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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055110
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】リチウム硫黄電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240411BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240411BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240411BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240411BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161750
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】横川 浩治
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
(72)【発明者】
【氏名】古西 克次
(72)【発明者】
【氏名】井谷 弘道
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB16
5H017CC01
5H017DD01
5H017EE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA08
5H050DA10
5H050EA10
5H050FA15
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA25
(57)【要約】
【課題】電池容量を高め、かつサイクル特性を改善すると共に特性バラツキを低減することができ、生産性も良好なリチウム硫黄電池用電極、及びそうした電極を備え、電池特性に優れるリチウム硫黄電池を提供すること。
【解決手段】アルミニウム集電体、及びアルミニウム集電体上に設けられた活物質を有するリチウム硫黄電池用電極であって、該活物質が、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末である、リチウム硫黄電池用電極;並びにそうしたリチウム硫黄電池用電極を備えるリチウム硫黄電池。シランカップリング剤はエポキシ基又はアミノ基を有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム集電体、及び前記アルミニウム集電体上に設けられた活物質を有するリチウム硫黄電池用電極であって、前記活物質が、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末である、リチウム硫黄電池用電極。
【請求項2】
前記シランカップリング剤がエポキシ基又はアミノ基を有する、請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極。
【請求項3】
前記アルミニウム集電体が、表面がエッチングされたアルミ箔である、請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極。
【請求項4】
導電助剤をさらに有する、請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム硫黄電池用電極を備える、リチウム硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池用の電極、及びそれを備えるリチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代電池材料の一つとして、リチウム硫黄電池が注目されている。リチウム硫黄電池は負極にリチウム又はリチウム化合物やその複合体を、正極に硫黄又は硫化物を用いる電池であり、その理論容量は極めて大である。しかも軽量で、原材料の硫黄が資源量豊富で安価であるため、一般的なリチウムイオン電池に比べて電池性能の大幅な改善が期待されている。
【0003】
リチウム硫黄電池の正極においては、一般に硫黄又は硫化物が、炭素材等の導電補助剤と共に、結着剤によってアルミニウム等の集電体上に付されている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001-520447号公報
【特許文献2】特開2012-204332号公報
【特許文献3】特開2017-216054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム硫黄電池では、上記のように極めて大きな理論容量が期待できるものの、実際の電池容量は理論値を大きく下回る場合も多い。リチウム硫黄電池にはまた、サイクル特性が低い、繰り返し寿命が短いといった課題もある。極端な場合は、充放電サイクルに伴い、正極の膨張や、それによる電池の破壊等の不具合を生じる。
【0006】
