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特開2024-54951導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シート
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  • 特開-導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シート 図1
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  • 特開-導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シート 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054951
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シート
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4382 20120101AFI20240411BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240411BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20240411BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240411BHJP
   H01G 11/40 20130101ALI20240411BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240411BHJP
   H01M 4/13 20100101ALN20240411BHJP
【FI】
D04H1/4382
H01M4/86 M
H01M8/02
D04H1/728
H01G11/40
H01M8/10 101
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161437
(22)【出願日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/導電性ナノファイバーネットワークによる自立MPLの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】江尻 貴子
(72)【発明者】
【氏名】野口 知之
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
(72)【発明者】
【氏名】川部 雅章
【テーマコード(参考)】
4L047
5E078
5H018
5H050
5H126
【Fターム(参考)】
4L047AA13
4L047AA18
4L047AA19
4L047AA27
4L047AA29
4L047AB02
4L047AB07
4L047AB08
4L047CB10
4L047CC12
4L047CC14
5E078AA03
5E078AB02
5E078BA44
5E078BA52
5E078BA53
5H018AA06
5H018DD05
5H018EE17
5H018HH01
5H050AA12
5H050BA17
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA02
5H050EA10
5H050EA12
5H050EA24
5H050FA16
5H050FA17
5H050HA05
5H050HA12
5H126AA02
5H126BB06
5H126FF02
5H126FF04
(57)【要約】
【課題】導電性の低下を抑制可能な導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シートを提供すること。
【解決手段】導電性繊維シート1は、有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維2と、有機樹脂から構成される有機樹脂繊維3と、有機樹脂繊維3の表面に設けられ、有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性粒状体4と、を備え、有機樹脂繊維3の平均繊維径は、導電性繊維2の平均繊維径よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維と、
有機樹脂から構成される有機樹脂繊維と、
前記有機樹脂繊維の表面に設けられ、有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性粒状体と、
を備え、
前記有機樹脂繊維の平均繊維径は、前記導電性繊維の平均繊維径よりも小さい、導電性繊維シート。
【請求項2】
前記導電性粒状体は、前記有機樹脂繊維を構成する有機樹脂と同一の有機樹脂を含む、請求項1に記載の導電性繊維シート。
【請求項3】
前記導電性繊維シートに担持されている燃料電池用の電極触媒を更に備える、請求項1又は請求項2に記載の導電性繊維シート。
【請求項4】
電気化学素子用のガス拡散電極であって、
請求項3に記載の導電性繊維シートを備える、ガス拡散電極。
【請求項5】
電気化学素子の水分管理シートであって、
請求項1又は請求項2に記載の導電性繊維シートを備える、水分管理シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シートに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性と多孔性とを有する導電性繊維シートが知られている。導電性繊維シートは、燃料電池用のガス拡散電極、燃料電池用の水分管理シート、電気二重層キャパシタの電極、あるいはリチウムイオン二次電池の電極として使用されることが検討されている。このような導電性繊維シートとして、特許文献1には、有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維に加えて、有機樹脂と導電性粒子とからなる導電性粒状体を含有する導電性繊維シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-169450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の導電性繊維シートを構成する導電性繊維は導電性粒子を含んでいるので、導電性繊維の繊維径は太くなる傾向にある。したがって、導電性繊維の繊維径を小さくすることができず、導電性繊維を構成繊維として含む導電性繊維シート内の空隙(開孔径)を十分に小さくすることができないおそれがある。このような場合には、導電性粒状体が十分に保持されずに導電性繊維シートから脱落し得る。その結果、導電性繊維シートの導電性が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、導電性の低下を抑制可能な導電性繊維シート、ガス拡散電極、及び水分管理シートを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る導電性繊維シートは、有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維と、有機樹脂から構成される有機樹脂繊維と、有機樹脂繊維の表面に設けられ、有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性粒状体と、を備える。有機樹脂繊維の平均繊維径は、導電性繊維の平均繊維径よりも小さい。
【0007】
この導電性繊維シートには、導電性繊維及び導電性粒状体に加えて、有機樹脂繊維が含まれている。有機樹脂繊維は導電性粒子を含んでおらず、有機樹脂繊維の平均繊維径は導電性繊維の平均繊維径よりも小さい。このため、有機樹脂繊維の存在によって導電性繊維シート内の空隙(開孔径)を小さくすることができる。加えて、有機樹脂繊維の表面に導電性粒状体が設けられており、導電性粒状体が有機樹脂繊維によってつなぎ留められている状態にある。したがって、導電性繊維シートから導電性粒子が脱落する可能性が低減され得る。その結果、導電性繊維シートの導電性の低下を抑制することが可能となる。
