(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055132
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】バイポーラ電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240411BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240411BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240411BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01M10/058
B05D7/24 301P
B05D3/10 K
H01M10/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161805
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近都 佑介
(72)【発明者】
【氏名】中野 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】井関 博行
【テーマコード(参考)】
4D075
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
4D075BB05Z
4D075BB79Z
4D075BB91Z
4D075CA22
4D075CA47
4D075DA04
4D075DB01
4D075DC19
4D075EA35
4D075EB38
5H028AA05
5H028BB03
5H028BB05
5H028CC08
5H028CC19
5H029AJ14
5H029BJ17
5H029CJ02
5H029CJ05
5H029CJ22
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】接着剤の硬化反応を効率よく促進させる技術を提供する。
【解決手段】バイポーラ電極の製造方法は、表面に正極活物質層を有する正極集電体を用意する工程と、表面に負極活物質層を有する負極集電体を用意する工程と、前記正極集電体の裏面と前記負極集電体の裏面の少なくとも一方に、接着剤を塗布する工程と、前記裏面に塗布された前記接着剤に水を塗布する工程と、水が塗布された前記接着剤を介して、前記正極集電体の前記裏面と前記負極集電体の前記裏面とを互いに接合する工程と、を備えてもよい。前記接着剤は、主剤と硬化剤とが混合された二液混合型であってもよい。前記硬化剤は、イソシアネート系硬化剤であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に正極活物質層を有する正極集電体を用意する工程と、
表面に負極活物質層を有する負極集電体を用意する工程と、
前記正極集電体の裏面と前記負極集電体の裏面の少なくとも一方に、接着剤を塗布する工程と、
前記裏面に塗布された前記接着剤に水を塗布する工程と、
水が塗布された前記接着剤を介して、前記正極集電体の前記裏面と前記負極集電体の前記裏面とを互いに接合する工程と、
を備え、
前記接着剤は、主剤と硬化剤とが混合された二液混合型であり、
前記硬化剤は、イソシアネート系硬化剤である、
バイポーラ電極の製造方法。
【請求項2】
前記接着剤を塗布する工程と前記水を塗布する工程との間に、前記裏面に塗布された接着剤を乾燥させる工程をさらに備える、請求項1に記載のバイポーラ電極の製造方法。
【請求項3】
前記水を塗布する工程では、前記硬化剤に含まれるイソシアネート基と水との脱炭酸反応における水の化学当量に相当する量の水を塗布する、請求項1に記載のバイポーラ電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、バイポーラ電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バイポーラ電極の製造方法が記載されている。当該製造方法は、表面に正極活物質層を有する正極集電体を用意する工程と、表面に負極活物質層を有する負極集電体を用意する工程と、負極集電体の裏面に、接着剤を塗布する工程と、接着剤を介して、正極集電体の裏面と負極集電体の裏面とを互いに接合する工程とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した製造方法において、二つの電極を接合する接着剤が主剤と硬化剤を用いた2液混合型であり、当該硬化剤がイソシアネート系硬化剤を使用することがある。この場合、二つの電極に挟まれた接着剤は、接着剤の周縁から内部に向かって硬化反応が進んでいく。従って、当該接着剤が内部まで硬化するためには多くの時間を要し得る。本明細書は、上記課題を鑑み、当該接着剤の硬化反応を効率よく促進させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、バイポーラ電極の製造方法に具現化される。第1の態様では、当該製造方法が、表面に正極活物質層を有する正極集電体を用意する工程と、表面に負極活物質層を有する負極集電体を用意する工程と、前記正極集電体の裏面と前記負極集電体の裏面の少なくとも一方に、接着剤を塗布する工程と、前記裏面に塗布された前記接着剤に水を塗布する工程と、水が塗布された前記接着剤を介して、前記正極集電体の前記裏面と前記負極集電体の前記裏面とを互いに接合する工程と、を備えてもよい。前記接着剤は、主剤と硬化剤とが混合された二液混合型であってもよい。前記硬化剤は、イソシアネート系硬化剤であってもよい。
