(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054965
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240411BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20240411BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20240411BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20240411BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
F16H57/04 N
H02K9/19 A
B60K6/442 ZHV
B60K6/40
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161460
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 萌
(72)【発明者】
【氏名】栗塚 義人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和昭
【テーマコード(参考)】
3D202
3J063
5H609
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202EE00
3D202EE08
3D202EE21
3D202EE23
3D202FF12
3D202FF15
3J063AA01
3J063AB02
3J063AC03
3J063BA11
3J063BB48
3J063CA01
3J063CD42
3J063CD45
3J063XD03
3J063XD15
3J063XD32
3J063XD43
3J063XD47
3J063XD54
3J063XD62
3J063XD73
3J063XE15
3J063XF05
3J063XF13
3J063XF14
5H609PP02
5H609PP06
5H609QQ05
(57)【要約】
【課題】ファイナルギヤの回転数が低い場合であっても、潤滑対象の部位に対して潤滑に十分なオイルを供給できるようにし、かつ、高額で複雑なバッフルプレートを使用することなく比較的に安価で簡素な構成の動力伝達装置の潤滑構造を提供する。
【解決手段】ケース2内をギヤ室4Aとモータ室4Bとに分割する隔壁3には、ギヤ室4Aとモータ室4Bを連通する貫通孔3aと、貫通孔3aの下方においてギヤ室4A内に延出してオイル貯留部40の上方にその先端部50aが配置された樋部材50と、が設けられている。モータ室4Bから隔壁3の貫通孔3aを通ってギヤ室4Aに導入されたオイルが樋部材50を伝ってオイル貯留部40に導かれることで、ケース2の隔壁3ではない壁部に設けられて、かつ、隔壁3には接していないオイル貯留部40に対して、より多くのオイルを貯留させることができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達装置の構成部品を収容するケースと、
前記ケース内を第一室と第二室とに分割する隔壁と、
前記第一室内でオイルを貯留するオイル貯留部と、を備え、
前記オイル貯留部は、前記第一室内の前記隔壁ではない壁部に設けられており、かつ、前記隔壁には接しておらず、
前記隔壁には、
前記第一室と前記第二室を連通する貫通孔と、
前記貫通孔の下方において前記第一室内に延出して前記オイル貯留部の上方にその先端が配置された樋部材と、が設けられている
ことを特徴とする動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記樋部材は、その上面に凹形状のオイル流通路を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項3】
前記樋部材は、少なくともその上面が前記隔壁側から前記先端部側に向かって下方へ傾斜している
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項4】
前記樋部材は、前記先端部が前記オイル貯留部の上方に位置しており、かつ、前記オイル貯留部には接触していない
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項5】
前記樋部材は、前記隔壁側から前記先端部側に向かって、高さ寸法が次第に小さくなり、かつ幅寸法が次第に小さくなる一方、部材の厚さ寸法が次第に小さくなることで、前記凹形状のオイル流通路の幅寸法は次第に大きくなる
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項6】
前記樋部材は、
前記隔壁における前記貫通孔の下方であって、かつ該貫通孔の中心よりも車両前後方向における後方に位置している
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項7】
前記樋部材の断面は、車両前後方向における後方の厚みが前方の厚みよりも厚い
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項8】
前記貫通孔の前記第一室側に、前記隔壁に接続され、前記樋部材の上部に端面を有するホルダ部材を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項9】
前記第二室から前記貫通孔を通過して前記第一室に流入するオイルを前記樋部材で受けて前記オイル貯留部に案内し、
当該オイルを前記オイル貯留部に貯留し、
前記オイル貯留部は、それが設けられている前記ケースの壁部に潤滑油路を有し、当該潤滑油路を介して前記第一室内の被潤滑部に前記オイルを案内する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項10】
前記オイル貯留部の少なくとも1以上の側壁は、前記ケースの壁部で構成されており、前記オイル貯留部の底部は前記第一室の底部よりも高い位置にあり、前記ケースの前記壁部から延出する第一リブが構成し、少なくとも1以上の他の側壁は、前記第一リブに取り付けられたバッフルプレートからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項11】
