(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055021
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】炭素鋼材料用表面処理剤、並びに、表面処理被膜を有する炭素鋼材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240411BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240411BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240411BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240411BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240411BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20240411BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240411BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240411BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240411BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09D183/04
C23C26/00 A
C09D7/61
C09D7/20
C09D7/63
B32B15/18
B32B15/08 Z
B05D1/36 Z
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
B05D7/24 301B
B05D7/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161581
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】萬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】相原 直喜
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075AE27
4D075BB24Z
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4D075CA33
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4D075EA41
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4F100YY00A
4J038DL031
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4K044AA02
4K044AB02
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC14
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐電食性に優れた表面処理被膜を形成できる表面処理剤を提供する。
【解決手段】シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、芳香族炭化水素系溶剤(D)と、アミノ基を有するアルコキシシラン(E)と、を含有し、
(I)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.05以上3.12以下の範囲内であり、
(II)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.02以上0.55以下の範囲内であり、
(III)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(E)の質量(EM)との比(EM/AM)が0.01以上0.43以下の範囲内である、炭素鋼材料用表面処理剤により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、芳香族炭化水素系溶剤(D)と、アミノ基を有するアルコキシシラン(E)と、を含有し、
(I)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.05以上3.12以下の範囲内であり、
(II)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.02以上0.55以下の範囲内であり、
(III)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(E)の質量(EM)との比(EM/AM)が0.01以上0.43以下の範囲内である、炭素鋼材料用表面処理剤。
【請求項2】
表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法であって、請求項1に記載の表面処理剤を炭素鋼材料の表面または表面上に接触させる第1工程と、前記炭素鋼材料に接触させた表面処理剤を乾燥して表面処理被膜を形成する第2工程とを含む、炭素鋼材料の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程の前に、炭素鋼材料の表面または表面上に、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物、又はリン酸を含有する下地処理剤を接触させ下地皮膜を形成する下地皮膜形成工程とをさらに含む、請求項2に記載の炭素鋼材料の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の製造方法により得られる、表面処理被膜を有する炭素鋼材料であって、前記表面処理被膜の膜厚が3μm以上100μm以下の範囲内である、表面処理被膜を有する炭素鋼材料。
