(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054980
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】極間磁化器,ならびに磁性ソケットを端部に備える磁性ロープの定着部用の磁束検出装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
G01N27/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161488
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】矢島 卓
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】河原 純平
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA12
2G053AB01
2G053BA14
2G053BC14
2G053CA03
2G053CA05
2G053CB21
2G053DA01
2G053DA02
2G053DA09
2G053DA10
(57)【要約】
【課題】ロープ定着部を外に露出させることなく,ロープ定着部の腐食を推定ないし測定できるようにする。
【解決手段】磁束検出装置は,磁力を発生する磁化器,および磁化器が発生した磁力によって磁化される磁性ロープを通る磁束を検出する磁束センサを備えている。磁化器は,励磁コイル,励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備える。励磁コイルに電流を流すことによって,ヨーク軸,1対のヨーク,1対の先端磁極,1対の先端磁極の間に位置する磁性ロープ,および磁性ソケットを含む磁気回路が形成される。第1の先端磁極は磁性ロープの外形に沿う形状の凹部を備え,第2の先端磁極は磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状の凹部を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイル,上記励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,上記ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および上記1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備え,
第1の先端磁極が磁性ロープの外形に沿う形状の凹部を備えており,
第2の先端磁極が上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状の凹部を備えている,
極間磁化器。
【請求項2】
上記第1および第2の先端磁極のそれぞれが,上記1対のヨークのそれぞれに対して着脱自在である,
請求項1に記載の極間磁化器。
【請求項3】
端部に磁性ソケットが定着された磁性ロープの定着部の磁束を検出する装置であって,
磁力を発生する磁化器,および
磁化器が発生した磁力によって磁化される磁性ロープを通る磁束を検出する第1の磁束センサを備え,
上記磁化器が,励磁コイル,上記励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,上記ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および上記1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備え,上記励磁コイルに電流を流すことによって,上記ヨーク軸,1対のヨーク,1対の先端磁極,1対の先端磁極の間に位置する磁性ロープ,および磁性ソケットを含む磁気回路を形成するものであり,
第1の先端磁極が磁性ロープの外形に沿う形状の凹部を備えており,
第2の先端磁極が上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状の凹部を備えている,
磁性ロープの定着部の磁束検出装置。
【請求項4】
上記第1および第2の先端磁極のそれぞれが,上記1対のヨークのそれぞれに対して着脱自在である,
請求項3に記載の磁性ロープの定着部の磁束検出装置。
【請求項5】
上記第1の先端磁極を通る磁束を検出する第2の磁束センサ,および上記第2の先端磁極を通る磁束を検出する第3の磁束センサを備えている,
請求項3に記載の磁性ロープの定着部の磁束検出装置。
【請求項6】
