(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054999
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム及び作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20240411BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
E02F9/22 E
E02F9/20 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161535
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】寺島 淳
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB05
2D003BA02
2D003BA05
2D003BB07
2D003CA03
2D003CA10
2D003DA02
2D003DA04
2D003DB01
2D003DB03
2D003DC03
2D003FA02
(57)【要約】
【課題】ポンプに要求される機能及び性能を抑えつつも、モータの効率向上を図りやすい、作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム及び作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械3の制御方法は、電源(バッテリ22)から電力供給を受けて動作するモータ41と、モータ41により駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプ42と、を備える作業機械3の制御方法であって、モータ41を駆動するときに、モータ41のトルクが、トルク上限値を超えないように、モータ41の回転数を調節することを有する。トルク上限値は、モータ41の回転数に対応付けて設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から電力供給を受けて動作するモータと、
前記モータにより駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプと、を備える作業機械の制御方法であって、
前記モータを駆動するときに、前記モータのトルクが、前記モータの回転数に対応付けて設定されているトルク上限値を超えないように、前記回転数を調節することを有する、
作業機械の制御方法。
【請求項2】
前記回転数が大きくなるほど前記トルク上限値が小さくなるように、前記トルク上限値は前記回転数に応じて決められている、
請求項1に記載の作業機械の制御方法。
【請求項3】
前記回転数及び前記トルク上限値を用いて表されるモータ出力が所定範囲に収まるように、前記トルク上限値は前記回転数に応じて決められている、
請求項1又は2に記載の作業機械の制御方法。
【請求項4】
前記所定範囲を変更すること、を更に有する、
請求項3に記載の作業機械の制御方法。
【請求項5】
前記トルクが前記トルク上限値を超えないように調節される前記回転数の最大値を最大回転数とする場合、前記回転数は、前記最大回転数以下の値に調節される、
請求項1又は2に記載の作業機械の制御方法。
【請求項6】
前記回転数は、前記トルクに応じて調節されており、
前記トルクが低下する場合には、前記トルクが上昇する場合に比べて、前記トルクに対する前記回転数の応答性が低い、
請求項1又は2に記載の作業機械の制御方法。
【請求項7】
前記トルクが規定幅以上低下するまでは、前記トルクが低下しても前記回転数を低下前の前記トルクに対応する値に維持する、
請求項6に記載の作業機械の制御方法。
【請求項8】
前記トルク上限値は、前記ポンプの吐出圧の最大値として設定されているリリーフ圧に相当する前記トルクであるリリーフトルクよりも高い値を含む、
請求項1又は2に記載の作業機械の制御方法。
【請求項9】
前記ポンプは、定容量形のギアポンプである、
請求項1又は2に記載の作業機械の制御方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の作業機械の制御方法を、
1以上のプロセッサに実行させるための作業機械用制御プログラム。
【請求項11】
電源から電力供給を受けて動作するモータと、
前記モータにより駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプと、を備える作業機械の制御に用いられ、
前記モータを駆動するときに、前記モータのトルクが、前記モータの回転数に対応付けて設定されているトルク上限値を超えないように、前記回転数を調節する調節処理部を備える、
作業機械用制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載の作業機械用制御システムと、
前記モータ及び前記ポンプが搭載される機体と、を備える、
作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給を受けて動作するモータにより駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプを備える作業機械に用いられる、作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム及び作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術として、モータ(電動機)と、モータにより駆動される可変容量型のポンプ(油圧ポンプ)と、ポンプから吐出された作動流体(圧油)により駆動される複数のアクチュエータと、を備える作業機械(油圧ショベル)が知られている(例えば、特許文献1参照)。関連技術に係る作業機械は、ポンプの吐出圧が上昇したときにポンプの吐出流量を減少させることで、ポンプの吸収トルクが予め設定した最大トルクを超えないように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記関連技術では、ポンプとして、吐出流量を調節できる可変容量ポンプを使用する必要があり、更にモータの効率を上げる(消費電力を小さく抑える)には、より高性能な可変容量ポンプが必要になる。
【0005】
本発明の目的は、ポンプに要求される機能及び性能を抑えつつも、モータの効率向上を図りやすい、作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム及び作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る作業機械の制御方法は、電源から電力供給を受けて動作するモータと、前記モータにより駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプと、を備える作業機械の制御方法であって、前記モータを駆動するときに、前記モータのトルクが、トルク上限値を超えないように、前記モータの回転数を調節することを有する。前記トルク上限値は、前記回転数に対応付けて設定されている。
