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特開2024-54847酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼの溶液中安定化法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054847
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼの溶液中安定化法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/573 20060101AFI20240410BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240410BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01N33/573 A
G01N33/531 B
C12N9/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172412
(22)【出願日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2022160886
(32)【優先日】2022-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒井 智
(57)【要約】
【課題】溶液中において酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5b(TRACP-5b)を安定的に保管できる方法を見出す。
【解決手段】TRACP-5bを溶液中で保管する際、溶液にモリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させることによって、TRACP-5bの酵素反応性および抗体反応性における安定性を大きく向上させることが可能となる。このことにより、溶液状態での中長期間の常温保管であっても、酒石酸抵抗性ホスファターゼを失活させることなくTRACP-5bを安定状態で保存流通させることが可能になる。さらに、溶液状態での保管が可能となることから、凍結乾燥品のような使用前の溶解操作も不要となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン化合物またはタングステン化合物を含有する酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液。
【請求項2】
モリブデン化合物が、モリブデン、モリブデン酸塩、りんモリブデン酸、酸化モリブデンおよび塩化モリブデンから選ばれる1種または2種以上である、請求項1記載の酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液。
【請求項3】
タングステン化合物が、タングステン、タングステン酸塩、りんタングステン酸および酸化タングステンから選ばれる1種または2種以上である、請求項1記載の酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液。
【請求項4】
酵素反応または抗原抗体反応を利用した測定法によりサンプル中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bを測定するためのキットであって、標準溶液として、モリブデン化合物またはタングステン化合物を含有する酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液が添付されていることを特徴とする、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5b測定用キット。
【請求項5】
酵素反応または抗原抗体反応を利用した測定法が、酵素活性測定法(Enzyme activity assay)、免疫選択的酵素活性測定(Immunoselective enzyme activity assay:ISEA)、酵素結合免疫吸着測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、化学発光酵素免疫測定法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay:CLEIA)またはラテックス光学測定法(Latex photometric immunoassay:LPIA)による測定法である、請求項4記載のキット。
【請求項6】
溶液中で、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bと、モリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させることにより、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの酵素活性および/または抗体反応性を安定化させる方法。
【請求項7】
モリブデン化合物が、モリブデン、モリブデン酸塩、りんモリブデン酸、酸化モリブデンおよび塩化モリブデンから選ばれる1種または2種以上である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
タングステン化合物が、タングステン、タングステン酸塩、りんタングステン酸および酸化タングステンから選ばれる1種または2種以上である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
溶液中で、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bと、モリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させた後、さらに当該溶液を25~37℃で8~48時間の条件で前処理することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、溶液中における酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼの安定化法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清中に存在するホスファターゼには、前立腺由来酸性ホスファターゼ、破骨細胞由来酸性ホスファターゼ、赤血球由来酸性ホスファターゼ、血小板由来酸性ホスファターゼなどの種々の由来のものが知られている。とくに、反応中に酒石酸を添加した場合においても、その酵素活性が阻害されない、血清中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼは、Tartrate-resistant Acid Phosphatase 5(TRACP-5)と呼ばれる。
【0003】
TRACP-5はさらに、35-37kDaのモノマーとして発現するものと、約23kDaと約16kDaの2つのサブユニットがジスルフィド結合したものがあり、前者はTRACP-5a、後者はTRACP-5bとに分類される。以下、本明細書では、酒石酸抵抗性ホスファターゼ含有5aを「TRACP-5a」、酒石酸抵抗性ホスファターゼ含有5bを「TRACP-5b」と表現する場合がある。
【0004】
酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼのうち、TRACP-5aはマクロファージ等に、TRACP-5bは破骨細胞に由来する。中でもTRACP-5bは破骨細胞の機能を評価するための指標、たとえば骨吸収のマーカーとして重要と考えられていることから、TRACP-5aおよびTRACP-5bのうち、TRACP-5bを選択的に測定する方法がこれまで検討されてきた。
【0005】
また、TRACP-5bを選択的に測定する方法としては、TRACP-5bの酵素活性を測定する方法と、TRACP-5bの濃度を定量する方法が存在する。酵素活性を測定する方法としては、測定対象試料と酵素基質を直接反応させる酵素活性測定法や、測定対象試料と抗TRACP-5b抗体を反応させて、試料中のTRACP-5bを抗体で捕捉したところに酵素基質を反応させる免疫選択的酵素活性測定(Immunoselective enzyme assay、ISEA)がある。一方で、TRACP-5bの濃度を定量する方法としては、2種類の抗TRACP-5b抗体を用いたサンドイッチELISA法による方法などがある。
【0006】
そして、上記のようなTRACP-5bを選択的に測定する方法に用いる標準物質を得る方法としては、生体由来のTRACP-5bを大腿骨骨頭部から抽出する方法や(特許文献1)、リコンビナントタンパク質のTRACP-5bをカイコ絹糸腺から得る方法(特許文献2)などがある。また、リコンビナントTRACP-5aをカテプシンKやカテプシンLなどのシステインプロテアーゼを用いて切断し、TRACP-5bを得る方法もある。(非特許文献1)
【0007】
TRACP-5bの測定法における標準物質には、長期的な安定性が求められる。ユーザビリティーの観点からは、溶液中で長期的な安定性を示すことが求められるが、現在市販されているTRACP-5b測定法における標準物質は、凍結乾燥品が主流であり(ニットーボーメディカル社の「オステオリンクスTRAP-5b」、IDL社の「Bone Trap」など)、使用時に水で溶解する操作の煩雑さや、溶解後の安定性の低さ、溶解時に用いる水量の誤差による精度低下などの問題を有していることから、溶液状での安定性向上が切望されている。
【0008】
