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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055068
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】落雷データ記録装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 9/00 20060101AFI20240411BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240411BHJP
   G01R 15/18 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G01D9/00 A
G01R19/00 B
G01R15/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161671
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000145954
【氏名又は名称】株式会社昭電
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】柳川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】大林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 和男
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 直二
【テーマコード(参考)】
2F070
2G025
2G035
【Fターム(参考)】
2F070AA01
2F070BB06
2F070CC01
2F070CC06
2F070CC11
2F070DD10
2F070DD20
2F070FF12
2F070GG07
2F070HH08
2G025AA00
2G025AB14
2G025AC01
2G035AA00
2G035AB00
2G035AB13
2G035AC05
2G035AD20
2G035AD26
2G035AD28
2G035AD32
(57)【要約】
【課題】磁界センサとしてバーアンテナを用いることでセンサの小型化、低コスト化を図ると共に、広帯域の雷撃電流に対してそのピーク値及び電荷量を演算・記録可能とした落雷データ記録装置を提供する。
【解決手段】建造物への落雷時に雷撃電流の微分値相当の電圧を出力する磁界センサ21としてのバーアンテナと、その出力電圧を積分し増幅する積分・増幅回路11と、積分・増幅回路11の出力に基づいて雷撃電流の正または負のピーク値及び電荷量を演算し、記録する演算記録部14と、建造物への落雷時に発生する磁束を複数の補助磁界センサ41により同時に検出した際のトリガ信号を検出するトリガ検出部13と、を備え、トリガ信号の検出時に演算記録部14を起動して前記ピーク値及び電荷量を演算・記録する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の外周部に設置され、かつ、前記建造物への雷撃時に発生する磁界を検出して雷撃電流の微分値に相当する電圧を出力する磁界センサとしてのバーアンテナと、
前記バーアンテナの出力電圧を積分して増幅し、雷撃電流に相当する電圧を出力する積分・増幅回路と、
前記積分・増幅回路の出力に基づき、雷撃電流の正または負のピーク値を検出すると共に雷撃電流を所定時間にわたり積分して電荷量を演算し、前記ピーク値及び前記電荷量を記録するディジタル回路からなる演算記録部と、
前記建造物への雷撃時に発生する磁束を複数の補助磁界センサにより同時に検出して発生させたトリガ信号を検出するトリガ検出部と、
を備え、
前記演算記録部は、前記トリガ信号に応じて前記ピーク値及び前記電荷量を演算し記録することを特徴とする落雷データ記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載した落雷データ記録装置において、
前記複数の補助磁界センサを、前記建造物の外周部に設置したことを特徴とする落雷データ記録装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、
前記演算記録部は、所定の閾値を超える正のピーク値または負のピーク値を記録することを特徴とする落雷データ記録装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、
前記演算記録部は、所定の閾値を超える電荷量を記録することを特徴とする落雷データ記録装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、
