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特開2024-54923ゼラチン架橋体を形成するためのキット、ゼラチン架橋体の製造装置、当該装置の作動方法、及びゼラチン架橋体の製造方法
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  • 特開-ゼラチン架橋体を形成するためのキット、ゼラチン架橋体の製造装置、当該装置の作動方法、及びゼラチン架橋体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054923
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ゼラチン架橋体を形成するためのキット、ゼラチン架橋体の製造装置、当該装置の作動方法、及びゼラチン架橋体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/32 20060101AFI20240411BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240411BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240411BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20240411BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20240411BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A61L15/32 100
A61L27/36 410
A61L31/04 120
C08L89/00
C08K5/134
C08J3/24 Z CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161389
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000135151
【氏名又は名称】株式会社ニッピ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】厚澤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】八木 志乃海
【テーマコード(参考)】
4C081
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4C081AA03
4C081AA14
4C081BB07
4C081CC05
4C081CD15
4C081CE11
4F070AA62
4F070AC12
4F070AC43
4F070AE08
4F070AE28
4F070GA10
4F070GB06
4F070GB08
4F070GB09
4F070GC06
4J002AD011
4J002EJ066
4J002FD146
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】本発明は、適用部位の状況に応じてゼラチン架橋体を適切に形成することを目的とする。
【解決手段】
ゼラチンを含む溶液、及び
架橋剤を含む溶液、
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧と前記架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行ってゼラチン架橋体を形成するためのキット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンを含む溶液、及び
架橋剤を含む溶液、
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧と前記架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行ってゼラチン架橋体を形成するためのキット。
【請求項2】
前記架橋剤がタンニン酸を含み、前記ゼラチン架橋体がゼラチン-タンニン酸複合体を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
第1の流路及び第2の流路を含む噴霧器を更に含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
前記ゼラチンを含む溶液を前記第1の流路に注入して前記ゼラチンを含む溶液の噴霧を行い、前記架橋剤を含む溶液を前記第2の流路に注入して前記架橋剤を含む溶液の噴霧を行う、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記ゼラチンを含む溶液におけるゼラチンの濃度が3~10質量%である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項6】
前記架橋剤がタンニン酸を含み、前記架橋剤を含む溶液における前記タンニン酸の濃度が5~35質量%である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項7】
前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧が、キャリア-ガスを使用して行われる、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項8】
前記キャリア-ガスが、空気、窒素、二酸化炭素、酸素、水素、アルゴン、又はこれらの混合物を含む、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
ゼラチン架橋体の製造装置であって、
ゼラチンを含む溶液を注入するための第1の流路、
架橋剤を含む溶液を注入するための第2の流路、及び
前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧を行うための噴霧器
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧を同時に行う、前記装置。
【請求項10】
