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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054885
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】非破壊検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
G01N27/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161315
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 浩造
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB04
2G053AB22
2G053BA03
2G053BA21
2G053BB11
2G053BB13
2G053BC10
2G053BC20
2G053CA04
2G053CA05
2G053CA06
2G053CB24
(57)【要約】
【課題】 検査対象鉄筋の破断部の有無を正確に検出することができる非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】 コンクリート体1内に埋設された検査対象鉄筋21~25の破断部の有無をコンクリート体1の外部から検出する非破壊検査方法において、検査対象鉄筋21~25及び交差鉄筋3に着磁させる着磁工程と、その後交流式の脱磁装置を用いてコンクリート体1の表面に近い位置にある交差鉄筋3を脱磁させ、脱磁工程の完了後に磁気センサによって検査対象鉄筋21~25の磁束密度を測定して脱磁後磁束密度グラフを作成する脱磁後磁束密度測定工程と、脱磁後磁束密度グラフに基づいて検査対象鉄筋21~25の破断部の有無を検出する破断部検出工程を含む。検査対象鉄筋21~25の破断部の有無の検出は、交差鉄筋3の磁力の影響が排除された脱磁後磁束密度グラフに基づいて行われるので、正確に破断部を検出できる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の中にある検査対象鉄筋と該検査対象鉄筋よりコンクリート体の表面から近い位置にある磁性体が埋設されたコンクリート体の外側から磁石によって上記検査対象鉄筋および上記磁性体を磁化させ、しかる後、磁気センサによって上記コンクリート体の外側の磁束密度を測定することで、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法であって、
上記磁石の磁化面を、該磁石の両磁極が上記検査対象鉄筋の長手方向に沿うように上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、次いで該磁石を上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させ、上記検査対象鉄筋及び上記磁性体に着磁した後、該磁石を撤去する着磁工程と、
上記着磁工程の完了後、交流式の脱磁装置を上記コンクリート体の表面に近づけて配置して適宜移動させることにより、または移動させることなく、該コンクリート体の表面に近い位置にある上記磁性体を脱磁させる脱磁工程と、
上記脱磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく、上記検査対象鉄筋の磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の脱磁後磁束密度グラフを作成する脱磁後磁束密度測定工程と、
上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフに基づいて、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する破断部検出工程と、
を含むことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非破壊検査方法において、
上記着磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の 磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の着磁後磁束密度グラフを作成する着磁後磁束密度測定工程を備え、
上記破断部検出工程では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出することを特徴とする非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、橋、ビルまたはコンクリートポールなどの、鉄筋コンクリート構造物の体内に設けられている鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート体内に設けられた鉄筋の破断部を検出する非破壊検査方法が知られている。例えば、特開2006-177747号公報(特許文献1)に記載された非破壊検査方法は、永久磁石を、コンクリートに埋設された検査対象の鉄筋の長手方向に沿って、コンクリートの表面上を移動させることにより鉄筋を磁化させ、その後、コンクリートの表面から漏れる磁束密度を測定し、更に得られた測定値の微分値を算出して鉄筋の破断の有無を検出するものである。
【0003】
しかしながら、一般的に、コンクリート体内には、位置や配置方向の異なる磁性体が埋設されている。そのため、コンクリート体の外側において検査対象鉄筋の磁気を磁気センサにより検出すると、検査対象鉄筋以外の磁性体からの磁気も同時に検出される。しかし、特許文献1に記載の非破壊検査方法にあっては、このような検査対象鉄筋以外の磁性体から発せられる磁気の影響を除去する手段が設けられていないため、破断部の検出に正確性を欠くおそれがある。なお、ここでいう磁性体は、磁石によって着磁されうる性状を持つ部材であって、具体的には、検査対象鉄筋よりもコンクリートの被りの浅い位置にある交差鉄筋、主鉄筋等の鉄筋類、鉄筋間隔保持用のセパレータ、PC鋼材が内挿されるPCシース、PCシースカプラ、PC鋼材支持金具等のPC鋼材の付属材、コンクリート体内への埋込金物、鉄筋等を固縛するための番線(針金)、電線管や排水管等の金属配管等がこれに該当する。