上記第1の磁束センサが,上記第1の先端磁極と上記第2の先端磁極の間に位置する上記磁性ロープに巻き付けられたサーチコイルである,
請求項3に記載の磁性ロープの定着部の磁束検出装置。
【請求項7】
上記第2の磁束センサが,上記第1の先端磁極が接続されたヨークに巻き付けられたサーチコイルであり,上記第3の磁束センサが上記第2の先端磁極が接続されたヨークに巻き付けられたサーチコイルである,
請求項3に記載の磁性ロープの定着部の磁束検出装置。
【請求項8】
上記第1および第2の先端磁極の間に位置する磁性ロープに設けられる磁界センサを備えている,
請求項3に記載の磁性ロープの定着部の磁束検出装置。
【請求項9】
励磁コイル,上記励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,上記ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および上記1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備える磁化器を用意し,
第1の先端磁極が備える凹部内に磁性ロープを入れ,第2の先端磁極が備える凹部内に上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットを入れ,
上記磁化器の励磁コイルに電流を流すことによって,上記第1および第2の先端磁極間の磁界の強さが所定値となるように上記磁性ロープおよび上記磁性ソケットを磁化し,
上記第1の先端磁極を通る磁束が所定範囲に収まるように上記第1の先端磁極と上記磁性ロープの接触度合いを調整し,上記第2の先端磁極を通る磁束が所定範囲に収まるように上記第2の先端磁極と上記磁性ソケットの接触度合いを調整し,
上記第1の先端磁極と上記第2の先端磁極の間に位置する上記磁性ロープに磁束センサを取り付け,
上記磁化器の励磁コイルに流す電流を調整することによって,上記磁束センサからの出力信号に基づいて上記磁性ロープおよび上記磁性ソケットを含む磁気回路についての磁化曲線を取得する,
磁性ロープの定着部の磁化曲線取得方法。
【請求項10】
上記第1の先端磁極と上記磁性ロープの接触度合いを調整し,かつ上記第2の先端磁極と上記磁性ソケットの接触度合いを調整した後,上記磁性ロープおよび上記磁性ソケットを消磁する,
請求項9に記載の磁性ロープの定着部の磁化曲線取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,極間磁化器,ならびに磁性ソケットを端部に備える磁性ロープの定着部用の磁束検出装置および方法に関する。磁性ロープの定着部とは構造物に定着(固定)される磁性ロープの端部であって,磁性ロープの端部が構造物から抜けない(外れない)ようにするためのソケットが固定された部分(ソケット口元部の箇所のロープ部分)を意味する。
【背景技術】
【0002】
金属製(鋼製)のロープ(ケーブル)の多くは屋外において風雨にさらされた状態で用いられる。たとえば吊り橋の主ロープを吊るためのハンガーロープはその定着部(ソケット口元部)に塩分を含んだ水が滞留しやすく,定着部において腐食が進行しやすい(ソケットを備えるケーブルについて特許文献1を参照)。
【0003】
ハンガーロープ定着部は支圧板等を間に挟んで吊り橋の躯体に定着される。支圧板等を取り外すことでハンガーロープ定着部のロープを外部に露出させることによって,ロープ定着部の腐食状態を検査することができる。しかしながら,支圧板等を取り外すためには足場を組んでジャッキを用いてハンガーロープを引っ張る必要があるので,大きな労力を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【0005】
この発明は,ロープ定着部を外部に露出させることなく(支圧板等を取り外すことなく),ロープ定着部の腐食を推定ないし測定できるようにすることを目的とする。
【0006】
この発明による極間磁化器は,励磁コイル,上記励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,上記ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および上記1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備え,第1の先端磁極が磁性ロープの外形に沿う形状および大きさの凹部を備えており,第2の先端磁極が上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状および大きさの凹部を備えている。
【0007】
