(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005511
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】分散リソース市場取引装置、分散リソース市場取引方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240110BHJP
G06Q 40/04 20120101ALI20240110BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240110BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q40/04
H02J3/00 170
H02J3/00 180
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105714
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】江口 富士雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 学
(72)【発明者】
【氏名】上浦 将来
(72)【発明者】
【氏名】山内 恒樹
(72)【発明者】
【氏名】名嘉 丈博
(72)【発明者】
【氏名】篠田 尚信
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】西澤 研
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅人
(72)【発明者】
【氏名】原 ルミ子
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5L049
5L055
【Fターム(参考)】
5G064AC08
5G064CB13
5G064DA03
5G066AA03
5G066AE09
5G066HB06
5G066HB09
5G066JB03
5L049CC06
5L055BB53
(57)【要約】
【課題】配電領域内において、緊急対応時にも過負荷等を解消できる分散リソース市場取引装置を提供する。
【解決手段】分散リソース市場取引装置は、配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する系統モデル作成部と、前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者における通常時の当該分散リソースの希望運転スケジュールを含む入札情報を取得し、さらに前記市場参加者及び/又は前記市場参加者とは別の市場参加者であって前記配電系統に接続される分散リソースを管理する者における緊急対応時の分散リソースの希望運転スケジュールを含む予備力の入札情報を取得する市場取引部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する系統モデル作成部と、
前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者における通常時の当該分散リソースの希望運転スケジュールを含む入札情報を取得し、さらに前記市場参加者及び/又は前記市場参加者とは別の市場参加者であって前記配電系統に接続される分散リソースを管理する者における緊急対応時の分散リソースの希望運転スケジュールを含む予備力の入札情報を取得する市場取引部と、
取得された前記通常時の入札情報を前記配電系統モデルに適用して前記配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行い、前記配電系統を構成する設備の制約条件を満たす前記運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出するシミュレーション部と、
を備え、
前記シミュレーション部は、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力及び/又は前記予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する、
分散リソース市場取引装置。
【請求項2】
前記シミュレーション部は、さらに、配電系統運用者が所有する予備力に関する情報を受け付け、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力、前記市場参加者若しくは前記市場参加者とは別の市場参加者における予備力、及び/又は前記配電系統運用者が所有する予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する、
請求項1に記載の分散リソース市場取引装置。
【請求項3】
前記系統モデル作成部は、前記配電系統に設置された開閉器の状態を示す情報に基づいて、緊急対応時における新たな配電系統モデルを作成し、
前記シミュレーション部は、緊急対応時には、前記新たな配電系統モデルを用いて最適運転スケジュールを導出する、
請求項1又は2に記載の分散リソース市場取引装置。
【請求項4】
配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成するステップと、
前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者における通常時の当該分散リソースの希望運転スケジュールを含む入札情報を取得し、さらに前記市場参加者及び/又は前記市場参加者とは別の市場参加者であって前記配電系統に接続される分散リソースを管理する者における緊急対応時の分散リソースの希望運転スケジュールを含む予備力の入札情報を取得するステップと、
取得された前記通常時の入札情報を前記配電系統モデルに適用して前記配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行い、前記配電系統を構成する設備の制約条件を満たす前記運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出するステップと、
を有し、
前記最適運転スケジュールを導出するステップでは、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力及び/又は前記予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する、
分散リソース市場取引方法。
【請求項5】
コンピュータに、
配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成するステップと、