【0008】
いくつかの実施形態において、導電性粒状体は、有機樹脂繊維を構成する有機樹脂と同一の有機樹脂を含んでもよい。この場合、有機樹脂繊維と導電性粒状体との固着が強固になる。したがって、導電性粒状体が脱落する可能性が低減されるので、導電性繊維シートの導電性の低下を抑制することが可能となる。
【0009】
いくつかの実施形態において、導電性繊維シートは、導電性繊維シートに担持されている燃料電池用の電極触媒を更に備えてもよい。この場合、電極触媒と酸素又は水素などの反応物質とが効率良く反応できると共に、反応により生じた電子が電気抵抗の影響を受け難く効率的に導電性繊維シートを移動することができる。その結果、発電性能に優れていると共に、内部抵抗の小さい燃料電池を実現可能である。
【0010】
本開示の別の側面に係るガス拡散電極は、電気化学素子用のガス拡散電極であって、上記導電性繊維シートを備える。導電性繊維シートは導電性の低下が抑制されていることから、ガス拡散電極における抵抗損失を低減することができる。
【0011】
本開示の更に別の側面に係る水分管理シートは、電気化学素子の水分管理シートであって、上記導電性繊維シートを備える。導電性繊維シートは導電性の低下が抑制されていることから、電気抵抗が小さい電気化学素子の水分管理シートを提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、導電性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る導電性繊維シートを拡大して示す概略構成図である。
図2図2は、比較例に係る導電性繊維シートを拡大して示す概略構成図である。
図3図3は、別の比較例に係る導電性繊維シートを拡大して示す概略構成図である。
図4図4は、実施例3で調製した導電性繊維シートを拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。なお、本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。個別に記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0015】
<導電性繊維シート>
図1を参照しながら、一実施形態に係る導電性繊維シートの構成を説明する。図1は、一実施形態に係る導電性繊維シートを拡大して示す概略構成図である。図1に示される導電性繊維シート1は、導電性及び多孔性を有する繊維シートであり、例えば、電気化学素子用のガス拡散電極又は電気化学素子の水分管理シートとして用いられる。導電性繊維シート1は、導電性繊維2と、有機樹脂繊維3と、有機樹脂繊維3の表面に設けられる導電性粒状体4と、を含む。導電性繊維シート1において、導電性繊維2と表面に導電性粒状体4が設けられた有機樹脂繊維3とが混在していてもよい。
【0016】
(導電性繊維)
導電性繊維2は、導電性を有する繊維である。導電性繊維2は、有機樹脂と導電性粒子とを含む。
【0017】
導電性粒子は、導電性を有する粒子である。導電性粒子の例としては、カーボン系粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子が挙げられる。カーボン系粒子の例としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーが挙げられる。耐薬品性、導電性及び分散性を向上させる観点から、導電性粒子として、カーボン系粒子、特に、カーボンブラックが用いられてもよい。
【0018】
導電性粒子の形状は、特に限定されない。導電性粒子の形状の例としては、球状(略球状及び真球状)、繊維状、針状(例えば、テトラポット状など)、平板状、多面体形状、羽毛状、及び不定形形状が挙げられる。導電性粒子は、中空であっても、中実であってもよい。導電性粒子の粒径は、特に限定されない。導電性粒子の平均粒径は、5nm~1000nmであってもよく、10nm~100nmであってもよい。
【0019】
「平均粒径」とは、基本的に、動的光散乱法による粒度分布計から求められた粒子の平均粒径を表す。例えば、カーボンブラックなどのアグリゲートもしくはストラクチャーと呼ばれる状態を形成した粒子などのように、動的光散乱法による測定が難しい場合には、平均粒径は、粒子の電子顕微鏡写真に写っている50個の粒子の直径の算術平均値を表す。この場合、粒子の形状が電子顕微鏡写真において非円形である場合には、当該写真における粒子の面積と同じ面積を有する円の直径が、粒子の直径とみなされる。
【0020】
導電性繊維2は、素材及び平均粒径の少なくともいずれかにおいて異なる2種類以上の導電性粒子を含んでいてもよい。
【0021】
導電性繊維2が柔軟性に優れ、導電性粒子が脱落しにくくするために、導電性粒子同士は、有機樹脂を介して接着されている。
【0022】
有機樹脂は、導電性粒子同士を接着可能な樹脂であって、疎水性有機樹脂でもよく、親水性有機樹脂でもよく、これらの樹脂の混合樹脂又は複合樹脂でもよい。導電性繊維シート1がガス拡散電極用の基材として用いられる場合、導電性繊維2に含まれる有機樹脂が疎水性有機樹脂であると、フッ素系樹脂等の疎水性樹脂を含浸しなくても優れた水の透過性を示し、優れた排水性とガス拡散性とを示す。導電性繊維2に含まれる有機樹脂が親水性有機樹脂であると、水分が保持され得る。したがって、低湿度下においても固体高分子膜が湿潤に保たれるので、充分な発電性能を発揮できる固体高分子形の燃料電池を製造できる。
【0023】
「疎水性有機樹脂」は、水との接触角が90°以上の有機樹脂である。疎水性有機樹脂の例としては、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリエステル系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(THV)、及び上記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン、及び上記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体が挙げられる。ポリエステル系樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリブチレンナフタレート(PBN)が挙げられる。これらの疎水性有機樹脂は単独で用いられてもよく、2種類以上の疎水性有機樹脂が混合又は複合されて使用されてもよい。耐熱性、耐薬品性、及び疎水性を向上させる観点から、疎水性有機樹脂としてフッ素系樹脂が用いられてもよい。特に、撥水性に優れるよう、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物などの3元系のフッ素系樹脂が用いられてもよい。フッ素系樹脂の分子量は、適宜選択され得る。例えば、分子量10万~150万のフッ素系樹脂が採用され得る。
【0024】
「親水性有機樹脂」は、水との接触角が90°未満の有機樹脂である。親水性有機樹脂の例としては、セルロース(例えば、レーヨン)、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、親水性基を有する樹脂、ポリアクリロニトリル、酸化アクリル、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレングルコール系樹脂、及び導電性高分子(例えば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン)が挙げられる。ポリアミド系樹脂の例としては、ナイロン6及びナイロン66が挙げられる。アクリル系樹脂の例としては、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸が挙げられる。親水性基の例としては、アミド基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、及びスルホン酸基が挙げられる。このような親水性基を有する樹脂の例としては、親水性ポリウレタン及びポリビニルピロリドンが挙げられる。これらの親水性有機樹脂は単独で用いられてもよく、2種類以上の親水性有機樹脂が混合又は複合されて使用されてもよい。耐熱性を向上させる観点から、親水性有機樹脂としてポリアクリロニトリルが用いられてもよい。ポリアクリロニトリルは、固体高分子膜の膨潤によっても厚さが潰れにくく、導電性繊維シート1の空隙を維持できる。したがって、導電性繊維シート1がガス拡散電極用の基材として用いられる場合には、有機樹脂としてポリアクリロニトリルが用いられてもよい。