【0004】
また、特開2013-130452号公報(特許文献2)には、磁石を、コンクリートに埋設された検査対象鉄筋の長手方向に沿って、コンクリートの表面上を移動させることにより検査対象鉄筋を磁化させ、次に、その検査対象鉄筋を磁化させた位置から一定距離離れた位置で、磁石を、検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させることにより検査対象鉄筋を再度磁化させ、その後、コンクリートの表面から漏れる磁束密度を測定することで検査対象鉄筋の破断の有無を検出する非破壊検査方法が記載されている。
【0005】
この検査方法によれば、検査対象鉄筋に対するコンクリートの被りが浅い場合など、着磁の際に磁石と検査対象鉄筋との距離が近づき過ぎることにより検査対象鉄筋から生じてしまう、正確な破断部検出の障害となる磁気を減少させることができる。しかし、検査対象鉄筋以外から発せられる磁気の影響を除去できる旨は記載されていない。
【0006】
さらに、特開2015-42975号公報(特許文献3)には、磁石を検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させて鉄筋を磁化させる第1着磁工程と、その後コンクリート体表面上の磁束密度を測定する第1磁束密度測定工程と、第1着磁工程とは逆方向に磁石を移動させて前記鉄筋を磁化させる第2着磁工程と、その後コンクリート体表面上の磁束密度を測定する第2磁束密度測定工程と、第1および第2磁束密度測定工程により測定された磁束密度の両方を足し合わせて両磁束密度の和を求め、非検査対象物からの磁束密度を相殺除去する非検査物磁束除去工程と、非検査物磁束除去工程により得られた前記両磁束密度の和に基づいて鉄筋の破断部の有無を検出する破断部検出工程を含む非破壊検査方法が記載されている。
【0007】
しかし、この非破壊検査方法では、第1および第2磁束密度測定工程により測定された磁束密度の両方を足し合わせて両磁束密度の和を求め、非検査対象物からの磁束密度を相殺除去するものであることから、磁束密度の除去処理が煩雑で、検査コストが大きくなることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-177747号公報
【特許文献2】特開2013-130452号公報
【特許文献3】特開2015-042975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、従来の非破壊検査の方法では、検査対象鉄筋以外の鉄筋から発せられる磁気の影響を除去できない、あるいはその除去コストが大きい、といった問題があり、破断部の検出精度の確保という面における課題を有していた。
【0010】
そこで、本願発明は、検査対象鉄筋以外の鉄筋の中でも、一般に設置数量が多く、検査対象鉄筋と略直交して設けられる交差鉄筋等の磁性体の磁気の影響を低減すると共に、検査対象鉄筋が破断部を有する場合に特徴的に現れる磁束密度の変化の性質を利用することで、破断部の有無を極めて正確に検出することができる非破壊検査方法を提供することを目的としてなされたものである。
【本願発明の前提となる技術的背景】
【0011】
本願発明は、コンクリート体の中にある検査対象鉄筋と該検査対象鉄筋よりもコンクリート体の表面に近い位置にある磁性体とが埋設されたコンクリート体の外側から磁石によって上記検査対象鉄筋及び磁性体を磁化させ、しかる後、磁気センサによって上記コンクリート体の外側の磁束密度を測定することで、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するものであるが、この検査対象鉄筋の破断部の有無の検出に際して、その前提となる三つの背景技術がある。
【0012】
その一つは、検査対象鉄筋に破断部がある場合における磁束密度の特異性である。即ち、検査対象鉄筋の長手方向に磁石を移動させてこれを着磁させ、例えば、磁石移動面に直交する方向の磁束密度を磁気センサで測定すると、右肩上がりの磁束密度グラフが得られる。しかし、この検査対象鉄筋の破断部においては、該破断部において検査対象鉄筋内の磁束の流れが分断される。この結果、この破断部においては、磁束の極性が、該破断部より上流側における極性(例えば、N極)から下流側における極性(例えば、S極)へと急激に変化する。この急激な極性の変化現象から「破断あり」との判断をすることができる。
【0013】
次の一つは、検査対象鉄筋と交差する交差鉄筋(即ち、磁性体)から発せられる磁束密度の影響である。磁石を検査対象鉄筋の長手方向に移動させて該検査対象鉄筋を着磁させる場合、該検査対象鉄筋から近い位置に該検査対象鉄筋と交差する交差鉄筋が存在すると、磁石によって上記検査対象鉄筋を着磁させる際に、該交差鉄筋も不可避的に着磁され、磁束が発生する。この交差鉄筋によって生じる磁束密度は、検査対象鉄筋に発生する磁束密度に影響を与え、交差鉄筋に対応する位置部分では検査対象鉄筋の磁束密度が上記交差鉄筋の極性に対応して、谷状または山状に変化する。
【0014】
しかし、磁束密度グラフにおいて、検査対象鉄筋の破断に起因する磁束の急激な変化部分と、交差鉄筋の着磁に起因する磁束密度の変化部分とを形状面から識別することは難しい。このことから、検査対象鉄筋の破断の有無判定の精度を高めるには、交差鉄筋の着磁に起因する磁束が検査対象鉄筋から発生する磁束に与える影響を可及的に減じて検査対象鉄筋の破断に起因する急激な極性変化部分の確認性を高めることが有効と考えられる。
【0015】
最後の一つは、交流式の脱磁装置の脱磁特性である。この交流式の脱磁装置は、交流電源を用いた脱磁コイルを備え、該脱磁コイルが発生する強力な磁界によって着磁体に対して脱磁作用をなすものである。しかし、この脱磁装置は、交流式であるが故に、内部の脱磁コイルから離れるほど脱磁効果が急速に減少するという脱磁特性があり、しかも、脱磁コイルに流す交流電源の周波数や強さを調整することで、脱磁効果を及ぼす距離を調整できるものである。このため、これらの調整によって、コンクリート体表面からの被りの浅い(即ち、脱磁コイルに近い)位置にある磁性体のみを脱磁すること、即ち、「選択的な脱磁」が可能である。
