(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054769
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎改善剤、制御性T細胞分化誘導剤、食品組成物、健康食品、化粧品及び制御性T細胞分化誘導方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/57 20150101AFI20240410BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240410BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240410BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240410BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240410BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20240410BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240410BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240410BHJP
【FI】
A61K35/57
A61P37/08
A61P17/00
A61P43/00 105
A61K31/352
A61K8/98
A61Q19/00
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161214
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】511132786
【氏名又は名称】エムスタイルジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】稲冨 幹也
(72)【発明者】
【氏名】片倉 喜範
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD08
4B018MD69
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA071
4C083AA072
4C083AC102
4C083AC841
4C083AC842
4C083CC02
4C083EE13
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB13
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB33
4C087CA03
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB13
4C087ZB21
(57)【要約】
【課題】 ステロイド外用薬は、長期間使用することで副作用が現れる等の問題がある。そこで、本発明は、新たなアトピー性皮膚炎改善剤等を提供することを目的とする。
【解決手段】 燕窩由来成分を有効成分として含有する、アトピー性皮膚炎改善剤である。特に、制御性T細胞への分化を誘導する制御性T細胞分化誘導剤であって、燕窩由来成分を有効成分として含有する、制御性T細胞分化誘導剤である。本願発明の各観点によれば、副作用を心配せずに使用できるアトピー性皮膚炎改善剤等を提供することが可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燕窩由来成分を有効成分として含有する、アトピー性皮膚炎改善剤。
【請求項2】
制御性T細胞への分化を誘導する制御性T細胞分化誘導剤であって、
燕窩由来成分を有効成分として含有する、制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項3】
前記有効成分は、レチノイン酸産生能力を向上させる、請求項2記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項4】
前記有効成分は、RALDH2遺伝子の転写量を上昇させる、請求項3記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項5】
前記有効成分は、TGF-βの遺伝子の転写量を上昇させる、請求項2記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項6】
前記有効成分は、TNF-α遺伝子、及び/又は、IL-13遺伝子の転写量を減少させる、請求項2記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項7】
前記有効成分は、フラボノイドである、請求項2記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項8】
前記有効成分は、Kaempferol及びQuercetinに共通する部分の構造を有する、請求項7記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項9】
前記有効成分は、Kaempferol、及び/又は、Quercetinである、請求項8記載の制御性T細胞分化誘導剤。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの前記有効成分を含有する、食品組成物。
【請求項11】
請求項1から9のいずlれかの前記有効成分を含有する、健康食品。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかの前記有効成分を含有する、化粧品。
【請求項13】
制御性T細胞への分化を誘導する制御性T細胞分化誘導方法であって、
燕窩由来成分を有効成分として含有する外用剤を対象に塗布するステップを含む、制御性T細胞分化誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、アトピー性皮膚炎改善剤、制御性T細胞分化誘導剤、食品組成物、健康食品、化粧品及び制御性T細胞分化誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は「自己」と「非自己」とを識別するシステムであり、「自己」に対する不応答性(免疫寛容)を維持しつつ、感染性微生物や自己由来変異細胞を「非自己」と認識して排除する。
【0003】
ヘルパーT細胞は免疫系においてマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞から抗原情報を受け取り、受け取った情報に応じて分化し、種々のサイトカインを放出して免疫応答を制御する。
【0004】
細胞表面にCD4抗原を発現しているためCD4陽性T細胞とも呼ばれ、その中の1種であるTregは、「免疫応答を抑制する機能を持ち、免疫寛容を担うT細胞」と定義される。1995年に坂口らが「CD25分子を構成的に発現するCD4陽性T細胞は免疫応答を抑制する」ことを突き止め、この細胞は後に制御性T細胞(regulatory T cell: Treg)と名付けられた。そして、転写因子Foxp3がTregの特異的分子マーカーであることが明らかにされ、Tregの生理的意義が確立やTregの発生・分化および分子機構の解明は急速に進歩した。
【0005】
Tregの主な役割である免疫寛容とは、自己抗原や非自己であるが病原性のない抗原に対して強い免疫反応を起こさないよう抑制することであり、正常マウスからTregを除去するとヒトの自己免疫疾患と酷似したI型糖尿病、腸内細菌に対する過剰免疫応答としての炎症性腸炎、さらに環境物質に対する過剰免疫応答としてのアレルギーの発症が生じると報告されている。また、TregはエフェクターT細胞や抗原提示細胞と相互作用することで、免疫の恒常性を制御し炎症時のバランスを取ることが知られている。
【0006】
このことから、Tregの活性化は免疫過剰による炎症を回避するための有効手段であると考えられ、アレルギーや自己免疫疾患の治療、臓器移植時の拒絶反応緩和などにおいてTregの臨床応用を試みる研究がさかんに行われている(非特許文献1、2、3)。
【0007】
