25以上であってもよい。xの上限は、40以下、30以下であってもよい。yは、好ましくは1.1~12.2である。zは、好ましくは0.4~1.3、さらに好ましくは、0.4~0.7、あるいは2.6~9.5であってもよい。y+zは、好ましくは、12.0~19.6、さらに好ましくは、14.0~19.6、あるいは1.8~10.7であってもよい。
【0035】
歪抵抗膜32の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは10nm以上であり、その上限は、特に限定されないが、たとえば1000nm以下、あるいは500nm以下としてもよい。
【0036】
歪抵抗膜32の表面には、酸化膜などが形成してあってもよく、酸化膜としては、たとえばクロム酸化膜、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、アルミニウム酸化膜、アルミニウム窒化膜、アルミニウム酸窒化膜などが考えられる。
【0037】
歪抵抗膜32におけるx,y,zなどの組成分析は、たとえばXRF(蛍光X線)法、XPS(X線光電子分光法)などを用いて行うことが可能であり、本実施形態では、表面の酸化膜を除く歪抵抗膜32における深さ方向の中間位置での組成分析を行う結果が、上記の範囲内となることが好ましい。
【0038】
歪抵抗膜32は、CrおよびAl以外の金属や非金属元素を微量に含んでいてもよい。歪抵抗膜32に含まれるCrおよびAl以外の金属および非金属元素としては、たとえば、Ti、Nb、Ta、Ni、Zr、Hf、Si、Ge、C、P、Se、Te、Zn、Cu、Bi、Fe、Mo、W、As、Sn、Sb、Pb、B、Ge、In、Tl、Ru、Rh、Re、Os、Ir、Pt、Pd、Ag、Au、Co、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Mnおよび希土類元素が挙げられる。
【0039】
歪抵抗膜32は、スパッタリングや蒸着などの薄膜法により形成することができる。図3Aに示す第1~第4抵抗体R1~R4は、たとえば薄膜をミアンダ形状にパターニングすることで形成することができる。なお、電気配線34は、図3Aに示すように、歪抵抗膜32をパターニングすることにより形成されたものであってもよく、歪抵抗膜32とは異なる導電性の膜または層によって形成されたものであってもよい。
【0040】
歪抵抗膜32に含まれるOやNは、好ましくは、歪抵抗膜の成膜時に雰囲気ガスとして使用されることにより意図的に歪抵抗膜32に導入されるが、アニール時の雰囲気ガスとして使用されることにより意図的に歪抵抗膜32に導入されてもよい。あるいは、歪抵抗膜32を成膜する際に反応室から除去しきれずに残留したものが、歪抵抗膜32に取り込まれたものであってもよい。
【0041】
いずれにしても、本実施形態の歪抵抗膜32を薄膜法により製造する際には、雰囲気ガスの酸素量と窒素量とを制御することで、歪抵抗膜32のk-factorおよびTCR(Temperature coefficient of Resistance、抵抗温度係数)を制御することができる。また、雰囲気ガスの酸素量と窒素量とを制御することで、歪抵抗膜32のTCS(Temperature coefficient of sensitivity、抵抗温度係数)も制御することもできる。
【0042】
たとえばスパッタリング法を用いて、歪抵抗膜32を製造する際には、スパッタリング装置内の条件は、好ましくは、装置内圧力が0.08~0.2Paであり、雰囲気ガスは、不活性ガスと窒素ガスと酸素ガスとを含む。また、雰囲気ガスの全体圧力を100%として、窒素ガスの分圧は、好ましくは0~20%であり、酸素ガスの分圧は、好ましくは0~15%であり、残りが不活性ガスの分圧である。なお、不活性ガスとしては、Arガス、Neガスなどを用いることができる。
【0043】
歪抵抗膜32を薄膜法により製造した後には、歪抵抗膜32を熱処理してもよい。熱処理温度としては特に限定されないが、たとえば50℃~550℃とすることができ、350℃~550℃とすることが好ましい。
【0044】
