(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055082
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
C01F11/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161697
(22)【出願日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達弥
(72)【発明者】
【氏名】飯島 勝之
(72)【発明者】
【氏名】村上 和希
(72)【発明者】
【氏名】小堀 竜一
(72)【発明者】
【氏名】堺 康爾
(72)【発明者】
【氏名】木下 繁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB28
4G076BA13
4G076BA43
4G076BB01
4G076BB08
4G076BC02
4G076BC04
4G076BC07
4G076BD01
4G076BE11
4G076CA22
4G076DA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、炭酸カルシウム中の着色成分を抑制し、低コストで白色度の高い炭酸カルシウムを得ることができる炭酸カルシウムの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る炭酸カルシウムの製造方法は、鉄、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムから選択される一種以上の元素と、カルシウムとを含む溶液又はスラリーに二酸化炭素を導入することでpHを7以下に制御する工程と、前記制御工程でpHが制御された前記溶液又は前記スラリー中に析出物を析出させる工程と、前記析出工程で析出した前記析出物を前記溶液又は前記スラリーから除去する工程と、前記除去工程後の前記溶液又は前記スラリーを脱気して炭酸カルシウムを得る工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムから選択される一種以上の元素と、カルシウムとを含む溶液又はスラリーに二酸化炭素を導入することでpHを7以下に制御する工程と、
前記制御工程でpHが制御された前記溶液又は前記スラリー中に析出物を析出させる工程と、
前記析出工程で析出した前記析出物を前記溶液又は前記スラリーから除去する工程と、
前記除去工程後の前記溶液又は前記スラリーを脱気して炭酸カルシウムを得る工程と
を備える炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記元素が、鉄及びマンガンの少なくとも一方を含む請求項1に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記元素が、鉄鋼スラグに由来するものである請求項1又は請求項2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記溶液又は前記スラリーが、水を含む請求項1又は請求項2に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
前記溶液又は前記スラリーが、ポリオール化合物をさらに含む請求項4に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリオール化合物が、ジオール化合物又はトリオール化合物である請求項5に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
前記ポリオール化合物が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される一又は二以上のジオール化合物である請求項5に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項8】
前記ポリオール化合物が、グリセリンである請求項5に記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素が地球温暖化への影響が大きいと考えられている。この地球温暖化問題に対する有効な対策として、二酸化炭素を、カルシウムを含む溶液又はスラリーに固定して炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する技術が注目されている。このようにして得られる炭酸カルシウムは、白色度を向上することで広い用途に使用することができる。このため、炭酸カルシウムの白色度を向上する方法が発案されている(特開昭51-47597号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によっても、炭酸カルシウム中に鉄などの着色成分が存在していると、その着色成分が白色化処理を行った後に発色して白色度を低下させることがある。また、特許文献1の方法では、ハイドロサルファイト等の薬剤を用いており、炭酸カルシウムを白色化するためのコストを低減することが困難になる。
