(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054927
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20240411BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240411BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20240411BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240411BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240411BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B01D61/00
B01D69/02
B01D71/32
B01D69/00
B01D71/64
B01D71/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161400
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】植松 照博
(72)【発明者】
【氏名】森田 陽明
(72)【発明者】
【氏名】西端 巳季夫
(72)【発明者】
【氏名】川村 芳次
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA27
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB09
4D006MB10
4D006MB20
4D006MC28X
4D006MC58
4D006MC63
4D006NA50
(57)【要約】
【課題】膜蒸留を行う場合に、高い透過流束と、精製された液体の高純度化とを両立できる多孔質膜と、当該多孔質膜を膜蒸留用の膜として備える膜蒸留モジュールと、前述の多孔質膜を膜蒸留膜として用いた膜蒸留による精製された液体の製造方法とを提供すること。
【解決手段】親水性主面と当該親水性主面の裏面である疎水性主面とを有し、親水性主面の水の接触角が、0°超10°未満であり、疎水性主面の水の接触角が、70°超130°以下である多孔質膜を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜蒸留法において、精製対象の粗液体の蒸気を透過させることで、精製された液体を取得するために用いられる多孔質膜であって、
前記多孔質膜が、親水性主面と、前記親水性主面の裏面である疎水性主面とを有し、
前記親水性主面の水の接触角が、0°超10°未満であり、
前記疎水性主面の水の接触角が、70°超130°以下である、多孔質膜。
【請求項2】
前記多孔質膜が、フッ素樹脂以外の樹脂材料からなり、前記疎水性面に対して、フッ素化合物を結合させる処理か、フッ素化炭化水素を含むガスに由来するプラズマ処理がなされている、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記親水性面に対して、酸素プラズマ処理、水蒸気プラズマ処理、及び深紫外線照射の少なくとも1つが行われている、請求項2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記多孔質膜の透気度が、20秒以上150秒以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記疎水性主面の表面を構成する元素の比率において、フッ素原子の元素比率が10atm%以上である、請求項2又は3に記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記疎水性主面における、フッ素原子を含む領域の厚さが0.1nm以上である、請求項5に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記樹脂材料が、ポリイミド及びポリエーテルスルホンからなる群より選択される1種以上である、請求項2又は3に記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記粗液体が、水溶性の不純物を含む水である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項9】
電気伝導度が100μS/cm以上300μS/cm以下であり、温度が40℃以上60℃以下である前記粗液体を、膜蒸留法により精製する場合において、
前記多孔質膜を透過して回収される、単位面積及び単位時間あたりの前記精製された液体の量である透過流束が、4.0Kg/m2・h超であり、
前記精製された液体の電気伝導度が、10μS/cm未満である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の多孔質膜を、膜蒸留用の膜として備える、膜蒸留モジュール。
【請求項11】
精製対象の粗液体が導入される高温槽と、精製された液体を回収する受液槽とを備え、
前記高温槽と前記受液槽とが、前記多孔質膜で隔てられており、
前記粗液体に由来する蒸気が前記多孔質膜を透過している途中、又は透過した後に、前記蒸気を凝縮させることで得られる前記精製された液体を、前記受液槽に回収する、請求項10に記載の膜蒸留モジュール。
【請求項12】
前記高温槽に導入される前記粗液体、又は前記高温槽に導入される前記粗液体を加熱する、加熱装置を備えるか、
前記受液槽の内温を低下させる、冷却装置を備える、請求項11に記載の膜蒸留モジュール。
【請求項13】
精製対象の粗液体を、請求項1又は2に記載の多孔質膜に接触させることと、
前記粗液体に由来する蒸気が前記多孔質膜を透過している途中、又は透過した後に、前記蒸気を凝縮させて精製された液体を得ることを含む、膜蒸留による精製された液体の製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載の膜蒸留モジュールを用いて、前記粗液体の膜蒸留を行う、請求項13に記載の精製された液体の製造方法。
【請求項15】
前記粗液体を、前記多孔質膜の前記親水性主面に接触させる、請求項13に記載の精製された液体の製造方法。
【請求項16】
前記粗液体が水溶性の不純物を含む水である、請求項13に記載の精製された液体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蒸留に用いられる親水性主面及び当該親水性主面の裏面に疎水性主面を有する多孔質膜と、当該多孔質膜を膜蒸留用の膜として備える膜蒸留モジュールと、前述の多孔質膜を膜蒸留用の膜として用いた膜蒸留による精製された液体の製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
