(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055020
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】免疫調節用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/03 20060101AFI20240411BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240411BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240411BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240411BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240411BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240411BHJP
【FI】
A61K36/03
A61P37/02
A61K35/747
A61P43/00 121
A23L33/105
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161579
(22)【出願日】2022-10-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】595167339
【氏名又は名称】有限会社▲高▼木商店
(71)【出願人】
【識別番号】391004126
【氏名又は名称】株式会社キティー
(71)【出願人】
【識別番号】504036279
【氏名又は名称】バイオジェニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】吉積 一真
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 良樹
(72)【発明者】
【氏名】大木 妙子
(72)【発明者】
【氏名】水野 公太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 健司
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB03
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD67
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF07
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA02
4C087MA43
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZC75
4C088AA13
4C088MA02
4C088MA43
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB07
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】安全性の高いインターロイキン12(IL-12)の産生促進作用を有する天然物を見出し、それを有効成分とする免疫調節用組成物を提供する。
【解決手段】コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻から成る免疫調節用組成物、あるいは、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻およびラクトバチルス属の乳酸菌とから成る免疫調節用組成物。褐藻としてはツルアラメ、クロメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメが含まれる。乳酸菌としてはラクトバチルス・クリスパタスKT-11株が含まれる。これらの組成物を用いて、インターロイキン12(IL-12)産生促進作用を有する医薬用組成物、飲食品用組成物を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻から成る免疫調節用組成物。
【請求項2】
コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻およびラクトバチルス属の乳酸菌とから成る免疫調節用組成物。
【請求項3】
コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻が、ツルアラメ、クロメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメである請求項1又は2記載の免疫調節用組成物。
【請求項4】
コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻が乾燥物である請求項1又は2記載の免疫調節用組成物。
【請求項5】
ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・クリスパタスKT-11株である請求項2記載の免疫調節用組成物。
【請求項6】
ラクトバチルス属の乳酸菌が加熱処理済乳酸菌粉末である請求項2又は5記載の免疫調節用組成物。
【請求項7】
免疫調節がインターロイキン12(IL-12)の産生促進である請求項1又は2記載の免疫調節用組成物。
【請求項8】
請求項1又は2記載の免疫調節用組成物を含有する医薬用組成物。
【請求項9】
請求項1又は2記載の免疫調節用組成物を含有する飲食品用組成物。
【請求項10】
請求項8記載の医薬用組成物を含有する医薬品。
【請求項11】