リチウム硫黄電池のサイクル特性を改善するために、特許文献2ではケッチェンブラックに硫黄ナノ粒子を内包させた正極活物質を用いている。特許文献3では、無機酸化物で被覆した炭素材料の層を、正極活物質層の表面上に形成したリチウム硫黄電池が開示されている。しかし、これらの技術では正極活物質や炭素材料層の調製に手間とコストが掛かり、生産性の点で改善の余地がある。リチウム硫黄電池の生産に関しては、正極集電体上での硫黄含有ペーストの塗工性が低いという課題もある。塗工性の低さは、生産性の低下だけでなく、正極活物質の分布斑、さらには電池特性バラツキの原因ともなり得るが、特許文献2や3記載の技術では必ずしも改善されない。正極材料についてのさらなる改善が、求められている。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決すべく、電池容量を高め、かつサイクル特性を改善すると共に特性バラツキを低減することができ、生産性も良好なリチウム硫黄電池用電極、及びそうした電極を備え、電池特性に優れるリチウム硫黄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、活物質としてシランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を用い、これをアルミニウム集電体上に設けることによって、リチウム硫黄電池の電池容量及びサイクル特性が改善される上に特性バラツキも低減され、電極の生産性も高められることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の(1)~(5)を提供する。
(1)アルミニウム集電体、及び
前記アルミニウム集電体上に設けられた活物質
を有するリチウム硫黄電池用電極であって、
前記活物質が、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末である、リチウム硫黄電池用電極。
(2)前記シランカップリング剤がエポキシ基又はアミノ基を有する、上記(1)のリチウム硫黄電池用電極。
(3)前記アルミニウム集電体が、表面がエッチングされたアルミ箔である、上記(1)又は(2)のリチウム硫黄電池用電極。
(4)導電助剤をさらに有する、上記(1)~(3)のいずれかのリチウム硫黄電池用電極。
(5)上記(1)~(4)のいずれかのリチウム硫黄電池用電極を備える、リチウム硫黄電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電池容量を高め、かつサイクル特性を改善すると共に特性バラツキを低減することができ、生産性も良好なリチウム硫黄電池用電極、及びそうした電極を備え、電池特性に優れるリチウム硫黄電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
≪リチウム硫黄電池用電極≫
本発明は第一に、アルミニウム集電体、及びアルミニウム集電体上に設けられた活物質を有するリチウム硫黄電池用電極であって、当該活物質が、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末である、リチウム硫黄電池用電極を提供する。
【0013】
リチウム硫黄電池は、上記のように負極にリチウム又はリチウム化合物(又は他材料との複合体)を、正極に硫黄又は硫化物を用いた電池である。本発明のリチウム硫黄電池用電極は、主に正極用の電極であり、活物質が、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末であることを特徴とする。
【0014】
<硫黄粉末>
本発明において活物質材料として使用する硫黄粉末は、どのようなものであってもよく、例えば市販の無機硫黄を使用することができる。S構造の硫黄、例えばα硫黄(斜方硫黄)、β硫黄(単斜硫黄)、γ硫黄(単斜硫黄)等が好ましいが、硫黄原子が数十万個以上結合した直鎖状硫黄(S)や不溶性硫黄、無定形硫黄等を用いることもできる。これら硫黄粉末の混合物であってもよい。
【0015】
硫黄粉末は、多少の有機物や無機物等の不純物を含有していてもよいが、電池材料としての用途を考慮すると、高純度であるものが好ましい。より好ましくは、純度99%以上、さらには99.5%以上、特に99.9%以上の硫黄粉末を使用する。
【0016】
無機硫黄の形状及びサイズにも制限はない。例えば球状の、中でも平均粒径が1~100μm、さらには2~70μm、特に3~50μmの硫黄粉末を使用してもよく、具体例として200メッシュ(約75μm)残分5%以下の規格の微粉硫黄等が挙げられる。また、コロイド硫黄や、平均粒径が5~200nm程度、特に10~50nm程度のナノ硫黄粒子を用いることもできる。正極の導電性と塗工性のバランスの観点からは、平均粒径が1~30μm程度、さらには2~20μm程度、特に3~10μm程度の硫黄粉末を用いることが好ましい。これらの内でも、例えば550メッシュ(約10μm)残分が0.3%以下、特に0.02~0.03%程度かそれ以下の、コロイド硫黄が好適である。
【0017】
<シランカップリング剤>
本発明のリチウム硫黄電池用電極において、活物質である硫黄粉末が、シランカップリング剤を表面に有するものであることが重要な要件である。本発明は特定の理論により限定されるものではないが、シランカップリング剤が硫黄粉末表面に存在することによって、その反応基によるカーボンとの濡れ性向上が電池容量を高め、かつ充放電サイクルに伴う電池性能の低下や電池特性のバラツキを抑制することができ、生産性も良好なリチウム硫黄電池用電極が提供されると考えられる。
【0018】
