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特開2024-54924硬化性高分子化合物、及び該化合物を含む樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054924
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】硬化性高分子化合物、及び該化合物を含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20240411BHJP
   C08F 299/00 20060101ALI20240411BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20240411BHJP
   C09J 125/08 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F299/00
C09J7/35
C09J125/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161390
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】林本 成生
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4J004AA06
4J004FA05
4J040DB041
4J040LA09
4J040NA19
4J100AB02P
4J100AB02Q
4J100BA02H
4J100BB01Q
4J100BC43H
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA04
4J100HA19
4J100HA62
4J100HC11
4J100HE08
4J100JA03
4J127AA01
4J127AA03
4J127AA04
4J127BB041
4J127BB071
4J127BB191
4J127BC021
4J127BD041
4J127BE041
4J127BE04X
4J127BE051
4J127BE05X
4J127BE211
4J127BE21Y
4J127BG051
4J127BG05X
4J127BG05Y
4J127BG121
4J127BG12Y
4J127CA01
4J127FA02
4J127FA03
4J127FA14
4J127FA17
4J127FA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フィルム状にすることができるだけの十分なフレキシビリティーを有し、ラジカル開始剤を併用した組成物の硬化物は、低粗度銅箔に対する接着性が高く、かつ誘電率及び誘電正接の低い硬化性高分子化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される高分子化合物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表す。m及びnは繰り返し単位数の平均値であって、それぞれ独立に1乃至2,000の範囲にある実数を表す。)
で表される高分子化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子化合物及びラジカル開始剤を含む樹脂組成物。
【請求項3】
更にラジカル反応性基を有する化合物を含む請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の樹脂組成物の硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の高分子化合物であって、該高分子化合物を含む有機溶剤溶液を基材にキャストすることにより容易にフィルム状に成形することができ、ラジカル開始剤を併用した樹脂組成物は熱あるいは光硬化が可能で、かつその硬化物は誘電特性及び接着性に優れる高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノキシ樹脂は二官能のエポキシ樹脂と二官能のフェノール化合物を重合することにより得られる分子量の非常に大きな高分子化合物である。このフェノキシ樹脂を添加することにより、一般的なエポキシ樹脂組成物やラジカル重合性組成物をフィルム状にすることができるため、フィルム状接着剤の重要な成分として幅広い分野で使用されており、特に電気・電子分野においてはプリント配線基板の層間絶縁層や樹脂付き銅箔などに用いられている。
【0003】
