(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054822
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】プレス成形割れ判定方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20240410BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240410BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20240410BHJP
【FI】
B21D22/00
G06F30/23
G06F113:22
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093654
(22)【出願日】2023-06-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2022150894
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】仮屋▲崎▼ 祐太
【テーマコード(参考)】
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137AA21
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA11
4E137CB01
4E137CB03
4E137DA13
4E137EA02
4E137FA02
4E137FA03
4E137FA23
4E137FA24
4E137FA31
4E137GA02
4E137GA03
4E137GA16
4E137GB03
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】金属板をプレス成形したプレス成形品について、曲げ変形の影響を考慮して割れ発生の有無を判定するプレス成形割れ判定方法、装置及びプログラムと、割れ発生有無の判定の結果に基づいて割れ発生を抑制するようにプレス成形条件を調整してプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形割れ判定方法は、種々の曲げ変形度で張出成形した試験片100の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、曲げ変形度と、の関係で表される金属板の成形限界を取得し(P1)、取得した金属板の成形限界と、プレス成形品について算出した最大主ひずみ及び最小主ひずみと曲げ変形度とに基づいて、プレス成形品における割れ発生の有無を判定する(P3)、ことを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するプレス成形割れ判定方法であって、
成形限界取得プロセスと、プレス成形品割れ判定プロセスと、を含み、
前記成形限界取得プロセスは、
前記金属板を種々の曲げ変形度で成形し、該成形した前記金属板の曲げ変形度と、該曲げ変形度で成形した前記金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される前記金属板の成形限界を取得し、
前記プレス成形品割れ判定プロセスは、
前記プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、前記プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、を前記プレス成形品における割れ判定パラメータとして取得し、該取得した割れ判定パラメータと前記成形限界取得プロセスで取得した前記成形限界に基づいて、前記プレス成形品における割れ発生の有無を判定する、ことを特徴とするプレス成形割れ判定方法。
【請求項2】
前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて、前記プレス成形品における前記曲げ変形度を以下の式で算出することを特徴とする請求項1記載のプレス成形割れ判定方法。
ρ=(ε1,outer-ε1,inner)/t
ここで、
ρ:曲げ変形度
ε1,outer:曲げ外側の最大主ひずみ
ε1,inner:曲げ内側の最大主ひずみ
t:板厚
【請求項3】
前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて、前記プレス成形品における前記曲げ変形度を最大主曲率とすることを特徴とする請求項1記載のプレス成形割れ判定方法。
【請求項4】
前記成形限界取得プロセスにおける前記金属板を、前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生の有無を判定する前記プレス成形品のブランクとして用いられる金属材料から採取されたものとすることを特徴とする請求項1記載のプレス成形割れ判定方法。
【請求項5】
金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するプレス成形割れ判定装置であって、
成形限界取得ユニットと、プレス成形品割れ判定ユニットと、を含み、
前記成形限界取得ユニットは、
種々の曲げ変形度で成形した前記金属板の曲げ変形度と、該曲げ変形度で成形した前記金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される前記金属板の成形限界を取得し、
前記プレス成形品割れ判定ユニットは、
前記プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、前記プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、を前記プレス成形品における割れ判定パラメータとして算出し、該算出した割れ判定パラメータと前記成形限界取得ユニットにより取得した前記成形限界に基づいて、前記プレス成形品における割れ発生の有無を判定する、ことを特徴とするプレス成形割れ判定装置。
【請求項6】
金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するプレス成形割れ判定プログラムであって、
コンピュータを、成形限界取得ユニットと、プレス成形品割れ判定ユニットと、して実行させる機能を備え、
前記成形限界取得ユニットは、
種々の曲げ変形度で成形した前記金属板の曲げ変形度と、該曲げ変形度で成形した前記金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される前記金属板の成形限界を取得し、
前記プレス成形品割れ判定ユニットは、
前記プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、前記プレス成形品における曲げ変形度として前記最大主ひずみ方向の曲率と、を前記プレス成形品における割れ判定パラメータとして算出し、該算出した割れ判定パラメータと前記成形限界取得ユニットにより取得した前記成形限界とに基づいて、前記プレス成形品における割れ発生の有無を判定する、ことを特徴とするプレス成形割れ判定プログラム。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプレス成形割れ判定方法により、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定し、該判定した結果に基づいてプレス成形における割れ発生を抑制したプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形割れ判定方法の前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生有りと判定された場合、割れ発生なしと判定されるまで、前記プレス成形品のプレス成形条件を調整して前記プレス成形割れ判定を繰り返し行うプレス成形条件調整プロセスと、
前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生無しと判定されるように前記プレス成形条件調整プロセスにおいて調整されたプレス成形条件で、前記プレス成形品を製造するプレス成形品製造プロセスと、を含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載のプレス成形割れ判定方法により、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定し、該判定した結果に基づいてプレス成形における割れ発生を抑制したプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形割れ判定方法の前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生有りと判定された場合、割れ発生なしと判定されるまで、前記プレス成形品のプレス成形条件を調整して前記プレス成形割れ判定を繰り返し行うプレス成形条件調整プロセスと、
前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生無しと判定されるように前記プレス成形条件調整プロセスにおいて調整されたプレス成形条件で、前記プレス成形品を製造するプレス成形品製造プロセスと、を含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板をプレス成形したプレス成形品について、曲げ変形の影響を考慮して割れ発生の有無を判定するプレス成形割れ判定方法、装置及びプログラムに関する。
さらに、本発明は、割れ発生有無の判定の結果に基づいて割れ発生を抑制するようにプレス成形条件を調整してプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の材料として用いられる金属板は、大部分がプレス成形によって車体部品へと加工される。車体部品のプレス成形性は車体部品の形状によって異なるが、材料である鋼板等といった金属板の延性をはじめとする材料特性の影響も大きい。また、近年の車体軽量化に対する要望から、車体部品に用いられる鋼板等の金属板の高強度化が進められている。しかしながら、金属板の高強度化に伴って延性が低下することによりプレス成形において割れが生じやすくなり、プレス成形性が低下してしまう。
【0003】
そこで、プレス成形による車体部品の量産中における割れ発生といったトラブル回避のため、CAE(Computer Aided Engineering)によるプレス成形性の事前予測に基づいた金型設計が重要となっている。さらに、プレス成形における割れ発生の事前予測を精度良く行うために、鋼板等の金属板の成形限界を精度良く判定する技術の重要性が高まっている。
【0004】
金属板の成形限界の判定には、通常、成形限界線図(Forming Limit Diagram;以下、「FLD」と称する)が用いられる。
FLDはプレス成形における各変形様式(等二軸変形、不等二軸変形、平面ひずみ変形、単軸変形)での成形限界を実験室規模での成形試験により測定して作成するものである。そして、成形限界線図の作成においては、試験片の幅をいくつかの水準に変更して試験片の長軸方向と短軸方向の変形比率を変化させることにより、試験片の破断発生時における長軸方向と短軸方向それぞれのひずみを測定している。
【0005】
一般的に、金属板のプレス成形においては、金属板が均一変形する過程に続いて、ひずみが特定の場所に集中する過程へと推移する。この過程では、金属板のひずみが集中する部位においてネッキングと呼ばれる板厚減少が発生し、板厚減少が進んだのちに破断が発生する。プレス成形ではネッキング発生は製品不良になるため、プレス成形品における製品不良の事前予測に用いるFLDにおいては、ネッキング発生直前のひずみ量で定義する必要がある。
さらに、引張強度が980MPaを超えるような高強度鋼板においては、10%程度の低ひずみ量でネッキングが発生し、その直後に破断が発生する。そのため、成形限界を精度よく判定する方法が提案されてきた。
【0006】
ISO12004には、金属板の成形限界線(Forming Limit Curve;以下「FLC」と称する)を求める方法が規格化されている(非特許文献1)。本方法は、まず、破断まで張出成形した試験片の破断発生部の近傍におけるひずみ分布を測定し、測定したひずみ分布の近似曲線の極大値を成形限界ひずみとして求めるものである。
【0007】
しかしながら、IS12004に規定されている方法では、破断発生部のひずみを十分に近似できず、成形限界ひずみを求めることができない場合があった。そこで、非特許文献2にはISO12004を改良した方法として、成形中に試験片に生じたひずみを連続的に計測し、破断発生部のひずみの時間変化からFLCを求める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ISO 12004-2:2008, Metallic materials - Sheet and strip - Determination of forming-limit curves, 2008.