前記噴霧器が前記第1の流路及び前記第2の流路を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧が同一の噴霧器によって行われる、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記噴霧器が、前記第1の流路を含む第1の噴霧器と前記第2の流路を含む第2の噴霧器とを含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧が前記第1の噴霧器によって行われ、前記架橋剤を含む溶液の噴霧が前記第2の噴霧器によって行われる、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1つに記載の装置の作動方法であって、
前記ゼラチンを含む溶液と前記架橋剤を含む溶液が、同時に同一箇所に噴霧されるように作動させること
を含む、前記方法。
【請求項13】
ゼラチン架橋体の製造方法であって、
ゼラチンを含む溶液の噴霧と架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行って前記ゼラチン架橋体を形成する工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチン架橋体を形成するためのキット、ゼラチン架橋体の製造装置、当該装置の作動方法、及びゼラチン架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンニン酸は五倍子または没食子などから得られるポリフェノールの一種である。ウルシ科植物のヌルデの葉軸などにアブラムシ科の昆虫が寄生することにより発生した虫こぶを五倍子と呼び、ブナ科植物の若枝にフシバチ科の昆虫が寄生することにより発生した虫こぶを没食子と呼ぶ。これらの虫こぶを乾燥して精製したものがタンニン酸となる。タンニン酸はタンパク質やアルカノイド、あるいは金属イオンと反応し、難溶性物質を形成することが知られており、この性質を利用して、古くから様々な用途で使用されている。例えば防錆剤、染色剤、あるいは医薬品原料として用いられている。
【0003】
ゼラチンは動物の皮膚あるいは骨から熱水で抽出されたコラーゲンの熱変性物である。その特徴はゾル-ゲル転換であり、溶液状のゼラチンを冷却するとゲル化し、逆にゲル化したゼラチンを加熱すると溶液に戻る。この特性を活かし、ゼリーやババロア、グミ、マシュマロなどの食品に使用され、また、調味液のゲル化剤、増粘剤、安定化剤などとしても広く使用されている。ゼラチンの原料となるコラーゲンはウシ、ブタおよびヒトなどの種間でもアミノ酸配列の相同性が高いタンパク質である。このことから、その低い抗原性、生体適合性、生分解性に着目し、様々な医療用途にも用いられている。例えば止血剤、癒着防止膜あるいは組織欠損部分への補填剤など市販されているものも多い。ゼラチンはそのままだと生体内で容易に分解するため、架橋反応が必須となる。架橋反応としては、アルデヒド、カルボジイミドあるいはポリフェノールなどを用いた化学的架橋反応、加熱あるいは放射線などで架橋させる物理的架橋反応などが知られている。
【0004】
タンニン酸に関しても昔からゼラチンの架橋剤として研究されており、ゼラチン-タンニン酸架橋物を医療用途に使用する試みも行われている(特許文献1)。しかしながら、このゼラチンとタンニン酸は即座に反応するため、その取扱いが難しい。単に混ぜるだけではその反応物はゴム状で粘着性があり、自由に成形することが難しい(非特許文献1)。また、即座に反応することでゼラチン表面しか架橋されず、内部は未架橋のままとなる場合もある。通常、ゼラチンとタンニン酸の応用としては、ゼラチン成形物をタンニン酸で架橋させるという使用方法が多い(非特許文献2)。これらの使用方法では、あらかじめ決まった形での使用に限定せざるを得ず、その場の状況に適した大きさ、形、追随性などを作り出すことは難しい。そのため、医療応用する場合にも、すでに大きさ、形が決めてあるゼラチン成形物をタンニン酸で架橋させ、状況に応じた大きさや形にする場合には、作業者がその場で加工する、あるいはいくつかの寸法をあらかじめ用意する必要がある。その他にはゼラチンとタンニン酸を混ぜ合わせて、架橋剤を用いて接着剤として使用する試みも報告されているが、実用化に関しては不明である(非特許文献3)。
【0005】
近年内視鏡技術が発展し、多くの種類の手術が内視鏡下で行われるようになってきた。それに伴い、内視鏡下で使用できるような医療機器が積極的に開発されている。一方、術後の損傷部位を保護するような膜を内視鏡下で投与するのは難しく、損傷部位の保護が困難となっている。膜には内視鏡を用いて簡単に投与できる柔軟性が求められる一方、例えば天井部位に貼り付ける場合には、重力に逆らう接着力や固さも必要であった。これらを両立する膜は存在せず、投与は術者の技量に大きく左右されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6414443号公報
【0007】
【非特許文献1】大野富士雄ら、日本食品工業会誌 第35巻 第12号 1988年12月 p.835-842
【非特許文献2】Kyungtae Park et al. Developing regulatory property of gelatin-tannic acid multilayer films for coating-based nitric oxide gas delivery system. 2019; Sci Rep. 9:8308.5;9(1):8308.
【非特許文献3】Jinshan Guo et al. Development of tannin-inspired antimicrobial bioadhesives. 2018; Acta Biomaterialia. 72:35-44.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
皮膚の損傷部位を保護するための様々な創傷被覆材は販売されている。皮膚の場合は患部を目視で確認できるため、比較的簡単に損傷部位に対して適切な処置をすることが可能である。一方、体内に関しては、開腹手術は別として、現在はなるべく侵襲性の低い内視鏡手術が実施される。特に消化器に関してはほぼ内視鏡で手術が行われており、太さおおよそ直径10mmの内視鏡スコープを使い、鉗子チャンネルでカテーテルなどを送り込む。鉗子チャンネルの径はおおよそ直径2.8mmである。そのため、消化器内での損傷部位を保護するのは容易では無く、現在知られているものとしてはトロンビンやフィブリノーゲンなどの止血剤の噴霧や一部ポリグリコール酸のフェルトを小さく裁断して用いられている。ただし、これらの方法は現場のニーズを満たしているとは言い難い。
【0009】
