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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054902
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】手術医負担軽減装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/60 20160101AFI20240411BHJP
   G21F 3/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A61B90/60
G21F3/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161349
(22)【出願日】2022-10-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】314000729
【氏名又は名称】株式会社アイザック
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】南 嘉輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】三好 眞夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 翔矢
(72)【発明者】
【氏名】村石 正三
(57)【要約】
【課題】防護服が手術医に負荷する荷重負担を軽減しつつ、手術医の姿勢の高い自由度が確保できる手術医負担軽減装置を提供する。
【解決手段】手術医負担軽減装置1は、第1アーム3と、第1アームの下端部を支持するアーム支持部ASと、第1アーム3に連結される第2アーム5と、第1、第2アーム3、5に対して後方の鈍角αが小さくなる方向の力を付与する第1付勢手段15と、第2アーム5に連結される第3アーム6と、第2、第3アーム5、6に対して前方の鈍角βが大きくなる方向の力を付与する第2付勢手段16と、第3アーム6の先端部に固定され、防護服24の両肩部を着脱可能に保持する肩部保持部18を有するハンガー部7とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術医を放射線から防護する防護服による手術医への荷重負担を軽減する手術医負担軽減装置であって、
上方に延びた第1アームと、
前記第1アームの下端部を支持し、被取付部に取り付けられるアーム支持部と、
前記第1アームに対して第2アームが後方で鈍角αを成して回動し得るように該第1アームの上端部に下端部が連結される該第2アームと、
前記第1、第2アームに対して前記鈍角αが小さくなる方向の力を付与する第1付勢手段と、
前記第2アームに対して第3アームが前方で鈍角βを成して回動し得るように該第2アームの上端部に下端部が連結される該第3アームと、
前記第2、第3アームに対して前記鈍角βが大きくなる方向の力を付与する第2付勢手段と、
前方に開いたハンガー状の形状を有し、中間部に前記第3アームの先端部に固定されるハンガー固定部を有し、両端部に前記防護服の両肩部をそれぞれ着脱可能に保持する肩部保持部を有するハンガー部を備えることを特徴とする手術医負担軽減装置。
【請求項2】
前記第1付勢手段は、引張ばねであり、前記第2付勢手段はガススプリングであることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項3】
前記被取付部は、キャスタ付きの電動昇降椅子であることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項4】
前記第3アームの後ろ側に、手術医に対するハイドレーション用のボトルを設置するためのボトル設置部を備えることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項5】
前記第1アームに、手術医に風を送るための扇風機を備えることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項6】
前記アーム支持部の後側に、前記防護服を着用した手術医の外側を外套で覆う場合の該外套の内部の空気を清浄にするための空気清浄機を備えることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項7】
前記アーム支持部は、前記第1アームの下端部を、該第1アームがその軸線の周りで回動し、かつ左右方向に所定の角度範囲で傾くことが可能となるように支持するものであることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項8】