【非特許文献2】W Hotz, M Merklein et al., “Time Dependent FLC Determination Comparison of Different Algorithms to Detect the Onset of Unstable Necking before Fracture”, Key Engineering Materials, Vol 549, pp.397-404(2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ISO12004には、成形限界線を求める試験方法として、中島法とマルシニアック法の2通りの方法が規定されている。
中島法は、
図16(a)に示すように、球頭パンチ203と上型ダイ205としわ押さえ207とを備えた成形金型201を用いて試験片100を張出成形する張出試験により成形限界を求める方法である。
一方、マルシニアック法は、
図16(b)に示すように、平頭パンチ213と、上型ダイ205としわ押さえ207とを備えた成形金型211を用いるものである。そして、マルシニアック法では、平頭パンチ213と試験片100との間にドライビングシート215を挟んで試験片100を張出成形する張出試験により成形限界を求める。
【0010】
中島法は、試験片100が球頭パンチ203の先端部203aの形状になじんだ状態で張出成形するものである。そのため、得られる成形限界(破断時の最大主ひずみ及び最小主ひずみ)は試験片100の曲げ変形の影響を受ける。
これに対し、マルシニアック法は、先端部213aが平面の平頭パンチ213を用いて張出成形するものである。そのため、試験片100は曲げ変形されず、得られる成形限界は試験片100の曲げ変形の影響を受けない。
【0011】
また、一般的に、中島法により求めたFLDとマルシニアック法により求めたFLDとを比較すると、
図16(c)に示すように、中島法により求めたFLDの方が1~2%程度ネッキング発生直前のひずみ量が大きくなる。延性の低い高強度材料(例えば、高張力鋼板等)のプレス成形においては、わずかなひずみ量の差でくびれ(ネッキング)発生に違いが生じる場合がある。そのため、これまでに、実際のプレス成形品で測定したひずみ量やCAEを用いたプレス成形解析結果から得られたひずみ量から、中島法とマルシニアック法のFLDを比較して成形限界の評価が行われてきた。
【0012】
しかし、中島法ではプレス成形解析により得られたひずみ量からは割れ発生なしと予測されたプレス成形条件でも、実際の金属板のプレス成形品、特に980MPa以上の高強度鋼板の実プレス成形品では割れが発生する場合があった。また、マルシニアック法では割れ発生ありと予測されたプレス成形条件でも、実際のプレス成形品では割れが発生しない場合もあった。
このように、FLDに基づいた割れ発生有無の予測結果と実際のプレス成形品での割れ発生の有無とで大きく乖離している事例が多々発生して問題があった。
【0013】
また、非特許文献2で提案されている方法は、ISO12004に比べて成形限界を精度が良く求めることができる。しかしながら、ISO12004と同様に、曲げ変形の程度を考慮して成形限界を求めることはできない。そのため、非特許文献2で提案されている方法により求めた成形限界線図に基づいて割れ発生の有無を予測した結果が、実際のプレス成形品の割れ発生の有無とは一致しない場合があった。
【0014】
このように、実際のプレス成形は曲げ変形を受ける部位や受けない部位が混在し、さらに曲げ変形の程度も部位によって異なるにも関わらず、従来のFLDを求める方法では曲げ変形の程度が考慮されていなかった。そのため、曲げ変形を受ける部位と受けない部位とが混在したプレス成形品に対し、従来のFLDを用いて適切に割れ発生の有無の判定ができない場合があった。
さらに、曲げ変形を受ける部位を有するプレス成形品において割れ発生の有無を予め判定し、その判定結果に基づいてプレス成形品における割れの発生を抑制して製造する技術が求められていた。
【0015】
本発明は、上記のような課題を解決するためなされたものであり、曲げ変形の影響を考慮して求めた金属板の成形限界に基づいて、プレス成形品の成形限界を判定するプレス成形割れ判定方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、プレス成形割れ判定方法により割れ発生無しと判定されるようにプレス成形品のプレス成形条件を調整し、調整したプレス成形条件によりプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係るプレス成形割れ判定方法は、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するものであって、
成形限界取得プロセスと、プレス成形品割れ判定プロセスと、を含み、
前記成形限界取得プロセスは、
前記金属板を種々の曲げ変形度で成形し、該成形した前記金属板の曲げ変形度と、該曲げ変形度で成形した前記金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される前記金属板の成形限界を取得し、
前記プレス成形品割れ判定プロセスは、
前記プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、前記プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、を前記プレス成形品における割れ判定パラメータとして取得し、該取得した割れ判定パラメータと前記成形限界取得プロセスで取得した前記成形限界に基づいて、前記プレス成形品における割れ発生の有無を判定する、ことを特徴とするものである。
【0017】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて、前記プレス成形品における前記曲げ変形度を以下の式で算出することを特徴とするものである。
ρ=(ε1,outer-ε1,inner)/t
ここで、
ρ:曲げ変形度
ε1,outer:曲げ外側の最大主ひずみ
ε1,inner:曲げ内側の最大主ひずみ
t:板厚
【0018】
(3)上記(1)に記載のものにおいて、前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて、前記プレス成形品における前記曲げ変形度を最大主曲率とすることを特徴とするものである。
【0019】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、
前記成形限界取得プロセスにおける前記金属板を、前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生の有無を判定する前記プレス成形品のブランクとして用いられる金属材料から採取されたものとすることを特徴とするものである。
【0020】
(5)本発明に係るプレス成形割れ判定装置は、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するものであって、
成形限界取得ユニットと、プレス成形品割れ判定ユニットと、を含み、
前記成形限界取得ユニットは、
種々の曲げ変形度で成形した前記金属板の曲げ変形度と、該曲げ変形度で成形した前記金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される前記金属板の成形限界を取得し、
前記プレス成形品割れ判定ユニットは、
前記プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、前記プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、を前記プレス成形品における割れ判定パラメータとして算出し、該算出した割れ判定パラメータと前記成形限界取得ユニットにより取得した前記成形限界に基づいて、前記プレス成形品における割れ発生の有無を判定する、ことを特徴とするものである。
【0021】
(6)本発明に係るプレス成形割れ判定プログラムは、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するものであって、
コンピュータを、成形限界取得ユニットと、プレス成形品割れ判定ユニットと、して実行させる機能を備え、
前記成形限界取得ユニットは、
種々の曲げ変形度で成形した前記金属板の曲げ変形度と、該曲げ変形度で成形した前記金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される前記金属板の成形限界を取得し、
前記プレス成形品割れ判定ユニットは、
前記プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、前記プレス成形品における曲げ変形度として前記最大主ひずみ方向の曲率と、を前記プレス成形品における割れ判定パラメータとして算出し、該算出した割れ判定パラメータと前記成形限界取得ユニットにより取得した前記成形限界とに基づいて、前記プレス成形品における割れ発生の有無を判定する、ことを特徴とするものである。
【0022】
(7)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプレス成形割れ判定方法により、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定し、該判定した結果に基づいてプレス成形における割れ発生を抑制したプレス成形品を製造するものであって、