【0006】
上記製造方法では、前記正極集電体及び前記負極集電体のいずれかの前記裏面に塗布された前記接着剤に水が塗布される。これにより、前記接着剤に含まれる前記主剤と前記硬化剤との反応を活性化させる反応(例えば、前記硬化剤に含まれるイソシアネート基と水との脱炭酸反応等)が前記裏面の全体で効率よく促進される。
【0007】
第2の態様では、上記の第1の態様において、当該製造方法は、前記接着剤を塗布する工程と前記水を塗布する工程との間に、前記裏面に塗布された接着剤を乾燥させる工程をさらに備えてもよい。この構成により、前記接着剤中の溶媒が揮発し、前記接着剤が定着するとともに前記接着剤の硬化反応が効率的に促進される。
【0008】
第3の態様では、上記の第1の態様において、前記水を塗布する工程では、前記硬化剤に含まれるイソシアネート基と水との脱炭酸反応における水の化学当量に相当する量の水を塗布してもよい。この構成により、前記接着剤の硬化反応が効率よく促進される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例)
図1-
図3を参照して、実施例のバイポーラ電極の製造方法について説明する。
図1に示すように、当該製造方法は、バイポーラ電極製造装置(以降、単に製造装置10と省略する)を用いて実施される。製造装置10は、正極箔巻出機12と、負極箔巻出機14と、接着剤塗工機16と、乾燥機18と、水塗工機20と、熱ロールプレス機22と、巻取機24と、を備える。正極箔巻出機12と、負極箔巻出機14と、接着剤塗工機16と、乾燥機18と、水塗工機20と、熱ロールプレス機22と、巻取機24と、は一連の製造ラインとして配列されている。製造装置10は、
図3に示すバイポーラ電極30を作製する。製造ライン速度は、例えば15m/分である。
【0011】
ここで、
図2を参照して、バイポーラ電極30の構成について説明する。
図2に示すように、バイポーラ電極30は、正極箔32と、負極箔34と、接着層44と、を備える。正極箔32は、正極集電体36の表面36aに正極活物質層38を有する。正極箔32は、正極集電体36と正極活物質層38との積層体が所望する密度までプレスされることによって形成される。正極集電体36は、例えばアルミニウム箔である。但し、正極集電体36は、アルミニウム箔に限定されず、他の金属箔であってもよい。負極箔34は、負極集電体40の表面40aに負極活物質層42を有する。負極箔34は、負極集電体40と負極活物質層42との積層体が所望する密度までプレスされることによって形成される。負極集電体40は、例えば銅箔である。但し、負極集電体40は、銅箔に限定されず、他の金属箔であってもよい。
【0012】
接着層44は、正極集電体36の裏面36bと負極集電体40の裏面40bとの間に配置されている。接着層44によって、正極箔32と負極箔34とが接合される。接着層44は、接着剤45が硬化することによって形成される。接着剤45は、主剤と硬化剤とが混合された二液混合型接着剤である。主剤は、例えばオレフィン系樹脂である。硬化剤は、イソシアネート系硬化剤である。接着剤45の硬化反応は、以下の通り進行する。第1に、主剤と硬化剤との反応を活性化させる反応が生じる。具体的には、主剤と水との反応によりカルボン酸を生成する反応と、硬化剤と水との脱炭酸反応によりアミンを生成する反応とが生じる。第2に、生じたカルボン酸とアミンとの反応によりアミドと水が生成される反応が生じる。これらの反応により、接着剤45が硬化され、接着層44が形成される。
【0013】
正極箔巻出機12には、長尺の正極箔32がロール状に収容されている。正極箔巻出機12は、正極箔32を供給する。同様に、負極箔巻出機14には、長尺の負極箔34がロール状に収容されている。負極箔巻出機14は、負極箔34を供給する。
【0014】
接着剤塗工機16は、接着剤45を塗布する装置である。本実施例では、巻き出された正極箔32に、接着剤45が塗布される。接着剤塗工機16は、例えばグラビア塗工機である。グラビア塗工機のセル形状は、例えばエロンゲート形状を有し、線数は、約75線/インチである。
【0015】
乾燥機18は、接着剤塗工機16によって塗布された接着剤45を、乾燥炉内で乾燥させる。一例ではあるが、乾燥炉内の温度は、約150℃である。
【0016】
水塗工機20は、乾燥機18によって、乾燥された接着剤45上に水を塗布する。水塗工機20は例えばグラビア塗工機である。但し、水塗工機20は、グラビア塗工機のようにローラを用いて水を塗布する装置でなくてもよく、例えばスプレーによって水を塗布する装置であってもよい。水塗工機20では、硬化剤に含まれるイソシアネート基と水との脱炭酸反応における水の化学当量に相当する量の水が塗布される。一例ではあるが、水の塗布量は、硬化剤の質量に対して、約5~20wt%の水を塗布してもよい。好ましくは、水の塗布量は、硬化剤の質量に対して、約10wt%の水を塗布してもよい。