請求項9記載の飲食品用組成物を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻を利用した免疫調節用組成物又はそれを含有する医薬用組成物、飲食用組成物、或いはそれを有効成分とする医薬品および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、ウイルスなどの微生物の感染、腫瘍、細胞傷害などに対して生体は免疫反応によって対応するが、その免疫反応は、免疫担当細胞間の直接的あるいは間接的な相互作用によって調節されている。ところが、現代社会においては、人は近代的な生活習慣の普及や高齢化社会への移行に伴い、上述のような免疫系の恒常性を保つのが困難な状態となっており、アレルギー性疾患や炎症性腸疾患、自己免疫疾患など、様々な免疫異常による疾患が増加し続けている。これらの疾患では、無害な外来抗原や自己抗原への過剰な免疫応答が観られていることから、I型ヘルパーT細胞(Th1細胞)とII型ヘルパーT細胞(Th2細胞)間のバランスの破綻や、免疫応答を負に制御する制御性T細胞の機能低下が関与していると考えられる。
【0003】
このような免疫応答の調節にはリンパ球、マクロファージなどが産生するインターロイキンや腫瘍壊死因子αなどのサイトカインが重要な役割を果たしている。タンパク質分子の一種であるサイトカインは超微量で作用することが知られ、免疫系は、このようなサイトカインによって増強されたり抑制されたりして、複雑にその機能が調節されている。現在、インターロイキンに属するサイトカインとしては35種類が知られている。そのうちの一つであるインターロイキン12(IL-12)は、ナイーブT細胞からTh1細胞への分化を促し、Th1/Th2バランスを細胞性免疫のTh1側に移行させる免疫調節機能を有している。さらには、T細胞やナチュラル・キラー細胞に対して細胞増殖の促進、細胞傷害活性誘導、IFN-γ産生誘導、LAK細胞誘導の作用を有することも確認されている。上述の作用・機能を有することから、IL-12は感染症、腫瘍、アレルギーなど、多くの疾患の治療に有効であることが期待されている。
【0004】
IL-12の産生を促進する天然物としては、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルスなどの乳酸菌の菌体(特許文献1)やテトラジェノコッカス属などに属する乳酸菌の培養物、菌体または菌体成分(特許文献2)などが挙げられる。これらは何れもプロバイオティクスにより、IL-12の産生促進を誘導するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10‐139674号公報
【特許文献2】特開2006-28047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、免疫調節用組成物又はそれを含有する医薬用組成物、飲食用組成物、或いは、それらを有効成分として利用可能なIL-12の産生を促進する作用を有する新たな天然物を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻にIL-12の産生を促進する作用を有すること、あるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌との組み合わせにより予測できない程度にIL-12の産生を促進する作用を奏することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次の構成を主構成とする。
1. コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻から成る免疫調節用組成物。
2. コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻およびラクトバチルス属の乳酸菌とから成る免疫調節用組成物。
3. コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻が、ツルアラメ、クロメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメである1.又は2.記載の免疫調節用組成物。
4. コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻が乾燥物である1.又は2.記載の免疫調節用組成物。
5. ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・クリスパタスKT-11株である2.記載の免疫調節用組成物。
6. ラクトバチルス属の乳酸菌が加熱処理済乳酸菌粉末である2.又は5.記載の免疫調節用組成物。
7. 免疫調節がインターロイキン12(IL-12)の産生促進である1.又は2.記載の免疫調節用組成物。
8. 1.又は2.記載の免疫調節用組成物を含有する医薬用組成物。
9. 1.又は2.記載の免疫調節用組成物を含有する飲食品用組成物。
10. 8.記載の医薬用組成物を含有する医薬品。
11. 9.記載の飲食品用組成物を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0008】
1.コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメにIL-12の産生を促進する作用を示すことを知見したことに基づき、これらの天然の海藻に由来する安全性の高い免疫調節用組成物を提供することができる。
2.さらに、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌を組み合わせることにより免疫調節力を向上させることができる。