【0007】
本発明の一態様に係る作業機械用制御プログラムは、前記作業機械の制御方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0008】
本発明の一態様に係る作業機械用制御システムは、電源から電力供給を受けて動作するモータと、前記モータにより駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプと、を備える作業機械の制御に用いられる。前記作業機械用制御システムは、調節処理部を備える。前記調節処理部は、前記モータを駆動するときに、前記モータのトルクが、トルク上限値を超えないように、前記モータの回転数を調節する。前記トルク上限値は、前記回転数に対応付けて設定されている。
【0009】
本発明の一態様に係る作業機械は、前記作業機械用制御システムと、前記モータ及び前記ポンプが搭載される機体と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポンプに要求される機能及び性能を抑えつつも、モータの効率向上を図りやすい、作業機械の制御方法、作業機械用制御プログラム、作業機械用制御システム及び作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る作業機械の全体構成を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る作業機械の電気回路等を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る作業機械のインバータの一例を示す概略回路図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る作業機械の制御方法で用いるトルク上限値と回転数との相関を表す二次元マップの一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る作業機械の制御方法による通常モードでの回転数の制御の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る作業機械の制御方法によるエコモードでの回転数の制御の一例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る作業機械の制御方法による通常モードからエコモードへの切り替え制御の一例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る作業機械の制御方法によるエコモードから通常モードへの切り替え制御の一例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態1に係る作業機械用制御システムの動作例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施形態2に係る作業機械の制御方法による回転数の制御の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0013】
(実施形態1)
[1]全体構成
本実施形態に係る作業機械3は、
図1に示すように、走行部31と、旋回部32と、作業部33と、を機体30に備えている。また、作業機械3は、
図2に示すように、作業機械用制御システム1(以下、単に「制御システム1」ともいう)を更に備えている。
【0014】
本開示でいう「作業機械」は、各種の作業用の機械を意味し、一例として、バックホー(油圧ショベル、ミニショベル等を含む)、ホイルローダー及びキャリア等の作業車両である。作業機械3は、1つ以上の作業を実行可能に構成された作業部33を備えている。作業機械3は、「車両」に限らず、例えば、作業用船舶、ドローン又はマルチコプター等の作業飛翔体等であってもよい。さらに、作業機械3は建設機械(建機)に限らず、例えば、田植機、トラクタ又はコンバイン等の農業機械(農機)であってもよい。本実施形態では、特に断りが無い限り、作業機械3が吊り機能付き(クレーン機能付き)のバックホーであって、吊り作業の他に、掘削作業、整地作業、溝掘削作業又は積込作業等を作業として実行可能である場合を例に挙げて説明する。
【0015】
また、本実施形態では、説明の便宜上、作業機械3が使用可能な状態での鉛直方向を上下方向D1と定義する。さらに、旋回部32の非旋回状態において、作業機械3(の運転室321)に搭乗したユーザ(オペレータ)から見た方向を基準として、前後方向D2及び左右方向D3を定義する。言い換えれば、本実施形態で用いられる各方向は、いずれも作業機械3の機体30を基準として規定される方向であって、作業機械3の前進時に機体30が移動する方向が「前方」、作業機械3の後退時に機体30が移動する方向が「後方」となる。同様に、作業機械3の右旋回時に機体30の前端部が移動する方向が「右方」、作業機械3の左旋回時に機体30の前端部が移動する方向が「左方」となる。ただし、これらの方向は、作業機械3の使用方向(使用時の方向)を限定する趣旨ではない。
【0016】
本実施形態に係る作業機械3は、動力を発生する駆動装置の少なくとも一部が電動化されている。本実施形態では一例として、作業機械3は、動力源としてモータ41(
図2参照)のみを用いた電動式(電気式)の作業機械である。モータ41は、電力(電気エネルギー)の供給を受けて動力を発生する電動機である。より詳細には、モータ41は、インバータ21(
図2参照)から供給される交流電力により駆動される交流モータ(交流電動機)である。
【0017】
モータ41で発生する動力は、少なくとも駆動装置におけるポンプ42(
図2参照)の駆動に用いられる。本実施形態では更に、モータ41は、発電機としても機能し、モータ41の出力軸に加わる動力(回転力)を電力(電気エネルギー)に変換する発電動作を行う。モータ41で発電された電力は、インバータ21を介してバッテリ22(
図2参照)に出力される。モータ41の駆動モードと発電モードとは、作業機械3全体の制御を行う統合コントローラにて切り替えられる。
【0018】