この発明による極間磁化器は,第1および第2の1対の先端磁極を備える。第1,第2の先端磁極はヨーク軸の両端に接続された1対のヨークのそれぞれの先端に接続されており,ヨーク軸の長さ(1対のヨークの間隔)に対応する間隔を持つ。第1および第2の先端磁極によって磁性ロープの一部を挟む(接触させる)ことによって,第1および第2の先端磁極によって挟まれる磁性ロープの部分を含む磁気回路が形成される。磁性ロープが腐食すると腐食した部分は非磁性となり,磁性ロープを通る磁束が変化する。この磁束の変化に基づいて,第1および第2の先端磁極によって挟まれる範囲の磁性ロープに生じている腐食の有無および程度が判断される。
【0008】
磁性ロープがその全長にわたって同一外形を持てば,極間磁化器を磁性ロープに沿って移動させることで磁性ロープの全長にわたって腐食の有無および程度を判断することができる。しかしながら,磁性ロープの端部に磁性ロープの端部が構造物から抜けない(外れない)ようにするためにソケットが定着されていると,そのソケットが邪魔になるので,2つの先端磁極によってソケット口元部の箇所のロープ部分(ロープ定着部)を挟むことができず(磁気回路が形成できず),極間磁化器を用いたロープ定着部の腐食検査は難しくなる。
【0009】
この発明によると,第1の先端磁極が磁性ロープの外形に沿う形状の凹部を備えており,かつ第2の先端磁極が上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状の凹部を備えているので,第1,第2の先端磁極によってロープ定着部を挟むことができ,ロープ定着部を含む磁気回路を形成することができる。ロープ定着部についても磁束に基づく腐食の有無および程度を判断することができる。
【0010】
好ましくは,上記第1および第2の先端磁極のそれぞれが,上記1対のヨークのそれぞれに対して着脱自在である。磁性ロープの直径に応じた凹部を持つ第1の先端磁極を一方のヨークの先端に接続し,かつ磁性ソケットの大きさや形状に沿う凹部を持つ第2の先端磁極を他方のヨークの先端に接続することによって,ロープ定着部を含む磁気回路を形成することができる。様々な直径のロープ,様々な形状および大きさのソケットにこの発明による極間磁化器を用いることができる。
【0011】
この発明による磁性ロープの定着部用の磁束検出装置は,端部に磁性ソケットが定着された磁性ロープの定着部の磁束を検出する装置であって,磁力を発生する磁化器,および磁化器が発生した磁力によって磁化される磁性ロープを通る磁束を検出する第1の磁束センサを備え,上記磁化器が,励磁コイル,上記励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,上記ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および上記1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備え,上記励磁コイルに電流を流すことによって,上記ヨーク軸,1対のヨーク,1対の先端磁極,1対の先端磁極の間に位置する磁性ロープ,および磁性ソケットを含む磁気回路を形成するものであり,第1の先端磁極が磁性ロープの外形に沿う形状の凹部を備えており,第2の先端磁極が上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状の凹部を備えている。
【0012】
この発明によると,第1の先端磁極が磁性ロープの外形に沿う形状の凹部を備えており,第2の先端磁極が上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットの外形に沿う形状の凹部を備えているので,第1,第2の先端磁極によってロープ定着部を挟むことができ,ロープ定着部を含む磁気回路を形成することができる。ロープ定着部の腐食の有無および程度を判断することができる。
【0013】
磁性ロープを通る磁束は第1の磁束センサによって検知される。一実施態様では,上記第1の磁束センサが,上記第1の先端磁極と上記第2の先端磁極の間に位置する上記磁性ロープに巻き付けられたサーチコイルである。サーチコイルからは磁気回路を流れる磁束(鎖交磁束数)に応じた電圧が出力される。第1の先端磁極と第2の先端磁極によって挟まれるロープ定着部を含む範囲の磁性ロープに発生している腐食に起因する磁束の変化を検知することができる。
【0014】