また、TRACP-5bの酵素活性を測定する方法においては酵素活性の安定化、抗体で捕捉したTRACP-5bの酵素活性を測定する方法においては酵素活性と抗体反応性の両方の安定化、抗体を用いてTRACP-5濃度を定量する方法においては、抗体反応性の安定化が求められるが、酵素活性と抗体反応性を同時に安定化させる方法は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-26805
【特許文献2】WO2008/081992
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proteolytic excision of a repressive loop domain in tartrate-resistant acid phosphatase by cathepsin K in osteoclasts. J Biol Chem. 2005 Aug 5; 280 (31): 28370-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本願発明の課題は、溶液中において酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5b(TRACP-5b)を安定的に保管できる方法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を本願発明者は鋭意検討を行った結果、TRACP-5bを溶液中で保管する際、溶液にモリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させることによって、TRACP-5bの酵素反応性および抗体反応性における安定性を大きく向上させることが可能であることを見出し、本願発明を完成させた。
【0013】
すなわち本願発明は、モリブデン化合物またはタングステン化合物を含有する酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液であり、また、酵素反応または抗原抗体反応を利用した測定法によりサンプル中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bを測定するためのキットであって、標準溶液として、モリブデン化合物またはタングステン化合物を含有する酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液が添付されていることを特徴とする、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5b測定用キットに関するものであり、さらに、溶液中で、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bと、モリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させることにより、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの酵素活性および/または抗体反応性を安定化させる方法に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、TRACP-5bの酵素活性および抗体反応性を、モリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させない場合に比べて、大きく安定化させることができる。このことにより、溶液状態での中長期間の常温保管であっても、酒石酸抵抗性ホスファターゼを失活させることなくTRACP-5bを安定状態で保存流通させることが可能になるとともに、測定時の反応も常温はもちろん、全自動免疫測定機で適用される37℃~42℃の温度帯でも支障なく行うことができる。
【0015】
さらに、溶液状態での保管が可能となることから、凍結乾燥品のような使用前の溶解操作が不要となり、溶解後の急激な活性低下の懸念もなくなることから、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの免疫学的測定・酵素学的測定の操作性、汎用性を従来よりも向上させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明は、溶液中で、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bと、モリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させることにより、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの酵素活性および/または抗体反応性を安定化させる方法に関する。
【0017】
また、本願発明は、モリブデン化合物またはタングステン化合物を含有する酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液に関する。
【0018】
また、本願発明は、酵素反応または抗原抗体反応を利用した測定法によりサンプル中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bを測定するためのキットであって、標準溶液として、モリブデン化合物またはタングステン化合物を含む酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b溶液が添付されていることを特徴とする、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5b測定用キットに関する。
【0019】
本願発明における酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b(TRACP-5b)は、生体組織から単離精製されたネイティブのタンパク質であっても、組換えDNA技術を用いて調製したリコンビナントタンパク質であっても使用可能である。組換えDNA技術を用いたリコンビナントTRACP-5bの調製は、公知の方法に従って行うことができる。公知の方法としては例えば非特許文献1や、特許文献2に記載の方法などを挙げることができる。
【0020】
すなわち、リコンビナントTRACP-5bの調製方法の一例として、組換えDNA技術を用いてTRACP-5bを微生物や昆虫細胞などに直接発現させ、これを得ることができるほか、TRACP-5aを合成し、当該リコンビナントTRACP-5aのループドメイン部位をプロテアーゼを用いて切断、2つのサブユニットに分離することで、リコンビナントTRACP-5bを得ることもできる。
【0021】
リコンビナントTRACP-5aの切断に用いる前記プロテアーゼとしては、システインプロテアーゼを用いることができる。システインプロテアーゼの具体例としては、カテプシンK、カテプシンL、パパインなどを挙げることができ、中でもカテプシンKまたはカテプシンLを用いることが好ましい。プロテアーゼによる切断後は、TRACP活性の至適pHがアルカリ側へシフトしていること、比活性が切断前に比べて高くなっていることを以て、TRACP-5b活性を有することを確認することができる。また、プロテアーゼによる切断後に還元処理してSDS電気泳動を行うことにより2つのサブユニットの形成を確認できることを以て、TRACP-5bの生成を確認することができる。
【0022】
本明細書においては、上記手順によって調製され、TRACP-5b活性を有することが確認された酵素を総称して「リコンビナントTRACP-5b」と記載する。好ましくは、TRACP-5aを合成し、当該リコンビナントTRACP-5aのループドメイン部位をプロテアーゼを用いて切断して得られるTRACP-5bのことを指し、中でも、より好ましくはプロテアーゼとしてシステインプロテアーゼを用いて調製されたもの、さらに好ましくは、システインプロテアーゼとしてカテプシンK、カテプシンLまたはパパインを用いて調製されたものを言う。
【0023】
本願発明は、TRACP-5bを、モリブデン化合物またはタングステン化合物と共存させることを特徴とする。
【0024】
モリブデン化合物としては、水溶性の形態のものを使用することができ、例えば、モリブデン標準液のようなモリブデン単体や、モリブデンを含む化合物であるモリブデン酸塩、りんモリブデン酸、酸化モリブデン、塩化モリブデンなどを挙げることができる。モリブデン酸塩としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウムなどのような水溶性モリブデン酸塩を用いるのが好ましい。また、これらの化合物の任意の水和物や溶媒和物であっても良い。中でも、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムのような水溶性モリブデン酸塩またはりんモリブデン酸であることが好ましい。なお、モリブデン化合物は、例えば上記に挙げた中から1種のみを用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
タングステン化合物としては、水溶性の形態のものを使用することができ、例えば、タングステン標準液のようなタングステン単体や、タングステンを含む化合物であるタングステン酸塩、りんタングステン酸、酸化タングステンなどを挙げることができる。タングステン酸塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウムなどのような水溶性タングステン酸塩を用いるのが好ましい。また、これらの塩の任意の水和物や溶媒和物であっても良い。また、これらの塩の任意の水和物や溶媒和物であっても良い。中でも、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウムのような水溶性タングステン酸塩またはりんタングステン酸であることが好ましい。なお、タングステン化合物は、例えば上記に挙げた中から1種のみを用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
