(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055100
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】防音材の設計方法、製造方法、設計装置及び設計用プログラム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/162 20060101AFI20240411BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240411BHJP
G01N 29/12 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G10K11/162
G01H17/00 C
G01N29/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161733
(22)【出願日】2022-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月8日 https://www.jsae.or.jp/2021aki/attend.html https://gakkai-web.net/p/jsae/a/ronbun/mod2.php 令和3年10月11日 https://www.jsae.or.jp/2021aki/ 令和3年10月13日 公益社団法人自動車技術会 2021年秋季大会学術講演会 令和4年3月9日 https://www.jsae.net/kanto_more/icatye/ 令和4年3月10日 公益社団法人自動車技術会関東支部 2021年度学術研究講演会 令和4年5月26日 公益社団法人自動車技術会 2022年春季大会 第3回学生ポスターセッション 令和4年5月26日 公益社団法人自動車技術会 2022年春季大会 第3回学生ポスターセッション パシフィコ横浜 令和4年7月15日 公益社団法人自動車技術会 振動騒音部門委員会
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見坐地 一人
(72)【発明者】
【氏名】三木 達郎
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 正剛
【テーマコード(参考)】
2G047
2G064
5D061
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA01
2G047BC03
2G047BC04
2G047GG32
2G047GG43
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064DD02
5D061AA01
5D061AA25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温で使用される防音材を効果的に設計し製造する。
【解決手段】方法は、所定の高温以上の測定温度で多孔質体の試料に音波を放射し、実測関数と、第一パラメータを得る。多孔質体モデル関数を用いて実測関数と多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定し、実測パラメータ値に基づき所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定し、第一パラメータと多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて評価温度について第一パラメータの値として評価用パラメータ値が代入された防音材モデル関数により得られる防音材の音響特性が予め定められた範囲内に到達する第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定し、設計用パラメータ値に基づいて多孔質体の設計用物性値を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体を含む防音材の設計方法であって、
所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定工程と、
前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定工程と、
前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価工程と、
前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定工程と、
を含む、
防音材の設計方法。
【請求項2】
前記実測パラメータ値決定工程において、所定の高温以上の前記測定温度を含む複数の測定温度の各々で前記多孔質体の前記音響特性を測定することにより得られた前記実測関数を用い、前記複数の測定温度の各々について前記実測パラメータ値を決定することにより、前記実測パラメータ値と前記測定温度との関係を示す実測パラメータ値の温度依存関数を得ること、及び、
前記評価条件決定工程において、前記実測パラメータ値の温度依存関数に基づいて、前記複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度である前記評価温度における前記評価用パラメータ値を決定すること、
を含む、
請求項1に記載の防音材の設計方法。
【請求項3】
多孔質体を含む防音材の製造方法であって、
所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記所定の高温以上の測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定工程と、
前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定工程と、
前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価工程と、
前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定工程と、
前記設計用物性値を有する前記多孔質体を含む防音材を製造する防音材製造工程と、
を含む、
防音材の製造方法。
【請求項4】
前記実測パラメータ値決定工程において、所定の高温以上の前記測定温度を含む複数の測定温度の各々で前記多孔質体の前記音響特性を測定することにより得られた前記実測関数を用い、前記複数の測定温度の各々について前記実測パラメータ値を決定することにより、前記実測パラメータ値と前記測定温度との関係を示す実測パラメータ値の温度依存関数を得ること、及び、
前記評価条件決定工程において、前記実測パラメータ値の温度依存関数に基づいて、前記複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度である前記評価温度における前記評価用パラメータ値を決定すること、
を含む、
請求項3に記載の防音材の製造方法。
【請求項5】
多孔質体を含む防音材の設計装置であって、
所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定部と、
前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定部と、
前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価部と、
前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定部と、
を含む、
防音材の設計装置。
【請求項6】
多孔質体を含む防音材の設計用プログラムであって、
所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定手段、
前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定手段、
前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価手段、及び
前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定手段、
としてコンピュータを機能させるための防音材の設計用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音材の設計方法、製造方法、設計装置及び設計用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、音響材料を数学的に表現する数理モデルに基づいて、前記音響材料を特徴付ける複数の材料パラメータのうちの1種類につき予め指定した数値範囲にある複数の値のそれぞれに対して、前記音響材料の音響性能を算出する音響性能算出手段と、前記1種類の材料パラメータの値と周波数とを2軸として、前記音響性能算出手段により算出された音響性能を等高線で表した等高線図を、前記音響性能の値に応じて色を分けて描画するとともに、前記等高線図の周波数軸に平行な直線状のカーソルと前記カーソルが示す前記1種類の材料パラメータの値の表示とを前記等高線図上に描画する等高線図描画手段と、前記数値範囲内の1つの値における、前記周波数と前記音響性能との関係を表す性能曲線をプロット図に描画するプロット図描画手段とを備えており、前記等高線図描画手段が、ユーザの入力に応じて前記等高線図における前記カーソルの表示位置と前記1種類の材料パラメータの値の表示とを変更し、前記プロット図描画手段が、変更された前記1種類の材料パラメータの値の表示に対応する性能曲線を前記プロット図に描画するものである、音響性能計算装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、発泡樹脂製吸音材の内部構造を設計する方法であって、前記発泡樹脂製吸音材の内部構造と等価な構造であって、周期的かつ均質な構造の微視構造モデルを設定する工程と、前記発泡樹脂製吸音材の設計を行う範囲内でサンプリングした、複数の前記微視構造モデルのそれぞれについて、均質化法を用いて、音響特性を算出する工程と、前記発泡樹脂製吸音材のBiotパラメータと前記微視構造モデルとの関係式を、算出
した前記音響特性に基づいて、同定する工程と、前記発泡樹脂製吸音材の設計目標である、目標音響特性を設定する工程と、Biotモデル法を用いて、設定した前記目標音響特性を実現するBiotパラメータを同定する工程と、前記関係式を用いて、同定したBiotパラメータに対応する微視構造モデルを同定する工程と、を備えている設計方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2013-080993号公報
【特許文献2】特開2022-054842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来、多孔質体を含む防音材の設計においては、当該多孔質体の常温におけるパラメータを用いていたため、高温で使用される防音材については、試作品を実際に高温の環境下において音響特性を評価し、その評価結果に基づき再設計するという作業を繰り返す必要があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、高温で使用される防音材の効果的な設計及び製造を実現する、防音材の設計方法、製造方法、設計装置及び設計用プログラムを提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る防音材の設計方法は、多孔質体を含む防音材の設計方法であって、所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定工程と、前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定工程と、前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価工程と、前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定工程と、を含む。本発明によれば、高温で使用される防音材の効果的な設計方法が提供される。
【0008】
