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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055044
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】解体性接着剤組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20240411BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240411BHJP
   C09J 101/08 20060101ALI20240411BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/06
C09J101/08
C09J163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161635
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】首藤 宏志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勝美
(72)【発明者】
【氏名】東 英子
(72)【発明者】
【氏名】太田 みなみ
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040BA011
4J040DE021
4J040EC071
4J040EC081
4J040EF001
4J040EG001
4J040HC01
4J040HD18
4J040JA05
4J040JA09
4J040JB05
4J040KA16
4J040KA24
4J040KA37
4J040KA42
4J040LA06
4J040LA08
4J040NA06
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】 比較的低温な外的刺激により接着接合部を解体可能な解体性接着剤組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 (A)有機系接着剤成分、(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物、並びに(C)水溶性ポリマーを含む、解体性接着剤組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機系接着剤成分、
(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物、並びに
(C)水溶性ポリマー
を含む、解体性接着剤組成物。
【請求項2】
前記無機オニウムイオンが窒素の水素化物を含む、請求項1に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項3】
前記窒素の水素化物がアンモニウムイオンを含む、請求項2に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項4】
前記(B)化合物が無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含み、前記ハロゲンイオンがヨウ化物イオンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項5】
前記(B)化合物がヨウ化アンモニウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項6】
前記(B)化合物の少なくとも一部は、(C)水溶性ポリマーとの複合材料の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項7】
前記(C)水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースアンモニウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項8】
前記(A)有機系接着剤成分がエポキシ樹脂系接着剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項9】
解体性接着剤組成物の製造方法であって、前記方法は、
(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン、及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物を(C)水溶性ポリマーでスプレードライし、複合材料を得ることと、