過剰な免疫応答の代表例として、アトピー性皮膚炎が挙げられる。アトピー性皮膚炎は、皮膚疾患の中では頻度の高い疾患の一つである。アトピー性皮膚炎の現在の主な治療法の一つとしてステロイド外用薬が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tomohiro Fukayaら, Crucial roles of B7-H1 and B7-DC expressed on mesenteric lymph node dendritic cells in the generation of antigen-specific CD4+Foxp3+ regulatory T cells in the establishment of oral tolerance, Blood. 116(13): 2266-2276, 2010
【非特許文献2】Akamatsuら, Conversion of antigen-specific effector/memory T cells into Foxp3-expressing Treg cells by inhibition of CDK8/19. Science Immunology 25 Oct 2019:Vol. 4, Issue 40, eaaw2707
【非特許文献3】Di Ianni Mら,Tregs prevent GVHD and promote immune reconstitution in HLA-haploidentical transplantation. Blood,117: 3921-3928,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ステロイド外用薬は、長期間使用することで副作用が現れる等の問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、新たなアトピー性皮膚炎改善剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の第1の観点は、燕窩由来成分を有効成分として含有する、アトピー性皮膚炎改善剤である。
【0012】
本願発明の第2の観点は、制御性T細胞への分化を誘導する制御性T細胞分化誘導剤であって、燕窩由来成分を有効成分として含有する、制御性T細胞分化誘導剤である。
【0013】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、レチノイン酸産生能力を向上させる。
【0014】
本願発明の第4の観点は、第3の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、RALDH2遺伝子の転写量を上昇させる。
【0015】
本願発明の第5の観点は、第2の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、TGF-βの遺伝子の転写量を上昇させる。
【0016】
本願発明の第6の観点は、第2の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、TNF-α遺伝子、及び/又は、IL-13遺伝子の転写量を減少させる。
【0017】
本願発明の第7の観点は、第2の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、フラボノイドである。
【0018】
本願発明の第8の観点は、第2の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、Kaempferol及びQuercetinに共通する部分の構造を有する。
【0019】
本願発明の第9の観点は、第2の観点の制御性T細胞分化誘導剤であって、前記有効成分は、Kaempferol、及び/又は、Quercetinである。
【0020】
本願発明の第10の観点は、第1から第9のいずれかの観点における前記有効成分を有する、食品組成物である。
【0021】
本願発明の第11の観点は、第1から第9のいずれかの観点における前記有効成分を有する、健康食品である。
【0022】
本願発明の第12の観点は、第1から第9のいずれかの観点における前記有効成分を有する、化粧品である。
【0023】
本願発明の第13の観点は、制御性T細胞への分化を誘導する制御性T細胞分化誘導方法であって、燕窩由来成分を有効成分として含有する外用剤を対象に塗布するステップを含む、制御性T細胞分化誘導方法である。
【発明の効果】
【0024】
本願発明の各観点によれば、副作用を心配せずに使用できるアトピー性皮膚炎改善剤等を提供することが可能となる。
【0025】
特に、本願発明の第2から第9の観点によれば、新規の制御性T細胞分化誘導剤を提供することが可能となる。
【0026】
本願発明の第10から第12の観点によれば、経口により摂取できるアトピー性皮膚炎改善剤等を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】アトピー性皮膚炎の発症メカニズムの概要を示す図である。
【
図2】Kaempferol、Quercetin及び燕窩サンプルのRaldh2プロモーターEGFPの蛍光値を示す図である。
【
図3】Kaempferol、Quercetin及び燕窩サンプルによる内在性RALDH2遺伝子発現量を示す図である。
【
図4】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおけるかさぶたの状況を示す図である。
【
図5】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける炎症スコアの変化を示す図である。
【
図6】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおけるかさぶたの面積の変化を示す図である。
【
図7】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける耳の様子を示す図である。
【
図8】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける耳の厚さを示す図である。
【
図9】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織の顕微鏡写真である。
【
図10】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織における表皮厚を示す図である。
【
図11】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織における真皮厚を示す図である。
【
図12】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織における浸潤細胞数を示す図である。
【
図13】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織におけるTNF-α遺伝子の発現量を示す図である。
【
図14】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織におけるIL-13遺伝子の発現量を示す図である。
【
図15】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織におけるFoxp3遺伝子の発現量を示す図である。
【
図16】アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織におけるTGF-β遺伝子の発現量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本願発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本願発明の実施例は、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【実施例0029】
1.背景
図1は、アトピー性皮膚炎の発症メカニズムの概要を示す図である。Tregと関係の深いヘルパーT細胞のサブセットとしてTh1、Th2、Th17が挙げられる。これらの細胞は種々のサイトカインを放出して免疫を活性化し、感染防御などの面において重要な役割を果たしている。体内でこれら4つの細胞のバランスが崩れると疾患を引き起こすと考えられており、中でもこれらの過剰な免疫応答の代表例として、アトピー性皮膚炎が挙げられる。
