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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055080
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20240411BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12P13/00
C12N1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161694
(22)【出願日】2022-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Journal of Bioscience and Bioengineering 掲載日:2022年9月19日 掲載ウェブサイトのアドレス https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S138917232200233X
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友樹
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064CA02
4B064CA21
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA30X
4B065AC14
4B065BD43
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、高濃度の野菜又は果実の処理物を原料として用い、効率よくγ-アミノ酪酸(GABA)含有組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも以下の工程で構成される製造方法により、γ-アミノ酪酸含有組成物を製造する:
混合工程:ここで混合されるのは、少なくとも、野菜又は果実の処理物、及び乳酸菌の休止菌体であり、
脱炭酸反応工程:ここで脱炭酸反応が行われるのは、前記野菜又は果実の処理物中のL-グルタミン酸であり、当該反応における触媒は、前記乳酸菌の休止菌体が有するグルタミン酸デカルボキシラーゼであり、これにより生成されるのは、γ-アミノ酪酸である。
これにより、γ-アミノ酪酸を70mM以上含有するγ-アミノ酪酸含有組成物が製造される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である:
混合:ここで混合されるのは、少なくとも、野菜又は果実の処理物、及び乳酸菌の休止菌体であり、
脱炭酸反応:ここで脱炭酸反応が行われるのは、前記野菜又は果実の処理物中のL-グルタミン酸であり、当該反応における触媒は、前記乳酸菌の休止菌体が有するグルタミン酸デカルボキシラーゼであり、これにより生成されるのは、γ-アミノ酪酸である。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、前記脱炭酸反応における前記野菜又は果実の処理物のBrixは、25%以上かつ60%以下である。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法であって、前記混合における前記野菜又は果実の処理物のL-グルタミン酸濃度は、45mM以上かつ110mM以下である。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法であって、前記乳酸菌は、ラクチプランティバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)KB1253株である。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法であって、前記脱炭酸反応における反応温度は、35℃以上かつ55℃以下である。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法であって、前記脱炭酸反応における反応時間は、30分間以上かつ180分間以下である。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法であって、前記脱炭酸反応における反応時のpHは、3.5以上かつ5.0以下である。
【請求項8】
γ-アミノ酪酸含有組成物であって、当該組成物は、野菜又は果実の処理物であって、当該組成物におけるγ-アミノ酪酸の含有量は70mM以上である。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物であって、当該組成物におけるL-グルタミン酸の含有量は、45mM以下である。
【請求項10】
γ-アミノ酪酸含有組成物であって、当該組成物は、野菜又は果実の処理物であって、当該組成物におけるγ-アミノ酪酸の含有量は70mM以上であり、かつ、当該組成物におけるL-グルタミン酸の含有量は、45mM以下である。
【請求項11】
請求項8~10の何れか一項に記載の組成物であって、当該組成物のBrixは、25%以上かつ60%以下である。
【請求項12】
請求項8~10の何れか一項に記載の組成物であって、当該組成物がさらに含有するのは、乳酸菌である。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物であって、前記乳酸菌は、ラクチプランティバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)KB1253株である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-アミノ酪酸(GABA)は、生物界に広く分布する非タンパク質アミノ酸で、高等動物においては、抑制性の神経伝達物質として機能していることが知られている(非特許文献1)。また、近年GABAは様々な生理機能を有することが知られてきており、抗高血圧作用、抗不安作用、精神安定作用、利尿作用、抗糖尿作用等が報告されている(非特許文献2~5)。近年、GABAはサプリメントや飲料などの健康食品に利用されている(非特許文献6、7)。
【0003】
GABAは、食品では玄米等や一部の野菜や果実等に含まれているが、これらの中には微量しか存在せず、上記生理機能を果たすための有効量を含有する食品はなかった。
一般に、GABAはL-グルタミン酸(L-Glu)からグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD、E.C.:4.1.1.15)を介した不可逆的α-脱炭酸反応によって生成される。そこで、食品中のGABA含有量を増加させる方法として、GADを有する乳酸菌の発酵により食品中のL-GluをGABAに変換する手法(以降「発酵法」とも記す)が多く取られている。たとえば、トマト果実やその処理物にはL-Gluが多く含まれるため、これを発酵原料として用いてGABAを高濃度化することが提案されている(特許文献1~3、非特許文献8~10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-060990号公報
【特許文献2】特開2007-289008号公報
【特許文献3】特開2020-058309号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】早川潔ら、生物工学会誌, (1997)、75(4): 239-244
【非特許文献2】Pouliot-Mathieu, K. et al., (2013), Pharma. Nutrition, 1, 141-148.
