(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005489
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アニオン界面活性剤の精製方法
(51)【国際特許分類】
B01D 15/04 20060101AFI20240110BHJP
C09K 23/14 20220101ALI20240110BHJP
C09K 23/12 20220101ALI20240110BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20240110BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20240110BHJP
B01J 39/07 20170101ALI20240110BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20240110BHJP
B01J 41/07 20170101ALI20240110BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B01D15/04
C09K23/14
C09K23/12
C09K23/52
B01J39/05
B01J39/07
B01J41/05
B01J41/07
B01J45/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105689
(22)【出願日】2022-06-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日井 博之
(72)【発明者】
【氏名】榊原 秀悟
【テーマコード(参考)】
4D017
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017BA12
4D017CA13
4D017CA17
4D017CB01
4D017CB03
4D017CB05
4D017DA01
4D017DB01
4D017EA01
(57)【要約】
【課題】
アニオン界面活性剤について、処理途中で析出を起こすことなく、金属イオンを効率よく低減する精製方法を提供する。
【解決手段】
強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる接触工程1と、前記接触工程1で得られたイオン交換樹脂にアニオン界面活性剤を接触させる接触工程2と、を含むことを特徴とするアニオン界面活性剤の精製方法である。接触工程1では、アルカリ成分をイオン交換樹脂に接触させることにより、イオン交換樹脂に対してカチオン成分を吸着させる。接触工程2では、アニオン界面活性剤に含まれる金属イオンが、前記接触工程1でイオン交換樹脂に予め吸着されたカチオン成分と交換され、アニオン界面活性剤から金属イオンが除去される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる接触工程1と、前記接触工程1で得られたイオン交換樹脂にアニオン界面活性剤を接触させる接触工程2と、を含むことを特徴とするアニオン界面活性剤の精製方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂が、強酸性カチオン交換樹脂のみからなる請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記イオン交換樹脂が、強酸性カチオン交換樹脂と、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、及びキレート交換樹脂から選ばれる少なくとも1つと、の混合樹脂である請求項1に記載の精製方法。
【請求項4】
前記接触工程1が、強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させた後に、更に強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、及びキレート交換樹脂から選ばれる少なくとも1つを混合させる工程1-1を含む請求項1に記載の精製方法。
【請求項5】
前記アニオン界面活性剤が、HLBが20以下の酸成分の中和塩である請求項1~4のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項6】
前記アルカリ成分が、有機アミン、4級アンモニウム塩、及びアンモニアから選ばれる少なくとも1つである請求項1~4のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項7】