前記プレス成形割れ判定方法の前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生有りと判定された場合、割れ発生なしと判定されるまで、前記プレス成形品のプレス成形条件を調整して前記プレス成形割れ判定を繰り返し行うプレス成形条件調整プロセスと、
前記プレス成形品割れ判定プロセスにおいて割れ発生無しと判定されるように前記プレス成形条件調整プロセスにおいて調整されたプレス成形条件で、前記プレス成形品を製造するプレス成形品製造プロセスと、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、金属板を種々の曲げ変形度で成形し、成形した金属板の曲げ変形度と、当該曲げ変形度で成形した金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される金属板の成形限界を取得する。また、金属板をプレス成形したプレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、をプレス成形品における割れ判定パラメータとして取得する。そして、取得した割れ判定パラメータと成形限界とに基づいて、曲げ変形度の影響を考慮してプレス成形品における割れ発生の有無を判定することができる。
【0024】
また、本発明においては、金属板をプレス成形したプレス成形品について曲げ変形度の影響を考慮して割れ発生の有無を判定し、当該判定結果に基づいて、割れの発生を抑制するように金属板の形状変更や金型の修正等のプレス成形条件を調整する。これにより、実際のプレス成形において割れの発生を抑制できるプレス成形条件を決定するための期間を大幅に短縮することができる。さらに、本発明においては、調整したプレス成形条件でプレス成形することより、割れ発生を抑制したプレス成形品を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法において金属板の試験片の張出成形に用いる成形金型の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態1において、張出成形に用いたパンチの形状を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態1及び実施例において、張出成形に用いる金属板の試験片の形状を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態1において、曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみを示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態1において、曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみをプロットし、該プロットに基づいて最大主ひずみと最小主ひずみと曲げ変形度との関係で表される成形限界面を作成した結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態1に係るプレス成形割れ判定装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図9】本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法の具体的な処理を示すフロー図である。
【
図10】実施例において、成形対象としたプレス成形品の形状を示す斜視図である。
【
図11】実施例において、本発明に係る方法により求めたプレス成形品における成形限界に基づいて算出した割れ評価値のコンター図である(発明例1)。
【
図12】実施例において、本発明に係る方法により求めたプレス成形品における成形限界に基づいて算出した割れ評価値のコンター図である(発明例2)。
【
図13】実施例において、従来の成形限界線により求めたプレス成形品における成形限界ひずみに基づいて算出した割れ評価値のコンター図である。
【
図14】実施例において、プレス成形品における発明例1に係る割れ判定結果に基づいて割れを抑制するプレス成形条件を調整し、当該プレス成形条件で製造したプレス成形品における割れ評価値のコンター図である。
【
図15】実施例において、プレス成形品における発明例2に係る割れ判定結果に基づいて割れを抑制するプレス成形条件を調整し、当該プレス成形条件で製造したプレス成形品における割れ評価値のコンター図である。
【
図16】従来の成形限界試験において用いられる成形金型と成形限界線図の例を示す図である((a)中島法、(b)マルシニアック法、(c)中島法とマルシニアック法のそれぞれにより求められた成形限界線図)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態1]
<プレス成形割れ判定方法>
本発明の実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法は、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するものであって、
図1に示すように、成形限界取得プロセスP1と、プレス成形品割れ判定プロセスP3と、を含むものである。
【0027】
≪成形限界取得プロセス≫
成形限界取得プロセスP1は、金属板を種々の曲げ変形度で成形し、成形した金属板の曲げ変形度と、当該曲げ変形度で成形した金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される金属板の成形限界を取得するものである。
【0028】
本実施の形態1において、成形限界取得プロセスP1は、
図2に例示するように、先端部113aの曲率が異なる複数のパンチ113を用いて、金属板の試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形するものである。そして、成形限界取得プロセスP1は、張出成形した試験片100の曲げ変形度と、当該曲げ変形度で張出成形した試験片100の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される金属板の成形限界を取得するものである。
【0029】
パンチ113は、
図3に示すように、曲率半径Rの球面、すなわち曲率ρ(=1/R)が0よりも大きい先端部113aを有するものである。もっとも、本発明において、パンチ113は、
図16(b)に示すような、平面(曲率半径R=∞、曲率ρ=0)の先端部213aを有する平頭パンチ213を含むものとする。これにより、本発明に係るパンチ113は、曲率ρが0以上の先端部113aを有するものとする。
【0030】
試験片100には、プレス成形における各変形様式(等二軸変形、不等二軸変形、平面ひずみ変形、単軸変形)での成形限界を求めるために、
図4に例示する形状の試験片101及び試験片103を用いる。
試験片101は、
図4(a)に示すように、円板状のものであり、等二軸変形の成形限界を求めるものである。
一方、試験片103は、
図4(b)及び(c)に示すように、円板状の周縁部の直径方向に対向する位置に円弧状に切り欠いた形状の切り欠き部103aを形成したものである。そして、試験片103については、中央部103bの最も幅狭の部位の幅Wを種々に変更し、幅Wを狭くするに従い、等二軸変形から不等二軸変形、平面ひずみ変形となり、次第に単軸引張に近づけ、各変形様式での成形限界を求めるものである。
さらに、試験片100は、金属板の表面にマーキング(所定の格子又はひずみ測定用パターン)が付されたものとする。
【0031】
成形限界の指標となる曲げ変形度は、試験片100における張出成形された部位における曲げ変形の程度を表すものであり、張出成形された部位の曲率半径や曲率の実測値を曲げ変形度とすることができる。
もっとも、本実施の形態1において、曲げ変形度は、張出成形された部位の曲率半径や曲率を実測せずに、試験片100の張出成形に用いたパンチ113の先端部113aの曲率で表してもよい。
【0032】
さらに、成形限界の指標となる最大主ひずみと最小主ひずみを求める方法は特に限定されるものではなく、先端部113aの曲率が異なる複数のパンチ113を用いて測定したひずみについて、同一の基準で成形限界を求めるものであればよい。
例えば、破断が発生するまで張出成形した試験片100の破断発生部の近傍において、試験片100の表面に付したマーキングの形状から破断発生時の最大主ひずみと最小主ひずみを求めても良いし、後述する方法により求めてもよい。
【0033】
本実施の形態1に係る成形限界取得プロセスP1の具体的な態様としては、
図1に示すように、成形試験ステップS11と、成形限界解析ステップS13と、成形限界面作成ステップS15と、を含むものが例示できる。
【0034】
(成形試験ステップ)
成形試験ステップS11は、
図4に例示するような試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形し、張出成形した試験片100に生じるひずみを測定し、ひずみテータベースを構築するものである。
【0035】
