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特開2024-55069酸窒化物を触媒担体とするアンモニア分解触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055069
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】酸窒化物を触媒担体とするアンモニア分解触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20240411BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240411BHJP
   C01B 21/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B01J27/24 M
C01B3/04 B
C01B21/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161673
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】北野 政明
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】横山 壽治
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 気八
(72)【発明者】
【氏名】宮下 和聡
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB11A
4G169BB11B
4G169BB20A
4G169BB20B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC29A
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC65A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169CB81
4G169DA06
(57)【要約】
【課題】低い反応温度かつ低い反応圧力でも高いアンモニア分解活性を有し、かつ大気中、水中に暴露しても反応を繰り返しても触媒活性の低下が見られないアンモニア分解触媒を提供する。
【解決手段】本発明のアンモニア分解触媒は、担体に遷移金属を担持したものである。前記担体が、下記一般式(1)で表わされる酸窒化物である。
l-x (1)
(前記一般式(1)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に遷移金属を担持したアンモニア分解触媒であって、
前記担体が、下記一般式(1)で表わされる酸窒化物である
ことを特徴とするアンモニア分解触媒。
l-x (1)
(前記一般式(1)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表す。)
【請求項2】
前記遷移金属が、周期表第8族、9族及び10族金属元素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記遷移金属が、Ru、Fe、Co、Niからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
前記遷移金属が、Niであることを特徴とする請求項3に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒からなる触媒層に、体積分率0.1~100%のアンモニアガスを連続的に供給し、0.01MPa~1.0MPaの反応圧力及び300~800℃の反応温度下、重量空間速度(WHSV)500/mlg-1-1以上で接触分解反応させる工程と、を含むことを特徴とする水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸窒化物を触媒担体とするアンモニア分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア分解は、吸熱反応であり高温になるほど熱力学的に生成物側に有利となる。ルシャトリエの原理から低圧の方が生成物側に有利である。この点は、発熱反応であるアンモニア合成と大きく異なり、アンモニア合成では低温ほど熱力学的にアンモニア生成側に有利であり、高圧ほど生成物側に有利である。また、アンモニア合成では、一般的にN分子解離過程が律速段階であり、金属-窒素結合に対して火山型の活性序列が存在し、最適な窒素結合エネルギーを持つRuが最大活性を示す。一方、アンモニア分解では、N-H結合切断は比較的容易に進行し、金属上の原子状窒素種がN分子として会合脱離する過程が律速段階と言われている。この場合も、最適な窒素結合エネルギーを持つRuが最大活性を示すため、アンモニア合成と共通する。一方、Ni系触媒は、窒素結合エネルギーがRuに比べて小さく、ほとんどアンモニア合成活性を示さないことが知られているが、アンモニア分解ではRu触媒には及ばないものの非貴金属触媒の中では比較的高い触媒活性を示す。
【0003】
アンモニア分解反応において通常酸化物や炭素などにNiを固定した触媒では、600℃以上の高温にしてはじめてアンモニア転化率が90%を超えるものが多く、Ru系触媒と比較すると作動温度領域が100℃~200℃程度高くなる(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、担持金属としてRuの代わりにNi担持CaNH触媒を用いても、効率よくアンモニアを分解することができることが報告されている(例えば非特許文献1)。これは、Ni表面が活性点ではなく、担体であるCaNH上のNH欠陥に生じる電子によってアンモニア分子が直接活性化されるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-167265号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ogasawara,Kiya et al.,“Ammonia Decomposition over CaNH-Supported Ni Catalysts via an NH2--Vacancy-Mediated Mars-van Krevelen Mechanism” ACS Catal., 11, 17, p.11005-11015(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるような担持金属触媒は、通常、活性炭等の炭素質担体や、無機酸化物担体を用いている。しかしながら、これらの担持金属触媒は、とくに担持金属種が非Ruの場合反応活性が低く、実用に用いるには不十分な性能しか有していない。一方、非特許文献1に記載されるようなNi担持金属触媒は、触媒活性が高いが、Ni担持CaNH触媒は大気中不安定であり、大気中の酸素や水分と反応しCaNHが酸化され変質する。
すなわち、低い反応温度かつ低い反応圧力でも高いアンモニア分解活性を有し、かつ大気中、水中に暴露しても反応を繰り返しても触媒活性の低下が見られないアンモニア分解触媒が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、酸窒化物に、Ni等のアンモニア分解触媒金属を担持させることにより、触媒性能の向上と安定化とを両立させることができるアンモニア分解触媒を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、以下です。
[1] 担体に遷移金属を担持したアンモニア分解触媒であって、
前記担体が、下記一般式(1)で表わされる酸窒化物である
ことを特徴とするアンモニア分解触媒。
l-x (1)
(前記一般式(1)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表す。)
