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特開2024-55127発電方法、固体酸化物形燃料電池、及び、発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055127
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】発電方法、固体酸化物形燃料電池、及び、発電システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/06 20160101AFI20240411BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20240411BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240411BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20240411BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M8/06
H01M8/1253
H01M8/12 101
H01M8/126
H01M8/1246
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161791
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188949
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 成典
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】福永 明彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆也
(72)【発明者】
【氏名】朝野 剛
(72)【発明者】
【氏名】安斉 巌
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG12
5H126GG13
5H126JJ01
5H127AA07
5H127BA01
5H127BB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的高温で、水素キャリアであるシクロアルカン誘導体から直接発電することができる発電方法の提供。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池10aを用いた発電方法であって、シクロアルカン誘導体を燃料とし、作動温度が400℃超である、発電方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池を用いた発電方法であって、
シクロアルカン誘導体を燃料とし、
作動温度が400℃超である、発電方法。
【請求項2】
前記シクロアルカン誘導体は、メチルシクロヘキサンである、請求項1に記載の発電方法。
【請求項3】
固体電解質の一方側に燃料極を備え、他方側に空気極を備え、前記燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する固体酸化物形燃料電池であって、
前記固体電解質が酸化物イオン伝導体である、固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記酸化物イオン伝導体は、イットリウムとジルコニウムとを含有する、請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記酸化物イオン伝導体は、YSZ-8である、請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記固体電解質の厚みは、0.1~10μmである、請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
固体電解質の一方側に燃料極を備え、他方側に空気極を備え、前記燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する固体酸化物形燃料電池であって、
前記固体電解質がプロトン伝導体である、固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記プロトン伝導体は、バリウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、プラセオジウム、スカンジウム、ガドリニウム、及びサマリウムからなる群から選択される一種以上の金属を含有する、請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
前記プロトン伝導体は、BaZr0.80.23-δ、又はPr1.8Ba1.2Sc2.07-δである、請求項8に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項10】
請求項3~6のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池を有する発電システムであって、
前記固体酸化物形燃料電池の燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する供給器と、
前記固体酸化物形燃料電池の空気極に空気を供給する供給器とを備える、発電システム。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池を有する発電システムであって、
