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特開2024-54914タンパク吸着の抑制された熱可塑性樹脂組成物、及び、それを用いたデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054914
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】タンパク吸着の抑制された熱可塑性樹脂組成物、及び、それを用いたデバイス
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20240411BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08L45/00
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161375
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦宜
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC05X
4J002BK00W
4J002BP01X
4J002CE00W
4J002FD070
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】タンパク吸着の抑制された熱可塑性樹脂組成物を提供すること、及び、それを用いたデバイスを提供することを課題とする。
【解決手段】環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物(C)であって、下記要件(C-i)及び(C-ii)を満たすことを特徴とするタンパク低吸着性に優れる熱可塑性樹脂組成物によって課題を解決する。
(C-i):前記環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)に対する前記スチレン系エラストマー(B)のメルトフローレート(MFR)の比(=MFR/MFR)が1未満
(C-ii):前記熱可塑性樹脂組成物(C)に含まれる、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量3000以下の成分の割合が1%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物(C)であって、下記要件(C-i)及び(C-ii)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(C-i):前記環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)に対する前記スチレン系エラストマー(B)のメルトフローレート(MFR)の比(=MFR/MFR)が1未満
(C-ii):前記熱可塑性樹脂組成物(C)に含まれる、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量3000以下の成分の割合が1%以下
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物(C)が下記要件(C-iii)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(C-iii):前記環状ポリオレフィン(A)の屈折率NDと、スチレン系エラストマー(B)の屈折率NDの差の絶対値(=|ND-ND|)が0.015以下
【請求項3】
前記環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンパク製剤容器。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンパク培養機器。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンパク検査用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク低吸着性に優れ、さらには透明性にも優れる熱可塑性樹脂組成物、及び、該熱可塑性樹脂組成物を用いたタンパク低吸着デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ産業の発展に伴い、タンパクの産業利用は食品・医療・化成品産業などに大きく広まっている。
一方、これらタンパクの性質として、材料表面への吸着は多くの分野で問題を引き起こす原因となっており、タンパク吸着の抑制に関して多くの提案がなされてきている(特許文献1~4)。
しかし、これらの手法においては、コーティングの剥離が発生するというリスクや、コストの上昇といった課題を有しており、成形材料自体でタンパク吸着を抑制するという要求は高まっている。
この要求に対し、例えば、環状オレフィンとオレフィンの共重合体であるシクロオレフィンコポリマーや、シクロオレフィン類開環重合体、あるいは、シクロオレフィン類開環重合体に水素添加したものを材料としてタンパク製剤容器に用いることで、ガラスに比べタンパクの吸着が少なく安定性が向上することが提案されている(特許文献5)。
また、タンパク吸着の少ない医療成形体を得るために、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)を有するブロックコポリマーを用いることが提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-063459号公報
【特許文献2】特開2007-185515号公報
【特許文献3】特開2016-112397号公報
【特許文献4】特開2021-091908号公報
【特許文献5】特開2006-116345号公報
