(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005482
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ローラバニシング工具
(51)【国際特許分類】
B24B 39/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B24B39/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105681
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】芹沢 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 礼司
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA12
3C158AA13
3C158AA16
3C158DA01
(57)【要約】
【課題】ワークに凹部が存在する場合であってもワークを高精度でバニシング加工する。
【解決手段】
ローラバニシング工具10は、回転軸Xを中心に回転したときにワーク20との接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラ16を備える。複数のローラ16は、一つのローラ16が所定位置にあるときの他のローラ16の位置の少なくとも1つが、他の一つのローラ16が所定位置にあるときの他のローラ16の位置と異なるように配置されている。具体的には、複数のローラ16は、隣接する複数対のローラ16のうち一対のローラ16の前記接触箇所から回転軸Xに延びる2線が成す角度が、他の一対のローラ16と異なるように配置されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラを備え、
前記複数のローラは、一つのローラが所定位置にあるときの他のローラの位置の少なくとも1つが、他の一つのローラが前記所定位置にあるときの他のローラの位置と異なるように配置されていることを特徴とする、ローラバニシング工具。
【請求項2】
前記複数のローラは、一つのローラが所定位置にあるときの他のローラの位置のすべてが、他の一つのローラが前記所定位置にあるときの他のローラの位置と異なるように配置されていることを特徴とする、請求項1記載のローラバニシング工具。
【請求項3】
前記複数のローラは、各ローラが所定位置にあるときの他のローラの位置のすべてが互いに異なるように配置されていることを特徴とする、請求項1記載のローラバニシング工具。
【請求項4】
回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラを備え、
前記複数のローラは、隣接する複数対のローラのうち一対のローラの前記接触箇所から前記回転軸に延びる2線が成す角度が、他の一対のローラと異なるように配置されていることを特徴とする、ローラバニシング工具。
【請求項5】
すべての隣接する対のローラの前記角度が互いに異なることを特徴とする、請求項4記載のローラバニシング工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラバニシング工具に関し、特に、回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラを備えるローラバニシング工具に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象物(以下「ワーク」という)の円筒状または円錐台形状の開口部の内周をバニシング加工するために、複数のローラを備えるローラバニシング工具が利用されている(特許文献1参照)。このようなローラバニシング工具では、回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように複数のローラが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークには、キー溝などの凹部が存在する場合がある。このような凹部が存在する場合、複数のローラのうち1つのローラが凹部に位置するときにそのローラはワークと接触することができない。発明者の鋭意成る研究開発の結果、1つのローラが凹部に位置するときに他のローラによるバニシング加工の精度に影響が与えられることが判明した。
【0005】
そこで本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ワークに凹部が存在する場合であってもワークを高精度でバニシング加工することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るローラバニシング工具は、回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラを備え、
前記複数のローラは、一つのローラが所定位置にあるときの他のローラの位置の少なくとも1つが、他の一つのローラが前記所定位置にあるときの他のローラの位置と異なるように配置されている。