前記固体酸化物形燃料電池の燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する供給器と、
前記固体酸化物形燃料電池の空気極に空気を供給する供給器とを備える、発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電方法、固体酸化物形燃料電池、及び、発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の1つの要因とされる温室効果ガスを排出しない、再生可能エネルギーの利用・促進がますます求められている。
再生可能エネルギーは、たくさん採れる地域に偏りがある。そのため、再生可能エネルギーが豊富な海外から、効率よく大量に国内に運んでくる技術が求められている。
再生可能エネルギーから得た電力は長距離を運ぶことができないため、水素などの化学エネルギーに変換する必要がある。この水素を運ぶための手段が水素キャリア(水素貯蔵体)である。気体のままでは貯蔵や長距離の輸送の効率が低い水素を、液体や水素化合物である水素キャリアに変換することで、効率的に貯蔵・運搬することができる。
【0003】
水素キャリアを再びエネルギー源として利用する場合、現状では、大きな吸熱を伴うプロセスである脱水素工程が必要である。該脱水素工程は、外部熱源を必要としており、熱源のコストと使用に伴うCO排出量の増加が課題となる。したがって、水素キャリアを直接再生可能エネルギー源として利用する技術が求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭化水素化合物を燃料とし、かつ、作動温度が100℃~400℃の範囲内であって、前記燃料を、直接、燃料電池に供給する、または、燃料電池の電極に接触させることを特徴とする直接型燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-166486号公報
【非特許文献1】N. Kariya, A. Fukuoka, M. Ichikawa, Direct PEM fuel cell using organic chemical hydrides with zero-CO2 emission and low-crossover, Phys. Chem. Chem Phys. 8(2006) 1724-1730.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような従来の低温動作型(150~250℃)のリン酸型の電解質を用いたセルでは、脱水素反応との熱バランスが難しく、高効率での運転が不可能である。また、非特許文献1に記載されているように100℃以下での、PEFCセルを用いた発電では、得られる電流密度が大変小さいことが報告されている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、比較的高温で、水素キャリアであるシクロアルカン誘導体から直接発電することができる発電方法、前記発電方法で用いる固体酸化物形燃料電池、及び、発電システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]固体酸化物形燃料電池を用いた発電方法であって、シクロアルカン誘導体を燃料とし、作動温度が400℃超である、発電方法。
[2]前記シクロアルカン誘導体は、メチルシクロヘキサンである、[1]に記載の発電方法。
[3]固体電解質の一方側に燃料極を備え、他方側に空気極を備え、前記燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する固体酸化物形燃料電池であって、前記固体電解質が酸化物イオン伝導体である、固体酸化物形燃料電池。
[4]前記酸化物イオン伝導体は、イットリウムとジルコニウムとを含有する、[3]に記載の固体酸化物形燃料電池。
[5]前記酸化物イオン伝導体は、YSZ-8である、[4]に記載の固体酸化物形燃料電池。
[6]前記固体電解質の厚みは、0.1~10μmである、[3]~[5]のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
[7]固体電解質の一方側に燃料極を備え、他方側に空気極を備え、前記燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する固体酸化物形燃料電池であって、前記固体電解質がプロトン伝導体である、固体酸化物形燃料電池。
[8]前記プロトン伝導体は、バリウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、プラセオジウム、スカンジウム、ガドリニウム、及びサマリウムからなる群から選択される一種以上の金属を含有する、[7]に記載の固体酸化物形燃料電池。
[9]前記プロトン伝導体は、BaZr0.80.23-δ、又はPr1.8Ba1.2Sc2.07-δである、[8]に記載の固体酸化物形燃料電池。
[10][3]~[6]のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池を有する発電システムであって、前記固体酸化物形燃料電池の燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する供給器と、前記固体酸化物形燃料電池の空気極に空気を供給する供給器とを備える、発電システム。
