(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054804
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】測定装置、プローブ、測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20240410BHJP
G01R 1/067 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H01L21/66 L
G01R1/067 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161296
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】318002161
【氏名又は名称】株式会社パンソリューションテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】松島 悟
【テーマコード(参考)】
2G011
4M106
【Fターム(参考)】
2G011AE03
4M106AA01
4M106BA14
4M106CA10
4M106DH09
4M106DH51
4M106DJ02
4M106DJ12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パワー半導体材料の特性をより適切に評価する測定装置、プローブ、測定方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】測定装置1は、測定部10と、制御部20と、を備える。測定部10は、試料台200と、プローブユニット12と、可変電流源13と、を備える。制御部20は、印加電流制御部と、測定値取得部と、を備える。試料台200は、測定対象となる試料S(パワー半導体材料となる試料)が設置される絶縁性を有する試料台である。プローブユニット12は、少なくとも先端に試料Sに対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブ300を備える。可変電流源13は、試料Sに接触したプローブ300に電流を供給する。印加電流制御部54は、可変電流源13から試料Sに印加する電流を増加させる。測定値取得部は、可変電流源13によって電流が印加されている際の試料Sにおける電気的特性を取得する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる試料が設置される絶縁性を有する試料台と、
少なくとも先端に前記試料に対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブを備えたプローブユニットと、
前記試料に接触した前記プローブに電流を供給する電流供給部と、
前記電流供給部から前記試料に印加する電流を増加させる印加電流制御部と、
前記電流供給部によって電流が印加されている際の前記試料における電気的特性を取得する電気的特性取得部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記電気的特性取得部によって取得された電気的特性に基づいて、前記試料の結晶構造に関する解析結果を取得する解析処理部を備えることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記解析処理部は、低電流側の電流閾値から高電流側の電流閾値までに変化した電気的特性の積分値に基づいて、前記試料表面付近の結晶構造に関する解析結果を取得することを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記電気的特性取得部は、前記電気的特性として、前記試料における抵抗率を取得し、
前記解析処理部は、前記低電流側の電流閾値から前記高電流側の電流閾値までに変化した抵抗率を積分することにより、前記試料表面付近の結晶構造に関する評価指標を取得することを特徴とする請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記解析処理部は、前記高電流側の電流閾値と、当該高電流側の電流閾値に対応する前記電気的特性とによって定まる積分値に基づいて、前記試料内部の結晶構造に関する解析結果を取得することを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項6】
前記電気的特性取得部は、前記電気的特性として、前記試料における抵抗率を取得し、
前記解析処理部は、前記高電流側の電流閾値と、当該高電流側の電流閾値に対応する前記抵抗率とを乗算することにより、前記試料内部の結晶構造に関する評価指標を取得することを特徴とする請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記プローブユニットは、前記試料に電流を印加するための第1のプローブと、前記試料における物理量を検出するための第2のプローブとを備え、
前記電気的特性取得部は、前記第1のプローブを介して電流が印加されている前記試料における物理量を前記第2のプローブを介して検出することにより、前記試料における電気的特性を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項8】
前記試料台に設置された前記試料の表面における異なる位置に、前記プローブユニットを移動させるプローブ移動部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項9】
前記試料が測定される環境を外光から遮光する遮光部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項10】
測定対象となる試料表面に接触され、前記試料に電流を印加することにより当該試料の結晶構造を解析するためのプローブであって、
少なくとも先端に前記試料に対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブ。
【請求項11】
絶縁性を有する試料台に設置された測定対象となる試料に対し、少なくとも先端に前記試料に対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブを接触させ、前記プローブに電流を供給する電流供給ステップと、
前記電流供給ステップにおいて前記試料に印加する電流を増加させる印加電流制御ステップと、
前記電流供給ステップにおいて電流が印加されている際の前記試料における電気的特性を取得する電気的特性取得ステップと、
を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項12】
測定対象となる試料が設置される絶縁性を有する試料台と、少なくとも先端に前記試料に対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブを備えたプローブユニットと、前記試料に接触した前記プローブに電流を供給する電流供給部と、を備える測定装置を制御するコンピュータに、
前記電流供給部から前記試料に印加する電流を増加させる印加電流制御機能と、