【非特許文献3】Parkash, J. et al., (2007), Brain Res. Bull, 74, 317-328.
【非特許文献4】Dongoh, H. et al., (2007), J. Microbiol. Biotechnol., 17, 1661-1669.
【非特許文献5】Wong, C. G. T. et al., (2003), Ann. Neurol., 54, 3-12.
【非特許文献6】Jeng, K. C. et al., (2007), J. Agric. Food Chem., 55, 8787-8792.
【非特許文献7】Chiu, T. H. et al., (2012), Soc. Chem. Ind., 93, 859-866.
【非特許文献8】門馬豪ら, バイオインダストリー, (2007),24: 5-10.
【非特許文献9】Nakatani Y et al., (2019), Microbiol. Resour. Ann., 8, 29.
【非特許文献10】Zhang, Y. et al., (2012), Appl. Microbiol. Biotechnol., 94, 1619-1627.
【非特許文献11】https://www.brenda-enzymes.org/enzyme.php?ecno=4.1.1.15#TEMPERATURE%20OPTIMUM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発酵法の場合、GABAの生成量は、主に基質であるL-Gluの濃度、GAD濃度、及びGAD活性に依存する。L-Glu濃度を高めようとすると、発酵原料とするトマト処理物の濃縮度を高める必要があるが、そのような高濃縮度のものは乳酸菌にとって高浸透圧環境となる。高浸透圧環境下では乳酸菌の増殖が抑制されて、菌体量とGAD濃度の上昇が抑制される。そのため、乳酸菌によるトマト処理物からのGABA発酵を行うには、トマトの濃度をBrix値として20以下に制限する必要があった(特許文献1~3、非特許文献8~10)。つまり、高濃度のトマト処理物を原料として用いることとGAD濃度を高めることとの両立が難しいために、GABA生成量を向上させることが困難であった。
【0007】
また、発酵法の場合は、乳酸菌の生育工程、GADをコードするgadB遺伝子の発現(転写及び翻訳)工程、次いでGADによる酵素反応工程の多段階を経てGABAを生成するが、前記3工程にそれぞれ適する温度やpH等の条件は必ずしも一致しない。例えば、一般に乳酸菌の増殖至適温度は30±10℃であるのに対し、Lactobacillus属細菌の有するGADの至適反応温度は30~55℃であり(非特許文献11)、増殖条件の方が温和であることが多い。そのため、乳酸菌の十分な増殖が前提となる発酵法においては、GADの至適反応条件下で培養することは難しい。つまり、乳酸菌の十分な生育・増殖とGADによる酵素反応を好条件で行うこととの両立が難しいために、温和な条件下で12時間以上といった長時間発酵する必要があり、GABA生産を短時間に効率的に行うことが困難であった。
【0008】
かかる状況において、本発明は、野菜又は果実の処理物を原料として用い、効率よくGABAを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が鋭意研究を進めた結果、GADを有する乳酸菌の休止菌体を用いて、野菜又は果実の処理物に含まれるL-Gluの脱炭酸反応を行うことに拠り前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、γ-アミノ酪酸含有組成物の製造方法であって、少なくとも野菜又は果実の処理物と乳酸菌の休止菌体とを混合する工程、及び前記野菜又は果実の処理物中のL-グルタミン酸の脱炭酸反応を行いγ-アミノ酪酸を生成する工程で少なくとも構成され、前記脱炭酸反応における触媒は、前記乳酸菌の休止菌体が有するグルタミン酸デカルボキシラーゼである(以降、「本発明の製造方法」という)。本態様において、前記脱炭酸反応における前記野菜又は果実の処理物のBrixは、好ましくは25%以上かつ60%以下である。本態様において、前記混合における前記野菜又は果実の処理物のL-グルタミン酸濃度は、好ましくは45mM以上かつ110mM以下である。本態様において、前記乳酸菌は、好ましくはラクチプランティバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)KB1253株である。本態様において、前記脱炭酸反応における反応温度は、好ましくは35℃以上かつ55℃以下である。本態様において、前記脱炭酸反応における反応時間は、好ましくは30分間以上かつ180分間以下である。本態様において、前記脱炭酸反応における反応時のpHは、好ましくは3.5以上かつ5.0以下である。
