(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054987
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】皮膚外用剤及び内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240411BHJP
A61K 36/739 20060101ALI20240411BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240411BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240411BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/739 ZNA
A61P17/16
A61Q19/08
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161506
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】瀬岡 真緒
(72)【発明者】
【氏名】足立 浩章
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB232
4C083AB242
4C083AB312
4C083AB352
4C083AB432
4C083AB442
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC302
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC482
4C083AC542
4C083AC792
4C083AD092
4C083AD112
4C083AD272
4C083AD352
4C083AD512
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC12
4C083CC25
4C083DD41
4C083EE12
4C088AB51
4C088AC11
4C088BA09
4C088CA05
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】 (修正有)
【課題】MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び抗酸化作用に優れた新規な外用剤又は内用剤を提供する。
【解決手段】加圧湿式加熱処理を施したチユは、優れたMMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び抗酸化作用を有し、安定性にも優れていた。このことから、加圧湿式加熱処理を施したチユは、皮膚の老化予防といった美容分野だけでなく、老化による機能低下の抑制、ガンの予防、治療等といった医療分野にも利用でき、化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品等への応用が期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧水蒸気により105℃以上に加熱する加圧湿式加熱処理を施したチユの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
MMP阻害作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
ヒアルロン酸産生促進作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
抗酸化作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
シワ改善作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
加圧水蒸気により105℃以上に加熱する加圧湿式加熱処理を施したチユの抽出物を含有することを特徴とするMMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防・改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤及び内用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は紫外線の他、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つにシワがある。シワには、表皮性のシワと、真皮性のシワの2種類が存在することが知られている。表皮性のシワは小ジワと呼ばれ、皮膚の乾燥により、表皮角質中の水分量が低下することによって一時的に生じるシワである。一方、真皮性のシワは、太陽光線に含まれる紫外線や加齢によって形成されるシワである。その形成メカニズムとしては、紫外線や加齢による真皮線維芽細胞におけるコラーゲン合成能の低下や、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加によるコラーゲンの分解促進が挙げられる。
【0003】
乾燥に起因する表皮性のシワと真皮性のシワでは、組織学的形態、発症メカニズム、治療方法が異なり、紫外線や加齢により生じる真皮性のシワは、保湿効果を有する化粧品の使用によって改善することは困難である。
【0004】
これまでに、紫外線によって生じる真皮性のシワを改善することを目的として、加水分解アーモンドを有効成分とする皮膚のシワ形成防止・改善剤(特許文献1)、ジョチョウケイ、テンキシ及びキセンソウの抽出物を有効成分とする紫外線照射に起因するシワの改善剤(特許文献2)が報告されている。
【0005】
