(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054883
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】転落検知システム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161312
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知禎
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM12
5H161MM15
5H161NN13
5H161PP01
5H161PP11
(57)【要約】
【課題】複数配置された転落検知センサの1つが故障した場合でも、転落者の有無を監視できないエリアが発生することを回避することが可能な転落検知システムを提供する。
【解決手段】転落検知システム1は、複数の走査器ユニット3a~3eと、転落情報取得部11と、判定部15とを備える。複数の走査器ユニット3a~3eは、1つで列車の複数車両分の転落検知エリアをカバーする。転落情報取得部11は、転落検知エリアにおいて転落者が存在することを示す転落情報を取得する。判定部15は、転落情報取得部11において取得された転落情報に基づいて、転落者の有無を判定する。複数のセンサ装置3a~3eは、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eの検知エリアが互いに重複するように設置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道駅のプラットホームの下方において列車の進行方向に沿って設定される複数の転落検知エリアにおける転落者を検知する転落検知システムであって、
1つで列車の複数車両分の前記転落検知エリアをカバーする複数のセンサ装置と、
前記転落検知エリアにおいて前記転落者が存在することを示す転落情報を取得する転落情報取得部と、
前記転落情報取得部において取得された転落情報に基づいて、前記転落者の有無を判定する判定部と、
を備え、
前記複数のセンサ装置は、互いに隣接する前記センサ装置の検知エリアが互いに重複するように設置されている、
転落検知システム。
【請求項2】
前記判定部は、互いに隣接する前記センサ装置に対応する前記転落検知エリアの重複部分に対して設定された略同等の検知サイズを用いて、前記転落者の有無を判定する、
請求項1に記載の転落検知システム。
【請求項3】
前記判定部は、互いに隣接する前記センサ装置に対応する前記転落検知エリアの重複部分に対して設定された略同等の検知時間を用いて、前記転落者の有無を判定する、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項4】
前記判定部は、互いに隣接する前記センサ装置に対応する前記転落検知エリアの重複部分においてそれぞれ検知された物体の検知サイズを、予め設定された閾値と比較して、前記転落者の有無を判定する、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項5】
前記判定部は、互いに隣接する前記センサ装置に対応する前記転落検知エリアの重複部分において、いずれか一方の前記センサ装置によって前記転落者を検知した場合には、前記転落者ありと判定する、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項6】
前記判定部は、互いに隣接する前記センサ装置に対応する前記転落検知エリアの重複部分において隣接する両方の前記センサ装置において物体を検知した場合には、前記物体から近い距離にある方の前記センサ装置における検知結果を用いて、前記転落者の有無を判定する、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項7】
前記転落検知エリアは、前記列車が走行する軌道上に設定されたエリアである、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項8】
前記転落検知エリアは、前記列車と前記プラットホームとの間に形成される隙間に設定されるエリアである、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項9】
前記センサ装置の故障状態を検出する故障検出部を、さらに備えている、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【請求項10】
前記故障検出部における検出結果を表示する故障状態表示部を、さらに備えている、
請求項9に記載の転落検知システム。
【請求項11】
前記判定部において前記転落者ありと判定されると、前記転落者の発生を報知する報知部を、さらに備えている、
請求項1または2に記載の転落検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道駅のプラットホームからの転落者を検知する転落検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道駅では、鉄道利用者が、誤ってプラットホームから軌道上へ転落することがある。また、列車が鉄道駅で停止しているときには、鉄道利用者が、プラットホームと列車との間の隙間へ転落することがある。従来、これら軌道転落および隙間転落を検知して、関係者(指令員、駅係員、車掌あるいは運転士など)に発報するシステムが提案されている。
例えば、特許文献1および2は、レーザを偏光しながら射出して2次元的な走査範囲を形成するレーザスキャナを備えたシステムを開示している。レーザスキャナは、レーザを水平に射出する姿勢で、プラットホームよりも下方かつ軌道よりも上方の高さに設置される。当該高さに形成された水平な走査範囲内の任意領域が、監視領域として設定される。レーザスキャナは、物体が監視領域内に存在するか否かを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-168272号公報
【特許文献2】特開2014-095649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のホーム転落検知システムでは、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示されたホーム転落検知システムの構成において、1つのセンサで複数の車両分の検知エリアをカバーするために複数車両ごとに1つのセンサが設置された構成の場合、運用中に、あるセンサが故障してしまうと、乗客の転落による危険状況を監視できないエリアが発生してしまう。
【0005】
また、センサを交換する際等、センサを再稼働させるまでの間、そのエリアを転落検知システムの代わりに人(駅係員)が監視する必要が生じ、駅係員の負担を大幅に軽減するという転落検知システムの本来の効果を維持することができなくなるおそれがある。
本発明の課題は、複数配置された転落検知センサの1つが故障した場合でも、転落者の有無を監視できないエリアが発生することを回避することが可能な転落検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る転落検知システムは、鉄道駅のプラットホームの下方において列車の進行方向に沿って設定される複数の転落検知エリアにおける転落者を検知する転落検知システムであって、複数のセンサ装置と、転落情報取得部と、判定部と、を備えている。複数のセンサ装置は、1つで列車の複数車両分の転落検知エリアをカバーする。転落情報取得部は、転落検知エリアにおいて転落者が存在することを示す転落情報を取得する。判定部は、転落情報取得部において取得された転落情報に基づいて、転落者の有無を判定する。複数のセンサ装置は、互いに隣接するセンサ装置の検知エリアが互いに重複するように設置されている。