【0016】
即ち、この交流式の脱磁装置の脱磁特性を利用すれば、コンクリート体表面からの被りが少ない磁性体のみを、それより深部に位置する検査対象鉄筋の磁性に影響を与えることなく、確実に脱磁でき、その結果、磁性体から発する磁束が検査対象鉄筋の磁束密度に与える影響を可及的に減じ得るということである。
【0017】
このような背景技術に立脚して、本件発明者は、磁性体からの磁束の影響を大幅に減じて、検査対象鉄筋の破断を正確に、且つ容易に検出する技術に想到したものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明では上述の課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0019】
本願の第1の発明では、コンクリート体の中にある検査対象鉄筋と該検査対象鉄筋よりコンクリート体の表面から近い位置にある磁性体が埋設されたコンクリート体の外側から磁石によって上記検査対象鉄筋および上記磁性体を磁化させ、しかる後、磁気センサによって上記コンクリート体の外側の磁束密度を測定することで、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する非破壊検査方法において、上記磁石の磁化面を、該磁石の両磁極が上記検査対象鉄筋の長手方向に沿うように上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、次いで該磁石を上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って移動させ、上記検査対象鉄筋及び上記磁性体に着磁した後、該磁石を撤去する着磁工程と、上記着磁工程の完了後、交流式の脱磁装置を上記コンクリート体の表面に近づけて配置して適宜移動させることにより、または移動させることなく、該コンクリート体の表面に近い位置にある上記磁性体を脱磁させる脱磁工程と、上記脱磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく、上記検査対象鉄筋の磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の脱磁後磁束密度グラフを作成する脱磁後磁束密度測定工程と、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフに基づいて、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する破断部検出工程と、を含むことを特徴としている。
【0020】
この第1の発明の着磁工程において検査対象鉄筋を磁化させる際に、磁石の磁化面をコンクリート体の表面に近づけて配置するには、磁石の磁化面をコンクリート体の表面付近の所定位置に一時的に近づければよく、必ずしも磁石の磁化面を直接コンクリート体の表面に当接させる必要はなく、静止させる必要もない。
【0021】
また、磁石の磁化面とは、検査対象鉄筋を着磁する際にコンクリート体に最も近づける磁石の一面を指す。かかる磁化面は、磁石の両磁極を検査対象鉄筋の長手方向に沿わせることができれば良く、その形状は単一の平面に限るものではない。
【0022】
一方、脱磁工程では、交流式の脱磁装置を使用するが、例えば周波数50Hz、定格電流3A、又は周波数60Hz、定格電流2.5Aの100V交流電源が流される脱磁コイルを備えた脱磁装置を用いることができ、且つこの電源周波数及び電流値は調整可能とされているものが望ましい。
【0023】
なお、脱磁工程では、上記脱磁装置を上記コンクリート体の表面に近づけて配置して適宜移動させることにより脱磁を行うのが通例であり、該脱磁装置を移動させることなく脱磁を行うのは、例えば、特定部分へのスポット的な脱磁を行うような場合に限られる。
【0024】
さらに、脱磁後磁束密度測定工程において、磁気センサをコンクリート体の表面に近づけて配置するには、前記の磁石の場合と同様に、磁気センサをコンクリート体の表面付近の所定位置に一時的に近づければよく、直接コンクリート体の表面に当接させる必要はなく、静止させる必要もない。なお、磁気センサ は、公知の種々の磁気センサを使用することができる。例えば、ホール素子センサやMRセンサ、MIセンサ、TMRセンサなどを磁気センサとして用いることができる。
【0025】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る非破壊検査方法において、上記着磁工程の完了後、上記磁気センサを上記コンクリート体の表面に近づけて配置し、これを適宜移動させることにより、または移動させることなく、上記検査対象鉄筋の磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の着磁後磁束密度グラフを作成する着磁後磁束密度測定工程を備え、上記破断部検出工程では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
(a)本願の第1の発明に係る非破壊検査方法によれば、着磁工程において上記検査対象鉄筋及び上記磁性体に着磁した後、脱磁工程において上記コンクリート体の表面に近い位置にある上記磁性体を脱磁させ、しかる後、脱磁後磁束密度測定工程において、磁気センサによって上記検査対象鉄筋の磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の脱磁後磁束密度グラフを作成する。そして、破断部検出工程において、上記脱磁後磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するが、この際、この脱磁後磁束密度グラフでは、上記脱磁工程における脱磁作用によって、上記磁性体から発生する磁束密度の影響が可及的に減少されており、該脱磁後磁束密度グラフは平坦化されているので、上記検査対象鉄筋の破断に起因する磁束密度の急激な変化部分を容易且つ的確に検出することができ、それだけ破断検査の信頼性が向上する。
