(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054973
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】L-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/28 20060101AFI20240411BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240411BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240411BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C12Q1/28
G01N33/68
G01N21/78 A
C12N9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161476
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】511312207
【氏名又は名称】株式会社エンザイム・センサ
(71)【出願人】
【識別番号】522394410
【氏名又は名称】株式会社つくば食品評価センター
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】日下部 均
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
(72)【発明者】
【氏名】橋本 美保
【テーマコード(参考)】
2G045
2G054
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
2G045DA35
2G045FB01
2G045FB17
2G045GC12
2G054AA02
2G054AA04
2G054AA07
2G054AA08
2G054AB10
2G054CA21
2G054CE01
2G054CE02
2G054EA04
2G054EA05
2G054EA06
2G054EB05
2G054FA29
2G054GA03
2G054GB04
2G054GE06
2G054JA02
4B050CC07
4B050KK12
4B050LL03
4B063QA01
4B063QQ80
4B063QR02
4B063QR49
4B063QS02
4B063QS31
(57)【要約】
【課題】複数の試験液を混合する等の操作をすることなく、被検試料におけるL-グルタミン酸の有無を迅速に判定し、色見本との比較によりL-グルタミン酸濃度の簡易数値化を可能にし、かつ長期保存にも適したL-グルタミン酸の検出手段を提供すること。
【解決手段】L-グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、発色試薬、カプラー化合物、カタラーゼ失活剤、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びトレハロースを含む酵素試薬液を塗布し、乾燥させたL-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙の検出部にL-グルタミン酸を含む被検試料を浸したところ、速やかに発色がおこり、L-グルタミン酸の存在を確認することができ、濃度を高精度で推定できることを確認した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出部に、L-グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、発色試薬、カプラー化合物、カタラーゼ失活剤、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びトレハロースを含む酵素試薬液を塗布し、乾燥させたことを特徴とするL-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙。
【請求項2】
検出部が、ガラス繊維を用いて構成されていることを特徴とする請求項1記載の酵素試薬試験紙。
【請求項3】
検出部が、平板支持体に支持されていることを特徴とする請求項1又は2記載の酵素試薬試験紙。
【請求項4】
酵素試薬液がさらに防腐剤を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の酵素試薬試験紙。
【請求項5】