3.コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメ由来の免疫調節用組成物あるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌との組み合わせを含む免疫調節用組成物又はそれを有効成分とする医薬用組成物は、新規な医薬品である。コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメ由来の免疫調節用組成物あるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌との組み合わせを含む免疫調節用組成物又はそれを有効成分とする飲食用組成物は、新規な機能性飲食品である。
4.また、天然由来であるコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメあるいはラクトバチルス属の乳酸菌は、従来から食経験もあることから、安全性の高いIL-12の産生を促進する作用を有する医薬用組成物、飲食用組成物又は医薬品、飲食品を提供することができる。
5.本発明のコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメあるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌を有効成分とする免疫調節用組成物は、IL-12の産生を促進する作用を有することから、IL-12の産生不足による疾患、例えば、インフルエンザウイルスなどの感染症、腫瘍、アレルギーなどの予防又は改善に、大きく寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ツルアラメ乾燥物を用いたIL-12の産生を測定した図。
【
図2】ツルアラメ乾燥物とラクトバチルス属乳酸菌の1:1併用によるIL-12の産生を測定した図。
【
図3】ツルアラメ乾燥物とラクトバチルス属乳酸菌の10:1併用によるIL-12の産生を測定した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメの乾燥物にIL-12の産生促進作用を有していることが確認されたことから、本発明は新規な海藻由来の免疫調節用組成物である。
【0011】
コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物、アントクメの乾燥物を有効成分とする免疫調節用組成物はIL-12の産生を促進する作用を有することから、IL-12の産生不足による疾患、例えば、インフルエンザウイルスなどの感染症、腫瘍、アレルギーなどの予防又は改善に、大きく寄与し得る。
【0012】
このような作用機序が期待できるクロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物、アントクメの乾燥物を有効成分とする免疫調節用組成物を含む医薬用組成物、飲食品用組成物、或いはそれを有効成分とする免疫調節用海藻粉末は、新たな機能性飲食品又は医薬品を提供するものである。
【0013】
本実施形態の免疫調節用組成物は、クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物、アントクメの乾燥物を有効成分として含有する。
ここで、本実施形態において「乾燥物」とは、上記海藻を天日で、あるいは熱風を利用して人工乾燥したもののことで、それらを粉砕機などで粉砕した粉末も含む。
【0014】
[クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物、アントクメの乾燥物の製造]
本実施形態において、クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物、アントクメの乾燥物を製造するために使用する海藻原料は、クロメ(学名:Ecklonia kurome)、ツルアラメ(学名:Ecklonia stolonifera)、サガラメ(学名:Eisenia arborea)、カジメ(学名:Ecklonia cava)、アラメ(学名:Eisenia bicyclis)、アントクメ(学名:Eckloniopsis radicosa)である。
【0015】
クロメ(Ecklonia kurome;黒布)は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻である。本州太平洋岸中~南部、四国、九州、瀬戸内海、本州日本海岸に分布し、潮下帯で生息している。大きさは、高さ1~2m。
体は茎と膜質の葉部からなり、葉部から数本の側葉が伸びる。カジメによく似ているが少し小さく、葉部全体に凹凸のしわがあること、葉部の中央は厚くならないことなどで見分けられる。ただし、形態には異変が多い。地方によっては、汁の具や佃煮にして食される。
【0016】
ツルアラメ(Ecklonia stolonifera;蔓荒布)は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻である。北海道南部、本州日本海岸から九州北岸に分布しており、低潮線付近から潮下帯のやや深場に生息している。大きさは、高さ25~150cm。
体は茎と膜質の葉部からなり、葉部は笹の葉形や長楕円形で、短めの側葉を出す。また、葉部は全体にしわがある。基部から匍匐枝を伸ばし、その先から新たに葉部が出てくることが特徴で、名前の「蔓」は匍匐枝に由来する。青森県大間では、新しい食用海藻としての利用が試みられている。多年生。
【0017】
サガラメ(Eisenia arborea;相良布)は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻である。アラメによく似た海藻で、静岡県の御前崎から紀伊半島、徳島県などに分布する。アラメは側葉が枝分かれすることが多いのに対し、サガラメは側葉がほとんど枝分かれしない。名前は静岡県相良町(現、牧之原市)に因み、現地では郷土の食材として利用されている。