溶液中のモリブデン化合物またはタングステン化合物の使用濃度は、特に制限されるものではないが、TRACP-5b含有溶液中、0.05~50mMの範囲から設定することができ、好ましくは0.05~30mMの範囲であってもよく、より好ましくは0.1~20mMの範囲であってもよく、さらに好ましくは0.1~10mMの範囲であっても良い。
【0027】
また、TRACP-5b溶液中には、モリブデン化合物またはタングステン化合物のほかに、スクロース、トレハロース、マンニトール、デキストランなどの糖類を添加してもよい。モリブデン化合物またはタングステン化合物に加えて糖類をさらに共存させることにより、安定化作用をより高めることが可能となる。
【0028】
TRACP-5b溶液中には、上記に加えて、さらに、ウシ血清アルブミン、フィッシュゼラチン、ウシ乳由来カゼインなどの共存タンパク質や、ポリビニルプロピレンなどのようなブロッキング効果を有する合成ポリマーを添加してもよいし、添加しなくてもよい。
【0029】
本願発明の酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b含有溶液の調製に用いる希釈液のpHは、特に制限されるものではないが、pH5.0~pH9.0が好ましく、特にpH6.0~7.5が好ましい。
【0030】
本願発明の酒石酸抵抗性ホスファターゼ5b含有溶液の調製は、水またはMESなどの緩衝液に、モリブデン化合物(例えば、モリブデン酸ナトリウムなど)またはタングステン化合物(例えば、タングステン酸ナトリウム)を前記濃度になるように溶解したのち、酒石酸抵抗性ホスファターゼ5bを所定量(例えば、1~1000ng/mL)溶解することで実施することができる。なお、溶解する順番は、特に制限されるものではなく、酒石酸抵抗性ホスファターゼ5bを先に溶解してもよく、あるいは同時であってもかまわない。
【0031】
本願発明の酒石酸抵抗性ホスファターゼ含有溶液は、調製した後、保管の前に25~37℃で8~48時間ほど置き、温度負荷による前処理を行っても良い。当該前処理を行うことにより、酒石酸抵抗性ホスファターゼ活性を上昇させることができ、例えばISEA法による測定で、保管後の安定化効果をより強くすることができる場合がある。
【0032】
本願発明の酒石酸抵抗性ホスファターゼ含有溶液は、ボトルやアンプルなど各種の容器に充填し、保管することができる。容器の素材としては、強度などの点から流通に適し、タンパク質等を過度に吸着しない素材であれば任意のものを使用することができ、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂や、必要に応じて表面がシリコンコートされたガラスなどを使用することができる。
【0033】
このようにして調製した酒石酸抵抗性ホスファターゼ含有溶液は、抗原抗体反応を利用した免疫学的手法によりサンプル中の酒石酸抵抗性ホスファターゼ5bを測定するためのキットの酒石酸抵抗性ホスファターゼ5bの標準溶液として有用である。
【0034】
本願発明のキットは、酵素活性測定法(Enzyme activity assay)、免疫選択的酵素活性測定(Immunoselective enzyme activity assay:ISEA)、免疫比濁法(Turbidimetric immunoassay:TIA)、免疫比朧法(Nephelometric immunoassay:NIA)、酵素免疫測定法(Enzyme immunoassay:EIA) 酵素結合免疫吸着測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、蛍光免疫測定法(Fluoro immunoassay:FIA)、ラテックス光学測定法(Latex photometric immunoassay:LPIA)、化学発光測定法(Chemiluminescent immunoassay:CLIA)、化学発光酵素免疫測定法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay:CLEIA)、電気化学発光測定法(Electrochemiluminescent immunoassay:ECLIA)、ラジオイムノアッセイ(Radio immunoassay:RIA)などの測定キットであってもよく、中でも、TRACP-5bの酵素活性を測定する方法としては酵素活性測定法(Enzyme activity assay)、免疫選択的酵素活性測定(Immunoselective enzyme activity assay:ISEA)によるものであることが好ましく、TRACP-5bの濃度を定量する方法としては酵素結合免疫吸着測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、化学発光酵素免疫測定法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay:CLEIA)またはラテックス光学測定法(Latex photometric immunoassay:LPIA)によるものであることが好ましい。
【0035】
キットの構成としては、採用したアッセイに適する試薬を適宜含有すればよいが、本願発明のモリブデン化合物またはタングステン酸化合物を共存させた酒石酸抵抗性ホスファターゼ含有溶液を標準溶液として含むほか、必要に応じて抗TRACP-5b抗体を結合した固相化担体、標識抗TRACP-5b抗体、標識第2抗体、酵素反応基質液、酵素反応停止液、洗浄液などが添付されてもよい。
【0036】
酵素活性測定法、免疫選択的酵素活性測定(ISEA)における酵素基質は、酸性ホスファターゼの活性測定に使用できるものであればよく、p-Nitrophenylphosphoric Acid Disodium Salt(p-NPP)、2-Chloro-4-nitrophenyl phosphate(CNPP、BOC Scientific)、9-(4-Chlorophenyl Thiophosphoryl Oxymethylene)-10-methyl acridan,disodium salt(APS-5、Lumigen社)、Disodium 3-(4-methoxyspiro {1,2-dioxetane-3,2’-(5’-chloro)tricycle [3.3.1.1(3,7)]decan}-4-yl) phenyl phosphate(CSPD、Thermo Fisher SCIENTIFIC社)、Disodium 4-chloro-3-(methoxyspiro {1,2-dioxetane-3,2’-(5’-chloro)tricyclo[3.3.1.1(3,7)]decan}-4-yl) phenyl phosphate(CDP-Star、Thermo Fisher SCIENTIFIC社)、Disodium 3-(4-methoxyspiro {1,2-dioxetane-3,2’-tricyclo[3.3.1.1(3,7)]decan}-4-yl) phenyl phosphate(AMPPD、Tropix社)、4-methoxy-4-(3-phosphatephenyl)spiro [1,2-dioxetane-3,2’-adamantane], disodium salt(Lumigen PPD、Lumigen社)などを挙げることができる。あるいは、アクセス基質液(ベックマン・コールター社)、ルミホス530及びルミホス430(富士フィルム和光純薬)のような、4-methoxy-4-(3-phosphatephenyl)spiro [1,2-dioxetane-3,2’-adamantane], disodium saltを成分として含む発光基質溶液や、粉末状の4-methoxy-4-(3-phosphatephenyl)spiro [1,2-dioxetane-3,2’-adamantane], disodium salt(BOC Scientific社)を任意のバッファー、例えば2-Amino-2-methyl-1-propanolバッファー(0.75M, pH 9.6)などに溶かして用いる場合などを挙げることができる。
【0037】
溶液中で、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bと、モリブデン化合物またはタングステン化合物を共存させる本願発明の方法により、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの酵素活性および/または抗体反応性を安定化させることができる。
【0038】
酵素活性を安定化させるとは、ISEAや酵素活性測定法による酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの測定において、TRACP-5b含有溶液を37℃で7日間保管したとしても、モリブデン化合物またはタングステン化合物を添加しなかった場合と比較して、測定値の低下が抑制され、活性測定に十分使用可能な活性が維持されていることをいう。より限定された例としては、その測定値(RLUまたは吸光度)が、温度負荷による前処理の有無にかかわらず、保管前における測定値と比べて55%以上保たれていることを指す。
【0039】
抗体反応性を安定化させるとは、ELISAによる酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bの測定において、TRACP-5b含有溶液を37℃で7日間保管したとしても、モリブデン化合物またはタングステン化合物を添加しなかった場合と比較して、測定値の低下が抑制され、活性測定に十分使用可能な活性が維持されていることをいう。より限定された例としては、その測定値(吸光度)が、温度負荷による前処理の有無にかかわらず、保管前における測定値と比べて60%以上保たれていることを指す。