前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者における通常時の当該分散リソースの希望運転スケジュールを含む入札情報を取得し、さらに前記市場参加者及び/又は前記市場参加者とは別の市場参加者であって前記配電系統に接続される分散リソースを管理する者における緊急対応時の分散リソースの希望運転スケジュールを含む予備力の入札情報を取得するステップと、
取得された前記通常時の入札情報を前記配電系統モデルに適用して前記配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行い、前記配電系統を構成する設備の制約条件を満たす前記運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記最適運転スケジュールを導出するステップでは、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力及び/又は前記予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分散リソース市場取引装置、分散リソース市場取引方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
PV(太陽光パネル)等の再生可能エネルギー電源、EV充電器等の負荷機器、蓄電池等の分散リソース(分散電源)の低価格化により、配電領域での分散リソースの導入が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配電領域に多数の分散リソースが導入されると、配電系統レベルの局所で、系統混雑、電圧バイオレーション等の制約の発生が予想される。そうすると、これらに対処するための配電系統増強投資が増し、それが電力料金へ反映されることで電力料金の高騰を招く可能性がある。
【0005】
また、分散リソースの運転適正化に必要となる、分散電源を管理、モニターする仕組みがない。
【0006】
また、配電系統運用者(DSO)が何かしらの方法で制約解消に資する設備を調達し、予想される配電制約の解消を図る可能性はあるが、それを経済的に行うための仕組みがない。
【0007】
また、配電設備の更新は、経過年に関する基準値に達したものや、現地点検にて基準を満たさないものに対して行われてきたが、基本的には従来仕様の継続、または、増強を前提としており、より経済的な代替手段の検討を支援するシステムがない。
【0008】
加えて、上記配電制約や、配電設備の状態を把握し、それらの解消に適切な設備(分散電源)の開発、製造、配置、運用を支援する仕組みがない。
【0009】
本開示の目的は、配電領域内において、緊急対応時にも過負荷等を解消できる分散リソース市場取引装置、分散リソース市場取引方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る分散リソース市場取引装置は、配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する系統モデル作成部と、前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者における通常時の当該分散リソースの希望運転スケジュールを含む入札情報を取得し、さらに前記市場参加者及び/又は前記市場参加者とは別の市場参加者であって前記配電系統に接続される分散リソースを管理する者における緊急対応時の分散リソースの希望運転スケジュールを含む予備力の入札情報を取得する市場取引部と、取得された前記通常時の入札情報を前記配電系統モデルに適用して前記配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行い、前記配電系統を構成する設備の制約条件を満たす前記運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出するシミュレーション部と、を備え、前記シミュレーション部は、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力及び/又は前記予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する。
【発明の効果】
【0011】
上述の各態様によれば、配電領域内において、緊急対応時にも過負荷等を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの機能構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー(前日市場)を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー(リアルタイム市場)を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13による、DLMPの見える化に関する効果のイメージ図である。
【
図5】第2の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー(中長期計画)を示す図である。
【
図6】第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー(リアルタイム市場)を示す図である。
【
図7】第4の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施形態>
以下、
図1~
図5を参照しながら、第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームについて詳しく説明する。
【0014】
(分散リソース市場取引プラットフォームの機能構成)
図1は、第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの機能構成を示す図である。
【0015】
図1に示すように、分散リソース市場取引プラットフォーム1(分散リソース市場取引装置)は、市場運営者A(DMOオペレータ)によって運営される電力取引市場に利用されるシステムである。この電力取引市場では、ある配電系統を管理する配電系統運用者B(DSO)と、市場参加者Cとの間で取引が行われる。市場参加者Cは、当該配電系統に連系される分散リソース(DER)の所有者、または、複数の分散リソースを束ねて管理するアグリゲータ等である。
【0016】
市場参加者端末装置2は、アグリゲータなどの市場参加者の各々が利用する端末装置である。
【0017】
DSOシステム3は、配電系統運用者Bが運用する関連システムである。
【0018】
DERMS4(DERMS;Distributed Energy Resource Management Systems)は、対象の配電系統に連系される分散リソースを管理するシステムであって、各分散リソースの遠隔操作や運転情報の取得を行う。
【0019】
前日市場&リアルタイム市場5は、JEPX等の市場価格を提供する。
