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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054971
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】熱処理方法及び熱処理炉
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/26 20060101AFI20240411BHJP
   C21D 1/84 20060101ALI20240411BHJP
   C21D 1/78 20060101ALI20240411BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20240411BHJP
   C21D 9/32 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C21D1/26 Z
C21D1/84
C21D1/78
C21D9/00 B
C21D9/32 A
C21D9/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161472
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英樹
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA18
4K042AA25
4K042BA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA03
4K042DA04
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC05
4K042DE06
4K042DE07
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】加熱処理による被処理物の残熱を利用し、金属組織の変態を伴う熱処理を施すことができる熱処理方法及び熱処理炉を提供する。
【解決手段】鉄系材料が用いられた被処理物の熱処理方法であって、加熱処理による残熱を有する被処理物を、第1冷却温度に冷却する第1工程と、第1工程後の被処理物を、第1冷却温度と同じ温度又は第1冷却温度よりも低温度である第1保持温度とした雰囲気中に保持する第2工程と、第2工程後の被処理物を、第1保持温度よりも低温度の第2冷却温度に冷却する第3工程と、第3工程後の被処理物を、第2冷却温度と同じ温度又は第2冷却温度よりも低温度である第2保持温度とした雰囲気中に保持する第4工程と、を備え、熱処理炉の炉本体11は、第1工程を行う第1冷却室21、第2工程を行う第1均熱室22、第3工程を行う第2冷却室23、及び第4工程を行う第2均熱室24を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料が用いられた被処理物の熱処理方法であって、
加熱処理による残熱を有する前記被処理物を、第1冷却温度に冷却する第1工程と、
前記第1工程後の前記被処理物を、前記第1冷却温度と同じ温度又は前記第1冷却温度よりも低温度である第1保持温度とした雰囲気中に保持する第2工程と、
前記第2工程後の前記被処理物を、前記第1保持温度よりも低温度の第2冷却温度に冷却する第3工程と、
前記第3工程後の前記被処理物を、前記第2冷却温度と同じ温度又は前記第2冷却温度よりも低温度である第2保持温度とした雰囲気中に保持する第4工程と、を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記加熱処理による残熱を有する前記被処理物の温度が1000℃以上1500℃以下である請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
前記加熱処理は、熱間鍛造である請求項2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
前記第2工程において、前記第1冷却温度が前記第1保持温度よりも10℃~70℃高い温度である請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項5】
前記第2工程は、前記鉄系材料の結晶粒の整粒化を促す工程である請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項6】
前記第2工程において、前記第1保持温度が850℃以上950℃以下である請求項5に記載の熱処理方法。
【請求項7】
前記第3工程において、前記第2冷却温度が前記第2保持温度よりも5℃~60℃高い温度である請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項8】
前記第4工程は、前記鉄系材料の等温変態を促す工程である請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項9】
前記第4工程において、前記第2保持温度が600℃以上800℃以下である請求項8に記載の熱処理方法。
【請求項10】
請求項1に記載の熱処理方法に用いられる熱処理炉であって、
鉄系材料が用いられ、加熱処理による残熱を有する被処理物を収容する炉本体を備え、
前記炉本体は、
残熱を有する状態の温度から第1冷却温度となるまで前記被処理物を冷却する第1冷却室と、
第1保持温度とした雰囲気中に前記被処理物を保持する第1均熱室と、
前記第1保持温度から第2冷却温度となるまで前記被処理物を冷却する第2冷却室と、