本実施の形態1において、パンチ113は、
図3に示すように、先端部113aの曲率半径がR25mm、R50mm、R100mm及びR=∞(
図16(b)に示す平頭パンチ213に相当)の4種類を準備した。先端部113aの曲率(単位:1/mm)は、それぞれ、0.04、0.02、0.01及び0.00となる。
【0036】
次に、金属板として引張強度1470MPa級、板厚1.4mmの高強度鋼板の試験片100を供試材とし、試験片100の形状を決定した。
本実施の形態1では、試験片100の形状は、
図4に示すように、直径φ180mmの円形状の試験片101と、これを基準として幅方向に切り欠いた形状の試験片103とした。さらに、試験片103については、中央部103bの幅Wが25mmから160mmまでの5種類の形状とした。一例として、
図4(b)に幅Wが60mm、
図4(c)に幅Wが80mmの試験片103を示す。
このように形状を決定した試験片100の表面に、ひずみ測定用の格子状のパターン(グリッド)を転写した。
【0037】
次に、
図2に示すように、パンチ113と上型ダイ115としわ押さえ117とを備えた成形金型111を油圧方式の深絞り試験機にセットし、試験片100の張出成形を行った。本実施の形態1では、試験片100の流入を抑えるため、しわ押さえ117によりしわ押さえ力50tonを負荷し、パンチ113のパンチ速度を5mm/minとした。そして、張出成形しながら、成形金型111の上部に設置した撮影装置(図示なし)である画像解析用カメラにより試験片100の表面を撮影した。
【0038】
続いて、張出成形する過程において撮影した試験片100表面の画像を解析し、試験片100の表面に生じたひずみ量(最大主ひずみ及び最小主ひずみ)を測定した。ひずみ量を測定する方法として、デジタル画像相関法(Digital Image Correlation、以下、「DIC」という)を好適に用いることができる。
DICでは、張出成形過程における試験片100の表面を所定の時間間隔で撮像する。そして、各時間ステップで撮像した画像を画像解析し、試験片100の表面に付された格子の変形具合より試験片100に生じる面内2方向のひずみとして最大主ひずみと最小主ひずみを測定する。
このようにして張出成形過程の各時間ステップで測定したひずみ量は、時系列順にひずみデータベースに記憶した。
【0039】
続いて、張出成形過程において試験片100に破断が発生したか否かを目視にて判定した。破断が発生していないと判定された場合、張出成形を進め、試験片100の表面の撮影、画像解析によるひずみ量の測定、ひずみデータベースへの記憶を繰り返した。
このように、本実施の形態1では、成形開始から破断発生まで所定の時間間隔(例えば、1回/秒)で試験片100の表面を撮影し、撮影した各画像についてひずみ量の測定を行い、破断が発生したと判定されるまで継続した。
【0040】
破断が発生したと判定された場合、別の形状の試験片100について、張出成形と、ひずみ量の測定、ひずみデータベースへの記憶を繰り返した。
【0041】
以上の作業を、試験片100の形状、先端部113aの曲率が異なるパンチ113ごとに行い、曲げ変形度ごとに成形開始から破断までのひずみを時系列順に記録したひずみデータベースを構築した。
【0042】
(成形限界解析ステップ)
成形限界解析ステップS13は、成形試験ステップS11において構築したひずみデータベースに基づいて、試験片100の曲げ変形度ごとに、試験片100の破断発生部における最大主ひずみと最小主ひずみとで表される成形限界ひずみを求めるステップである。
【0043】
本実施の形態1において、成形限界ひずみは、以下のように求めた。
まず、成形試験ステップS11において構築したひずみデータベースから、曲げ変形度ごとに、成形開始から破断までの試験片100の破断発生部近傍の最大主ひずみと最小主ひずみを所定の時間ステップごとに抽出した。そして、曲げ変形度ごとに抽出した最大主ひずみと最小主ひずみそれぞれの時系列データを作成した。
【0044】
次に、曲げ変形度ごとに作成した最大主ひずみと最小主ひずみそれぞれの時系列データにおいて、試験片100が均一変形から不均一変形へと推移する屈曲点を決めた。そして、このひずみの屈曲点において、試験片100にネッキングが発生するものとし、そのときの最大主ひずみと最小主ひずみを該曲げ変形度における成形限界ひずみとして求めた。
このように、曲げ変形度ごとに成形限界ひずみを求めることにより、曲げ変形度と、最大主ひずみと、最小主ひずみとの関係で表される成形限界を求めた。
【0045】
表1に、本実施の形態1において、曲げ変形度を試験片100の張出成形に用いたパンチ113の先端部113aの曲率とし、曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみの値を示す。さらに、
図5に、最小主ひずみと最大主ひずみを座標軸とする2次元座標平面上に成形限界ひずみをプロットしたグラフを示す。
【0046】
【0047】
なお、本発明に係る成形限界解析ステップは、試験片100に破断が発生した時点の最大主ひずみと最小主ひずみを成形限界ひずみとして求めるものであってもよい。
【0048】
そして、成形限界ひずみは、先端部113aの曲率が異なる複数のパンチ113を用いた張出試験で測定したひずみについては、同一の判定基準で求めるものであれば、その求め方は問わない。
【0049】
(成形限界面作成ステップ)
成形限界面作成ステップS15は、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度を三軸とする三次元座標空間に、成形限界解析ステップS13において曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみをプロットするステップである。さらに、成形限界面作成ステップS15は、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度の関係で表される成形限界面を作成するステップである。
【0050】
成形限界面作成ステップS15において成形限界面を作成する方法としては、例えば、以下のものがある。
【0051】
1つ目の方法では、まず、曲げ変形度が等しい2つの成形限界ひずみのプロットを抽出する。
次に、この2つの成形限界ひずみとは曲げ変形度の異なる成形限界ひずみ群のうち当該2つの成形限界ひずみのプロットを結ぶ線分との距離が最も小さい1つの成形限界ひずみのプロットを選択する。
続いて、抽出した2つの成形限界ひずみのプロットと、選択した1つの成形限界ひずみのプロットと、により三角形平面を形成する。
このような三角形平面の作成を全ての成形限界ひずみ群のプロットについて行う。そして、作成された三角形平面を組み合わせた多角面を成形限界面とする。
【0052】
2つ目の方法では、まず、三次元座標空間に成形限界平面又は成形限界曲面を仮定し、この仮定した成形限界平面又は成形限界曲面と、成形限界ひずみのプロットとの垂直距離を算出する。そして、算出した垂直距離の二乗和が最小となるように成形限界平面又は成形限界曲面を決定する。
【0053】
3つ目の方法では、上記の2つ目の方法において、仮定した成形限界平面又は成形限界曲面と、成形限界ひずみのプロットと、の垂直距離に重み付けをした二乗和が最小となるように成形限界平面又は成形限界曲面を決定する。
重み付けの与え方としては、例えば、実際のプレス成形において割れが生じやすい曲げ変形度の成形限界については重みを大きくするとよい。これにより、決定された成形限界平面又は成形限界曲面と実際のプレス成形において割れが生じやすい曲げ変形度における成形限界ひずみのプロットとの誤差を小さくすることができる。
【0054】
なお、上記の2つ目の方法又は3つ目の方法については、複数の成形限界平面及び/又は成形限界曲面を組み合わせたものであってもよい。
例えば、最小主ひずみが負の領域と正の領域のそれぞれに成形限界平面又は成形限界曲面を仮定し、各領域について成形限界ひずみのプロットとの垂直距離の二乗和が最小となるように、成形限界平面又は成形限界曲面を決定すればよい。成形限界ひずみのプロットとの垂直距離に重みをつけた二乗和が最小となるように成形限界面を作成する場合においても同様とする。
【0055】
また、上記以外の方法として、三次元座標空間における成形限界ひずみのプロットの中で隣接する3点を選択し、選択した3点を直線で結んで三角形平面を生成し、このように生成した複数の三角形平面からなる多角面を成形限界面としてもよい。
【0056】
あるいは、曲げ変形度ごとに成形限界ひずみに基づいて成形限界線を作成し、全ての曲げ変形度について作成した成形限界線を包含する成形限界面を作成してもよい。
【0057】
本実施の形態1では、上記の2つ目の方法に基づいて成形限界面を作成した。まず、最小主ひずみが負の領域と正の領域のそれぞれについて、以下の式(1)で表される成形限界平面を仮定した。
【0058】
【0059】
次に、仮定した成形限界平面と曲げ変形度ごとの成形限界ひずみ群のプロットの垂直距離の二乗和が最小となるように、最小主ひずみが負の領域における成形限界平面Aと正の領域における成形限界平面Bのそれぞれについて式(1)中の係数を決定した。このように、式(1)中の係数を決定した成形限界平面A及び成形限界平面Bを成形限界面として作成した。
【0060】
表2に、決定した成形限界平面A及び成形限界平面Bについての式(1)中の係数を示す。さらに、