【0030】
アトピー性皮膚炎は、皮膚疾患の中では頻度の高い疾患の一つである。アトピー性皮膚炎の現在の主な治療法の一つとしてステロイド外用薬が用いられているが、長期間使用することで副作用が現れる等の問題がある。この疾患の病態として免疫応答の破綻やバリア機能の異常などが挙げられ、Th2反応の亢進と活性化及びIgE反応の亢進がアトピー性皮膚炎を誘発する大きな要因であることが報告されている。
【0031】
アトピー性皮膚炎の急性期の病巣部位には、IL-4やIL-13と呼ばれるサイトカインを産生するTh2細胞が多く集まっていることから、アトピー性皮膚炎の初期炎症ではTh2細胞が重要な役割を持つと考えられている。そして慢性期になるとマスト細胞やTh2細胞が、IL-5などのサイトカインを放出し好酸球に働きかける。好酸球は炎症部位に浸潤し、顆粒タンパク質やサイトカインなどを分泌させることで、さらなる炎症反応が促進されることが知られている。
【0032】
末梢におけるTregの誘導には、トランスフォーミング増殖因子-β(Transforming Growth Factor-β: TGF-β)とレチノイン酸(Retinoic Acid: RA)が必須である。中でもレチノイン酸は免疫細胞の機能や分化・増殖に影響与え、Tregの分化を促進し炎症性サイトカインを放出するTh17の分化を抑制することが報告されている。レチノイン酸はビタミンAの生理機能を担うビタミンA代謝産物であり、ビタミンAの基本形レチノールがレチナールを経てレチノイン酸に変換される。レチナールからレチノイン酸への反応を触媒する酵素はretinal dehydrogenase(RALDH)と呼ばれ、RALDH1、RALDH2、RALDH3のアイソフォームが存在する。腸関連組織の樹状細胞は主にRALDH2を発現していることが分かっている。
【0033】
本願発明者は、日常的な動作である食事を通して、RALDH2を活性化し、Tregを増強することによって、免疫寛容を誘導することを着想した。
【0034】
そこで、本願発明者は、RALDH2に焦点を当てRALDH2活性化食品成分のスクリーニングシステムを構築している。Treg増強成分候補の探索および検証を行う中で、ポリフェノールの1種であるKaempferolがTregの分化を誘導し、マウスにおけるデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sulfate Sodium:DSS)誘導型の腸炎を抑制するということが明らかにされた。
【0035】
本願発明者らは、Treg誘導性食品の同定を目的として、食品成分のスクリーニングを行った。さらに同定したTreg誘導性食品成分をアトピー性皮膚炎マウスモデルの背部に直接添加し、その機能性検証を行った。
【0036】
2.実験材料および方法
2-1.細胞培養
2-1-1.ヒト急性単球性白血病由来株化細胞THP-1細胞の培養
本研究では、ヒト急性単球性白血病由来株化細胞THP-1細胞を用いた。THP-1細胞は、10% Fetal bovine serum(FBS ; Life Technologies, CA, USA)(56℃の恒温槽で30分間加熱することで補体を不活性化したもの)添加RPMI1640培地(Nissui , Tokyo, Japan)、ペトリディッシュ(FALCON, Tokyo, Japan)を用いて37℃、5%のCO2存在下で継代培養した。RPMI 1640培地は、500 mLのMilli-Q水に対してRPMI 1640粉末5.1 gを溶解し、オートクレーブにより、滅菌した後に、硫酸ストレプトマイシン0.1 g力価(Meiji seika pharma, Tokyo, Japan)0.5mL、ペニシリンGカリウム10万U(Meiji Seika Farm, Tokyo, Japan)1mL、10%NaHCO3(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)8 mL、添加したものを作製した。培地は4℃で保存した。
【0037】
2-1-2.THP-1(Raldh2p-EGFP)細胞の培養
先行研究により樹立された、マウスRaldh2p-EGFPレポーターベクターが導入されたTHP-1(Raldh2p-EGFP)細胞を用いた。THP-1(Raldh2p-EGFP)細胞は安定株であり、RALDH2プロモーターの活性化に応じてEGFP蛍光を発現する仕組みである。THP-1細胞と同様に10%FBS添加RPMI 1640培地、ペトリディッシュを用いて、37℃、5% CO2存在下で継代培養した。
【0038】
2-1-3.THP-1細胞の分化誘導
THP-1細胞は、分化誘導を行うことでマクロファージ様の形態を示す。本実験では、THP-1細胞にPhorbol 12-myristate 13-acetate (PMA; LC Laboratories, Germany)を終濃度100 ng/mLとなるよう10% FBS含有RPMI 1640培地に添加し、48時間培養することで分化誘導を行った。
【0039】
2-2.サンプルおよびその調製方法
Kaempferol及びQuercetinと燕窩(サンプルA~C)を試験した。また、燕窩はエムスタイルジャパン株式会社より提供された。燕窩サンプルについては、1×PBSを溶媒として150 μg/mLに調製した。各サンプルは-20℃で保存し、使用する際に適宜解凍した。ここで、燕窩には、アナツバメの巣及びウミツバメの巣が少なくとも含まれる。
【0040】
2-3.IN Cell Analyzer 2200を用いたRaldh2プロモーター活性化食品成分の探索
食品成分サンプルを添加したTHP-1(Raldh2p-EGFP)細胞を対象としてRaldh2プロモーター活性化能を評価した。THP-1(Raldh2p-EGFP)細胞を終濃度が6.0×105 cells/mLとなるように96-well black plate (GmbH, Kremsmnster, Austria) に播種し、48時間分化誘導を行った。分化誘導後、燕窩を終濃度が150 μg/mlから15000 μg/mLとなるように添加し、37℃、5%CO2存在下で24時間培養した。なお、コントロールとして食品成分にはDMSOを使用し、燕窩には1×PBSを使用した。
培養後、培養液に8%パラホルムアルデヒドを終濃度が4%になるように100 μL/wellで添加し、室温で15分間静置することで細胞を固定した。8%パラホルムアルデヒドはParaformaldehyde (FUJIFILM Wako, Tokyo, Japan)を1×PBSで8%パラホルムアルデヒドになるように溶解し、2 N mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を5 μg/mL加え60℃で溶解させて作製した。15分後、固定液を除去し1×PBSで2回洗浄した。その後、終濃度が2 μg/mLとなるように希釈したHoechst 33342液(Dojindo, Kumamoto, Japan)を100 μL/wellで添加し、20分間室温で静置することで核染色した。20分後、CellstainR-Hoechst 33342液を除去して1×PBSで2回洗浄し、各wellに100 μLのPBSを添加した後IN Cell Analyzer 2200でEGFP蛍光強度を測定した。プロトコルは「HaCaT-eGFP 20190627_210203_rev」を使用した。
【0041】
2-4.定量RT-PCR法による内在性RALDH2遺伝子の発現量測定
2-4-1.食品成分処理
IN Cell Analyzer 2200により選定されたRaldh2プロモーター活性能が示された燕窩サンプルについて親株のTHP-1細胞を対象として定量RT-PCRを行うことで、内在性RALDH2発現に対する効果を検証した。THP-1細胞を終濃度が6.0×105 cells/mLとなるように6-well plateへ播種した。THP-1細胞に48時間の分化誘導を行った後、燕窩サンプルを終濃度150 μg/mLとなるように添加した。なお、コントロールには燕窩サンプルの代わりにDMSOを添加した。
【0042】
2-4-2.Total RNA抽出