【0018】
カジメ(Ecklonia cava;搗布)は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻である。本州太平洋岸中部、瀬戸内海、本州日本海岸南部、九州に分布しており、低潮線から潮下帯の水深20mに生息している。大きさは、高さ1~3mである。
胞子体は、幼体は短い茎と楕円形の葉部からなり、生長すると茎が伸び、葉部の中央は厚くなって両側から十数本もの側葉が伸びる。側葉は、さらに枝分かれすることもある。葉部はしわがなく滑らかで、手触りは硬い。色は褐色から濃褐色。海中林と呼ばれる群生を作り生息している。
【0019】
アラメ(Eisenia bicyclis;荒布)は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻である。本州太平洋岸北~中部、四国東部~瀬戸内海、九州、本州日本海岸南部に分布しており、低潮線付近から潮下帯に生息している。大きさは、高さ1~3mである。
体は茎と葉部から成る。幼体は短い茎に笹の葉形の葉部をつけ、2年目からは茎の上部が2叉に枝分かれして、それぞれの枝に多数の側葉をつける。色は褐色や暗褐色。
【0020】
アントクメ(Eckloniopsis radicosa;安徳布)は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻である。本州太平洋岸中部~南部、四国、九州、本州日本海岸南部に分布しており、潮下帯に生息している。大きさは、長さ0.3~2m、幅20~35cm。
体は膜質で、短い茎に笹の葉形や長卵形などの葉部がつく。中肋はなく、表面に凸凹のしわや白色斑がある。色は褐色や緑褐色。ワカメの代用にされる。伊豆では「しわめ、とんとめ」、高知では「あんどく」と呼ばれる。
【0021】
本明細書中で「クロメ」や「ツルアラメ」、「サガラメ」、「カジメ」、「アラメ」、「アントクメ」とは、クロメ又はツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメの藻体全体をいい、葉片、葉状部、中肋、茎状部、仮根を含む。
クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物およびアントクメの乾燥物のそれぞれに含有されるIL-12の産生促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、常法に従って、免疫調節用組成物として使用することができる。
例えば、上記海藻を乾燥した後、そのまま又は粉砕機を用いて粉砕し、そのまま使用することができる。乾燥は天日で行っても良いし、通常使用される乾燥機を用いて行っても良い。
【0022】
本発明に係るコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻であるクロメ、ツルアラメ、サガラメ、カジメ、アラメ、アントクメの乾燥物は、ラクトバチルス属の乳酸菌との併存下で、IL-12の産生促進が相乗的に作用し、格別顕著な免疫調節効果を奏する。すなわち、本発明の免疫調節用組成物による免疫調節効果は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻単独による免疫調節効果と、ラクトバチルス属の乳酸菌単独による免疫調節効果とから予測できない程度に免疫調節効果を奏することができる。
【0023】
本発明の免疫調節用組成物において、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌との含有比率は、特に制限されるものではないが、好ましい含有比率は、次の通りである。コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌の合計含有量を100質量%として、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻0.1~99.9質量%およびラクトバチルス属の乳酸菌99.9~0.1質量%、好ましくは、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻50~90質量%およびラクトバチルス属の乳酸菌50~10質量%である。
【0024】
本発明のラクトバチルス属の乳酸菌とは、フィルミクテス門バシラス綱ラクトバシラス目ラクトバシラス科に属するグラム陽性の桿菌のことで、一般に「乳酸桿菌」と呼ばれている菌のことである。本発明で使用するラクトバチルス属の乳酸菌は特に制限されるものではないが、好ましくは、特許第4921499号公報に開示されているラクトバチルス・クリスパタスKT-11株である。なお、ラクトバチルス・クリスパタスKT-11株は、株式会社キティーから入手することができる。
【0025】
本発明の免疫調節用組成物において、ラクトバチルス属の乳酸菌は、培養物のまま配合してもよく、培養物を濃縮した物、培養物から回収した菌体、あるいは回収した菌体を乾燥してから配合してもよいが、好ましくは、ラクトバチルス・クリスパタスKT-11株の加熱処理などを施し殺菌した死菌体である加熱処理済乳酸菌粉末を使用するのがよい。
【0026】
また、本発明の免疫調節用組成物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲での脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、サプリメント等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも事実上支障はない。
【0027】
「免疫調節用組成物」