【請求項5】
炭素鋼材料の表面又は表面上に表面処理被膜を有し、
前記表面処理被膜が、シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、アミノ基を有するアルコキシシラン(E)由来の重合物と、を含有し、
(I)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.05以上3.12以下の範囲内であり、
(II)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.02以上0.55以下の範囲内である、表面処理被膜を有する炭素鋼材料。
【請求項6】
前記炭素鋼材料と前記表面処理被膜との間に下地皮膜を有し、
前記下地皮膜が、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物及びリン酸からなる群から選択される1種以上を含む、請求項5に記載の表面処理被膜を有する炭素鋼材料。
【請求項7】
前記表面処理被膜の膜厚が3μm以上100μm以下の範囲内である、請求項5に記載の表面処理被膜を有する炭素鋼材料。
【請求項8】
前記炭素鋼材料が炭素を0.95質量%以上含有する高炭素鋼である、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の表面処理被膜を有する高炭素鋼材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、OA機器、医療機器等の製品に使用される機械要素部材の炭素鋼材料に対して好適に使用することができる表面処理剤、その表面処理剤を用いた表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法、およびその製造方法により得られる表面処理被膜を有する炭素鋼材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電、OA機器、医療機器等の工業製品においては、その製品を構成する機械要素部材に金属材料が用いられている。これら工業製品は、様々な環境下で使用されるため、これら工業製品に用いられる金属材料には、様々な性能が求められている。それゆえ、近年においては、金属材料に様々な性能を付与するため、各種性能を有する表面処理被膜を金属材料の表面または表面上に設ける技術が開発されている。例えば、特許文献1には、所定のリン酸系化合物と、チタンやジルコニウム等の所定の元素を有するフルオロ酸と、少なくとも1個の活性水素含有アミノ基を有するシランカップリング剤と、少なくとも1個のエポキシ基を有するシランカップリング剤とを所定量配合して溶解もしくは分散させた金属材料表面処理用組成物を金属表面に塗布し、乾燥させて所定の被膜を形成させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、機械要素部材に使用される炭素鋼材料においては、耐電食性に優れた表面処理被膜を形成できる技術の開発が求められている。そこで、本発明は、耐電食性に優れた表面処理被膜を形成できる表面処理剤、その表面処理剤を用いた表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法、及びその製造方法により得られる表面処理被膜を有する炭素鋼材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シリコーン樹脂と、所定の金属元素を含む化合物と、芳香族炭化水素系溶剤とを所定量含む表面処理剤を用いることにより、耐電食性に優れた表面処理被膜を炭素鋼材料の表面又は表面上に形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、芳香族炭化水素系溶剤(D)と、アミノ基を有するアルコキシシラン(E)と、を含有し、
(I)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.05以上3.12以下の範囲内であり、
(II)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.02以上0.55以下の範囲内であり、
(III)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(E)の質量(EM)との比(EM/AM)が0.01以上0.43以下の範囲内である、炭素鋼材料用表面処理剤;
[2]表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法であって、上記[1]に記載の表面処理剤を炭素鋼材料の表面または表面上に接触させる第1工程と、前記炭素鋼材料に接触させた表面処理剤を乾燥して表面処理被膜を形成する第2工程とを含む製造方法;
[3]前記第1工程の前に、炭素鋼材料の表面または表面上に、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物、又はリン酸を含有する下地処理剤を接触させ下地皮膜を形成する下地皮膜形成工程、をさらに含む、上記[2]に記載の製造方法;
[4]上記[2]又は[3]に記載の製造方法により得られる、表面処理被膜を有する炭素鋼材料であって、前記表面処理被膜の膜厚が3μm以上100μm以下の範囲内である、表面処理被膜を有する炭素鋼材料;
[5]炭素鋼材料の表面又は表面上に表面処理被膜を有し、
前記表面処理被膜が、シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、アミノ基を有するアルコキシシラン(E)由来の重合物と、を含有し、
(I)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.05以上3.12以下の範囲内であり、
(II)前記シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.02以上0.55以下の範囲内である、表面処理被膜を有する炭素鋼材料;
[6]前記炭素鋼材料と前記表面処理被膜との間に下地皮膜を有し、
