(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054848
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】さび止め油組成物
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20240410BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20240410BHJP
C10M 105/36 20060101ALI20240410BHJP
C10M 135/10 20060101ALI20240410BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240410BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
C23F11/00 D
C10M105/32
C10M105/36
C10M135/10
C10N10:04
C10N30:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172714
(22)【出願日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2022160973
(32)【優先日】2022-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188949
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 成典
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】吉田 公一
(72)【発明者】
【氏名】置塩 直史
【テーマコード(参考)】
4H104
4K062
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB33A
4H104BB41A
4H104BG06C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EB10
4H104FA02
4H104LA06
4K062AA01
4K062BB01
4K062BB06
4K062BB09
4K062BB21
4K062FA12
4K062GA01
(57)【要約】
【課題】生分解性及び防錆性が高いさび止め油組成物の提供。
【解決手段】基油と、防錆剤とを含有するさび止め油組成物であって、前記基油は、エステル基油を含み、前記エステル基油の含有量は、前記さび止め油組成物全量に対して、50質量%超である、さび止め油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、防錆剤とを含有するさび止め油組成物であって、
前記基油は、エステル基油を含み、
前記エステル基油の含有量は、前記さび止め油組成物全量に対して、50質量%超である、さび止め油組成物。
【請求項2】
前記防錆剤は、スルホン酸塩を含む、請求項1に記載のさび止め油組成物。
【請求項3】
前記スルホン酸塩は、アルキルアリールスルホン酸アミン塩、又は、アルキルアリールスルホン酸アルカリ土類金属塩である、請求項2に記載のさび止め油組成物。
【請求項4】
前記エステル基油は、炭素数2~14の脂肪酸と、炭素数2~14のアルコールとのエステルである、請求項1又は2に記載のさび止め油組成物。
【請求項5】
前記エステル基油は、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、及び、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシルからなる群から選択される1種以上のエステルである、請求項4に記載のさび止め油組成物。
【請求項6】
さらに鉱油を含有し、
前記鉱油の含有量は、前記さび止め油組成物全量に対して、2質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載のさび止め油組成物。
【請求項7】
生分解性油圧作動油規格ISO15380に規定されているOECD301B法による生分解度が、60%以上である、請求項1に記載のさび止め油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さび止め油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板、軸受、鋼球、ガイドレールなどの金属製部材の分野では、該金属製部材のさびの発生を防止するためにさび止め油組成物が使用されている。
鉄を主成分とする鋼などを用いた金属製部材は、最終的には塗装やメッキなどによりさびの発生を防止するが、製造工程の途中ではそのような処理は困難となる。そのため、該金属製部材のさびの発生を一時的に防止する観点から、該金属製部材をさび止め油組成物により処理することが一般的である。
【0003】
さび止め油組成物の基油としては鉱油が一般的であり、防錆性を向上させる観点から、該鉱油に少量のエステル基油を加えて使用することがある。
例えば、特許文献1には、沸点が300℃以下の揮発性液体を30~95質量%含有し、グリセリン脂肪酸部分エステルを1~50質量%含有する表面処理剤が開示されている。また、特許文献1の実施例においては、n-デカンに、少量のグリセロールモノステアレートが併用されている。該表面処理剤は、防錆性や潤滑性が優れると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さび止め油組成物は、金属製部材のさびの発生を一時的に防止するものであり、金属製部材の加工工程の途中で除去されるものであるため、従来のさび止め油組成物は、生分解性は考慮されていない。
しかしながら、製造工程の途中でさび止め油組成物が系外に排出される場合やさび止め油組成物が金属製部材に付着したまま出荷される場合がある。
近年、環境意識がより高まり、生分解性が高いさび止め油組成物が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、生分解性及び防錆性が高いさび止め油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]基油と、防錆剤とを含有するさび止め油組成物であって、前記基油は、エステル基油を含み、前記エステル基油の含有量は、前記さび止め油組成物全量に対して、50質量%超である、さび止め油組成物。
[2]前記防錆剤は、スルホン酸塩を含む、[1]に記載のさび止め油組成物。