(A)有機系接着剤成分と前記複合材料とを混合して解体性接着剤組成物を得ることとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解体性接着剤組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、構造用接着剤をはじめとして、より接着力が強く、より耐久性が長く、更には、耐熱性、温度環境の変動にも強いものが求められ、開発が進められてきた。しかしながら、限りある資源を有効に使用しようとするリサイクルの面では、接合された部品を再利用するために、解体可能な接着剤の開発が必須である。解体性接着剤とは、使用期間後に加熱などの外的刺激により接着強度が低下し、接合部をはがしうるものである。
【0003】
例えば、特許文献1は、(A)有機系接着剤成分、及び(B)無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含む解体性接着剤であって、(B)無機オニウムイオンがアンモニウムイオンであり、ハロゲンイオンがヨウ化物イオンであり、(A)有機系接着剤成分がエポキシ樹脂系接着剤である、解体性接着剤を記載している。当該解体性接着剤は、典型的には270℃に加熱することにより解体される。
【0004】
引用文献2は、(A)ウレタンアクリレート樹脂を含む有機系接着剤成分に、(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物を含む、解体性接着剤組成物を記載している。当該解体性接着剤もまた、典型的には270℃に加熱することにより解体される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-196793号公報
【特許文献2】特開2019-182948号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】宮入裕夫、他5名、「接着応用技術」、日経技術図書株式会社、1991年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来の解体性接着剤組成物は、解体温度が典型的には270℃と高温であるため、解体に多くのエネルギーを必要する。
【0008】
本開示は、比較的低温な外的刺激により接着接合部を解体可能な解体性接着剤組成物及びその製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[10]に列記する。
[1]
(A)有機系接着剤成分、
(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物、並びに
(C)水溶性ポリマー
を含む、解体性接着剤組成物。
[2]
上記無機オニウムイオンが窒素の水素化物を含む、項目1に記載の解体性接着剤組成物。
[3]
上記窒素の水素化物がアンモニウムイオンを含む、項目2に記載の解体性接着剤組成物。
[4]
上記(B)化合物が無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含み、上記ハロゲンイオンがヨウ化物イオンである、項目1~3のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
[5]
上記(B)化合物がヨウ化アンモニウムを含む、項目1~4のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
[6]
上記(B)化合物の少なくとも一部は、(C)水溶性ポリマーとの複合材料の形態である、項目1~5のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
[7]
上記(C)水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースアンモニウムを含む、項目1~6のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
[8]
上記(A)有機系接着剤成分がエポキシ樹脂系接着剤を含む、項目1~7のいずれか一項に記載の解体性接着剤組成物。
[9]
解体性接着剤組成物の製造方法であって、上記方法は、
(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン、及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物を、(C)水溶性ポリマーでスプレードライし、複合材料を得ることと、
(A)有機系接着剤成分と上記複合材料とを混合して解体性接着剤組成物を得ることとを含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、比較的低温な外的刺激により接着接合部を解体可能な解体性接着剤組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《解体性接着剤組成物》