作業機械3においては、上記の通りモータ41によってポンプ42が駆動され、ポンプ42から機体30の各部の油圧アクチュエータ(油圧モータ43及び油圧シリンダ44等を含む)に作動油が供給されることで、機体30が駆動する。つまり、作動油は「作動流体」の一例であって、ポンプ42から油圧アクチュエータ(油圧モータ43及び油圧シリンダ44等を含む)に吐出されることで、アクチュエータを駆動する。油圧アクチュエータは、「アクチュエータ」の一例であって、作動流体(作動油)の持つ流体動力(圧力×流量)を利用することで駆動し、流体動力を機械的な動力に変換する。また、作業機械3は、例えば、機体30の運転室321に搭乗したユーザ(オペレータ)が、操作装置の操作レバー等を操作することにより制御される。
【0019】
すなわち、作業機械3は、電源(バッテリ22)から電力供給を受けて動作するモータ41と、モータ41により駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプ42と、を備える。
【0020】
本実施形態では、上述したように作業機械3が乗用タイプのバックホーである場合を想定しているので、作業部33は、運転室321に搭乗したユーザ(オペレータ)の操作に従って駆動され、掘削作業等の作業を実行する。ユーザが搭乗する運転室321は、旋回部32に設けられている。
【0021】
走行部31は、走行機能を有し、地面を走行(旋回を含む)可能に構成されている。走行部31は、例えば、左右一対のクローラ311及びブレード312等を有している。走行部31は、クローラ311を駆動するための走行用の油圧モータ43(アクチュエータ)等を更に有する。
【0022】
旋回部32は、走行部31の上方に位置し、走行部31に対して、鉛直方向に沿った回転軸を中心に旋回可能に構成されている。旋回部32は、旋回用の油圧モータ(アクチュエータ)等を有している。旋回部32には、運転室321の他、ポンプ42等が搭載されている。さらに、旋回部32の前端部には、作業部33が取り付けられるブームブラケット322が設けられている。
【0023】
作業部33は、吊り作業を含む作業を実行可能に構成されている。作業部33は、旋回部32のブームブラケット322に支持されており、作業を実行する。作業部33は、バケット331、ブーム332及びアーム333等を有している。作業部33は、各部を駆動するためのアクチュエータ(油圧シリンダ44及び油圧モータ等を含む)を更に有する。
【0024】
バケット331は、作業機械3の機体30に取り付けられるアタッチメント(作業具)の一種であって、複数種類のアタッチメントの中から作業の内容に応じて選択される任意の器具からなる。バケット331は、一例として、機体30に対して取り外し可能に取り付けられ、作業の内容に応じて交換される。作業機械3用のアタッチメントとしては、例えば、バケット331の他に、ブレーカ、オーガ、クラッシャ、フォーク、フォーククロー、鉄骨カッタ、アスファルト切削機、草刈機、リッパ、マルチャ、チルトローテータ及びタンパ等の種々の器具がある。作業部33は、駆動装置からの動力により、バケット331を駆動することで作業を実行する。
【0025】
ブーム332は、旋回部32のブームブラケット322にて、回転可能に支持されている。具体的には、ブーム332は、ブームブラケット322にて、水平方向に沿った回転軸を中心に回転可能に支持されている。ブーム332は、ブームブラケット322に支持される基端部から上方に延びる形状を有している。アーム333は、ブーム332の先端に連結されている。アーム333は、ブーム332に対して、水平方向に沿った回転軸を中心に回転可能に支持されている。アーム333の先端には、バケット331が取り付けられる。
【0026】
作業部33は、動力源としてのモータ41からの動力を受けて動作する。具体的には、モータ41によってポンプ42が駆動され、作業部33のアクチュエータ(油圧シリンダ44等)にポンプ42から作動流体(作動油)が供給されることで、作業部33の各部(バケット331、ブーム332及びアーム333)が動作する。
【0027】
本実施形態では特に、作業部33は、ブーム332及びアーム333が個別に回転可能に構成された多関節型の構造を有している。つまり、ブーム332及びアーム333の各々が、水平方向に沿った回転軸を中心に回転することにより、例えば、ブーム332及びアーム333を含む多関節型の作業部33は、全体として伸ばしたり、折りたたんだりする動作が可能である。
【0028】
走行部31及び旋回部32の各々についても、作業部33と同様に、動力源としてのモータ41からの動力を受けて動作する。つまり、走行部31の油圧モータ43及び旋回部32の油圧モータ等に、ポンプ42から作動油が供給されることで、旋回部32及び走行部31が動作する。
【0029】
モータ41は、ポンプ42等と共に旋回部32に搭載されている。モータ41は、電源としてのバッテリ22(厳密にはバッテリ22に電気的に接続されたインバータ21)から電力が供給されることにより駆動する。
【0030】
図2では、本実施形態に係る作業機械3の油圧回路及び電気回路(電気的な接続関係)を模式的に示す。
図2では、実線が高圧の(作動油用の)油路、一点鎖線が電気的な接続経路(一点鎖線の矢印が電気信号の経路)を示す。
【0031】
図2に示すように、作業機械3は、モータ41、モータ41にて駆動されるポンプ42並びに油圧モータ43及び油圧シリンダ44等のアクチュエータ40に加えて、インバータ21、バッテリ22、コントロールバルブ45及びリリーフバルブ46等を備えている。さらに、作業機械3は、回転数設定部34及びモード切替部35等を備えている。
【0032】
モータ41は、インバータ21から供給される交流電力により駆動される交流モータである。モータ41により駆動されるポンプ42からの作動油(作動流体)は、走行部31の油圧モータ43(
図1参照)、旋回部32の油圧モータ、及び作業部33の油圧シリンダ44(
図1参照)等のアクチュエータ40に供給される。これにより、油圧アクチュエータであるアクチュエータ40が駆動される。
【0033】
本実施形態では、ポンプ42は、定容量形のギアポンプである。一般的に、油圧ポンプのような容積形ポンプには、駆動軸の1回転に対して吐出する作動油量(吐出量)を変更可能な可変容量形ポンプと、駆動軸の1回転に対して吐出する作動油量が一定(固定)の定容量形(固定容量形又は定吐出量形とも呼ぶ)ポンプと、がある。さらに、ポンプは駆動方式によって、ギア(歯車)ポンプ、ベーンポンプ及びピストンポンプ等の複数種類に分類されるところ、本実施形態における作業機械3では、構造が比較的単純な定容量形のギアポンプがポンプ42として用いられるので、比較的異物に強く、かつ安価に供給可能である。
【0034】
コントロールバルブ45は、各アクチュエータ40への作動油の経路(油路)に設けられ、ポンプ42から供給される作動流体(作動油)の流れ方向を制御する弁(バルブ)であって、アクチュエータ40の始動、停止又は作動方向等を決定する。本実施形態では一例として、コントロールバルブ45は、ポンプ42からの作動油の方向及び流量を切換可能なパイロット式の方向切換弁であって、パイロットポンプから入力指令となるパイロット油が供給されて駆動される。ここで、コントロールバルブ45へのパイロット油の供給路には、例えば、リモコン弁が設けられ、操作装置(操作レバー)の操作に応じてコントロールバルブ45に供給されるパイロット油が調節される。