【0025】
疎水性有機樹脂及び親水性有機樹脂の少なくともいずれかは、熱硬化性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂に加えて硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0026】
「熱硬化性樹脂」の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びジアリルフタレート樹脂が挙げられる。これらの中でも、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂は、耐熱性及び耐酸性に優れるので、熱処理によって導電性繊維2の剛性を高めることができる。有機樹脂は、1種類の熱硬化性樹脂から構成されてもよく、2種類以上の熱硬化性樹脂が混合又は複合されることによって構成されてもよく、1種類以上の熱硬化性樹脂と1種類以上の熱可塑性の疎水性有機樹脂又は熱可塑性の親水性有機樹脂とが混合又は複合されることによって構成されてもよい。
【0027】
導電性繊維2における有機樹脂と導電性粒子との質量比は、特に限定されない。導電性粒子が10質量%よりも少ないと、導電性が不十分になる傾向がある。導電性粒子が95質量%よりも多いと、充分な柔軟性が得られない傾向がある。したがって、導電性及び柔軟性に優れるという観点から、導電性繊維2における有機樹脂と導電性粒子との質量比は、10:90~90:10であってもよく、20:80~80:20であってもよく、30:70~70:30であってもよく、30:70~60:40であってもよい。
【0028】
導電性繊維2において、有機樹脂が導電性粒子を接着していればよく、導電性繊維2における導電性粒子と有機樹脂との位置関係は、特に限定されない。導電性繊維2の外表面にのみ導電性粒子が存在する場合には、導電性繊維2の内部における樹脂成分が抵抗成分となり、導電性に劣る傾向がある。したがって、導電性繊維2の内部に導電性粒子が存在してもよい。導電性繊維2間の導電性を向上させるために、導電性粒子は導電性繊維2の外表面に露出していてもよい。導電性繊維2の内部に導電性粒子が存在し、かつ、外表面において導電性粒子が露出した導電性繊維2は、例えば、有機樹脂と導電性粒子とを含む紡糸液を紡糸することによって製造され得る。
【0029】
導電性繊維2の平均繊維径は、特に限定されない。導電性繊維2の平均繊維径が10μmよりも大きいと、導電性繊維2間の接触点が少なく、導電性が不足しやすい傾向がある。導電性繊維2の平均繊維径が10nmよりも小さいと、導電性繊維シート1の取り扱い性に劣る傾向がある。これらの観点から、導電性繊維2の平均繊維径は、例えば、10nm~10μmであってもよく、100nm~1μmであってもよく、300nm~500nmであってもよい。導電性繊維2の平均繊維径は、導電性粒子が脱落しにくいように、導電性粒子の平均粒径の5倍以上であってもよい。
【0030】
ここで、「平均繊維径」とは、40本の繊維における繊維径の算術平均値を意味する。「繊維径」とは、顕微鏡写真をもとに計測した繊維の長さ方向に対して直交する方向の長さ(太さ)である。導電性繊維2の外表面の全体に導電性粒子が露出している場合には、導電性繊維2の繊維径は、導電性粒子を含めた導電性繊維2の太さである。導電性繊維2の外表面の一部においてのみ導電性粒子が露出している場合には、導電性繊維2の繊維径は、導電性粒子が露出していない部分における太さ(直径)である。
【0031】
導電性繊維2は、導電性に優れるという観点から、特定長を有する繊維(例えば、長繊維又は短繊維)ではなく、特定長を有していない繊維(例えば、連続繊維)であってもよい。このような連続繊維の導電性繊維2は、例えば、静電紡糸法又はスパンボンド法により製造され得る。
【0032】
(有機樹脂繊維)
有機樹脂繊維3は、実質的に有機樹脂から構成されている繊維である。有機樹脂繊維3は、有機樹脂のみから構成されていてもよい。導電性粒子の平均粒径よりも小さい繊維径を有するように、有機樹脂繊維3における導電性粒状体4が固着していない部分は、導電性粒子を含まない。
【0033】
有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂としては、上述の導電性繊維2に含まれ得る有機樹脂の候補から選択された有機樹脂が用いられる。有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂は、導電性粒状体4に含まれる(導電性粒状体4を構成する)有機樹脂と同一であってもよい。この場合、導電性粒状体4が有機樹脂繊維3によって強固につなぎ留められ得る。したがって、導電性繊維シート1の取り扱い時及び工程通過時などに破損(破断)したり、意図せず変形したりする可能性が低減されるので、導電性繊維シート1から導電性粒子が脱落する可能性が低減され得る。その結果、導電性繊維シート1の導電性の低下を一層抑制することが可能となる。
【0034】
有機樹脂繊維3の平均繊維径は、導電性繊維2の平均繊維径よりも小さい。有機樹脂繊維3の繊維径が導電性粒子の粒径よりも小さい場合、当該有機樹脂繊維3が導電性粒子を含まないことを示唆している。有機樹脂繊維3の平均繊維径は、例えば、10nm~1μmであってもよく、20nm~800nmであってもよく、30nm~500nmであってもよい。導電性粒状体4の脱落防止の観点から、有機樹脂繊維3は連続繊維であってもよい。
【0035】
(導電性粒状体)
導電性粒状体4は、導電性を有する粒状体である。導電性粒状体4は、導電性繊維2の外部に存在する。つまり、導電性粒状体4は、導電性繊維2に含まれていない別部材である。導電性粒状体4は、有機樹脂繊維3の表面に接着していても、有機樹脂繊維3と一体化していてもよい。導電性粒状体4は、有機樹脂と導電性粒子とを含む。
【0036】
導電性粒状体4に含まれる導電性粒子としては、上述の導電性繊維2に含まれ得る導電性粒子の候補から選択された導電性粒子が用いられる。導電性粒状体4に含まれる導電性粒子は、導電性繊維2に含まれる導電性粒子と同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、導電性粒状体4に含まれる導電性粒子は、素材及び平均粒径の少なくともいずれかにおいて導電性繊維2に含まれる導電性粒子と異なっていてもよい。
【0037】
導電性粒状体4に含まれる有機樹脂としては、上述の導電性繊維2に含まれ得る有機樹脂の候補から選択された有機樹脂が用いられる。導電性粒状体4に含まれる有機樹脂は、有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
導電性粒状体4の平均粒径は、特に限定されない。導電性粒状体4の平均粒径は、50nm~50μmであってもよく、100nm~10μmであってもよく、1μm~5μmであってもよい。導電性に富む導電性繊維シート1を提供し易いことから、導電性粒状体4の平均粒径は、導電性繊維2の平均繊維径よりも大きくてもよい。
【0039】
導電性繊維2及び導電性粒状体4は、導電性粒子以外にも、例えば、無機粒子、イオン交換樹脂粉体、及び植物の種子などといった非導電性材料を含んでもよい。無機粒子の例としては、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン含有酸化物、ゼオライト、触媒担持セラミックス、及びシリカが挙げられる。
【0040】
導電性繊維シート1を構成する繊維(導電性繊維2及び有機樹脂繊維3を含む)同士は、どのようにして結合されていてもよい。繊維同士は、例えば、絡合、溶媒による有機樹脂の可塑化による結合、又は熱による有機樹脂の融着による結合、或いはこれらの併用によって結合されてもよい。
【0041】
