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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055054
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】モータロータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240411BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161654
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利彰
【テーマコード(参考)】
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP02
5H615SS09
5H615SS15
5H615TT26
5H622PP04
(57)【要約】
【課題】磁石を複数の分割磁石で構成した場合においても、これら複数の分割磁石をロータコアの収容孔に対して容易にかつ高精度に位置決め固定する。
【解決手段】このモータロータ1は、複数の収容孔3を有するロータコア2と、収容孔3と同数の磁石4とを備え、収容孔3一つにつき一個の磁石4が収容されるモータロータである。各々の磁石4は、複数の分割磁石51~54で構成されており、複数の分割磁石51~54の周囲に、未発泡の段階でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シート6が巻き付けられていると共に、発泡樹脂シート6で複数の分割磁石51~54の外表面51a1~54a4,51a2~54a2,51b1,53b1,52b2,54b2と収容孔3の内面3a,3bとの隙間が充足されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の収容孔を有するロータコアと、前記収容孔と同数の磁石とを備え、前記収容孔一つにつき一個の前記磁石が収容されるモータロータであって、
各々の前記磁石は、複数の分割磁石で構成されており、
前記複数の分割磁石の周囲に、未発泡の段階でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シートが巻き付けられていると共に、前記発泡樹脂シートで前記複数の分割磁石の外表面と前記収容孔の内面との隙間が充足されている、モータロータ。
【請求項2】
前記発泡樹脂シートは、前記発泡樹脂シートの表裏一方の側に粘着層を一体に有する請求項1に記載のモータロータ。
【請求項3】
前記発泡樹脂シートは、前記発泡樹脂シートの表裏他方の側に、前記発泡樹脂シートの表面よりも摩擦係数の低い表面の低摩擦層を有する請求項1又は2に記載のモータロータ。
【請求項4】
複数の収容孔を有するロータコアと、前記収容孔と同数の磁石とを備え、前記収容孔一つにつき一個の前記磁石が収容され、各々の前記磁石は、複数の分割磁石で構成されているモータロータの製造方法であって、
前記複数の分割磁石の周囲に、未発泡の状態でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シートを巻き付けて、分割磁石の一体品を作成する一体品作成工程と、
前記分割磁石の一体品を前記収容孔に収容する収容工程と、
前記発泡樹脂シートを発泡に伴い膨張させることにより、前記複数の分割磁石の外表面と前記収容孔の内面との隙間を前記発泡樹脂シートで充足する隙間充足工程とを備えた、モータロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータロータ及びその製造方法に関し、特にロータコアの挿入孔に複数の分割磁石を高い位置精度で挿入するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に鑑み電気自動車やハイブリッド車など、車両の駆動装置やその周辺機器にモータを採用する動きが加速している。上記車両へ搭載されるモータには、車両の駆動性能を向上させるべく高出力であることが求められると共に、搭載可能なスペースの関係上、小型であることが求められている。