本開示の解体性接着剤組成物は、(A)有機系接着剤成分、(B)無機オニウムイオンと、ハロゲンイオン、過ハロゲン酸イオン及び無機酸イオンからなる群から選択される陰イオンとの化合物(以下、「無機オニウム塩」という。)、並びに(C)水溶性ポリマーを含む。理論に限定されないが、本開示の解体性接着剤組成物を加熱することにより、無機オニウム塩が分解され、その分解物が有機系接着剤成分と反応して有機系接着剤成分を解体する。このとき、組成物中に存在する水溶性ポリマーが無機オニウム塩の分解を促進して、ガス化することにより接着剤内部に空洞が生じ、その空洞を起点として解体が生じ易くなる。そのため、その水溶性ポリマーを含有しない組成物と比べて無機オニウム塩の分解温度を低下することができると考えられる。水溶性ポリマーが無機オニウム塩の分解を促進する理由としては、発明者らは、水溶性ポリマーが有機接着剤成分よりも分解しやすく、また、加熱の際に発生する水溶性ポリマーの分解生成物は無機オニウム塩と容易に反応するためと考察している。したがって、本開示の解体性接着剤組成物は、比較的低温で接着接合部を解体可能な解体性接着剤組成物及びその製造方法を提供することができる。
【0012】
[有機系接着剤成分]
有機系接着剤成分としては、何ら限定されるものではないが、無機オニウム塩は比較的解体しにくい接着剤成分であっても解体することができるという観点から、構造用接着剤を用いることが好ましい。構造用接着剤とは、「長期間破壊することがなく、その最大破壊荷重に比較的近い応力を加えることのできる信頼性の保証された接着剤」(非特許文献1、第93頁、「接着剤の分類」参照)である。構造用接着剤としては、化学組成による分類によれば、熱硬化性樹脂、及びそのアロイ(例えば、非特許文献1、第99頁)が好ましい。
【0013】
有機系接着剤成分としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、レゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミタゾール、アクリル(SGA)、アクリル酸ジエステル、及びシリコーンゴム等、並びにこれらのアロイを挙げることができる。アロイとしては、好ましくは、エポキシフェノリック、エポキシポリサルファイド、エポキシナイロン、ニトリルフェノリック、クロロプレンフェノリック、及びビニルフェノリック等、並びに上記物質を変性させた樹脂等が挙げられる。特にエポキシ樹脂系接着剤は、副生成物を遊離せずに硬化し、高い剪断強さを有しており好ましい。有機系接着剤成分は、上記樹脂を主成分として含有することができる。「主成分」とは、構成成分のうち最も重量部の大きい成分を意味する。上記樹脂は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0014】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油などの線状脂肪族エポキサイド樹脂;3,4エポキシ-6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレートなどの脂環族エポキサイド樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、これらのうち1種類を単独で用いてもよく、あるいはこれらを2種類以上混合したものも使用できる。
【0015】
解体性接着剤組成物は、有機系接着剤成分に加えて、硬化剤を含有してもよい。硬化剤としては、重付加型硬化剤、及び触媒型硬化剤等が挙げられる。重付加型硬化剤として、例えば、ジエチレントリアミン、メタキシレンジアミン、ジシアンジアミド、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのアミン系硬化剤;無水フタル酸、テトラビドロメチル無水フタル酸などの酸無水物系硬化剤;フェノールノボラック硬化剤、及びポリメチルカプタン硬化剤等が挙げられる。触媒型硬化剤として、例えば、第三アミンやルイス酸錯体が挙げられる。硬化剤は、これらのうち1種類を単独で用いてもよく、あるいは、これらを2種類以上混合したものが使用できる。
【0016】
[無機オニウム塩]
無機オニウムイオンとは、無機水素化物のプロトン化によって生じたイオンを意味する。無機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、ヒドロキシルアンモニウムイオン、ヒドラジニウムイオン、ホスホニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオン、ジアエニウムイオン、及びジアゾニウムイオン等が挙げられる。無機オニウムイオンは、これらのうち1種類を単独で用いてもよく、これらを2種類以上混合したものも使用できる。特に、人体への有害性が比較的低く、接着剤解体性に優れることから、無機オニウムイオンとしては、窒素の水素化物が好ましく、アンモニウムイオンがより好ましい。
【0017】
無機オニウムイオンとともに無機オニウム塩を構成する陰イオンは、ハロゲンイオン、過ハロゲンイオン、及び無機酸イオンからなる群から選択される。ハロゲンとは、周期表17族に記されるフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。陰イオンとしてはハロゲンイオンが好ましく、ハロゲンイオンとしては、特に、接着剤の解体性に優れることから、ヨウ化物イオンが好ましい。
【0018】