請求項1又は2記載の酵素試薬試験紙を用いて、試料中のL-グルタミン酸の有無の判定、又は試料中に含まれるL-グルタミン酸の濃度を測定する方法。
【請求項6】
請求項3記載の酵素試薬試験紙を用いて、試料中のL-グルタミン酸の有無の判定、又は試料中に含まれるL-グルタミン酸の濃度を測定する方法。
【請求項7】
試料中のL-グルタミン酸の濃度が0.6mg/L~30mg/Lの範囲で、色見本との比較により簡易数値化が可能であることを特徴とする、請求項5記載のL-グルタミン酸の測定方法。
【請求項8】
試料中のL-グルタミン酸の濃度が0.6mg/L~30mg/Lの範囲で、色見本との比較により簡易数値化が可能であることを特徴とする、請求項6記載のL-グルタミン酸の測定方法。
【請求項9】
請求項1又は2記載の酵素試薬試験紙を含むL-グルタミン酸測定キット。
【請求項10】
請求項3記載の酵素試薬試験紙を含むL-グルタミン酸測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙に関し、より詳細には、L-グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、発色試薬、カプラー化合物、カタラーゼ失活剤、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びトレハロースを含む酵素試薬液を塗布し、乾燥させたL-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙に関する。
【背景技術】
【0002】
L-グルタミン酸は、ナトリウム塩であるL-グルタミン酸ナトリウムが昆布等の海藻に含まれる「うま味」成分の一つであって、醤油、味噌等の調味料、だし、トマト、チーズ等の食品に多く含まれていることが知られている。また、L-グルタミン酸は、動物の体内ではグルタミン酸受容体を介して神経伝達を行う興奮性の神経伝達物質としても機能するほか、微生物においてはグルタミン酸要求性株も存在するため、培地や組織保存液等において、L-グルタミン酸が存在していることを確認する必要がある場合もある。したがって、L-グルタミン酸をより正確に検出・定量できる手段が食品や生化学の分野において必要とされている。
【0003】
L-グルタミン酸を検出するための手段としては、アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む反応液Iと、L-グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む反応液IIとを含有する、試料中のL-グルタミン酸測定キット(例えば、特許文献1参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されているキットは、L-グルタミン酸の有無を迅速に判定することができる点で優れたキットであるが、時間の経過とともにカプラー化合物と新トリンダー試薬とが反応して着色が起こるため、新トリンダー試薬を含む反応液Iとカプラー化合物を含む反応液IIの2種類の反応液が別々に梱包されたキットとして構成されており、L-グルタミン酸の検出試験の直前に上記反応液Iと反応液IIとを混合して使用する必要がある。
【0006】
本発明の課題は、複数の試験液を混合する等の操作をすることなく、被検試料におけるL-グルタミン酸の有無を迅速に判定することができるだけでなく、色見本との比較によりL-グルタミン酸濃度の簡易数値化を可能にし、かつ長期保存にも適したL-グルタミン酸の検出手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複数の試験液を使用前に混合する必要がなく、長期間保存できるL-グルタミン酸検出手段の、成分の組合せやその剤型について検討を行ってきた。まず、上記特許文献1に記載されている反応液Iと反応液IIに含まれる各成分を粉末化したうえで混合したところ、時間経過とともにカプラー化合物と新トリンダー試薬とが反応して自然着色が生じてしまい正しい測定結果を得ることができなかった。
【0008】
