(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055118
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 201G
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161773
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 亜友美
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AF06
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE23
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
5E082GG11
(57)【要約】
【課題】 内部電極層と外部電極との接合性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、同じ外部電極に接続される内部電極層が、異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンにおいて、内部電極層の間を埋めるように誘電体パターンが形成され、前記複数の内部電極層には、前記複数の内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素が1種類以上含まれており、前記添加金属元素の濃度は、前記誘電体パターンよりも前記誘電体層において高いことを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、
前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、
同じ外部電極に接続される内部電極層が、異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンにおいて、内部電極層の間を埋めるように誘電体パターンが形成され、
前記複数の内部電極層には、前記複数の内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素が1種類以上含まれており、
前記添加金属元素の濃度は、前記誘電体パターンよりも前記誘電体層において高いことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
異なる外部電極に接続される内部電極層が対向する容量部における内部電極層の前記添加金属元素の濃度は、前記エンドマージンにおける内部電極層の前記添加金属元素の濃度の1.1倍を上回ることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記添加金属元素は、As、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mg、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Y、Znのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記内部電極層は、前記誘電体層との界面に、前記添加金属元素の偏析層を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記複数の内部電極層の主成分は、NiまたはCuであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック子部品。
【請求項6】
前記複数の内部電極層は、主成分金属に対して、0.01at%以上5at%以下の前記添加金属元素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記外部電極は、Niを主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記複数の誘電体層は、0.01at%以上1at%以下の前記添加金属元素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素とは、異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素との間の電気陰性度の差は、±0.4以内であることを特徴とする請求項9に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素との組み合わせは、SnとCu、SnとZn、FeとAl、またはFeとCrであることを特徴とする請求項9に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
前記複数の誘電体層と前記複数の内部電極層とが積層された積層構造の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に設けられ、セラミックを主成分とするカバー層を備え、
前記カバー層において、前記複数の内部電極層の主成分金属の濃度が、1at%以上2at%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記複数の部位とは、前記積層チップの2端面のことであり、
前記複数の内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージンにおいて、前記複数の内部電極層の主成分金属の濃度が、1at%以上2at%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、
前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、
前記複数の内部電極層は、主成分金属とは異なる添加金属元素を1種類以上含み、
前記複数の内部電極層における前記添加金属元素の濃度は、同じ外部電極に接続される内部電極層が異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンよりも、異なる外部電極に接続される内部電極層が対向する容量部の方が高いことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項15】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、
前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、
同じ外部電極に接続される内部電極層が、異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンにおいて、内部電極層の間を埋めるように誘電体パターンが形成され、
前記複数の内部電極層には、前記複数の内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素が1種類以上含まれており、