膜蒸留法は、多孔質膜で隔てられた2つの液体の温度差から生じる蒸気圧により、多孔質膜に蒸気を透過させ粗液体を精製する方法である。膜蒸留法は、粗液体の精製において逆浸透膜法のように高い圧力を要しない。このため、膜蒸留法は、粗液体の精製の低コスト化に寄与することが期待されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、膜蒸留法では蒸気圧という弱い圧力を利用しているため、単位時間当たりの粗液体の精製量が少ない。粗液体の精製量を増加させるため、透過流束を上昇させる方法として、多孔質膜の孔径を大きくする方法が考えられる。しかし、当該方法では、例えば、海水淡水化において、精製水の電気伝導率が増加する問題が生じる。つまり、透過流束の上昇と、精製された液体の高純度化とはトレードオフの関係にある。このように、膜蒸留法における高い透過流束と、精製された液体の高純度化との両立が困難である。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、膜蒸留を行う場合に、高い透過流束と、精製された液体の高純度化とを両立できる多孔質膜と、当該多孔質膜を膜蒸留用の膜として備える膜蒸留モジュールと、前述の多孔質膜を膜蒸留膜として用いた膜蒸留による精製された液体の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、親水性主面と当該親水性主面の裏面である疎水性主面とを有し、親水性主面の水の接触角が、0°超10°未満であり、疎水性主面の水の接触角が、70°超130°以下である多孔質膜を用いることによって、上記課題が解決されること見出し、本発明に至った。具体的には以下のものを提供する。
【0007】
本発明の第1の態様は、膜蒸留法において、精製対象の粗液体の蒸気を透過させることで、精製された液体を取得するために用いられる多孔質膜であって、
多孔質膜が、親水性主面と、親水性主面の裏面である疎水性主面とを有し、
親水性主面の水の接触角が、0°超10°未満であり、
疎水性主面の水の接触角が、70°超130°以下である、多孔質膜である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様にかかる多孔質膜を、膜蒸留用の膜として備える、膜蒸留モジュールである。
【0009】
本発明の第3の態様は、精製対象の粗液体を、第1の態様にかかる多孔質膜に接触させることと、
粗液体に由来する蒸気が多孔質膜を透過している途中、又は透過した後に、蒸気を凝縮させて精製された液体を得ることを含む、膜蒸留による精製された液体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、膜蒸留を行う場合に、高い透過流束と、精製された液体の高純度化とを両立できる多孔質膜と、当該多孔質膜を蒸留用の膜として備える膜蒸留モジュールと、前述の多孔質膜を蒸留用の膜として用いた膜蒸留により精製された液体の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪多孔質膜≫
多孔質膜は、膜蒸留法において、精製対象の粗液体の蒸気を透過させることで、精製された液体を取得するために用いられる。
多孔質膜は、親水性主面と、親水性主面の裏面である疎水性主面とを有する。
親水性主面の水の接触角は、0°超10°未満である。疎水性主面の水の接触角は、70°超130°以下である。
上記の多孔質膜も膜蒸留を行う場合、高い透過流束と、精製された液体の高純度化とが両立される。
【0012】
多孔質膜における孔の形態は、多孔質膜が、精製対象の粗液体の蒸気を透過させることができる限り特に限定されない。
多孔質膜としては、例えば、水蒸気吸収法や熱誘起相分離法等の相分離法、延伸法、及び後述する微粒子を含む膜から微粒子を除去する方法等、公知の方法により製造された多孔質膜を用いることができる。
多孔質膜における孔の形態は、球状孔であっても、非球状の孔であってもよい。多孔質膜中に存在する複数の孔は、互い、孔が相互に連通した構造(以下、連通孔と略称する)を形成してもよい。
多孔質膜が積層体である場合に、積層体に含まれる多孔質層についても同様である。
【0013】
多孔質膜における孔の形状は、球状であっても、非球状であってもよい。孔の形状に関する球状は、真球状を含む概念であるが、必ずしも真球のみに限定されない。球状とは、実質的に真球状であればよく、孔部の拡大像を目視により確認した場合に略真球状と認識できる形状も、球状に含まれる。
具体的には球状孔では、孔部を規定する面が曲面であり、当該曲面により真球状又は略真球上の空孔が規定されていればよい。
なお、多孔質膜が積層体である場合に、積層体を構成する各多孔質層について、空隙率や、球状孔の孔径は、同じであっても異なっていてもよい。
【0014】
多孔質膜に含まれる孔の直径は、多孔質膜の透気度及び後述する多孔質膜を用いた膜蒸留の透過流束が後述する所定の範囲内であれば特に限定されない。
典型的には、孔の直径の好ましい範囲は、多孔質膜の材質の種類や、多孔質膜に対して行われている表面処理方法の有無や、表面処理方法の種類等に応じて、30nm以上、好ましくは30nm以上2000nm以下の範囲内で、適宜調整される。例えば、多孔質膜の材質がポリイミド樹脂である場合、孔の直径は、30nm以上250nm以下であるのが好ましい。多孔質膜の材質がポリエーテルスルホンである場合、孔の直径が250nm超であるのも好ましい。
孔の断面形状が、円形以外の形状である場合、孔の直径として、孔の断面の円相当径を採用できる。
【0015】
多孔質膜が球状孔からなる連通孔を有する場合、個々の球状孔は、典型的には、後述する樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される孔である。また、連通孔は、後述する多孔質膜の製造方法において、樹脂―微粒子複合膜中にそれぞれ接して存在する複数の微粒子が、後工程で除去されることにより形成される。連通孔における球状孔が連通する箇所は、除去される前の複数の微粒子が互いに接触する箇所に由来する。
【0016】
多孔質膜が、多孔質膜を厚さ方向に貫通する連通孔を流体の流路として内部に有すると、流体が、多孔質膜の一方の主面から、他方の主面へと透過できる。
【0017】
多孔質膜は、1種類の膜のみからなる単層膜であっても、2種類以上の膜が2層以上積層された積層膜であってもよい。
【0018】
多孔質膜が積層膜である場合、ラミネート法等の常法に従って積層膜を形成することができる。また、積層膜の最外層のいずれか一方を構成する多孔質膜の上に、順次、積層膜に含まれる多孔質膜を形成していってもよい。また、多孔質膜の前駆膜を、ラミネート法、塗布法等により積層した後に、前駆膜が積層された積層膜を多孔質化して、積層膜である多孔質膜を形成することもできる。前駆膜としては、例えば、樹脂からなるマトリックス中に、熱分解や、有機溶剤、水、酸、又はアルカリ等による処理により除去可能な微粒子を含む層が挙げられる。
【0019】
多孔質膜の膜厚は特に限定されない。多孔質膜の膜厚は、膜蒸留により精製される液体の種類等に応じて適宜決定される。典型的には、多孔質膜の膜厚は、20μm以上が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましく、30μm以上150μm以下がさらに好ましい。
【0020】