【0027】
(b)本願の第2の発明に係る非破壊検査方法では、着磁工程での着磁完了後に、着磁後磁束密度測定工程において上記検査対象鉄筋の磁束密度を測定して着磁後磁束密度グラフを作成する。また、上記破断部検出工程では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するようにしている。このため、脱磁後磁束密度グラフに基づいて上記検査対象鉄筋の破断部の有無を検出する際に、着磁後磁束密度グラフに基づいて磁性体の位置情報を加味することができ、その分だけ検査対象鉄筋の破断部の検知精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本願発明の第1の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体の側面図である。
図2図1のA-A拡大断面図である。
図3図2のB-B矢視図(一部断面見上げ図)である。
図4図3のC-C断面図である。
図5図3のD-D断面図である。
図6】本願発明の第1の実施形態に係る着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
図7】本願発明の第1の実施形態に係る脱磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
図8】本願発明の第2の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体の一部断面見上げ図(第1の実施形態における図3に相当する)である。
図9図8のE-E拡大断面図である。
図10図8のF-F拡大断面図である。
図11】本願発明の第2の実施形態に係る着磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
図12】本願発明の第2の実施形態に係る脱磁工程後におけるコンクリート体の底面上における磁束密度の垂直成分を、各検査対象鉄筋別に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
「第1の実施形態」
図1には、本願発明の第1の実施形態に係る非破壊検査方法が適用されるコンクリート体1を示している。このコンクリート体1は、桁橋として使用されるものであって、路面側を構成する本体部1Aとその下側に位置する下部フランジ部1Bを備えている。そして、この下部フランジ部1Bには、図2図5にも示すように、その底面1aから所定深さ位置(この実施形態では芯被り90mmの位置)には、PC鋼として機能する5本の検査対象鉄筋21~25が、それぞれシース管20に挿通された状態で、上記底面1aに平行で、且つ幅方向に所定間隔(この実施形態では85mmピッチ)で埋設されている。これら5本の検査対象鉄筋21~25で検査対象鉄筋群2が構成される。
【0030】
ここで、鉄筋とは、一般的な鉄筋コンクリート構造物に多用される断面形状が円形の丸鋼や表面に突起を設けた異形棒鋼に限らず、断面形状が矩形、その他の多角形の鋼材、H形鋼であってもよい。また、通水や通気等に使用する内部が空洞の鋼管であってもよく、さらに、プレストレスト・コンクリート工法に使用するPC鋼棒、PC鋼線またはPC鋼撚線といったPC鋼材、あるいはこれらを内部に通して使用するシース管やシース管内のPC鋼材であってもよい。
【0031】
さらに、上記底面1aと上記検査対象鉄筋群2の間の所定深さ位置(この実施形態では、芯被り50mmの位置)には、磁性体の一例である交差鉄筋3の横設部3aが、上記検査対象鉄筋群2の長手方向に所定間隔(この実施形態では120~340mmの不等間隔)で埋設配置されている。なお、上記交差鉄筋3は、上記横設部3aの両端部が隅部3cとされ、この隅部3cには立ち上がり部3bが連続している。
【0032】
上記検査対象鉄筋群2と上記交差鉄筋3の横設部3aは芯間40mmの間隔をもっており、後述のように磁石5によって上記検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋21~25を着磁させるときには、必然的に上記交差鉄筋3の横設部3aも着磁されることとなる。
【0033】
以上のように上記コンクリート体1に埋設された上記検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋21~25は、該コンクリート体1の強度確保上極めて重要な要素であり、その破断の有無を確認することが重要となる。ここでは、以下に説明する第1実施形態に係る非破壊検査方法によってこれを行うようにしている。
【0034】
「非破壊検査方法の構成」
上記非破壊検査方法は、着磁工程と着磁後磁束密度測定工程と脱磁工程と脱磁後磁束密度測定工程と破断部検出工程を含むものであって、磁石5と磁気センサ6と脱磁装置7を用いて検査を実行する。
【0035】
「着磁工程」
着磁工程は、上記磁石5を用いて検査対象鉄筋を着磁する工程であって、着磁対象となる検査対象鉄筋の数は1本であっても良く、また複数の検査対象鉄筋が集合した検査対象鉄筋群の各検査対象鉄筋のそれぞれであっても良い。即ち、この着磁工程では、着磁対象の検査対象鉄筋の数には制約されない。なお、この実施形態では、図3図5に示すように、5本の検査対象鉄筋21~25からなる検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋のそれぞれを着磁する場合を例示している。
【0036】
先ず、図3に示すように、第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の中間位置に磁石5を、手前側がN極、前方側がS極となるようにして配置する。そして、上記磁石5を、先ず手前側から前方側に移動させ、さらに極性を維持したまま前方側から手前側まで移動させる。この磁石5の1往復の間に、上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22、及びこれらとその長手方向において交差する交差鉄筋3を、それぞれ着磁させる。