このような状況下において、本発明は、適用部位の状況に応じてゼラチン架橋体を適切に形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題を解決するべく鋭意研究した結果、ゼラチンを含む溶液及び架橋剤を含む溶液を目的とする場所に同時に噴霧し、目的の場所で架橋させ、ゼラチン架橋体、特にゼラチン架橋体の膜を成形させる方法を開発した。この方法であれば、例えば、細管を用い、鉗子チャンネル内を通過させることにより内視鏡下の制限された状態でも、アクセスが困難な場所へも投与が可能となる。また二液を混合するだけで、目的の場所にゼラチン架橋体を形成させることができるため、適用部位の範囲に応じた大きさにコントロール可能である。
【0011】
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1]
ゼラチンを含む溶液、及び
架橋剤を含む溶液、
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧と前記架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行ってゼラチン架橋体を形成するためのキット。
[2] 前記架橋剤がタンニン酸を含み、前記ゼラチン架橋体がゼラチン-タンニン酸複合体を含む、[1]に記載のキット。
[3] 第1の流路及び第2の流路を含む噴霧器を更に含む、[1]又は[2]に記載のキット。
[4] 前記ゼラチンを含む溶液を前記第1の流路に注入して前記ゼラチンを含む溶液の噴霧を行い、前記架橋剤を含む溶液を前記第2の流路に注入して前記架橋剤を含む溶液の噴霧を行う、[3]に記載のキット。
[5] 前記ゼラチンを含む溶液におけるゼラチンの濃度が3~10質量%である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のキット。
[6] 前記架橋剤がタンニン酸を含み、前記架橋剤を含む溶液における前記タンニン酸の濃度が5~35質量%である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のキット。
[7] 前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧が、キャリア-ガスを使用して行われる、[1]~[6]のいずれか1つに記載のキット。
[8] 前記キャリア-ガスが、空気、窒素、二酸化炭素、酸素、水素、アルゴン、又はこれらの混合物を含む、[7]に記載のキット。
[9]
ゼラチン架橋体の製造装置であって、
ゼラチンを含む溶液を注入するための第1の流路、
架橋剤を含む溶液を注入するための第2の流路、及び
前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧を行うための噴霧器
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧を同時に行う、前記装置。
[10] 前記噴霧器が前記第1の流路及び前記第2の流路を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧が同一の噴霧器によって行われる、[9]に記載の装置。
[11] 前記噴霧器が、前記第1の流路を含む第1の噴霧器と前記第2の流路を含む第2の噴霧器とを含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧が前記第1の噴霧器によって行われ、前記架橋剤を含む溶液の噴霧が前記第2の噴霧器によって行われる、[9]に記載の装置。
[12] [9]~[11]のいずれか1つに記載の装置の作動方法であって、
前記ゼラチンを含む溶液と前記架橋剤を含む溶液が、同時に同一箇所に噴霧されるように作動させること
を含む、前記方法。
[13]
ゼラチン架橋体の製造方法であって、
ゼラチンを含む溶液の噴霧と架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行って前記ゼラチン架橋体を形成する工程
を含む、前記方法。
【0012】
[14] 前記架橋剤がタンニン酸を含み、前記ゼラチン架橋体がゼラチン-タンニン酸複合体を含む、[9]~[11]のいずれか1つに記載の装置、又は[12]若しくは [13]に記載の方法。
[15] 第1の流路及び第2の流路を含む噴霧器を更に含む又は使用する、[9]~[11]及び[14]のいずれか1つに記載の装置、又は[12]~[14]のいずれか1つに記載の方法。
[16] 前記ゼラチンを含む溶液を前記第1の流路に注入して前記ゼラチンを含む溶液の噴霧を行い、前記架橋剤を含む溶液を前記第2の流路に注入して前記架橋剤を含む溶液の噴霧を行う、[15]に記載の装置又は方法。
[17] 前記ゼラチンを含む溶液におけるゼラチンの濃度が3~10質量%である、[9]~[11]及び[14]~[16]のいずれか1つに記載の装置、又は[12]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
[18] 前記架橋剤がタンニン酸を含み、前記架橋剤を含む溶液における前記タンニン酸の濃度が5~35質量%である、[9]~[11]及び[14]~[17]のいずれか1つに記載の装置、又は[12]~[17]のいずれか1つに記載の方法。
[19] 前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧が、キャリア-ガスを使用して行われる、[9]~[11]及び[14]~[18]のいずれか1つに記載の装置、又は[12]~[18]のいずれか1つに記載の方法。
[20] 前記キャリア-ガスが、空気、窒素、二酸化炭素、酸素、水素、アルゴン、又はこれらの混合物を含む、[19]に記載の装置又は方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、適用部位の状況に応じてゼラチン架橋体を適切に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
図2】実施例2の胃ESDモデル組織での噴霧前後の状態を示す図及び写真である。
図3】実施例3の0.001N HClで調製した1%ペプシン溶液での耐消化性試験の結果を示す写真である。
図4】実施例3の0.1N HClで調製した1%ペプシン溶液での耐消化性試験の結果を示す写真である。
図5】実施例4の胃ESDモデル組織を使用した接着性試験を示す写真である。
図6】実施例5の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
図7A】実施例6の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
図7B】実施例6の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