第2保持温度とした雰囲気中に前記被処理物を保持する第2均熱室と、を備えることを特徴とする熱処理炉。
【請求項11】
前記被処理物を加熱処理する加熱処理装置と、
前記加熱処理装置から前記炉本体へ前記被処理物を搬送する搬送装置と、をさらに備える請求項10に記載の熱処理炉。
【請求項12】
前記第1保持温度は、850℃以上950℃以下である請求項10又は11に記載の熱処理炉。
【請求項13】
前記第1冷却温度は、前記第1保持温度よりも10℃~70℃高温度である請求項10又は11に記載の熱処理炉。
【請求項14】
前記第2保持温度は、600℃以上800℃以下である請求項10又は11に記載の熱処理炉。
【請求項15】
前記第2冷却温度は、前記第2保持温度よりも5℃~60℃高温度である請求項10又は11に記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系材料が用いられた被処理物の熱処理方法、及びその熱処理方法に使用される熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼、合金鋼、鋳鍛鋼、特殊鋼などの鋼、あるいは鋳鉄などの鉄系材料が用いられた製品、部品等は、鉄系材料を熱間鍛造や鋳造等の加熱処理で所望の形状に形成した後、内部応力の除去、硬さの調整、加工性の向上などを目的とした熱処理を施される。
通常、熱処理は、鉄系材料を所望の金属組織に変態させる処理であり、加熱処理後に放冷等して略常温とした製品、部品等を被処理物とし、被処理物を加熱して高温度に熱し、その後、被処理物を急冷して前述の高温度よりも低い温度に冷やし、その温度で保持することで実行される。
近時の熱処理では、温室効果ガスの排出量の削減(カーボンニュートラル)への要請等から、被処理物の加熱に利用されるプロパンガス、ブタンガス等といった燃料の使用量の削減、つまり省エネルギー化を要求されている。こうした省エネルギー化への要求に関し、例えば、特許文献1、2には、熱間鍛造の熱を利用し、特許文献1であればローラーシェルへの焼入れ及び焼もどしを施す方法、特許文献2であればエンジンバルブの傘部鍛造等を施す方法が記載されている。
具体的に、特許文献1には、1回の温度サイクルを「常温-約1200℃-約800℃-約200℃-常温」とする熱間鍛造直接焼入れ自己焼もどしが記載され、詳しくは、熱間鍛造の熱を利用してローラーシェルの素材の表面部に焼入れを施し、その焼入れの冷却を途中で停止し、素材の芯部から表面部への熱伝導の熱を利用して表面部に低温焼もどしを施す方法が記載されている。
特許文献2には、母材を700~1200℃の高温度に加熱して熱間鍛造で粗形状まで鍛造し、すみやかに700~1000℃の範囲に冷却した後、残熱を利用して傘部を鍛造し、600~900℃に冷却して、その傘部鍛造後の残熱を利用し、600~900℃に保持して、時間変態を促進させる時効処理を施す方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-100193号公報
【特許文献2】特開2001-323323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1は、熱間鍛造直接焼入れ自己焼もどしに係る方法であり、特許文献2は、熱間鍛造の残熱を傘部の鍛造に利用することを主とする方法であるから、何れも被処理物への熱処理に関して適用できる用途が限られてしまい、汎用性に欠ける。
また、通常の熱処理は、加熱処理後の高温度から略常温になるまで冷やした被処理物を、再び加熱して高温度に熱する必要があるため、省エネルギー化への要求に応えることが難しい。
さらに、通常の熱処理で、特許文献1、2のように熱間鍛造等の加熱処理による残熱を利用しようとする場合、硬度のばらつきが生じやすく、安定した品質を保つことが難しい、という問題を有する。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、加熱処理による被処理物の残熱を利用し、金属組織の変態を伴う熱処理を施すことができる熱処理方法及び熱処理炉を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、鉄系材料が用いられた被処理物の熱処理方法であって、
加熱処理による残熱を有する前記被処理物を、第1冷却温度に冷却する第1工程と、
前記第1工程後の前記被処理物を、第1保持温度とした雰囲気中に保持する第2工程と、
前記第2工程後の前記被処理物を、前記第1保持温度よりも低温度の第2冷却温度に冷却する第3工程と、
前記第3工程後の前記被処理物を、第2保持温度とした雰囲気中に保持する第4工程と、を備えることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記加熱処理による残熱を有する前記被処理物の温度が1000℃以上1500℃以下であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記加熱処理は、熱間鍛造であることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1工程において、前記第1冷却温度が前記第1保持温度よりも10℃~70℃高い温度であることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第2工程は、前記鉄系材料の結晶粒の整粒化を促す工程であることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記第2工程において、前記第1保持温度が850℃以上950℃以下であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第3工程において、前記第2冷却温度が前記第2保持温度よりも5℃~60℃高い温度であることを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第4工程は、前記鉄系材料の等温変態を促す工程であることを要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記第4工程において、前記第2保持温度が600℃以上800℃以下であることを要旨とする。