好ましくは,上記第1の先端磁極を通る磁束を検出する第2の磁束センサ,および上記第2の先端磁極を通る磁束を検出する第3の磁束センサを備えている。第2の磁束センサによって第1の先端磁極と磁性ロープの接触の程度が,第3の磁束センサによって第2の先端磁極と磁性ソケットの接触の程度が,それぞれ把握される。第1の先端磁極と磁性ロープをしっかりと接触させ,かつ第2の先端磁極と磁性ソケットをしっかりと接触させることによって,磁気回路を流れる磁束を安定化することができ,これによってロープ定着部の磁束の変化を精度よく検知することができる。一実施態様では,上記第2の磁束センサが上記第1の先端磁極が接続されたヨークに巻き付けられたサーチコイルであり,上記第3の磁束センサが上記第2の先端磁極が接続されたヨークに巻き付けられたサーチコイルである。
【0015】
他の実施態様では,上記第1および第2の先端磁極の間に位置する磁性ロープに設けられる磁界センサを備えている。磁界センサによって検出される磁界の強さを所定の大きさに調整する(固定する)ことによって,上記第1の磁束センサによって検出される磁束を磁性ロープの断面積に比例させることができる。すなわち,第1の磁束センサによって検出される磁束を観察するだけで,磁性ロープの腐食の有無および程度を推定することができる。
【0016】
この発明は,磁性ロープの定着部の磁化曲線取得方法も提供する。この方法は,励磁コイル,上記励磁コイルの中心孔に挿通されたヨーク軸,上記ヨーク軸の両端に接続された1対のヨーク,および上記1対のヨークの先端にそれぞれ接続された第1,第2の1対の先端磁極を備える磁化器を用意し,第1の先端磁極が備える凹部内に磁性ロープを入れ,第2の先端磁極が備える凹部内に上記磁性ロープの端部に定着された磁性ソケットを入れ,上記磁化器の励磁コイルに電流を流すことによって,上記第1および第2の先端磁極間の磁界の強さが所定値となるように上記磁性ロープおよび上記磁性ソケットを磁化し,上記第1の先端磁極を通る磁束が所定範囲に収まるように上記第1の先端磁極と上記磁性ロープの接触度合いを調整し,上記第2の先端磁極を通る磁束が所定範囲に収まるように上記第2の先端磁極と上記磁性ソケットの接触度合いを調整し,上記第1の先端磁極と上記第2の先端磁極の間に位置する上記磁性ロープに磁束センサを取り付け,上記磁化器の励磁コイルに流す電流を調整することによって,上記磁束センサからの出力信号に基づいて上記磁性ロープおよび上記磁性ソケットを含む磁気回路についての磁化曲線を取得する。
【0017】
腐食によって磁性ロープの断面積(磁束が通る部分)が減少すると,磁化曲線に変化が生じる。ロープ定着部に腐食の無い磁性ロープの磁化曲線と,ロープ定着部に腐食が生じている磁性ロープの磁化曲線を比較することによって,定着部の腐食の有無および程度を推定することができる。
【0018】
上記励磁コイルに電流を流すことによって,上記第1および第2の先端磁極間の磁界の強さが所定値となるように上記磁性ロープを磁化し,上記1対のヨークを通る磁束が所定範囲に収まるように上記第1の先端磁極と上記磁性ロープの接触度合い,および上記第2の先端磁極と上記磁性ソケットの接触度合いがそれぞれ調整される。磁気回路を通る磁束が安定する,すなわち腐食の有無および程度以外の要因を磁化曲線から排除することができる。磁性ロープの定着部の腐食の有無および程度を磁化曲線から精度よく検出することができる。
【0019】
好ましくは,上記第1の先端磁極と上記磁性ロープの接触度合いを調整し,かつ上記第2の先端磁極と上記磁性ソケットの接触度合いを調整した後,上記磁性ロープおよび上記磁性ソケットを消磁する。残留磁化の影響を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】ハンガーロープの定着部の腐食度測定装置を示す。
【
図6】一方の先端磁極の近くのサーチコイルによって計測される磁束とホール素子によって計測される磁界の強さの関係を示すグラフである。
【
図7】他方の先端磁極の近くのサーチコイルによって計測される磁束とホール素子によって計測される磁界の強さの関係を示すグラフである。
【
図8】ハンガーロープに巻き付けられたサーチコイルによって計測される磁束とホール素子によって計測される磁界の強さの関係を示すグラフである。
【
図9】ハンガーロープの定着部の腐食度測定の様子を示す。
【
図10】支圧板,ロックプレートおよび調整プレートを取り外して行われるハンガーロープの定着部の他の腐食度測定の様子を示す。
【
図11】ハンガーロープの断面積変化率と磁束変化率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は河川または海峡の両岸に掛け渡された吊り橋の一部を概略的に示す側面図である。
【0022】
吊り橋は,間隔をあけて立設された複数の塔1と,両岸に掛け渡された橋桁2と,塔1の間に架設されたメインケーブル3と,一端(上端)がメインケーブル3に固定され,一端から垂下する他端(下端)が橋桁2に定着(固定)された多数本のハンガーロープ4と,を備えている。塔1は車両等が通行する橋桁2の両側のそれぞれに立設されており(