【実施例0040】
以下、本願発明を実施例等により説明するが、本願発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、本実施例中では、例えば「Day1サンプル測定時の吸光度」や「Day1サンプル測定時のRLU値」を、単に「Day1」と略して記載する場合がある。
【0041】
(実施例1)金属化合物によるリコンビナントTRACP-5bの安定化効果の検証(1)
(1-1)リコンビナントTRACP-5bの調製
リコンビナントTRACP-5bの調製は、非特許文献1記載の方法を参考に、下記のように実施した。
【0042】
ヒト型リコンビナントTRACP-5a遺伝子を組み込んだバキュロウィルスを昆虫細胞Sf-9に感染させ、培養上清中にコンビナントTRACP-5aを分泌させた。培養上清を陽イオン交換カラムクロマトグラフィーで精製してリコンビナントTRACP-5aを得た。一方で、ヒト型リコンビナントカテプシンK遺伝子を組み込んだバキュロウィルスを昆虫細胞Sf-9に感染させ、培養上清中にリコンビナントカテプシンKを分泌させた。培養上清を陽イオン交換カラムクロマトグラフィーで精製してリコンビナントカテプシンKを得た。
【0043】
以上のようにして得たリコンビナントTRACP-5aとリコンビナントカテプシンKを用いて、リコンビナントTRACP-5bの作製を行った。酸性pH下で活性化させたリコンビナントカテプシンKとリコンビナントTRACP-5aを混合して37℃で2時間反応させ、TRACP-5aを切断してTRACP-5bを生成させた。プロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク)を加えてカテプシンKの反応を停止したあと、抗TRACP-5抗体RTP15A4(自社)を結合させた抗体カラムで精製し、リコンビナントTRACP-5bを得た。
【0044】
還元処理してSDS-PAGEを実施したところ、約23kDaと約16kDaの2つのサブユニットのバンドを検出し、酵素活性測定により切断前に比べて比活性が上昇し、かつ至適pHピークが上昇することから、TRACP-5bであることを確認できた。
【0045】
(1-2)安定性評価用サンプルの調製および測定
pH6.0の希釈液とpH7.4の希釈液に金属化合物を添加し、さらにリコンビナント ヒトTRACP-5bを20ng/mLになるように加えて安定性評価用サンプルとした。pH6.0の希釈液の組成は、1% BSA、50mM MES、0.05% Tween 20、0.1% Proclin950とした。pH7.4の希釈液の組成は、1% BSA、50mM HEPES、0.05% Tween 20、0.1%Proclin950を用いた。
【0046】
評価に用いる金属化合物は、塩化コバルト(II)六水和物、塩化マンガン(II)四水和物、塩化鉄(III)六水和物、塩化亜鉛、塩化ガリウム(III)、モリブデン(VI)酸二ナトリウム四水和物、塩化マグネシウム六水和物を用いた。金属化合物を添加しない希釈液についても安定性評価用サンプルを作製した。
【0047】
それぞれの安定性評価用サンプルをポリプロピレンチューブに分注し、37℃処理を加えないサンプル(Day0サンプル)、37℃処理を1日間加えたサンプル(Day1サンプル)、同じく7日間加えたサンプル(Day7サンプル)を得た。いずれのサンプルとも、処理直後に凍結保存し、ELISAとISEAによる測定の直前に融解して用いた。
【0048】
ELISAおよびISEAのプロトコールは下記の通りとした。
【0049】
(ELISAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェルマイクロプレートに固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μL/となるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、0.1% Proclin950とした。0.05% Tween20、10mM HEPES(pH7.0)、150mM NaClで洗浄後、ビオチン標識抗TRACP-5モノクローナル抗体RTP1C6(自社製)を100μL添加して、37℃で30分撹拌して反応させた。0.05% Tween20、10mM HEPES(pH7.0)、150mM NaClで洗浄後、HRP-ストレプトアビジン(Invitrogen)を希釈して100μL添加して、37℃で30分撹拌して反応させた。0.05% Tween20、10mM HEPES(pH7.0)、150mM NaClで洗浄後、テトラメチルベンジジン-過酸化水素混合液を加えて25℃で10分反応させ、0.5M 硫酸で反応停止した後、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)を用いて主波長450nm、副波長620nmの吸光度を測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルの吸光度から、Day7の対Day0比および対Day1比を算出して安定性を評価した。
【0050】
(ISEAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェル白色マイクロプレートに固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μL添加して、37℃で30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES、0.05% Tween 20、0.1%Proclin950を用いた。0.05% Tween20、10mM HEPES(pH7.0)、150mM NaClで洗浄後、酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% Proclin950)を70μL添加し、続いてLumigen PPDを含む基質液(ベックマン・コールター)を30μL添加して、37℃で10分反応させた。1M 水酸化ナトリウムを100 μL/添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で発光測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルのRLUからDay0比およびDay1比を算出して安定性を評価した。
【0051】
(1-3)ELISAによる評価
下記表1および2に、各サンプルのRLU値およびDay7サンプルのRLU値/Day1サンプルのRLU値の比を示す。表1はpH6.0、表2はpH7.4の条件で測定した時の結果を示している。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
結果、pH6.0の安定性評価用サンプルにおいては、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5で、対Day0比がDay1で95.7%、Day7で78.7%を示し、Day7/Day1の値は82.2%を示し、他条件に比べて高い安定性を示した(表1)。
【0055】
pH7.4の安定性評価用サンプルにおいては、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5でDay0比がDay1で72.9%、Day7で46.1%を示し、Day7/Day1の値は63.3%を示し、他条件に比べて高い安定性を示した(表2)。
【0056】
(1-4)ISEAによる評価
下記表3および4に、各サンプルのRLU値およびDay7サンプルのRLU値/Day1サンプルのRLU値(以下、「Day7/Day1」のように表す場合がある)を示す。表3はpH6.0、表4はpH7.4の条件で測定した時の結果を示している。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
ISEAでは、塩化コバルト、塩化マンガン、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件において、37℃処理0日から1日の間で酵素活性の上昇が発生したため、Day7/Day1のRLU比を用いて安定性を評価した。
【0060】
結果、pH6.0の安定性評価用サンプルにおいては、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5でDay7/Day1の値は107.9%を示し、他条件に比べて高い安定性を示した(表3)。またpH7.4の安定性評価用サンプルにおいては、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5でDay7/Day1の値は94.1%を示し、他条件に比べて高い安定性を示した(表4)。
【0061】
(実施例2)25℃ 24時間前処理した場合の金属化合物によるリコンビナントTRACP-5b安定化効果の検証
実施例1のISEAの結果によれば、調製直後からの時間経過(Day0→Day1)に伴うTRACP-5b活性の上昇がみられたため、金属化合物を加えたリコンビナントTRACP-5b溶液の調製後に温度負荷の前処理操作を加えて、TRACP-5b活性の上昇を促進することにより、保存期間中の活性変動が小さくなると予想されたことから、当該予想について検討した。
【0062】
(2-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
pH6.0の希釈液に各金属化合物を添加し、さらにリコンビナントヒトTRACP-5bを20ng/mLになるように加えてポリプロピレンチューブに分注し、25℃で約24時間静置して処理したものを安定性評価用サンプルとした。調製後に凍結し、37℃温度負荷処理を仕掛けるまで保存した。以後、当該25℃で約24時間静置する処理を「25℃前処理」と記載する。