【0037】
次に、上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の間に上記磁石5を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて、上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24を着磁させる。
【0038】
さらに、上記磁石5を上記第5検査対象鉄筋25の右側に配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて上記第5検査対象鉄筋25を着磁させる。
【0039】
なお、上記磁石5による上記第1検査対象鉄筋21から上記第5検査対象鉄筋25までの検査対象鉄筋に対する着磁操作時には、これと同時に、上記各交差鉄筋3の横設部3aも着磁されるが、この交差鉄筋3に対する着磁は、上記磁石5が該交差鉄筋3の横設部3aを通過するに伴って実行される。この場合、上記横設部3aは、上記磁石5のN極とS極のうち、後から通った極の反対の極に着磁されるので、上記第1検査対象鉄筋21の一端寄りの交差鉄筋3の横設部3aはS極に、上記第1検査対象鉄筋21の他端寄りの交差鉄筋3の横設部3aはN極に着磁される。これら各交差鉄筋3の磁極に応じて、次述する着磁後磁束密度グラフにおける交差鉄筋3の磁束の変化方向(谷状変化と山状変化)が決定される(図6参照)。
【0040】
「着磁後磁束密度測定工程」
着磁後磁束密度測定工程は、上記着磁工程の完了後、上記磁気センサ6を上記コンクリート体1の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の着磁後磁束密度グラフを作成するものである。
【0041】
なお、この着磁後磁束密度測定工程は、上記着磁工程の場合と同様に、検査対象鉄筋の配置数には制約されず、該検査対象鉄筋が1本である場合にも、該検査対象鉄筋が複数本である場合にも、何ら問題なく適用できるものである。この実施形態では、図3図5に示すように、5本の検査対象鉄筋21~25からなる検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋のそれぞれに対して、磁束密度測定動作を行う場合を例示している。
【0042】
また、測定対象となる磁束密度の測定方向としては、コンクリート体1の表面(即ち、磁気センサ6の移動面)に直交するZ軸方向(図4参照)の他に、検査対象鉄筋の長手方向に沿うX軸方向(図4参照)とか、検査対象鉄筋の幅方向に沿うY軸方向(図4参照)があり、これら三軸方向のいずれの方向を採用するかは任意である。なお、この実施形態においては、磁束密度の測定方向としてZ軸方向を採用している。
【0043】
磁束密度測定に際しては、先ず、第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の中間位置に磁気センサ6を配置する。そして、上記磁気センサ6を手前側から前方側に移動させ、さらに前方側から手前側まで移動させ、この磁気センサ6の1往復の間に、上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0044】
次に、上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の間に上記磁気センサ6を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0045】
さらに、上記磁気センサ6を上記第5検査対象鉄筋25の右側に配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて該第5検査対象鉄筋25の磁束密度を測定する。すると、これとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0046】
なお、この着磁後磁束密度測定工程では、検査対象鉄筋21~25に対する磁束密度測定動作の順序を任意に変更したとしても、得られる着磁後磁束密度グラフに影響はない。
【0047】
この各検査対象鉄筋21~25の着磁、及び上記交差鉄筋3への着磁による磁束密度グラフを各検査対象鉄筋21~25それぞれについて表したのが、図6(イ)~(ホ)である。
【0048】
「脱磁工程」
上記脱磁工程では、交流式の脱磁装置を用いて、既に着磁された磁性体(この実施形態では、上記各検査対象鉄筋21~25ではなく、該各検査対象鉄筋21~25に対して上記コンクリート体1の表面に直交する方向(図4図5に示すZ軸方向)に所定間隔(この実施形態では120~340mmの不等間隔)を隔てて配置された上記各交差鉄筋3の横設部3a)を脱磁するもので、周波数60Hz、定格電流2.5Aの100V交流電源を使用する脱磁コイルを備えた脱磁装置7を用いている。この場合、脱磁装置7への供給電源周波数及び印加電流を、コンクリート体1の表面からの被りが50mmの上記交差鉄筋3の横設部3aの深さ部分のみを効果的に脱磁できるように予め設定しており、上記各検査対象鉄筋21~25には脱磁効果が及ばないようになっている。
【0049】
上記脱磁動作は、3回に分けて実行される。即ち、 第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の中間位置に脱磁装置7を配置し、先ず該脱磁装置7を手前側から前方側に移動させ、さらに前方側から手前側まで移動させる。この脱磁装置7の1往復の間に、上記交差鉄筋3における上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22と交差する部分の脱磁が行われる。
【0050】
次に、上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の間に上記脱磁装置7を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24との交差部分の脱磁が行われる。
【0051】