前記電流供給部によって電流が印加されている際の前記試料における電気的特性を取得する電気的特性取得機能と、
を実現させることを特徴とするプログラム。
【請求項13】
絶縁性を有する試料台に設置された測定対象となる試料を、少なくとも先端に前記試料に対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブを接触させることによって、前記試料に印加する電流を増加させて取得された電気的特性を解析するコンピュータに、
前記電気的特性取得部によって取得された電気的特性に基づいて、前記試料の結晶構造に関する解析結果を取得する解析処理機能を実現させ、
前記解析処理機能は、低電流側の電流閾値から高電流側の電流閾値までに変化した電気的特性の積分値に基づいて、前記試料表面付近の結晶構造に関する解析結果を取得する機能、または、前記高電流側の電流閾値と、当該高電流側の電流閾値に対応する前記電気的特性とによって定まる積分値に基づいて、前記試料内部の結晶構造に関する解析結果を取得する機能の少なくともいずれかを有することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体によって構成される試料の特性を測定する測定装置、プローブ、測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板等の結晶品質を評価する種々の技術が用いられている。
このような技術において、HS-CMR法は、測定対象の試料(半導体基板等)に四探針プローブを接触させ、印加する電流値を変化させながら抵抗率を測定し、得られた電流値-抵抗率曲線から結晶品質を評価するものである。
HS-CMR法によって試料の品質を評価する為には、試料の抵抗率を正確に測定する必要があり、測定対象となる試料とプローブ間がオーミック接触となることが重要である。
なお、試料の特性を測定する技術は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常の四探針法に使用されるプローブは、炭化タングステンで構成されることが一般的であるが、この場合、エネルギーバンドギャップが大きいパワー半導体材料と接触させると、プローブと試料とがショットキー接触となり、正確な測定値を得ることができない。
なお、パワー半導体材料を対象としてHS-CMR法による測定を行ったとしても、試料の特性を適切に評価する評価方法が確立されていないのが実情である。
【0005】
本発明の課題は、パワー半導体材料の特性をより適切に評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の測定装置は、
測定対象となる試料が設置される絶縁性を有する試料台と、
少なくとも先端に前記試料に対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブを備えたプローブユニットと、
前記試料に接触した前記プローブに電流を供給する電流供給部と、
前記電流供給部から前記試料に印加する電流を増加させる印加電流制御部と、
前記電流供給部によって電流が印加されている際の前記試料における電気的特性を取得する電気的特性取得部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パワー半導体材料の特性をより適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明を適用した試料の測定方法の概念を示す模式図である。
【
図2】本発明を適用した試料の測定方法における測定原理のイメージを示す模式図である。
【
図3】本発明を適用した試料の測定装置1の構成を示す模式図である。
【
図4】プローブ300の構成例を示す模式図である。
【
図5】試料S(n型半導体基板)の電子親和力χ
sとプローブ300(金属膜302)の仕事関数φ
Mとの関係を示すエネルギーバンド図(ショットキー接触の場合)である。
【
図6】試料S(n型半導体基板)の電子親和力χ
sとプローブ300(金属膜302)の仕事関数φ
Mとの関係を示すエネルギーバンド図(オーミック接触の場合)である。
【
図7】炭化タングステン(タングステンカーバイド)製のプローブによってSiC基板の抵抗率を測定した結果(HS-CMR法による測定結果)の一例を示す模式図である。
【
図8】本実施形態におけるプローブ300によってSiC基板の抵抗率を測定した結果(HS-CMR法による測定結果)の一例を示す模式図である。
【
図9】制御部20を構成する情報処理装置800のハードウェア構成を示す図である。
【
図10】制御部20の機能的構成を示すブロック図である。
【
図11】抵抗率の特性とα値及びβ値との関係を示す模式図である。
【
図12】測定装置1が実行する測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】試料Sの測定結果を表示する画面表示例を示す模式図である。
【
図14】試料S(SiC基板)表面におけるエッチピット画像の一例を示す模式図である。
【
図15】測定装置1による試料Sの測定結果と、試料Sのエッチピット数との関係の一例を示す図である。
【
図16】
図15に示す例において、測定装置1によって測定された抵抗率を示すグラフである。
【
図17】試料S(SiC基板)内部におけるドーパント濃度測定結果の一例を示す模式図である。
【
図18】試料Sの測定結果を表示する他の形態例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
[試料の測定方法]
初めに、本発明を適用した試料の測定方法について説明する。
図1は、本発明を適用した試料の測定方法の概念を示す模式図である。
また、
図2は、本発明を適用した試料の測定方法における測定原理のイメージを示す模式図である。
【0010】
図1に示すように、本発明に係る試料の測定方法では、パワー半導体に用いられる試料(例えば、SiC基板あるいはSi基板等のウェハ)を対象として、プローブ(例えば、四探針プローブ等)を試料に接触させ、印加電流を徐々に増加させながら、試料の電気的特性(抵抗率等)を測定する。
このとき、試料に接触させるプローブは、試料とプローブとがオーミック接触となることを条件として、炭化タングステン等の基材にチタン、アルミ、インジウム等の金属の膜を形成した構造のものが選択される。また、試料を載置する試料台として、石英等の帯電し難い材料を使用し、試料の測定は暗室内で実行される。
【0011】
そして、