図1では一方側の塔1が図示されている),一方側および他方側の2本の塔1の間を橋桁2が通っている。メインケーブル3およびハンガーロープ4も橋桁2の両側のそれぞれに設けられる。多数本のハンガーロープ4によって橋桁2の両側部がバランスよく釣られる。
【0023】
【0024】
ハンガーロープ4は,多数本の磁性体である鋼製のワイヤ素線4aを撚り合わせてストランドを形成し,複数本のストランドをさらに撚り合わせることによって構成される。
【0025】
ハンガーロープ4の下端部はストランドの撚りおよびワイヤ素線4aの撚りが解かれている。
図2において,図示の便宜上,ワイヤ素線4aの数が少なく描かれている。
【0026】
ソケット5は金属製,たとえば鉄製のもので,これも磁性体である。ソケット5は概略円筒状の口元部5aと,口元部5aに連続する概略円錐台形の胴部5bを備えている。口元部5aから胴部5bにかけて中空5cが形成されている。ハンガーロープ4の下端部のほぐされたワイヤ素線4aがソケット5の中空5c内に挿入されており,そこに非磁性体である合金,たとえば亜鉛と銅の合金6が充填されている。中空5c内において合金6は硬化しており,これによってハンガーロープ4の下端部に合金6を介してソケット5がしっかりと固定(定着)されている。
【0027】
橋梁の橋桁2を構成するブラケット(H鋼)2Aの下面に,支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9を間に挟んで,ソケット5が定着(固定)される。支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9は,ボルト51によって橋桁(ブラケット2A)に固定される。ブラケット2AにはU溝2aが形成されており,このU溝2a内にハンガーロープ4が通される。詳細な図示は省略するが,支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9もU溝を備えるか,または一対の割型の組み合わせによって構成されかつ中央部分に穴が形成されるもので,このU溝または穴にハンガーロープ4が通される。ハンガーロープ4の周囲の形成される,ハンガーロープ4と支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9との間のすき間はシール材(たとえばシリコン)によって埋められる。ソケット5の口元部5aは調整プレート9の下面に当接し,ハンガーロープ4が橋桁2(ブラケット2A)から抜け外れてしまうことはない。
【0028】
図3はハンガーロープ4の定着部の腐食度を測定するために用いられる磁束検出装置10を,上述したハンガーロープ4の定着構造とともに示している。
図4は磁束検出装置10が備える先端磁極17Aの平面図を,
図5は磁束検出装置10が備える先端磁極17Bの平面図を,それぞれ示している。
【0029】
磁束検出装置10は,ハンガーロープ4の一部を磁化し,ハンガーロープ4を含む磁気回路を形成するための磁化器を含む。磁束検出装置10の磁化器は,円筒状のボビン11およびその両端に固定された環状のフランジ部12と,ボビン11の周面にボビン両端の環状フランジ部12間の全体にわたって巻回された励磁コイル13と,ボビン11の中心孔14に通された断面円形のヨーク軸(鉄心)15と,両環状フランジ部12の外面のそれぞれに着脱自在に固定され,ボビン11(励磁コイル13)の両端からボビン11の長手方向と直交する方向に伸びる一対のヨーク16A,16Bと,ヨーク16A,16Bの先端のそれぞれに着脱自在に固定された先端磁極17A,17Bを備えている。
【0030】
環状フランジ部12の中心にはボビン11の中心孔14と連通する通過孔12aがあけられており,ヨーク軸15はボビン11の中心孔14および両側の環状フランジ部12の通過孔12aを通り,両環状フランジ部12のそれぞれの外にはみ出る長さを持つ。励磁コイル13に電流を流すことで発生する磁界によってヨーク軸15が磁化される。
【0031】
ヨーク16A,16Bはこの実施例では角柱状のもので,その一端側面が環状フランジ部12に着脱自在に固定されている。環状フランジ部12に固定されるヨーク16A,16Bの側面には円柱状の凹部16aが形成されており,この凹部16aにヨーク軸15の端部が差し込まれている。
【0032】
ヨーク16A,16B,および先端磁極17A,17Bの素材には,たとえば高い透磁率を持つパーマロイ(Fe-Ni系合金),または高飽和磁束密度を示すパーメンジュール(Fe-Co系合金)が用いられる。ヨーク16A,16Bと先端磁極17A,17Bとは同一素材であってもよいし,素材を異ならせてもよい。もっとも,比較的価格の安い機械構造用炭素鋼を用いることもできる。