【0017】
熱ロールプレス機22は、正極箔32と負極箔34との間に接着剤45を挟んで積層する。熱ロールプレス機22によって、接着剤45が硬化し、これにより、正極箔32と負極箔34とが互いに接合される。一例ではあるが、熱ロールの温度は約95℃であり、一対の熱ロールがニップするニップ圧は、約95℃である。
【0018】
次いで、上述した製造装置10を用いたバイポーラ電極30の製造方法について説明する。製造装置10は、
図3に示すフローチャートに沿って各ステップを実施する。先ず、ステップS12において、巻き出し工程を実施する。巻き出し工程では、正極箔32と負極箔34とがそれぞれ用意される。正極箔32は、正極箔巻出機12から巻き出され、負極箔34は、負極箔巻出機14から巻き出される。
【0019】
次いでステップS14において、接着剤塗布工程を実施する。接着剤塗布工程では、巻き出された正極箔32の正極集電体36の裏面36bに接着剤45が塗布される。接着剤45は、接着剤塗工機16によって塗布される。
【0020】
次いで、ステップS16において、乾燥工程を実施する。乾燥工程では、乾燥機18によって、正極集電体36の裏面36bに塗布された接着剤45が乾燥される。
【0021】
次いで、ステップS18において、水塗布工程を実施する。水塗布工程では、水塗工機20によって、正極集電体36の裏面36bに塗布された接着剤45に水が塗布される。ここでの水塗布量は、硬化剤の質量に対して、10wt%であった。
【0022】
次いで、ステップS20において、接合工程が実施される。接合工程では、水塗布工程で水が塗布された接着剤45を介して、正極集電体36の裏面36bと負極集電体40の裏面40bとが、熱ロールプレス機22によって互いに接合される。ここでの負極集電体40は、前述したS14において負極箔巻出機14から巻き出されたものである。以上により、バイポーラ電極30は作製することができる。なお、作製されたバイポーラ電極30は、巻取機24に巻き取られてロール状に収容される。
【0023】
上述したようにバイポーラ電極30の製造方法において、二つの電極32、34を接合する接着剤45が主剤と硬化剤を用いた2液混合型であり、当該硬化剤がイソシアネート系硬化剤を使用することがある。この場合、二つの電極32、34に挟まれた接着剤45は、接着剤45の周縁から内部に向かって硬化反応が進んでいく。従って、接着剤45が内部まで硬化するためには多くの時間を要し得る。
【0024】
上記の課題を解決するために、本実施例における製造方法では、正極集電体36の裏面36bに塗布された接着剤45に水が塗布される。これにより、接着剤45に含まれる主剤と硬化剤との反応を活性化させる反応(例えば、硬化剤に含まれるイソシアネート基と水との脱炭酸反応等)が正極集電体36の裏面36bの全体で効率よく促進される。
【0025】
なお、本実施例では、正極集電体36の裏面36bに接着剤45に塗布したが、これに限定されない。例えば、接着剤45は、負極集電体40の裏面40bに塗布されるように実施されてもよい。その場合、上記した製造方法の正極集電体36と負極集電体40とを互いに入れ替えて実施すればよい。
【0026】
本発明者らは、上述した実施例の製造方法に従って作製したバイポーラ電極30の接着層44の硬化度を比較例と比較して検証した。比較例では、水塗布工程を実施しなかった。但し、比較例では、水塗布工程を除き、実施例と同様に実施した。ここで、硬化度の測定は、作製した試験用のバイポーラ電極30を80℃恒温室に3日間静置した後に実施した。硬化度は、赤外分光法におけるメチル(CH3)基のピーク(1376cm-1)に対するイソシアネート(NCO)基のピーク(2272cm-1)の高さで規定した。その結果、実施例で得られたバイポーラ電極30の接着層44の硬化度を100と規定したときに、比較例で得られたバイポーラ電極の接着層の硬化度は47であった。このことから、本実施例のように接合工程の前に水塗布工程を実施することにより、バイポーラ電極30の接着剤45の硬化反応が比較的に促進されたということが言える。
【0027】
本実施例における製造方法では、接着剤塗布工程と水塗布工程との間に、正極集電体36の裏面36bに塗布された接着剤45を乾燥させる乾燥工程を実施している。これにより、接着剤45中の溶媒が揮発し、接着剤45が定着するとともに、接着剤45の硬化反応が効率的に促進される。但し、一変形例の製造方法では、乾燥工程が省略されてもよい。
【0028】
本実施例における製造方法では、水塗布工程において、硬化剤に含まれるイソシアネート基と水との脱炭酸反応における水の化学当量に相当する用の水が塗布される。これにより、接着剤45の硬化反応が効率よく促進される。
【0029】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0030】
10:製造装置、12:正極箔巻出機、14:負極箔巻出機、16:接着剤塗工機、18:乾燥機、20:水塗工機、22:熱ロールプレス機、24:巻取機、30:バイポーラ電極、32:正極箔、34:負極箔、36:正極集電体、36a:表面、36b:裏面、38:正極活物質層、40:負極集電体、40a:表面、40b:裏面、42:負極活物質層、44:接着層、45:接着剤