(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054905
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】植物ベースのケーキ類およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/80 20170101AFI20240411BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A21D13/80
A21D2/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161357
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】三輪 朋子
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB06
4B032DG02
4B032DG08
4B032DK02
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK21
4B032DK33
4B032DK47
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】ソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れのよい、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類を得ること。
【解決手段】下記油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を用いてなり、動物性原料を実質的に用いない、植物ベースのケーキ類。
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を用いてなり、動物性原料を実質的に用いない、植物ベースのケーキ類。
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物
【請求項2】
さらに、低油分穀粉を含む、請求項1に記載の植物ベースのケーキ類。
【請求項3】
さらに、膨潤抑制澱粉を用いてなる、請求項1または請求項2に記載の植物ベースのケーキ類。
【請求項4】
動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類の製造方法であって、
油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を含有するケーキ生地を得る工程と、
該ケーキ生地を加熱処理する工程とを有する、植物ベースのケーキ類の製造方法
(ただし、
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ベースのケーキ類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ類の中には、卵類の起泡力を利用して製造される、ソフトな食感とボリュームを有するスポンジケーキがある。
スポンジケーキの基本的な配合は、卵類、穀粉類、糖類を用いるものが知られている。そして、スポンジケーキの基本的な製造方法は、卵類と糖類とを混合し、この混合物を、卵類の起泡力によりホイップして起泡物とし、得られた起泡物に、穀粉類を、その泡をつぶさないように添加し、さっくりと混合することによって生地を得て、この生地を加熱処理するものである。そのため、卵類の起泡力によって、加熱処理時に生地が好ましく膨化し、また加熱処理によって、卵類や穀粉類などに含まれる、蛋白質や澱粉等の成分が固化してスポンジケーキの骨格が強化されるため、焼き落ちが抑制され、ソフトな食感とボリュームのスポンジケーキを得ることができる。
【0003】
さらに、スポンジケーキの製造には、卵類、穀粉類、糖類に加えて、牛乳等の乳類が配合されることもある。乳類は、コクを付与してスポンジケーキの風味を向上させるほか、スポンジケーキをよりソフトな食感としたり、乳類が有する蛋白質等の成分がさらにスポンジケーキの骨格を強化するため、よりソフトな食感とボリュームのあるスポンジケーキを得ることができるようになる。
【0004】
ここで、卵類と乳類はアレルゲンであるため、スポンジケーキをはじめとしたケーキ類を喫食できない人々も多い。そのため卵類や乳類を用いないケーキ類が求められていた。
【0005】
しかし、上述の通り、卵類や乳類は、ソフトな食感やボリュームを得るために重要な役割を果たしているため、卵類や乳類を用いずにケーキ類を製造した場合、加熱処理時の膨化が小さいうえに、加熱処理後に焼き落ちしやすく、目の詰まったものになってしまう。その結果、ソフトな食感が得られず、ボリュームのないケーキ類になってしまうという課題があった。
【0006】
そこで、上記課題を解決するために、スポンジケーキをはじめとした、卵類や乳類を用いないケーキ類に係る種々の検討が行われてきた。
その検討の一つとして、卵代替物を用いたものが報告されている。
例えば、特許文献1には、大豆ホエー成分を含有し、蛋白質含量、加水分解度、破断力が特定数値範囲を満たす大豆素材の加水分解物を含有することを特徴とする、スポンジ状食品用卵代替物が開示されており、該卵代替物を使用したスポンジ生地を有するケーキが開示されている。
【0007】
また、別の検討として、食感とボリュームを改善するために、特定の原材料を用いたものが報告されている。
例えば、特許文献2には、小麦、卵、乳を含有しないスポンジ生地の製造方法であって、前記スポンジ生地はセルロース誘導体、粉類、液体原料を含有し、(1)セルロース誘導体を起泡させる工程と、(2)液体原料を混合し、起泡させる工程と、(3)(1)と(2)で得られた起泡体を混合する工程と、(4)(3)で得られた起泡体と粉類を撹拌混合する工程とを有することを特徴とするスポンジ生地の製造方法が開示されており、小麦、卵、乳を含有せず、セルロース誘導体および粉類を含有することを特徴とする焼成済スポンジ生地も開示されている。
【0008】
特許文献3には、小麦粉を含有し、卵および乳を含有しないスポンジ生地であって、前記スポンジ生地は、スポンジ生地重量に対して、小麦グルテンを1.0~4.0重量%、セルロース誘導体を0.3~1.5重量%含有することを特徴とするスポンジ生地が開示されており、該スポンジ生地のセルロース誘導体がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、該スポンジ生地を用いて作製された、小麦粉を含有し、卵および乳を含有しない焼成済スポンジ生地も開示されている。
【0009】
さらに別の検討として、小麦粉類に代えて、他の穀粉類や穀粉由来原料を用いたものが報告されている。
例えば、特許文献4には、卵、乳、小麦粉およびこれら由来の成分を含まず、米粉および米粉100質量部に対し30~180質量部の糖類、60~390質量部の豆乳、2~90質量部の起泡性油脂を含む生地を焼成して得られる焼き菓子が開示されている。
特許文献5には、5大アレルゲン物質およびこれらに由来する成分を含まず、粉末豆澱粉、粉末豆蛋白、糊料、乳化起泡剤、および糖類を主材料とすることを特徴とするケーキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2015/122424号
【特許文献2】特開2017-209025号公報
【特許文献3】特開2018-093754号公報
【特許文献4】特開2006-230348号公報
【特許文献5】特開2009-124979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従前より検討され開示されてきた卵類や乳類を用いないケーキ類には、以下のような問題があった。
特許文献1の卵代替物はゲル化するため、該卵代替物を用いたスポンジケーキは食感が重くて歯切れが悪く、ソフトな食感が得られないという問題があった。また、用いる卵類の全量を該卵代替物に置き換えた場合、この問題がさらに顕著となるため、卵類を不使用とすることは困難であった。
【0012】
特許文献2のスポンジ生地は、セルロース誘導体を含有するため、スポンジ生地が増粘しやすく、製造が困難になりやすいほか、得られる焼成済スポンジ生地も食感が重く、ボリュームが出にくいという問題があった。
【0013】
特許文献3のスポンジ生地は、セルロース誘導体に加えて、小麦グルテンも含有するため、焼成済スポンジ生地の骨格が強化され、焼成済スポンジ生地の焼き落ちは防ぐことができるがボリュームが得られにくく、食感も重いものになりやすいという問題があった。
【0014】
特許文献4の焼き菓子は、食感が重たくなりやすく、ソフトな食感やボリュームを得ることについては検討の余地があった。また、得られる焼菓子のつながりが悪く、崩壊しやすくなってしまうという問題があった。
【0015】
特許文献5のケーキは、穀粉類の代わりに、粉末豆澱粉と粉末豆蛋白とを用いたものであるが、豆澱粉はゲル化した際のゲル強度が強く、さらに糊料も添加しているため、ケーキの骨格が補強され、焼き落ちが抑制されて、ボリュームは大きくなるが、食感が重くなり、歯切れも悪くなりやすく、食感と歯切れの面で検討の余地があった。
【0016】
ところで、近年は、健康志向の高まりから、卵類および乳類に限らず、動物性原料を用いずに製造される食品に注目が集まっており、スポンジケーキをはじめとするケーキ類においても、動物性原料を用いないものが求められている。
しかし、動物性原料を用いないケーキ類は、ソフトな食感となりにくいという問題や、ボリュームが乏しくなりやすいという問題、歯切れが悪化しやすいという問題があった。そのため、動物性原料を用いずに、これらの問題を解決できるケーキ類が求められている。
【0017】
従って、本発明の課題は、以下の1)~3)を全て満たす、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類を得ることである。
1)ソフトな食感を有する
2)ボリュームがある
3)歯切れがよい
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、形態の異なる2種の油脂組成物と、特定の条件を満たす穀粉類とを用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、下記の構成を有するものである。