前記アルカリ成分が、有機アミン、4級アンモニウム塩、及びアンモニアから選ばれる少なくとも1つである請求項5に記載の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アニオン界面活性剤の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や半導体等のデバイスの製造及び精密加工の技術分野などにおいて、界面活性剤を含有した高機能洗浄剤が使用されている。シリコンウエハーや半導体などの製造工程において生じる恐れのある汚染物質や付着物には、パーティクルと呼ばれるゴミや塵埃、種々の金属イオンなどが挙げられる。半導体上にパーティクルがあると、回路が断線するなどして、不良動作を起こしてしまう。その結果、半導体が使用できなくなり、製品の歩留まりが低下する。また、半導体の金属配線上に金属イオンがのっていると、電流が漏れて半導体が正常に動作しなくなるという事態が起こり得る。金属イオンの存在は、電気的特性の変動に起因する不十分な性能など、製造されたデバイスに対して重大な問題を呈する可能性がある。このように、パーティクルの存在は、半導体の品質に著しく影響を及ぼす。さらに、近年はスマートフォンやパソコン等のデバイスの小型化が目覚ましく、それらに使用される半導体についても小型化が進んでいる。小型化された半導体は、回路の線幅が細くなっており、より小さなパーティクルによって回路の変形等が起こるため、より高い精度のパーティクル除去が必要となる。そのため、金属イオンの濃度をより低減した、精製度の高い界面活性剤が望まれている。
【0003】
従来から、アニオン界面活性剤の精製方法については、一般的な濃縮、晶析、抽出による方法の他に、限外濾過膜を用いて濾過する方法(例えば特許文献1参照)や、イオン交換膜を用いた電気透析により精製する方法(例えば特許文献2参照)等が知られている。
【0004】
また、有機スルホン酸のアルカリ金属塩を、強酸性カチオン交換樹脂を用いたイオン交換法に供して処理することにより、各種の金属イオン濃度を低減させる方法(例えば特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-317654号公報
【特許文献2】特開昭62-63555号公報
【特許文献3】特開2009-143842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1又は特許文献2に開示されている濾過膜やイオン交換膜を用いた方法では、アニオン界面活性剤溶液が含有する金属イオン濃度を十分に低減すること、具体的には、金属イオン濃度を各種の金属イオン毎で数ppbの単位にまで低減することが難しいという問題がある。
【0007】
また、一部のアニオン界面活性剤は、金属塩や有機アミン塩などの状態では水溶性であるが、親水基がH+(プロトン)と結合した酸型の状態では水に対する溶解度が著しく低下し、非水溶性となる。このような酸型で非水溶性となるアニオン界面活性剤を特許文献3に開示のイオン交換法で精製すると、金属イオンと強酸性カチオン交換樹脂のH+とが交換反応し、金属イオンは低減できるものの、アニオン界面活性剤が酸型になって析出してしまい、精製を行うことが出来ない。
【0008】
そこで本開示は、アニオン界面活性剤について、精製途中で析出を起こすことなく、金属イオンを効率よく低減する精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示の技術は以下の手段をとる。
[1]強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる接触工程1と、前記接触工程1で得られたイオン交換樹脂にアニオン界面活性剤を接触させる接触工程2と、を含むことを特徴とするアニオン界面活性剤の精製方法。
[2]前記イオン交換樹脂が、強酸性カチオン交換樹脂のみからなる[1]に記載の精製方法。
[3]前記イオン交換樹脂が、強酸性カチオン交換樹脂と、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、及びキレート交換樹脂から選ばれる少なくとも1つと、の混合樹脂である[1]に記載の精製方法。
[4]前記接触工程1が、強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させた後に、更に強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、及びキレート交換樹脂から選ばれる少なくとも1つを混合させる工程1-1を含む[1]に記載の精製方法。
[5]前記アニオン界面活性剤が、HLBが20以下の酸成分の中和塩である請求項[1]~[4]のいずれかに記載の精製方法。
[6]前記アルカリ成分が、有機アミン、4級アンモニウム塩、及びアンモニアから選ばれる少なくとも1つである[1]~[4]のいずれかに記載の精製方法。
[7]前記アルカリ成分が、有機アミン、4級アンモニウム塩、及びアンモニアから選ばれる少なくとも1つである[5]に記載の精製方法。
【0010】
なお、本明細書において「A~B」で示される数値範囲は、特段の記載が無い限り、その上限及び下限を含む。つまり、「A~B」は「A以上、B以下」を意味する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した本開示の精製方法によれば、処理途中で析出を起こすことなく、アニオン界面活性剤から金属イオンを効率よく低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示のアニオン界面活性剤の精製方法は、イオン交換法による。強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる接触工程1と、前記接触工程1で得られたイオン交換樹脂にアニオン界面活性剤を接触させる接触工程2と、を含む。