前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素とは、異なり、電気陰性度の差が±0.4以内であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項16】
前記添加金属元素の濃度は、前記誘電体パターンよりも前記誘電体層において高いことを特徴とする請求項15に記載のセラミック電子部品。
【請求項17】
セラミック粉末を含む誘電体グリーンシート上に、主成分金属の粉末および添加金属元素の粉末を含む内部電極パターンと、前記内部電極パターンの周りに配置されセラミック粉末を含む誘電体パターンと、が形成された積層単位が複数積層された積層体を準備する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
焼成前の前記積層体において、前記誘電体グリーンシートにおける前記添加金属元素の濃度を、前記誘電体パターンにおける前記添加金属元素の濃度よりも高くしておくことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムにおいて、更なる機能性付与のために小型大容量の積層セラミックコンデンサが求められている。小型・大容量化のためには誘電体層および内部電極層を薄層化し、積層数を増すことが有効である。しかしながら、誘電体を薄層化すると、コンデンサ使用時の電界強度が低下し、絶縁信頼性の面で不利となってしまう。そこで、薄い誘電体層での絶縁信頼性を担保するための方策として、誘電体層や内部電極層中に添加金属元素を添加し、内部電極層と誘電体層との間に添加金属元素の薄層を形成させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内部電極層に添加金属元素を添加することで、内部電極層と誘電体層との間に電気的障壁が形成され、絶縁信頼性が確保される。しかしながら、内部電極層の引き出し部に添加金属元素が存在すると、内部電極層と外部電極との間の接合性が悪化し、十分な電気特性が得られないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、内部電極層と外部電極との接合性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、同じ外部電極に接続される内部電極層が、異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンにおいて、内部電極層の間を埋めるように誘電体パターンが形成され、前記複数の内部電極層には、前記複数の内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素が1種類以上含まれており、前記添加金属元素の濃度は、前記誘電体パターンよりも前記誘電体層において高いことを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品において、異なる外部電極に接続される内部電極層が対向する容量部における内部電極層の前記添加金属元素の濃度は、前記エンドマージンにおける内部電極層の前記添加金属元素の濃度の1.1倍を上回っていてもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属元素は、As、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mg、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Y、Znのいずれか1種以上であってもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層は、前記誘電体層との界面に、前記添加金属元素の偏析層を備えていてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記複数の内部電極層の主成分は、NiまたはCuであってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記複数の内部電極層は、主成分金属に対して、0.01at%以上5at%以下の前記添加金属元素を含んでいてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記外部電極は、Niを主成分としてもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記複数の誘電体層は、0.01at%以上1at%以下の前記添加金属元素を含んでいてもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素とは、異なっていてもよい。
【0015】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素との間の電気陰性度の差は、±0.4以内であってもよい。
【0016】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素との組み合わせは、SnとCu、SnとZn、FeとAl、またはFeとCrであってもよい。
【0017】
上記セラミック電子部品は、前記複数の誘電体層と前記複数の内部電極層とが積層された積層構造の積層方向の上面および下面の少なくともいずれか一方に設けられ、セラミックを主成分とするカバー層を備え、前記カバー層において、前記複数の内部電極層の主成分金属の濃度が、1at%以上2at%以下であってもよい。
【0018】
上記セラミック電子部品において、前記複数の部位とは、前記積層チップの2端面のことであり、前記複数の内部電極層が前記2端面以外の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージンにおいて、前記複数の内部電極層の主成分金属の濃度が、1at%以上2at%以下であってもよい。
【0019】
本発明に係る他のセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、前記複数の内部電極層は、主成分金属とは異なる添加金属元素を1種類以上含み、前記複数の内部電極層における前記添加金属元素の濃度は、同じ外部電極に接続される内部電極層が異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンよりも、異なる外部電極に接続される内部電極層が対向する容量部の方が高いことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る他のセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、前記複数の内部電極層が複数の部位に交互に露出するように形成された積層チップと、前記複数の部位のそれぞれに設けられた外部電極と、を備え、同じ外部電極に接続される内部電極層が、異なる外部電極に接続される内部電極層を介さずに対向するエンドマージンにおいて、内部電極層の間を埋めるように誘電体パターンが形成され、前記複数の内部電極層には、前記複数の内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素が1種類以上含まれており、前記誘電体層に含まれる前記添加金属元素と、前記誘電体パターンに含まれる前記添加金属元素とは、異なり、電気陰性度の差が±0.4以内であることを特徴とする。