前記防音材の設計方法は、前記実測パラメータ値決定工程において、所定の高温以上の前記測定温度を含む複数の測定温度の各々で前記多孔質体の前記音響特性を測定することにより得られた前記実測関数を用い、前記複数の測定温度の各々について前記実測パラメータ値を決定することにより、前記実測パラメータ値と前記測定温度との関係を示す実測パラメータ値の温度依存関数を得ること、及び、前記評価条件決定工程において、前記実測パラメータ値の温度依存関数に基づいて、前記複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度である前記評価温度における前記評価用パラメータ値を決定すること、を含むこととしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る防音材の製造方法は、多孔質体を含む防音材の製造方法であって、所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記所定の高温以上の測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定工程と、前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定工程と、前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価工程と、前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定工程と、前記設計用物性値を有する前記多孔質体を含む防音材を製造する防音材製造工程と、を含む。本発明によれば、高温で使用される防音材の効果的な製造方法が提供される。
【0010】
前記実測パラメータ値決定工程において、所定の高温以上の前記測定温度を含む複数の測定温度の各々で前記多孔質体の前記音響特性を測定することにより得られた前記実測関数を用い、前記複数の測定温度の各々について前記実測パラメータ値を決定することにより、前記実測パラメータ値と前記測定温度との関係を示す実測パラメータ値の温度依存関数を得ること、及び、前記評価条件決定工程において、前記実測パラメータ値の温度依存関数に基づいて、前記複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度である前記評価温度における前記評価用パラメータ値を決定すること、を含むこととしてもよい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る防音材の設計装置は、多孔質体を含む防音材の設計装置であって、所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定部と、前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定部と、前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価部と、前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定部と、を含む。本発明によれば、高温で使用される防音材の効果的な設計装置が提供される。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る防音材の設計用プログラムは、多孔質体を含む防音材の設計用プログラムであって、所定の高温以上の測定温度で前記多孔質体の試料に音波を放射して前記多孔質体の音響特性を測定することにより得られた前記多孔質体の前記音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、前記多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み前記多孔質体の前記音響特性と前記音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、前記測定温度について、前記実測関数と前記多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される前記第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定手段、前記実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定手段、前記第一パラメータと、前記多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、前記多孔質体を含む前記防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、前記評価温度について、前記第一パラメータの値として前記評価用パラメータ値が代入された前記防音材モデル関数により得られる前記防音材の前記音響特性が予め定められた範囲内に到達する前記第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価手段、及び前記設計用パラメータ値に基づいて、前記多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定手段、としてコンピュータを機能させるための防音材の設計用プログラムである。本発明によれば、高温で使用される防音材の効果的な設計用プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温で使用される防音材の効果的な設計及び製造を実現する、防音材の設計方法、製造方法、設計装置及び設計用プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る方法に含まれる主な工程を示す説明図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、20℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の一例を示す説明図である。
【
図2B】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、100℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の一例を示す説明図である。
【
図2C】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、200℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の一例を示す説明図である。
【
図2D】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、300℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の一例を示す説明図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、20℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の他の例を示す説明図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、100℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の他の例を示す説明図である。
【
図3C】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、200℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の他の例を示す説明図である。
【
図3D】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、300℃における多孔質体の吸音率と周波数との関係を示す実測関数の他の例を示す説明図である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、多孔質体の流れ抵抗と温度との関係を示す説明図である。
【
図4B】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、多孔質体の縦弾性率と温度との関係を示す説明図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る実施例で用いた、吸音率を評価するための防音材モデルを示す説明図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る実施例で用いた、透過損失を評価するための防音材モデルを示す説明図である。
【
図5C】本発明の一実施形態に係る実施例で用いた、挿入損失を評価するための防音材モデルを示す説明図である。
【
図6A】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、防音材の吸音率を最大にする多孔質体の繊維径の値を示す説明図である。
【
図6B】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、防音材の透過損失を最大にする多孔質体の繊維径の値を示す説明図である。
【
図6C】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、防音材の挿入損失を最大にする多孔質体の繊維径の値を示す説明図である。
【
図6D】本発明の一実施形態に係る実施例で得られた、防音材の吸音率と透過損失と挿入損失との合計を最大にする多孔質体の繊維径の値を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0016】
図1には、本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)に含まれる主な工程を示す。本方法は、その一側面として、多孔質体を含む防音材の設計方法であって、所定の高温以上の測定温度で当該多孔質体の試料に音波を放射して当該多孔質体の音響特性を測定することにより得られた当該多孔質体の当該音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、当該多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み当該多孔質体の当該音響特性と当該音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、当該測定温度について、当該実測関数と当該多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される当該第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定工程S2と、当該実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定工程S3と、当該第一パラメータと、当該多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、当該多孔質体を含む当該防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、当該評価温度について、当該第一パラメータの値として当該評価用パラメータ値が代入された当該防音材モデル関数により得られる当該防音材の当該音響特性が予め定められた範囲内に到達する当該第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価工程S4と、当該設計用パラメータ値に基づいて、当該多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定工程S5と、を含む。
【0017】
また、本方法は、他の側面として、多孔質体を含む防音材の製造方法であって、所定の高温以上の測定温度で当該多孔質体の試料に音波を放射して当該多孔質体の音響特性を測定することにより得られた当該多孔質体の当該音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、当該多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み当該多孔質体の当該音響特性と当該音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、当該測定温度について、当該実測関数と当該多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される当該第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定工程S2と、当該実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定工程S3と、当該第一パラメータと、当該多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、当該多孔質体を含む当該防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、当該評価温度について、当該第一パラメータの値として当該評価用パラメータ値が代入された当該防音材モデル関数により得られる当該防音材の当該音響特性が予め定められた範囲内に到達する当該第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価工程S4と、当該設計用パラメータ値に基づいて、当該多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定工程S5と、当該設計用物性値を有する当該多孔質体を含む防音材を製造する防音材製造工程(不図示)と、を含む。