全RNAの調製にはHigh Pure RNA Isolation Kit(Roche, Basel, Switzerland)を使用し、その製品プロトコルに従って行った。また全RNA調製から逆転写反応終了まで用いる試薬および器具はRNase Freeのものを使用した。
【0043】
まず、6-well plateに6.0×105 cells/mLで細胞を播種し、10% FBSを含むDMEM培地にて37 ℃で培養した。24時間後、各サンプルを10 μMとなるように添加した。添加後、10% FBSを含むDMEM培地にて37℃で48時間培養した。48時間後、培地を完全に除去し1×PBSを200 μL加えて洗浄した。その後、1×PBSを200 μLとHigh Pure RNA Isolation Kitに含まれている細胞溶解液(Lysis/-binding buffer)を400 μL添加し、細胞溶解液をディッシュ全体に行き渡らせて溶解させ、細胞ライセート全量を1.5 mLチューブへ回収した。回収したサンプルはボルテックスミキサーで60秒間よく懸濁し、軽くスピンダウンした。Kit中のHigh Pure Filtert tubesとcollection tubesを組み立て、細胞ライセートをフィルターチューブに添加した。室温、10,000 ×gにて15秒間遠心分離し、collection tubesに排出された液を捨て、再びHigh Pure Filtert tubesとcollection tubesを組み立てた。1.5 mLチューブに、1チューブ当たり90 μLのDNase Incubation bufferと10 μL のDNase Iを加えて混合した。この混合液をFiltert tubesに添加し、室温で15分間静置した。15分後、Kit中のWash Buffer I 500 μLをFiltert tubesに加え、室温、10,000 ×gにて15秒間遠心分離した。遠心後、collrction tubesに排出された液を捨て、再びFiltert tubesとcollection tubesを組み立てた。Wash Buffer II 500 μLをFiltert tubesに加え、室温、10,000 × gにて15秒間遠心分離した。遠心後、collection tubesに排出された液を捨て、再びFiltert tubesとcollection tubesを組み立てた。更にWash Buffer II 200 μLを加え、室温、14,000 × gで2分間遠心分離を行った。遠心後、Filtert tubesを新しい1.5 mLチューブに差し込み、Ellution buffer 50 μLをFiltert tubesの中心に添加し、室温で3分間静置した。その後室温、10,000 × gにて1分間遠心分離し、全RNAを溶出した。溶出した全RNAの濃度をNano Drop 2000c (Thermo Fisher Scientific, Waltham, USA) を用いて、260 nmでの吸光値を元に測定した。
【0044】
2-4-3.逆転写酵素ReverTra Aceを用いたcDNA合成
細胞から抽出した全RNA 1.0 μgに対して5 pmolのOligo(dT)20プライマー(TOYOBO, Osaka, Japan)を加え、総液量が13 μLになるようにRNase Free水を加えた。Thermal Cycler PTC-200(MJ Research, Waltham, MA, USA)にて65℃で5分間熱処理反応を行い、直ちに氷中に移して急冷した。その間に、逆転写酵素反応プログラムを42°Cの段階へ進めておき一時停止にした。氷中にて5分間冷却したサンプルへ1サンプル当たり逆転写酵素反応緩衝液4 μL、10 mM dNTPs(GE Healthcare)2 μL、逆転写酵素ReverTra Ace(100 units/μL)(TOYOBO)0.5 μLを混合した溶液を加え、穏やかに混合した。その後42°Cで20分間、99°Cで5分間、4°Cで5分間の反応させることによりcDNAを合成した。このcDNAを定量RT-PCRに鋳型として用いた。
【0045】
2-4-4.プライマーの設計
定量RT-PCR法によって発現量を測定する目的遺伝子をNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/)で検索し、その配列をもとにプライマーの配列を決定し合成した。プライマーの合成はTaKaRa社に委託した。内部コントロールであるβ-actinと目的遺伝子を検出するプライマーは表1に示した。
【0046】
【0047】
2-4-5.定量RT-PCR反応
上記の方法で作製したcDNAを鋳型として用いた。0.2 mL チューブに滅菌水を49 μL、10 pmol/mLに希釈したプライマー Forward/Reverse双方を3.5 μLずつ、鋳型cDNA(目的遺伝子のプライマーは1/5に、β-actinは1/50に希釈した)7.0 μL、高効率リアルタイムPCR用マスターミックス(2×濃度)のTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)24.5 μLを添加しよく混合した。その後、96-well plateに1サンプル当たり25 μLずつ3 wellに添加し、Thermal Cycler Dice Real Time System (TaKaRa BIO, Shiga, Japan)を用いて、定量RT -PCRを行った。PCR反応は、95°C 30秒間を1回、(95°C 5秒間、55°C 10秒間、72°C 20秒間)を45サイクル行い、FAMにより検出した。目的遺伝子の発現量はΔΔCt法を用い、相対的に定量した。
【0048】
2-5.THP-1細胞を用いたRNA-seq 解析
THP-1細胞を6.0×105 cells/mLとなるように5 mL dishに播種し、PMAを用いて48時間分化誘導を行った。その後、第4節で選抜された燕窩サンプルを終濃度150 μg/mL となるように添加し、同じく第4節で選抜されたKaempferol、Quercetinを各終濃度10 μMとなるように添加した。24時間後、培養上清を除去し1×PBSで洗浄を行った。2 mLのTRIzol試薬を加え、1分間ディッシュ全体を傾けると同時に揺らすことを行った。セルスクレーパー(Sarstedt, Tokyo, Japan)でディッシュをこすりつけることを30秒間行い、1.5 mLサンプルチューブへ回収した。回収したサンプルは液体窒素で瞬時に冷却し、-80℃で保存した。RNA-seq実験は株式会社セルイノベーターに委託した。得られたデータをもとに、コントロールと比較した際、リード数のいずれかが100以上のものかつ、logFcが0.27以上または-0.27以下のものを選抜した。選抜したものは、DAVID (https://david.ncifcrf.gov/)を使用し解析を行った。DAVIDのデータベースに抽出した変動した遺伝子のEntrezGeneIDを入力し、Functional Annotation Clusteringを行い、機能ごとにクラスタリングを行った。また、同様にDAVIDを用いてKEGG (Kyoto Encyclopedia of Gene and Genomes)のパスウェイ解析を行った。
【0049】
2-6.動物試験
2-6-1.動物及び飼育方法
C57BL/6マウス(6 週齢, n=5)を日本クレア株式会社(Tokyo, Japan)から購入した。飼育環境はマウス用の小型ケージ(NATSUME SEISAKUSHO, Japan)を用いて行い、1ケージに1匹とし固形飼料(MF、Oriental, Tokyo, Japan)を食べさせ、室温22-26°C、湿度50-60%、12時間明暗周期にコントロールされたラック(Oriental, Tokyo, Japan)にて飼育した。水は滅菌水を自由に摂取させた。実験飼育には、コントロール群(5匹)、燕窩群(5匹)、Kaempferol群(5匹)、Quercetin群(5匹)の4群に分けて20日間行った。全マウスの手順と操作は、九州大学 動物実験倫理委員会の承認を得て、同委員会が作成した指針実験動物の飼育と使用のためのガイドに従っており、同委員会の承認を得ている(承認番号:A21-465-0「皮膚炎に対する食品の皮膚改善効果の解析」)。
【0050】
2-6-2.アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの作製