【0035】
リリーフバルブ46は、ポンプ42の(吐出)圧力の最大値であるリリーフ圧を設定する。リリーフバルブ46は、ポンプ42からコントロールバルブ45にかけての油路に接続されている。油路(油圧回路)における作動油の圧力である作動油圧がリリーフ圧を超えるとリリーフバルブ46が作動し、作動油圧をリリーフ圧以下に抑える。
【0036】
インバータ21は、入力キャパシタ211を有し、入力キャパシタ211の両端電圧である直流電圧を交流電圧に変換して出力する。入力キャパシタ211は、インバータ21の入力段(つまりインバータ21の入力端子間)に設けられており、バスラインを介してバッテリ22に電気的に接続されている。インバータ21の出力端子は、モータ41に電気的に接続されている。したがって、インバータ21は、バッテリ22から入力キャパシタ211に印加される直流電圧を、交流電圧に変換してモータ41に出力することによって、交流モータであるモータ41を駆動する。インバータ21は、制御システム1からの制御信号にて制御され、当該制御信号に応じて直流電力の交流電力への電力変換動作を実行する。
【0037】
図3は、インバータ21の具体的な構成例を示す概略回路図である。インバータ21は、
図3に示すように、入力キャパシタ211に加えて、複数(ここでは6つ)のスイッチング素子Q1~Q6を有する。各スイッチング素子Q1~Q6は、トランジスタからなり、制御システム1からの制御信号に応じて個別にオン/オフ制御される。ここで、一対のスイッチング素子Q1,Q2、一対のスイッチング素子Q3,Q4、及び一対のスイッチング素子Q5,Q6は、それぞれ入力キャパシタ211の両端間において電気的に直列に接続されている。これら各一対のスイッチング素子にて構成される3相のアームの中点に設けた端子に、モータ41が接続される。これにより、インバータ21の動作時には、モータ41に対して三相交流が供給され、モータ41が駆動する。
【0038】
バッテリ22は、インバータ21等に直流電力を供給する「電源」の一例である。本実施形態では一例として、バッテリ22は、充放電可能な二次電池(蓄電装置)であって、例えばリチウムイオンバッテリである。バッテリ22は、バスラインに電気的に接続されている。これにより、バッテリ22の残容量が十分にある状態では、バッテリ22からバスラインを介してインバータ21等に直流電圧が印加される。
【0039】
制御システム1は、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の1以上のメモリとを有するコンピュータシステムを主構成とし、種々の処理(情報処理)を実行する。本実施形態では、制御システム1は、作業機械3全体の制御を行う統合コントローラであって、例えば、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)からなる。ただし、制御システム1は、統合コントローラと別に設けられていてもよい。制御システム1について詳しくは「[2]制御システムの構成」の欄で説明する。
【0040】
回転数設定部34は、ポンプ42を駆動するモータ41の目標回転数を設定するためのユーザ(オペレータ)の操作を受け付ける。回転数設定部34は、例えば、ボリューム又はロータリエンコーダ等の操作部を有し、ユーザの操作に応じた電気信号を制御システム1に出力することにより、ユーザによる操作を受け付ける。
【0041】
モード切替部35は、作業機械3の動作モードを切り替えるためのユーザ(オペレータ)の操作を受け付ける。ここで、作業機械3の動作モードは、少なくとも通常モードと、エコモードとを含む複数のモードから択一的に選択される。つまり、作業機械3は、複数のモードの中からモード切替部35で択一的に選択される動作モードにて動作し、モード切替部35で異なる動作モードが選択されると動作モードが切り替わる。通常モードは、ポンプ42を駆動するモータ41の出力の最大値を定常値とする動作モードであって、エコモードは、ポンプ42を駆動するモータ41の出力の最大値を定常値よりも低い省エネ値とする動作モードである。つまり、作業機械3は、エコモードにおいては、通常モードに比べて、ポンプ42から供給される作動流体にて駆動されるアクチュエータ40の最大出力(動力)を抑えることで、モータ41での消費電力を抑えることが可能である。
【0042】
本実施形態では一例として、モード切替部35は、機体30の運転室321に配置された表示装置(モニタ)にて実現される。表示装置は、ユーザ(オペレータ)による操作入力を受け付け、ユーザに種々の情報を出力するためのユーザインターフェースである。表示装置は、例えば、タッチパネルディスプレイからなり、ユーザの操作に応じた電気信号を制御システム1に出力することにより、ユーザによる各種の操作を受け付ける。これにより、ユーザ(オペレータ)は、表示装置に表示される表示画面を視認でき、かつ、必要に応じて表示装置を操作することが可能である。
【0043】
また、機体30は、上述した構成に加えて、操作レバー、カットオフレバー、通信端末、(バッテリ22充電用の)充電回路、及び種々の電装機器等を更に備えている。電装機器(設備を含む)は、例えば、表示装置、照明機器、通信機器及び空調機器等の種々の機器を含む。表示装置は、機体30の運転室321に配置されており、ユーザ(オペレータ)による操作入力を受け付け、ユーザに種々の情報を出力するためのユーザインターフェースである。さらには、機体30には、作動油温センサ、機体30の周囲を監視するセンサ(カメラ等を含む)、及び稼働時間を計測するアワーメータ等、機体30の稼働状態を監視するためのセンサ類が備わっている。その他、カットオフレバー及びメインスイッチ等の状態等を検出するセンサも、機体30に備わっている。
【0044】
[2]制御システムの構成
次に、本実施形態に係る制御システム1の構成について、
図2を参照して説明する。制御システム1は、作業機械3の機体30の各部(インバータ21等を含む)を制御する。制御システム1は、作業機械3の構成要素であって、機体30等と共に作業機械3を構成する。言い換えれば、本実施形態に係る作業機械3は、少なくとも制御システム1と、モータ41及びポンプ42が搭載される機体30(走行部31、旋回部32及び作業部33を含む)と、を備えている。
【0045】
制御システム1は、モータ41とポンプ42とを備える作業機械3の制御に用いられ、