[2] 前記遷移金属が、周期表第8族、9族及び10族金属元素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載のアンモニア分解触媒。
[3] 前記遷移金属が、Ru、Fe、Co、Niからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアンモニア分解触媒。
[4] 前記遷移金属が、Niであることを特徴とする[3]に記載のアンモニア分解触媒。
[5] [1]~[4]の何れかに記載のアンモニア分解触媒からなる触媒層に、体積分率1ppm~100%のアンモニアガスを連続的に供給し、0.01MPa~1.0MPaの反応圧力及び300~800℃の反応温度下、重量空間速度(WHSV)500/mlg-1-1以上で接触分解反応させる工程と、を含むことを特徴とする水素の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアンモニア分解触媒は、低い反応温度かつ低い反応圧力でも高いアンモニア分解活性を有し、かつ大気中、水中に暴露しても反応を繰り返しても触媒活性の低下が見られないため、アンモニア分解触媒として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1、比較例1、比較例2におけるアンモニア分解効率の反応温度依存性を示すグラフである。
図2】実施例1~3におけるアンモニア分解効率の反応温度依存性を示すグラフである。
図3】実施例4における水に対する安定性の評価結果を示すグラフである。
図4】実施例5及び比較例3における熱に対する安定性の評価結果を示すグラフである。
図5】実施例1及び実施例6におけるアンモニア分解効率の反応温度依存性を示すグラフである。
図6】実施例1と7、比較例1におけるアンモニア分解効率の反応温度依存性を示すグラフである。
図7】実施例1、8、9及び比較例1、4、5におけるアンモニア分解効率の反応温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(アンモニア分解触媒)
本発明の一実施形態(本実施形態)のアンモニア分解触媒は、担体に遷移金属を担持したものである。前記担体が、下記一般式(1)で表わされる酸窒化物である。
【0013】
l-x (1)
【0014】
前記一般式(1)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表す。
【0015】
前記窒素とは、本発明の効果を損ねない限り、その一部が、窒素以外の原子を含んでいてもよく、具体的には、電子、水素、炭素、ハロゲン原子などを含んでいてもよい。
【0016】
[酸窒化物]
本発明の一実施形態(本実施形態)の酸窒化物は、窒素イオンを下記一般式(2)で表わされる複合酸化物の酸素サイトにドープした酸窒化物である。本発明の酸窒化物は、下記一般式(1)で表わされる化合物である。窒素イオンをドープしていない下記一般式(2)で表わされる複合酸化物と同じ類型の結晶構造を持つことが好ましい。すなわち、本実施形態の酸窒化物は、窒素を下記一般式(2)で表わされる複合酸化物の酸素サイトにドープしながら、その複合酸化物の結晶構造を維持していることが好ましい。
【0017】
(2)
【0018】
前記一般式(2)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種である。nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4である。
【0019】
l-x (1)
【0020】
前記一般式(1)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表す。
【0021】
本発明の酸窒化物にドープされている窒素の量は、特に限定がない。一般式(2)で表わされる複合酸化物の結晶構造を維持することが好ましい。
x、yの関係は、酸窒化物が電荷中性であるように、例えば、2x-3y=0であることが好ましい。
2x-3yが0でない場合は、B元素の電荷が変化することで全体の電荷バランスを中性に保つ場合もある。例えば、通常Tiは4だが、4と3が混在することで、全体のチャージバランスがとれる。
前記一般式(1)において、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表すことが好ましい。
前記一般式(1)において、xは、0.5≦x≦1.0で表わされる数を表し;yは、0.2≦y≦0.4で表わされる数を表すことがより好ましい。
【0022】
前記ドープされる窒素は、本発明の効果を損なわない限り、その一部が、窒素以外の原子で置換してもよく、具体的には、電子、水素、炭素、ハロゲン原子などを含んでいてもよい。
【0023】
本発明の酸窒化物の具体例としては、例えば、AがBaであり、BがTiである一般式(1)で表わされる酸窒化物;AがBaであり、BがZrである一般式(1)で表わされる酸窒化物;AがSrであり、BがTiである一般式(1)で表わされる酸窒化物等が挙げられる。
【0024】
AがBaであり、BがTiである一般式(1)で表わされる酸窒化物としては、BaTiO3-x等が挙げられる。例えば、BaTiO0.37が挙げられる。
【0025】
AがBaであり、BがZrである一般式(1)で表わされる酸窒化物としては、BaZrO3-x等が挙げられる。
【0026】
AがSrであり、BがTiである一般式(1)で表わされる酸窒化物としては、SrTiO4-x等が挙げられる。
【0027】
<酸窒化物の製造方法>
本発明の下記一般式(1)で表わされる酸窒化物を製造する方法は、窒素又はアンモニア雰囲気下、下記一般式(3)で表わされる酸水素化物を加熱する工程を含む。
【0028】
l-x (3)
【0029】
(前記一般式(1)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、1又は2であり、mは、1又は2であり、lは、3又は4であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;zは、0.1≦z≦2.0で表わされる数を表す。)
【0030】
上記加熱工程において、加熱温度が300℃~900℃の範囲で好ましく、400℃~700℃の範囲でより好ましい。窒素雰囲気の気圧が0.01MPa~3.0MPaの範囲で好ましく、0.1~1.0MPaの範囲でより好ましい。
【0031】
本発明の製造方法の原料である、上記一般式(3)で表わされる化合物として、例えば、BaTiO3-xが挙げられる。
【0032】
本発明の製造方法の原料である、上記一般式(3)で表わされる酸水素化物は、公知の方法で製造することができる。例えば、下記一般式(2)で表わされる化合物と下記一般式(4)で表わされる化合物とを加熱する工程を含む。
【0033】
(2)
AH (4)
【0034】
前記一般式(2)及び(4)において、Aは、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種である。mは、1であり、lは、2である。
【0035】
上記一般式(2)で表わされる化合物として、例えば、TiOが挙げられる。上記一般式(4)で表わされる化合物として、例えば、BaHが挙げられる。
【0036】
詳細な製造方法は、後述の各実施形態で説明する。例えば、対応の酸水素化物を製造する工程と、得られた酸水素化物を窒素雰囲気で加熱処理工程とを含むことができる。
【0037】
前記加熱処理として、例えば、窒素気流中で300℃以上900℃未満で1~50時間、好ましくは400℃以上800℃未満で2~30時間、より好ましくは500℃以上700℃未満で5~20時間加熱処理する方法が挙げられる。
【0038】
以下、本発明にかかる酸窒化物の第一実施形態及び第二実施形態を例として、本発明のアンモニア分解触媒に用いる酸窒化物を詳細に説明する。
【0039】
「第一実施形態の酸窒化物」