【0063】
pH6.0の希釈液の組成は、1% BSA、50mM MES、0.05% Tween20、0.1%Proclin950とした。
金属化合物は、塩化コバルト(II)六水和物、塩化マンガン(II)四水和物、塩化鉄(III)六水和物、塩化亜鉛、塩化ガリウム(III)、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物、塩化マグネシウム六水和物を用いた。金属化合物を添加しない希釈液についても安定性評価サンプルを作製した。
【0064】
25℃前処理済の安定性評価用サンプルを、ポリプロピレンチューブにさらに小分けして、37℃処理しないか(Day0)、または37℃処理を1日間(Day1)または7日間(Day7)加えたのち速やかに凍結保存した。測定の直前に融解してELISAとISEAによる測定を行った。
【0065】
ELISAおよびISEAのプロトコールは下記の通りとした。
(ELISAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、0.1% Proclin950とした。また、この組成に50mM EDTA 2Naを添加した希釈液でも同様の測定を実施した。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、ビオチン標識抗TRACP-5モノクローナル抗体RTP1C6(自社製)を100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、HRP-ストレプトアビジン(Invitrogen)を希釈して100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。0.05%Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、テトラメチルベンジジン-過酸化水素混合液を加えて25℃10分反応させ、0.5M 硫酸で反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)を用いて主波長450nm、副波長620nmの吸光度を測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルの吸光度からDay0比およびDay1比を算出して安定性を評価した。
【0066】
(ISEAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェル白色マイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μL添加して、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES、0.05% Tween 20、0.1% Proclin950を用いた。また、この組成に50mM EDTA 2Naを添加した希釈液でも同様の測定を実施した。0.05% Tween 20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM酒石酸ナトリウム、0.1% Proclin950)を70μL添加し、続いてCDP-Star Substrate(Thermo Fisher)にSapphire II(Thermo Fisher)を10%(v/v)になるように加えた基質液を30μL添加して、37℃10分反応させた。1M 水酸化ナトリウムを100μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で発光測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルのRLUからDay0比およびDay1比を算出して安定性を評価した。
【0067】
(2-2)ELISAによる評価
下記表5および6に、各サンプルのRLU値を示す。表5はEDTA添加なし、表6はEDTA添加時の結果を示す。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
結果、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5では、対Day0比がDay1で88.4%、Day7で78.3%を示し、他条件に比べて高い安定性を示した(表5)。
なお、サンプルの希釈時にEDTA添加することにより、例えばモリブデン酸ナトリウムを加えた条件5ではDay0比がDay1で101.8%、Day7で104.0%を示し、より高い安定性を示した(表6)。
【0071】
(2-3)ISEAによる評価
下記表7および8に、各サンプルのRLU値を示す。表7はEDTA添加なし、表8はEDTA添加時の結果を示す。
【0072】
【表7】
【0073】
【表8】
【0074】
抗体反応時にEDTAを加えない測定において、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5では、Day0比がDay7で109.3%を示し、他条件に比べて明らかに高い安定性を示した。
【0075】
抗体反応時にEDTAを加えた測定において、モリブデン酸ナトリウムを加えた条件5では、Day0比がDay7で97.0%を示し、他条件に比べて明らかに高い安定性を示した。
【0076】
以上より、抗体反応時のEDTAの有無に関係なく、モリブデン酸ナトリウムによるTRACP-5bの安定化効果が示された。
【0077】
(実施例3)ジオキセタン系以外の基質によるISEAで安定化効果の検証
実施例1および2のISEAによる測定では、発光基質としてそれぞれジオキセタン系化合物であるLumigen PPDおよびCDP-Starを使用したが、ジオキセタン系化合物以外の基質における効果を確認するため、検討を行った。基質としては、発色基質パラニトロフェニルリン酸(p-NPP)および発光基質APS-5を使用した。
【0078】
(3-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
安定性評価用のサンプルは、実施例2と同様のものを準備した。
ISEAのプロトコールは下記の通りとした。
(ISEAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μL添加して、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES、0.05% Tween20、0.1% Proclin950を用いた。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、
(1)基質にp-NPPを用いた測定
パラニトロフェニルリン酸(p-NPP)を5mg/mLの濃度で溶解した酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% Proclin950)を100μL添加した。1M 水酸化ナトリウムを100μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダーを用いて主波長405nmの吸光度を測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルの吸光度(ブランクを差し引いた値)からDay0比およびDay1比を算出して安定性を評価した。
(2)基質にAPS-5を用いた測定
酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% Proclin950)を70μL添加し、続いてAPS-5(富士フィルム和光純薬)を30μL添加して、37℃10分反応させた。1M 水酸化ナトリウムを100 μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で発光測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルのRLUからDay0比およびDay1比を算出して安定性を評価した。
【0079】
(3-2)ISEAによる評価
下記表9および10に、各サンプルの吸光度およびRLU値を示す。表9はp-NPPを発色基質として、表10はAPS-5をそれぞれ発光基質として使用したときの結果を示す。
【0080】
【表9】

【0081】
【表10】

【0082】
表9、10に示すように、ジオキセタン系化合物以外の発光基質を用いた場合でも、モリブデン酸化合物を添加することによりTRACP-5bの安定性が向上した。
【0083】
(実施例4)モリブデン化合物濃度と安定化効果の関係、および各種モリブデン化合物における安定化効果の検証
添加するモリブデン化合物に関する検討として、モリブデン酸ナトリウム濃度とTRACP-5b安定化効果の検証、およびモリブデン酸ナトリウム以外のモリブデン試薬の安定化効果について検証した。
【0084】
(4-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
pH6.0の希釈液に各モリブデン酸試薬を添加し、さらにリコンビナントヒトTRACP-5bを20ng/mLになるように加えて安定性評価用サンプルとした。
pH6.0の希釈液は1% BSA、50mM MES、0.05% Tween 20、0.1% Proclin950を用いた。モリブデン試薬は、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物(0.01mM、0.1mM、1mM、10mMの4段階)、モリブデン酸(VI)アンモニウム四水和物、リンモリブデン酸、モリブデン標準液を用いた。モリブデン試薬を添加しない希釈液についても安定性評価サンプルを作製した。