そこで、上記反応液Iと反応液IIに含まれる成分をすべて混合し、さらにトレハロースを混合した酵素試薬液を作製し、かかる酵素試薬液を酵素試薬試験紙の検出部に塗布した後風乾した酵素試薬試験紙を調製した。L-グルタミン酸を含む被検試料を酵素試薬試験紙の検出部に浸したところ、速やかに発色がおこり、L-グルタミン酸の存在を確認することができた。また、あらかじめ作製された目視判定における色見本を用いた判定基準に沿って、試料中のL-グルタミン酸の濃度を高精度で推定できることを確認した。さらに、発色試薬とカプラー化合物とが上記検出部に共存しても、保存期間中の自然着色を抑制することができるということを確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]検出部に、L-グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、発色試薬、カプラー化合物、カタラーゼ失活剤、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びトレハロースを含む酵素試薬液を塗布し、乾燥させたことを特徴とするL-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙。
[2]検出部が、ガラス繊維を用いて構成されていることを特徴とする上記[1]記載の酵素試薬試験紙。
[3]検出部が、平板支持体に支持されていることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の酵素試薬試験紙。
[4]酵素試薬液がさらに防腐剤を含むことを特徴とする上記[1]又は[2]記載の酵素試薬試験紙。
【0010】
また、本発明は以下のとおりである。
[5]上記[1]又は[2]記載の酵素試薬試験紙を用いて、試料中のL-グルタミン酸の有無の判定、又は試料中に含まれるL-グルタミン酸の濃度を測定する方法。
[6]上記[3]記載の酵素試薬試験紙を用いて、試料中のL-グルタミン酸の有無の判定、又は試料中に含まれるL-グルタミン酸の濃度を測定する方法。
[7]試料中のL-グルタミン酸の濃度が0.6mg/L~30mg/Lの範囲で、色見本との比較により簡易数値化が可能であることを特徴とする、上記[5]記載のL-グルタミン酸の測定方法。
[8]試料中のL-グルタミン酸の濃度が0.6mg/L~30mg/Lの範囲で、色見本との比較により簡易数値化が可能であることを特徴とする、上記[6]記載のL-グルタミン酸の測定方法。
[9]上記[1]又は[2]記載の酵素試薬試験紙を含むL-グルタミン酸測定キット。
[10]上記[3]記載の酵素試薬試験紙を含むL-グルタミン酸測定キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酵素試薬試験紙によると、被検試料を酵素試薬試験紙の検出部に含侵させた後10分程度置くだけで、L-グルタミン酸の有無及び/又は濃度を迅速に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ろ紙(定性分析用)を検出部の素材として使用した場合の試験紙の発色を示す写真である。
【
図2】ろ紙(定量分析用)を検出部の素材として使用した場合の試験紙の発色を示す写真である。
【
図3】セルロース繊維を検出部の素材として使用した場合の試験紙の発色を示す写真である。
【
図4】ガラス繊維を検出部の素材として使用した場合の試験紙の発色を示す写真である。
【
図5】本発明の試験紙を用いて各濃度のL-グルタミン酸溶液の検出感度を検証した結果を示す写真である。
【
図6】0mg/Lから30mg/LまでのL-グルタミン酸の濃度に基づく8段階の色見本の例を示す図である。
【
図7】「うまミエール」により測定されたL-グルタミン酸濃度を縦軸に、本発明の酵素試薬試験紙により推定されたL-グルタミン酸濃度を横軸に示し、それぞれの昆布エキスの測定値を表示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の酵素試薬試験紙は、検出部に、L-グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、発色試薬、カプラー化合物、カタラーゼ失活剤、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びトレハロースを含む酵素試薬液を塗布し、乾燥させた酵素試薬試験紙であれば特に制限されず、本発明において「L-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙」とは、L-グルタミン酸の検出に用途が限定されている、試験紙の用途発明であることを意味し、かかる試験紙に、L-グルタミン酸を検出する方法を記載した取扱説明書、試験紙に含まれている酵素試薬液の各成分についての説明書等の添付文書が含まれるキットの構成としてもよい。
【0014】