【0005】
このような事情に鑑み、本発明は、炭酸カルシウム中の着色成分を抑制し、低コストで白色度の高い炭酸カルシウムを得ることができる炭酸カルシウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の一態様に係る炭酸カルシウムの製造方法は、鉄、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムから選択される一種以上の元素と、カルシウムとを含む溶液又はスラリーに二酸化炭素を導入することでpHを7以下に制御する工程と、前記制御工程でpHが制御された前記溶液又は前記スラリー中に析出物を析出させる工程と、前記析出工程で析出した前記析出物を前記溶液又は前記スラリーから除去する工程と、前記除去工程後の前記溶液又は前記スラリーを脱気して炭酸カルシウムを得る工程とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭酸カルシウムの製造方法は、炭酸カルシウム中の着色成分を抑制し、低コストで白色度の高い炭酸カルシウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に用いられる炭酸カルシウムの製造装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例で得た炭酸カルシウムの白色度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様に係る炭酸カルシウムの製造方法は、鉄、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムから選択される一種以上の元素と、カルシウムとを含む溶液又はスラリーに二酸化炭素を導入することでpHを7以下に制御する工程と、前記制御工程でpHが制御された前記溶液又は前記スラリー中に析出物を析出させる工程と、前記析出工程で析出した前記析出物を前記溶液又は前記スラリーから除去する工程と、前記除去工程後の前記溶液又は前記スラリーを脱気して炭酸カルシウムを得る工程とを備える。
【0010】
当該炭酸カルシウムの製造方法(以下、単に「当該製造方法」ともいう)は、鉄などの着色成分とカルシウム(Ca)とを含む溶液又はスラリーに二酸化炭素を導入して反応させている。この反応によって、前記溶液中又は前記スラリー中に析出物として前記着色成分を含む炭酸カルシウムが析出する。この析出物を除去した前記溶液中又は前記スラリー中には炭酸水素カルシウムイオンの形態でカルシウム成分が残存するため、前記析出物を除去した前記溶液又は前記スラリーを脱気することで着色成分が抑制された白色度の高い炭酸カルシウムを得ることができる。また、当該製造方法は、薬剤などを要しないため、低コストで白色度の高い炭酸カルシウムを得ることができる。
【0011】
前記元素が、鉄又はマンガンの少なくとも一方を含むとよい。鉄及びマンガンは、発色し易いため、炭酸カルシウム中から特に除去されるべき元素である。当該製造方法は、前記析出物中に鉄やマンガンを析出させているため、前記析出物を除去した前記溶液中又は前記スラリー中に前記鉄及び前記マンガンが残存することを抑制できる。
【0012】
前記元素が、鉄鋼スラグに由来するものであるとよい。すなわち、鉄鋼スラグを含む溶液中又はスラリーから炭酸カルシウムを得るとよい。このようにすることで、より低コストで炭酸カルシウムを得ることができる。
【0013】
前記溶液又は前記スラリーが、水を含むとよい。カルシウムは水に溶解するため、前記溶液又は前記スラリーが水を含むことで炭酸カルシウムを得る効率性を向上することができる。
【0014】
前記溶液又は前記スラリーが、ポリオール化合物をさらに含むとよい。カルシウムはポリオール化合物に溶解しやすいため、前記溶液又は前記スラリーがポリオール化合物をさらに含むことで炭酸カルシウムを得る効率性をより向上することができる。
【0015】
前記ポリオール化合物が、ジオール化合物又はトリオール化合物であるとよい。このようにすることで、炭酸カルシウムを得る効率性をさらに向上することができる。