[11][7]~[9]のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池を有する発電システムであって、前記固体酸化物形燃料電池の燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する供給器と、前記固体酸化物形燃料電池の空気極に空気を供給する供給器とを備える、発電システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的高温で、水素キャリアであるシクロアルカン誘導体から直接発電することができる発電方法、前記発電方法で用いる固体酸化物形燃料電池、及び、発電システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の酸化物イオン伝導型SOFCを示す模式図である。
図2】本実施形態のプロトン伝導型SOFCを示す模式図である。
図3】本実施形態の酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システムを示す模式図である。
図4】本実施形態のプロトン伝導型SOFCを用いた発電システムを示す模式図である。
図5】参考例の発電方法を用いた発電のセル電圧-電流密度曲線と、実施例の発電方法を用いた発電のセル電圧-電流密度曲線との対比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発電方法)
本実施形態の発電方法は、固体酸化物形燃料電池を用いた発電方法であって、シクロアルカン誘導体を燃料とし、作動温度が400℃超である。
本実施形態の発電方法で用いる固体酸化物形燃料電池の詳細は後述する。
【0012】
≪シクロアルカン誘導体≫
本明細書において、シクロアルカン誘導体は、3つ以上の炭素間単結合で構成された単環構造を有する化合物である。該化合物の環を形成する炭素原子が有する水素原子の一部又は全部は、置換基で置換されてよい。該置換基としては、炭素原子数1~5のアルキル基が好ましい。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられ、メチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0013】
本実施形態の発電方法におけるシクロアルカン誘導体として、具体的には、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、及び、テトラデカヒドロアントラセン等が挙げられる。
上記の中でも、シクロアルカン誘導体としては、メチルシクロヘキサンが好ましい。
メチルシクロヘキサンは、石油に似た性状の液体のため、メチルシクロヘキサンを燃料として用いた場合、既存の石油インフラを活用することができる。また、メチルシクロヘキサンは、水素キャリアとしての水素密度が高い。水素密度は、シクロヘキサンが最も高いが、脱水素体であるベンゼンの毒性の点から、次に水素密度の高いメチルシクロヘキサンが好ましい。
【0014】
≪作動温度≫
本実施形態の発電方法は、作動温度が400℃超であり、405℃以上であることが好ましく、410℃以上であることがより好ましく、415℃以上であることがさらに好ましい。
本実施形態の発電方法の作動温度の上限値は、燃料として用いるシクロアルカン誘導体の分解温度以下の温度であることが好ましい。具体的には、500℃以下であることが好ましく、480℃以下であることがより好ましく、450℃以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本実施形態の発電方法の作動温度が400℃超であることにより、反応速度が早くなり、得られる電流も大きくなり、長時間の発電が可能となる。また、該作動温度が上記の好ましい下限値以上であれば、より長時間の発電が可能となる。
該作動温度が上記の好ましい上限値以下であれば、燃料として用いるシクロアルカン誘導体の分解をより抑制することができ、安定的に発電することができる。
【0016】
例えば、本実施形態の発電方法の作動温度は、400℃超500℃以下であることが好ましく、405℃以上500℃以下であることがより好ましく、410℃以上480℃以下であることがさらに好ましく、415℃以上450℃以下であることが特に好ましい。
【0017】
(固体酸化物形燃料電池)
本実施形態の固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」ともいう)は、高温の固体電解質を用いた燃料電池である。
SOFCには大きく分けて酸化物イオン(O2-)伝導型SOFCとプロトン伝導型(H)SOFCとの2種類が存在する。
【0018】
≪酸化物イオン伝導型SOFC≫
本実施形態の酸化物イオン伝導型SOFCは、固体電解質の一方側に燃料極を備え、他方側に空気極を備え、前記燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する固体酸化物形燃料電池であって、前記固体電解質が酸化物イオン伝導体である。
【0019】
本実施形態の酸化物イオン伝導型SOFCについて、図1を用いて詳細に説明する。
図1に示す通り、酸化物イオン伝導型SOFC10aは、燃料極2a、固体電解質1a、及び、空気極3aの複合体である。
酸化物イオン伝導型SOFC10aは、固体電解質1aの一方側に多孔質構造の燃料極2aを備え、他方側に多孔質構造の空気極3aを備える。燃料極2aには、上述したシクロアルカン誘導体が供給される。
【0020】
[固体電解質1a]
固体電解質1aは、酸化物イオン伝導体である。