前記オイル貯留部の上方であって、前記樋部材よりも上方において、前記ケースの壁部から延出する第二リブを有する
ことを特徴とする請求項10に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項12】
前記バッフルプレートは、前記第一リブと前記第二リブに取り付けられている
ことを特徴とする請求項11に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項13】
前記バッフルプレートの前記樋部材に相対する部位は、前記隔壁に向けて曲げられている
ことを特徴とする請求項10に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項14】
前記第一室の底部にはオイルが貯留されており、
前記第一室内には回転部材が設けられており、
前記回転部材の一部が前記第一室の底部に貯留されているオイルに浸漬されており、
前記回転部材の回転により、前記第一室の底部に貯留されているオイルがかき上げられて前記オイル貯留部に貯留される
ことを特徴とする請求項3に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項15】
前記第一室内には動力伝達機構が設置されており、
前記回転部材は、前記動力伝達機構の構成部品の一つである
ことを特徴とする請求項14に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項16】
前記第二室内には電動モータが設置されており、
前記動力伝達機構は、前記動力伝達装置の外部にある内燃機関から入力された動力を伝達して前記動力伝達装置の外部へ出力する
ことを特徴とする請求項15に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項17】
前記隔壁の前記貫通孔は、車両のパーキング機構が備えるパーキングロッドを通過させる孔である
ことを特徴とする請求項16に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項18】
前記貫通孔は、前記第二室から前記第一室に向かって縮径する形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項19】
前記第二室の上部には、前記電動モータを冷却するためのオイルを供給する冷却油路があり、前記冷却油路から前記電動モータに供給されたオイルが前記貫通孔を通過する
ことを特徴とする請求項17に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項20】
前記隔壁の前記第二室側の面に付着し流れ落ちる前記オイルが前記貫通孔を通過する
ことを特徴とする請求項19に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンや電動モータなどの駆動源の駆動力を車輪へと伝達する車両用動力伝達装置では、ケース内に各種ギヤなどの回転部材が収容されているが、その潤滑方式として、ケース内の底部に貯留されている潤滑用のオイルをファイナルギヤなどの回転部材の回転によって掻き上げ、この掻き上げられたオイルによって各部を潤滑するオイルバス方式が採用される場合がある。
【0003】
その場合、例えば、電動モータが収容されたモータケースとギヤなどの機構が収容されたフライホイールケースとを有するハイブリッド車両の動力伝達装置において、ケース内の比較的に高い位置にある回転軸のベアリングなどを潤滑するにあたっては、従来、ファイナルギヤなどの回転部材でケース下部のオイル溜まりから掻き上げたオイルをバッフルプレートで受け、当該オイルをケース内の壁部に設けたオイルキャッチタンクに誘導して貯留させ、そこからケースに設けた油路を介して潤滑対象のベアリングに供給することで、当該ベアリングを潤滑していた。
【0004】
しかしながら、この方法では、ファイナルギヤなどの回転部材の回転数が低い場合には、十分なオイルを掻き上げることができず、潤滑に必要な量のオイルを供給できないおそれがあった。なお、従来は、潤滑に必要な量のオイルを供給できるようにするため、複雑な構造を有し高額なバッフルプレートを使用する必要があり、動力伝達装置や車両の低コスト化、構成の簡素化や軽量化の妨げになる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、ファイナルギヤなどの回転部材の回転数が低い場合であっても、潤滑対象の部位に対して潤滑に十分なオイルを供給できるようにすることを目的とし、かつ、高額で複雑なバッフルプレートを使用することなく比較的に安価で簡素な潤滑系を構成できる動力伝達装置の潤滑構造を提供する。また、動力伝達装置の潤滑構造の改善によって車両や動力伝達装置を小型軽量化し、エネルギー効率の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明にかかる車両用動力伝達装置の潤滑構造は、動力伝達装置(T)の構成部品を収容するケース(2)と、前記ケース(2)内を第一室(4A)と第二室(4B)とに分割する隔壁(3)と、前記第一室(4A)内でオイルを貯留するオイル貯留部(40)と、を備え、前記オイル貯留部(40)は、前記第一室(4A)内の前記隔壁(3)ではない壁部に設けられており、かつ、前記隔壁(3)には接しておらず、前記隔壁(3)には、前記第一室(4A)と前記第二室(4B)を連通する貫通孔(3a)と、前記貫通孔(3a)の下方において前記第一室(4A)内に延出して前記オイル貯留部(40)の上方にその先端部(50a)が配置された樋部材(50)と、が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる動力伝達装置の潤滑構造によれば、第二室から隔壁の貫通孔を通って第一室に導入されたオイルが樋部材を伝ってオイル貯留部に導かれるようになるので、ケースの隔壁ではない壁部に設けられて、かつ、壁部には接していないオイル貯留部に対して、より多くのオイルを貯留させることができる。