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の熱処理方法に用いられる熱処理炉であって、
鉄系材料が用いられ、加熱処理による残熱を有する被処理物を収容する炉本体を備え、
前記炉本体の内部に、
残熱を有する状態の温度から第1冷却温度となるまで前記被処理物を冷却する第1冷却室と、
第1保持温度とした雰囲気中に前記被処理物を保持する第1均熱室と、
前記第1保持温度から第2冷却温度となるまで前記被処理物を冷却する第2冷却室と、
第2保持温度とした雰囲気中に前記被処理物を保持する第2均熱室と、を備えることを要旨とする。
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記被処理物を加熱処理する加熱処理装置と、
前記加熱処理装置から前記炉本体へ前記被処理物を搬送する搬送装置と、をさらに備えることを要旨とする。
請求項12に記載の発明は、請求項10又は11に記載の発明において、前記第1保持温度は、850℃以上950℃以下であることを要旨とする。
請求項13に記載の発明は、請求項10又は11に記載の発明において、前記第1冷却温度は、前記第1保持温度よりも10℃~70℃高温度であることを要旨とする。
請求項14に記載の発明は、請求項10又は11に記載の発明において、前記第2保持温度は、600℃以上800℃以下であることを要旨とする。
請求項15に記載の発明は、請求項10又は11に記載の発明において、前記第2冷却温度は、前記第2保持温度よりも5℃~60℃高温度であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加熱処理による被処理物の残熱を利用し、金属組織の変態を伴う熱処理を施すことができる熱処理方法及び熱処理炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の熱処理炉の一例を示す説明図。
図2】実施例の熱処理方法を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
[1]熱処理方法
本発明の熱処理方法は、鉄系材料が用いられた被処理物の熱処理方法であって、
加熱処理による残熱を有する前記被処理物を、第1冷却温度に冷却する第1工程と、
前記第1工程後の前記被処理物を、前記第1冷却温度と同じ温度又は前記第1冷却温度よりも低温度である前記第1保持温度とした雰囲気中に保持する第2工程と、
前記第2工程後の前記被処理物を、前記第1保持温度よりも低温度の第2冷却温度に冷却する第3工程と、
前記第3工程後の前記被処理物を、前記第2冷却温度と同じ温度又は前記第2冷却温度よりも低温度である第2保持温度とした雰囲気中に保持する第4工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
熱処理方法は、鉄系材料が用いられた被処理物を処理対象とする処理方法であり、具体的には、被処理物に用いられた鉄系材料の結晶組織(結晶構造)を変態させる処理方法である。
鉄系材料は、炭素(C)を含有する鉄(Fe)からなるものであれば、特に限定されない。また、鉄系材料には、炭素と鉄の他に、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、りん(P)、硫黄(S)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)等を含有する合金を含むことができる。
具体的に、鉄系材料としては、普通鋼、特殊鋼、鋳鍛鋼等の鋼や、鋳鉄等の鉄などを挙げることができる。
【0012】
鉄系材料は、熱処理方法において加熱及び冷却されることにより、結晶組織(結晶構造)が変態し、その結晶組織(結晶構造)の変態に伴って、鉄系材料中の炭素(C)の含有量を変化させる。熱処理方法は、結晶組織(結晶構造)の変態による鉄系材料中の炭素の含有量の変化を利用することにより、強度、靱性、硬さ等の性能について、被処理物から得られる製品を所望の性能とする。
即ち、熱処理方法は、製品に所望される性能に応じ、その製品を得るための被処理物について、被処理物に用いられた鉄系材料の炭素の含有量を調整する処理方法、ともいうことができる。
熱処理方法は、鉄系材料の結晶組織(結晶構造)を変態させることが可能な処理方法であれば、特に限定されない。熱処理方法の具体例として、焼なまし、焼入れ、焼もどし、焼ならし等を挙げることができる。
焼なましは、製品を得るべく被処理物に施される切削、研磨、穿孔等の加工をしやすくするために、鉄系材料を軟らかくする処理方法である。また、焼なましは、その種類として、完全焼なまし、等温焼なまし、球状化焼なまし、応力除去焼なまし等を挙げることができ、軟化や結晶粒の調整等の目的に応じて使い分けすることができる。
焼入れは、所望とする性能の製品を得るべく被処理物の強度、剛性、耐久性等の向上を図るために、鉄系材料を硬くする処理方法である。焼もどしは、所望とする性能の製品を得るべく被処理物の脆性や割れ等を改善するために、鉄系材料の粘りや強靱性を高める処理方法である。焼ならしは、被処理物から得られる製品の性能の均質化等を図るために、鉄系材料の結晶組織(結晶構造)を均一にする処理方法である。