前記下地皮膜が、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物及びリン酸からなる群より選択される1種以上を含む、上記[5]に記載の表面処理被膜を有する炭素鋼材料;
[7]前記表面処理被膜の膜厚が3μm以上100μm以下の範囲内である、上記[5]又は[6]に記載の表面処理被膜を有する炭素鋼材料;
[8]前記炭素鋼材料が炭素を0.95質量%以上含有する高炭素鋼である、上記[5]~[7]のいずれかに記載の表面処理被膜を有する高炭素鋼材料;
などである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐電食性に優れた表面処理被膜を形成できる表面処理剤、その表面処理剤を用いた表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法、及びその製造方法により得られる表面処理被膜を有する炭素鋼材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明に係る表面処理剤、表面処理被膜を有する炭素鋼材料及びその製造方法について説明する。
(表面処理剤)
本実施形態に係る表面処理剤は、シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、芳香族炭化水素系溶剤(D)と、アミノ基を有するアルコキシシラン(E)と、を含有する。この表面処理剤を用いることにより、炭素鋼材料に対して耐電食性(特に高温環境下での耐電食性)に優れた表面処理被膜を形成できる。なお、高温とは、少なくとも100℃以上を、好ましくは150℃以上を、より好ましくは200℃以上を意味する。このように、本実施形態に係る表面処理剤は、耐電食性に優れた表面処理被膜を形成できることから、本実施形態に係る表面処理剤は、耐電蝕性被膜形成剤として有用である。また、耐電蝕性に優れた表面処理被膜は、自動車、家電、OA機器、医療機器等の工業製品を構成する機械要素部材に使用されている炭素鋼材料等に有用である。
【0009】
<シリコーン樹脂(A)>
シリコーン樹脂(A)としては、複数のシロキサン結合を有し、ケイ素(Si)に有機基が結合したオルガノポリシロキサン構造を有するものであれば特に制限されるものでは
ないが、Siに結合した有機基を1分子中に少なくとも2個以上有するオルガノポリシロキサン構造を有するものが好ましい。なお、有機基が結合している位置については特に制限はなく、主鎖、側鎖又は末端に結合していてもよい。なお、シリコーン樹脂(A)は、上記オルガノポリシロキサン構造を有する単重合物であっても、上記オルガノポリシロキサン構造を有する単重合物とポリシロキサン構造を有する単重合物との混合物であっても、上記オルガノポリシロキサン構造とポリシロキサン構造とを有する共重合物(ブロック共重合物又はグラフト重合物)であってもよい。また、シリコーン樹脂(A)は、付加型であってもよいし、縮合型であってもよい。さらに、シリコーン樹脂(A)は、熱硬化型、室温硬化型(RVT)、UV硬化型の何れでもよい。
【0010】
オルガノポリシロキサン構造におけるSiに結合した有機基としては、例えば、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、ハロゲン化アルキル基、エポキシシクロヘキシル基等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。飽和炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基等を挙げることができるがこれらに制限されるものではない。また、不飽和炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基;シクロアルケニル基;シクロアルケニルアルキル基;アリール基等を挙げることができるがこれらに制限されるものではない。なお、Siに結合した有機基としては、不飽和炭化水素基であることが好ましく、アルケニル基であることがより好ましく、ビニル基又はヘキセニル基であることが特に好ましい。
【0011】
ハロゲン化アルキル基としては、例えば、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、1-クロロ-2-メチルプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を挙げることができる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリール基、イソプロペニル基、1-ブテニル、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等を挙げることができる。シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等を挙げることができる。シクロアルケニルアルキル基としては、例えば、シクロペンテニルエチル基、シクロヘキセニルエチル基、シクロヘキセニルプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基等を挙げることができる。
【0012】
ポリシロキサン構造としては、上記オルガノポリシロキサン構造とは異なるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、Siに結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個以上有するポリシロキサン構造、Siに結合したアルコキシ基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリシロキサン構造等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。なお、アルコキシ基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
【0013】
