(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055149
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】生体情報検出システム、生体情報検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
A61B5/11 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161840
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 暁洋
(72)【発明者】
【氏名】森 文徳
(72)【発明者】
【氏名】仲本 晶絵
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB31
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】ドップラー信号の位相変化を示す時間波形から安定的に呼吸数や心拍数などの生体情報を得ること。
【解決手段】生体情報検出システム1は、被測定者からの反射を受信して取得されるドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得する逆正接復調部31と、前記時間波形から複数の単位波形を取得する単位波形取得部32と、前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成する基準波形生成部33と、前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正する波形補正部34と、補正された前記時間波形に基づいて生体情報を取得する生体情報取得部35と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者からの反射波を受信して取得されるドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得する復調手段と、
前記時間波形から複数の単位波形を取得する単位波形取得手段と、
前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成する基準波形生成手段と、
前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正する補正手段と、
補正された前記時間波形に基づいて生体情報を取得する生体情報取得手段と、
を含む生体情報検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報検出システムにおいて、
前記単位波形取得手段は、前記時間波形の極大値又は極小値を与える時刻に基づいて前記複数の単位波形を取得する、生体情報検出システム。
【請求項3】
請求項2に記載の生体情報検出システムにおいて、
前記基準波形生成手段は、前記複数の基準波形を平均化することにより前記基準波形を生成する、生体情報検出システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の生体情報検出システムにおいて、
前記補正手段は、前記時間波形と前記基準波形を用いた畳み込み積分により、前記生体情報を補正する、生体情報検出システム。
【請求項5】
請求項1に記載の生体情報検出システムにおいて、
前記基準波形生成手段は、前記複数の単位波形のそれぞれの時間幅に基づき、前記複数の単位波形の一部を除外し、残った前記単位波形に基づいて前記基準波形を生成する、生体情報検出システム。
【請求項6】
請求項5に記載の生体情報検出システムにおいて、
前記基準波形生成手段は、前記単位波形取得手段により取得される前記単位波形の数に対する、除外される前記単位波形の数の比に応じて警告を出力する、生体情報検出システム。
【請求項7】
被測定者からの反射波を受信して取得されるドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得するステップと、
前記時間波形から複数の単位波形を取得するステップと、
前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成するステップと、
前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正するステップと、
補正された前記時間波形に基づいて生体情報を取得するステップと、
を含む生体情報検出方法。
【請求項8】
被測定者からの反射波を受信して取得されるドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得するステップと、
前記時間波形から複数の単位波形を取得するステップと、
前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成するステップと、
前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正するステップと、
補正された前記時間波形に基づいて生体情報を取得するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体情報検出システム、生体情報検出方法及びプログラムに関し、特に心拍数や呼吸数などの生体情報を、逆正接復調を利用して検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍数や呼吸数などの被測定者の生体情報を検出する各種のシステムが検討されている。被測定者の負担に鑑み、下記特許文献1のようにマイクロ波ドップラーセンサによって非接触で心拍数を測定する方式が有力視されている。マイクロ波ドップラーセンサによれば、被測定者の体表面や体内の動きを測定することにより生体情報を取得できる。
【0003】