シランカップリング剤は、一つの分子中に有機物と反応又は相互作用し得る官能基と、アルコキシ基等の加水分解性基とを併せ持つ有機ケイ素化合物である。有機物と反応又は相互作用し得る官能基としては例えば、アミノ基、エポキシ基、スルフィド基、メルカプト基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、ウレイド基、イソシアネート基、p-スチリル基等が挙げられる。これらの官能基は、シランカップリング剤1分子中に1個存在することが好ましいが、2個以上存在していてもよい。特にアミノ基を有するシランカップリング剤は、複数のアミノ基を例えば末端と鎖の途中とに複数個備えた炭化水素基1又は2個が、ケイ素原子に結合した構造であってもよい。
【0019】
シランカップリング剤中の加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基がより好ましい。中でも、メトキシ基又はエトキシ基、特にエトキシ基が好ましい。エトキシ基等のアルコキシ基を1分子中に1個以上、好ましくは2個以上、特に好ましくは3個有するシランカップリング剤であれば、硫黄粉末とアルミニウム集電体との結着性が特に優れたリチウム硫黄電池用電極を得ることができる。
【0020】
上記シランカップリング剤の具体例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等のアミノ基含有シランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤;トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート基含有シランカップリング剤;3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン等のビニル基含有シランカップリング剤;(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(メチルジメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(メチルジエトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(メトキシジメチルシリル)プロピル等の(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、シランカップリング剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0021】
本発明においてシランカップリング剤は、エポキシ基、アミノ基、又はメルカプト基を有することが好ましい。これら官能基を有するシランカップリング剤が硫黄粉末表面に存在すると、硫黄粉末とアルミニウム集電体との結着性が特に優れたリチウム硫黄電池用電極を得ることができる。中でも、エポキシ基又はアミノ基、特にアミノ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0022】
上記シランカップリング剤は、硫黄粉末100質量%に対して0.1~10質量%、中でも0.5~5質量%、特に1~2質量%の量で、硫黄粉末表面に存在していることが好ましい。シランカップリング剤量が0.1質量%以上であれば硫黄粉末とアルミニウム集電体との結着力が著しく良好となり、また、シランカップリング剤量が10質量%以下であればコスト面で有利である。
【0023】
シランカップリング剤を硫黄粉末表面に付す方法には、特に制限はない。例えば、シランカップリング剤の溶液や分散液を硫黄粉末にスプレーしてもよく、液中にシランカップリング剤と硫黄粉末とを溶解又は分散させて攪拌した後、乾燥させてもよい。溶媒を使用せずに、シランカップリング剤を硫黄粉末表面に付すこともできる。例えば、乳鉢等の粉砕機中で硫黄粉末を所望の粒径のものに粉砕する際に、シランカップリング剤を共存させ、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を得ることも可能である。
【0024】
シランカップリング剤を硫黄粉末表面により均一に付与する観点からは、液中で攪拌する方法が好ましい。ここで、使用する液は水であっても、有機溶媒であっても、また、それらの混合物であってもよい。有機溶媒にも特に制限はなく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチレングリコールやセロソルブ等のエーテル類;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
好ましくは、水、エタノール、及び/又はプロパノールを使用する。これら溶媒はシランカップリング剤の溶解性又は分散性に優れる上、乾燥が容易で、人体にも安全という利点を有する。例えば水及び/又はアルコールからなる溶媒100質量部に、シランカップリング剤0.1~20質量部、特に0.5~5質量部と、硫黄粉末5~30質量部、特に10~20質量部とを加えることにより、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を得ることができる。より具体的には、0.5~5質量部のシランカップリング剤と溶媒100質量部との水溶液を、室温付近、例えば5~35℃で60~120分間攪拌して作製し、その後当該水溶液に例えば10~20質量部の硫黄粉末を加え、室温付近、例えば5~35℃で15~30分間攪拌後、乾燥、例えば70~90℃程度の温度で強制乾燥して、一晩以上放置することにより得ることができる。
【0026】
<アルミニウム集電体>