フェノキシ樹脂を添加した樹脂組成物の硬化物は接着性に優れフィルム形成能は有するものの耐熱性が低く、しかも誘電率及び誘電正接が高いため(一般的には周波数1GHzで誘電率3.5、誘電正接0.03程度である。)、近年の信号応答速度が高速化した電子機器用途には使用できないのが実情である。誘電特性に優れた樹脂としてはポリテトラフルオロエタン(PTFE)などの高分子フッ素化合物(特許文献1)や液晶ポリマー(特許文献2)が一般に知られているが、これらの樹脂は他の樹脂との相溶性が極めて低く、接着性も不充分である。特許文献3には、70重量%以下の1個のエチレン性不飽和基を有する単量体と30重量%以上の1個以上の脂肪族水酸基を有する(メタ)アクリレートとのランダム共重合体中の脂肪族水酸基に、1個以上のエチレン性不飽和基と1個のカルボキシル基を有する単量体をエステル化反応させて得られる硬化性高分子化合物が記載されているが、本発明者が追試したところ、同文献の構造式で得られた硬化性高分子化合物の硬化物は、10GHzの誘電正接が0.005程度であり、現在の高周波回路基板用途に求められる低誘電特性を充分に満たすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-001274号公報
【特許文献2】特開2014-060449号公報
【特許文献3】特開平10-017812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、フィルム状にすることができるだけの十分なフレキシビリティーを有し、ラジカル開始剤を併用した組成物の硬化物は、低粗度銅箔に対する接着性が高く、かつ誘電率及び誘電正接の低い硬化性高分子化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定構造の高分子化合物、及び該化合物を含む樹脂組成物を用いることにより上記の課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は、
(1)下記式(1)
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表す。m及びnは繰り返し単位数の平均値であって、それぞれ独立に1乃至2,000の範囲にある実数を表す。)で表される高分子化合物、
(2)前項(1)記載の高分子化合物及びラジカル開始剤を含む樹脂組成物、
(3)更にラジカル反応性基を有する化合物を含む前項(2)に記載の樹脂組成物、
(4)前項(2)又は(3)に記載の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤、及び
(5)前項(2)又は(3)に記載の樹脂組成物の硬化物、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子化合物はフィルム状にすることができるだけの十分なフレキシビリティーを有し、該高分子化合物にラジカル開始剤を併用した樹脂組成物を熱或いは光エネルギーで硬化させることにより、誘電特性、接着性、耐熱性及び耐水性に優れた硬化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の上記式(1)で表される高分子化合物は、下記式(2)で表されるランダム共重合体を中間原料とし、該ランダム共重合体が有するクロロメチル基と、アリル基を含有するフェノール化合物の水酸基との脱塩酸縮合反応によって得られる。尚、式(2)中のm及びnは、式(1)におけるm及びnと同じ意味を表す。
【0011】
【化2】
【0012】
先ず、本発明の高分子化合物の中間原料である上記式(2)で表されるランダム共重合体(以下、単に「共重合体」と記載する)について説明する。
上記式(2)で表される共重合体は、クロロメチルスチレンとスチレンの共重合物である。
【0013】
共重合体の原料であるクロロメチルスチレンの具体例としては、4-クロロメチルスチレン、3-クロロメチルスチレン並びに3-クロロメチルスチレン、又はそれらの混合物が挙げられるが、4-クロロメチルスチレンが好ましい。
【0014】
クロロメチルスチレンとスチレンとの共重合方法は公知の方法であれば特に限定されず、例えば塊状重合、溶液重合、乳化重合及び懸濁重合などが挙げられる。
溶液重合に使用可能な溶剤としては、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びγ-ブチロラクトンなどが挙げられる。乳化重合及び懸濁重合には通常水と界面活性剤が用いられ、水中で原料成分を乳化あるいは懸濁した状態で共重合反応が行われる。
【0015】
共重合反応はラジカル重合、カチオン重合及びアニオン重合のいずれであっても構わない。ラジカル重合の場合は、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、過酸化水素、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド及びジラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。またラジカル重合開始剤にTEMPO試薬、RAFT試薬等を併用して行うリビングラジカル重合も可能である。
ラジカル重合開始剤の配合量は、共重合体の原料成分100質量部に対して通常0.001乃至5質量部である。重合温度は通常50乃至250℃、好ましくは60乃至200℃であり、重合時間は通常0.5乃至30時間、好ましくは1乃至20時間である。ラジカル重合反応は空気中の酸素に重合阻害を防ぐために、窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0016】