【0018】
なお、本方法は、
図1に示すように、実測工程S1をさらに含んでもよい。この場合、本方法は、上述した工程に加えて、所定の高温以上の測定温度で多孔質体の試料に音波を放射して当該多孔質体の音響特性を測定し、当該測定温度における当該多孔質体の当該音響特性と音波特性との関係を示す実測関数を得る実測工程S1をさらに含む。
【0019】
本実施形態において設計及び製造の対象となる防音材は、多孔質体を含む。多孔質体は、骨格部分と空隙部分とを含む多孔質構造を有する部材であれば特に限られないが、所望の吸音性を有する部材(吸音材)であることが好ましい。具体的に、多孔質体は、例えば、繊維体又は発泡成形体であることが好ましい。
【0020】
繊維体は、無機繊維及び/又は有機繊維から構成される。無機繊維は、例えば、グラスウール、ロックウール、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ-アルミナ繊維、アラミド繊維、岩綿長繊維及びウィスカー(SiC等)からなる群より選択される1種以上である。有機繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維やポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、及びアクリル繊維等の樹脂繊維、綿、羊毛、木毛、クズ繊維及びケナフからなる群より選択される1種以上である。繊維体は、織布であってもよいし、不織布であってもよい。不織布は、例えば、繊維集成体であってもよい。繊維集成体は、例えば、フェルト又はブランケットであってもよい。
【0021】
発泡成形体は、連通気泡を有することが好ましく、例えば、連通気泡を有する樹脂発泡成形体であってもよい。発泡成形体を構成する樹脂は特に限られないが、例えば、ボリウレタン、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ニトリルブタジエンゴム、クロログレンゴム、スチレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、EPDM及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0022】
多孔質体を含む防音材は、当該多孔質体のみから構成されてもよいし、当該多孔質体と他の部材とを含んでもよい。防音材に含まれてもよい多孔質体以外の部材は、設計の対象となる多孔質体以外の部材であれば特に限られないが、当該防音材は、例えば、当該多孔質体と非多孔質体とを含んでもよい。
【0023】
防音材に含まれる非多孔質体は、防音材の一部として使用されるものであれば特に限られないが、所望の遮音性を有する部材(遮音材)であることが好ましい。非多孔質体は、非通気性を有することが好ましい。具体的に、非多孔質体は、例えば、JIS L1018-1999に準拠した方法で測定される通気率が、10cc/cm2・sec以下であってもよく、0.001cc/cm2・sec以上、10cc/cm2・sec以下であることが好ましく、0.01/cm2・sec以上、1cc/cm2・sec以下であることが特に好ましい。
【0024】
非多孔質体の形状は特に限られないが、当該非多孔質体は、例えば、非多孔質フィルムであることが好ましい。非多孔質体を構成する材料は特に限られないが、例えば、樹脂であることが好ましい。すなわち、非多孔質体は、非多孔質樹脂成形体であることが好ましく、非多孔質樹脂フィルムであることが特に好ましい。非多孔質体を構成する樹脂は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、エラストマーを含むことが好ましい。
【0025】
防音材が多孔質体と非多孔質体とを含む場合、当該防音材は、積層された当該多孔質体及び非多孔質体を含むことが好ましい。この場合、防音材は、多孔質体及び非多孔質体の一方に他方を積層した構造を含む。すなわち、防音材は、積層された多孔質体と非多孔質体との組み合わせを1以上含み、当該組み合わせを複数含んでもよい。
【0026】
防音材の形状及びサイズは特に限られないが、例えば、その厚さ(防音材が複数の層(例えば、多孔質体の層及び非多孔質体の層)を含む場合は、当該複数の層の厚さの合計)が50mm以下であってもよく、30mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることがより一層好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。防音材の厚さは、例えば、0.1mm以上であってもよく、1mm以上であってもよい。防音材の厚さは、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0027】
また、本実施形態において設計及び製造の対象となる防音材は、所定の高温以上の温度で使用され得る防音材である。具体的に、防音材の使用温度は、例えば、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよく、130℃以上であってもよく、140℃以上であってもよく、150℃以上であってもよく、160℃以上であってもよく、180℃以上であってもよく、200℃以上であってもよく、220℃以上であってもよく、250℃以上であってもよく、280℃以上であってもよく、300℃以上であってもよい。また、防音材の使用温度は、例えば、500℃以下であってもよく、400℃以下であってもよい。防音材の使用温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0028】
本方法が実測工程を含む場合、当該実測工程においては、まず所定の高温以上の測定温度で多孔質体の試料に音波を放射して、当該多孔質体の音響特性を測定する。所定の高温以上の測定温度は、例えば、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよく、130℃以上であってもよく、140℃以上であってもよく、150℃以上であってもよく、160℃以上であってもよく、180℃以上であってもよく、200℃以上であってもよく、220℃以上であってもよく、250℃以上であってもよく、280℃以上であってもよく、300℃以上であってもよい。また、測定温度は、例えば、500℃以下であってもよく、400℃以下であってもよい。実測関数を得るための測定温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0029】
実測工程においては、所定の高温以上の測定温度を含む複数の測定温度で多孔質体の音響特性を測定してもよい。すなわち、実測工程においては、多孔質体の音響特性を2以上の測定温度で測定してもよいし、3以上の測定温度で測定してもよいし、4以上の測定温度で測定してもよい
【0030】
複数の測定温度は、所定の高温以上である1以上の測定温度を含めば特に限られないが、例えば、所定の高温以上である2以上の測定温度を含んでもよいし、所定の高温以上である1以上の測定温度と所定の高温未満である1以上の測定温度とを含んでもよいし、所定の高温以上である1以上の測定温度と所定の高温未満である2以上の測定温度とを含んでもよいし、所定の高温以上である2以上の測定温度と所定の高温未満である2以上の測定温度とを含んでもよい。
【0031】
複数の測定温度が所定の高温未満の測定温度を含む場合、当該所定の高温未満の測定温度は、当該所定の高温以上の上記測定温度より低い温度であれば特に限られないが、例えば、120℃以下であってもよいし、100℃以下であってもよいし、80℃以下であってもよいし、60℃以下であってもよいし、50℃以下であってもよいし、45℃以下であってもよいし、40℃以下であってもよいし、35℃以下であってもよいし、30℃以下であってもよい。また、複数の測定温度に含まれる所定の高温未満の測定温度は、例えば、0℃超であってもよいし、5℃以上であってもよい。複数の測定温度に含まれる所定の高温未満の測定温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0032】
音響特性の測定に用いられる多孔質体の試料は、防音材に含まれる多孔質体と同一の材料特性を有し、当該測定に適したものであれば特に限られない。例えば、後述の実測パラメータ値決定工程において複数の第一パラメータを用いる場合には、形状やサイズ等の試料としての条件は、当該第一パラメータによって異ならせてもよい。具体的に、例えば、第一パラメータとして縦弾性率を用いる場合には、多孔質体の表面のうち、音波が入射する表面(すなわち音源側の表面)を非通気性材料で覆った試料を用いることが、当該試料をいわゆるバネマス系のモデルとして扱うことができるため好ましい。一方、例えば、第一パラメータとして流れ抵抗及び/又は嵩密度を用いる場合には、非通気性材料で覆われていない多孔質体から構成される試料を用いることが好ましい。
【0033】
多孔質体の試料に対して放射する音波は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、周波数が10Hz以上、20000Hz以下の範囲内の音波であってもよく、周波数が100Hz以上、10000Hz以下の範囲内の音波であることが好ましい。音波は、スピーカー等の音源を用いて放射される。
【0034】
実測工程において測定される多孔質体の音響特性は特に限られないが、例えば、吸音特性及び/又は遮音特性であることが好ましい。より具体的に、多孔質体の音響特性としては、例えば、吸音率(例えば、垂直入射吸音率)、透過損失(例えば、垂直入射透過損失)、及び挿入損失(例えば、垂直入射挿入損失)からなる群より選択される1以上を測定する。
【0035】
本方法の実測工程においては、高温で多孔質体の音響特性を測定するため、当該高温での測定に適した装置を用いる必要がある。具体的に、例えば、国際公開第2020/026415号に記載されているような高温での音響特性の測定に適した音響特性測定装置が好ましく用いられる。
【0036】
そして、実測工程においては、所定の高温以上の測定温度で多孔質体の音響特性を測定することにより、当該測定温度における多孔質体の音響特性と音波特性との関係を示す実測関数を得る。実測関数において音響特性と関連付けられる音波特性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、周波数、角振動数、波長又は波数である。実測工程において、所定の高温以上の測定温度を含む複数の測定温度で多孔質体の音響特性を測定する場合、当該複数の測定温度の各々における実測関数が得られる。
【0037】
本方法の実測パラメータ値決定工程においては、まず、多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み当該多孔質体の音響特性と音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数を用意する。
【0038】
多孔質体モデル関数は、上記実測関数に対応する、多孔質体の音響特性と音波特性との関係を示す関数であって、当該多孔質体の特性を示す第一パラメータを変数として含むものであれば特に限られないが、当該多孔質体の数理モデルに基づくものであることが好ましい。
【0039】
多孔質体の数理モデルは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、Biot理論に基づく数理モデル(Biotモデル)が好ましく用いられる。より具体的に、例えば、JCA(Johnson-Champoux-Allard)モデル又はJCAL(Johnson-Champoux-Allard-Lafage)モデルが好ましく用いられる。JCAモデル及びJCALモデルは、それぞれequivalent fluidモデルの一つであり、音響特性の解析に好ましく用いられる(J. F. Allard and N. Atalla、 Propagation of Sound in Porous Media、 John Wiley & Sons、 Inc.(2009))。また、例えば、Katoモデルを用いることもできる(特開2007-199270号公報、日本音響学会誌64巻6号(2008)、pp.339-347)。
【0040】
多孔質体モデル関数に含まれる第一パラメータは、多孔質体の特性を示し、当該多孔質体の音響特性と関連付けられるパラメータであれば特に限られないが、温度依存性を有し得るパラメータであることが好ましく、実際に温度依存性を有するパラメータであることが特に好ましい。
【0041】