前記演算記録部による記録内容を含む警報を外部に出力する警報出力部を備えたことを特徴とする落雷データ記録装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、
前記演算記録部による記録内容を着脱可能な記録媒体に記録させることを特徴とする落雷データ記録装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載した落雷データ記録装置の全体の基準電圧を、所定期間にわたって一定値に保つことを特徴とする落雷データ記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の構造物、例えば風力発電設備の鉄塔に落雷した際に、雷撃電流のピーク値、及び、雷撃エネルギーに相当する電荷量を測定して記録する落雷データ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、風力発電設備の鉄塔などの構造物やその周辺における落雷を検知する雷撃検知装置が記載されている。
この雷撃検知装置では、構造物の外周部に複数の磁界センサを配置し、落雷時に各磁界センサによって測定される出力信号の波形またはその積分波形或いは二重積分波形に基いて、構造物自体またはその周辺への落雷を判別している。
【0003】
また、特許文献2には、雷撃電流検出用の磁界センサ(電流センサ)を含む雷撃電流計測部と、雷撃電流のピーク値を演算する波高値演算部と、雷撃電流の電荷量を演算する電荷量演算部と、雷撃時のトリガ発生に基づき上記ピーク値及び電荷量を取得してこれらをトリガ発生時刻と共に記憶媒体に記憶させる演算処理部と、を備えた雷撃電流計測装置が記載されている。
この雷撃電流計測装置によれば、磁界センサによる検出値をディジタル演算処理して雷撃電流のピーク値及び電荷量を求めることができる。
【0004】
更に、特許文献3には、雷撃電流を測定するためのロゴウスキーコイルからなる電流プローブが記載され、特許文献4には、強磁性体からなるコアとこれに巻回されたコイルとからなる磁界センサを用いて、風力発電システムの風車ブレードへの直撃雷の有無を検出する技術が開示されている。
また、特許文献5には、送電鉄塔にセンサーコイルを設置して落雷を受けた鉄塔の位置を通報する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6601678号公報
【特許文献2】特開2006-275845号公報
【特許文献3】特開2000-65866号公報
【特許文献4】特開2013-19753号公報
【特許文献5】特開平8-136605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された雷撃検知装置によれば、落雷箇所が構造物であるかその周辺であるかを判別可能であるが、電荷量の測定・記録機能を備えていない。
また、特許文献2に記載された雷撃電流計測装置では、雷撃電流のピーク値や電荷量を測定できる一方で、磁界センサが例えばロゴウスキーコイルによって構成されているため、装置の大型化やコスト高を招いていた。
【0007】
特許文献3に記載された電流プローブは、リング状のロゴウスキーコイルを複数のユニットに分割して相互に接続することにより構成されている。これにより、大口径かつ単一のロゴウスキーコイルを用いる場合に比べて雷撃電流を一層高精度に測定可能とし、しかも、コイル及び浮遊容量からなる並列共振回路の共振周波数を高く保って低周波数から高周波数までの周波数特性を改善することができるが、電流プローブの大型化や高コスト化が避けられず、組立作業、接続作業も煩雑であった。
また、特許文献2,3のように、ロゴウスキーコイルを風力発電システムの鉄塔塔脚の外周面に設置する場合、鉄塔塔脚の外径に合わせてコイルの大きさやその出力を積分する積分回路を設計しなくてはならず、これもコスト高の一因となっていた。
更に、特許文献4,5に記載された従来技術によれば、センサの小型化や取扱いの容易化が図れるとしても、基本的には落雷の検出や雷撃電流の最大値の測定を目的としており、雷撃エネルギーに相当する電荷量の測定については何ら言及されていない。
【0008】
そこで、本発明の解決課題は、磁界センサとして磁性体コア及びコイルからなるソレノイドコイル状のバーアンテナを用いることでセンサの小型化、低コスト化を図り、鉄塔塔脚の外径等の相違に左右されずに設置場所の自由度を高めると共に、周波数特性を改善して広帯域の雷撃電流のピーク値及び電荷量を測定可能とした落雷データ記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、建造物の外周部に設置され、かつ、前記建造物への雷撃時に発生する磁界を検出して雷撃電流の微分値に相当する電圧を出力する磁界センサとしてのバーアンテナと、