図2に示すように、試料表面付近及び内部(中間部・深部)の電気的特性(抵抗率等)を測定し、測定された電気的特性から、試料表面付近の結晶品質を表すα値と、試料内部の結晶品質を表すβ値とを算出する。α値については、例えば、試料の抵抗率の特性において、開始電流として設定された電流値から終了電流として設定された電流値までの区間で、各電流値における試料の抵抗率と終了電流に対応する抵抗率との差分を積分した値を用いることができる。また、β値については、例えば、試料の抵抗率の特性において、電流が0から終了電流までの区間(即ち、終了電流の値)と、終了電流に対応する抵抗率の値とを乗算した値を用いることができる。開始電流として、低電流側の領域において、試料の測定値におけるばらつきが収まった電流値を用いることができ、試料の種類(SiC基板であるか、Si基板であるか等)に応じて、共通した値を設定することができる。なお、印加電流が過度にゼロに近い領域においては、環境的な要因(温度、湿度、周辺の空気の流れ等)に測定値が大きく影響されることとなるため、環境的な要因の影響が排除される領域において開始電流を設定することが適当である。また、終了電流として、高電流側の領域において、試料の抵抗率の変動率が設定された基準値に適合した電流値を用いることができる。試料の抵抗率の変動率に設定される基準値は、試料の抵抗率の特性における高電流側の領域において、抵抗率の変動率の大きさに対する閾値(上限値)として定義することができる。例えば、基板の仕様において基板メーカーが提示している抵抗率は、このような閾値(上限値)に適合すると考えられる。そのため、終了電流の一例として、基板の仕様において基板メーカーが提示している抵抗率となった電流値を用いることができる。
【0012】
このような測定を試料の所定区分毎に実行し、試料全体の結晶品質を評価すると共に、試料全体の評価結果を所定区分毎に視覚的に表示することで、試料の品質をわかりやすい表示形態で表示することができる。
したがって、本発明に係る試料の測定方法によれば、パワー半導体材料の特性をより適切に評価することができる。
なお、試料の測定結果を解析して得られるα値及びβ値と共に、α値及びβ値を取得した条件(開始電流の値及び終了電流の値、開始電流に対応する抵抗率、終了電流に対応する抵抗率等)を併せて試料の評価結果とすることとしてもよい。
【0013】
[構成]
次に、本発明を適用した試料の測定装置について説明する。
図3は、本発明を適用した試料の測定装置1の構成を示す模式図である。
図3に示すように、本発明を適用した試料の測定装置1は、測定部10と、制御部20と、を含んで構成され、測定部10と制御部20とは、有線通信または無線通信によって通信可能に構成されている。また、測定部10は、プローブ移動部11と、プローブユニット12と、可変電流源13と、電圧計14と、暗幕100と、試料台200と、プローブ300と、を含んで構成される。
【0014】
プローブ移動部11は、プローブユニット12をアーム11aによって支持し、アーム11aによって支持されたプローブユニット12をアクチュエータによって鉛直方向及び水平方向に移動させる。即ち、プローブ移動部11は、可動範囲内において、プローブユニット12を水平面内の任意の位置に移動させることができると共に、鉛直方向に移動させて、プローブユニット12先端に設置されているプローブ300を試料Sに接触させたり、試料Sから離間させたりすることができる。なお、測定値の精度を高めるため、プローブ移動部11がプローブ300と試料Sとを一定の押圧力で接触させることとしてもよい。
【0015】
プローブユニット12は、複数のプローブ300を先端に備え、試料Sに接触したプローブ300を介して試料Sに電流を印加する。なお、プローブ300の詳細な構成は後述する。
可変電流源13は、試料Sに印加される電流を供給する可変電流源であり、例えば、0[mA]から数百[mA]の範囲で電流値を増加させながら試料Sに電流を印加する。
電圧計14は、試料Sに電流を印加している際の試料Sにおける電圧を測定する。本実施形態において、プローブユニット12には、例えば4本のプローブ300が直列に配置することができ、この場合、外側のプローブ300から電流を印加すると共に、中央の2本のプローブ300に生じる電圧値を電圧計14によって測定する。
【0016】
制御部20は、測定装置1全体を制御するものであり、後述する測定処理を実行することにより、プローブ移動部11によるプローブ300の移動を制御したり、可変電流源13による電流の印加を制御したり、電圧計14によって測定された電圧値あるいは算出された抵抗値や抵抗率を記憶したりする。また、制御部20は、試料Sの測定のための各種パラメータを設定したり、測定結果を視覚的に理解し易い形態で画面表示したりする。
暗幕100は、遮光性を有する部材によって構成され、測定部10全体を囲うことにより、試料Sが測定される測定環境を外光から遮光する。測定時に遮光されることで、試料Sに対する光の照射によって生じる測定誤差を抑制することができる。なお、測定装置1が暗室等の施設に設置される場合、暗幕100の機能を暗室等の施設で置換することが可能である。
【0017】
試料台200は、測定対象の試料Sが載置されるステージであり、絶縁性の帯電し難い部材によって構成されている。本実施形態においては、試料台200を石英によって構成するものとする。試料台200が帯電した状態で測定が行われると、試料Sに無用な電子が伝搬することとなり、測定精度が低下する可能性がある。そのため、試料台200は絶縁性を有すると共に、帯電しないまたは帯電し難い部材を選択することが望ましい。なお、本実施形態においては、試料Sの測定開始前に、試料台200を除電するものとする。
プローブ300は、プローブユニット12の先端(鉛直下方を向く面)に設置され、測定時に試料Sに接触され、試料Sに対して測定のための電流を印加する。本実施形態において、プローブ300は、プローブユニット12に4本直列に配置され、外側のプローブ300から試料Sに電流が印加されると共に、中央の2本のプローブ300によって、試料Sの電圧を測定する。
【0018】
また、本実施形態におけるプローブ300は、先端に金属膜を備え、試料Sとの関係において、オーミック接触となるよう設計されている。
図4は、プローブ300の構成例を示す模式図である。
なお、
図4においては、プローブ300の長手方向に沿って切断した断面図が示されている。
図4に示すように、プローブ300は、炭化タングステン等からなる基材301と、基材301の先端にプラズマ蒸着等の加工によって形成され、チタン、アルミ、インジウム等の金属からなる金属膜302と、を備えている。
【0019】
炭化タングステン(タングステンカーバイド)は、一般に、試料S(n型半導体基板)の電気的な特性を測定する際に用いられる材料であり、Si基板あるいはSiC基板等の電子親和力よりも大きい仕事関数を有している。
一方、チタン、アルミ、インジウム等の金属は、Si基板あるいはSiC基板等の電子親和力よりも小さい仕事関数を有している。
図5は、試料S(n型半導体基板)の電子親和力χ
sとプローブ300(金属膜302)の仕事関数φ
Mとの関係を示すエネルギーバンド図(ショットキー接触の場合)である。
【0020】
なお、
図5において、E
FMはプローブ300(金属膜302)のフェルミ準位、E
0は真空準位、φ
Mはプローブ300(金属膜302)の仕事関数、χ
sは試料Sの電子親和力、Ecは伝導帯下端のエネルギー準位、Evは価電子帯上端のエネルギー準位、E
Dは欠陥準位を表している(
図6においても同様である)。
図5に示すように、試料Sにプローブ300が接触されたとき、プローブ300(金属膜302)の仕事関数φ
Mが試料S(n型半導体基板)の電子親和力χ
sよりも大きい場合、プローブ300(金属膜302)と試料S(n型半導体基板)とはショットキー接触となり、このとき測定される抵抗率の成分は、ショットキー接触の影響が主となるため、試料S(n型半導体基板)の欠陥順位E
