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  • 特開-ラミニン511の分解抑制用の組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055056
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ラミニン511の分解抑制用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20240411BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240411BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240411BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20240411BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240411BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A61K8/44
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K31/195
A61P17/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161657
(22)【出願日】2022-10-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金井 杏子
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 晃明
【テーマコード(参考)】
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC621
4C083AC622
4C083CC02
4C083EE12
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA44
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZC41
4C206ZC52
(57)【要約】
【課題】ヒト等に皮膚に用いるための皮膚機能の低下を防ぐための組成物、などを新たに提供する。
【解決手段】トラネキサム酸を含有する、皮膚でのラミニン511の分解抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸を含有する、皮膚でのラミニン511の分解抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ヒト等の皮膚に用いるための、トラネキサム酸を含有する、皮膚でのラミニン511の分解抑制用の組成物、などに関する。
【0002】
皮膚の表皮は、皮膚最外層に存在する皮膚組織である。表皮は、角層、顆粒層、有棘層、及び基底層から主に構成されている。基底層に存在する基底細胞が分裂し、外層へと移動する。この移動の過程で細胞において脱核が生じて扁平化し角層へと分化し、角層は最終的に剥がれ落ちる。このターンオーバーの期間はおよそ45日程度といわれている。しかし、老化した皮膚では、ターンオーバー速度が遅くなり、表皮全体が薄くなる。その結果、バリア機能の低下、水分含量の低下などの皮膚機能の低下が生じることが知られている(特許文献1)。
【0003】
ラミニンは、皮膚表皮などの基底膜を構成する重要なタンパク質である。ラミニンは、主要な細胞外マトリックスの1つであり、細胞の接着、移動、増殖等に関与するタンパク質である。ラミニンは、3つの異なるサブユニット(α鎖、β鎖、γ鎖)を有するヘテロ3量体分子である。これまでに、5種類のα鎖(α1、α2、α3、α4、α5)、3種類のβ鎖(β1、β2、β3)及び3種類のγ鎖(γ1、γ2、γ3)が見出されており、それらの組み合わせの違いによって、ラミニンには多数のアイソフォームが存在する。ラミニンファミリーのメンバーは、サブユニットの種類に従って命名される。例えば、α5鎖、β1鎖、γ1鎖からなるラミニンは、ラミニン511と称される(特許文献2)。ラミニンは、上皮と間質を境にして、上皮の発達をコントロールし、上皮の機能の発現に必須である(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2018/074606
【特許文献2】特開2021-023293
【特許文献3】特開2006-63033
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本血栓止血学会誌、2020年31巻4号、 p381からp387、脳神経系におけるプラスミノゲンアクチベータ-プラスミン系の役割:神経生理から病態へ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ヒト等の皮膚に用いるための皮膚機能の低下を防ぐための組成物を新規に提供すること、などである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ヒト表皮の基底膜を模した擬似基底膜(例えば、ラミニン511を含むもの)とヒト表皮細胞の培養液からなる擬似表皮組織に対してトラネキサム酸を添加することにより、擬似基底膜の分解を抑制できたこと(例えば、基底膜及び基底層の保護が可能であること)を新たに確認し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の項を含む。
〔項1〕トラネキサム酸を含有する、皮膚(ヒト表皮における基底膜と所定の細胞とを含む組織、など)でのラミニン511の分解抑制用組成物。
〔項2〕皮膚外用のための組成物の形態である、〔項1〕に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ヒト等の皮膚に用いるための皮膚機能の低下を防ぐための組成物、などを新規に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験1で行ったウェスタンブロットの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
(トラネキサム酸)