本発明における被検試料としては、L-グルタミン酸の有無を決定する必要がある試料や、L-グルタミン酸の濃度を簡易測定したい試料等、L-グルタミン酸が存在する可能性がある試料であれば特に制限されず、血液、血清、血漿、尿、汗、唾液、羊水、組織、細胞、臓器等の生体試料;これらの生体試料から調製された試料;臓器、組織、細胞、微生物等を培養するための培養液;臓器、組織、細胞、微生物等を保存するための保存液;液状食品;液状食品原料;固形食品や固型食品原料を液体に溶解及び/又は縣濁して得られた溶液;などを例示することができる。
【0015】
本発明のL-グルタミン酸検出用酵素試薬試験紙を用いて検出及び/又は定量することができるL-グルタミン酸は、HOOC(CH2)2CH(NH2)COOHで表されるアミノ酸のL体であって、遊離型のアミノ酸及び/又はその塩を含めることができ、L-グルタミン酸の塩としては、L-グルタミン酸ナトリウム、L-グルタミン酸カリウム塩、L-グルタミン酸カルシウム塩、L-グルタミン酸マグネシウム、L-グルタミン酸アンモニウム等のL-グルタミン酸塩を挙げることができる。
【0016】
上記L-グルタミン酸の検出及び/又は定量の方法としては、本発明の試験紙の検出部にL-グルタミン酸を含む被検試料が供された場合、検出部に含ませているL-グルタミン酸オキシダーゼが試料中のL-グルタミン酸に作用して過酸化水素が生成し、かかる生成した過酸化水素と検出部に含ませているペルオキシダーゼの作用により、発色試薬とカプラー化合物とが、酸化カップリングすることにより発色が生じるので、発色を確認することによりL-グルタミン酸を検出する方法や、その発色の程度によりL-グルタミン酸を定量する方法を挙げることができる。
【0017】
上記L-グルタミン酸オキシダーゼとしては、L-グルタミン酸に作用して過酸化水素を生成させることができる酵素であって、以下の式1で表されるL-グルタミン酸の酸化的脱アミノ反応を触媒し、過酸化水素を生じせしめる酵素であれば特に制限されないが、基質特異性が高い酵素が好ましく、具体的にはStreptomyces sp. X-119-6、Streptomyces violascens、及びStreptomyces endusなどの微生物由来のL-グルタミン酸オキシダーゼを例示することができ、ヤマサ醤油(株)製のL-グルタミン酸オキシダーゼ等の市販品を用いることもできる。
【0018】
【0019】
上記L-グルタミン酸オキシダーゼの酵素試薬液における濃度としては、0.01U/mL~10U/mLを挙げることができ、0.1U/mL~1U/mLがより好ましく、0.2U/mL~0.6U/mLがさらに好ましい。
【0020】
上記ペルオキシダーゼとしては、過酸化水素と酸化還元系の発色試薬との反応を触媒する酵素であれば特に制限されず、西洋わさび等の植物由来のペルオキシダーゼ;細菌、カビ等の微生物由来のペルオキシダーゼ;などを例示することができ、ペルオキシダーゼfrom horseradish(シグマ-アルドリッチ社製)、ペルオキシダーゼ,西洋わさび由来(富士フイルム和光純薬(株)製)、ペルオキシダーゼ(POD (Horseradish roots))(オリエンタル酵母工業(株)製)等の市販品を用いることもできる。
【0021】
上記ペルオキシダーゼの酵素試薬液における濃度としては、0.1U/mL~100U/mLを挙げることができ、1U/mL~50U/mLがより好ましく、5U/mL~15U/mLがさらに好ましい。
【0022】
上記発色試薬としては、ペルオキシダーゼの存在下、過酸化水素と反応し、カプラー化合物との酸化カップリング反応により色素を生成することができる、4-クロロフェノール、3-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード安息香酸(HTIB)等のトリンダー試薬とも呼ばれるフェノール類や、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン(TOPS) 、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)等の新トリンダー試薬とも呼ばれるアニリン類を例示することができるが、アニリン類が安定性や発色強度等の点で好ましく、TOOSを好適に挙げることができる。上記発色試薬は1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
上記発色試薬の酵素試薬液における濃度としては、0.5μmol/mL~1.5μmol/mLを挙げることができ、0.6μmol/mL~1.0μmol/mLが好ましく、0.7μmol/mL~0.9μmol/mLがより好ましい。
【0024】