多孔質膜の膜厚や、多孔質膜が積層膜である場合に当該積層膜に含まれる各多孔質膜の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めたり、膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して平均することで求めたりすることができる。
【0021】
多孔質膜の透気度は、20秒以上150秒以下が好ましく、25秒以上100秒以下がより好ましく、30秒以上50秒以下が特に好ましい。
ここで透気度は、ガーレー透気度である。
【0022】
多孔質膜を形成するための材料は、有機材料であっても無機材料であってもよい。加工性や可撓制に優れることから、典型的には高分子材料が好ましい。多孔質膜を形成するための材料の好適な例としては、種々の樹脂の溶液や、熱硬化性樹脂組成物や、感光性樹脂組成物が挙げられる。感光性樹脂組成物としては、露光部が現像液に対して可溶化するポジ型のものと、露光部が現像液に対して不溶化するネガ型のものとがあるが、両者とも多孔質膜の形成に用いることができる。多孔質膜を形成するための材料としては、強度に優れる薄膜を形成できる点で、加熱により硬化する熱硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0023】
<多孔質膜製造用ワニス>
以下、連通孔を有する多孔質膜の製造に好適に用いられる、多孔質膜製造用ワニスについて説明する。
前述の多孔質膜の製造には、それぞれ所定の微粒子と、樹脂材料と、溶剤とを含有し、樹脂材料が溶剤に溶解している多孔質膜製造用ワニス(以下、単に「ワニス」とも記載する。)を用いるのが好ましい。
ワニスは、典型的には、微粒子を溶剤に分散させる、微粒子分散液調製工程と、樹脂溶液を調製する工程と、これら微粒子分散液と樹脂溶液とを合わせて混錬し濃度調製を行う混錬工程とにより製造される。ワニスの調製に用いられる樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体となるポリアミド酸、及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0024】
ワニスの混錬には、自転・公転ミキサー(例えば、商品名:あわとり錬太郎、(株)シンキー製)、プラネタリミキサー、ビーズミル等を用いることができる。
【0025】
〔樹脂材料〕
前述の通り、ワニスに含まれる樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂材料が好ましい。以下、これらの樹脂について説明する。
なお、当該樹脂材料は、後述する親水性主面の水の接触角を得られやすいことからフッ素樹脂以外の樹脂材料で構成されるのが好ましい。なお、フッ素樹脂とは、後述の含フッ素有機化合物の例として挙げたフッ素樹脂のことを示す。
【0026】
(ポリエーテルスルホン)
ポリエーテルスルホンとしては、ワニス形成に用いられる溶剤に可溶なものであれば特に限定されない。ポリエーテルスルホンとしては、製造する多孔質膜の用途に応じて適宜選択することができる。また脂肪族ポリエーテルスルホンであっても芳香族ポリエーテルスルホンであってもよい。ポリエーテルスルホンの質量平均分子量は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。質量平均分子量は、例えば、5,000以上1,000,000以下であり、好ましくは10,000以上300,000以下である。
【0027】
(ポリアミド酸)
ポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られる生成物が、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50モル以上1.50モル以下用いるのが好ましく、0.60モル以上1.30モル以下用いるのがより好ましく、0.70以上1.20モル以下用いるのが特に好ましい。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は1種類を単独で又は2種以上混合して用いることもできる。
【0030】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2~10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0032】
フェニレンジアミンはm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等である。
【0033】
ジアミノビフェニル化合物では、2つのアミノフェニル基同士が結合している。例えば、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0034】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合した化合物である。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合の炭素原子数は1~6程度である。アルキレン基の誘導体基は、1以上のハロゲン原子等で置換されたアルキレン基である。
【0035】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(p-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ペンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニル尿素、4,4’-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0036】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0037】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がいずれも他の基を介して結合した化合物である。他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様の基が選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0038】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5-ジアミノナフタレン及び2,6-ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0039】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンを挙げることができる。
【0040】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0041】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0042】
脂肪族ジアミンの炭素原子数は、例えば、2以上15以下程度がよい。脂肪族ジアミンの具体例としては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0043】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0044】
ポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0045】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しない溶剤であれば特に限定されない。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類、キシレン系混合溶媒等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%とするのが望ましい。
【0047】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0048】
重合温度は一般的には-10℃以上120℃以下、好ましくは5℃以上30℃以下である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3Hr以上24Hr以下(時間)である。
ポリアミド酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(ポリイミド)
ポリイミドは、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のポリイミドが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、ワニスが溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドが好ましい。
【0050】
溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。さらに、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したモノマーと同じモノマーを併用することもできる。
ポリイミド及びそのモノマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
ポリイミドを製造する手段に特に制限はない。例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的な手段で閉環反応させることによって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミド等が挙げられる。式中、Arはアリール基を示す。ワニスが溶剤を含有する場合、これらのポリイミドは、次いで、使用する溶剤に溶解させるとよい。
【化1】
【化2】
【0052】
(ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体)
ポリアミドイミドは、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、ワニスが溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドが好ましい。
【0053】
ポリアミドイミドは、通常、(i)無水トリメリット酸等の1分子中にカルボキシル基と酸無水物基とを有する酸とジイソシアネートとを反応させて得られる樹脂、(ii)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマー(ポリアミドイミド前駆体)をイミド化して得られる樹脂等を特に限定されることなく使用できる。
【0054】
上記酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0055】
上記任意のジアミンとしては、前述のポリアミド酸の説明において例示したジアミンが挙げられる。また、ジアミノピリジン系化合物も用いることができる。
【0056】
上記任意のジイソシアネートとしては、特に限定されず、例えば、上記任意のジアミンに対応するジイソシアネート化合物等が挙げられ、具体的には、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2’-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
ポリアミドイミドの原料モノマーとしては、上記以外にも、特開昭63-283705号公報、特開平2-198619号公報に一般式として記載されている化合物を使用することもできる。また、上記(ii)の方法におけるイミド化は熱イミド化及び化学イミド化のいずれであってもよい。化学イミド化としては、ポリアミドイミド前駆体等を含むワニスを用いて形成した未焼成複合膜を、無水酢酸、あるいは無水酢酸とイソキノリンの混合溶媒に浸す等の方法を用いることができる。なお、ポリアミドイミド前駆体は、イミド化前の前駆体という観点では、ポリイミド前駆体ともいえる。
【0058】
ワニスに含有させるポリアミドイミドとしては、上述の(1)無水トリメリット酸等の酸とジイソシアネートとを反応させて得られるポリマー、(2)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるポリマー等であってよい。本明細書及び本特許請求の範囲において、「ポリアミドイミド前駆体」は、イミド化前のポリマー(前駆体ポリマー)を意味する。
ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体の各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリアミドイミドについて、上記ポリマー、原料モノマー、及びオリゴマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
〔微粒子〕
微粒子の材質は、ワニスに含まれる溶剤に不溶で、後に樹脂-微粒子複合膜から除去可能であれば、特に限定されることなく公知の材質を採用可能である。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。
【0060】
具体的に微粒子としては、例えば、コロイダルシリカが挙げられる。中でも単分散球状シリカ粒子を選択する場合、均一な孔を形成できるために好ましい。
【0061】
また、微粒子について、真球率が高く、粒径分布指数が小さいのが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の平均粒径は、例えば、15nm以上1800nm以下が好ましく、20nm以上1500nm以下がより好ましく、30nm以上1200nm以下がさらに好ましい。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができる。
微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
〔溶剤〕