MMPはガン細胞の間質内浸潤、血管内への侵入及び血管新生に大きな役割を担っている。細胞外基質(細胞外マトリックス、ECM)はI型コラーゲンを主体としており、ガン細胞の移動にはコラゲナーゼ等による基質の破壊が必要となる。転移完成には血管内皮基底膜を破壊し間質内を移動することが必要で、この段階においてもMMPが関与している(非特許文献1)。従って、MMPに対して阻害活性を有する物質は、ガン組織における血管新生やガンの転移を抑制する効果が期待され、ガン疾患の予防、治療に有用であると考えられる。このようにMMPの阻害はガン疾患、潰瘍形成、動脈硬化、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎等、MMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防、治療及び改善に有用である。
【0006】
MMPに属するコラゲナーゼ(MMP1)は、線維芽細胞や軟骨細胞等が産生する酵素であり、コラーゲンの分解促進に大きく関与している。コラーゲンは、哺乳動物組織の約1/3を占める主要な構造タンパク質であり、軟骨、骨、腱、歯茎及び皮膚等の、多くのマトリックス組織の必須な成分である。コラゲナーゼにより一箇所を切断されると、通常の組織内では安定なコラーゲン分子は、変性して一本鎖のゼラチンとなり、他の様々なプロテアーゼにより分解されるようになる。その結果、マトリックス組織の構造の完全性が失われ、シワ、ガン疾患、潰瘍形成、骨粗鬆症及び歯周炎等の原因となる。
【0007】
コラゲナーゼの阻害活性を有する素材として、例えば、カカオ豆皮であるカカオハスク抽出物(特許文献3)、バラ科オニイチゴ抽出物(特許文献4)、ラクトフェリン(特許文献5)等が提案されている。皮膚老化や口腔衛生にますます関心が高まっている状況下で、副作用がなく、安全性が高い、コラゲナーゼ活性阻害作用の優れた素材を見出すことが求められている。
【0008】
MMPに属するゼラチナーゼ(MMP2)は、線維芽細胞や内皮細胞、ガン細胞等が産生する酵素であり、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン(動脈、腱、皮膚等の弾性組織の特殊成分をなす構造タンパク質)等の基質を分解する。従って、ゼラチナーゼによりエラスチンが分解されると、ガン疾患、動脈硬化、慢性関節リウマチ等の疾患や靭帯断裂等の怪我のリスクが高まる。
【0009】
また、線維芽細胞はコラーゲン等のタンパク質及びヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンを産生して真皮結合組織を形成し、皮膚のハリを保っている。この結合組織が収縮力を失い、さらに弾性力を失う結果として、皮膚のシワやたるみが発生すると考えられている。
【0010】
特にヒアルロン酸は結合組織に広く分布する高分子多糖体として知られており、真皮中でゲル状の形態を呈し、肌の弾力を維持している。従って、ヒアルロン酸の変質や減少が皮膚老化において重要であると考えられている。また、ヒアルロン酸は高分子であるため、それを含有した化粧料を皮膚に直接塗布しても吸収されにくいという問題があった。そこで、これまで線維芽細胞を活性化することで、細胞自らのコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進させることができる皮膚外用剤が模索されてきた(特許文献6)。
【0011】
また、ヒアルロン酸は関節にも存在しており、関節の荷重の衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする機能を果たしていることが知られている。正常な人間の関節液中のヒアルロン酸濃度は約2.3mg/mLであるが、慢性関節リウマチの場合、関節液中のヒアルロン酸濃度は約1.2mg/mLと低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する(非特許文献2)。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎等でも、慢性関節リウマチの場合と同様、ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている(非特許文献3)。上記疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制及び病的関節液の改善のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが考えられる。例えば、慢性関節リウマチの患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入法を行うと、上記の症状の改善が認められることが知られている(非特許文献4)。しかしながら、上記疾患の治療は長期に渡る。従って、日常生活の中で手軽に予防や治療等ができるように、ヒアルロン酸産生促進剤を含有させた皮膚外用剤や医薬品、食品が望まれている。
【0012】
飛蚊症とは、視界内に糸くずや蚊のように見える薄い影が現れる症状で、目の内部を満たす硝子体内の混濁が網膜上に影を落とすことで発生する。飛蚊症は大きく2種類に分けることができ、加齢や紫外線、活性酸素等の影響で発症する生理的飛蚊症と、網膜剥離、網膜裂孔、硝子体出血、ぶどう膜炎等の疾患の一症状として現れる病的飛蚊症がある。生理的飛蚊症は、硝子体の主要成分であるヒアルロン酸の減少による液状化と、それに伴うコラーゲン線維の分解で硝子体内が混濁することで生じる。治療法として、硝子体切除手術やレーザー治療があるが、これらの施術は安全性の観点から日本ではあまり行われていないという実情があり、海外で治療を行うには多額の費用が必要となる。そのため、生理的飛蚊症を予防・改善するためには日常的に利用可能なヒアルロン酸産生促進剤を含有させた医薬品や食品が望まれている。
【0013】