導電性繊維シート1は、20%以上の空隙率を有してもよく、30%以上の空隙率を有してもよく、50%以上の空隙率を有してもよい。空隙率の上限は、特に限定されないが、形態安定性の観点から99%以下であってもよい。空隙率P(単位:%)は、導電性繊維シート1を構成するN個の成分の充填率Fr(単位:%)を用いて、式(1)によって算出される。Nは2以上の整数であり、nは1~Nの整数である。導電性繊維シート1を構成する成分は、例えば、導電性粒子及び有機樹脂を含む。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで、n番目の成分の充填率Fr(単位:%)は、導電性繊維シート1の目付M(単位:g/cm)、導電性繊維シート1の厚さT(単位:cm)、導電性繊維シート1におけるn番目の成分の存在質量比率Pr、及びn番目の成分の比重SG(単位:g/cm)を用いて、式(2)によって算出される。
【0044】
【数2】
【0045】
導電性繊維シート1の目付は、特に限定されない。導電性繊維シート1がある程度の導電性繊維量を有し、導電性に優れるという観点、並びに、取り扱い性及び生産性の観点から、導電性繊維シート1の目付は、0.1g/m~200g/mであってもよく、0.3g/m~100g/mであってもよく、0.5g/m~50g/mであってもよい。導電性繊維シート1の厚さは、特に限定されない。導電性繊維シート1の厚さは、例えば、1μm~1000μmであってもよく、5μm~500μmであってもよく、10μm~400μmであってもよく、10μm~300μmであってもよい。
【0046】
「目付」は、10cm角の導電性繊維シート1の質量を、1mの大きさの質量に換算した値を意味する。「厚さ」は、シックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547-401:測定力3.5N以下)を用いて測定された値である。
【0047】
<導電性繊維シートの製造方法>
一例として、静電紡糸法によって導電性繊維シート1を製造する方法を説明する。
【0048】
まず、有機樹脂繊維3及び導電性粒状体4を形成するための紡糸液(以下、「第一紡糸液」という。)と、導電性繊維2を形成するための紡糸液(以下、「第二紡糸液」という。)と、を準備する工程が行われる。第一紡糸液及び第二紡糸液のそれぞれは、有機樹脂、導電性粒子、及び分散媒を含む。後述の第一静電紡糸において有機樹脂繊維3と導電性粒状体4とが得られるように、第一紡糸液における有機樹脂の固形分濃度及び第一紡糸液に占める有機樹脂の質量%が調整される。紡糸液の組成及び紡糸条件によって、有機樹脂繊維3と導電性粒状体4とを得るために必要な有機樹脂の固形分濃度及び有機樹脂の質量%は異なる。したがって、紡糸液の組成及び紡糸条件を考慮して、第一紡糸液における有機樹脂の固形分濃度及び第一紡糸液に占める有機樹脂の質量%が設定される。
【0049】
例えば、第一紡糸液に含まれている有機樹脂と導電性粒子との合計質量に占める有機樹脂の質量の割合(質量%)は、0質量%よりも大きい割合に適宜調整され得るが、20質量%よりも大きくてもよい。この場合、後述の第一静電紡糸において、有機樹脂繊維3とその表面に固着している導電性粒状体4とを含む導電性繊維ウェブが得られ易い。この導電性繊維ウェブをより効率良く得るために、第一紡糸液に含まれている有機樹脂と導電性粒子との合計質量に占める有機樹脂の質量の割合(質量%)は、25質量%以上でもよく、30質量%以上でもよい。
【0050】
第一紡糸液に含まれている有機樹脂と導電性粒子との合計質量に占める有機樹脂の質量の割合(質量%)は、100質量%未満の割合に適宜調整され得るが、60質量%未満であってもよい。この場合、後述の第一静電紡糸において、有機樹脂繊維3とその表面に固着している導電性粒状体4とを含む導電性繊維ウェブが得られ易い。この導電性繊維ウェブをより効率良く得るために、第一紡糸液に含まれている有機樹脂と導電性粒子との合計質量に占める有機樹脂の質量の割合(質量%)は、50質量%以下でもよい。
【0051】
第一紡糸液の質量に占める導電性粒子の質量の百分率(質量%)は適宜調整され得る。有機樹脂繊維3によってつなげられた複数の導電性粒状体4を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、第一紡糸液における当該質量%は、1.5質量%~25.2質量%であってもよく、3質量%~16.8質量%であってもよく、6質量%~8.4質量%であってもよい。
【0052】
第一紡糸液における、第一紡糸液に含まれている有機樹脂及び導電性粒子の固形分質量%は、適宜調整され得る。当該固形分質量%は、第一紡糸液に含まれている有機樹脂及び導電性粒子の固形分質量の合計質量を、第一紡糸液の質量で除算した結果に、100を掛けることによって算出される。有機樹脂繊維3によってつなげられた複数の導電性粒状体4を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、第一紡糸液における当該固形分質量%は、3質量%~36質量%であってもよく、5質量%~24質量%であってもよく、10質量%~12質量%であってもよい。
【0053】
第一紡糸液を構成する溶媒の種類は、有機樹脂を溶解可能な溶媒であればよく、適宜選択され得る。有機樹脂繊維3によってつなげられた複数の導電性粒状体4を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、第一紡糸液を構成する溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はN,N-ジメチルホルムアミドが採用されてもよい。
【0054】
同様に、後述の第二静電紡糸において導電性繊維2が得られるように、第二紡糸液における有機樹脂の固形分濃度及び第二紡糸液に占める有機樹脂の質量%が調整される。紡糸液の組成及び紡糸条件によって、導電性繊維2を得るために必要な有機樹脂の固形分濃度及び有機樹脂の質量%は異なる。したがって、紡糸液の組成及び紡糸条件を考慮して、第二紡糸液における有機樹脂の固形分濃度及び第二紡糸液に占める有機樹脂の質量%が設定される。第二紡糸液に占める有機樹脂の質量%は、第一紡糸液に占める有機樹脂の質量%よりも大きくてもよい。
【0055】
第二紡糸液の質量に占める有機樹脂の質量の百分率(質量%)は適宜調整され得る。有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維2を実現し易いことから、第二紡糸液における当該質量%は、2.5質量%~16質量%であってもよく、3質量%~15質量%であってもよく、4質量%~13.2質量%であってもよい。
【0056】
第二紡糸液の質量に占める導電性粒子の質量の百分率(質量%)は適宜調整され得る。有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維2を実現し易いことから、第二紡糸液における当該質量%は、1.5質量%~20質量%であってもよく、3質量%~15質量%であってもよく、4.8質量%~11.2質量%であってもよい。
【0057】
第二紡糸液における、第二紡糸液に含まれている有機樹脂及び導電性粒子の固形分質量%は、適宜調整され得る。当該固形分質量%は、第二紡糸液に含まれている有機樹脂及び導電性粒子の固形分質量の合計質量を、第二紡糸液の質量で除算した結果に、100を掛けることによって算出される。有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維2を実現し易いことから、第二紡糸液における当該固形分質量%は、4質量%~30質量%であってもよく、8質量%~26質量%であってもよく、12質量%~22質量%であってもよい。なお、第二紡糸液における上記固形分質量%は、第一紡糸液における上記固形分質量%よりも大きくてもよい。
【0058】
第二紡糸液を構成する溶媒の種類は、有機樹脂を溶解可能な溶媒であればよく、適宜選択され得る。有機樹脂と導電性粒子とを含む導電性繊維2を実現し易いことから、第二紡糸液を構成する溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はN,N-ジメチルホルムアミドが採用されてもよい。
【0059】
そして、第一紡糸液及び第二紡糸液が互いに異なるノズル付きシリンジに充填される。
【0060】