溶剤は、前述の樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しなければ、特に限定されない。溶剤の例としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示した溶剤が挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエーテルスルホンの場合、溶剤としては、上記含窒素極性溶剤の他、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ベンゾフェノン、テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の極性溶媒が挙げられる。
【0063】
〔分散剤〕
ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、微粒子をワニス中に一層均一に混合でき、さらには、ワニスを成膜した膜中で、微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔質膜の透気度が向上する。さらに、分散剤を添加することにより、ワニスの乾燥性が向上しやすく、また、形成された未焼成複合膜の基板等からの剥離性が向上しやすい。
【0064】
分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0065】
ワニスにおいて、分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子の質量に対し0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0066】
<多孔質膜の好適な製造方法>
以下、上述のワニスを用いる多孔質膜の製造方法の好適な例について説明する。多孔質膜の製造方法は、以下説明する方法には限定されない。
【0067】
〔未焼成複合膜成膜工程〕
未焼成複合膜成膜工程では、例えば、基板上に上述したワニスを塗布し、常圧又は真空下で0℃以上100℃以下、好ましくは常圧下10℃以上100℃以下で乾燥することにより、未焼成複合膜を形成することができる。基板としては、例えば、PETフィルム、SUS基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0068】
また、未焼成複合膜を基板から剥離する場合、膜の剥離性をさらに高めるために、予め離型層を設けた基板を使用することもできる。基板に予め離型層を設ける場合は、ワニスの塗布の前に、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行う。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥した未焼成複合膜を基板から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存するため、焼成中の変色や電気特性への悪影響の原因ともなるので、極力取り除くことが好ましい。離型剤を取り除くことを目的として、基板より剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤を用いて洗浄する洗浄工程を導入してもよい。
【0069】
一方、未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や上記洗浄工程を省くことができる。また、未焼成複合膜の製造において、後述の焼成工程の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、プレス工程、当該浸漬工程後の乾燥工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0070】
〔焼成工程〕
未焼成複合膜に加熱による後処理(焼成)を行って樹脂と微粒子とからなる複合膜(樹脂-微粒子複合膜)を形成する。焼成工程における焼成温度は、未焼成複合膜の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120℃以上450℃以下が好ましく、150℃以上400℃以下がより好ましい。また、微粒子に、有機材料を使用するときは、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0071】
焼成条件は、例えば、室温~400℃までを3時間で昇温させた後、400℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に400℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に400℃で20分保持させる等の段階的な乾燥-熱イミド化法を用いることもできる。基板上に未焼成複合膜を成膜し、上記基板から上記未焼成複合膜を一旦剥離する場合は、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0072】
〔微粒子除去工程〕
以上のようにして形成された、樹脂-微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、所望する構造の多孔質膜を再現性よく製造することができる。
微粒子の材質として、例えば、シリカを採用した場合、樹脂-微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水等により処理して、シリカを溶解除去することが可能である。
なお、微粒子が有機微粒子である場合、有機微粒子を熱分解させることにより、ポリイミド樹脂-微粒子複合膜からも微粒子を除去することができる。
また、微粒子が有機微粒子である場合、微粒子を溶解させるが、樹脂を溶解させない処理液を選択して、当該処理液による処理を行い、有機微粒子を除去することができる。典型的には、処理液としては有機溶剤が使用される。有機微粒子が、酸又はアルカリに可溶である場合、酸性水溶液やアルカリ性水溶液も処理液として使用できる。
【0073】
〔樹脂除去工程〕
多孔質膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、樹脂-微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去する樹脂除去工程を有していてもよい。
微粒子除去工程前に、樹脂-微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去することにより、除去が行われない場合と比較し、最終製品である多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0074】
上記の樹脂部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0075】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0076】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01質量%以上20質量%以下である。
【0077】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを膜の表面に30m/s以上100m/s以下の速度で照射することで表面処理する方法等が使用できる。