【特許文献6】特開2020-180301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、さらなるタンパク付着抑制に対する期待は高く、本発明においては、タンパク吸着の抑制された熱可塑性樹脂組成物を提供すること、及び、それを用いたデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の環状ポリオレフィン(A)に対し、特定のスチレン系ブロック共重合体(B)を配合することでタンパクの吸着が抑制された熱可塑性樹脂組成物が得られ、さらに特定の屈折率差となるように(A)と(B)を選択することで高い透明性をも発揮せしめることを見出し、本組成物を用いることで、タンパク低吸着性、さらには透明性に優れたタンパク製剤容器や培養機器、検査用機器等のデバイスが実現できることを見出し本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0006】
[1] 環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物(C)であって、下記要件(C-i)及び(C-ii)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(C-i):前記環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)に対する前記スチレン系エラストマー(B)のメルトフローレート(MFR)の比(=MFR/MFR)が1未満
(C-ii):前記熱可塑性樹脂組成物(C)に含まれる、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量3000以下の成分の割合が1%以下
[2] 前記熱可塑性樹脂組成物(C)が下記要件(C-iii)を満たすことを特徴とする[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(C-iii):前記環状ポリオレフィン(A)の屈折率NDと、スチレン系エラストマー(B)の屈折率NDの差の絶対値(=|ND-ND|)が0.015以下
[3] 前記環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)を有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンパク製剤容器。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンパク培養機器。
[6] [1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなるタンパク検査用機器。
【発明の効果】
【0007】
本発明における特定の環状ポリオレフィン(A)に対し、特定のスチレン系エラストマー(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物は、タンパクの吸着が抑制されるという特徴を有し、加えて高い透明性を発揮することができる。
その結果、本樹脂組成物からなるタンパク製剤容器は、薬液の有効成分の付着による減少や、付着による変質が抑制され、加えて内容物の視認性に優れるために各種のタンパク製剤容器として好適に用いることができる。
また、本樹脂組成物からなる培養機器はタンパクの収率が向上し、洗浄が容易である。さらに、本樹脂組成物からなる検査用機器では検出精度の向上が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0009】
本発明の第一の実施形態は、環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物(C)であって、下記要件(C-i)及び(C-ii)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物である。
(C-i):前記環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)に対する前記スチレン系エラストマー(B)のメルトフローレート(MFR)の比(=MFR/MFR)が1未満
(C-ii):前記熱可塑性樹脂組成物(C)に含まれる、ゲル浸透クロマトグラフィー
により測定したポリスチレン換算の分子量3000以下の成分の割合が1%以下
【0010】
<環状ポリオレフィン(A)>
食品・医療・化成品などの分野では、その優れた性質によりポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィンが広く用いられているが、ポリエチレンやポリプロピレンは結晶性樹脂であり、構造中に結晶部と非晶部が混在している。
そのため、結晶部と非晶部の屈折率の違いにより光が拡散し透明性に劣り、さらに、これらの非晶部は一般的にガラス転移温度(Tg)が常温以下であり常温で分子運動が可能であることから、保管時に添加剤やオリゴマーといった低分子量成分が表面にブリードすることでタンパク吸着を悪化させる、といった問題を有している。
そこで、本実施形態に用いられる熱可塑性樹脂組成物では、タンパク低吸着性を実現するために、非晶性樹脂でありガラス転移温度が高い環状ポリオレフィン(A)を用いることが好ましい。 具体的には、環状ポリオレフィン(A)のTgは、80℃~180℃が好ましく、100℃~160℃がより好ましい。
環状ポリオレフィン(A)のTgは、固体粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)によって測定される温度に対する損失弾性率E“のプロットにおけるピーク温度として定義され、周波数10Hzの条件で測定される。
【0011】
これらの特性を有する環状ポリオレフィン(A)は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体であり、その具体的な例としては、(a)ノルボルネン系重合体、(b)環状オレフィン系重合体や、(c)ビニル脂環式炭化水素系重合体などが挙げられる。
これらの具体例としては、(a)ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン系モノマー(及び共重合可能なその他モノマーと)の開環重合体や、ノルボルネン系モノマー(及び共重合可能なその他モノマーと)の付加重合体、及び、これらの水素化物が挙げられる。
(b)環状オレフィン系重合体は、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体(及び共重合可能なその他モノマーと)の付加重合体や、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン(及び共重合可能なその他モノマーと)を1,2-又は1,4-付加重合した重合体、及び、これらの水素化物を用いることができる。