[3]前記スルホン酸塩は、アルキルアリールスルホン酸アミン塩、又は、アルキルアリールスルホン酸アルカリ土類金属塩である、[2]に記載のさび止め油組成物。
[4]前記エステル基油は、炭素数2~14の脂肪酸と、炭素数2~14のアルコールとのエステルである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のさび止め油組成物。
[5]前記エステル基油は、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、及び、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシルからなる群から選択される1種以上のエステルである、[4]に記載のさび止め油組成物。
[6]さらに鉱油を含有し、前記鉱油の含有量は、前記さび止め油組成物全量に対して、2質量%以上40質量%以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のさび止め油組成物。
[7]生分解性油圧作動油規格ISO15380に規定されているOECD301B法による生分解度が、60%以上である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のさび止め油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生分解性及び防錆性が高いさび止め油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(さび止め油組成物)
本実施形態のさび止め油組成物は、基油と、防錆剤とを含有する。
【0010】
<基油>
本実施形態のさび止め油組成物における基油は、エステル基油を含む。
【0011】
≪エステル基油≫
本明細書において、エステル基油は、フルエステルを意味する。したがって、本明細書におけるエステル基油には、部分エステルは含まれない。
本明細書におけるエステル基油には、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル結合(-O-)を有するエステルは含まれる。
【0012】
エステル基油として、具体的には、有機酸エステルが好ましい。
【0013】
有機酸エステルとしては、下記(i)~(vii)に示すアルコールとカルボン酸とのエステルが挙げられる。
(i)1価アルコールと1価カルボン酸とのエステル
(ii)多価アルコールと1価カルボン酸とのエステル
(iii)1価アルコールと多価カルボン酸とのエステル
(iv)多価アルコールと多価カルボン酸とのエステル
(v)1価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールと多価カルボン酸とのエステル
(vi)多価アルコールと1価カルボン酸及び多価カルボン酸の混合カルボン酸とのエステル
(vii)1価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールと1価カルボン酸及び多価カルボン酸の混合カルボン酸とのエステル
【0014】
1価アルコールは、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
1価アルコールとしては、例えば、炭素数1~24の1価アルコールが挙げられる。
該1価アルコールは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
具体的には、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐鎖状のプロパノール、直鎖状又は分岐鎖状のブタノール、直鎖状又は分岐鎖状のオクタノール、直鎖状又は分岐鎖状のノナノール、直鎖状又は分岐鎖状のデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のウンデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のドデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のトリデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のノナデカノール、直鎖状又は分岐鎖状のエイコサノール、直鎖状又は分岐鎖状のヘンエイコサノール、直鎖状又は分岐鎖状のトリコサノール、直鎖状又は分岐鎖状のテトラコサノール及びこれらの混合物が挙げられる。
なお、本明細書において「炭素数X~Y」とは、炭素原子をX個以上Y個以下有することを意味する。
【0015】
多価アルコールとしては、例えば、2~10価のアルコール、好ましくは2~6価のアルコールが挙げられる。該多価アルコールは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3~15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3~15量体)、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2~8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンなど)及びこれらの2~8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2~4量体、1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3,4-ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類;これらの混合物などが挙げられる。
【0016】
有機酸エステルを構成するアルコールとしては、上記の中でも、炭素数2~14のアルコールが好ましく、炭素数2~14の1価アルコールがより好ましく、炭素数6~12の1価アルコールがさらに好ましく、炭素数6~10の1価アルコールが特に好ましい。
該アルコールは、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、分岐鎖状の飽和アルコールが好ましい。
【0017】
該アルコールとしては、上記の中でも、2-エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコールがより好ましい。
【0018】
1価カルボン酸としては、例えば、炭素数2~24の脂肪酸が挙げられる。
該脂肪酸は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、該脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。