【0020】
ADMS6(ADMS;配電中給システム)は、対象の配電系統におけるフィーダごとの計測情報や、当該配電系統に設けられた開閉器の開閉状態を提供する。
【0021】
決済システム7は、配電系統運用者Bと市場参加者Cとの間での電力市場取引に基づく決済処理を行う。
【0022】
次に、
図1に示す分散リソース市場取引プラットフォーム1の機能について詳しく説明する。
【0023】
図1に示すように、分散リソース市場取引プラットフォーム1は、系統モデル作成部10と、登録処理部11と、電力需給予測部12と、経済最適化系統シミュレーション部13(シミュレーション部)と、市場取引部14と、通知部15を備える。
【0024】
系統モデル作成部10は、電力市場取引の対象とする配電系統のモデル(系統モデル)を作成する。より具体的には、系統モデル作成部10は、対象配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する。
【0025】
登録処理部11は、市場参加者の情報を受け付けて参加者登録を行う。
【0026】
電力需給予測部12は、将来(本実施形態においては翌日および当日)の電力需要の簡易予測を行う。
【0027】
経済最適化系統シミュレーション部13は、市場参加者Cから提供される入札情報(希望運転スケジュール)に基づく運転を配電系統モデルに適用し、当該配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算(シミュレーション)を行う。経済最適化系統シミュレーション部13は、このようなシミュレーションを、複数の入札情報の組み合わせに対して行い、配電系統の制約条件を満たし、なおかつ、経済的に最適化された運転スケジュール(最適運転スケジュール)を導出する。
「制約条件」とは、配電系統を構成する設備の仕様に由来して満たすべき条件であって、例えば、当該配電系統を構成する配電線、変圧器や各種電圧調整設備における送電電力および電圧の上限値などである。
【0028】
市場取引部14は、分散リソースを管理する複数の市場参加者Cから、当該分散リソースの希望運転スケジュールと希望価格とを含む入札情報を取得する。
【0029】
通知部15は、最適運転スケジュールを配電系統運用者Bおよび市場参加者Cに通知する。
【0030】
(分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー)
図2、
図3は、第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フローを示す図である。ここで、
図2は、前日市場における処理フローであり、
図3は、リアルタイム市場における処理フローである。
【0031】
(前日市場)
図2を参照しながら、前日市場での処理フローについて説明する。
【0032】
まず、分散リソース市場取引プラットフォーム1の登録処理部11は、参加者登録を行う(ステップS10)。なお、この参加者登録は、本プラットフォームを利用するために、各市場参加者Cに対して行われる処理である。参加者登録の際には、市場参加者Cは、参加者情報と、所有または管理する分散リソースの情報(DER情報)とを提供する。分散リソースの情報には、タイプ(太陽光パネル、蓄電池、EV充電設備、等)、系統連系点、定格出力などが含まれる。
【0033】
分散リソース市場取引プラットフォーム1の電力需給予測部12は、翌日の電力需給予測を行う(ステップS11)。ここで、DSOシステム3(
図1)は、自身の配電系統におけるフィーダ電流、スマートメータデータ、DSOエリアに入る発電計画値を提供する。また、DSOシステム3は、外部より取り込む情報として、短期気象予測、再エネ変動予測、JEPX価格を提供する。
電力需給予測部12は、これらの情報に基づいて、翌日における時間帯別の電力需要予測、PV発電量予測およびJEPX価格予測を経済最適化系統シミュレーション部13に出力する。
【0034】
分散リソース市場取引プラットフォーム1の経済最適化系統シミュレーション部13は、(後述する市場取引部14を通じて、)各市場参加者Cからの入札情報を受け付ける。入札情報とは、市場参加者Cが、各々が所有する分散リソースの希望運転スケジュールと、希望価格とを含む情報である。具体的には、時間帯別ノード別受電点電力(需要抑制量)30分値、時間帯別ノード別価格、時間帯別ノード別予備力(需要抑制量)30分値、時間帯別ノード別待機価格が含まれる。
【0035】
経済最適化系統シミュレーション部13は、事前に、系統モデル作成部10によって作成された系統モデルを有している。
【0036】
経済最適化系統シミュレーション部13は、ステップS11で求められた翌日の電力需要予測と、複数の市場参加者Cそれぞれから受け付けた入札情報とを取得する。そして、経済最適化系統シミュレーション部13は、市場参加者Cから取得した入札情報の希望運転スケジュールに基づく運転を、系統モデル作成部10によって作成された配電系統モデルに適用し、当該配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算(シミュレーション)を行う(ステップS12)。経済最適化系統シミュレーション部13は、複数の入札情報の組み合わせについてこのようなシミュレーションを繰り返し行い、配電系統を構成する設備の制約条件を満たす組み合わせを見つける。また、経済最適化系統シミュレーション部13は、制約条件を満たす組み合わせの候補が複数ある場合には、電力価格がより安くなる候補を選択する。以上の処理により、翌日の電力需要に対応するマッチング(入札者の選出)がなされ、最適運転スケジュールが導出されることとなる。この最適運転スケジュールは、配電設備の制約条件を満たしつつ、翌日の電力需給予測を満足する需給量が得られる運転スケジュールとなり、なおかつ、電力価格が最も安くなる運転スケジュールとなる。
【0037】
なお、ステップS12における入札情報の取得は、分散リソース市場取引プラットフォーム1の市場取引部14によって行われる。市場取引部14の機能については以下のとおりである。
まず初めに、配電系統運用者B(DSO)が、制約解消のためのBidを入力する。Bidには地点、日時、持続時間、要求出力等の情報を入力できる欄があり、当該Bid内容が地図を含めた画面上に公開される。DERを登録している応札者である市場参加者Cがその内容を確認できる。市場参加者Cは、公開されたBid内容に応じてOffer(入札情報)を決定し、入力する。Offerには、出力、応動時間等の設備情報に加え、希望価格を入力する欄がある。
【0038】
続いて、経済最適化系統シミュレーション部13は、マッチング(入札情報)に応じたDLMP(Distribution locational marginal price;配電地点別限界価格)を計算するとともに、最適運転スケジュールの解析結果をDSOシステム3に出力する。最適運転スケジュールの解析結果は、例えば、時間帯別ノード別受電点電力(需要抑制量)30分値、時間帯別価格30分値などが含まれる。