Dの影響を十分に反映できないものとなる。
【0021】
また、
図6は、試料S(n型半導体基板)の電子親和力χ
sとプローブ300(金属膜302)の仕事関数φ
Mとの関係を示すエネルギーバンド図(オーミック接触の場合)である。
図6に示すように、試料Sにプローブ300が接触されたとき、プローブ300(金属膜302)の仕事関数φ
Mが試料S(n型半導体基板)の電子親和力χ
sよりも小さい場合、プローブ300(金属膜302)と試料S(n型半導体基板)とはオーミック接触となり、プローブ300から注入された電子が欠陥順位E
Dを埋めながら広がっていくため、このとき測定される抵抗率の成分は、欠陥順位E
Dの影響をより強く反映したものとなる。
したがって、HS-CMR法によって結晶品質を測定する場合は、電極(プローブ300の金属膜302)と試料Sとがオーミック接触となることが重要である。
【0022】
HS-CMR法で結晶品質の測定が行われる場合、低電流域においては、高電位側の電極から注入された電子は欠陥によりトラップされるため、低電位側の電極に到達する電子の数は少なくなる。即ち、測定される抵抗率は高いものとなる。
そして、高電位側の電極から注入される電子の数が多くなると、埋められる欠陥の数も多くなり、低電位側の電極に到達する電子の数も多くなるので、抵抗率は徐々に低くなっていく。
【0023】
一方、高電流域においては、充分に多くの電子が注入されるため、ほぼ全ての欠陥が埋められ、注入された電子の数と低電位側の電極に到達する電子の数が比例し、抵抗率がほぼ一定となる。
したがって、HS-CMR法においては、低電流から高電流に印加電流を増加させた場合に、理論上、測定される抵抗率は大きい値から徐々に減少していき、高電流域ではほぼ一定となる曲線を描く。
【0024】
図7は、炭化タングステン(タングステンカーバイド)製のプローブによってSiC基板の抵抗率を測定した結果(HS-CMR法による測定結果)の一例を示す模式図である。
図7を参照すると、炭化タングステン(タングステンカーバイド)製のプローブでは、試料とプローブとがショットキー接触となるため、接触抵抗の影響により、印加電流が小さい領域において、測定される抵抗率が安定せず、理論上はあり得ないマイナスの抵抗率を示す場合もある。印加電流が大きくなると安定するものの、測定される抵抗率が全体として不安定であることから、結晶品質を正確に評価することができない。
【0025】
図8は、本実施形態におけるプローブ300によってSiC基板の抵抗率を測定した結果(HS-CMR法による測定結果)の一例を示す模式図である。
なお、
図8においては、炭化タングステンの基材301の先端に、チタンの金属膜302を形成したプローブ300を使用した例を示している。
図8を参照すると、本実施形態におけるプローブ300では、試料とプローブとがオーミック接触となるため、印加電流が小さい領域においても抵抗率のばらつきがほぼなく、印加電流が増加するにつれて抵抗率が減少していき、100[mA]付近で安定している。
【0026】
図7に示す炭化タングステン(タングステンカーバイド)製のプローブによる測定結果と比べると、本実施形態におけるプローブ300を用いた測定結果の方が、印加電流が小さい領域から大きい領域までの全般にわたり、HS-CMR法の理論値に近い特性を描いており、測定値の信頼性が高いことがわかる。
【0027】
[ハードウェア構成]
次に、制御部20を構成する情報処理装置のハードウェア構成について説明する。
本実施形態において、制御部20は、PC(Personal Computer)、サーバコンピュータあるいはタブレット端末等の情報処理装置によって構成される。
【0028】
図9は、制御部20を構成する情報処理装置800のハードウェア構成を示す図である。
図9に示すように、制御部20を構成する情報処理装置800は、CPU(Central Processing Unit)811と、ROM(Read Only Memory)812と、RAM(Random Access Memory)813と、バス814と、入力部815と、出力部816と、記憶部817と、通信部818と、ドライブ819と、撮像部820と、を備えている。
【0029】
CPU811は、ROM812に記録されているプログラム、または、記憶部817からRAM813にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM813には、CPU811が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0030】
CPU811、ROM812及びRAM813は、バス814を介して相互に接続されている。バス814には、入力部815、出力部816、記憶部817、通信部818、ドライブ819及び撮像部820が接続されている。
【0031】
入力部815は、各種釦等で構成され、指示操作に応じて各種情報を入力する。
出力部816は、ディスプレイやスピーカ等で構成され、画像や音声を出力する。
なお、情報処理装置800がスマートフォンやタブレット端末として構成される場合には、入力部815と出力部816のディスプレイとを重ねて配置し、タッチパネルを構成することとしてもよい。
記憶部817は、ハードディスクあるいはDRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成され、各サーバで管理される各種データを記憶する。
通信部818は、ネットワークを介して他の装置との間で行う通信を制御する。
【0032】
ドライブ819には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、あるいは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア831が適宜装着される。ドライブ819によってリムーバブルメディア831から読み出されたプログラムは、必要に応じて記憶部817にインストールされる。
撮像部820は、レンズ及び撮像素子等を備えた撮像装置によって構成され、被写体のデジタル画像を撮像する。
なお、情報処理装置800がサーバコンピュータとして構成される場合には、撮像部820を省略した構成とすることも可能である。また、情報処理装置800がタブレット端末として構成される場合には、入力部815をタッチセンサによって構成し、出力部816のディスプレイに重ねて配置することにより、タッチパネルを備える構成とすることも可能である。
【0033】
[機能的構成]
次に、制御部20の機能的構成について説明する。
図10は、制御部20の機能的構成を示すブロック図である。
図10に示すように、制御部20のCPU811においては、UI(ユーザインターフェース)制御部51と、パラメータ設定部52と、プローブ制御部53と、印加電流制御部54と、測定値取得部55と、解析処理部56と、が機能する。また、記憶部817においては、設定パラメータデータベース(設定パラメータDB)71と、測定結果データベース(測定結果DB)72と、が形成される。
【0034】