【0019】
(1)下記の油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を用いてなり、動物性原料を実質的に用いない、植物ベースのケーキ類。
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物
(2)さらに、低油分穀粉を含む、(1)に記載の植物ベースのケーキ類。
(3)さらに、膨潤抑制澱粉を用いてなる、(1)または(2)に記載の植物ベースのケーキ類。
(4)動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類の製造方法であって、
油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を含有するケーキ生地を得る工程と、
該ケーキ生地を加熱処理する工程とを有する、植物ベースのケーキ類の製造方法
(ただし、
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物である)。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の1)~3)を全て満たす、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類を提供することができる。
1)ソフトな食感を有する
2)ボリュームがある
3)歯切れがよい
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は、以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
【0022】
[植物ベースのケーキ類]
本発明の植物ベースのケーキ類は、下記の油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を用いてなり、動物性原料を実質的に用いないものである。
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物
【0023】
より詳細には、本発明の植物ベースのケーキ類は、上記油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を用いてなり、動物性原料を実質的に用いないケーキ生地を加熱処理して得られるものである。
【0024】
本発明の植物ベースのケーキ類としては、例えば、スポンジケーキ、パウンドケーキ、フルーツケーキ、カステラ、マドレーヌ、バウムクーヘン、フィナンシェ、マフィン等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、動物性原料を用いずとも、ソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好な植物ベースのケーキ類となるという、本発明の効果をより顕著に得られるという観点から、これらの植物ベースのケーキ類の中でも、スポンジケーキであることが好ましい。
【0026】
ここで、本発明における「動物性原料」とは、動物由来の食品素材を指し、例えば、鶏肉、豚肉、牛肉、馬肉、羊肉等の肉類、魚介類、鶏卵や魚卵等の卵類、牛乳、ヤギ乳、人乳等の動物由来の乳類や、豚脂、牛脂、乳脂等の動物油脂、動物由来の蛋白質、動物由来のペプチド、動物由来のエキス等の動物由来の成分、およびこれらの加工品が挙げられる。
【0027】
また、本発明における「動物性原料を実質的に用いない」とは、上記動物性原料の含有量が、本発明の植物ベースのケーキ類中1.0質量%以下であることを指し、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、動物性原料を用いないことがさらに好ましい。
【0028】
以下、順に、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる原材料について説明する。
<油脂組成物(A)>
まず、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる油脂組成物(A)(以下、単に「本発明の油脂組成物(A)」とも記載する。)について説明する。
ここで、本発明における「油脂組成物」とは、油脂と乳化剤とから選ばれる1種または2種以上を含む組成物を指す。
本発明の油脂組成物(A)は、乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする油脂組成物である。
本発明の油脂組成物(A)は、水中油型や水中油中水型の乳化形態をとることができ、本発明においては、水中油型の乳化形態をとることが好ましい。
【0029】
まず、本発明の油脂組成物(A)は、乳化剤を3~30質量%含有する必要がある。
本発明の油脂組成物(A)の乳化剤の含有量が3質量%未満であると、ソフトな食感の植物ベースのケーキ類を得ることができない。乳化剤の含有量が30質量%を超えると、加熱焼成時の膨化が小さくなってしまい、ボリュームのある植物ベースのケーキ類を得ることができない。
本発明の油脂組成物(A)の乳化剤の含有量は、5~25質量%であることが好ましく、7~20質量%であることがより好ましい。
【0030】
本発明の油脂組成物(A)に用いることのできる乳化剤としては、卵、牛脂、豚脂等の、動物性原料由来でない乳化剤であれば特に制限されず、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
本発明の油脂組成物(A)においては、よりソフトな食感を有し、ボリュームのある植物ベースのケーキ類となりやすいという観点から、乳化剤として、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましく、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる1種または2種以上を含むことがより好ましく、グリセリン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルを含むことがさらに好ましい。
【0032】
本発明の油脂組成物(A)が、乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルを含む場合、本発明の油脂組成物(A)中のグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、1.0~15.0質量%であることが好ましく、2.0~10.0質量%であることがより好ましく、3.0~7.5質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
また、本発明の油脂組成物(A)中のプロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量は、1.0~15.0質量%であることが好ましく、1.5~10.0質量%であることがより好ましく、2.0~7.5質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の油脂組成物(A)が、乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルを含む場合、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感で、ボリュームのあるものになりやすくなるという観点から、上記グリセリン脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルの好ましい含有量を満たしたうえで、本発明の油脂組成物(A)中のグリセリン脂肪酸エステルの含有量1質量部に対する、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が、0.2~5.0質量部であることが好ましく、0.3~2.0質量部であることがより好ましく、0.4~1.5質量部であることがさらに好ましい。
【0035】
また、本発明の油脂組成物(A)は、食用油脂を含有することが好ましい。
本発明の油脂組成物(A)が含有することのできる食用油脂としては、植物油脂であれば特に制限されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、米油、ごま油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂等の植物油脂、ならびにこれら植物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂(以下、「水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂」を、単に「加工油脂」とも記載する。)が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
上記水素添加、分別およびエステル交換の方法は、従前知られた方法により行うことができる。
分別については、溶剤分別であってもよく、ドライ分別であってもよい。
【0037】
エステル交換については、リパーゼ等の酵素触媒を用いてもよく、ナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いてもよく、本発明においては、ランダムエステル交換であることが好ましい。
以下、本発明における水素添加、分別およびエステル交換についても同様である。
【0038】
本発明の油脂組成物(A)においては、本発明の植物ベースのケーキ類がソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れが良いものになるという観点から、食用油脂として、20℃において液状である食用油脂の中から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0039】