前記アーム支持部を前記被取付部に取り付けるための取付部を備え、前記取付部は、前記アーム支持部を、前記電動昇降椅子の後部に対して着脱可能に取り付けるものであり、該アーム支持部に代えて、手術医の背を支持する背当てを該電動昇降椅子の後部に対して取付け可能に構成されることを特徴とする請求項3に記載の手術医負担軽減装置。
【請求項9】
前記ハンガー部は、手術医の甲状腺を放射線から保護する甲状腺ガードを着脱可能に備えることを特徴とする請求項1に記載の手術医負担軽減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術医を放射線から防護する防護服が手術医に負荷する荷重負担を軽減する手術医負担軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術医を放射線から防護する防護服による手術医への荷重負担を軽減する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の装置は、固定スチールフレーム、可動アームセット及び負荷ハンガーを含む。固定スチールフレームは、天井や、鉄骨梁、壁に固定される。可動アームセットは、複数個の連動するアームの両端を連続して略水平面内で回動自在に連結して構成される。
【0003】
可動アームセットの一端は、固定スチールフレームに対して回動自在に連結され、他端は、負荷ハンガーを水平面内で回動自在に保持する。負荷ハンガーには鉛衣が掛けられ、手術医はこの鉛衣を着用して、可動アームセットが延伸できる範囲内において、移動することができる。この間、負荷ハンガーのサポートにより、鉛衣が手術医に与える荷重が軽減される。
【0004】
また、この装置は、可動アームセット及び負荷ハンガーの間に1つの伸縮セット部品を備える。この伸縮セット部品は、可動アームセットに枢接する1つの内棒、負荷ハンガーと枢接する1つの外棒を含み、該外棒及び内棒は相対して伸縮できるように構成される。該外棒及び内棒には、複数個の互いに対応する定位穴が設けられる。
【0005】
そして、負荷ハンガーの高さ位置については、1つの定位ピンを選択的に定位穴に挿入することによって、外棒及び内棒の長さを伸縮させ、調整することができるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3175917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の装置は、防護服を天井から吊り下げて保持する構造であるため、手術室等に装置を設置するための工事が必要となり、取り扱いに難点がある。また、負荷ハンガーの高さ位置は調整可能ではあるが、調整可能な範囲が狭いため、手術医による坐位姿勢での手術を可能にするものではない。
【0008】
また、負荷ハンガーに掛けられた防護服は、常に垂直方向に延びたままであるため、手術医が前屈みになるのは困難である。したがって、この装置を、手術を行う手術医に適用することはできない。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、防護服が手術医に負荷する荷重負担を軽減しつつ、手術医に対して姿勢の高い自由度が確保できる手術医負担軽減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の手術医負担軽減装置は、
手術医を放射線から防護する防護服による手術医への荷重負担を軽減する手術医負担軽減装置であって、
上方に延びた第1アームと、
前記第1アームの下端部を支持し、被取付部に取り付けられるアーム支持部と、
前記第1アームに対して第2アームが後方で鈍角αを成して回動し得るように該第1アームの上端部に下端部が連結される該第2アームと、
前記第1、第2アームに対して前記鈍角αが小さくなる方向の力を付与する第1付勢手段と、
前記第2アームに対して第3アームが前方で鈍角βを成して回動し得るように該第2アームの上端部に下端部が連結される該第3アームと、
前記第2、第3アームに対して前記鈍角βが大きくなる方向の力を付与する第2付勢手段と、
前方に開いたハンガー状の形状を有し、中間部に前記第3アームの先端部に固定されるハンガー固定部を有し、両端部に前記防護服の両肩部をそれぞれ着脱可能に保持する肩部保持部を有するハンガー部を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明において、ハンガー部の肩部保持部が防護服を保持していない状態では、第1、第2アーム間の鈍角αは、第1付勢手段の付勢力により最小となり、第2、第3アーム間の鈍角βは、第2付勢手段の付勢力により最大となる。