本実施形態に係る酸窒化物は、下記の一般式(5)で表わされる酸窒化物である。本実施形態に係る酸窒化物は、窒素と水素とを下記一般式(6)で表わされる複合酸化物の酸素サイトにドープした酸窒化物である。窒素をドープしていない下記一般式(6)で表わされる複合酸化物と同じ類型の結晶構造を持つことが好ましい。すなわち、本実施形態の酸窒化物は、窒素を下記一般式(6)で表わされる複合酸化物の酸素サイトにドープしながら、その複合酸化物の結晶構造を維持していることが好ましい。
【0040】
BaBO3-x (5)
【0041】
BaBO (6)
(前記一般式(5)において、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、yは、一般式(1)中のx、yと同じ意味である。)
【0042】
上記一般式(5)で表わされる化合物は、上記一般式(1)で表わされる化合物において、AはBaであり、nは、1であり、mは、1又は2であり、lは、3であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種である場合の化合物である。
【0043】
本実施形態の酸窒化物にドープされている窒素の量は、BaBOの結晶構造を維持することができれば、特に限定がない。
x、yの関係は、酸窒化物が電荷中性であるように、例えば、2x-3y=0であることが好ましい。
2x-3yが0でない場合は、B元素の電荷が変化することで全体の電荷バランスを中性に保つ場合もある。
前記一般式(5)において、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦1.0で表わされる数を表すことが好ましい。
例えば、後述の実施例でBaTiO3-xで表わされる酸窒化物が挙げられる。
【0044】
前記ドープされる窒素は、本発明の効果を損なわない限り、その一部が、さらに窒素以外の原子で置換してしてもよく、具体的には、電子、水素、炭素、ハロゲン原子などを含んでいてもよい。
【0045】
<酸窒化物の製造方法>
本実施形態の上記一般式(5)で表わされる酸窒化物の製造方法は、窒素又はアンモニア雰囲気で、下記一般式(7)で表わされる酸水素化物を加熱する工程を含む。
【0046】
BaBO3-x (7)
【0047】
(前記一般式(7)において、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;zは、0.1≦z≦2.0で表わされる数を表す。)
【0048】
上記加熱工程において、加熱温度が300℃~900℃の範囲で好ましく、400℃~700℃の範囲でより好ましい。窒素雰囲気の気圧が0.01MPa~3.0MPaの範囲で好ましく、0.1MPa~1.0MPa範囲でより好ましい。
【0049】
本発明の製造方法の原料である、上記一般式(3)で表わされる化合物として、例えば、BaTiO3-xが挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法の原料である、上記一般式(7)で表わされる酸水素化物は、公知の方法で製造することができる。例えば、下記一般式(8)で表わされる化合物とBaHとを加熱する工程を含む。
【0051】
BO (8)
【0052】
前記一般式(8)において、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0053】
上記一般式(8)で表わされる化合物として、例えば、TiOが挙げられる。
【0054】
詳細な製造方法は、後述の各実施形態で説明する。例えば、対応の酸水素化物を製造する工程と、得られた酸水素化物を窒素雰囲気で加熱処理工程とを含むことができる。
【0055】
前記加熱処理として、例えば、窒素気流中で300℃以上900℃未満で1~50時間、好ましくは400℃以上800℃未満で2~30時間、より好ましくは500℃以上700℃未満で5~20時間加熱処理する方法が挙げられる。
【0056】
<酸窒化物に含まれる窒素の定量>
合成した酸窒化物BaBO3-xを、CHN元素分析装置で分析し、材料中の窒素の量を求めることができる。例えば、後の実施例において、CHN元素分析装置で分析した結果に基づき、600℃で合成したBaTiO3-xの組成は、BaTiO0.37であった。
【0057】
「第二実施形態の酸窒化物」
本実施形態に係る酸窒化物は、下記の一般式(9)で表わされる酸窒化物である。本実施形態に係る酸窒化物は、窒素を下記一般式(10)で表わされる複合酸化物の酸素サイトにドープした酸窒化物である。窒素をドープしていない下記一般式(10)で表わされる複合酸化物と同じ類型の結晶構造を持つことが好ましい。すなわち、本実施形態の酸窒化物は、窒素を下記一般式(10)で表わされる複合酸化物の酸素サイトにドープしながら、その複合酸化物の結晶構造を維持していることが好ましい。
【0058】
BO4-x (9)
【0059】
BO (10)
(前記一般式(9)と(10)において、Aは、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、yは、一般式(1)中のx、yと同じ意味である。)
【0060】
上記一般式(9)で表わされる化合物は、上記一般式(1)で表わされる化合物において、AはSr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは、2であり、mは、1であり、lは、4であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種である場合の化合物である。
【0061】
本実施形態の酸窒化物にドープされている窒素の量は、上記一般式(10)で表わされる複合酸化物の結晶構造を維持することができれば、特に限定がない。
y、zの関係は、酸窒化物が電荷中性であるように、例えば、2x-3y=0であることが好ましい。
2x-3yが0でない場合は、B元素の電荷が変化することで全体の電荷バランスを中性に保つ場合もある。
前記一般式(9)において、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;yは、0.1≦y≦2.0で表わされる数を表すことが好ましい。
前記一般式(9)において、xは、0.1≦x≦1.0で表わされる数を表し;zは、0.1≦z≦1.0で表わされる数を表すことがより好ましい。
例えば、後述の実施例でSrTiO4-xで表わされる酸窒化物が挙げられる。
【0062】
前記ドープされる窒素は、本発明の効果を損なわない限り、その一部が、さらに窒素以外の原子で置換してしてもよく、具体的には、電子、水素、炭素、ハロゲン原子などを含んでいてもよい。
【0063】
<酸窒化物の製造方法>
本実施形態の上記一般式(9)で表わされる酸窒化物の製造方法は、窒素又はアンモニア雰囲気で、下記一般式(11)で表わされる酸水素化物を加熱する工程を含む。
【0064】
BO4-x (11)
【0065】
(前記一般式(11)において、Aは、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは、0.1≦x≦2.0で表わされる数を表し;zは、0.1≦z≦2.0で表わされる数を表す。)
【0066】
上記加熱工程において、加熱温度が300℃~900℃の範囲で好ましく、400℃~700℃の範囲でより好ましい。窒素雰囲気の気圧が0.01~3.0MPaの範囲で好ましく、0.1~1.0 MPaの範囲でより好ましい。
【0067】
本発明の製造方法の原料である、上記一般式(11)で表わされる化合物として、例えば、SrTiO4-xが挙げられる。
【0068】
本発明の製造方法の原料である、上記一般式(11)で表わされる酸水素化物は、公知の方法で製造することができる。例えば、下記一般式(12)で表わされる化合物と下記一般式(13)で表わされる化合物とを加熱する工程を含む。
【0069】
ABO (12)
MH (13)
【0070】