20℃において液状である食用油脂としては、例えば、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、米油、ごま油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油等の液状油のほか、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂等の20℃において液状でない植物油脂の加工油脂のうち、20℃において液状であるものを挙げることができる。これらの中でも、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、米油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の油脂組成物(A)が、20℃において液状である食用油脂を含有する場合、その含有量は、本発明の油脂組成物(A)に用いられる食用油脂中50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の油脂組成物(A)は、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れのよいものになりやすくなるという観点から、油脂組成物の20℃における固体脂含量(以下、「油脂組成物の20℃における固体脂含量」を、単に「SFC-20℃」とも記載する。)が、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明の油脂組成物(A)のSFC-20℃の下限値は0%である。
【0042】
上記各温度における油脂組成物の固体脂含量の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、アステック株式会社製「SFC-2000R」を用いて、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)」に記載の方法で固体脂含量を測定することができる。なお、油脂組成物に水相が含まれている場合は、上記手法によって得られた固体脂含量の測定値を油相量に換算したものを、本発明における油脂組成物の固体脂含量とし、水相が含まれない場合は、上記手法で得られた固体脂含量の測定値をそのまま、本発明における油脂組成物の固体脂含量とする。
以下、本発明における、各温度での油脂組成物の固体脂含量の測定方法においても同様である。
【0043】
本発明の油脂組成物(A)の食用油脂の含有量は、5~50質量%であることが好ましく、8~40質量%であることがより好ましく、10~35質量%であることがさらに好ましい。
なお、上記食用油脂の含有量は、食用油脂と、後述の本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料に含まれる食用油脂分も合計した値である。
【0044】
また、本発明の油脂組成物(A)は、水分を含有する。
本発明の油脂組成物(A)が含有する水分としては、例えば、水道水やミネラルウォーター等の水や、後述する本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料に含まれる水分が挙げられる。
本発明の油脂組成物(A)の水分含有量は、20~75質量%であることが好ましく、22~60質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることがさらに好ましい。
上記本発明の油脂組成物(A)の水分含有量の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、カールフィッシャー法等を挙げることができる。
以下、本発明における水分含有量の測定方法においても同様である。
【0045】
本発明の油脂組成物(A)は、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、歯切れが良好になるという観点から、糖類を含有することが好ましい。
【0046】
本発明の油脂組成物(A)が含有する糖類は特に制限されず、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、含蜜糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、きび砂糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、多糖や、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等の糖アルコールが挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
本発明の油脂組成物(A)が糖類を含有する場合、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、歯切れが良くなるという観点から、これら糖類の中でも糖アルコールから選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましく、糖アルコールの中でも、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトールから選ばれる1種または2種以上を用いることがより好ましく、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトールから選ばれる1種または2種以上を用いることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の油脂組成物(A)の糖類の含有量は、固形分として15~50質量%であることが好ましく、20~45質量%であることがより好ましく、25~40質量%であることがさらに好ましい。
なお、本発明における固形分とは、水分以外の成分のことを指す。
【0048】
本発明の油脂組成物(A)は、必要に応じて、上記乳化剤、食用油脂、水、糖類以外のその他の原材料を含有してもよい。
本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料としては、動物性原料を実質的に含有していなければ特に制限されず、例えば、高甘味度甘味料、デキストリン、蛋白質類、増粘安定剤、酵素類、着色料、酸化防止剤、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酒類、野菜類、果実や果汁、植物乳およびその加工品、カカオおよびカカオ製品、コーヒーおよびコーヒー製品等の呈味成分、調味料、香辛料、香料、その他食品原料、食品添加物等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0049】
上記高甘味度甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。
上記増粘安定剤としては、例えば、寒天、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、ジェランガム、タラガントガム、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等が挙げられる。
上記植物乳としては、例えば、豆乳、アーモンドミルク、ココナッツミルク、オーツミルク、ライスミルク、ヘンプミルク等が挙げられる。
【0050】
本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料の含有量は、固形分として、本発明の油脂組成物(A)中25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料の含有量の下限値は0質量%である。
【0051】
<<油脂組成物(A)の製造方法>>
本発明の油脂組成物(A)の製造方法は、水中油型乳化物や水中油中水型乳化物等の水相を連続相とする油脂組成物の従前知られた製造方法を用いることができる。以下に、本発明の油脂組成物(A)の好ましい一様態である、水中油型の乳化油脂組成物の製造方法を示す。
【0052】
まず、加熱融解させた食用油脂に、必要に応じて、本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料のうち、油溶性のものを添加し、混合して油相を得る。なお、本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料のうち、水溶性のものを、油相中に分散させても構わない。
【0053】
次に、水に、必要に応じて、本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料のうち、水溶性のものを添加し、混合して水相を得る。なお、本発明の油脂組成物(A)のその他の原材料のうち、油溶性のものを、水相中に分散させても構わない。
得られた水相に油相を投入して混合し、水中油型に乳化することにより、水中油型の乳化油脂組成物が得られる。
【0054】
上記乳化は、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の装置により行ってもよい。また、必要により、加熱滅菌処理もしくは加熱殺菌処理を施してもよく、急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施してもよい。
なお、本発明における徐冷却とは、-5℃/分未満の冷却速度での冷却を指し、急速冷却とは、-5℃/分以上の冷却速度での冷却を指す。
【0055】
<<油脂組成物(A)の含有量>>
本発明の植物ベースのケーキ類中の、本発明の油脂組成物(A)の含有量は、任意の量とすることができるが、本発明の植物ベースのケーキ類がソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものとなるという観点から、対粉5~30質量部であることが好ましく、対粉10~25質量部であることがより好ましい。
なお、本発明における「対粉」とは、本発明の植物ベースのケーキ類の製造に用いられる、後述の穀粉類の量と、後述の膨潤抑制澱粉を含めた澱粉類の量との合算値100質量部に対する含有量を指す。
【0056】
本発明の植物ベースのケーキ類は、本発明の油脂組成物(A)を用いることで、動物性原料を実質的に用いていなくとも、本発明の植物ベースのケーキ類を得るためのケーキ生地が好ましく膨化でき、さらに、重い食感になることなく、焼き落ちも抑制されるため、ソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好な植物ベースのケーキ類となる。
【0057】
<油脂組成物(B)>