【0013】
≪接触工程1≫
接触工程1は、強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる工程である。イオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させることにより、アルカリ成分由来のカチオン成分をイオン交換樹脂が含む強酸性カチオン交換樹脂に吸着させることができる。接触工程1は後述する工程1-1を含んでもよい。
【0014】
<イオン交換樹脂>
イオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂を含んでいればよく、強酸性カチオン交換樹脂のみで構成されていてもよいし、強酸性カチオン交換樹脂と他のイオン交換樹脂との混合樹脂であってもよい。他のイオン交換樹脂としては、弱酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、キレート交換樹脂等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。各イオン交換樹脂の種類としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。イオン交換樹脂の形状は、粒状に限定されることはなく、粉状、繊維状あるいは膜状でもかまわない。イオン交換樹脂の構造は、ゲル型であっても、マクロポーラス型であってもよい。
【0015】
なお、イオン交換樹脂が、強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂との組合せ、又は、強酸性カチオン交換樹脂と弱塩基性アニオン交換樹脂との組合せの場合には、金属イオンだけでなく不純物の陰イオンをも低減することができる。また、強酸性カチオン交換樹脂と弱酸性カチオン交換樹脂の組合せ、又は、強酸性カチオン交換樹脂とキレート樹脂の組合せの場合には、特定の金属イオンや多価金属イオンを除去することもできる。
【0016】
強酸性カチオン交換樹脂とは、カチオン成分に対する吸着力が比較的高いカチオン交換樹脂であり、スルホン酸基(R-SO3
-H+)等の強酸性交換基を官能基として持つものである。強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標、以下同様)IR120B、IR124、200CT(共に米国デュポン社製)、デュオライト(登録商標、以下同様)C20、C21LF、C255LFH(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン(登録商標、以下同様)SK104H、SK110、SK1B(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0017】
弱酸性カチオン交換樹脂は、カチオン成分に対する吸着力が比較的低いカチオン交換樹脂であり、カルボン酸基(R-COO-H+)等の弱酸性交換基を官能基として持つものである。弱酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、HPR8400(共に米国デュポン社製)、デュオライト C476(米国デュポン社製)ダイヤイオン WK10、WK11(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0018】
強塩基性アニオン交換樹脂とは、第4級アンモニウム塩基(R-N+R1R2R3)等の強塩基性官能基が導入されたアニオン交換樹脂である。強塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J、IRA402BL、IRA900J(共に米国デュポン社製)、デュオライト A113LF、A161JCL(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン SA10A、SA11A(共に三菱ケミカル社製)等のI型強塩基性アニオン交換樹脂、アンバーライト IRA410J、IRA910CT、HPR4010(共に米国デュポン社製)、デュオライト A116、A162LF(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン SA20A、SA20ALL(共に三菱ケミカル社製)等のII型強塩基性アニオン交換樹脂を使用できる。
【0019】
弱塩基性アニオン交換樹脂は、第1~3級アミン等の弱塩基性官能基が導入されたアニオン交換樹脂である。弱塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA67、IRA96SB、IRA98(共に米国デュポン社製)、デュオライト A368MS、A378D、A375LF(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン WA10、WA20(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0020】