上記カプラー化合物としては、4-アミノアンチピリン(4-AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミン、1-(4-スルホフェニル)-2,3-ジメチル-4-アミノ-5-ピラゾロン(CP2-4)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン又はこれらの誘導体を例示することができるが、4-AAが好ましい。上記カプラー化合物は1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
上記カプラー化合物の酵素試薬液における濃度としては、0.5μmol/mL~1.5μmol/mLを挙げることができ、0.6μmol/mL~1.0μmol/mLが好ましく、0.7μmol/mL~0.9μmol/mLがより好ましい。
【0026】
上記トレハロースとしては、グルコースが1,1-グリコシド結合した二糖であり、還元基同士が結合しているため還元性を有さない糖を挙げることができる。トレハロースは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等の公知の方法によっても製造することができるが、トレハロース(株式会社林原製)、トレハロース(富士フイルム和光純薬(株)製)等の市販品を用いることもできる。
【0027】
トレハロースの酵素試薬液における濃度としては、0.1%~5%を挙げることができ、0.5%~3%が好ましく、1%~2.5%がより好ましい。
【0028】
上記アスコルビン酸オキシダーゼは、その強い還元力により食品の分析や生体試料中の成分分析において発色反応等を阻害すること等が知られているアスコルビン酸が試料中に存在する場合に、L-グルタミン酸の測定を阻害することなく、上記アスコルビン酸の影響を排除するために添加される酵素であって、カボチャ、キュウリやハヤトウリ(特開昭56-88793号公報)から単離された植物由来、また、アスペルギルス属、ペニシリウム属(特開昭58-51891号公報)等の微生物由来のアスコルビン酸の酸化反応を触媒する酵素を挙げることができるほか、市販品を使用することもできる。
【0029】
上記アスコルビン酸オキシダーゼの酵素試薬液における濃度としては、例えば、0U/mL~1000U/mLを挙げることができ、0.1U/mL~100U/mLが好ましく、1U/mL~50U/mLがより好ましく、5U/mL~15U/mLがさらに好ましい。
【0030】
上記カタラーゼ失活剤としては、過酸化水素を酸素と水に変換する反応を触媒する酵素であるカタラーゼが試料中に存在する場合に、L-グルタミン酸の測定を阻害することなく、上記カタラーゼの触媒作用を失活することができる薬剤であれば特に制限されないが、アジ化ナトリウム、アジ化バリウム、アジ化リチウム等のアジ化金属や3-アミノ-1,2,4-トリアゾールを例示することができるが、アジ化ナトリウムを好適に挙げることができる。
【0031】
上記カタラーゼ失活剤の酵素試薬液における濃度としては、0.01%~1%を挙げることができ、0.05%~0.5%が好ましく、0.08%~0.15%がより好ましい。
【0032】
本発明における酵素試薬液には、本発明の試験紙がL-グルタミン酸を長期間検出できるように防腐剤を加えることもでき、かかる防腐剤としては、クロラムフェニコール;イソチアゾリノン(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)を有効成分とするプロクリン150,200,300、950等のプロクリン(登録商標)シリーズ(富士フイルム和光純薬(株)製);などを例示することができる。
【0033】
上記防腐剤の酵素試薬液における濃度としては、0.01%~1%を挙げることができ、0.05%~0.5%が好ましく、0.08%~0.15%がより好ましい。
【0034】
上記酵素試薬液を調製する方法としては、上記L-グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、発色試薬、カプラー化合物、カタラーゼ失活剤、アスコルビン酸オキシダーゼ、及びトレハロースのすべてを、同時に又は順次溶媒に溶解して混合する方法を挙げることができる。また、上記防腐剤を、上記酵素試薬液を調製する際にさらに加えることもできる。
【0035】
上記酵素試薬液を検出部に塗布し、乾燥させる方法としては、上記調製された酵素試薬液を速やかに、検出部にピペット等により滴下するなどの手段により塗布した後に風乾又は乾燥機により乾燥させる方法や、検出部を酵素試薬液に浸漬させた後風乾又は乾燥機により乾燥させる方法や、検出部に該酵素試薬液を霧吹き等で吹き付けた後風乾又は乾燥機により乾燥させる方法を挙げることができる。上記風乾により乾燥させる場合の乾燥時間としては、検出部が5mm×5mmである場合、10分~1時間を挙げることができ、15分~45分が好ましく、25分~35分風乾することをより好ましく挙げることができる。