具体的には、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐鎖状のブタン酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐鎖状のオクタン酸、直鎖状又は分岐鎖状のノナン酸、直鎖状又は分岐鎖状のデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のドデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐鎖状のエイコサン酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘンエイコサン酸、直鎖状又は分岐鎖状のドコサン酸、直鎖状又は分岐鎖状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐鎖状のテトラコサン酸などの飽和脂肪酸;直鎖状又は分岐鎖状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐鎖状のオクテン酸、直鎖状又は分岐鎖状のノネン酸、直鎖状又は分岐鎖状のデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のドデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のエイコセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘンエイコセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のドコセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐鎖状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸;これらの混合物などが挙げられる。
【0019】
多価カルボン酸としては、例えば、炭素数2~16の2価カルボン酸(ジカルボン酸)、炭素数6~16の3価カルボン酸(トリカルボン酸)等が挙げられる。
該2価カルボン酸及び3価カルボン酸は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、該2価カルボン酸及び3価カルボン酸は、飽和でも不飽和でもよい。
【0020】
該2価カルボン酸として、具体的には、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のブタン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のノナン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のノネン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のデセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐鎖状のヘキサデセン二酸、及び、これらの混合物等が挙げられる。
【0021】
該3価カルボン酸として、具体的には、トリメリット酸が挙げられる。
【0022】
有機酸エステルを構成するカルボン酸としては、上記の中でも、炭素数2~14のカルボン酸が好ましく、炭素数2~14の2価カルボン酸がより好ましく、炭素数6~12の2価カルボン酸がさらに好ましく、炭素数6~10の2価カルボン酸が特に好ましい。
該カルボン酸(好ましくは2価カルボン酸)は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、直鎖状の飽和カルボン酸が好ましく、直鎖状の飽和の2価カルボン酸がより好ましい。
【0023】
該カルボン酸としては、上記の中でも、コハク酸(直鎖状のブタン二酸)、アジピン酸(直鎖状のヘキサン二酸)、アゼライン酸(直鎖状のノナン二酸)、セバシン酸(直鎖状のデカン二酸)、直鎖状のドデカン二酸が好ましく、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸がより好ましい。
【0024】
本実施形態のさび止め油組成物におけるエステル基油としては、防錆性の観点から、上記の中でも、炭素数2~14のカルボン酸と、炭素数2~14のアルコールとのエステルであることが好ましい。
また、防錆性の観点から、エステル結合の数は1~3個であることが好ましく、2個であることがより好ましい。
さらに、炭素数2~14の2価カルボン酸と、炭素数2~14のアルコールとのエステルであることが好ましく、炭素数6~12の2価カルボン酸と、炭素数6~12のアルコールとのエステルであることがより好ましく、炭素数6~10の2価カルボン酸と、炭素数6~10のアルコールとのエステルであることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態のさび止め油組成物におけるエステル基油としては、上記の中でも、防錆性の観点から、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、及び、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシルからなる群から選択される1種以上のエステルであることが好ましく、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシルであることがより好ましい。
【0026】
本実施形態のさび止め油組成物のエステル基油は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
本実施形態のさび止め油組成物のエステル基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、50質量%超であり、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
本実施形態のさび止め油組成物のエステル基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
例えば、本実施形態のさび止め油組成物のエステル基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、50質量%超95質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量%以下より好ましく、65質量%以上90質量%以下がさらに好ましく、70質量%以上85質量%以下が特に好ましい。
【0028】
本実施形態のさび止め油組成物のエステル基油の含有量が上記の好ましい下限値以上であれば、生分解性がより向上する。