キレート樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC747UPS、IRC748(共に米国デュポン社製)、デュオライト C467(米国デュポン社製)、ダイヤイオン CR11、CR20(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0021】
強酸性カチオン交換樹脂および弱酸性カチオン交換樹脂は、予め塩酸や硫酸等の酸を用いて対イオンをH型とし、イオン交換水や超純水等で十分洗浄するなどして使用するのが好ましい。また、後述する接触工程2により金属イオンを吸着した後には、イオン交換樹脂はアルカリ金属型となっているが、上記と同様の操作によりH型に再生して使用することができる。
【0022】
強塩基性アニオン交換樹脂および弱塩基性アニオン交換樹脂は、予めテトラメチルアンモニウム塩水溶液等の塩を用いて対イオンをOH型とし、イオン交換水や超純水等で十分洗浄するなどして使用するのが好ましい。また、カチオン交換樹脂の場合と同様に、OH型に再生したものを使用することができる。
【0023】
<アルカリ成分>
イオン交換樹脂に接触させるアルカリ成分としては、公知のものであればよく、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等の有機アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム塩、アンモニア等が挙げられる。アルカリ成分は、例えばイオン交換能の観点から、有機アミン、4級アンモニウム塩、アンモニアが好ましく、有機アミン、アンモニアがより好ましく、有機アミンが更に好ましい。これらのアルカリ成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
<アルカリ成分の接触方法>
接触工程1においてイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる方法は特に限定はなく、カラム法でも、バッチ法でもよい。作業効率などの観点から、カラム法が好ましい。強酸性カチオン交換樹脂と他のイオン交換樹脂をカラム法で組み合わせて使用する場合は、複層又は混合のいずれの系でも使用できる。イオン交換カラムなどの公知の装置は、本開示の方法に従ってアルカリ成分液をイオン交換樹脂に接触させるために用いることができる。
【0025】
アルカリ成分液をイオン交換樹脂に接触させてイオン交換処理する際の空間速度(SV)は、0.01~6.0h-1とするのが好ましく、0.1~6.0h-1とするのがより好ましい。
【0026】
≪工程1-1≫
工程1-1は、強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させた後に、更に強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、及びキレート交換樹脂から選ばれる少なくとも1つ(すなわち、強酸性カチオン交換樹を含まないイオン交換樹脂)をイオン交換樹脂に混合させる工程である。接触工程1は、イオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させて、強酸性カチオン交換樹脂にアルカリ成分由来のカチオン成分を吸着させることを目的とする。そのため、強酸性カチオン交換樹脂と強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換樹脂を併用する場合、イオン交換樹脂はアルカリ成分との接触前に混合されてもよいし、工程1-1のように強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂をアルカリ成分と接触させた後に、強酸性カチオン交換樹脂を含まないイオン交換樹脂と混合されてもよい。
【0027】
≪接触工程2≫
接触工程2は、接触工程1で得られたイオン交換樹脂にアニオン界面活性剤を接触させる工程である。接触工程1でアルカリ成分を接触させたイオン交換樹脂にアニオン界面活性剤溶液を通液すると、溶液中の金属イオンがH+ではなくカチオン成分に交換される。その結果、アニオン界面活性剤は水溶性の中和塩を形成することができるため、アニオン界面活性剤の析出や分離が発生することなく、溶液中の金属イオンを低減することが可能となる。
【0028】
<アニオン界面活性剤溶液>
アニオン界面活性剤溶液は、イオン交換水等のイオン交換法に適した溶媒にアニオン界面活性剤を溶解した溶液である。
【0029】
<アニオン界面活性剤>
アニオン界面活性剤としては、特に制限はなく公知のものであればよい。アニオン界面活性剤溶液中に含まれる金属イオンの量や、イオン交換水等に対する溶解性の観点から、アニオン界面活性剤は対塩基との中和塩であることが好ましい。
【0030】