トラネキサム酸は、トランス-4-アミノメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸の略称である。トラネキサム酸類は、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸エステル、トラネキサム酸アミド、及びトラネキサム酸の多量体などを意味する。トラネキサム酸塩における塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等の金属塩;塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の無機酸塩が挙げられる。トラネキサム酸エステルにおけるエステルとしては、例えば、ビタミンAエステル、ビタミンEエステル、ビタミンCエステル等のビタミンエステル、アルキルエステルが挙げられる。また、トラネキサム酸アミドにおけるアミドとしては、例えば、メチルアミド等が挙げられる。
【0013】
本発明においてトラネキサム酸には、トラネキサム酸の誘導体も含まれる。トラネキサム酸の誘導体は、例えば、トラネキサム酸の二量体(塩酸トランス-4-(トランス-4-アミノメチルシクロヘキサンカルボニル)アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸)、トラネキサム酸とハイドロキノンのエステル体(トランス-4-アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸4’-ヒドロキシフェニルエステル)、トラネキサム酸とゲンチシン酸のエステル体(2-(トランス-4-アミノメチルシクロヘキシルカルボニルオキシ)-5-ヒドロキシ安息香酸およびその塩)、トラネキサム酸のアミド体(トランス-4-アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸メチルアミドおよびその塩、トランス-4-アセチルアミノメチルシクロヘキサンカルボン酸およびその塩、トランス-4-(p-メトキシベンゾイル)アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸およびその塩、トランス-4-グアニジノメチルシクロヘキサンカルボン酸およびその塩等)、等が挙げられる。
【0014】
本発明の組成物に含有されるトラネキサム酸(当該トラネキサム酸の誘導体も含む)から選ばれた一種または二種以上の含有量には特に限定はないが、所望の効果を発揮するために、一般には組成物全量に対してのトラネキサム酸の含有量は、好ましくは0.001重量%以上、更に好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上、である。また、所望の効果等(例えば、一定量超えて配合しても効果の増加が実質上望めない、皮膚外用剤の処方における配合も難しくなる傾向など)を考慮して、一般には組成物全量に対してトラネキサム酸の含有量は、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、更に好ましくは7重量%以下、である。
【0015】
(ラミニン511の分解抑制)
ラミニン511は紫外線により、分解される。紫外線により基底膜がダメージを受けることでシワ、しみの形成を引き起こされる。どのような因子が関与してラミニン511の分解が起こるかについて、解明されていないことが多い。ただし、脳神経機能の調節においては、現時点では次のことが解明等されている(非特許文献1)。
【0016】
プラスミノゲンアクチベータ-プラスミン(plasminogen activator-plasmin、PA-Plm)系は、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tissue PA,tPA)およびウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(urokinase PA、uPA)によりプラスミノゲン(plasminogen、PLG)が限定分解されプラスミンが生成される反応である。
プラスミン(plasmin(Plm))は、神経細胞の足場となるラミニンや、ペリニューロナルネットの構成成分であるニューロカンなどの細胞外マトリックスを基質として分解する。しかし、この細胞外マトリックスの分解によって神経突起の形成や樹状突起スパインの運動性が促進されることから、プラスミンが神経の可塑性を亢進することが示唆される。プラスミンの作用により、LTP(long-term potentiation、長期増強、神経細胞間シグナル伝達の持続的な向上)が障害されることや,神経変性および神経細胞死が誘発されること,海馬の苔状線維の軸索ガイダンスが破綻することが報告されている。この破綻のメカニズムは、プラスミンによるラミニンの分解や単球遊走因子であるmonocyte chemotactic protein-1の活性化、と示唆されている。これらのプラスミンによる神経毒性作用は,tPA(組織型プラスミノゲンアクチベータ、tissue plasminogen activator)及びプラスミンの発現が誘導される神経興奮毒性モデル、培養細胞に対するプラスミンの添加実験系で示されていることから、プラスミンの過剰な細胞外タンパク質分解作用によるものと考えられている。また、脳内での過剰なtPA-Plm系の活性化は小脳のプルキンエ細胞の樹状突起形成やシナプス形成を抑制することが明らかにされている。tPAあるいはPlm欠損マウスが拘束ストレス誘発性の記憶学習能力低下に対して耐性を示すことや、拘束ストレスにより少なくとも扁桃体におけるtPA活性が増加することから、ストレスによるtPA-Plm系の亢進が記憶学習過程でのシナプス活動を障害すると考えられる。また、扁桃体基底外側部でのプラスミン活性の阻害により社会的敗北ストレスによる社会的回避が減少することから、プラスミンは抑うつ関連行動を誘発する神経回路の形成あるいは再編成にも関与していると推測される。
【0017】
以下実施例では、ヒト表皮の基底膜を構成する成分(例えばラミニン511)を含む擬似表皮基底膜において、トラネキサム酸の添加がuPA及びPLGによるラミニン511の分解を抑制したことを示す。
【0018】
(組成物の形態)