1週間予備飼育した後、麻酔下でマウスの背部体毛を約2.5 cm×2.5 cmの大きさになるように電気バリカン(THRIVE MODEL 2100, Daito Electric Machine Industry, Osaka, Japan)で刈毛した後、電気シェーバー(Panasonic, Osaka, Japan)で剃毛処理し、翌日より実験に使用した。雌性7週齢のC57BL/6マウス(n=5)の背部にアトピー性皮膚炎様を誘導する薬品であるDNCB (2,4-Dinitrochlorobenzene)(FUJIFILM Wako, Tokyo, Japan)をアセトン(FUJIFILM Wako)とオリーブ油(FUJIFILM Wako)を4:1で混合した溶液に混ぜ、1%濃度にしたものを0日目と3日目に100 μL塗布することで、アトピー性皮膚炎様の炎症を引き起こした。また自然治癒による炎症抑制を避けるべく、3日に1度の頻度で0.4%DNCBを100 μLマウスの背部に13日間塗布した。同じくマウスの右耳に3日に1度の頻度で13日間、0.4%DNCBを10 μL塗布した。試験開始から20日後の実験終了時に、頸椎脱臼によりマウスを安楽死させた後、背部の皮膚を採取した。
【0051】
2-6-3.塗布サンプル調製および塗布
コントロール群は50%エタノールをマウスの背部に150 μL塗布し、右耳には15 μL塗布した。燕窩、Kaempferol、Quercetin群は50%エタノールに1%の濃度で、それぞれの食品成分を溶解させたものを使用し、マウスの背部にそれぞれの食品成分を150 μL、右耳には15 μL塗布した。
【0052】
2-7.アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスを用いた機能性の検証
2-7-1.炎症スコア及びかさぶたの面積、耳の厚さの測定
炎症スコアは、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスに3種類の食品成分を添加することで、炎症が抑制されたのかをスコア付けしたものである。炎症スコアは6段階に分類して評価した。スコアの変化は、正常:Score 0 、回復中期:Score 1、回復初期:Score 2、軽炎症:Score 3、中炎症:Score 4、重炎症:Score 5とした。また、かさぶたの面積はかさぶたが生じている範囲を計測することで面積の算出を行った。耳の厚さに関しては、炎症部位である右耳にノギスを用いて測定することで算出を行った。
【0053】
2-7-2.マウスの皮膚における遺伝子発現の検証
マウス皮膚組織からのRNA抽出は、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(QIAGEN, Hilden, Germany)の製品プロトコルに従って行った。
【0054】
(1)皮膚破砕
マウスから採取した皮膚サンプルの一部を、約3 cm × 3 mmの大きさで切り取り、バイオマッシャ― II(Nippi, Tokyo, Japan)の内側がディンプル加工された1.5 mLチューブに入れた。KitのBuffer RLT 1 mLに対して、あらかじめ2-メルカプトエタノール(FUJIFILM Wako)を10 μL添加しておいたものを、組織の上に300 μL添加した。次に、付属の攪拌棒を回転させて素早く皮膚組織を破砕した。この際、皮膚組織の塊が肉眼で見えなくなるまでホモジナイゼーションした。
【0055】
(2)Total RNA抽出
ホモジナイゼーションした組織溶解液を、室温、18,000 × gで10分間遠心した後、ライセートをペレットが混入しないよう新しい1.5 mLチューブに移した。Kitに含まれるRNaseフリー水590 μL及びProteinase K溶液10 μLを、ライセートに添加しピペッティングにより完全に混合した。その後、55°Cで10分間インキュベートさせ、室温、10,000 × g で3分間遠心操作した。上清(約900 μL)を、新しい1.5 mLチューブにピペットで移した。0.5倍容量(今回は約450 μL)の99%エタノール(FUJIFILM Wako)を清澄化ライセートに添加し、ピペッティングにより混和した。700 μLのサンプルを、Kitの2 mLコレクションチューブの中にセットしたRNeasy Mini Spin Columnにアプライし、室温、8,000 × g以上で15秒間遠心操作した。回収用チューブに排出されたろ液を棄て、サンプルの残りを用いて同じ操作を繰り返した。350 μLのBuffer RW1をRNeasy Spin Columnに添加し、室温、8,000 × g以上で15秒間遠心操作し、メンブレン洗浄した。DNase I(1,500 Knitz units)を550 μLのRNaseフリー水で溶解させたDNase Iストック溶液10 μLを70 μLのBuffer RDDに添加した。DNase Iは物理的変性に敏感なため、混和はチューブを静かに上下に転倒させて静かにミックスした。チューブの壁に残っている溶液を集めるため、軽く遠心操作を行った。1サンプルにつき80 μLのDNase Iインキュベーション溶液をRNeasy Spin Columnメンブレンにピペットで直接アプライし、室温で15分間インキュベートした。この際DNase Iによる分解が不完全になるのを避けるため、DNase Iインキュベーション反応液がスピンカラムの壁につかないよう、直接RNeasy Spin Columnメンブレンに添加した。15分後、350 μLのBuffer RW1をRNeasy Spin Columnに添加し、室温、8,000 × g以上で15秒間遠心した。次に、4×Buffer RPEを99%エタノールで1×Buffer RPEにしたものを500 μLずつRNeasy Spin Columnに添加した。続いて室温、8,000 × g以上で15秒間遠心操作することでメンブレンを洗浄した。更に、RNA溶出中にエタノールがキャリーオーバーしないよう、もう一度500 μLの1×Buffer RPEをRNeasy Spin Columnに添加し、室温、8,000 × g以上で2分間遠心操作することでスピンカラム及びメンブレンを洗浄した。遠心操作後、RNeasy Spin Columnがろ液と接触しないよう、注意深くカラムをコレクションチューブから取り除きRNeasy Spin Columnを新しい2 mLコレクションチューブに移し、最高スピードで1分間遠心操作を行なった。その後RNeasy Spin Columnを新しい1.5 mlコレクションチューブ(添付)にセットし、50 μLのRNaseフリー水をRNeasy Spin Columnメンブレンに直接添加した。蓋を閉め、室温、8,000 × g 以上で1分間遠心操作を行い、この操作による溶出液をRNA溶液とした。溶液中のRNA濃度は、NanoDrop 2000/2000c分光光度計で、260 nmでの吸光値を元に算出し、定量RT-PCRの実験に使用した。
【0056】
(3)逆転写酵素Super Scriptを用いたcDNA合成
細胞から抽出した全RNA 0.8 μgに対して総液量が16 μLになるようにRNase Free水を加え、Super Script IV VILO Master Mix (Invitrogen, Tokyo, Japan) を4 μL加えた。Thermal Cycler PTC-200にて25℃で10分間、50℃で10分間、85℃で5分間反応させることによりcDNAを合成した。このcDNAを定量RT-PCRの鋳型として用いた。
尚、定量RT-PCR法については前述の通りである。
【0057】
2-7-3.パラフィン包埋切片の作製
(1)ホルマリン固定及び水洗
背部の被験部の皮膚組織を解剖はさみにて採取した。採取した皮膚組織が収縮するのを防ぐため、よく伸ばしてろ紙にホッチキスで貼り付けた。次にろ紙ごと10%中性緩衝ホルマリン液(FUJIFILM Wako)に浸し、室温で24 時間固定した。組織が固定された後、流水(水道水)で1時間、固定液を洗浄した。この際、固定標本に直接水道水が当たらないように気をつけた。
【0058】
(2)アルコール脱水及び脱脂
