(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054789
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】密封装置付き軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240410BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240410BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20240410BHJP
F16J 15/324 20160101ALI20240410BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20240410BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3256
F16J15/324
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161260
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 曜平
(72)【発明者】
【氏名】元田 智弘
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AD02
3J006AE12
3J006AE26
3J006AE34
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA01
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA04
3J216BA16
3J216CA02
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC41
3J216DA01
3J216EA07
3J216FA05
3J216GA03
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701BA78
3J701CA11
3J701EA49
3J701FA32
3J701GA03
3J701XB26
3J701XB34
(57)【要約】
【課題】潤滑剤の保持性と低トルク化を両立した密封装置付き軸受ユニットを提供する。
【解決手段】外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットは、前記密封装置が、弾性材料からなるシールリップと、前記シールリップが摺接する金属製の相手部材(スリンガ17)とで構成されるとともに、前記相手部材(スリンガ17)における、少なくとも前記シールリップとの摺接領域の面上に、独立したディンプル20が複数形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットであって、
前記密封装置は、弾性材料からなるシールリップと、前記シールリップが摺接する金属製の相手部材とで構成されるとともに、
前記相手部材における、少なくとも前記シールリップとの摺接領域の面上に、独立したディンプルが複数形成されていることを特徴とする密封装置付き軸受ユニット。
【請求項2】
前記ディンプルが、前記摺接領域に対する面積比で10~90%であることを特徴とする請求項1に記載の密封装置付き軸受ユニット。
【請求項3】
前記ディンプルの円相当開口径Lが、前記シールリップの接触幅Wの3倍未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の密封装置付き軸受ユニット。
【請求項4】
前記ディンプルの深さDが、前記ディンプルの円相当開口径Lに対して0.5~200%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の密封装置付き軸受ユニット。
【請求項5】
前記ディンプルの深さDが、前記ディンプルの円相当開口径Lに対して0.5~200%であることを特徴とする請求項3に記載の密封装置付き軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車輪懸架部における軸受ユニットのように、固定側部材と回転側部材との間を密封することが必要とされる部位に介装される、密封装置付き軸受ユニットに関する。
【0002】
従来より、自動車などの車両の車輪懸架部における軸受ユニット等の固定側部材と回転側部材との間に介装され、グリースや潤滑油(以下、まとめて「潤滑剤」ともいう。)を封止するともに、水や塵埃の浸入を防止する密封装置が知られている。また、今日では、車両の低燃費化を図るための対策が種々講じられており、軸受ユニットにおいても、回転トルクの低減化が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、芯金に固着されたシールリップにおけるスリンガとの摺接面に凹凸が付与された密封装置が開示されている。また、特許文献2では、スリンガにおけるシールリップが摺接する側の面に別部材を設け、別部材でシールリップとの摺接面を構成するとともに、別部材におけるシールリップとの摺接面が粗面化された密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-193835号公報