図8】実施例7の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
図9】実施例8の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
図10】実施例9-1のブタの胃を使用した接着性及び被覆性の試験を示す写真である。
図11】実施例9-2のブタの胃を使用した接着性及び被覆性の試験を示す写真である。
図12】実施例10-1のブタの胃を使用した接着性及び被覆性の試験を示す写真である。
図13】実施例10-2のブタの胃を使用した接着性及び被覆性の試験を示す写真である。
図14】比較例1の押し出し後のシャーレの状態を示す写真である。
図15】比較例2の押し出し後のシャーレの状態を示す写真である。
図16】比較例3の押し出し後のシャーレの状態を示す写真である。
図17】比較例4の噴霧後のシャーレの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
1.キット
本発明のキットは、
ゼラチンを含む溶液、及び
架橋剤を含む溶液、
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧と前記架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行ってゼラチン架橋体を形成するためのキットである。
【0016】
上記ゼラチンを含む溶液の噴霧と上記架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行う。本明細書において噴霧を同時に行うとは、一方の噴霧の開始時間と他方の噴霧の開始時間との差が好ましくは1秒以内の範囲内にあることを意味する。
【0017】
一般に、ゼラチンとタンニン酸などの架橋剤とを単に混ぜただけでは即座に反応してしまい、粘性の高い不定形の不溶性架橋物となる。そのため、混合後に噴霧し、膜状成形物を作製するのは不可能である。本発明者らは、ゼラチンを含む溶液と架橋剤を含む溶液を同時に噴霧し、目的の場所で架橋させればこの問題を解決できることを見出した。このような方法は今まで報告されていない。また、このようにして得られるゼラチン架橋体の消化液の耐性を調べたところ、[実施例]において後述するように、予想を上回る耐性を示し、おおよそ1週間から2週間、酸性のペプシン溶液(胃液中に分泌される消化酵素)に耐え得ることが判明した。これは、組織を保護するという実用上でも有利な物性である。
【0018】
本発明により、例えば損傷後の組織保護、出血に対する物理的止血、あるいは癒着の防止のために、その部位の状況に応じた膜などの架橋体を成形させ、かつその制限の少ない投与方法により、侵襲が無く適用できる。
【0019】
本明細書において、「ゼラチン」とは、動物の皮膚や骨、腱などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を加えて抽出したものである。化学的には、アミノ酸の直鎖状ポリマーを主成分とする。
ゼラチンを含む溶液におけるゼラチンの濃度は、特に限定されないが、3~10質量%が好ましく、4~6質量%がより好ましく、4.5~5.5質量%が最も好ましい。ゼラチンの濃度が上記の数値範囲内であることにより、均一でかつ強固な膜が得られる。
【0020】
ゼラチンを含む溶液は、溶媒を含むことができる。
ゼラチンを含む溶液に含まれる溶媒は、特に限定されないが、注射用水などの水、リン酸緩衝液などの緩衝液、生理食塩水、又はこれらのうちの2種以上の混合物を含む又はからなることができる。これらのうちでも、注射用水を使用することができる。
ゼラチンを含む溶液における溶媒の濃度は、特に限定されないが、90~97質量、94~96質量%、又は94.5~95.5質量%とすることができる。溶媒として注射用水を使用した場合にも、ゼラチンを含む溶液における溶媒の濃度を上記数値範囲内とすることができる。
【0021】
架橋剤は、特に限定されないが、タンニン酸、ゲニピン、プロアントシアニジン、グルタルアルデヒド、ホルマリン、カルボジイミド、又はこれらのうちの2種以上の混合物を含む又はからなることができる。これらのうちでもタンニン酸が好ましい。タンニン酸を使用することにより、膜形成を速やかに実施できる。
ゼラチン架橋体は、特に限定されないが、ゼラチン-タンニン酸複合体を含む又はからなることができる。
【0022】
架橋剤を含む溶液における架橋剤の濃度は、特に限定されないが、架橋剤の種類により最適な濃度は異なる。例示としてタンニン酸の場合、5~35質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、20~30質量%が最も好ましい。架橋剤の濃度が上記の数値範囲内であることにより、膜形成が速やかに実施され、かつ強固な膜が形成される。
【0023】
架橋剤を含む溶液は、溶媒を含むことができる。
架橋剤を含む溶液に含まれる溶媒は、特に限定されないが、注射用水などの水、リン酸緩衝液などの緩衝液、生理食塩水、又はこれらのうちの2種以上の混合物を含む又はからなることができる。これらのうちでも、注射用水を使用することができる。
架橋剤を含む溶液における溶媒の濃度は、特に限定されないが、例えば、架橋剤としてタンニン酸を使用した場合には、65~95質量%、70~90質量%、又は70~80質量%とすることができる。溶媒として注射用水を使用した場合にも、架橋剤を含む溶液における溶媒の濃度を上記数値範囲内とすることができる。
【0024】
ゼラチン架橋体の形状は、特に限定されないが、膜形状、糸状、メッシュ状又はこれらのうちの2種以上の組み合わせとすることができる。これらのうちでも膜形状が好ましい。ゼラチン架橋体が膜形状であることにより、投与部位の広範囲を覆う事が出来る。
【0025】
上記キットは、第1の流路及び第2の流路を含む噴霧器を更に含むことができる。
この場合、上記ゼラチンを含む溶液を上記第1の流路に注入してゼラチンを含む溶液の噴霧を行い、上記架橋剤を含む溶液を上記第2の流路に注入して架橋剤を含む溶液の噴霧を行うことができる。
【0026】
上記キットにおいて、ゼラチンを含む溶液と架橋剤を含む溶液を用意し、それぞれをシリンジに充填し、噴霧器に取り付けることができる。噴霧器はシリンジ2本と、ガス投入口の最低3か所の入口があるものを使用できる。具体的には、トリプルルーメンカテーテルあるいはクワッドルーメンカテーテルなど、チューブ内部に3流路以上あるものを噴霧器として使用できる。噴霧器としては、噴霧型の内視鏡用散布チューブ、スプレーボトルなども使用できる。