【0039】
経済最適化系統シミュレーション部13は、DLMPの見える化に関する処理を行う(ステップS13a)。この処理により、マッチング後における地点別の電力価格が一般に公開される。この処理では、例えば、対象範囲の地図に、配電系統の模式図と、当該配電系統の地点ごとの電力価格を重ねて表示する。DLMPの計算手法および“見える化”によって得られる効果については後述する。
【0040】
分散リソース市場取引プラットフォーム1の市場取引部14は、マッチング(経済最適化シミュレーション)によって選出された市場参加者Cに対し、コミットメント確認処理を行う(ステップS13b)。
【0041】
続いて、配電系統運用者Bは、DSOシステム3を通じて解析結果を確認し、結果の承認処理を行う(ステップS14a)。結果の承認を受け付けた分散リソース市場取引プラットフォーム1(市場取引部14)は、市場参加者Cに対し応札結果の連絡を行う(ステップS14b)。
【0042】
市場取引部14は、応札結果に基づき、決済処理を行い(ステップS15)、インボイスを発行する(ステップS16)。
一方、DSOシステム3は、市場参加者C(アグリゲータ等)へのディスパッチ連絡準備を行い(ステップS17)、続いて、決済指示を行う(ステップS18)。市場参加者Cは、端末装置2を通じて決済額の受領を確認する(ステップS19)。
ここでDSOシステム3のディスパッチ機能について説明する。ディスパッチ機能は、締結された分散リソース稼働契約を遂行する機能であり、稼働時間になると、当該分散リソースに待機指令が出される。配電系統運用者B(DSO)が、その分散リソースの稼働が必要と判断した場合は、分散リソースに稼働指令が出される。配電系統運用者B(DSO)からの停止判断か、契約終了時間がきたときには、停止指令が出される。当システム上で、すべての契約に対する分散リソースの状態をモニターすることができ、契約の遂行状況を確認できる。
【0043】
(リアルタイム市場)
次に、
図3を参照しながら、リアルタイム市場での処理フローについて説明する。
【0044】
分散リソース市場取引プラットフォーム1の電力需給予測部12は、当日の電力需給予測を行う(ステップS20)。ここで、DSOシステム3(
図1)は、自身の配電系統におけるフィーダ電流、スマートメータデータ、DSOエリアに入る発電計画値を提供する。また、DSOシステム3は、外部より取り込む情報として、短期気象予測、再エネ変動予測、JEPX価格を提供する。
電力需給予測部12は、これらの情報に基づいて、当日における時間帯別の電力需要予測、PV発電量予測およびJEPX価格予測を経済最適化系統シミュレーション部13に出力する。なお、ここでの予測結果は、前日市場で行った予測よりも精度が高いものとなる。
【0045】
経済最適化系統シミュレーション部13は、ステップS20で求められた当日の電力需要予測と、複数の市場参加者Cそれぞれから受け付けた入札情報とを取得する。そして、経済最適化系統シミュレーション部13は、市場参加者Cから取得した入札情報の希望運転スケジュールに基づく運転を、系統モデル作成部10によって作成された配電系統モデルに適用し、当該配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算(シミュレーション)を行う(ステップS21)。経済最適化系統シミュレーション部13は、複数の入札情報の組み合わせについてこのようなシミュレーションを繰り返し行い、配電系統を構成する設備の制約条件を満たす組み合わせを見つける。また、経済最適化系統シミュレーション部13は、制約条件を満たす組み合わせの候補が複数ある場合には、電力価格がより安くなる候補を選択する。以上の処理により、当日の電力需要に対応するマッチング(入札者の選出)がなされ、最適運転スケジュールが導出されることとなる。この最適運転スケジュールは、原則として、配電設備の制約条件を満たしつつ、当日の電力需給予測を満足する需給量が得られる運転スケジュールとなり、なおかつ、電力価格が最も安くなる運転スケジュールとなる。
しかし、リアルタイム市場では、系統制約違反を解消する解がない場合が想定される。
【0046】
そこで、経済最適化系統シミュレーション部13は、系統制約違反を解消する解がないか否かを判定する(ステップS23)。系統制約違反を解消する解があった場合(ステップS23;NO)、市場取引部14は、DSOシステム3からの解析結果の承認を受けて、応札結果連絡を行う(ステップS24)。
一方、系統制約違反を解消する解がなかった場合(ステップS23;YES)、経済最適化系統シミュレーション部13は、発電抑制/需要抑制案を策定する(ステップS25)。続いて、通知部15は、ステップS25で策定された発電抑制/需要抑制案を、DSOシステム3(DSO用簡易指令システム)へ提案する(ステップS26)。この提案内容には、応札結果、発電抑制/需要抑制提案が含まれる。
DSOシステム3(DSO用簡易指令システム)は、この発電抑制/需要抑制提案に応じて、市場参加者C(アグリゲータ等)へのディスパッチ連絡を行う(ステップS28)。市場参加者Cが所有、管理するDER設備(分散リソース)は、DSOシステム3から受信するディスパッチ指令に従って受電または給電の動作を行う(ステップS28)。これにより、対象の配電系統における系統制約違反が解消されることとなる。
【0047】
(作用、効果)
以上、第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1によれば、経済最適化系統シミュレーション部13が、配電系統の設備の制約条件を満たすような最適運転スケジュールを導出するので、配電系統運用者Bは、配電系統設備の設備増強投資を抑えることができる。
【0048】
例えば、配電系統内における、あるフィーダに連系された工場設備にて大きな電力需要が予測されたとする。このとき、何らの手当てをしない場合、その大きな電力需要を満たすべく、配電系統の上流から送電される電力が過多となり、当該配電系統設備の所定箇所で制約違反(容量オーバー)が発生することが想定される。この場合において、本実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13は、工場設備と同じフィーダに連系された分散リソースからの入札を積極的に採用するようにマッチングし、これらの運転スケジュールを導出する。このようにすることで、分散リソースと工場設備との間での電力需給が、同一のフィーダ内で完結する。したがって、配電系統の上流から送電される電力は小さくなり、(配電系統設備に何らの設備増強投資を行わずとも、)配電系統設備の所定箇所における制約条件を満たしながら、全体の電力需給を満足する運転が可能となる。
【0049】