上記各種シリコーン樹脂は、表面処理剤の調製において1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。シリコーン樹脂(A)の好適な実施形態の一つとして、Siに結合した不飽和炭化水素基を1分子中に少なくとも2個以上有するオルガノポリシロキサン構造を有する単重合物と、Siに結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個以上有するポリシロキサン構造を有する単重合物との混合物を挙げることができる。
【0014】
Siに結合した不飽和炭化水素基を1分子中に少なくとも2個以上有するオルガノポリシロキサン構造を有する単重合物としては、例えば、分子鎖の両末端にジメチルビニルシロキシ基を有するジメチルポリシロキサン、分子鎖の両末端にジメチルビニルシロキシ基を有するジメチルシロキサン-メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖の両末端にジ
メチルビニルシロキシ基を有するジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖の両末端にトリメチルシロキシ基を有するジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖の両末端にトリメチルシロキシ基を有するジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサン-メチルフェニルシロキサン三元共重合体、分子鎖の両末端にシラノール基を有するジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖の両末端にシラノール基を有するメチルビニルポリシロキサン等が挙げられる。その他、各種重合体、共重合体及び三元共重合体のメチル基の一部が、エチル基、プロピル基等のメチル基以外のアルキル基;又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、3,3,3-トリクロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;で置換された重合体も挙げられる。これらの重合体、共重合体及び三元共重合体の中から選択された2種以上の混合物を表面処理剤の調製に用いてもよい。
【0015】
Siに結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個以上有するポリシロキサン構造を有する単重合物としては、特に限定されないが、例えば、水素原子がSiに結合したSiH基を1分子中に少なくとも2個以上有し、主鎖としてジオルガノシロキサン構造を繰り返し有し、分子鎖の両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。より具体的には、分子鎖の両末端にトリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖の両末端にトリメチルシロキシ基を有するジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖の両末端にシラノール基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖の両末端にシラノール基を有するジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖の両末端にジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するジメチルポリシロキサン、分子鎖の両末端にジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖の両末端にジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。これらの重合体及び共重合体の中から選択された2種以上の混合物を表面処理剤の調製に用いてもよい
【0016】
シリコーン樹脂(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常6,000以上45,000以下の範囲内であり、好ましくは、6,500以上40,000以下の範囲内である。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透カラムクロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0017】
<化合物(B)>
化合物(B)としては、元素としてチタンを含むものであれば特に制限されるものではない。チタンを含む化合物としては、例えば、硫酸チタニル、硝酸チタニル、硝酸チタン、塩化チタニル、塩化チタン、チタニアゾル、酸化チタン、しゅう酸チタン酸カリウム、チタンラクテート、チタンテトライソプロポキシド、チタンアセチルアセトネート、ジイソプロピルチタニウムビスアセチルアセトン、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)などが挙げられる。中でも、酸化チタンを用いることが好ましい。
なお、これらの化合物は、表面処理剤の調製において、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
<化合物(C)>
化合物(C)としては、元素としてバリウムを含むものであれば特に制限されるものではない。バリウムを含む化合物としては、例えば、水酸化バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、ヨウ化バリウム、硫酸バリウム、硫酸水素バリウム、亜硫酸バリウム、硝酸バリウム、リン酸バリウム、炭酸水素バリウム、酢酸バリウム、クロム酸バリウム等が挙げられる。中でも、硫酸バリウムを用いることが好ましい。
なお、これらの化合物は、表面処理剤の調製において、1種を用いてもよいし、2種以
上を用いてもよい。
【0019】