以上のようにして得られるコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻は、インターロイキン12(IL-12)の産生促進作用を有している。
図1に示すように、本発明のコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻のツルアラメの乾燥体は、重量依存的にIL-12の産生を促進する。さらに、
図2および
図3に示すように、本発明のコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻のツルアラメの乾燥体とラクトバチルス属の乳酸菌であるのラクトバチルス・クリスパタスKT-11株から成る免疫調節用組成物は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻単独あるいはラクトバチルス属の乳酸菌単独による免疫調節効果と比べて予測できない程度に免疫調節効果を奏することから、この効果を利用して、免疫調節用組成物の有効成分として用いることができる。
このような免疫調節用組成物は、医薬用組成物、飲食品用組成物等に配合され得る。或いは、医薬用組成物、飲食品用組成物を有効成分とする医薬品、飲食品として使用し得ることができる。
【0028】
クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物およびアントクメの乾燥物を含む免疫調節用組成物は、医薬用組成物あるいはそれを有効成分とする医薬品として用いられ得る。クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物およびアントクメの乾燥物を含む免疫調節用組成物は、医薬用組成物(例えば、経口用の錠剤、カプセル剤)に含有することができる。これらの医薬用組成物は、特に、IL-12の産生不足による疾患、例えば、インフルエンザウイルスなどの感染症、腫瘍、アレルギーなどの予防又は改善のために用いられ得る。
また、クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物およびアントクメの乾燥物を含む免疫調節用組成物は、コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻、あるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌の混合物を有効成分として、例えば、経口用サプリメントのような健康食品に使用することができ、特に、IL-12の産生不足による疾患、例えば、インフルエンザウイルスなどの感染症、腫瘍、アレルギーなどの予防又は改善のために用いられ得る。
【0029】
本実施形態の免疫調節用組成物は、IL-12の産生促進作用を有するとともに安全であるため、例えば、医薬用組成物として配合するのに好適である。本発明の免疫調節用組成物は錠剤などの形態にして、これを医薬用組成物として利用することができる。
【0030】
また、本発明の医薬用組成物は、本発明の免疫調節用剤以外の添加物又は薬学的に許容可能な担体を含んでも良い。このような添加物又は薬学的に許容可能な担体としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、緩衝材、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、溶剤、増粘剤、粘液溶解剤、湿潤剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明の医薬用組成物の形態は特に制限されるものではないが、経口剤又は非経口剤の何れであってもよい。経口剤としては顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、チンキ剤、ゼリー剤などが挙げられる。非経口剤としては注射剤、点滴剤、軟膏剤、点鼻剤、坐剤などが挙げられる。
【0031】
本発明の医薬用組成物の投与量は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の医薬用組成物を経口投与する場合、成人1日当たりのツルアラメ乾燥物の摂取量が0.5~100mg/kg体重、好ましくは1~50mg/kg体重の範囲となるような投与量とすることができる。また、本発明の医薬用組成物を非経口的に投与する場合は0.05mg/kg体重~50mg/kg体重、好ましくは0.5mg/kg体重~50mg/kg体重となるような含有量とすることができる。
【0032】
免疫調節用組成物は、クロメの乾燥物、ツルアラメの乾燥物、サガラメの乾燥物、カジメの乾燥物、アラメの乾燥物およびアントクメの乾燥物の他、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、マルチトール、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料、保存料などをさらに適宜含有し得る。このような免疫調節用組成物は、用途に応じて、粉末、顆粒、カプセル、錠、シロップ、懸濁液などの形態に成形され得、飴などにも加工され得る。免疫調節用組成物を配合した、例えば、経口用サプリメントの製造は、当業者が通常用いる方法によって行われ得る。経口用サプリメント剤への免疫調節用組成物の配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。経口用サプリメント剤は、配合組成物全量に対して免疫調節用組成物を、0.1~100質量%、より好ましくは10~80質量%(乾燥物基準)で含有し得る。
【0033】
免疫調節用組成物は、そのまま摂取することができ、水などの溶媒に溶かす又は懸濁させるなどしても摂取することができる。免疫調節用組成物は、食事の前後、又は食間に経口摂取することができる。また、免疫調節用組成物を飲食品に添加して、飲食することもできる。