カチオン重合開始剤の具体例としては、硫酸及び塩酸等の無機酸、CFCOOH及びCClCOOH等の有機酸、CFSOH及びHClO等の超強酸が挙げられる。またアニオン重合開始剤の具体例としては、ブチルリチウム、Na-ナフタレン錯体、アルカリ金属、アルキルリチウム化合物、ナトリウムアミド、グリニャール試薬及びリチウムアルコキシド等が挙げられる。しかしながら、カチオン重合やアニオン重合に使用されるイオン性の開始剤は、重合反応後も共重合体中に残存して誘電特性や絶縁性に悪影響を及ぼす懸念があるため、本発明の高分子化合物の中間原料となる共重合体の合成は、ラジカル重合で行うことが好ましい。
カチオン重合開始剤又はアニオン重合開始剤の配合量は、共重合体の原料成分100質量部に対して通常0.01乃至5質量部である。重合温度は通常40乃至150℃、好ましくは50乃至120℃であり、重合時間は通常0.5乃至20時間、好ましくは1乃至15時間である。
【0017】
本発明の高分子化合物の中間原料となる共重合体の数平均分子量は通常3,000乃至300,000であり、好ましくは5,000乃至200,000である。
数平均分子量が前記の範囲内の共重合体を得るためには、共重合体を合成する際の開始剤の使用量を適切な量に調整することが好ましい。数平均分子量が前記の範囲内の共重合体を得るために必要な開始剤の量は、開始剤の量を減ずると分子量の大きな共重合体が得られることが一般に知られており、上記した配合量の範囲内で所望の分子量の共重合体が得られる開始剤の配合量を選択すればよい。
【0018】
本発明の高分子化合物の中間原料となる共重合体を合成する際のクロロメチルスチレンとスチレンの使用割合は特に限定されないが、スチレンの使用量(質量)はクロロメチルスチレンの質量の通常4乃至99.7倍、好ましくは4.5乃至99.5倍である。共重合体の原料となるクロロメチルスチレンとスチレンの使用割合を前記の範囲とすることにより、その硬化物が優れた誘電特性(低誘電率及び低誘電正接)を発現する本発明の高分子化合物が得られる。
【0019】
本発明の高分子化合物は、前記の共重合体が有するクロロメチル基と、アリル基を有するフェノール化合物が有するフェノール性水酸基との脱塩酸反応により得られる。アリル基を有するフェノール化合物の具体例としては、2-アリルフェノール、2-アリル-6-メチルフェノール、オイゲノールなどが挙げられ、特に2-アリルフェノールが好ましい。
【0020】
本発明の高分子化合物を合成する際の共重合体とアリル基を有するフェノール化合物の使用割合は特に限定されないが、共重合体の有するクロロメチル基に対する水酸基が過剰な場合や不足する場合は、高分子化合物中に未反応のまま残存するクロロメチルスチレンやクロロメチルスチレンと反応せずに残る水酸基が硬化物の諸特性に悪影響をもたらす可能性があるため、共重合体の有するクロロメチル基と等当量のアリル基を有するフェノール化合物を使用することが好ましい。
【0021】
共重合体とアリル基を有するフェノール化合物との反応は、共重合体の有機溶剤溶液中に、撹拌下でアリル基を有するフェノール化合物を添加して反応させればよい。ここで用い得る有機溶剤は共重合体及びクロロメチルスチレンを溶解し得るものであれば特に限定されず、中間原料となる共重合体を溶剤中で合成した場合は、重合反応後の共重合体溶液をそのまま用いてもよい。ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートとの反応に供する共重合体溶液の濃度は通常10乃至90質量%、好ましくは20乃至80質量%である。また、反応温度は通常50乃至130℃、好ましくは60乃至110℃であり、反応時間は通常0.5乃至15時間、好ましくは1乃至10時間である。
【0022】
共重合体とアリル基を有するフェノール化合物との反応は、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことによってスムーズに進行させることができる。
用い得るアルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態、即ち、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液の形で用いられる。
アルカリ金属水酸化物の使用量はアリル基を有するフェノール化合物と等モル以上であることが好ましい。
【0023】
共重合体とアリル基を有するフェノール化合物との反応は、相間移動触媒の存在下で行うことによってもスムーズに進行させることができる。即ち、共重合体とアリル基を有するフェノール化合物との反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で行うことがより好ましい。
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド及びテトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
相関移動触媒の使用量は、アリル基を有するフェノール化合物に対して通常0.05倍乃至1倍モル、好ましくは0.1倍乃至0.8倍モルである。
【0024】
共重合体とアリル基を有するフェノール化合物との反応終了後に系中に残存する4級アンモニウム塩や反応によって生じる中和塩は、常法に従い水洗やメタノールなどの貧溶媒中への滴下による沈殿法などにより除去することができる。