また、第1の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、将来(翌日、当日)の電力需給予測を行う電力需給予測部12をさらに備える。そして、経済最適化系統シミュレーション部13は、最適運転スケジュールとして、当該電力需給予測に適応可能な運転スケジュールを導出する。
このようにすることで、経済最適化系統シミュレーションにおいて、翌日または当日の電力需要と電力供給とを精度よくバランスするようにマッチングさせることができる。
【0050】
また、第1の実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13は、さらに、最適運転スケジュールとして、電力価格が最も安くなるような運転スケジュールを導出する。
このようにすることで、電力需給でやり取りされる金額が低減される。
【0051】
また、第1の実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13は、さらに、配電系統の制約条件を満たす解がなかった場合、発電抑制/需要抑制案を策定する。
このようにすることで、配電系統の制約条件が満たされるように、適切にディスパッチ指令が発行されることとなる。
【0052】
また、第1の実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13は、配電地点別限界価格(DLMP)の見える化に関する処理を行う。
この処理の作用、効果については、
図4を参照しながら説明する。
【0053】
図4は、第1の実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13による、DLMPの見える化に関する効果のイメージ図である。
図4には、電力取引の対象となる配電系統Kを模式的に図示している。例として、配電系統Kは、フィーダF21、F22、F23、F24を有しているものとする。
【0054】
配電系統Kの受電点には、上流から送電される電力の電力価格(20円)が表示される。この電力価格(20円)は、上流の発電設備におけるエネルギーコスト(発電コスト)に基づいて定まる価格であり、配電系統K内の各所(ノード)における電力価格の基準となる。
【0055】
例えば、フィーダF23のノードAでは、電圧違反、系統混雑(熱容量超過)に係る制約を受けない。この場合、経済最適化系統シミュレーション部13によるマッチングの結果、ノードAでの電力価格は受電点と同じ(20円)となる。
【0056】
フィーダF21のノードBでは、PV発電による供給が過剰となっており、系統混雑により配電設備の制約(容量3MW)を受ける状況にある。この場合、経済最適化系統シミュレーション部13の経済最適化シミュレーションにより、ノードBに連系される多数の候補(入札)の中から、配電設備の制約(容量3MW)を超えない範囲で、最も安い価格を提示した市場参加者Cの入札が採用されることとなる。その結果、ノードBでは、電力価格が受電点よりも低い価格(10.5円)となる。
【0057】
フィーダF24のノードCでは、系統末端にてEV充電器による電力消費が過大となっている。そのため、ここでは電圧が下がり勝手となり、電圧の制約条件(例えば、基準電圧6.6kVの-2%以上を維持すること)が満たされないことが想定される。この場合、ノードCの周辺には少数の候補(入札)しかなく、予測された電力需要に対して、少ない候補の中からマッチングされることとなる。その結果、電力価格が受電点よりも高い価格(30.3円)となる。
【0058】
フィーダF22のノードDでは、系統末端にてPV発電機による電力供給が過大となっている。そのため、ここでは電圧が上がり勝手となり、電圧の制約条件(たとえば、基準電圧6.6kVの+2%以下を維持すること)が満たされないことが想定される。この場合、ノードDの周辺には多数の候補(入札)があり、予測された電力需要に対して、多数の候補の中からマッチングされることとなる。その結果、電力価格が受電点よりも安い価格(8.7円)となる。
【0059】
配電地点別限界価格の見える化処理では、以上のようにして決定される各ノードA~Dの価格が一般に公開される。そうすると、この価格を見たDER保有者や電力需要家は、それぞれにとって経済的に有利になるような行動をとるようになる。例えば、ノードBに連系される工場設備のオーナーは、電力価格が安いことを受けて、電力需要を増やすことを検討するようになる。また、例えば、EVの利用者は、電力価格が高いノードCで放電し、電力価格が安いノードDで充電するようになる。
【0060】
このように、経済最適化シミュレーションの結果として計算されるDLMPは、供給過多のノードほど価格が下落するようになる。そうすると、この情報が公開(見える化)されることで、そのノードでの負荷設備の導入・使用、および、発電設備の使用抑制が促される。
同様に、経済最適化シミュレーションの結果として計算されるDLMPは、需要過多のノードほど価格が高騰するようになる。そうすると、そのノードでの発電設備の導入・使用、および、負荷設備の使用抑制が促される。
このように、DLMPの見える化により、DER所有者や電力需要家の行動変容が促され、配電系統の制約条件に対する課題が緩和されるようになる。
【0061】
<第2の実施形態>
次に、
図5を参照しながら、第2の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームについて詳しく説明する。
なお、第2の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの機能構成については、第1の実施形態(
図1)と同様であるため説明を省略する。
【0062】
(中長期計画)
図5は、第2の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー(中長期計画)を示す図である。
【0063】
図5を参照しながら、中長期計画の処理フローについて説明する。
まず、分散リソース市場取引プラットフォーム1の登録処理部11は、参加者登録を行う(ステップS30)。ここでは、登録処理部11は、主に、参加者情報、分散リソースの各種情報(DER情報)を受け付ける。市場運営者Aは、参加者・DER認証、与信チェック、稼働/容量確認を行う。これらに問題が無ければ、市場運営者Aは、市場参加者Cとの間で基本契約を行い(ステップS31)、登録処理部11を通じて分散リソース市場取引プラットフォーム1に参加者登録を行う(ステップS32)。
【0064】
一方、分散リソース市場取引プラットフォーム1の系統モデル作成部10は、中長期計画の検討対象エリアとして選定された配電系統の情報(受配電系統の単結図、配電線の線種/回線数/亘長、変圧器や各種電圧調整設備の仕様等)を受け付けて、当該配電系統の系統モデルを作成する(ステップS33)。また、ここでは、配電系統運用者Bから、配電系統の中長期系統計画の情報が提供される。したがって、ここで作成される配電系統モデルは、中長期的な将来の仕様等が織り込まれたものとなる。