【0021】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属元素の濃度は、前記誘電体パターンよりも前記誘電体層において高くてもよい。
【0022】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミック粉末を含む誘電体グリーンシート上に、主成分金属の粉末および添加金属元素の粉末を含む内部電極パターンと、前記内部電極パターンの周りに配置されセラミック粉末を含む誘電体パターンと、が形成された積層単位が複数積層された積層体を準備する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、焼成前の前記積層体において、前記誘電体グリーンシートにおける前記添加金属元素の濃度を、前記誘電体パターンにおける前記添加金属元素の濃度よりも高くしておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、内部電極層と外部電極との接合性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)はエンドマージンの断面の拡大図である。
【
図5】内部電極層と誘電体層との境界近傍の詳細を説明するための図である。
【
図6】内部電極層の第1領域および第2領域を例示する図である。
【
図8】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図9】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0026】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の積層方向の上面および下面以外の4面を側面と称する。上記2端面は、この4側面に含まれる。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面と、下面と、2端面以外の2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0027】
なお、
図1~
図3において、X軸方向は、積層チップ10の長さ方向であって、積層チップ10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向は、内部電極層の幅方向であり、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。Z軸方向は、積層方向であり、積層チップ10の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0028】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じであっても構わない。
【0029】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0030】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),MgTiO3(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3は、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0031】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、または、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)もしくはSi(ケイ素)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0032】
内部電極層12の主成分は、特に限定されるものではないが、Ni、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属である。内部電極層12の主成分として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0033】
内部電極層12は、主成分金属に加え、添加金属元素を含んでいる。添加金属元素は、特に限定されるものではないが、内部電極層12の主成分金属よりも貴な金属であることが好ましい。添加金属元素は、例えば、Au、Sn、Cr、Fe(鉄)、Y、In(インジウム)、As(砒素)、Co、Cu、Ir(イリジウム)、Mg、Os(オスミウム)、Pd、Pt、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Se(セレン)、Te(テルル)、W、Zn(亜鉛)から選択された1種または2種以上である。
【0034】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0035】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0036】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0037】
図4(a)は、サイドマージン16の断面の拡大図である。
図4(a)ではハッチを省略してある。サイドマージン16は、誘電体層11と誘電体パターン層17とが、容量部14における誘電体層11と内部電極層12との積層方向において交互に積層された構造を有する。容量部14の各誘電体層11とサイドマージン16の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量部14とサイドマージン16との段差が抑制される。
【0038】
図4(b)は、エンドマージン15の断面の拡大図である。
図4(b)ではハッチを省略してある。サイドマージン16との比較において、エンドマージン15では、積層される複数の内部電極層12のうち、1つおきにエンドマージン15の端面まで内部電極層12が延在する。また、内部電極層12がエンドマージン15の端面まで延在する層では、誘電体パターン層17が積層されていない。容量部14の各誘電体層11とエンドマージン15の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量部14とエンドマージン15との段差が抑制される。
【0039】