【0078】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後のいずれの樹脂除去工程にも適用可能であるので好ましい。
【0079】
一方、微粒子除去工程後に行う樹脂除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質膜が台紙フィルムから引きはがされる。
【0080】
多孔質膜は、親水性を有する主面(以下、親水性主面という。)及び当該親水性主面の裏面に疎水性を有する主面(以下、疎水性主面という。)を備える。
【0081】
多孔質膜の親水性主面及び疎水性主面は、特定の水の接触角を示す場合に、高い透過流束と電気伝導率の低い精製された液体を得ることができる。
【0082】
親水性主面の水の接触角は、0°超20°未満が好ましく、0°超15°未満がより好ましく、0℃超10°未満がさらに好ましい。
ここで、上記の水の接触角は、静的接触角である。水の静的接触角は、例えば、Dropmaster 700(協和界面化学株式会社製)を用い、多孔質膜の表面に純水の液滴2.0μLを適した後に、滴下10秒後における接触角として測定可能である。
【0083】
多孔質膜において、親水性主面の水の接触角を上記の角度とする方法は特に限定されない。かかる方法としては、例えば、前述の方法により調製される未処理の多孔質膜の主面に対して、酸素プラズマ処理、水蒸気プラズマ処理、又は深紫外線照射等を行う方法が挙げられる。
【0084】
疎水性主面の水の接触角は、70°超130°以下が好ましく、70°以上110°以下がより好ましく、75°以上110°以下がさらに好ましい。
ここで、上記の水の接触角の測定方法は、親水性主面の水の接触角の測定方法と同じである。
【0085】
多孔質膜において、疎水性主面の水の接触角を上記の角度とする方法は特に限定されない。かかる方法は、例えば、前述の方法により調製される未処理の多孔質膜の主面に対して、フッ素プラズマ処理、又は撥水化剤を付着又は結合させる方法等が挙げられる。
【0086】
フッ素プラズマ処理は、プロセスガスにフッ素化炭化水素を用い、プラズマ発生装置で容易に行うことができる。上記フッ素化炭化水素は、具体的には、CF4、C4F8等が挙げられる。
【0087】
主面に撥水化剤を付着又は結合させる方法において使用される撥水化剤は、樹脂材料に付着又は結合可能であって、多孔質膜の主面の水の接触角を、上述の疎水性主面の水の接触角に調整できるものであれば、特に限定されない。好ましい撥水化剤としては、シリコーン系撥水化剤と、フッ素系撥水化剤とが挙げられる。疎水化の効果の点で、フッ素系撥水化剤がより好ましい。
【0088】
フッ素系撥水化剤としては、典型的には、含フッ素有機化合物そのもの、又は含フッ素有機化合物を含む液状組成物が用いられる。
含フッ素有機化合物は、フッ素原子を含有する有機化合物であれば特に限定されない。含フッ素有機化合物は、低分子化合物であってもよく、オリゴマーやポリマーであってもよい。また、含フッ素有機化合物は、脂肪族化合物であっても、芳香族化合物であっても、脂肪族部分と芳香族部分とを含む化合物であってもよい。
【0089】
含フッ素有機化合物の例としては、フルオロアルカン、フルオロアルカノール、ビスフルオロアルキルエーテル、フルオロアルキルアルキルエーテル、フッ素化脂肪族ケトン、フッ素化脂肪族カルボン酸、フッ素化脂肪族カルボン酸アルキルエステル、フッ素化脂肪族カルボン酸フルオロアルキルエステル、脂肪族カルボン酸フルオロアルキルエステル、フルオロアルキルベンゼンカルボン酸、フルオロアルキルベンゼンカルボン酸塩、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸、及びフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0090】
含フッ素シランカップリング剤も、含フッ素有機化合物として好適に使用される。含フッ素有機化合物で処理されていない多孔質膜の表面には、水酸基、アミノ基、カルボキシ基等の活性水素原子を含む官能基が存在することが多い。
フッ素含有シランカップリング剤は、かかる活性水素原子を含む官能基と反応して結合可能である。
【0091】
フッ素含有シランカップリング剤としては、フッ素を含有する官能基を含むシランカップリング剤であれば特に限定されない。フッ素含有シランカップリング剤としては、フルオロアルキルトリアルコキシシラン、ジフルオロアルキルジアルコキシシラン、フルオロアルキルアルキルジアルコキシシラン、ビス(トリアルコキシシリル)フルオロアルカン、フルオロアルキルトリイソシアネートシラン、ビス(トリクロロシリル)フルオロアルカン、及びビス(トリイソシアネートシリル)フッ素化鎖状脂肪族化合物等が挙げられる。
フッ素含有シランカップリング剤の好適な具体例としては、パーフルオロデシルトリメトキシシラン、パーフルオロデシルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、パーフルオロドデシルトリメトキシシラン、パーフルオロドデシルトリエトキシシラン、パーフルオロペンチルトリエトキシシラン、パーフルオロペンチルトリメトキシシラン、及び1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン等のフルオロアルキルアルコキシシラン;1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルトリイソシアネートシラン等のフルオロアルキルトリイソシアネートシラン;1,6-ビス(トリクロロシリル)-2,5-ジトリフルオロメチル-2,3,3,4,4,5-ヘキサフルオロプロパン等のビス(トリクロロシリル)フルオロアルカン;1,10-ビス(トリイソシアネートシリル)-1H,1H,2H,2H,9H,9H,10H,10H-ドデカフルオロデカン、1,8-ビス(トリイソシアネートシリル)-3,6-ジトリフルオロメチル-3,4,4,5,5,6-ヘキサフルオロオクタン、N,N’-ジ(2-トリイソシアネートシリルエチル)-1,8-ドデカフルオロオクタンニ酸ジアミド、1,4-ジ(2-トリイソシアネートシリルエトキシ)-1,4-ジトリフルオロメチルヘキサフルオロブタン、1,2-ジ(2-トリイソシアネートシリルエトキシ)テトラフルオロエタン、1,2-ジ(2-トリイソシアネートシリルエチルチオ)テトラフルオロエタン等のビス(トリイソシアネートシリル)フッ素化鎖状脂肪族化合物が挙げられる。
【0092】
フッ素樹脂も、含フッ素有機化合物として好適に使用される。フッ素樹脂の種類は特に限定されず、フッ素原子を含む種々の樹脂(ただし、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体となるポリアミド酸、及びポリアミドイミドよりなる群から選択される樹脂であって、フッ素原子を置換基に有する構成単位を含有する樹脂を除く)を用いることができる。