また、皮膚は生体の最外層に位置し、紫外線等の影響により活性酸素が発生しやすい臓器であり、絶えずその酸素ストレスに曝されている。一方、皮膚細胞内には活性酸素消去酵素が存在しており、その能力を超える活性酸素が発生しない限り活性酸素の傷害から皮膚細胞を防衛している。ところが、皮膚細胞内の活性酸素消去酵素の活性は加齢と共に低下することが知られており、活性酸素による傷害がその防御反応を凌駕した時、皮膚は酸化され、細胞機能が劣化して老化が進行すると考えられる。また、皮膚以外の臓器においても、その活性酸素消去能を超える活性酸素に曝された時、機能低下が起こり老化したり、ガンや心筋梗塞等様々な生活習慣病が発症したりすると考えられる。そこで、活性酸素による傷害から生体を防御することを目的として活性酸素消去剤や抗酸化剤が検討され、SODやカタラーゼ等の活性酸素消去酵素、SOD様活性物質等の活性酸素消去剤や抗酸化剤を含有した化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品等が開発されている(特許文献7、8)。
【0014】
加圧湿式加熱処理とは、圧力を加えながら水蒸気を媒介として原体に熱を加える加熱方法を指す。基本的に、一般的な湿式加熱処理は100℃までの熱しか加えられないが、加圧湿式加熱処理では、装置内部の圧力を高めることで装置内部に張った水の沸点が上昇し、高温になった水蒸気によって100℃以上の熱を伝導させることができる。加圧湿式加熱処理により、タンパク質等の化学成分に変化が生じるとされていて、色味や味、香り等を変化させることが可能である。加熱する温度や時間によっても、化学成分の変化には違いが生じる。
【0015】
チユ(学名:Sanguisorba officinalis)は、バラ科ワレモコウ属に属する多年生草本であるワレモコウの根及び根茎である。チユの公知文献としては、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害効果(特許文献9)及びヒアルロン酸産生促進効果(特許文献10)等が知られている。しかしながら、チユに加圧湿式加熱処理を施すことで、加圧湿式加熱処理を施していないチユと比べて、その抽出物が顕著なMMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び抗酸化作用を示すことは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000-119125号公報
【特許文献2】特開2006-199611号公報
【特許文献3】特開平3-44331号公報
【特許文献4】特開2003-137801号公報
【特許文献5】特開平5-186368号公報
【特許文献6】特開2007-1924号公報
【特許文献7】特開平2019-125060号公報
【特許文献8】特開2013-218808号公報
【特許文献9】特開2006-347887号広報
【特許文献10】特開2019-59700号広報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「消化器癌におけるマトリックスメタロプロテアーゼ」、日本消化器病学会、100巻、152項、2003年
【非特許文献2】“Arthritis Rheumatism”, Vol.10,pp 357,1967
【非特許文献3】「結合組成」、金原出版、481項、1984年
【非特許文献4】「炎症」、日本炎症学会、11巻、16項、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
安全で安定性に優れ、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び抗酸化作用に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、加圧湿式加熱処理を施したチユが優れたMMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び抗酸化作用を持ち、安定性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤又は内用剤が、安全で安定であり、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び抗酸化作用に優れており、多機能性美容・健康用素材、医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)加圧水蒸気により105℃以上に加熱する加圧湿式加熱処理を施したチユの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(2)MMP阻害作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
(3)ヒアルロン酸産生促進作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
(4)抗酸化作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
(5)シワ改善作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
(6)加圧水蒸気により105℃以上に加熱する加圧湿式加熱処理を施したチユの抽出物を含有することを特徴とするMMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防・改善用食品組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、加圧湿式加熱処理を施したチユの抽出物を有効成分として含有するMMP阻害剤、ヒアルロン酸産生促進剤及び抗酸化剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に用いるチユ(地楡)は、バラ科ワレモコウ属に属する多年生草本であるワレモコウ(学名:Sanguisorba officinalis)の根及び根茎である。加圧湿式加熱処理に使用するチユは、生でも良いし、自然乾燥品や天日乾燥品等の乾燥品を使用することもできる。また、本発明に用いるチユは、そのまま使用しても良いが、0.5~5cmの範囲に刻んだものを使用するのが好ましく、0.5~1cmの範囲に刻んだものを使用するのがさらに好ましい。