パラフィンは水に不溶なため、アルコールにより組織片に含まれる水分及び細胞内の脂肪に包まれる水分を除去する必要がある。まず、99%エタノール(FUJIFILM Wako)を超純水で70%エタノールに調製し、24時間ろ紙ごと固定標本を浸した。その後計4回、2時間おきに新しい100%エタノールにろ紙ごと浸漬させた。この際、浸漬していたエタノールをよくきって新しい容器中のエタノールに浸漬するようにした。
【0059】
(3)キシレン透徹(脱アルコール)
脱水工程で使用したアルコールはパラフィンに不溶なため、パラフィンとエタノールの両者に溶けやすい中間剤による置換が必要となる。ここで、パラフィン包埋組織切片作製用 ユニ・カセット(M498-2, Simport Scientific, Beloe , Canada)に入るように、ろ紙に張り付けていた固定標本の必要な部分を約3 cm × 3 mm程度になるようにカッターで切り取り、1検体ずつを1つのカセットに入れた。次に計2回、30分おきに新しいキシレンへ浸漬させた。この際、浸漬していたキシレンをよくきって新しい容器中のキシレンに浸漬するようにした。
【0060】
(4)パラフィン浸透(包埋)
中間剤に60℃で1時間置換後、60°Cに設定した恒温器内でユニ・カセットごと60 °Cで溶解させたパラフィン(Sakura Finetek, Tokyo, Japan)に45分間、3回浸透させた。浸透後、ステンレス製の包埋皿にパラフィンを少量流し込み、パラフィンが固まらないようにあらかじめ温めておいたピンセットを使って、固定標本を包埋皿の底に切りたい方向、すなわち、試料が切断方向に対して垂直(底面と切断面は平行)になるように立てた。一度氷上で包埋皿の底を冷やし、パラフィンを半分程固まらせることで土台を固定し、その上からパラフィンを更に流し込み包埋した。流し込んだパラフィンが固まる前に、使用していたユニ・カセットを上から乗せて試料と一緒に固め台木の代わりとした。冷えて、固まったパラフィンブロックは室温で保存した。
【0061】
(5)パラフィン切片の作製(薄切及び伸展)
回転式ミクロトーム(Histo Core AUTOCUT R, Leica, Wetzlar, Germany)の試料台が動かないように固定した後、パラフィンブロックに固定したユニ・カセット(台木の代わり)を挟み込むようにして、試料をミクロトームに取り付けた。切片の厚さは5 μmに設定し、細胞が重ならず組織構造が簡単に観察できるようにした。刃の位置や試料台の角度を調節し、パラフィンブロックの下面がミクロトームの刃に対して平行になるようにして薄く切り出した。順次切り出されリボン状となった薄切パラフィン試料を適宜切断し、絡まらないように筆などで優しくすくい、ステンレス製のトレーに入れた蒸留水中に浮かべた。浮かべた切片から形の綺麗なものを選抜し、40℃程度のお湯に20秒ほど浮かべ、切片のしわを伸ばした。その後、しわを伸ばした切片をスライドガラス(PLATINUM PRO, Matsunami Glass, Osaka, Japan)に切片を移し、十分に伸展させてしっかりと密着させた。その後、40°Cに設定したパラフィン伸展器の上に一晩静置し、乾燥させた。貼り付け終わったスライドガラスは、プレパラートボックスで保存した。
【0062】
2-7-4.H&E染色
(1)脱パラフィン、脱キシレン及び浸水
組織に染みこんだパラフィンを除去するため、パラフィン包埋切片を貼り付けたスライドガラスを染色用バスケットに入れ、計2回、10分間おきに新しい染色バットに入れたキシレンへの浸漬を行った。次に、脱キシレンを行うべく計2回、5分間おきに新しい染色バットに入れた99%エタノールへの浸漬を行った。そして90%エタノール、80%エタノール、70%エタノールにそれぞれ3分間ずつ浸漬した。スライドガラスを新しい染色バットに移動させる際、キャリーオーバーがなるべく少なくなるよう、余分な液をよくきってから新しい液に移した。洗浄後キムワイプ等で、スライドガラス上の検体周辺の余分な液体をふき取り、スーパーパップペン リキッドブロッカー(Daido Sangyo, Japan)で検体を囲み、撥水性サークルを作った。次に、マイヤーヘマトキシリン溶液(Wako)を撥水性サークルの中に200 μL滴下し、5分間室温で静置した。5分後、廃液を捨てDWで3分間洗浄を行った。
【0063】
(2)H&E染色
ヘマトキシリンで細胞核を青紫色に、エオシンでその他の構造物をピンク色に染色することを目的とし、次にマイヤーヘマトキシリン溶液(FUJIFILM Wako)を撥水性サークルの中に200 μL滴下し、5分間室温で静置した。5分後、廃液を捨てDWで3分間洗浄を行った。洗浄後、キムワイプや綿棒等でスライドガラス上の検体周辺の余分な液体をふき取り、エオシン溶液を撥水性サークルの中に200 μL滴下し、3分間室温で静置した。なお、エオシン溶液はエオシン(FUJIFILM Wako) 0.1 gにDWを3 mL、99%エタノールを7mL加え、そこに酢酸(FUJIFILM Wako)を50 μL加えて作製した。3分後、廃液を捨てDWで2分間洗浄を行った。次に60%エタノールで2分間浸漬し、その後計2回99%エタノールで浸漬させた。そして最後にキシレンで1回2分、続いてキシレンと99%エタノールを1:1で混合した溶液の中へ1回2分、それぞれ浸漬することで染色を行った。
【0064】
(3)封入
カバーガラス(24 mm×36 mm)を左端からゆっくりと倒し、気泡が入らないようにしながら封入した。封入後、スライドガラスはマッペの上で乾燥させた。
【0065】
(4)検出
蛍光顕微鏡(EVOS M5000 Imaging System, Thermo Fisher Scientific)で組織を観察することで、表皮厚、真皮厚および浸潤細胞数を観察した。
【0066】
2-8.統計処理
統計処理はStudent’s t-test, Tukey-Krammer法により行い、p<0.05をもって有意差ありとした。
【0067】
3.結果
3-1.Raldh2活性化食品成分の探索
3-1-1.IN Cell Analyzer 2200を用いたRaldh2プロモーター活性化食品成分の探索
図2は、Kaempferol、Quercetin及び燕窩サンプルのRaldh2プロモーターEGFPの蛍光値を示す図である。THP-1(Raldh2p-EGFP)細胞を48時間分化誘導し、燕窩サンプルを添加し、24時間培養した。培養後、IN Cell Analyzer 2200を用いて、THP-1 (Raldh2p-EGFP)細胞におけるEGFP蛍光強度の変化を測定した。その結果、
図2に示す通り、燕窩サンプルの中にはRaldh2プロモーターEGFPの蛍光値を増強させるものがあることが明らかとなった(サンプルBの終濃度450μg/mL 及び 4500μg/mL)。
【0068】
3-1-2.定量RT-PCRによる内在性RALDH2遺伝子発現量の評価
図3は、Kaempferol、Quercetin及び燕窩サンプルによる内在性RALDH2遺伝子発現量を示す図である。48時間分化誘導した野生型THP-1細胞に、燕窩サンプルを添加後、24時間培養した。その後、全RNA回収及びcDNA合成を行い、定量RT-PCR法により内在性RALDH2発現への効果を検証した。その結果、
図3に示す通り、燕窩サンプルの中には内在性RALDH2の転写量を上昇させるものがあることが明らかとなった(サンプルB)。
【0069】
3-2.RNA-seq
これまでの結果より、燕窩、Kaempferol、Quercetinの3種類とも、分化誘導後のTHP-1(Raldh2p-EGFP)細胞のRaldh2プロモーターEGFPの蛍光値を増加させ、分化誘導後の野生型THP-1細胞の内在性RALDH2 の転写量を上昇させる食品成分であることが明らかとなった。そこで、本節では同定された3種類の食品成分に含まれる物質の中で、実際に機能しているmRNAの探索をRNA-seqを用いて行った。解析には、DAVIDのデータベースを用いてKEGG (Kyoto Encyclopedia of Gene and Genomes) のパスウェイ解析を行った。解析の結果、免疫の制御に関与するKEGGのパスウェイに変動が見られた。表2は、燕窩、Kaempferol、Quercetin処理THP-1細胞における共通変動KEGG Pathway分類を示す表である。
【0070】
【0071】
3-3.RALDH2活性化食品成分による皮膚炎症抑制効果
3-3-1.アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける炎症スコア、かさぶたの面積、耳の厚さの検証