【0003】
ここで、モータのロータコアには、複数の磁石収容孔が設けられており、これら複数の磁石収容孔に磁石を収容することで、モータのロータ(モータロータ)が構成されている。また、近年では、渦電流による損失を低減することで発熱を抑制し、ひいては磁力の減少を防止する目的で、磁石収容孔に収容される磁石を分割することが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-96868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように、ロータコアの収容孔に磁石を収容するに際しては、収容孔よりも一回り小さいサイズの磁石を挿入し、磁石と収容孔との間に生じた隙間を加熱性硬化樹脂などの充填剤で埋めて充填剤を固化させることにより、磁石の収容孔に対する位置決め固定が行われている。しかしながら、この方法だと、磁石を収容孔に収容した時点で、磁石の移動は何ら規制されていない状態であるため、磁石の位置が安定しない。また、磁石を収容した後に充填剤を収容孔内に充填することで、磁石が収容時の位置からずれる事態も想定される。特に、磁石を複数の分割磁石で構成する場合には、上述した問題が顕著となる。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、磁石を複数の分割磁石で構成した場合においても、これら複数の分割磁石をロータコアの収容孔に対して容易にかつ高精度に位置決め固定することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係るモータロータによって達成される。すなわち、このロータは、複数の収容孔を有するロータコアと、収容孔と同数の磁石とを備え、収容孔一つにつき一個の磁石が収容されるモータロータであって、各々の磁石は、複数の分割磁石で構成されており、複数の分割磁石の周囲に、未発泡の状態でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シートが巻き付けられていると共に、発泡樹脂シートで複数の分割磁石の外表面と収容孔の内面との隙間が充足されている点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように、本発明に係るモータロータでは、複数の分割磁石の周囲に、未発泡の状態でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シートを巻き付けた形態とすることで、複数の分割磁石を所定の位置関係に維持した状態(例えば互いに密着した状態)で収容孔に収容することができる。また、上記構成の発泡樹脂シートであれば、発泡させることで均等に膨張させることができるので、複数の分割磁石の外表面と収容孔の内面との隙間が均等な厚みの発泡樹脂シートで充足される。これにより、収容時の分割磁石の位置に関係なく、上記隙間が均等になる位置に複数の分割磁石を移動させることができるので、専用の位置決め治具等を用いずとも、常に所定の位置に複数の分割磁石を位置決め固定することが可能となる。また、この種の発泡樹脂シートであれば、未発泡の薄い状態で複数の分割磁石と共に収容孔に収容することができるので、収容孔との干渉を懸念することなくスムーズに複数の分割磁石を収容孔に導入することができる。
【0009】
また、本発明に係るモータロータにおいて、発泡樹脂シートは、発泡樹脂シートの表裏一方の側に粘着層を一体に有してもよい。
【0010】
このように発泡樹脂シートの表裏一方の側に粘着層を設けることによって、複数の分割磁石に発泡樹脂シートを貼り付けることができる。これにより、発泡樹脂シートが巻き付けた位置からずれることがないので、より安定して分割磁石の収容作業を実施することができる。従って、収容孔における分割磁石の位置決め精度も安定し得る。
【0011】
また、本発明に係るモータロータにおいて、発泡樹脂シートは、発泡樹脂シートの表裏他方の側に、発泡樹脂シートの表面よりも摩擦係数の低い表面の低摩擦層を有してもよい。
【0012】
このように発泡樹脂シートの表裏他方の側に低摩擦層を設けることによって、収容孔と発泡樹脂シートとの摩擦抵抗を低減することができるので、スムーズにかつ迅速に分割磁石の収容作業を実施することが可能となる。