(c)ビニル脂環式炭化水素系重合体は、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどの脂環式ビニルモノマー(及び共重合可能なその他モノマーと)の重合体及びその水素化物や、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニルモノマー(及び共重合可能なその他モノマーとのランダム、及び/又は、ブロック共)重合体の芳香環部分の水素化物などが挙げられる。
これらの環状ポリオレフィン(A)は本実施形態の効果を阻害しない範囲で2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。
一方、構造が大きく異なると相溶性が低下し、透明性が悪化することが懸念されるため、同種の組み合わせが望ましい。
環状ポリオレフィン(A)を得る方法は特に限定されず、公知の手段を用いることができる。
【0012】
環状ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
なお、環状ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0013】
<スチレン系エラストマー(B)>
本実施形態のスチレン系エラストマー(B)は、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物(C)のタンパクの吸着を抑制するために必要な成分である。
スチレン系エラストマー(B)によりタンパクの吸着が抑制される機構は不明であるが、各ブロックの組成差により生じるミクロ相分離構造が、タンパクの凝集と成長を抑制するものと考えられる。
そこで、本実施形態に用いられるスチレン系エラストマー(B)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位(B-S)、及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位(B-D)を有するスチレン系ブロック共重合体であることが好ましい。
ここで、共役ジエンポリマーブロック単位(B-D)は安定性の観点から水素化されていることが好ましい。
一方で、芳香族ビニルポリマーブロック単位(B-S)が水素化されているとミクロ相分離構造が形成されにくくなり、タンパクの吸着を抑制する効果が小さくなると考えられるため、芳香族ビニルポリマーブロック単位(B-S)は水添されていないことが好ましい。
【0014】
前記スチレン系ブロック共重合体(B-S)の原料となる芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる共役ジエンモノマーとしては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0015】
本実施形態に用いられるスチレン系エラストマー(B)中に含まれる芳香族ビニルポリマーブロック単位(B-S)の割合は、タンパクの吸着を抑制する効果を発揮しうる範囲であればよく、ミクロ相分離構造を取り得る範囲、例えば5~70%程度の範囲で選択可能である。
【0016】
また、熱可塑性樹脂組成物(C)中に占めるスチレン系エラストマー(B)の割合は、タンパクの吸着を抑制する効果を発揮しうる範囲であればよいが、少なすぎると効果が十分でない場合があるため好ましくは2wt%以上、より好ましくは5wt%以上である。一方、その上限については特に制限はないが、多すぎると後述する低分子量成分のブリード抑制効果が低下し、タンパク吸着を悪化させる懸念があるため、好ましくは66wt%以下(組成物の2/3以下)、より好ましくは50%以下(組成物1/2以下)である。
【0017】
また、熱可塑性樹脂組成物(C)中に占める環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)の含有比(A/B)は、重量換算で(98/2)~(34/66)が好
ましく、(95/5)~(50/50)がより好ましい。
【0018】
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、透明性、成形外観及び流動性の点では小さい方が好ましい。
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。また、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、7万以下がさらに好ましく、6.5万以下が特に好ましい。
【0019】
なお、スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、GPCを用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器:日本ミリポア(株)製「150CALC/GPC」
・カラム:昭和電工(株)製「AD80M/S」3本
・検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」
・波長:3.42μm
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:140℃
・流速:1cm/分
・注入量:200μL
・濃度:2mg/cm
・酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%を添加
【0020】
<環状ポリオレフィン(A)の(MFR)に対するスチレン系エラストマー(B)の(MFR)の比(=MFR/MFR)>
本実施形態に用いられる環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)においては、環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)に対するスチレン系エラストマー(B)のメルトフローレート(MFR)の比(=MFR/MFR)が1未満である。
ここで、MFR/MFRが1以上であるということは、スチレン系エラストマー(B)の粘度が環状ポリオレフィン(A)の粘度よりも低いことを意味しており、その場合にはその成形体において、粘度の低いスチレン系エラストマー(B)が組成物中で微細化され、引き延ばされた形状を取ることを意味する。