シリコーン樹脂(A)の含有量(複数のシリコーン樹脂を用いる場合には、合計含有量を意味する。)は、当該シリコーン樹脂(A)と化合物(B)と化合物(C)と化合物(E)の全質量に対して、20質量%以上90質量%以下の範囲内であり、54質量%以上80質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
表面処理剤において、シリコーン樹脂(A)の質量(AM)[複数のシリコーン樹脂を用いる場合には、合計質量を意味する。]と、化合物(B)の質量(BM)[複数の化合物を用いる場合には、合計質量を意味する。]との比(BM/AM)は0.05以上3.12以下の範囲内であることが好ましく、0.10以上0.61以下の範囲内であることがより好ましい。
シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、化合物(C)の質量(CM)[複数の化合物を用いる場合には、合計質量を意味する。]との比(CM/AM)は0.02以上0.55以下の範囲内であることが好ましく、0.04以上0.22以下の範囲内であることがより好ましい。
【0021】
<芳香族炭化水素系溶剤(D)>
芳香族炭化水素系溶剤(D)は、単結合と二重結合が交互に並び、電子が非局在化した6つの炭素原子から成る単環あるいは複数の平面環をユニットとして構成される炭化水素が挙げられ、特にその種類は限定されない。
【0022】
芳香族炭化水素系溶剤(D)としては、上記ユニットを有するものであれば特に限定されないが、溶解度パラメーター(SP)値が8.5以上9.5以下の範囲内であるものが好ましく、8.8以上9.3以下の範囲内であるものがより好ましい。より具体的には、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン、クメン等が挙げられる。なお、これらの有機溶剤は、表面処理剤の調製において、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
表面処理剤中における芳香族炭化水素系溶剤(D)の含有量は、特に限定されないが、質量割合で40質量%以上99質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以上95質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0024】
<アルコキシシラン(E)>
アミノ基を有するアルコキシシラン[以下、単に「アルコキシシラン(E)」と称する。]としては、アミノ基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物などが挙げられる。
【0025】
表面処理剤の調製において、アルコキシシラン(E)を用いる場合には、シリコーン樹脂(A)の質量(AM)[複数のシリコーン樹脂を用いる場合には、合計質量を意味する。]と、アルコキシシラン(E)の質量(EM)[複数のアルコキシシランを用いる場合には、合計質量を意味する。]との比(EM/AM)が0.01以上0.43以下の範囲内であることが好ましく、0.17以上0.39以下の範囲内であることがより好ましいが、これらの範囲に制限されるものではない。
【0026】
<その他添加剤>
本実施形態に係る表面処理剤には、必要に応じて、各種添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、防菌防カビ剤、
着色剤、フッ素樹脂などを挙げることができるがこれらに制限されるものではない。これらの添加剤を表面処理剤に添加することにより、表面処理剤の貯蔵性や乾燥性を向上させたり、該表面処理剤を用いた表面処理被膜の製造における作業性を向上させたり、製造した表面処理被膜の外観(特に意匠性)を向上させたりすることができる。これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよく、添加剤の含有量は、多くても表面処理剤の質量に対して数質量%である。
【0027】
(表面処理剤の製造方法)
本実施形態に係る表面処理剤は、シリコーン樹脂(A)と、チタン化合物(B)と、バリウム化合物(C)と、芳香族炭化水素系溶剤(D)と、アルコキシシラン(E)等とを混合することにより製造することができる。
【0028】
(表面処理被膜を有する炭素鋼材料及びその製造方法)
本実施形態に係る、表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法は、上記表面処理剤を炭素鋼材料の表面または表面上に接触させる第1工程と、炭素鋼材料に接触させた表面処理剤を乾燥して表面処理被膜を形成する第2工程と、を含む。これらの工程を行うことにより、表面処理被膜を有する炭素鋼材料を製造することができる。
【0029】
第1工程を行う前に、炭素鋼材料の表面に付着している油分や汚れを除去する目的で、金属材料に前処理を施してもよい。前処理の方法としては、特に限定されず、湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄などの方法が挙げられる。
【0030】
第1工程の接触方法としては、様々な接触方法を用いることができるが、処理される金属材料の形状などによって最適な方法を適宜選択することが好ましい。具体的には、浸漬処理法、スプレー処理法、流しかけ処理法、ロールコーター法、バーコート法、電解析出法等の塗装方法;スピンコーター、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ディスペンサー等の塗布装置を1又は2以上用いて塗布する方法;等が挙げられるが、所定量の表面処理剤を安定的に塗布することができるディスペンサーを用いて塗布する方法が好ましい。
【0031】
第2工程の乾燥する際の温度(雰囲気温度)としては、特に限定されないが、40~250℃の範囲内であることが好ましく、60~180℃の範囲内であることがより好ましい。乾燥方法としては、特に限定されず、熱風やインダクションヒーター、赤外線、近赤外線などにより、炭素鋼材料に接触させた表面処理剤を加熱して、表面処理剤を乾燥する方法が挙げられる。また、加熱時間は、特に制限されるものではなく、使用される材料の種類、炭素鋼材料の表面または表面上に付着した表面処理剤の量などによって適宜最適な条件を設定すればよい。