図2に示すように、調節処理部12を備えている。制御システム1は、制御処理部11、切替処理部13及び記憶部14を更に備えている。本実施形態では一例として、制御システム1は1以上のプロセッサを有するコンピュータシステムを主構成とするので、1以上のプロセッサが作業機械用制御プログラムを実行することにより、これら複数の機能部(調節処理部12等)が実現される。制御システム1に含まれる、これら複数の機能部は、複数の筐体に分散して設けられていてもよいし、1つの筐体に設けられていてもよい。
【0046】
制御システム1は、機体30の各部に設けられたデバイスと通信可能に構成されている。つまり、制御システム1には、少なくともインバータ21、回転数設定部34及びモード切替部35等が接続されている。これにより、制御システム1は、インバータ21等を制御したり、回転数設定部34及びモード切替部35等から(ユーザの操作に応じた)電気信号を取得したりすることが可能である。ここで、制御システム1は、各種の情報(データ)の授受を、各デバイスと直接的に行ってもよいし、中継器等を介して間接的に行ってもよい。
【0047】
制御処理部11は、モータ41を駆動するための制御処理を実行する。ここにおいて、制御処理部11は、回転数指令によってモータ41の回転数を指定し、当該回転数指令に含まれる目標回転数でモータ41が動作するようにモータ41を制御する。モータ41の回転数及びトルクは、(インバータ21から)制御システム1(の制御処理部11)にフィードバックされる。
【0048】
本実施形態では、制御処理部11は、インバータ21を制御することにより、モータ41の回転数(回転速度)を制御する「回転数制御」を行う。具体的には、制御処理部11は、インバータ21からモータ41に供給される交流電力の周波数を調節することにより、モータ41の回転数を調節する。ここで、制御処理部11は、インバータ21からフィードバックされるモータ41の回転数を、モータ41の回転数の目標値となる「目標回転数」に近づけるように、モータ41の回転数を調節する。これにより、モータ41の回転数は、目標回転数に制御されることになる。
【0049】
調節処理部12は、モータ41を駆動するときに、モータ41のトルクが、モータ41の回転数に対応付けて設定されているトルク上限値を超えないように、(モータ41の)回転数を調節する調節処理を実行する。すなわち、制御処理部11がモータ41を回転数制御によって駆動する際、調節処理部12が目標回転数を調節することによって、モータ41のトルクがトルク上限値を超えないようにする。ここで、トルク上限値は、モータ41の回転数に対応付けて設定されているのであって、モータ41の回転数に応じて一意に決定される値である。
【0050】
切替処理部13は、作業機械3の動作モードを切り替える切替処理を実行する。具体的に、切替処理部13は、モード切替部35から出力される電気信号に応じて、作業機械3の動作モードを、少なくとも通常モードとエコモードとの間で切り替える。つまり、モード切替部35で通常モードが選択されると、切替処理部13は作業機械3の動作モードを通常モードとし、モード切替部35でエコモードが選択されると、切替処理部13は作業機械3の動作モードをエコモードとする。
【0051】
記憶部14は、トルク上限値とモータ41の回転数との対応関係を示す情報等を記憶している。本実施形態では一例として、記憶部14は、不揮発性メモリからなる。記憶部14に記憶されるトルク上限値とモータ41の回転数との対応関係を示す情報は、例えば、トルク上限値とモータ41の回転数との相関を表す二次元マップデータである。
【0052】
[3]作業機械の制御方法
以下、
図4~
図9を参照しつつ、主として制御システム1によって実行される作業機械3の制御方法(以下、単に「制御方法」という)の一例について説明する。
【0053】
本実施形態に係る制御方法は、コンピュータシステムを主構成とする制御システム1にて実行されるので、言い換えれば、作業機械用制御プログラム(以下、単に「制御プログラム」という)にて具現化される。つまり、本実施形態に係る制御プログラムは、制御方法に係る各処理を1以上のプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。このような制御プログラムは、例えば、制御システム1及び表示装置によって協働して実行されてもよい。
【0054】
ここで、制御システム1は、制御プログラムを実行させるための予め設定された特定の開始操作が行われた場合に、制御方法に係る下記の各種処理を実行する。開始操作は、例えば、作業機械3の起動操作等である。一方、制御システム1は、予め設定された特定の終了操作が行われた場合に、制御方法に係る下記の各種処理を終了する。終了操作は、例えば、作業機械3の停止操作等である。
【0055】
[3.1]調節処理
ここではまず、本実施形態に係る制御方法に含まれる調節処理について説明する。調節処理は、上述したように、モータ41を駆動するときに、モータ41のトルクが、モータ41の回転数に対応付けて設定されているトルク上限値を超えないように、(モータ41の)回転数を調節する処理である。
【0056】
本実施形態では一例として、
図4に示すようなトルク上限値とモータ41の回転数との対応関係G1,G2が予め記憶部14に登録(記憶)されており、調節処理部12は、これらの対応関係G1,G2を用いて調節処理を実行する。ここで、対応関係G1は、作業機械3の動作モードが「通常モード」にあるときのトルク上限値とモータ41の回転数との関係を示し、対応関係G2は、作業機械3の動作モードが「エコモード」にあるときのトルク上限値とモータ41の回転数との関係を示す。つまり、作業機械3の動作モードが「通常モード」にあれば、調節処理部12は、対応関係G1を用いて、モータ41のトルクがトルク上限値を超えないように、モータ41の回転数を調節する。一方、作業機械3の動作モードが「エコモード」にあれば、調節処理部12は、対応関係G2を用いて、モータ41のトルクがトルク上限値を超えないように、モータ41の回転数を調節する。
【0057】
図4では、横軸をモータ41の回転数(回転速度)〔rpm〕とし、縦軸をモータ41のトルク〔Nm〕とし、対応関係G1,G2は、各回転数に対応するトルク上限値を表している。そのため、例えば、「通常モード」においては、調節処理部12は、モータ41のトルクが対応関係G1で規定されるトルク上限値以下となるように、対応関係G1以下の領域内にモータ41の回転数を調節する。同様に、「エコモード」においては、調節処理部12は、モータ41のトルクが対応関係G2で規定されるトルク上限値以下となるように、対応関係G2以下の領域内にモータ41の回転数を調節する。
【0058】
ここで、対応関係G1,G2で規定される最大トルクはT2〔Nm〕であって、対応関係G1,G2で規定される最大回転数はN2〔rpm〕である。対応関係G1,G2によれば、モータ41の回転数が最大回転数N2〔rpm〕から低下するにつれて、トルク上限値は、徐々に大きくなり最大トルクT2〔Nm〕にて頭打ちとなる。そして、対応関係G2は、対応関係G1に比べて、回転数とトルクとの積で表されるモータ41の出力(つまりポンプ42の入力)が小さくなるように、同じ回転数であれば、対応関係G2のトルク上限値は対応関係G1のトルク上限値以下の範囲に設定される。