【0016】
前記ポリオール化合物が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される一又は二以上のジオール化合物であるとよい。このようにすることで、炭酸カルシウムを得る効率性をよりさらに向上することができる。
【0017】
前記ポリオール化合物が、グリセリンであるとよい。このようにすることで、炭酸カルシウムを得る効率性をより一層向上することができる。
【0018】
ここで、「ポリオール化合物」とは、複数のアルコール性水酸基(脂肪族炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(-OH)で置換した基)を有する有機化合物をいう。同様に、「ジオール化合物」とは、二の前記アルコール性水酸基を有する有機化合物をいい、「トリオール化合物」とは、三の前記アルコール性水酸基を有する有機化合物をいう。
【0019】
[発明を実施するための形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しながら本発明を詳説する。なお、図面は説明用の図であり、各構成(各部材)は模式的に描かれたものであって、形状、縮尺などは、実際のものと異なることがあり、液体(後述の溶媒など)を移送させるためのポンプ、又は液体を適切なタイミングで移送させるための弁等の部材は省略しているものがある。また、本明細書では、本発明の構成の数値範囲として複数の上限値と複数の下限値とを記載していることがある。これら複数の上限値と複数の下限値とは、いずれか一方の任意の値を選択することができ、又は任意の上限値と下限値とを組み合わせることができるものとして記載されている。
【0020】
[炭酸カルシウムの製造方法]
当該製造方法は、鉄、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムから選択される一種以上の元素と、カルシウムとを含む溶液又はスラリーに二酸化炭素を導入することでpHを7以下に制御する工程と、前記制御工程でpHが制御された前記溶液又は前記スラリー中に析出物を析出させる工程と、前記析出工程で析出した前記析出物を前記溶液又は前記スラリーから除去する工程と、前記除去工程後の前記溶液又は前記スラリーを脱気して炭酸カルシウムを得る工程とを主に備える。
【0021】
鉄、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムから選択される一種以上の元素(以下、「着色成分」という)としては、鉄鋼スラグに由来するものが好ましい。鉄鋼スラグは、鉄鋼の製造過程で不可避的に生じる副産物であり、着色成分とカルシウムとを含む。鉄鋼スラグには、転炉スラグ又は電気炉スラグといった製鋼の過程で生じる製鋼スラグ、製銑の過程で生じる高炉スラグ等がある。これらの鉄鋼スラグにおいて、カルシウムは、例えば、酸化カルシウム(CaO)の形態で存在している。
【0022】
前記元素が、鉄及びマンガンの少なくとも一方を含むことが好ましい。鉄及びマンガンは、発色し易いため、炭酸カルシウム中に残存すると白色度を低下することがある。例えば、前記溶液中又は前記スラリー中に3価の鉄イオン(鉄元素)が含まれていると、この鉄元素がFe2O3やFe(OH)3として赤い沈殿物を生じさせることがある。当該製造方法は、後述する析出工程で鉄やマンガンを析出させることができるため、前記溶液中又は前記スラリー中に鉄及びマンガンが残存することを抑制でき、白色度の高い炭酸カルシウムを得ることができる。
【0023】
前記溶液又は前記スラリーは、水を含むことが好ましい。水は、前記溶液中又は前記スラリー中に導入される二酸化炭素をイオン化(炭酸イオン化)するためのプロトン(H+)の供給源となる。前記溶液中又は前記スラリー中に溶解したカルシウムはカルシウムイオンとして水に移行(拡散)し、この水に導入される二酸化炭素が炭酸イオン(CO3
2-)として溶解する。その結果、この水を反応の場としてカルシウムイオンと炭酸イオンとが反応し、炭酸カルシウムとなる。このような水としては、上述のように触媒的に機能するものであれば特に限定されず、例えば、純水が挙げられる。
【0024】
前記溶液又は前記スラリーが、ポリオール化合物をさらに含むことが好ましい。カルシウムはポリオール化合物に溶解しやすいため、前記溶液又は前記スラリーがポリオール化合物をさらに含むことで炭酸カルシウムを得る効率性をより向上することができる。
【0025】