【0007】
ここでは、1つのセンサ装置が列車の複数車両分の検知エリアをカバーする複数のセンサ装置を備えた構成において、例えば、1車両ごとに1つのセンサ装置を設置し、センサ装置から見て左側の監視領域が、左隣のセンサ装置の右側の監視領域と重なるように、センサから見て右側の監視領域が、右隣のセンサの左側の監視領域と重なるように設置されている。
【0008】
これにより、複数配置されたセンサ装置のうちの1つが故障した場合でも、故障したセンサ装置に隣接するセンサ装置によって故障したセンサ装置による検知エリアをカバーすることができる。
よって、例えば、故障したセンサ装置を交換し再稼働させるまでの間、故障したセンサ装置の検知エリアを人(駅係員)が監視する必要がない。
この結果、複数配置された転落検知センサの1つが故障した場合でも、転落者の有無を監視できないエリアが発生することを回避することができる。
【0009】
第2の発明に係る転落検知システムは、第1の発明に係る転落検知システムであって、判定部は、互いに隣接するセンサ装置に対応する転落検知エリアの重複部分に対して設定された略同等の検知サイズを用いて、転落者の有無を判定する。
これにより、互いに隣接するセンサ装置の転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、略同等の検知サイズの範囲であるか否かに応じて、転落者の有無を判定することができる。
【0010】
第3の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、判定部は、互いに隣接するセンサ装置に対応する転落検知エリアの重複部分に対して設定された略同等の検知時間を用いて、転落者の有無を判定する。
これにより、互いに隣接するセンサ装置の転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、略同等の検知時間の範囲であるか否かに応じて、転落者の有無を判定することができる。
【0011】
第4の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、判定部は、互いに隣接するセンサ装置に対応する転落検知エリアの重複部分においてそれぞれ検知された物体の検知サイズを、予め設定された閾値と比較して、転落者の有無を判定する。
【0012】
これにより、互いに隣接するセンサ装置の転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、双方のセンサ装置において検出された物体のサイズと所定の閾値とを比較して、両者ともに閾値よりも大きい場合には、物体を転落者として判定することができる。
この結果、一方のセンサ装置からみて閾値以上のサイズであっても、他方のセンサ装置から見て閾値未満のサイズの物体を、転落者として誤判定することを回避することができる。
【0013】
第5の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、判定部は、互いに隣接するセンサ装置に対応する転落検知エリアの重複部分において、いずれか一方のセンサ装置によって転落者を検知した場合には、転落者ありと判定する。
これにより、隣接するセンサ装置のいずれか一方において転落検知エリアの重複部分に転落者有りと判定した場合には、他方のセンサ装置の検出結果に関わらず、転落者ありと判定することができる。
この結果、一方のセンサ装置が故障している場合でも、他方のセンサ装置の検出結果を用いて、転落者を確実に検出することができる。
【0014】
第6の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、判定部は、互いに隣接するセンサ装置に対応する転落検知エリアの重複部分において隣接する両方のセンサ装置において物体を検知した場合には、物体から近い距離にある方のセンサ装置における検知結果を用いて、転落者の有無を判定する。
これにより、互いに隣接するセンサ装置の転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、物体から近い距離にあるセンサ装置における検知結果(検知サイズ、検知時間等)を用いて、転落者の有無を判定することで、転落者の有無を正確に判定することができる。
【0015】
第7の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、転落検知エリアは、列車が走行する軌道上に設定されたエリアである。
これにより、主として、列車が不在時における軌道上への転落者の検知を確実に実施することができる。
【0016】
第8の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、転落検知エリアは、列車とプラットホームとの間に形成される隙間に設定されるエリアである。
これにより、主として、列車が在線時における列車とプラットホームとの間の隙間への転落者の検知を確実に実施することができる。
【0017】
第9の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、センサ装置の故障状態を検出する故障検出部を、さらに備えている。
これにより、互いに隣接するセンサ装置の転落検知エリアが重複するように設置された構成において、センサ装置の故障を検出することで、故障したセンサ装置に隣接するセンサ装置によって転落検知エリアがカバーされているか否かを確認することができる。
【0018】
第10の発明に係る転落検知システムは、第9の発明に係る転落検知システムであって、故障検出部における検出結果を表示する故障状態表示部を、さらに備えている。
これにより、故障状態表示部に表示された結果を確認することで、例えば、駅員等は、故障したセンサ装置に隣接するセンサ装置によって転落検知エリアがカバーされているか否か、センサ装置の故障した箇所等を容易に認識することができる。
【0019】
第11の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知システムであって、判定部において転落者ありと判定されると、転落者の発生を報知する報知部を、さらに備えている。
これにより、例えば、駅員等は、音声や光の点灯等によって転落者の発生を報知されることで、運行中の列車の停止等の措置を講ずることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る転落検知システムによれば、複数配置された転落検知センサの1つが故障した場合でも、転落者の有無を監視できないエリアが発生することを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る転落検知装置を含む転落検知システムの構成を示す制御ブロック図。
【
図2】
図1の転落検知システムに含まれる転落検知装置の構成を示す制御ブロック図。
【
図3】(a)は、駅のプラットホームに列車が不在の状態において光走査器による走査範囲を示す平面図。(b)は、駅のプラットホームに列車が在線の状態において光走査器による走査範囲を示す平面図。
【
図4】駅のプラットホームの下部空間に設置された光走査器と駅に停止した列車との位置関係を示す、列車の進行方向から見た断面図。
【
図5】(a)は、列車が駅のプラットホームに不在の状態における転落検知エリアを示す斜視図。(b)は、列車が駅のプラットホームに在線の状態における隙間転落検知エリアを示す斜視図。
【