図6に、決定した係数をもとに作成した成形限界平面A及び成形限界平面Bと、実測した曲げ変形度ごとの成形限界ひずみのプロットを示す。
【0061】
【0062】
≪プレス成形品割れ判定プロセス≫
プレス成形品割れ判定プロセスP3は、プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、をプレス成形品における割れ判定パラメータとして取得する。さらに、プレス成形品割れ判定プロセスP3は、取得した割れ判定パラメータと成形限界取得プロセスP1で取得した成形限界とに基づいて、プレス成形品における割れ発生の有無を判定する。
【0063】
プレス成形品割れ判定プロセスP3の具体的な態様としては、
図1に示すように、プレス成形FEM解析ステップS31と、プレス成形割れ判定パラメータ算出ステップS33と、プレス成形割れ発生有無判定ステップS35と、を有するものがある。
【0064】
(プレス成形FEM解析ステップ)
プレス成形FEM解析ステップS31は、金属板をプレス成形品にプレス成形する過程のFEM解析を行うステップである。
【0065】
プレス成形FEM解析ステップS31におけるFEM解析により、金属板のプレス成形によりプレス成形品に生じるひずみ、応力及び板厚等の変化をFEM解析に用いる要素や節点ごとに求めることができる。
【0066】
(プレス成形割れ判定パラメータ算出ステップ)
プレス成形割れ判定パラメータ算出ステップS33は、プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、プレス成形品における曲げ変形度と、をプレス成形品における割れ判定パラメータとして算出するステップである。ここで、プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと曲げ変形度は、プレス成形FEM解析ステップS31におけるFEM解析結果に基づいて算出する。
【0067】
プレス成形品の曲げ変形度である最大主ひずみ方向の曲率は、プレス成形品の最大主ひずみ方向を特定し、最大主ひずみ方向に存在する3点から曲率を求めることができる。この方法において、最大主ひずみと最小主ひずみは、従来通り、プレス成形品のFEM解析の結果から求めることができる。
しかしながら、複雑形状のプレス成形品においては、最大主ひずみ方向の特定は手間がかかる。そこで、例えば、簡易的に以下に述べるいずれかの方法でプレス成形品の曲げ変形度を算出するとよい。
【0068】
曲げ変形度を算出する1つ目の方法は、プレス成形品の表面と裏面それぞれの最大主ひずみから算出する方法である。
プレス成形品における通常の変形形態は、曲げ変形だけでなく、他の変形形態との組み合わせである。すなわち、プレス成形品の変形形態は広義の引張曲げ状態と言える。引張曲げ変形のうち、引張変形を受けた部位のひずみは板厚方向に一定で作用し、曲げ変形を受けた部位のひずみは板厚方向に分布を持つ。そのため、プレス成形品における曲げ変形度は、曲げ変形を受けた部位の曲げ外側と曲げ内側のひずみ差を用いて表すことができる。
【0069】
一般的に、曲げ変形を受けた部位のひずみεは次式で表される。
ε=±t/2r
ここで、tは板厚、rは曲率半径であり、曲げ外側のひずみはプラス、曲げ内側のひずみはマイナスである。そして、曲率半径rは曲率ρの逆数であるため、上式から以下の式が導かれる。
ε1,outer-ε1,inner=t/r
ρ=(ε1,outer-ε1,inner)/t
ここで、
ρ:曲げ変形度
ε1,outer:曲げ外側の最大主ひずみ
ε1,inner:曲げ内側の最大主ひずみ
t:板厚
ε1,outer及びε1,innerは、プレス成形品のFEM解析により算出することができる。
【0070】
曲げ変形度を算出する2つ目の方法は、最大主曲率、すなわち、曲面上に存在する点における法線方向を含む平面で曲面の断面を作成した際に定義される曲率のうち最大の曲率を算出する方法である。
最大主ひずみ方向の曲率と、曲面上に定義される幾何学的な曲率のうち最大である最大曲率は概ね一致するため、簡易的にはこの方法で曲げ変形度を算出してもよい。
【0071】
(プレス成形割れ発生有無判定ステップ)
プレス成形割れ発生有無判定ステップS35は、プレス成形品における割れ発生の有無を判定するステップである。プレス成形品における割れ発生の有無は、プレス成形割れ判定パラメータ算出ステップS33において算出した割れ判定パラメータと、成形限界取得プロセスP1で取得した成形限界と、に基づいて判定する。
【0072】
前述したように成形限界取得プロセスP1において成形限界面を作成した場合について、プレス成形割れ発生有無判定ステップS35でのプレス成形品における割れ発生の有無を判定する具体的な手順を以下に述べる。
【0073】
まず、成形限界取得プロセスP1の成形限界面作成ステップS15で作成した成形限界面が描かれた三次元座標上に、プレス成形割れ判定パラメータ算出ステップS33で算出したプレス成形品における割れ判定パラメータをプロットする。
【0074】
そして、割れ判定パラメータのプロットが成形限界面よりも下方に位置しない、すなわち、割れ判定パラメータの最大主ひずみが、割れ判定パラメータの最小主ひずみと曲げ変形度に対応する成形限界面の最大主ひずみ以上であれば、割れの発生有りと判定する。
【0075】
これに対し、割れ判定パラメータのプロットが成形限界面よりも下方に位置する、すなわち、割れ判定パラメータの最大主ひずみが、割れ判定パラメータの最小主ひずみと曲げ変形度に対応する成形限界面の最大主ひずみ未満であれば、割れ発生無し、と判定する。
【0076】
以上、本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法においては、金属板の試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形し、試験片100の最大主ひずみ及び最小主ひずみに加えて曲げ変形度の関係で表される金属板の成形限界を取得する。また、金属板をプレス成形したプレス成形品について、最大主ひずみ及び最小主ひずみと、曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、を割れ判定パラメータとして算出する。そして、算出した割れ判定パラメータと取得した成形限界とに基づいて、プレス成形品における割れ発生の有無を判定する。これにより、従来の成形限界線では考慮されていなかった曲げ変形度の影響を考慮してプレス成形品における割れ発生の有無を判定することができる。
【0077】
なお、成形限界取得プロセスP1における金属板を、プレス成形品割れ判定プロセスP3において割れ発生の有無を判定するプレス成形品のブランクとして用いられる金属材料から採取されたものとしてもよい。プレス成形品のブランクとして用いられる金属材料のばらつき(例えば、金属材料が鋼板である場合、熱延条件、焼鈍条件等の製造条件のばらつきに起因する金属組織の変化)は、当該プレス成形品における割れ発生に影響する。このため、例えばプレス成形品の量産開始前に、実際にプレス成形品のブランクとして用いられる金属材料から成形試験ステップS11で用いる金属板を採取して成形限界を取得し、プレス成形品における割れ発生の有無を判定するとよい。これにより、量産中のプレス成形における割れ発生の事前予測の精度をより高めることができる。
【0078】
また、上記の説明において、成形試験ステップS11は、
図2に例示したように、金属板の試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形するものであった。もっとも、成形試験ステップは、金属板の試験片を張出成形するものに限らず、スクライブドサークルやグリッドを転写した金属板(ブランク)を用いて、例えば
図10に示す自動車部品を模したプレス成形品120をプレス成形するものであってもよい。
この場合、成形試験ステップにおいては、成形開始から破断までプレス成形品に生じたひずみを時系列順に記録することにより、ひずみデータベースを構築することができる。そして、プレス成形品に生じたひずみ(最大主ひずみ、最小主ひずみ)は、プレス成形品におけるスクライブドサークルやグリッドの寸法変化から取得することができる。さらに、曲げ変形度は、実際のプレス成形品における最大主ひずみ方向の曲率を測定することにより取得することができる。
【0079】
また、本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法において、プレス成形割れ発生有無判定ステップS35は、プレス成形品のプレス成形解析を行うものであった。そして、当該プレス成形解析により、割れ判定パラメータとして最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度(最大主ひずみ方向の曲率)を算出するものであった。
【0080】
もっとも、本発明において、プレス成形割れ発生有無判定ステップは、スクライブドサークルやグリッドを転写したブランクを用いてプレス成形品をプレス成形するものであってもよい。そして、プレス成形品におけるスクライブドサークルやグリッドの寸法変化から最大主ひずみ及び最小主ひずみを取得することができる。さらに、曲げ変形度は、実際のプレス成形品における最大主ひずみ方向の曲率を測定することにより取得することができる。
【0081】