対塩基としては、特に制限はなく、公知のものであればよい。例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等の有機アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム塩、アンモニア、水酸化ナトリウム等が挙げられる。これらの対塩基は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
対塩基との中和塩である界面活性剤としては、例えば、(1)ラウリルリン酸モノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレン(EO2)ラウリルリン酸モノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレン(EO4)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(EO3)アルキル(C12-15)エーテルリン酸アンモニウム塩等のリン酸塩、(2)アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸トリエタノールアミン塩、アルキルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン塩等の有機スルホン酸塩、(3)ポリオキシエチレン(EO3)トリデシルエーテルカルボン酸モノエタノールアミン塩、オクタン酸ナトリウム等のカルボン酸塩、(4)ラウリン酸ジエタノールアミン塩、パルミチン酸モノエタノールアミン塩、ステアリン酸トリエタノールアミン塩等の脂肪酸塩、(5)スチレン/マレイン酸共重合物アンモニウム塩、ジアリルアミン/マレイン酸共重合物アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメタクリル酸ナトリウム塩、アクリル酸-メタクリル酸共重合物のナトリウム塩、イソブチレン-マレイン酸共重合物のナトリウム塩、メトキシPEGグラフトポリメタクリル酸ナトリウム塩等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本開示に用いるアニオン界面活性剤は、例えば水溶性の観点から、有機概念図の計算式によるHLBが20以下である酸成分の中和塩であることが好ましく、HLBが15以下であることがより好ましい。なお、アニオン界面活性剤の酸成分とは、アニオン界面活性剤の親水基がH+と結合した酸型の状態を意味する。
【0033】
<HLBの算出方法>
本開示におけるHLBは、有機概念図における有機性値(O)と無機性値(I)から、下記式(1)により算出された値である。
HLB=(I)/(O)×10・・・(1)
ここで、(O)および(I)は、炭素1個を有機性値「20」とし、その他の官能基については「有機概念図-基礎と応用-」(1984発行、甲田善生著、三共出版株式会社発行)の第13頁に記載の無機性基表に従い算出した。また、同文献に記載のない官能基である-O-P(O)(OH)2については、同表に記載の>P-の値を使用した。
【0034】
<アニオン界面活性剤溶液の接触方法>
イオン交換樹脂にアニオン界面活性剤を接触させる方法は特に限定はなく、接触工程1においてイオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる際の方法と同様の方法で行うことができる。アニオン界面活性剤溶液をカチオン交換樹脂と接触させることにより、アニオン界面活性剤溶液に含まれる陽イオン(金属イオン)を除去することができる。一方、アニオン界面活性剤溶液をアニオン交換樹脂と接触させることにより、アニオン界面活性剤溶液に含まれる陰イオン(ハロゲンイオン等)を除去することができる。カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を用いた混床イオン交換法では、金属イオンと陰イオンを同時に除去することが可能である。
【0035】
以上説明した精製方法により、アニオン界面活性剤溶液中の金属イオンはカチオン成分と交換されるため、生成されたアニオン界面活性剤は中和塩の形をとる。そのため、酸型になると非水溶性となるアニオン界面活性剤を精製しても、アニオン界面活性剤の析出を防ぎ、アニオン界面活性剤中の金属イオンを効率よく低減することが可能となる。
【実施例0036】
以下、本開示の構成及び効果をより具体的とする実施例および比較例を挙げるが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、%は質量%を意味する。表1は、各実施例および各比較例におけるアニオン界面活性剤の種類及び濃度と、イオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる処理条件とを示す。なお、表1中のHLBは、アニオン界面活性剤を酸型(酸成分)とした場合の有機概念図の計算式によるHLBを示す。
【0037】
<実施例1>