好ましい無機オニウム塩としては、より具体的には、ヨウ化アンモニウム(NHI)、ヨウ素酸アンモニウム(NHIO)、過塩素酸アンモニウム(NHClO)、臭化アンモニウム(NHBr)等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ポリマーと複合化しやすい観点、及び接着剤組成物の分解温度をより低下させる観点等から、より好ましくは、ヨウ化アンモニウム、ヨウ素酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウムであり、特に好ましくはヨウ化アンモニウムである。
【0019】
無機オニウム塩の少なくとも一部は、水溶性ポリマーとの複合材料の形態であることが好ましい。これにより、水溶性ポリマーがより好適に分散され、接着剤組成物の分解温度をより低下させることができる。無機オニウム塩は有機系接着剤成分の分解性に優れるものの、いくつかの化合物、例えば、ヨウ化アンモニウム等は潮解性を有する。この点、の少なくとも一部は、水溶性ポリマーを被覆した複合材料の形態であることにより潮解が抑制され、有機系接着剤の初期強度が向上する傾向がある。同様の観点から、無機オニウム塩の少なくとも一部は、水溶性ポリマーで被覆されていることがより好ましい。複合化は、後述するように、例えば予め無機オニウム塩に水溶性ポリマーを混合する方法や、スプレードライにより行うことができる。
【0020】
無機オニウムイオンと陰イオンとの化合物(無機オニウム塩)の粒径は、特に限定されないが、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは250μm以下である。500μm以下であれば解体性に優れ、解体温度が低くなる傾向がある。無機オニウムイオンが水溶性ポリマーとの複合材料の形態である場合、複合材料の粒径は、特に限定されないが、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは250μm以下である。500μm以下であれば解体性に優れ、解体温度が低くなる傾向がある。粒径は、JIS Z 8801 に規定の標準篩により篩分けされた篩径を意味する。
【0021】
無機オニウム塩の添加量は、特に限定されないが、(A)有機系接着剤成分100重量部に対し、好ましくは5重量部~50重量部、より好ましくは10重量部~50重量部、更に好ましくは10重量部~30重量部である。5重量部以上では解体性が向上し、解体温度が低くなる傾向がある。50重量部以下では初期強度が向上する傾向がある。
【0022】
[水溶性ポリマー]
水溶性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えばグアガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ、及びキサンタンガム等の天然高分子;ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びセルロース誘導体高分子等の半合成及び合成高分子等が挙げられる。解体温度を低める観点及び無機オニウム塩の分散性の観点から、より好ましくは、セルロース誘導体高分子、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びカルボキシメチルセルロースアンモニウム等が挙げられる。同様の観点から、更に好ましくは、カルボキシメチルセルロースアンモニウムである。
【0023】
水溶性ポリマーの添加量は、特に限定されないが、(B)無機オニウム塩100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。(A)接着剤成分100重量部を基準にすると、好ましくは0.1重量部~2.5重量部、より好ましくは0.1重量部~1.5重量部、更に好ましくは0.1重量部~1.0重量部である。
【0024】
[その他の成分]
本開示の解体性接着剤組成物は、(A)有機系接着剤成分、(B)無機オニウム塩、及び(C)水溶性ポリマー以外に、接着剤の流動性調整のため、非反応性希釈剤、反応性希釈剤、炭酸カルシウム、タルク、及びアルミナ等のフィラーを添加することができる。また、可とう性を付与するため、モノエポキサイド、ジエポキサイド、及びポリチオールなどの可塑剤、及び液状ゴム等を添加してもよい。解体性を向上させるために、熱膨張性黒鉛、熱膨張性樹脂バルーン、アゾジカルボンアミド等の化学発泡剤を添加することもできる。
【0025】
《解体性接着剤組成物の製造方法》
本開示の解体性接着剤組成物は、(A)有機系接着剤成分、(B)無機オニウム塩、及び(C)水溶性ポリマー、任意に上記その他の成分を混合することにより製造することができる。各成分の混合順は、接着剤の接着強度及び解体性等を損なわなければ、どの順序で混合してもよい。また、塗布直前に混合してもよいし、予め一部の成分を混合しておいてもよい。接着剤組成物の分解温度をより低下させる観点から、無機オニウム塩の少なくとも一部と水溶性ポリマーとを予め複合材料化したのちに、当該複合材料と有機系接着剤成分とを混合することが好ましい。複合材料化は、限定されないが、例えば、無機オニウム塩と水溶性ポリマーを予め混合してもよいし、無機オニウム塩に水溶性ポリマーをスプレードライすることにより行うことができる。スプレードライすることが、無機オニウム塩の少なくとも一部が水溶性ポリマーで被覆され、有機系接着剤中に無機オニウム塩及び水溶性ポリマーがより好適に分散され、接着剤組成物の分解温度をより低下させることができる点で好ましい。