本発明のリチウム硫黄電池用電極においては、上記のようなシランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末が、活物質としてアルミニウム集電体上に設けられている。
【0027】
本発明においてアルミニウム集電体に特に制限はなく、アルミニウムの箔、板、メッシュ、パンチドメタル、ラスメタル等の公知材料を使用することができる。表面にカーボンコートが施されていてもよい。アルミニウム集電体の厚みにも特に制限はなく、目的に応じて例えば5μm~2mm程度、中でも10~500μm程度、特に30~200μm程度とすることができる。特に、こうした厚さのアルミニウム箔(アルミ箔)は、入手も容易であり、本発明において好ましく用いられる。
【0028】
本発明のリチウム硫黄電池用電極においては、アルミニウム集電体が、表面がエッチングされたアルミ箔であることが好ましい。表面エッチング処理等の凹凸加工により、活物質との結着力がさらに高まり、インピーダンス低減への効果も期待でき、電池容量を高め、かつサイクル特性を改善することが可能な硫黄電池用電極を、より容易に作製し得る。より好ましくは、エッチングにより表面粗さRaが10nm~15μm、特に50nm~2μmとなったアルミ箔を使用する。エッチング方法に特に制限はなく、酸やアルカリ等を使用する化学的エッチング、電気化学的エッチング、プラズマ等に暴露するドライエッチング等、慣用のどのような方法を使用することもできる。特に、電気化学的エッチング法が好ましい。
【0029】
<リチウム硫黄電池用電極の製造>
上記のようなアルミニウム集電体上に、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を付すことにより、本発明のリチウム硫黄電池用電極を製造することができる。ここで、アルミニウム集電体上に硫黄粉末を付与する方法に、特に制限はない。例えば、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を含有するスラリーを、アルミニウムを集電体上に塗布することによって製造することができる。このスラリー中には、導電助剤や結着剤等、硫黄粉末以外の成分を配合することが好ましい。
【0030】
(導電助剤)
本発明のリチウム硫黄電池用電極は、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末と共に導電助剤を含むことにより、導電性が向上し、電池用材料としてより優れたものとなる。導電助剤に特に制限はなく、種々の慣用のものを使用することができる。例として黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、活性炭に代表されるカーボンブラック、及び炭素繊維等の炭素材料が挙げられるが、これらに限定されない。複数種の導電助剤を併用することもできる。特に、アセチレンブラック又はケッチェンブラックが好ましい。
【0031】
硫黄粉末に対する導電助剤の含有割合に特に制限はなく、所望の電池特性に応じて任意に設定することができる。例えば、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末100質量部に対して、5~40質量部、特に25~35質量部の導電助剤を含有する電極は、リチウム硫黄電池の単位質量辺りの容量(mAh/g)、サイクル特性等の電池特性を特に良好なものとすることができる。硫黄粉末と導電助剤とは、結着剤等の他材料と混合するに先立ち、予め混合しておいてもよく、さらには両者を混合後に焼成してもよい。焼成条件は、例えばアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下、120~300℃、特に125~300℃の温度で60~600分間、特に120~480分間程度とすることができる。
【0032】
(結着剤)
結着剤(バインダー)は、活物質粒子等を集電体上につなぎ止める役割を果たす。本発明においては、硫黄粉末表面のカップリング剤が集電体へのバインダーとして機能する場合もあるが、結着性を高める観点からは、別途に結着剤を含有することが好ましい。結着剤としては、公知の電極用材料のどのようなものを使用することもできる。
【0033】
結着剤の例として、SBR、SBS、SIS、SEBS、SIBS等のスチレンブタジエン共重合体;カルボキシメチルセルロース(CMC)、酢酸セルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレンの共重合体、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。複数種の結着剤を併用することもできる。特に、SBRやSBSとのスチレン系エラストマーのラテックス、CMC等のセルロース系のエマルジョン、又はそれらの混合物が好ましい。
【0034】
硫黄粉末に対する結着剤の含有割合にも、特に制限はない。例えば、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末100質量部に対して、結着剤量が0.5~10質量部、特に2.0~5.0質量部程度であってもよい。結着剤の含有割合がこうした範囲内であれば、電極表面の導電性を殆ど損なわずに、活物質を集電体により強固に結着させることができる。
【0035】
(スラリーの調製)