【0011】
本発明の第二の態様は、γ-アミノ酪酸含有組成物であって、当該組成物は、野菜又は果実の処理物であって、当該組成物におけるγ-アミノ酪酸の含有量は70mM以上である(以降、「本発明の組成物」という)。本態様の組成物におけるL-グルタミン酸の含有量は、好ましくは45mM以下である。また、本態様の組成物において、γ-アミノ酪酸の含有量が70mM以上であり、かつ、L-グルタミン酸の含有量が45mM以下であることがより好ましい。本態様の組成物のBrixは、好ましくは25%以上かつ60%
以下である。本態様の組成物は、好ましくは乳酸菌をさらに含有し、前記乳酸菌は好ましくはラクチプランティバチルス・プランタラムKB1253株である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、GADを有する乳酸菌の休止菌体を用いるため、脱炭酸反応時に、乳酸菌を増殖させるための条件を考慮する必要がない。そのため、野菜又は果実の処理物を高濃度とし脱炭酸反応の基質となるL-Glu濃度を高めることができるので、GABA生産量を向上させ、GABAを高濃度に含む組成物を取得することができる。また、発酵法と異なり乳酸菌の増殖と酵素反応とを同時に行わず、GADに好適な条件で脱炭酸反応を行うことができるため、短時間に効率的にGABAを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】休止菌体の調製条件別の、L-グルタミン酸からγ-アミノ酪酸への変換率を表すグラフ。A:MRS培地の初期pHを変えた場合、B:培養温度を変えた場合、C:培養時間を変えた場合。
図2】休止菌体を用いた脱酸素反応条件別の、グルタミン酸からγ-アミノ酪酸への変換率を表すグラフ(n=3、平均値±標準偏差)。A:トマト処理物のpHを変えた場合、B:反応温度を変えた場合、C:トマト処理物の濃度を変えた場合。
図3】脱酸素反応における休止菌体濃度を変えた場合の、A:グルタミン酸からγ-アミノ酪酸への変換率を表すグラフ、及びB:生成したGABA濃度を表すグラフ(それぞれn=3、平均値±標準偏差)。
図4】再利用した休止菌体を用いた脱酸素反応における、グルタミン酸からγ-アミノ酪酸への変換率の経時変化を表すグラフ(n=3、平均値±標準偏差)。A:繰り返し使用回数、B:冷蔵保存日数、C:凍結-融解サイクルの繰り返し回数。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0015】
本発明の製造方法は、少なくとも野菜又は果実の処理物と乳酸菌の休止菌体とを混合する工程(以降「混合工程」とも記す)、及び前記野菜又は果実の処理物中のL-Gluの脱炭酸反応を行いGABAを生成する工程(以降「反応工程」とも記す)で少なくとも構成される、GABA含有組成物の製造方法である。
本発明の製造方法においては、野菜又は果実の処理物中のL-Gluが脱炭酸反応によりGABAに変換されるため、本発明の製造方法はL-GluをGABAに変換する方法とも言い換えることができる。
【0016】
野菜又は果実は、通常L-Gluを含有するものであれば特に限定されない。野菜としては、ブロッコリー、白菜、アスパラガス、玉ねぎ、人参、カブ、大根、ホウレンソウ、ピーマン、大麦若葉、春菊、カラシ菜、サラダ菜、小松菜、明日葉、甘藷、馬鈴薯、モロヘイヤ、パプリカ、パセリ、セロリ、三つ葉、レタス、ラディッシュ、紫蘇、茄子、インゲン、カボチャ、牛蒡、ネギ、生姜、大蒜、ニラ、トウモロコシ、さやえんどう、オクラ、きゅうり、ウリ、ズッキーニ、へちま、もやし等が挙げられる。果実としては、トマト、アボカド、メロン、キウイフルーツ、イチゴ、バナナ、スイカ、レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン、ライム、スダチ、柚子、シイクワシャー、タンカン等の柑橘類、リンゴ、ウメ、モモ、サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、パッションフルーツ、レイシ等が挙げられる。これらのうち、トマトが特に好ましい。