さらに、上記脱磁装置7を上記第5検査対象鉄筋25の右側に配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて、上記交差鉄筋3の上記第5検査対象鉄筋25との交差部分の脱磁が行われる。
【0052】
なお、この脱磁工程は、上述のように、複数本の検査対象鉄筋に跨って配置された磁性体に対して脱磁作用を為す他に、一本の検査対象鉄筋に対応して配置された磁性体に対しても脱磁作用を為し得るものである。
【0053】
「脱磁後磁束密度測定工程」
脱磁後磁束密度測定工程では、上記脱磁工程の完了後、上記磁気センサ6を上記コンクリート体1の表面1aに近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく、上記検査対象鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、この測定結果から上記検査対象鉄筋の脱磁後磁束密度グラフを作成する。
【0054】
この実施形態では、図3図5に示すように、5本の検査対象鉄筋21~25からなる検査対象鉄筋群2に対して、3回の磁束密度測定動作を行う。即ち、第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の中間位置に磁気センサ6を配置し、先ず上記磁気センサ6を手前側から前方側に移動させ、さらに前方側から手前側まで移動させ、この磁気センサ6の1往復の間に、上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0055】
次に、上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の間に上記磁気センサ6を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0056】
さらに、上記磁気センサ6を上記第5検査対象鉄筋25の右側に配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて該第5検査対象鉄筋25の磁束密度を測定する。すると、これとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0057】
このように測定された各検査対象鉄筋21~25及び上記交差鉄筋3の脱磁後の磁束密度を、各検査対象鉄筋21~25毎に脱磁後磁束密度グラフとして表したのが、図7(イ)~(ホ)である。この図7(イ)~(ホ)に示す脱磁後磁束密度グラフを、図6(イ)~(ホ)に示す着磁後磁束密度グラフと対比すれば、以下のようなことが知見される。
【0058】
図6(イ)~(ホ)の着磁後磁束密度グラフにおいては、各検査対象鉄筋ともに、全体として右肩上がりの基本形状にあって、各交差鉄筋3に対応する部分においては谷状又は山状の磁束急変部が認められる。なお、この例においては、図6(イ)及び図6(ホ)にそれぞれ矢印で示すように、第1検査対象鉄筋21と第5検査対象鉄筋25に破断部が存在するものを例としている。したがって、上記第1検査対象鉄筋21の破断部に対応する部分と、上記第5検査対象鉄筋25の破断部に対応する部分では、該破断部の特性から、極性が急激に変化している。
【0059】
このため、この図6(イ)及び図6(ホ)において、上記の極性急変部を明確に認識できれば破断部の検出が可能となる。しかしこの図6(イ)~(ホ)の着磁後磁束密度グラフにおいては、上記交差鉄筋3の磁束による磁束急変部と上記破断部に対応する極性急変部との視覚上の差異が少ないことから、結局この図6(イ)~(ホ)の着磁後磁束密度グラフにおいて検査対象鉄筋の破断部を正確に検出することは極めて難しいものとなる。
【0060】
一方、図7(イ)~(ホ)に示す脱磁後磁束密度グラフにおいては、上記交差鉄筋3の磁束が上記脱磁工程において脱磁されているので、該脱磁後磁束密度グラフでは基本形状が比較的平坦な右肩上がりの形となっており、次述の破断判定においては破断部に起因する極性急変部を、容易に確認することができる。したがって、検査対象鉄筋の破断部をより正確に検出できることになる。
【0061】
なお、上記脱磁後磁束密度測定工程において取得される脱磁後磁束密度グラフに基づいて上記図7(イ)~(ホ)に示す脱磁後磁束密度グラフを求めるのが上記脱磁後磁束密度測定工程であるが、その内容は、上述の着磁後磁束密度測定工程のそれとほぼ同じであるため、該着磁後磁束密度測定工程における該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【0062】
「破断部検出工程」
上記破断部検出工程では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するものであり、その検出手法は上述の通りである。
【0063】
なお、この実施形態においては、上述のように、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するようにしているが、本願発明の他の実施形態では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフのみに基づいて上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するようにすることもできる。
【0064】
上述のように、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフを参照するのは、交差鉄筋3の磁束密度の変化状態から、上記各検査対象鉄筋の長手方向における上記交差鉄筋3の位置を確認し、上記脱磁後磁束密度グラフにおいて破断部の位置確認を補足し、該破断部の検出をより正確に行うためであって、上記脱磁後磁束密度グラフにおいて破断部の位置検出を正確に行うという本来的な目的からすれば、破断部検出工程において着磁後磁束密度グラフを参照する必要は必ずしもないからである。
【0065】
「第2の実施形態」