図6】軌道上における重複した転落検知エリアにおいて検出された物体とその物体から隣接する2つの走査器ユニットまでの距離を示す平面図。
【
図7】
図2の表示装置に表示される複数の走査器ユニットの動作状態を示す概念図。
【
図8】
図2の表示装置に表示される複数の走査器ユニットの動作状態を示す概念図。
【
図9】
図2の表示装置に表示される複数の走査器ユニットの動作状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る転落検知システムについて、
図1~
図9を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、本実施形態では、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0023】
また、出願人は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
以下の説明において、「長手方向」は、鉄道駅のプラットホームPの長手方向である(
図3の紙面左右方向、
図4の紙面直交方向)。長手方向は、プラットホームPに隣接した軌道Rの延在方向、および、軌道R上の車両Cの車長方向と略平行である。「幅方向」は、プラットホームPの幅方向(
図3の紙面上下方向、
図4の紙面左右方向)である。幅方向は、プラットホームPに隣接した軌道Rの軌間方向、および、軌道R上の車両Cの車幅方向と略平行である。幅方向の「内側」または「内方」は、プラットホームPの幅中心に近づく側または方向である。幅方向の「外側」または「外方」は、プラットホームPの幅中心から遠ざかる側または方向である。
【0024】
軌道Rは、道床と、その上に設けられた一対のレールとを含む。列車Tは、レールに沿って軌道R上を走行する。列車Tは、1両の車両Cで構成され、または、連結器を介して2両以上の車両Cを順次に連結することによって構成される。プラットホームPは、軌道Rと幅方向に隣接して設定され、その上面は軌道Rよりも上方に位置する。
軌道Rの状態には、
図3(a)に示す「不在状態」と、
図3(b)に示す「在線状態」とが含まれる。不在状態では、軌道R上に列車Tが存在せず、軌道Rの上方が広く開放される。不在状態において、鉄道利用者は、プラットホームPの上面で列車Tの到着を待つ。在線状態では、軌道R上で列車Tが停止している。在線状態において、鉄道利用者は、プラットホームPと列車Tとの間に形成される隙間Dを跨いで、プラットホームPの上面から列車Tに乗り、または、列車TからプラットホームPの上面へ降り立つ。
【0025】
(1)転落検知システム1の構成
本実施形態に係る転落検知システム1は、プラットホームPを備えた鉄道駅に適用され、プラットホームPから誤って転落した鉄道利用者を検知する。検知の対象は、不在状態でプラットホームPから軌道Rまで転落した「軌道転落者」と、在線状態で隙間Dへ転落した「隙間転落者」との両方である。隙間転落者には、軌道Rまで落下する者もいれば、隙間Dに挟まって宙吊りになる者もいるが、そのどちらも検知の対象である。
【0026】
なお、軌道Rの状態には、不在状態から在線状態への過渡状態としての「入線状態」と、在線状態から不在状態への過渡状態としての「出線状態」とが含まれる。
また、本実施形態に係る転落検知システム1は、
図1に示すように、プラットホームPの下部空間に設置された走査装置3と、走査装置3と接続された転落検知装置4と、パトライト(登録商標)等のシステム状態表示器5および転落警報器6と、軌道回路7と、記憶装置8と、表示装置(故障状態表示部)9と、を備えている。
【0027】
走査装置3は、
図2~
図4に示すように、プラットホームPの下部空間において、プラットホームPと隣接した軌道Rに沿って設けられており、複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eを有している。各走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eは、上下一対で配置された上走査器31および下走査器(光走査器)32を含む。複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eは、長手方向に間隔をおいて設定された複数の設置位置それぞれに設置されている。
【0028】
上・下走査器31,32は、例えば、レーザ光を所定の角度範囲内で走査する2Dレーザスキャナであって、
図2に示すように、発光部33、偏光部34、受光部35、検知部36、距離算出部37を有している。
発光部33は、レーザ光のような走査光SLを発光する。
偏光部34は、ガルバノミラーのような偏光器、および、偏光器を回転駆動するアクチュエータを有する。発光部33で発光された走査光SLは、偏光部34によって偏光されながら射出される。これにより、2次元的な走査範囲SRが形成される。走査範囲SR内に物体が存在すると、走査光SLがその物体で反射する。
【0029】
受光部35は、走査光SLの反射光を受光する。
検知部36は、発光部33から照射されてから受光部35で受光された反射光を受光するまでの時間に基づいて、走査範囲SR(更に言えば、走査範囲SR内に設定された転落監視領域(転落検知エリア)に物体が存在するか否かを検知する。
距離算出部37は、受光部35において受光した反射光を受光するまでの時間の情報に応じて、上・下走査器31,32から光を反射した物体までの距離を算出する。
【0030】
上・下走査器31,32は、
図4に示すように、プラットホームPよりも下方かつ軌道Rよりも上方に設置されている。上走査器31は、下走査器32よりも上方に設置されている。
下走査器32は、主として、軌道転落者を検知する。他方、下走査器32は、軌道Rの構成要素を検知しないことを求められる。下走査器32の上下方向の位置は、このような役割を果たすための適値(例えば、軌道から約250mm上方)に調整される。
【0031】
上走査器31は、主として、隙間Dで宙吊りになった隙間転落者を検知する。上走査器31の上下方向の位置は、このような役割を果たすための適値(例えば、軌道から約700mm上方、あるいは、プラットホームPから約600mm下方)に調整される。
上・下走査器31,32は、軌道Rよりも幅方向内方、更には、プラットホームPの端縁よりも幅方向内方に設置されている。プラットホームPの下方には、プラットホームPの端縁から見て幅方向内方に奥まった空間が形成されることがある。走査器ユニット3a,3b,3cの設置位置は、例えば、このような空間内に設定されており、当該空間内で上・下走査器31,32の上下方向および幅方向における位置が調整される。
【0032】
上・下走査器31,32は、走査光SLが幅方向外方へ水平に射出されて水平面内で偏光される姿勢で、設置されている。これにより、上・下走査器31,32が、プラットホームPよりも下方かつ上・下走査器31,32から見て幅方向外方に、2つの水平な走査範囲SRを形成する。
走査光SLの偏光範囲は、
図3に示すように、約-5°~185°の角度範囲で設定されている。走査範囲SRは、平面視において、対応する上・下走査器31,32から幅方向に延びる基準線RLに対して線対称の半円形状に形成される。複数の走査範囲SRが、長手方向に並べられ、かつ、互いに部分的にオーバラップされるようにして、複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eによって形成される。
【0033】
各走査範囲SR内に、転落監視領域が設定される。上・下走査器31,32は、それぞれ、走査範囲SR内の物体(転落者または車輪)の存否を検知することができる。そして、上・下走査器31,32は、それぞれが設定された転落監視領域内の物体の存在を検知したときに、その旨を示す検出信号を出力する。