【0007】
発明者の鋭意成る研究開発の結果、上記構成により、一つのローラが凹部にあるときの他のローラによるバニシング加工への影響を低減できることが判明した。このためこの態様によれば、ワークに凹部が存在する場合であってもワークを高精度でバニシング加工することができる。
【0008】
前記複数のローラは、一つのローラが所定位置にあるときの他のローラの位置のすべてが、他の一つのローラが前記所定位置にあるときの他のローラの位置と異なるように配置されていてもよい。この態様によれば、一つのローラが凹部にあるときの他のローラによるバニシング加工への影響をさらに低減できる。
【0009】
前記複数のローラは、各ローラが所定位置にあるときの他のローラの位置のすべてが互いに異なるように配置されていてもよい。この態様によれば、あるローラが凹部にあるときの他のローラの位置と、別のローラが凹部にあるときの他のローラの位置とが必ず異なることになる。このためこの態様によれば、一つのローラが凹部にあるときの他のローラによるバニシング加工への影響をさらに低減できる。
【0010】
前記複数のローラは、隣接する複数対のローラのうち一対のローラの前記接触箇所から前記回転軸に延びる2線が成す角度が、他の一対のローラと異なるように配置されていてもよい。また、すべての隣接する対のローラの前記角度が互いに異なっていてもよい。この態様によれば、ワークに凹部が存在する場合であってもこのような簡易な構成でワークを高精度でバニシング加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】比較例に係るローラバニシング工具の側面図である。
【
図3】比較例に係るローラバニシング工具がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。
【
図4】比較例に係るローラバニシング工具がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。
【
図5】(a)は、比較例に係るローラバニシング工具がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。(b)は、比較例に係るローラバニシング工具におけるローラの配置角度を示すテーブルである。(c)は、比較例に係るローラバニシング工具によるバニシング加工後の5つのワークの、5つの測定ポイントにおける面粗度を示すテーブルである。(d)は、(c)をグラフで表したものである。
【
図6】(a)は、本発明の第1の実施例に係るローラバニシング工具がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。(b)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具におけるローラの配置角度を示すテーブルである。(c)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具によるバニシング加工後の5つのワークの、5つの測定ポイントにおける面粗度を示すテーブルである。(d)は、(c)をグラフで表したものである。
【
図7】(a)~(g)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具において、一つのローラがキー溝にあるときの他のローラの位置を示す図である。
【
図8】第1の実施例に係るローラバニシング工具において、一つのローラがキー溝にあるときの他のローラの位置を示す図である。
【
図9】(a)は、第2の実施例に係るローラバニシング工具がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。(b)は、第2の実施例に係るローラバニシング工具におけるローラの配置角度を示すテーブルである。
【
図10】第2の実施例に係るローラバニシング工具において、一つのローラがキー溝にあるときの他のローラの位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(比較例)
図1は、比較例に係るローラバニシング工具10の側面図である。
図1から見ることができるように、ローラバニシング工具10は、先端に近づくほど径が小さくなるように先細りした円錐台形状に形成されている。比較例ではテーパ1/10となっているが、テーパの度合いがこれに限られないことはもちろんである。
【0013】
図2は、
図1のA-A断面図である。ローラバニシング工具10は、フレーム12、本体部14、および複数のローラ16を有する。本体部14は中実の円錐台形に形成されている。フレーム12は、本体部14に嵌め込み可能となるように中空の円錐台形に形成されている。本体部14には、回転軸X方向に延びる複数の開口部12aが形成されている。この開口部12aに、複数のローラ16が挿入される。開口部12aにローラ16が挿入されたままフレーム12に本体部14が挿入されることで、ローラ16が回転可能に支持される。このようなローラ16の支持方法は公知であることから詳細な説明を省略する。
【0014】