実際のプレス成形品における最大主ひずみ方向の曲率を簡易的に取得する方法としては、例えば、Rゲージを用いた測定や、プレス成形品の表面形状の測定により得られる最大主ひずみ方向における3点の座標からの算出、等が挙げられる。
【0082】
また、プレス成形割れ発生有無判定ステップS35における割れ発生有無の判定は、プレス成形割れ判定パラメータ算出ステップS33において割れ判定パラメータを算出したプレス成形品の各部位について行うものであった。もっとも、プレス成形品において割れ発生が懸念される部位についてのみ割れ判定パラメータを算出し、当該部位について割れ発生の有無を判定してもよい。この場合、プレス成形解析に用いる要素ごとに割れ判定パラメータを算出し、プレス成形品における割れ発生が懸念される部位の要素ごとに割れ発生の有無を判定すればよい。
【0083】
<プレス成形割れ判定装置>
上記の説明は、プレス成形品における割れ発生の有無を判定する方法に関するものであった。もっとも、本発明は、割れ発生の有無を判定する装置として構成することもできる。
【0084】
本発明の実施の形態1に係るプレス成形割れ判定装置は、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するものである。そして、プレス成形割れ判定装置1は、
図7に一例として示すように、成形限界取得ユニット10と、プレス成形品割れ判定ユニット20と、を備えたものである。
プレス成形割れ判定装置1は、コンピュータ(PC等)のCPU(中央演算処理装置)によって構成されたものであってもよい。この場合、上記の各ユニットは、コンピュータのCPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
【0085】
≪成形限界取得ユニット≫
成形限界取得ユニット10は、種々の曲げ変形度で成形した金属板の曲げ変形度と、当該曲げ変形度で成形した金属板の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される金属板の成形限界を取得するものである。
【0086】
本実施の形態1において、成形限界取得ユニット10は、
図7に示すように、張出成形試験結果取込部11と、成形限界解析部13と、成形限界面作成部15と、を備えたものである。
【0087】
(張出成形試験結果取込部)
張出成形試験結果取込部11は、前述した
図2に示すように種々の曲げ変形度で張出成形した金属板の試験片100に生じるひずみを曲げ変形度ごとに測定した張出成形試験結果を取り込むものである。
【0088】
張出成形試験結果取込部11の具体的な構成の一例として、成形金型と、撮影装置と、ひずみ測定装置と、ひずみデータベース構築装置と、を有するものが挙げられる(図示なし)。
【0089】
成形金型は、試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形するものであり、
図2に示すように、先端部113aの曲率が異なる複数のパンチ113と、上型ダイ115と、しわ押さえ117と、有する成形金型111が例示できる。
【0090】
撮影装置は、成形金型111により格子又はひずみ解析用パターンが付された試験片100を張出成形する過程における試験片100の表面の格子又はひずみ解析用パターンの変形具合を撮影するものである。撮影装置として、2台のカメラで構成し、試験片100の表面をステレオ撮影するものが例示できる。
【0091】
ひずみ測定装置は、撮影装置により撮影した試験片100表面の画像を解析し、張出成形した試験片100の曲げ変形度ごとに、試験片100に生じるひずみを測定するものである。ひずみ測定装置は、デジタル画像相関法を用い、張出成形過程における試験片100に生じる面内2方向のひずみとして、最大主ひずみと最小主ひずみを測定するものが例示できる。
【0092】
ひずみデータベース構築装置は、ひずみ測定装置により測定したひずみを、張出成形した試験片100の曲げ変形度ごとに、成形開始から破断までの時系列順に記憶及び抽出可能に作成したひずみデータベースを構築するものである。
【0093】
(成形限界解析部)
成形限界解析部13は、張出成形試験結果取込部11により取り込んだ張出成形試験結果に基づいて、試験片100の曲げ変形度ごとに、試験片100の破断発生部における最大主ひずみと最小主ひずみとで表される成形限界ひずみを求めるものである。
成形限界解析部13は、ひずみ分布抽出装置と、成形限界取得装置と、を有するものが例示できる(図示なし)。
【0094】
ひずみ分布抽出装置は、張出成形された試験片100の曲げ変形度ごとに、試験片100の破断発生部近傍のひずみ分布をひずみデータベース構築装置により構築されたひずみデータベースから抽出するものである。
【0095】
成形限界取得装置は、ひずみ分布抽出装置により抽出したひずみ分布から、試験片100の曲げ変形度ごとに、試験片100の破断発生部における最大主ひずみと最小主ひずみとで表される成形限界ひずみを求めるものである。
【0096】
なお、成形限界解析部13による成形限界ひずみの求め方は、前述した実施の形態1に係る成形限界解析ステップと同様の方法とすることができる。
【0097】
(成形限界面作成部)
成形限界面作成部15は、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度を三軸とする三次元座標空間に、成形限界解析部13により曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみをプロットするものである。さらに、成形限界面作成部15は、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度の関係で表される成形限界面を作成するものである。
【0098】
成形限界面作成部15による成形限界面の作成は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法の成形限界面作成ステップS15で説明した方法にいずれかによるものとすることができる。
【0099】
≪プレス成形品割れ判定ユニット≫
プレス成形品割れ判定ユニット20は、プレス成形品のプレス成形解析を行い、プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、プレス成形品における曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、を割れ判定パラメータとして取得するものである。そして、プレス成形品割れ判定ユニット20は、取得した割れ判定パラメータと成形限界取得ユニット10により取得した成形限界とに基づいて、プレス成形品における割れ発生の有無を判定するものである。
【0100】
プレス成形品割れ判定ユニット20の具体的な態様としては、
図7に示すように、プレス成形FEM解析部21と、プレス成形割れ判定パラメータ算出部23と、プレス成形割れ発生有無判定部25と、を有するものを例示できる。
【0101】
(プレス成形FEM解析部)
プレス成形FEM解析部21は、金属板をプレス成形品にプレス成形する過程のFEM解析を行うものである。
【0102】
プレス成形FEM解析部21によるFEM解析により、金属板のプレス成形によりプレス成形品に生じるひずみ、応力及び板厚等の変化をFEM解析に用いる要素や節点ごとに求めることができる。
【0103】
(プレス成形割れ判定パラメータ算出部)
プレス成形割れ判定パラメータ算出部23は、プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、曲げ変形度と、をプレス成形品における割れ判定パラメータとして算出するものである。
【0104】
プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと曲げ変形度は、プレス成形FEM解析部21により得られたFEM解析結果に基づいて算出する。そして、曲げ変形度の算出は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法のプレス成形割れ判定パラメータ算出ステップS33と同様の方法に行うものとすればよい。
【0105】
(プレス成形割れ発生有無判定部)
プレス成形割れ発生有無判定部25は、プレス成形割れ判定パラメータ算出部23により算出した割れ判定パラメータと、成形限界取得ユニット10により取得した成形限界と、に基づいて、プレス成形品における割れ発生の有無を判定するものである。
【0106】
プレス成形割れ発生有無判定部25によるプレス成形品における割れ発生の有無の判定は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法のプレス成形割れ発生有無判定ステップS35と同様に行うものとすればよい。
【0107】
<プレス成形割れ判定プログラム>
本発明の実施の形態1は、コンピュータによって構成されたプレス成形割れ判定装置を機能させるプレス成形割れ判定プログラムとして構成することができる。
すなわち、本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定プログラムは、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定するものである。そして、プレス成形割れ判定プログラムは、コンピュータを、