酸化物イオン伝導体として、具体的には、イットリア安定化ジルコニア(Yttria stabilized zirconia:YSZ),カルシア安定化ジルコニア(Calcia stabilized zirconia:CSZ),スカンジア安定化ジルコニア(Scandia stabilized zirconia:ScSZ)等の安定化ジルコニアが挙げられる。
酸化物イオン伝導体としては、上記の中でも、イットリウムとジルコニウムとを含有する酸化物イオン伝導体が好ましく、イットリア安定化ジルコニアがより好ましく、YSZ(8mol%;Y-ZrO)がさらに好ましい。
酸化物イオン伝導体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
固体電解質1aの厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。
また、固体電解質1aの厚みは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3.5μm以下であることがさらに好ましい。
例えば、固体電解質1aを有する酸化物イオン伝導型SOFC10aの作動温度を400℃超500℃以下とする観点からは、固体電解質1aの厚みは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
固体電解質1aの厚みが、上記の好ましい値以下であると、一般的に700~1000℃程度の高温で運転される酸化物イオン伝導型SOFC10aの作動温度をより低くすることができる。
固体電解質1aの厚みが、上記の好ましい値以上であると、固体電解質1aの強度をより高めることができる。
【0023】
[燃料極2a]
燃料極2aは、水素キャリア又は水素キャリアが脱水素化して生じた水素ガスが、酸化物イオンと反応して、水蒸気と電子とを生成する反応場である。
燃料極2aとしては、Ni金属と金属酸化物との混合焼結体(Ni系サーメット)が挙げられる。具体的には、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメット、Niとスカンジア安定化ジルコニア(SSZ)とのサーメット、Niとイットリウムドープセリア(YDC)とのサーメット、Niとサマリウムドープセリア(SDC)とのサーメット、Niとガドリニウムドープセリア(GDC)とのサーメット等が挙げられる。
燃料極2aとしては、上記の中でも、ニッケル-イットリア安定化ジルコニア(Ni-YSZ)、ニッケル-スカンジア安定化ジルコニア(Ni-ScSZ)が好ましく、Ni-YSZがより好ましい。
【0024】
燃料極2aの厚みは、200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることがさらに好ましい。
また、燃料極2aの厚みは、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、450μm以下であることがさらに好ましい。
例えば、燃料極2aの厚みは、200μm以上600μm以下であることが好ましく、300μm以上500μm以下であることがより好ましく、350μm以上450μm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
[空気極3a]
空気極3aは、空気極は気相の酸素が電子と反応して酸化物イオンになる反応場である。
空気極3aとしては、ペロブスカイト系酸化物が挙げられ、具体的には、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、
ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)等が挙げられる。
空気極3aとしては、上記の中でも、LSCが好ましい。
【0026】
空気極3aの厚みは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
また、空気極3aの厚みは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
例えば、空気極3aの厚みは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましく、10μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
・バリア層
酸化物イオン伝導型SOFC10aは、固体電解質1aと、空気極3aとの間に図示していないバリア層を有していてもよい。
酸化物イオン伝導型SOFC10aは、バリア層を有することで、固体電解質1aと、空気極3aとの間に高抵抗層が形成されることを抑制することができる。
バリア層としては、セリア系酸化物が挙げられ、具体的には、ガドリニア添加セリア(GDC)が挙げられる。
【0028】
バリア層の厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。
また、バリア層の厚みは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3.5μm以下であることがさらに好ましい。
例えば、バリア層の厚みは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
≪プロトン伝導型SOFC≫
本実施形態のプロトン伝導型SOFCは、固体電解質の一方側に燃料極を備え、他方側に空気極を備え、前記燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する固体酸化物形燃料電池であって、前記固体電解質がプロトン伝導体である。
【0030】
本実施形態のプロトン伝導型SOFCについて、図2を用いて詳細に説明する。