転落監視領域のサイズおよび場所は、軌道の状態に応じて変更される。本実施形態に係る上・下走査器31,32においては、複数の転落監視領域を、同一の走査範囲SR内における互いに異なる領域に同時的に設定することが可能である。また、同時的に設定される2以上の転落監視領域を、同一の走査範囲SR内で部分的に互いにオーバラップさせることも可能である。
【0034】
本実施形態では、走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eのそれぞれの設置位置が、長手方向において車両1両分の長さに相当する間隔をおいて設定されている。各設置位置は、停車中の列車Tの車両連結部と幅方向に対向する位置である。
長手方向一方側(
図3の紙面左側)の末端に設置された走査器ユニット3aは、1両目の先頭部と対向する位置に設置されている。その隣に設置された走査器ユニット3bは、末端の走査器ユニット3aから車両1両分の長さだけ離されており、1両目および2両目の車両連結部と対向する位置に設置されている。その隣に設置された走査器ユニット3cは、走査器ユニット3bから車両1両分の長さだけ離されており、2両目および3両目の車両連結部と対向する位置に設置されている。その隣に設置された走査器ユニット3dは、走査器ユニット3cから車両1両分の長さだけ離されており、3両目および4両目の車両連結部と対向する位置に設置されている。長手方向他方側の末端に設置された走査器ユニット3eは、走査器ユニット3dから車両1両分の長さだけ離されており、4両目の最後尾と対向する位置に設置されている。
【0035】
上・下走査器31,32にそれぞれ設定される転落監視領域は、長手方向に車両2両分の長さを有している。転落監視領域は、例えば、走査器ユニット3aの設置位置から見て長手方向一方側の車両C1と他方側(
図3の紙面右側)の車両C2との2両が停止する領域と対応する。そして、転落監視領域は、例えば、走査器ユニット3aに隣接配置された走査器ユニット3bの設置位置から見て長手方向一方側の車両C2と他方側(
図3の紙面右側)の車両C3との2両が停止する領域と対応する。
【0036】
すなわち、互いに隣接する走査器ユニット3a,3bは、ともに1両目の車両C1を転落監視領域としている。
同様に、互いに隣接する走査器ユニット3b,3cは、ともに2両の車両C2を転落監視領域とし、互いに隣接する走査器ユニット3c,3dは、ともに3両の車両C3を転落監視領域とし、互いに隣接する走査器ユニット3d,3eは、ともに4両の車両C4を転落監視領域としている。
【0037】
複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eにそれぞれ設定される複数の転落監視領域(転落検知エリア)は、長手方向に連なっており、互いに隣接する転落監視領域が重複するように設定される。したがって、列車Tが停車する全領域が監視の対象となる。
ただし、走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eが設置される個数は、特に限定されない。走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eの個数は、転落監視領域の長手方向における寸法や、プラットホームPの有効長や、軌道R上で停止すると想定されている列車Tの最大長に応じて、適宜変更可能である。
【0038】
例えば、プラットホームPと列車Tとの間の隙間が広くなりやすい曲線状の部分にのみ、走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eが設置されており、プラットホームPの一部において転落検知が実施されてもよい。
転落検知装置4は、
図2に示すように、走査装置3と接続されており、走査装置3から出力された検知結果に基づいて、プラットホームPからの転落者、その他の落下物を含む異物を検知する。転落検知装置4は、転落者を検知すると、関係者に知らせるために転落警報器(報知部)6に発報動作を行わせる。
【0039】
システム状態表示器5は、例えば、パトライト(登録商標)等の表示装置であって、物体を検知した場所を示す表示や、走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eの上・下走査器31,32に生じた異常の内容等を表示する。
転落警報器(報知部)6は、列車運行を管理する指令所に設けられ指令員に向けて警報を発する、あるいは、鉄道駅に設けられ駅係員に向けて警報を発する、あるいは、列車Tの制御車に設けられ運転士あるいは車掌に向けて警報を発する警報器を含む。警報器は、警告音等の音情報を出力するスピーカまたはブザーでもよいし、警告メッセージを表示するディスプレイ、または警告光を照射するランプであってもよい。
【0040】
関係者は、警報に基づいて、転落への対処、および、転落に付随する二次事故を未然に防ぐための措置を採ることができるとともに、雑草等の植生、落ち葉その他の落下物の処理等の措置を採ることができる。
軌道回路7は、軌道転落監視対象駅における列車の在線、不在を検知して、転落検知装置4に対して軌道回路信号を送信する。軌道回路7は、一例として、プラットホームPと隣接する軌道Rを検知範囲とする軌道回路であってもよい。軌道回路7は、プラットホームPの長手方向両端部の屋根に設置され、車両Cの上面または側面の存否を検知する車両検知センサによって構成されてもよい。
【0041】
記憶装置8は、転落検知装置4に接続されており、例えば、走査装置3から受信したRAWデータや、転落検知結果、走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eの故障の有無等を示すログデータが保存されている。
表示装置(故障状態表示部)9は、例えば、後述する故障検出部18における検出結果等を表示する。
これにより、駅係員等は、走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eのいずれかに故障が発生した場合に、表示装置9の表示を確認して、全ての転落監視領域(転落検知エリア)がカバーされているかを確認する等の措置を採ることができる。
【0042】
(2)転落検知装置4
転落検知装置4は、一例として、CPUと、ROM、RAMおよびEEPROM等のメモリと、入出力インタフェースとを備えるコンピュータによって構成される。コンピュータは、単体でもよいし、物理的に分散された複数のコンピュータの複合でもよい。メモリは、このようなコンピュータに転落検知方法を実行させるための転落検知プログラムを記憶している。CPUは、メモリに保存された転落検知プログラムを読み込んで、転落検知プログラムに従って転落検知方法に係る情報処理を行う。メモリは、転落検知プログラムのほか、転落検知方法の実行に際して必要な情報またはデータを一時的に記憶することもできる。
【0043】
転落検知装置4は、CPUが転落検知プログラムを読み込んで実行することで、
図2に示すように、制御部10、情報取得部11、軌道情報取得部12、転落検知エリア設定部13、走査データ取得部14、判定部15、検知サイズ設定部16、検知時間設定部17、故障検出部18および出力部20を有している。
制御部10は、情報取得部11、軌道情報取得部12、転落検知エリア設定部13、走査データ取得部14、判定部15、検知サイズ設定部16、検知時間設定部17、故障検出部18および出力部20と接続されており、各部を制御する。
【0044】
情報取得部11は、上・下走査器31,32から、例えば、受光部35において反射光を受光するまでの時間のデータ、検知部36において検知された検知結果、距離算出部37において算出された転落検知エリア内に存在する物体までの距離データ等を受信する。