すなわち、第一パラメータは、温度の変化に伴い、その値が変化し得るパラメータであることが好ましい。具体的に、第一パラメータは、例えば、温度が50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、又は100℃以上変化した場合に、その値が変化し得る又は実際に変化するパラメータであってもよい。また、第一パラメータは、例えば、50℃以下、40℃以下又は30℃以下の温度における値と、所定の高温以上の温度(例えば、上述の測定温度)における値とが異なり得る又は実際に異なるパラメータであってもよい。
【0042】
第一パラメータは、例えば、Biot理論に基づくパラメータ(Biotパラメータ)であってもよい。すなわち、第一パラメータは、例えば、流れ抵抗(多孔質体における空気の流れにくさを示すパラメータ)、弾性率(例えば、縦弾性率)(多孔質体の硬さを示すパラメータ)、嵩密度、多孔度(気孔率又は空隙率ともいう。)(多孔質体における空孔の割合を示すパラメータ)、ポアソン比(応力がかかった多孔質体における垂直方向の歪みと水平方向の歪みとの比として算出される、多孔質体の歪みやすさを示すパラメータ)、損失係数(多孔質体における振動の減衰のしやすさを示すパラメータ)、迷路度(多孔質体における音の通過経路の長さを示すパラメータ)、粘性特性長(多孔質体において空気が通過できる空間の長さを示すパラメータ)、及び熱的特性長(多孔質体において空気が固体と接する長さを示すパラメータ)からなる群より選択される1以上であってもよく、当該群より選択される1以上であって温度依存性を有し得るパラメータであることが好ましく、当該群より選択される1以上であって温度依存性を有するパラメータであることが特に好ましい。より具体的に、第一パラメータは、例えば、流れ抵抗、弾性率及び嵩密度からなる群より選択される1以上であることが好ましく、当該群より選択される1以上であって温度依存性を有し得るパラメータであることがより好ましく、当該群より選択される1以上であって温度依存性を有するパラメータであることが特に好ましい。
【0043】
実測パラメータ値決定工程においては、第一パラメータを1つのみ用いてもよいが、複数の第一パラメータを用いることが好ましい。具体的に、第一パラメータは、例えば、流れ抵抗、弾性率(例えば、縦弾性率)、嵩密度、多孔度、ポアソン比、損失係数、迷路度、粘性特性長、及び熱的特性長からなる群より選択される2以上であってもよく、当該群より選択される2以上であって温度依存性を有し得るパラメータであることが好ましく、当該群より選択される2以上であって温度依存性を有するパラメータであることが特に好ましい。より具体的に、第一パラメータは、例えば、流れ抵抗、弾性率及び嵩密度からなる群より選択される2以上であることが好ましく、当該群より選択される2以上であって温度依存性を有し得るパラメータであることがより好ましく、当該群より選択される2以上であって温度依存性を有するパラメータであることが特に好ましい。
【0044】
そして、実測パラメータ値決定工程においては、上述した実測関数と多孔質体モデル関数とを用いて、当該実測関数を得るために多孔質体の音響特性を測定した測定温度について、当該実測関数と当該多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する。より具体的に、例えば、実測関数と多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される第一パラメータの値を、当該多孔質体の当該測定温度における実測パラメータ値として決定してもよい。
【0045】
すなわち、例えば、多孔質体モデル関数に含まれる第一パラメータの値を変化させながら、当該実測関数と当該多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内まで低減される当該第一パラメータの値を探し、当該差分が当該範囲内に収まる第一パラメータの値を、実測パラメータ値として決定する。
【0046】
実測関数と多孔質体モデル関数との差は、例えば、特定範囲内の周波数において、実測関数により得られる音響特性値と、多孔質体モデル関数により得られる当該音響特性値との差分であることが好ましい。
【0047】
より具体的に、実測関数と多孔質体モデル関数との差は、例えば、当該実測関数に含まれる周波数範囲の全部又は一部について、各周波数における実測関数の音響特性値と多孔質体モデル関数の音響特性値との差分であってもよく、当該各周波数における差分の、当該周波数範囲の全部又は一部についての合計であってもよい。
【0048】
実測関数と多孔質体モデル関数との差が収まるかどうかの判断に用いられる予め定められた範囲は、当該多孔質体モデルが当該実測関数に十分近づいたと評価できる範囲であれば特に限られず、例えば、特定の数値範囲であってもよいし、特定の値であってもよいし、最小値等の特定の条件を満たす範囲であってもよい。
【0049】
具体的に、例えば、実測関数により得られる音響特性値と多孔質体モデル関数により得られる音響特性値との差分が最小値となる第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定してもよい。この場合、差分の最小値を最小二乗法により決定してもよい。
【0050】
また、実測工程において、複数の測定温度の各々について実測関数が得られている場合、実測パラメータ値決定工程においては、当該複数の測定温度の各々について、実測パラメータ値を決定してもよい。
【0051】
複数の測定温度の各々について、実測パラメータ値を決定する場合、実測パラメータ値決定工程においては、当該実測パラメータ値と当該測定温度との関係を示す、実測パラメータ値の温度依存関数が得られる。この点、実測工程において、3以上の測定温度について実測関数が得られている場合、信頼性が比較的高い、実測パラメータ値の温度依存関数が得られる。
【0052】
また、複数の第一パラメータを用いる場合、当該複数の第一パラメータの各々について、実測パラメータ値を決定してもよい。すなわち、複数の第一パラメータに対応する複数の実測パラメータ値を決定してもよい。
【0053】
複数の測定温度の各々について、複数の第一パラメータの各々に対応する複数の実測パラメータ値を決定することにより、当該複数の実測パラメータ値の各々について、温度依存関数が得られる。
【0054】
本方法の評価条件決定工程においては、実測パラメータ値決定工程で決定された実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する。
【0055】
すなわち、評価条件決定工程においては、例えば、実測パラメータ値決定工程で決定された実測パラメータ値をそのまま評価用パラメータ値として決定してもよい。
【0056】
また、評価条件決定工程においては、例えば、実測関数が得られた測定温度、及び実測パラメータ値決定工程で決定された実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度を評価温度として決定するとともに、当該評価温度における第一パラメータの値を評価用パラメータ値として決定してもよい。
【0057】
この場合、評価条件決定工程においては、例えば、実測関数を得た測定温度をそのまま評価温度として決定するとともに、実測パラメータ値決定工程で決定された実測パラメータ値をそのまま評価用パラメータ値として決定してもよい。
【0058】
また、上述のとおり、実測パラメータ値決定工程において、実測パラメータ値の温度依存関数が得られた場合、評価条件決定工程においては、当該温度依存関数に基づいて、実測関数が得られた複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度を評価温度として決定するとともに、当該評価温度における評価用パラメータ値を決定してもよい。
【0059】
すなわち、例えば、複数の測定温度のうち最も低い測定温度より高く、最も高い測定温度より低く、当該複数の測定温度のいずれとも異なる温度を評価温度として決定してもよい。また、例えば、複数の測定温度のうち最も高い測定温度より高く、且つ当該最も高い測定温度との差が200℃以下、150℃以下、100℃以下、80℃以下又は50℃以下である温度を評価温度として決定してもよい。また、例えば、複数の測定温度のうち最も低い測定温度より低く、所定の高温以上であり、且つ当該最も低い測定温度との差が200℃以下、150℃以下、100℃以下、80℃以下又は50℃以下である温度を評価温度として決定してもよい。
【0060】
なお、評価条件決定工程において、複数の評価温度を決定する場合、複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度と、当該複数の測定温度のうち1以上とを当該評価温度として決定してもよい。すなわち、複数の評価温度は、複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の評価温度と、当該複数の測定温度のいずれかと一致する評価温度とを含んでもよい。
【0061】
測定温度と異なる温度を評価温度として決定する場合、実測パラメータ値の温度依存関数を用いて、例えば、温度の値として当該評価温度が代入された当該温度依存関数により得られる実測パラメータ値を評価用パラメータ値として決定してもよいし、温度の値として当該評価温度が代入された当該温度依存関数により得られる実測パラメータ値との差が当該実測パラメータ値の30%以内、20%以内、15%以内、10%以内、又は5%以内である値を評価用パラメータ値として決定してもよい。
【0062】
評価条件決定工程において、複数の測定温度とは異なる所定の高温以上の温度を評価温度として決定することにより、実測関数を得るための音響特性を測定していない所定の高温以上の温度について、防音材を効果的に設計することができる。
【0063】
評価条件決定工程においては、複数の評価温度と、複数の評価用パラメータ値とを決定してもよい。すなわち、評価温度と評価用パラメータ値との組み合わせを複数決定してもよい。この場合、複数の評価温度は、所定の高温以上である2以上の評価温度を含んでもよいし、所定の高温以上である1以上の評価温度と所定の高温未満である1以上の評価温度とを含んでもよいし、所定の高温以上である1以上の評価温度と所定の高温未満である2以上の評価温度とを含んでもよいし、所定の高温以上である2以上の評価温度と所定の高温未満である2以上の評価温度とを含んでもよい。
【0064】
また、複数の評価温度は、複数の測定温度と同一の評価温度のみであってもよいし、測定温度と異なる評価温度のみであってもよいし、測定温度と同一の評価温度及び測定温度と異なる評価温度の両方を含んでもよい。
【0065】
本方法の評価工程においては、まず、多孔質体の特性を示す上記第一パラメータと、当該多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、当該多孔質体を含む防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用意する。
【0066】
防音材モデル関数は、設計の対象となる防音材の音響特性と、当該防音材に含まれる多孔質体の特性を示す第一パラメータ及び第二パラメータとの関係を示す関数であれば特に限られないが、当該防音材の数理モデルに基づくものであることが好ましい。
【0067】
防音材の数理モデルは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、Biotモデルが好ましく用いられる。より具体的に、例えば、JCAモデル又はJCALモデルが好ましく用いられる。また、例えば、Katoモデルを用いることもできる。
【0068】
評価工程で用いる防音材の数理モデルは、実測パラメータ値決定工程で用いる多孔質体の数理モデルと同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、評価工程で用いる防音材モデル関数は、実測パラメータ値決定工程で用いる多孔質体モデル関数と同一であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、例えば、防音材が多孔質体のみから構成される場合(すなわち、例えば、多孔質体をそのまま防音材として用いる場合)には、防音材モデル関数として、多孔質体モデル関数と同一の関数を用いてもよい。一方、例えば、防音材が多孔質体と非多孔質体とを含む場合(例えば、防音材が、多孔質体と非多孔質体とを含む積層体である場合)には、防音材モデル関数として、多孔質体モデル関数とは異なるモデル関数を用いる。なお、多孔質体モデル関数と異なる防音材モデル関数は、当該多孔質モデル関数に含まれる関数の一部又は全部を含んでもよい。
【0069】
防音材モデル関数に含まれる第二パラメータは、第一パラメータに対応する特性とは異なる多孔質体の特性を示し、当該多孔質体の音響特性と関連付けられるパラメータであれば特に限られないが、例えば、当該第一パラメータよりも温度依存性が小さいパラメータであってもよい。
【0070】