次に、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる油脂組成物(B)(以下、単に「本発明の油脂組成物(B)」とも記載する。)について説明する。
【0058】
本発明の油脂組成物(B)は、SFC-20℃が10~50℃である、油相を連続相とする油脂組成物である。
本発明の油脂組成物(B)は、ショートニング等の水相を含まない油脂組成物の形態や、油中水型・油中水中油型・油中油型の乳化油脂組成物の形態等をとることができる。
本発明においては、本発明の油脂組成物(B)は、水相を含まない油脂組成物または油中水型の乳化油脂組成物であることが好ましく、油中水型の乳化油脂組成物であることがより好ましい。
【0059】
本発明の油脂組成物(B)は、SFC-20℃が10~50%である必要がある。
本発明の油脂組成物(B)のSFC-20℃が10%未満であると、本発明の植物ベースのケーキ類が崩壊しやすくなり、ソフトな食感を得ることができなくなってしまう。SFC-20℃が50%を超えると、ボリュームが小さく、目が詰まった、歯切れの悪い焼菓子になってしまう。
【0060】
本発明の油脂組成物(B)のSFC-20℃は、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れが良好なものとなるという観点から、12~40%であることが好ましく、14~35%であることがより好ましく、16~30%であることがさらに好ましい。
【0061】
また、本発明の油脂組成物(B)は、本発明の植物ベースのケーキ類がよりボリュームのあるものとなり、歯切れが良好なものとなるという観点から、油脂組成物の10℃における固体脂含量(以下、「油脂組成物の10℃における固体脂含量」を、単に「SFC-10℃」とも記載する。)が、20~60%であることが好ましく、22~50%であることがより好ましく、25~40%であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明の油脂組成物(B)に用いられる食用油脂としては、例えば、植物油脂、ならびに植物油脂の加工油脂が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
本発明の植物ベースのケーキ類をよりソフトな食感とする観点から、本発明の油脂組成物(B)は、パーム分別軟部油のエステル交換油脂を含有することが好ましい。
【0063】
パーム分別軟部油のエステル交換油脂を得るためのエステル交換は、位置特異的エステル交換でもよく、ランダムエステル交換でもよいが、エステル交換油脂中のトリグリセリド組成を複雑にし、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感になりやすくなるという観点から、ランダムエステル交換であることが好ましい。
【0064】
本発明におけるパーム分別軟部油としては、例えば、パーム油を分別して得られる低融点部であるパームオレインや、パームオレインをさらに分別して得られる低融点部であるパームスーパーオレインが挙げられる。
本発明の油脂組成物(B)に好ましく用いられるパーム分別軟部油のエステル交換油脂は、1種または2種以上のパーム分別軟部油のみからなる油脂配合物をエステル交換することによって、製造することができる。
【0065】
本発明の油脂組成物(B)に好ましく用いられる分別軟部油のエステル交換油脂は、ヨウ素価が52~70であることが好ましく、52~65であることがより好ましく、52~60であることがさらに好ましい。
上記パーム分別軟部油のエステル交換油脂のヨウ素価の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.4.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。
【0066】
本発明の油脂組成物(B)は、パーム分別軟部油のエステル交換油脂を、本発明の油脂組成物(B)に用いられる食用油脂中10~50質量%含有することが好ましく、12~45質量%含有することがより好ましく、15~40質量%含有することがさらに好ましい。
本発明の油脂組成物(B)の食用油脂の含有量は、70~100質量%であることが好ましく、75~95質量%であることがより好ましい。
なお、上記食用油脂の含有量は、食用油脂と、後述の本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料に含まれる食用油脂分も合計した値である。
【0067】
なお、本発明の油脂組成物(B)は、水分を含有することが好ましい。
本発明の油脂組成物(B)の水分としては、例えば、水や、後述の本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料に含まれる水分が挙げられる。
本発明の油脂組成物(B)の水分の含有量は、5~30質量%であることが好ましく、8~25質量%であることがより好ましい。
【0068】
本発明の油脂組成物(B)は、必要に応じて、上記食用油脂、水以外のその他の原材料を含有してもよい。
本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料としては、動物性原料を実質的に含有していなければ特に制限されず、例えば、糖類、高甘味度甘味料、デキストリン、蛋白質類、乳化剤、増粘安定剤、酵素類、着色料、酸化防止剤、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酒類、野菜類、果実や果汁、植物乳およびその加工品、カカオおよびカカオ製品、コーヒーおよびコーヒー製品等の呈味成分、調味料、香辛料、香料、その他食品原料、食品添加物等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0069】
本発明の油脂組成物(B)が乳化剤を含有する場合、その含有量は、本発明の油脂組成物(B)中0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~2.0質量%であることがより好ましい。
本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料の含有量は、固形分として、本発明の油脂組成物(B)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料の含有量の下限値は0質量%である。
【0070】
<<本発明の油脂組成物(B)の製造方法>>
本発明の油脂組成物(B)の製造方法は、ショートニングや、油中水型・油中水中油型・油中油型の乳化油脂組成物等の、従前知られた製造方法を用いることができる。以下に、本発明の油脂組成物(B)の好ましい一様態である、油中水型の乳化油脂組成物の製造方法を示す。
【0071】
まず、加熱融解させた食用油脂に、必要に応じて、本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料のうち、油溶性のものを添加し、混合して油相を得る。なお、本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料のうち、水溶性のものを、油相中に分散させても構わない。
【0072】
次に、水に、必要に応じて、本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料のうち、水溶性のものを添加し、混合して水相を得る。なお、本発明の油脂組成物(B)のその他の原材料のうち、油溶性のものを、水相中に分散させても構わない。
【0073】
得られた油相に水相を投入して混合し、油中水型に乳化することにより、油中水型の予備乳化物を得る。得られた油中水型の予備乳化物は、均質化装置により、圧力0~100MPaの範囲で均質化することが好ましい。また、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌処理もしくは加熱殺菌処理を施しても良く、あるいは直火等の加熱調理により加熱してもよい。また、加熱滅菌処理もしくは加熱殺菌処理、あるいは加熱後に必要に応じて再度均質化してもよく、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行ってもよい。
その後、油中水型の予備乳化物を冷却、好ましくは急冷可塑化することによって、油中水型の乳化油脂組成物が得られる。
【0074】
冷却は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機や、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせ等により行うことができる。
可塑化は、例えば、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等で捏和することにより行うことができる。
本発明に油脂組成物(B)は、窒素や酸素、空気等の気体を含気していてもよい。また、可塑性を有していてもよく、可塑性を有していなくてもよい。
【0075】
<<油脂組成物(B)の含有量>>
本発明の植物ベースのケーキ類中の、本発明の油脂組成物(B)の含有量は、任意の量とすることができるが、本発明の植物ベースのケーキ類がソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものとなるという観点から、対粉5~30質量部であることが好ましく、対粉7~25質量部であることがより好ましい。
【0076】
また、本発明の植物ベースのケーキ類が崩壊しにくくなり、より食感がソフトで、歯切れも良好なものとなるという観点から、本発明の植物ベースのケーキ類中の、本発明の油脂組成物(A)の含有量1質量部に対する、本発明の油脂組成物(B)の含有量は、0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましい。
【0077】
本発明の植物ベースのケーキ類は、本発明の油脂組成物(B)を用いることで、本発明の植物ベースのケーキ類中に適度な油脂結晶が生じ、植物ベースのケーキ類の骨格が強化されるため、焼き落ちが抑制され、ソフトな食感と大きなボリューム、良好な歯切れを得ることができる。
【0078】
<その他の食用油脂または油脂組成物>
本発明の植物ベースのケーキ類は、上記本発明の油脂組成物(A)および本発明の油脂組成物(B)に加えて、これら以外のその他の食用油脂または油脂組成物を含有してもよい。