ドップラーセンサから出力されるドップラー信号にはI成分及びQ成分が含まれ、これをIQ平面にマッピングした際の位相変化は心拍数や呼吸数などの生体情報をよく表していることが知られている。そこで、下記非特許文献1に記載のように、「逆正接復調」(Arctangent Demodulation)と呼ばれる手法を用い、ドップラー信号の位相変化から呼吸や心拍に由来する時間波形を取得することがしばしば行われている。このような時間波形において、単位時間あたりのピーク数を計数することによって、被測定者の心拍数や呼吸数を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Heesoo Kim and Jinho Jeong, "Non-Contact Measurement of Human Respiration and Heartbeat Using W-band Doppler Radar Sensor", Sensors 2020, 2020年9月12日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドップラー信号には様々なノイズ成分が含まれている。このため、その位相変化を示す時間波形から生体情報を検出することが困難な場合がある。すなわち、時間波形に表れている、心拍や呼吸に由来する部分の振幅が小さい場合には、計数すべきピークか否かの判別が困難であり、それにより心拍数や呼吸数などの生体情報を正確に検出することが困難となる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形から安定的に呼吸数や心拍数などの生体情報を得ることができる生体情報検出システム、生体情報検出方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る生体情報検出システムは、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得する復調手段と、前記時間波形から複数の単位波形を取得する単位波形取得手段と、前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成する基準波形生成手段と、前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正する補正手段と、補正された前記時間波形に基づいて前記生体情報を取得する生体情報取得手段と、を含む。
【0009】
(2)(1)において、前記単位波形取得手段は、前記時間波形の極大値又は極小値を与える時刻に基づいて前記複数の単位波形を取得してよい。
【0010】
(3)(1)又は(2)において、前記基準波形生成手段は、前記複数の基準波形を平均化することにより前記基準波形を生成してよい。
【0011】
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の生体情報検出システムにおいて、前記補正手段は、前記時間波形と前記基準波形を用いた畳み込み積分により、前記生体情報を補正してよい。
【0012】
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の生体情報検出システムにおいて、前記基準波形生成手段は、前記複数の単位波形のそれぞれの時間幅に基づき、前記複数の単位波形の一部を除外し、残った前記単位波形に基づいて前記基準波形を生成してよい。
【0013】
(6)(5)に記載の生体情報検出システムにおいて、前記基準波形生成手段は、前記単位波形取得手段により取得される前記単位波形の数に対する、除外される前記単位波形の数の比に応じて警告を出力してよい。
【0014】
(7)本発明に係る生体情報検出方法は、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得するステップと、前記時間波形から複数の単位波形を取得するステップと、前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成するステップと、前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正するステップと、補正された前記時間波形に基づいて前記生体情報を取得するステップと、を含む。
【0015】
(8)本発明に係るプログラムは、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得するステップと、前記時間波形から複数の単位波形を取得するステップと、前記複数の単位波形に基づいて基準波形を生成するステップと、前記基準波形に基づいて前記時間波形を補正するステップと、補正された前記時間波形に基づいて前記生体情報を取得するステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形から安定的に呼吸数や心拍数などの生体情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る生体情報生成システムの構成図である。
【
図4】畳み込み処理を説明する図であり、(a)は畳み込み処理前の呼吸波形を示し、(b)は畳み込み処理後の呼吸波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る生体情報生成システムの構成図である。同図に示すように生体情報生成検出システム1はドップラーセンサ2と信号処理装置3を含む。生体情報検出システム1は例えば住宅内に設定され、例えば就寝中の被測定者の単位時間あたりの呼吸数を検出する。ドップラーセンサ2は例えばベッドの近傍において被測定者の胸部に向けて設けられる。ドップラーセンサ2からはマイクロ波が出射され、被測定者の胸部での反射波がドップラーセンサ2で受信される。ドップラー効果により反射波は周波数シフトしており、これを観測することにより被測定者の心拍数を得ることができる。反射波は、送信波と同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とを含むドップラー信号として検出され、デジタル形式で信号処理装置3に出力される。信号処理装置3に入力されるドップラー信号は時系列データであり、各時刻の振幅(I成分及びQ成分)を示している。
【0020】