すなわち、第二パラメータは、例えば、温度の変化に伴う値の変化量が第一パラメータより小さいパラメータであってもよい。また、第二パラメータは、例えば、温度が50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、又は100℃以上変化した場合における値の変化量が第一パラメータのそれより小さいパラメータであってもよい。また、第二パラメータは、例えば、50℃以下、40℃以下又は30℃以下の温度における値と、所定の高温以上の温度(例えば、上述の測定温度)における値との差分が第一パラメータのそれより小さいパラメータであってもよい。
【0071】
また、第二パラメータは、後述の物性値決定工程において決定される多孔質体の設計用物性値と関連付けられるパラメータであることが好ましい。すなわち、第二パラメータは、その値を決定することで、多孔質体の設計用物性値を算出できるパラメータであることが好ましい。具体的に、第二パラメータは、例えば、当該第二パラメータと多孔質体の設計用物性との関係を示す関数を用いることができるパラメータであってもよい。
【0072】
具体的に、第二パラメータは、例えば、第一パラメータ以外のBiotパラメータであってもよい。すなわち、第二パラメータは、例えば、流れ抵抗、弾性率(例えば、縦弾性率)、嵩密度、多孔度、ポアソン比、損失係数、迷路度、粘性特性長、及び熱的特性長からなる群より選択される1以上であって第一パラメータではないものであってもよく、流れ抵抗、弾性率及び嵩密度からなる群より選択される1以上であって第一パラメータではないものであることが好ましい。評価工程においては、第二パラメータを1つのみ用いてもよいし、複数の第二パラメータを用いてもよい。
【0073】
そして、評価工程においては、上述した防音材モデル関数と、評価条件決定工程で決定された評価温度及び評価用パラメータとを用いて、当該評価温度について、第一パラメータの値として当該評価用パラメータ値が代入された当該防音材モデル関数により得られる防音材の音響特性が予め定められた範囲内に到達する第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する。より具体的に、例えば、第一パラメータの値として当該評価用パラメータ値が代入された当該防音材モデル関数により得られる防音材の音響特性が予め定められた範囲内に到達する第二パラメータの値を、当該防音材に含まれる多孔質体の当該評価温度における設計用パラメータ値として決定してもよい。
【0074】
すなわち、第一パラメータの値として評価用パラメータ値が入力された防音材モデル関数において、第二パラメータの値を変化させながら、防音材の音響特性値が予め定められた範囲内に到達する当該第二パラメータの値を探し、当該音響特性値が当該範囲内に収まる第二パラメータの値を、設計用パラメータ値として決定する。
【0075】
なお、防音材モデル関数において第一パラメータ及び第二パラメータと関連付けられる音響特性は、実測工程及び実測パラメータ値決定工程で対象とされた音響特性と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0076】
防音材の音響特性が到達するかどうかの判断に用いられる予め定められた範囲は、当該音響特性が、所望のレベルに到達したと評価できる範囲であれば特に限られず、例えば、特定の数値範囲であってもよいし、特定の値であってもよいし、最大値等の特定の条件を満たす範囲であってもよい。具体的に、例えば、防音材モデル関数において、防音材の音響特性が最大値となる第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定してもよい。
【0077】
また、防音材の複数の音響特性を評価する場合、例えば、当該複数の音響特性の値の合計が予め定められた範囲内に到達する第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定してもよい。
【0078】
防音材の音響特性が予め定められた範囲内に到達する第二パラメータの値を決定するための演算処理の方法は特に限られないが、例えば、遺伝的アルゴリズム(より具体的には、例えば、パレートランキング法による多目的関数最適化)、勾配降下法、確率的勾配降下法、ミニバッチ勾配降下法、及びモーメンタム法からなる群より選択される1以上が好ましく用いられる。
【0079】
また、設計条件決定工程において、複数の評価温度の各々について評価用パラメータ値が決定されている場合、評価工程においては、当該複数の評価温度の各々について、設計用パラメータ値を決定してもよい。
【0080】
また、複数の第二パラメータを用いる場合、当該複数の第二パラメータの各々について、設計用パラメータ値を決定してもよい。すなわち、複数の第二パラメータに対応する複数の設計用パラメータ値を決定してもよい。
【0081】
本方法の物性値決定工程においては、上述の評価工程で決定された設計用パラメータ値に基づいて、多孔質体の設計用物性値を決定する。多孔質体の設計用パラメータ値を用いて、当該多孔質体の設計用物性値を決定する方法は特に限られないが、例えば、当該設計用物性値が当該多孔質体の第二パラメータと関連性を有するものであれば、当該関連性に基づいて、当該第二パラメータが当該設計用パラメータ値である場合の物性値を、設計用物性値として決定する。
【0082】
すなわち、第二パラメータが、その値を決定することで、多孔質体の設計用物性値を算出できるパラメータである場合には、当該第二パラメータの値として設計用パラメータ値を用いることにより、当該設計用物性値を算出する。具体的に、例えば、第二パラメータと設計用物性との関係を示す物性関数を用いて、当該第二パラメータの値として設計用パラメータ値が代入された当該物性関数により得られる当該設計用物性の値を、設計用物性値として決定することとしてもよい。
【0083】
また、第二パラメータに対応する多孔質体の特性が、設計用物性である場合(すなわち、第二パラメータが、多孔質体の設計用物性を示すパラメータである場合)には、例えば、当該設計用物性の温度依存性を示す物性関数を用いることとしてもよい。すなわち、評価工程で決定された設計用パラメータ値は、所定の高温以上の評価温度について得られた第二パラメータの値であるところ、実際の防音材の設計は当該評価温度より低い温度で行う場合には、設計用物性の温度依存性を示す物性関数に基づいて、当該設計用パラメータ値から、当該評価温度より低い設計温度における設計用物性の値を設計用物性値として決定することができる。
【0084】
このように、物性値決定工程においては、測定温度及び評価温度より低い設計温度における設計用物性の値を設計用物性値として決定することとしてもよい。この場合、設計温度は、例えば、100℃以下であってもよいし、80℃以下であってもよいし、60℃以下であってもよいし、50℃以下であってもよいし、45℃以下であってもよいし、40℃以下であってもよいし、35℃以下であってもよいし、30℃以下であってもよい。また、設計温度は、例えば、0℃超であってもよいし、5℃以上であってもよい。設計温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0085】
本方法に含まれる防音材製造工程においては、上述の物性値決定工程で決定された設計用物性値を有する多孔質体を含む防音材を製造する。すなわち、まず設計用物性値を有する多孔質体を作製し、当該多孔質体を用いて防音材を製造する。具体的に、例えば、防音材が、積層された多孔質体と非多孔質体とを含む場合、設計用物性値を有する当該多孔質体と、非多孔質体とを積層して、当該防音材を製造する。
【0086】
本方法によれば、高温で実際に多孔質体の音響特性を測定して得られた実測関数と、多孔質体モデル関数とを用いて決定された、当該多孔質体の当該高温における実測パラメータ値を用いて設計を行うため、当該高温で所望の音響特性を示す防音材を効果的に設計し、製造することができる。
【0087】
本方法は、本方法に含まれる工程の一部又は全部を実行する装置を用いることにより、好ましく実施することができる。この点、本実施形態に係る装置(以下、「本装置」という。)は、多孔質体を含む防音材の設計装置であって、所定の高温以上の測定温度で当該多孔質体の試料に音波を放射して当該多孔質体の音響特性を測定することにより得られた当該多孔質体の当該音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、当該多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み当該多孔質体の当該音響特性と当該音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、当該測定温度について、当該実測関数と当該多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される当該第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定部と、当該実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定部と、当該第一パラメータと、当該多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、当該多孔質体を含む当該防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、当該評価温度について、当該第一パラメータの値として当該評価用パラメータ値が代入された当該防音材モデル関数により得られる当該防音材の当該音響特性が予め定められた範囲内に到達する当該第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価部と、当該設計用パラメータ値に基づいて、当該多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定部と、を含む。
【0088】
本装置は、例えば、そのハードウェア構成として、バスや接続ケーブル等により接続された、制御部、記憶部、入力部、出力部、及び通信部を含んで好ましく実現される。本装置の制御部は、1又は複数の電子回路により実現され、例えば、中央処理装置(CPU)により実現される。制御部は、記憶部に格納されたプログラムに従って演算処理等の情報処理を行う。
【0089】
本装置の記憶部は、記憶装置により実現され、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)等の揮発性半導体メモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性半導体メモリ、ハードディスクドライブ等の磁気メモリ、及び光ディスク等の光メモリからなる群より選択される1以上により実現される。記憶部は、制御部による情報処理に用いられるプログラムを格納する。プログラムは、例えば、通信部を介して、又はコンピュータ読み取り可能な記憶媒体からインストールされ、記憶部に格納される。記憶部は、制御部による情報処理に関連するデータを格納する。記憶部は、制御部のワークメモリとしても動作する。
【0090】
本装置の出力部は、出力装置により実現される。出力部は、制御部の指示に従って出力処理を実行する。具体的に、例えば、出力部が液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の表示装置により実現される場合、当該出力部は、制御部の指示に従って、演算処理の結果等の画像を表示する。
【0091】
本装置の入力部は、入力装置により実現され、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス、ボタン、又はスティックにより実現される。入力部は、本装置のユーザからの入力を受け入れる。
【0092】
本装置の通信部は、通信装置により実現され、例えば、有線LANや無線LANなどの通信モジュールを含む。通信部は、インターネット等のネットワークを介して通信を行う。通信部による通信は、有線により行われてもよいし、無線により行われてもよい。
【0093】
本装置は、上述のとおり、本装置に含まれる工程の一部又は全部を実行するためのプログラムに従って動作することとしてもよい。この点、本実施形態に係るプログラム(以下、「本プログラム」という。)は、所定の高温以上の測定温度で当該多孔質体の試料に音波を放射して当該多孔質体の音響特性を測定することにより得られた当該多孔質体の当該音響特性と音波特性との関係を示す実測関数と、当該多孔質体の特性を示す第一パラメータを含み当該多孔質体の当該音響特性と当該音波特性との関係を示す多孔質体モデル関数とを用いて、当該測定温度について、当該実測関数と当該多孔質体モデル関数との差が予め定められた範囲内に低減される当該第一パラメータの値を実測パラメータ値として決定する実測パラメータ値決定手段、当該実測パラメータ値に基づき、所定の高温以上の温度である評価温度における評価用パラメータ値を決定する評価条件決定手段、当該第一パラメータと、当該多孔質体の他の特性を示す第二パラメータと、当該多孔質体を含む当該防音材の音響特性との関係を示す防音材モデル関数を用いて、当該評価温度について、当該第一パラメータの値として当該評価用パラメータ値が代入された当該防音材モデル関数により得られる当該防音材の当該音響特性が予め定められた範囲内に到達する当該第二パラメータの値を設計用パラメータ値として決定する評価手段、及び、当該設計用パラメータ値に基づいて、当該多孔質体の設計用物性値を決定する物性値決定手段、としてコンピュータを機能させるための防音材の設計用プログラムである。