軌道情報取得部12は、軌道の状態を示す情報を取得する。本実施形態では、軌道情報取得部12は、軌道の状態として、在線状態であるか、不在状態であるか、これら2つの状態のいずれでもないか(過渡状態であるか)を示す情報を取得する。
【0045】
転落検知エリア設定部13は、取得された軌道の状態等に応じて、上・下走査器31,32にそれぞれ設定されるべき転落を監視する転落監視領域を所定のパターンの中から1つ選択し、選択されたパターンの転落監視領域を上・下走査器31,32にそれぞれ設定する。転落検知エリア設定部13は、軌道の状態に応じて、転落監視領域のパターン、転落検知システム1の検知の対象、あるいは、転落検知システム1の動作モードを切り換える。
【0046】
走査データ取得部14は、各走査器ユニット3a~3e(上・下走査器31,32)によって出力された転落監視領域内における物体の存否についての検知結果を取得する。
判定部15は、走査データ取得部14において取得された検知結果に基づいて、所定の判定ロジックに従って、プラットホームPからの転落者の有無を判定する。
また、判定部15は、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eに対応する転落監視領域の重複部分に対して設定された略同等の検知サイズを用いて、転落者の有無を判定する。
【0047】
これにより、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eの転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、略同等の検知サイズの範囲であるか否かに応じて、転落者の有無を判定することができる。
さらに、判定部15は、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eに対応する転落監視領域の重複部分に対して設定された略同等の検知時間を用いて、転落者の有無を判定する。
【0048】
これにより、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eの転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、略同等の検知時間の範囲であるか否かに応じて、転落者の有無を判定することができる。
判定部15は、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eに対応する転落監視領域の重複部分においてそれぞれ検知された物体の検知サイズを、予め設定された閾値と比較して、転落者の有無を判定する。
【0049】
これにより、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eの転落検知エリアの重複部分において物体を検出した際には、双方の走査器ユニット3a~3eにおいて検出された物体のサイズと所定の閾値とを比較して、両者ともに閾値よりも大きい場合には、物体を転落者として判定することができる。
この結果、一方の走査器ユニット3a~3eからみて閾値以上のサイズであっても、他方の走査器ユニット3a~3eから見て閾値未満のサイズの物体(例えば、薄板等)を、転落者として誤判定することを回避することができる。
【0050】
判定部15は、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eに対応する転落監視領域の重複部分において、いずれか一方の走査器ユニット3a~3eによって転落者を検知した場合には、転落者ありと判定する。
これにより、隣接する走査器ユニット3a~3eのいずれか一方において転落検知エリアの重複部分に転落者有りと判定した場合には、他方の走査器ユニット3a~3eの検出結果に関わらず、転落者ありと判定することができる。
【0051】
この結果、一方の走査器ユニット3a~3eが故障している場合でも、他方の走査器ユニット3a~3eの検出結果を用いて、転落者を確実に検出することができる。
また、判定部15は、
図6に示すように、例えば、互いに隣接する位置に配置された2つの走査器ユニット3a,3bにおいて、重複する転落監視領域内に物体が検出された場合には、その物体からの距離が近い方の走査器ユニット3aにおける検知結果を用いて、転落者の有無を判定する。
【0052】
ここで、転落監視領域内において検知された物体と各走査器ユニット3a~3eまでの距離は、走査器ユニット3a~3eに含まれる距離算出部37から取得した距離情報が用いられる。
これにより、物体からの距離d1の位置にある走査器ユニット3aと距離d2(>d1)の位置にある走査器ユニット3bとの双方において物体を検知した場合には、物体からの距離が近い走査器ユニット3aにおける検知結果(検知サイズ、検知時間等)を優先的に用いて、転落者の有無を判定することで、転落者の有無を正確に判定することができる。
【0053】
検知サイズ設定部16は、転落監視領域における転落者を検知するために、検知対象となる物体のサイズを転落者と同等のサイズに設定する。また、検知サイズ設定部16は、互いに隣接する走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eにおいて検知される転落者の判定に用いられる検知サイズが略同等になるように検知サイズを設定する。
検知時間設定部17は、転落監視領域における転落者を判定する際の検知時間を設定する。具体的には、検知時間設定部17は、転落した人を検知する際の検知時間を設定する。また、検知時間設定部17は、互いに隣接する走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eにおいて検知される転落者の判定に用いられる検知時間が略同等になるように検知時間を設定する。
【0054】
故障検出部18は、例えば、複数配置された走査器ユニット3a~3eに対してコマンドを送信し、返信がない各走査器ユニット3a~3eについて、通信不良が発生していると判断し、その通信不良の走査器ユニット3a~3eに故障が発生していると検出する。
出力部20は、判定部15が転落者を検知した場合に、転落警報器6に警報動作を行わせる指令を出力する。また、出力部20は、故障検出部18において走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eの故障を検知した場合において、その故障検知された走査器ユニット3a,3b,3cc,3d,3eの有無およびその位置を、システム状態表示器5および表示装置9に出力して表示させる。
【0055】
(転落監視領域)
本実施形態の転落検知装置4では、
図3(a)および
図3(b)に示すように、軌道の状態に応じて走査装置3に選択的に設定される転落監視領域のパターンとして、不在状態で設定されるパターンである軌道監視領域ARと、在線状態で設定されるパターンである隙間監視領域ADとが設定されている。
【0056】
軌道監視領域ARは、
図3(a)に示すように、軌道Rの上部空間を覆うように設定される。軌道転落者は、転落の過程で軌道監視領域AR内に入る。よって、軌道監視領域AR内に物体が存在するとの検知結果に基づき、軌道Rの幅方向全体にわたって、軌道転落者を検知することができる。
隙間監視領域ADは、
図3(b)に示すように、軌道監視領域ARよりも幅方向に狭く、隙間D内に設定される。隙間転落者のうち軌道Rまで達した者は、転落の過程で隙間監視領域AD内に入る。宙吊りになった者も、隙間監視領域AD(特に、上隙間監視領域ADU)内で留まる。よって、隙間監視領域AD内に物体が存在するとの検知結果に基づき、隙間転落者を検知することができる。
【0057】
(軌道監視領域)