野菜又は果実の「処理物」は、野菜又は果実を加工したものを指し、その加工手段は特に制限されない。例えば、野菜又は果実を搾汁したもの、磨砕したもの、破砕したもの、細断したもの、抽出したもの、凍結したもの、これらを乾燥したもの、加熱したもの、濃縮したもの、希釈したもの、遠心分離した上清、清澄化したもの等が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法の反応工程における野菜又は果実の処理物のBrixは、25%以上かつ60%以下であることが好ましく、30%以上かつ50%以下であることがより好ましい。
本発明の製造方法では、GADを有する乳酸菌を必ずしも増殖させる必要がないため、野菜又は果実の処理物が乳酸菌の増殖を抑制しうる高浸透圧環境となる高Brixであっても許容される。そのため、反応工程において基質であるL-Glu濃度を高めることができる。
本発明の製造方法の混合工程に供する野菜又は果実の処理物は、L-Gluを好ましくは45mM以上かつ110mM以下、より好ましくは50mM以上かつ100mM以下、さらに好ましくは50mM以上かつ90mM以下含有する。なお、処理物が不溶性固形分を含む場合は、それをのぞいた部分の濃度とする。
このような高Brixの、又は高濃度のL-Glu含有の、野菜又は果実の処理物を用いることにより、GABA生産量を向上させ、GABAを高濃度に含む組成物を取得することができる。
【0018】
本発明の製造方法の反応工程における野菜又は果実の処理物中の不溶性固形分は、5容量%以下であることが好ましい。このような範囲であれば、脱炭酸反応がより進行しやすく、L-GluからGABAへの変換率がさらに向上する。不溶性固形分の量は、混合工程に供する前に野菜又は果実の処理物を通常ろ過、精密ろ過、限外ろ過等のろ過や遠心分離で処理することにより調整することができる。
なお、ここで不溶性固形分は、以下の方法で測定する。野菜又は果実の処理物10mLを長さ105mmの遠心沈澱管にとり、回転半径14.5cm、回転数3000rpm、時間10分の条件で遠心分離したときの、全容量に対する沈殿物の容量の割合を測定し、その値を不溶性固形分とする。
【0019】
本発明の製造方法における乳酸菌は、GADを有するものであれば特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、ラクチカゼイバチルス(Lacticaseibacillus)属細菌、ラクチプランティバチルス(Lactiplantibacillus)属細菌、レビラクトバチルス(Levilactobacillus)属細菌、リジラクトバチルス(Ligilactobacillus)属細菌、リモシラクトバチルス(Limosilactobacillus)属細菌等が挙げられる。これら
のうち、ラクチプランティバチルス属細菌がより好ましく、ラクチプランティバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)がさらに好ましく、ラクチプランティ
バチルス・プランタラムKB1253株が特に好ましい。
【0020】
ラクチプランティバチルス・プランタラム KB1253株は、平成30年10月3日
に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、国内寄託がなされ、受託番号NIT
E P-02790が付与されている。
【0021】
なお、ラクチプランティバチルス属細菌は、従来ラクトバチルス属に分類されていたが、2020年に国際原核生物命名委員会(ICSP)による規則(ICNP)に則りInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)誌においてラクチプランティバチルス属に再分類された細菌を指す。
【0022】
本発明の製造方法には、ラクチプランティバチルス・プランタラム KB1253株名
で寄託されている株そのもの(便宜上、「寄託株」ともいう)に制限されず、同寄託株と実質的に同等の株(「派生株」または「誘導株」ともいう)も包含される。実質的に同等の細菌とは、本発明の乳酸菌と同種属の細菌であって、上記寄託株と同程度の高い変換率でL-GluをGABAに変換する活性を有する細菌を言う。また、実質的に同等の細菌は、16SrRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託株の16SrRNA遺伝子の塩基配列と99.5%以上、好ましくは99.9%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、且つ、好ましくは上記寄託株と同一の菌学的性質を有する。さらに、本発明の乳酸菌は、本発明の効果が損なわれない限り、寄託菌、又はそれと実質的に同等の細菌から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された変異株であってもよい。育種方法としては、遺伝子工学的手法による改変や、変異処理による改変が挙げられる。変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-
ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。寄託株からの自然変異株としては、寄託株の使用の際に自然に生じた株が挙げられる。そのような株としては、寄託株の培養(例えば継代培養)により自然に生じた変異株が挙げられる。派生株は、1種の改変により構築されてもよく、2種またはそれ以上の改変により構築されてもよい。
【0023】
本発明の製造方法において乳酸菌は休止菌体を用いる。本明細書において休止菌体は、増殖能力を維持しながら休止している、G0期にあるものをいう。
本発明の製造方法では、休止期にある乳酸菌を用い、反応工程において乳酸菌の増殖を行わないため、一般に乳酸菌の増殖条件よりは厳しい条件となる、GADに好適な条件で脱炭酸反応を行うことができるため、短時間に効率的にGABAを製造することができる。
【0024】
本発明の製造方法に用いる乳酸菌の休止菌体は、乳酸菌をMRS培地などの使用する乳酸菌の増殖に適当な培地で培養することにより調製すればよい。かかる培養条件は特に限定されないが、反応工程においてL-GluからGABAへ変換する条件と異なっていてよく、乳酸菌の増殖効率を高め、前記変換効率を上げる観点から、次のような条件が好ましい。
培地の培養開始時のpHは、4.0以上5.0以下の範囲が好ましく、4.5がより好ましい。
培養温度は、28℃以上35℃以下の範囲が好ましく、30℃がより好ましい。
培養時間は、9時間以上15時間以下の範囲が好ましく、12時間がより好ましい。
また、培養環境は嫌気条件であってよい。
【0025】
反応工程における脱炭酸反応は、乳酸菌の休止菌体が有するグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)が触媒する。そのため、休止菌体が有するGADの活性は重要である。一方で、乳酸菌は繰り返し本発明の製造方法に利用されることがコストの観点から好ましい。
後述の実施例で示されるように、本発明の製造方法に用いた後に回収し、再度本発明の製造方法に用いる場合、2回までは繰り返し用いてもGAD活性は衰えにくく、L-GluからGABAへの変換に支障が小さいと考えられる。また、休止菌体を冷蔵保存(4℃)した場合であっても、保存期間が4日まではGAD活性は衰えにくく、L-GluからGABAへの変換に支障が小さいと考えられる。また、休止菌体を凍結保存(-20℃)し融解(4℃)した場合も、少なくとも5回凍結・融解サイクルを繰り返してもGAD活性は衰えにくく、L-GluからGABAへの変換に支障が小さいと考えられる。
【0026】
本発明の製造方法における混合工程では、少なくとも野菜又は果実の処理物と乳酸菌の休止菌体とを混合する。
ここで、混合系における休止菌体の菌体量は、菌体の湿重量として20g/L以上200g/L以下の範囲であることが好ましく、30g/L以上150g/L以下の範囲であることがより好ましい。または、菌体数として5.0×10cfu/mL以上5.0×1010cfu/mL以下の範囲であることが好ましく、8.0×10cfu/mL以上4.0×1010cfu/mL以下の範囲であることがより好ましい。
かかる量で菌体を野菜又は果実の処理物と混合することにより、GAD濃度が十分に確保され、続く反応工程での脱炭酸反応が進行しやすくなる。
【0027】
なお、混合工程に先立ち、野菜又は果実の処理物に対して予め殺菌を行うことが好ましい。殺菌条件としては特に制限はないが、例えば80℃以上110℃以下で1分間以上20分間以下の時間で処理する。
【0028】
本発明の製造方法における反応工程では、前記野菜又は果実の処理物中のL-Gluの脱炭酸反応を行い、GABAを生成する。
反応工程において通常は、先の混合工程で調製した混合系を、GADの脱炭酸反応に好適な条件に置くことにより反応を進行させる。
乳酸菌の増殖を同時に行わないため、GADに好適な条件で脱炭酸反応を行うことができるため、短時間に効率的にGABAを製造することができる。
【0029】
脱炭酸反応における反応温度は、35℃以上かつ55℃以下が好ましく、40℃以上かつ50℃以下がより好ましい。これは、乳酸菌の有するGADの反応至適温度がこの範囲にあり、通常は乳酸菌の増殖至適温度より高い。