【0036】
上記酵素試薬液を調製するための溶媒としては、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、トリスアミノメタン、HEPES、MES、Bis-トリス、ADA、ACES、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、TES、DIPSO、TAPSO、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS及びこれらの塩の水溶液等を挙げることができるが、HEPESが好ましく、溶媒の濃度としては、10mM~90mMを挙げることができ、20mM~80mMが好ましく、30mM~70mMがより好ましく、40mM~60mMがさらに好ましい。また、pHとしては、pH6~8が好ましく、pH6.5~7.5がより好ましく、pH6.9~7.3がさらに好ましい。
【0037】
上記検出部に含ませる上記酵素試薬液の量としては、検出部が5mm×5mm(25mm2)で、厚さ0.2mmである場合には、8μL~15μLが好ましく、9μL~13μLがより好ましく、10μL~12μLがさらに好ましい。
【0038】
上記酵素試薬液を塗布後乾燥させた酵素試薬試験紙は、速やかにシリカゲルとともにアルミ蒸着袋に密封される等、長期保存のための手段が施されることが好ましい。
【0039】
上記L-グルタミン酸を検出及び/又は定量する方法を実施する際には、あらかじめL-グルタミン酸の濃度のわかっている試料を試験紙の検出部に供して発色させて、段階的な発色の程度と濃度とを対応させた色見本を作製しておき、L-グルタミン酸を含む被検試料を試験紙に供した場合の発色の程度を上記色見本と比較して、L-グルタミン酸の存在の有無や濃度を判断することができる。例えば、検出部の色が白色である場合はL-グルタミン酸が含まれていない、又は、含まれていたとしても検出限界濃度未満であると判断することができ、L-グルタミン酸が含まれている場合は、試験者が目視で発色の程度を判断し、色見本の色と比較することにより濃度を決定することができる。
【0040】
本発明におけるL-グルタミン酸の検出限界濃度としては、本発明の試験紙に供する試料中のL-グルタミン酸の濃度として1mg/Lを挙げることができる。また、上記色見本において設定されている一番高い濃度よりも被検試料中のL-グルタミン酸の濃度が高いと判断された場合は、さらに水等によりさらに希釈を行った溶液により試験を行い、色見本で判定された濃度に希釈倍率を乗じることにより実際の被検試料におけるL-グルタミン酸の濃度を決定することができる。
【0041】
本発明の試験紙は、被検試料を浸漬するための上記検出部を支持体が保持していることが好ましく、かかる支持体として平板支持体を好適に例示することができる。また、支持体の素材としては、本発明における発色反応に干渉する成分を含まず、水や水溶液を吸収しない素材が好ましく、ポリスチレン、ポリプロピレン等を例示することができる。
【0042】
上記支持体は、その端部に上記酵素試薬液が塗布された検出部を貼着することにより、検出部を保持することが好ましく、上記支持体の形状としては、少なくとも部分的、又は全体に柔軟性を有する細長い板状(平板支持体)又は棒状の長尺部材を例示することができ、本発明における支持体として、イムノクロマト試薬の支持体として汎用されているバッキングシートを使用することもできる。
【0043】
上記支持体のサイズは特に限定されるものではないが、検出部を安定して保持できるサイズであることが好ましく、コスト面や便宜性の点から、平板状の場合、短手方向の長さは、2mm~2cmを例示することができ、3mm~1.5cmがより好ましく、4mm~1cmがさらにより好ましい。長手方向の長さは、1cm~20cmを例示することができ、3cm~15cmが好ましく、5cm~12cmがより好ましい。なお、支持体が棒状である場合は、その断面は円形又は正方形でなくともよく、楕円形又は長方形等の他の任意の形状であってよい。
【0044】
上記検出部の素材としては、塗布された酵素試薬液を担持することができ、被検試料を含侵した場合に、上記発色反応が適切に行われる素材であれば特に制限されないが、ガラス繊維を用いて構成されていることが好ましく、ガラス繊維を用いた構成としては、ガラス繊維のみからなる検出部、ガラス繊維を含む検出部、1種又は2種以上のガラス繊維を含む検出部等を例示することができ、具体的には、メルクミリポア社製のガラスコンジュゲートパッド(商品名SureWick)からなる検出部を例示することができる。