前記バーアンテナの出力電圧を積分して増幅し、雷撃電流に相当する電圧を出力する積分・増幅回路と、
前記積分・増幅回路の出力に基づき、雷撃電流の正または負のピーク値を検出すると共に雷撃電流を所定時間にわたり積分して電荷量を演算し、前記ピーク値及び前記電荷量を記録するディジタル回路からなる演算記録部と、
前記建造物への雷撃時に発生する磁束を複数の補助磁界センサにより同時に検出して発生させたトリガ信号を検出するトリガ検出部と、
を備え、
前記演算記録部は、前記トリガ信号に応じて前記ピーク値及び前記電荷量を演算し記録するものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した落雷データ記録装置において、前記複数の補助磁界センサを、前記建造物の外周部に設置したものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、前記演算記録部は、所定の閾値を超える正のピーク値または負のピーク値を記録するものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、前記演算記録部は、所定の閾値を超える電荷量を記録するものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、前記演算記録部による記録内容を含む警報を外部に出力する警報出力部を備えたものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1または2に記載した落雷データ記録装置において、前記演算記録部による記録内容を着脱可能な記録媒体に記録させるものである。
【0015】
なお、請求項7に記載するように、請求項1または2に記載した落雷データ記録装置全体の基準電圧を、所定期間にわたって一定値に保つことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁界センサとして磁性体コア及びコイルからなるバーアンテナを用いたことにより、ロゴウスキーコイル等を用いる従来技術に比べてセンサの小型化、低コスト化を図り、鉄塔塔脚等の建造物への設置を容易にすることができる。特に、鉄塔塔脚の外径の相違等に影響されることなく、建造物の任意の位置に設置することが可能である。
また、コイルを含む共振回路の共振周波数を高く保って低周波数から高周波数に至る周波数特性を改善し、広帯域の雷撃電流に対してそのピーク値及び電荷量を高精度に測定して記録することができる。
更に、建造物に雷撃電流が流れたことを複数の補助磁界センサが検出した時にトリガ信号を発生させ、このトリガ信号に基づいて演算記録部を起動しているので、建造物の周辺への落雷時などに不要な落雷データによってメモリが使用されるのを防ぎ、建造物への直撃雷による落雷データのみを正確に測定して記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る落雷データ記録装置の全体構成図である。
図2図1における磁界センサの一例を示す構成図である。
図3】(a),(b)は、コイルのインダクタンス及び浮遊容量からなる共振回路の周波数特性を示す図である。
図4図1における積分・増幅回路の一例を示す回路図である。
図5図4における積分回路の周波数特性を示す図である。
図6】トリガ信号発生部の一例を示す回路構成図である。
図7】風力発電設備の鉄塔に対する各センサの配置を示す平面図である。
図8】風力発電設備の全体構成図である。
図9】(a)は鉄塔自体への落雷時、(b)は鉄塔外部への落雷時、における磁束の様子を概念的に示した平面図である。
図10】鉄塔への落雷時における雷撃電流の一例を示す波形図である。
図11】雷撃電流の補正範囲を説明するための波形図である。
図12】基準電圧の補正範囲を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る落雷データ記録装置1の全体構成図である。この落雷データ記録装置1は、装置本体10、磁界センサ21、及び時刻計測部22を備えている。
【0019】
始めに、磁界センサ21について説明する。
図2は磁界センサ21の一例を示しており、フェライト等の磁性材料からなるコア211と、コア211に巻かれたコイル212と、を備えたバーアンテナにより構成されている。コア21の形状は円柱状に限らず、角柱状であっても良い。
【0020】
例えば、落雷データ記録装置1を風力発電設備の鉄塔への雷撃電流の測定・記録に使用する場合、鉄塔の外周部(外周面やその近傍)に上記磁界センサ21を設置しておく。この状態で鉄塔に落雷し、鉄塔から大地に流れる雷撃電流により発生した磁束がコア211を通過してコイルに鎖交すると、コイル212の端部212a,212b間に接続された抵抗213には雷撃電流の微分波形に相当する電圧が発生する。この電圧を積分すれば雷撃電流波形を得ることができ、この波形から雷撃電流の正負のピーク値が得られると共に、雷撃電流波形を所定時間にわたって積分すれば雷撃エネルギーに相当する電荷量を求めることができる。