好適なフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びその共重合体、ポリフッ化ビニル(PVA)、及びエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。これらの中では、耐摩耗性向上の点からポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びその共重合体が好ましい。共重合体の場合、共重合させるモノマーとしては、テトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、トリフロロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられる。
また、上述した含フッ素有機化合物そのもの、又は含フッ素有機化合物を含む液状組成物を用いて、特開平10-140144号公報に記載のように微粒子を調製し、ブラスト装置等により大気中で多孔質膜に衝突させることにより、撥水化処理を行ってもよい。
【0093】
以上説明した、撥水化剤を多孔質膜の主面に接触させることにより、主面に、撥水化剤に含まれる含フッ素有機化合物のような撥水化成分が付着又は結合する。
主面に対する撥水化成分の付着量又は結合量を調整することにより、主面の水の接触角を調整できる。撥水化成分の付着量又は結合量は、主面と撥水化剤の接触時間を調整したり、撥水化剤における撥水化成分の濃度を調整したりすることにより調整できる。
【0094】
多孔質膜の主面におけるフッ素原子の量は、X線光電子分光法により測定できる。
【0095】
疎水性主面の表面を構成する元素の比率において、フッ素原子の元素比率は10atm%以上が好ましく、15atm%以上がより好ましく、20atm%以上がさらに好ましい。
疎水性主面におけるフッ素原子の元素比率の上限は特に制限されない。フッ素原子の元素比率の上限は、例えば、70atm%以下であってもよいし、51atm%以下であってもよい。
【0096】
疎水性主面の表面におけるフッ素原子を含む領域の厚さは、0.1nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましく、1.0nm以上がさらに好ましい。
【0097】
≪多孔質膜の用途≫
以上説明した多孔質膜は、粗液体の精製用途として使用することが可能である。粗液体は、水性液体であってもよく、有機溶媒を含む液体であってもよい。当該用途としては、例えば、海水淡水化、超純水製造(半導体工場等)、ボイラー水製造(火力発電所等)、燃料電池システム内水処理、産業廃水処置(食品工場、化学工場、電子産業工場、製薬工場及び清掃工場等)、透析用水製造、注射用水製造、随伴水処理(重質油、シェールオイル、シェールガス及び天然ガス等)並びに海水からの有価物回収等が挙げられる。当該粗液体が水溶性の不純物を含む水である場合、当該多孔質膜は、膜蒸留により精製された水を製造するために好適に使用できる。
【0098】
当該多孔質膜は、膜蒸留用の膜として使用することが可能であり、膜蒸留モジュールとして使用することが好ましい。
膜蒸留モジュールとしては、粗液体が導入される高温槽と、精製された液体を回収する受液槽と、受液槽に流入した蒸気を冷却する冷媒を収容する低温槽と、を備える。当該多孔質膜は、当該高温槽と、当該受液槽と、を隔てるように設置される。このとき、当該膜蒸留モジュールの多孔質膜の親水性主面は、粗液体と接触するように設置されるのが好ましい。すなわち、当該膜蒸留モジュールの多孔質膜は、当該多孔質膜の親水性主面が高温槽側に、当該多孔質膜の疎水性主面が受液槽側に、なるように設置されるのが好ましい。
【0099】
膜蒸留モジュールは、上記高温槽に導入された粗液体を加熱する加熱装置を備えるか、上記受液槽の内温を低下させる冷却装置を備える。
当該加熱装置又は当該冷却装置を用いて、粗液体の温度と、受液槽の内温との温度差を20℃以上にするのが好ましい。これにより、多孔質膜を透過した蒸気を効率よく凝縮させることができ、精製された液体の回収効率が向上する。
【0100】
多孔質膜の透気度は、20秒以上150秒以下が好ましく、25秒以上100秒以下がより好ましく、30秒以上50秒以下がさらに好ましい。当該透気度を示す多孔質膜により、電気伝導率が10μS/cm未満の精製された液体を効率よく得ることができる。
【0101】
<膜蒸留法>
前述の多孔質膜は、直接接触膜蒸留(DCMD)、エアーギャップ膜蒸留(AGMD)、スイーピングガス膜蒸留(SGMD)、真空膜蒸留(VMD)、及び透過ギャップ膜蒸留(PGMD)等のいずれの膜蒸留法にも使用することができる。
【0102】
前述の多孔質膜を用いた膜蒸留の透過流束は、4.0kg/m2・h超が好ましく、8.0kg/m2・h超がより好ましく、10.0kg/m2・h超がさらに好ましい。
【0103】
上記透過流束は、上記膜蒸留法により得た精製された液体の回収量を電子天秤を用いて測定することで、下記式で算出できる。
透過流束(kg/m2・h)=液体回収量(kg)/(膜面積(m2)×回収時間(h))
【0104】
上記膜蒸留法により得た精製された液体の電気伝導率は、10μS/cm未満が好ましく、5μS/cm未満がより好ましい。
【0105】
上記の通り、本発明者らにより、以下の(1)~(16)が提供される。
(1)膜蒸留法において、精製対象の粗液体の蒸気を透過させることで、精製された液体を取得するために用いられる多孔質膜であって、
多孔質膜が、親水性主面と、親水性主面の裏面である疎水性主面とを有し、
親水性主面の水の接触角が、0°超10°未満であり、
疎水性主面の水の接触角が、70°超130°以下である、多孔質膜。
(2)多孔質膜が、フッ素樹脂以外の樹脂材料からなり、疎水性面に対して、フッ素化合物を結合させる処理か、フッ素化炭化水素を含むガスに由来するプラズマ処理がなされている、(1)に記載の多孔質膜。
(3)親水性面に対して、酸素プラズマ処理、水蒸気プラズマ処理、及び深紫外線照射の少なくとも1つが行われている、(1)又は(2)に記載の多孔質膜。
(4)多孔質膜の透気度が、20秒以上150秒以下である、(1)から(3)のいずれか1つに記載の多孔質膜。
(5)疎水性主面の表面を構成する元素の比率において、フッ素原子の元素比率が10atm%以上である、(1)から(4)のいずれか1つに記載の多孔質膜。
(6)疎水性主面における、フッ素原子を含む領域の厚さが0.1nm以上である、(1)から(5)のいずれか1つに記載の多孔質膜。
(7)樹脂材料が、ポリイミド及びポリエーテルスルホンからなる群より選択される1種以上である、(1)から(6)のいずれか1つに記載の多孔質膜。
(8)粗液体が、水溶性の不純物を含む水である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の多孔質膜。
(9)電気伝導度が100μS/cm以上300μS/cm以下であり、温度が40℃以上60℃以下である粗液体を、膜蒸留法により精製する場合において、
多孔質膜を透過して回収される、単位面積及び単位時間あたりの精製された液体の量である透過流束が、4.0Kg/m2・h超であり、
精製された液体の電気伝導度が、10μS/cm未満である、(1)から(8)のいずれか1つに記載の多孔質膜。
(10)(1)から(9)のいずれか1つに記載の多孔質膜を、膜蒸留用の膜として備える、膜蒸留モジュール。
(11)精製対象の粗液体が導入される高温槽と、精製された液体を回収する受液槽とを備え、
高温槽と受液槽とが、多孔質膜で隔てられており、