【0045】
L-グルタミン酸の検出のために本発明の試験紙を用いる具体的な方法としては、被検試料又は必要に応じて被検試料を水性溶液で薄めた被検試料の溶液(被検試料等)を用意し、上記検出部に被検試料等を含侵させ、試験紙を他の薬品等で汚れていない紙や机の上に置き、10分後に発色がどの程度起こっているか判定を行う方法を挙げることができる。
【0046】
上記被検試料等を検出部に供する態様としては、上記試料を、検出部を保持した試験紙の先端0.5mm~4mm、好ましくは1mm~3mm、さらに好ましくは1.5mm~2.5mmに、0.2秒~2秒、好ましくは0.5秒~1.5秒漬ける方法を挙げることができる。このように被検試料を検出部全体に含侵させることをしなくても、毛細管現象により上記検出部に被検試料等がいきわたり、かつ、試験紙を傾ける等しても、試料の液が支持体を伝わって手についたりすることを防ぐことができる。
【0047】
上記水性溶液としては、水道水、純水等の水を好適に挙げることができるが、水に各種塩、酸、アルカリ、有機溶媒、界面活性剤、水溶性高分子等の水と相溶性を示す成分をさらに添加した溶液を使用することもできる。
【0048】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0049】
[実施例1]
[酵素試薬試験紙に用いる繊維素材の検討]
(酵素試薬液の調製)
以下の表1に示す各構成試薬成分について、50mMのHEPES(pH7.1)溶液を用いて、表1に記載された設定濃度となるように調整し、混合したものを酵素試薬液とした。各構成試薬成分の詳細は以下のとおりである。
・アスコルビン酸オキシダーゼ(略称:ASOX、富士フイルム和光純薬(株)製、2000U/バイアル);
・ペルオキシダーゼ(POD (Horseradish roots))オリエンタル酵母工業(株)製);
・N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン・ナトリウム塩(略称:TOOS、富士フイルム和光純薬(株)製);
・プロクリン950(2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン50% solution、富士フイルム和光純薬(株)製;
・L-グルタミン酸オキシダーゼ(略称:GLOX、(株)エンザイム・センサ製);
・4-アミノアンチピリン(略称:4-AA、カプラー化合物、富士フイルム和光純薬(株)製);
・トレハロース二水和物(富士フイルム和光純薬(株)製);
・アジ化ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製);
【0050】
【0051】
(酵素試薬試験紙の作製)
以下に示す表2に記載されている4種類の繊維について、上記酵素試薬液を染み込ませて酵素試薬試験紙を作製するための素材として最適な繊維を選択することとした。4種類の繊維素材をそれぞれ5mm幅にカットした後、上記調製した酵素試薬液を11μL染み込ませ、30℃にて2時間風乾した。上記酵素試薬液を染み込ませた後風乾した各種酵素試薬液添加繊維素材を、プレカットバッキングシート(GL187 Lohmann(G&L社製))の先端5mmの粘着シート部分に貼り付けた後、カッターで5mm幅に裁断したものを4種類の酵素試薬試験紙とした。各酵素試薬試験紙は、シリカゲルとともにアルミ蒸着袋に入れ封をして保管した。
【0052】
【0053】
(グルタミン酸溶液の調製)
L-グルタミン酸(Glu、富士フイルム和光純薬(株)製)を100mg/Lになるよう純水で調整し、さらに10mg/L、1mg/L、0mg/Lになるように純水で希釈調整し、100mg/L、10mg/L、及び1mg/Lの各Glu溶液とネガティブコントロールの0mg/Lの溶液を調製した。
【0054】
(酵素試薬試験紙を用いたグルタミン酸の測定)
希釈調製した上記各Glu溶液に各酵素試薬試験紙を1秒程度つけてから、机に置いておき10分後の発色の程度を目視判定した。目視判定は2人で行い、以下に示す判定基準に従い評価した。また、発色の見え方についてもコメントした。
【0055】
(グルタミン酸の検出における目視判定における判定基準)
酵素試薬試験紙の発色の程度が濃い紫色の場合は、「+」;
酵素試薬試験紙の発色の程度が薄い紫色かピンク色の場合は、「+w」;