【0013】
熱処理方法に関し、焼なまし、焼入れ、焼もどし、焼ならし等は、通常、被処理物から得られる製品やその用途等に応じて、適宜選択することができる。
製品は、特に限定されないが、例えば、自動車部品、一般機械部品、ボルト、ナット、ねじ、歯車等の強度を要する機械部品等を挙げることができ、具体的に、一般鋼材、圧延鋼材、工具鋼鋼材、特殊用途鋼鋼材、棒鋼、鋼板、鋼帯、鋼管、鋼矢板、レール、平鋼(フラットバー)、形鋼(H形鋼、L形鋼、I形鋼、山形鋼、溝形鋼、Z形鋼等)などを挙げることができる。用途は、特に限定されないが、例えば、構造用、一般加工用、圧力容器用、土木・建築用、鉄道用、配管用などを挙げることができる。
【0014】
自動車部品、機械部品等の製品は、通常、鋳造や熱間鍛造等によって概略形状(粗形)とする、所謂「半製品」として形成した後、加工によって孔部、ネジ穴、凹凸部、溝部等の細部形状を形成して得られる。こうした細部形状の加工をしやすくするため、熱処理方法としては、通常、半製品を被処理物として、その被処理物への焼なましが有用である。
また、シリンダーヘッド、サスペンションスプリング等の自動車部品は、通常、鋳造や熱間鍛造等によって製品とほぼ同形状(略最終形状)に形成され、細部形状の加工を要さずに得られる。こうしたシリンダーヘッド、サスペンションスプリング等の自動車部品に対する熱処理方法としては、略最終形状であるが熱処理等の仕上げをされていない状態の所謂「半製品」を被処理物として、強度、剛性、耐久性等の向上と、脆性や割れ等の改善ため、その被処理物への焼入れ及び焼もどしが有用である。
即ち、熱処理方法に供される被処理物は、鋳造や熱間鍛造等によって得られた半製品とすることが有用である。なお、半製品とは、生産に必要なすべての工程を完了した製品を最終製品として、最終製品ではない未完成の製品、つまり、生産に必要なすべての工程のうち1つ以上の工程が未完了の製品をいうものとする。
【0015】
上述した鋳造や熱間鍛造等の加熱処理後の半製品は、その加熱処理による残熱を有しており、高温度の状態となっている。通常、加熱処理後の半製品は、大気中等の常温雰囲気下で放冷させる等して、残熱を有さないものとし、その残熱を有さない半製品を被処理物として、焼なまし等の熱処理が施される。
本発明の熱処理方法において、被処理物は、加熱処理後の高温度の状態となっている半製品とされ、加熱処理による残熱を有している。熱処理方法は、鉄系材料の結晶構造の変態に要するエネルギーに関し、そのエネルギーとして、被処理物が有する残熱を利用することができる。このため、熱処理方法は、結晶構造の変態のために、プロパンガス、ブタンガス等の燃料を燃焼させる等して鉄系材料を加熱する必要がなく、燃料の使用量の削減を図ることができ、温室効果ガスの排出量の削減(カーボンニュートラル)を達成することができる。
【0016】
加熱処理は、処理後に被処理物が残熱を有するのであれば、特に限定されないが、例えば、被処理物とされる上述の半製品を得るための処理を挙げることができ、具体的には、熱間鍛造、鋳造、熱間押出、熱間圧延、熱間プレス等を挙げることができる。これらの中でも熱間鍛造は、鉄系材料をその再結晶温度以上に加熱することで、鉄系材料を軟らかくした状態で行われ、強度、靱性に優れる被処理物を得られることから、加熱処理として有用である。
具体的に、加熱処理による残熱を有する被処理物の温度は、1000℃以上1500℃以下とすることができる。被処理物の温度は、好ましくは1000℃以上1400℃以下、より好ましくは1050℃以上1300℃以下、さらに好ましくは1100℃以上1250℃以下とすることができる。
また、上述の加熱処理のうち熱間鍛造は、鉄系材料を処理対象とする場合、適する温度が、通常、1100℃以上1250℃以下であるから、残熱を有する被処理物の温度に関する観点においても、本発明における加熱処理として有用である。
【0017】
熱処理方法は、第1工程から第4工程の計4工程を備えており、これらの工程を実行することで、鉄系材料の結晶構造を変態させる。
以下、熱処理方法の第1工程から第4工程について説明する。
【0018】
〈第1工程〉
第1工程は、加熱処理による残熱を有する被処理物を、第1冷却温度に冷却する工程である。また、第1工程は、加熱処理による残熱を有することで高温度となっている被処理物が、次工程である第2工程において、鉄系材料の結晶粒度の整粒化に適する温度域、つまり第1保持温度となるように冷やす工程ともいうことができる。
この第1工程は、加熱処理後の残熱を有する被処理物を、熱処理炉が備える冷却室等に収容して冷やす等することにより、実行することができる。
また、第1工程は、被処理物を第1冷却温度に冷却することができるのであれば、冷却のための具体的な方法や手段、冷却に要する時間等について、特に限定されない。
【0019】
第1工程において、第1冷却温度は、加熱処理による残熱を有する被処理物の温度よりも低い温度とすることができる。さらに、第1冷却温度は、第1保持温度(第2工程で鉄系材料の結晶粒度の整粒化に適する温度域)に応じて、第1保持温度と同じ温度か、又は第1保持温度よりも高い温度とすることができる。
即ち、第1冷却温度は、残熱を有する被処理物の温度よりも低温度であり、且つ第1保持温度と同じ温度か、又は第1保持温度よりも高い温度であれば、特に限定されない。
具体的に、残熱を有する被処理物の温度、第1冷却温度及び第1保持温度は、残熱を有する被処理物の温度をT、第1冷却温度をTC1、第1保持温度をTk1、とした場合、T>TC1≧Tk1の関係を有している。