【0012】
この状態において、手術医が防護服を着て放射線治療を行う際に、防護服の肩部がハンガー部の肩部保持部により保持されると、第1、第2アーム間の鈍角αは、第1付勢手段の付勢力に抗して大きくなり、第2、第3アーム間の鈍角βは、第2付勢手段の付勢力に抗して小さくなる。
【0013】
これにより、防護服の重量M1のかなりの部分の重量M2は、ハンガー部及び第2、第3アームを介して第1、第2付勢手段の付勢力により手術医負担軽減装置が支持し、防護服の重量M1の一部(M1-M2)を手術医が支持する状態となる。すなわち、手術医が負担する防護服の重量分は、防護服の重量M1から手術医負担軽減装置が支持する重量M2を差し引いた重量(M1-M2)となるので、防護服による手術医への荷重負担がかなり軽減されることなる。
【0014】
この状態において、手術医が前屈みになると、第2アームの先端側が前方に回動し、かつ第2アームの基端部から第3アームの前端部までの距離が長くなるので、鈍角αと鈍角βは大きくなる。これにより、手術医の前屈みになった上体は、防護服及びハンガー部を介して元の姿勢に戻る方向に支持される。このため、手術医は、前屈みになった姿勢を極めて楽に維持することができる。
【0015】
このようにして、本発明によれば、第1、第2付勢手段による付勢力によって、第2、第3アーム及びハンガー部を介して防護服に付与される力により、手術医が前屈みになる場合も含めて、手術医に負荷される防護服の荷重負担を軽減することができる。したがって、手術医に対して姿勢の高い自由度を確保しつつ、防護服による手術医への荷重負担を軽減することができる。
【0016】
本発明において、前記第1付勢手段は、引張ばねであり、前記第2付勢手段はガススプリングであってもよい。これによれば、強力な引張ばねにより必要な付勢力を付与できる第1付勢手段を構成するとともに、ガススプリングの小型かつ軽量で、広範囲のストロークで一定のバネ力が得られ、メンテナンスも不要という利点を生かして第2付勢手段を構成することができる。
【0017】
本発明において、前記被取付部は、キャスタ付きの電動昇降椅子であってもよい。これにより、手術医の移動や姿勢の変化に対応しつつ、常に防護服による手術医の荷重負担を軽減することができる。
【0018】
本発明において、前記第3アームの後ろ側に、手術医に対するハイドレーション用のボトルを設置するためのボトル設置部を備えてもよい。これによれば、手術医は、必要に応じて、水分補給を行うことができる。
【0019】
本発明において、前記第1アームに、手術医に風を送るための扇風機を備えてもよい。これによれば、手術医に風を送って暑苦しさを解消し、手術医の手術の環境を快適に保つことができる。
【0020】
本発明において、前記アーム支持部の後側に、前記防護服を着用した手術医の外側を外套で覆う場合の該外套の内部の空気を清浄にするための空気清浄機を備えてもよい。これによれば、外套内の空気を清浄に保持して、手術医に対する感染を予防することができる。
【0021】
本発明において、前記アーム支持部は、前記第1アームの下端部を、該第1アームがその軸線周りで回動し、かつ左右方向に所定の角度範囲で傾くことが可能となるように支持するものであってもよい。
【0022】
これによれば、第1~第3アーム、ハンガー部及びハンガー部により保持される防護服が、第1アームの軸線周りで回動可能となり、かつ左右方向に傾斜可能となるので、防護服を着用した手術医は、より高い自由度で、自身の姿勢を制御しつつ、手術を行うことができる。
【0023】
本発明において、前記アーム支持部を前記被取付部に取り付けるための取付部を備え、前記取付部は、前記アーム支持部を、前記電動昇降椅子の後部に対して着脱可能に取り付けるものであり、該アーム支持部に代えて、手術医の背を支持する背当てを該電動昇降椅子の後部に対して取付け可能に構成されてもよい。
【0024】
これによれば、電動昇降椅子に着座した手術医が防護服を必要としない手術を行う場合には、第1~第3アーム及びハンガー部に代えて、背当てを取り付けることにより、手術医の姿勢を適切に補助することができる。
【0025】
前記ハンガー部は、手術医の甲状腺を放射線から保護する甲状腺ガードを着脱可能に備えてもよい。これによれば、ハンガー部により肩部が保持された防護服を着用した手術医を、ハンガー部の甲状腺ガードにより、放射線から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る手術医負担軽減装置を示す斜視図である。
図2図1の手術医負担軽減装置の立ち座り姿勢時の様子を示す斜視図である。