信号処理装置3は、例えばCPU、メモリ、入力デバイス及びディスプレイを含む、公知のコンピュータにより構成されていればよく、ドップラーセンサ2から出力されるドップラー信号に基づいて被測定者の呼吸数を生成する。
【0021】
図2は、信号処理装置の機能ブロック図である。同図に示すように、信号処理装置3は、フィルタ部30と、逆正接復調部31と、単位波形取得部32と、基準波形生成部33と、波形補正部34と、生体情報取得部35と、を含んでいる。これらの機能ブロックは、コンピュータである信号処理装置3において信号処理プログラムが実行されることにより実現される。この信号処理プログラムは、半導体メモリなどの各種のコンピュータ可読情報記憶媒体に格納され、該媒体から信号処理装置3に読み出されてもよい。あるいは、インターネットなどのデータ通信回線を介して信号処理装置3にダウンロードされてもよい。
【0022】
フィルタ部30は、ドップラー信号のI成分及びQ成分のそれぞれのデータに対してノイズ除去のフィルタ処理を適用する。フィルタ部30は例えばローパスフィルタであってよい。
【0023】
逆正接復調部31は、ノイズ除去されたドップラー信号に所定の復調アルゴリズムを適用し、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形(呼吸波形)を取得する。例えば、公知の逆正接復調を採用し、ノイズ除去されたドップラー信号のQ成分をI成分で除した値の逆正接を求めることによって、ドップラー信号の振幅成分を抑圧して、ドップラー信号の位相変化を示す時間波形を取得することができる。この時間波形に種々の補正を加えてもよい。なお、逆正接復調には公知の改良アルゴリズムが種々存在するが、どのようなアルゴリズムを使用して時間波形を取得してもよい。例えば、上述の非特許文献1に記載されたアルゴリズムを採用してもよい。
【0024】
図3は、逆正接復調部31により得られた時間波形の一例を示している。同図に示す時間波形においてある極小値から次の極小値に至る区間が被測定者の1回の呼吸を示している。このため、同図に示す時間波形において単位時間(1分)あたりのピーク数を計数することにより、被測定者の呼吸数を得ることができる。
【0025】
単位波形取得部32は、逆正接復調部31から出力される時間波形から複数の単位波形を取得する。ここでは単位波形取得部32は、呼吸を示す時間波形から、その極小値を与える時刻から、次の極小値を与える時刻までの区間の部分を切出し、それらを単位波形として取得する。すなわち、
図3の区間Wの波形部分をそれぞれ切出し、それらを単位波形として取得する。但し、被測定者の各回の呼吸動作は一般に少しずつ異なっており、このため各単位波形は必ずしも同じとならない。なお、ここでは極小値から次の極小値までの区間Wを切出すようにしたが、極大値から次の極大値までの区間Wの波形部分を切出すようにしてもよい。
【0026】
基準波形生成部33は、単位波形取得部32により取得される単位波形に基づいて基準波形を生成する。例えば、単位波形を平均化することにより基準波形を生成してもよい。具体的には、各単位波形の始点やピークを一致させて、すべての単位波形の値を加算平均することにより、基準波形を得るようにしてもよい。その他、単位波形取得部32により取得される単位波形の統計的代表となる形状を有する波形であれば、どのような方法により基準波形を生成してもよい。基準波形生成部33は、単位波形取得部32により取得されるすべての単位波形を用いなくてもよい。例えば、単位波形の時間幅に基づいて一部の単位波形を除外し、残った単位波形から基準波形を生成してよい。人の1分当たりの呼吸回数の下限を一例として3回、上限を一例として40回と考えると、時間幅が20秒以上の単位波形、或いは時間幅が1.5秒以下の単位波形を除外して基準波形を生成してよい。あるいは、単位波形のうち、その時間幅が統計的な外れ値に該当する場合、そのような単位波形を除外してもよい。また、基準波形生成部33は、単位波形取得部32により取得される単位波形の数に対する、上述のようにして除外された単位波形の数の比を計算し、その値が所定閾値以上であれば、その旨の警告を出力してもよい。そうすれば、確からしい呼吸数を出力できない可能性があることをユーザに知らせることができる。
【0027】
波形補正部34は、基準波形に基づいて、逆正接復調部31から出力される時間波形を補正する。特に、基準波形に類似する波形部分を強調するように時間波形を補正する。具体的には、時間波形を基準波形で畳み込む、畳み込み積分を実行することにより、補正済みの時間波形を取得する。
【0028】
図4は、畳み込み処理を説明する図であり、(a)は畳み込み処理前の波形を示し、(b)は畳み込み処理後の波形を示す。畳み込み処理前の波形では、符号P1及びP2のように極大値が負のピークが存在しているが、畳み込み処理後の波形ではいずれも極大値が正となるように補正される。
【0029】
生体情報取得部35は、波形補正部34により補正された波形のデータに基づいて、被測定者の呼吸数を取得する。具体的には、単位時間(例えば1分)あたり、極大値が0より大きい値であるピークの数を計数し、それを呼吸数とする。本実施形態によれば、
図4(b)のように、波形補正部34により、上記符号P1及びP2に示されるような小さなピークの高さが高くなるので、基準波形と類似する波形部分を確実に計数することができる。
【0030】
以上説明した生体情報検出システム1によれば、被測定者の呼吸を示す時間波形に小さなピークが含まれる場合であっても、基準波形と類似する場合には強調することができる。これにより、呼吸に由来するピークを確実に計数することができ、被測定者の正確な呼吸数を得ることができる。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば、以上の説明では被測定者の生体情報として呼吸数を検出するようにしたが、心拍数も同様にして検出することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 生体情報検出システム、2 ドップラーセンサ、3 信号処理装置、30 フィルタ部、31 逆正接復調部、32 単位波形取得部、33 基準波形生成部、34 波形補正部、35 生体情報取得部。