本実施形態のさび止め油組成物のエステル基油の含有量が上記の好ましい上限値以下であれば、貯蔵安定性が向上する。
【0029】
本実施形態のさび止め油組成物における基油は、エステル基油の他に、鉱油、合成油、GTL(Gas To Liquids)、又はCTL(Coal To Liquids)等を含有していてもよい。
【0030】
≪鉱油≫
鉱油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油を使用することができる。また、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。
精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、及び白土処理等を、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、鉱油を得ることができる。
また、異なる原油又は留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の鉱油の混合物を用いてもよい。
【0031】
鉱油としては、API基油分類のグループI基油(以下、「APIグループI基油」という)、グループII基油(以下、「APIグループII基油」という)、若しくはグループIII基油(以下、「APIグループIII基油」という)、又は、それらの混合基油を用いることができる。
APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%超、及び/又は、飽和分が90質量%未満であって、かつ、粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。
APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、かつ、粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。
APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、かつ、粘度指数が120以上の鉱油系基油である。
【0032】
≪合成油≫
合成油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン等のポリオレフィン、ポリアルキレングリコール、アルキルベンゼン、及びアルキルナフタレン等が挙げられる。
【0033】
≪GTL、CTL≫
GTLは、天然ガスを原料とし、フィッシャー・トロプシュ法(FT法)で合成した炭化水素である。
CTLは、石炭を原料とし、FT法で合成した炭化水素である。
【0034】
本実施形態のさび止め油組成物における基油は、さらに鉱油を含有することが好ましい。
本実施形態のさび止め油組成物が、エステル基油と鉱油とを含有する場合、防錆性及び貯蔵安定性がより向上する。
【0035】
本実施形態のさび止め油組成物が鉱油を含有する場合、その含有量は、さび止め油組成物全量に対して、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
本実施形態のさび止め油組成物の鉱油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。
例えば、本実施形態のさび止め油組成物の鉱油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、2質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本実施形態のさび止め油組成物の鉱油の含有量が上記の好ましい下限値以上であれば、貯蔵安定性が向上する。
本実施形態のさび止め油組成物の鉱油の含有量が上記の好ましい上限値以下であれば、生分解性がより向上する。
【0037】
本実施形態のさび止め油組成物の鉱油としては、鉱油を1種単独で用いてもよく、複数の鉱油を混合して用いてもよい。複数の鉱油を含む混合鉱油においては、それらの鉱油のAPI分類は同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。
【0038】
本実施形態のさび止め油組成物の基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
本実施形態のさび止め油組成物の基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
例えば、本実施形態のさび止め油組成物の基油の含有量は、さび止め油組成物全量に対して、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上95質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
<防錆剤>
本実施形態のさび止め油組成物における防錆剤としては、スルホン酸塩、エステル防錆剤、ワックス、サリチル酸塩等が挙げられる。防錆性及び生分解性の観点から、スルホン酸塩を含むことが好ましい。
【0040】
<スルホン酸塩>
スルホン酸塩としては、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、スルホン酸アミン塩が挙げられる。
本実施形態におけるスルホン酸塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアミンとスルホン酸とを公知の反応により得ることができる。
【0041】
・アルカリ金属
スルホン酸アルカリ金属塩の原料として使用されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムが好ましい。
【0042】
・アルカリ土類金属
スルホン酸アルカリ土類金属塩の原料として使用されるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましく、カルシウム、バリウムがより好ましく、カルシウムがさらに好ましい。
【0043】
・アミン
スルホン酸アミン塩の原料として使用されるアミンとしては、モノアミン、アルカノールアミン、ポリアミン等が挙げられる。
モノアミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのモノアミンが挙げられる。
第1級アミンとして、具体的には、エチルアミン、n-プロピルアミン、ブチルアミン、1-エチルブチルアミン、1,3-ジアミノプロパン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