上記のようなシランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を、所望により導電助剤及び/又は結着剤と共に溶媒に分散させることにより、電極塗布用のスラリーを製造することができる。ここで、溶媒に対する各成分の配合量に、特に制限はなく、使用する原材料の種類やスラリーの塗工特性に応じて任意に設定することができる。例えば、溶媒100質量部に対して、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を80~95質量部、特に90~95質量部、導電助剤を0.5~10.0質量部、中でも0.7~5.0質量部、特に1.0~2.0質量部、結着剤を1~10質量部、特に2~3質量部配合してもよい。尚、アルミニウム集電体上に設けられた活物質含有層における、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末の含有割合は、乾燥質量基準で60~80質量%、特に65~75質量%程度とすることが好ましい。
【0036】
尚、スラリーの調製に先立ち、硫黄粉末等の原材料を粉砕しておくことが好ましい。例えば乳鉢等を用いて平均粒子径1~50μm程度、さらには30μm程度以下、特に10μm程度以下にまで粉砕することにより、スラリーの均質性や塗布性を改善し、リチウム硫黄電池用電極の特性バラツキをさらに低減することができる。本発明においては、硫黄粉末は表面にシランカップリング剤を有するため、粉砕時に乳鉢や粉砕機等の容器に付着し難く、そのため製造ロスを低減することができる。シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末はまた、導電助剤との濡れ性も良く、スラリー(分散溶媒)中への混合・分散も、未処理硫黄粉末に比べてスムーズに進む傾向がある。
【0037】
(溶剤等)
電極塗布用のスラリーに使用する溶媒にも、制限はない。例として、水及び/又はアルコールの他、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の溶媒を混合して用いることもできる。また、粘度調整剤、分散剤、界面活性剤、酸化防止剤等の添加剤を、スラリー中に配合することも可能である。
【0038】
(集電体へのスラリーの付与)
上記のような電極塗布用のスラリーを、アルミニウム集電体に塗布し、乾燥することによって、本発明のリチウム硫黄電池用電極を製造することができる。塗布方法にも特に制限はなく、例えばスピンコーティング、刷毛塗り、スプレーコーティング、ディップコーティング等の公知の方法で塗布することができる。尚、これらスラリーは、アルミニウム集電体上での乾燥後の層厚が、50~120μm程度、特に80~100μm程度となる量にて付与されることが好ましい。乾燥後に、リチウム硫黄電池用電極をロールプレス等による圧延工程に付してもよい。圧延によって、電極の厚さや密度の均質性をさらに高めることができる。
【0039】
スラリー塗布後の乾燥条件にも特に制限はなく、使用した溶媒等に応じて、例えば50~150℃等の温度に2分間~24時間程度加熱する等の条件を採用することができる。より具体的には、70~140℃、特に100~120℃の温風で、2~24時間、特に10~20時間程度の時間を掛けて乾燥させてもよい。また、温風による乾燥後、減圧乾燥により例えば50~70℃、2時間~20時間程度の乾燥をさらに行うこともできる。他に、遠赤外線やマイクロ波、減圧乾燥等の手法を用いてもよい。遠赤外線又はマイクロ波の使用、さらには減圧乾燥の併用により、短時間、例えば2分間~12時間、特に1~10時間程度の乾燥時間でも、表面と内部とをほぼ均一に乾燥させ、箇所毎の乾燥状態の相違に起因する悪影響をさらに低減させることが可能となる。
【0040】
上記のようにして得られたスラリーは、活物質である硫黄粉末が表面にシランカップリング剤を有しているため、スラリー合剤(硫黄含有ペースト)作製時の分散性が改善され、容器への付着低減により作業性が良好で、材料ロスも低減され、アルミニウム集電体表面への塗工性に優れる。そのため、リチウム硫黄電池用電極を、効率よく製造することができる。また、アルミニウム集電体上での塗工斑等も生じ難いため、活物質が均等に設けられた、均質性の良好なリチウム硫黄電池用電極を得ることが容易となる。こうした本発明のリチウム硫黄電池用電極によれば、リチウム硫黄電池の電池容量を高め、サイクル特性を改善すると共に、電池特性のバラツキを低減することが可能である。
【0041】
≪リチウム硫黄電池≫
本発明はまた、上記のリチウム硫黄電池用電極を備えるリチウム硫黄電池を包含する。本発明のリチウム硫黄電池は、典型的には上記のような電極を正極とし、他に負極、電解液、及びセパレータを具備する。
【0042】
<負極材料>
本発明のリチウム硫黄電池に使用する負極材料に特に制限はなく、SiOなどのシリコン系負極、或いはリチウム(Li)元素を含む負極活物質を含有するものであれば、どのような材料を使用することもできる。例として、金属リチウム箔、Li-In合金等のリチウム合金のシート又はフィルム;リチウム化合物、炭素材、リチウムイオンやリチウム化合物を包接した炭素系の複合体等が挙げられるが、これらに限定されない。負極材料の厚さにも、特に制限はない。コスト面からは、負極材料をできるだけ薄く、例えば5μm程度以下、特に1~3μm程度とすることが好ましいが、作業性の点から、3~20μm程度、特に5~12μm程度としてもよい。
【0043】
<電解液>