【0032】
本実施形態に係る、表面処理被膜を有する炭素鋼材料の製造方法は、第1工程を行う前に(前処理を行う場合には前処理後に)、金属材料の表面または表面上に、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物等、及びリン酸からなる群より選択される1種以上を含有する下地処理剤を接触させる第3工程と、炭素鋼材料に接触させた下地処理剤を水洗または水洗なしに乾燥して下地皮膜を形成する第4工程と、をさらに含んでいてもよい。このように第3工程と第4工程を行った後、第1工程及び第2工程を行うことにより、表面処理被膜と下地皮膜とを有する金属材料を製造することができる。
【0033】
下地処理剤は、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物、及びリン酸からなる群より選択される1種以上を含む。アミノ基を有するシランカップリング剤として、アミノ基を1個有するものであれば特に限
定されず、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
また、リン酸を含有するものであれば特に限定されず、リン酸マンガン、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム等が挙げられ、これらの中でもリン酸マンガンを用いることが好ましい。
【0034】
下地処理剤に含まれる溶媒は特に限定されないが、溶媒は、アルコール、アセトン、アセトニトリル、ベンゼン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の有機溶媒;これらの有機溶媒と水との混合物;などが挙げられる。有機溶媒としては、炭素数5以下のアルコールが好ましい。なお、混合物に含まれる水の質量割合は、5質量%未満であることが好ましい。また、下地処理剤には、金属材料に対する濡れ性を向上させるためのレベリング剤、造膜性を向上させるための造膜助剤、下地皮膜をより強固な皮膜とするための有機架橋剤や無機架橋剤、発泡を抑制するための消泡剤、粘性をコントロールするための増粘剤、防錆剤等の添加剤を含ませてもよく、これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0035】
第3工程の接触方法としては、様々な接触方法を用いることができるが、処理される金属材料の形状などによって最適な方法を適宜選択することが好ましい。具体的には、上記塗布装置を用いて塗布する方法以外に、浸漬処理法、スプレー処理法、流しかけ処理法、ロールコーター法、バーコート法、電解析出法等の方法を挙げることができるがこれらの方法に制限されるものではない。また、第4工程の乾燥方法としては、熱風やインダクションヒーター、赤外線、近赤外線などを用いて加熱乾燥する方法、減圧留去により乾燥する方法等が挙げられるがこれらに制限されるものではない。加熱乾燥する際の温度としては、特に限定されないが、40~250℃(雰囲気温度)の範囲内であることが好ましく、60~180℃(雰囲気温度)の範囲内であることがより好ましい。また、加熱時間は、特に制限されるものではなく、使用される材料の種類、金属材料の表面または表面上に付着した下地処理剤の量などによって適宜最適な条件を設定すればよい。
【0036】
<炭素鋼材料>
炭素鋼材料としては、特に限定されず、例えば鉄と炭素の合金で、炭素含有量が0.02質量%~2.14質量%までの鉄鋼材が挙げられるが、炭素を0.95質量%以上含有する高炭素鋼であることが好ましく、機械要素部材等に使用されている高炭素クロム軸受鋼鋼材であることがより好ましい。高炭素クロム軸受鋼鋼材は鋼に多く含まれる炭素にクロム、ニッケル、モリブデンなどを加え、各々特殊な性質を持つ炭素鋼材料である。なお、高炭素鋼の炭素量の上限は限定されず、3質量%以下であってよく、2.14質量%以下であってもよい。
尚、本明細書においては、表面処理剤を適用する対象材料として炭素鋼材料を例に挙げて説明するが、本実施形態に係る表面処理剤を適用する対象材料は金属材料に限定されず、耐電食性被膜を必要とするものであればどのようなものであってもよい。
【0037】
(表面処理被膜を有する炭素鋼材料)
本実施形態に係る表面処理被膜を有する炭素鋼材料は、炭素鋼材料の表面又は表面上に上記表面処理被膜を有する。この表面処理被膜には、シリコーン樹脂(A)と化合物(B)と化合物(C)とアミノ基を有するアルコキシシラン(E)由来の重合物とが含まれている。表面処理被膜中のアミノ基を有するアルコキシシラン(E)由来の重合物は、シリコーン樹脂(A)と化合物(B)と化合物(C)とを安定して保持する役割(バインダー効果)を果たしていると考えられる。
また、シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.05以上3.12以下の範囲内である。
また、シリコーン樹脂(A)の質量(AM)と、前記化合物(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.02以上0.55以下の範囲内である。なお、表面処理剤に含まれるシリコーン樹脂(A)の質量(AM)、化合物(B)の質量(BM)、及び化合物(C)の質量(CM)は、表面処理剤によって形成される表面処理被膜においても維持される。
【0038】
また、本実施形態に係る表面処理被膜を有する炭素鋼材料は、炭素鋼材料と表面処理被膜との間に下地皮膜を有していてもよい。この下地皮膜には、アミノ基を有するシランカップリング剤、該シランカップリング剤の重合物、該重合物との共重合物及びリン酸からなる群より選択される1種以上が含まれている。なお、下地皮膜を形成する下地処理剤に上記添加剤を配合した場合には、下地皮膜は、さらに当該添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
上記表面処理被膜を有する炭素鋼材料は、上記製造方法により製造することができる。表面処理被膜の膜厚は、特に限定されないが、片面当たり3μm以上100μm以下の範囲内であることが好ましく、20μm以上80μm以下の範囲内であることがより好ましい。表面処理被膜の膜厚は、被膜の断面を電子顕微鏡で観察することで、計測することができる。