【0025】
こうして得られた本発明の高分子化合物の数平均分子量の範囲は、好ましくは11,000乃至300,000、より好ましくは15,000乃至200,000である。前記の範囲よりも分子量が小さい場合は低粗度銅箔に対する接着性が低くなり、大きい場合は粘度が高くなり塗工等が困難となることがある。
尚、本明細書における分子量は、GPCの測定結果に基づいてポリスチレン換算で算出した値を意味する。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、本発明の高分子化合物及びラジカル開始剤を含有する。ラジカル開始剤としては、熱ラジカル開始剤、光ラジカル開始剤のいずれも使用することができる。
好ましい熱ラジカル開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド及びトリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。
【0027】
好ましい光ラジカル開始剤の例としてはベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オンや2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1;アシルホスフィンオキサイド類およびキサントン類等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物におけるラジカル開始剤の含有量は、高分子化合物及び後述する任意成分であるラジカル反応性基を有する化合物等の樹脂成分の合計100質量部に対して、通常0.1乃至10質量部、好ましくは0.1乃至8質量部である。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、ラジカル重合性基を有する化合物を併用してもよい。本発明の樹脂組成物に併用し得るラジカル重合性基を有する化合物は、数平均分子量が概ね1,000未満のラジカル重合性モノマーと数平均分子量が概ね1,000以上のラジカル重合性ポリマーのどちらでもよく、両者を併用しても構わない。
【0030】
ラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーの具体例としては、アセナフチレン、N-フェニルマレイミド、N-ビニル-2-ピロリドン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングルコールジメタクリレート、トリエチエレングルコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグルコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物メタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、イソフタル酸ジビニル、N-フェニル-マレイミド、N-フェニル-メチルマレイミド、N-フェニル-クロロマレイミド、N-p-クロロフェニル-マレイミド、N-p-メトキシフェニル-マレイミド、N-p-メチルフェニル-マレイミド、N-p-ニトロフェニル-マレイミド、N-p-フェノキシフェニル-マレイミド、N-p-フェニルアミノフェニル-マレイミド、N-p-フェノキシカルボニルフェニル-マレイミド、1-マレイミド-4-アセトキシスクシンイミド-ベンゼン、4-マレイミド-4’-アセトキシスクシンイミド-ジフェニルメタン、4-マレイミド-4’-アセトキシスクシンイミド-ジフェニルエーテル、4-マレイミド-4’-アセトアミド-ジフェニルエーテル、2-マレイミド-6-アセトアミド-ピリジン、4-マレイミド-4’-アセトアミド-ジフェニルメタンおよびN-p-フェニルカルボニルフェニル-マレイミドN-エチルマレイミド、N-2.6-キシリルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-2,3-キシリルマレイミド、キシリルマレイミド、2,6-キシレンマレイミド及び4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン等が挙げられるが、マレイミド基を官能基として有するものが好ましい。これらのラジカル反応性モノマーは一種のみを用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
本発明の樹脂組成物にラジカル重合性モノマーを併用することにより、本発明の樹脂組成物の反応性や硬化物の耐熱性などを向上させることができる。
本発明の樹脂組成物におけるラジカル重合性モノマーの含有量は、式(1)で表される高分子化合物に対して通常50質量%以下、好ましくは2乃至40質量%である。
【0031】
ラジカル反応性基を有するラジカル重合性ポリマー(モノマー)の具体例としては、下記式(3)で表される両末端メタクリロイル基変性ポリフェニレンエーテル(製品名SA-9000 サビック合同会社製)、下記式(4)で表される両末端スチロイル基変性ポリフェニレンエーテル(製品名OPE-2St 三菱ガス化学株式会社製)、下記式(5)で表される多官能スチレン樹脂(製品名STR 日本化薬株式会社製)、及びスチレン・ブタジエン共重合体などが挙げられる。尚、式(3)乃至(5)中のnは繰り返し数の平均値であって、通常2乃至100、好ましくは4乃至80である。