本発明のリチウム硫黄電池における電解液に特に制限はなく、リチウム硫黄電池で慣用のリチウム塩を電解質として溶媒中に含有するものであれば、どのような電解液を使用することもできる。
【0044】
(電解質)
電解質としては、電池材料で慣用のリチウム塩が好適である。例として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(CSO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(SOCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ペンタフルオロエチルトリフルオロホウ酸リチウム(LiBF(C))、ジオキサレートホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸リチウム(LiPF(C)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(LiCSO)、ペルフルオロオクタンスルホン酸リチウム(LiC17SO)、テトラ[3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF-3,5])、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム(LiB(C)、テトラ[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸リチウム(LiB[C(CF)-4])、及び硝酸リチウム(LiNO)等が挙げられるが、これらに限定されない。これら塩を、複数種混合して含有していてもよい。
【0045】
(溶媒)
電解質の溶媒としても、電池材料で慣用のものを使用することができる。例として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)等の炭酸エステル(カーボネートエステル)系溶媒;1,2-ジメトキシエタン(DME)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等のグライム系溶媒;1,3-ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、クラウンエーテル等のエーテル系溶媒;ハイドロフルオロエーテル等のフッ素化溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。複数種の溶媒を、混合して使用することもできる。
【0046】
(電解液の組成)
電解液中の電解質の濃度にも特に制限はなく、使用するリチウム塩の種類や所望の電池特性に応じた任意の濃度とすることができる。しかしながら十分な電池特性を発現させる観点から、電解液中のリチウム塩の濃度は、0.1~10M(モル/L)、特に0.3~3M程度とすることが好ましい。
【0047】
本発明のリチウム硫黄電池用電解液はまた、任意成分として種々の添加剤を含有していてもよい。例えばビニル基含有化合物、γ-ブチロラクトン、エチレンスルフィド、環状スルホン酸エステル、安息香酸メチル、無水コハク酸、ポリジメチルシロキサン、AgPF、Cu(CFSO等の負極又は正極保護膜形成剤;2,4-ジフロロアニソール等の過充電防止剤;リン酸エステル、フォスファゼン類、イミダゾール塩等の難燃性付与剤等を、0.01~5質量%程度、特に0.1~1質量%程度含有させることができる。
【0048】
<セパレータ>
本発明のリチウム硫黄電池におけるセパレータとしては、各種二次電池で慣用の種々のセパレータを使用することができる。例として、多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、多孔性ポリイミドフィルム等の多孔性プラスチックフィルム;ガラス繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等からなる不織布;多孔質セラミックス等が挙げられるが、これらに限定されない。前記の電解液をポリエチレンオキシド等のポリマー成形体中に含浸させ、セパレータ兼用の固体(ゲル状)電解質として用いることもできる。セパレータ表面に、MOF(金属多孔性結晶)等の塗布膜を付してもよい。ここで、MOFとは、金属イオンと有機配位子が配位結合形成を介して秩序だって整列し、三次元骨格構造を形成した高分子錯体である。MOFを含有する膜をセパレータ表面に付すことにより、リチウム硫黄電池に使用する多硫化物の量を、減じることも容易となる。
【0049】
<電池特性>
上記のような部材を備える本発明のリチウム硫黄電池は、電池容量が高く、サイクル特性にも優れ、特性バラツキが小さい上、充放電サイクルに伴う正極の膨張や、それによる電池の破壊等を来すおそれも低減されている。そのため、パソコンや携帯電話、ビデオカメラ等の携帯型電子機器、血圧測定器や電動歯ブラシ等の医療用具、小型化に拠るセンサー等のIoT関連部品、電気自動車やハイブリッド自動車、ドローン等の電動車両等の用途に好適である。
【実施例0050】
以下、本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
本発明に従うリチウム硫黄電池用電極を下記のようにして調製し、これを正極としてリチウム硫黄電池を作製した。この電池について、電位窓1.0~3.0V、0.2Cにて充放電を行い、北斗電工株式会社製の充放電装置HJシリーズを用いて電池特性を測定した。
【0052】
(正極の調製)