【0009】
また、この潤滑構造では、前記樋部材(50)は、その上面に凹形状のオイル流通路(51)を有していてもよい。
【0010】
この構成によれば、樋部材の上面に凹形状のオイル流通路を有することで、樋部材で効率良くオイル貯留部へオイルを導くことができる。
【0011】
また、この潤滑構造では、前記樋部材(50)は、少なくともその上面が前記隔壁(3)側から前記先端部(50a)側に向かって下方へ傾斜していてもよい。
【0012】
この構成によれば、樋部材(50)の上面の傾斜を利用してオイル貯留部(40)へ更に効率良くオイルを導くことができる。
【0013】
また、この潤滑構造では、前記樋部材(50)は、前記先端部(50a)が前記オイル貯留部(40)の上方に位置しており、かつ、前記オイル貯留部(40)には接触していないことが望ましい。
【0014】
この構成によれば、樋部材の先端部がオイル貯留部の上方(上方に離間した位置)にあることで、樋部材でオイル貯留部へ導かれるオイルをこぼさずにオイル貯留部へ収集することができる。
【0015】
また、この潤滑構造では、前記樋部材(50)は、前記隔壁(3)側から前記先端部(50a)側に向かって、高さ寸法が次第に小さくなり、かつ幅寸法が次第に小さくなる一方、部材の厚さ寸法が次第に小さくなることで、前記凹形状のオイル流通路(51)の幅寸法は次第に大きくなるようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、樋部材は、先端部に行くほど、全幅、全厚が小さくなるが、厚みも小さくなる。また、凹部の油路の幅は大きくなる。そして、先端部に行くほど凹部の溝幅が広がっているため、より効果的にオイルを収集できるようになる。
【0017】
また、この潤滑構造では、前記樋部材(50)は、前記隔壁(3)における前記貫通孔(3a)の下方であって、かつ該貫通孔(3a)の中心よりも車両前後方向における後方に位置していてもよい。また、前記樋部材(50)の断面は、車両前後方向における後方の厚みが前方の厚みよりも厚くなっていてもよい。また、前記貫通孔(3a)の前記第一室(4A)側に、前記隔壁(3)に接続され、前記樋部材(50)の上部に端面を有するホルダ部材(33)を有してもよい。
【0018】
また、この潤滑構造では、前記第二室(4B)から前記貫通孔(3a)を通過して前記第一室(4A)に流入するオイルを前記樋部材(50)で受けて前記オイル貯留部(40)に案内し、当該オイルを前記オイル貯留部(40)に貯留し、前記オイル貯留部(40)は、それが設けられている前記ケース(2B)の壁部に潤滑油路(47)を有し、当該潤滑油路(47)を介して前記第一室(4A)内の被潤滑部(12a)に前記オイルを案内するようにしてもよい。
【0019】
また、この潤滑構造では、前記オイル貯留部(40)の少なくとも1以上の側壁は、前記ケース(2B)の壁部で構成されており、前記オイル貯留部(40)の底部は前記第一室(4A)の底部(5a)よりも高い位置にあり、前記ケース(2B)の前記壁部から延出する第一リブ(41)が構成し、少なくとも1以上の他の側壁は、前記第一リブ(41)に取り付けられたバッフルプレート(45)からなるものであってもよく、また、前記オイル貯留部(40)の上方であって、前記樋部材(50)よりも上方において、前記ケース(2B)の壁部から延出する第二リブ(42)を有してもよい。また、前記バッフルプレート(45)は、前記第一リブ(41)と前記第二リブ(42)に取り付けられていてもよい。また、前記バッフルプレート(45)の前記樋部材(50)に相対する部位は、前記隔壁(3)に向けて曲げられていることが望ましい。
【0020】
また、この潤滑構造では、前記第一室(4A)の底部(5a)にはオイルが貯留されており、前記第一室(4A)内には回転部材(15)が設けられており、前記回転部材(15)の一部が前記第一室(4A)の底部(5a)に貯留されているオイルに浸漬されており、前記回転部材(15)の回転により、前記第一室(4A)の底部(5a)に貯留されているオイルが掻き上げられて前記オイル貯留部(40)に貯留されるように構成してもよい。
【0021】
また、この潤滑構造では、前記第一室(4A)内には動力伝達機構が設置されており、前記回転部材(15)は、前記動力伝達機構の構成部品の一つであってよい。
【0022】
また、この潤滑構造では、前記第二室(4B)内には電動モータ(M,G)が設置されており、前記動力伝達機構は、前記動力伝達装置(T)の外部にある内燃機関(E)から入力された動力を伝達して前記動力伝達装置(T)の外部へ出力するようにしてもよい。
【0023】
また、この潤滑構造では、前記隔壁(3)の前記貫通孔(3a)は、車両のパーキング機構(30)が備えるパーキングロッド(31)を通過させる孔であってよい。
【0024】
また、この潤滑構造では、前記貫通孔(3a)は、前記第二室(4B)から前記第一室(4A)に向かって縮径する形状であってよい。
【0025】
また、この潤滑構造では、前記第二室(4B)の上部には、前記電動モータ(M,G)を冷却するためのオイルを供給する冷却油路(60)があり、前記冷却油路(60)から前記電動モータ(M,G)に供給されたオイルが前記貫通孔(3a)を通過するようにしてもよい。
【0026】
また、この潤滑構造では、前記隔壁(3)の前記第二室(4B)側の面に付着し流れ落ちる前記オイルが前記貫通孔(3a)を通過するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、動力伝達装置の潤滑構造において、ケース内のオイルを掻き上げるファイナルギヤなどの回転部材の回転数が低い場合であっても、隣接するモータ室からオイルを導入することで潤滑に必要な量のオイルを供給することができ、これにより、高額で複雑なバッフルプレートを使用せず比較的に安価で簡素な構成の潤滑系を実現できる。また、動力伝達装置の潤滑構造の改善によって車両や動力伝達装置を小型軽量化できるので、エネルギー効率の改善に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る潤滑構造を備える車両用動力伝達装置の基本構成を示すスケルトン図である。
【