続いて、第一紡糸液を用いた静電紡糸(第一静電紡糸)を行う工程が行われる。この工程では、第一紡糸液がノズルから吐出され、対向電極に集積される。これにより、対向電極上に、有機樹脂繊維3と、有機樹脂繊維3の表面に固着した導電性粒状体4と、を含む導電性繊維ウェブが形成される。有機樹脂繊維3と導電性粒状体4とは同一の紡糸液(第一紡糸液)から形成されるので、有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂と、導電性粒状体4に含まれる有機樹脂とは、同一となる。
【0061】
第一静電紡糸において、ノズルから吐出される第一紡糸液へ作用させる電圧(換言すれば、第一紡糸液と捕集体(対向電極)との電圧差)は、適宜調整され得る。有機樹脂繊維3によってつなげられた複数の導電性粒状体4を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、1kV~20kVの電圧が作用されてもよく、4kV~16kVの電圧が作用されてもよく、8kV~12kVの電圧が作用されてもよい。
【0062】
ノズルから吐出される第一紡糸液の量は適宜調整され得る。有機樹脂繊維3によってつなげられた複数の導電性粒状体4を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、ノズルから吐出される第一紡糸液の量は、0.1g/時間~10g/時間であってもよく、0.5g/時間~5g/時間であってもよく、1g/時間~2g/時間であってもよい。
【0063】
第一静電紡糸における紡糸距離は適宜調整され得る。紡糸距離とは、紡糸液の吐出部分(ノズル先端)から捕集体(対向電極)までの距離である。有機樹脂繊維3によってつなげられた複数の導電性粒状体4を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、第一静電紡糸における紡糸距離は、4cm~20cmであってもよく、6cm~16cmであってもよく、8cm~12cmであってもよい。
【0064】
さらに、第二紡糸液を用いた静電紡糸(第二静電紡糸)を行う工程が行われる。この工程では、第二紡糸液がノズルから吐出され、対向電極に集積される。これにより、対向電極上に、導電性繊維2を含む導電性繊維ウェブが形成される。この導電性繊維2の表面には、導電性繊維2と同一組成の導電性粒状体4は形成されない。
【0065】
第二静電紡糸において、ノズルから吐出される第二紡糸液へ作用させる電圧(換言すれば、第二紡糸液と捕集体(対向電極)との電圧差)は適宜調整され得る。導電性繊維2を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、1kV~20kVの電圧が作用されてもよく、4kV~16kVの電圧が作用されてもよく、8kV~12kVの電圧が作用されてもよい。
【0066】
ノズルから吐出される第二紡糸液の量は適宜調整され得る。導電性繊維2を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、ノズルから吐出される第二紡糸液の量は、0.1g/時間~10g/時間であってもよく、0.5g/時間~5g/時間であってもよく、1g/時間~2g/時間であってもよい。
【0067】
第二静電紡糸における紡糸距離は適宜調整され得る。導電性繊維2を有する導電性繊維シート1を実現し易いことから、第二静電紡糸における紡糸距離は、4cm~20cmであってもよく、6cm~16cmであってもよく、8cm~12cmであってもよい。
【0068】
紡糸空間の温湿度は適宜調整され得る。導電性繊維シート1を実現し易いことから、紡糸空間の温度は10℃~40℃であってもよく、18℃~33℃であってもよく、23℃~28℃であってもよい。紡糸空間の湿度は5%RH~60%RHであってもよく、10%RH~50%RHであってもよく、20%RH~40%RHであってもよい。
【0069】
なお、第一静電紡糸が行われた後に第二静電紡糸が行われてもよく、第一静電紡糸と第二静電紡糸とが交互に行われてもよく、第一静電紡糸と並行して第二静電紡糸が行われてもよい。
【0070】
続いて、導電性繊維ウェブから分散媒を除去する工程が行われる。以上により、導電性繊維シート1が製造される。
【0071】
<導電性繊維シートの作用効果>
次に、図2及び図3を更に参照しながら、本実施形態に係る導電性繊維シート1の作用効果を説明する。図2は、比較例に係る導電性繊維シートを拡大して示す概略構成図である。図3は、別の比較例に係る導電性繊維シートを拡大して示す概略構成図である。図2に示される導電性繊維シート100は、導電性繊維102と、導電性繊維103と、導電性粒状体104と、を含む。導電性粒状体104は、導電性繊維103の表面に固着している。図3に示される導電性繊維シート200は、導電性繊維202と、導電性粒状体204と、を含む。
【0072】
本実施形態に係る導電性繊維シート1には、導電性繊維2及び導電性粒状体4に加えて、有機樹脂繊維3が含まれている。有機樹脂繊維3は導電性粒子を含んでおらず、有機樹脂繊維3の平均繊維径は導電性繊維2の平均繊維径よりも小さい。このため、導電性繊維シート100,200と比較して、有機樹脂繊維3の存在によって導電性繊維シート1内の空隙(開孔径)を小さくすることができる。加えて、有機樹脂繊維3の表面に導電性粒状体4が設けられており、複数の導電性粒状体4が有機樹脂繊維3によってつなぎ留められている状態にある。したがって、導電性繊維シート1から導電性粒子が脱落する可能性が低減され得る。その結果、導電性繊維シート1の導電性の低下を抑制することが可能となる。よって、開孔径が小さく、電気抵抗が低い導電性繊維シート1が実現され得るので、意図した機能を発揮することができ、様々な産業への利用が可能となる。
【0073】
導電性粒状体4は、有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂と同一の有機樹脂を含んでもよい。この場合、有機樹脂繊維3と導電性粒状体4との固着が強固になる。したがって、導電性粒状体4が脱落する可能性が低減されるので、導電性繊維シート1の導電性の低下を抑制することが可能となる。
【0074】
上述のように、導電性繊維シート1においては、複数の導電性粒状体4が有機樹脂繊維3によってつなぎ留められている。このため、導電性繊維202及び導電性粒状体204のみからなる導電性繊維シート200と比較して、導電性繊維シート1から導電性粒子が脱落する可能性が低減される。その結果、導電性繊維シート1の導電性の低下を一層抑制することが可能となる。さらに、導電性繊維シート1に含まれる導電性粒子の量を増やすことも可能である。
【0075】
導電性繊維2を構成する有機樹脂は、有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂と同一であってもよい。この場合、導電性繊維2と有機樹脂繊維3とが強固に接触又は固着し得る。したがって、導電性繊維シート1の強度(剛性)を高めることができる。したがって、導電性繊維シート1の取り扱い時及び工程通過時などに破損(破断)したり、意図せず変形したりする可能性が低減されるので、導電性繊維シート1から導電性粒子が脱落する可能性が低減され得る。その結果、導電性繊維シート1の導電性の低下を一層抑制することが可能となる。
【0076】
導電性繊維2及び導電性粒状体4に含まれる有機樹脂、並びに有機樹脂繊維3を構成する有機樹脂は、フッ素系樹脂であってもよい。この場合、撥水性に富む導電性繊維シート1を実現することができる。例えば、導電性繊維シート1が電気化学素子用のガス拡散電極に用いられた場合には、ガス拡散電極において発生した水によるガス流路の閉塞を抑制することができ、供給したガスの拡散性が損なわれることを回避することができる。
【0077】
なお、本開示に係る導電性繊維シートは上記実施形態に限定されない。
【0078】
導電性繊維シート1は、低い電気抵抗値を有するので、導電性を必要とする用途に使用され得る。例えば、導電性繊維シート1は、燃料電池のガス拡散電極用の基材、燃料電池の水分管理シート用の基材、電気二重層キャパシタの電極、又はリチウムイオン二次電池の電極として使用されてもよい。
【0079】
導電性繊維シート1が電気化学素子のガス拡散電極用の基材として使用された場合を説明する。この場合、ガス拡散電極は、導電性繊維シート1を含む。ガス拡散電極は、導電性繊維シート1をガス拡散電極用の基材として用いる以外は、従来のガス拡散電極と同様の構造を有する。