【0021】
例えば、周波数帯域が0.1[Hz]~100[kHz]の雷撃電流のように低周波領域を含む雷撃電流を空芯のアンテナにより測定する場合には、コイルの巻数を多くすれば低周波領域も測定可能になるが、コイルの巻数を多くするほどコイルと浮遊容量とからなる共振回路の共振周波数は低くなる。
図3(a)は上記共振周波数に応じたゲインの変化を概念的に示したものである。理想的な共振周波数がfであるとすると、空芯のアンテナではコイルの巻数を多くするほど共振周波数がfのように低域側に移動するため、高域側では所望のゲインを得ることが困難になる。
そこで、本実施形態では、磁界センサ21として、磁性材料のコア211を備えてコイル212の巻数を所定値以下に抑えたバーアンテナを用いることにより、図3(b)に示す如く共振周波数を周波数f近傍に維持し、また、後述する積分・増幅回路11の動作により広い周波数帯域にわたって所望のゲインを確保するようにした。
【0022】
図1に戻って、落雷データ記録装置1は、上記磁界センサ21の出力電圧を装置本体10に取り込んで雷撃電流の正負のピーク値及び電荷量の演算・記録、警報出力等を行う。
すなわち、装置本体10は、磁界センサ21の出力電圧を積分して増幅する積分・増幅回路11と、外部からのトリガ信号に基づき、積分・増幅回路11の出力を雷撃電流波形に変換し、その正負ピーク値及び所定期間の電荷量を演算して内部メモリに記録する演算処理回路12と、記録したデータに基づいて外部の制御盤等に警報を出力する警報出力部15と、USBメモリやメモリカード等の着脱可能な記録媒体16と、所定のプログラムに従って上記各部の動作を制御する制御部17と、上記各部に電源を供給する電源部18と、を備えている。
【0023】
ここで、演算処理回路12は、後述するトリガ信号発生部(図6を参照)からのトリガ信号が入力されるトリガ検出部13と、ピーク値演算記録手段14a及び電荷量演算記録手段14bを有する演算記録部14とを備え、その全体がCPU等を含むディジタル回路により構成されている。演算記録部14は、トリガ検出部13がトリガ信号を検出した場合に起動されるものである。
なお、トリガ検出部13は、演算処理回路12の外部に設けても良い。
【0024】
次に、積分・増幅回路11の一構成例を、図4に基づいて説明する。
図4において、11a,11bは磁界センサ21の出力電圧(図2の端子212a,212b間の電圧)が印加される入力端子であり、これら入力端子11a,11bの間には、抵抗RとコンデンサCとが直列に接続されている。
抵抗RとコンデンサCとの接続点は、積分回路を構成する第1のオペアンプOPの非反転入力端子に接続され、コンデンサCの他端(入力端子11b)は抵抗Rを介してオペアンプOPの反転入力端子に接続されている。
【0025】
オペアンプOPの帰還回路には、コンデンサCと抵抗R,Rの直列回路との並列回路が接続され、抵抗R,R同士の接続点は抵抗Rを介して共通帰線11eに接続されている。
オペアンプOPの出力端子は、抵抗R,Rの直列回路を介して、非反転増幅回路を構成する第2のオペアンプOPの非反転入力端子に接続され、抵抗R,R同士の接続点は、半導体スイッチング素子等からなるリセットスイッチSWを介して共通帰線11eに接続されている。上記リセットスイッチSWは、落雷のない平常時にオンさせて前記コンデンサCを速やかに放電させるためのものである。
【0026】
オペアンプOPの反転入力端子は、抵抗Rを介して共通帰線11eに接続されている。また、オペアンプOPの帰還回路には抵抗Rが接続され、オペアンプOPの出力端子は抵抗R10を介して一方の出力端子11cに接続されている。11dは他方の出力端子であり、出力端子11c,11d間の電圧は前述の演算記録部14に入力されている。
【0027】
さて、一般的にバーアンテナは、ロゴウスキーコイルと異なり、磁気回路的に閉ループではなく開放型のセンサであるため鎖交磁束が少なくなり、磁界センサとして確保できる出力ゲインが限られている。出力ゲインを大きくするには、コイルの巻数を多くすれば良いが、前述したように共振周波数の低下を招く懸念がある。
一方、コイルの巻数を少なくして測定する場合には、単に低域側の信号を大きく増幅可能な積分回路を設計すれば良いが、その場合には直流ノイズ成分も同様に増幅されて測定誤差の原因になるため、本発明のように落雷データとして電荷量も測定する用途では、直流ノイズ成分をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0028】