比較例に係るローラバニシング工具10は6本のローラ16を有しているが、ローラ16の本数がこれに限定されないことはもちろんである。以下、ローラバニシング工具10の先端に向かって見た断面図において、k本のローラ16がある場合に、各ローラ16を、時計回りにローラR1、ローラR2、・・・ローラRkと呼ぶ。ローラ16は、回転軸Xを中心に回転したときにワーク20との接触箇所(以下、単に「接触箇所」という)が同じ軌跡を描くように配置されている。具体的には、ローラ16は、円錐台形状のローラバニシング工具10の表面とその中心軸が平行となるように、かつその中心軸が回転軸Xと交わるように配置されている。
【0015】
ローラバニシング工具10は、回転軸Xを中心に回転可能に構成されている。ローラバニシング工具10を回転させる回転アクチュエータ(図示せず)が設けられており、ローラバニシング工具10は、この回転アクチュエータによって回転駆動される。また、ローラバニシング工具10を先端方向に押しつける押しつけ機構(図示せず)が設けられており、ローラバニシング工具10は、この押しつけ機構によってワークに押しつけられた状態で回転駆動される。ローラバニシング工具10のこのような構成は公知であるから、詳細な説明は省略する。
【0016】
図3は、比較例に係るローラバニシング工具10がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。比較例では、ローラバニシング工具10の加工対象であるワーク20は、車両のクランクシャフトに取り付けられるフライホイールとなっている。なお、ワーク20がフライホイールに限定されないことはもちろんである。
【0017】
フライホイールは、軸孔20aの内周面がバニシング加工の対象箇所となる。ワーク20のローラ16は、その外周面のうち回転軸Xから最も離れた径外側のラインが、ワーク20の軸孔20a内周面との接触箇所となる。しかしながら、フライホイールの多くには、クランクシャフトに回転不能に取り付けるためのキー溝20bが形成されている。このため、ローラ16がキー溝20bを通過するときには、そのローラ16はワーク20の軸孔20a内周面に接触することができない。このため、ローラ16がキー溝20bを通過するときには、6本ではなく5本のローラ16がワーク20の軸孔20a内周面に接触することになり、1本あたりの加工荷重が高くなる。
【0018】
図4は、比較例に係るローラバニシング工具10がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。
図4に示すように、ローラR
1の前記接触箇所から回転軸Xに延びる線と、ローラR
2の前記接触箇所から回転軸Xに延びる線が成す角をθ
1とする。また、ローラR
2の前記接触箇所から回転軸Xに延びる線と、ローラR
3の前記接触箇所から回転軸Xに延びる線が成す角をθ
2とする。以下同様に、ローラR
kの前記接触箇所から回転軸Xに延びる線と、ローラR
k+1の前記接触箇所から回転軸Xに延びる線が成す角をθ
kとする。比較例に係るローラバニシング工具10では、θ
kはすべて60°となっている。
【0019】
図4に示される斜線領域Yは、比較例において、一つのローラ16がキー溝20bを通過するときに、他のローラ16が軸孔20aの内周面を転動する領域を示している。このように比較例では、斜線領域Yは狭くなっている。
【0020】
図5(a)は、比較例に係るローラバニシング工具10がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。
図5(b)は、比較例に係るローラバニシング工具10におけるローラの配置角度を示すテーブルである。
図5(a)、(b)に示すように、比較例に係るローラバニシング工具10では、θ
kはすべて60°となっている。
【0021】
図5(c)は、比較例に係るローラバニシング工具10によるバニシング加工後の5つのワークの、5つの測定ポイントにおける面粗度を示すテーブルである。
図5(d)は、
図5(c)をグラフで表したものである。この比較例に係る10で、5つのワーク20の軸孔20aの内周面をバニシング加工し、加工後の5つのワーク20の軸孔20aの内周面の面粗度Raを測定するテストを実施した。
【0022】
図5(a)、(c)に示すように、P
1~P
5の5つの測定ポイントで面粗度Raを測定した。基準位置P
0は、キー溝20bの中央にあるときのローラ16の位置である。第1測定ポイントP
1、第3測定ポイントP
3、第5測定ポイントP
5は、ワーク20の軸孔20a内周面のうち、一つのローラ16が基準位置P
0にあるときに他のローラ16が接触する箇所である。一方、第2測定ポイントP
2、第4測定ポイントP
4は、ワーク20の軸孔20a内周面のうち、一つのローラ16が基準位置P
0にあるときに他のローラ16が接触しない箇所である。
【0023】
図5(c)、(d)から、第3測定ポイントP
3で面粗度Raが大きくなっていることが分かる。第3測定ポイントP
3は、キー溝20bのちょうど反対側に位置している。このため、第3測定ポイントP
3における面粗度Raの増大は、キー溝20bが影響していることが予想される。
【0024】
(第1の実施例)