【0080】
導電性繊維シート1は多孔性であるので、ガス拡散電極用の基材(導電性繊維シート1)の空隙に何も充填されていない場合には、ガス拡散電極用の基材(導電性繊維シート1)の厚さ方向及び面方向への排水性に優れているとともに、供給したガスの拡散性に優れている。
【0081】
導電性繊維シート1は、導電性繊維シート1の空隙にフッ素系樹脂及びカーボンの少なくともいずれかを含んでいてもよい。フッ素系樹脂が含まれることによって、液水が押し出されやすくなるので、導電性繊維シート1の排水性を向上させることができる。カーボンが含まれることによって、導電性繊維シート1の導電性を更に高めることができる。
【0082】
フッ素系樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び上記有機樹脂を構成し得る各種モノマーの共重合体が挙げられる。
【0083】
カーボンの例としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーが挙げられる。
【0084】
ガス拡散電極は、導電性繊維シート1に担持された燃料電池用の電極触媒を更に含んでもよい。このような電極触媒として、白金、白金合金、パラジウム、パラジウム合金、チタン、マンガン、マグネシウム、ランタン、セリウム、バナジウム、ジルコニウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、金、ニッケル-ランタン合金、及びチタン-鉄合金などからなるグループから選択された1種類以上の触媒が、導電性繊維シート1に担持される。この場合、触媒と酸素又は水素などの反応物質とが効率良く反応できると共に、反応により生じた電子が電気抵抗の影響を受け難く効率的に導電性繊維シート1を移動することができる。その結果、発電性能に優れていると共に、内部抵抗の小さい燃料電池を実現可能である。
【0085】
なお、ガス拡散電極は、触媒以外にも、電子伝導体及びプロトン伝導体を含んでもよい。電子伝導体としては、カーボンブラック等の導電性粒子と同様の導電性粒子が用いられてもよい。触媒は、この電子伝導体(導電性粒子)に担持されてもよい。プロトン伝導体としては、イオン交換樹脂が用いられてもよい。
【0086】
このようなガス拡散電極は、例えば、次の方法で製造される。まず、溶媒中に触媒を加えて混合し、これにイオン交換樹脂溶液を加え、超音波分散等で均一に混合することによって、触媒分散懸濁液が得られる。溶媒としては、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、及びエチレングリコールジメチルエーテルなどからなる単一溶媒又は混合溶媒が用いられる。触媒としては、例えば、白金などの触媒を担持したカーボン粉末が用いられる。そして、上述のような導電性繊維シート1に、上記触媒分散懸濁液をコーティング、或いは散布し、これを乾燥することによって、ガス拡散電極が製造される。
【0087】
ガス拡散電極は導電性繊維シート1を含むので、導電性繊維シート1における導電性の低下を抑制することができる。したがって、ガス拡散電極における抵抗損失を低減することができるので、充分な発電性能を発揮できる固体高分子形の燃料電池を製造することができる。
【0088】
ガス拡散電極においては、触媒同士の接触による電子伝導だけではなく、導電性繊維2及び導電性粒状体4による電子伝導の経路が形成されるので、電子伝導の経路から孤立した触媒が少ない。そのため、触媒の利用効率を向上させることができ、触媒量を低減することができる。
【0089】
上記ガス拡散電極は、膜-電極接合体に用いられてもよい。膜-電極接合体は、ガス拡散電極以外は、従来の膜-電極接合体と同様の構成を有する。例えば、固体高分子膜としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂膜、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、又はアルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜などが用いられる。例えば、一対のガス拡散電極のそれぞれの触媒担持面の間に固体高分子膜を挟み、熱プレスによりそれらを接合することによって、膜-電極接合体が製造される。
【0090】
膜-電極接合体の製造方法はこれに限られない。例えば、上記触媒分散懸濁液を支持体に塗布することによって触媒層が形成される。この触媒層を固体高分子膜に転写した後、触媒層に導電性繊維シート1が当接するように積層し、これらを熱プレスすることによって、膜-電極接合体が製造される。
【0091】
膜-電極接合体は上述のガス拡散電極を含むので、電気抵抗を低減することができ、充分な発電性能を発揮できる固体高分子形の燃料電池を製造することができる。
【0092】
固体高分子形の燃料電池は、ガス拡散電極を含む。燃料電池は上述のガス拡散電極を備えていること以外は、従来の燃料電池と同様の構成を有する。例えば、上述のような膜-電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟むことによって、セル単位が作製され、複数のセル単位を積層し、固定することによって、燃料電池が製造される。燃料電池は、上述のガス拡散電極を含むので、電気抵抗を低減することができ、充分な発電性能を発揮することができる。
【0093】
バイポーラプレートは、導電性が高く、ガスを透過せず、ガス拡散電極にガスを供給できる流路を有していればよい。バイポーラプレートの例としては、カーボン成形材料、カーボン-樹脂複合材料、及び金属材料が挙げられる。
【0094】
導電性繊維シート1は、電気化学素子の水分管理シート用の基材として使用されてもよい。この場合、水分管理シートは、導電性繊維シート1を含む。導電性繊維シート1においては導電性粒子が脱落する可能性が低減されていることから、厚み及び目付を低減した導電性繊維シート1であっても、当該導電性繊維シート1から導電性粒子が脱落し難い。そのため、薄い導電性繊維シート1によって、導電性の低下を抑制することができると共に、電気抵抗が小さく排水性能にも富む、電気化学素子の水分管理シートを提供できる。
【実施例0095】
以下、本開示に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本開示を更に詳細に説明する。なお、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0096】
以下の組成を有する紡糸液A1~A5,B,C及び分散液Dが調製された。
【0097】
(紡糸液A1)
・有機樹脂:フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物
・導電性粒子:N-メチル-2-ピロリドンに、導電性粒子であるカーボンブラック(CB)を分散させたディスパージョン[固形分濃度22質量%、平均粒径280nm]
・分散媒:N,N-ジメチルホルムアミド
なお、紡糸液A1に占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量は12質量%であった。紡糸液A1に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は50:50に設定された。
【0098】
(紡糸液A2)
紡糸液A2は、紡糸液に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比においてのみ紡糸液A1と異なる。紡糸液A2に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は40:60に設定された(紡糸液A2に占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量:12質量%)。
【0099】
(紡糸液A3)
紡糸液A3は、紡糸液に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比においてのみ紡糸液A1と異なる。紡糸液A3に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は30:70に設定された(紡糸液A3に占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量:12質量%)。