走査装置3は、長手方向に並ぶ複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eを含むように構成されている。
軌道監視領域ARは、
図3(a)に示すように、複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eごとに設定される軌道監視領域ARa,ARb,ARc,ARd,AReを長手方向に連ねることによって構成される。また、軌道監視領域ARは、
図3(a)に示すように、隣接する走査器ユニット3a,3bの軌道監視領域ARa、ARbの約半分の領域で互いに重複するように設定されている。同様に、隣接する走査器ユニット3b,3cの軌道監視領域ARb,ARcが約半分の領域で互いに重複するように設定されている。同様に、隣接する走査器ユニット3c,3dの軌道監視領域ARc,ARdが約半分の領域で互いに重複するように設定されている。同様に、隣接する走査器ユニット3d,3eの軌道監視領域ARd,AReが約半分の領域で互いに重複するように設定されている。
【0058】
また、本実施形態では、各走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eは、上述したように、上下一対で設けられた上・下走査器31,32で構成されている。
走査器ユニット3aの軌道監視領域ARaは、上走査器31に設定される上軌道監視領域ARaUと、下走査器32に設定される下軌道監視領域ARaLとで構成される。他の走査器ユニット3b,3c,3d,3eの軌道監視領域ARb,ARc,ARd,AReについても、これと同様である。
【0059】
すなわち、複数の上走査器31が長手方向に沿って並べられ、かつ、複数の下走査器32が長手方向に沿って並べられている。走査装置3の軌道監視領域ARは、上軌道監視領域ARUと、下軌道監視領域ARLとで構成されている。
上軌道監視領域ARUは、複数の上走査器31に設定された複数の上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcU,ARdU,AReUを長手方向においてその約半分の領域が重複するように連ねることによって形成されている。下軌道監視領域ARLは、上軌道監視領域ARUよりも低い位置に設定され、複数の下走査器32に設定された複数の下軌道監視領域ARaL,ARbL,ARcL,ARdL,AReLを長手方向においてその約半分の領域が重複するように連ねることによって形成されている。
【0060】
複数の上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcU,ARdU,AReUは、長手方向においてその約半分の領域が重複するように配置されている。また、複数の下軌道監視領域ARaL,ARbL,ARcL,ARdL,AReLは、複数の上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcU,ARdU,AReUとそれぞれ対応して設定されている。各下軌道監視領域ARaL,ARbL,ARcL,ARdL,AReLは、対応する上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcU,ARdU,AReUと長手方向において略同じ位置に設定されている。
【0061】
図5(a)は、列車Tが不在状態で走査器ユニット3aに設定される軌道監視領域ARaを示す斜視図である。本実施形態では、上軌道監視領域ARaUが、走査器ユニット3aの上走査器31によって形成される単一の走査範囲SR内に設定された複数の上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4を長手方向においてその一部が重複するように連ねることによって形成されている。下軌道監視領域ARaLも、走査器ユニット3aの下走査器32によって形成される単一の走査範囲SR内に設定された複数の下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4を長手方向においてその約半分の領域が重複するように連ねることによって形成されている。
【0062】
このように、複数の上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4が、長手方向に並ぶように設定されている。また、複数の下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4が、複数の上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4とそれぞれ対応して設定されている。各下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4は、対応する上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4と長手方向において略同じ位置に設定されている。
【0063】
他の走査器ユニット3b,3c,3d,3eにおいても、これと同様である。セグメント数は、1つの走査器ユニットにおいて上下同じであれば、どのように設定されていてもよい。本実施形態では、単なる一例として、いずれの走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eにおいても、セグメント数が4である。
一例として、上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4は、上軌道監視領域ARaUを長手方向に等分割することによって形成されている。本例では、上軌道監視領域ARaUは、長手方向が長辺となる長方形状であり、長辺の長さは車両2両分(約40m)である。上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4も、平面視で概略長方形状であり、その長辺の長さは、車両半分の長さと概ね等しい。下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4についても、これと同様である。
【0064】
(隙間監視領域)
隙間監視領域ADについても、軌道監視領域ARと同様である。隙間監視領域ADは、
図3(b)に示すように、複数の走査器ユニット3a,3b,3c,3d,3eごとに設定される隙間監視領域ADa,ADb,ADc,ADd,ADeを長手方向に連ねることによって構成される。
【0065】
走査器ユニット3aの隙間監視領域ADaは、上走査器31に設定される上隙間監視領域ADaUと、下走査器32に設定される下隙間監視領域ADaLとで構成される。他の走査器ユニット3b,3c,3d,3eの隙間監視領域ADb,ADc,ADd,ADeについても、これと同様である。また、走査装置3の隙間監視領域ADは、上隙間監視領域ADUと、下隙間監視領域ADLとで構成されている。
【0066】
上隙間監視領域ADUは、複数の上走査器31に設定された複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcU,ADdU,ADeUを長手方向においてその約半分の領域が重複するように連ねることによって構成される。
下隙間監視領域ADLは、上隙間監視領域ADUよりも低い位置に設定され、複数の下走査器32に設定された複数の下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcL,ADdL,ADeLを長手方向においてその約半分の領域が重複するように連ねることによって構成される。
【0067】