【0013】
また、前記課題の解決は、本発明に係るモータロータの製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、複数の収容孔を有するロータコアと、収容孔と同数の磁石とを備え、収容孔一つにつき一個の磁石が収容され、各々の磁石は、複数の分割磁石で構成されているモータロータの製造方法であって、複数の分割磁石の周囲に、未発泡の状態でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シートを巻き付けて、分割磁石の一体品を作成する一体品作成工程と、分割磁石の一体品を収容孔に収容する収容工程と、発泡樹脂シートを発泡に伴い膨張させることにより、複数の分割磁石の外表面と収容孔の内面との隙間を発泡樹脂シートで充足する隙間充足工程とを備える点をもって特徴付けられる。
【0014】
このように、本発明に係るモータロータの製造方法では、複数の分割磁石の周囲に、未発泡の状態でシート状をなしかつ加熱より発泡する構造の発泡樹脂シートを巻き付けて、分割磁石の一体品を作成した後、この一体品をロータコアの収容孔に収容するようにしたので、複数の分割磁石を所定の位置関係に維持した状態(例えば互いに密着した状態)で収容孔に収容することができる。また、上記構成の発泡樹脂シートを収容後に発泡させて均等に膨張させることにより、複数の分割磁石の外表面と収容孔の内面との隙間が均等な厚みの発泡樹脂シートで充足される。これにより、収容時の分割磁石の位置に関係なく、上記隙間が均等になる位置に複数の分割磁石を移動させることができるので、常に所定の位置に複数の分割磁石を位置決め固定することが可能となる。また、この種の発泡樹脂シートであれば、未発泡の薄い状態で複数の分割磁石と共に収容孔に収容することができるので、収容孔との干渉を懸念することなくスムーズに複数の分割磁石を収容孔に導入することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、磁石を複数の分割磁石で構成した場合においても、これら複数の分割磁石をロータコアの収容孔に対して容易にかつ高精度に位置決め固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るモータロータの平面図である。
図2図1中のA部拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係るモータロータの製造方法に係るフローチャートである。
図4図3に示す梱包体作成工程に用意される発泡樹脂シートの側面図であって、未発泡の状態でかつ分割磁石に巻き付ける前の状態の発泡樹脂シートの側面図である。
図5図3に示す梱包体作成工程に用意される磁石の(a)平面図、及び(b)磁石を図5(a)中の矢印Bの向きから見た側面図である。
図6図3に示す梱包体作成工程で作成された分割磁石梱包体の(a)平面図、及び(b)分割磁石梱包体を図6(a)中の矢印Cの向きから見た側面図である。
図7図3に示す収容工程を実施した直後の分割磁石梱包体及び収容孔の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るモータロータ、及びその製造方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るモータロータ1の平面図を示している。図1に示すように、本実施形態に係るモータロータ1は、円環状をなすロータコア2と、ロータコア2に設けられる所定数の収容孔3と、収容孔3に収容される複数の磁石4とを備える。磁石4は、収容孔3と同じ数だけ用意されており、収容孔3一つにつき一個の磁石4が収容されるようになっている。
【0019】
図2は、図1に示すロータコア2の収容孔3周辺(図1中の矢印Aで示す領域)を拡大した平面図を示している。図2に示すように、磁石4は、複数の分割磁石51~54で構成される。本実施形態では、磁石4は、四個の分割磁石51~54で構成されている(後述する図5(b)を参照)。図2では四個の分割磁石51~54のうち第一分割磁石51と第二分割磁石52のみが表されている(第三分割磁石53と第四分割磁石54は紙面奥側に位置している)。これら複数の分割磁石51~54は互いに密着した状態にある。