図8図10には、コンクリート体1の底面1a寄り位置に5本の検査対象鉄筋21~25が所定間隔を持って埋設配置されるとともに、該各検査対象鉄筋21~25と交差する多数の交差鉄筋3が配置された状態を示している。これら5本の検査対象鉄筋21~25に対して、磁石5を使用して着磁を行った後、磁気センサ6を使用して着磁後の磁束密度の測定を行う。しかる後、脱磁装置7を使用して各磁性体の脱磁を行い、さらに磁気センサ6を使用して脱磁後の磁束密度の測定を行うものである。そして、特にこの実施形態では、これら各作業時には、特定の検査対象鉄筋の直上に磁石5、磁気センサ6、脱磁装置7をそれぞれ配置した場合、その検査対象鉄筋とその両側に隣接する合計3本の検査対象鉄筋に対して、同時に着磁、磁束密度測定、脱磁を行えるようにしており、そのために磁石5と磁気センサ6及び脱磁装置7は、上記使用態様に対応し得る能力を持ったものが採用されている。
【0066】
「着磁工程」
着磁工程は、着磁対象となる検査対象鉄筋の数は1本であっても良く、また複数の検査対象鉄筋が集合した検査対象鉄筋群の各検査対象鉄筋のそれぞれであっても良い。即ち、この着磁工程では、着磁対象の検査対象鉄筋の数には制約されない。
【0067】
この実施形態では、図8図10に示すように、5本の検査対象鉄筋21~25からなる検査対象鉄筋群2の各検査対象鉄筋のそれぞれを着磁する場合を例示している。そして、着磁操作時における磁石5の設置位置として、第2検査対象鉄筋22の直上の第1位置と、第4検査対象鉄筋24の直上の第2位置の2か所を設定し、第1着磁操作と第2着磁操作の合計二回の着磁操作を行うようにしている(図8参照)。
【0068】
「第1着磁操作」
第1着磁操作では、上記磁石5を、手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第1位置に設置する。そして、この磁石5を、上記検査対象鉄筋群2の手前側の一端部から、長手方向前方の他端部まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに他端部から一端部まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23の三者は同時に着磁される。また、この第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23の着磁時には、これら第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22と第3検査対象鉄筋23に順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0069】
第2着磁操作では、上記磁石5を手前側がN極、前方側がS極となるようにして上記第2位置に設置する。そして、この磁石5を、上記検査対象鉄筋群2の手前側の一端部から、長手方向前方の他端部まで往移動させるとともに、該磁石5の極性を維持したまま、さらに他端部から一端部まで復移動させる。この磁石5の往復移動によって上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24及び第5検査対象鉄筋25の三者は、同時に着磁される。また、この第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24及び第5検査対象鉄筋25の着磁時には、これらに順次所定間隔で交差する各交差鉄筋3もそれぞれ着磁される。
【0070】
なお、上記磁石5による上記第1検査対象鉄筋21から上記第5検査対象鉄筋25までの検査対象鉄筋に対する着磁操作時には、これと同時に、上記各交差鉄筋3の横設部3aも着磁されるが、この交差鉄筋3に対する着磁は、上記磁石5が該交差鉄筋3の横設部3aを通過するに伴って実行される。この場合、上記横設部3aは、上記磁石5のN極とS極のうち、後から通った極の反対の極に着磁されるので、上記第1検査対象鉄筋21の一端寄りの交差鉄筋3の横設部3aはS極に、上記第1検査対象鉄筋21の他端寄りの交差鉄筋3の横設部3aはN極に着磁される。これら各交差鉄筋3の磁極に応じて、次述する着磁後磁束密度グラフにおける交差鉄筋3の磁束の変化方向(谷状変化形体と山状変化形体)が決定される(図11参照)。
【0071】
「着磁後磁束密度測定工程」
上記着磁後磁束密度測定工程は、上記着磁工程の完了後、上記磁気センサ6を上記コンクリート体の表面に近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく上記検査対象鉄筋の長手方向に沿って磁束密度を測定し、この測定結果から上記各検査対象鉄筋の着磁後磁束密度グラフを作成するものである。
【0072】
この実施形態では、5本の検査対象鉄筋21~25からなる検査対象鉄筋群2に対して、2回の磁束密度測定動作を行う。即ち、第2検査対象鉄筋22の直上位置に磁気センサ6を配置し、先ず上記磁気センサ6を手前側から前方側に移動させ、さらに前方側から手前側まで移動させ、この磁気センサ6の1往復の間に、上記第2検査対象鉄筋22と、その両側方に位置する第1検査対象鉄筋21と第3検査対象鉄筋23の三者の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0073】
次に、上記第4検査対象鉄筋24の直上位置に上記磁気センサ6を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24及び第5検査対象鉄筋25の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0074】
この各検査対象鉄筋21~25の着磁、及び上記交差鉄筋3への着磁による着磁後磁束密度グラフを各検査対象鉄筋21~25それぞれについて表したのが、図11(イ)~(ホ)である。
【0075】
「脱磁工程」
上記脱磁工程では、交流式の脱磁装置を用いて、既に着磁された着磁体、この実施形態では、上記各検査対象鉄筋21~25に対して上記コンクリート体1の表面に直交する方向(図9図10に示すZ方向)に所定間隔(この実施形態では120~340mmの不等間隔)を隔てて配置された上記各交差鉄筋3の横設部3aを脱磁するもので、この実施形態では、周波数60Hzの交流電源を使用する定格電流2.5Aの脱磁コイルを備えた脱磁装置7を用いている。この場合、脱磁装置7への供給電源周波数及び印加電流を、コンクリート体1の表面からの被りが50mmの上記交差鉄筋3の横設部3aの深さ部分のみを効果的に脱磁できるように予め設定しており、上記各検査対象鉄筋21~25には脱磁効果が及ばないようになっている。