【0094】
本プログラムは、本方法の実施、及び本装置の実現に好ましく用いられる。本プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、プログラムを記録可能であって、コンピュータによって当該プログラムを読み取ることが可能な媒体であれば特に限られないが、例えば、磁気ディスク(例えば、ハードディスク)、半導体メモリ(例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性半導体メモリ)、及び光ディスク(例えば、DVDやCD)からなる群より選択される1以上が好ましく用いられる。
【実施例0095】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。本実施例においては、多孔質材として繊維体、より具体的には無機繊維体を含む防音材を設計及び製造する場合を例として説明する。本実施例においては、多孔質体の繊維径を設計用物性とし、当該多孔質体の特性を示すパラメータとしては、Biotパラメータのうち、当該多孔質体の流れ抵抗及び縦弾性率を第一パラメータとして用い、当該多孔質体の嵩密度を第二パラメータとして用いた。
【0096】
[実測工程]
実測工程においては、20℃、100℃、200℃及び300℃の測定温度で多孔質体の試料に音波を放射して当該多孔質体の吸音率を測定し、当該多孔質体の当該吸音率と周波数との関係を示す実測関数を得た。
【0097】
多孔質体の試料としては、第一パラメータである流れ抵抗及び縦弾性率(ヤング率)のそれぞれに適した2種類の試料を用いた。すなわち、次の実測パラメータ値決定工程において流れ抵抗の実測パラメータ値の決定に用いる実測関数を得るための試料としては、直径が42mm、厚さ(高さ)が25mm、常温における嵩密度が100kg/m3である無機繊維(ファインフレックスBIO(登録商標)、ニチアス株式会社製)製の円柱体を用いた。また、実測パラメータ値決定工程において縦弾性率の実測パラメータ値の決定に用いる実測関数を得るための試料としては、上述した流れ抵抗用の試料である円柱体の音源側の円形表面をアルミ箔で覆ったものを用いた。
【0098】
高温での音響特性を測定するための装置としては、国際公開第2020/026415号にも記載されている、一方の端部に音源が配置され、管内に測定試料が配置される管本体と、当該管本体の管壁のうち当該音源と当該測定試料との間の第一の位置に配置された第一のプローブを有する第一の音圧センサと、当該管本体の当該管壁のうち当該音源と当該測定試料との間であって当該第一の位置より当該測定試料に近い第二の位置に配置された第二のプローブを有する第二の音圧センサと、当該第一のプローブの温度を測定する第一の温度センサと、当該第二のプローブの温度を測定する第二の温度センサと、当該第一の温度センサによる当該第一のプローブの測定温度及び当該第二の温度センサによる当該第二のプローブの測定温度に基づいて、当該第一のプローブの温度分布と当該第二のプローブの温度分布とが近づくように、当該第一のプローブ及び当該第二のプローブの一方又は両方を加熱又は冷却する温度調整部と、を含む垂直入射音響特性測定装置を用いた。なお、上記装置の音響管内においては、円柱体である測定試料を、その音源と反対側の円形表面が剛体壁に接しているとみなせるよう配置した。
【0099】
そして、ヒーターで100℃、200℃又は300℃に加熱した音響管の管本体内で、当該管本体の管内に配置された試料に対して、100Hz~5000Hzの範囲の音波を放射し、第一の音圧センサ及び第二の音圧センサにより測定された音圧に基づいて、第一の位置と第二の位置との間の伝達関数を算出し、当該伝達関数に基づいて、当該試料(多孔質体)の垂直入射吸音率を算出した。また、ヒーターによる音響管の加熱を行わないこと以外は同様にして、20℃(室温)における垂直入射吸音率を算出した。
【0100】
具体的に、まず音圧を測定することにより、下記式(1-1)に示す伝達関数H
12を得た。
【数1】
【0101】
式(1-1)において、P1は、第一の位置で測定された音圧(単位:Pa)であり、P2は、第二の位置で測定された音圧(単位:Pa)であり、H12は、当該P1に対する当該P2の比で表される当該第一の位置と当該第二の位置との間の伝達関数である。
【0102】
次いで、伝達関数H
12を用いて、下記式(1-2)により、垂直入射音圧反射率r(f)を得た。
【数2】
【0103】
上記式(1-2)において、tは、試料の音源側の表面と第一の位置との距離(単位:m)であり、sは、第一の位置と第二の位置との距離(単位:m)であり、kは下記式(1-3)で表される波数(単位:1/m)であり、jは虚数単位である。
【数3】
【0104】
上記式(1-3)において、ωは角振動数(単位:1/s)であり、周波数fとは「ω=2πf」の関係がある。また、cは音速(単位:m/s)であり、下記式(1-4)で表される。
【数4】
【0105】
上記式(1-4)において、γは比熱比(単位:なし)、Rは気体定数(単位:m2kg/s2/K/mol)、Tは気体温度(単位:K)、Mは平均分子量(単位:kg/mol)である。
【0106】
そして、垂直入射音圧反射率rを用いて、下記式(1-5)により、垂直入射吸音率α(f)を得た。
【数5】
【0107】
図2A、
図2B、
図2C及び
図2Dには、流れ抵抗用の試料を用いて、それぞれ20℃、100℃、200℃及び300℃で測定された垂直入射吸音率を破線で示す。
図2A~
図2Dに破線で示すように、20℃、100℃、200℃及び300℃のそれぞれの測定温度における多孔質体の垂直入射吸音率(-)と音波の周波数(Hz)との関係を示す実測関数が得られた。
【0108】
同様に、
図3A、
図3B、
図3C及び
図3Dには、縦弾性率用の試料を用いて、それぞれ20℃、100℃、200℃及び300℃で測定された垂直入射吸音率を破線で示す。
図2A~
図2Dにおいて破線で示すように、20℃、100℃、200℃及び300℃のそれぞれの測定温度における多孔質体の垂直入射吸音率(-)と音波の周波数(Hz)との関係を示す実測関数が得られた。
【0109】
[実測パラメータ決定工程]
実測パラメータ値決定工程においては、まず、多孔質体の特性を示す第一パラメータとして流れ抵抗及び縦弾性率を含み、当該多孔質体の音響特性としての吸音率と音波特性としての周波数との関係を示す多孔質モデル関数を用意した。
【0110】
ここで、多孔質体の数理モデルについて説明する。本実施形態では、多孔質体の数理モデルとして、JCAモデルを用いた。JCAモデルは、多孔質体中の空隙部を通る空気伝播音と骨格部を伝わる固体伝播音、そしてその間の相互作用を考慮した音響特性モデルである。
【0111】
固体伝播音及び空気伝播音の波動方程式は、骨格部の変位U
s、流体の変位U
fを用いてそれぞれ下記式(2-1)及び式(2-2)となる。
【数6】
【0112】
上記式(2-1)及び式(2-2)において、tは時間、ρ
22は骨格部と流体の相互作用における粘性減衰を考慮した流体の等価密度、ρ
11は相互作用を考慮した骨格の等価密度、ρ
12は相互作用項の密度である。流体の等価密度等の各密度は下記式(2-3)で表される。
【数7】
【0113】
上記式(2-3)において、ρ
sは骨格部の密度(単位:kg/m
3)、ρ
fは流体の密度(単位:kg/m
3)、φは下記式(2-4)で表される多孔度(単位:なし)、μは流体の動粘性係数(単位:m
2/s)、σは流れ抵抗(単位:Ns/m
4)、ωは角振動数(単位:1/s)、α
∞は迷路度(単位:なし)、Λは粘性特性長(単位:m)、Λ´は熱的特性長(単位:m)である。
【数8】
【0114】
上記式(2-4)において、ρは嵩密度(単位:kg/m
3)、ρ
tは真密度(単位:kg/m
3)である。また、上記式(2-1)及び式(2-2)に含まれる弾性係数P、Q、Rは下記の式(2-5)に示すように近似的に表すことができる。
【数9】
【0115】
上記式(2-5)に含まれる骨格部のせん断弾性率N(単位:Pa)及び骨格部の体積弾性率(真空時)K
b(単位:Pa)は、下記の式(2-6)で表される。
【数10】
【0116】
上記式(2-6)において、ηは損失係数(単位:なし)、νはポアソン比(単位:なし)であり、Eは骨格部の縦弾性率(ヤング率)(単位:Pa)である。また、上記式(2-5)中のK
fは、骨格部と流体の相互作用における熱性減衰を考慮した流体の等価体積弾性率(周波数依存)(単位:Pa)であり、下記式(2-7)から求められる。
【数11】
【0117】
上記式(2-7)において、γは比熱比(単位:なし)、P0は平衡状態の圧力(単位:Pa)、ζは温度拡散率(単位:m2/s)、Λ´は熱的特性長(単位:m)である。
【0118】
上述した骨格部と流体の波動方程式である上記式(2-1)及び式(2-2)と、嵩密度ρ(単位:kg/m
3)を示す上記式(2-3)、K
fを示す上記式(2-7)に含まれる関数G(ω)とH(ω)は、空気の流路が円形である場合の理論解に近くなるように定義した経験的な関数である。また、粘性特性長Λ、及び熱的特性長Λ´は、多孔質体の空隙形状に依存するパラメータがおおむね1とみなせる場合に、それぞれ下記式(2-8)及び式(2-9)で表される。
【数12】
【数13】
【0119】
上記式(2-9)において、Sは試料の表面積(単位:m2)、Vは試料のかさ密度(単位:kg/m3)である。
【0120】
次に、吸音率αと周波数fとの理論的な関係について説明する。吸音率αは下記式(3-1)で表される。
【数14】
【0121】
上記式(3-1)において、rは振幅反射率(単位:なし)であり、下記式(3-2)で表される。
【数15】
【0122】
上記式(3-2)において、ρは空気の密度(単位:kg/m3)、cは音速(単位:m/s)である.音速cは上述した式(1-4)により算出された値を用いた。また、空気の密度ρ等の温度に応じた空気の物性値としては、文献(新編 熱物性ハンドブック、日本熱物性学会編、養賢堂(2008))に記載の値を用いた。
【0123】
また、上記式(3-2)において、Zは、剛壁と接している多孔質材料に、空気層から垂直に音が入射する際の、厚さLにおける表面インピーダンスZ(単位:Ns/m
3)であり、下記式(3-3)で表される
【数16】
【0124】
上記式(3-3)中のYは下記式(3-4)で表される。
【数17】
【0125】
上記式(3-4)において、Z
i
fは流体の特性インピーダンス(単位:Ns/m
3)、Z
i
sは構造体の特性インピーダンス(単位:Ns/m
3)である。iは層の種類を表し、i=1が空気層、i=2が多孔質層を表す。これら流体の特性インピーダンスZ
i
f及び構造体の特性インピーダンスZ
i
sは、それぞれ下記式(3-5)及び式(3-6)で表される(i=1、2)。
【数18】
【数19】
【0126】
上記式(3-5)及び式(3-6)において、ωは角振動数(単位:1/s)であり、周波数fとω=2πfの関係がある。また、μ
iは速度比(単位:なし)、δ
iは波動方程式の固有値(単位:なし)であり、それぞれ下記式(3-7)、式(3-8)及び式(3-9)で表される(i=1、2)。
【数20】
【数21】
【数22】
【0127】
上記式(3-8)及び式(3-9)において、Δは下記式(3-10)で表される。
【数23】
【0128】
実測パラメータ値決定工程においては、次に、実測工程で多孔質体の音響特性の測定が行われた各測定温度について、実測関数と多孔質体モデル関数との差が最小となる第一パラメータの値を、当該多孔質体の当該測定温度における実測パラメータ値として決定した。
【0129】
すなわち、まずは2つの第一パラメータのうちの一方である「流れ抵抗」のみを変動させて(すなわち、当該「流れ抵抗」以外の第一パラメータである「縦弾性率」の値は定数で固定して)、実測関数と多孔質体モデル関数との差が最小となる当該「流れ抵抗」の値を実測パラメータ値(実測流れ抵抗値)として算出した。なお、縦弾性率としては、試料として用いた多孔質体について常温で共振法にて測定して得られた値(14000Pa)を用いた。
【0130】
具体的に、上記式(3-8)及び式(3-9)のとおり、吸音率αと関連付けられる、波動方程式の固有値であるδ1及びδ2は、骨格部と流体の相互作用における粘性減衰を考慮した流体の等価密度ρ22と関連付けられ、当該ρ22は、上記式(2-3)のとおり流れ抵抗σと関連付けられていることから、当該流れ抵抗σは、当該吸音率αと関連付けられる。
【0131】
よって、JCAモデルにおいて、特定の周波数fにおける吸音率αの値が、実測関数の当該特定の周波数fにおける実測吸音率の値に近づくよう、流れ抵抗σを変動させることができる。