第1冷却温度(TC1)及び第1保持温度(Tk1)の関係について、第1冷却温度(TC1)は、第1保持温度(Tk1)と同じ温度(TC1=Tk1)とすることができるが、実質的には、第1保持温度(Tk1)よりも高温度(TC1>Tk1)とすることが好ましい。これは、第1工程から第2工程への搬送に要する時間や、第2工程で雰囲気が安定するまでの時間等で、被処理物の温度が第1冷却温度(TC1)から下がる可能性が高いためである。
【0020】
第1冷却温度(TC1)を第1保持温度(Tk1)よりも高温度とする場合、第1冷却温度(TC1)は、通常、第1保持温度(Tk1)よりも10℃~70℃高い温度とすることができる。
具体的に、第1冷却温度(TC1)と第1保持温度(Tk1)との温度差をα(℃)とした場合(α=TC1-Tk1)、α(℃)は10℃~70℃とすることができる(10≦α≦70)。温度差(α)は、好ましくは20℃~60℃、より好ましくは30℃~50℃とすることができる。
なお、第1保持温度(Tk1)は、第2工程において鉄系材料の結晶粒度の整粒化に適するように定められる温度である。このため、第1冷却温度(TC1)は、第1保持温度(Tk1)に応じて定められる温度である、ということができる。そして、第1冷却温度(TC1)が第1保持温度(Tk1)よりも低温度である場合(TC1<Tk1)、第2工程で鉄系材料の結晶粒度の整粒化が困難となる。
【0021】
〈第2工程〉
第2工程は、第1工程後の被処理物を、第1保持温度とした雰囲気中に保持する工程である。また、第2工程は、被処理物に用いられている鉄系材料の結晶粒度の整粒化を促す工程であるともいうことができる。
すなわち、加熱処理後の被処理物は、通常、鉄系材料の結晶組織がオーステナイトとなっているが、多くの場合、その結晶粒度(「結晶粒の大きさ」、「結晶粒のサイズ」とも表現される)が被処理物の部位により異なるため、換言すると、被処理物の全体で結晶粒の大きさが揃っていないため、結晶粒度のばらつきが生じやすい。こうした結晶粒度のばらつきは、被処理物の部位による硬度のばらつきを生じさせるため、加熱処理による残熱を利用する場合に、被処理物の品質を安定的に保つには、被処理物の部位による結晶粒度のばらつきを抑えることが有用となる。
第2工程は、被処理物を第1保持温度とした雰囲気中に保持し、被処理物の全体に熱を均一に及ぼすことにより、鉄系材料の結晶粒度の整粒化を促す。この結晶粒度の整粒化とは、つまり、被処理物の全体において、鉄系材料の結晶成長を略均一化させることにより、結晶粒の大きさ(サイズ)を揃えることを意味する。そして、被処理物は、鉄系材料の結晶粒度の整粒化を促されることにより、結晶粒度のばらつきが抑えられ、その結果、被処理物の部位による硬度のばらつきが抑えられて、品質の安定化を図ることができる。
なお、加熱処理の中でも特に熱間鍛造は、鍛造加工が複数回に分けて行われることで、結晶粒度のばらつきが高確率で生じる。本発明の熱処理方法は、加熱処理による残熱を利用するうえで、第2工程を備えることにより、結晶粒度のばらつきを抑えることができるため、本発明の熱処理方法における加熱処理として、熱間鍛造の採用は、有用なものとなる。
【0022】
第2工程は、第1工程後の被処理物を、熱処理炉が備える均熱室等に収容し、温度を第1保持温度で一定とした雰囲気中に保持することにより、実行することができる。
第1保持温度は、第2工程において、鉄系材料の鉄系材料の結晶粒度を整粒化させるのに適する温度域である。この第1保持温度は、鉄系材料の結晶粒度の整粒化を促すことが可能な温度であれば、特に限定されず、第2工程で処理される被処理物の鉄系材料の結晶組織に応じて定めることができる。
【0023】
第2工程で処理される被処理物の鉄系材料の結晶組織は、特に限定されないが、通常、オーステナイトとすることができる。
すなわち、加熱処理による残熱を有する被処理物の温度は、1000℃以上1500℃以下とすることができ、その温度における鉄系材料の結晶組織は、通常、オーステナイトである。第2工程は、鉄系材料の結晶粒度を整粒化するために、結晶組織をオーステナイトとしたまま、結晶成長が促されるように、処理することが有用である。
なお、オーステナイトは、その結晶構造が面心立方格子であり、結晶構造を形成する原子同士の空間が広く、その構造内に多くの炭素を取り込むことができるため、例えば、焼なましや、焼入れ及び焼もどし等のような鉄系材料の炭素の含有量を調整する熱処理方法において有用な結晶組織である。
【0024】
第2工程で処理される被処理物の鉄系材料の結晶組織がオーステナイトである場合、その結晶粒度の整粒化を促す温度として、第1保持温度は、鉄系材料のオーステナイト化温度とすることが好ましい。これは、第1保持温度がオーステナイト化温度よりも過剰に高い場合、結晶が成長粗大化して脆くなる可能性が高く、オーステナイト化温度よりも低い場合、結晶組織がオーステナイトから他の組織へと変態してしまうためである。
具体的に、第1保持温度は、850℃以上950℃以下とすることができる。また、この場合、第1保持温度は、好ましくは870℃以上930℃以下、より好ましくは880℃以上920℃以下、さらに好ましくは895℃以上915℃以下とすることができる。
【0025】
第2工程において、被処理物を雰囲気中に保持する保持時間は、被処理物のサイズ、鉄系材料の組成、熱処理方法の種類等に応じて定めることができ、特に限定されない。
例えば、熱処理方法が、焼なましや、焼入れ及び焼もどし等であり、第2工程における鉄系材料の結晶組織がオーステナイトである場合、保持時間は、5分以上50分以下とすることができる。保持時間は、好ましくは10分以上40分以下、より好ましくは10分以上30分以下とすることができる。
【0026】
〈第3工程〉