式(3)乃至(5)のいずれかで表されるラジカル重合性ポリマーの数平均分子量は1,000乃至3,000が好ましい。また、式(3)乃至(5)のいずれかで表され、数平均分子量が500以上1,000未満のラジカル重合性モノマーを本発明の樹脂組成物に併用するのも好ましい態様である。
本発明の樹脂組成物にラジカル重合性ポリマーを併用することにより、本発明の樹脂組成物の反応性や硬化物の耐熱性などを向上させることができる。
本発明の樹脂組成物におけるラジカル重合性ポリマーの含有量は、式(1)で表される高分子化合物に対して通常80質量%以下、好ましくは5乃至70質量%である。
【0032】
【化3】
【0033】
【化4】
【0034】
【化5】
【0035】
本発明の樹脂組成物には、有機溶剤を併用してもよい。有機溶剤の具体例としては、トルエン及びキシレン等の芳香族系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等のラクトン類、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物における有機溶剤の含有量は、樹脂組成物中に通常90質量%以下、好ましくは30乃至80質量%である。
【0036】
本発明の樹脂組成物には、保存安定性を向上させるために重合禁止剤を併用してもよい。併用し得る重合禁止剤は一般に公知のものであれば特に限定されず、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、クロラニル及びトリメチルキノン等のキノン類や、芳香族ジオール類、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、その用途に応じて所望の性能を付与させる目的で本来の性能を損なわない範囲の量の充填剤や添加剤を配合して用いることができる。充填剤は繊維状であっても粉末状であってもよく、シリカ、カーボンブラック、アルミナ、タルク、雲母、ガラスビーズ、ガラス中空球等を挙げることができる。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、難燃性化合物、添加剤などの併用も可能である。これらは一般に使用されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、難燃性の化合物では、4,4-ジブロモビフェニルなどの臭素化合物、リン酸エステル、リン酸メラミン、リン含有エポキシ樹脂、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素化合物、オキサジン環含有化合物、シリコン系化合物等が挙げられる。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤等、所望に応じて適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、さまざまな基材上に塗布あるいは含浸して使用することができる。例えば熱ラジカル開始剤を用いた場合、PETフィルム上に塗布することにより多層プリント基板の層間絶縁層として、ポリイミドフィルム上に塗布することによりカバーレイとして、また銅箔上に塗布乾燥することにより樹脂付き銅箔として、使用することができる。またガラスクロスやガラスペーパー、カーボンファイバー、各種不織布などに含浸させることにより、プリント配線基板やCFRPのプリプレグとして使用することができる。さらに光ラジカル開始剤を用いることにより各種レジストとして使用することもできる。
【0040】
本発明の層間絶縁層やカバーレイ、樹脂付き銅箔、プリプレグなどはホットプレス機などで加温加圧成形することにより、硬化物とすることができる。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1(本発明の高分子化合物の合成)
(工程1)本発明の高分子化合物の中間原料である共重合体1の合成
温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、スチレン 95部、4-クロロメチルスチレン 5部、ジラウロイルパーオキサイド 0.0122部及びアニソール 25部を加え、窒素雰囲気下120乃至130℃で6時間反応させることにより、下記式(6)で表される共重合体1のアニソール溶液を得た。この溶液の一部をガスクロマトグラフィーで分析したところ、未反応の4-クロロメチルスチレンは残存していなかった。前記アニソール溶液の一部を減圧下で加温して溶剤と未反応スチレンを除去した乾燥質量を固形分量として算出した共重合体1の得量は60.2部であり、未反応スチレンが34.8部だったことを考慮すると、得られた共重合体はスチレン 55.2部と4-クロロメチルスチレン 5部の共重合物であった。また、前記乾燥質量の測定に供したサンプルの数平均分子量は41,000、重量平均分子量は172,000であった。スチレンと4-クロロメチルスチレンの共重合比と数平均分子量から式(6)におけるnの値は361、mの値は22と算出された。