図2】本実施形態の動力伝達装置の構成要素の配置を模式的に示す図である。
【
図3】動力伝達装置における
図2のA-A矢視に対応する位置を示す図で、中間ケースとフライホイールケースの合わせ面から中間ケース側を見た図である。
【
図4】動力伝達装置における
図2のB-B矢視に対応する位置を示す図で、中間ケースとモータケースの合わせ面から中間ケース側を見た図である。
【
図6】ギヤ室内の貫通孔及びその周辺を斜め上方から見た部分拡大斜視図である。
【
図7】動力伝達装置における
図2のC-C矢視に対応する位置を示す図で、中間ケースとフライホイールケースの合わせ面からフライホイールケース側を見た図である。
【
図8】隔壁側に設けた貫通孔及び樋部材とフライホイールケースの内面側に設けたオイル貯留部の配置構成を説明するための斜視図である。
【
図9】動力伝達装置内のオイルの流れを説明するための図で、モータ室内のオイルの流れを示す図である。
【
図10】動力伝達装置内のオイルの流れを説明するための図で、モータ室からギヤ室へのオイルの流れを示す図である。
【
図11】動力伝達装置内のオイルの流れを説明するための図で、モータ室からギヤ室へのオイルの流れを示す図である。
【
図12】動力伝達装置内のオイルの流れを説明するための図で、ギヤ室内のオイル貯留部から被潤滑部であるカウンタ軸のベアリングへのオイルの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で前、後というときはそれぞれ、後述する動力伝達装置T(ケース2)を車両に搭載した状態での車両の前進方向、後進方向を指し、左、右というときは、同状態での車両の前進方向を向いた状態での左、右を指すものとする。また、各図に示す前、後、左、右の矢印が指し示す方向も同様である。
【0030】
[車両用動力伝達装置の基本構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る潤滑構造を備える車両用動力伝達装置の基本構成を示すスケルトン図である。同図に示すように、動力伝達装置Tは、平行に配置された入力軸11およびカウンタ軸(出力軸)12を備える。入力軸11には車両の駆動源であるエンジン(内燃機関)Eのクランク軸13が直列に接続されており、カウンタ軸12はファイナルドライブギヤ14、ファイナルドリブンギヤ(ファイナルギヤ:回転部材)15、ディファレンシャルギヤDおよび左右のドライブ軸(ファイナル軸)16,16を介して左右の車輪W,Wに接続される。また、入力軸11に油圧クラッチCを介して支持された第一ドライブギヤ17が、カウンタ軸12に固設した第一ドリブンギヤ18に噛合する。
【0031】
また、動力伝達装置Tでは、電気モータである電動機Mおよび発電機Gが同軸に配置されており、中空の電動機軸19の内部に発電機軸20が相対回転自在に嵌合する。電動機軸19に固設した第二ドライブギヤ21がカウンタ軸12に固設した第二ドリブンギヤ22に噛合し、また入力軸11に固設した発電機ドライブギヤ23が発電機軸20に固設した発電機ドリブンギヤ24に噛合する。電動機Mおよび発電機GはバッテリBに接続される。
【0032】
[動力伝達装置の潤滑構造]
次に、本発明の一実施形態に係る動力伝達装置の潤滑構造を説明する。
図2は、本実施形態の動力伝達装置の構成要素の配置を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施形態の動力伝達装置Tは、動力伝達装置Tの構成部品を収容するケース2を備えている。ケース2は、動力伝達装置Tの軸方向における中間に配置された中間ケース2Aと、中間ケース2Aに対して軸方向の一方の側(車両搭載状態での左右方向における右側)に取り付けられたフライホイールケース2Bと、中間ケース2Aに対して軸方向の他方の側(車両搭載状態での左右方向における左側)に取り付けられたモータケース2Cとの三部品で構成されている。そして、中間ケース2Aとフライホイールケース2Bとで形成された内部空間は、動力伝達装置Tのギヤ機構(動力伝達機構)の構成部品を収容するギヤ室(第一室)4Aとなっており、中間ケース2Aとモータケース2Cとで形成された内部空間は、電動機Mおよび発電機Gを収容するモータ室(第二室)4Bとなっている。中間ケース2Aには、隔壁3が形成されており、当該隔壁3でギヤ室4Aとモータ室4Bの間が仕切られている。隔壁3にはギヤ室4Aとモータ室4Bを連通する貫通孔3aが設けられている。当該貫通孔3aには、モータ室4B内に進退移動可能に配置したパーキングロッド31の先端部31aが挿通されてギヤ室4A側へ突出するようになっている。
【0033】
ギヤ室4A内には、当該ギヤ室4A内でオイルを貯留するオイル貯留部40と、隔壁3における貫通孔3aの下方からギヤ室4A内に延出してオイル貯留部40の上方にその先端部50aが配置された樋部材50とが設けられている。オイル貯留部40は、ギヤ室4A内の隔壁3ではない壁部(フライホイールケース2Bの内壁)に設けられており、かつ、隔壁3には接していない。
【0034】
モータ室4B内には、電動モータである電動機M及び発電機Gが設置されており、モータ室4B内の電動機M及び発電機Gの上部には、これら電動機M及び発電機Gを冷却するためのオイルを供給する冷却パイプ(冷却油路)60があり、冷却パイプ60から電動機Mおよび発電機Gに供給されたオイルの一部が貫通孔3aを通過するように構成されている。
【0035】
そして、本実施形態の潤滑構造は、モータ室4Bから貫通孔3aを通過してギヤ室4Aに流入するオイルを樋部材50で受けてオイル貯留部40に案内し、当該オイルをオイル貯留部40に貯留し、オイル貯留部40は、それが設けられているケース2(フライホイールケース2B)の壁部に連通路(潤滑油路)47を有し、当該連通路47を介してギヤ室4A内の被潤滑部であるカウンタ軸12のベアリング12aにオイルを案内する。
【0036】
オイル貯留部40の一の側壁はフライホイールケース2Bの壁部(内面)で構成されており、オイル貯留部40の他の一の側壁はバッフルプレート45からなる。
【0037】