平均粒径25μmのコロイド硫黄粉末(製造元:細井化学工業株式会社製)20質量部と、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製のKBE-903)2質量部とを、精製水100mlに分散させ、15分間攪拌した。ナイロンメッシュを用いた濾過により固形分を取り出した後、80℃で120分間乾燥させ、さらに乳鉢で粉砕して、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を調製した。
【0053】
SBRラテックス(固形分濃度約50質量%)4質量部に、カルボキシメチルセルロース3質量部、上記で調製した硫黄粉末71質量部、及びケッチェンブラック24質量部を添加し、倉敷紡績株式会社製の攪拌・脱泡装置マゼルスター(登録商標)で約計8分間攪拌してスラリーを調製した。尚、硫黄粉末は、スラリー中に極めてスムーズに分散し、シランカップリング剤処理によって表面状態が変化したことが示唆される。得られたスラリーを、塗工機でドクターブレードにより厚さ200μmでコーティングした。表面粗さ(Ra)50nm程のアルミ箔に塗布し、105℃で20時間乾燥させて、正極を作製した。
【0054】
上記で得られた正極と、下記の負極、電解液、及びセパレータを用いて、リチウム硫黄電池を作製した。
・負極:金属リチウム箔(Li金属部厚さ6μm~10μm)
・電解液:LiTFSA、ベンゾ-12-クラウン-4-エーテル、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、DME(ジメトキシエタン)を1:1:4:1で配合するイオン液体
・セパレータ:ポリプロピレン製不織布(厚さ20μm)
電池特性の評価結果を、正極作製に用いたシランカップリング剤と共に、後記する表1に示す。
【0055】
[実施例2、比較例1]
使用するシランカップリング剤の種類を下記のものに変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
・実施例2:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製のKBE-403)
・比較例1:なし(シランカップリング剤不使用)
シランカップリング剤不使用の比較例1では、硫黄粉末粉砕時に粉末が乳鉢に貼り付き易く、実施例1及び2における硫黄粉末に比べて製造ロスが多く発生した。比較例1における硫黄粉末はまた、スラリー中への混合・分散や、アルミ箔集電体への塗工性の点でも、実施例1及び2における硫黄粉末に比べて難があった。電池特性の評価結果を、正極作製に用いたシランカップリング剤と共に、表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
正極活物質の硫黄粉末が、表面にシランカップリング剤を有する実施例1及び2のリチウム硫黄電池では、シランカップリング剤不含の硫黄粉末を正極活物質とする比較例1のリチウムイオン電池に比べ、電池容量、特に電池特性の一般的な指標である放電容量が概して大であった。特に、実施例2のリチウム硫黄電池では、30サイクル目の電池容量が比較例1のリチウム硫黄電池に比べて大であった。シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を正極活物質とする本発明のリチウム硫黄電池用電極により、電池特性が改善されることが示された。
【0058】
[実施例3]
シランカップリング剤としてメタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製のKBE-503)を使用し、実施例1と同様にしてリチウム硫黄電池を作製した。ここで得られた硫黄粉末は、比較例1における未処理硫黄粉末に比べ、導電助剤に対する濡れ性やスラリー中での分散性が改善され、集電体上でのスラリーの塗工性も良好であった。しかし、本実施例での初期電池容量は、放電時840mAh/g、充電時760mAh/gと、実施例1や2のリチウム硫黄電池に比べて低い値であった。また当該KBE-503シランカップリング剤を有する硫黄の乾燥処理では、他のアミノ基及びエポキシ基有するものより残水分の揮発に総じて時間を要した。よってシランカップリング剤としては、アミノ基又はエポキシ基を有するものが好ましいことが示された。
【0059】
[実施例4]
実施例2と同一構造のリチウム硫黄電池を3体作製し、実施例1及び2と同様の条件で、充放電を40サイクルまで行った。試験はn=3にて行い、試験による測定結果のバラツキについても評価した。各サイクルにおける充放電容量の評価結果を、後記する表2に示す。
【0060】
[比較例2]
比較例1で作製した電池について、実施例4と同じ評価を行った。結果を表2に示す。尚、表2中の括弧内の数値は、n=3測定値の標準偏差の3倍(3σ)の値であり、値が小さいほど試験体毎の電池容量のバラツキが小さいことを示す。
【0061】
【表2】
【0062】
本発明に従い、正極活物質の硫黄粉末が表面にシランカップリング剤を有する実施例4のリチウム硫黄電池は、シランカップリング剤不含の比較例2のリチウム硫黄電池に比べ、概ね大きな電池容量を発現した。また、実施例4における3σの値は、特にサイクル数30~40回目において、比較例2に比べて著しく小であった。本発明に従い、シランカップリング剤を表面に有する硫黄粉末を活物質とすることにより、試験体毎の電池特性のバラツキが低減されること、すなわち優れた電池特性を安定して発現できるリチウム硫黄電池が得られることが明らかとなった。