【0043】
【化6】
【0044】
(工程2)本発明の高分子化合物1の合成
工程1で得られた共重合体1のアニソール溶液から、未反応のスチレンを加熱減圧下でアニソールと共に留去した後、アニソールを追加して共重合体1の25質量%溶液 240部を得た。この溶液に2-アリルフェノール 4.38部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド 0.53部を加え、撹拌下90℃で、25%水酸化ナトリウム水溶液5.22部を加えて4時間反応させた。反応液を大過剰のメタノールに滴下することにより高分子量体を沈殿させ濾過した後、減圧下で乾燥させることにより、下記式(7)で表される本発明の高分子化合物(高分子化合物1) 58部を得た。得られた高分子化合物1の数平均分子量は43,000、重量平均分子量は175,000であった。
【0045】
【化7】
【0046】
実施例2(本発明の高分子化合物の合成)
(工程3)本発明の高分子化合物の中間原料である共重合体2の合成
スチレンの使用量を97.5部に、4-クロロメチルスチレンの使用量を2.5部にそれぞれ変更した以外は工程1と同じ方法で、前記式(6)で表される共重合体2のアニソール溶液を得た。この溶液の一部をガスクロマトグラフィーで分析したところ、未反応の4-クロロメチルスチレンは残存していなかった。前記アニソール溶液の一部を減圧下で加温して溶剤と未反応スチレンを除去した乾燥質量を固形分量として算出した共重合体2の得量は61.5部であり、未反応スチレンが38.5部だったことを考慮すると、得られた共重合体はスチレン 59部と4-クロロメチルスチレン 2.5部の共重合物であった。また、前記乾燥質量の測定に供したサンプルの数平均分子量は45,000、重量平均分子量は184,000であった。スチレンと4-クロロメチルスチレンの共重合比と数平均分子量から式(6)におけるnの値は415、mの値は12と算出された。
【0047】
(工程4)本発明の高分子化合物2の合成
工程3で得られた共重合体2のアニソール溶液から、未反応のスチレンを加熱減圧下でアニソールと共に留去した後、アニソールを追加して共重合体1の25質量%溶液 244部を得た。この溶液に2-アリルフェノール 2.19部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド 0.27部を加え、撹拌下90℃で、25%水酸化ナトリウム水溶液2.61部を加えて4時間反応させた。反応液を大過剰のメタノールに滴下することにより高分子量体を沈殿させ濾過した後、減圧下で乾燥させることにより、上記式(7)で表される本発明の高分子化合物(高分子化合物2) 59部を得た。得られた高分子化合物2の数平均分子量は47,000、重量平均分子量は190,000であった。
【0048】
実施例3及び4(本発明の樹脂組成物の調製)
実施例1及び2で得られた本発明の高分子化合物1及び2をトルエンに溶解して得た固形分25%溶液10部に、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド0.05部を加えて均一に混合することにより本発明の樹脂組成物1及び2をそれぞれ得た。
【0049】
(樹脂組成物の硬化物の誘電特性・耐熱性評価)
アプリケーターを用いて、実施例3及び4で得られた本発明の樹脂組成物1及び2を厚さ18μmの銅箔の鏡面上に厚さ280μmでそれぞれ塗布し、90℃で10分間加熱して溶剤を乾燥させた。前記で得られた銅箔上のフィルム状接着剤を、真空オーブンを用いて180℃で1時間加熱硬化させた後、エッチング液に浸して銅箔を除去した。本発明の樹脂組成物1、2からは、フィルムとして取り扱い可能な厚さ70μmの硬化物が得られた。前記で得られた硬化物の10GHzにおける誘電率と誘電正接を、ネットワークアナライザー8719ET(アジレントテクノロジー製)を用いて、空洞共振法で測定した。結果を表1に示した。また前記と同じサンプルについて、TMA(熱機械測定装置)を用いてガラス転移温度を測定した。結果を表1に示した。
【0050】
(樹脂組成物の硬化物の接着強度評価)
アプリケーターを用いて、実施例3及び4で得られた本発明の樹脂組成物1、2を厚さ12μmの高周波用低粗度銅箔(CF-T4X-SV:福田金属箔粉株式会社製)のマット面上に厚さ50μmで塗布し、90℃で10分間加熱して溶剤を乾燥させることにより、本発明の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤を有する銅箔を得た。前記で得られた銅箔の接着剤面上に、前記と同じ銅箔のマット面を重ねあわせて真空プレス中で3MPaの圧力で1時間加熱硬化させた後、オートグラフAGX-50(株式会社島津製作所製)を用いて、銅箔間の90°引きはがし強さ(接着強度)を測定した。結果を表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
以上のように、本発明の高分子化合物は、ラジカル開始剤を用いて硬化させた場合、フレキシブルなフィルムを形成し、更に優れた誘電特性、耐熱性及び接着性を示した。