そこで、図4の積分・増幅回路11においては、磁界センサ21の出力電圧(雷撃電流の微分波形に相当する電圧)を抵抗R及びコンデンサCからなるローパスフィルタを介して第1のオペアンプOPに入力し、磁界センサ21と積分回路との周波数特性を整合させると共に、オペアンプOPの帰還回路のコンデンサCの容量を適切な値に選定することで、雷撃電流の低周波領域におけるゲインを確保しつつ直流ノイズ成分を遮断している。
【0029】
図5は、コンデンサCの容量を変化させた時の周波数特性を示し、基準容量をCとして±Cα増減させた場合の特性図である。図5における(C-Cα)の特性から明らかなように、積分動作に支障のない範囲でコンデンサCの容量を見かけ上、小さくすれば、低周波域におけるゲインを高く維持すると共に、直流ノイズの低減も可能になる。
上述した第1のオペアンプOPの積分動作により雷撃電流に相当する電圧が出力され、この電圧は第2のオペアンプOPにより(1+R/R)倍に増幅されて演算記録部14に入力される。
【0030】
以上のように構成された装置本体10には、演算記録部14による記録データを表示するための液晶表示部等(図示ぜず)を備えることが望ましい。また、無線または有線により接続されるパソコン30を用いて装置本体10の動作を制御しても良い。
なお、時刻計測部22は落雷発生時刻を計測するためのものであり、例えばGPS発信機のタイマ機能を用いて時刻を計測する。図1では、時刻計測部22が装置本体10の外部に配置されているが、装置本体10に内蔵されたタイマにより落雷発生時刻を計測しても良い。
【0031】
次に、トリガ検出部13に入力されるトリガ信号の発生方法につき説明する。
図6は、トリガ信号発生部の一例を示す回路構成図である。図6において、41は複数の補助磁界センサであり、例えば風力発電設備の鉄塔の外周部(外周面またはその近傍)に、磁界センサ21と共に設置されている。これらの補助磁界センサ41の出力は比較回路(一致回路)42に入力されており、比較回路42は、複数の補助磁界センサ41が同時に検出した磁束に相当する電流値または電圧値がほぼ等しいことを検出してトリガ信号を出力する。
【0032】
図7は、磁界センサ21と共に補助磁界センサ41を円柱状の鉄塔102の外周面に設置した場合の概略平面図である。図7では3個の補助磁界センサ41が示されているが、更に多数の補助磁界センサ41を設置しても良い。
補助磁界センサ41としては、磁界センサ21と同様にバーアンテナを用いても良いし、ホール素子や磁気抵抗素子を用いても良い。
図8は風力発電設備100の全体構成図であり、101は鉄塔102の基礎部、103は風車のブレード、Gは大地を示す。
【0033】
次に、図9は、鉄塔102自体への雷撃時(図9(a))と鉄塔102の外部への雷撃時(図9(b))における、雷撃電流により発生した磁束の様子を模式的に示した平面図である。
鉄塔102への雷撃時には、図9(a)に示すように、雷撃電流300により発生した磁束301が鉄塔102の外周部に同心円状に発生して複数の補助磁界センサ41により同時に検出される。これにより、複数の補助磁界センサ41の出力値はほぼ等しい大きさになるため、図6に示したトリガ信号発生部43の比較回路42からトリガ信号が出力される。このトリガ信号を図1のトリガ検出部13が検出して演算記録部14(ピーク値演算記録手段14a及び電荷量演算記録手段14b)が起動される。
【0034】
一方、鉄塔102の外部への落雷時には、図9(b)に示すように、雷撃電流による磁束302(または磁束303若しくは磁束304)が一部の補助磁界センサ41のみに鎖交し、あるいはどの補助磁界センサ41にも鎖交しない状態になる。
このように、複数の補助磁界センサ41の出力値が等しくない場合、または、複数の補助磁界センサ41の出力値が0である場合には、図6の比較回路42からトリガ信号が出力されないため、演算記録部14が起動されることはない。
【0035】
次いで、図10は、鉄塔102への落雷時において積分・増幅回路11から出力される雷撃電流の一例を示す波形図である。前述したように、落雷による雷撃電流が鉄塔102に流れると、トリガ信号により演算記録部14が起動されてピーク値演算記録手段14a及び電荷量演算記録手段14bが動作を開始する。
【0036】
図10において、I,I,I,……は一定のサンプリング間隔Δtによりサンプリングした雷撃電流Iのピーク値であり、ピーク値演算記録手段14aは雷撃電流Iの正のピーク値I,I,I,……を検出して内部メモリに記録する。なお、雷撃電流Iが負極性である場合には、同様にして雷撃電流Iの負のピーク値を検出して内部メモリに記録する。
また、電荷量演算記録手段14bは、図10における隣り合う二つのサンプリング時刻のピーク値(例えばIとI、IとI、……)の平均値にサンプリング間隔Δtを乗算し、斜線で示す領域の電荷量Q,Q,……を求める(Q={(I+I)/2}×Δt,Q={(I+I)/2}×Δt,……)。その後、これらの電荷量Q,Q,……を積算して雷撃電流全体の電荷量Qを演算し(Q=Q+Q+……)、これを内部メモリに記録する。