前記一般式(12)及び(13)において、Aは、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bは、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種である。Mは、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0071】
上記一般式(12)で表わされる化合物として、例えば、SrTiOが挙げられる。上記一般式(13)で表わされる化合物として、例えば、SrHが挙げられる。
【0072】
詳細な製造方法は、後述の各実施形態で説明する。例えば、対応の酸水素化物を製造する工程と、得られた酸水素化物を窒素雰囲気で加熱処理工程とを含むことができる。
【0073】
前記加熱処理として、例えば、窒素気流中で300℃以上900℃未満で1~50時間、好ましくは400℃以上800℃未満で2~30時間、より好ましくは500℃以上700℃未満で5~20時間加熱処理する方法が挙げられる。
【0074】
<酸窒化物に含まれる窒素の定量>
本実施形態の酸窒化物SrBO4-xを、CHN元素分析装置で分析し、窒素の量を求めることができる。
【0075】
[遷移金属]
本実施形態において用いられる遷移金属は、特に限定されるものではないが、周期表第8族、9族及び10族金属元素から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また具体的な金属元素としては、特に限定はされないが、通常、Cr、Mo、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ni、Pd、Ptであり、好ましくは、窒素との結合エネルギーが高い点でMo、Re、Fe、Ru、Os、Co、Niであり、より好ましくは、Ru、Co、FeまたはNiである。最も高い触媒活性を有する点でRuがこのましく、また、経済性なども重視する場合、例えば、NiやFeが好ましい。
前記の各元素は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。またこれらの元素の金属間化合物、例えば、CoMoN、FeMoN、NiMoN、MoN等を用いることもできる。好ましくは各元素を単独又は2種類以上の組み合わせであり、より好ましくは、単独で用いることがコストの面で有利である。
【0076】
前記遷移金属の担持量は、特に限定はされないが、通常、前記担体100質量部に対して、0.01質量部(0.01質量%)以上、好ましく0.5質量部(0.5質量%)以上、より好ましくは1質量部(1質量%)以上、更に好ましくは2質量部(2質量%)以上であり、通常50質量部(50質量%)以下、好ましく40質量部(40質量%)以下、より好ましくは30質量部(30質量%)以下、更に好ましくは20質量部(20質量%)以下である。前記下限値以上であれば、本発明の効果が得られ、前記上限値以下であれば、担持量とコストとが見合った本発明の効果が得られる。
【0077】
<酸窒化物への遷移金属の担持方法>
酸窒化物への遷移金属の担持方法は特に限定されないが、例えば、前記の方法で得られた粉末状の上記一般式(1)で表わされる酸窒化物(Al-x)と、担持される金属の化合物とを混合し、水素を含むガス雰囲気中条件にて250℃で0.5~4時間加熱し、金属化合物を熱分解することにより、Al-xに金属を固定した担持物(以下、M/Al-x)を得ることができる。
【0078】
例えば、Al-xがそれぞれRu、Co、Fe、Niである遷移金属化合物Ru(CO)12、Co(CO)8、Fe(CO)、Ni(Cを用いて、金属担持物Ru担持Al-x(Ru/Al-xと略記)、Co担持Al-x(Co/Al-xと略記)Fe担持Al-x(Fe/Al-xと略記)、Ni担持Al-x(Ni/Al-xと略記)を合成することができる。
本実施形態に係る遷移金属は、遷移金属粒子であるとことが好ましい。粒径が100nm以下の遷移金属ナノ粒子であることがより好ましい。
【0079】
<アンモニア分解触媒の形状>
本実施形態のアンモニア分解触媒の形状は、特に限定はされず、具体的には塊状、粉末状、被膜状等のいずれの形状でもよい。(不要、通常は成型して使用するため)。粉末状の金属担持物の粒子径は特に限定はされないが、通常、1nm以上、10μm以下である。
本実施形態のアンモニア分解触媒における遷移金属の粒子径は、特に限定はされないが、通常、1nm以上、100nm以下である。好ましくは、アンモニア分解触媒として使用した際に、窒素解離の活性点であるステップサイト数が多くなる点で有利な20nm以下、より好ましくは10nm以下である。
【0080】
<アンモニア分解触媒の製造方法>
本発明のアンモニア分解触媒は、担体に遷移金属を担持したものである。前記担体が、窒素イオンをAの酸素サイトにドープした酸窒化物Al-xを含む組成物である。本実施形態のアンモニア分解触媒は、前記酸窒化物を含む組成物を含む前記担体に、前記遷移金属を担持させて製造する。製造方法は特に限定されないが、通常は、前記担体に対し、遷移金属、又は遷移金属の前駆体となる化合物(以下、遷移金属化合物)を担持させて製造する。
【0081】
本実施形態のアンモニア分解触媒の原料となる、前記酸窒化物の組成物は、市販の試薬や工業原料を用いても、対応する金属から既知の方法により得られたものを使用してもよい。
【0082】
本実施形態で用いられる前記担体に遷移金属を担持する方法は、特に限定されず、既知の方法を用いることができる。通常は、担持する遷移金属の化合物であって、還元や熱分解等により遷移金属に変換することができる遷移金属化合物を、前記担体に担持させた後、遷移金属に変換する方法が用いられる。
【0083】
前記遷移金属化合物は特に限定されないが、熱分解し易い遷移金属の無機化合物又は有機金属錯体等を用いることができる。具体的には遷移金属の錯体、遷移金属の酸化物、硝酸塩、塩酸塩等の遷移金属塩等を用いることができる。
【0084】
例えばFe化合物としては、ペンタカルボニル鉄[Fe(CO)]、ドデカカルボニル三鉄[Fe(CO)12]、ノナカルボニル鉄[Fe(CO)]、テトラカルボニル鉄ヨウ化物[Fe(CO)]、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III) [Fe(acac)]、フェロセン[Fe(C]、酸化鉄、硝酸鉄、塩化鉄(FeCl)等が挙げられる。
【0085】
Co化合物としては、コバルトオクタカルボニル[Co(CO)]、トリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)[Co(acac)]、コバルト(II) アセチルアセトナト[Co(acac)]、コバルトセン[Co(C]、酸化コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト等が挙げられる。
【0086】
Ni化合物としては、酢酸ニッケル[Ni(OCOCH3)]、ニッケルアセチルアセトナト[Ni(acac)]、塩化ニッケル[NiCl]、ニッケロセン[Ni(C]、硝酸ニッケル等が挙げられる。
これらの遷移金属化合物のうち、[Ru(CO)12]、[Fe(CO)]、[Fe(CO)12]、[Fe(CO)]、[Co(CO)]、[Ni(C等の遷移金属のカルボニル錯体は、担持した後、加熱することにより、遷移金属が担持されることから、本実施形態のアンモニア分解触媒を製造する上で、後述する還元処理を省略できる点で好ましい。
また、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル等の遷移金属の硝酸塩は、水溶液中で含侵担持した後、加熱することにより、遷移金属が担持されることから、本実施形態のアンモニア分解触媒の製造方法としては簡便であり、低コスト化にも繋がる点で好ましい。
【0087】
前記遷移金属化合物の使用量は、特に限定はされず、所望の担持量を実現するための量を適宜使用することができるが、通常は、用いる前記担体100質量部に対して、通常0.01質量部(0.01質量%)以上、好ましく2質量部(2質量%)以上、好ましくは10質量部(10質量%)以上、より好ましくは20質量部(20質量%)以上であり、通常50質量部(50質量%)以下、好ましくは40質量部(40質量%)以下、より好ましくは30質量部(30質量%)以下である。