【0059】
また、トルク上限値は、ポンプ42の吐出圧の最大値として設定されているリリーフ圧に相当するトルクである「リリーフトルク」よりも高い値を含んでいる。つまり、
図4の例において、リリーフトルクがT1〔Nm〕であるとすれば、対応関係G1,G2で規定されるトルク上限値の最大値たる最大トルクT2〔Nm〕は、リリーフトルクT1〔Nm〕よりも高い(大きな)値に設定される。これにより、例えば、モータ41の回転数を、リリーフトルクT1〔Nm〕に対応する回転数N1〔rpm〕から上昇させる場合においては、モータ41にてリリーフトルクT1〔Nm〕を超えるトルクを発生させ、当該トルクにてモータ41を加速させることが可能である。
【0060】
上記対応関係G1によれば、「通常モード」において、
図5に例示するような調節処理が実行される。すなわち、例えば、
図5に示すように、モータ41が回転数N3〔rpm〕、トルクT3〔Nm〕で駆動している状態において、アクチュエータ40の負荷が増加すると、モータ41のトルクが増加する。このとき、モータ41のトルクがリリーフトルクT1〔Nm〕まで増加するとすれば、調節処理部12は、対応関係G1において、リリーフトルクT1〔Nm〕に対応する回転数N1〔rpm〕まで、モータ41の回転数を低下させる。つまり、モータ41のトルクを増加させてポンプ42の吐出圧を上昇させながらも、モータ41の回転数を低下させてポンプ42の吐出流量を小さくすることで、モータ41の出力(つまり、ポンプ42の入力)を略一定に保つことができる。
【0061】
また、上記対応関係G2によれば、「エコモード」において、
図6に例示するような調節処理が実行される。すなわち、例えば、
図6に示すように、モータ41が回転数N4〔rpm〕、トルクT4〔Nm〕で駆動している状態において、アクチュエータ40の負荷が増加すると、モータ41のトルクが増加する。このとき、モータ41のトルクがT5〔Nm〕まで増加するとすれば、調節処理部12は、対応関係G2において、トルクT5〔Nm〕に対応する回転数N5〔rpm〕まで、モータ41の回転数を低下させる。つまり、モータ41のトルクを増加させてポンプ42の吐出圧を上昇させながらも、モータ41の回転数を低下させてポンプ42の吐出流量を小さくすることで、モータ41の出力(つまり、ポンプ42の入力)を略一定に保つことができる。
【0062】
本実施形態では、調節処理部12は、基本的に、モータ41のトルクに応じてモータ41の回転数を調節する。つまり、調節処理部12は、モータ41のトルクが上昇すれば、対応関係G1,G2に沿ってモータ41の回転数を低下させ、反対に、モータ41のトルクが低下すれば、対応関係G1,G2に沿ってモータ41の回転数を上昇させる。これにより、調節処理部12は、回転数及びトルク上限値の積で表されるモータ出力(モータ41の出力)を所定値(定常値)に維持することができる。
【0063】
ここで、モータ41の回転数及びトルクの積で表されるモータ41の出力(ポンプ42の入力)と、ポンプ42の吐出流量及び吐出圧の積で表されるポンプ42の出力とは、ポンプ42の損失を無視すれば一致するはずである。そのため、上述したような調節処理によってモータ41の出力が略一定に保たれることで、ポンプ42の出力についても略一定に保たれることになる。
【0064】
以上説明した構成によれば、例えば、ポンプ42が定容量形ポンプであっても、モータ41の制御によって、あたかも可変容量ポンプのようにポンプ42の吐出流量を可変とし、ポンプ42の出力を略一定に維持できる。つまり、定容量形のポンプ42であっても、これを駆動するモータ41の回転数を調節することで、ポンプ42の吐出流量を調節できるため、ポンプ42の吐出圧の変動を吐出流量の変動で吸収でき、ポンプ42の吐出流量及び吐出圧の積で表されるポンプ42の出力を略一定に維持できる。結果的に、ポンプ42として、吐出流量を調節できる可変容量ポンプを使用することが必須でなく、更にモータ41の効率を上げる(消費電力を小さく抑える)場合でも、比較的簡単な構造のポンプを使用することが可能である。したがって、本実施形態に係る制御方法によれば、ポンプ42に要求される機能及び性能を抑えつつも、モータ41の効率向上を図りやすい、という利点がある。
【0065】
また、本実施形態では、上述したように、回転数が大きくなるほどトルク上限値が小さくなるように、トルク上限値は回転数に応じて決められている。つまり、モータ41の回転数が変化すれば、これに応じてトルク上限値が自動的に決定する。この構成によれば、モータ41の回転数及びトルクの積で表されるモータ41の出力(ポンプ42の入力)を略一定に維持しやすくなる。
【0066】
さらに、本実施形態では、上述したように、回転数及びトルク上限値を用いて表されるモータ出力が所定範囲に収まるように、トルク上限値は回転数に応じて決められている。本実施形態では一例として、所定範囲の幅を限りなく小さく設定することで、回転数及びトルク上限値の積で表されるモータ出力(モータ41の出力)を所定値(定常値)に維持する。ただし、所定範囲は、ある程度の幅を持っていてもよく、この場合、モータ出力は、所定値に維持されずに所定範囲内で変動してもよい。この構成によれば、あたかも可変容量ポンプのように、ポンプ42の出力を略一定に維持できる。
【0067】
また、本実施形態において、モータ41のトルクがトルク上限値に達するときの回転数を最大回転数とした場合に、モータ41の回転数を最大回転数まで上げることは必須ではなく、最大回転数以下の範囲にモータ41の回転数が調節されていればよい。すなわち、トルクがトルク上限値を超えないように調節される回転数の最大値を最大回転数とする場合、回転数は、最大回転数以下の値に調節される。その結果、モータ出力(モータ41の出力)を、より適切な値に設定することが可能である。
【0068】
[3.2]切替処理
次に、本実施形態に係る制御方法に含まれる切替処理について説明する。切替処理は、上述したように、作業機械3の動作モードを切り替える処理である。本実施形態では、少なくとも通常モードとエコモードとの間で動作モードが切り替えられる。そして、通常モードとエコモードとでは、調節処理で使用される対応関係G1,G2が切り替わることになる。
【0069】
具体的に、通常モードからエコモードへの切り替えに際しては、例えば、
図7に示すように、動作点を対応関係G1上から対応関係G2上へとシフトさせる。これにより、回転数とトルクとの積で表されるモータ41の出力が小さくなるため、モータ41の入力、つまりモータ41での消費電力は小さくなる。ここで、動作点のシフトの仕方としては、トルクは一定で回転数のみを変化(低下)させる矢印A11、回転数は一定でトルクのみを変化(低下)させる矢印A12、及び回転数とトルクとの両方を変化(低下)させる矢印A13の3パターンがある。