脱炭酸反応における反応時間は、30分間以上かつ180分間以下が好ましく、30分間以上かつ120分間以下がより好ましい。発酵法では乳酸菌を増殖させながらGADの反応を行うため、十数時間~数十時間という長時間を要したのに対し、本発明の製造方法では格段に短時間でGABAを製造することができる。
脱炭酸反応における反応時のpHは、3.5以上かつ5.0以下が好ましく、3.5以上4.5以下がより好ましい。これは、乳酸菌の有するGADの反応至適pHがこの範囲にあり、通常は乳酸菌の増殖至適pHより低い。なお、反応工程の開始時及び/又は途中において、適するpHになるようにpH調整剤を任意に添加してもよい。
脱炭酸反応は、嫌気条件下で行うことが好ましく、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら培養することができる。また、液体静置培養等の微好気条件下で培養してもよい。
【0030】
本発明の製造方法によれば、L-GluからGABAへの変換率を少なくとも50%以上と高くすることができ、得られる生成物はGABAを高濃度で含むものである。
なお、L-GluからGABAへの変換率は、以下の数式(1)で算出される。数式(1)において、[GABA]は、反応開始時のGABAの濃度(mM)を表す。[GABA]は、反応開始後t時点のGABAの濃度(mM)を表す。[Glu]は、反応開始時のL-Glu濃度(mM)を表す。
【0031】
【数1】
【0032】
本発明の第二の態様は、GABA含有組成物であって、当該組成物は、野菜又は果実の処理物であって、当該組成物におけるGABAの含有量は70mM以上であり、好ましくは80mM以上であり、より好ましくは89mM以上であり、さらに好ましくは、100
mM以上である。当該組成物におけるGABAの含有量は、好ましくは、300mM以下であり、より好ましくは、200mM以下であり、さらに好ましくは、150mM以下である。当該組成物において、GABAは、添加されていないことが好ましい。
このように、高い濃度でGABAを含有する組成物は、前述した本発明の製造方法により好適に取得することができる。
【0033】
なお、本発明の組成物における「処理物」は、第一の態様での説明に準じるが、野菜若しくは果実又はその処理物が、本発明の製造方法に供された後のもの、すなわちGADによる脱炭酸反応の処理を施された後のものが包含されてよい。
また、本発明の組成物は通常は液状であり、濃縮物や乾燥物等の半固形・固形状でもよい。
【0034】
本発明の組成物のBrixは、25%以上かつ60%以下であることが好ましく、30%以上かつ50%以下であることがより好ましく、30%超かつ50%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、乳酸菌をさらに含有してもよい。その場合、本発明の製造方法により本発明の組成物が取得された場合、製造時に存在していた乳酸菌がそのまま残存している形態が含まれる。
かかる乳酸菌は、第一の態様での説明に準じるが、ラクチプランティバチルス・プランタラムKB1253株が特に好ましい。
本発明の組成物が乳酸菌を含有する場合、乳酸菌は生菌であっても死菌であってもよく、生菌と死菌との両方を含むものでもよい。さらに、乳酸菌が破砕された状態、乳酸菌の一部を含む状態であってもよい。
【0036】
本発明の組成物は、L-Gluを含有してもよいが、その含有量は、好ましくは45mM以下が好ましく、30mM以下がより好ましく、20mM以下がさらに好ましい。L-Gluが低含有量であることにより、本発明の組成物を飲食品の形態としたときに、すっきりとした後味とすることができる。
【0037】
本発明の製造方法により製造されたGABA含有組成物又は本発明の組成物は、任意の飲食品の形態に調製することができる。例えば、果実がトマトである場合は、トマトジュース、トマトピューレ、トマトソース等に調製することができる。また、これらを他の果実、果汁、野菜汁、豆乳、麦芽汁、牛乳、ヨーグルト、調味料、菓子、サプリメント、その他の飲食品に添加してもよい。
このような、GABA含有飲食品は、本発明の組成物の一実施形態であり、本発明に包含される。
【実施例0038】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
(1)乳酸菌の休止菌体の調製
L.プランタラムKB1253株をMRS培地(pH4.0~5.5)(Oxoid, Cambridge, UK)で30℃、12時間、通気せずに培養した。
別途、L.プランタラムKB1253株をMRS培地(pH4.5)で25~40℃、12時間、通気せずに培養した。
また、別途、L.プランタラムKB1253株をMRS培地(pH4.5)で30℃、9~21時間、通気せずに培養した。