本発明の第1の実施例に係るローラバニシング工具10は、ローラ16の本数および配置以外は、比較例に係るローラバニシング工具10と同様である。
図6(a)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具10がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。
図6(b)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具10におけるローラの配置角度を示すテーブルである。
図6(a)、(b)に示すように、第1の実施例では、7本のローラ16が設けられている。またθ
kは均等ではなく、互いに異なるように、7本のローラ16が配置されている。
【0025】
第1の実施例では、複数のローラ16は、不等間隔で配置されている。具体的には、第1の実施例では、複数のローラ16は、一つのローラ16が基準位置P0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが、他の一つのローラ16が基準位置P0にあるときの他のローラ16の位置と異なるように配置されている。さらに具体的には、複数のローラ16は、各ローラ16が基準位置P0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが互いに異なるように配置されている。
【0026】
換言すると、複数のローラ16は、隣接する複数対のローラ16のうち一対のローラ16の前記接触箇所から回転軸Xに延びる2線が成す角度θkが、他の一対のローラ16と異なるように配置されている。そして、すべての隣接する対のローラ16の間のθkが互いに異なっている。
【0027】
第1の実施例においても、
図6(a)、(c)に示すように、P
1~P
5の5つの測定ポイントで面粗度Raを測定した。第1測定ポイントP
1、第5測定ポイントP
5は、ワーク20の軸孔20a内周面のうち、一つのローラ16が基準位置P
0にあるときに他のローラ16が接触する箇所である。一方、第2測定ポイントP
2、第3測定ポイントP
3、第4測定ポイントP
4は、ワーク20の軸孔20a内周面のうち、一つのローラ16が基準位置P
0にあるときに他のローラ16が接触しない箇所である。
【0028】
図6(c)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具10によるバニシング加工後の5つのワークの、5つの測定ポイントにおける面粗度を示すテーブルである。
図6(d)は、
図6(c)をグラフで表したものである。
図6(c)、(d)から、第3測定ポイントP
3での面粗度Raが、比較例と比べて大幅に減少していることが分かる。したがって、複数のローラ16は、一つのローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが、他の一つのローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の位置と異なるように配置されていることで、被加工箇所の面粗度Raを改善することができることが分かる。
【0029】
図7は、(a)~(g)は、第1の実施例に係るローラバニシング工具10において、一つのローラ16がキー溝にあるときの他のローラ16の位置を示す図である。例えば、
図7(a)は、ローラR
1が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の配置を示す図である。また、
図7(b)は、ローラR
2が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の配置を示す図である。
図7(a)、(b)に示されるように、ローラR
1が基準位置P
0にあるときのローラR
2~R
7のそれぞれの位置は、ローラR
2が基準位置P
0にあるときのローラR
3~R
7、R
1のそれぞれの位置と異なる。ローラR
2が基準位置P
0にあるときの他のローラ16のそれぞれの位置は、ローラR
3が基準位置P
0にあるときの他のローラ16のそれぞれの位置と異なる。このように、ある一つのローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16のそれぞれの位置は、他の一つのローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16のそれぞれの位置と異なる。さらに、第1の実施例では、複数のローラ16は、各ローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが互いに異なるように配置されている。
【0030】
図8は、第1の実施例に係るローラバニシング工具10において、一つのローラがキー溝にあるときの他のローラの位置を示す図であり、
図7(a)~(g)を重ねて表示したものである。このように、第1の実施例では、複数のローラ16は、各ローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが互いに異なるように配置されている。このため、