図2に示す通り、プロトン伝導型SOFC10bは、燃料極2b、固体電解質1b、及び、空気極3bの複合体である。
プロトン伝導型SOFC10bは、固体電解質1bの一方側に多孔質構造の燃料極2bを備え、他方側に多孔質構造の空気極3bを備える。燃料極2bには、上述したシクロアルカン誘導体が供給される。
【0031】
[固体電解質1b]
固体電解質1bは、プロトン伝導体である。
プロトン伝導体としては、ペロブスカイト型構造(ABO相)を有する金属酸化物が挙げられ、該金属としては、バリウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウム、プラセオジウム、スカンジウム、ガドリニウム、及びサマリウムからなる群から選択される一種以上の金属が挙げられる。
【0032】
プロトン伝導体として、具体的には、BaZr0.850.153-δ(BZY15)、BaZt0.800.23-δ(BZY20)、BaCe0.80.23-δ(BCY20)、BaZr0.1Ce0.70.23-δ(BZCY20)、Pr1.8Ba1.2Sc2.07-δ(PBSc20)(δは酸素空孔量)等が挙げられ、その中でも、BZY20又はPBSc20であることが好ましい。
【0033】
固体電解質1bの厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。
また、固体電解質1bの厚みは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3.5μm以下であることがさらに好ましい。
例えば、固体電解質1bを有するプロトン伝導型SOFC10bの作動温度を400℃超500℃以下とする観点からは、固体電解質1bの厚みは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
固体電解質1bの厚みが、上記の好ましい値以下であると、比較的高温で運転されるプロトン伝導型SOFC10bの作動温度をより低くすることができる。
固体電解質1bの厚みが、上記の好ましい値以上であると、固体電解質1bの強度をより高めることができる。
【0035】
[燃料極2b、空気極3b、バリア層]
プロトン伝導型SOFC10bにおける燃料極2b、及び空気極3bとしては、上述した酸化物イオン伝導型SOFC10aにおける燃料極2a、及び空気極3aとそれぞれ同様のものを用いることができる。
また、プロトン伝導型SOFC10bは、上述した酸化物イオン伝導型SOFC10aにおけるバリア層と同様のバリア層を有していてもよい。
【0036】
(発電システム)
本実施形態の発電システムは、上述した酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システムと、上述したプロトン伝導型SOFCを用いた発電システムとの2種類が存在する。
【0037】
≪酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システム≫
本実施形態の酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システムは、上述した酸化物イオン伝導型SOFCを有する発電システムであって、前記酸化物イオン伝導型SOFCの燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する供給器と、前記酸化物イオン伝導型SOFCの空気極に空気を供給する供給器とを備える、発電システムである。
【0038】
本実施形態の酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システムについて、図3を用いて詳細に説明する。
図3に示す通り、酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システム100aは、上述した酸化物イオン伝導型SOFC10aと、酸化物イオン伝導型SOFC10aの燃料極2aにシクロアルカン誘導体を供給する燃料供給器21aと、酸化物イオン伝導型SOFC10aの空気極3aに空気を供給する空気供給器22aとを備える。また、燃料極2aで発生する脱水素燃料を回収する脱水素燃料回収タンク23aを備える。
【0039】
酸化物イオン伝導型SOFC10aの発電運転中の動作を説明する。
酸化物イオン伝導型SOFC10aは燃料供給前に予熱が必要である。
酸化物イオン伝導型SOFC10aの予熱温度は、400℃超であり、好ましくは400℃超500℃以下であり、より好ましくは405℃以上500℃以下であり、さらに好ましくは410℃以上480℃以下であり、特に好ましくは415℃以上450℃以下である。
予熱された酸化物イオン伝導型SOFC10aの燃料極2aに、シクロアルカン誘導体が燃料供給器21aから直接供給される。予熱された酸化物イオン伝導型SOFC10aの熱によって燃料極2aでは、燃料中に化合物の形で貯蔵された水素の脱離反応が生じる。
酸化物イオン伝導型SOFC10aの空気極3aでは、空気供給器22aから供給された空気中の酸素が酸化物イオンとなり、該酸化物イオンが固体電解質1aを通り、燃料極2aで水素と反応して水を生成する。発電運転によって燃料極2aで発生した脱水素燃料は、脱水素燃料回収タンク23aにより回収される。燃料極2aで生じた水は系外に排出される。酸化物イオン伝導型SOFC10aは、上記予熱温度と同等の温度を維持しながら発電運転を継続する。
【0040】
≪プロトン伝導型SOFCを用いた発電システム≫