【0085】
安定性評価用サンプルをポリプロピレンチューブにさらに4本に小分けして、1本は前処理前のサンプルとして凍結保存し、残り3本は37℃で約24時間静置して前処理を行い、引き続き37℃処理なし0日間(Day0)、37℃処理を1日間(Day1)または7日間(Day7)加えたのちにそれぞれ凍結保存し、後日融解してELISAとISEAによる測定を行った。
【0086】
ELISAおよびISEAのプロトコールは下記の通りとした。
【0087】
(ELISAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、0.1% Proclin950とした。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、ビオチン標識抗TRACP-5モノクローナル抗体RTP1C6(自社製)を100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、HRP-ストレプトアビジン(Invitrogen)を希釈して100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。0.05%Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、テトラメチルベンジジン-過酸化水素混合液を加えて25℃10分反応させ、0.5M 硫酸で反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)を用いて主波長450nm、副波長620nmの吸光度を測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルの吸光度からDay0比を算出して安定性を評価した。また、Day0、Day1、Day7の各サンプルの吸光度から活性化前の吸光度に対する比を算出し、こちらも安定化の指標とした。
【0088】
(ISEAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェル白色マイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μL添加して、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES、0.05% Tween20、0.1% Proclin950を用いた。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClでウェルを洗浄後、酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% プロクリン950)を70μL添加し、続いてCDP-Star Substrate(Thermo Fisher)にSapphire II(Thermo Fisher)を10%(v/v)になるように加えた基質液を30μL添加して、37℃10分反応させた。1M 水酸化ナトリウムを100μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で発光測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルのRLUからDay0比を算出して安定性を評価した。
【0089】
(4-2)ELISAによる評価
下記表11に、各サンプルの吸光度値を示す。
【0090】
【表11】

【0091】
結果、吸光度の前処理前に対する比において、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで65.3%、1mMで95.5%、10mMで87.8%となり、0.1~10mMで安定化効果を示した。0.01mMでは効果がみられなかった。
【0092】
吸光度の前処理後Day0比において、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで77.6%、1mMで103.5%、10mMで89.6%となり、0.1~10mMで安定化効果を示した。0.01mMでは効果がみられなかった。
【0093】
また、モリブデン酸ナトリウム以外のモリブデン、モリブデン化合物を用いた検討に関して、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、モリブデン標準液では、吸光度の前処理前に対する比において、Day7の値はそれぞれ93.3%、114.6%、69.5%となり、無添加に比べていずれも高い安定化効果を示した。吸光度のDay0比のDay7の値はそれぞれ97.7%、115.1%、90.0%となり、無添加に比べていずれも安定化効果を示した。
【0094】
(4-3)ISEAによる評価
下記表12に、各サンプルのRLU値を示す。
【0095】
【表12】

【0096】
結果、RLUのDay0比において、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで61.4%、1mMで86.4%、10mMで84.5%となり、0.1~10mMで安定化効果を示した。0.01mMでは効果がみられなかった。
【0097】
モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、モリブデン標準液において、吸光度のDay0比のDay7の値はそれぞれ86.9%、111.7%、61.5%となり、無添加に比べていずれも安定化効果を示した。
【0098】
(実施例5)抗体を介さない酵素活性測定における安定化効果
抗体を介さない酵素活性測定における安定化効果について検証した。
【0099】
(5-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
安定性評価用のサンプルは、実施例4と同様のものを準備した。
酵素活性測定のプロトコールは下記の通りとした。
(活性測定プロトコール)
(1)基質にp-NPPを用いた測定
96ウェルU底マイクロプレート(IWAKI)にサンプル原液を10μL添加し、パラニトロフェニルリン酸(p-NPP)を5mg/mLの濃度で溶解した酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% Proclin950)を100μL添加して、37℃1時間反応させた。 1M 水酸化ナトリウムを100μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で405nmの吸光度を測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルの吸光度(ブランクを差し引いた値)からDay0比を算出して安定性を評価した。
【0100】
(2)基質にCDP-Starを用いた測定
96ウェルU底白色マイクロプレート(コーニング)にサンプル原液を10μL添加し、酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% Proclin950)を70μL添加し、続いてCDP-Star Substrate(Thermo Fisher)にSapphire II(Thermo Fisher)を10%(v/v)になるように加えた基質液を30μL添加して、37℃10分反応させた。1M 水酸化ナトリウムを100μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で発光測定した。Day0、Day1、Day7の各サンプルのRLUからDay0比を算出して安定性を評価した。
(5-2)p-NPPを使用したときの評価
下記表13に、基質としてp-NPPを使用した時の、各サンプルの吸光度値を示す。
【0101】
【表13】

【0102】
結果、吸光度の前処理前比において、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで54.4%、1mMで97.6%、10mMで109.9%となり、0.1~10mMで高い安定化効果を示した。0.01mMでも、無添加と比較すると一応の安定化効果を示したが、安定化効果は弱かった。
【0103】
Day0比においては、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで54.4%、1mMで88.0%、10mMで89.3%となり、0.1~10mMで高い安定化効果を示した。0.01mMでも無添加と比較すると安定化効果を示した。
【0104】
モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、モリブデン標準液において、吸光度の前処理前比のDay7の値はそれぞれ109.9%、103.8%、59.8%となり、無添加に比べていずれも安定化効果を示した。Day0比のDay7の値はそれぞれ91.6%、99.6%、64.8%となり、無添加に比べていずれも安定化効果を示した。
(5-3)CDP-Starを使用したときの評価
下記表14に、発光基質としてCDP-Starを使用した時の、各サンプルのRLU値を示す。
【0105】
【表14】

【0106】
結果、RLUの前処理前比において、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで81.9%、1mMで101.4%、10mMで109.9%となり、0.1~10mMで高い安定化効果を示した。0.01mMでも無添加と比較すると一応の安定化効果を示したが、安定化効果は弱かった。
【0107】
Day0比においては、Day7の値はモリブデン酸ナトリウム0.1mMで70.7%、1mMで91.0%、10mMで91.0%となり、0.1~10mMで高い安定化効果を示した。0.01mMでも無添加と比較すると安定化効果を示した。