このような積層セラミックコンデンサでは、小型大容量化のため、誘電体層の薄層化、内部電極層の薄層化、高積層化が要求されている。しかしながら、誘電体層の薄層化は、電界強度の増加を伴うため、寿命の確保がより難しくなる。希土類酸化物等の微量添加物をチタン酸バリウム等の誘電体材料に固溶させるなどの誘電体材料設計による検討に加え、近年では、内部電極層中に異種金属元素を添加金属元素として添加し、誘電体層と内部電極層との界面設計による検討が報告されている。誘電体層と内部電極層との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成することで、電気的障壁が強化され、寿命が改善されるものと考えられている。
【0040】
内部電極層12において、添加金属元素が誘電体層11と内部電極層12との界面付近に多く存在していることが好ましい。
図5は、この場合の内部電極層12と誘電体層11との境界近傍の詳細を説明するための図である。例えば、
図5で例示するように、内部電極層12は、主成分金属層121が、偏析層122によって覆われた構造を有する。例えば、主成分金属層121の一方の主面(
図5では上側の主面)である第1主面上に偏析層122が形成されている。また、主成分金属層121の他方の主面(
図5では下側の主面)である第2主面下にも偏析層122が形成されている。なお、偏析層122は、必ずしも主成分金属層121の第1主面および第2主面の全体を覆っていなくてもよく、主成分金属層121の第1主面および第2主面を部分的に覆っていてもよい。
【0041】
偏析層122は、添加金属元素が偏析する層である。なお、主成分金属層121および偏析層122の各層において、単一の金属だけが存在するわけではなく、各金属が各層に部分的に拡散している。主成分金属層121において、主成分金属は、例えば98at%以上含まれている。主成分金属層121は、偏析層122に含まれる添加金属元素を含んでいてもよい。偏析層122は、主成分金属層121の主成分金属を含んでいてもよい。
【0042】
例えば、積層方向にライン分析を行なうことによって、内部電極層12に偏析層122が形成されていることを確認することができる。例えば、積層方向に沿った断面のTEM(透過型電子顕微鏡)分析において、誘電体層11と内部電極層12との積層方向に沿って各サンプル点について各成分元素濃度をライン分析した場合に、主成分金属層121の界面から誘電体層11の界面までの間に添加金属元素の濃度にピークが現れることを確認することができれば、偏析層122が形成されていることを確かめることができる。なお、ノイズを減らすために、ライン分析の際に9点ほどで平均化することで、測定結果を平滑化してもよい。
【0043】
例えば、偏析層122の厚みは、0.5nm以上2.8nm以下であり、0.5nm以上2.0nm以下であり、0.5nm以上1.3nm以下である。なお、偏析層122の厚みは、上記ライン分析で得られた添加金属元素の濃度ピークにおいて、その半値幅で規定される。
【0044】
このように、内部電極層12が誘電体層11との界面に偏析層122を有することで、内部電極層12と誘電体層11との電気的障壁が強化され、積層セラミックコンデンサ100の寿命が改善する。
【0045】
しかしながら、エンドマージンにおいて内部電極層に添加金属元素が存在することにより、熱伝導率に差が生じ、内部電極層および外部電極のそれぞれが焼結収縮する際の温度が異なることで内部電極層と外部電極との間にギャップが生じるなどの理由により内部電極層と外部電極との接合性が悪化し、十分な電気特性が得られないおそれがある。
【0046】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、内部電極層12と外部電極20a,20bとの接合性を向上させることができる構成を有している。
【0047】
まず、内部電極層12において、
図6で例示するように、
図2の容量部14の範囲内の領域を第1領域31と称し、
図2のエンドマージン15の範囲内の領域を第2領域32と称する。第1領域31よりも、第2領域32において、添加金属元素の濃度が低くなっている。この構成により、エンドマージン15においては、添加金属元素の量が少ないことで、内部電極層12と外部電極20a,20bとの接合性が向上する。一方で、容量部14では添加金属元素を含む偏析層122が十分に形成され、内部電極層12と誘電体層11との電気的障壁が十分に形成される。なお、添加金属元素の濃度とは、内部電極層12の主成分金属を100at%とした場合の、添加金属元素のat%のことである。
【0048】
添加金属元素の濃度の測定手法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手法が挙げられる。具体的には、積層セラミックコンデンサ100をサイドマージン16の側から研磨し、Y軸方向の中央におけるXZ断面を露出させる。このXZ断面における内部電極層12において、SEM(走査電子顕微鏡)、TEM(透過電子顕微鏡)、STEM(走査透過電子顕微鏡)を用いたEDS(エネルギー分散型X線分析)、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)、LA-ICP-MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法)などを用い、内部電極層12の主成分金属の原子数と添加金属元素の原子数とを測定することで、添加金属元素の濃度を測定することができる。
【0049】
内部電極層12の全体において、添加金属元素の濃度が低いと、第1領域31において添加金属元素の偏析層122が十分に形成されないおそれがある。そこで、内部電極層12の全体における添加金属元素の濃度に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、内部電極層12の全体における添加金属元素の濃度は、0.01at%以上であることが好ましく、0.05at%以上であることがより好ましく、0.1at%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
一方で、内部電極層12の全体において、添加金属元素の濃度が高いと、第1領域31と第2領域32との濃度差による接続性改善の効果が十分に働かず、内部電極層と外部電極との間に接触不良が生じるおそれがある。そこで、内部電極層12の全体における添加金属元素の濃度に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、内部電極層12の全体における添加金属元素の濃度は、5at%以下であることが好ましく、3at%以下であることがより好ましく、1at%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
第1領域31における添加金属元素の濃度を十分に大きくし、第2領域32における添加金属元素の濃度を十分に小さくする観点から、濃度比に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、第1領域31における添加金属元素の濃度と、第2領域32における添加金属元素の濃度との比に下限を設けることが好ましい。具体的には、まず、Y軸方向の中央におけるXZ断面において特定の内部電極層12に着目する。