【0088】
前記遷移金属化合物を担体に担持させる方法としては、具体的には例えば含浸法、物理的混合法、CVD法(化学蒸藩法)、スパッタ法等の方法を使用できる。
【0089】
物理的混合法は、前記担体と、前記遷移金属化合物とを固体混合した後に水素を含むガス気流中、又は真空下で加熱する方法である。このときの加熱温度は特に限定はされないが、通常200℃以上、600℃以下である。加熱時間は特に限定されないが、通常2時間以上が望ましい。
【0090】
ここで熱分解により遷移金属に変換される遷移金属化合物であれば、この段階で通常、遷移金属が、担持され、本実施形態のアンモニア分解触媒となる。
熱分解により遷移金属に変換される遷移金属化合物以外のものを用いた場合は、遷移金属化合物を、通常還元することにより、本実施形態のアンモニア分解触媒となる。
前記遷移金属化合物を還元する方法(以下、還元処理という)は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、例えば、還元性ガスを含む雰囲気下で行なう方法や、前記遷移金属化合物を含む溶液に、NaBH、NHNH又は、ホルマリン等の還元剤を加えて前記金属水素化物の表面に析出させる方法が挙げられるが、好ましくは還元性ガスを含む雰囲気下で行なう。前記還元性ガスとしては水素、アンモニア、メタノール(蒸気)、エタノール(蒸気)、メタン、エタン等が挙げられる。
また前記還元処理の際に、本発明の目的、特にアンモニア分解反応を阻害しない、還元性ガス以外の成分が反応系を共存していてもよい。具体的には、還元処理の際に、水素等の還元性ガスの他に反応を阻害しないアルゴンや窒素といったガスを共存させてもよく、窒素を共存させることが好ましい。
前記還元処理を、水素を含むガス中で行なう場合、水素と共に窒素を共存させることで、後述するアンモニアの分解と並行して行なうことができる。すなわち、本実施形態のアンモニア分解触媒を後述するアンモニア分解触媒として用いる場合は、前記遷移金属化合物を、前記金属水素化物に担持させたものを、アンモニア分解反応の反応条件中に置くことにより、前記遷移金属化合物を還元し、遷移金属に変換してもよい。
【0091】
前記還元処理の際の温度は、特に限定はされないが、通常200℃以上であり、好ましくは300℃以上、好ましくは700℃未満で行うとよい。より好ましくは400℃以上700℃未満で行うとよい。前記の還元処理温度範囲内で行なうことで、前記遷移金属の成長が十分に、また好ましい範囲で起こるためである。
前記還元処理の際の圧力は、特に限定はされないが、通常、0.01MPa以上、10MPa以下である。還元処理時の圧力は、後述するアンモニア分解条件と同じ条件にすると、煩雑な操作は不要になり製造効率の面で有利である。
前記還元処理の時間は、特に限定されないが、常圧で実施する場合は、通常1時間以上であり、2時間以上が好ましい。
また反応圧力の高い条件、例えば1MPa以上で行う場合は、1時間以上が好ましい。
【0092】
熱分解により遷移金属に変換される遷移金属化合物以外のものを用いた場合は、前述の還元処理方法と同様に、固体混合物に含まれている遷移金属化合物を、通常の方法で還元することにより、本実施形態のアンモニア分解触媒となる。
【0093】
前記酸窒化物及び前記遷移金属以外の成分としては、SiO、Al、ZrO、MgO、活性炭、グラファイト、SiCなどを前記酸窒化物の担体としてさらに含んでいてもよい。
【0094】
本実施形態のアンモニア分解触媒は、通常の成型技術を用い成型体として使用することができる。具体的には、粒状、球状、タブレット、リング、マカロニ、四葉、サイコロ、ハニカム状などの形状が挙げられる。また、適当な支持体にコーティングしてから使用することもできる。
【0095】
本実施形態のアンモニア分解触媒を用いる際、その反応活性は特に限定はされないが、反応温度500℃、反応圧力0.1MPaにおける水素の生成速度を例に取った場合で、5.0mmol/g・h以上であることが好ましく、7.0mmol/g・h以上であることが実用の製造条件に適していることからより好ましく、8.0mmol/g・h以上であるものがより高効率の製造条件に適していることから更に好ましく、9.0mmol/g・h以上であるものが更に高効率の製造条件に適している点で更に好ましい。
【0096】
以下に本実施形態のアンモニア分解触媒を用いたアンモニアの製造方法について記す。
【0097】
(水素の製造方法)
以下に本実施形態のアンモニア分解触媒を用いて、アンモニアを分解させ水素を製造する方法について説明する。
【0098】
本発明の一実施形態の水素の製造方法(以後、本実施形態の水素の製造方法ということがある。)は、前述の本実施形態のアンモニア分解触媒からなる触媒層に、体積分率0.1~100%のアンモニアガスを連続的に供給し、0.01MPa~1.0MPaの反応圧力及び300~800℃の反応温度下、重量空間速度(WHSV)500/mlg-1-1以上で接触分解反応させる工程と、を含む。
本実施形態の水素の製造方法は、本実施形態のアンモニア分解触媒を触媒として用い、アンモニアを前記触媒上で反応させて分解し、水素と窒素を合成する方法である。
下記の式(A)で示される反応である。
2NH→3H+N ・・・・(A)
具体的な製造方法としては、アンモニアを前記触媒上で接触させて分解し、水素を合成する方法であれば、特に限定されず、適宜既知の製造方法に準じて製造をすることができる。
【0099】
本発明の水素の製造方法では、通常、アンモニアを前記触媒上で接触させる際に、触媒を加熱して、水素及び窒素を製造する。
本発明の製造方法における反応温度は特に限定はされないが、通常300℃以上、好ましくは350℃以上であり、より好ましくは400℃以上であり、通常800℃以下であり、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは500℃以下である。アンモニア分解反応は平衡反応であり、且つ吸熱反応であるため、高温領域の方が有利であるが、十分なアンモニア分解反応速度を得るためには上記の温度範囲で反応を行うことが好ましい。
前記温度範囲では、分解反応が十分に進行し、かつ設備面でも有利であるためである。
なお、本実施形態に係る遷移金属としてRuを用いた場合は、その反応温度として400℃以上、600℃以下が更に好ましく、同様にNi又はCoを用いた場合は、500℃以上、750℃以下が更に好ましい。
【0100】
本発明の水素の製造方法における反応圧力は、特に限定はされないが、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、通常1.0MPa以下、好ましくは0.5MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下である。
アンモニア分解反応は平衡反応であり、且つ体積が増加する反応であるため、低圧条件の方が有利であるが、十分なアンモニア分解反応速度を得るためには上記の圧力範囲で反応を行うことが好ましい。また、設備面を考慮すると、0.1MPaで反応を行うことが有利である。
【0101】
本発明の水素の製造方法で用いられるアンモニアは、特に限定はされないが、アンモニア単独でも、バランスガスで希釈したアンモニアの何れでもよい。すなわち、体積分率1ppm~100%のアンモニアガスを使用できる。
本発明の水素の製造方法においては、生成した水素と窒素を分離する必要があるので、特に限定はされないが、アンモニア体積分率は高い方が好ましく、体積分率で5%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは70%以上である。
アンモニアの重量空間速度(WHSV)は、特に限定はされないが、通常500ml・g-1-1以上で行うことで、高いNH転化率が得られる。
【0102】