前記ポリオール化合物は、前記スラグからカルシウムを抽出するための媒体である。前記ポリオール化合物は、複数のアルコール性水酸基を有する有機化合物である。アルコール性水酸基は、脂肪族炭化水素の水素原子を置換したヒドロキシ基であり、芳香環を構成する炭化水素の水素原子を置換したヒドロキシ基(例えば、フェノールのヒドロキシ基)は含まれない。
【0026】
前記ポリオール化合物としては、複数のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、ジオール化合物又はトリオール化合物であることが好ましい。ジオール化合物及びトリオール化合物は、通常、常温常圧で液状であるため、比較的容易に前記水と混合することができる。
【0027】
前記ジオール化合物としては、二のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、又はジエタノールアミンが挙げられる。これらのうち、前記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される一種又は二種以上が好ましい。
【0028】
例えば、エチレングリコールに対するカルシウムの溶解度は、水に対する溶解度の10倍程度であることが一般に知られている。つまり、エチレングリコールに対するカルシウムの溶解度は水に対する溶解度よりも遥かに大きい。よって、エチレングリコール等のジオール化合物を用いることで、前記鉄鋼スラグからカルシウムをより効率的に抽出することができる。
【0029】
前記トリオール化合物としては、三のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、グリセリンが好ましい。グリセリンを用いることで、前記鉄鋼スラグからカルシウムをより効率的に抽出することができる。
【0030】
前記溶液又は前記スラリーが、水とポリオール化合物とを含む場合、前記水の質量(W)に対する前記ポリオール化合物の質量(P)の比率(P/W)が、0.2以上0.93以下であることが好ましい。前記比率(P/W)の上限としては、0.90がより好ましく、0.89がさらに好ましい。前記比率(P/W)が前記上限を超えると、ポリオール化合物に対して水が不足することになり、後述する制御工程におけるカルシウムイオンと炭酸イオンとの反応がし難くなるおそれがある。前記比率(P/W)が前記下限に満たないと、ポリオール化合物に対して水の量が過剰になり、前記鉄鋼スラグからのカルシウムの抽出効率が低下するおそれがある。
【0031】
当該製造方法は、例えば、
図1に示すような炭酸カルシウムの製造装置を用いて行われる。この製造装置は、鉄鋼スラグを充填してスラグ層Sを形成するための容器1と、この容器1に溶液Mを供給する供給部2と、前記スラグ層Sを流通して前記容器1から排出されるカルシウム抽出液を貯留する貯留部3と、この貯留部3に貯留した前記抽出液M1に二酸化炭素Cを導入する導入部4と、前記導入部4による二酸化炭素の導入によって得られる混合液M2中の析出物Dを固液分離する分離部5とを主に備える。
【0032】
〔制御工程〕
制御工程では、着色成分とカルシウムとを含む鉄鋼スラグを容器内に充填して形成されたスラグ層Sに、溶液Mを流通させる手順と、前記スラグ層Sを流通した溶液(カルシウム抽出液M1)に二酸化炭素Cを導入する手順とを有する。
【0033】
前記流通手順で、容器1内に形成したスラグ層Sに、供給部2が供給する溶液Mを流通させることで、スラグ層Sを形成している鉄鋼スラグ中の着色成分とカルシウムとが溶液M中に抽出される。前記カルシウムは、カルシウムイオン(Ca2+)として抽出される。供給部2は、容器1と供給部2とを連通する溶媒供給管P1を介して溶液Mを容器1に供給する。着色成分とカルシウムとが抽出された溶液Mは、カルシウム抽出液M1として、抽出液供給管P2を介して貯留部3に供給される。着色成分やカルシウムが抽出された鉄鋼スラグは、容器1から取り出して乾燥させることで、路盤材(道路用材料)、肥料などの資源として利用することができる。
【0034】
前記導入手順では、導入部4が貯留部3に貯留されているカルシウム抽出液M1に二酸化炭素Cを導入する。導入部4としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知のガス吹き込み装置が挙げられる。導入部4による二酸化炭素Cの導入は、貯留部3内のカルシウム抽出液M1を攪拌しつつ行うことが好ましい。
【0035】
導入部4は、カルシウム抽出液M1のpHが7以下になるように二酸化炭素Cを導入する。カルシウム抽出液M1のpHの上限値としては、7未満が好ましく、6.9未満がより好ましい。カルシウム抽出液M1のpHの下限値としては、特に限定されるものではないが、例えば4.0以上とすることができる。カルシウム抽出液M1のpHが前記上限値を超えないようにすることで、得られる炭酸カルシウムの白色度が向上する。