ガス投入口に接続したガスをキャリアーガスとして噴出させ、その後、ゼラチンを含む溶液及び架橋剤を含む溶液を押し出し、キャリアーガスにて霧状に噴霧することができる。このときゼラチンを含む溶液と架橋剤を含む溶液がより細かい霧状にて混合する事により、噴霧されたゼラチンを含む溶液及び架橋剤を含む溶液が目的とする場所で固化し、霧状に噴霧する事で膜形状などの架橋体を形成させることができる。この方法であれば、例えば適用させたい箇所が体内だとしても、カテーテルを投入できるくらいの入口があれば、投与可能である。
また、カテーテルの流路を通過する成分であれば、ゼラチン及び架橋剤以外の他の成分を、ゼラチンを含む溶液及び/又は架橋剤を含む溶液に対して混ぜることも可能である。
【0027】
上記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び上記架橋剤を含む溶液の噴霧は、特に限定されないが、キャリア-ガスを使用して行うことができる。
ゼラチンとタンニン酸などの架橋剤との反応は即座に起きてしまうため、噴霧の仕方によってはムラのある架橋物になる。キャリアーガスを用いることにより、ゼラチンを含む溶液と架橋剤を含む溶液とを霧状にして、液滴の大きさを均一に保ちながら、反応させることができる。ゼラチンとタンニン酸などの架橋剤との反応は即座に起きてしまうため、噴霧の仕方を工夫することでより均一な架橋物とすることができる。キャリアーガスの使用により、ゼラチン-タンニン酸の架橋体を均一に膜状に形成できる。このようにして得られたゼラチン架橋体の膜は、均一かつ被覆性の高い膜となる。
一方、二液を同時では無く、どちらかを先に片方ずつ噴霧した場合、部分的に架橋物は形成できるがムラのある架橋体(特に膜)となってしまう。
【0028】
上記キャリア-ガスは、特に限定されないが、空気、窒素、二酸化炭素、酸素、水素、アルゴン、又はこれらのうちの2種以上の混合物を含む又はからなることができる。これらのうちでも二酸化炭素が好ましい。二酸化炭素を使用することにより、生体内で使用した場合に体内にガスが吸収されやすい。
非限定的に、キャリアーガスとして、圧縮または液化されて高圧下にあるガスを使用することができる。
【0029】
ゼラチンを含む溶液の噴霧において、噴霧圧は、特に限定されないが、0.01~1MPaが好ましく、0.05~0.5MPaがより好ましく、0.1~0.3MPaが最も好ましい。架橋剤を含む溶液の噴霧において、架橋剤としてタンニン酸を使用した場合、噴霧圧は、特に限定されないが、0.01~1MPaが好ましく、0.05~0.5MPaがより好ましく、0.1~0.3MPaが最も好ましい。噴霧圧が上記の数値範囲内であることにより、溶液を微細な霧状に噴霧できる。
上記噴霧において、噴霧距離は、特に限定されないが、0.5~30cmが好ましく、1~15cmがより好ましく、1~10cmが最も好ましい。噴霧距離が上記の数値範囲内であることにより、目的箇所に的確に噴霧でき、また、架橋物が風圧で剥離することを防止できる。
【0030】
ゼラチン架橋体の形成は、特に限定されないが、in vivo、in vitro又はex vivoで行われる。ゼラチン架橋体を形成させる場所は、特に限定されないが、例えば生体の損傷部位(例えば胃の損傷部位)などが挙げられる。上記生体は、特に限定されないが、好ましくは哺乳動物である。上記生体は、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ又はウマとすることができる。上記生体は、ヒト以外の生体とすることもできる。
【0031】
早期胃がん等を切除する手法の一つに、ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)があり、内視鏡的粘膜下層剥離術と呼ばれる。ESDでは、消化管内腔から粘膜下層までを剥離する。ESDの特長としては、2cm以上の大きな病変を切除できること、低侵襲であることが挙げられ、局所切除で済むので患者の負担が少ない。一方で、ESDの課題としては、ESD時の術中出血や、胃酸との接触等による患部の炎症、それに伴う後出血などが起きる可能性が挙げられる。このようにESDにおいては、患部を適切に処置、保護する必要があり、本発明のキット、装置、又は方法は、このようなESDに適用することができる。
【0032】
2.ゼラチン架橋体の製造装置
本発明のゼラチン架橋体の製造装置は、
ゼラチンを含む溶液を注入するための第1の流路、
架橋剤を含む溶液を注入するための第2の流路、及び
前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧を行うための噴霧器
を含み、前記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び前記架橋剤を含む溶液の噴霧を同時に行う装置である。
【0033】
上記装置は、上記噴霧器が上記第1の流路及び上記第2の流路を含み、上記ゼラチンを含む溶液の噴霧及び上記架橋剤を含む溶液の噴霧が同一の噴霧器によって行われるものとすることができる。
また、上記装置は、上記噴霧器が、上記第1の流路を含む第1の噴霧器と上記第2の流路を含む第2の噴霧器とを含み、上記ゼラチンを含む溶液の噴霧が上記第1の噴霧器によって行われ、上記架橋剤を含む溶液の噴霧が上記第2の噴霧器によって行われるものとすることができる。
【0034】
ゼラチン架橋体の製造装置においては、ゼラチンの濃度、架橋剤の濃度や種類、噴霧器、キャリアーガス、噴霧条件、架橋体の形成場所などの各構成として、上記「1.キット」に記載の各構成と同様のものを使用することができる。
【0035】
3.ゼラチン架橋体の製造装置の作動方法
本発明のゼラチン架橋体の製造装置の作動方法は、
上記「2.ゼラチン架橋体の製造装置」に記載の装置の作動方法であって、
前記ゼラチンを含む溶液と前記架橋剤を含む溶液が、同時に同一箇所に噴霧されるように作動させること
を含む。
【0036】
ゼラチン架橋体の製造装置の作動方法においては、ゼラチンの濃度、架橋剤の濃度や種類、噴霧器、キャリアーガス、噴霧条件、架橋体の形成場所などの各構成として、上記「1.キット」及び「2.ゼラチン架橋体の製造装置」に記載の各構成と同様のものを使用することができる。
【0037】
4.ゼラチン架橋体の製造方法
本発明のゼラチン架橋体の製造方法は、
ゼラチンを含む溶液の噴霧と架橋剤を含む溶液の噴霧とを同時に行って前記ゼラチン架橋体を形成する工程
を含む。
【0038】
ゼラチン架橋体の製造方法において、ゼラチンの濃度、架橋剤の濃度や種類、噴霧器、キャリアーガス、噴霧条件、架橋体の形成場所などの各構成として、上記「1.キット」、「2.ゼラチン架橋体の製造装置」、及び「3.ゼラチン架橋体の製造装置の作動方法」に記載の各構成と同様のものを使用することができる。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0040】