図2および図3Aに示すように、電極部36は、歪抵抗膜32と同じ材料で構成してある電気配線34の上に重ねて設けられ、歪抵抗膜32に電気的に接続する。図2に示すように、電極部36は、歪抵抗膜32から成る電気配線34の上表面の一部に形成されている。歪抵抗膜32が有するホイートストーンブリッジ回路の出力は、電極部36および中間配線72を介して、図1に示す回路基板16へ伝えられる。電極部36の材質は、導電性の金属または合金等が挙げられ、より具体的には、Cr、Ti、Ni、Mo、白金族元素、Auなどが挙げられる。また、電極部36は、材質の異なる多層構造であってもよい。
【0045】
図2に示す下地絶縁層52および電極部36も、歪抵抗膜32と同様に、スパッタリングや蒸着などの薄膜法により形成することができる。ただし、下地絶縁層52および電極部36は、薄膜法以外の方法で形成されてもよく、たとえばSiO膜からなる下地絶縁層52は、Si基板表面を加熱して熱酸化膜を形成することにより、Si基板表面に設けてもよい。
【0046】
本実施形態の歪抵抗膜32では、たとえば圧力センサのゲージ率に対応するk-factorを4以上に高く維持しつつ、TCRの制御が容易になる。たとえば上記の組成比を満足する歪抵抗膜では、k-factorを4以上に高く維持しつつ、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、抵抗温度係数(TCR)の絶対値を、好ましくは2000ppm/℃以下、さらに好ましくは1000ppm/℃以下にすることが可能になる。抵抗温度係数(TCR)の絶対値を所定値以下とすることで、温度の影響による歪検出(あるいは圧力検出など)の誤差を抑制することが可能になる。
【0047】
また、上記の組成比を満足する歪抵抗膜では、k-factorを4以上に高く維持しつつ、-50℃以上450℃以下の温度範囲において、感度温度係数(TCS)の絶対値を、好ましくは2000ppm/℃以下、さらに好ましくは1000ppm/℃以下にすることが可能になる。感度温度係数(TCS)の絶対値を所定値以下とすることで、温度の影響による歪検出(あるいは圧力検出など)の誤差を抑制することが可能になる。
【0048】
このような歪抵抗膜32は、低温領域から高温領域までの広い範囲で、温度変化に伴う抵抗値変化(および/または感度変化)の割合が小さいため、広い温度範囲で使用される圧力センサ10の歪抵抗膜32として好適に用いられ、温度補正誤差を低減し、精度の高い検出を行うことができる。
【0049】
本実施形態の歪抵抗膜32を製造するには、CrとAlの比率自体は固定してあるターゲットを用いて、たとえば雰囲気ガス中の窒素および酸素の量を制御することで、得られる歪抵抗膜に含まれる窒素および/または酸素の含有量を制御し、歪抵抗膜のk-factorおよびTCRを制御することができる。
【0050】
すなわち、CrとAlの比率が異なる複数のターゲットを用意することなく、CrとAlの比率が固定してあるターゲットを用いて、k-factorおよびTCRが制御された複数種類の歪抵抗膜を容易に製造することが可能になる。その結果、歪抵抗膜の生産速度が向上すると共に、生産効率が向上する。
【0051】
さらに、上記の組成比を満足する歪抵抗膜32では、歪抵抗膜32の抵抗率(ρ)を1~15Ω・μmに制御することが容易である。抵抗率を特定の範囲にすることで、たとえばホイートストーンブリッジ回路などのセンサ用回路などを、歪抵抗膜32を用いて容易に製造することができる。
【0052】
本実施形態では、歪抵抗膜32は、10nm以上の膜厚を有する。所定以上の膜厚を有する歪抵抗膜32を用いることにより、歪抵抗膜32のk-factorおよびTCRを制御することが容易になる。
【0053】
また、本実施形態の歪抵抗膜32の製造方法によれば、たとえばCrとAlの比率自体は固定してあるターゲットを用いて、雰囲気ガス中の窒素および/または酸素の量を制御することで、得られる歪抵抗膜に含まれる窒素および酸素の含有量を制御し、歪抵抗膜のk-factorおよびTCR(および/またはTCS)を制御することができる。
【0054】
すなわち、CrとAlの比率が異なる複数のターゲットを用意することなく、CrとAlの比率が固定してあるターゲットを用いて、k-factorおよびTCR(および/またはTCS)が制御された複数種類の歪抵抗膜を容易に製造することが可能になる。その結果、歪抵抗膜の生産速度が向上すると共に、生産効率が向上する。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0056】