設定パラメータDB71には、試料Sの測定について設定された各種パラメータが記憶されている。例えば、設定パラメータDB71には、測定の際に印加される電流値の初期値、電流値を増加させる際のインターバル(同一電流値を維持する時間)、電流値を増加させる際の増加量、試料Sの表面において測定を行うピッチ(測定毎にプローブユニット12を移動させる距離)等、試料Sの測定において必要となる各種パラメータが試料Sの種類と対応付けて記憶されている。なお、試料Sの測定について設定された各種パラメータは、UI画面を介して操作者が手動で入力したり、設定ファイルとして予め定義されたものを読み込んだりすることができる。
【0035】
測定結果DB72には、試料Sそれぞれを測定及び解析した結果の電圧値、電流値、抵抗値、抵抗率、α値及びβ値等、試料Sの測定によって取得される各種データが試料Sの識別情報と対応付けて記憶されている。なお、試料Sの所定区分毎に測定されたデータについては、試料Sの所定区分の位置と対応付けて、測定されたデータが記憶される。また、測定結果DB72には、試料Sの測定結果を視覚的に表示するために生成された表示データ(試料Sの表面上にα値またはβ値をマッピングした画像のデータ等)が試料Sの識別情報と対応付けて記憶される。
【0036】
UI制御部51は、測定処理を行うための各種情報を入出力する各種入出力画面(UI画面)の表示を制御する。例えば、UI制御部51は、試料Sの測定に関する各種パラメータを設定するための画面、試料Sの測定を開始及び終了するための画面、試料Sの測定結果を解析するための画面、あるいは、試料Sの測定結果を視覚的に表示するための画面等を表示する。
パラメータ設定部52は、UI制御部51を介して入力された各種パラメータ、あるいは、設定ファイルを読み込むことにより入力された各種パラメータを基に、測定処理を行う際に必要となるパラメータを設定する。なお、各パラメータにデフォルトの値を設定しておき、特定のパラメータの値が入力された場合に、そのパラメータの値を設定することとしてもよい。パラメータ設定部52によって設定された各種パラメータは、設定パラメータDB71に測定対象の試料Sを識別する識別情報と対応付けて記憶される。
【0037】
プローブ制御部53は、プローブ移動部11におけるプローブユニット12の移動を制御する。例えば、プローブ制御部53は、測定対象となる試料Sの測定開始位置上方にプローブユニット12を移動させ、試料Sの測定を開始する際に、プローブユニット12を下降させてプローブ300先端を試料Sに接触させる。なお、プローブ300が試料Sに接触したことは、プローブユニット12に設置された接触センサあるいはカメラ等によって検出することができる。また、プローブ制御部53は、試料Sにおける1地点での測定が終了すると、パラメータ設定部52において設定されたピッチだけ位置を移動させて、プローブ300を試料Sに接触させる。このような動作を繰り返すことで、試料Sの表面全体における測定が行われる。
【0038】
印加電流制御部54は、可変電流源13を制御し、プローブ300を介して、試料Sに測定のための電流を印加する。このとき、印加電流制御部54は、パラメータ設定部52において設定された電流の初期値、電流値を増加させるインターバル、及び、電流値の増加量等に従って、印加電流の値を変化させる。なお、ここでは、印加電流制御部54が電流値の増加量ずつ印加電流を増加させるものとして説明するが、電流値を0[mA]からスイープすれば試料Sの測定を行うことができるため、電流値を0[mA]から連続的に変化(増加)させることとしてもよい。そして、印加電流制御部54は、測定値取得部55によって、測定されている試料Sの区分における抵抗率の変動率が設定された基準値に適合していると判定された場合、その区分における測定を終了する。
【0039】
また、印加電流制御部54は、試料Sの測定のために電流を印加することに先立ち、測定処理と同様の印加方法または測定処理より粗い印加方法(電流値の増加量を大きくする、電流値を増加させるインターバルを短くする等)で試料Sに電流を印加する。以下、このように試料Sの測定に先立って試料Sに電流を印加する処理を適宜「プレ測定」と称する。プレ測定を実行することにより、測定装置1における浮遊容量等に起因する測定誤差を抑制することができる。
【0040】
測定値取得部55は、試料Sにおける所定区分の測定が行われる毎に、その区分における測定時の電圧値、電流値、抵抗値あるいは抵抗率等を、測定対象の試料S及び所定区分を識別する情報と対応付けて、測定結果DB72に記憶させる。また、測定値取得部55は、測定されている試料Sの区分における抵抗率の変動率が設定された基準値に適合しているか否かを判定する。測定値取得部55は、測定されている試料Sの区分における抵抗率の変動率が設定された基準値に適合している場合、その判定結果を印加電流制御部54に通知する。また、測定値取得部55は、試料Sにおける全ての区分の測定が終了したか否かを判定し、試料Sにおける全ての区分の測定が終了した場合、可変電流源13から試料Sに対する電流の印加を停止する。
【0041】
解析処理部56は、測定結果DB72に記憶された試料Sの測定結果のデータを参照し、抵抗率の特性を表すグラフデータを生成する。また、解析処理部56は、生成した抵抗率の特性を表すグラフデータを基に、試料S表面付近の結晶品質を表すα値と、試料S内部の結晶品質を表すβ値とを算出する。
図11は、抵抗率の特性とα値及びβ値との関係を示す模式図である。
図11においては、開始電流I
Sに対応する抵抗率が抵抗率ρ
S、終了電流I
Eに対応する抵抗率が抵抗率ρ
Eとして示されている。
図11に示す特性において、解析処理部56は、抵抗率ρの曲線と、抵抗率ρ
S及びρ
E、開始電流I
S及び終了電流I
Eの直線で囲われた範囲の積分値(I
SからI
Eまで(ρ-ρ
E)を積分した値)をα値[V・cm]とする。即ち、α値は、低電流側の電流閾値(開始電流I
S)から高電流側の電流閾値(終了電流I
E)までに変化した電気的特性(抵抗率ρ)の積分値として取得することができる。α値は、主に結晶表面の欠陥準位に対し、電流印加によって電子を飽和させるまでに必要となったエネルギー量を表している。
【0042】
また、解析処理部56は、抵抗率ρEと終了電流IEとの積(IE・ρE)をβ値[V・cm]とする。即ち、β値は、高電流側の電流閾値(終了電流IE)と、高電流側の電流閾値(終了電流IE)に対応する電気的特性(抵抗率ρ)とによって定まる積分値として取得することができる。β値は、試料S内部の欠陥準位に対し電子を飽和させるまでに必要となったエネルギーの量を表している。
【0043】
試料S表面の欠陥密度が低いほど、
図11に示す抵抗率の特性は曲率が大きくなり、また、印加電流がより小さい値で抵抗率のばらつきが安定する。開始電流I
S及び終了電流I
Eを統一した条件下では、試料S表面の欠陥密度が低いほど、α値は小さくなる。
また、β値は、ドーパント濃度と結晶内部の欠陥密度とを反映しており、ドーパント濃度が高くなると終了電流I
Eに対応する抵抗率ρ
Eは小さくなる。また、欠陥密度が高いほど、終了電流I
Eは大きくなり、ドーパント濃度が高く、かつ、欠陥密度が低いほど、β値は小さくなる。したがって、α値及びβ値が共に小さいほど、結晶表面及び内部の結晶品質が高いと判断できる。
【0044】