このとき、スチレン系エラストマー(B)はタンパク吸着を抑制する効果を有する成分であるが、過度に微細化され引き延ばされた形状になるとタンパクの吸着を抑制する効果が低下するため、本実施形態において抑制効果を十分に発揮するためには、MFR/MFRが1未満であることが必要であり、好ましくは0.5未満、もっとも好ましくは0.3未満である。
MFR/MFRの下限について特に制限はないが、スチレン系エラストマー(B)の粘度が高すぎると、特にフィルム用途においてはゲルやフィッシュアイと呼ばれる凝集物による外観不良が懸念されるため、これらを悪化させないスチレン系エラストマーが好ましい。
【0021】
本実施形態におけるメルトフローレート(MFR)はJIS K7210:1999のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定される。単位はg/10分である。
このとき、環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)の両者のMFRが0.1よりも小さく比の算出が困難である場合には温度260℃にて測定した両者のMFRを算出に用いることができる。
【0022】
<熱可塑性樹脂組成物(C)に含まれる低分子量成分の量>
一般的に熱可塑性樹脂中には添加剤やオリゴマーといった低分子量成分が含まれており
、それらは成形時や保管時に表面にブリードする。
低分子量成分の表面ブリード物は、タンパク吸着を促進し吸着量を増加させる。本実施形態における熱可塑性樹脂組成物(C)は低分子量成分のブリードが少ない環状ポリオレフィン(A)を相当量含んでいるが、それだけではタンパク吸着抑制には不十分であり、本実施形態における熱可塑性樹脂組成物(C)は、組成物中に含まれる分子量が3000以下の成分の割合が1%以下であり、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.2%以下である。
本実施形態における分子量が3000以下の成分は、下記条件でGPCを用いた分子量測定によって得られた、ポリスチレン換算の分子量の対数と検出強度のグラフにおいて、全面積に対する分子量3000以下の面積の比(%)として算出される。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0023】
<環状ポリオレフィン(A)の屈折率NDと、スチレン系エラストマー(B)の屈折率ND
本実施形態に用いられる環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)は非相溶であり相分離構造を取るため、高い透明性を実現するためには、両者の屈折率が近いことが好ましい。屈折率の差が大きいと相分離界面において散乱が生じ透明性が悪化するために、環状ポリオレフィン(A)の屈折率NDと、スチレン系エラストマー(B)の屈折率ND差の絶対値(=|ND-ND|)が0.015以下であることが好ましく、より好ましくは0.010以下である。
スチレン系エラストマー(B)の屈折率NDは、芳香族ビニルポリマーブロック単位(S)が0wt%(非晶質の共役ジエンポリマーブロック単位(D)のみの場合)で1.47程度から、重量比率の増加に対して直線的に上昇し、例えば芳香族ビニルがスチレンの場合には、100wt%で1.60程度になる。従って、屈折率を上記範囲にするためには、本実施形態の環状ポリオレフィン(A)の屈折率NDにあった屈折率となるスチレン含有量のスチレン系エラストマー(B)を選択すればよい。
【0024】
例えば、環状ポリオレフィン(A)がノルボルネン系ポリマーの場合には、ノルボルネン含量が大きいほど屈折率が大きく、本実施形態に用いられる耐熱性を有する領域において、その屈折率は比較的大きく、1.53を超えるものが多い。
この場合には、スチレン系エラストマー(B)のスチレン含有量は50wt%であることが好ましい。
しかし、スチレン含有の多いスチレン系エラストマー(B)は、共役ジエンポリマーブロック単位(B-D)が短くなるか、あるいは、共役ジエンポリマーブロック単位(B-D)中にも芳香族ビニルモノマーを導入することが必要となることで強度や耐寒性に劣り、市販品の種類は限られており、高価格であるという問題を有している。
一方、環状ポリオレフィン(A)として(c)ビニル脂環式炭化水素系重合体を用いる場合、芳香環部分が水素化されることで屈折率が低下するため、スチレン系エラストマー(B)中のスチレン含有量がより少なくて済むために、多くの市販品から選択が可能であるというメリットを有する。
このとき、(c)ビニル脂環式炭化水素系重合体としては、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)からなるブロック共重合体(以下、『水素化ブロックコポリマー』とする)は、透明性と耐熱性のバランスに優れ、かつ、タンパク吸着が少ないことから、本実施形態の環状ポリオレフィン(A)として特に好適に用いられる。
【0025】
水素化ブロックコポリマーの構造としては、トリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックといった各種の構造を用いることが可能であり、さらに何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。
【0026】
<その他の成分>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物(C)は、タンパク吸着を悪化させないために分子量3000以下の成分の割合が1%以下となる範囲で、樹脂に常用されている安定剤等の添加剤を含有してもよい。
成形時や使用において酸化劣化を抑制するために、酸化防止剤を用いることが好ましく、特にフェノール系、及び、リン系の酸化防止剤を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂組成物(C)100質量部に対して酸化防止剤を0.01~0.5質量部含有することが好ましい。
【0027】
また、熱可塑性樹脂組成物(C)は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、環状ポリオレフィン(A)及びスチレン系エラストマー(B)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有してもよい。