また、ギヤ室4Aの底部5aにはオイルLが貯留されており、ギヤ室4A内には回転部材であるファイナルドリブンギヤ15が設けられており、このファイナルドリブンギヤ15の一部がギヤ室4Aの底部5aに貯留されているオイルに浸漬している。そして、ファイナルドリブンギヤ15の回転により、ギヤ室4Aの底部5aに貯留されているオイルが掻き上げられてオイル貯留部40に貯留されるようになっている。
【0038】
次に、
図3~
図8を参照して、動力伝達装置の各部の詳細構成を説明する。
図3は、
図2のA-A矢視に対応する位置を示す図で、中間ケース2Aとフライホイールケース2Bの合わせ面2aから中間ケース2A側を見た図である。同図では、ギヤ室4A内のギヤなどの構成部品も図示している。また、
図4は、
図2のB-B矢視に対応する位置を示す図で、中間ケース2Aとモータケース2Cの合わせ面2bから中間ケース2A側を見た図である。同図では、モータ室4B内の電動機M及び発電機Gや冷却パイプ60などの構成部品も図示している。
【0039】
中間ケース2A、フライホイールケース2B、モータケース2Cは、いずれも鋳物製の部材で、中間ケース2Aとフライホイールケース2Bは合わせ面2aで突き合わされて図示しないボルトの接合で固定されている。同様に、中間ケース2Aとモータケース2Cも合わせ面2bで突き合わされて図示しないボルトの接合で固定されている。そして、中間ケース2Aの隔壁3に設けた貫通孔3aは、詳細な図示は省略するが、その径寸法(内径寸法)がギヤ室4A側よりもモータ室4B側の方が大きな径に形成されており、モータ室4B側からギヤ室4A側に向かって次第に縮径する形状である。
【0040】
図2及び
図4に示すように、モータ室4B内には、電動モータである電動機M及び発電機Gが設置されており、モータ室4B内の電動機M及び発電機Gの上部には、これら電動機M及び発電機Gを冷却するためのオイルを供給する冷却パイプ(冷却油路)60がある。そして、電動機M及び発電機Gの側部の隔壁3には、貫通孔3aと該貫通孔3aに挿通されているパーキング機構30のディテント部35やパーキングロッド31が設置されている。エンジンEの回転で動作するオイルポンプ(図示せず)からモータ室4Bに供給されるオイルが冷却パイプ60から電動機M及び発電機Gに供給され、そのオイルの一部が貫通孔3aを通過してモータ室4Bからギヤ室4Aへ導かれるようになっている。
【0041】
図2及び
図3に示すように、ギヤ室4A内には、ドライブ軸16に支持された大径のファイナルドリブンギヤ15と、このファイナルドリブンギヤ15に噛合するカウンタ軸12上の小径のファイナルドライブギヤ14とが設けられている。また、ファイナルドライブギヤ14と同軸上に設けられた第一ドリブンギヤ18や、発電機軸20上に設けられた発電機ドリブンギヤ24、入力軸11上に設けられた発電機ドライブギヤ23など、動力伝達装置Tのギヤ機構を構成する各種のギヤが収容されている。
【0042】
また、ギヤ室4A内には、パーキング機構30が設けられている。パーキング機構30は、支軸32aに揺動可能に支持されたパーキングポール32と、パーキングポール32を揺動させるパーキングロッド31とからなる。パーキングポール32は、発電機ドリブンギヤ(パーキングギヤ)24に係合するロック位置と発電機ドリブンギヤ24への係合が解除された解除位置との間で揺動可能に支持されている。パーキングロッド31は、モータ室4B内で進退移動可能に設置されており、その先端部31a側の一部が隔壁3の貫通孔3aを通してギヤ室4A内に突出可能に配置されている。パーキングロッド31がギヤ室4A側へ進出することでパーキングロッド31の先端部31aがパーキングポール32を押圧してロック位置に揺動させてパーキングロック状態となる。一方、パーキングロッド31がモータ室4Bへ退避することで、パーキングロッド31の先端部31aで押されていたパーキングポール32が解除位置へ戻りパーキングロックが解除状態となる。
【0043】
図5は、
図3のX部分の部分拡大図である。また、
図6は、ギヤ室4A内の貫通孔3a及びその周辺を斜め上方から見た部分拡大斜視図である。これらの図に示すように、ギヤ室4A内の貫通孔3a及びパーキングロッド31の下側には、パーキングロッド31を支持するためのパーキングホルダ(ホルダ部材)33が設置されている。パーキングホルダ33は貫通孔3aの前側から下側にかけての隔壁3にボルト33bの締結で固定されており、湾曲面状に形成されたパーキングホルダ33の上面33aがパーキングロッド31の先端部31aの前側及び下側を覆うように配置されている。
【0044】
また、隔壁3における貫通孔3aの下側(下方)には、ギヤ室4A内に延出する長尺状の樋部材50が設けられている。樋部材50は、ギヤ室4A内で隔壁3からフライホイールケース2B側に向かって横方向に直線状に延びており、その先端部50aがオイル貯留部40の上方に配置されている。樋部材50は、長手方向の断面が略U字型に形成されており、その上面に凹形状のオイル流通路である凹部51を有している。また、樋部材50は、少なくともその上面(凹部51の底面)が隔壁3側(根元側)から先端部50a側に向かって次第に下方へ傾斜している傾斜面状になっている。
【0045】
また、樋部材50は、隔壁3側(根元側)から先端部50a側に向かって、上下方向の高さ寸法が次第に小さくなり、かつ、左右方向(幅方向)の幅寸法が次第に小さくなる一方、部材の厚さ寸法が次第に小さくなることで、凹部(オイル流通路)51の幅寸法(内幅寸法)は次第に大きくなっている。
【0046】
また、
図5に示すように、樋部材50は、凹部(オイル流通路)51を形成している幅方向の両側の立壁52a,52bのうち、一方の立壁である車両の後方側の立壁52aの高さ寸法Haが、他方の立壁である車両の前方側の立壁52bの高さ寸法Hbよりも高い寸法(Ha>Hb)となっている。したがって、樋部材50の凹部(オイル流通路)51の深さは、車両の後側の方が前側よりも深い寸法となっている。また、樋部材50の断面の厚みは、車両前後方向における後方の厚みの方が前方の厚みよりも厚い。
【0047】
また、
図5に示すように、樋部材50は、隔壁3における貫通孔3aの下方であって、かつ該貫通孔3aの中心よりも車両前後方向における後方に位置している。すなわち、樋部材50は、隔壁3における貫通孔3aに対する車両後方側の斜め下方に位置している。そして、パーキングホルダ33の端面33cが樋部材50の上方に(庇状に延出して)配置されている。