【特許文献2】特開2010-107035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の密封装置では、スリンガではなくシールリップの方に凹凸が形成されているが、シールリップは軟質材料のため摩耗しやすく、形成した凹凸が摩耗に伴って消滅して効果を維持できない懸念がある。また、特許文献2に記載の密封装置では、シールリップではなくスリンガ側である別部材の表面を粗面化しているが、粗面の凹部の深さや凹部の大きさが一様ではないため、潤滑剤の保持性や密封性が十分ではなくなり、更にはそれぞれの凹部での潤滑剤の流動挙動が異なり、トルクも一様で無くなるため、低トルク化を十分に図ることができない懸念もある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、潤滑剤の保持性と低トルク化を両立した密封装置付き軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、密封装置付き軸受ユニットに係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1〕 外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットであって、
前記密封装置は、弾性材料からなるシールリップと、前記シールリップが摺接する金属製の相手部材とで構成されるとともに、
前記相手部材における、少なくとも前記シールリップとの摺接領域の面上に、独立したディンプルが複数形成されていることを特徴とする密封装置付き軸受ユニット。
【0009】
また、密封装置付き軸受ユニットに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
【0010】
[2〕 前記ディンプルが、前記摺接領域に対する面積比で10~90%であることを特徴とする[1〕に記載の密封装置付き軸受ユニット。
[3〕 前記ディンプルの円相当開口径Lが、前記シールリップの接触幅Wの3倍未満であることを特徴とする[1〕又は[2〕に記載の密封装置付き軸受ユニット。
[4〕 前記ディンプルの深さDが、前記ディンプルの円相当開口径Lに対して0.5~200%であることを特徴とする[1〕~[3〕のいずれか1つに記載の密封装置付き軸受ユニット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潤滑剤の保持性と低トルク化を両立した密封装置付き軸受ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る密封装置付き軸受ユニットの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す密封装置付き軸受ユニットにおける密封装置を示す拡大図である。
【
図3】
図3は、スリンガに形成したディンプルの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る密封装置付き軸受ユニットについて、以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0014】
本実施形態において、密封装置付き軸受ユニットには制限はなく、例えば
図1及び
図2に示す密封装置付き軸受ユニット10を挙げることができる。図示されるように、固定輪である外輪11と、回転輪である内輪12と、外輪11及び内輪12により画成された環状隙間に転動自在に配置され、且つ保持器14により円周方向に等間隔に保持された複数の転動体である玉13と、環状隙間の開口端部に配設された密封装置15と、を備えている。
【0015】
密封装置付き軸受ユニット内の密封装置15は、外輪11の内周面に固定された弾性材料からなるシール部材16と、シール部材16よりも開口端部外側に配置され、且つ内輪12の外周面に固定されたスリンガ17と、を備えている。なお、密封装置15は、シール部材16とスリンガ17とで構成され、スリンガ17が本発明でいう「相手部材」に相当する。そして、シール部材16とスリンガ17との摺接によって、環状隙間の開口端部を塞ぎ、埃等の異物が軸受内部に侵入することを防止するとともに、軸受内部に充填された潤滑剤が軸受外部に漏洩することを防止している。
【0016】
シール部材16は、例えば断面略L字形の円環状に形成された芯金18により、同じく断面略L字形の円環状に形成されたゴムシール19(弾性材料)を補強して構成されており、ゴムシール19の先端部分が分岐して、複数のシールリップ19a,19b,19cとし、スリンガ17の表面に摺接させている。
【0017】
また、スリンガ17は、フェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の金属板からなり、内輪12に外嵌される円筒部17aと、円筒部17aの軸方向端部に湾曲部17bを介して連設され、半径方向外方に広がるように形成された鍔状のフランジ部17cを有する。
【0018】
本実施形態では、スリンガ17のシール部材16との摺接領域(ここでは、シールリップ19a,19b,19cと、それらと摺接する円筒部17a、湾曲部17b、フランジ部17cの各摺接領域の表面)に、同一の開口径及び深さを有し、独立したディンプルを複数形成する。