い。
【0028】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物(C)は、環状ポリオレフィン(A)及び、スチレン系エラストマー(B)、を単純にブレンドすることでも得られるが、一般的な熱可塑性樹脂組成物の製造に用いられる、各種の溶融混練装置を用いて製造されることが好ましい。溶融混練装置の例としては、単軸押出機や2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等が上げられる。
【0029】
第一の実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物(C)は、タンパク吸着が抑制され、これを様々なデバイスに適用することが可能である。本発明の他の実施形態は、第一の実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物(C)からなるタンパク製剤容器、タンパク培養機器及びタンパク検査用機器である。
具体的には、薬剤の安定性に優れたタンパク製剤を収納する容器として用いることができる。容器の種類としては、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、バッグ等を挙げることができる。
【0030】
本実施形態におけるタンパク製剤はタンパク由来の薬効成分を含む限り特に定めるものではなく、当業者に公知のバイオ医薬品を広く用いることができる。
具体的には、酵素、血液凝固線系因子、血清タンパク、ホルモン、ワクチン、インターフェロン類、エリスロポエチン類、サイトカイン類、毒素類、抗体、抗体薬物複合体、融合タンパク、及びこれらを含む複合体からなる群より選ばれる、タンパク製剤であることが好ましい。
また、タンパク培養機器として用いる場合には、収率の向上や変性の防止といった効果が得られ、マイクロ流体チップ、ペトリディッシュ(シャーレ)、培養フラスコ、マルチウェルプレート、バッグなどの培養容器や、ピペットや遠沈管、マイクロチューブなどの周
辺機器、各種のコネクタやパイプとして利用可能である。
さらに、タンパク検査用機器として用いる場合には精度の向上が期待され、チューブや試験管、採血間や検体容器、マイクロ流路やピペットとして利用可能である。
マイクロ流路として特にセルソーター、フローサイトメトリー、セルカウンターでは細胞の付着が抑制されるため好適に用いることができる。
【0031】
<デバイスの製造方法>
これらデバイスの製造には、その形状に応じて熱可塑性樹脂の成形法として通常用いられる各種製造法を用いることができる。これらの各種製品の成形方法としては、公知の成形法を制限なく用いることができる。
フィルムやシートの成形法の例としては、空冷インフレーション成形、水冷インフレーション成形、Tダイによる無延伸成形、一軸延伸成形、二軸延伸成形、カレンダー成形等が用いることができる。
また、これらフィルムやシートとして使用する場合に、多層構成中の層としての使用も可能である。すなわち、タンパク低吸着の特長を活かした表面層としてのみの使用も可能である。
これらのフィルムやシートを2次加工し、製袋することで各種のバックとして、あるいは、熱板成形、圧空成形、真空成形、真空圧空成形といった熱成形することで各種のブリスター容器とすることも可能である。
また、ブロー成形、延伸ブロー成形により各種のボトル・バイアル形状にして用いることも可能である。
通常の射出成型はもちろん、インサート成型、サンドイッチ成型、ガスアシスト成型等によりシリンジや流路やポート等の成型品として用いることも可能であるし、プレス成形、スタンピングモールド、回転成型などを行うこともできる。
【実施例0032】
以下、実施例を用いて本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0033】
[原料]
原料の物性については以下の方法で測定を行った。
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210:1999のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に従って、下記の条件で測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0034】
<GPC測定>
重量平均分子量Mw、及び、分子量が3000以下の成分の割合(低分子量成分量)は、GPC測定によって得られたものである。
分子量が3000以下の成分の割合[%]は、GPCを用いて以下の条件によって測定したポリスチレン換算の分子量の対数と検出強度のプロットにおいて、分子量が3000以下の領域の面積が、全面積に占める割合[%]として算出した。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製
単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0035】
<屈折率>
ASTM D542に従って、下記の条件で測定した。
・装置:アタゴ社製多波長アッベ屈折計DR-M4
・スペクトル線:D線
・測定温度:20℃
【0036】
<環状ポリオレフィン(A)のポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h/p-ジクロロベンゼン-d混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
H照射:完全デカップリング
【0037】
<環状ポリオレフィン(A)の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・環状ポリオレフィン(A)の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・環状ポリオレフィン(A)の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0038】
実施例、及び比較例に用いた原料を以下に示す。
<(A)環状ポリオレフィン>