【0100】
(紡糸液A4)
紡糸液A4は、紡糸液に占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量、並びに、紡糸液に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比においてのみ紡糸液A1と異なる。紡糸液A4に占める有機樹脂と導電性粒子の固形分質量は8質量%であった。紡糸液A4に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は20:80に設定された。
【0101】
(紡糸液A5)
紡糸液A5は、紡糸液に占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量、並びに、紡糸液に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比においてのみ紡糸液A1と異なる。紡糸液A5に占める有機樹脂と導電性粒子の固形分質量は8質量%であった。紡糸液A5に占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は10:90に設定された。
【0102】
(紡糸液B)
・有機樹脂:フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物
・導電性粒子:N-メチル-2-ピロリドンに、導電性粒子であるカーボンブラック(CB)を分散させたディスパージョン[固形分濃度22質量%、平均粒径280nm]
・分散媒:N,N-ジメチルホルムアミド
なお、紡糸液Bに占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量は22質量%であった。紡糸液Bに占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は60:40に設定された。
【0103】
(紡糸液C)
・有機樹脂:フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物
・導電性粒子:アセチレンブラック[平均粒径260nm]
・分散媒:N,N-ジメチルホルムアミド
なお、紡糸液Cに占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量は12質量%であった。紡糸液Cに占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は60:40に設定された。
【0104】
(分散液D)
・有機樹脂:ポリエチレングリコール
・導電性粒子:N-メチル-2-ピロリドンに、導電性粒子であるカーボンブラック(CB)を分散させたディスパージョン[固形分濃度16質量%、平均粒径280nm]
・分散媒:純水
なお、分散液Dに占める有機樹脂及び導電性粒子を合わせた固形分質量は12質量%であった。分散液Dに占める有機樹脂と導電性粒子との固形分質量比は10:90に設定された。
【0105】
(静電紡糸条件)
シリンジS1に設けられているノズルN1の詳細:紡糸液の吐出部分の形状が、内径0.2mmの円形である金属ノズル
ノズルN1に作用させる電圧(ノズルN1から吐出される紡糸液に作用させる電圧):9kV
ノズルN1における紡糸液の吐出部分から、アースされたステンレス製の回転ドラム(捕集体)までの距離:10cm
シリンジS2に設けられているノズルN2の詳細:紡糸液の吐出部分の形状が、内径0.25mmの円形である金属ノズル
ノズルN2に作用させる電圧(ノズルN2から吐出される紡糸液に作用させる電圧):9kV
ノズルN2における紡糸液の吐出部分から、アースされたステンレス製の回転ドラム(捕集体)までの距離:10cm
紡糸空間の温度:25℃
紡糸空間の湿度:20%RH
【0106】
(実施例1)
紡糸液A1がシリンジS1のノズルN1から2.0g/時間の吐出量で吐出され、それと同時に紡糸液BがシリンジS2のノズルN2から2.0g/時間の吐出量で吐出され、紡糸液A1及び紡糸液Bがアースされた対向電極であるステンレス製の回転ドラム上に集積されることによって、静電紡糸が行われた。静電紡糸によって、回転ドラム上の全面に導電性繊維ウェブが形成された。この導電性繊維ウェブでは、特定長を有していない有機樹脂繊維によってつなげられた複数の導電性粒状体と、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比60:40で混合した連続繊維の導電性繊維とが混在していた。導電性繊維の表面には、導電性繊維と同一組成の導電性粒状体は固着していなかった。そして、導電性繊維ウェブから分散媒が除去され、回転ドラム上の全面に、導電性繊維シートが調製された。なお、有機樹脂繊維の平均繊維径は、導電性繊維の平均繊維径よりも小さかった。
【0107】
(実施例2)
紡糸液A2がシリンジS1のノズルN1から2.0g/時間の吐出量で吐出され、それと同時に紡糸液BがシリンジS2のノズルN2から2.0g/時間の吐出量で吐出され、紡糸液A2及び紡糸液Bがアースされた対向電極であるステンレス製の回転ドラム上に集積されることによって、静電紡糸が行われた。紡糸液A2が紡糸液A1の代わりに使用された点を除いて、その他の紡糸条件は、実施例1と同じに設定された。静電紡糸によって、回転ドラム上の全面に、実施例1で形成された導電性繊維ウェブと同様の外観を有する導電性繊維ウェブが形成された。この導電性繊維ウェブでは、特定長を有していない有機樹脂繊維によってつなげられた複数の導電性粒状体と、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比60:40で混合した連続繊維の導電性繊維とが混在していた。導電性繊維の表面には、導電性繊維と同一組成の導電性粒状体は固着していなかった。そして、導電性繊維ウェブから分散媒が除去され、回転ドラム上の全面に、導電性繊維シートが調製された。なお、有機樹脂繊維の平均繊維径は、導電性繊維の平均繊維径よりも小さかった。
【0108】
(実施例3)
紡糸液A3がシリンジS1のノズルN1から2.0g/時間の吐出量で吐出され、それと同時に紡糸液BがシリンジS2のノズルN2から2.0g/時間の吐出量で吐出され、紡糸液A3及び紡糸液Bがアースされた対向電極であるステンレス製の回転ドラム上に集積されることによって、静電紡糸が行われた。紡糸液A3が紡糸液A1の代わりに使用された点を除いて、その他の紡糸条件は、実施例1と同じに設定された。静電紡糸によって、回転ドラム上の全面に、実施例1で形成された導電性繊維ウェブと同様の外観を有する導電性繊維ウェブが形成された。この導電性繊維ウェブでは、特定長を有していない有機樹脂繊維によってつなげられた複数の導電性粒状体と、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比60:40で混合した連続繊維の導電性繊維とが混在していた。導電性繊維の表面には、導電性繊維と同一組成の導電性粒状体は固着していなかった。そして、導電性繊維ウェブから分散媒が除去され、回転ドラム上の全面に、導電性繊維シートが調製された。なお、有機樹脂繊維の平均繊維径は、導電性繊維の平均繊維径よりも小さかった。
【0109】
(比較例1)
紡糸液A4がシリンジS1のノズルN1から2.0g/時間の吐出量で吐出され、それと同時に紡糸液BがシリンジS2のノズルN2から2.0g/時間の吐出量で吐出され、紡糸液A4及び紡糸液Bがアースされた対向電極であるステンレス製の回転ドラム上に集積されることによって、静電紡糸が行われた。紡糸液A4が紡糸液A1の代わりに使用された点、及び紡糸時間が実施例1~3よりも短かった点を除いて、その他の紡糸条件は、実施例1と同じに設定された。静電紡糸によって、回転ドラム上の全面に導電性繊維ウェブが形成された。この導電性繊維ウェブでは、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比20:80で混合した連続繊維の別の導電性繊維と、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比60:40で混合した連続繊維の導電性繊維とが混在していた。別の導電性繊維の表面に、別の導電性繊維と同一組成の導電性粒状体が固着していた。一方、導電性繊維の表面には、導電性繊維と同一組成の導電性粒状体は固着していなかった。そして、導電性繊維ウェブから分散媒が除去され、回転ドラム上の全面に、導電性繊維シートが調製された。なお、別の導電性繊維の平均繊維径は、導電性繊維の平均繊維径よりも小さかった。