【0033】
先端磁極17A,17Bはヨーク16A,16Bの先端に着脱自在に固定される。
図4を参照して,先端磁極17Aはハンガーロープ4の直径にほぼ等しい(少し大きくてもよい)寸法を持つ凹部(U溝)17aを備え,この凹部17a内にハンガーロープ4が通される。ハンガーロープ4は先端磁極17Aの凹部17aに広く接触する。
図5を参照して,先端磁極17Bはソケット5の外周面の一部形状に沿う形状を備える凹部17bを備え,先端磁極17Bの凹部17bはソケット5の外周面に広く接触する。先端磁極17Aの凹部17aはハンガーロープ4の直径に応じて,先端磁極17Bの凹部17bはソケット5の形状および大きさに応じて,それぞれ適宜設計される。先端磁極17Aの凹部17aはロープ4の直径の1/2以上の深さ(高さ)を確保するのが好ましい。また,先端磁極17Aのロープ4の長手方向に沿う長さは対向面を大きくするためにロープ4の直径の1.5倍以上確保するのが好ましい。先端磁極17Bについてもソケット5の半周程度を覆う凹部17bとするのが好ましく,長手方向の長さはロープ4の直径の1.5倍以上確保するのが好ましい。
【0034】
図3に戻って,上述したように,励磁コイル13に電流を流すことで発生する磁界によってヨーク軸15が磁化される。励磁コイル13(ヨーク軸15),ヨーク16A,先端磁極17A,ハンガーロープ4,ソケット5,先端磁極17B,ヨーク16Bによって磁気回路が構成される。
【0035】
磁束検出装置10は3つのサーチコイル(磁束センサ)21,22および23と,一つのホール素子(磁界センサ)24とを備えている。測定精度向上のためにハンガーロープ4を取り囲むように多数個のホール素子24を配置してもよい。
【0036】
3つのサーチコイル21,22,23のうち,サーチコイル21,22はヨーク16A,16Bのそれぞれの根本付近(先端磁極17A,17Bの近く)に巻き付けられる。サーチコイル23は2つの先端磁極17A,17Bの間に挟まれ,かつ外に露出しているロープ4の末端部付近(橋桁2を構成するブラケット2Aの近く)に巻き付けられる。
【0037】
図6は先端磁極17Aの近くに設けられたサーチコイル21によって計測される磁束(縦軸)とホール素子24によって測定される磁界の強さ(横軸)との関係を示すグラフである。
図7は,先端磁極17Bの近くに設けられたサーチコイル22によって計測される磁束(縦軸)とホール素子24によって測定される磁界の強さ(横軸)との関係を示すグラフである。サーチコイル21は先端磁極17Aの近くに設けられているので,先端磁極17Aを通る磁束(鎖交磁束数)に応じた電圧を出力し,この出力電圧にしたがって先端磁極17Aを通る磁束が検知される。同様に,サーチコイル22は先端磁極17Bの近くに設けられるので,先端磁極17Bを通る磁束に応じた電圧を出力し,この出力電圧にしたがって先端磁極17Bを通る磁束が検知される。
【0038】
図6を参照して,
図6のグラフには2つの磁化曲線(ヒステリシス曲線)31,32が描かれている。磁化曲線31はロープ4と先端磁極17Aとを接触(密着)させたときの測定値を,磁化曲線32はロープ4と先端磁極17Aとをわずかに離間させたときの測定値を,それぞれ示している。励磁コイル13に流す電流を増加および減少させることによって先端磁極17Aの近くのヨーク16Aを流れる磁束が変化し,サーチコイル21と鎖交する磁束の変化に応じた起電力(誘起電圧)がサーチコイル21に生じる。この起電力に基づいて磁束Φが計測される。磁界の強さHの計測には,磁界の強さに比例した出力電圧が得られるホール素子24が用いられる。
【0039】
2つの磁化曲線31,32を比較して,ロープ4と先端磁極17Aを接触させたとき(曲線31)とわずかに離間させたとき(曲線32)とでは,所定の磁界の強さ,たとえば20kA/mの磁界の強さおよび-20kA/mの磁界の強さの下でサーチコイル21によって測定される磁束Φが異なっている。すなわち,所定の磁界の強さの下において先端磁極17Aの近くのヨーク16Aの根本付近に巻き付けられたサーチコイル21によって計測される磁束に基づいて,先端磁極17Aとロープ4との接触度合い(密着状態)を把握することができる。たとえば,20kA/mおよび-20kA/mの磁界の強さを先端磁極17Aと先端磁極17Bの間に位置するロープ4に加えたときにサーチコイル21によって計測される磁束が所定の範囲(