【0079】
その他の食用油脂または油脂組成物としては、例えば、植物油脂やその加工油脂、乳化剤の含有量が3質量%未満あるいは30質量%超である、水相を連続相とする乳化油脂組成物や、SFC-20℃が10%未満あるいは50%超である、油相を連続相とする油脂組成物等を挙げることができる。
本発明の植物ベースのケーキ類中の、その他の食用油脂または油脂組成物の含有量は、対粉5質量部以下であることが好ましく、対粉3質量部以下であることがより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0080】
<高油分穀粉>
次に、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる高油分穀粉について説明する。
本発明における「高油分穀粉」とは、穀粉類のうち、固形分中の油分含有量が10質量%以上である穀粉類を指す。
本発明の植物ベースのケーキ類は、上述の油脂組成物(A)、油脂組成物(B)とともに、高油分穀粉を含有することで、動物性原料を実質的に用いなくとも、本発明のケーキ類が崩壊することなく、歯切れが良好なものとなる。また、ケーキ生地の製造時において、高油分穀粉を混合した際に気泡が潰れることが抑制されるため、ケーキ生地が膨化しやすくなり、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、ボリュームのあるものになる。
【0081】
本発明における「穀粉類」とは、穀物を製粉したものを指し、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、小麦ふすま、小麦胚芽、全粒粉等の小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、米粉、玄米粉、そば粉、雑穀粉、ハトムギ粉等の穀類を製粉したもの、全脂大豆粉や脱脂大豆粉等の大豆粉、ヒヨコマメ粉、エンドウマメ粉、緑豆粉、そら豆粉、レンズ豆粉等の豆類を製粉したもの、ココナッツパウダー、アーモンドパウダー、ピーナッツパウダー、ピスタチオパウダー、ヘーゼルナッツパウダー、カシューナッツパウダー、松実粉等の種実類を製粉したもの等を挙げることができる。
本発明の焼菓子は、これら穀粉類の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0082】
本発明に用いられる高油分穀粉としては、上記穀粉類のうち、固形分中の油分含有量が10質量%以上である穀粉類であれば特に制限されないが、例えば、全脂大豆粉等の固形分中の油分含有量が10質量%以上である大豆粉や、ココナッツパウダー、アーモンドパウダー、ピーナッツパウダー、ピスタチオパウダー、ヘーゼルナッツパウダー、カシューナッツパウダー等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0083】
これら高油分穀粉の中でも、本発明の植物ベースのケーキ類が、よりボリュームがあって、歯切れの良いものとなるという観点から、高油分穀粉として、全脂大豆粉、アーモンドパウダーから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、全脂大豆粉を用いることがさらに好ましい。
さらに、全脂大豆粉を用いる場合は、本発明の植物ベースのケーキ類の風味が良好なものとなるという観点から、脱臭全脂大豆粉を用いることが好ましい。
【0084】
なお、脱臭全脂大豆粉を得るための脱臭の方法は特に制限されず、従前知られた方法を用いることができ、例えば、焙煎、熱風による加熱、蒸し加熱、水蒸気加熱等の加熱による脱臭が挙げられる。また、加熱による脱臭における加熱条件は、加熱の方法によっても異なるが、脱臭が問題なく行える条件であれば特に制限されず、任意に設定してもよい。例えば、水蒸気加熱による脱臭の場合、好ましくは100~220℃で2秒~40分加熱する条件を挙げることができる。
【0085】
本発明の植物ベースのケーキ類が、よりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れが良好になるという観点から、高油分穀粉の固形分中の油分含有量は、12~85質量%であることが好ましく、15~80質量%であることがより好ましく、20~70質量%であることがさらに好ましい。
上記高油分穀粉の油分含有量の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、エーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、酸分解法等を挙げることができる。
以下、後述の低油分穀粉の油分含有量の測定方法においても同様である。
【0086】
本発明の植物ベースのケーキ類が、よりソフトな食感を有し、ボリュームが大きくなるという観点から、本発明に用いられる高油分穀粉の固形分中の蛋白質含有量は、10~85質量%であることが好ましく、15~75質量%であることがより好ましく、20~65質量%であることがさらに好ましい。
上記高油分穀粉の蛋白質含有量の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、ケルダール法や燃焼法等が挙げられる。
以下、後述の低油分穀粉の蛋白質含有量の測定方法においても同様である。
【0087】
また、本発明の効果がより好ましく得られるという観点から、本発明に用いられる高油分穀粉の固形分中の炭水化物含有量は、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
上記高油分穀粉の炭水化物含有量の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができる。例えば、高油分穀粉の重量から、別途測定した蛋白質、油分、灰分および水分の合計量を減じて、高油分穀粉の炭水化物量を求め、求められた高油分穀粉の炭水化物量を、高油分穀粉の固形分量で除する方法が挙げられる。
【0088】
なお、本発明における灰分含有量の測定方法は、従前知られた方法を用いることができ、例えば、酢酸マグネシウム添加灰化法や直接灰化法等を挙げることができる。
以下、後述の低油分穀粉の炭水化物含有量および灰分含有量の測定方法においても同様である。
本発明に用いられる高油分穀粉の水分含有量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。なお、高油分穀粉の水分含有量の下限値は0質量%である。
【0089】
本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものになりやすくなるという観点から、本発明に用いられる高油分穀粉は、澱粉粒の平均粒径が10μm以下であることが好ましい。
高油分穀粉中の澱粉粒の平均粒径の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、高油分穀粉を水に分散させ、ここにヨウ素水溶液を添加して澱粉粒を着色したものを、スライドガラスに滴下してカバーガラスを被せ、これを光学顕微鏡で観察し、好ましくは100個の澱粉粒の粒径を測定し、その平均値を算出することで測定することができる。なお、澱粉粒の粒径とは、澱粉粒の形状が球体であればその直径を指し、球体でない場合はその長径と短径の平均値を指すものとする。
なお、後述の低油分穀粉中の澱粉粒の平均粒径の測定方法においても同様である。
【0090】
穀粉類中の澱粉粒の平均粒径は、同一の穀粉種であっても、製粉の方法や条件によっても異なるが、澱粉粒の平均粒径が10μm以下である高油分穀粉としては、例えば、全脂大豆粉を挙げることができる。
本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる高油分穀粉の含有量は、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる穀粉類中5~70質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがより好ましく、5~40質量%であることがさらに好ましい。
【0091】
<<低油分穀粉>>
本発明の植物ベースのケーキ類は、動物性原料を実質的に用いていなくとも、よりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れのよいものとなるという観点から、上記本発明の油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉に加え、低油分穀粉を含むことが好ましい。
【0092】
本発明における「低油分穀粉」とは、穀粉類のうち、固形分中の油分含有量が10質量%未満であるものを指す。なお、固形分中の油分含有量の下限値は0質量%である。
本発明に用いられる低油分穀粉としては、上記穀粉類のうち、固形分中の油分含有量が10質量%未満であれば特に制限されないが、例えば、脱脂大豆粉等の固形分中の油分含有量が10質量%未満である大豆粉や、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、米粉、玄米粉、そば粉、雑穀粉、ハトムギ粉、ヒヨコマメ粉、エンドウマメ粉、緑豆粉、そら豆粉、レンズ豆粉、松実粉等が挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0093】
本発明の植物ベースのケーキ類が、よりソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものとなるという観点から、低油分穀粉として、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、米粉、玄米粉、脱脂大豆粉、ヒヨコマメ粉、エンドウマメ粉、緑豆粉、そら豆粉、レンズ豆粉から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、小麦粉、トウモロコシ粉、米粉、玄米粉から選ばれる1種または2種以上を用いることがより好ましく、小麦粉、米粉から選ばれる1種または2種以上を用いることがさらに好ましい。
【0094】