アニオン界面活性剤としてラウリルリン酸モノエタノールアミン塩175gをイオン交換水425gと配合して、濃度29.2%のアニオン界面活性剤溶液を調製し、これを試料とした。ラウリルリン酸モノエタノールアミン塩は、酸成分であるラウリルリン酸と対塩基であるモノエタノールアミンとの中和塩であり、ラウリルリン酸のHLBは11.2であった。強酸性カチオン交換樹脂として予め1N希塩酸を用いてH型に再生しておいたアンバーライト200CT(米国デュポン社製の商品名)100mlを、垂直にセットした内容量300mlのカラムに充填した。充填した強酸性カチオン交換樹脂を、1000gのイオン交換水にて十分に洗浄した後、24時間静置した。強酸性カチオン交換樹脂に接触させるアルカリ成分としてモノエタノールアミン15gをイオン交換水235gと配合して、アミン水溶液を調製した。調製したアミン水溶液及びカラム内の液温を15~25℃の範囲内で一定の温度に保ち、空間速度(SV)1.0h-1でカラムに通液して、処理(接触工程1)を行った。処理した強酸性カチオン交換樹脂を、1000gのイオン交換水にて十分に洗浄した。試料およびカラム内の液温を15~25℃の範囲内で一定の温度に保ち、空間速度(SV)1.0h-1で試料をカラムに通液して、処理(接触工程2)を行った。これにより、試料をイオン交換法に供し、金属イオン濃度を低減した精製アニオン界面活性剤溶液を得た。
【0038】
<実施例2>
実施例1と同様にして、表1に記載したアニオン界面活性剤をイオン交換水に溶解したアニオン界面活性剤溶液を調製し、これを試料とした。強酸性カチオン交換樹脂として予め1N希塩酸を用いてH型に再生しておいたアンバーライト200CT(米国デュポン社製の商品名)75mlと、強塩基性アニオン交換樹脂として予め1Nテトラメチルアンモニウム塩水溶液を用いてOH型に再生しておいたアンバーライトIRA900J(米国デュポン社製の商品名)75mlとを均一に混合した。当該混合樹脂を、垂直にセットした内容量300mlのカラムに充填した。充填した混合樹脂をイオン交換水にて十分に洗浄した後、24時間静置した。強酸性カチオン交換樹脂に接触させるアルカリ成分としてモノエタノールアミンをイオン交換水と配合して、アミン水溶液を調製した。調製したアミン水溶液及びカラム内の液温を15~25℃の範囲内で一定の温度に保ち、空間速度(SV)0.8h-1でカラムに通液して、処理(接触工程1)を行った。処理したイオン交換樹脂を、イオン交換水にて十分に洗浄した。試料およびカラム内の液温を15~25℃の範囲内で一定の温度に保ち、空間速度(SV)0.8h-1で試料をカラムに通液して、処理(接触工程2)を行った。これにより、試料をイオン交換法に供し、金属イオン濃度を低減した精製アニオン界面活性剤溶液を得た。
【0039】
<実施例3~9>
実施例1と同様にして、表1に記載したアニオン界面活性剤をイオン交換水に溶解したアニオン界面活性剤溶液を調製して、試料とした。表1に示す強酸性カチオン交換樹脂に接触させるアルカリ成分の水溶液を調製し、カラムに充填したイオン交換樹脂に通液し、処理(接触工程1)を行った。表1に示す空間速度で試料をカラムに通液して、処理(接触工程2)を行った。これにより、試料をイオン交換法に供し、金属イオン濃度を低減した精製アニオン界面活性剤溶液を得た。
【0040】
<比較例1~3>
比較例1では、強酸性カチオン交換樹脂に塩基を接触させる処理(接触工程1)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。比較例2では、強酸性カチオン交換樹脂を用いず、強塩基性アニオン交換樹脂のみによって、表1に示す空間速度で処理を行ったこと以外は、実施例2と同様に行った。比較例3では、実施例1と同じアニオン界面活性剤溶液を調製し、その後の精製処理を行わなかった。
【0041】
【0042】
表1において、各記号は以下の製品を示す。
CA:アンバーライト200CT(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、米国デュポン社製)
AN:アンバーライトIRA900J(強塩基性アニオン交換樹脂、ゲル型、米国デュポン社製)
【0043】
実施例1~9、比較例1~3で得られた精製アニオン界面活性剤溶液について、下記試験方法により、溶液における溶状(析出の有無等)と金属含有量とを評価・測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
≪溶状の評価≫
精製アニオン界面活性剤溶液を目視で観察し、析出の有無等を評価した。
【0045】
≪金属含有量≫
精製アニオン界面活性剤溶液を、ファーネス原子吸光光度計AA280Z(アジレント・テクノロジー社製の商品名)を用いたグラファイトファーネス式フレームレス原子化法による原子吸光分析法に供して、金属含有量を測定した。
【表2】
【0046】
実施例1から9は、精製アニオン界面活性剤溶液の溶状は液状であり、析出は無かった。また、実施例1から9では、精製後の各金属含有量は各金属イオンにおいて100ppb以下に低減されていた。一方、比較例1では、イオン交換樹脂にアルカリ成分を接触させる接触工程1を行わなかったため、精製途中で析出があった。比較例2では、接触工程1においてカチオン交換樹脂を用いずアニオン交換樹脂のみで処理したため、金属含有量が各金属イオンにおいて90~4900ppbもあった。また、イオン交換処理を行っていない比較例3では、金属含有量が各金属イオンにおいて100~5000ppbもあった。