雌性6週齢C57BL/6マウスを1週間環境に順応させた後、剃毛処理を行った後、1%DNCB (2,4-Dinitrochlorobenzene)(FUJIFILM Wako)をマウスの背部に0日目と3日目に100 μL塗布することで、アトピー性皮膚炎様の炎症を引き起こした。5日目から0.4%DNCBに切り替え、3日に1回の頻度でマウスの背部に100 μL、右耳に10 μL塗布することで炎症作用を継続させた。7日目からの14日間、50%エタノールに溶解した燕窩、Kaempferol、Quercetinの3種類の食品成分を1%濃度でマウスの背部に150 μL、右耳に15 μL塗布することで炎症の回復効果を検証した。なお、燕窩としては上記で有望な結果が得られたサンプルBを用いた。その間、マウスの背部の炎症度合いを6段階に分類して評価し、マウスの背部に生じていたかさぶたの面積について測定を行った。
【0072】
図4は、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおけるかさぶたの状況を示す図である。
図5は、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける炎症スコアの変化を示す図である。
図4及び
図5に示す通り、7週齢マウスDNCB処理燕窩群はコントロールであるDNCB処理50%エタノール群と比較して、炎症の度合いが有意な差を持って低下していた。
【0073】
図6は、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおけるかさぶたの面積の変化を示す図である。
図6に示す通り、かさぶたの面積については、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Kaempferol群、Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、有意な差を持ってかさぶたの面積が減少していた。
【0074】
次にマウスを実験開始日から20日後に解剖し、マウスの右耳の厚さについて測定を行った。
図7は、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける耳の様子を示す図である。
図8は、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスにおける耳の厚さを示す図である。
図7及び
図8に示す通り、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Kaempferol群、Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、有意な差を持って右耳の厚さが薄くなっていたことが明らかとなった。
【0075】
3-3-2.アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織における表皮厚、真皮厚、浸潤細胞数の測定
図9は、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織の顕微鏡写真である。
図10、
図11、
図12は、それぞれ、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織における表皮厚、真皮厚、浸潤細胞数を示す図である。7週齢マウスを実験開始日から20日後に解剖し、各群それぞれの背部組織の採取を行いパラフィン切片を作成後、ヘマトキシリン・エオシン染色を行うことで、マウス背部組織における表皮厚、真皮厚及び浸潤細胞数の測定を行った。その結果、
図9-
図11に示す通り、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Kaempferol群、Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、表皮及び真皮の厚さが有意な差を持って減少していることが明らかとなった。また、
図12に示す通り、浸潤細胞数において、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Kaempferol群、Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、浸潤細胞数が有意な差を持って減少していることが明らかとなった。
【0076】
3-3-3.アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織における遺伝子発現の検証
図13、
図14、
図15、
図16は、それぞれ、アトピー性皮膚炎様誘導モデルマウスの背部組織におけるTNF-α遺伝子、IL-13遺伝子、Foxp3遺伝子、TGF-β遺伝子の発現量を示す図である。7週齢マウスの背部組織からRNAを回収し、定量RT-PCR法にて炎症抑制方向の遺伝子発現量を測定した。その結果、
図13に示す通り、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Kaempferol群、Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、炎症性サイトカインであるTNF-αの遺伝子発現量を有意に減少させたことが明らかとなった。また、
図14に示す通り、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、炎症性サイトカインであるIL-13の遺伝子発現量を有意に減少させたことが明らかとなった。次にTregの分子マーカーである、Foxp3の遺伝子発現量を測定した結果、
図15に示す通り、7週齢マウスDNCB処理Quercetin群はDNCB処理50%エタノール群と比較して、Foxp3の遺伝子発現を有意に増強させた。また、
図16に示す通り、7週齢マウスDNCB処理燕窩群、Kaempferol群、Quercetin群はDNCB処理50 %エタノール群と比較して、免疫抑制サイトカインであるTGF-βの遺伝子発現を有意に増強させることが明らかとなった。
【0077】
4.考察
THP-1細胞は分化誘導によってマクロファージ様細胞となる。今実験では、PMAを終濃度100 ng/mLで添加し、10%FBS含有RPMI1640培地で48時間培養することを分化誘導条件とした。
【0078】
RALDH2活性化食品成分の探索において、まずTHP-1細胞にRaldh2p-EGFPベクターを組み込むことによって作成された。Raldh2p-EGFP導入THP-1細胞によるIN Cell Analyzer 2200を用いた蛍光強度の追跡を行った。
図2に示すように、複数の燕窩サンプル(A150、B450、B4500)において食品成分の蛍光値の上昇を確認した。この手法においてはRALDH2プロモーター活性化の有無を蛍光強度により観測することができるため、一度に大量のサンプルをスクリーニングする際にこの細胞を用いることが有効であるといえた。
【0079】
しかし、このスクリーニングはあくまでもプロモーター活性能をネガティブコントロールの蛍光値に対して相対的に評価したものであり、実際にRALDH2 の発現量を増強させる可能性が高いものを探すというよりは、可能性が低いものを除いていくようなスクリーニング段階である。
【0080】
また、Raldh2p-EGFPベクターに組み込んだRaldh2遺伝子の配列はRaldh2プロモーター領域の一部であり、IN Cell Analyzer 2200による測定は、食品成分の部分的な領域からなるRaldh2プロモーターの活性化能を評価しているに過ぎない。そこで1次スクリーニングで蛍光値の上昇が見られたサンプルにおいて、定量Real-time PCR法でRALDH2遺伝子の転写量の測定を行った。この実験で用いた燕窩サンプルの濃度は、蛍光強度が安定していた450 μg/mLを選抜して使用することとした。
【0081】
その結果、今回の燕窩サンプルのうち、内在性RALDH2遺伝子の転写量を上昇させるものがあることが明らかとなった(サンプルB450)。
【0082】