【0132】
より具体的には、流れ抵抗以外のパラメータを定数として固定したうえで、当該流れ抵抗の値のみを変動させて、市販の表計算ソフトウェアをインストールしたコンピュータを用いた最小二乗法による演算処理を実施することにより、各周波数における「実測値」と「理論値」との差を全周波数で合計した差分(誤差)が最小となる「流れ抵抗」の値を「実測流れ抵抗値」として決定した。
【0133】
なお、「流れ抵抗」以外のBiotパラメータは、かさ密度、縦弾性率及び迷路度については常温の値で固定した。具体的に、試料として用いた多孔質体について常温で測定して得られた嵩密度値100kg/m3、縦弾性率値14000Pa、及び迷路度値1.05を用いた。また、粘性特性長、熱的特性長は、上記式(2-7)及び(2-8)から算出した。
【0134】
図2A、
図2B、
図2C及び
図2Dには、それぞれ20℃、100℃、200℃及び300℃について、実測関数との差分が最小となる流れ抵抗値を実測パラメータ値として用いた多孔質体モデル関数を実線で示す。
【0135】
図2A~
図2Dにおいて実線で示すように、20℃、100℃、200℃及び300℃のそれぞれの測定温度について、流れ抵抗の値が、実測関数と多孔質体モデル関数との差分が最小となる場合における繊維体の垂直入射吸音率(-)と音波の周波数(Hz)との関係を示す関数が得られた。
【0136】
図4Aには、20℃、100℃、200℃及び300℃の各測定温度について得られた、実測パラメータ値としての実測流れ抵抗値(Ns/m
4)を示す。
図4Aに示す4つの実測流れ抵抗値を最小二乗法を用いて直線近似すると、下記式(4-1)が得られた。
【数24】
【0137】
上記式(4-1)において、Tは温度(単位:℃)であり、σは流れ抵抗(単位:Ns/m
4)である。このように、複数の測定温度の各々について実測パラメータ値を決定することにより、
図4A及び上記式(4-1)に示すような、実測パラメータ値(実測流れ抵抗値)の温度依存性を示す関数が得られた。
【0138】
次に、2つの第一パラメータのうちの他方である「縦弾性率」のみを変動させて(すなわち、当該「縦弾性率」以外の第一パラメータである「流れ抵抗」の値は定数で固定して)、実測関数と多孔質体モデル関数との差が最小となる当該「縦弾性率」の値を実測パラメータ値(実測縦弾性率値)として算出した。なお、流れ抵抗としては、試料として用いた多孔質体について常温で測定して得られた値(77570Ns/m4)を用いた。
【0139】
具体的に、上記式(3-8)及び式(3-9)のとおり、吸音率αと関連付けられる、波動方程式の固有値であるδ1及びδ2は、弾性係数Pと関連付けられ、当該弾性係数Pは、上記式(2-4)のとおり、せん断弾性率Nと関連付けられ、当該せん断弾性率Nは、上記式(2-5)のとおり、縦弾性率Eと関連付けられることから、当該縦弾性率Eは、当該吸音率αと関連付けられる。
【0140】
よって、JCAモデルにおいて、特定の周波数fにおける吸音率αの値が、実測関数の当該特定の周波数fにおける実測吸音率の値に近づくよう、縦弾性率を変動させることができる。
【0141】
より具体的には、縦弾性率以外のパラメータを定数として固定したうえで、当該縦弾性率の値のみを変動させて、市販の音響特性予測ソフトウェア(Strati-Artz 3.0、日本音響エンジニアリング株式会社製)をインストールしたコンピュータを用いた演算処理を実施することにより、各周波数における「実測値」と「理論値」との差を全周波数で合計した差分(誤差)が最小となる「縦弾性率」の値を「実測縦弾性率値」として決定した。
【0142】
なお、「縦弾性率」以外のBiotパラメータは、嵩密度、流れ抵抗、迷路度については常温の値で固定した。具体的に、試料として用いた多孔質体について常温で測定して得られた嵩密度値100kg/m3、流れ抵抗値77570Ns/m4、及び迷路度値1.05を用いた。また、粘性特性長、熱的特性長は、上記式(2-7)及び(2-8)から算出した。
【0143】
図3A、
図3B、
図3C及び
図3Dには、それぞれ20℃、100℃、200℃及び300℃について、実測関数との差分が最小となる縦弾性率値を実測パラメータ値として用いた多孔質体モデル関数を実線で示す。
図3A~
図3Dにおいて実線で示すように、20℃、100℃、200℃及び300℃のそれぞれの測定温度について、縦弾性率の値が、実測関数と多孔質体モデル関数との差分が最小となる場合における繊維体の垂直入射吸音率(-)と音波の周波数(Hz)との関係を示す関数が得られた。
【0144】
図4Bには、20℃、100℃、200℃及び300℃の各測定温度について得られた、実測パラメータ値としての実測縦弾性率値(Pa)を示す。
図4Bに示す4つの実測縦弾性率値を最小二乗法を用いて直線近似すると、下記式(4-2)が得られた。
【数25】
【0145】
上記式(4-2)において、Tは温度(単位:℃)であり、Eは縦弾性率(単位:Pa)である。このように、複数の測定温度の各々について実測パラメータ値を決定することにより、
図4B及び上記式(4-2)に示すような、実測パラメータ値(実測縦弾性率値)の温度依存性を示す関数が得られた。
【0146】
[評価条件決定工程]
評価条件決定工程においては、実測工程における測定温度(20℃、100℃、200℃及び300℃)を、そのまま評価温度として決定するとともに、当該各評価温度における実測パラメータ値(実測流れ抵抗値及び実測縦弾性率値)を、そのまま評価用パラメータ値として決定した。
【0147】
[評価工程]
本実施形態の評価工程では、伝達関数法による防音材モデル関数と、遺伝的アルゴリズムとを用い、各評価温度について、当該防音材モデル関数に含まれる第一パラメータの項に評価用パラメータ値を代入し、多孔質体を含む防音材の音響特性(すなわち、第一パラメータの値として評価用パラメータ値が代入された防音材モデル関数により算出される当該防音材の音響特性)が予め定められた範囲内となる第二パラメータ(当該多孔質体である繊維体の嵩密度)の値を、当該多孔質体の当該評価温度における設計用パラメータ値として決定した。
【0148】
すなわち、まず多孔質材料をBiotモデルで考える場合、空気伝搬音の縦波(疎密波)に加え、固体伝播音の特性としての縦波と横波の2波を考慮でき、合計で3波を同時に扱うことができる。多孔質体表面の特性は、下記式(5-1)に示す行列で表すことができる。
【数26】
【0149】
上記式(5-1)において、u
x
s、u
y
sは多孔質体の骨格部分のx、y方向における移動速度を示し、u
y
fは当該多孔質体の空隙部分における空気を構成する分子の粒子速度を示し、p
x
s、p
y
sは当該多孔質体の当該骨格部分の当該x、y方向に生じる応力を示し、p
y
fは当該多孔質体における音圧を示す。ここで、伝達マトリックスを[T
p]とすると下記式(5-2)を得る。
【数27】
【0150】
上記式(5-2)において、[T
p]は6×6(6行、6列)の行列であり、下記式(5-3)で表される。
【数28】
【0151】
上記式(5-3)において、Tmnはm行n列の要素であり、m=1、2、3、4、5又は6であり、n=1、2、3、4、5又は6である。なお、各要素の詳細については、文献「J. F. Allard and N. Atalla、 Propagation of Sound in Porous Media、 John Wiley & Sons、 Inc.(2009). p277-280」に記載されている。
【0152】
ここで、垂直入射音の場合の例を挙げると、例えば、T
11及びT
23は、それぞれ下記式(5-4)及び式(5-5)で表される。
【数29】
【数30】
【0153】
上記式(5-4)及び式(5-5)において、ωは角周波数であり、ρ
sは骨格部の密度(単位:kg/m
3)であり、l(エル)は試料の厚さ(単位:m)であり、νはポアソン比(単位:なし)であり、Eは縦弾性係数(単位:Pa)である。また、μ
iは速度比、δ
iは波動方程式の固有値であり、それぞれ上述した下記式(3-7)、式(3-8)及び式(3-9)で表される(i=1が空気層、i=2が多孔質層)。
【数31】
【数32】
【数33】
【0154】
上記式(3-8)及び式(3-9)において、Δは上述した下記式(3-10)で表される。
【数34】
【0155】
次に、空気伝搬音の伝達マトリックスから吸音率αを求める方法について説明する。本実施例においては、交互に積層された多孔質体と非多孔質体とを含む4層構造を有する防音材を解析対象とした。
【0156】
図5Aには、防音材の音響特性として吸音率αを評価する場合に用いた防音材モデルを示す。
図5Aに示すように、防音材は、第一の非多孔質体であるフィルム層1(Film 1)と、当該フィルム層1に積層された第一の多孔質体であるフェルト層2(Felt 2)と、当該フェルト層2に積層された第二の非多孔質体であるフィルム層3(Film 3)と、当該フィルム層3に積層された第二の多孔質体であるフェルト層4(Felt 4)とから構成される。フェルト層4の、フィルム層3と反対側には剛体壁(Rigid wall)が配置される。すなわち、防音材は、剛体壁上に設置される。
【0157】
なお、フェルト層2及びフェルト層4は上述の繊維体から構成され、フィルム層1及びフィルム層3は、JIS L1018に準拠した方法で測定される通気率が10cc/cm2・sec以下である遮音性軟質樹脂フィルムから構成される。
【0158】
図5Aにおいて、P
inは入射音であり、P
rは反射音である。すなわち、フィルム1の剛体壁と反対側の表面に対して音波が入射する。
図5Aに示す防音材モデルにおいて、フィルム層1とフェルト層2との境界面の音圧P
1、P
2と、粒子速度u
1、u
2との間に下記式(6-1)に示す関係が成り立つ。下記式(6-1)において、m
aはフィルム層1の面密度(単位:kg/m
2)である。
【数35】
【0159】
同様に、フェルト層2とフィルム層3との境界面の音圧P
2、P
3と粒子速度u
2、u
3との間に下記式(6-2)に示す関係が成り立つ。
【数36】
【0160】
さらに、フィルム層3とフェルト層4との境界面の音圧P
3、P
4と粒子速度u
3、u
4との間に下記式(6-3)に示す関係が成り立つ。
【数37】
【0161】
最後に、フェルト層4と剛体壁との境界面の音圧P
4、P
5と粒子速度u
4、u
5との間に下記式(6-4)に示す関係が成り立つ。
【数38】
【0162】
ここで、上記式(6-2)及び式(6-4)における[H]及び[J]は、それぞれ下記式(6-5)及び式(6-6)で表される。
【数39】
【数40】
【0163】
上記式(6-1)から式(6-4)をまとめると下記式(6-7)になる。
【数41】
【0164】
また、フェルト層4の下の最終面が剛体壁であることから下記式(6-8)の条件が成り立つ。
【数42】
【0165】
そして、上記式(6-7)からP
1及びu
1が得られ、下記式(6-9)により、当該P
1及びu
1から、特性インピーダンスZ
1が算出される。
【数43】
【0166】
そして、得られたZ
(1)と、空気の特性音響インピーダンスZ
0(単位:Ns/m
3)とを用いて、下記式(6-10)から振幅反射率rが求められる。
【数44】
【0167】
さらに、振幅反射率rを用いて、下記式(3-1)より、吸音率αが求められる。
【数45】
【0168】
すなわち、上記のような防音材モデル関数を用いることにより、例えば、流れ抵抗σの値として「実測流れ抵抗値」を代入し、縦弾性率Eの値として「実測弾性率値」を代入した当該防音材モデル関数において、「空隙率φ(=嵩密度ρ÷真密度ρt)」をどのように変動させると、「吸音率α」がどのように変化するかを検討することができる。
【0169】
具体的に、上記式(3-8)及び式(3-9)のとおり、吸音率αと関連付けられる、波動方程式の固有値であるδ1及びδ2は、骨格部と流体の相互作用における粘性減衰を考慮した流体の等価密度ρ22及び弾性係数Pと関連付けられ、当該ρ22は、上記式(2-3)のとおり流れ抵抗σ及び多孔度φと関連付けられ、当該多孔度φは、上記式(2-4)のとおり嵩密度ρと関連付けられ、当該弾性係数Pは、上記式(2-4)のとおり、せん断弾性率Nと関連付けられ、当該せん断弾性率Nは、上記式(2-5)のとおり、縦弾性率Eと関連付けられることから、当該流れ抵抗σ、縦弾性率E、及び嵩密度ρは、当該吸音率αと関連付けられる。
【0170】
したがって、例えば、流れ抵抗σの値として「実測流れ抵抗値」を代入し、縦弾性率の値として「実測弾性率」を代入した防音材モデル関数において、「嵩密度ρ」を変化させることにより「空隙率φ」を変化させて、「吸音率α」が最大となる「嵩密度ρ」の値を決定することができる。
【0171】
具体的には、フェルト層2の嵩密度と、フェルト層4の嵩密度とを同時に変化させながら、「吸音率α」が最大となる、フェルト層2の「嵩密度ρ」の値とフェルト層4の「嵩密度ρ」の値との組み合わせを決定した。
【0172】