いずれも培養後、8,000×g、4℃、3分間の遠心分離により休止菌体を回収し、2回洗浄した後、後述の濃縮トマト抽出物に再懸濁し、使用するまで50mLチューブで冷蔵保存(4℃)した。
【0040】
(2)GABA製造
市販のトマトペースト(カゴメ株式会社製)を蒸留水でBrix30%から10%へ希釈し、12,000×g、4℃、15分間遠心分離してトマトの粕を除去した。上清(Brix10%)をロータリーエバポレーター(50℃)、Brix40%まで濃縮して、濃縮トマト抽出物とした。
濃縮トマト抽出物を蒸留水でBrix25%に希釈し、5M HCl又は5M NaOHを用いてpH4.0に調整した。ここに、(1)で調製した休止菌体を湿重量30g/Lとなるように添加して懸濁して反応液を調製し、40℃で3時間インキュベートした。
【0041】
(3)GABA及びL-Gluの定量
インキュベート後の反応液を10,000×g、4℃、10分間遠心分離し、蒸留水で500倍に希釈し、孔径0.20μmの膜(DISMIC-25cs、アドバンテック東洋社製)で濾過した。No.2622 PFカラム(φ4.6mm×60mm)(日立ハイテクサイエンス社製)及びUV検
出器(570nm)を備えたHITACHI L-8900システム(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によりGABA及びL-Glu量を測定した。
【0042】
休止菌体を調製する際の培養において、培地の初期pH、培養温度、及び培養時間をそれぞれ変えて、得られた休止菌体を用いてGABA生産を行ったときのL-GluからGABAへの変換率を図1A~Cにそれぞれ示す。
MRS培地の初期pHが4.5の場合に、変換率が85.9±0.8と最も高くなった(図1A)。培養温度が30℃の場合に、変換率が81.0±2.0と最も高くなった(図1B)。培養時間が対数増殖期後期に相当する12時間の場合に、変換率が83.8±2.3と最も高くなった(図1C)。
【0043】
<実施例2>
(1)乳酸菌の休止菌体の調製
L.プランタラムKB1253株をMRS培地(pH4.5)で30℃、12時間、通気せずに培養した。培養後、8,000×g、4℃、3分間の遠心分離により休止菌体を回収し、2回洗浄した後、実施例1の(2)で述べた濃縮トマト抽出物に再懸濁し、使用するまで50mLチューブで冷蔵保存(4℃)した。
【0044】
(2)GABA製造
前述の濃縮トマト抽出物を蒸留水でBrix25%に希釈し、5M HCl又は5M NaOHを用いてpH3.0~5.0に調整した。ここに、(1)で調製した休止菌体を湿重量30g/Lとなるように添加して懸濁して反応液を調製し、40℃で30分間インキュベートした。
別途、前述の濃縮トマト抽出物を蒸留水でBrix25%に希釈し、5M HCl又は
5M NaOHを用いてpH4.0に調整した。ここに、(1)で調製した休止菌体を湿
重量30g/Lとなるように添加して懸濁して反応液を調製し、35~60℃で30分間インキュベートした。
また、別途、前述の濃縮トマト抽出物を蒸留水でBrix25~50%に希釈し、5M
HCl又は5M NaOHを用いてpH4.0に調整した。ここに、(1)で調製した休止菌体を湿重量30g/Lとなるように添加して懸濁して反応液を調製し、40℃で30分間インキュベートした。
【0045】
(3)GABA及びL-Gluの定量
インキュベート後の反応液について、実施例1と同様にHPLC分析を行いGABA及びL-Glu量を測定した。
【0046】
乳酸菌の休止菌体を用いる脱炭酸反応を行う際のpH、インキュベート温度、及び濃縮トマト抽出物の濃度をそれぞれ変えて、GABA生産を行ったときのL-GluからGABAへの変換率を図2A~C及び表1にそれぞれ示す。
pHが4.0の場合に、変換率が78.0±2.8と最も高くなった(図2A)。これは、緩衝液系でのGABA製造のときの好適なpH3.5よりも高いpHである。その理由としては、トマトに含まれる何らかの化合物が、pH3.5以下の低い領域ではL-Gluの乳酸菌の細胞質への取り込みや、L-GluとGADとの相互作用を抑制するためと推測される。
インキュベート温度は、45℃までは温度上昇に伴い変換率が増加し、45℃の場合に、変換率が84.9±3.0と最も高くなり、45℃を超えると変換率は減少し、60℃では変換率25%以下にまで下がった(図2B)。これは、熱によりGADが失活したためと考えられる。一般に、GAD活性は40~60℃付近で阻害されることが知られている。