【0048】
図7は、
図2のC-C矢視に対応する位置を示す図で、中間ケース2Aとフライホイールケース2Bの合わせ面2bからフライホイールケース2B側を見た図である。同図では、ギヤ室4A内のギヤなどの構成部品は図示を省略し、オイル貯留部40に取り付けたバッフルプレート45のみを図示している。なお、
図7には参考として中間ケース2A側の樋部材50やファイナルドリブンギヤ15の配置も点線で図示している。また、
図8は、隔壁3側に設けた貫通孔3a及び樋部材50とフライホイールケース2Bの内面側に設けたオイル貯留部40の配置構成を説明するための斜視図である。
【0049】
これらの図に示すように、ギヤ室4A内でオイルを貯留するオイル貯留部40は、ギヤ室4A内のフライホイールケース2Bの内壁(隔壁3ではない壁面)に設けられており、かつ、隔壁3には接していない。
図8に示すように、オイル貯留部40は、隔壁3の貫通孔3a及び樋部材50に対向する位置に設けられている。
【0050】
そして、オイル貯留部40の一の側壁(フライホイールケース2B側の隔壁)は、フライホイールケース2Bの壁部(内面)で構成されており、オイル貯留部40の底面40aは、ギヤ室4Aの底部5aよりも高い位置にあって、フライホイールケース2Bの壁部から延出する第一リブ41で構成されている。また、オイル貯留部40の他の一の側壁(隔壁3側の側壁)は、第一リブ41に取り付けられたバッフルプレート45で構成されている。また、オイル貯留部40の上方であって樋部材50より上方の位置には、フライホイールケース2Bの壁部(内面)から延出する第二リブ42が設けられている。そして、バッフルプレート45は、第一リブ41と第二リブ42の間を接続するようにこれら第一リブ41と第二リブ42の両方に取り付けられている。
【0051】
バッフルプレート45は、例えば鉄板又はアルミ板など金属製の略平板状の部材で、第一リブ41の先端と第二リブ42の先端にボルト43の締結で固定されている。第一リブ41及び第二リブ42とバッフルプレート45とによってフライホイールケース2Bの内面との隙間にオイルを貯留するオイル貯留部40が形成されている。また、
図8のY部分に示すように、バッフルプレート45における樋部材50の先端部50aに相対する部位は、隔壁3に向けて曲げられている折曲部45bとなっている。
【0052】
次に、上記構成の動力伝達装置Tにおけるオイルの流れを説明する。
図9~
図12は、動力伝達装置T内のオイルの流れを説明するための図で、
図9は、モータ室4B内のオイルの流れを示す図、
図10及び
図11は、モータ室4Bからギヤ室4Aへのオイルの流れを示す図、
図12は、ギヤ室4A内のオイル貯留部40から被潤滑部であるカウンタ軸12のベアリング12aへのオイルの流れを示す図である。
【0053】
本実施形態の潤滑構造では、
図9に示すように、モータ室4Bの上部にある冷却パイプ(冷却油路)60から、モータ室4B内の電動機M及び発電機Gに冷却用のオイルが供給される。そして、このオイルの一部が電動機M及び発電機Gの固定子に当たって跳ね返るなどして、
図4に示す隔壁3の貫通孔3aに向かって飛散することで、当該オイルが貫通孔3aを通してギヤ室4Aに侵入する。また、冷却パイプ60から供給されたオイルは、
図10に示すように、モータ室4B内のパーキングロッド31を伝って貫通孔3aからギヤ室4Aに侵入する。
【0054】
貫通孔3aからギヤ室4Aに侵入したオイルは、
図11に示すように、貫通孔3aのギヤ室4A側の出口から流下し、樋部材50で受け止られる。樋部材50で受け止められたオイルは、樋部材50の凹部51を伝ってオイル貯留部40に導かれ、オイル貯留部40に貯留される。オイル貯留部40に貯留されたオイルは、
図12に示すように、オイル貯留部40の一の側壁を構成するフライホイールケース2Bの壁部に設けた連通路(潤滑油路)47を通ってギヤ室4A内の被潤滑部であるカウンタ軸12のベアリング12aに案内される。こうして、オイル貯留部40に貯留されたオイルでベアリング12aが潤滑される。
【0055】
また、車両が走行している状態では、
図7に示すように、回転するファイナルドリブンギヤ15によってギヤ室4Aの底部5aに貯留されているオイルLが掻き上げられる。この掻き上げられたオイルLが同図の矢印Sに示すように、第二リブ42で受け止められてオイル貯留部40に貯留される。
【0056】
このように、本実施形態の潤滑構造では、動力伝達装置Tの構成部品を収容するケース2と、ケース2内をギヤ室4Aとモータ室4Bとに分割する隔壁3と、ギヤ室4A内でオイルを貯留するオイル貯留部40とを備えている、そして、オイル貯留部40は、ギヤ室4A内の隔壁3ではない壁部に設けられており、かつ、隔壁3には接しておらず、隔壁3には、ギヤ室4Aとモータ室4Bを連通する貫通孔3aと、貫通孔3aの下方においてギヤ室4A内に延出してオイル貯留部40の上方にその先端部50aが配置された樋部材50とが設けられている。
【0057】
本実施形態の潤滑構造によれば、モータ室4Bから隔壁3の貫通孔3aを通ってギヤ室4Aに導入されたオイルが樋部材50を伝ってオイル貯留部40に導かれるので、ケース2の隔壁3ではない壁部に設けられて、かつ、隔壁3には接していないオイル貯留部40に対して、より多くのオイルを貯留させることができる。
【0058】
すなわち、車両の通常走行時はファイナルドリブンギヤ15から掻き上げられるオイルをオイル貯留部40に貯めて潤滑に使用するが、ファイナルドリブンギヤ15は走行速度が低いと十分なオイルを掻き上げることができず、オイル貯留部40にオイルを十分に貯めることができない。そのため、従来の潤滑構造では、オイル貯留部40へのオイル収集効率を上げるため、複雑な形状で高価なバッフルプレートを使用していた。これに対して、本実施形態(本発明)の潤滑構造を採用すれば、エンジンEの回転で動作するオイルポンプ(図示せず)からモータ室4Bに供給された冷却用オイルが隔壁3の貫通孔3aを通じてギヤ室4Aに供給されるので、たとえ車両の走行速度が低くても、隔壁3の貫通孔3aを通じて当該オイルをギヤ室4Aに導くことができる。
【0059】