【0076】
上記脱磁動作は、2回に分けて実行される。即ち、第2検査対象鉄筋22の直上位置に脱磁装置7を配置し、先ず上記脱磁装置7を手前側から前方側に移動させ、さらに前方側から手前側まで移動させる。この脱磁装置7の1往復の間に、上記交差鉄筋3の上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22及び第3検査対象鉄筋23と交差する部分の脱磁が行われる。
【0077】
次に、上記第4検査対象鉄筋24の直上位置に上記脱磁装置7を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて、上記交差鉄筋3の上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24及び第5検査対象鉄筋25との交差部分の脱磁が行われる。
【0078】
「脱磁後磁束密度測定工程」
脱磁後磁束密度測定工程では、上記脱磁工程の完了後、上記磁気センサ6を上記コンクリート体1の表面1aに近づけて配置した後、適宜移動させることにより、または移動させることなく、上記検査対象鉄筋の長手方向に沿った磁束密度を測定し、この測定結果から上記各検査対象鉄筋の脱磁後磁束密度グラフを作成する。
【0079】
この実施形態では、図8図10に示すように、5本の検査対象鉄筋21~25からなる検査対象鉄筋群2に対して、2回の磁束密度測定動作を行う。即ち、まず、第2検査対象鉄筋22の直上位置に上記磁気センサ6を配置する。そして、上記磁気センサ6を手前側から前方側に移動させ、さらに前方側から手前側まで移動させ、この磁気センサ6の1往復の間に、上記第1検査対象鉄筋21と第2検査対象鉄筋22と第3検査対象鉄筋23の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0080】
次に、上記第4検査対象鉄筋24の直上位置に上記磁気センサ6を配置し、これを手前側と前方側の間で1往復させて上記第3検査対象鉄筋23と第4検査対象鉄筋24と第5検査対象鉄筋25の磁束密度を測定する。すると、これらとその長手方向において交差する交差鉄筋3の磁束密度も測定される。
【0081】
このように測定された各検査対象鉄筋21~25及び上記交差鉄筋3の脱磁後の磁束密度を、各検査対象鉄筋21~25毎に脱磁後磁束密度グラフとして表したのが、図12(イ)~(ホ)である。この図12(イ)~(ホ)に示す脱磁後磁束密度グラフを、図11(イ)~(ホ)に示す着磁後磁束密度グラフと対比すれば、以下のようなことが知見される。
【0082】
図11(イ)~(ホ)の着磁後磁束密度グラフにおいては、各検査対象鉄筋ともに、全体として右肩上がりの基本形状にあって、各交差鉄筋3に対応する部分においては谷状又は山状の磁束急変部が認められる。なお、この例においては、図11(イ)及び図11(ホ)にそれぞれ矢印で示すように、第1検査対象鉄筋21の中間位置と第5検査対象鉄筋25の中間位置にそれぞれ破断部が存在するものを例としている。
【0083】
したがって、上記第1検査対象鉄筋21の破断部に対応する部分と、上記第5検査対象鉄筋25の破断部に対応する部分では、該破断部の特性から、極性が急激に変化している。このため、この図11(イ)及び図11(ホ)において、上記の極性急変部を明確に認識できれば破断部の検出が可能となる。しかし、この図11(イ)~(ホ)の着磁後磁束密度グラフにおいては、上記交差鉄筋3の磁束による磁束急変部と上記破断部に対応する極性急変部との視覚上の差異が少ないことから、結局この図11(イ)~(ホ)の着磁後磁束密度グラフにおける検査対象鉄筋の破断部を正確に検出することは極めて難しいものとなる。
【0084】
なお、上記脱磁後磁束密度測定工程において取得される脱磁後磁束密度グラフに基づいて上記図12(イ)~(ホ)に示す脱磁後磁束密度グラフを求めるのが、上記脱磁後磁束密度測定工程であるが、その内容は、上述の着磁後磁束密度測定工程のそれとほぼ同じであるため、該着磁後磁束密度測定工程における該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【0085】
「破断部検出工程」
上記破断部検出工程では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するものであり、その検出手法は上述の通りである。
【0086】
なお、この実施形態においては、上述のように、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフと、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフに基づいて、上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するようにしているが、本願発明の他の実施形態では、上記脱磁後磁束密度測定工程で取得された脱磁後磁束密度グラフのみに基づいて上記各検査対象鉄筋の破断部の有無を検出するようにすることもできる。上述のように、上記着磁後磁束密度測定工程で取得された着磁後磁束密度グラフを参照するのは、交差鉄筋3の磁束密度の変化状態から、上記各検査対象鉄筋の長手方向における上記交差鉄筋3の位置を確認し、上記脱磁後磁束密度グラフにおいて破断部の位置確認を補足し、該破断部の検出をより正確に行うためであって、上記脱磁後磁束密度グラフにおいて破断部の位置検出を正確に行うという本来的な目的からすれば、破断部検出工程において着磁後磁束密度グラフを参照する必要は必ずしもないからである。
【符号の説明】
【0087】
1 ・・コンクリート体
2 ・・検査対象鉄筋群
3 ・・交差鉄筋
5 ・・磁石
6 ・・磁気センサ
7 ・・脱磁装置
21~25 ・・検査対象鉄筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12