図7で例示するように、X軸方向において、X軸方向の中央領域αにおける添加金属元素の濃度(高濃度)と、当該内部電極層12の外部電極に接続される端から5μmから10μmまでの領域βの添加金属元素の濃度(低濃度)と、を測定する。たとえば、中央領域αにおける3点の濃度の平均値を高濃度とし、領域βの3点の濃度の平均値を低濃度とする。この場合の濃度比R=高濃度/低濃度が、1.1を上回ることが好ましく、1.4以上であることが好ましく、1.6以上であることがさらに好ましい。
【0052】
1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.3μm以上10μm以下であり、または0.4μm以上8μm以下であり、または0.5μm以上5μm以下であり、より好ましくは、0.3μm以上3μm以下が良い。一般に、誘電体層11が薄くなる方が、内部電極層12に添加した添加金属元素の拡散による影響や、内部電極層12の局所酸化による影響を受けやすいため、電気特性の変動が起こりやすい。本実施形態においても、誘電体層11の薄層化に伴い、より大きな作用効果の発現が期待される。1層あたりの誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の例えば
図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0053】
1層あたりの内部電極層12の厚みは、例えば、0.1μm以上2μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下であり、または0.3μm以上0.8μm以下である。内部電極層12が薄くなるほど、表面比率の増大から、局所酸化が起こりやすくなるため、本実施形態において、より大きな作用効果の発現が期待される。しかしながら、内部電極層12の厚みが0.05μm未満になると、内部電極層12の厚みに対して、偏析層122の厚み比率が高くなりすぎ、ESR(等価直列抵抗)の増加、内電酸化、内電焼結性の影響が無視できなくなるおそれがある。1層あたりの内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の例えば
図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0054】
添加金属元素は、1種類であってもよいが、2種類以上であってもよい。例えば、添加金属元素が、少なくとも第1添加金属元素および第2添加金属元素の2種類を含んでいてもよい。添加金属元素が2種類以上である場合、内部電極層12における添加金属元素の濃度は、2種類以上の添加金属元素の合計の濃度のことである。
【0055】
続いて、内部電極層12の偏析層122を形成する添加金属元素について、誘電体層11および誘電体パターン層17における濃度について説明する。本実施形態においては、誘電体層11および誘電体パターン層17も添加金属元素を含んでいる。誘電体層11における添加金属元素の濃度が、誘電体パターン層17における添加金属元素の濃度よりも高くなっている。したがって、容量部14の誘電体部分における添加金属元素の濃度が、エンドマージン15の誘電体部分における添加金属元素の濃度よりも高くなっている。
【0056】
この構成によれば、焼成する過程で、内部電極層12から誘電体層11への添加金属元素の拡散よりも、内部電極層12から誘電体パターン層17への添加金属元素の拡散の方が早くなる。それは、誘電体層11よりも誘電体パターン層17の方が添加金属元素の濃度を低く設定しているため、その濃度の高い容量部14に配置されている内部電極層12から濃度の低い誘電体パターン層17へ拡散しやすくなる。それにより、誘電体層11へ添加金属元素の拡散量を抑えられ、特性劣化を防ぐことができる。その結果、内部電極層12と外部電極20a,20bとの接合性が向上する。なお、誘電体層11および誘電体パターン層17における添加金属元素の濃度は、主成分セラミックのBサイト元素を100at%とする場合の添加金属元素のat%のように定義することができる。
【0057】
容量部14の誘電体層11における添加金属元素の濃度が低いと、内部電極層12から誘電体層11への添加金属元素の拡散が促進されるおそれがある。そこで、容量部14の誘電体層11における添加金属元素の濃度に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、容量部14の誘電体層11における添加金属元素の濃度は、0.01at%以上であることが好ましく、0.2at%以上であることがより好ましく、0.5at%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
一方で、容量部14の誘電体層11における添加金属元素の濃度が高いと、添加元素が主剤であるBaTiO3に固溶し、誘電特性を大きく変化させてしまうおそれがある。そこで、容量部14の誘電体層11における添加金属元素の濃度に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、容量部14の誘電体層11における添加金属元素の濃度は、1at%以下であることが好ましく、0.7at%以下であることがより好ましく、0.5at%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
なお、誘電体層11および誘電体パターン層17が添加金属元素を含む場合、誘電体層11および誘電体パターン層17は、内部電極層12の添加金属元素と同じ種類の添加金属元素を含んでいることが好ましい。例えば、内部電極層12がAuを添加金属元素として含む場合、誘電体層11および誘電体パターン層17もAuを添加金属元素として含むことが好ましい。また、内部電極層12がAuおよびSnを添加金属元素として含む場合、誘電体層11および誘電体パターン層17もAuおよびSnを添加金属元素として含むことが好ましい。
【0060】
誘電体パターン層17に含まれる添加金属元素は、誘電体層11に含まれる添加金属元素と異なっていてもよい。この場合、エンドマージン15においては誘電体パターン層17に含まれる添加金属元素の偏析層122が形成され、容量部14においては誘電体層11に含まれる添加金属元素の偏析層122が形成される。例えば、容量部14の誘電体層11が含む添加金属元素と、エンドマージン15の誘電体パターン層17が含む添加金属元素との間の電気陰性度の差が±0.4以内であることで、当該2種の添加金属元素が合金化しやすいことが好ましい。例えば、以下の組み合わせは電気陰性度の差が0.4以下であり好ましい。Sn-Cuが0.06、Sn-Znが0.31、Fe-Alが0.22、Fe-Crが0.17であることが好ましい。例えば、容量部14の誘電体層11が添加金属元素としてSnを含み、エンドマージン15の誘電体パターン層17が添加金属元素としてCuを含んでいてもよい。合金化しやすい2種の添加金属元素を用いることで、当該2種の添加金属元素を拡散しやすくできる。