図6において一対の破線で示す範囲)にあるかどうかが確認され,所定範囲内にあればロープ4と先端磁極17Aとはしっかりと接触(密着)していると判断することができ,上記所定範囲を外れていればロープ4と先端磁極17Aとは接触していない(隙間がある)と判断することができる。所定範囲を外れている場合には先端磁極17Aの位置を調整する,またはロープ4の直径に応じた凹部17aを備える,より適切な先端磁極17Aに交換するといった処理が行われる。このように,先端磁極17Aの近くに設けられたサーチコイル21によって計測される磁束を観測することによって,先端磁極17Aからロープ4に流れる磁束の均一化を図ることができ,後述するロープ定着部の腐食度測定の精度を向上させることができる。
【0040】
図7を参照して,
図7のグラフにも2つの磁化曲線33,34が描かれている。磁化曲線33はソケット5と先端磁極17Bとを接触(密着)させたときの先端磁極17Bの近くのヨーク16Bの根本付近に巻き付けられたサーチコイル22による測定値を,磁化曲線34はソケット5と先端磁極17Bとをわずかに離間させたときのサーチコイル22による測定値を,それぞれ示している。ソケット5と先端磁極17Bについても,これらを接触させたとき(曲線33)とわずかに離間させたとき(曲線34)とでは,20kA/mの磁界の強さおよび-20kA/mの磁界の強さの下でサーチコイル22によって測定される磁束Φが異なっている。たとえば20kA/mおよび-20kA/mの磁界の強さを先端磁極17Aと先端磁極17Bの間に位置するロープ4に加えたときにサーチコイル22によって計測される磁束が所定範囲(
図7において一対の破線で示す範囲)にあるかどうかが確認され,所定範囲内にあればソケット5と先端磁極17Bとは接触(密着)していると判断することができ,上記所定範囲を外れていればソケット5と先端磁極17Bとは接触していないと判断することができる。所定範囲を外れている場合に先端磁極17Bの位置を調整するまたはより適切なものに交換するといった処理が行われ,これによってソケット5から先端磁極17Bに流れる磁束の均一化を図ることができ,後述するロープ定着部の腐食度測定の精度を向上させることができる。
【0041】
図8は橋桁2を構成するブラケット2A近くのロープ4に巻き付けられたサーチコイル23によって計測される磁束(縦軸)とホール素子24によって測定される磁界の強さ(横軸)との関係を示すグラフ35である。
【0042】
ロープ4を磁化したときの磁界の強さをHとする。磁化されたロープ4を通る磁束をΦ,その磁束密度をBとする。ロープ4の透磁率をμ,その断面積をAとすると次式が成り立つ。
【0043】
B=μH=Φ/A ‥‥式(1)
【0044】
式(1) を変形すると次式が得られる。
【0045】
A=Φ/μH ‥‥式(2)
【0046】
透磁率μおよび磁界の強さHを一定とすると,ロープ4の断面積Aは磁束Φに比例する。
【0047】
たとえば,ホール素子24によって検出される,先端磁極17Aと先端磁極17Bの間に位置するロープ4の磁界の強さを20kA/mとしたときの磁束がサーチコイル23によって検知される(サーチコイル23からの出力電圧にしたがって磁束が検知される)。磁界の強さHを一定とすることで計測される磁束はロープ4の断面積と比例するので,磁束(磁束の変化)を検出すれば,それによってロープ4の断面積(断面積の変化),すなわちロープ4の腐食の有無およびその程度(腐食度)を知ることができる。サーチコイル23およびホール素子24は先端磁極17A,17Bからの影響をできるだけ避けるために,両磁極17A,17Bから所定距離以上離れた箇所,たとえばロープ4を構成するストランドのピッチを基準にして1/2ピッチ以上,両磁極17A,17Bから離れた箇所に設置するとよい。
【0048】
サーチコイル23は,支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9が設けられている関係上,ソケット5からやや離れた箇所に設けられている。しかしながら,次に説明するように,支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9によって隠れているソケット5により近いロープ4の定着部の腐食度(ソケット5の近くの部分のロープ4の断面積の減少)を,ソケット5からやや離れた箇所に設けられたサーチコイル23によっても十分に検出することができる。
【0049】
図11はロープ4の定着部(ソケット5の口元部5aの箇所のロープ4)の断面積変化率(横軸)と磁束変化率(縦軸)の関係を示すグラフである。
図11には符号41~43で示す3つのグラフが示されている。符号41で示すグラフ(実線)は,ソケット5からやや離れた支圧板7の上方に設けられたサーチコイル23を用いたとき(
図3参照)の測定結果である。符号42で示すグラフ(破線)は