(実施例1)
ゼラチン(BP-250、株式会社ニッピ製)5gを注射用水(光製薬株式会社製)95gに溶解した後、0.45μmフィルターによりろ過を行った。得られたろ液に対して、溶液の状態を判別しやすくするために食紅により着色し、5%(質量%)ゼラチン溶液を調製した。
次に、タンニン酸(富士化学工業株式会社製)20gを注射用水80gに溶解した後、0.45μmフィルターによりろ過を行い、得られたろ液を20%(質量%)タンニン酸溶液とした。
上記のようにして得られた5%ゼラチン溶液および20%タンニン酸溶液それぞれをシリンジに充填し、充填済シリンジを噴霧器にそれぞれ接続した。噴霧器は内部に2つの送液流路と2つの送気流路を持つクワッドルーメンカテーテルであるベリP内視鏡用カテーテル(22900BZX00229000(医療機器承認番号)、JC05300(発注番号)、SBカワスミ株式会社製)を使用した。上記噴霧器におけるカテーテルの長さは200cmで最大外径は2.5mmである。上記噴霧器を送気源となる窒素ガスボンベに接続し、ガスの圧力を0.25MPaに設定した(必要に応じて圧力は加減した)。送気源の元栓を開けてキャリア-ガス(窒素)により送気し、その後、上記ゼラチン溶液と上記タンニン酸溶液のシリンジを同時に押し出すことで、それぞれ4.3mL分を、7cm離れた真上から10cmシャーレ上に噴霧した。噴霧後のシャーレの状態を図1に示す。
図1に示すように、送気ガスに乗る形でゼラチン溶液及びタンニン酸溶液が霧状で噴霧され、標的箇所で反応させることができた。
【0041】
(実施例2)
ブタ胃組織の粘膜下層を切除し、胃ESDモデル組織を作製した。10cmシャーレの代わりに胃ESDモデル組織を使用する以外は、実施例1と同様の方法及び条件で上述のベリP内視鏡用カテーテルを用いてゼラチン溶液とタンニン酸溶液を胃ESDモデル組織上に噴霧した。胃ESDモデル組織での噴霧前後の状態を図2に示す。
図2に示すように、ブタ胃組織10の粘膜下層の一部を切除し、粘膜下層を剥離した部分20を形成した。そして、粘膜下層を剥離した部分20の上に、ゼラチン溶液とタンニン酸溶液とを同時に噴霧し、ゼラチン架橋体30を形成した。図2の(A)が噴霧前のブタ胃組織10(粘膜下層を剥離した部分20を含む)、(B)が噴霧後のブタ胃組織10(ゼラチン架橋体30の被覆を含む)である。図2のとおり、噴霧後にESD部位がゼラチン架橋膜で被覆できていることを確認した。
【0042】
(実施例3)
実施例2で作製した、ゼラチン架橋膜で被覆した胃ESDモデル組織を0.1N HCl-1%ペプシン溶液または0.001N HCl-1%ペプシン溶液に浸漬し、37℃でインキュベートすることで耐消化性を確認した。0.001N HClで調製した1%ペプシン溶液又は0.1N HClで調製した1%ペプシン溶液での耐消化性試験の結果を図3及び4にそれぞれ示す。
図3において、D0、D1、D3、D7、D10、及びD14の写真は、それぞれ噴霧直後、1日後、3日後、7日後、10日後、及び14日後の状態を示す写真である。図4において、D0、D1、D2、D5、及びD6の写真は、それぞれ噴霧直後、1日後、2日後、5日後、及び6日後の状態を示す写真である。
【0043】
図3に示すように、0.001N HClで調製した1%ペプシン溶液での耐消化性試験では2週間たっても、ゼラチン-タンニン酸複合体は消化されなかった。このペプシン溶液のpHは4であり、制酸剤を投与した場合に達成可能なpHである。
一方、図4に示すように、0.1N HClで調製した1%ペプシン溶液での耐消化性試験では1週間程度の保持が確認されたが、経時的なゆるやかな消化が確認できた。この結果より、制酸剤の投与をやめれば、胃酸により徐々に消化されることが示唆された。
【0044】
(実施例4)
実施例2で作製した、ゼラチン架橋膜で被覆した胃ESDモデル組織をピンセットで掴み37℃に温めた生理食塩水中で振盪させることで接着性を確認した。接着性試験後の胃ESDモデル組織の状態を図5に示す。
図5に示すように、振盪中にブタ胃組織から複合体が容易に剥がれることはなかった。
【0045】
(実施例5)
ゼラチン(BP-250、株式会社ニッピ製)を注射用水(光製薬株式会社製)に所定の比率で溶解することで、1%、3%、5%、7%、又は10%(質量%)のゼラチン溶液を調製した。次にタンニン酸(MP biomedicals,Inc製)を注射用水(光製薬株式会社製)に溶解し、25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。そして、実施例1と同様の装置及び方法を使用し、ガスの圧力を0.25MPa、吐出量を各4.3mLとなるように、7cm離れた真上から10cmシャーレ全面に向けて噴霧した。噴霧後のシャーレを真上から撮影し、ゼラチン架橋体の膜の被覆性を観察した。噴霧後のシャーレの状態を図6に示す。
【0046】
図6に示すように、ゼラチン濃度が1%の場合、被覆性が低く、これは低濃度であるためと考えられる。ゼラチン濃度が3%から7%にかけて濃度依存的に被覆性が高くなっていった。ゼラチン濃度が10%となるとスムーズな吐出が困難となり、吐出が不安定となった。これは濃度が高すぎるためと考えられる。また、ゼラチン濃度が10%の場合、一部塊状のゼラチン架橋物も観察された。
したがって、均一かつ被覆性の高いゼラチン架橋膜を形成させるためには、ゼラチン濃度は3%~10%の間が好ましく、より好ましくは5%~7%、さらに好ましくは5%であることがわかった。
【0047】
(実施例6)
実施例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液を調製した。また、タンニン酸(MP biomedicals, Inc製)を注射用水(光製薬株式会社製)に所定の比率で溶解することで、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%(質量%)のタンニン酸溶液を調製した。上記の5%ゼラチン溶液と上記の各濃度のタンニン酸溶液をそれぞれシリンジに充填し、ベリP内視鏡用カテーテル(22900BZX00229000(医療機器承認番号)、JC05300(発注番号)、SBカワスミ株式会社製)に接続した。実施例1と同様の装置を準備し、窒素ガスボンベに接続し、ガスの圧力を0.25MPaに設定した。ゼラチン溶液及びタンニン酸溶液の吐出量は各1.3mLとなるように7cm離れた真上から10cmシャーレ全面に向けて噴霧した。噴霧後のシャーレを真上から撮影し、ゼラチン架橋体の膜の状態を観察した。噴霧後のシャーレの状態を図7A及び7Bに示す。