【0070】
一方、エコモードから通常モードへの切り替えに際しては、例えば、
図8に示すように、動作点を対応関係G2上から対応関係G1上へとシフトさせる。これにより、回転数とトルクとの積で表されるモータ41の出力が大きくなるため、モータ41の入力、つまりモータ41での消費電力は大きくなる。ここで、動作点のシフトの仕方としては、トルクは一定で回転数のみを変化(上昇)させる矢印A21、回転数は一定でトルクのみを変化(上昇)させる矢印A22、及び回転数とトルクとの両方を変化(上昇)させる矢印A23の3パターンがある。
【0071】
以上説明したように、回転数及びトルク上限値を用いて表されるモータ出力(モータ41の出力)の目標値(所定値)は、固定的ではなく、例えば動作モード等に応じて、変化してもよい。例えば、通常モードとエコモードとでは、エコモードの方が、モータ出力(モータ41の出力)の目標値は低く設定される。すなわち、本実施形態に係る制御方法は、所定範囲を変更すること、を更に有する。これにより、例えば、エコモードのように消費電力を抑えた状態、及びパワーモードのように作業を優先し更に大きな出力を使用できる状態等を、適宜選択可能となる。
【0072】
[3.3]フローチャート
次に、制御方法に係る処理の全体の流れについて、
図9を参照して説明する。
図9は、制御方法に係る処理の一例を示すフローチャートである。
【0073】
図9に示すように、制御システム1の切替処理部13は、まず作業機械3の動作モードが通常モードであるか否かを判断する(S1)。作業機械3の動作モードとして通常モードが選択されていれば、切替処理部13は、通常モードにあると判断し(S1:Yes)、処理をステップS2に移行させる。一方、作業機械3の動作モードとしてエコモードが選択されていれば、切替処理部13は、通常モードにないと判断し(S1:No)、処理をステップS6に移行させる。
【0074】
ステップS2では、調節処理部12は、回転数とトルク上限値との対応関係として対応関係G1(
図4参照)を適用し、調節処理を開始する。ここで、調節処理部12は、まず対応関係G1を参照して、現在のモータ41のトルクに対応する回転数を特定する。その上で、制御処理部11は、特定された回転数にモータ41を制御する(S3)。
【0075】
このとき、アクチュエータ40の負荷変動等により、モータ41のトルクが、対応関係G1において規定される回転数に対応するトルク上限値を超えると(S4:Yes)、調節処理部12は、モータ41の回転数を低下させる調節処理を実行し(S5)、処理をステップS4に移行させる。一方、モータ41のトルクが、対応関係G1において規定される回転数に対応するトルク上限値以下であれば(S4:No)、調節処理部12は、モータ41の回転数を低下させることなく、一連の処理を終了する。
【0076】
ステップS6では、調節処理部12は、回転数とトルク上限値との対応関係として対応関係G2(
図4参照)を適用し、調節処理を開始する。ここで、調節処理部12は、まず対応関係G2を参照して、現在のモータ41のトルクに対応する回転数を特定する。その上で、制御処理部11は、特定された回転数にモータ41を制御する(S7)。
【0077】
このとき、アクチュエータ40の負荷変動等により、モータ41のトルクが、対応関係G2において規定される回転数に対応するトルク上限値を超えると(S8:Yes)、調節処理部12は、モータ41の回転数を低下させる調節処理を実行し(S9)、処理をステップS8に移行させる。一方、モータ41のトルクが、対応関係G2において規定される回転数に対応するトルク上限値以下であれば(S8:No)、調節処理部12は、モータ41の回転数を低下させることなく、一連の処理を終了する。
【0078】
制御システム1は、上記ステップS1~S9の処理を繰り返し実行する。ただし、
図9に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
【0079】
[4]変形例
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0080】
本開示における制御システム1は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしての1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における制御システム1としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、制御システム1に含まれる一部又は全部の機能部は電子回路で構成されていてもよい。
【0081】
また、制御システム1の少なくとも一部の機能が、1つの筐体内に集約されていることは制御システム1に必須の構成ではなく、制御システム1の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。反対に、実施形態1において、複数の装置(例えば制御システム1及び回転数設定部34等)に分散されている機能が、1つの筐体内に集約されていてもよい。さらに、制御システム1の少なくとも一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0082】
また、作業機械3は、動力源としてモータ41のみを用いた電動式(電気式)に限らず、例えば、動力源として、電力の供給を受けて動力を発生するモータ41と、燃料の燃焼により動力を発生するエンジン(内燃機関)と、を含むハイブリッド式の作業機械であってもよい。この場合、エンジンは、軽油を燃料として駆動されるディーゼルエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジン以外のエンジンであってもよい。モータ41とエンジンとは、個別に駆動され、それぞれ動力を発生し、モータ41で発生する動力とエンジンで発生する動力とは、動力伝達部にて合成され、駆動装置におけるポンプ42の駆動に用いられる。そのため、例えば、モータ41がエンジンをアシストして、エンジン単独よりも大きな動力を発生することが可能である。
【0083】
また、ポンプ42は、定容量形に限らず、可変容量形であってもよい。さらに、ポンプ42は、ギアポンプに限らず、例えば、ベーンポンプ又はピストンポンプ等であってもよい。
【0084】
また、モータ41は、三相交流で駆動されるモータに限らず、例えば、直流電力で駆動されるモータであってもよい。インバータ21に直流電力を供給する電源はバッテリ22に限らず、例えば、一次電池、又は外部電源であってもよい。
【0085】
また、ポンプ42が吐出する作動流体は、作動油に限らず、例えば、気体(エアを含む)又は油以外の液体等であってもよい。