図9に示すようにソケット5の口元部5aの近くに設けたサーチコイル23を用いたときの測定結果である。符号43で示すグラフ(一点鎖線)は
図10に示すように支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9を取り外し,ソケット5の口元部5aの近くにサーチコイル23を設け(
図10において図示略),さらにソケット5の口元部5aの近くにソレノイド(磁化器)61を設けたときの測定結果である。ロープ4の断面積は,ここではソケット5の口元部5a箇所のロープ4の外面に鋼線Cを張り付けることによって便宜的に変化させた(
図9参照)。
【0050】
3つのグラフ41,42,43を参照して,ソケット5の口元部5aの近くにサーチコイル23を設けかつソレノイド61を設けたもの(グラフ43,
図10参照)(全磁束法)が,最も感度よく磁束の変化を測定することができている。しかしながら,支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9を取り外さなければならない。橋梁が設置されている現場において支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9を取り外すためには足場の設置を含む大がかりの作業を必要とする。
【0051】
ソケット5の口元部5aの近くにサーチコイル23を設けた場合(グラフ42,
図9参照)も比較的高い感度で磁束の変化を検出することができている。しかしながら,支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9が存在するので,
図9に示すようにソケット5の口元部5aの近くにサーチコイル23およびホール素子24を設ける場合には,あらかじめロープ4と支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9との間のすき間を埋めているシール材を取り除き,サーチコイル23およびホール素子24が入る空間を作らなければならない。橋梁が設置されている現場においてロープ4と支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9との間のすき間を埋めているシール材を取り除くには,かなりの時間が必要とされる。
【0052】
感度はやや低いものの,ソケット5の口元部5aからやや離れた支圧板7の上方にサーチコイル23を設けた場合(グラフ41,
図3参照)であっても,ソケット5の口元部5aの近くにおけるロープ4の断面積の変化に応じた磁束の変化を検出することができている。グラフ41を参照して,0.5%程度の磁束変化を検出することができれば,それは4~5パーセントの断面積の変化(すなわち腐食)がロープ4に発生していることを意味する。このように,ソケット5の口元部5aからやや離れた支圧板7の上方にサーチコイル23を設けたとしても,ソケット5の口元部5aの近くにおけるロープ4の断面積変化,すなわちロープ定着部の腐食の有無および程度を十分に検知できることが分かる。支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9を取り外す必要がなく,ロープ4と支圧板7,ロックプレート8および調整プレート9との間のすき間を埋めているシール材を取り除く必要もないので,ソケット5の口元部5aの近くのロープ4の腐食度を,少ない労力で検知することができる。
【0053】
もっとも,ソケット5の口元部5aからやや離れた支圧板7の上方にサーチコイル23を設けると,ソケット5の口元部5aの近くのロープ4の腐食度を検知する感度は,上述のようにやや低くなる。このため,ロープ4の腐食に起因する磁束の変化以外の要因に基づく磁束の変化を極力除去することが重要である。このために,先端磁極17A,17Bの近くに巻き付けられたサーチコイル21,22が用いて先端磁極17Aとロープ4,先端磁極17Bとソケット5の接触度合い(密着の程度)を確認することが重要である。
【0054】
先端磁極17Aとロープ4,先端磁極17Bとソケット5の接触度合い確認した後,一度ロープ4およびソケット5を消磁し,その後に再度ロープ4およびソケット5を磁化するとさらに精度よくロープ4の腐食度を検知することができる。消磁は励磁コイル13に交流電流を通電することによって行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
4 ハンガーロープ
5 ソケット
5a 口元部
10 磁束検出装置
13 励磁コイル
15 ヨーク軸
16A,16B ヨーク
17A,17B 先端磁極
17a,17b 凹部
21,22,23 サーチコイル(磁束センサ)
24 ホール素子(磁界センサ)