そして、隔壁3の貫通孔3aを通ってギヤ室4Aに導かれたオイルを樋部材50でオイル貯留部40に効率良く導くことで、低速での走行時における潤滑オイルの供給量を効果的に増やすことができる。これにより、形状や構造が複雑で高価なバッフルプレートを使用することなく、比較的に簡易な構造で廉価なバッフルプレート45の使用で十分となるので、安定したオイル供給とコスト低減の両立が可能となる。
【0060】
また、本実施形態の潤滑構造では、樋部材50はその上面に凹形状のオイル流通路である凹部51を有している。このように、樋部材50の上面に凹形状のオイル流通路を有することで、樋部材50で効率良くオイル貯留部40へオイルを導くことができる。
【0061】
また、本実施形態の潤滑構造では、樋部材50は少なくともその上面(凹部51の底面)が隔壁3側から先端部50a側に向かって下方へ傾斜している。この構成によれば、樋部材50の上面(凹部51の底面)の傾斜を利用してオイル貯留部40へ更に効率良くオイルを導くことができる。なお、本実施形態の樋部材50は、中間ケース2Aと一体の部分であって、中間ケース2Aの製造時に鋳物として作成するものである。そのため、鋳型からの鋳抜き勾配のため、樋部材50は、その根元側が太く先端部50a側が細くなる。そして、樋部材50の主に上面(凹部51)を使用してオイルを導くので、この鋳抜き勾配による傾斜を利用して、オイル貯留部40に効率良くオイルを導くことができる。
【0062】
また、本実施形態の潤滑構造では、樋部材50は、その先端部50aがオイル貯留部40の上方に位置しており、かつ、オイル貯留部40には接触していない。この構成によれば、樋部材50の先端部50aがオイル貯留部40の上方(上方に離間した位置)にあることで、樋部材50でオイル貯留部40へ導かれるオイルをこぼさずにオイル貯留部40へ収集することができる。また、仮に樋部材50とバッフルプレート45が接触すると、車両の走行時の振動でそれらが繰り返し接触することで部材に疲労などが生じて不具合が起こるおそれがあるが、本実施形態では、樋部材50の先端部50aがバッフルプレート45とは接触していないため、そのような問題が生じずに済む。
【0063】
また、本実施形態の潤滑構造では、樋部材50は、隔壁3側から先端部50a側に向かってその高さ寸法が次第に小さくなり、かつその幅寸法が次第に小さくなる一方、部材の厚さ寸法が次第に小さくなることで、凹部51の幅寸法(内面の幅寸法)は次第に大きくなるように形成されている。これにより、樋部材50は、根元側から先端部50a側に向かって、車両垂直方向の全厚が薄くなり、車両前後方向の全幅が薄くなり、樋部材50の肉厚も薄くなるとともに、凹部51の溝の幅が増加するように構成されている。また、樋部材50の断面は、車両前後方向における後方の厚みが前方の厚みよりも厚い。
【0064】
この構成によれば、樋部材50は、根元側から先端部50a側に行くほど、鋳物の抜き勾配のため、全幅及び全厚が小さくなるが、厚みも小さくなる。また、凹部51の油路の幅は大きくなる。このように、樋部材50はその先端部50aに近づくほど凹部51の溝幅が広がっているため、樋部材50の凹部51(オイル流通路)を流通するオイルがこぼれ難くなるので、樋部材50でオイルを効率良く収集することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態の潤滑構造では、樋部材50は、隔壁3における貫通孔3aの下方であって、かつ該貫通孔3aの中心よりも車両前後方向における後方に位置している。
【0066】
本実施形態では、貫通孔3aのギヤ室4A側出口の前には、パーキングロッド31用のパーキングホルダ33がある。そのため、パーキングロッド31を伝ってきたオイルは一旦このパーキングホルダ33の上面33aに落下し、その後、樋部材50に受け渡されてオイル貯留部40に導かれる。このような構成により、車両の加速時・減速時・停止時の何れであっても安定してオイル貯留部40にオイルを集めることができる。なお、樋部材50は鋳物のため、鋳抜き勾配の関係から形状に制約があり、その幅をあまり広くすることができない。そのため、仮に(パーキングホルダ33を介さずに)樋部材50にオイルを直接集める構成であると、車両の加減速時に樋部材50からオイルがこぼれるおそれがある。
【0067】
また、車両の走行時には、パーキング機構30のパーキングロックが解除状態であるが、パーキングロッド31は隔壁3よりもギヤ室4A側に突出しているので、パーキングロッド31を伝ってモータ室4Bからギヤ室4Aに導かれたオイルは、パーキングホルダ33で受け止められる。そして、パーキングホルダ33の車両前後方向の後部が樋部材50の上部に位置しているので、パーキングホルダ33から樋部材50にオイルが落ちて回収される。
【0068】
また、本実施形態では、モータ室4Bから貫通孔3aを通過してギヤ室4Aに流入するオイルを樋部材50で受けてオイル貯留部40に案内し、当該オイルをオイル貯留部40に貯留し、オイル貯留部40は、それが設けられているフライホイールケース2Bの壁部に連通路(潤滑油路)47を有し、当該連通路47を介してギヤ室4A内の被潤滑部であるカウンタ軸12のベアリング12aにオイルを案内するようになっている。
【0069】
この構成によれば、樋部材50から直接ではなく、オイル貯留部40に一旦オイルを溜めることで、車速などによりオイルの供給が多いときも少ないときも安定したオイルの供給による潤滑を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態の潤滑構造では、カウンタ軸12のベアリング12aがオイル貯留部40のオイルによる潤滑対象の被潤滑部である。このベアリング12aは、ギヤ室4A内の高い位置に配置されているため、ベアリング12a専用の供給ポンプなどが無いと、オイルの供給が難しく潤滑量が不足しがちである。これに対して、本実施形態の潤滑構造によれば、ベアリング12aにオイル貯留部40からのオイルを供給することで潤滑できる。したがって、ベアリング12a専用の供給ポンプなどが不要となるため、動力伝達装置Tの製造コストの低減や構成の簡素化・軽量化を図ることができる。
【0071】