【0036】
導入部4から導入されるのは、二酸化炭素からなるガスであってもよいし、二酸化炭素を含む大気(空気)であってもよく、工場、発電所、輸送などの産業活動で排出される二酸化炭素を含む排ガス等であってもよい。
【0037】
〔析出工程〕
カルシウム抽出液M1に二酸化炭素を導入することで、カルシウム抽出液M1中に二酸化炭素Cが炭酸イオンとして溶解する。前記カルシウムイオンと前記炭酸イオンとが反応すると、炭酸カルシウムが析出物Dとして析出する。当該製造方法は、二酸化炭素Cが導入されるカルシウム抽出液M1をpH7以下に制御しているため、カルシウム抽出液M1中の多くの着色成分が析出物D中に取り込まれることを向上できる。
【0038】
二酸化炭素Cを導入することでpH値が制御されたカルシウム抽出液M1は、析出物Dと共に、混合液M2として混合液供給管P3を介して分離部5に供給される。
【0039】
〔除去工程〕
貯留部3から分離部5に供給された混合液M2は、固液分離される。すなわち、分離部5は、析出物Dと、析出物Dが除去された混合液M2(分離液M3)とに分離する。分離部5としては、特に限定されるものでなく、例えば、公知の遠心分離器が挙げられる。分離した析出物Dは、例えば、樹脂のフィラー等の資源として利用することができる。
【0040】
〔取得工程〕
分離部5で析出物Dが除去された分離液M3には、カルシウムイオンが残存している。この分離液M3を脱気することで炭酸カルシウムがさらに得られる。鉄鋼スラグ中の着色成分は、析出物D中に析出しているため、分離液M3中の残存量は低減されている。このため、分離液M3を脱気することで得られる炭酸カルシウムは白色度が高い。このような白色度の高い炭酸カルシウムは、樹脂、紙、コンクリート等の白色度が高い製品の原料の一部として好適に用いられる。
【0041】
脱気の方法としては、分離液M3中の炭酸ガスを取り除くことが可能であれば特に限定されるものではなく、大気養生脱気、加熱沸騰脱気、超音波脱気、真空減圧脱気、遠心脱気、ガス吹き込み脱気などの公知の方法を採用することができる。ガス吹き込みによる脱気を行う場合の吹き込みガスは、窒素、アルゴン等の不溶性ガスであることが好ましい。
【0042】
〔利点〕
当該製造方法は、着色成分とカルシウムとを鉄鋼スラグから抽出した溶液にpHを制御しつつ二酸化炭素を導入して析出物を析出させているため、前記着色成分は、前記析出物中に析出し、前記析出物を除去した溶液中での残存量は低減されている。このため、当該製造方法は、前記析出物を除去した溶液を脱気することで得られる炭酸カルシウムの白色度を向上することができる。また、当該製造方法は、副産物である鉄鋼スラグを用い、炭酸カルシウムの白色度を向上するための薬剤などを用いていないため、白色度の高い炭酸カルシウムを低コストで製造することができる。
【0043】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0044】
着色成分とカルシウムとが抽出されるのは、必ずしも溶液である必要はなく、スラリーであってもよい。
【0045】
着色成分とカルシウムとを含むものは、鉄鋼スラグに限定されるものでなく、例えば、セメント、コンクリート廃材、ガラス廃材、石炭灰、汚泥焼却灰、木質バイオマス灰などであってもよい。
【0046】
溶液又はスラリーは、ポリオール化合物、水以外の他の溶剤、添加剤などをカルシウムの抽出効率を阻害しない範囲で含んでいてもよい。他の溶剤、添加剤などとしては、例えば、親水性溶液などである。親水性溶液としては、エタノール、又はメタノール等が挙げられる。また、流通工程では、ポリオール化合物と、溶剤以外の添加剤を水に溶解させた水溶液との混合液として用いてもよい。
【実施例0047】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0048】
第一の試験として、析出物と炭酸カルシウムとの白色度の比較試験を行った。着色成分とカルシウムとを含む物質として二つの製鋼スラグを用意した。この二つの製鋼スラグが含有していた着色成分を表1に示す。二つの製鋼スラグは、ジョークラッシャーで粉砕して4.75mm未満のものを使用した。
【0049】
【0050】
製鋼スラグからカルシウムを抽出する溶液として、グリセリン(富士フィルム和光純薬株式会社製、純度99.5%超)と純水とを用意した。
【0051】