濃縮トマト抽出物の濃度(Brix)が高くなるほど、変換率は著しく低下し、Brix40%では25%に比べて約50%も変換率が減少した(図2C、表1)。これは、トマトに含まれる糖等の可溶性成分がGABA生成を抑制していると考えられる。
【0047】
【表1】
【0048】
<実施例3>
(1)乳酸菌の休止菌体の調製
実施例2と同様に乳酸菌の休止菌体を調製した。
(2)GABA製造
前述の濃縮トマト抽出物を蒸留水でBrix40%に希釈し、5M HCl又は5M NaOHを用いてpH4.0に調整した。ここに、(1)で調製した休止菌体を湿重量30,60、又は150g/Lとなるように添加して懸濁して反応液を調製し、45℃で30分間インキュベートした。
(3)GABA及びL-Gluの定量
インキュベート後の反応液について、実施例1と同様にHPLC分析を行いGABA及びL-Glu量を測定した。
【0049】
濃縮トマト抽出物に作用させる乳酸菌の休止菌体の量を変えて、GABA生産を行ったときのL-GluからGABAへの変換率及び生成したGABA濃度を、図3A~Bにそれぞれ示す。
休止菌体濃度が30g/L(菌体数:8.0×10cfu/mL)又は60g/L(菌体数:1.6×1010cfu/mL)の場合、反応開始2時間後に最大GABA変換率が観測され、それぞれ57.8%および85.7%となり頭打ちとなった(図3A)。濃縮トマト抽出物中のL-Gluが完全に消費されていないにもかかわらず、反応開始後
1~2時間程度でL-GluからGABAへの変換が阻害されたことになる。これは、45℃条件ではGADが失活したためと推測される。一方、休止菌体濃度が150g/Lの場合は反応開始30分後に99%以上の変換率となり、反応前に存在していたGABAをふまえて最終的に82.5±1.4mMのGABAが生産された(図3B)。
発酵法の場合は35℃で培養するためGADは失活せず、L-GluからGABAに継続的に変換されるが、生産に12~24時間といった長時間がかかる。本発明の製造方法により、各段に短時間で、高いGABA産生量を得ることができた。
【0050】
<実施例4>
(1)乳酸菌の休止菌体の調製
実施例2と同様に乳酸菌の休止菌体を調製した。ただし、調製した休止菌体は、使用するまで50mLチューブで1~数日間冷蔵保存(4℃)または冷凍保存(-20℃)した。
また、実施例2の反応(濃縮トマト抽出物のBrix25%、pH4.0、休止菌体湿重量30g/L、45℃で30分間インキュベート)後の反応液から、8,000×g、4℃、3分間の遠心分離により菌体を回収し、2回洗浄した後、濃縮トマト抽出物CTE反
応液に再懸濁した。同様の反応を再度行い、同様に回収することを繰り返した。
【0051】
(2)GABA製造
前述の濃縮トマト抽出物を蒸留水でBrix25%に希釈し、5M HCl又は5M NaOHを用いてpH4.0に調整した。ここに、冷蔵保存、凍結及び融解、又は回収・再利用した休止菌体を湿重量30g/Lとなるように添加して懸濁して反応液を調製し、45℃で30分間インキュベートした。凍結及び融解は、-20℃の凍結状態から完全に融解し4℃にした状態を1回とカウントした。
【0052】
(3)GABA及びL-Gluの定量
インキュベート後の反応液について、実施例1と同様にHPLC分析を行いGABA及びL-Glu量を測定した。
【0053】
休止菌体の保存方法又は再利用回数を変えて、GABA生産を行ったときのL-GluからGABAへの変換率及び生成したGABA濃度を、図4A~Cにそれぞれ示す。
休止菌体の再利用回数が2回以下の場合は反応30分後の変換率は79.6%以上であったが、3回再利用すると変換率は急激に低下し(47.5%)、5回目以上では変換率は4.9%以下まで低下した(図4A)。45℃の反応温度に繰り返し曝されたことで、休止菌体中のGADが失活したものと推測された。
冷蔵保存期間については、1日保存しても変換率は変化せず(0日:98.5%、1日:96.4%)、2日保存しても変換率は82.5%を維持した。保存期間が5日以上になると、変換率は18.9%を下回り、4℃での冷蔵保存下で休止菌体のGADが失活することが示唆された(図4B)。
凍結・融解の繰り返しについては、変換率は徐々に低下した(図4C)。ただし、少なくとも凍結・融解を5回繰り返しても変換率は80%以上を維持した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、L-GluをGABA高い効率で変換でき、高濃度でGABAを含有する組成物を製造することができる。
本発明の方法で製造されたγ-アミノ酪酸含有組成物は、GABAの生理機能的有用性を謳う飲食品や、すっきりとした後味が求められる飲食品などに好適である。
図1
図2
図3
図4