第3工程は、第2工程後の被処理物を、第2冷却温度に冷却する工程である。また、第3工程は、第2工程において、第1保持温度とされて鉄系材料の結晶粒度が整粒化された被処理物を、次工程である第4工程において、その被処理物から得られる製品に所望される性能に応じた結晶組織(結晶構造)へと変態させるのに適する温度域、つまり第2保持温度となるように冷やす工程ともいうことができる。
この第3工程は、第2工程後の被処理物を、熱処理炉が備える冷却室等に収容して冷やす等することにより、実行することができる。
また、第3工程は、被処理物を第2冷却温度に冷却することができるのであれば、冷却のための具体的な方法や手段、冷却に要する時間等について、特に限定されない。
【0027】
第2冷却温度は、第2工程における第1保持温度よりも低温度とすることができる。さらに、第2冷却温度は、第2保持温度(第4工程において、被処理物から得られる製品に所望される性能に応じた結晶組織(結晶構造)へと変態させるのに適する温度域)に応じて、第2保持温度と同じ温度か、又は第2保持温度よりも高い温度とすることができる。
即ち、第2冷却温度は、第1保持温度よりも低温度であり、且つ第2保持温度と同じ温度か、又は第2保持温度よりも高い温度であれば、特に限定されない。
具体的に、第1保持温度、第2冷却温度及び第2保持温度は、第1保持温度をTk1、第2冷却温度をTC2、第1保持温度をTk2、とした場合、Tk1>TC2≧Tk2の関係を有している。
第2冷却温度(TC2)及び第2保持温度(Tk2)の関係について、第2冷却温度(TC2)は、第2保持温度(Tk2)と同じ温度(TC2=Tk2)とすることができるが、実質的には、第2保持温度(Tk2)よりも高い温度(TC2>Tk2)とすることが好ましい。これは、第3工程から第4工程への搬送に要する時間や、第4工程で雰囲気が安定するまでの時間等で、被処理物の温度が、第2冷却温度(TC2)から下がる可能性が高いためである。
【0028】
第2冷却温度(TC2)を第2保持温度(Tk2)よりも高温度とする場合、第2冷却温度(TC2)は、通常、第2保持温度(Tk2)よりも5℃~60℃高い温度とすることができる。
つまり、第2冷却温度(TC2)と第2保持温度(Tk2)との温度差をβ(℃)とした場合(β=TC2-Tk2)、β(℃)は5℃~60℃とすることができる(5≦β≦60)。温度差(β)は、好ましくは15℃~55℃、より好ましくは30℃~50℃とすることができる。
【0029】
さらに、第3工程は、被処理物を、第1保持温度から第2冷却温度へ冷却するのに要する時間、つまり冷却速度について、第2工程で変態させた結晶構造から第4工程で所望される結晶組織(結晶構造)への変態に応じたものとなるように定めることが好ましい。
通常、鉄系材料の熱処理においては、S曲線、TTT曲線等とも称される恒温変態曲線により、温度と時間との関係による結晶構造の変化を表すことができる。このため、第3工程における冷却速度は、恒温変態曲線に従い、定めることができる。
例えば、第4工程が鉄系材料の結晶組織(結晶構造)をオーステナイトからフェライト・パーライトへ等温変態させるものである場合、第3工程は、冷却速度を急冷とすることが好ましく、具体的に、冷却速度は、160℃/分~170℃/分とすることができる。
【0030】
なお、第2保持温度(Tk2)は、第4工程において所望する結晶組織(結晶構造)への鉄系材料の変態点(変態温度)を基準として定められる温度である。このため、第2冷却温度(TC2)は、鉄系材料の変態温度を基準とし、第2保持温度(Tk1)に応じて定められる温度である、ということができる。そして、第2冷却温度(TC2)が第2保持温度(Tk2)よりも低温度である場合(TC2<Tk2)、第4工程で鉄系材料を所望する結晶構造へ変態させることが不可能となる。
また、第4工程が鉄系材料の結晶構造をオーステナイトからフェライト・パーライトへ等温変態させるものである場合、第3工程は、例えば、徐冷等のような急冷以外の遅い冷却速度で実行した場合、第4工程における結晶構造の変態に要する時間が長くなる等するため、作業効率が低下してしまう。
【0031】
〈第4工程〉
第4工程は、第3工程後の被処理物を、第2保持温度とした雰囲気中に保持する工程である。また、第4工程は、第2工程で変態させた鉄系材料の結晶組織(結晶構造)を、組織を同じとしたまま結晶粒度等を調整する、異なる組織へ変態させる等する工程であるということができる。
この第4工程は、第3工程後の被処理物を、熱処理炉が備える均熱室等に収容し、温度を一定とした雰囲気中に保持することにより、実行することができる。
第2保持温度は、第4工程において、鉄系材料の結晶組織(結晶構造)を変態させるのに適する温度域である。この第2保持温度は、鉄系材料の結晶組織(結晶構造)の変態を促すことが可能な温度であれば、特に限定されず、第4工程において所望する変態後の鉄系材料の結晶組織(結晶構造)に応じて定めることができる。
【0032】
上述のように、熱処理方法は、焼なまし、焼入れ、焼もどし、焼ならし等について、特に限定されないが、被処理物に施された加熱処理が熱間鍛造である場合、鉄系材料を軟らかくする焼なましが有用である。
この焼なましは、主に、鉄系材料の結晶組織をオーステナイトに変態させた後、冷却し、結晶組織をオーステナイトからフェライト・パーライトへ等温変態させて行われる。よって、熱処理方法が焼なましの場合、第4工程は、鉄系材料の等温変態を促す工程であるということができる。
また、第4工程が鉄系材料の等温変態を促す工程である場合、第2保持温度は、600℃以上800℃以下であることが好ましい。また、この場合、第2保持温度は、好ましくは650℃以上750℃以下、より好ましくは670℃以上720℃以下とすることができる。