本実施形態のプロトン伝導型SOFCを用いた発電システムは、上述したプロトン伝導型SOFCを有する発電システムであって、前記プロトン伝導型SOFCの燃料極にシクロアルカン誘導体を供給する供給器と、前記プロトン伝導型SOFCの空気極に空気を供給する供給器とを備える、発電システムである。
【0041】
本実施形態のプロトン伝導型SOFCを用いた発電システムについて、図4を用いて詳細に説明する。
図4に示す通り、プロトン伝導型SOFCを用いた発電システム100bは、上述したプロトン伝導型SOFC10bと、プロトン伝導型SOFC10bの燃料極2bにシクロアルカン誘導体を供給する燃料供給器21bと、プロトン伝導型SOFC10bの空気極3bに空気を供給する空気供給器22bとを備える。また、燃料極2bで発生する脱水素燃料を回収する脱水素燃料回収タンク23bを備える。
【0042】
プロトン伝導型SOFC10bの発電運転中の動作を説明する。
プロトン伝導型SOFC10bは燃料供給前に予熱が必要である。
プロトン伝導型SOFC10bの予熱温度は、400℃超であり、好ましくは400℃超500℃以下であり、より好ましくは405℃以上500℃以下であり、さらに好ましくは410℃以上480℃以下であり、特に好ましくは415℃以上450℃以下である。
予熱されたプロトン伝導型SOFC10bの燃料極2bに、シクロアルカン誘導体が燃料供給器21bから直接供給される。予熱されたプロトン伝導型SOFC10bの熱によって燃料極2bでは、燃料中に化合物の形で貯蔵された水素の脱離反応が生じる。該水素はプロトンとなり、該プロトンが固体電解質1bを通り、空気極3bで酸素と反応して水を生成する。発電運転によって燃料極2bで発生した脱水素燃料は、脱水素燃料回収タンク23bにより回収される。空気極3bで生じた水は系外に排出される。
【実施例0043】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<固体酸化物形燃料電池の製造>
公知の方法で、図1に示す酸化物イオン伝導型SOFC10aと同様の実施例1の酸化物イオン伝導型SOFCを製造した。実施例1の酸化物イオン伝導型SOFCは、固体電解質と空気極との間にバリア層を備える。
【0045】
実施例1の酸化物イオン伝導型SOFCの各構成の材料、及び厚みは以下の通りである。
燃料極:Ni-YSZ、厚み400μm
固体電解質:YSZ(8mol%;Y-ZrO)、厚み2μm
バリア層:GDC、厚み2μm
空気極:LSC、厚み15μm
【0046】
<発電システムの製造>
公知の方法で、図3に示す酸化物イオン伝導型SOFCを用いた発電システムと同様の実施例1の発電システムを製造した。
【0047】
<発電評価1>
セル温度420℃でアノードにキャリアガスと共にメチルシクロヘキサンを供給し、メチルシクロヘキサンの流量が0.5mL/min、空気の流量は200mL/minとなるように制御した。なお、メチルシクロヘキサンの流量は微量であるため一定ではなく、若干変動していた。
回収タンクの液成分をGC-MSで分析した結果、トルエンとごく少量のベンゼンの生成が認められた。トルエンとベンゼンの生成割合は、94:6であった。
また、排気ガスをFID付きGCで分析したところ、メタンは検出されず微量の二酸化炭素も検出された。
反応式は(1)および(2)に示す通りである。
14+3/2O→C+3HO・・・(1)
14+3O→C+4HO+CO・・・(2)
水素キャリアの一つであるメチルシクロヘキサンが、固体酸化物形燃料電池により脱水素反応を起こし発電した。
以上より、本実施形態の発電方法によれば、比較的高温で、水素キャリアであるシクロアルカン誘導体から直接発電することができることが確認できた。
【0048】
図5に従来のPEFCセルを用いた発電のセル電圧-電流密度曲線と、実施例1の発電方法を用いた発電のセル電圧-電流密度曲線との対比を示す。
従来のPEFCセルを用いた発電の詳細は以下に示す通りである。
<参考例1>
参考例1の発電方法は、非特許文献1(N. Kariya, A. Fukuoka, M. Ichikawa, Direct PEM fuel cell using organic chemical hydrides with zero-CO2 emission and low-crossover, Phys. Chem. Chem Phys. 8(2006) 1724-1730.)に記載されたPEFCセルを用いた発電方法である。
参考例1の発電方法は、シクロアルカン誘導体(メチルシクロヘキサン)を燃料としているが、固体高分子形燃料電池(PEFC)を用いた発電方法であり、作動温度が100℃である。
<参考例2>
参考例2の発電方法は、非特許文献2(中江亮介、影島洋介、手嶋勝弥、錦織広昌 「有機ハイドライドの脱水素用電極触媒の開発と燃料電池への展開」第125回触媒討論会(2020,spring) 要旨集1P24.)に記載されたPEFCセルを用いた発電方法である。
参考例2の発電方法は、シクロアルカン誘導体(メチルシクロヘキサン)を燃料としているが、電解質溶液が硫酸である燃料電池を用いた発電方法であり、作動温度が40℃程度である。
【0049】
図5に示す通り、実施例1の発電方法におけるセル電圧は、加える電流により異なり、0.8から0.4Vであった。
実施例1の発電方法は、参考例1及び2の発電方法に比べて、セル電圧及び電流密度がいずれも向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0050】
1a、1b:固体電解質、2a、2b:燃料極、3a、3b:空気極、10a:酸化物イオン伝導型SOFC、10b:プロトン伝導型SOFC、21a、21b:燃料供給器、22a、22b:空気供給器、23a、23b:脱水素燃料回収タンク
図1
図2
図3
図4
図5