【0048】
図7A及び7Bに示すように、タンニン酸濃度が1%の場合、ほとんど溶液状態のままであり、これは低濃度で架橋度が乏しいためと考えられる。また、タンニン酸濃度が5%~35%にかけて濃度依存的に架橋膜の物理的強度が向上していった。しかし、タンニン酸が高濃度となると、噴霧器の吐出口付近で瞬時に架橋が生じてしまい、安定した噴霧が困難となる傾向がみられた。
したがって、吐出性に優れ均一なゼラチン架橋膜を形成させるためにはタンニン酸濃度は、5%~35%が好ましく、より好ましくは10%~30%、さらに好ましくは20%~30%であることがわかった。
【0049】
(実施例7)
実施例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液を調製した。また、タンニン酸(MP biomedicals, Inc製)を注射用水(光製薬株式会社製)で溶解することで、25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。実施例1で用いたクワッドルーメンカテーテルの代わりに内視鏡用散布チューブであるファイン・ジェット噴霧型S2816(株式会社トップ製)を使用した。上記内視鏡用散布チューブを2本用意し、それぞれにゼラチン溶液及びタンニン酸溶液を充填し、吐出量を各1.3mLとなるように、7cm離れた真上から10cmシャーレ上に同時に押し出して噴霧した。噴霧後のシャーレの状態を図8に示す。
図8に示すように、成形物は霧状に噴霧混合され、ゼラチン架橋膜を形成させることができた。
【0050】
(実施例8)
実施例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液を調製した。また、タンニン酸(MP biomedicals, Inc製)を注射用水(光製薬株式会社製)で溶解することで、25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。それぞれを20mL容量の携帯用スプレーボトル(Kivvo社製)の容器に入れて、各1.3mL分(0.1mL/回×13回)を7cm離れた真上から10cmシャーレ上に同時に噴霧し、ゼラチン架橋膜を形成させた。噴霧後のシャーレの状態を図9に示す。
図9に示すように、2本の携帯用スプレーボトルによる同時の噴射により、ゼラチン架橋膜を形成させることは可能であった。形成された膜の均一性の観点では、実施例1のクワッドルーメンカテーテルによる噴霧の方が、実施例8の2本の携帯用スプレーボトルによる噴霧の場合に比べて、均一性に優れていた。これは、クワッドルーメンカテーテルによる噴霧の方が、手動のスプレーボトルによる噴霧に比べて、2つの溶液をより均一かつ同時に噴霧できるためと考えられる。
【0051】
(実施例9-1)
ブタ(SPF家畜ブタ、30kg~35kg、雌、有限会社荒戸山SPFファーム)の胃角部大弯にESD(直径2cmの円形)を施し、粘膜下組織を暴露させた。暴露された粘膜下組織に対して、下記のようにゼラチン溶液及びタンニン酸溶液を噴霧してゼラチン架橋膜を形成し、接着性および被覆性の確認を行った。
【0052】
まず、ゼラチン(BP-250、株式会社ニッピ製)10gを注射用水(光製薬株式会社製)190gに溶解した後、0.45μmフィルターによりろ過を行い、得られたろ液を5%(質量%)のゼラチン溶液とした。また、タンニン酸(富士化学工業株式会社製)50gを注射用水150gに溶解した後、0.45μmフィルターによりろ過を行い、得られたろ液を25%(質量%)タンニン酸溶液とした。そして、上記のブタを麻酔器(アコマ動物用麻酔器:NS-5000A:アコマ医科工業株式会社製)を用いて深麻酔状態にした後、術室に移動させ、術台に左側臥位で固定させた。予め挿入したオーバーチューブより、内視鏡スコープを胃内に挿入し、送気した。挿入した内視鏡スコープで胃内を確認し、食物残渣を洗浄した後、ESD処置を行う箇所に高周波ナイフを用いてマーキングを行った。マーキング箇所の粘膜下層に内視鏡用粘膜下注入材(ムコアップ:生化学工業株式会社製)を適量注入し、粘膜を隆起させ、ESD処置を行った。上記のようにして調製した5%ゼラチン溶液及び25%タンニン酸溶液をそれぞれシリンジに充填し、充填済シリンジをベリP内視鏡用カテーテル(22900BZX00229000(医療機器承認番号)、JC05300(発注番号)、SBカワスミ株式会社製)にそれぞれ接続後、送気量0.25MPa~0.3MPaの条件で噴霧を行った。およそ2cm直径のESD部位に、上記ゼラチン溶液及び上記タンニン酸溶液それぞれについて10mLを2回に分けて(5mL/回×2回)、同時に噴霧し、ゼラチン架橋膜を形成させた。結果を図10に示す。図10は、EVIS LUCERA ELITE(オリンパス株式会社製)の内視鏡システムおよび消化管ビデオスコープ(GIF―Q260J:オリンパス株式会社製)を用いて解像度1920×1080(フルHD)の条件下で動画を撮影し、当該動画から作成した静止画である。図10において、(A)が噴霧前、(B)が噴霧後の状態を示す。
図10に示すように、形成したゼラチン架橋膜は、目的の箇所であるESD部位に接着し、膜として被覆できることが確認できた。
【0053】
(実施例9-2)
上記実施例9-1で使用したブタについて、さらに、重力を受ける胃体中部大弯に実施例9-1と同様のサイズ(直径2cmの円形)のESDを施し、粘膜下組織を暴露させた。上記ゼラチン溶液及び上記タンニン酸溶液それぞれの噴霧量及び噴霧回数として、実施例9-1の5mL/回×2回に代えて2.5mL/回×1回とする以外は上記実施例9-1と同様の溶液、装置及び条件を使用して、上記ゼラチン溶液及び上記タンニン酸溶液それぞれを同時に噴霧して、ゼラチン架橋膜を形成した。結果を図11に示す。図11は、実施例9-1と同様の内視鏡システムおよび消化管ビデオスコープを用いて解像度1920×1080(フルHD)の条件下で動画を撮影し、当該動画から作成した静止画である。図11において、(A)が噴霧前、(B)が噴霧後の状態を示す。
図11に示すように、形成したゼラチン架橋膜は、組織に対する接着力を発揮し、容易に剥離しないことが確認できた。
【0054】
(実施例10-1)
実施例9-1で用いたブタと同種のブタを用いて、胃体下部大弯にESD(直径1cmの円形)を施し、粘膜下組織を暴露させた。暴露された粘膜下組織に対して鉗子を用いて傷を付けることで出血をさせた。出血箇所に対して、下記のようにして、ゼラチン溶液及びタンニン酸溶液を同時に噴霧し、ゼラチン-タンニン酸膜の止血に対する影響の確認を行った。