図3図1の手術医負担軽減装置の立ち座りかつ前傾姿勢時の様子を示す斜視図である。
図4】防護服を着用し、椅子に座っている手術医に対して、補助者が、防護服の肩部を図1の手術医負担軽減装置のハンガー部に保持させる様子を示す図である。
図5図4のように防護服の肩部をハンガー部に保持させた後、手術医が、外套を被り、手袋を着用して、治療の準備が完了する様子を示す図である。
図6図1の手術医負担軽減装置におけるハンガー部の本体に取り付けられた甲状腺ガードを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る手術医負担軽減装置1を示す。この手術医負担軽減装置1は、手術医2を放射線から防護する防護服による手術医2への荷重負担を軽減するものである。
【0028】
図1に示すように、手術医負担軽減装置1は、上方に延びた第1アーム3の下端部を支持し、被取付部としての椅子4に取り付けられるアーム支持部ASと、第1アーム3に対して後方で鈍角αを成して回動し得るように第1アーム3の上端部に下端部が連結される第2アーム5と、第2アーム5に対して前方で鈍角βを成して回動し得るように第2アーム5の上端部に下端部が連結される第3アーム6と、前方に開いたハンガー状の形状を有し、第3アーム6の先端部に固定されて防護服を保持するハンガー部7とを備える。
【0029】
第1アーム3に対する第2アーム5の回動、及び第2アーム5に対する第3アーム6の回動は、ほぼ同一面内で行われる。椅子4は、キャスタ8付きの電動昇降椅子である。すなわち、椅子4は、手術医2が床9に自身の足で力を加えることにより、キャスタ8を介して任意の位置に椅子4を移動させるとともに、フットスイッチ10を足で操作することにより、座面11を昇降させ、座面11の高さを調整できるように構成される。
【0030】
座面11の高さは、図1で示される座位姿勢及び図2で示される立位姿勢に対応した位置に調整可能である。キャスタ8としては、ゴム製のボールキャスタや、手術医2が座面11に全体重を乗せるとロックされる体重ロックキャスタを使用することができる。
【0031】
座面11は、回動軸12の周りで回動し得るようになっている。座面11の位置は、無負荷時には引張ばね13によりその中立位置に対応する位置に維持されているが、手術医2が座ることにより、与えられる荷重と引張ばね13の付勢力とがバランスする位置に変位するように構成される。椅子4には、椅子4を看護師などが移動させるためのハンドル14が設けられる。
【0032】
第1、第2アーム3、5の各中間部の間には、第1付勢手段15が設けられる。第1付勢手段15は、第1、第2アーム3、5が後方において成す鈍角αが小さくなる方向の力を第1、第2アーム3、5に付与する。第1付勢手段15は、本実施形態では、引張ばねで構成される。鈍角αの最小値は、図視していないストッパにより規定される。
【0033】
第1アーム3に対する第2アーム5の回動を案内する案内用ピストンを前記引張ばねに平行に設けてもよい。この場合、上記ストッパは、この案内用ピストンの可動範囲を規定するものとして、該案内用ピストン部に設けることができる。
【0034】
第2、第3アーム5、6の各中間部の間には、第2付勢手段16が設けられる。第2付勢手段16は、第2、第3アーム5、6が前方において成す鈍角βが大きくなる方向の力を第2、第3アーム5、6に付与する。
【0035】
第2付勢手段16は、本実施形態では、ガススプリングで構成される。なお、第1、第2アーム3、5及び第2、第3アーム5、6は、それぞれ鈍角α及び鈍角βが180°を超えて相互に回転することがないように構成される。
【0036】
ハンガー部7は、中間部に第3アーム6の先端部に固定されるハンガー固定部17を有し、両端部に防護服の両肩部を着脱可能に保持する肩部保持部18を備える。また、ハンガー部7は、図6に示すように、手術医2の甲状腺を放射線から保護する甲状腺ガードTGを、ハンガー部7の本体BDに対して着脱可能に備える。
【0037】
第3アーム6の後ろ側に、ハイドレーション用のボトル19を設置するためのボトル設置部20が設けられる。第1アーム3には、手術医2に風を送るための扇風機21が設けられる。
【0038】
椅子4の後側に、防護服を着用した手術医2の外側を外套で覆う場合の該外套の内部の空気を清浄にするための空気清浄機22が設けられる。椅子4には、アーム支持部ASを着脱可能に取り付けるための取付部23が後側に設けられる。取付部23は、アーム支持部ASに代えて、手術医2の背を支持する背当てが取付け可能に構成される。
【0039】
取付部23に対するアーム支持部ASの取付け位置は、上下方向に調整可能となっている。また、アーム支持部ASは、第1アーム3の下端部を、第1アーム3がその軸線の周りで回動し、かつ左右方向に所定の角度範囲で傾くことが可能となるように支持するものである。