【0033】
第4工程において、変態後の鉄系材料の結晶組織(結晶構造)は、特に限定されず、製品等に所望される性能に応じて選択された熱処理に相応するものとすることができる。結晶組織(結晶構造)は、熱処理方法が、焼なましであれば主にパーライトやフェライトやフェライト・パーライト、焼ならしであれば主にオーステナイト、焼入れ及び焼もどしであれば主にマルテンサイトを挙げることができる。
これらの中で、フェライト・パーライトは、フェライト層と及びセメンタイト層が交互に積層した層状の組織を有しており、優れた強度を有しつつ、切削等における加工性が良好であり、鉄系材料の結晶組織(結晶構造)として有用である。
このフェライト・パーライトについては、第3工程の冷却方法を急冷とすることにより、層同士(フェライト層と及びセメンタイト層)の間隔が狭くなって緻密な結晶構造とすることができる。このため、焼なましの場合、第3工程の冷却方法を急冷とすることが有用である。
第4工程において、被処理物を雰囲気中に保持する保持時間は、被処理物の材質、つまり鉄系材料の組成に応じて定めることができ、特に限定されない。
例えば、熱処理方法が、焼なましや、焼入れ及び焼もどし等であり、第4工程が、鉄系材料のオーステナイトからフェライト・パーライトへの等温変態を促す工程である場合、保持時間は、10分以上140分以下とすることができる。保持時間は、好ましくは15分以上130分以下、より好ましくは20分以上120分以下とすることができる。
【0034】
[2]熱処理炉
本発明の熱処理炉は、上記の熱処理方法に用いられる熱処理炉であって、
鉄系材料が用いられ、加熱処理による残熱を有する被処理物を収容する炉本体を備え、
前記炉本体の内部に、
残熱を有する状態の温度から第1温度域となるまで前記被処理物を冷却する第1冷却室と、
前記第1温度域とした雰囲気中に前記被処理物を保持する第1均熱室と、
第1温度域から第2温度域となるまで前記被処理物を冷却する第2冷却室と、
前記第2温度域とした雰囲気中に前記被処理物を保持する第2均熱室と、を備えることを特徴とする(図1参照)。
【0035】
図1に示すように、熱処理炉10の炉本体11は、本発明の熱処理方法で被処理物Wを熱処理するためのものである。
炉本体11は、本発明の熱処理方法が備える各工程を実行するため、第1冷却室21、第1均熱室22、第2冷却室23、及び第2均熱室24を備えている。
炉本体11は、構成、形状、大きさ、炉内容積等について、特に問わない。
【0036】
熱処理炉10は、炉本体11に加え、加熱処理装置12をさらに備えることができる。この加熱処理装置12は、被処理物Wを加熱処理するものである。加熱処理装置12として、具体的には、熱間鍛造装置、熱間プレス装置、鋳造装置等を挙げることができる。
熱処理炉10は、加熱処理装置12から炉本体11へ被処理物Wを搬送する搬送装置13をさらに備えることができる。この搬送装置13は、さらに炉本体11の内部に設けることにより、炉本体11の各室21,22,23,24への被処理物Wの出し入れや、炉本体11の内部における被処理物Wの搬送等を行うことができる。搬送装置13は、被処理物Wを搬送することが可能であれば、その構成等について、特に限定されない。搬送装置13の具体例としては、ベルトコンベア、ローラコンベアが挙げられる。
【0037】
炉本体11は、本発明の熱処理方法が備える各工程を実行するため、第1冷却室21、第1均熱室22、第2冷却室23、及び第2均熱室24を備えている。具体的に、炉本体11は、第1冷却室21、第1均熱室22、第2冷却室23、及び第2均熱室24の4つを1組につなげて構成されたものである。
第1冷却室21は、上述の熱処理方法の第1工程を実行するものである。つまり、第1冷却室21は、加熱処理装置12から取り出されて残熱を有する被処理物Wを、第1冷却温度に冷却するものである。
第1冷却室21は、被処理物Wを、冷却するための冷却手段21Aを備えることができる。冷却手段21Aとしては、以下に示すものを挙げることができる。
即ち、冷却手段21Aとしては、第1冷却室21に冷却系を介して接続されたクーラを挙げることができる。このクーラは、第1冷却室21の内部と冷却系との間を循環する雰囲気ガスを冷却し、第1冷却室21内の温度を下げるものである。また、冷却手段21Aとしては、第1冷却室21に冷却系を介して接続された冷却ファンを挙げることができる。この冷却ファンは、第1冷却室21の内部と冷却系との間で雰囲気ガスを循環させる際、炉本体11の内部の雰囲気ガスを取り込むことにより、第1冷却室21内の温度を下げるものである。
あるいは、冷却手段21Aとしては、クーリングチューブ、冷却チューブ等を用いることができる。これらクーリングチューブ、冷却チューブ等は、第1冷却室21の内部に設けられて、その内部の雰囲気ガスを直接的に冷やすことができる。
【0038】
第1均熱室22は、上述の熱処理方法の第2工程を実行するものである。つまり、第1均熱室22は、第1保持温度とした雰囲気中に被処理物Wを保持するものである。
第1均熱室22は、内部を第1保持温度とした雰囲気とするため、その炉壁には、断熱材を用いることができる。即ち、第1均熱室22は、断熱材による炉壁を設けることにより、被処理物Wが有する熱を外部へ漏らし難く、ヒータ等の昇温手段を設けることなく、被処理物Wを高温度に保持することができる。
また、第1均熱室22は、被処理物Wを出し入れする開口を開閉する扉22Aを有する構成とすることができる。つまり、第1均熱室22は、扉22Aにより、被処理物Wを出し入れする開口を閉塞して、内部を密閉することにより、被処理物Wが有する熱が外部へ漏れることを好適に抑制することができる。
【0039】