図5Bには、防音材の音響特性として透過損失を評価する場合に用いた防音材モデルを示す。
図5Bに示すモデルにおいては、防音材に対して、フェルト層4側から音波が入射され、フィルム層1から音波が放射される。ここで、入射音圧をP
(A)、終端音圧をP
(B)とすると、透過損失TLは下記式(6-11)で表される。
【数46】
【0173】
すなわち、上記のような防音材モデル関数を用いることにより、例えば、流れ抵抗σの値として「実測流れ抵抗値」を代入し、縦弾性率Eの値として「実測弾性率」を代入した当該防音材モデル関数において、「空隙率φ(=嵩密度ρ÷真密度ρt)」をどのように変動させると、「透過損失TL」がどのように変化するかを検討することができる。
【0174】
具体的に、上記式(6-11)のとおり透過損失TLと関連で受けられる振幅反射率rは、上記式(6-10)のとおりZ(1)と関連付けられ、当該Z(1)は上記式(6-9)のとおりP1及びu1と関連付けられ、当該P1及びu1は上記式(6-7)のとおりTpと関連付けられ、当該Tpは上記式(5-4)及び式(5-5)のとおり縦弾性率E及びμiと関連付けられ、当該μiは上記式(3-7)、式(3-8)及び式(3-9)のとおりδ1及びδ2と関連付けられ、当該δ1及びδ2は等価密度ρ22及び弾性係数Pと関連付けられ、当該ρ22は上記式(2-3)のとおり流れ抵抗σ及び多孔度φと関連付けられ、当該多孔度φは上記式(2-4)のとおり嵩密度ρと関連付けられることから、当該流れ抵抗σ、縦弾性率E、及び嵩密度ρは、当該透過損失TLと関連付けられる。
【0175】
したがって、例えば、流れ抵抗σの値として「実測流れ抵抗値」を代入し、縦弾性率の値として「実測弾性率」を代入した防音材モデル関数において、「嵩密度ρ」を変化させることにより「空隙率φ」を変化させて、「透過損失TL」が最大となる「嵩密度ρ」の値を決定することができる。
【0176】
具体的には、フェルト層2の嵩密度と、フェルト層4の嵩密度とを同時に変化させながら、「透過損失TL」が最大となる、フェルト層2の「嵩密度ρ」の値とフェルト層4の「嵩密度ρ」の値との組み合わせを決定した。
【0177】
図5Cには、防音材の音響特性として挿入損失を評価する場合に用いた防音材モデルを示す。
図5Cに示すモデルにおいては、防音材に対して、フェルト層4側から振動加振が与えられ、フィルム層1から音波が放射される。挿入損失ILは、試料がない場合の音圧P
airと、試料がある場合の音圧(上記式(6-7)から算出されるP
1)とを用いて下記式(6-12)から求めた。
【数47】
【0178】
すなわち、上記のような防音材モデル関数を用いることにより、例えば、流れ抵抗σの値として「実測流れ抵抗値」を代入し、縦弾性率Eの値として「実測弾性率」を代入した当該防音材モデル関数において、「空隙率φ(=嵩密度ρ÷真密度ρt)」をどのように変動させると、「挿入損失IL」がどのように変化するかを検討することができる。
【0179】
具体的に、上記式(6-12)のとおり挿入損失ILと関連で受けられるP1は、上記式(6-7)のとおりTpと関連付けられ、当該Tpは上記式(5-4)及び式(5-5)のとおり縦弾性率E及びμiと関連付けられ、当該μiは上記式(3-7)、式(3-8)及び式(3-9)のとおりδ1及びδ2と関連付けられ、当該δ1及びδ2は等価密度ρ22及び弾性係数Pと関連付けられ、当該ρ22は上記式(2-3)のとおり流れ抵抗σ及び多孔度φと関連付けられ、当該多孔度φは上記式(2-4)のとおり嵩密度ρと関連付けられることから、当該流れ抵抗σ、縦弾性率E、及び嵩密度ρは、当該挿入損失ILと関連付けられる。
【0180】
したがって、例えば、流れ抵抗σの値として「実測流れ抵抗値」を代入し、縦弾性率の値として「実測弾性率」を代入した防音材モデル関数において、「嵩密度ρ」を変化させることにより「空隙率φ」を変化させて、「挿入損失IL」が最大となる「嵩密度ρ」の値を決定することができる。
【0181】
具体的には、フェルト層2の嵩密度と、フェルト層4の嵩密度とを同時に変化させながら、「挿入損失IL」が最大となる、フェルト層2の「嵩密度ρ」の値とフェルト層4の「嵩密度ρ」の値との組み合わせを決定した。
【0182】
設計用パラメータ値を決定するための演算処理は、コンピュータにインストールした市販の音響解析ソフトウェア(Actran、エムエスシーソフトウェア株式会社製)を用いて、防音材モデル関数において、嵩密度を変えながら防音材の音響特性(具体的には、吸音率、透過損失及び挿入損失)を計算し、当該吸音率、透過損失及び挿入損失からなる群より選択される1以上が予め定められた好ましい範囲内になる嵩密度値を算出した。なお、Actranを用いるにあたっては、加振面を130mm角、測定点の位置を加振面中央の直上500mm、当該加振面の振幅を加振面直上方向±1mに設定して、試料ありの場合には当該加振面に当該試料を配置した条件にて演算処理を実施し、試料なしの場合には当該加振面のみの加振とする条件にて演算処理を実施した。
【0183】
吸音率の解析対象周波数範囲は、2000Hz~5000Hz(10Hz刻み)とし、透過損失の解析対象周波数範囲は、800Hz~2500Hz10Hz刻み)とし、挿入損失の解析対象周波数範囲は、300Hz~800Hz10Hz刻み)とした。
【0184】
2以上の音響特性、すなわち、吸音率、透過損失及び挿入損失からなる群より選択される2以上が予め定められた好ましい範囲内になる嵩密度値の算出においては、遺伝的アルゴリズムを用い、パレートランキング法により、当該2以上の音響特性の値の合計が最大になるパレート解を求め、当該パレート最適解が得られる嵩密度の値を設計用嵩密度値(設計用パラメータ値)として算出した。
【0185】
具体的に、遺伝的アルゴリズムにおいては、各音響特性の最小値が0、最大値が1となるよう正規化した。また、各評価温度について、個体数は200、世代数は10とした。また、吸音率α、透過損失TL、挿入損失ILを総合的に評価する多目的最適化に用いるパラメータとして下記式(6-13)に示すf
allを用意した。
【数48】
【0186】
上記式(6-13)において、ωα、ωTL及びωILは、それぞれ吸音率,透過損失,挿入損失の重みづけ係数(単位:なし)である。上記式(6-13)で表されるfallを最大化することは、吸音率、透過損失、固体伝搬音特性をバランスよく最大化することを意味する。本実施例では便宜上ωα、ωTL、ωILをそれぞれ1/3とした。
【0187】
その結果、20℃、100℃及び300℃において防音材の3つの音響特性(吸音率、透過損失及び挿入損失)の各々について、当該音響特性を最大にする、2つの繊維体(フェルト層2及びフェルト層4)の各々の嵩密度(設計用嵩密度値)を、設計用パラメータ値として得た。
【0188】
また、20℃、100℃及び300℃において防音材の3つの音響特性(吸音率、透過損失及び挿入損失)の値の合計を最大にする、2つの繊維体(フェルト層2及びフェルト層4)の各々の嵩密度(設計用嵩密度値)を、設計用パラメータ値として得た。
【0189】
[設計用物性値決定工程]
本実施例の設計用物性値決定工程では、第二パラメータ(嵩密度)と、設計用物性(繊維径)とを関連付ける物性関数を用いて、当該第二パラメータの値として最適嵩密度値が代入された当該物性関数により得られる当該設計用物性の値を、設計用物性値として決定した。
【0190】
具体的に、物性関数としては、実験的に得られた下記式(7-1)(見坐地一人他、繊維体吸音材料のBiotパラメータの推定、自動車技術会論文集、49巻4号、p.787-792(2018))を用いた。
【数49】
【0191】
上記式(7-1)において、σは流れ抵抗(単位:Ns/m
4)であり、μは空気の粘度(単位:m
2/s)であり、Dは繊維径(単位:m)であり、多孔度φは上述した下記式(2-4)で表される。下記式(2-4)において、ρは嵩密度、ρ
tは真密度である。
【数50】
【0192】
図6Aには、上述のようにして得られた、20℃、100℃及び300℃において防音材の吸音率を最大にする、2つの繊維体(フェルト層2及びフェルト層4)の各々の繊維径の値(設計用物性値)を示す。
【0193】
例えば、フェルト層2の繊維径及びフェルト層4の繊維径として、それぞれ
図5Aに示される温度300℃における値を有する第一の繊維体及び第二の繊維体を、4層構造の防音材を製造するための繊維体として採用することにより、当該温度300℃において高い吸音率を示す防音材を設計し、製造することができる。
【0194】
図6Bには、上述のようにして得られた、20℃、100℃及び300℃において防音材の透過損失を最大にする、2つの繊維体(フェルト層2及びフェルト層4)の各々の繊維径の値(設計用物性値)を示す。
【0195】
例えば、フェルト層2の繊維径及びフェルト層4の繊維径として、それぞれ
図5Bに示される温度300℃における値を有する第一の繊維体及び第二の繊維体を、4層構造の防音材を製造するための繊維体として採用することにより、当該温度300℃において高い透過損失を示す防音材を設計し、製造することができる。
【0196】
図6Cには、上述のようにして得られた、20℃、100℃及び300℃において防音材の挿入損失を最大にする、2つの繊維体(フェルト層2及びフェルト層4)の各々の繊維径の値(設計用物性値)を示す。
【0197】
例えば、フェルト層2の繊維径及びフェルト層4の繊維径として、それぞれ
図5Cに示される温度300℃における値を有する第一の繊維体及び第二の繊維体を、4層構造の防音材を製造するための繊維体として採用することにより、当該温度300℃において高い挿入損失を示す防音材を設計し、製造することができる。
【0198】
図6Dには、上述のようにして得られた、20℃、100℃及び300℃において防音材の吸音率、透過損失及び挿入損失の合計を最大にする、2つの繊維体(フェルト層2及びフェルト層4)の各々の繊維径の値(設計用物性値)を示す。
【0199】
例えば、フェルト層2の繊維径及びフェルト層4の繊維径として、それぞれ
図5Dに示される温度300℃における値を有する第一の繊維体及び第二の繊維体を、4層構造の防音材を製造するための繊維体として採用することにより、当該温度300℃において、バランスよく高い吸音率、透過損失及び挿入損失を示す防音材を設計し、製造することができる。
【0200】
図6A~
図6Dに示すように、300℃における実測パラメータ値を用いて、設計用パラメータ値を決定し、当該設計用パラメータ値から設計用物性値としての繊維径値を算出することにより、20℃及び100℃の場合とは大きく異なる、設計用繊維径値が得られた。すなわち、300℃という高温における正確な実測パラメータ値を用いることにより、当該高温において所望の音響特性を達成するうえで適した、当該高温に特有の設計用物性値を得ることができた。
【0201】
このように本発明によれば、高温において所望の音響特性を達成するための多孔質体の設計用物性値を効果的に得ることができ、当該高温用途の防音材を効率よく設計及び製造することができる。
【0202】
上述の実施例においては、繊維体である多孔質体の繊維径を設計用物性とし、当該多孔質体の特性を示すパラメータとしては、Biot理論に基づく9つのパラメータ(いわゆるBiotパラメータ)のうち、流れ抵抗及び縦弾性率を第一パラメータとして用い、嵩密度を第二パラメータとして用いる態様について説明したが、本発明はこれに限られない。
【0203】
すなわち、第一パラメータとしては、例えば、9つのBiotパラメータからなる群より選択される1以上であって温度依存性を有し得るものであれば、流れ抵抗及び縦弾性率に限らず、好ましく用いることができる。一方、第二パラメータとしては、例えば、9つのBiotパラメータからなる群より選択される1以上であって、第一パラメータとは異なるものであれば、温度依存性の有無にかかわらず、用いることができる。
【0204】
また、上述の実施例において、無機繊維体の縦弾性率は実質的に温度依存性を示さなかったが、例えば、多孔質体として、有機繊維体又は樹脂発泡成形体を用いた場合には、その縦弾性率及び/又は嵩密度も温度依存性を有し得る。
【0205】
また、上述の実施例では、設計用物性値決定工程において、第二パラメータと設計用物性とを関連付ける物性関数を用いて設計用物性値を決定したが、これに限られず、例えば、当該第二パラメータの温度依存性(例えば、第二パラメータの値と温度とを関連付ける物性関数)を用いて、所定の高温以上の評価温度について決定された第二パラメータの値(設計用パラメータ値)から、設計温度(例えば、常温)における第二パラメータの値を決定してもよい。
【0206】
また、上述の実施例では、評価条件決定工程において、測定温度及び実測パラメータ値を、そのまま評価温度及び設計用パラメータ値としてそれぞれ決定したが、これに限られず、例えば、測定温度と異なる所定の高温以上の温度を評価温度として決定するとともに、第一パラメータの温度依存性を示す関数(例えば、
図4A及び
図4Bのように第一パラメータの値と温度とを関連付ける関数)を用いて、当該評価温度における当該第一パラメータの値を評価用パラメータ値として決定してもよい。