本発明の植物ベースのケーキ類が、よりソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものとなるという観点から、低油分穀粉の固形分中の油分含有量は、8質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。また、低油分穀粉の固形分中の油分含有量の下限値は0質量%以上であれば特に制限されないが、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。
【0095】
本発明の植物ベースのケーキ類が焼き落ちすることを防ぎ、よりソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものとなるという観点から、低油分穀粉の固形分中の蛋白質含有量は、0.1~30.0質量%であることが好ましく、0.5~20.0質量%であることがより好ましく、1.0~15.0質量%であることがさらに好ましい。
【0096】
また、本発明の植物ベースのケーキ類が、よりソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好なものになりやすくなるという観点から、低油分穀粉の固形分中の炭水化物含有量は、65~95質量%であることが好ましく、75~95質量%であることがより好ましく、80~95質量%であることがさらに好ましい。
本発明に用いられる低油分穀粉の水分含有量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。なお、低油分穀粉の水分含有量の下限値は0質量%である。
【0097】
本発明に用いられる低油分穀粉は、澱粉粒の平均粒径が10μm以下であることが好ましい。
低油分穀粉の澱粉粒の平均粒径が10μm以下であると、ケーキ生地を焼成して低油分穀粉中の澱粉が糊化した際に過度に粘度が出ることを防ぎ、ケーキ生地が好ましく膨化しやすくなるため、ソフトな食感を有し、ボリュームがあって、良好な歯切れを有した植物ベースのケーキ類が得られやすくなる。
穀粉類中の澱粉粒の平均粒径は、同一の穀粉種であっても、製粉の方法や条件によっても異なるが、澱粉粒の平均粒径が10μm以下である低油分穀粉としては、例えば、小麦粉、トウモロコシ粉、米粉、玄米粉、脱脂大豆粉等を挙げることができる。
【0098】
本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる低油分穀粉の含有量は、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる穀粉類中30~95質量%であることが好ましく、40~95質量%であることがより好ましく、45~95質量%であることがさらに好ましい。
【0099】
本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れも良好なものとなるという観点から、上述の高油分穀粉の好ましい含有量および上述の低油分穀粉の好ましい含有量を満たしたうえで、本発明の植物ベースのケーキ類中の高油分穀粉の含有量1質量部に対する低油分穀粉の含有量が、1.0~8.0質量部であることが好ましく、1.2~5.0質量部であることがより好ましく、1.5~4.0質量部であることがさらに好ましい。
【0100】
<膨潤抑制澱粉>
本発明の植物ベースのケーキ類は、上記本発明の油脂組成物(A)、本発明の油脂組成物(B)、および高油分穀粉に加えて、さらに膨潤抑制澱粉を用いてなることが好ましく、上記本発明の油脂組成物(A)、本発明の油脂組成物(B)、高油分穀粉、および低油分穀粉に加えて、さらに膨潤抑制澱粉を用いてなることがより好ましい。
本発明の植物ベースのケーキ類に膨潤抑制澱粉を用いると、ケーキ生地を加熱処理した際に、ケーキ生地中の澱粉の糊化が適度なものとなるため、動物性原料を実質的に含有していなくとも、よりソフトな食感で、ボリュームがあり、歯切れのよい植物ベースのケーキ類を得ることができるため好ましい。
【0101】
本発明における「膨潤抑制澱粉」とは、澱粉類のうち、加熱した際に生じる膨潤が抑制されたものを指し、例えば、ハイアミロース澱粉や、澱粉ミセルが強化された加工澱粉が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
上記ハイアミロース澱粉とは、アミロース含量が好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%、さらに好ましくは60質量%以上の未加工の澱粉である。
上記澱粉ミセルが強化された加工澱粉とは、原料澱粉に、例えば、リン酸架橋処理やアジピン酸架橋処理等の架橋処理、乳化剤処理、湿熱処理から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工澱粉である。
【0102】
また、上記澱粉ミセルが強化された加工澱粉は、架橋処理、乳化剤処理、湿熱処理から選ばれる1種または2種以上の処理が施されていれば、これら以外の処理、例えば、老化処理、漂白処理、糊化処理、エステル化処理、エーテル化処理、アセチル化処理、グラフト化処理、酵素処理等から選ばれる1種または2種以上の処理が施されていてもよい。
【0103】
本発明においては、膨潤抑制澱粉として、澱粉ミセルが強化された加工澱粉を用いることが好ましく、澱粉ミセルが強化された加工澱粉の中でも、架橋処理を施した加工澱粉を用いることがより好ましく、その中でもリン酸架橋処理を施した加工澱粉を用いることがさらに好ましい。
本発明に用いられる膨潤抑制澱粉の原料澱粉は特に制限されず、例えば、小麦由来澱粉、コーン由来澱粉、ワキシーコーン由来澱粉、甘藷由来澱粉、馬鈴薯由来澱粉、タピオカ由来澱粉、サゴ由来澱粉、米由来澱粉等が挙げられる。なお、本発明においては、異なる原料澱粉から製造された2種以上の膨潤抑制澱粉を組み合わせて用いることもできる。
【0104】
<膨潤抑制澱粉以外の澱粉類>
本発明の植物ベースのケーキ類は、膨潤抑制澱粉以外の澱粉類(以下、「膨潤抑制澱粉以外の澱粉類」を、単に「その他の澱粉類」とも記載する。)を含有してもよい。
その他の澱粉類としては、例えば、アミロース含量が30質量%未満である未加工の澱粉や、原料澱粉に、老化処理、漂白処理、糊化処理、エステル化処理、エーテル化処理、アセチル化処理、グラフト化処理、酵素処理等から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工澱粉が挙げられ、本発明の植物ベースのケーキ類においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0105】
本発明に用いられるその他の澱粉類の原料澱粉は特に制限されず、小麦由来澱粉、コーン由来澱粉、ワキシーコーン由来澱粉、甘藷由来澱粉、馬鈴薯由来澱粉、タピオカ由来澱粉、サゴ由来澱粉、米由来澱粉等が挙げられる。なお、本発明においては、異なる原料種から製造された2種以上のその他の澱粉類を組み合わせて用いることもできる。
【0106】
<<穀粉類、膨潤抑制澱粉、その他の澱粉類の含有量>>
本発明の植物ベースのケーキ類においては、高油分穀粉を含有していれば、高油分穀粉と低油分穀粉(以下、単に「穀粉類」と記載する。)、膨潤抑制澱粉、およびその他の澱粉類の割合を任意に設定してもよい。
本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れがよくなるという観点から、本発明の植物ベースのケーキ類の製造に用いられる穀粉類の量と、膨潤抑制澱粉を含めた澱粉類の量との合算値中の穀粉類の割合は、60~100質量%であることが好ましく、70~98質量%であることがより好ましく、80~95質量%であることがさらに好ましい。
【0107】
本発明の植物ベースのケーキ類の製造に用いられる穀粉類の量と、膨潤抑制澱粉を含めた澱粉類の量との合算値中の膨潤抑制澱粉の割合は、0~40質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。
本発明の植物ベースのケーキ類の製造に用いられる穀粉類の量と、膨潤抑制澱粉を含めた澱粉類の量との合算値中のその他の澱粉類の割合は、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。なお、その他の澱粉類の割合の下限値は0質量%である。
【0108】
また、本発明の植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感となり、ボリュームがあって、歯切れも良好になるという観点から、本発明の植物ベースのケーキ類の製造に用いられる穀粉類の量1質量部に対する、本発明の植物ベースのケーキ類の製造に用いられる膨潤抑制澱粉の量は、0.05~0.6質量部であることが好ましく、0.07~0.5質量部であることがより好ましく、0.1~0.4質量部であることがさらに好ましい。
【0109】
<糖類>
本発明の植物ベースのケーキ類は、糖類を含有することが好ましい。
本発明に用いられる糖類としては、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、含蜜糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、きび砂糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、多糖や、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等の糖アルコールが挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0110】
本発明の植物ベースのケーキ類が糖類を含有する場合、その含有量は、固形分として対粉50~150質量部であることが好ましく、対粉55~120質量部であることがより好ましい。
なお、上記本発明の植物ベースのケーキ類の糖類含有量は、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる糖類に加えて、上記本発明の油脂組成物(A)および本発明の油脂組成物(B)に含まれる糖類も合計した値である。
【0111】
<本発明の植物ベースのケーキ類のその他の原材料>
本発明の植物ベースのケーキ類は必要に応じて、上記本発明の油脂組成物(A)、本発明の油脂組成物(B)、その他の油脂または油脂組成物、高油分穀粉、低油分穀粉、膨潤抑制澱粉を含む澱粉類、および糖類に加えて、これら以外の本発明の植物ベースのケーキ類のその他の原材料を含有してもよい。
【0112】