【0040】
第1、第2付勢手段15、16の各ばね定数は、手術医2が着用した防護服24が手術医負担軽減装置1により支持された状態において、手術医2に対する防護服24の重量負荷による負担を軽減し、さらに手術医2の前屈みへの姿勢の変換及びその後の姿勢の維持及び復帰が容易となるように設定される。言い換えれば、各ばね定数は、姿勢を変換する場合を含め、防護服24が手術医2に付与する負荷を軽減するように設定される。
【0041】
この構成において、ハンガー部7の肩部保持部18が防護服24を保持していない状態では、第1付勢手段15がストッパで規制される位置まで、第2アーム5を第1アーム3の方向に回動させた状態にある。また、第2付勢手段16が、第3アーム6を第2アーム5と反対方向に回動させた状態にある。すなわち、第1、第2アーム3、5間の鈍角αは最小となり、第2、第3アーム5、6間の鈍角βは最大となっている。
【0042】
この状態において、手術医負担軽減装置1を利用して治療を行うために、図4に示すように、防護服24を着用した手術医2が、椅子4に座ると、看護師等の補助者25が、防護服24の肩部を、ハンガー部7の肩部保持部18に保持させる。
【0043】
補助者25は、さらに、ヘッドセット26(図1参照)を手術医2の頭部に装着する。ヘッドセット26には、マイク27や、ヘッドホン28、ヘッドライト30などが設けられている。また、補助者25は、音声認識でオン・オフ可能なVRメガネ又はスマートグラス29を、手術医2の耳部に掛けて、手術医2の顔部に装着する。
【0044】
防護服24の肩部がハンガー部7の肩部保持部18により保持されると、防護服24の重量M1のかなりの部分の重量M2がハンガー部7及び第2、第3アーム5、6に付与される。防護服24の重量の一部(M1-M2)は、手術医2により支持される。
【0045】
これにより、第2、第3アーム5、6及びハンガー部7の重量に上記の重量M2を加えた重量と、第1付勢手段が第1、第2アーム3、5に付与する付勢力F1と、第2付勢手段16が第2、第3アーム5、6に付与する付勢力F2とが釣り合った状態となる。これに応じて、第1、第2アーム3、5が成す鈍角α及び第2、第3アーム5、6が成す鈍角βも新たな角度を呈する。
【0046】
これにより、防護服24の重量M1のかなりの部分の重量M2が、手術医負担軽減装置1により支持されることになる。したがって、手術医2が負担する防護服24の重量分は、重量M1から重量M2を差し引いた値(M1-M2)となるので、防護服24による手術医2への荷重負担がかなり軽減されることなる。
【0047】
上述のヘッドセット26や、VRメガネ又はスマートグラス29の装着後、手術医2は、図5に示すように、外套31を被り、手袋32を着用して、治療の準備が完了する。このとき、外套31は、手術医負担軽減装置1を覆うように被せられる。
【0048】
手術医2が、手術などの治療を開始し、前屈みになると、図3に示すように、第2アーム5の先端側が前方に回動し、かつ第2アーム5の基端部から第3アーム6の前端部までの距離が長くなるので、鈍角αと鈍角βは大きくなる。例えば、鈍角αは、鈍角を超えた180°となる。
【0049】
これにより、第1付勢手段15が第1、第2アーム3、5に付与する付勢力F1は、鈍角αを小さくする方向の力(引張力)がより大きくなり、第2付勢手段16が第2、第3アーム5、6に付与する付勢力F2は、鈍角βを大きくする方向の力(押圧力)が小さくなる。
【0050】
これによって、付勢力F1、F2は全体として、手術医2の前屈みをやり易くするとともに、前屈みとなった姿勢を維持し易くするように作用する。すなわち、第1、第2付勢手段15、16の各ばね定数は、この作用が実現されるように設定されているので、第1、第2付勢手段15、16は、手術医2が前屈みの姿勢をとる際に防護服24が手術医2に付与する負荷が変化しないか又は負荷を軽減するように機能する。
【0051】
すなわち、手術医2の前屈みになった上体は、防護服24及びハンガー部7を介して手術医負担軽減装置1により元の姿勢に戻る方向に支持される。このため、手術医2は、前屈みなった姿勢を極めて楽に維持しつつ、治療を続行することができる。
【0052】
この間、手術医2は、椅子4の座面11をフットスイッチ10で上下したり、床9に力を加えたり、取付部23に対して第1アーム3がその軸線周りで回転自在であることや左右方向に傾き可能であることを利用したりして、座位姿勢(図1)・立位姿勢(図2、3)間の姿勢の交替や、上体の上下位置や姿勢の変換、身体の向き、椅子の位置などを自由に変化させながら、治療を行うことができる。