【0061】
なお、カバー層13は、内部電極層12の主成分金属を1at%以上2at%以下含むことが好ましい。例えば、内部電極層12の主成分金属がNiであれば、カバー層13は、1at%以上2at%以下のNiを含むことが好ましい。この場合、カバー層13が緻密化されるため、クラックや欠けの発生を抑制できる。また、サイドマージン16は、内部電極層12の主成分金属を1at%以上2at%以下含むことが好ましい。例えば、内部電極層12の主成分金属がNiであれば、サイドマージン16は、1at%以上2at%以下のNiを含むことが好ましい。
【0062】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図8は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0063】
(誘電体材料作製工程)
誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の誘電体粉末の合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0064】
得られた誘電体粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mo、Nb、Ta、W、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)の酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。これらのうち、主としてSiO2が焼結助剤として機能する。
【0065】
また、誘電体粉末に、内部電極層12の添加金属元素を添加する。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0066】
(誘電体パターン材料作製工程)
誘電体材料作製工程と同様の手順により、誘電体粉末を作製する。次に、誘電体粉末に、内部電極層12の添加金属元素を添加する。以上の工程により、誘電体パターン材料が得られる。ただし、誘電体材料における添加金属元素の濃度よりも、誘電体パターン材料における添加金属元素の濃度を低くする。
【0067】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0068】
次に、
図9(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の内部電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加してもよい。各内部電極パターン52に、添加金属元素を有する有機金属錯体溶液や、当該添加金属元素を有する微粉末を添加する。添加金属元素は、単金属、合金、酸化物などの形態を有していてもよい。また、添加金属元素の導入方法として、内部電極パターン52の主成分金属の表面に添加金属元素がコートされたものを用いてもよい。添加金属元素として、Au、Sn、Cr、Fe、Y、In、As、Co、Cu、Ir、Mg、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Te、W、Zn、Ag、Mo、Geから選択された1種または2種以上を添加する。
【0069】
次に、誘電体パターン材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。
図9(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51上において、内部電極パターン52が印刷されていない周辺領域に、得られたスラリを印刷することで誘電体パターン53を配置し、内部電極パターン52との段差を埋める。内部電極パターン52および誘電体パターン53が印刷された誘電体グリーンシート51を積層単位と称する。
【0070】
その後、
図9(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、積層単位を積層していく。
【0071】
次に、
図10で例示するように、積層された誘電体グリーンシート51の上にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層し、積層された誘電体グリーンシート51の下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層し、熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート51と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。その後に、外部電極20a,20bとなる金属導電ペーストを、カットした積層体の両側面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、セラミック積層体が得られる。なお、所定数のカバーシート54を積層して圧着してから、積層された誘電体グリーンシート51の上下に貼り付けてもよい。
【0072】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0073】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0074】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0075】
本実施形態に係る製造方法によれば、誘電体グリーンシート51における添加金属元素の濃度が誘電体パターン53における添加金属元素の濃度よりも高いことから、容量部14では内部電極層12から誘電体層11への添加金属元素の拡散が抑制される。それにより、
図6の第1領域31よりも、第2領域32において、添加金属元素の濃度が低くなる。この構成により、容量部14では添加金属元素を含む偏析層122が十分に形成され、内部電極層12と誘電体層11との電気的障壁が十分に形成される。一方で、エンドマージン15においては、添加金属元素の量が少ないことで、内部電極層12と外部電極20a,20bとの接合性が向上する。
【0076】
なお、誘電体グリーンシート51および誘電体パターン53は、内部電極層12の添加金属元素と同じ種類の添加金属元素を含んでいることが好ましい。誘電体パターン53に含まれる添加金属元素は、誘電体グリーンシート51に含まれる添加金属元素と異なっていてもよい。この場合、エンドマージン15においては誘電体パターン層17に含まれる添加金属元素の偏析層122が形成され、容量部14においては誘電体層11に含まれる添加金属元素の偏析層122が形成される。