本発明の水素の製造方法では、アンモニアを前記触媒に接触させる前に、前記触媒を水素等の還元性のガスの雰囲気に曝露して触媒活性成分である遷移金属を活性化することが転化率の向上の点で好ましい。前記の曝露の際の温度は特に限定はされないが、通常300℃以上、700℃以下である。また前記曝露の時間は特に限定はされず、通常30分以上、2時間以下である。
【0103】
本発明の水素の製造方法において、反応容器の形式は特に限定されず、アンモニア分解反応に通常用いることができる反応容器を用いることができる。具体的な反応形式としては、例えばバッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式等を用いることができ、このうち実用的な観点からは流通系反応形式が好ましい。
アンモニアの分解反応は吸熱反応のため、反応熱を供給しながら反応させると有利であり、工業的には収率をあげるため、反応熱を供給するための既知の方法を用いることができる。例えば、アンモニア原料の一部を、空気により酸化させて燃焼熱を得ながら、アンモニア分解反応を行う方法等が挙げられる。
また反応容器の材質は、特に限定されず、既知のアンモニア分解反応用の材質を用いることができるが、例えば、ステンレス鋼等の耐食性材料を用いた通常の気相-固相接触反応装置を用いて行うことができる。
【0104】
本発明において、従来行われている方法と同様に、触媒を充填した一種類の反応器、又は複数の反応器を用いて、アンモニア分解反応を行うことができる。また、複数の反応器を連結させる方法や、同一反応器内に複数の反応層を有する反応器の何れの方法も使用することができる。
【実施例0105】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。NHの転化量をガスクロマトグラフにより定量してアンモニア分解効率(NHの転化率(NH Conversion (%))及び水素の生成速度を求めることによりアンモニア分解活性の評価を行った。
【0106】
(ガスクロマトグラフ(GC)分析)
以下の実施例及び比較例の水素生成量は、ガスクロマトグラフ(GC)分析により、絶対検量線法を用いて求めた。測定条件は以下の通りである。
【0107】
[測定条件]
測定装置 :GC14A(Shimadzu)
カラム :PoraPakQS
カラム温度 :80℃
キャリアガス:He
ガス検出器 :TCD
【0108】
(製造例1)
「BaTiO3-xの合成」
市販のTiO粉末(Aldrich製、99.5%)とBaH粉末とモル比が1:1となるようにグローブボックス中で混合し、その混合物を、石英ガラス管に充填した後水素ガスを10mL min-1で流通させながら電気炉で800℃,20h焼成を行った。これにより酸化物イオンの一部が水素化物イオンで置換されたBaTiO2.010.96粉末を合成した。
【0109】
<BaTiO3-xに含まれる酸素および水素の定量>
本実施例で合成したBaTiO3-xを、昇温脱離分析装置(BELCATA)で分析した。組成はBaTiO2.010.96であることがわかった。
【0110】
(製造例2)
「BaZrO3-xの合成」
市販のZrO粉末(Aldrich製、99%)とBaH粉末とモル比が1:1となるようにグローブボックス中で混合し、その混合物を、石英ガラス管に充填した後水素ガスを10mL min-1で流通させながら電気炉で800℃,20h焼成を行った。これにより酸化物イオンの一部が水素化物イオンで置換されたBaZrO3-x粉末を合成した。
【0111】
(製造例3)
「SrTiO4-xの合成」
錯体重合法により合成したSrTiO粉末とSrH粉末とモル比が1:1となるようにグローブボックス中で混合し、その混合物を、石英ガラス管に充填した後水素ガスを10mL min-1で流通させながら電気炉で800℃,20h焼成を行った。これにより酸化物イオンの一部が水素化物イオンで置換されたSrTiO4-x粉末を合成した。
【0112】
(実施例1)
[BaTiO3-x粉末の合成]
製造1で得られたBaTiO3-x粉末を流量10mL/minの窒素気流中(気圧:0.1MPa)で、1時間で600℃に昇温し、600℃で12時間加熱処理を行うことにより、本実施例のBaTiO3-x粉末を得た。
【0113】
<BaTiO3-xに含まれる窒素の定量>
本実施例で合成したBaTiO3-xを、CHN元素分析装置で分析した。その結果、組成はBaTiO0.37であることがわかった。
【0114】
[BaTiO3-xへのNiの担持]
本実施例で合成した粉末状BaTiO3-x 0.50gと、Ni(C(東京化成社製、98%)0.08g(BaTiO3-xに対し、担持される金属Niとして5質量%に相当)とを石英ガラス反応管に入れ、これを水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、BaTiO3-xにNiを固定した担持物(以下、Ni/BaTiO3-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0115】
[Ni担持BaTiO3-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例1にて調製した5質量%Ni/BaTiO3-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。360℃~660℃におけるアンモニアの分解効率(NHの転化率)を測定した。その結果を図1に示す。
【0116】
<水素の生成速度>
Ni/BaTiO(後述の比較例1)ではアンモニア分解活性の立ち上がりが550℃以上であるのに対して、Ni/BaTiO3-xでは360℃あたりから活性の立ち上がりが見られ、540℃での分解効率は、83%であった。このように酸窒化物の促進効果の高さが確認できる。また、500℃での水素生成速度は、Ni/BaTiOでは0.5mmol/g・hであったのに対し、Ni/BaTiO3-xでは9.7mmol/g・hであった。
【0117】
(実施例2)
[BaZrO3-x粉末の合成]
製造2で得られたBaZrO3-x粉末を流量10mL/minの窒素気流中(気圧:0.1MPa)で、1時間で600℃に昇温し、600℃で12時間加熱処理を行うことにより、本実施例のBaZrO3-x粉末を得た。
【0118】
[BaZrO3-xへのNiの担持]
本実施例で合成した粉末状BaZrO3-x 0.50gと、Ni(C(東京化成社製、98%)0.08g(BaZrO3-xに対し、担持される金属Niとして5質量%に相当)とを石英ガラス反応管に入れ、これを水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、BaZrO3-xにNiを固定した担持物(以下、Ni/BaZrO3-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0119】
[Ni担持BaZrO3-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例2にて調製した5質量%Ni/BaZrO3-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。540℃におけるアンモニアの分解効率は87%であった。結果を図4に示す。
【0120】
<水素の生成速度>
Ni/BaZrO3-xは、500℃での水素生成速度が10.2mmol/g・hであった。
【0121】
(実施例3)
[SrTiO4-x粉末の合成]
製造3で得られたSrTiO4-x粉末を流量10mL/minの窒素気流中(気圧:0.1MPa)で、1時間で600℃に昇温し、600℃で12時間加熱処理を行うことにより、本実施例のSrTiO4-x粉末を得た。
【0122】
[SrTiO4-xへのNiの担持]