たとえば、圧力センサ10としては、図1に示すステム20を有するセンサのみには限定されず、基板をエッチング加工して作製した圧力センサや、平板状の基板に歪抵抗膜を形成したものを他部材に接合して作製したセンサであってもよい。基板の材質としては、金属、半導体、絶縁体のいずれであってもよく、具体的には、実施例で挙げたSiの他に、アルミナ(Al2 3 )なども挙げられる。
【0057】
また、本実施形態の歪抵抗膜は、圧力センサ10以外のその他の物理量センサとして用いることが可能である。その他の物理量センサとしては、たとえば、歪センサ、角度センサ、移動量センサ、加速度センサなどが例示される。
【実施例0058】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0059】
実施例1
まず、図3Bに示すように、Si基板122を準備し、その表面を加熱してSi基板122の表面に熱酸化膜であるSiО2 膜152を形成した。その後に、DCスパッタ装置を用いて、SiО2 膜152の表面に、歪抵抗膜132を成膜した。スパッタ装置内の雰囲気ガスは、微量の窒素と酸素を含んだArガスであり、雰囲気ガスの圧力は、0.08~0.2Paの範囲内であった。また、雰囲気ガスの全体圧力を100%として、窒素ガスの分圧は、0~20%であり、酸素ガスの分圧は、0~15%であり、残りが不活性ガスの分圧であった。
【0060】
スパッタ装置に用いるCrターゲットとAlターゲットとの比率を固定しながら、成膜時の雰囲気ガス中の酸素分圧および/または窒素分圧を変更することにより、Nの含有量(yの値)とOの含有量(zの値)が異なる複数の歪抵抗膜の試料1~10を作製した。なお、雰囲気ガス中の酸素分圧が高いほど、最終的に得られる歪抵抗膜における厚み方向の中央位置でのOの含有量(zの値)が大きくなることが確認された。
【0061】
さらに、成膜後の歪抵抗膜132を350℃でアニール(熱処理)したのち、微細加工により歪抵抗膜132にホイートストーンブリッジ回路を構成する抵抗体を形成した。最後に、歪抵抗膜132表面に電子蒸着で電極層を形成し、試料を得た。各試料における歪抵抗膜132の膜厚の平均は、300nm±30nmの範囲内であった。歪抵抗膜132の膜厚の測定は、触針式プロファイラを用いて行った。
【0062】
各試料1~10について、以下の分析と測定を行った。
【0063】
〔組成分析]
各試料について、歪抵抗膜132の組成を、XRF(蛍光X線)法により分析した。結果を表1に示す。
【0064】
〔抵抗率(比抵抗)]
各試料に対し、25℃において、四端子測定法により抵抗値を測定した。得られた各試料の測定値、歪抵抗膜試料の面積および厚みから比抵抗を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
〔抵抗温度係数(TCR)の測定]
各試料について、-50℃から450℃まで環境温度を変化させながら抵抗値を測定し、それぞれの試料についての抵抗値と温度の関係を最小二乗法により直線近似して傾きを求め、その傾きからTCR(ppm/℃)を算出した。算出したTCRの基準温度は、25℃である。結果を表1に示す。
【0066】
〔k-factor、抵抗温度係数(TCS)の測定]
各試料について、-50℃から450℃まで環境温度を変化させながらゲージ率(k-factor)を測定し、それぞれの試料についてのゲージ率と温度の関係を最小二乗法により直線近似して傾きを求め、その傾きからTCS(ppm/℃)を算出した。算出したTCSの基準温度は、25℃であり、このときの測定値をk-factorとした。結果を表1に示す。
【0067】
実施例2
スパッタ装置に用いるAlターゲットの数を実施例1に比較して減らし、CrターゲットとAlターゲットとの比率を固定しながら、スパッタ装置内の窒素ガスの分圧を調整することで、窒素含有量(yの値)を調節した以外は、実施例1と同様にして、各試料11~15を作製し、同様な分析を行った。結果を表2に示す。
【0068】
実施例3