【0020】
複数の分割磁石51~54の周囲には、所定の発泡樹脂シート6が巻き付けられている。これにより、複数の分割磁石51~54が相互に密着した状態で一体化されている。この発泡樹脂シート6は、未発泡の状態でシート状をなし(後述する図4を参照)かつ発泡に伴い膨張する構造をなしている。本実施形態では、複数の分割磁石51~54の主表面51a1~54a1,51a2~54a2と側面51b1,53b1,51b2,54b2の全域にわたって発泡樹脂シート6が巻き付けられている(図2を参照)。
【0021】
ここで、発泡樹脂シート6は発泡に伴い厚み方向に膨張した状態にあり、各分割磁石51~54の主表面51a1~54a1,51a2~54a2と、これら主表面51a1~54a1,51a2~54a2と向き合う収容孔3の内面(第一内面3a)との隙間が、発泡樹脂シート6で完全に充足されている。また、各分割磁石51~54の側面51b1,53b1,52b2,54b2と、これら側面51b1,53b1,52b2,54b2と向き合う収容孔3の内面(第二内面3b)との隙間が、発泡樹脂シート6で完全に充足されている。
【0022】
ここで、分割磁石51~54の第一主表面51a1~54a1と収容孔3の第一内面3aとの対向間隔(すなわち隙間の大きさ)をt1、第二主表面51a2~54a2と第一内面3aとの対向間隔をt2、第一側面51b1,53b1と収容孔3の第二内面3bとの対向間隔をt3、第二側面51b2,54b2と第二内面3bとの対向間隔をt4としたとき、これら対向間隔t1,t2,t3,t4は何れも等しい。
【0023】
また、本実施形態では、発泡樹脂シート6は、その表裏一方の側に粘着層7を一体に有する。よって、図2に示すように、粘着層7を各分割磁石51~54と向かい合わせた状態で、発泡樹脂シート6を分割磁石51~54の周囲に巻き付けることで、粘着層7を介して発泡樹脂シート6が各分割磁石51~54の主表面51a1~54a1,51a2~54a2、及び側面51b1,53b1,52b2,54b2に貼り付けられる。粘着層7は発泡樹脂シート6の全面にわたって設けられている。
【0024】
また、本実施形態では、発泡樹脂シート6は、その表裏他方の側に、発泡樹脂シート6の表面よりも摩擦係数の低い表面を有する低摩擦層8を一体に有する。低摩擦層8は発泡樹脂シート6の全面にわたって設けられている。
【0025】
次に、上記構成のモータロータ1の製造方法の一例について説明する。本実施形態に係るモータロータ1の製造方法は、図3に示すように、複数の分割磁石51~54と発泡樹脂シート6からなる分割磁石の一体品9を作成する一体品作成工程S1と、作成した分割磁石の一体品9をロータコア2の収容孔3に収容する収容工程S2と、発泡樹脂シート6の発泡に伴う膨張により分割磁石51~54の外表面と収容孔3の内面3a,3bとの隙間を充足する隙間充足工程S3とを備える。以下、各工程S1~S3を時系列順に説明する。
【0026】
(S1)一体品作成工程
本工程S1では、収容対象となる磁石4を構成する複数の分割磁石51~54と、発泡樹脂シート6とを用意する。ここで、発泡樹脂シート6は、図4に示すように、全体としてシート状をなし、表裏一方の側に粘着層7を一体に有し、表裏他方の側に低摩擦層8を一体に有する。分割磁石51~54に巻き付ける時点では、発泡樹脂シート6の厚み寸法は、未発泡の状態であり、発泡状態における厚み寸法(図2を参照)よりも大幅に小さい。
【0027】
本実施形態では、磁石4は矩形板形状をなし、最も面積の大きな主表面に対して縦横に切断することで四分割している(図5(b)を参照)。
【0028】
なお、磁石4としては、モータロータ1用途であることを考慮してその材料を選定するのがよい。また、分割磁石51~54の分割数、分割態様についてもモータロータ1用途であることを考慮して上述した分割条件を設定するのがよい。
【0029】