本実施例で合成した粉末状SrTiO4-x 0.50gと、Ni(C(東京化成社製、98%)0.08g(SrTiO4-xに対し、担持される金属Niとして5質量%に相当)とを石英ガラス反応管に入れ、これを水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、SrTiO4-xにNiを固定した担持物(以下、Ni/SrTiO4-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0123】
[Ni担持SrTiO43-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例3にて調製した5質量%Ni/SrTiO4-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。540℃におけるアンモニアの分解効率は99%であった。結果を図4に示す。
【0124】
<水素の生成速度>
Ni/SrTiO4-xは、500℃での水素生成速度が12.1mmol/g・hであった。
【0125】
(比較例1)
[BaTiOへのNiの担持]
実施例1のBaZrO3-xに代えてBaTiOを用いた以外は実施例1と同様な方法を用いて、BaTiOにNiを固定した担持物(以下、Ni/BaTiO)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0126】
<アンモニア分解反応>
5質量%Ni/BaTiO3-xに代えて、上記得られた 5質量%Ni/BaTiOをアンモニア分解触媒として用いて、実施例1と同じ条件でアンモニア分解反応を実施した。結果を図1に示す。
【0127】
<水素の生成速度>
Ni/BaTiOは、500℃での水素生成速度が0.5mmol/g・hであった。
【0128】
(比較例2)
[C12A7:e-粉末へのNiの担持]
実施例1のBaTiO3-xに代えて、国際公開第2012/0077658号に記載と同様の方法で得られたC12A7:e-に、Niを固定した担持物(以下、Ni/C12A7:e-)を得た。
【0129】
[Ni/C12A7:e-を用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
5質量%Ni/BaTiO3-xに代えて、上記得られた 5質量%Ni/C12A7:e-をアンモニア分解触媒として用いて、実施例1と同じ条件でアンモニア分解反応を実施した。結果を図1に示す。Ni/C12A7:e触媒は、Ni/BaTiO触媒より高いアンモニア分解活性を示すが、Ni/BaTiO3-xと比較するとはるかに低活性であった。
【0130】
(実施例4)
「Ni/BaTiO3-x触媒に水に対する安定性」
実施例1で得られたNi/BaTiO3-x触媒を水に1時間つけてから、乾燥した後、それを用いて、実施例1と同様な方法でアンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。350℃~650℃におけるアンモニアの分解効率を測定した。その結果を図3に示す。水処理前のNi/BaTiO3-x触媒の500℃におけるアンモニア転化率が49.0%であったのに対し、水処理後のアンモニア転化率はサイクルごとに以下のようになった。
サイクル1:34.9%
サイクル2:49.1%
サイクル3:47.8%
このように、Ni/BaTiO3-x触媒は、アンモニア分解反応後水に浸漬させた直後は性能が低下するものの、触媒サイクルを繰り返すにつれて性能が元の状態まで回復する。
【0131】
(実施例5)
「Ni/BaTiO3-x触媒に熱に対する安定性」
実施例1で得られたNi/BaTiO3-x触媒を実施例1と同様な方法でアンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。350℃~650℃におけるアンモニアの分解効率を測定した。1サイクル目の反応後そのまま同じ温度条件で2サイクル目の反応を行いそのアンモニア分解効率を測定した。その結果を図4に示す。Ni/BaTiO3-x触媒の活性は、1サイクル目と2サイクル目でほとんど変化がなく、熱的に安定な触媒であることが示された。
【0132】
(比較例3)
「BaTiO粉末へのRuの担持」
比較例1の担持金属Niの代わりにRu用いた以外は、比較例1と同様な方法でRu/BaTiO触媒を製造した。
「Ru/BaTiO触媒に熱に対する安定性」
上記得られたRu/BaTiO触媒を用いた以外は、実施例5と同様な方法で、熱に対する安定性の評価を行った。その結果を図4に示す。Ru/BaTiO触媒は、1サイクル目の触媒活性は、Ni/BaTiO3-x触媒よりも高いが、2サイクル目に活性が大きく低下し、Ni/BaTiO3-x触媒よりも低活性となった。1サイクル目のNi/BaTiO触媒の500℃におけるアンモニア転化率が76.8%であったのに対し、2サイクル目のアンモニア転化率は41.6%にまで低下した。これは、高い反応条件において、BaTiO上に担持されているRuナノ粒子の凝集が起こり、活性点が低下したことによると考えられる。一般的にも、Ru系触媒は高温条件において活性が低下しやすいことがよく知られている。
【0133】
(実施例6)
「NH気流下で合成したBaTiO3-x粉末」
[BaTiO3-x粉末の合成]
製造例1で得られたBaTiO3-x粉末を流量10mL/minのアンモニア気流中(気圧:0.1MPa)で、1時間で600℃に昇温し、600℃で12時間加熱処理を行うことにより、本実施例のBaTiO3-x粉末を得た。
【0134】
<BaTiO3-xに含まれる窒素の定量>
本実施例で合成したBaTiO3-xを、CHN元素分析装置で分析した。その結果、組成はBaTiO0.37であることがわかった。
【0135】
[BaTiO3-xへのNiの担持]
本実施例で合成した粉末状BaTiO3-x 0.50gと、Ni(C(東京化成社製、98%)0.08g(BaTiO3-xに対し、担持される金属Niとして5質量%に相当)とを石英ガラス反応管に入れ、これを水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、BaTiO3-xにNiを固定した担持物(以下、Ni/BaTiO3-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0136】
[Ni担持BaTiO3-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例6にて調製した5質量%Ni/BaTiO3-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。360℃~660℃におけるアンモニアの分解効率を測定した。その結果を図5に示す。
【0137】
<水素の生成速度>
アンモニア気流下で合成したNi/BaTiO3-x触媒は、窒素気流下で合成したNi/BaTiO3-x触媒とほとんど同じ触媒活性であることが分かった。どちらの雰囲気で合成しても、窒素含有量にほとんど差がないことが原因であると考えられる。
500℃における水素生成速度
アンモニア気流下で合成したNi/BaTiO3-x触媒:9.58mmol/g・h
窒素気流下で合成したNi/BaTiO3-x触媒:9.7mmol/g・h
【0138】
(実施例7)
「硝酸ニッケルを原料としたNi/BaTiO3-x触媒」
[BaTiO3-xへのNiの担持]
実施例6で合成した粉末状BaTiO3-x 0.50gと、Ni(NO・6HO(高純度化学研究所社製、99.9%)0.124g(BaTiO3-xに対し、担持される金属Niとして5質量%に相当)とを水100mL中に分散させ、6時間攪拌した。その後、ロータリーエバポレーターで減圧しながら80℃に加熱することで水を除去し、Ni硝酸塩が担持されたBaTiO3-x粉末を得た。得られた粉末を水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、BaTiO3-xにNiを固定した担持物(以下、Ni/BaTiO3-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0139】