(A-1)芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)を有する環状ポリオレフィン
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・屈折率:1.508
・ガラス転移温度:122℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:71,000
【0039】
(A-2)芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)を有する環状ポリオレフィン
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):30g/10分
・屈折率:1.508
・ガラス転移温度:109℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率60モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率40モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:51,000
【0040】
(A-3)(A-1)と(A-2)のブレンド物。比率50:50(wt%)
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):7g/10分
・屈折率:1.508
・ガラス転移温度:116℃
【0041】
(A-4)ノルボルネン系重合体
日本ゼオン(株)製 ZEONEX(商標登録)1020R
・密度(ASTM D792):1.01g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・屈折率:1.534
・ガラス転移温度:102℃
【0042】
<スチレン系エラストマー(B)>
(B-1)クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1650
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:91,000〕
・MFR(230℃、2.16kg):0g/10分(流れず)
・屈折率:1.510
【0043】
(B-2)クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1652
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:29質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:69,000〕
・MFR(230℃、2.16kg):1.7g/10分
・屈折率:1.508
【0044】
(B-3)クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1645
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:13質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:69,000〕
・MFR(230℃、2.16kg):2.9g/10分
・屈折率:1.490
【0045】
(B-4)クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) MD1653
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:60,000〕
・MFR(230℃、2.16kg):5.9g/10分
・屈折率:1.511
【0046】
(B-5)クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1726
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:42,000〕
・MFR(230℃、2.16kg):110g/10分
・屈折率:1.508
【0047】
<その他の成分>
(D-1)スリップ剤:オレイン酸アミド
(D-2)帯電防止剤:非イオン性界面活性剤(花王社製TS-5)
(D-3)水素化石油樹脂(荒川化学工業社製アルコンP-140)
【0048】
<実施例1-1~4、及び、比較例1>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)を表1に示す比率(重量部)でブレンドし、2軸押出機を用いて260℃にて溶融混練し熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を以下の方法で成形・評価した。評価結果を表1に示す。
【0049】
<試験片の作成>
射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて、厚さ2mm×幅40mm×長さ80mmのプレート(ヘーズ評価用試験片)、及び、厚さ2mm×幅10mm×長さ80mmのプレート(吸着量評価用試験片)を成形し、評価を実施した。
【0050】
<ヘーズ>ISO 14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
【0051】
<タンパク(アルブミン)吸着性の評価>
10mm×40mmにカットし試験片を作製した。
この試験片を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させたアルブミン(ウシ由来、BSA)溶液1mg/mLに37℃で2時間浸漬させる。2時間浸漬後、PBSで試験片を洗浄した後、ドデシル硫酸ナトリウム水溶液6mLに浸し、5分間超音波洗浄を行なっ
た。
96ウェルプレートに超音波洗浄後の溶液を150μL入れ、市販のBCAキットのタンパク定量試薬150μLを超音波洗浄後の溶液に入れた部分に入れ、37℃で2時間保持する。2時間保持後、プレートリーダーにて562nmの吸光度を測定し、濃度既知のアルブミン溶液から得られる検量線に当てはめることでアルブミンの吸着量を算出した。
【0052】
【表1】
【0053】