【0053】
また、この間、手術医2は、ボトル設置部20に設置されたボトル19により、チューブ33を介して適宜ハイドレーションを行うことができる。また、手術医2により、ヘッドセット26のマイク27やヘッドホン28、音声認識でオン・オフ可能なVRメガネやスマートグラス29によるウェブ環境を利用した外部とのコミュニケーション、ヘッドライト30による治療部位の照明などが、必要に応じて適宜行われる。
【0054】
また、この間、ハンガー部7に甲状腺ガードTGが取り付けてあれば、甲状腺の被曝が防止される。また、空気清浄機22により外套31内の空気が清浄に保たれ、扇風機21により手術医2に風が送られて暑苦しさが解消される。これにより、手術中の外套31内の環境が快適に保たれる。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、第1、第2付勢手段15、16による付勢力によって、第2、第3アーム5、6及びハンガー部7を介して防護服24に付与される力により、手術医2が前屈みになる場合も含めて、手術医2に負荷される防護服24の荷重負担を軽減することができる。したがって、手術医2の姿勢の高い自由度を確保しつつ、防護服24による手術医2への荷重負担を軽減することができる。
【0056】
また、強力な引張ばねにより必要な付勢力を付与できる第1付勢手段15を構成するとともに、ガススプリングの小型かつ軽量で、広範囲のストロークで一定のバネ力が得られ、メンテナンスも不要という利点を生かして第2付勢手段16を構成することができる。
【0057】
また、被取付部を、キャスタ8付きの椅子4で構成したので、手術医2の移動や姿勢の変化に対応しつつ、常に防護服24による手術医2の荷重負担を軽減することができる。
【0058】
また、ハイドレーション用のボトル19を設置するためのボトル設置部20を備えるので、手術医2は、必要に応じて、水分補給を行うことができる。
【0059】
また、第1アーム3に、21扇風機を備えるので、手術医2に風を送って暑苦しさを解消し、手術医2の手術の環境を快適に保つことができる。
【0060】
また、椅子4の後側に、空気清浄機22を備えるので、外套31内の空気を清浄に保持して、手術医2に対する感染を予防することができる。
【0061】
また、アーム支持部ASは、第1アーム3の下端部を、第1アーム3がその軸線の周りで回動し、かつ左右方向に所定の角度範囲で傾くことが可能となるように支持するので、第1~第3アーム3、5、6、ハンガー部7及び防護服24が、第1アーム3の軸線周りで回動可能となり、かつ左右方向に傾斜可能となるので、防護服24を着用した手術医2は、より高い自由度で、自身の姿勢を制御しつつ、手術を行うことができる。
【0062】
また、取付部23は、アーム支持部ASを、椅子4の後部に対して着脱可能に取り付けるものであって、アーム支持部ASに代えて、手術医2の背を支持する背当てを椅子4の後部に対して取付け可能に構成されているので、椅子4に着座した手術医2が防護服24を必要としない手術を行う場合には、手術医負担軽減装置1に代えて、背当てを取り付けることにより、手術医2の姿勢を適切に補助することができる。
【0063】
また、ハンガー部7は、手術医2の甲状腺を放射線から保護する甲状腺ガードTGを着脱可能に備えるので、ハンガー部7により肩部が保持された防護服24を着用した手術医2を、ハンガー部7の甲状腺ガードTGにより、放射線から保護することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1、第2付勢手段15、16は、捩りコイルばね、圧縮コイルばね等で構成してもよい。また、被取付部は、キャスタ8付きの椅子4に限らず、柱や壁などに基端部が固定され、先端部が、自在に位置が変更できるように構成されたものであって、該先端部に取付部23が固定され得るものであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…手術医負担軽減装置、2…手術医、3…第1アーム、4…椅子、5…第2アーム、6…第3アーム、7…ハンガー部、8…キャスタ、9…床、10…フットスイッチ、11…座面、12…回動軸、13…引張ばね、14…ハンドル、15…第1付勢手段、16…第2付勢手段、17…ハンガー固定部、18…肩部保持部、19…ボトル、20…ボトル設置部、21…扇風機、22…空気清浄機、23…取付部、24…防護服、25…補助者、26…ヘッドセット、27…マイク、28…ヘッドホン、29…VRメガネやスマートグラス、30…ヘッドライト、31…外套、32…手袋、33…チューブ、AS…アーム支持部、BD…本体、TG…甲状腺ガード。
図1
図2
図3
図4
図5
図6