【0026】
本開示の解体性接着剤組成物は、液状やパテ状の形態でそのまま用いてもよいし、フィルム基材に塗布してテープ状で用いてもよい。
【0027】
《被着体の接着方法》
本開示の解体性接着剤組成物で被着体を接着する方法としては、複合材料の粒径と添加量を好適な範囲にした解体性接着剤組成物で接着接合体を接着後、接着強度を安定(上昇)させるために、被接着体を接着後に加熱して硬化させることが好ましい。例えば、80℃~120℃で硬化させることが好ましい。
【0028】
《解体方法》
本開示の解体性接着剤組成物は、外的刺激によって接着性が低下または消失するため、該接着剤を用いて接着した接着構造体(被着体)を容易に解体することができる。「外的刺激」とは、熱、火等の物理的な刺激をいい、より具体的には、熱風加熱、赤外線照射、高周波加熱、マイクロ波加熱、化学反応熱、摩擦熱、及びガスバーナーなどの火による加熱等が挙げられる。本開示の解体性接着剤組成物によって接着された被着体に上記外的刺激が与えられると、接着剤の温度が上昇し、接着剤成分自身の凝集力や被着体との接着力が低下するという現象に加え、無機オニウム塩が、有機系接着剤の熱分解を促進し、接着力を大きく低減、あるいは、消失させることができる。
【0029】
解体の際、外的刺激によって接着強度が低下する程度としては、引張剪断試験(初期強度)における引張剪断強度を基準(100%)として、加熱解体試験(加熱後の強度)における引張剪断強度が、例えば、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下であってよい。解体の際、外的刺激によって、引張剪断試験(初期強度)における引張剪断強度を基準として、加熱解体試験(加熱後の強度)における引張剪断強度が消失(0%)してもよい。
【0030】
大型の被着体を均一に加熱するという点では、内部構造に加熱部を有し、外部が断熱材で構成された加熱装置、例えば電気炉又はガス炉等の内部空間で構造体を加熱する方法がより好ましい。解体時の温度としては、金属/繊維強化プラスチック(FRP)接合体、FRP/FRP接合体などは、FRPのマトリックス樹脂の融点以下で短時間での解体を可能とすることは極めて重要な課題である。例えば、複合材料に使用される樹脂PPS(ポリフェニレンサルファイド:融点280℃)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン:融点335℃)などの被着体の解体においては、リユースを考慮した場合に、樹脂に対して融点以上の温度での加熱を長時間行わないことは樹脂の変質を招かないために重要であり、加熱温度は好ましくは270℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
【0031】
加熱解体時の昇温速度については、被接着体の熱劣化を抑制すること、また、高い解体性を付与する場合があることから、高い昇温速度で接着剤を加熱することが好ましく、具体的には5℃/min以上、より好ましくは10℃/min以上の昇温速度で昇温することが好ましい。
【0032】
被着体のリサイクル等を考慮すると、リサイクル等の対象となる被接着体界面で剥離させることが好ましい。このため、リサイクル等の対象となる被接着体側から加熱することで、解体面を選択することができる。
【0033】
本開示の解体性接着剤組成物の使用箇所は、特に制限されるものではないが、金属-FRPや、金属-ガラスのような異材質の接着に好適に用いることができる。また、異種の金属-金属、FRP-FRPの接合に用いることも可能である。本開示の解体性接着剤組成物は、被着体のリサイクル、リユース、又はリワーク用途に使用してもよい。
【実施例0034】
[実施例1]
以下、本開示の実施例及び比較例を具体的に説明するが、本開示の解体性接着剤組成物はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0035】
構造用接着剤として、広く用いられるエポキシ樹脂系接着剤を用いた。エポキシ樹脂系接着剤は、主剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤として変性脂肪族ポリアミンを使用した。
【0036】