【0086】
また、回転数とトルク上限値との対応関係は、二次元マップにて規定されることに限らず、例えば、テーブルにて規定されてもよいし、関数によって規定されてもよい。
【0087】
(実施形態2)
本実施形態に係る作業機械3の制御方法は、
図10に示すように、トルクが低下する場合のトルクに対する回転数の応答性が低い点で、実施形態1に係る作業機械3の制御方法と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0088】
すなわち、回転数はトルクに応じて調節されているところ、本実施形態では、トルクが低下する場合には、トルクが上昇する場合に比べて、トルクに対する回転数の応答性が低い。ここで、調節処理部12は、トルクが上昇する場合には、実施形態1と同様に、トルクがトルク上限値を超えると即座に回転数を低下させることとする。一方で、トルクが低下する場合には、
図10に示すように、調節処理部12は、すぐには回転数を上昇させないことで、トルク変化に対する回転数の応答性を低くする。これにより、アクチュエータ40の負荷が変動を繰り返すような状況において、モータ41の回転数におけるハンチングを抑制することができる。その結果、ユーザ(オペレータ)が、作業機械3の操作性に違和感を持ちにくくなる。
【0089】
具体的に、調節処理部12は、トルクが規定幅以上低下するまでは、トルクが低下しても回転数を低下前のトルクに対応する値に維持する。
図10の例では、モータ41が回転数N6〔rpm〕、トルクT6〔Nm〕で駆動している状態において、例えば、アクチュエータ40の負荷が減少し、モータ41のトルクが減少する場合を想定する。この場合において、トルクがT6〔Nm〕から閾値トルクT7〔Nm〕に低下するまでの間は、回転数は低下前のトルクT6〔Nm〕に対応する値(N6〔rpm〕)に維持される。そして、モータ41のトルクが閾値トルクT7に達した時点で、調節処理部12は、モータ41の回転数をN6〔rpm〕から上昇させる。この構成によれば、モータ41の回転数のハンチングを抑制しやすくなる。
【0090】
ここで、規定幅、つまり低下前のトルクT6〔Nm〕と閾値トルクT7〔Nm〕との差分は、例えば、低下前のトルクT6〔Nm〕の20%又は40%等のように、低下前のトルクT6〔Nm〕を基準に設定される相対値である。ただし、規定幅は、低下前のトルクT6〔Nm〕を基準とする相対値に限らず絶対値であってもよいし、又は、閾値トルクT7〔Nm〕が低下前のトルクT6〔Nm〕によらずに設定される固定値であってもよい。
【0091】
また、
図10の例では、モータ41のトルクが閾値トルクT7〔Nm〕に達した後、調節処理部12は、モータ41のトルクをT8〔Nm〕まで上昇可能なように、余裕を持った目標回転数を設定する。つまり、調節処理部12は、閾値トルクT7〔Nm〕よりも大きなトルクT8〔Nm〕に対応する回転数N8〔rpm〕を目標回転数とし、当該回転数N8〔rpm〕にモータ41の回転数を制御する。これにより、モータ41のトルクがトルク上限値を超えるオーバーシュートの発生を抑制できる。さらに、このような目標回転数を設定することで、モータ41の回転数を上昇させる加速分のトルクを確保しやすくなる。ただし、このような回転数N8〔rpm〕を目標回転数とすることは必須ではなく、調節処理部12は、例えば、対応関係G1において閾値トルクT7〔Nm〕に対応付けられている回転数を目標回転数としてもよい。
【0092】
ところで、トルクが低下する場合、トルクが上昇する場合に比べて、トルクに対する回転数の応答性を低くする手段は、上述したように、トルクが規定幅以上低下するまでは回転数を維持する方法に限らない。例えば、トルクが低下する場合、トルクが低下し始めてから規定時間経過するまでは回転数を維持したり、回転数の上昇率(加速度)を低く設定したりしてもよい。
【0093】
実施形態2に係る構成(変形例を含む)は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
【0094】
〔発明の付記〕
以下、上述の実施形態から抽出される発明の概要について付記する。なお、以下の付記で説明する各構成及び各処理機能は取捨選択して任意に組み合わせることが可能である。
【0095】
<付記1>
電源から電力供給を受けて動作するモータと、
前記モータにより駆動され、作動流体をアクチュエータに吐出するポンプと、を備える作業機械の制御方法であって、
前記モータを駆動するときに、前記モータのトルクが、前記モータの回転数に対応付けて設定されているトルク上限値を超えないように、前記回転数を調節することを有する、
作業機械の制御方法。
【0096】
<付記2>
前記回転数が大きくなるほど前記トルク上限値が小さくなるように、前記トルク上限値は前記回転数に応じて決められている、
付記1に記載の作業機械の制御方法。
【0097】
<付記3>
前記回転数及び前記トルク上限値を用いて表されるモータ出力が所定範囲に収まるように、前記トルク上限値は前記回転数に応じて決められている、
付記1又は2に記載の作業機械の制御方法。
【0098】
<付記4>
前記所定範囲を変更すること、を更に有する、
付記3に記載の作業機械の制御方法。
【0099】
<付記5>
前記トルクが前記トルク上限値を超えないように調節される前記回転数の最大値を最大回転数とする場合、前記回転数は、前記最大回転数以下の値に調節される、
付記1~4のいずれかに記載の作業機械の制御方法。
【0100】
<付記6>
前記回転数は、前記トルクに応じて調節されており、
前記トルクが低下する場合には、前記トルクが上昇する場合に比べて、前記トルクに対する前記回転数の応答性が低い、
付記1~5のいずれかに記載の作業機械の制御方法。
【0101】
<付記7>
前記トルクが規定幅以上低下するまでは、前記トルクが低下しても前記回転数を低下前の前記トルクに対応する値に維持する、
付記6に記載の作業機械の制御方法。
【0102】
<付記8>
前記トルク上限値は、前記ポンプの吐出圧の最大値として設定されているリリーフ圧に相当する前記トルクであるリリーフトルクよりも高い値を含む、
付記1~7のいずれかに記載の作業機械の制御方法。
【0103】
<付記9>
前記ポンプは、定容量形のギアポンプである、
付記1~8のいずれかに記載の作業機械の制御方法。
【0104】
<付記10>
付記1~9のいずれかに記載の作業機械の制御方法を、
1以上のプロセッサに実行させるための作業機械用制御プログラム。
【0105】
付記2~9に係る構成については、作業機械の制御方法に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 作業機械用制御システム
3 作業機械
12 調節処理部
22 バッテリ(電源)
30 機体
40 アクチュエータ
41 モータ
42 ポンプ