【0023】
チユの加圧湿式加熱処理の温度は105℃以上が好ましく、120~250℃がより好ましい。さらに、120~200℃が特に好ましい。250℃以上では、植物の炭化が進みやすく、抽出に不向きなことが多い。加圧湿式加熱処理の時間は、温度によっても異なるが15分以上が好ましく、30~300分がより好ましい。さらに、120~240分が特に好ましい。300分以上加熱すると、植物の炭化が進むことが多く、抽出に不向きなことが多い。また、これらの処理については、2~5回等回数を分けて行っても良い。その際の合計時間は、前述の時間となることが好ましい。
【0024】
加圧湿式加熱処理の方法としては、圧力鍋、高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)、スチームバッグ、ステンレス鍋、電子レンジ等を用いることができ、必要に応じて撹拌等を行うこともできる。また、加圧湿式加熱処理を行った原体は、通常の加熱乾燥と比べて、原体の色がより濃くなり、状況によっては茶色~黒褐色に変化することが多い。
【0025】
加圧湿式加熱処理を施したチユの抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出したものであっても良い。また、抽出には、加圧湿式加熱処理を施した原体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0026】
溶媒による抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出(例えば40~100℃)、常温抽出(例えば15~25℃)、低温抽出(例えば0~15℃)、撹拌抽出又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、水-エタノールの混合極性溶媒又は水-1,3-ブチレングリコールの混合極性溶媒が挙げられる。低級アルコール類や液状多価アルコール類の濃度としては、目的とする有効性によって変わるが、5重量%以上が好ましく、20重量%以上80重量%以下がより好ましい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0027】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば加圧湿式加熱処理を施したチユ(乾燥重量)に対し、5倍以上、好ましくは10倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0028】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0029】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていても良い。
【0030】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0031】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を超えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0032】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0033】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例と処方例に示す含有量の%とは、重量%を示す。
【実施例0034】
5mm角に刻んだチユの乾燥物を、ステンレス製のトレーに均一に並べ、高圧蒸気滅菌器を使用し、温度121℃で、240分間、加圧湿式加熱処理を施し、その後60℃で3時間乾燥させたものを製造例1~4に用いた。チユの抽出物を以下の通り製造した。製造例1~4において、抽出材料には加圧湿式加熱処理を施したチユ(ワレモコウの根及び根茎)を用いた。
【0035】
(製造例1)加圧湿式加熱処理を施したチユの熱水抽出物の調製
加圧湿式加熱処理を施したチユの乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、凍結乾燥して加圧湿式加熱処理を施したチユの熱水抽出物を3.75g得た。
【0036】
(製造例2)加圧湿式加熱処理を施したチユの50%エタノール抽出物の調製
加圧湿式加熱処理を施したチユの乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固して加圧湿式加熱処理を施したチユの50%エタノール抽出物を2.20g得た。
【0037】
(製造例3)加圧湿式加熱処理を施したチユのエタノール抽出物の調製
加圧湿式加熱処理を施したチユの乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固して加圧湿式加熱処理を施したチユのエタノール抽出物を1.19g得た。
【0038】
(製造例4)加圧湿式加熱処理を施したチユの1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
加圧湿式加熱処理を施したチユの乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過して、加圧湿式加熱処理を施したチユの1,3-ブチレングリコール抽出物を190g得た。
【0039】
(比較製造例1~4)加圧湿式加熱処理を施していないチユの抽出物の調製
製造例1~4において、加圧湿式加熱処理を施したチユの乾燥物を、加圧湿式加熱処理を施していないチユの乾燥物に置き換えて、各抽出物をそれぞれ3.6g、1.7g、1.2g、189g得た。