なお、上述したように、開始電流ISは、印加電流を0[mA]から増加していき、試料Sの測定値におけるばらつきが収まった電流値(またはこの電流値から所定のマージンを取った電流値)に定めることができる。また、終了電流IEは、試料Sの抵抗率の基準値(例えば、基板の仕様において基板メーカーが提示している抵抗率等)に対応する電流値(またはこの電流値から所定のマージンを取った電流値)に定めることができる。
【0045】
[動作]
次に、測定装置1の動作を説明する。
図12は、測定装置1が実行する測定処理の流れを示すフローチャートである。
測定処理が実行されることに先立ち、測定対象となる試料Sに対して、適切な仕事関数φ
Mを有するプローブ300(金属膜302)が選定され、試料Sにプローブ300が接触した際に、試料Sの電子親和力χ
sとの関係がオーミック接触となるよう準備される。プローブユニット12には、このように選定されたプローブ300が設置されているものとする。また、測定処理が実行される間、測定部10は暗幕100に全体を囲われ、遮光された環境が維持される。
【0046】
測定処理が開始されると、ステップS1において、制御部20のパラメータ設定部52は、UI制御部51を介して入力された測定のための各種パラメータを設定する。
ステップS2において、プローブ制御部53は、測定対象となる試料Sの測定開始位置上方にプローブユニット12を移動させる。
ステップS3において、プローブ制御部53は、プローブユニット12を下降させてプローブ300先端を試料Sの所定区分に接触させる。
【0047】
ステップS4において、印加電流制御部54は、可変電流源13から電流を供給し、試料Sに対するプレ測定を実行する。
ステップS5において、印加電流制御部54は、可変電流源13から試料Sに対する実際の測定(本測定)のための電流(設定された初期値)の印加を開始する。
ステップS6において、印加電流制御部54は、可変電流源13から印加する電流を設定されたインターバルで設定された増加量ずつ増加(スイープ)させる。また、電流を印加している間、測定値取得部55は、測定時の電圧値、電流値、抵抗値あるいは抵抗率等の値を、測定対象の試料S及び測定中の所定区分を識別する情報と対応付けて、測定結果DB72に記憶させる。
【0048】
ステップS7において、測定値取得部55は、測定されている試料Sの区分における抵抗率の変動率が設定された基準値に適合しているか否かの判定を行う。
測定されている試料Sの区分における抵抗率の変動率が設定された基準値に適合していない場合、ステップS7においてNOと判定されて、処理はステップS6に移行する。
一方、測定されている試料Sの区分における抵抗率の変動率が設定された基準値に適合している場合、ステップS7においてYESと判定されて、処理はステップS8に移行する。
【0049】
ステップS8において、解析処理部56は、抵抗率の特性を基に、開始電流IS及び終了電流IEを特定すると共に、印加電流制御部54は、可変電流源13からの電流の印加を停止し、試料Sにおける一区分の測定を終了する。
ステップS9において、解析処理部56は、試料Sの測定結果のデータを基に、試料S表面付近の結晶品質を表すα値と、試料S内部の結晶品質を表すβ値とを算出する。このとき、UI制御部51は、試料S全体の模式的な画像を表示し、測定の進捗を示す画面として、測定が終了した区分毎に、算出したα値及びβ値を逐次表示することができる。なお、測定の進捗を示す画面を表示することなく、試料S全体の測定が終了した後に、測定結果を画面表示することとしてもよい。
【0050】
ステップS10において、測定値取得部55は、試料Sにおける全ての区分の測定が終了したか否かの判定を行う。
試料Sにおける全ての区分の測定が終了していない場合、ステップS10においてNOと判定されて、処理はステップS11に移行する。
一方、試料Sにおける全ての区分の測定が終了した場合、ステップS10においてYESと判定されて、処理はステップS12に移行する。
【0051】
ステップS11において、プローブ制御部53は、試料Sにおける次の測定対象となる区分にプローブユニット12を移動(プローブ300が接触する区分を変更)させる。
ステップS11の後、処理はステップS5に移行する。
ステップS12において、UI制御部51は、操作者の操作に応じて、試料Sの測定結果を画面に出力する。
ステップS12の後、測定処理は終了する。
【0052】
[測定結果の表示例]
上述のような処理の結果、試料Sの全体について、表面及び内部の特性が取得され、結晶品質の評価を行うことが可能となる。
図13は、試料Sの測定結果を表示する画面表示例を示す模式図である。
なお、
図13においては、測定前の試料S全体の模式的な画像、測定中の試料S全体の模式的な画像及び測定終了後の試料S全体の模式的な画像が示されている。
【0053】
図13に示すように、試料Sの測定前は、試料S全体の模式的な画像において、所定の区分を示すマトリクスのみが示されており、いずれの区分にも測定結果が表示されていない。
また、試料Sの測定中は、試料S全体の模式的な画像において、測定が終了した区分について、測定結果(ここでは、α値またはβ値のいずれかとする)を示す色が表示されている。測定結果を示す色としては、α値またはβ値の大きさを予め複数段階に分類し、分類毎に設定された色を用いることができる。
さらに試料Sの測定終了後は、試料S全体の模式的な画像において、全ての区分について、測定結果(ここでは、α値またはβ値のいずれかとする)を示す色が表示されている。
【0054】
なお、
図13に示す画面表示例においては、試料S全体の模式的な画像の下に、「α値」及び「β値」を選択するボタンが表示されており、操作者がこれらのいずれかを選択することで、目的とする測定結果を切り換えて表示することができる(
図13においては、「α値」のボタンが選択された状態を示している)。
【0055】
[測定結果の検証]
[試料表面付近の測定結果]
図14は、試料S(SiC基板)表面におけるエッチピット画像の一例を示す模式図である。
図14においては、エッチピット数が既知の試料Sの中で、異なる区分であるサンプルNo.1~3の表面画像を示している。
図15は、測定装置1による試料Sの測定結果と、試料Sのエッチピット数との関係の一例を示す図である。
また、
図16は、
図15に示す例において、測定装置1によって測定された抵抗率を示すグラフである。
図15においては、サンプルNo.1~3の区分を測定して得られたα値及びβ値と、各区分におけるエッチピット数とを対比して示している。
【0056】
図14に示す試料Sにおいて、測定装置1の測定結果である抵抗率の特性(
図16に示す特性)から得られた各区分のα値とエッチピット数との間には相関が見られ、試料S表面付近の結晶品質を表すα値が、試料S表面における構造的な乱れ(エッチピット数)を評価する指標として有意なものであることがわかる。
なお、
図15におけるβ値は、同一の試料Sであるにも関わらず、異なる値を示しているが、これは同一の試料Sであっても、欠陥密度や抵抗率に分布があるため、試料S内部の結晶品質が異なっていることを示している。
【0057】
[試料内部の測定結果]
図17は、試料S(SiC基板)内部におけるドーパント濃度測定結果の一例を示す模式図である。