本発明の植物ベースのケーキ類のその他の原材料は、一般的にケーキ類に用いられる原材料のうち、動物性原料を実質的に含有していなければ特に制限されず、例えば、水、乳化剤、高甘味度甘味料、蛋白質類、増粘安定剤、ベーキングパウダー、酵素類、着色料、酸化防止剤、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、デキストリン、植物乳およびその加工品、酒類、野菜類、果実や果汁、植物乳およびその加工品、カカオおよびカカオ製品、コーヒーおよびコーヒー製品等の呈味成分、調味料、香辛料、香料、その他食品原料、食品添加物等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0113】
本発明の植物ベースのケーキ類においては、ケーキ生地が起泡しやすくなるため、ソフトな食感を有し、ボリュームのある植物ベースのケーキ類が得られやすくなるという観点から、増粘安定剤を含有することが好ましく、増粘安定剤の中でも、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナンから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0114】
本発明の植物ベースのケーキ類が増粘安定剤を含有する場合、その含有量は、対粉0.1~5.0質量部であることが好ましく、対粉0.5~4.0質量部であることがより好ましい。なお、上記本発明の植物ベースのケーキ類の増粘安定剤の含有量は、本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる増粘安定剤に加えて、上記本発明の油脂組成物(A)および本発明の油脂組成物(B)に含まれる増粘安定剤も合計した値である。
【0115】
本発明の植物ベースのケーキ類においては、ケーキ生地の乳化力が高まり、よりソフトな食感を有し、ボリュームのある植物ベースのケーキ類が得られやすくなるという観点から、蛋白質類を含有することが好ましい。
【0116】
本発明の植物ベースのケーキ類に用いられる蛋白質類としては、蛋白質含有量50質量%以上、好ましくは60~100質量%、より好ましくは65~95質量%の食品素材であって、動物由来の蛋白質類でなければ特に制限されず、例えば、大豆、ヒヨコマメ、エンドウマメ、緑豆、そら豆、レンズ豆等の豆類由来、小麦由来、米由来等の植物由来の蛋白質類が挙げられる。
【0117】
本発明においては、よりボリュームのある植物ベースのケーキ類が得られやすくなるという観点から、上記蛋白質類の中でも、豆類由来の蛋白質類を含有することが好ましく、大豆由来の蛋白質類を含有することがより好ましい。
本発明の植物ベースのケーキ類が蛋白質類を含有する場合、その含有量は、対粉0.1~20.0質量部であることが好ましく、対粉0.3~15.0質量部であることがより好ましい。
【0118】
本発明の植物ベースのケーキ類のその他の原材料の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、固形分として対粉200質量部以下であることが好ましく、対粉150質量部以下であることがより好ましい。なお、本発明の植物ベースのケーキ類のその他の原材料の含有量の下限値は0質量部である。
【0119】
[植物ベースのケーキ類の製造方法]
本発明の植物ベースのケーキ類の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも記載する。)は、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類の製造方法であって、
油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を含有するケーキ生地を得る工程と、
該ケーキ生地を加熱処理する工程とを有する、植物ベースのケーキ類の製造方法である。
ただし、
油脂組成物(A):乳化剤の含有量が3~30質量%である、水相を連続相とする乳化油脂組成物
油脂組成物(B):油脂組成物の20℃における固体脂含量が10~50%である、油相を連続相とする油脂組成物
である。
【0120】
以下に、本発明の製造方法の好ましい一様態を示す。
まず、油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を含有するケーキ生地を得る工程(以下、単に「ケーキ生地製造工程」とも記載する。)を行う。
なお、油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉の詳細は、上述の本発明の油脂組成物(A)、本発明の油脂組成物(B)、および高油分穀粉の通りである。
【0121】
ケーキ生地製造工程における、油脂組成物(A)、油脂組成物(B)、および高油分穀粉を含有するケーキ生地を得る方法は特に制限されないが、例えば、まず、本発明の油脂組成物(A)、好ましくは、本発明の油脂組成物(A)、糖類、増粘安定剤、および蛋白質類と、必要に応じて本発明の植物ベースのケーキ類のその他の原材料とを混合し、好ましくは起泡させる。なお、起泡させる方法は特に制限されず、一般的な方法を用いることができ、例えば、ホイッパー、ミキサー、泡だて器等を用いてホイップする方法が挙げられる。この時、本発明の製造方法により得られる植物ベースのケーキ類がよりソフトな食感で、ボリュームのあるものになりやすいという観点から、比重が好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.4以下となるまで起泡させる。なお、比重の下限値は、可能な数値範囲内であれば特に制限されないが、好ましくは0.2である。
【0122】
続いて、ここに高油分穀粉、好ましくは、高油分穀粉と、低油分穀粉または膨潤抑制澱粉、より好ましくは、高油分穀粉、低油分穀粉、膨潤抑制澱粉、必要に応じてその他の澱粉類を加えて混合し、混合物を得る(以下、ケーキ生地製造工程で得られた混合物を、単に「混合物」とも記載する。)。次に、混合物に本発明の油脂組成物(B)を加えて混合することで、ケーキ生地を得ることができる。
【0123】
混合物に本発明の油脂組成物(B)を加えて混合する際は、あらかじめ湯煎等で本発明の油脂組成物(B)を溶解させた状態で加えて混合することが好ましい。
また、ケーキ生地製造工程によって得られるケーキ生地は、比重が0.3~0.8であることが好ましく、0.4~0.7であることがより好ましい。
【0124】
本発明の製造方法においては、ケーキ生地製造工程によりケーキ生地を得ることで、好ましくは、本発明の油脂組成物(A)を含む植物ベースのケーキ類の原材料に、高油分穀粉を加えて混合して得られた混合物に、本発明の油脂組成物(B)を加えて混合してケーキ生地を得ることで、動物性原料である卵類を用いていなくとも、ケーキ生地中の気泡を潰すことなく、適度に油分を含有させることができ、得られるケーキ生地が好ましく膨化できるようになる。加えて、得られる植物ベースのケーキ類中に適度な油脂結晶が生じ、骨格が強化されるため、焼き落ちが抑制されて、ソフトな食感を有し、ボリュームが大きく、良好な歯切れを有した植物ベースのケーキ類を得ることができる。
【0125】
次に、ケーキ生地製造工程で得られたケーキ生地を加熱処理する工程(以下、単に「加熱処理工程」とも記載する。)を行うことで、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類を得ることができる。
なお、本発明の製造方法によって得られる、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのケーキ類の詳細は、上述の本発明の植物ベースのケーキ類の通りである。
【0126】
加熱処理工程における、加熱処理の方法は特に制限されず、一般的なケーキ類の加熱処理に用いられる方法を用いてよく、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼き等が挙げられる。
また、加熱処理の温度や時間といった加熱条件についても特に制限されず、一般的なケーキ類の加熱処理の加熱条件を採用することができ、例えば、加熱処理の温度は120~250℃であることが好ましく、150~220℃であることがより好ましい。
【0127】
得られた本発明の植物ベースのケーキ類は、生クリーム、コンパウンドクリーム、カスタードクリーム、バタークリーム、フラワーペースト、ジャム、チョコレート、果物、野菜、豆類、ナッツ類、あんこ等の食品素材を、トッピングしたり、サンドしたりしてもよい。なお、トッピングやサンドするために用いる食品素材は、動物性原料を含有していてもよいが、実質的に含有しないことが好ましい。
得られた本発明の植物ベースのケーキ類は、任意の形にカットしてもよい。
【0128】
また、得られた本発明の植物ベースのケーキ類は、任意の温度で保管してもよいが、保管する場合は好ましくは25℃以下で保管することが好ましい。また、保管した後に、再度加熱処理を行ってもよい。
【実施例0129】
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により、何ら制限されるものではない。
本発明の実施例で用いる、本発明の油脂組成物(A)、本発明の油脂組成物(B)、その他の油脂、穀粉類、および膨潤抑制澱粉を含む澱粉類の詳細は以下の通りである。
【0130】
-本発明の油脂組成物(A)-
水中油型乳化組成物:トルテ(株式会社ADEKA製)を用いた。
乳化剤の含有量は13質量%であった。
油脂組成物:ジェノワーズ(株式会社ADEKA製)を用いた。
乳化剤の含有量は26質量%であった。
【0131】
-本発明の油脂組成物(B)-
油中水型乳化油脂組成物:デリプランツマーガリン(株式会社ADEKA製)を用いた。
SFC-20℃は18.8%であり、SFC-10℃は32.3%であった。
ショートニング:チェスター2000(株式会社ADEKA製)を用いた。
SFC-20℃は30.9%であり、SFC-10℃は43.5%であった。
【0132】
-その他の食用油脂-
菜種油:油相のSFC-20℃は0%、SFC-10℃は0%であった。
-穀粉類-
全脂大豆粉:水分含有量が4.0質量%、油分含有量(固形分中)が26.8質量%、蛋白質含有量(固形分中)が38.2質量%、炭水化物含有量(固形分中)が29.7質量%であった。また、全脂大豆粉中の澱粉粒の平均粒径は5μmであった。