発泡樹脂シート6としては、未発泡の状態でシート状をなし発泡に伴い膨張する構造をなす限りにおいて任意の種類の発泡樹脂を材料とすることが可能である。また、加熱により発泡するタイプの発泡樹脂はもちろん、減圧により発泡するタイプの発泡樹脂など任意の手段で発泡可能な発泡樹脂を採用することが可能である。また、発泡に伴う膨張により分割磁石51~54と収容孔3の内面3a,3bとの隙間を完全に充足するように、所定の発泡倍率を示す発泡樹脂を採用するのがよい。もちろん、この場合、上記隙間の大きさ及び発泡倍率に合わせて、発泡樹脂シート6の厚み寸法を選定することが肝要である。なお、磁石4(分割磁石51~54)の周囲に巻き付けられてロータコア2の収容孔3に収容されることを考慮した場合、所定の絶縁性(絶縁抵抗)を示す材料が好適である。
【0030】
上記構成の分割磁石51~54を図5に示すように密着配置する。そして、密着配置した四つの分割磁石51~54の周囲に、図4に示す発泡樹脂シート6を巻き付ける。これにより、四つの分割磁石51~54が発泡樹脂シート6により一体化された分割磁石の一体品9が作成される(図6を参照)。本実施形態では、粘着層7を分割磁石51~54の側に向けた状態で発泡樹脂シート6を分割磁石51~54の周囲、具体的には、各分割磁石51~54の第一主表面51a1~54a1と、第二主表面51a2~54a2と、第一側面51b1,53b1と、第二側面52b2,54b2とに巻き付けることで(図6(a)及び図6(b)を参照)、発泡樹脂シート6が分割磁石51~54に貼り付けられ、貼り付け時の分割磁石51~54の相対位置が固定される。また、これら分割磁石51~54に対する発泡樹脂シート6の相対位置が固定される。
【0031】
(S2)収容工程
一体品作成工程S1で必要数(収容孔3と同数)の分割磁石の一体品9を形成した後、作成した分割磁石の一体品9をロータコア2の対応する収容孔3に導入する。図7は、収容孔3に分割磁石の一体品9を収容した状態を平面視した図を示している。図7に示すように、収容工程S2の際、発泡樹脂シート6は未発泡の状態であるから、その厚み寸法は、モータロータ1の完成状態(図2に示す状態)における厚み寸法よりも大幅に小さい。そのため、収容孔3の内面3a,3bとの干渉を心配することなく、分割磁石の一体品9を収容孔3に収容することができる。
【0032】
また、収容孔3に収容した状態で、分割磁石の一体品9の最外表面(ここでは低摩擦層8の外表面)と収容孔3の内面3a,3bとの間には、所定の隙間が存在している。また、この隙間が存在するために、分割磁石の一体品9の収容孔3内における位置(収容位置)は、収容する度に異なる。具体的に、分割磁石51~54の第一主表面51a1~54a1と収容孔3の第一内面3aとの対向間隔t1、第二主表面51a2~54a2と第一内面3aとの対向間隔t2、第一側面51b1,53b1と収容孔3の第二内面3bとの対向間隔t3、第二側面51b2,54b2と第二内面3bとの対向間隔t4は、互いに異なる。
【0033】
(S3)隙間充足工程
本工程S3では、収容孔3内の発泡樹脂シート6を発泡に伴い膨張させて、分割磁石51~54の外表面と収容孔3の内面3a,3bとの隙間を充足する。本実施形態では、発泡樹脂シート6の膨張により、発泡樹脂シート6の外側に位置する低摩擦層8の外表面と収容孔3の内面3a,3bとの間に存在する隙間を充足する。ここで、発泡樹脂シート6が例えば加熱により発泡する構造をなす場合、ロータコア2の少なくとも収容孔3周辺を加熱する。作業効率を考えた場合、ロータコア2全体を例えば炉に投入し加熱する。これにより、発泡樹脂シート6が発泡し厚み方向に膨張する。ここで、未発泡の状態において発泡樹脂シート6の厚み寸法は均一であるから(図4を参照)、膨張後の厚み寸法も均一となる。従って、発泡樹脂シート6の厚み方向の膨張量が、それぞれ図7に示す対向間隔t1+t2以上で、かつ対向間隔t3+t4以上である場合、発泡樹脂シート6の外側に位置する低摩擦層8の外表面と収容孔3の内面3a,3bとの間に存在する隙間が完全に充足される(図2を参照)。ここで、発泡樹脂シート6の厚み寸法は均一であると共に、粘着層7及び低摩擦層8の厚み寸法も均一であることから(図4を参照)、分割磁石51~54は、各対向間隔t1,t2,t3,t4が等しくなる位置に向けて、図7に示す平面上を移動する。よって、発泡樹脂シート6の膨張により分割磁石51~54が、収容孔3の中央位置まで移動し、中央位置で位置決め固定される。
【0034】