【0065】
次に、分散リソース市場取引プラットフォーム1の電力需給予測部12は、電力の中長期的な需給予測を行う(ステップS34)。ここで、電力需給予測部12は、DSOシステム3から、フィーダ電流、スマートメータデータ、DSOエリアに入る発電計画値、最エネ接続計画などの情報を受け付ける。また、電力需給予測部12は、外部より取り込む情報として、長期気象予測、JPEX価格、電化促進計画、EV需要予測などを取り込む。電力需給予測部12は、これらの情報に基づいて、電力の中長期的な需給予測を行う。
【0066】
電力需給予測部12は、予測誤差の推定を行い(ステップS35)、ステップS34で求めた需要予測、PV発電量予測、JEPX価格予測等と、ステップS35で求めた、需要予測誤差、PV発電量予測誤差等を出力する。NWAシナリオ策定を行う(ステップS36)。
ここでNWA(Non-Wire Alternatives)シナリオ策定とは、配電系統が混雑している、或いは、今後混雑が予想されて、送配電設備への新たな設備増強投資が必要となることが想定される際に、その域内の分散リソース(DER)等を活用することで、新たな投資を回避するシナリオを策定することである。
このステップS36で定められるNWA策定シナリオは、ステップS30で受け付けた参加DERのみを用いて設備増強投資を行わないシナリオとされる。
【0067】
経済最適化系統シミュレーション部13は、ステップS36のNWAシナリオに従う条件(つまり、参加DERのみが連系されている条件)で、経済最適化系統シミュレーションを行う(ステップS37)。ここでは、ステップS33で作成された中長期的な計画が織り込まれた将来の配電系統と、ステップS34で計算された中長期的な電力需給予測とに基づいたシミュレーションが行われる。
【0068】
経済最適化系統シミュレーション部13は、ステップS37のシミュレーションの結果、系統制約違反を解消する解が無いか否かを判定する(ステップS38)。系統制約違反を解消する解がある場合(ステップS38;NO)、ステップS36で策定したNWAシナリオ(つまり、参加DERのみを活用し、設備増強投資は行わないシナリオ)は、中長期計画として、支障が無いものと判断される。したがって、中長期計画の処理フローは終了する。
【0069】
系統制約違反を解消する解がない場合(ステップS38;YES)、再度、NWAシナリオを策定する(ステップS39)。ここでのシナリオは、配電設備の増強、或いは、配電系統運用者B(DSO)が新たなDER設備を調達することも含めたシナリオを策定する。
【0070】
経済最適化系統シミュレーション部13は、ステップS39で策定されたNWAシナリオに従う条件(つまり、新たな配電設備の増強、または、DER設備の調達がなされた条件)で、経済最適化系統シミュレーションを行う(ステップS40)。
【0071】
経済最適化系統シミュレーション部13は、ステップS40のシミュレーションの結果、系統制約違反を解消する解が無いか否かを判定する(ステップS41)。系統制約違反を解消する解がない場合(ステップS41;YES)、ステップS39に戻り、新たなNWAシナリオを策定する。
系統制約違反を解消する解があった場合(ステップS41;NO)、解が見つかったNWAシナリオの比較を行う(ステップS42)。ここで、市場運営者A(DMO)は、新たなDER設備を調達するシナリオと、配電系統の設備増強を行うシナリオとを比較し、それぞれのコスト評価を行う(ステップS43)。
【0072】
ステップS43のコスト評価の結果に基づいて、市場運営者A(DMO)は、DER調達費と系統増強費のどちらかが安いかを判定する(ステップS44)。「DER調達費>系統増強費」となっている場合(ステップS44;NO)、市場運営者Aは、配電系統運用者Bに対し、NWAシナリオに基づく系統増強を提案する(ステップS45b)。「DER調達費<系統増強費」となっている場合(ステップS44;YES)、市場運営者Aは、配電系統運用者Bに対し、NWAシナリオに基づくDER調達を提案する(ステップS45b)。
【0073】
以上の通り、第2の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、対象配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する系統モデル作成部と、分散リソース(DER)を所有または管理する参加者からの分散リソース情報(DER情報)を取得して登録する登録処理部と、与えられたNWAシナリオに沿った条件で、前記参加者の分散リソースによる運転を前記配電系統モデルに適用して、配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行いながら、配電系統を構成する設備の制約条件を満たす運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出するシミュレーション部と、を備える。
【0074】
以上の構成によれば、分散リソース市場取引プラットフォーム1は、配電系統運用者B(DSO)に対し、中長期的な計画において、配電系統の設備増強投資を行うか否かの判断を適切に行うことができる。
【0075】
<第3の実施形態>
次に、
図6を参照しながら、第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームについて詳しく説明する。
なお、第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの機能構成については、第1の実施形態(
図1)と同様であるため説明を省略する。
【0076】
図6は、第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー(リアルタイム市場)を示す図である。
図6では、第1の実施形態の処理(
図3)と同一の処理については同一の符号を付して説明を省略する。また、
図6では、市場参加者(アグリゲータ等)の端末装置の処理については記載を省略している。
【0077】
第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、災害時等の緊急対応として、適切な電力配電の提案や緊急電源の確保を行う機能を有する点で第1の実施形態と異なる。
【0078】
具体的には、経済最適化系統シミュレーション部13は、経済最適化シミュレーション(ステップS21A)において、配電系統運用者B(DSO)が所有する分散リソース(DER)設備に関する情報提供を受け付ける。配電系統運用者Bが所有する分散リソースは、緊急時にのみ、制約条件を満たす目的で用いられる設備(予備力)である。予備力に関する情報には、例えば、
図6に示すような時間帯別ノード別予備力(需要抑制量)、時間帯別ノード別待機価格が含まれる。