本発明による組成物(皮膚外用のための組成物など)は、アンプル、カプセル、粉末、顆粒、液体、ゲル、気泡、エマルジョン、シート、ミスト、スプレー剤等利用上の適当な形態の1)医薬品類、2)医薬部外品類、3)局所用又は全身用の皮膚外用剤類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等の基礎化粧料、固形石鹸、液体ソープ、ハンドウォッシュ等の洗顔料や皮膚洗浄料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、除毛剤、脱毛剤、髭剃り処理料、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧料、香水類、美爪剤、美爪エナメル、美爪エナメル除去剤、パップ材、プラスター材、テープ剤、シート材、貼付剤、エアゾール剤等)、4)頭皮・頭髪に適用する薬用又は/及び化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス材、ヘアートリートメント材、プレヘアートリートメント材、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤等)、5)浴湯に投じて使用する浴用剤、6)その他、腋臭防止剤や消臭剤、制汗剤、衛生用品、衛生綿類、ウエットティシュ等が挙げられる。
【0019】
また、このような組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損ねない範囲で、例えば、通常化粧料に使用する成分、すなわち油性成分、低級アルコール、多価アルコール、保湿剤等の水性成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、美容成分、防腐剤、油溶性樹脂、染料、清涼剤、色素、香料等を本発明の効果を妨げない範囲で適宜含有することもできる。
【0020】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例0021】
以下、本発明の実施例について、説明する。以下、実施例で挙げる実験で用いた実験材料などは次の通りである。
・KGM培地:KGMtm Gold Keratinocyte Growth Medium BulletKittm、Calcium Free、Lonza、00195769
・PLG:プラスミノゲン、Sigma-Aldrich、528180
・uPA:ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ、R&D systems、1310-SE-010
・TXA:トラネキサム酸、日本薬局方トラネキサム酸
・iMatrix-511:ヒト表皮基底膜のモデル(足場)、ラミニン511-E8フラグメントと同一の配列を有する組換えタンパク質、ニッピ株式会社(892011、892012)
・Bradford法:ブラッドフォード プロテインアッセイキット(BIORAD)を用いてタンパク質定量を行った。このキットの仕様書に沿って、サンプル溶液(タンパク質含有)とクーマシーブルー試薬をよく混和し、タンパク質を含まないバックグラウンドとの波長595nmにおける吸光度の差を分光光度計で測定した。タンパク質濃度が明らかな標準サンプル(スタンダード、下記実験1ではBSA:ウシ血清アルブミンを使用)の吸光度から描いた標準直線から、タンパク質濃度を求めた。
【0022】
(実験1:トラネキサム酸の添加によるラミニン511の分解抑制の有無の確認)
ヒト表皮基底膜のモデル(iMatrix-511)において、トラネキサム酸の添加によりラミニン511(基底膜を構成する因子)の分解抑制効果を確認することにより、当該有無の確認を行った。
【0023】
(実験方法)
(1)所定の試料を添加しての擬似基底膜(iMatrix511)のインキュベート
表皮細胞の培養に使用する専用培地であるKGM培地に対して、表1に示す下記試料を混合し、iMatrix-511をコーティングしたディッシュに添加した。なお、表1に示す試料の添加は、以下の群を作製するように行った。
【0024】
【表1】
【0025】
当該表1記載の試料を添加後、5%CO、37℃の条件で、16時間培養した。
【0026】
(2)ウェスタンブロットに用いるためのサンプルの準備
当該(1)の16時間培養後、Passive Lysis Buffer 5x (Promega製)およびcOmplete(TM),Miniプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche製)、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を含む抽出溶液にて、iMatrixを回収した。ボルテックスおよび凍結融解後、遠心分離により得られた上清をβ-メルカプトエタノールで還元しさらに熱変性させ、これをウェスタンブロットに供するサンプルとした。
【0027】
(3)ウェスタンブロット
当該(2)にて回収した各群(試験例1から5)のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルで分離した。常法のポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により電気泳動後、PVDF膜(トランスブロットTurbo転写パック(BioRad))にブロットした。メンブレンはブロッキングバッファー PVDF Blocking Reagent (TOYOBO) で1時間ブロックした。次いでメンブレンをウォッシングバッファー(0.1%Tweenを含むトリス緩衝塩水)で洗浄した。その後、メンブレンをCan Get Signal Solution1 (TOYOBO)中で、抗Lamininα5抗体(abcam、ab14509)と共に 一晩4℃にてインキュベートした。次いでブロットをウォッシングバッファーにて洗浄し、二次抗体(cytiva)と共に1時間室温にてインキュベートした。そして、二次抗体の結合後、所定のウォッシングバッファーで洗浄後、ECL-PLUSウエスタンブロッティング検出試薬(Amersham)にてLamininα5を検出した。バンドの強度をデンシトメトリー解析し、対照と比較した。
【0028】
(実験結果)
実験結果を図1に示す。図1において、一番左のレーンにマーカーのバンドを示している。分子量100kDa付近で示されているバンドが、Lamininα5を示すバンドである。各群のバンドの強度は、試験例1を1.000とした場合、試験例2は0.303、試験例3は0.400、試験例4は0.499、試験例5は0.853、であった。当該実験結果は、ヒト表皮基底膜のモデルにおいて、トラネキサム酸の添加がuPA及びPLGによるラミニン511の分解を抑制する、という結果であった。
【0029】
以上、本発明の実施の形態(実施例も含め)について、図面を参照して説明してきたが、本発明の具体的構成は、これに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、設計変更等があっても、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、ヒト等に皮膚に用いるための皮膚機能の低下を防ぐための組成物、などとして利用される。
図1