図7に一例として示すような、成形限界取得ユニット10と、プレス成形品割れ判定ユニット20と、して実行させる機能を有するものである。
【0108】
そして、本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定プログラムは、成形限界取得ユニット10を、張出成形試験結果取込部11と、成形限界解析部13と、成形限界面作成部15と、して実行させる機能を有するものである。
この場合、張出成形試験結果取込部11は、一例として、金属板の試験片を種々の曲げ変形度で張出成形する張出成形試験により構築されたひずみデータベース構築装置におけるひずみデータベースを取り込むものとする。
【0109】
さらに、本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定プログラムは、プレス成形品割れ判定ユニット20を、プレス成形FEM解析部21と、プレス成形割れ判定パラメータ算出部23と、プレス成形割れ発生有無判定部25と、して実行させる機能を有する。
【0110】
以上、本実施の形態1に係るプレス成形割れ判定装置及びプレス成形割れ判定プログラムにおいては、最大主ひずみ及び最小主ひずみに加えて曲げ変形度の関係で表される金属板の成形限界を取得する。また、金属板をプレス成形したプレス成形品について、最大主ひずみ及び最小主ひずみと、曲げ変形度として最大主ひずみ方向の曲率と、をプレス成形品における割れ判定パラメータとして算出する。そして、算出した割れ判定パラメータと取得した成形限界とに基づいて、曲げ変形度の影響を考慮してプレス成形品における割れ発生の有無を判定することができる。
【0111】
なお、張出成形試験結果取込部は、上記のように成形金型、撮影装置、ひずみ測定装置及びひずみデータベース構築装置を有するものの代わりに、予め構築したひずみデータベースを取り込むひずみデータベース取込部(図示なし)を有するものであってもよい。この場合、ひずみデータベース取込部により取り込んだひずみデータベースに基づいて、前述した成形限界解析部と成形限界面作成部とにより成形限界面を作成するものとすればよい。
【0112】
あるいは、曲げ変形度と最大主ひずみ及び最小主ひずみとの関係で表される成形限界面が予め作成されている場合、本発明に係るプレス成割れ判定装置及びプログラムにおいて、成形限界取得ユニットは、予め作成された成形限界面を取得するものであってもよい。
【0113】
また、上記の説明において、成形限界取得ユニットは、金属板の試験片を種々の曲げ変形度で張出成形する張出成形試験により得られた成形限界を取得するものであった。もっとも、本発明において、成形限界取得ユニットは、スクライブドサークルやグリッドを転写した金属板(ブランク)をプレス成形品にプレス成形することにより得られた成形限界を取得するものであってもよい。
【0114】
[実施の形態2]
<プレス成形品の製造方法>
本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定し、判定した結果に基づいてプレス成形における割れ発生を抑制したプレス成形品を製造するものである。そして、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法において、金属板をプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定は、前述した本発明の実施の形態1に係るプレス成形割れ判定方法により行う。
【0115】
本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、
図8に示すように、成形限界取得プロセスP1と、プレス成形品割れ判定プロセスP3と、プレス成形条件調整プロセスP5と、プレス成形品製造プロセスP7と、を含む。
以下、
図9に基づいて、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法における具体的な処理を説明する。
【0116】
≪成形限界取得プロセス≫
成形限界取得プロセスP1は、前述した本実施の形態1と同様、金属板の試験片を種々の曲げ変形度で張出成形し、試験片の曲げ変形度と、試験片に生じる最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される金属板の成形限界を取得するプロセスである。
【0117】
成形限界取得プロセスP1においては、まず、
図4に示す試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形し、張出成形した試験片100に生じるひずみを測定し、ひずみテータベースを構築する(S11)。
【0118】
次に、構築したひずみデータベースに基づいて、試験片100の曲げ変形度ごとに、試験片100の破断発生部における最大主ひずみと最小主ひずみとで表される成形限界ひずみを抽出する(S13)。
【0119】
続いて、曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみを、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度を三軸とする三次元座標空間にプロットし、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度の関係で表される成形限界面を近似する(S15)。成形限界面は、例えば、前述した式(1)で表される成形限界平面を仮定し、曲げ変形度ごとに求めた成形限界ひずみのプロットとの垂直距離の二乗和が最小となる成形限界平面を決定することにしてもよい。
【0120】
なお、金属板の試験片100は、製造するプレス成形品のブランクとして用いられる金属材料から採取してもよい。製造するプレス成形品のブランクとして用いられる金属材料の成形限界を取得して成形限界面を決定することにより、プレス成形品における割れ発生の事前予測の精度をより高めることができる。
【0121】
≪プレス成形品割れ判定プロセス≫
プレス成形品割れ判定プロセスP3は、前述した実施の形態1と同様、プレス成形品について算出した割れ判定パラメータと、成形限界取得プロセスで取得した成形限界と、に基づいて、プレス成形品における割れ発生の有無を判定するプロセスである。
【0122】
プレス成形品割れ判定プロセスP3においては、
図9に示すように、まず、プレス成形品をプレス成形する暫定プレス成形条件を設定する(S31a)。
【0123】
次に、設定した暫定プレス成形条件でプレス成形品をプレス成形する過程のプレス成形解析を行う(S31b)。そして、プレス成形品における最大主ひずみ及び最小主ひずみと、曲げ変形度と、をプレス成形品における割れ判定パラメータとして算出する(S33)。
【0124】
続いて、最大主ひずみ、最小主ひずみ及び曲げ変形度を座標軸とし、成形限界面が描かれた三次元座標上に、算出した割れ判定パラメータをプロットする(S35a)。
そして、プロットした割れ判定パラメータが、成形限界面よりも下方の領域に位置するか否かを判定する(S35b)。
【0125】
割れ判定パラメータが成形限界面の下方に位置すると判定された場合、割れ発生無し、と判定する(S35c)。
これに対し、割れ判定パラメータが成形限界面の下方に位置しないと判定された場合、割れ発生有り、と判定する(S35d)。
【0126】
≪プレス成形条件調整プロセス≫
プレス成形条件調整プロセスP5は、プレス成形品割れ判定プロセスP3において割れ発生有りと判定された場合、割れ発生なしと判定されるまで、プレス成形品のプレス成形条件を調整してプレス成形品割れ判定プロセスP3を繰り返し行うプロセスである。
【0127】
まず、プレス成形品割れ判定プロセスP3において、割れ判定パラメータが成形限界面の下方に位置しない場合(S35b)、割れ発生有り(S35d)と判定される。この場合、プレス成形条件調整プロセスP5においては、プレス成形品の暫定プレス成形条件を変更する(S51)。
【0128】
暫定プレス成形条件の変更は、例えば、ダイ、パンチ及びしわ押さえ(ブランクホルダー)から構成されるプレス成形金型を用いてプレス成形品を絞り成形する場合、ブランクサイズの変更やブランク形状の変更、金型形状(ダイ肩半径、パンチ肩半径)の修正、しわ押さえ力及びダイとしわ押さえに接触するブランクの潤滑、等について行う。
ブランクサイズの変更やブランク形状の変更は、例えば、しわ押さえ力を小さくするように暫定プレス成形条件を調整してプレス成形中にブランクに作用する張力を最適化し、ブランクの材料流動の流入抵抗を調整するように行うとよい。
また、ブランクが張力を受けながら曲げ・曲げ戻し変形を受けるダイ肩部やパンチ肩部では、板厚減少が急激に促進され割れに至りやすく、材料流動に影響するため、プレス成形金型の形状を変更してダイ肩半径及びパンチ肩半径を調整するとよい。さらに、ダイとしわ押さえに接触するブランクを潤滑することにより、絞り限界を調整してもよい。
【0129】
そして、暫定プレス成形条件を変更した後(S51)、プレス成形割れ判定プロセスP3において、変更した暫定プレス成形条件にてプレス成形解析を行う(S31b)。さらに、前述したように、割れ判定パラメータの算出(S33)、成形限界面が描かれた三次元座標上への割れ判定パラメータのプロット(S35a)、割れ発生有無の判定(S35b)を行う。
【0130】