【0079】
なお、通常時においては、経済最適化系統シミュレーション部13は、予備力(DSO所有の分散リソース)を使用しない前提で経済最適化系統シミュレーションを行う(第1の実施形態のステップS21(
図3)と同じ)。しかし、災害発生により配電系統の一部設備が損傷した場合においては、この予備力を含めて経済最適化系統シミュレーションを行う(ステップS21A)。
【0080】
なお、DSOシステム3の配電中給システム(ADMS)は、常時、配電系統の各所を監視している(ステップS50)。そして、災害発生等に起因して一部設備が損傷し、過負荷が発生した場合には(ステップS51;YES)、直ちに緊急制御を行う(ステップS52)。この緊急制御では、発電抑制や予備力DER制御が行われる。
【0081】
ステップS52では、まず、市場運営者A(DMO)の分散リソース市場取引プラットフォーム1に向けて緊急制御の通知がなされる。分散リソース市場取引プラットフォーム1の経済最適化系統シミュレーション部13は、現時点(災害発生時)におけるスマートメータデータやフィーダ電流、および、DSO所有DER設備を考慮して経済最適化系統シミュレーションを行う(ステップS21A)。この処理により、災害発生時点における配電系統の制約条件を満たすような、DSO所有DER設備の最適運転スケジュールが導出される。この最適運転スケジュールは、DSO用簡易指令システムに送信される。
DSO用簡易指令システムは、ステップS21Aで求められた最適運転スケジュール(つまり、災害による過負荷発生を解消するための運転スケジュール)に基づいて、DSO所有DER設備へのディスパッチ指令を行う(ステップS53)。これにより、ステップS52の緊急制御がなされることとなる。
【0082】
以上の通り、第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する系統モデル作成部10と、前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者から、当該分散リソースの希望運転スケジュールと希望価格とを含む入札情報を取得する市場取引部14と、取得された前記入札情報の希望運転スケジュールに基づく運転を前記配電系統モデルに適用して前記配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行いながら、前記配電系統を構成する設備の制約条件を満たす前記運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出するシミュレーション部13と、前記最適運転スケジュールを市場参加者に通知する通知部15と、を備える。
そして、本実施形態に係る経済最適化系統シミュレーション部13は、さらに、配電系統運用者Bが所有する予備力に関する情報を受け付けるとともに、緊急対応時には、当該予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出することを特徴とする。
【0083】
このようにすることで、災害発生等の緊急対応時には、配電設備の損傷等に起因して過負荷が発生したとしても、配電系統運用者Bが所有するDER設備(予備力)を含めて、このような過負荷を解消するような運転スケジュール(最適運転スケジュール)が導出されることとなる。
【0084】
第3の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、更に、次のような機能を備えていてもよい。
【0085】
即ち、災害発生時には一部の配線が切断されたり、設備が損傷したりするなどした結果、下流への給電を維持するため、当初の単結図とは異なる結線状態となることが想定される。その場合、系統モデル作成部10は、緊急対応時に、配電系統の各所に設置された開閉器の状態(ON/OFF状態)を受信して、災害発生後の単結図に合う新たな配電系統モデルを作成するようにしてもよい。この場合、経済最適化系統シミュレーション部13は、系統モデル作成部10によって新たに作成された(災害発生後の)配電系統モデルを用い、必要に応じて市場参加者Cが応札した受電点電力に加え、市場参加者C又は配電系統運用者Bが所有する予備力をも勘案して経済最適化系統シミュレーションを行う。
このようにすることで、災害の発生によって配電系統の結線状態が変化した場合であっても、系統制約の発生を回避し、正しく経済最適化系統シミュレーションを行うことができる。
【0086】
また、緊急対応時用の予備力の入札には、(ア)通常時の入札に参加する市場参加者も参加することが考えられる。
また、(イ)上記(ア)とは別の(通常時における入札に参加せず、緊急時の予備力としてのみ参加する)市場参加者が参加することも考えられる。
【0087】
また、分散リソース市場取引プラットフォーム1は、緊急時には、次の順で電力確保を行うようにしてもよい。
(a)通常時の入札にかかる分散リソース
(b)市場参加者及び/又は市場参加者とは別の市場参加者の予備力
(c)配電系統運用者の予備力
即ち、(a)のみで系統安定が可能なら(a)のみで対応し、(a)のみで足りない場合は(a)+(b)で対応し、(a)+(b)でも足りない場合は(a)+(b)+(c)で対応する。このように予備力を確保することによって、緊急時の系統安定が高まることが期待できる。
【0088】
<第4の実施形態>
次に、
図7を参照しながら、第4の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームについて詳しく説明する。
なお、第4の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの機能構成については、第1の実施形態(
図1)と同様であるため説明を省略する。
【0089】
第1の実施形態において、経済最適化系統シミュレーション部13の経済最適化シミュレーションにおいて、DLMPは、配電系統設備の制約条件(電圧違反、系統混雑)に基づくマッチングにて算出されるものとして説明した(
図4等を参照)。
一方、本実施形態においては、経済最適化系統シミュレーション部13は、DLMPを、配電系統設備の制約条件に加え、環境価値およびレジリエンス価値を考慮して算出することを特徴とする。具体的には、
図7に示す処理フローを実行する。
【0090】
(分散リソース市場取引プラットフォームの処理フロー)
図7は、第4の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォームの処理フローを示す図である。
図7に示す処理フローは、経済最適化系統シミュレーション部13によるDLMPの計算過程を示している。
【0091】
まず、経済最適化系統シミュレーション部13は、電圧違反、系統混雑に基づくDLMPの算出処理を行う(ステップS60)。この処理は、第1の実施形態(