なお、
図17においては、
図14~16の検証結果と同一のSiC基板(SiCウェハ)を用いた測定結果を示している。
試料Sにおける結晶内のドーパント濃度と結合状態について、ラマン分光法による測定を行ったところ、サンプルNo.1~3それぞれについて、
図17に示す測定結果が得られた。
【0058】
一般に、ドーパント濃度が高いほど、
図17において破線で囲った980カイザ付近(LO:縦波)のピークはナローで、濃度が低くなるとブロードになる。また、ドーパントが過剰となっている場合は、ピークシフトが発生すると言われている。
図17に示す測定結果において、サンプルNo.1のLOのピーク位置は976[cm
-1]、半値幅は23.5[cm
-1]、サンプルNo.2のLOのピーク位置は976[cm
-1]、半値幅は21.8[cm
-1]、サンプルNo.3のLOのピーク位置は981[cm
-1]、半値幅は38.3[cm
-1]である。
【0059】
図17に示す特性を参照すると、サンプルNo.1は、ピークのずれもなく半値幅も小さい。また、サンプルNo.2は、ピークはずれていないが半値幅が大きいため、サンプルNo.1と比較するとドーパント濃度が低いと考えられる。
一方、サンプルNo.3は、ピークシフトが発生しているため、ドーパントが過剰であると考えられる。
【0060】
ラマン分光法による測定結果では、サンプルNo.2とサンプルNo.3とのいずれが高品質なウェハであるか、明確に判断することが困難である。
これに対し、本発明を適用した測定装置1で測定されたα値及びβ値(
図15に示す測定結果)を参照すると、試料表面付近の結晶品質はNo.2のサンプルが優れており、試料内部の結晶品質はNo.3のサンプルが優れていると判断できる。
【0061】
以上のように、本実施形態における測定装置1は、試料Sとオーミック接触となるプローブ300によって、電流値を増加させながら印加電流を試料Sに印加し、電流が印加されている際の試料Sにおける電気的特性(電圧値等)を取得する。このとき、試料Sにおける電気的特性は、外光が遮光された環境下において取得される。
そして、測定装置1は、取得された電気的特性を基に、試料S表面付近の結晶構造を反映したα値及び試料内部の結晶構造を反映したβ値等の分析結果を取得する。
そのため、プローブ300と試料Sとの接触抵抗の影響を抑制して、より正確な試料Sの測定値を取得することができる。また、試料表面付近の結晶品質及び試料内部の結晶品質をそれぞれ反映した試料Sの評価結果を取得することができる。
したがって、パワー半導体材料の特性をより適切に評価することができる。
【0062】
また、本実施形態における測定装置1は、パワー半導体材料となる試料Sに対して、印加電流を徐々に増加させながら、試料Sの電気的特性を測定する。
そのため、注入電流によって、試料Sの表面付近から結晶の欠陥が徐々に埋められていき、試料Sの表面から徐々に深い深度における結晶構造を反映した電気的特性を取得することができる。
したがって、試料S表面及び内部の結晶構造を適確に反映した電気的特性を取得することができるため、パワー半導体材料の特性をより適切に評価することができる。
【0063】
また、本実施形態における測定装置1は、石英等の絶縁性を有する試料台200に試料Sを設置して、電気的特性が取得される。
したがって、試料台200の電気的特性が測定結果に影響することを抑制でき、より正確な試料Sの電気的特性を取得することが可能となる。
【0064】
[変形例1]
上述の実施形態において、試料Sの測定結果を表示する形態として、
図13に示す画面表示例を例に挙げて説明したが、試料Sの測定結果は、種々の形態で表示することができる。
図18は、試料Sの測定結果を表示する他の形態例を示す模式図である。
図18においては、α値を横軸、β値を縦軸とした分布図の形態で試料Sの測定結果を示している。
図18に示される各サンプルは、4種類の試料S(n型半導体ウェハ)において、それぞれ5ポイントを測定した結果を示している。
【0065】
なお、上述したように、結晶品質が高いほど、α値及びβ値は小さい値となることから、
図18においては、左下の原点付近にサンプルが分布することが望ましい。
したがって、
図18に示される測定結果においては、比較的小さい値にサンプルがまとまって分布しているNo.2の試料Sが、最も高い結晶品質を有するものと評価することができる。
図18のような形態で測定結果を示すことにより、複数の測定結果を容易に認識することが可能となる。
【0066】
以上のように、本実施形態における測定装置1は、測定部10と、制御部20と、を備える。測定部10は、試料台200と、プローブユニット12と、可変電流源13と、を備える。制御部20は、印加電流制御部54と、測定値取得部55と、を備える。
試料台200は、測定対象となる試料S(パワー半導体材料となる試料)が設置される絶縁性を有する試料台である。
プローブユニット12は、少なくとも先端に試料Sに対してオーミック接触となる導電性の膜を有するプローブ300を備える。
可変電流源13は、試料Sに接触したプローブ300に電流を供給する。
印加電流制御部54は、可変電流源13から試料Sに印加する電流を増加させる。
測定値取得部55は、可変電流源13によって電流が印加されている際の試料Sにおける電気的特性を取得する。
これにより、プローブ300とパワー半導体材料となる試料Sとの接触抵抗の影響を抑制した正確な測定結果を取得することができる。
したがって、パワー半導体材料の特性をより適切に評価することが可能となる。
【0067】
また、測定装置1は、解析処理部56を備える。
解析処理部56は、測定値取得部55によって取得された電気的特性に基づいて、試料Sの結晶構造に関する解析結果を取得する。
したがって、より正確な測定結果に基づいて、試料Sの結晶構造に関するより適切な解析結果を取得することができる。
【0068】
解析処理部56は、低電流側の電流閾値から高電流側の電流閾値までに変化した電気的特性の積分値に基づいて、試料S表面付近の結晶構造に関する解析結果を取得する。
これにより、試料S表面の結晶欠陥を埋めるために要したエネルギーが支配的に作用する解析結果を得ることができるため、試料S表面付近の結晶構造をより適切に評価することができる。
【0069】
測定値取得部55は、電気的特性として、試料Sにおける抵抗率を取得する。
解析処理部56は、低電流側の電流閾値から高電流側の電流閾値までに変化した抵抗率を積分することにより、試料S表面付近の結晶構造に関する評価指標を取得する。
これにより、試料Sの電気的特性として容易に取得可能な抵抗率を参照して、試料S表面付近の結晶構造をより適切に評価することができる。
【0070】
解析処理部56は、高電流側の電流閾値と、当該高電流側の電流閾値に対応する電気的特性とによって定まる積分値に基づいて、試料S内部の結晶構造に関する解析結果を取得する。
これにより、試料S内部の結晶欠陥を埋めるために要したエネルギーが支配的に作用する解析結果を得ることができるため、試料S内部の結晶構造をより適切に評価することができる。
【0071】
測定値取得部55は、電気的特性として、試料Sにおける抵抗率を取得する。