【0034】
免疫調節用組成物が添加された食品としては、例えば、在宅用糖尿病食、流動食、病者用食品(糖尿病食調製用組み合わせ食品など)、特定保健用食品、ダイエット食品、又は炭水化物を主成分とする飲食品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
具体的な食品形態としては、例えば、米飯製品、麦製品、野菜製品、乳製品、清涼飲料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
免疫調節用組成物の飲食品への添加又は加工は、当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。人間以外の動物、例えば、家畜又はペット用(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サル等)の飼料への添加も可能である。
【実施例0036】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
(コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻、あるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌の混合物のIL-12産生促進作用の評価)
コンブ目コンブ科カジメ属の褐藻、あるいはコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻とラクトバチルス属の乳酸菌の混合物を添加した際のIL-12の産生促進作用について、以下のように評価した。
【0038】
(使用したコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻)
使用したコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻は、クロメ(Ecklonia kurome)、ツルアラメ(Ecklonia stolonifera)、サガラメ(Eisenia arborea)、カジメ(Ecklonia cava)、アラメ(Eisenia bicyclis)、アントクメ(Eckloniopsis radicosa)を使用した。
具体的には、クロメは佐賀県の佐賀関・高島周辺の海域、ツルアラメは島根県隠岐群西ノ島町沿岸部、サガラメは静岡県御前崎沿岸部、カジメは千葉県富津市金谷周辺の海域、アラメは三重県伊勢志摩の海域、アントクメは伊豆大島周辺の海域でそれぞれ採集したものを天日にて2日間乾燥させた後に、コーヒーミルを用いて乾燥粉末を調製した。
【0039】
(菌体試料液の調製)
ラクトバチルス・クリスパタスKT-11株をMRS液体培地にそれぞれ接種し、37℃で20時間培養した。培養後、遠心分離で菌体を回収し、精製水で3回洗浄した。洗浄した菌体は凍結乾燥処理後、滅菌0.15M塩化ナトリウム-0.01Mリン酸緩衝液(PBS、pH7.2)に懸濁して熱処理(110℃、15分間)したものを菌体試料液とした。
【0040】
(マクロファージ細胞の培養)
マクロファージ細胞であるJ774.1細胞は、5%FBS、100U/mLペニシリンGナトリウムおよび100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩を含むRPMI-1640培地に懸濁後、滅菌プラスチックシャーレ内で37℃、5%CO2存在下でコンフルエントの状態まで培養したものを使用した。1×105個/mLに調製したJ774.1細胞懸濁液800μLを分注した48ウェル平底マイクロプレートに、最終濃度が0、1、10、100μgになるようにPBSに懸濁させたコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻の乾燥物100μL、またはPBSに懸濁させたコンブ目コンブ科カジメ属の褐藻の乾燥物と最終濃度が1μgになるようにPBSで調製したラクトバチルス・クリスパタスKT-11株の菌体試料液100μLを各ウェルに添加し、37℃、5%CO2存在下で48時間培養した。培養後、4℃、7,000r.p.m.で1分間遠心分離を行い、培養上清液を回収した。
【0041】
(IL-12の測定)
培養上清中のIL-12量は、酵素免疫測定法(ELISA)を用いて測定した。すなわち、抗マウスIL-12抗体と1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む0.1M炭酸緩衝液(pH9.6)100μLを96ウェルマイクロプレートの各ウェルに分注し、4℃で一晩静置させた。0.05%Tween20を含むPBS(PBS-T)で洗浄した後、1%BSAを含むPBSを200μL加え、25℃で120分間静置した。再びPBS-Tで洗浄した後、1%BSAを含むPBSで最適な倍率に希釈した培養上清液100μLを各ウェルに分注し、25℃で120分間反応させた。さらに、PBS-Tで洗浄した後、1%BSAを含むPBSで最適な倍率に希釈したビオチン標識抗マウスIL-12抗体溶液100μLを各ウェルに分注し、25℃で60分間反応させた。
次いで、PBS-Tで洗浄した後、1%BSAを含むPBSで最適な倍率に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン溶液100μLを各ウェルに分注し、25℃で30分間反応させた。TMB溶液100μLを各ウェルに分注し、完全に遮光して25℃で30分間反応させた後、4N硫酸100μLを各ウェルに分注して反応を停止させ、直ちにBio-Radモデル550マイクロプレートリーダーを用いて、450nmにおける吸光度を測定した。なお、IL-12の量は、既知の濃度のIL-12から得た検量線より算出した。