酵素試薬試験紙の発色の程度がわずかにピンク色の場合は、「+-」;
酵素試薬試験紙の発色の程度が白色の場合は、「-」;
【0056】
(結果)
結果を
図1から
図4に示した。ろ紙を繊維素材として使用した
図1及び
図2においては、酵素試薬試験紙の中心部分が着色せず、酵素試薬試験紙の外周部の発色が強かったため、判定が難しかった。また、
図3に示したセルロース繊維パッドを使った場合は、着色が弱く感度がよくなかった。一方、
図4に示したガラス繊維パッドの場合は均一に着色するため目視判定しやすく、100mg/Lにおいて「+」、10mg/Lにおいて「+w」、1mg/Lにおいて「+-」であることが明確に判断することができ、最も検出感度が高かった。このことから、本酵素試薬試験紙には、ガラス繊維パッドを選択することが望ましいことを確認した。
【0057】
[実施例2]
[ガラス繊維パッドを用いた酵素試薬試験紙の検出感度の確認]
(試験方法)
上記選択したガラス繊維パッドを用いて実施例1の「酵素試薬試験紙の作製」に記載の手順に従い酵素試薬試験を作製した。L-グルタミン酸溶液を100mg/Lから純水で2倍ずつ希釈し、100mg/L、50mg/L、25mg/L、12.5mg/L、6.25mg/L、3.125mg/L、1.5625mg/L、及び0.78125mg/Lの各L-グルタミン酸溶液を作製し、実施例1の「酵素試薬試験紙を用いたグルタミン酸の測定」と同様の手順で測定した。結果を
図5に示す。
【0058】
(結果)
L-グルタミン酸濃度が試料におけるL-グルタミン酸濃度が低くなるにつれて発色も弱くなり、濃度依存的に反応していることを確認した。また、今回の試験ではL-グルタミン酸の濃度が1.5625mg/L(+-)であれば検出できるが、0.78125mg/L(-)であると検出が難しいことを確認した。なお、L-グルタミン酸が含まれていない、純水による0mg/Lのコントロール試料では非特異的な反応はなく正確に検査できていることを確認した。
【0059】
従来は二種類の溶液を混合して行う溶液系での測定しかできなかったが、今回の検討により、ガラス繊維に酵素試薬を染み込ませて乾燥させることにより、目視判定が可能で、長期間保存可能な酵素試薬試験紙を開発することができた。また、濃度依存的に発色が強くなることを確認したため、例えば色見本などを用意することにより、おおよそどの程度のL-グルタミン酸が含まれているかを推定できる簡易定量測定が可能と考えられた。
【0060】
[実施例3]
[昆布エキス中のL-グルタミン酸濃度の測定]
(昆布エキスの調製方法)
産地や製造元の異なる市販の乾燥昆布を12種類用意した。それぞれの乾燥昆布1gに対して100mLの純水を加え、冷蔵庫内で8℃にて20時間抽出して12種類の昆布エキスを調製した。
【0061】
(酵素試薬試験紙を用いた試験)
実施例1の「酵素試薬試験紙の作製」に記載の手順に従い、酵素試薬試験を作製した。上記12種類の昆布エキスをそれぞれ純水で10倍希釈して12種類の昆布試験溶液とした。結果の判定には0mg/Lから30mg/LまでのL-グルタミン酸の濃度に基づく8段階の色見本を用意し、色見本の各濃度の色と比較することにより、各昆布試験溶液のL-グルタミン酸濃度を推定した。色見本の具体的を
図6に示す。なお、色見本の30mg/Lよりも濃度が高いと判定された場合は、さらに純水で希釈を行った再希釈試験用液を用いて、上記色見本と比較の上、濃度を判定した。判定は4名で行い、色見本から推定した濃度に上記昆布エキスからの希釈倍率を乗じて上記各昆布エキスのL-グルタミン酸濃度を求め、5名の平均値を算出した。
【0062】
[参考例]
酵素試薬溶液によるL-グルタミン酸の濃度を測定するため、市販の二液型L-グルタミン酸定量検査キット「うまミエール」((株)エンザイム・センサ社製)を用いて、L-グルタミン酸濃度の測定を行った。
【0063】
上記「うまミエール」のキットに含まれる比色計により測定されたL-グルタミン酸濃度を縦軸に、本発明の酵素試薬試験紙により推定されたL-グルタミン酸濃度を横軸に示し、それぞれの昆布エキスの測定値をグラフ(
図7)上に表示した。「うまミエール」と酵素試薬試験紙とによる測定結果は良好な相関(相関係数:0.990)を示し、酵素試薬試験紙と色見本を用いることにより、L-グルタミン酸濃度をほぼ正確に推定できることが明らかとなった。
本発明の試験紙を用いると、L-グルタミン酸を非常に簡易な方法によって測定することができる。また、本発明の試験紙によると、試料中にアスコルビン酸及び/又はカタラーゼが含まれている場合にこれらの影響を排除できるので、L-グルタミン酸の濃度を精度よく測定することができる。