上記表面処理被膜を有する炭素鋼材料は、耐電食性に優れているので、軸受やモーターなどの自動車部品、家電用モーターやリアクトルなどの家電部品、プリント配線板やインダクタなどのOA機器部品、医療機器等の工業製品に好適である。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明の作用効果を具体的に示す。但し、下記実施例は本発明を限定するものではない。
【0041】
(1)供試材(素材)
以下の市販材料を供試材として使用した。
(M1)高炭素クロム軸受鋼鋼材 SUJ2:板厚1.0mm、炭素含有量1.0質量%
【0042】
(2)前処理(アルカリ脱脂洗浄)
各種供試材の表面を、アルカリ脱脂剤(日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナーE6406)の2%水溶液に60℃で30秒間浸漬して脱脂処理を行い、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗し、更に純水を流しかけ、100℃で供試材の表面を乾燥した。
【0043】
(3)表面処理剤の調製
各成分を表1に示すように混合して、実施例1~19及び比較例1~5の表面処理剤を調製した。表1に示す各成分の種類を表2~表6に示す。なお、表1中に示すシリコーン樹脂(A)及びアルコキシシラン(E)の混合量は、溶剤等を除外した化合物としての質量である。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
(4)表面処理被膜を有する金属材料
表7に示すように、前処理を行った各種供試材の表面に各種表面処理剤を接触させた。その後、水洗することなく、表7に示す乾燥温度(雰囲気温度)で供試材に接触させた表面処理剤を乾燥し、表7に示す膜厚の表面処理被膜を有する供試材(試験板)を作製した。なお、表面処理剤の接触は、塗布により行った。また、必要に応じて、表面処理剤を接触する前に、前処理を行った各種供試材を表7に示す下地処理剤に浸漬し、乾燥させることで下地皮膜を供試材の表面に形成させた。なお、表7に示す下地処理剤の種類ついては、表8に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
なお、表8の下地処理は、具体的には以下のように行った。
S1:3-アミノプロピルトリエトキシラン(信越化学工業株式会社製の「KBE-903」)をエタノールで10質量%に希釈した処理薬剤を常温のまま供試材に塗工した後、100℃(供試材温度)に到達するまで乾燥し、下地皮膜を形成させた。
S2:リン酸マンガン処理用表面処理調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレン55」)を水道水で0.3質量%に希釈した表面調整剤中に、各種供試材を30秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系表面処理薬剤(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM1A」)を水道水で14質量%に希釈し、全酸度を50ポイント、遊離酸度を8.6ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を5.8、鉄分濃度を1.5g/Lに調整し、更に97℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を900秒間浸漬した。次に、水道水で水洗し、更に純水を流しかけ、100℃(雰囲気温度)で供試材の表面を10分間乾燥し、リン酸マンガン及びリン酸マンガン鉄を主成分とする下地皮膜を形成させた。
【0054】
(5)評価試験
各種試験板に対して以下の評価試験を実施した。各評価試験の結果を表9に示す。なお、実用上の観点から、表9に示す各評価項目において「×」がないものを合格とした。また、液安定性や塗工性が悪く評価できなかった水準は「-」とした。
【0055】
<加熱後の耐電食性>
各種試験板(No.1~No.34)を70×150mmのサイズで切断した後、オーブンにて200℃で10時間加熱し、続いて室温(25℃)で24時間放置した。次に、JIS C2110-1:2016に準じて、各種試験板に昇圧速度10V/sにて電圧を印加し、各種試験板に通電した際の最大電圧を測定し、以下の評価基準に基づいて加熱後の耐電食性を評価した。
(評価基準)
◎ :1000V以上
〇 :500以上~1000V未満
○△ :300V以上~500V未満
△ :200V以上~300V未満
× :200V未満
【0056】
<加熱後の密着性試験>
各種試験板を70×150mmのサイズで切断した後、オーブンにて200℃で10時間加熱し、続いて室温(25℃)で24時間放置した。次に、各種試験板に1mm間隔で縦横11本ずつ切れ目を入れて碁盤(10×10=100個のマス)目状のカット傷を施した。続いて、碁盤目状のカット傷にセロハンテープを貼り付けた後、セロハンテープを剥がして、100個のマス目のうち残存したマス目の数を計測した。計測結果から残存率を算出し、以下に評価基準に基づいて加熱後の密着性を評価した。
(評価基準)
◎ :残存率95%以上~100%
〇 :残存率90%以上~95%未満
○△ :残存率70%以上~90%未満
△ :残存率50%以上~70%未満
× :残存率 0%以上~50%未満
【0057】
<摺動後の耐電食性>
各種試験板を30×100mmのサイズで切断した後、ドロービード試験機を用いて、2枚の試験板の処理面同士(接触部位面積30mm×30mm)を重ね、圧着荷重200kg、面圧22.2kg/cm2にて1回摺動させた。次に、JIS C2110-1:
2016に準じて、各種試験板の摺動面に昇圧速度10V/sにて電圧を印加し、各試験板に通電した際の最大電圧を測定し、以下の評価基準に基づいて加熱後の耐電食性を評価した。
(評価基準)
◎ :1000V以上
〇 :500以上~1000V未満
○△ :300V以上~500V未満
△ :200V以上~300V未満
× :200V未満
【0058】