【0108】
モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、モリブデン標準液において、吸光度の前処理前比のDay7の値はそれぞれ106.1%、111.9%、90.0%となり、無添加に比べていずれも安定化効果を示した。Day0比のDay7の値はそれぞれ93.5%、104.9%、70.9%となり、無添加に比べていずれも安定化効果を示した。
【0109】
(実施例6)モリブデン酸ナトリウムと糖類(スクロース)の共存効果
モリブデン酸化合物による安定化向上効果をさらに高めるための方法として、スクロースを共存させたときの効果を検証した。
【0110】
(6-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
標準液希釈液の基本組成は1% PVP K30、50mM MES(pH6.0)、0.05% Tween20、0.1% Proclin950とした。その後、下記4条件の希釈液を調製した。
【0111】
条件1:スクロース無し・モリブデン無し、
条件2:10%スクロース・1mMモリブデン、
条件3:10%スクロース・モリブデン無し、
条件4:スクロース無し・1mMモリブデン
【0112】
各条件の希釈液に、リコンビナント ヒトTRAC-5bを20ng/mLになるように加え、ポリプロピレンチューブに分注して25℃保存(0、1、4、7日間)した後で凍結保存(-80℃)し、各条件をまとめてISEA(1C6、Lumigen PPD)で測定した。残存活性としてRLUのDay0比を算出して安定性を評価した。ISEAのプロトコールは、実施例1と同様とした。
【0113】
(6-2)ISEAによる評価
下記表15に、ISEAにおける各サンプルのRLU値を示す。
【0114】
【表15】

【0115】
結果、モリブデン酸ナトリウムとスクロースを組み合わせた条件2では、RLUのDay0比がDay7で103.6%、Day1比がDay7で97.5%を示し、どちらも加えない条件(条件1)やどちらか一方を加えた条件(条件3、4)に比べて高い安定化効果を示した。
【0116】
(実施例7)骨由来ネイティブTRACP-5bに対するモリブデン酸ナトリウムの安定化効果
モリブデン酸化合物による安定化向上効果が、リコンビナントTRACP-5bだけでなくネイティブのTRACP-5bでもみられるか検証した。同時に希釈液中のBSAの有無の影響についても検証した。
【0117】
(7-1)骨由来ネイティブTRACP-5b精製の方法
骨由来ネイティブTRACP-5bの調製は、文献記載の方法(特開2004-26805)を参考に、下記のように実施した。
【0118】
インフォームドコンセント実施後に外科的手術により摘出されたヒト大腿骨骨頭部70gを液体窒素中で凍結させ、ハンマーで粉砕後、プロテアーゼインヒビター等を含む緩衝液(50mM HEPES,300mM KCl,1mM EDTA,0.1% TritonX100,0.02% NaN3,pH7.5)中に懸濁させ、超音波ホモジナイザーにてホモジナイズした。20000Gで30分遠心分離して上清を50mM HEPES pH7.5で透析したのち、20000Gで30分遠心分離した。上清をCM-Sepharoseカラムにアプライして、NaClを含むHEPES緩衝液の直線濃度勾配で樹脂に吸着させたタンパク質を溶出した。酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性は、p-NPPを用いた酵素活性測定を行って算出し、活性の高いフラクションをプールした。それをヘパリンセファロースカラムにアプライして、NaClを含む20mM HEPES緩衝液 pH7.5の直線塩濃度勾配により樹脂に吸着したタンパク質を溶出した。
【0119】
酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ高活性のフラクションをプールし、濃縮して得た試料を還元処理してSDS-PAGEを実施したところ、約23kDaと約16kDaの2つのサブユニットのバンドを検出し、酵素活性測定により切断前に比べて比活性が上昇し、かつ至適pHピークが上昇することから、TRACP-5bであることを確認できた。
【0120】
(7-2)安定性評価用サンプルの調製および測定
pH6.0の希釈液にモリブデン酸ナトリウムを添加し(0.1mM)、さらにヒト大腿骨由来TRACP-5bを10ng/mLになるように加えて安定性評価用サンプルとした。pH6.0の希釈液は1% BSA、50mM MES、0.05% Tween20、0.1% Proclin950を用いた。モリブデン酸ナトリウムを添加しない希釈液についても安定性評価サンプルを作製した。
【0121】
安定性評価用サンプルをポリプロピレンチューブにさらに4本に小分けして、1本は活性化前のサンプルとして凍結保存し、残り3本は37℃で約24時間静置して前処理を行い、引き続き37℃処理を行わないか(Day0)、37℃処理を1日間(Day1)または7日間(Day7)加えたのちにそれぞれ凍結保存し、後日融解してELISAとISEAによる測定を行った。
骨由来TRACP-5bの代わりにリコンビナントヒトTRACP-5bを20ng/mLにして上記と同様の条件で安定性評価用サンプルを調製し、ELISAとISEAによる測定を行った。
【0122】
ELISAおよびISEAのプロトコールは実施例4と同様とした。
(7-3)ELISAによる評価
下記表16に、ELISAにおける各サンプルの吸光度値を示す。
【0123】
【表16】

【0124】
結果、骨由来のネイティブTRACP-5bにおいて、モリブデン酸ナトリウムを添加するとDay7の吸光度の前処理前比は81.5%、Day7の吸光度のDay0比は92.2%を示し、モリブデン酸ナトリウムを含まない場合に比べて高い安定化効果を示した。
(7-4)ISEAにおける評価
下記表17に、ISEAにおける各サンプルのRLU値を示す。
【0125】
【表17】

【0126】
結果、骨由来のネイティブTRACP-5bにおいて、モリブデン酸ナトリウムを添加するとDay7のRLUのDay0比は103.0%を示し、モリブデン酸ナトリウムを含まない場合に比べて高い安定化効果を示した。
【0127】
(実施例8)各種調製法によるリコンビナントTRACP-5bに対するモリブデン酸ナトリウムの安定化効果
リコンビナントTRACP-5bの調製に当たり、カテプシンKのほか、カテプシンLまたはパパインを用いた場合の、モリブデン化合物の添加による安定化効果を検討した。
【0128】
(8-1)各種リコンビナントTRACP-5b精製の方法
非特許文献1の方法にしたがって、リコンビナントヒトカテプシンL(R&D Systems)、リコンビナントヒトカテプシンK(自社製造)、パパイン(ナカライテスク)の各システインプロテアーゼを用いて、リコンビナントTRACP-5bの作製を行った。各システインプロテアーゼとリコンビナントTRACP-5aを混合して37℃で2時間反応させ、TRACP‐5aを切断してTRACP-5bを生成させた。プロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク)を加えて各システインプロテアーゼの反応を停止した。
(8-2)安定性評価用サンプルの調製および測定
上記のようにして得られたカテプシンL切断5b、パパイン切断5bと、カテプシンK切断で得たTRACP-5bについて、モリブデン化合物による安定化効果を検証した。
pH6.0の希釈液にモリブデン酸ナトリウムを添加し(1mM)、さらにカテプシンL切断5b、パパイン切断5b、カテプシンK切断5bをそれぞれ10ng/mLになるように加えて安定性評価用サンプルとした。pH6.0の希釈液は1% BSA、50mM MES、0.05% Tween 20、0.1% Proclin950の他、BSAを含まない希釈液として50mM MES、0.05%Tween 20、0.1%Proclin950を用いた。モリブデン酸ナトリウムを添加しない希釈液でも安定性評価サンプルを作製した。
【0129】
安定性評価用サンプルをポリプロピレンチューブにさらに4本に小分けして、1本は活性化前のサンプルとして凍結保存し、残り3本は37℃で約24時間静置して前処理を行い、引き続き37℃処理を行わないか(Day0)、37℃処理を2日間(Day2)または8日間(Day8)加えたのちにそれぞれ凍結保存し、後日融解してELISAとISEAによる測定を行った。
【0130】
ELISAおよびISEAのプロトコールは実施例4と同様とした。前処理前、前処理後Day0、Day2、Day8の各サンプルの吸光度(ELISA)またはRLU(ISEA)から吸光度比とRLU比(前処理前比及び前処理後Day0比)を算出して安定性を評価した。
【0131】
(8-3)ELISAによる効果
下記表18に、ELISAにおける各サンプルの吸光度を示す。
【0132】
【表18】

【0133】
結果、カテプシンLで切断することで得られたリコンビナントTRACP-5bは、モリブデン酸ナトリウム1mMの条件における吸光度のDay0比の値がDay9で114.5%、Day9/Day1の値が91.7%を示し、モリブデン酸ナトリウムを添加しない条件に比べて高い安定化効果を示した。パパインで切断することで得られたリコンビナントTRACP-5bはモリブデン酸ナトリウム1mMの条件において吸光度のDay0比の値がDay9で105.1%、Day9/Day1の値が88.3%を示し、モリブデン酸ナトリウムを添加しない条件に比べて高い安定化効果を示した。すなわち、プロテアーゼとしてカテプシンKのほか、カテプシンLやパパインで切断することによって得られたリコンビナントTRACP-5bを使用した場合でも、モリブデン酸化合物を添加することにより高い安定化効果がみられた。
【0134】