これに対し、プレス成形品割れ判定プロセスP3において、割れ判定パラメータが成形限界面の下方に位置する場合(S35b)、割れ発生無し(S35c)と判定される。この場合、プレス成形条件調整プロセスP5においては、割れ発生無しと判定された暫定プレス成形条件をプレス成形条件として確定し(S53)、プレス成形条件の調整を終了する(S55)。
【0131】
プレス成形条件調整プロセスP5におけるプレス成形条件の調整(暫定プレス成形条件の変更)は、プレス成形品割れ判定プロセスP3において、プレス成形品の全領域において割れ発生無しと判定されるまで行う。
【0132】
≪プレス成形品製造プロセス≫
プレス成形品製造プロセスP7は、プレス成形品割れ判定プロセスP3において割れ発生無しと判定されるようにプレス成形条件調整プロセスP5において調整されたプレス成形条件で、プレス成形品を製造するプロセスである。
【0133】
プレス成形品製造プロセスP7においては、
図9に示すように、プレス成形品割れ判定プロセスP3において割れ発生無しと判定されたプレス成形条件を確定し(S53)、プレス成形条件の調整が終了した後に(S55)、プレス成形品を製造する。
【0134】
調整が終了したプレス成形条件にて実際にプレス成形品を製造するには、以下のようにプレス成形機の設定等を変更すればよい。
例えば、プレス成形条件としてしわ押さえ力を調整する場合、プレス成形機の空圧式ダイクッション(補助圧力装置)の空気圧の制御盤での設定値を変更すればよい。
また、プレス金型形状(ダイ肩半径、パンチ肩半径)を調整する場合、プレス成形解析(S31b)に用いた成形金型(モデル)の形状データを、NC工作機械と連携したCAD/CAMプログラムに入力し、NC加工用のNCデータ(NCプログラム)に変換する。そして、変換したNCデータ(NCプログラム)を用いて、NC工作機械により鋼材製金型、またはフルモールド鋳造法による発泡スチロール製の鋳造用金型模型を機械加工すればよい。
さらに、ダイとしわ押さえに接触するブランクの潤滑を調整する場合、潤滑油の種類の変更(粘度増加、極圧添加剤の添加)、ポリエチレンフィルム等の高分子フィルムの挿入、等を行えばよい。
【0135】
以上、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法においては、金属板のプレス成形において、曲げ変形を考慮して割れ発生の有無を判定した結果に基づいて、割れ発生を抑制するようにプレス成形条件を調整する。これにより、実際のプレス成形品のプレス成形条件を試行錯誤により決定する期間を大幅に短縮できる。さらに、このように調整したプレス成形条件により、割れ発生を抑制してプレス成形品を製造することができる。
【実施例0136】
本発明に係るプレス成形割れ判定方法及びプレス成形品の製造方法の作用効果を検証する実験及び解析を行ったので、以下、これについて説明する。
【0137】
本実施例では、金属板の試験片を種々の曲げ変形度で張出成形する成形試験により作成した成形限界面に基づいて、ドロー成形によりプレス成形したプレス成形品における割れ発生の有無を判定した。
さらに、本実施例では、割れ発生の有無を判定した結果に基づいて割れ発生を抑制するようにプレス成形条件を調整し、調整したプレス成形条件でプレス成形品を製造したときの割れ抑制効果を検証した。
【0138】
まず、実施の形態1で述べたように、先端部113aの曲率が異なる複数のパンチ113を備えた成形金型111を用いて、金属板の試験片100を種々の曲げ変形度で張出成形した(
図2参照)。そして、張出成形した試験片100の曲げ変形度と、当該曲げ変形度で張出成形した前記試験片100の最大主ひずみ及び最小主ひずみと、の関係で表される金属板の成形限界を取得した。ここで、試験片100は、引張強度1470MPa級、板厚1.6mmの鋼板を供試材とした。
【0139】
本実施例では、成形限界として、実施の形態1で説明した式(1)で表される成形限界面を取得した。式(1)中の係数a~dの値は、前掲した表2に示す値を用いた。
【0140】
次に、
図10に示す自動車部品を模したプレス成形品120をプレス成形する過程のFEM解析を行い、プレス成形品120における割れ発生の有無を判定した。
【0141】
プレス成形品120のプレス成形には、前述した実施の形態1で説明した成形限界を取得するための成形試験と同様に、引張強度1470MPa級、板厚1.6mmの鋼板をブランクとした。さらに、プレス成形品120の成形工程はドロー成形と、しわ押さえ力は1~10tonの範囲内で設定した。
【0142】
そして、FEM解析により、プレス成形品120のFEM解析に用いた要素ごとに、割れ判定パラメータとして最大主ひずみ及び最小主ひずみと曲げ変形度とを算出した。
本実施例では、曲げ外側の最大主ひずみと曲げ内側の最大主ひずみとの差を板厚で除したものを曲げ変形度とした場合を発明例1、最大主曲率を曲げ変形度とした場合を発明例2とした。
発明例1及び発明例2のそれぞれについて、プレス成形品120の各部位について割れ判定の評価値を算出した。割れ判定の評価値は、しわ押さえ力10tonでプレス成形したプレス成形品120の各部位の最小主ひずみ及び曲げ変形度から最大主ひずみの限界値を算出し、FEM解析から得られる最大主ひずみを限界最大主ひずみで除した値とした。ここで割れ判定の評価値が1未満の領域は、FEM解析から得られる判定パラメータが成形限界面の下方に位置する場合に相当し、割れ発生無しと判定する。また、割れ判定の評価値が1以上の領域は、FEM解析から得られる判定パラメータが成形限界面の下方に位置しない場合に相当し、割れ発生有りと判定する。
【0143】
さらに、比較対象として、曲げ変形度を考慮せず、最大主ひずみ及び最小主ひずみに基づいて割れ発生の有無を判定した(従来例)。
そして、従来例のプレス成形品120の各部位について、割れ判定の評価値を求めた。従来例の割れ判定の評価値は、しわ押さえ力10tonでプレス成形したプレス成形品の各部位の最小主ひずみから最大主ひずみの限界値を算出し、FEM解析から得られた最大主ひずみを限界最大主ひずみで除した値とした。
【0144】
図11に、発明例1における割れ判定の評価値のコンター図を、
図12に、発明例2における割れ判定の評価値のコンター図を示す。また、
図13に、従来例における割れ判定結果のコンター図を示す。なお、
図13は、割れ判定の評価値が1以上の領域を割れ発生有りの領域とし、1未満の領域を割れ発生無しの領域として表したコンター図である。
【0145】
図11及び
図12に示すように、発明例1及び発明例2においては、プレス成形品120のパンチ底部121の平坦部121aである部位αにおいて評価値が1.04及び1.06であった。したがって、評価値が1以上であることから、部位αにおいて割れが発生すると判定された。また、プレス成形品120のその他の部位(部位β等)においては、評価値が1未満であることから割れが発生無しと判定された。
これに対し、
図13に示すように、従来例においては、プレス成形品120の全体において評価値が1未満であることから割れ発生なしと判定され、発明例1及び発明例2とは異なる判定結果となった。
【0146】
実際のプレス成形品120のプレス成形においては、パンチ底部121の平坦部121aにおいて割れが発生し、その他の部位においては割れの発生が見られなかった。このことから、発明例1及び発明例2においては、割れ発生の有無を良好に判定できることが分かった。
【0147】
このように、本発明に係るプレス成形割れ判定方法によれば、従来の成形限界線では考慮されていなかった曲げ変形度の影響を考慮してプレス成形品における割れ発生の有無を精度良く判定できることが示された。
【0148】
次に、
図11及び
図12に示すように判定された割れパラメータに基づいて、ドロー成形によるプレス成形品120の製造において割れ発生が生じないようにしわ押さえによるしわ押さえ力を10tonfから1tonfへと変更した。そして、しわ押さえ力を変更したプレス成形条件でのFEM解析を行い、プレス成形品120について割れ判定パラメータを算出した。
図14及び
図15に、算出した割れ判定パラメータを用いて求めた割れ判定の評価値をプレス成形品120に表示したコンター図を示す。
図14は、前述した発明例1と同様、プレス成形品120における曲げ外側の最大主ひずみと曲げ内側の最大主ひずみとの差を板厚で除した値を曲げ変形度として割れ判定パラメータを算出したものである。
これに対し、
図15は、前述した実施例2と同様、プレス成形品120における最大主曲率を曲げ変形度として割れ判定パラメータを算出したものである。
【0149】
図14及び
図15に示すように、しわ押さえ力を1tonfに変更することで、プレス成形品120の平坦部121aにおける評価値の最大値は1未満に低下した。他の部位においても評価値が1以上となることはなかった。このことから、プレス成形品120においては割れの発生が抑制されたことを示している。
さらに、上記のとおりしわ押さえ力を1tonfとしたプレス成形条件でプレス成形品120を実際に製造したところ、プレス成形品120に割れが発生しなかったことが確認された。
【0150】
このように、本発明に係るプレス成形品の製造方法によれば、曲げ変形度の影響を考慮して割れ発生の有無を判定した結果に基づいて、割れ発生を抑制するようにプレス成形条件を調整することにより、割れ発生を抑制してプレス成形品を製造できることが示された。