最終的に得られる歪抵抗膜中のN+Oの原子%が、実施例1における試料番号7と同程度(14.0原子%前後)になり、しかも、Nの原子%とOの原子%の比率が変化するように、スパッタ装置内の窒素ガスおよび酸素ガスの分圧を調整した以外は、実施例1と同様にして、各試料21~23を作製し、同様な分析を行った。結果を表3に示す。
【0069】
実施例4
最終的に得られる歪抵抗膜の組成が、実施例1における試料番号5と同じになり、膜厚が変化するように、スパッタ装置によるスパッタリング時間を制御して、異なる膜厚の歪抵抗膜を得た。
【0070】
評価
表1、図4図5Aおよび図5Bに示すように、CrとAlの比率が異なる複数のターゲットを用意することなく、CrとAlの比率が固定してあるターゲットを用いて、NおよびOの含有率を変化させるのみで、抵抗率、k-factor、TCRおよびTCSの制御が可能になることが確認できた。なお、図4図5Aおよび図5Bは、それぞれ表1に示すデータをサンプリングしてグラフ化した図である。
【0071】
すなわち、実施例1によれば、表1および図4に示すように、歪抵抗膜中のN+Oの含有割合(y+z)を変化させることで、k-factorを、2~8の範囲で、変化させることができることが確認できた。また、k-factorを4以上にするためには、歪抵抗膜中のN+Oの含有割合(y+z)は、25原子%以下が好ましく、k-factorを6以上にするためには、歪抵抗膜中のN+Oの含有割合(y+z)は、20原子%以下が好ましいことが確認できた。
【0072】
また、表1および図5Aに示すように、歪抵抗膜中のN+Oの含有割合(y+z)を変化させることで、好ましくはTCR(およびTCS)の絶対値を2000以下、さらに好ましくは1000以下に変化させることができることが確認できた。また、表1および図5Bに示すように、歪抵抗膜中のOの含有割合(z)を変化させることで、好ましくはTCR(およびTCS)の絶対値を2000以下、さらに好ましくは1000以下に変化させることができることが確認できた。
【0073】
また、表1および表3から、抵抗率を4Ω・μm以上に維持すると共にk-factorを4以上(好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上)に維持しながら、TCR(およびTCS)の絶対値を2000以下、好ましくは1200以下、さらに好ましくは1000以下にするためには、好ましくはxを23~30、好ましくはzを0.9~9.5、さらに好ましくは2.6~9.5、好ましくはy+zを12.0~20.0、さらに好ましくは、14.0~20.0であることが確認できた。
【0074】
また、表2から、抵抗率を3Ω・μm以上に維持すると共にk-factorを8以上に維持しながら、TCR(およびTCS)の絶対値を2000以下、好ましくは1200以下、さらに好ましくは1000以下にするためには、好ましくはxを12~14、好ましくはzを0.4~0.7好ましくはy+zを1.8~10.7であることが確認できた。
【0075】
また、表1~表3に示すように、歪抵抗膜中のNの含有割合(y)は、0.1~20、好ましくは1.1~12.2であることが確認できた。
【0076】
さらに、表3に示す結果からは、xが略一定で、y+zが略一定の場合には、Nに比べてOの含有割合を調整することで、抵抗率、k-factor、TCR、TCSを制御することができることが確認できた。
【0077】
なお、歪抵抗膜の厚みは、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは30nm以上で好ましい結果が得られることが確認できている。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【符号の説明】
【0081】
10…圧力センサ
12…接続部材
12a…ねじ溝
12b…流路
14…抑え部材
16…回路基板
20…ステム
21…フランジ部
22…メンブレン
22a…内面
22b…外面
32、132…歪抵抗膜
34…電気配線
36…電極部
52…下地絶縁層
72…中間配線
122…Si基板
152…SiО
R1…第1抵抗体
R2…第2抵抗体
R3…第3抵抗体
R4…第4抵抗体
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B