図8においてワーク20の軸孔20a内周面外側に斜線領域として表された、各ローラ16がキー溝20bを通過するときの他のローラ16の移動領域は、
図4に示された比較例に比べて非常に広範なものとなる。したがって、ローラ16がキー溝20bを通過するときの他のローラ16によるバニシング加工への影響を分散させることができ、ワーク20にキー溝20bがある場合におけるバニシング加工の加工精度低下を抑制することができる。
【0031】
(第2の実施例)
第2の実施例に係るローラバニシング工具10は、ローラ16の配置以外は、比較例に係るローラバニシング工具10と同様である。
図9(a)は、第2の実施例に係るローラバニシング工具10がワークに挿入された状態を示す模式的な断面図である。
図9(b)は、第2の実施例に係るローラバニシング工具におけるローラの配置角度を示すテーブルである。第2の実施例においても、複数のローラ16は、不等間隔で配置されている。具体的には、第2の実施例においても、複数のローラ16は、各ローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが互いに異なるように配置されている。換言すれば、第2の実施例においても、隣接する対のローラ16の間のθ
kが互いに異なっている。
【0032】
図10は、第2の実施例に係るローラバニシング工具10において、一つのローラ16がキー溝20bにあるときの他のローラ16の位置を示す図である。このように、第2の実施例においても、複数のローラ16は、各ローラ16が基準位置P
0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが互いに異なるように配置されている。このため、
図10においてワーク20の軸孔20a内周面外側に斜線領域として表された、各ローラ16がキー溝20bを通過するときの他のローラ16の移動領域は、
図4に示された比較例に比べて非常に広範なものとなる。したがって、ローラ16がキー溝20bを通過するときの他のローラ16によるバニシング加工への影響を分散させることができ、ワーク20にキー溝20bがある場合におけるバニシング加工の加工精度低下を抑制することができる。
【0033】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0034】
ある変形例では、複数のローラ16は、一つのローラ16が基準位置P0にあるときの他のローラ16の位置の少なくとも1つが、他の一つのローラ16が基準位置P0にあるときの他のローラ16の位置と異なるように配置されている。複数のローラ16は、このように各ローラ16が基準位置P0にあるときの他のローラ16の位置のすべてが互いに異なるように配置されていなくても、キー溝20bによる面粗度Raへの影響を抑制することができる。
【0035】
ある別の変形例では、ローラバニシング工具10は、軸孔20aのような孔の内周面ではなく、軸などの円柱状部材の外周面をバニシング加工する。このため、複数のローラは、円筒状部材の内周面に配置される。これにより、円柱状部材の外周面にキー溝などの凹部がある場合においても、当該外周面を精度良くバニシング加工することができる。
【符号の説明】
【0036】
10 ローラバニシング工具,12 フレーム,14 本体部,16 ローラ,20 ワーク,20a 軸孔,20b キー溝
【手続補正書】
【提出日】2023-04-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラを備え、
前記複数のローラは、一つのローラが所定位置にあるときの他のローラの位置の少なくとも1つが、他の一つのローラが前記所定位置にあるときの他のローラの位置と異なるように配置されていることを特徴とする、ローラバニシング工具。
【請求項2】
前記複数のローラは、一つのローラが所定位置にあるときの他のローラの位置のすべてが、他の一つのローラが前記所定位置にあるときの他のローラの位置と異なるように配置されていることを特徴とする、請求項1記載のローラバニシング工具。
【請求項3】
前記複数のローラは、各ローラが所定位置にあるときの他のローラの位置のすべてが互いに異なるように配置されていることを特徴とする、請求項1記載のローラバニシング工具。
【請求項4】
回転軸を中心に回転したときにワークとの接触箇所が同じ軌跡を描くように配置された複数のローラを備え、
前記複数のローラは、隣接する複数対のローラのうち一対のローラの前記接触箇所から前記回転軸に延びる2線が成す角度が、他の一対のローラと異なるように配置されていることを特徴とする、ローラバニシング工具。
【請求項5】
すべての隣接する対のローラの前記角度が互いに異なることを特徴とする、請求項4記載のローラバニシング工具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のローラバニシング工具でワークをバニシング加工する工程を含む、被加工物の製造方法。
【請求項7】
前記ワークは、円筒状または円錐台形状の開口部を含み、
前記ローラバニシング工具で、前記開口部の内周をバニシング加工する工程を含む、請求項6記載の被加工物の製造方法。