複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcU,ADdU,ADeUが、長手方向において互いに隣接する側の約半分の領域が重複するように配置されている。また、複数の下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcL,ADdL,ADeLが、複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcU,ADdU,ADeUとそれぞれ対応して設定されている。各下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcL,ADdL,ADeLは、対応する上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcU,ADdU,ADeUと長手方向において略同じ位置に設定されている。
図5(b)は、在線状態で走査器ユニット3aに設定される隙間監視領域ADaを示す斜視図である。本実施形態では、単なる一例として、走査器ユニット3aの隙間監視領域ADaは、軌道監視領域ARa(
図5(a)を参照)とは異なり、複数のセグメントに細分されていない。
【0068】
<重複した転落監視領域における転落検知時の処理>
本実施形態の転落検知システム1では、
図3(a)および
図3(b)に示すように、走査器ユニット3aが、図中右半分の走査範囲において1両目の車両C1の位置を監視し、走査器ユニット3bが、1両目と2両目の車両C1,C2、走査器ユニット3cが2両目と3両目の車両C2,C3、走査器ユニット3dが、3両目と4両目の車両C3,C4、走査器ユニット3eが、図中左半分の走査範囲において4両目の車両C4、をそれぞれ監視するように転落検知エリアを設定する。
【0069】
すなわち、本実施形態の転落検知システム1では、事前設定として、5台の走査器ユニット3a~3eを用いて、4両分の車両C1~C4を含む列車Tの長さに相当する転落監視領域における転落者の有無を監視する。
ここで、走査器ユニット3aによる1両目の車両C1の監視領域と、走査器ユニット3bによる1両目の車両C1の監視領域とは、互いに重複するように設定されている。そして、この重複した領域においては、走査器ユニット3a,3bのそれぞれの転落検知対象サイズおよび転落検知時間が略等しくなるように設定されている。
【0070】
以下、同様に、走査器ユニット3bによる2両目の車両C2の監視領域と、走査器ユニット3cによる2両目の車両C2の監視領域、走査器ユニット3cによる3両目の車両C3の監視領域と、走査器ユニット3dによる3両目の車両C3の監視領域、走査器ユニット3dによる4両目の車両C4の監視領域と、走査器ユニット3eによる4両目の車両C4の監視領域についても同様である。
【0071】
本実施形態の転落検知システム1では、システム運用時には、上述したように、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eの転落監視領域が重なる部分においては、いずれかの走査器ユニット3a~3eにおいて転落者を検知した場合には、その検知結果を、パトライト(登録商標)等のシステム状態表示器5において表示して発報する。
あるいは、例えば、隣接配置された走査器ユニット3a,3bにおいて、両方の走査器ユニット3a,3bが稼働しており、片方の走査器ユニット3aにおいて物体を検知し、他方の走査器ユニット3bでは物体を検知していない場合には、検知した物体の位置に近い走査器ユニット3aの検知/非検知結果を採用してもよい。
【0072】
例えば、
図6に示すように、走査器ユニット3aと走査器ユニット3bの両者により、1両目のエリアを監視している際に、走査器ユニット3aに近い位置(距離d1)で物体を検知した場合には、両者が稼働している場合には、走査器ユニット3b(距離d2>d1)よりも物体の位置に近い走査器ユニット3aの検知/非検知結果が採用され、転落者の判定が行われる。
【0073】
これにより、物体の位置に近い走査器ユニット3aの方が、物体サイズをより正確に計測することができるため、より正確に転落者の検知を行うことができる。
なお、例えば、互いに隣接する走査器ユニット3a,3bのいずれか一方が故障した場合には、故障していない走査器ユニット3a,3bの検知/非検知結果が採用されるとともに、システム状態表示器5等において表示あるいはブザー等の音声によって発報する。
【0074】
<転落監視領域における監視状態の表示>
本実施形態の転落検知システム1では、例えば、
図7に示すように、各車両C1~C4に対応する位置における転落監視領域を監視できているか否かを、表示装置9の表示画面9aにおいて示す。
図7では、白色で表示(図中上段)が監視中の状態であることを示しており、黒色で表示(図中下段の2両目、3両目)が走査器ユニット3a~3eの故障等によって監視不可の状態であることを示す。
【0075】
図7は、2両目と3両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3cが故障したケースを示している。2両目と3両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3cが故障したため、表示画面9aの下段では、2両目と3両目に対応する位置が黒色(監視不可)で表示されている。
一方で、2両目に対応する位置については、1両目と2両目に対応する転落エリアを監視する走査器ユニット3bによって転落監視領域が監視される。このため、表示画面9aの上段は白色(監視中)で表示されている。また、3両目については、3両目と4両目の転落エリアを監視する走査器ユニット3dによって転落監視領域が監視されるため、上段が白色で表示されている。
【0076】
これにより、2両目と3両目に対応する転落監視領域も監視されているため、2両目と3両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3cを交換するなどして、システムを再稼働させるまでの間、その転落監視領域を代わりに駅係員が監視する必要はない。よって、乗客の転落による危険状況を正確に検知しつつ、駅係員の負担を大幅に軽減するというシステムの効果を維持することができる。
【0077】
図8は、2両目と3両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3cと、3両目と4両目の転落監視領域を監視する走査器ユニット3dとが故障したケースを示している。
2両目と3両目の転落監視領域を監視する走査器ユニット3cが故障しているため、表示画面9aにおける下段では、2両目と3両目が黒色(監視不可)で表示される。さらに、3両目と4両目の転落監視領域を監視する走査器ユニット3dも故障しているため、4両目も黒色(監視不可)で表示される。
【0078】
ここで、上記と同様に、2両目については、1両目と2両目の転落監視領域を監視する走査器ユニット3bによって転落監視領域が監視される。このため、表示画面9aの上段では、2両目に対応する位置が、白色(監視中)で表示される。
また、4両目については、4両目の転落監視領域を監視する走査器ユニット3eによって転落監視領域が監視されるため、表示画面9aの上段は白色(監視中)で表示される。一方で、3両目については、隣接配置された2つの走査器ユニット3c,3dが同時に故障しているため、いずれの走査器ユニットでも転落監視領域が監視されない状態となることから、表示画面9aの上段の3両目は白色で表示されない。
【0079】
このように、監視されていない転落監視領域が白色で表示されないことにより、故障した走査器ユニット3c,3dを修理・交換等して再稼働されるまでの間、その転落監視領域をシステムの代わりに駅係員が監視する必要があることが分かる。
図9は、1両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3aが故障したケースを示している。