400gの上記グリセリンと600gの上記純水とを準備した容器で混合して溶液とした。この溶液に、窒素ガスを0.5L/minで10分吹き込んだ後、100gの製鋼スラグ1を投入した。その後、窒素ガスを0.5L/minで容器内の気相部に流通させながら、撹拌機を用いて90分間、300rpmで攪拌し、カルシウムの抽出を行った。抽出後、5分間、3000rpmでの遠心分離を行い、ろ紙(5種A)を用いて溶液をろ過してカルシウム抽出液を得た。
【0052】
このカルシウム抽出液の含有成分を分析した結果を表2に示す。上記カルシウム抽出液中にはカルシウムの他に着色成分である鉄やマンガンが含まれていることがわかる。なお、上記分析はICP発光分析装置を用いて行った。
【0053】
【0054】
他の容器と、上述の方法で得たカルシウム抽出液とをそれぞれ五つ用意した。それぞれの容器に、900gの前記カルシウム抽出液を注入し、pH計(ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社製 卓上型pH/EC HI 5522)を挿入した。
【0055】
それぞれの容器内におけるカルシウム抽出液に、pHを制御しつつ0.5L/minで二酸化炭素を導入した。所定のpHに到達した時点で、ろ紙(5種C)を用いてカルシウム抽出液のろ過を行い析出物と分離液とに分離した。前記析出物は純水100gを用いて洗浄処理を行った後、10mmHg、105℃の条件で3時間以上の真空乾燥処理を行った。前記分離液は、それぞれさらに他の容器に注入し、室温下で48時間以上大気養生して脱気した。脱気後、ろ紙(5種C)を用いて炭酸カルシウムを得た。炭酸カルシウムは純水100gを用いて洗浄処理を行った後、10mmHg、105℃の条件で3時間以上の真空乾燥処理を行った。各カルシウム抽出液のpH、析出物の白色度、炭酸カルシウムの白色度の値を表3に示す。白色度は分光測色計(コミカミノルタ株式会社製 CM-600d)を用いて各々ハンター白色度を評価した。
【0056】
【0057】
pHを7超とした試験例1~3では、析出物のハンター白色度に対して炭酸カルシウムのハンター白色度は低い。一方、pHを7以下とした試験例4~5では、析出物のハンター白色度に対して炭酸カルシウムのハンター白色度は高い。また、試験例4~5の炭酸カルシウムのハンター白色度は、試験例1~3のハンター白色度より高い。これらのことから、カルシウム抽出液のpHが7以下になるように二酸化炭素を導入することで、白色度の高い炭酸カルシウムが得られることが分かる。
【0058】
第二の試験として、製鋼スラグが含有する着色成分の量による炭酸カルシウムの白色度の比較試験を行った。二つの容器を準備し、それぞれの容器で120gのグリセリンと280gの純水とを混合して溶液とした。この溶液に、窒素ガスを0.5L/minで10分吹き込んだ後、一方の容器に製鋼スラグ1、他方の容器に製鋼スラグ2をそれぞれ40g投入した。その後、窒素ガスを0.5L/minで容器内の気相部に流通させながら、撹拌機を用いて90分間、300rpmで攪拌し、カルシウムの抽出を行った。抽出後、5分間、3000rpmでの遠心分離を行い、ろ紙(5種A)を用いて溶液をろ過してカルシウム抽出液を得た。
【0059】
他の二つの容器に、それぞれの前記カルシウム抽出液を300g注入し、pH計を挿入した。それぞれの容器内のカルシウム抽出液に、pHを制御しつつ0.5L/minで二酸化炭素を導入した。所定のpHに到達した時点で、ろ紙(5種C)を用いてカルシウム抽出液のろ過を行い析出物と分離液とに分離した。前記析出物は純水100gを用いて洗浄処理を行った後、10mmHg、105℃の条件で3時間以上の真空乾燥処理を行った。前記分離液は、それぞれさらに他の容器に注入し、室温下で48時間以上大気養生して脱気した。脱気後、ろ紙(5種C)を用いて炭酸カルシウムを得た。炭酸カルシウムは純水100gを用いて洗浄処理を行った後、10mmHg、105℃の条件で3時間以上の真空乾燥処理を行った。各カルシウム抽出液のpH、析出物の白色度、炭酸カルシウムの白色度の値を表4に示す。
【0060】
【0061】
試験例6及び試験例7を比較すると、析出物のハンター白色度の差は比較的大きいが、炭酸カルシウムのハンター白色度の差は僅かである。また、いずれの炭酸カルシウムのハンター白色度も析出物のハンター白色度より高い。これらのことから、製鋼スラグが含有する着色成分の量によらず、カルシウム抽出液のpHが7以下になるように二酸化炭素を導入することで、白色度の高い炭酸カルシウムを安定して得られることが分かる。
本発明は、低コストで、かつ二酸化炭素を資源として有効利用して高い白色度の炭酸カルシウムを得ることができるため、付加価値の高い炭酸カルシウムを提供することができる。