<実施例2-1~3、及び、比較例2>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)を表2に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を実施例1と同様に成形・評価した。評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
<実施例3、及び、比較例3-1~2>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)を表3に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を実施例1と同様に成形・評価した。評価結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
<実施例4-1~4、及び、比較例4-1~2>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)を表4に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を実施例1と同様に成形・評価した。評価結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
<実施例5-1~2、及び、比較例5-1~2>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)を表5に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を実施例1と同様に成形・評価した。評価結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
<実施例6-1~2、及び、比較例6-1~2>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)及びその他の成分を、表6に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を実施例1と同様に成形・評価した。評価結果を表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
<実施例7-1~2、及び、比較例7-1~2>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)及びその他の成分を、表7に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
<試験片の作成>
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を、口径30mmの単軸押出機を用いて、幅150mm、Lip開度0.8mmのTダイから押しだし、冷却ロールにて40℃に冷却しながら巻き取り、厚み0.1mmのフィルムを得た。
<ヘーズ>得られたフィルムを適当な大きさにカットし実施例1と同様にヘーズ測定を実施した。
<タンパク(アルブミン)吸着性の評価>
得られたフィルムを幅10mm×長さ40mmにカットし実施例1と同様に評価を実施した。
【0064】
【表7】
【0065】
<実施例8、及び、比較例8>
環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)及びその他の成分を、表8に示す比率(重量部)でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物(C)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(C)を以下の方法で成形・評価した。評価結果を表8に示す。
<試験片の作成>
射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて、内容量2mL強の(蓋付き)マイクロチューブ金型を用いて、内容量2mL強のマイクロチューブを成形した。
<タンパク(免疫グロブリン)吸着性の評価>
予め超純水2mLにて3回洗浄し、風乾したマイクロチューブに、20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)にて溶解した1.0g/L Humanポリクローナル抗体(IgG、LEE社製)溶液を1mL添加し、24時間 冷蔵条件にて静置し、タンパクを吸着させた。吸着後、溶液を除去したのち1.1mL20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)にて3回洗浄した後、1.1mL 5% SDS溶液を添加し、15分間室温条件下にて超音波をかけ吸着タンパクを回収し、μBCA(Thermo Fisher Scientific社製)にて吸着タンパクの定量を行った。吸着タンパク濃度からタンパク溶液の接液面積を除算し単位面積あたりのタンパク吸着量を算出した。
【0066】
【表8】
【0067】
<実施例9、及び、比較例9>
実施例8及び比較例8で得られたマイクロチューブを以下の方法で評価した。評価結果を表9に示す。
<核酸siRNA(Human MALAT1 siRNA)吸着性の評価>
予めNuclease-Free水(Thermo Fisher Scientific社製)2mLにて3回洗浄し、風乾したマイクロチューブに0.1nmol/mL Human MALAT1 siRNA(Thermo Fisher Scientific社製)0.2mLを添加し、氷上にて20分静置し、核酸を吸着した。
静置後、0.1mLを新たに採取しRNase Free水にて0.05nmol/mLに希釈し、氷上にて20分静置し、核酸を吸着した。再度0.1mLを採取し、RNase Free水にて0.025nmol/mLに希釈し、氷上にて20分静置し、核酸を吸着させた。吸着後siRNA溶液を加熱処理し2本の1本鎖RNAに分けた後、逆転写反応及びqPCRにて上清siRNA量を定量した。逆転写及びqPCRはHuman MALAT1 siRNA用に設計されたTAQMAN siRNA Assay(Thermo Fisher Scientific社製)及びMaster Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。0.025nmol/mL siRNAにおける理論値と実測値の差を吸着siRNA量とし、単位面積あたりの吸着siRNA量を算出した。
【0068】
【表9】