【0077】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0078】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0079】
(実施例1)
実施例1では、添加金属元素としてAuと用いた。誘電体グリーンシートにおける添加金属元素の濃度を1at%とし、当該誘電体グリーンシートの上に、1at%の添加金属元素を含むNiペーストを内部電極パターンとして印刷し、Niペーストの周囲に添加金属元素を0.5at%以上含む誘電体パターンを印刷することで積層単位を得た。誘電体グリーンシートおよび誘電体パターンの主成分セラミックをチタン酸バリウムとした。得られた複数の積層単位を積層し、カットし、成型体を得た。積層数は500層とした。得られた成型体の2端面にNiペーストを塗布して焼成した。得られた積層セラミックコンデンサの形状は、1005形状(長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mm)とした。誘電体層の厚みは、0.6μmであった。
【0080】
(実施例2)
実施例2では、内部電極パターンにおける添加金属元素の濃度を5at%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じとした。
【0081】
(実施例3)
実施例3では、内部電極パターンにおける添加金属元素の濃度を5at%とした。誘電体パターンにおける添加金属元素の濃度を0at%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じとした。
【0082】
(実施例4)
実施例4では、Auの代わりにSnを添加金属元素として用いた。それ以外の条件は、実施例1と同じとした。
【0083】
(実施例5)
実施例5では、Auの代わりにSnを添加金属元素として用いた。それ以外の条件は、実施例2と同じとした。
【0084】
(実施例6)
実施例6では、Auの代わりにSnを添加金属元素として用いた。それ以外の条件は、実施例3と同じとした。
【0085】
(比較例1)
比較例1では、添加金属元素を用いなかった。したがって、誘電体グリーンシートにおける添加金属元素の濃度を0at%とし、内部電極パターンにおける添加金属元素の濃度を0at%とし、誘電体パターンにおける添加金属元素の濃度を0at%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じとした。
【0086】
(比較例2)
比較例2では、添加金属元素としてAuを用いた。誘電体グリーンシートにおける添加金属元素の濃度を0at%とし、内部電極パターンにおける添加金属元素の濃度を1at%とし、誘電体パターンにおける添加金属元素の濃度を0at%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じとした。
【0087】
(比較例3)
比較例3では、添加金属元素としてAuを用いた。誘電体グリーンシートにおける添加金属元素の濃度を1at%とし、内部電極パターンにおける添加金属元素の濃度を1at%とし、誘電体パターンにおける添加金属元素の濃度を1at%とした。それ以外の条件は、実施例1と同じとした。
【0088】
実施例1~3について、容量部における内部電極層と誘電体層との界面近傍を分析したところ、Auの偏析層が確認された。実施例4~6について、容量部における内部電極層と誘電体層との界面近傍を分析したところ、Snの偏析層が確認された。
【0089】
実施例1~6および比較例1~3の積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、添加金属元素の濃度比Rを測定した。測定には、SEM-EDSを用いた。濃度比Rは、実施例1では1.7であり、実施例2では1.2であり、実施例3では1.6であり、実施例4では1.9であり、実施例5では1.5であり、実施例6では1.8であり、比較例2では1.0であり、比較例3では1.0であった。なお、比較例1では添加金属元素を添加しなかったため、濃度比Rは測定できなかった。
【0090】
次に、実施例1~6および比較例1~3の積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、静電容量試験を行なった。静電容量試験では、試料を150℃に1時間放置し、標準状態に24時間放置した後、0.5V-1kHzの条件下でLCRメータを用いて静電容量を測定した。静電容量は、実施例1では22μFであり、実施例2では20μFであり、実施例3では22μFであり、実施例4では22μFであり、実施例5では21μFであり、実施例6では22μFであり、比較例1では22μFであり、比較例2では15μFであり、比較例3では15μFであった。測定された静電容量が20μF以上の場合を良好と判定し、20μF未満の場合を不良と判定した。内部電極層と外部電極との接合性が良好であれば、静電容量が高くなるものと考えられる。実施例1~6および比較例1では静電容量が良好と判定され、比較例2,3では静電容量が不良と判定された。
【0091】
次に、実施例1~6および比較例1~3の積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、信頼性試験を実施した。信頼性試験では、85℃下において6.3Vの電圧を1000時間および2000時間印加した後に室温で24時間放置し、その後に絶縁抵抗を評価した。絶縁抵抗値が10MΩ未満のものを故障とみなした。1000時間経過しても故障が起こらなかった場合を良好「〇」と判定し、2000時間経過しても故障が起こらなかった場合を非常に良好「◎」と判定し、1000時間未満で故障した場合を不良「×」と判定した。信頼性試験は、実施例1では良好「〇」と判定され、実施例2では非常に良好「◎」と判定され、実施例3では非常に良好「◎」と判定され、実施例4では良好「〇」と判定され、実施例5では非常に良好「◎」と判定され、実施例6では非常に良好「◎」と判定され、比較例1では不良「×」と判定され、比較例2では不良「×」と判定され、比較例3では良好「〇」と判定された。
【0092】
信頼性試験および静電容量試験のいずれにおいても不良と判定されなければ、総合判定を「合格」とした。信頼性試験および静電容量試験のいずれか1つでも不良と判定されれば、総合判定を「不合格」とした。
【0093】
実施例1~6はいずれも総合判定が「合格」と判定された。これは、誘電体グリーンシートにおける添加金属元素の濃度が誘電体パターンにおける添加金属元素の濃度よりも高く、容量部では内部電極層から誘電体層への添加金属元素の拡散が抑制され、