【0110】
(比較例2)
紡糸液A5がシリンジS1のノズルN1から2.0g/時間の吐出量で吐出され、それと同時に紡糸液BがシリンジS2のノズルN2から2.0g/時間の吐出量で吐出され、紡糸液A5及び紡糸液Bがアースされた対向電極であるステンレス製の回転ドラム上に集積されることによって、静電紡糸が行われた。紡糸液A5が紡糸液A1の代わりに使用された点、及び紡糸時間が実施例1~3よりも長かった点を除いて、その他の紡糸条件は、実施例1と同じに設定された。静電紡糸によって、回転ドラム上の全面に導電性繊維ウェブが形成された。この導電性繊維ウェブでは、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比10:90で混合した連続繊維の別の導電性繊維と、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比60:40で混合した連続繊維の導電性繊維とが混在していた。別の導電性繊維の表面に、別の導電性繊維と同一組成の導電性粒状体が固着していた。一方、導電性繊維の表面には、導電性繊維と同一組成の導電性粒状体は固着していなかった。そして、導電性繊維ウェブから分散媒が除去され、回転ドラム上の全面に、導電性繊維シートが調製された。なお、別の導電性繊維の平均繊維径は、導電性繊維の平均繊維径よりも小さかった。
【0111】
(比較例3)
紡糸液CがシリンジS1のノズルN1から2.0g/時間の吐出量で吐出され、それと同時に分散液DがシリンジS2のノズルN2から2.0g/時間の吐出量で吐出され、紡糸液C及び分散液Dがアースされた対向電極であるステンレス製の回転ドラム上に集積されることによって、静電紡糸が行われた。紡糸液Cが紡糸液A1の代わりに使用された点、分散液Dが紡糸液Bの代わりに使用された点、及び紡糸時間が実施例1~3よりも短かった点を除いて、その他の紡糸条件は、実施例1と同じに設定された。静電紡糸によって、回転ドラム上の全面に導電性繊維ウェブが形成された。この導電性繊維ウェブでは、有機樹脂と導電性粒子とが固形分質量比60:40で混合した連続繊維の導電性繊維と、ポリエチレングリコールとカーボンブラックとからなる導電性粒状物が混在していた。そして、導電性繊維ウェブから分散媒が除去され、回転ドラム上の全面に、導電性繊維シートが調製された。
【0112】
実施例1~3によって得られた導電性繊維シートは、導電性繊維シート1と同様の構成を有していた。比較例1,2によって得られた導電性繊維シートは、導電性繊維シート100と同様の構成を有していた。比較例3によって得られた導電性繊維シートは、導電性繊維シート200と同様の構成を有していた。
【0113】
<評価方法>
実施例及び比較例の導電性繊維シートが以下の方法で評価された。
【0114】
(脱落評価方法)
回転ドラム上から導電性繊維シートを剥がすことが試みられた。導電性繊維シートが剥がされる際に導電性粒状体(導電性粒子)の脱落が認められなかった場合に、脱落評価は「OK」に設定された。一方、亀裂又は破断が発生して、回転ドラム上から導電性繊維シートが剥がされず、単体の導電性繊維シートが得られなかった場合に、強度評価は「NG」に設定された。
【0115】
「OK」と評価された導電性繊維シートは、導電性粒状体(導電性粒子)が脱落し難い導電性繊維シートである。「NG」と評価された導電性繊維シートは、剛性に劣り、取り扱いにくく、工程における不良発生率が高いと考えられる。導電性繊維シートに力が加わった際に、導電性繊維シートの構成繊維である導電性繊維が破断し易いことから、導電性粒状体が脱落し易いと考えられる。
【0116】
(液中での耐性評価方法)
導電性繊維シートが、ビーカーに満たされた33v/v%のアルコール水溶液(色:透明)中に浸漬され、ビーカーが軽く揺動された。その後、アルコール水溶液中から導電性繊維シートが取り出された。導電性繊維シートが取り出された後のアルコール水溶液が目視で観察されることによって、耐性評価が行われた。アルコール水溶液の色が透明のままであると感じられた場合に、耐性評価は「OK」に設定され、アルコール水溶液の色が灰色に変化したと感じられた場合に、耐性評価は「NG」と評価された。
【0117】
「OK」と評価された導電性繊維シートは、黒色の導電性粒子を含む導電性粒状体が脱落し難い導電性繊維シートであると考えられる。「NG」と評価された導電性繊維シートは、黒色の導電性粒子を含む導電性粒状体が脱落し易い導電性繊維シートであると考えられる。
【0118】
(空隙評価)
導電性繊維シートにおける主面の電子顕微鏡写真が撮影され、電子顕微鏡写真において、繊維(有機樹脂繊維及び導電性繊維)及び導電性粒状体によって囲まれた開孔(空隙)の大きさが目視で観察されることによって、空隙評価が行われた。導電性繊維シートの電子顕微鏡写真が、実施例1の導電性繊維シートの電子顕微鏡写真における開孔(空隙)の大きさと同等の空隙を有する場合、あるいは、実施例1の導電性繊維シートの電子顕微鏡写真における開孔(空隙)の大きさよりも小さい空隙を有する場合に、空隙評価は「OK」に設定された。一方、導電性繊維シートの電子顕微鏡写真が、実施例1の導電性繊維シートの電子顕微鏡写真における開孔(空隙)の大きさよりも大きい空隙を有する場合(実施例1の導電性繊維シートの電子顕微鏡写真における開孔(空隙)の大きさと同等の空隙である、とは言えないほど空隙が大きい場合)に、空隙評価は「NG」に設定された。図4は、実施例3で調製した導電性繊維シートを拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【0119】
図4に示されるように、「OK」と評価された導電性繊維シートにおいては空隙(開孔径)が小さいので、当該導電性繊維シートは、導電性粒状体を十分保持でき導電性粒状体が脱落し難い導電性繊維シートであると考えられる。したがって、当該導電性繊維シートは、導電性の低下を抑制可能な導電性繊維シートであると考えられる。それに対し「NG」と評価された導電性繊維シートにおいては空隙(開孔径)が大きいので、当該導電性繊維シートは、導電性粒状体を十分保持できず導電性粒状体が脱落し易い導電性繊維シートであると考えられる。したがって、当該導電性繊維シートは、導電性が低下し易い導電性繊維シートであると考えられる。
【0120】
(電気抵抗の測定方法)
導電性繊維シートをφ25mmの大きさに切断することによって得られた試験片の両面が、金メッキ処理が施された金属プレートで挟まれ、金属プレートの積層方向に2MPaの圧力が加えられた。この状態で、低抵抗測定装置(日置電機社製、型名:RM3545)を用いて、試験片の抵抗値(mΩ)が測定され、更に、測定された抵抗値に試験片の面積(4.9cm)を乗じることによって、電気抵抗値(mΩ・cm)が算出された。
【0121】
(接触角の測定方法)
動的接触角の測定装置(協和界面科学(株)製、型名:DM500)により接触角が測定された。つまり、導電性繊維シートから採取された試験片の表面上に、純水の液滴が滴下され、滴下から15秒後に、滴下された液滴が試験片表面に対して成す角度が測定された。接触角が大きいほど、撥水性に富む導電性繊維シートであることを意味する。
【0122】
表1に、各評価結果及び各測定結果が示される。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示されるように、比較例1~比較例3の導電性繊維シートでは、空隙評価がNGであった。比較例3の導電性繊維シートでは、脱落評価及び耐性評価もNGであった。一方、実施例1~実施例3の導電性繊維シートでは、脱落評価及び耐性評価がOKであると共に空隙評価がOKであった。したがって、導電性繊維シートが有機樹脂繊維を含むことにより、導電性繊維シート内の空隙を小さくすることができたと考えられる。
【符号の説明】
【0125】
1…導電性繊維シート、2…導電性繊維、3…有機樹脂繊維、4…導電性粒状体。
図1
図2
図3
図4