[Ni担持BaTiO3-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例7にて調製した5質量%Ni/BaTiO3-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。360℃~660℃におけるアンモニアの分解効率を測定した。その結果を図6に示す。
【0140】
<水素の生成速度>
硝酸NiをNi源としたNi/BaTiO3-x触媒は、ニッケロセンをNi源としたNi/BaTiO3-x触媒と比較すると大きく活性が低下した。これは、硝酸Ni水溶液中で、BaTiO3-xを長時間攪拌することにより、硝酸Ni水溶液がやや酸性であるためBa種の溶出や格子窒素の一部が酸化されるなど、表面構造が一部変質することによって活性低下が起こったと予想される。一方、硝酸NiをNi源としたNi/BaTiO3-x触媒は、Ni/BaTiOよりもはるかに高活性であり、酸窒化物担体の有用性が示されている。硝酸NiをNi源として用いる場合でも水溶液のpHを調整するなどの工夫を施せば、活性低下は抑えられると考えられる。
【0141】
「500℃における水素生成速度」
硝酸NiをNi源としたNi/BaTiO3-x触媒:4.78mmol/g・h
ニッケロセンをNi源としたNi/BaTiO3-x触媒:9.7mmol/g・h
【0142】
(実施例8)
「Co/BaTiO3-x触媒」
[BaTiO3-xへのCoの担持]
実施例6で合成した粉末状BaTiO3-x 0.50gと、Co(CO)(関東化学、95%)0.151g(BaTiO3-xに対し、担持される金属Coとして5質量%に相当)とを石英ガラス反応管に入れ、これを水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、BaTiO3-xにCoを固定した担持物(以下、Co/BaTiO3-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0143】
[Co担持BaTiO3-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例8にて調製した5質量%Co/BaTiO3-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。360℃~660℃におけるアンモニアの分解効率を測定した。その結果を図7に示す。
【0144】
<水素の生成速度>
Co/BaTiO3-x触媒は、同じ方法でBaTiO上にCoを担持した触媒(Co/BaTiO)(後述の比較例4)よりもはるかに高い活性を示し、Ni/BaTiO3-x触媒よりも高い性能であった。Niを担持した場合と同様に、Coを担持した場合においても酸窒化物は優れた促進効果を示すことを見出した。
【0145】
「500℃における水素生成速度」
Co/BaTiO3-x触媒:12.0mmol/g・h
【0146】
(実施例9)
「Fe/BaTiO3-x触媒」
[BaTiO3-xへのFeの担持]
実施例6で合成した粉末状BaTiO3-x 0.50gと、Fe(CO)(Aldrich、98%)0.081g(BaTiO3-xに対し、担持される金属Feとして5質量%に相当)とを石英ガラス反応管に入れ、これを水素2.5mL/minを流通させ、250℃まで0.5時間昇温し、1.5時間維持することにより、BaTiO3-xにFeを固定した担持物(以下、Fe/BaTiO3-x)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0147】
[Fe担持BaTiO3-xを用いたアンモニア分解]
<アンモニア分解反応>
実施例Xにて調製した5質量%Fe/BaTiO3-xをアンモニア分解触媒として用いて、アンモニアを分解し、窒素と水素を製造する反応を行った。前記Ni担持物0.1gをアンモニア分解触媒としてガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。反応前に窒素5mL/minと水素15mL/minとを流通させ、500℃まで1時間昇温し、1時間維持することにより触媒の前処理を行った。アンモニア分解反応では、アンモニアガスの流量は、NH:25mL/minに設定し(重量空間速度(WHSV)15000/mlg-1-1)、反応圧力は0.1MPaで反応を行った。前記固定床流通式反応装置から出てきたガスをガスクロマトグラフにより定量した。360℃~660℃におけるアンモニアの分解効率を測定した。その結果を図7に示す。
【0148】
<水素の生成速度>
Fe/BaTiO3-x触媒は、同じ方法でBaTiO上にFeを担持した触媒(Fe/BaTiO)(後述の比較例5)よりもはるかに高い活性を示し、Ni/BaTiO3-x触媒に匹敵する性能であった。Niを担持した場合と同様に、Feを担持した場合においても酸窒化物は優れた促進効果を示すことを見出した。
【0149】
「500℃における水素生成速度」
Fe/BaTiO3-x触媒:8.3mmol/g・h
【0150】
(比較例4)
「「Co/BaTiO触媒」
[BaTiOへのCoの担持]
実施例8のBaZrO3-xに代えてBaTiOを用いた以外は実施例8と同様な方法を用いて、BaTiOにCoを固定した担持物(以下、Co/BaTiO)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0151】
<アンモニア分解反応>
5質量%Ni/BaTiO3-xに代えて、上記得られた 5質量%Co/BaTiOをアンモニア分解触媒として用いて、実施例1と同じ条件でアンモニア分解反応を実施した。結果を図7に示す。
【0152】
「500℃における水素生成速度」
Co/BaTiO触媒:2.2mmol/g・h
【0153】
(比較例5)
「Fe/BaTiO触媒」
[BaTiOへのFeの担持]
実施例9のBaZrO3-xに代えてBaTiOを用いた以外は実施例9と同様な方法を用いて、BaTiOにFeを固定した担持物(以下、Fe/BaTiO)を得た。
以下で、前記アンモニア分解触媒を用いて、アンモニア分解を行なった。
【0154】
<アンモニア分解反応>
5質量%Ni/BaTiO3-xに代えて、上記得られた 5質量%Fe/BaTiOをアンモニア分解触媒として用いて、実施例1と同じ条件でアンモニア分解反応を実施した。結果を図7に示す。
【0155】
「500℃における水素生成速度」
Fe/BaTiO触媒:0.86mmol/g・h
【0156】
【表1】
*反応条件 温度:500℃ 気圧:0.1MPa WHSV:15000/mlg-1-1
【0157】
【表2】
【0158】
(考察)
Ni/BaTiO3-x触媒は、Ni/BaTiO触媒と比較して、触媒の比表面積やNiの粒子サイズに大きな違いがないにもかかわらず、非常に大きな活性差がある。Ni/BaTiO触媒では、Ni表面が活性点として機能するが、Ni/BaTiO3-x触媒では、BaTiO3-x上の窒素空孔サイトが活性点として機能するためであると考えられる。以前の研究においても、CaNHのような窒素含有化合物にNiを担持した触媒を用いると、アニオン空孔サイトに生じる電子によってアンモニア分子が直接活性化され、低温で優れたアンモニア分解活性を示すことを明らかにしている(ACS Catal. 2021、11、11005)。Ni/BaTiO3-x触媒においても同様のメカニズムでアンモニア分子を活性化していると考えられる。一方、Ni/CaNH触媒は、大気中や水中では不安定であり、速やかに酸化され触媒活性が大きく低下する。Ni/BaTiO3-x触媒では、安定な酸化物の基本骨格を有するため大気安定性、耐水性に優れていると考えられる。
【0159】
表1及び表2の結果から分かるように、本実施形態の酸窒化物を担体として、遷移金属がFe、Coであっても高いアンモニア分解触媒活性を示した。特に、担体として同じBaTiO3-xを用いた場合、Co>Ni>Feの順を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7