噴霧したゼラチン溶液およびタンニン酸溶液は実施例9-1で調製したものと同じ組成の溶液を用いた。ESD処置の方法も実施例9-1と同じとした。上記ゼラチン溶液及びタンニン酸溶液をそれぞれシリンジに充填し、充填済シリンジをベリP内視鏡用カテーテル(22900BZX00229000(医療機器承認番号)、JC05300(発注番号)、SBカワスミ株式会社製)に接続後、送気量0.25MPa~0.3MPaの条件で、粘膜下組織の出血箇所(1cm直径のESD部位)に対して、各溶液:2.5mLを同時に噴霧して、ゼラチン架橋膜を形成した。結果を図12に示す。図12は、実施例9-1と同様の内視鏡システムおよび消化管ビデオスコープを用いて解像度1920×1080(フルHD)の条件下で動画を撮影し、当該動画から作成した静止画である。図12において、(A)が噴霧前、(B)が噴霧後の状態を示す。
図12に示すように、形成したゼラチン架橋膜は、粘膜下組織の出血箇所に接着し、出血箇所を被覆することができた。また、ゼラチン架橋膜により血液のにじみ等も抑えられていることが確認できた。これらの結果より、出血箇所を物理的に覆うことで、生体内の止血作用をサポートできることが示唆された。
【0055】
(実施例10-2)
さらに、実施例9-1で用いたブタと同種のブタ(上記実施例10-1のブタとは別の個体)を用いて、胃体中部大弯で大きなESD部位(直径3cmの円形)を作製し、上記実施例10-1と同様の溶液、装置及び条件を使用して、上記ゼラチン溶液及び上記タンニン酸溶液それぞれを同時に噴霧して、ゼラチン架橋膜を形成した。結果を図13に示す。図13は、実施例9-1と同様の内視鏡システムおよび消化管ビデオスコープを用いて解像度1920×1080(フルHD)の条件下で動画を撮影し、当該動画から作成した静止画である。図13において、(A)が噴霧前、(B)が噴霧後の状態を示す。
図13に示すように、形成したゼラチン架橋膜は、実施例10-1の小さなESD部位の場合と同じように、粘膜下組織の出血箇所に接着し、被覆することができた。また、ゼラチン架橋膜により血液のにじみ等も抑えられていることが確認できた。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液を調製した。また、タンニン酸(MP biomedicals, Inc製)を注射用水(光製薬株式会社製)で溶解することで、25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。実施例1で用いたクワッドルーメンカテーテルの代わりにダブルルーメンカテーテル(ボルヒール(登録商標) ダブルルーメンカテーテル、22900BZX00288000(医療機器承認番号)、ニプロ株式会社製)を使用した。上記ダブルルーメンカテーテルを使用して、シリンジに充填したゼラチン溶液及びタンニン酸溶液をそれぞれ吐出量1.3mLとなるように、7cm離れた真上から10cmシャーレ上に同時に押し出した。押し出し後のシャーレの状態を図14に示す。
図14に示すように、押し出しによる成形物は溶液状態で混合され、膜形成はできず塊状となった。実施例1のクワッドルーメンカテーテルによる成形とは異なり、比較例1でのダブルルーメンカテーテルによる成形では、噴霧ではなく押出しにより成形が行われたため、膜形成が適切にできないことがわかった。
【0057】
(比較例2)
比較例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液と25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。実施例1と同様のクワッドルーメンカテーテルを使用し、キャリア-ガスによる送気をせずにシリンジに充填したゼラチン溶液とタンニン酸溶液をそれぞれ吐出量1.3mLとなるように7cm離れた真上から10cmシャーレ上に同時に押し出した。押し出し後のシャーレの状態を図15に示す。
図15に示すように、霧状に噴霧されることはないため、成形物は溶液状態で混合され、膜状にはならず塊状になった。実施例1の噴霧による成形とは異なり、比較例2での押出しによる成形では、膜形成が適切にできないことがわかった。
【0058】
(比較例3)
比較例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液と25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。実施例1で用いたクワッドルーメンカテーテルの代わりに内視鏡用散布チューブであるファイン・ジェット送水型W2816(株式会社トップ製)を使用した。上記内視鏡用散布チューブを2本用意し、それぞれにゼラチン溶液とタンニン酸溶液を充填し、吐出量を各1.3mLとなるように7cm離れた真上から10cmシャーレ上に同時に押し出した。押し出し後のシャーレの状態を図16に示す。
図16に示すように、各溶液は送水されるのみであるため、上手く混合されずにほとんどが溶液状態にとどまった。実施例1のクワッドルーメンカテーテルによる成形や実施例7の噴霧型の内視鏡用散布チューブによる成形とは異なり、比較例3での送水型の内視鏡用散布チューブによる成形では、噴霧ではなく押出し成形が行われたため、膜形成が適切にできないことがわかった。
【0059】
(比較例4)
比較例1と同様にして、5%(質量%)ゼラチン溶液と25%(質量%)タンニン酸溶液を調製した。調整したゼラチン溶液及びタンニン酸溶液それぞれを携帯用スプレーボトル(Kivvo社製)の容器に入れて、7cm離れた真上から10cmシャーレ上に交互に噴霧させ、ゼラチン-タンニン酸複合体を形成させた。噴霧後のシャーレの状態を図17に示す。
図17に示すように、図1で示された実施例1と比べて、膜が不均一となった。比較例4では噴霧により成形を行ったものの、実施例1や実施例8の噴霧とは異なり、噴霧が同時ではなく交互に行われたため、すでに噴霧された片方の液が圧力で偏り、十分に混合できず不均一性をもたらしたと考えられる。組織保護を意図する場合、不均一な膜は環境中からの様々な攻撃を防ぐ観点から望ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、カテーテルが通過できる入口があれば、組織保護が可能な膜を体内で形成させることができ、例えば胃がんの切除術であるESDの術後組織の保護など、アクセスしづらい場所の損傷部位の保護が可能となる。
【符号の説明】
【0061】
10 ブタ胃組織
20 粘膜下層を剥離した部分
30 ゼラチン架橋体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17