先行研究のRALDH2遺伝子の転写量測定結果と比較すると共通してKaempferolが、そして新たにQuercetinが内在性RALDH2遺伝子の転写量を上昇させることが明らかとなり、本研究においてRaldh2増強食品成分として同定した。Kaempferol、Quercetinの2種類はフラボノイドと呼ばれる。フラボノイドは、分子内に2個以上のフェノール性水酸基を持つ化合物であるポリフェノールに属し、特にベンゼン環2個を3個の炭素原子でつないだ構造を有するフェニル化合物群である。共に多くの生理活性をもちQuercetinによる腸管バリア増強効果や、KaempferolがTreg細胞のFoxp3発現量を増加させ、コラーゲン誘発性関節炎の抑制をするという報告がある。
【0083】
また、Kaempferol、Quercetinの構造式を比較すると、相違点は1つのヒドロキシ基の有無のみである。そのため、Kaempferol及びQuercetinに共通する構造に由来する何らかの共通の作用によりRALDH2を活性化する可能性が示唆された。また本研究では新たに燕窩サンプルをRaldh2増強食品成分として同定した。
【0084】
これまでの結果から、in vivo試験により燕窩、Kaempferol、Quercetinの3種類が単球由来細胞でのレチノイン酸産生増強を引き起こし、それに伴うナイーブT細胞からTreg細胞への分化促進が示唆された。
【0085】
一方で、これらの3種類がTregに関わるどのような免疫のメカニズムに作用するのかは明らかではない。そこで、燕窩、Kaempferol、Quercetin処理により変動したTHP-1細胞におけるRNA-seq解析により、Lekocyte transendothelial migrationのような免疫制御に関与する経路に関わるものに変動が見られた。燕窩、Kaempferol、Quercetin処理により分泌される何らかの成分がTHP-1細胞において免疫系の制御に関わる経路を活性化することが示唆され、免疫制御における有益な情報を得ることができた。
【0086】
上記の結果らを踏まえ燕窩、Kaempferol、Quercetinの3種類の食品成分が内在性RALDH2遺伝子の転写量を上昇させ免疫系の制御に寄与することが明らかとなったため、次にマウスに直接塗布することにより過剰な免疫応答の1種であるアトピー性皮膚炎を抑制する働きを持つかについて、検証するためin vivo試験を行った。
【0087】
In vivo試験においては免疫応答抑制効果を持つTregが与える影響を明確にするために、免疫細胞を活性化させておく必要があると考え、炎症を起こしたマウスにin vitro試験で選抜されたKaempferol、Quercetin及び燕窩を塗布することとした。
【0088】
今回は、DNCB (2,4-Dinitrochlorobenzene)を使用してアトピー性皮膚炎様の疾患を誘発した。DNCBを用いたアトピー性皮膚炎様誘導モデルでは、DNCBはハプテンとして用いられる。ハプテンとはそれ自体は免疫原性を欠き、反応原性のみをもつ物質として機能すると考えられため、生体内の高分子タンパク質と結合することにより抗原として機能する。
【0089】
DNCBを皮膚感作の数日後に同じ物質を塗布することで、マクロファージ、リンパ球を主体とする表皮の発赤と膨張をきたすとされている。アトピー性皮膚炎では、自然免疫系の働きが活性化することが分かっている。自然免疫は異物の構成成分を認識することで活性化し病原体を貪食する作用であり、マクロファージや樹状細胞が主役となる。
【0090】
アトピー性皮膚炎の疾患の進行を表す指標として表皮厚及び真皮厚の肥大、浸潤細胞数の増加などが挙げられ、今回は表皮厚及び真皮厚の測定及び浸潤細胞数の測定、そして耳の厚さを測定することで炎症の程度を比較した。
【0091】
本研究ではC57BL/6雌性7週齢マウスにDNCB処理を行い、アトピー性皮膚炎様を誘導させ、14日間燕窩、Kaempferol、Quercetinを剃毛したマウスの背部に直接塗布することで、炎症の度合い及び背部に生じていたかさぶたの面積の測定及び耳の厚さを測定した。
【0092】
その結果、燕窩において炎症の度合いを有意に減少させることが明らかとなった。また燕窩、Kaempferol、Quercetin はかさぶたの面積を有意に減少させることが明らかとなった。
【0093】
次にマウスの背部組織を採取し、H&E染色により燕窩、Kaempferol、Quercetin の炎症抑制効果について検証を行った。
【0094】
その結果、3種類の食品成分はコントロールと比較し、アトピー性皮膚炎の主要な病変である表皮厚や真皮厚の肥厚を抑制し、浸潤細胞数の増加を抑制することが明らかとなった。
【0095】
In vitro試験の結果と考え合わせると、RALDH2発現促進によってレチノイン酸量が増加し、Treg細胞への分化が促進されたと考えられる。その結果Treg細胞数が増加し過剰免疫応答が抑制されたことで、炎症が抑えられた可能性がある。
【0096】
最後にマウス背部組織における定量RT-PCRを行った結果、炎症抑制方向に働くTregのマスター因子であるFoxp3、そして免疫抑制サイトカインであるTGF-βの遺伝子の転写量について上昇が見られた。
【0097】
TGF-βは、上皮細胞や血球細胞において強力な増殖抑制活性を示すことが報告されていることから、3種類の食品成分がアトピー性皮膚炎様の炎症を抑制する働きを持つことが示唆された。
【0098】
また、炎症を促進するサイトカインであるTNF-α遺伝子、IL-13遺伝子の転写量については減少していることが明らかとなった。
【0099】
アトピー性皮膚炎の炎症部位ではTNF-αが過剰に発現していることや、炎症の即時反応を引き起こすヒスタミンやロイコトリエンを分泌させるもととなるIgE抗体の分泌を促進させるIL-13が関与していることが明らかにされている。
【0100】
今回の3種類の食品成分が、in vitro及び上記のin vivo試験で得られた結果と考え合わせると、3種類の食品成分がアトピー性皮膚炎を抑制する働きを持つTreg制御食品成分であることが示唆された。
【0101】
しかし、今回得られたこれらの機能性が、どのような機構に基づくものかは未解明である。食品成分がもたらす機能性の分子基盤については、ポリフェノールが細胞に影響を与える際、細胞膜上の特殊な受容体に結合するという報告がある。
【0102】
したがって、本研究で同定された機能性食品成分においても同様に細胞膜上の受容体を介したシグナルによって、遺伝子発現の変化をもたらしている可能性が考えられる。
【0103】
また、燕窩の主成分としてシアル酸が挙げられる。細胞の表面は糖鎖で覆われており、その糖鎖の末端に酸性糖であるシアル酸で占められている。このシアル酸を介して細胞同士や分子との認識を行っており、シアル酸を介した分子間の結合が様々な細胞の機能に重要な役割を果たすことが知られている。シアル酸は、シアル酸結合型Ig型レクチンとの相互作用により、恒常性や病態を介した免疫調節に関与している可能性が示唆され、シアル酸結合型Ig型レクチンは樹状細胞やマクロファージ、B細胞などの自然免疫系細胞で主に発現していることが知られている。
【0104】
また、シアル酸による修飾を受けた抗原は、Siglec-Eを介して樹状細胞に制御を課すことでTregを誘導することが報告されている。これらのことから、免疫系の細胞にはSiglec ファミリーのシアル酸結合タンパク質が発現しており、そのSiglec ファミリーのいずれかが燕窩の主成分であるシアル酸の修飾等を通じ、細胞内のシグナル伝達に何らかの影響を与えた結果、炎症が抑制されたのではないかと考える。
【0105】
上記では、燕窩、Kaempferol、Quercetinの3種類の食品成分を炎症が生じている部位に直接塗布することで、その機能性について検証した。
【0106】
しかし現在、アトピー性皮膚炎の治療には副作用が現れず、負担の少ない治療法として日常生活における食事療法が期待されている。
【0107】
本発明者らは、日常生活における機能性成分の塗布による改善を目的として研究を行ってきた。今後は、得られた3種類の食品成分を炎症が生じているマウスへ経口投与し、その機能性を検証することで、より実用的な食事療法の開発が可能であると考える。
【0108】
また、Treg活性化の結果として、炎症抑制を誘導できる。そのため、各種炎症性疾患(自己免疫疾患、アレルギー、炎症性腸疾患、微生物感染など)の抑制も可能と考えられる。
【0109】
総じて、燕窩は皮膚表面の細胞及び免疫系の細胞に働きかけて皮膚改善効果を有していると考えることができた。