図6の第1領域31よりも、第2領域32において、添加金属元素の濃度が低くなったからであると考えられる。一方、比較例1~3ではいずれも総合判定が「不合格」と判定された。比較例1については、内部電極パターンに添加金属元素を添加しなかったことで添加金属元素の偏析層が形成されなかったために、十分な信頼性が得られなかったからであると考えられる。比較例2については、内部電極パターンから誘電体層および誘電体パターンに添加金属元素が拡散し、十分な偏析層が形成されなかったからであると考えられる。比較例3については、内部電極層から誘電体パターンへの添加金属元素の拡散が抑制され、エンドマージンの内部電極層における添加金属元素の濃度が高くなったからであると考えられる。なお、実施例2,3,5,6では、内部電極パターンに添加金属元素を多く添加したことで、偏析層における添加金属元素の濃度が高くなり、高い信頼性が得られたものと考えられる。実施例3,6では、実施例2,5と比較すると、誘電体パターンへの添加金属元素の拡散が促進され、高い静電容量が得られたものと考えられる。また、濃度比Rを比較すると、Snの方がAuよりもチタン酸バリウムに拡散しやすいことが確認される。
【表1】
【0094】
(実施例7)
実施例7では、誘電体グリーンシートおよび内部電極パターンにおける添加金属元素としてSnを用い、誘電体パターンにおける添加金属元素としてCuを用いた。誘電体グリーンシートにおけるSnの濃度を1at%とし、当該誘電体グリーンシートの上に、1at%のSnを含むNiペーストを内部電極パターンとして印刷し、Niペーストの周囲にCuを0.5at%以上含む誘電体パターンを印刷することで積層単位を得た。誘電体グリーンシートおよび誘電体パターンの主成分セラミックをチタン酸バリウムとした。得られた複数の積層単位を積層し、カットし、成型体を得た。積層数は500層とした。得られた成型体の2端面にNiペーストを塗布して焼成した。得られた積層セラミックコンデンサの形状は、1005形状(長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mm)とした。誘電体層の厚みは、0.6μmであった。
【0095】
(実施例8)
実施例8では、誘電体グリーンシートおよび内部電極パターンにおける添加金属元素としてSnを用い、誘電体パターンにおける添加金属元素としてZnを用いた。誘電体グリーンシートにおけるSnの濃度を1at%とし、内部電極パターンにおけるSnの濃度を1at%とし、誘電体パターンにおけるZnの濃度を0.5at%とした。それ以外の条件は、実施例7と同じとした。
【0096】
(実施例9)
実施例9では、誘電体グリーンシートおよび内部電極パターンにおける添加金属元素としてFeを用い、誘電体パターンにおける添加金属元素としてAlを用いた。誘電体グリーンシートにおけるFeの濃度を1at%とし、内部電極パターンにおけるFeの濃度を1at%とし、誘電体パターンにおけるAlの濃度を0.5at%とした。それ以外の条件は、実施例7と同じとした。
【0097】
(実施例10)
実施例10では、誘電体グリーンシートおよび内部電極パターンにおける添加金属元素としてFeを用い、誘電体パターンにおける添加金属元素としてCrを用いた。誘電体グリーンシートにおけるFeの濃度を1at%とし、内部電極パターンにおけるFeの濃度を1at%とし、誘電体パターンにおけるCrの濃度を0.5at%とした。それ以外の条件は、実施例7と同じとした。
【0098】
(比較例4)
比較例4では、誘電体グリーンシートおよび内部電極パターンにおける添加金属元素としてSnを用い、誘電体パターンにおける添加金属元素としてAuを用いた。誘電体グリーンシートにおけるSnの濃度を1at%とし、内部電極パターンにおけるSnの濃度を1at%とし、誘電体パターンにおけるAuの濃度を1at%とした。それ以外の条件は、実施例7と同じとした。
【0099】
(比較例5)
比較例5では、誘電体グリーンシートおよび内部電極パターンにおける添加金属元素としてFeを用い、逆パターンにおける添加金属元素としてAuを用いた。誘電体グリーンシートにおけるFeの濃度を1at%とし、内部電極パターンにおけるFeの濃度を1at%とし、逆パターンにおけるAuの濃度を1at%とした。それ以外の条件は、実施例7と同じとした。
【0100】
実施例7~10および比較例4,5の積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、添加金属元素の濃度比Rを測定した。測定には、SEM-EDSを用いた。濃度比Rは、実施例7では2.2であり、実施例8は2.0であり、実施例9では1.8であり、実施例10では1.8であり、比較例4では1.0であり、比較例5では1.0であった。
【0101】
次に、実施例7~10および比較例4,5の積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、静電容量試験を行なった。静電容量試験では、試料を150℃に1時間放置し、標準状態に24時間放置した後、0.5V-1kHzの条件下でLCRメータを用いて静電容量を測定した。静電容量は、実施例7では22μFであり、実施例8では22μFであり、実施例9では22μFであり、実施例10では22μFであり、比較例4では15μFであり、比較例5では15μFであった。測定された静電容量が20μF以上の場合を良好と判定し、20μF未満の場合を不良と判定した。実施例7~10では静電容量が良好と判定され、比較例4,5では静電容量が不良と判定された。
【0102】
次に、実施例7~10および比較例4,5の積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、信頼性試験を実施した。信頼性試験では、85℃下において6.3Vの電圧を1000時間および2000時間印加した後に室温で24時間放置し、その後に絶縁抵抗を評価した。絶縁抵抗値が10MΩ未満のものを故障とみなした。1000時間経過しても故障が起こらなかった場合を良好「〇」と判定し、2000時間経過しても故障が起こらなかった場合を非常に良好「◎」と判定し、1000時間未満で故障した場合を不良「×」と判定した。信頼性試験は、実施例7では良好「〇」と判定され、実施例8では良好「〇」と判定され、実施例9では良好「〇」と判定され、実施例10では良好「〇」と判定され、比較例4では良好「〇」と判定され、比較例5では良好「〇」と判定された。
【0103】
信頼性試験および静電容量試験のいずれにおいても不良と判定されなければ、総合判定を「合格」とした。信頼性試験および静電容量試験のいずれか1つでも不良と判定されれば、総合判定を「不合格」とした。
【0104】
実施例7~10について、内部電極パターンに添加した添加金属元素と誘電体パターンに添加した添加金属元素とが異なるものでも、いずれも総合判定が「合格」と判定された。これは、SnとCuとが合金化しやすく、SnとZnとが合金化しやすく、FeとAlとが合金化しやすく、またはFeとCrとが合金化しやすいからであると考えられる。一方、比較例4,5ではいずれも総合判定が「不合格」と判定された。これは、内部電極層から誘電体パターンへの添加金属元素の拡散が抑制され、エンドマージンの内部電極層における添加金属元素の濃度が高くなったからであると考えられる。
【表2】
【0105】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。