第2級アミンとして、具体的には、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン等が挙げられる。
第3級アミンとして、具体的には、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
アルカノールアミンとして、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
ポリアミンとして、具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ブチレンジアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタブチレンヘキサミン等のアルキレンポリアミン;N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N-プロピルエチレンジアミン等のN-アルキルエチレンジアミン;N-ビニルエチレンジアミン、N-プロペニルエチレンジアミン、N-ブテニルエチレンジアミン等のN-アルケニルエチレンジアミン;N-アルキルジエチレントリアミン、N-アルケニルジエチレントリアミン、N-アルキルトリエチレンテトラミン等のN-アルキル又はN-アルケニルアルキレンポリアミン等が挙げられる。また、上記ポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
スルホン酸アミン塩の原料として使用されるアミンとしては、防錆性の観点から、上記の中でも、ポリアミンが好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
【0044】
・スルホン酸
スルホン酸塩の原料として使用されるスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、石油スルホン酸、合成スルホン酸等が挙げられる。
【0045】
・・石油スルホン酸
石油スルホン酸とは、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するマホガニー酸等である。
【0046】
・・合成スルホン酸
合成スルホン酸とは、洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するもの、若しくは、オレフィンをベンゼンに付加することにより得られる直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、又は、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が挙げられる。これらのスルホン酸の分子量について特に制限はないが、好ましくは100~1500、より好ましくは200~700のものが使用される。
【0047】
上記スルホン酸の中でも、アルキルアリールスルホン酸を用いることが好ましく、その中でもナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルナフタレンスルホン酸;ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、かつ、2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルベンゼンスルホン酸;及びベンゼン環に結合するアルキルの炭素数が15以上であるモノアルキルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましく、その中でもナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であるジアルキルナフタレンスルホン酸;ベンゼン環に結合するアルキルの炭素数が10以上であるモノアルキルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。
本明細書において、「アルキルアリールスルホン酸」とは、アリールスルホン酸のアリール基が有する水素原子の一部又は全部がアルキル基で置換された化合物である。
【0048】
・・・ジアルキルナフタレンスルホン酸
ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30のジアルキルナフタレンスルホン酸は、2つのアルキル基の総炭素数が14以上であれば、抗乳化性が向上し、30以下であれば、貯蔵安定性が向上する。なお、2つのアルキル基はそれぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数は、上記の中でも、14~25が好ましく、14~20がより好ましい。
該2つのアルキル基の各アルキル基の炭素数は、それぞれ6~18が好ましく、6~12がより好ましい。
【0049】
・・・ジアルキルベンゼンスルホン酸
ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基又は側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、かつ、2つのアルキル基の総炭素数が14~30のジアルキルベンゼンスルホン酸は、アルキル基の炭素数が14以上であれば、抗乳化性が向上し、30以下であれば、貯蔵安定性が向上する。なお、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14~30であれば各アルキル基の炭素数については特に限定はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6~18であることが好ましい。
【0050】
・・・モノアルキルベンゼンスルホン酸
ベンゼン環に結合する1つのアルキル基の炭素数が10以上のモノアルキルベンゼンスルホン酸は、炭素数が10以上であれば、抗乳化性が向上し、30以下であれば、貯蔵安定性が向上する。また、ベンゼン環に結合するアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
ベンゼン環に結合する1つのアルキル基の炭素数は、上記の中でも、12~28が好ましく、20~26がより好ましい。
【0051】
本実施形態のさび止め油組成物におけるスルホン酸塩としては、上記の中でも、防錆性の観点から、アルキルアリールスルホン酸アミン塩、又は、アルキルアリールスルホン酸アルカリ土類金属塩であることが好ましい。
【0052】
アルキルアリールスルホン酸アミン塩としては、貯蔵安定性を向上させる観点から、アルキル(炭素数10~30(好ましくは炭素数12~22))アリールスルホン酸アミン塩が好ましく、ジアルキル(炭素数の合計14~30)アリールスルホン酸アミン塩がより好ましい。ジアルキル(炭素数の合計14~30)アリールスルホン酸アミン塩の具体例としては、ジノニルナフテレンスルホン酸エチレンジアミン塩等が挙げられる。