無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物として、ヨウ化アンモニウム(NHI)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を使用した。ヨウ化アンモニウム(NHI)100重量部に対して3重量部のカルボキシメチルセルロースアンモニウム(CMCアンモニウム)を加え、4倍量の水に溶解させた水溶液をスプレードライ処理装置(中部熱工業株式会社社製)でスプレードライ処理して、ヨウ化アンモニウム-CMCアンモニウムの複合材料を得た。スプレードライの条件は、熱風温度170℃、チャンバー内温度90℃、ディスク回転数18000rpmであった。得られた複合材料を、JIS Z 8801に規定の標準篩により、100μm~212μmに篩分けした。
【0037】
<接着接合体の作製>
エポキシ樹脂主剤(エポトート YD-128・日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)及びエポキシ樹脂硬化剤(ダイトクラール X-9647・大都産業株式会社製)を2.45:1の割合で混合した後、主剤、硬化剤が混合されたエポキシ樹脂(以下、エポキシ樹脂という)100重量部に対して、篩分けした上記複合材料を10重量部添加し、十分に混合し、接着剤を作成した。被着体は幅25mm、長さ100mm、厚さ3mmのアルミ板を用い、ラップ長12.5mmとした。また、接着面はサンドペーパー(AA40)による研磨、脱脂及びUV照射により表面処理を施した。接着面に、作製した接着剤を塗布して貼り合わせ、接着接合部をクリップで止め、減圧下で一昼夜放置後、120℃の加熱炉内で1時間静置し、脱泡、硬化させた。
【0038】
<引張剪断試験(初期強度)>
初期強度は上記方法で得られた接着接合体を25℃まで冷却後、オートグラフ(株式会社島津製作所製、型式AGS-J、ロードセル1トン用)を用いて、引張モード、変位速度5mm/minで試験片が破壊するまでの最大荷重を測定した。最大荷重を接着接合部の面積で除して引張剪断強さを算出した。
【0039】
<加熱解体試験(加熱後の強度)>
上記方法で得られた接着接合体を25℃まで冷却後、剥離試験を行った。剥離試験時の加熱は、230℃または250℃の加熱炉に試験片を入れ、30分間加熱し、25℃に冷却後、接着接合部が加熱により解体するか確認を行った。解体していなかった場合には、上記と同一の試験条件で引張剪断強度を得た。結果を以下の表1に示す。
【0040】
[実施例2]
スプレードライ処理し篩分けした上記複合材料をエポキシ樹脂100重量部に対し20重量部添加したこと以外は、実施例1と同じである。
【0041】
[実施例3]
スプレードライ処理し篩分けした上記複合材料をエポキシ樹脂100重量部に対し30重量部添加したこと以外は、実施例1と同じである。
【0042】
[実施例4]
スプレードライ処理した上記複合材料をJIS Z 8801に規定の標準篩により50μm以下に篩分けし、エポキシ樹脂100重量部に対し10重量部添加したこと以外は、実施例1と同じである。
【0043】
[実施例5]
スプレードライ処理した上記複合材料をJIS Z 8801に規定の標準篩により50μm~100μmに篩分けし、エポキシ樹脂100重量部に対し10重量部添加したこと以外は、実施例1と同じである。
【0044】
[実施例6]
予め、JIS Z 8801に規定の標準篩により、100μm~212μmに篩分けしたヨウ化アンモニウム(NHI)100重量部とCMCアンモニウムを3重量部を混合した複合材料をエポキシ樹脂100重量部に対して30重量部添加したこと以外は実施例1と同じである。
【0045】
[比較例1]
エポキシ樹脂に、上記複合材料を添加しなかったこと以外は、実施例1と同じである。
【0046】
[比較例2]
エポキシ樹脂100質量部に対し、複合化していないヨウ化アンモニウムを30重量部添加したこと以外は、実施例1と同じである。
【0047】
実施例の解体性接着剤は、水溶性ポリマーをスプレードライした無機オニウム塩の潮解性が抑えられ、通常大気雰囲気下で問題なく接着剤の混合及び貼り付け作業を行うことができた。また、水溶性ポリマーをスプレードライした無機オニウム塩と硬化剤との反応性も、発泡等の強度低下につながるような事象も見られなかった。
【0048】
実施例1~6の条件では、加熱前の初期引張剪断強度として6.3MPa~8.7MPaを有するが、250℃30分の加熱により、接着力は0MPa~3.0MPaまで低下することが分かった。さらに実施例2及び3の条件では、230℃30分の加熱でも接着力は2.4MPa~3.0MPaまで低下することが分かった。一方で、ヨウ化アンモニウム無添加の比較例1や、複合化していないヨウ化アンモニウムを添加した比較例2の接着剤は、加熱前の初期引張剪断強度は10MPa以上であるが、250℃30分後の加熱後も引張剪断強度の低下は見られなかった。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示の解体性接着剤組成物は、比較的低温な外的刺激により容易に解体することができる。したがって、本開示の解体性接着剤は、金属-金属、FRP-FRP、ガラス-ガラス等の同種材料同士の接着のほか、金属-FRPや、金属-ガラス、FRP-ガラスのような異種材料同士の接着に好適である。本開示の解体性接着剤は、被着体のリサイクル、リユース、又はリワーク用途に有用である。