以上述べたように、本実施形態に係るモータロータ1では、複数の分割磁石51~54の周囲に、未発泡の状態でシート状をなしかつ発泡に伴い膨張する構造の発泡樹脂シート6を巻き付けた形態とすることで、複数の分割磁石51~54を所定の位置関係に維持した状態(ここでは互いにずれなく密着した状態)で収容孔3に収容することができる。また、上記構成の発泡樹脂シート6であれば、発泡させることで均等に膨張させることができるので、複数の分割磁石51~54の外表面と収容孔3の内面3aとの隙間が均等な厚みの発泡樹脂シート6で充足される(図2を参照)。これにより、収容時の分割磁石51~54の位置が最終的な収容位置でなかったとしても、上記隙間が均等になる位置に複数の分割磁石51~54を移動させることができるので、常に所定の位置(ここでは収容孔3の中央位置)に複数の分割磁石51~54を位置決め固定することが可能となる。また、この種の発泡樹脂シート6であれば、未発泡の薄い状態で複数の分割磁石51~54と共に収容孔3に収容することができるので(図7に示す状態)、収容孔3との干渉を懸念することなくスムーズに複数の分割磁石51~54を収容孔3に導入することができる。
【0035】
また、本実施形態では、発泡樹脂シート6の表裏一方の側に粘着層7を一体に設けたので、複数の分割磁石51~54に発泡樹脂シート6を貼り付けることができる。これにより、発泡樹脂シート6が巻き付けた位置からずれることがないので、より安定して分割磁石51~54の収容作業を実施することができる。従って、収容孔3における分割磁石51~54の位置決め精度も安定し得る。
【0036】
また、本実施形態では、発泡樹脂シート6の表裏他方の側(粘着層7と反対の側)に、発泡樹脂シート6の表面よりも摩擦係数の低い表面の低摩擦層8を設けたので、収容孔3と発泡樹脂シート6との摩擦抵抗を低減することができる。よって、スムーズにかつ迅速に分割磁石51~54の収容作業を実施することが可能となる。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係るモータロータ、及びモータロータの製造方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、収容孔3の深さ方向(図2の紙面を貫通する方向)全域にわたって、分割磁石51~54に発泡樹脂シート6が巻き付けられた場合を例示したが(図6(b)を参照)、もちろんこれには限定されない。例えば図示は省略するが、第一分割磁石51と第三分割磁石53とを跨ぐように発泡樹脂シート6が巻き付けられているのであれば、発泡樹脂シート6が巻き付けられる範囲を、分割磁石51~54の深さ方向(図6でいえば上下方向)の一部領域のみに限定してもよい。深さ方向端部(図6(b)の上端部と下端部)を除く範囲に発泡樹脂シート6が巻き付けられる範囲を限定することで、発泡樹脂シート6が主表面51a1~54a1,51a2~54a2から食み出る事態を確実に防止できるので、容易にかつ迅速に巻き付け作業を行うことが可能となる。
【0039】
また、以上の説明では、接着剤などの充填剤を供給することなく、分割磁石51~54を収容孔3内に位置決め固定する場合を例示したが、もちろんこれには限定されない。例えば充填剤の供給と、発泡樹脂シート6の発泡に伴う膨張を併用してもよい。すなわち図示は省略するが、図7に示す状態において、接着剤などの充填剤を供給し、然る後、発泡樹脂シート6を発泡に伴い膨張させて、分割磁石51~54と収容孔3との隙間を充足してもよい。なお、この際、加熱により固化する構造の充填剤と、加熱により発泡する構造の発泡樹脂シート6を用いることにより、充填剤の固化と発泡樹脂シート6の膨張を同時に行うことができ、高効率である。
【符号の説明】
【0040】
1 モータロータ
2 ロータコア
3 収容孔
3a,3b 内面
4 磁石
51,52,53,54 分割磁石
51a1,52a1,53a1,54a1 第一主表面
51a2,52a2,53a2,54a2 第二主表面
51b1,53b1 第一側面
51b2,54b2 第二側面
6 発泡樹脂シート
7 粘着層
8 低摩擦層
9 分割磁石の一体品
t1,t2,t3,t4 対向間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7