粗液体に由来する蒸気が多孔質膜を透過している途中、又は透過した後に、蒸気を凝縮させることで得られる精製された液体を、受液槽に回収する、(10)に記載の膜蒸留モジュール。
(12)高温槽に導入される粗液体、又は高温槽に導入される粗液体を加熱する、加熱装置を備えるか、
受液槽の内温を低下させる、冷却装置を備える、(11)に記載の膜蒸留モジュール。
(13)精製対象の粗液体を、(1)から(9)のいずれか1つに記載の多孔質膜に接触させることと、
粗液体に由来する蒸気が多孔質膜を透過している途中、又は透過した後に、蒸気を凝縮させて精製された液体を得ることを含む、膜蒸留による精製された液体の製造方法。
(14)(10)から(12)のいずれか1つに記載の膜蒸留モジュールを用いて、粗液体の膜蒸留を行う、(13)に記載の精製された液体の製造方法。
(15)粗液体を、多孔質膜の親水性主面に接触させる、(13)又は(14)に記載の精製された液体の製造方法。
(16)粗液体が水溶性の不純物を含む水である、(13)から(15)のいずれか1つに記載の精製された液体の製造方法。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0107】
〔比較例1〕
多孔質膜は、樹脂材料がPVDFのメルク社製多孔質膜(製品名Durapore)を用いた。
〔比較例2〕
シリカ微粒子70質量部と、分散剤としてノニオン界面活性剤0.35質量部と、ジメチルアセトアミド70質量部とを含むスラリーAを容量200mLの容器中で、撹拌羽により400rpmで15分撹拌した。その後、撹拌後のスラリーAに対して、分散装置(吉田機械興業株式会社製、NVL-S008)を用いて、200MPaにて、分散処理を5回行った。シリカ微粒子としては、平均粒子径100nmのシリカを用いた。
【0108】
分散処理後のスラリーAと、ポリアミド酸30質量部とを混合して、スラリーBを得た。なお、ポリアミド酸は、固形分濃度20質量%のジメチルアセトアミド溶液として用いた。また、ポリアミド酸としては、2、2-ビス(3、4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(以下6FDA)と、2、2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(以下HFBAPP))とを等モルで重合させた重合体を用いた。
スラリーBは、有機溶剤としてジメチルアセトアミドとガンマブチロラクトンと、を固形分濃度が29質量%であるように含んだ。スラリーBにおける、ジメチルアセトアミドとガンマブチロラクトンとの質量比は、ジメチルアセトアミド:ガンマブチロラクトンとして90:10であった。
【0109】
得られたスラリーBを、容量200mLの容器中で、撹拌羽により400rpmで30分撹拌して分散させ多孔質膜製造用ワニスを調製した。多孔質膜製造用ワニスをPETフィルム上に塗布した後、90℃で300秒間加熱して溶剤を除去して膜厚約40μmの塗布膜を形成した。
【0110】
形成された塗布膜を、PETフィルムから剥離し、380℃で15分間加熱処理(焼成)することにより、イミド化させ、ポリイミド樹脂-微粒子複合膜を得た。得られたポリイミド樹脂-微粒子複合膜について、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれるシリカ微粒子を除去した。シリカ微粒子の除去後、水洗及び乾燥を行い、孔形状が球状孔で連通孔を有する多孔質膜を得た。
【0111】
〔比較例3〕
比較例2と同様にして得た多孔質膜に対し、当該多孔質膜の両主面に酸素プラズマ処理を行った。これにより、多孔質膜の両主面が親水性主面である多孔質膜を得た。
【0112】
〔実施例1〕
比較例2と同様にして得た多孔質膜に対し、当該多孔質膜の一方の主面に酸素プラズマ処理を行い、当該プラズマ処理を行った主面の裏面にフッ素プラズマ処理を行った。これにより、多孔質膜の一方の主面が親水性主面であり、当該多孔質膜の裏面が疎水性主面である多孔質膜を得た。
【0113】
〔実施例2〕
多孔質膜を、平均孔径が1.2μm、孔形状が非球状孔のポリエーテルスルホン製の多孔質膜(GVS社製)に変更することの他は、実施例1と同様に多孔質膜に対してフッ素プラズマ処理を行い、親水性主面と疎水性主面とを有する多孔質膜を得た。
【0114】
〔実施例3〕
ポリエーテルスルホン製の多孔質膜の平均孔径を1.2μmから30nmに変えることの他は、実施例2と同様にして親水性主面と疎水性主面とを有する多孔質膜を得た。
【0115】
[膜蒸留法による精製された液体の製造]
実施例1~3及び比較例1~3の多孔質膜で隔てられた高温槽と低温槽とを有する膜蒸留モジュールを備える膜蒸留装置を用いて、以下の条件で透過ギャップ膜蒸留を行うことで、精製された液体を得た。
〔高温槽〕
・粗液体:海水(電気伝導率:69000μs/cm)
・温度:50℃
・循環流量:4.0L/min
〔低温槽〕
・冷媒:水道水
・温度:20℃
【0116】
以上のようにして得られた、実施例1~3及び比較例1~4の多孔質膜について、水の接触角、透気度、疎水性主面のフッ素原子の元素比率及び透過流束を測定した。また、実施例1~3及び比較例1~4の多孔質膜を用いた上述の条件での膜蒸留により得られた、精製された液体について、電気伝導率を測定した。
透気度、疎水性主面のフッ素原子の元素比率及び電気伝導率については、以下の方法に従い測定した。水の接触角及び透過流束については、前述の方法により測定した。水の接触角について、多孔質膜のいずれか一方の主面のみに親水化処理を行っている場合は、親水化処理を行った主面は受液槽側主面とする。また、多孔質膜のいずれか一方の主面のみに疎水化処理を行っている場合は、疎水化処理を行った主面は高温槽側主面とする。これらの測定結果を、表1に記す。
【表1】
【0117】
[透気度の測定]
5cm×5cmのサイズの多孔質膜のサンプルを用い、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mLの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。透気度の値が小さいほど、100mLの空気の通過時間が短いことを意味し、サンプルの気体の通過速度が速い。
【0118】
[フッ素原子の元素比率の測定]
X線光電子分光装置であるK-アルファ(登録商標)XPSシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、多孔質膜のサンプルの主面におけるフッ素原子量を測定した。
【0119】
[電気伝導率の測定]
電気伝導率はJIS K 0130に準拠して交流2電極方式の電気伝導率計により50℃で測定した。
【0120】
表1によれば、一方の主面が親水性主面であり、当該親水性主面の裏面が疎水性主面であることにより、両主面の水の接触角に大きな差がある実施例1~3の多孔質膜は、高い透過流束と、当該多孔質膜を用いた膜蒸留により精製された液体が低い電気伝導率とを示すことが分かる。
他方、多孔質膜の両主面の水の接触角に大きな差がない比較例1~4の多孔質膜では、高い透過流束と、当該多孔質膜を用いた膜蒸留により精製された液体が低い電気伝導率とを両立することが困難であった。