図3は、スリンガ17の円筒部17a、湾曲部17b、フランジ部17cの各表面に、多数のディンプル20を形成した状態を示す平面図であるが、個々のディンプル20は、他のディンプル20と連結しておらず、それぞれ独立して点状の窪みを呈している。また、個々のディンプル20は、隣接するディンプル20との間に所定の間隔にて配置している。
【0019】
このようなディンプル20が存在することにより、潤滑剤が溝内部に入り込んで圧力変化が起こり、キャビテーションが発生する。そして、キャビテーションが発生している領域では、せん断抵抗が少なくなり、結果としてトルクが低減する。
【0020】
ディンプル20は、相手部材(スリンガ17)における、少なくともシールリップ19a,19b,19cとの摺接領域(の総和)に対する面積比で10~90%とすることが好ましく、20~65%とすることがより好ましい。上記面積比が10%未満では、トルクの低減が十分に得られないおそれがある。一方、上記面積比が90%を超えると、隣接するディンプル20同士が連結して大きな凹部が形成される可能性が高まり、密封性が低下してしまうおそれがある。
なお、ここでいうディンプル20は、相手部材(スリンガ17)の表面に形成された複数のディンプル20の合計のものを意味する。
【0021】
なお、軸受は回転に伴い、幅方向(
図1の左右方向)や径方向(
図1の上下方向)に微妙に動き、シール部材16も弾性変形したり、摩耗したりするため、シール部材16のスリンガ17との摺接領域も点ではなく、面、すなわちある程度の広がりを有する。そのため、摺接領域は、シール部材16とスリンガ17との摺接が想定される範囲となる。
【0022】
また、ディンプル20は、開口となる円相当開口径Lが、シール部材16の接触幅Wの3倍未満であることが好ましい。ディンプル20の円相当開口径Lが、シール部材16の接触幅(ここでは、シールリップ19a,19b,19cの先端部の幅)よりも大きくなると、密封性に影響を及ぼす可能性がり、またシール部材16の先端がディンプル20の溝内に入り込むことにより,トルクに影響及ぼす可能性がある。すなわちスリンガ17の表面は、ディンプル20以外は平面であるため、ディンプル20と平面とでシール部材16との摺接状態が異なるようになり、密封性が低下するおそれがある。より好ましくは、シール部材16の接触幅Wの2倍未満と考えられる。さらにより好ましくはシール部材16の接触幅W未満と考えられる。
【0023】
図4は、スリンガ17の接触領域の断面図であり、ディンプル20の深さを模式的に示している。上記したように、ディンプル20は、それぞれ独立しており、且つほぼ等間隔に形成されている。そして、ディンプル20の深さDは、ディンプル20の円相当開口径Lに対して0.5~200%であることが好ましく、1~100%であることがより好ましい。さらにより好ましくは1~50%と考えられる。ディンプル20の円相当開口径Lに対する深さD、すなわち「D/L」が0.5%未満では、摺接領域がほぼ平面となり、キャビテーション発生によるトルクの低減が十分に得られないおそれがある。一方、ディンプル20の円相当開口径Lに対する深さD、すなわち「D/L」が200%を超えると、加工の難易度が上がったり加工時間が長くなるため、現実的な形状ではない。
なお、本実施形態でいう深さDは、複数形成された各ディンプル20の深さの平均値を意味するものとする。各ディンプル20の深さは、未加工の平面部の平均線からディンプル最深部までの高低差を意味するものとする。また、本実施形態でいう円相当開口径Lは、複数形成された各ディンプル20の円相当開口径の平均値を意味するものとし、更に、各ディンプル20の円相当開口径は、未加工の平面部の平均線から深さ方向の1μmの位置におけるディンプル20の開口径を円相当に換算したものを意味するものとする。
【0024】
このように、スリンガ17における、少なくともシールリップ19a,19b,19cとの摺接領域の面上に、独立したディンプル20が複数形成されていることにより、トルクの低減が得られるが、スリンガ17は金属製で硬質な材料であるため、摩耗が少なく、ディンプル20の変形も少ないため、キャビテーションの発生を安定して長期間維持できる。
【0025】
なお、ディンプル20の形成方法としては、ディンプル20の形状に対応する突起を有する所定の型を用い、突起をスリンガ17の摺接領域に転写すればよい。
【実施例0026】
以下の実施例により、本発明の効果を検証した。
【0027】
(実施例1及び比較例1)
図1に示すような、シール部材とスリンガとを備える玉軸受ユニットを作製し、トルク試験を行った。シール部材には、外径φ75mm、内径φ61mmで、3つのシールリップを備えゴムシールを用いた。また、潤滑剤には、ウレアグリースを用いた。
【0028】
スリンガはSUS430製であり、実施例1には、円相当開口径Lが50μmm、深さDが16μmのディンプルを100μmピッチで形成した。また、比較例1は、ディンプル無しとした。
【0029】
そして、玉軸受を回転させて、回転数(10rpm、200rpm、600rpm、1000rpm、1200rpm)毎に、トルクを測定した。
【0030】
結果を表1及び
図5に示すが、いずれの回転数でも、本発明に従うディンプルを形成した実施例1では、比較例1に比べて大きくトルクが低減していることがわかる。
【0031】