解析処理部56は、高電流側の電流閾値と、当該高電流側の電流閾値に対応する抵抗率とを乗算することにより、試料S内部の結晶構造に関する評価指標を取得する。
これにより、試料Sの電気的特性として容易に取得可能な抵抗率を参照して、試料S内部の結晶構造をより適切に評価することができる。
【0072】
プローブユニット12は、試料Sに電流を印加するための第1のプローブと、試料Sにおける物理量(例えば、電圧等)を検出するための第2のプローブとを備える。
測定値取得部55は、第1のプローブを介して電流が印加されている試料Sにおける物理量を第2のプローブを介して検出することにより、試料Sにおける電気的特性を取得する。
これにより、プローブユニット12を測定対象となる位置に接触させ、電流の印加及び物理量の測定を実行することで、容易に試料Sの電気的特性を取得することができる。
【0073】
また、測定装置1は、プローブ移動部11を備える。
プローブ移動部11は、試料台200に設置された試料Sの表面における異なる位置に、プローブユニット12を移動させる。
これにより、試料S表面の異なる位置にプローブ300を順次接触させながら、容易に試料S全体の結晶構造を評価することができる。
【0074】
また、測定装置1は、暗幕100を備える。
暗幕100は、試料Sが測定される環境を外光から遮光する。
これにより、試料Sに対する光の照射によって生じる測定誤差を抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態におけるプローブ300は、測定対象となる試料S表面に接触され、試料Sに電流を印加することにより当該試料の結晶構造を解析するためのプローブであって、少なくとも先端に試料Sに対してオーミック接触となる導電性の金属膜302を有する。
これにより、プローブ300の金属膜302と試料S(n型半導体基板)とがオーミック接触となるため、試料Sにおける欠陥順位の影響をより強く反映した適切な測定値を取得することができる。
【0076】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態においては、試料Sの測定を行う際に電圧を測定するものとして説明したが、これに限られない。即ち、試料Sの電気的な特性を取得できるものであれば、抵抗率等、他の物理量を測定することとしてもよい。
【0077】
また、上述の実施形態において、試料Sの測定と、α値及びβ値の算出(測定結果の解析)とを測定装置1で実行するものとして説明したが、これに限られない。即ち、試料Sを測定するユニットと、測定結果を解析するユニットとを異なる装置として、測定装置1を構成することも可能である。例えば、試料Sを測定するユニットによって試料Sの測定結果を取得し、ネットワーク等で接続された測定結果を解析するユニットに測定結果を送信してα値及びβ値の算出等を行うことができる。
【0078】
また、上述の実施形態において、
図6に示す例では、金属膜302の仕事関数がn型半導体基板である試料Sの電子親和力よりも小さいものとして説明したが、試料Sをp型半導体基板とする場合にオーミック接触を実現するためには、これらの大小関係が逆となる材料を選択すればよい。即ち、試料Sがn型半導体である場合には、プローブ300の金属膜302の仕事関数が試料Sの電子親和力よりも小さいことがオーミック接触の条件となる。一方、試料Sがp型半導体である場合には、プローブ300の金属膜302の仕事関数が試料Sの電子親和力よりも大きいことがオーミック接触の条件となる。
【0079】
また、上述の実施形態において、プローブ300は、炭化タングステン等からなる基材301の先端に、試料Sよりも仕事関数が小さい金属膜302を備える構成であるものとして説明したが、これに限られない。即ち、プローブ300と試料Sとの接触部分がオーミック接触となる構成であれば種々の構造によってプローブ300を構成することができ、例えば、プローブ300全体を試料Sに対してオーミック接触となる金属で構成したり、プローブ300を基材301及び金属膜302以外の材料を有する構成としたりすることができる。
【0080】
また、上述の実施形態における測定装置1で取得された試料Sの結晶品質を示すデータと、測定対象となった試料Sとを対応付けて、試料Sの販売先等に提供することとしてもよい。一例として、試料Sにおいて、結晶品質が不良であると評価された測定位置から一定の範囲(プローブ300の接触位置から測定結果に影響を与える範囲)に欠陥が存在していること等を提示してもよい。この場合、試料Sの品質を購入者等が容易に把握できると共に、試料Sにおける適切な領域を選択して製品を作製すること等が可能となる。
また、上述の実施形態において、試料Sの評価結果に基づいて、その試料Sから作製される製品の歩留まりを推定することとしてもよい。この場合、歩留まりの推定値を購入価格に反映させる等、試料Sの評価結果をより有効に活用することができる。
【0081】
また、上述の実施形態及び変形例を適宜組み合わせて、本発明を実施することが可能である。
上述の実施形態における制御のための処理は、ハードウェア及びソフトウェアのいずれにより実行させることも可能である。
換言すると、上述の処理を実行できる機能が測定装置1に備えられていればよく、この機能を実現するためにどのような機能構成及びハードウェア構成とするかは上述の例に限定されない。
上述の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータにネットワークや記憶媒体からインストールされる。
【0082】
プログラムを記憶する記憶媒体は、装置本体とは別に配布されるリムーバブルメディア、あるいは、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体等で構成される。リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SDカード、磁気ディスク、光ディスク、または光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disk),Blu-ray Disc(登録商標)等により構成される。光磁気ディスクは、MD(Mini-Disk)等により構成される。また、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体は、例えば、プログラムが記憶されているROMやハードディスク等で構成される。
【符号の説明】
【0083】
1 測定装置、10 測定部、11 プローブ移動部、11a アーム、12 プローブユニット、13 可変電流源、14 電圧計、20 制御部、100 暗幕、200 試料台、300 プローブ、301 基材、302 金属膜、S 試料、51 UI(ユーザインターフェース)制御部、52 パラメータ設定部、53 プローブ制御部、54 印加電流制御部、55 測定値取得部、56 解析処理部、71 設定パラメータデータベース(設定パラメータDB)、72 測定結果データベース(測定結果DB)、800 情報処理装置、811 CPU、812 ROM、813 RAM、814 バス、815 入力部、816 出力部、817 記憶部、818 通信部、819 ドライブ、820 撮像部、831 リムーバブルメディア