【0080】
1両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3aが故障しているため、表示画面9aの下段では、1両目に対応する位置が黒色(監視不可)で表示されている。
一方で、1両目に対応する位置については、1両目と2両目に対応する転落エリアを監視する走査器ユニット3bによって転落監視領域が監視される。このため、表示画面9aの上段は白色(監視中)で表示されている。
【0081】
これにより、1両目と2両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3bによって1両目に対応する転落監視領域が監視されているため、1両目に対応する転落監視領域を監視する走査器ユニット3aを交換するなどして、システムを再稼働させるまでの間、その転落監視領域を代わりに駅係員が監視する必要はない。よって、乗客の転落による危険状況を正確に検知しつつ、駅係員の負担を大幅に軽減するというシステムの効果を維持することができる。
【0082】
<主な特徴>
本実施形態の転落検知システム1は、
図3等に示すように、複数の走査器ユニット3a~3eと、情報取得部11と、判定部15とを備える。複数の走査器ユニット3a~3eは、1つで列車2両分の転落検知エリアをカバーする。情報取得部11は、転落検知エリアにおいて転落者が存在することを示す転落情報を取得する。判定部15は、情報取得部11において取得された転落情報に基づいて、転落者の有無を判定する。複数の走査器ユニット3a~3eは、互いに隣接する走査器ユニット3a,3b、走査器ユニット3b,3c、走査器ユニット3c,3d、走査器ユニット3d,3eの検知エリアが互いに重複するように設置されている。
【0083】
これにより、複数配置された走査器ユニット3a~3eのうちの1つが故障した場合でも、例えば、故障した走査器ユニット3cに隣接する走査器ユニット3b,3dによって故障した走査器ユニット3cによる検知エリアをカバーすることができる。
よって、例えば、故障した走査器ユニット3cを交換し再稼働させるまでの間、故障した走査器ユニット3cの検知エリアを人(駅係員)が監視する必要がない。
【0084】
この結果、複数配置された走査器ユニット3a~3eの1つが故障した場合でも、転落者の有無を監視できないエリアが発生することを回避することができる。
また、複数配置された走査器ユニット3a~3eの1つが故障した際に、その走査器ユニット3a~3eによる転落検知エリアを代わりに駅係員が監視する必要がない。このため、乗客の転落による危険状況を正確に検知しつつ、駅係員の負担を大幅に軽減するというシステムの効果を維持することができる。
【0085】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態では、個々の走査器ユニット3a~3eに設定された複数の転落監視領域において、各々の転落者の判定を行う検知対象サイズおよび検知時間が略同等になるように設定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0086】
例えば、個々のセンサ装置に設定された複数の転落監視領域において、各々の転落者の判定を行う検知対象サイズおよび検知時間は異なっていてもよい。
例えば、センサ装置Aによる1両目の車両の転落監視領域とセンサ装置Aに隣接するセンサ装置Bによる2両目の車両の転落監視領域の検知対象サイズおよび検知時間は異なっていてもよい。
また、上述した軌道転落検知エリアおよび隙間転落検知エリアにおける転落者の判定を行う検知対象サイズおよび転落検知時間が異なっていてもよい。
【0087】
(B)
上記実施形態では、上下2段に設定された軌道監視領域ARと隙間監視領域ADとにそれぞれ、隣接する走査器ユニット3a~3eによる転落監視領域(転落検知エリア)が重複するように、走査器ユニット3a~3eが設置される例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上下2段に設定された軌道監視領域と隙間監視領域のうち、いずれか一方のみについて、隣接するセンサ装置による検知エリアが重複するようにセンサ装置が設置された構成であってもよい。
【0088】
(C)
上記実施形態では、互いに隣接する走査器ユニット3a~3eに対応する転落監視領域の重複部分において、いずれか一方の走査器ユニット3a~3eによって転落者を検知した場合には、転落者ありと判定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、互いに隣接するセンサ装置に対応する転落検知エリアの重複部分において、双方のセンサ装置によって転落者を検知した場合に、転落者ありと判定してもよい。
【0089】
(D)
上記実施形態では、レーザを走査して転落者等の物体を検知する走査器ユニット3a~3eをセンサ装置として用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、レーザ走査以外の方式を採用して転落者等の物体を検知するセンサ装置を含む転落検知システムであってもよい。
【0090】
(E)
上記実施形態では、5つの走査器ユニット3a~3eを用いて、4両編成の列車Tの各車両C1~C4に対応する転落監視領域において転落者の監視を行う例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0091】
例えば、転落者を検知するセンサ装置の数は5つに限定されるものではなく、4つ以下、あるいは6つ以上であってもよい。
また、検知対象となる列車の編成は、4両編成に限定されるものではなく、3両以下、あるいは5両以上の編成であってもよい。
さらに、転落検知を行う転落検知エリアは、全ての車両に対応する位置に設定されていることに限定されるものではなく、例えば、車両とプラットホームとの間の隙間が大きい場所等の一部の車両に対応する位置にのみ設定されていてもよい。
【0092】
(F)
上記実施形態では、転落検知装置4における転落検知の判定結果、異物の有無の判定結果等を、外部に設けられた記憶装置8に保存する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、転落検知の判定結果や異物の有無の判定結果等を保存する記憶部が、転落検知装置の内部に設けられた構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の転落検知システムは、複数配置された転落検知センサの1つが故障した場合でも、転落者の有無を監視できないエリアが発生することを回避することができるという効果を奏することから、鉄道駅等に設定される転落者を検知する各種システムに対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 転落検知システム
3 走査装置
3a,3b,3c,3d,3e 走査器ユニット(センサ装置)
4 転落検知装置
5 システム状態表示器
6 転落警報器(報知部)
7 軌道回路
8 記憶装置
9 表示装置(故障状態表示部)
9a 表示画面
10 制御部
11 情報取得部(転落情報取得部)
12 軌道情報取得部
13 転落検知エリア設定部
14 走査データ取得部
15 判定部
16 検知サイズ設定部
17 検知時間設定部
18 故障検出部
20 出力部
31 上走査器
32 下走査器
33 発光部
34 偏光部
35 受光部
36 検知部
37 距離算出部
AD 隙間監視領域
AR 軌道監視領域
C1~C4 車両
d1,d2 距離
D 隙間
P プラットホーム
R 軌道
SR 走査範囲
T 列車
X 異物検知位置