【0053】
アルキルアリールスルホン酸アルカリ土類金属塩としては、貯蔵安定性を向上させる観点から、アルキル(炭素数10~30(好ましくは炭素数12~22))アリールスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。アルキル(炭素数10~30)アリールスルホン酸アルカリ土類金属塩の具体例としては、アルキル(炭素数10~24)ベンゼンスルホン酸カルシウム等が挙げられる。
【0054】
本実施形態のさび止め油組成物におけるスルホン酸塩としては、具体的には以下のものが挙げられる。すなわち、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物等)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等)又はアミンとスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホン酸塩;上記の中性スルホン酸塩と、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホン酸塩;炭酸ガスの存在下で上記の中性スルホン酸塩をアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性スルホン酸塩;上記の中性スルホン酸塩とアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基若しくはアミン、及び、ホウ酸、若しくは無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、又は、上記の炭酸塩過塩基性スルホン酸塩とホウ酸、若しくは無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性スルホン酸塩、及びこれらの混合物等が挙げられる。
その中でも、防錆性の観点から、塩基性スルホン酸塩、炭酸塩過塩基性スルホン酸塩、ホウ酸塩過塩基性スルホン酸塩、又は、これらの混合物であることが好ましく、炭酸塩過塩基性スルホン酸塩がより好ましい。
【0055】
<エステル防錆剤>
本明細書において、エステル防錆剤は、上述したエステル基油とは異なり、部分エステルを意味する。
例えば、多価アルコールの部分エステルは、多価アルコール中のヒドロキシ基の少なくとも1つ以上がエステル化されておらず、ヒドロキシ基のままで残っているエステルである。
【0056】
エステル防錆剤としては、多価アルコールの部分エステル、エステル化ラノリン脂肪酸、アルキル又はアルケニルコハク酸エステル、多価脂肪酸の部分エステル等が挙げられる。
【0057】
・多価アルコールの部分エステル
多価アルコールの部分エステルの原料である多価アルコールとしては、分子中のヒドロキシ基の数が、好ましくは2~10(より好ましくは3~6)であり、かつ、炭素数が2~20(より好ましくは3~10)である多価アルコールが挙げられる。
これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましく、ペンタエリスリトールを用いることがより好ましい。
【0058】
多価アルコールの部分エステルの原料であるカルボン酸としては、カルボン酸の炭素数が、好ましくは8~30、より好ましくは10~24、さらに好ましくは14~22である。
該カルボン酸は、飽和でも不飽和でもよく、また直鎖状でも分岐鎖状であってもよい。
具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪酸;ドデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸等)、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸、リノール酸等)、エイコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0059】
多価アルコールの部分エステルとしては、上記の中でも、防錆性の観点から、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールと炭素数14~22の不飽和脂肪酸との部分エステルであることが好ましく、オレイン酸ペンタエリスリトールであることがより好ましい。
【0060】
・エステル化ラノリン脂肪酸
エステル化ラノリン脂肪酸は、羊の毛に付着するろう状物質を精製(加水分解等)して得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものである。ここで、エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖状の飽和1価アルコール、炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖状の不飽和1価アルコール、上記多価アルコールの部分エステルにおいて説明した多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等が挙げられる。その中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。
【0061】
・アルキル又はアルケニルコハク酸エステル
アルキル又はアルケニルコハク酸エステルは、アルキル又はアルケニルコハク酸とアルコールとを反応させて得られたものである。ここで、アルキル又はアルケニルコハク酸エステルの原料として使用されるアルコールとしては、上記のエステル化ラノリン脂肪酸において説明したアルコールと同様のものが挙げられる。
【0062】
<ワックス>
ワックスとしては、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタム、合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0063】
<サリチル酸塩>
サリチル酸塩としては、アルキルサリチル酸アルカリ金属塩、及びアルキルサリチル酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
該アルキル基の炭素数としては、炭素数8~30が好ましく、炭素数10~20がより好ましい。該アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
サリチル酸塩として、具体的には、アルキル(炭素数14~18)サリチル酸カルシウムが挙げられる。
【0064】
<任意成分>