図4)で説明した通りのものである。
【0092】
次に、経済最適化系統シミュレーション部13は、環境価値に基づくDLMPの算出処理を行う(ステップS61)。ここでは、ステップS60で求めたDLMPに対し、環境価値分を加える。
【0093】
即ち、ステップS61のDLMP算出では、環境負荷の小さい発電設備の収入が増えるようにする。環境価値分は、例えば、以下のようにして決める。
【0094】
(1)発電量当たりのCO2排出量が小さいほど環境価値が大きくなるように設定する。これにより再エネ電源は価値が最大になり、効率の良い発電設備の価値も高くなる。
(2)環境価値を加える前のDLMPが小さい地点の増加幅は小さく、高い地点の増加幅は大きくすることで、もともとDLMPが持っている系統制約緩和のための設備導入誘導効果を促進する価格設定にする。
【0095】
次に、経済最適化系統シミュレーション部13は、レジリエンス価値に基づくDLMPの算出処理を行う(ステップS62)。ここでは、ステップS61で求めたDLMPに対し、さらに、レジリエンス価値分を加える。
【0096】
即ち、ステップS61のDLMP算出では、停電発生時の影響が大きい負荷設備が接続しているノードに近い発電設備が接続しているノードのDLMPに、レジリエンス価値分を加える。その可能性の高い発電設備にインセンティブを与える。レジリエンス価値分は、例えば、以下のようにして決める。
【0097】
(1)停電発生時の影響が大きい負荷設備を選定する。例えば、以下のようにランク付けしてもよい。
病院、警察、消防署等 > 街灯、学校 > 住宅密集地
(2)災害発生時に、対象負荷設備を含めた地域を独立グリッドとして運用可能な場合(給電ルートが確保されている場合)、その範囲内にある発電設備にはレジリエンス価値を与える。
(3)対象負荷設備からの距離が近い発電設備に、レジリエンス価値を高く設定してもよい。
(4)ローカルに連系する分散リソース(DER)が独立して運転できる継続時間が長いときは、レジリエンス価値を高く設定する。
【0098】
なお、上述の実施形態においては、環境価値に基づくDLMP算出(ステップS61)と、レジリエンス価値に基づくDLMP算出(ステップS62)との両方を実行するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
他の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、環境価値に基づくDLMP算出(ステップS61)、レジリエンス価値に基づくDLMP算出(ステップS62)のいずれか一方のみを行うものとしてもよい。
【0099】
(作用、効果)
以上の通り、第4の実施形態に係る分散リソース市場取引プラットフォーム1は、環境価値に基づくDLMP算出、および、レジリエンス価値に基づくDLMP算出の少なくともいずれか一方を行うものとする。
環境価値に基づくDLMPが算出されることで、対象の配電系統において、環境負荷の小さい設備が導入されることを促すことができる。また、レジリエンス価値に基づいてDLMPが算出されることで、広域の停電が発生した時に、重要負荷設備に電力を供給できるよう促すことができる。
【0100】
上述の実施形態においては、分散リソース市場取引プラットフォーム1が実行する各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0101】
上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0102】
また、上述の実施形態においては、分散リソース市場取引プラットフォーム1は、内部にCPUを具備し、当該CPUがプログラムに従って上記処理を実行する態様の他、ハードウェアのみで実現することとしてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのカスタムLSIで実現することとしてもよい。
【0103】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0104】
<付記>
各実施形態に記載の分散リソース市場取引装置、分散リソース市場取引方法およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0105】
(1)第1の態様において、分散リソース市場取引プラットフォーム1(分散リソース市場取引装置)は、配電系統の結線情報、および、当該配電系統を構成する設備の仕様情報を含む配電系統情報に基づいて、配電系統モデルを作成する系統モデル作成部10と、前記配電系統に接続される分散リソースを管理する複数の市場参加者における通常時の当該分散リソースの希望運転スケジュールを含む入札情報を取得し、さらに前記市場参加者及び/又は前記市場参加者とは別の市場参加者であって前記配電系統に接続される分散リソースを管理する者における緊急対応時の分散リソースの希望運転スケジュールを含む予備力の入札情報を取得する市場取引部14と、取得された前記通常時の入札情報を前記配電系統モデルに適用して前記配電系統の時間帯別・地点別の潮流・電圧計算を行い、前記配電系統を構成する設備の制約条件を満たす前記運転スケジュールである最適運転スケジュールを導出する経済最適化系統シミュレーション部13(シミュレーション部)と、を備え、前記経済最適化系統シミュレーション部13は、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力及び/又は前記予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する。
【0106】
(2)第2の態様において、(1)の分散リソース市場取引プラットフォーム1の前記経済最適化系統シミュレーション部13は、さらに、配電系統運用者が所有する予備力に関する情報を受け付け、緊急対応時には、前記市場参加者における通常時の入札にかかる分散リソースからの電力、前記市場参加者若しくは前記市場参加者とは別の市場参加者における予備力、及び/又は前記配電系統運用者が所有する予備力を含めて前記最適運転スケジュールを導出する、
【0107】
(3)第3の態様において、(1)又は(2)の分散リソース市場取引プラットフォーム1の前記系統モデル作成部10は、前記配電系統に設置された開閉器の状態を示す情報に基づいて、緊急対応時における新たな配電系統モデルを作成し、前記経済最適化系統シミュレーション部13は、緊急対応時には、前記新たな配電系統モデルを用いて最適運転スケジュールを導出する。
【符号の説明】
【0108】
1 分散リソース市場取引プラットフォーム
10 系統モデル作成部
11 登録処理部
12 電力需給予測部
13 経済最適化系統シミュレーション部
14 市場取引部
15 通知部
2 市場参加者端末装置
3 DSOシステム
4 DERMS
5 前日市場&リアルタイム市場
6 ADMS
7 決済システム