また、本実施形態の潤滑構造では、オイル貯留部40の一の側壁はフライホイールケース2Bの壁部(内面)で構成されており、オイル貯留部40の底面40aはギヤ室4Aの底部5aよりも高い位置にあり、フライホイールケース2Bの壁部から延出する第一リブ41で構成されている。また、オイル貯留部40の他の一の側壁は、第一リブ41に取り付けられたバッフルプレート45からなる。また、オイル貯留部40の上方であって、樋部材50より上方において、フライホイールケース2Bの壁部から延出する第二リブ42を有する。そして、バッフルプレート45は、第一リブ41と第二リブ42に取り付けられている。
【0072】
このように、本実施形態のオイル貯留部40は、フライホイールケース2Bの壁部(内面)を使用して形成している。鋳物の一体成型であるフライホイールケース2Bの製造時にオイル貯留部40の壁部である第二リブ42と底部である第一リブ41とを一体に形成することで、オイル貯留部40のための専用のケースを作るよりも製造コストを低減できる。また、オイル貯留部40のモータ室4B側の壁部には、別途の部材としてバッフルプレート45を使用するが、その場合でも、旧型式のような複雑な形状のバッフルプレートは不要となり、シンプルな形状の板材で構成することができる。また、第二リブ42は、ファイナルドリブンギヤ15から掻き上げられたオイルを跳ね返してオイル貯留部40に落とすために設けられている。この第二リブ42は、フライホイールケース2Bの製造時に鋳物のリブで一体的に作成される。バッフルプレート45は、第一リブ41と第二リブ42の間を接続して取り付けられていることで、これら第一リブ41及び第二リブ42とバッフルプレート45によって、容器状のオイル貯留部40が形成されている。
【0073】
また、本実施形態の潤滑構造では、バッフルプレート45の樋部材50に相対する部位は、隔壁3に向けて曲げられている折曲部45bとなっている。すなわち、バッフルプレート45における樋部材50の周辺は隔壁3に向かって曲げられている。樋部材50とバッフルプレート45との隙間は、約1~2mm程度である。樋部材50は鋳物抜き勾配のため、その下面が斜め勾配となっている。そのため、樋部材50を流通するオイルの流れに勢いがない場合は、樋部材50を流れてきたオイルが下面を伝って隔壁3側に戻ってしまうおそれがある。そのため、バッフルプレート45の先端部を隔壁3に向けて曲げることで、樋部材50の先端部50aとバッフルプレート45との隙間を小さくしている。これにより、樋部材50を流通するオイルの流れに勢いがない場合でも、樋部材50からのオイルを集め易くしている。
【0074】
また、本実施形態の潤滑構造では、ギヤ室4Aの底部5aにはオイルが貯留されており、ギヤ室4A内には回転部材であるファイナルドリブンギヤ15が設けられており、このファイナルドリブンギヤ15の一部(下側の一部)がギヤ室4Aの底部5aに貯留されているオイルに浸漬されている。そして、ファイナルドリブンギヤ15の回転により、ギヤ室4Aの底部5aに貯留されているオイルがかき上げられてオイル貯留部40に貯留される。
【0075】
また、本実施形態の潤滑構造では、モータ室4B内には電動モータである電動機M及び発電機Gが設置されており、動力伝達装置Tは、外部にあるエンジンEから入力された動力を伝達して動力伝達装置Tの外部へ出力するように構成されている。したがって、本実施形態の潤滑構造は、車両の動力源としてエンジンEと電動モータ(電動機M及び発電機G)とを有するハイブリッド車両のシステムに適した構造である。
【0076】
また、本実施形態の潤滑構造では、隔壁3の貫通孔3aは、パーキングロッド31を通過させる穴である。この構成によれば、隔壁3の貫通孔3aはパーキングロッド31のための貫通孔3aを使用するので、隔壁3に別途の孔(潤滑用の新規の孔)を設ける必要がないため、その分、車両や動力伝達装置Tの低コスト化を図ることができる。
【0077】
また、本実施形態の潤滑構造では、隔壁3の貫通孔3aは、モータ室4Bからギヤ室4Aに向かって縮径する形状である。隔壁3の貫通孔3aは、鋳物の抜き勾配のためモータ室4B側は穴径が大きくギヤ室4A側は穴径が小さく、この構造は、機械加工など不要のためコストが安い。
【0078】
また、本実施形態の潤滑構造では、モータ室4Bの上部には、電動モータ(電動機M及び発電機G)を冷却するためのオイルを供給する冷却パイプ(冷却油路)60があり、冷却パイプ60から電動機M及び発電機Gに供給されたオイルが貫通孔3aを通過するように構成されている。この構成によれば、冷却パイプ60から噴射された冷却オイルが電動機M及び発電機Gの固定子に当たって跳ね返り、それが貫通孔3aに向かって飛散したりすることで、貫通孔3aを通してギヤ室4Aに侵入する。
【0079】
また、本実施形態の潤滑構造では、隔壁3のモータ室4B側の面に付着し流れ落ちるオイルが貫通孔3aを通過するように構成されている。隔壁3を伝ってきたオイルが貫通孔3aを通してギヤ室4Aに入る。またはパーキングロッド31を伝ってギヤ室4Aに入ることで上記のような潤滑が実現される。
【0080】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0081】
2 ケース
2A 中間ケース
2B フライホイールケース
2C モータケース
2a,2b 合わせ面
3 隔壁
3a 貫通孔
4A ギヤ室(第一室)
4B モータ室(第二室)
5a 底部
11 入力軸
12 カウンタ軸
12a ベアリング(被潤滑部)
13 クランク軸
14 ファイナルドライブギヤ
15 ファイナルドリブンギヤ(ファイナルギヤ:回転部材)
16 ドライブ軸
17 第一ドライブギヤ
18 第一ドリブンギヤ
19 電動機軸
20 発電機軸
21 第二ドライブギヤ
22 第二ドリブンギヤ
23 発電機ドライブギヤ
24 発電機ドリブンギヤ
30 パーキング機構
31 パーキングロッド
31a 先端部
32 パーキングポール
32a 支軸
33 パーキングホルダ(ホルダ部材)
33a 上面
33b ボルト
33c 端面
35 ディテント部
40 オイル貯留部
40a 底面
41 第一リブ
42 第二リブ
43 ボルト
45 バッフルプレート
45b 折曲部
50 樋部材
50a 先端部
51 凹部(凹形状のオイル流通路)
52a,52b 立壁
60 冷却パイプ(冷却油路)
E エンジン(内燃機関)
G 発電機(電動モータ)
M 電動機(電動モータ)
T 動力伝達装置