(8-4)ISEAによる効果
下記表19に、ISEAにおける各サンプルのRLU値を示す。
【0135】
【表19】

【0136】
結果、カテプシンLで切断することで得られたリコンビナントTRACP-5bは、モリブデン酸ナトリウム1mMの条件においてRLUのDay0比の値がDay9で117.7%、Day9/Day1の値が80.6%を示し、モリブデン酸ナトリウムを添加しない条件に比べて高い安定化効果を示した。パパインで切断することで得られたリコンビナントTRACP-5bは、モリブデン酸ナトリウム1mMの条件においてRLUのDay0比の値がDay9で94.6%、Day9/Day1の値が79.7%を示し、モリブデン酸ナトリウムを添加しない条件に比べて高い安定化効果を示した。すなわち、プロテアーゼとしてカテプシンKのほか、カテプシンLやパパインで切断することによって得られたリコンビナントTRACP-5bを使用した場合でも、モリブデン酸化合物を添加することにより高い安定化効果がみられた。
【0137】
(実施例9)金属化合物によるリコンビナントTRACP-5bの安定化効果の検証(2)
【0138】
(9-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
pH6.0の希釈液に金属化合物を添加し、さらにリコンビナントヒトTRACP-5bを20ng/mLになるように加えて安定性評価用サンプルとした。pH6.0の希釈液の組成は、1% BSA、50mM MES、0.05% Tween 20、0.1% Proclin950とした。評価に用いる金属化合物は、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物、オルトバナジン酸(V)ナトリウム、タングステン(VI)酸ナトリウム二水和物、過マンガン酸カリウムを用いた。金属化合物を添加しない希釈液についても安定性評価用サンプルを作製した。
【0139】
安定性評価用サンプルをポリプロピレンチューブにさらに4本に小分けして、1本は活性化前のサンプルとして凍結保存し、残り3本は37℃で約24時間静置して前処理を行い、引き続き37℃処理を行わないか(Day0)、37℃処理を2日間(Day2)または8日間(Day8)加えたのちにそれぞれ凍結保存し、後日融解してELISAとISEAによる測定を行った。
【0140】
ELISAおよびISEAのプロトコールは実施例4と同様とした。前処理前、前処理後Day0、Day2、Day8の各サンプルの吸光度(ELISA)またはRLU(ISEA)から吸光度比とRLU比(前処理前比及び前処理後Day0比)を算出して安定性を評価した。
【0141】
(9-2)ELISAによる効果
下記表20に、ELISAにおける各サンプルの吸光度を示す。
【0142】
【表20】
【0143】
結果、タングステン化合物であるタングステン酸ナトリウムを添加することにより(条件6、7)、タングステン酸ナトリウム10mMの条件で吸光度の前処理前比がDay8で81.8%、吸光度の前処理後Day0比が94.6%を示した。また、タングステン酸ナトリウム1mMの条件では、吸光度の前処理前比がDay8で87.4%、また前処理後Day0比で97.1%を示し、タングステン酸ナトリウムを添加しない条件に比べて高い安定化効果を示した。
【0144】
(9-3)ISEAによる効果
下記表21に、ISEAにおける各サンプルのRLUを示す。
【0145】
【表21】
【0146】
結果、タングステン化合物であるタングステン酸ナトリウムを添加することにより(条件6、7)、タングステン酸ナトリウム10mMの条件でRLUの前処理前比がDay8で177.6%、吸光度の前処理後Day0比が111.9%を示し、タングステン酸ナトリウム1mMの条件では吸光度の前処理前比がDay8で160.2%と前処理後Day0比で102.2%を示し、タングステン酸ナトリウムを添加しない条件に比べて高い安定化効果を示した。無添加の場合(条件1)と比べて高い安定化効果が得られた。
【0147】
(実施例10)長期の冷蔵保存における安定化効果
【0148】
(10-1)安定性評価用サンプルの調製および測定
pH6.0の希釈液に各モリブデン酸試薬を添加し、さらにリコンビナントヒトTRACP-5bを13.3ng/mLになるように加えて安定性評価用サンプルとした。
pH6.0の希釈液の組成は、1% BSA、50mM MES、0.05% Tween 20、0.1% Proclin950とした。モリブデン試薬としては、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物を1mMとなるように添加し、安定性評価用サンプルを作製した。対照として、モリブデン試薬を添加しない希釈液についても安定性評価サンプルを作製した。
【0149】
モリブデン試薬(モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物)を添加した安定性評価用サンプルは、37℃で24時間インキュベートしたのちに、ポリプロピレンチューブに小分けし、一部を-80℃で凍結保存し、残りは冷蔵保存した。モリブデン試薬を添加しない安定性評価用サンプルは、37℃インキュベートを行わずに小分けし、一部を-80℃で凍結保存し、残りは冷蔵保存した。保存開始日(Day0)、7日目(Day7)、16日目(Day16)、37日目(Day37)、69日目(Day69)、98日目(Day98)、146日目(Day148)、183日目(Day183)に、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物を添加した安定性評価用サンプルと、モリブデン試薬を添加しない安定性評価用サンプルのそれぞれについて、ELISAとISEAによる測定を行った。
【0150】
ELISAおよびISEAのプロトコールは下記の通りとした。
【0151】
(ELISAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μLとなるように添加したのち、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES(pH7.4)、50mM EDTA、0.1% Proclin950とした。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、ビオチン標識抗TRACP-5モノクローナル抗体RTP1C6(自社製)を100μLとなるように添加して、37℃30分撹拌して反応させた。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、HRP-ストレプトアビジン(Invitrogen)を希釈して100μLとなるように添加し、37℃30分撹拌して反応させた。0.05% Tween 20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClで洗浄後、テトラメチルベンジジン-過酸化水素混合液を加えて25℃30分反応させた。0.5M 硫酸で反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)を用いて主波長450nm、副波長620nmの吸光度を測定した。各サンプルの吸光度から(冷蔵品吸光度)/(凍結品吸光度)の比を算出して、安定性を評価した。
【0152】
(ISEAプロトコール)
抗TRACP-5モノクローナル抗体 RTP15A4(自社製)を96ウェル白色マイクロプレート(Thermo Fisher)に固相し、安定性評価用サンプルを希釈して100μL添加したのち、37℃30分撹拌して反応させた。希釈液の組成は1% BSA、50mM HEPES(pH7.4)、50mM EDTA、0.05% Tween20、0.1% Proclin950とした。0.05% Tween20、10mM HEPES pH7.0、150mM NaClでウェルを洗浄後、酵素反応緩衝液(0.8M MES pH6.0、50mM 酒石酸ナトリウム、0.1% プロクリン950)を70μL添加し、続いてCDP-Star Substrate(Thermo Fisher)にSapphire II(Thermo Fisher)を10%(v/v)になるように加えた基質液を30μL添加して、37℃10分反応させた。1M 水酸化ナトリウムを100μL添加して反応停止したのち、マイクロプレートリーダー(TECAN Infinite 200Pro)で発光測定した。各サンプルのRLUから冷蔵品RLU/凍結品RLUの比を算出して安定性を評価した。
【0153】
(10-2)ELISAによる評価
下記表22に、各サンプルの吸光度値及び吸光度比を示す。
【0154】
【表22】

【0155】
結果、吸光度比 (冷蔵品吸光度)/(凍結品吸光度)の値において、モリブデン試薬を添加しない安定性評価用サンプルでは吸光度比が経時的な低下傾向を示し、183日目では68.8%まで低下した。一方、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物を添加した安定性評価用サンプルは0日目から183日目までの間で85.4~98.1%の範囲で安定した推移を示した。
【0156】
(10-3)ISEAによる評価
下記表に、各サンプルのRLU値及びRLU比を示す。
【0157】
【表23】

【0158】
結果、RLU比 (冷蔵品RLU)/(凍結品RLU)の値において、モリブデン試薬を添加しない安定性評価用サンプルでは吸光度比が経時的な低下傾向を示し、183日目では29.4%まで低下した。一方、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物を添加した安定性評価用サンプルは0日目から183日目までの間で95.5%~109.1%の範囲で安定した推移を示し、無添加に比べて安定化効果を示した。