第2冷却室23は、上述の熱処理方法の第3工程を実行するものである。つまり、第2冷却室23は、第1均熱室22から取り出された被処理物Wを、第2冷却温度に冷却するものである。
第2冷却室23は、被処理物Wを、冷却するための冷却手段23Aを備えることができる。この冷却手段23Aとしては、上述の第1冷却室21で用いられた冷却手段21Aと同様のもの、例えば、クーラ、冷却ファン、クーリングチューブ、冷却チューブ等を用いることができる。
また、第2冷却室23の冷却手段23Aは、目的とする第2冷却温度が、第1冷却室21の第1冷却温度よりも低温度であることから、冷却手段21Aよりも冷却能力が低いもの等を用いることもできる。
【0040】
第2均熱室24は、上述の熱処理方法の第4工程を実行するものである。つまり、第2均熱室24は、第2保持温度とした雰囲気中に被処理物Wを保持するものである。
第2均熱室24は、内部を第2保持温度とした雰囲気とするため、その炉壁には、断熱材を用いることができる。即ち、第2均熱室24は、断熱材による炉壁を設けることにより、被処理物Wが有する熱を外部へ漏らし難く、ヒータ等の昇温手段を設けることなく、被処理物Wを高温度に保持することができる。
また、第2均熱室24は、被処理物Wを出し入れする開口を開閉する扉24Aを有する構成とすることができる。つまり、第2均熱室24は、扉24Aにより、被処理物Wを出し入れする開口を閉塞して、内部を密閉することにより、被処理物Wが有する熱が外部へ漏れることを好適に抑制することができる。
【0041】
なお、通常の均熱室は、その均熱室の上流側に隣接して加熱室が設けられている、あるいは、被処理物を高温度に保持するためのヒータ等の加熱装置が設けられている構成とされている。これは、通常の均熱室の場合、被処理物を低温度の状態から高温度に加熱し、その熱(温度)を保持するよう構成されているためである。
本願の熱処理炉は、被処理物として、加熱処理の直後の残熱を有するものを用いることにより、熱処理に十分な熱量(温度)を得ることができる。このため、本願の熱処理炉において、第1及び第2均熱室22,24は、加熱室や加熱装置等の加熱手段を設ける必要のないもの、つまり、加熱手段を備えていない構成とすることができる。
【0042】
図2は、本発明の熱処理方法の具体例として、上述の熱処理炉10を使用し、焼鈍処理を行う場合の、被処理物の温度の変化を示すグラフである。
加熱処理装置12から取り出された被処理物Wは、その加熱処理による残熱を有しており、具体的には、1000℃を超える1200℃程度の温度となっている。なお、このときの被処理物Wは、その鉄系材料の結晶組織がオーステナイトとなっている。
被処理物Wは、加熱処理装置12から炉本体11の第1冷却室21へと搬送され、熱処理方法の第1工程が実行される。
即ち、被処理物Wは、第1冷却室21の内部において、第1冷却温度として、第1保持温度よりも10℃~70℃高い温度、具体的に約940℃に冷却される。
【0043】
次いで、被処理物Wは、第1冷却室21から第1均熱室22へと搬送され、熱処理方法の第2工程が実行される。
被処理物Wは、第1冷却室21から第1均熱室22への搬送距離が調整されることにより、その搬送時に若干冷え、第1均熱室22の内部へ挿入された状態で、第1保持温度である850℃以上950℃以下の温度、具体的に図2のグラフで約910℃とされる。
第1均熱室22は、炉壁に断熱材が用いられていることから、第1保持温度とされた被処理物Wを熱源として、その熱源による熱を外部に逃がすことなく室内に留めることにより、室内を略一定の雰囲気温度に保持することができる。
よって、被処理物Wは、第1均熱室22の内部で第1保持温度(図2のグラフで910℃)に保持され、鉄系材料の結晶組織はオーステナイトとしたままで、結晶粒の整粒化を促される。
【0044】
次に、被処理物Wは、第1均熱室22から第2冷却室23へと搬送され、熱処理方法の第3工程が実行される。
即ち、被処理物Wは、第2冷却室23の内部において、第2冷却温度として、第1保持温度よりも5℃~60℃高い温度、具体的に約740℃に冷却される。また、第2冷却室23における被処理物Wの冷却は、冷却速度を167℃/分とした急冷で行われる。
【0045】
その後、被処理物Wは、第2冷却室23から第2均熱室24へと搬送され、熱処理方法の第3工程が実行される。
被処理物Wは、第2冷却室23から第2均熱室24への搬送距離が調整されることにより、その搬送時に若干冷え、第2均熱室24の内部へ挿入された状態で、第2保持温度である600℃以上800℃以下の温度、具体的に図2のグラフで約710℃とされる。
第2均熱室24は、炉壁に断熱材が用いられていることから、第2保持温度とされた被処理物Wを熱源として、その熱源による熱を外部に逃がすことなく室内に留めることにより、室内を略一定の雰囲気温度に保持することができる。
よって、被処理物Wは、第2均熱室24の内部で第2保持温度(図2のグラフで710℃)に保持され、鉄系材料の結晶組織をオーステナイトからフェライト・パーライトへ変態させる等温変態を促される。
そして、被処理物Wは、第2均熱室24から炉本体11の外部へ取り出された後、常温程度となるまで放冷される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、鉄系材料による被処理物について、焼鈍等の熱処理が施されるもの全般で利用することができ、有用である。
【符号の説明】
【0047】
10;熱処理炉、11;炉本体、
12;加熱処理装置、13;搬送装置、
21;第1冷却室、21A;冷却手段、
22;第1均熱室、22A;扉、
23;第2冷却室、23A;冷却手段、
24;第2均熱室、24A;扉、
W;被処理物。
図1
図2