この全脂大豆粉は、高油分穀粉にあたる。
【0133】
米粉:水分含有量が11.1質量%、油分含有量(固形分中)が0.8質量%、蛋白質含有量(固形分中)が6.7質量%、炭水化物含有量(固形分中)が92.1質量%であった。また、米粉中の澱粉粒の平均粒径は6μmであった。
この米粉は、低油分穀粉にあたる。
【0134】
小麦粉:水分含有量が14.0質量%、油分含有量(固形分中)が1.7質量%、蛋白質含有量(固形分中)が9.7質量%、炭水化物含有量(固形分中)が88.1質量%であった。また、小麦粉中の澱粉粒の平均粒径は10μmであった。
この小麦粉は、低油分穀粉にあたる。
【0135】
-膨潤抑制澱粉-
タピオカ由来のリン酸架橋澱粉(製品名「パインベークCC」、松谷化学工業株式会社製)を用いた。
【0136】
-その他の澱粉類-
コーンスターチ:アミロース含量が26質量%である、未加工のコーン由来澱粉を用いた。
【0137】
<検討1:食用油脂および油脂組成物の影響>
表1に記載した配合に則り、以下の手順で、動物性原料を実質的に用いない、実施例1~4および比較例1~3の植物ベースのスポンジケーキを製造した。
また、表2に記載した配合に則り、以下の手順で、コントロールとなる動物性原料を用いたスポンジケーキを製造した。
【0138】
【0139】
【0140】
-実施例1~4および比較例1~3の植物ベースのスポンジケーキの製造手順-
表1中の水中油型乳化油脂組成物(1)、水、てんさい糖、増粘安定剤製剤、大豆蛋白製剤をボウルに投入し、ホイッパーを用いて混合し、実施例1~4および比較例2~3については比重が約0.3となるまで、比較例1については比重が約0.7となるまで起泡させた。その後、ここに、あらかじめ混合しておいた、全脂大豆粉、米粉、リン酸架橋澱粉、およびベーキングパウダーを、ふるいながら加えて混合し、混合物を得た。
【0141】
次に、混合物に、湯煎で溶解させておいた油中水型乳化油脂組成物またはショートニング、または菜種油を加えて混合し、スポンジケーキ生地を得た。なお、実施例1~4および比較例2~3のスポンジケーキ生地は、最終の生地比重が約0.6であり、比較例1のスポンジケーキ生地は、最終の生地比重が約0.8であった。
得られたスポンジケーキ生地を、直径15cmの丸形のケーキ型に流し込み、オーブンで170℃、35分の条件で焼成し、焼成後、室温(約20℃)で放冷し、実施例1~3および比較例1~3の、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのスポンジケーキを得た。
【0142】
-コントロールのスポンジケーキの製造手順-
表2中の全卵とグラニュー糖をボウルに投入し、ホイッパーを用いて混合して起泡させた。起泡後の生地比重は約0.25であった。ここに、薄力粉とベーキングパウダーを、ふるいながら少しずつ加えて混合し、さらに溶解させた無塩バターを加えて混合し、コントロールのスポンジケーキ生地を得た。なお、コントロールのスポンジケーキ生地は、最終の生地比重が約0.4であった。
得られたコントロールのスポンジケーキ生地を、直径15cmの丸形のケーキ型に流し込み、オーブンで170℃、35分の条件で焼成し、焼成後、室温(約20℃)で放冷し、動物性原料を用いたコントロールのスポンジケーキを得た。
【0143】
[スポンジケーキの評価]
<スポンジケーキのボリュームの評価>
実施例1~4および比較例1~3の植物ベースのスポンジケーキについて、そのボリュームを以下の評価基準に沿って目視で評価し、その結果を表3に示した。本発明においては、全ての評価において○以上の評価を得た植物ベースのスポンジケーキを合格とした。
【0144】
-スポンジケーキのボリュームの評価基準-
◎:コントロールのスポンジケーキと遜色のない良好なボリュームを有していた。
○:コントロールのスポンジケーキよりも少しボリュームが小さいが問題のない程度であり、良好なボリュームを有していた。
△:コントロールのスポンジケーキよりもボリュームが小さく、やや劣っていた。
×:コントロールのスポンジケーキよりも非常にボリュームが小さく、劣っていた。
【0145】
<スポンジケーキの食感の評価>
実施例1~4、比較例1~3、およびコントロールのスポンジケーキを5名の熟練したパネラーが食し、下記評価基準に沿って、歯切れと食感について採点し、その合計点に沿って以下の表示方法で表3に結果を示した。なお、採点に先立ち、パネラー間で各点数に対応する評価の尺度をすり合わせており、パネラー間で評価基準に差が出ないようにしている。
【0146】
(表示方法)
◎:13~15点
○:10~12点
△:6~9点
×:0~5点
【0147】
-歯切れの評価基準-
3点:歯切れは非常に良好であった。
2点:歯切れは良好であった。
1点:ややねちゃついており、歯切れが悪かった。
0点:ねちゃつきが強く、非常に歯切れが悪かった。
【0148】
-食感の評価基準-
3点:非常にソフトでざらつきもなく、食感は非常に良好であった。
2点:ソフトでざらつきもほとんど感じられず、食感は良好であった。
1点:硬い、またはざらつきが感じられ、食感が悪かった。
0点:非常に硬い、または非常にざらつきを感じ、食感が非常に悪かった。
【0149】
【0150】
実施例1~4の本発明の植物ベースのスポンジケーキはすべて、ソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好であった。
用いた本発明の油脂組成物(A)の乳化剤含有量が異なる、実施例1と実施例2の植物ベースのスポンジケーキを比較すると、乳化剤含有量の多い実施例2はボリュームがやや劣っていることから、本発明の油脂組成物(A)の乳化剤含有量には、本発明の効果を得るための最適な数値範囲が存在することが示唆された。
【0151】
SFC-20℃およびSFC-10℃の数値が高いショートニングを使用した実施例3の植物ベースのスポンジケーキは、実施例1の植物ベースのスポンジケーキと比較して少し目が詰まっており、ソフトさが少し劣っていたが、問題ない程度であった。この結果から、本発明に用いられる油脂組成物(B)のSFC-20℃またはSFC-10℃に、好ましい数値範囲が存在することが知得された。
対して、本発明の油脂組成物(A)を用いていない比較例1の植物ベースのスポンジケーキは、製造工程における、穀粉類を加える前に原材料を起泡させる段階で、十分に起泡せず、焼成後も十分に膨化しなかったため、目が詰まって食感が硬く、ボリュームもなく、歯切れも悪かった。
【0152】
本発明の油脂組成物(B)を用いていない比較例2の植物ベースのスポンジケーキは、崩壊しやすいため、ソフトさがなく、ざらついていて食感が悪かった。また、ボリュームも劣っていた。SFC-20℃が10%に満たない食用油脂である、菜種油を用いた比較例3の植物ベースのスポンジケーキは、比較例2よりもボリュームはあったが崩壊しやすく、食感が悪かった。
【0153】
<検討2:高油分穀粉、低油分穀粉、および膨潤抑制澱粉を含む澱粉類の影響>
表4に記載した配合に則り、以下の手順で、動物性原料を実質的に用いない、実施例5~10および比較例4~5の植物ベースのスポンジケーキを製造した。
また、検討1と同様にして、コントロールとなる動物性原料を用いたスポンジケーキを製造した。
【0154】
【0155】
-実施例5~10および比較例4~5の植物ベースのスポンジケーキの製造方法-
表4中の水中油型乳化油脂組成物(1)、水、てんさい糖、増粘安定剤製剤、大豆蛋白製剤をボウルに投入し、ホイッパーを用いて混合し、比重が約0.3となるまで起泡させた。その後、ここに、あらかじめ混合しておいた、各種穀粉類、リン酸架橋澱粉、コーンスターチ、およびベーキングパウダーを、ふるいながら加えて混合し、混合物を得た。
【0156】
次に、混合物に、湯煎で溶解させておいた油中水型乳化油脂組成物を加えて混合し、スポンジケーキ生地を得た。スポンジケーキ生地の最終の生地比重は約0.6であった。
得られたスポンジケーキ生地を、直径15cmの丸形のケーキ型に流し込み、オーブンで170℃、35分の条件で焼成し、焼成後、室温(約20℃)で放冷し、実施例5~10および比較例4~5の、動物性原料を実質的に用いない植物ベースのスポンジケーキを得た。
【0157】
[スポンジケーキの評価]
実施例5~10および比較例4~5の植物ベースのスポンジケーキのボリューム、歯切れ、食感について、それぞれ検討1と同様にして評価した。結果を表5に示した。
【0158】
【0159】
実施例5~10の植物ベースのスポンジケーキは、全てソフトな食感を有し、ボリュームがあって、歯切れが良好であった。
高油分穀粉である全脂大豆粉のみを用いた実施例5の植物ベースのスポンジケーキは、高油分穀粉と低油分穀粉とを併用した実施例1の植物ベースのスポンジケーキと比較すると、ボリュームが少し小さく、やや崩壊しやすかったが、問題のない程度であった。
実施例1の配合における米粉を、澱粉粒の平均粒径が10μmの低油分穀粉である小麦粉に置き換えた実施例6の植物ベースのスポンジケーキは、実施例1と同等のソフトな食感、ボリューム、歯切れを有しており、良好な評価であった。
【0160】
実施例1の配合における、全脂大豆粉、米粉、および膨潤抑制澱粉の配合比率を変えた実施例7~9の植物ベースのスポンジケーキのうち、高油分穀粉の割合が高い実施例7は、食感に少しざらつきが感じられ、崩壊しやすかったが問題ない程度であった。低油分穀粉の割合が高い実施例8および実施例9は、ざらつきもなく、ボリュームがあり、歯切れも良好なものとなった。
【0161】
これらの結果から、高油分穀粉、低油分穀粉、および膨潤抑制澱粉の配合比率を変化させても、本発明の効果が得られることが知得された。
また、実施例1の配合における膨潤抑制澱粉を、その他の澱粉類にあたるコーンスターチに置き換えた実施例10の植物ベースのスポンジケーキは、ボリュームがやや小さく、また、硬さやねちゃつきがあるため、食感と歯切れの面で少し劣っていたが問題ない程度であった。これらの結果から、膨潤抑制澱粉を併用することで、本発明の効果がより好ましく得られることが知得された。
【0162】
対して、高油分穀粉を含まず、低油分穀粉である米粉を含んだ比較例4の植物ベースのスポンジケーキは崩壊しやすい上に、ざらつきも感じられて、劣った食感であった。高油分穀粉を含まず、低油分穀粉である小麦粉を含んだ比較例5の植物ベースのスポンジケーキは、ボリュームがあまりない上に、硬く、かじるとねちゃついた食感であったため、全体的に劣った評価であった。