本実施形態の潤滑油組成物は、上述した基油、及び防錆剤以外の任意成分を含有してもよい。該任意成分としては、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、金属系清浄剤、流動点降下剤、及び、解乳化剤等が挙げられる。
【0065】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系化合物;ジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、p-アルキルフェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。潤滑油組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は潤滑油組成物全量に対して、例えば、0.5~10質量%である。酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、複数の酸化防止剤を混合して用いてもよい。
【0066】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。潤滑油組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量は潤滑油組成物全量に対して、例えば、0.01~10質量%である。腐食防止剤は、1種単独で用いてもよく、複数の腐食防止剤を混合して用いてもよい。
【0067】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0068】
流動点降下剤としては、例えば、基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が挙げられる。
【0069】
解乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0070】
一実施形態のさび止め油組成物は、生分解性作動油規格ISO15380に規定されているOECD301B法による生分解度が、60%以上である。
例えば、さび止め油組成物中のエステルの割合を高めることで、該生分解度を高めることができる。
【実施例0071】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
<さび止め油組成物の調製>
(実施例1~15、比較例1~3)
表1及び2に示す各成分を用いて、各例のさび止め油組成物をそれぞれ調製した。各例の成分欄に記載の数値は、各成分の組成物全量基準での含有量(質量%)を意味する。
【0073】
[生分解性の評価]
・生分解度の測定
生分解性作動油規格ISO15380に規定されているOECD301B法で各例のさび止め油組成物の生分解度(%)を算出した。その結果を表1に示す。生分解度が60%以上であれば、良好な生分解性を有していると言える。
【0074】
[防錆性の評価]
・湿潤試験
JIS K 2246:2018「防錆油」湿潤試験に準拠して、各例のさび止め油組成物の防錆性を評価した。評価は所定の時間毎(168時間後、1344時間後、1512時間後、1680時間後、1848時間後、2016時間後、2184時間後)に行った。本試験における評価はJIS K 2246:2018に規定されるさび発生度(A級~E級;A級が最も防錆性に優れていることを表す)に基づいて行った。なお、試験片としては、SPCC-SBを用いた。その結果を表1及び2に示す。
【0075】
[貯蔵安定性の評価]
100mLスクリュー瓶に各例のさび止め油組成物をそれぞれ100mL入れ、0℃で4週間静置した場合、室温(25℃)で4週間静置した場合、60℃で4週間静置した場合の各例のさび止め油組成物をそれぞれ目視で観察し、以下の基準で評価した。その結果を表1及び2に示す。
A:いずれの温度でもサンプルに外観の変化がない
B:いずれかの温度でサンプルにわずかに濁りまたは沈殿がみられる
【0076】
【0077】
【0078】
表1及び2中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。
・基油
A-1:鉱油(APIグループI基油、40℃における動粘度:23.1mm2/s)
A-2:エステル基油(アジピン酸-ジ-2エチルヘキシル(製品名:モノサイザー W-240、DIC社製))
A-3:エステル基油(アジピン酸ジイソノニル(製品名:Diisononyl Adipate、東京化成工業社製))
A-4:エステル基油(アジピン酸ジイソデシル(製品名:Diisodecyl Adipate、東京化成工業社製))
A-5:エステル基油(アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル(製品名:Bis(2-ethylhexyl) Azelate、東京化成工業社製))
A-6:エステル基油(セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(製品名:Bis(2-ethylhexyl) Sebacate、東京化成工業社製))
【0079】
・防錆剤
B-1:アルキル(炭素数:20~26)ベンゼンスルホン酸カルシウム(製品名:LOBASE C-4501J、LANXESS社製)
B-2:ジノニルナフテレンスルホン酸エチレンジアミン塩(製品名:NA-SUL EDS、KING INDUSTRIES社製)
B-3:アルキル(炭素数:14~18)サリチル酸カルシウム(製品名:Infineum C9329、インフィニアムジャパン社製)
B-4:過塩基化アルキルスルホン酸カルシウム(炭酸塩過塩基性スルホン酸塩;アルキル基の炭素数:16~22、塩基価:305mgKOH/g)(製品名:LUBRIZOL 6477C、日本ルーブリゾール社製)
B-5:オレイン酸ペンタエリスリトールトリエステル(製品名:Synative ES PDO、BASF社製)
【0080】
表1及び2に示す通り、実施例のさび止め油組成物は、比較例のさび止め油組成物に比べて、生分解性及び防錆性が高いことが確認できた。
【0081】
・実施例1と比較例2との対比について
実施例1のさび止め油組成物の湿潤試験の結果と、比較例2のさび止め油組成物の湿潤試験の結果とから、さび止め油組成物のエステル基油の含有量が50質量%超であると、防錆性が良好であることが確認できた。
エステル基油は、試験片の表面への吸着特性を有するが、少量のエステル基油と防錆剤とを併用した場合、エステル基油及び防錆剤の吸着挙動に競争が生じ、試験片表面の被膜の防錆性が低下する(比較例2)。一方で、エステル基油の含有量が50質量%超であると、エステル基油が試験片の表面に多層吸着し、防錆剤も本来の効果を奏しやすくなるため、エステル基油及び防錆剤の相乗効果が発生して、防錆性がより向上すると推測される(実施例1)。