【0037】
そして、内部メモリに記録されたピーク値及び電荷量に応じて警報出力部15が動作し、鉄塔102への落雷を示す警報を外部の制御盤に出力して発電設備等の保守・点検を促すと共に、ピーク値及び電荷量が記録媒体16に記録される。これらの記録データには、時刻計測部22による計時情報(落雷の年月日、時刻等)が付加される。
上記の警報や記録データは、装置本体10に設けられたディスプレイに表示されると共に、必要に応じてパソコン30のディスプレイにも表示される。
【0038】
ピーク値演算記録手段14aは、所定の閾値を超えた正負のピーク値のみを記録しても良いし、電荷量演算記録手段14bも、所定の閾値を超えた電荷量のみを記録するようにしても良い。また、警報出力部15は、正負のピーク値または電荷量が所定の閾値を超えたことを警報として出力するほか、その時のピーク値自体や電荷量自体を警報として出力しても良い。上述した各閾値は、建造物の種類や場所等に応じて可変にすることが望ましい。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、鉄塔102自体への落雷データを収集して解析したい用途において、トリガ信号を利用することにより、鉄塔102への落雷(直撃雷)による所定周波数領域の雷撃電流の正負ピーク値及び電荷量を必要データとして演算し、記録することができる。このため、演算処理及び記録するデータ量を少なくしてメモリ容量を節約することが可能である。
ちなみに、発明者による試験では、鉄塔102への落雷時に周波数帯域が0.1[Hz]~100[kHz]で最大電荷量600[C]までの雷撃電流の正負ピーク値及び電荷量を測定可能であり、JIS C1400-24 附属書JAによりクラス分けされたクラスIに対応可能な落雷データ記録装置を実現している。
【0040】
なお、この実施形態において、外乱ノイズによる影響を低減させるために、図11に示すように、トリガ電流以下の電流値を0[kA]に補正する処理を行うことが望ましい。ここで、トリガ電流とは、実際に測定したい雷撃電流の正負のしきい値である。
【0041】
また、電荷量を正確に求めるには、上述したように低周波領域の信号についても正確に測定する必要がある。しかし、周波数特性を満足していても、雷撃電流が0[kA]である時の装置全体の基準電圧(図1における積分・増幅回路11、演算処理部12、警報出力部15、制御部17等の基準電圧)が僅かでも変動してしまうと、その変動分が信号源となって測定に悪影響を与える。基準電圧が変動する要因としては、電源電圧自体の変動や外部温度の変化等が挙げられる。特に、本実施形態の落雷データ記録装置を風力発電設備と共に屋外に設置する場合には、昼夜で温度変化が大きくなると基準電圧の変動が測定精度の低下を招く。従って、雷撃電流のピーク値や電荷量の測定精度を向上させるために、基準電圧に変動があってもこれを一定値に維持するように補正することが望ましい。
基準電圧を補正する方法としては、トリガ信号が発生してから、プリトリガの前半部分でオフセットをかける方式があるが、この方式によると、プリトリガの前半部分に既に信号があった場合には、測定結果に影響を与えてしまう。
そこで、上記の問題を解決する補正方法の一例としては、例えば1[μs]のサンプリングで5000回(=5[ms]間)の基準電圧の平均値を制御部17のCPUのバッファに一時的に格納し、トリガ信号が検出される前から一定期間にわたって基準電圧を一定値(上記平均値)に補正すれば良い。図12は、基準電圧補正範囲(例えば5[ms])内で変動する基準電圧の平均値を求めることにより、一定の基準電圧を得る様子を概念的に示している。
【0042】
本発明は風力発電設備の鉄塔に限らず、送電鉄塔やビル等への落雷時に雷撃電流のピーク値や電荷量を測定・記録する落雷データ記録装置としても用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1:落雷データ記録装置
10:装置本体
11:積分・増幅回路
11a,11b:入力端子
11c,11d:出力端子
11e:共通帰線
12:演算処理回路
13:トリガ検出部
14:演算記録部
14a:ピーク値演算記録手段
14b:電荷量演算記録手段
15:警報出力部
16:記録媒体
17:制御部
18:電源部
21:磁界センサ
211:コア
212:コイル
212a,212b:端部
213:抵抗
22:時刻計測部
30:パソコン(PC)
41:補助磁界センサ
42:比較回路(一致回路)
43:トリガ信号発生部
100:風力発電設備
101:基礎部
102:鉄塔
103:ブレード
300:雷撃電流
301~304:磁束
G:大地
OP,OP:オペアンプ
~R10:抵抗
,C:コンデンサ
SW:リセットスイッチ
図1
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図12