(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055153
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ペロブスカイト太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240411BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 130
H01L31/04 168
H01L31/04 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161850
(22)【出願日】2022-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月12日に第1回日本太陽光発電学会学術講演会 講演予稿集(ウェブサイト)に掲載 令和3年10月15日に第1回日本太陽光発電学会学術講演会(オンライン開催)にて発表 令和4年3月4日に電気化学会第89回大会 講演予稿集(ウェブサイト)に掲載 令和4年3月15日に電気化学会第89回大会(オンライン開催)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 省吾
(72)【発明者】
【氏名】辻 流輝
(72)【発明者】
【氏名】足立 敦哉
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151BA18
5F151CB13
5F151FA03
5F151FA06
5F151FA08
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5F251FA08
5F251FA24
5F251GA03
5F251XA55
5F251XA56
(57)【要約】
【課題】高価な金属電極を用いることなく、光電変換効率が高いペロブスカイト太陽電池を実現できるようにする。
【解決手段】ペロブスカイト太陽電池100は、透光性導電層111と、緻密電子輸送材料層112と、多孔質電子輸送材料層113と、多孔質不導体酸化物層114と、多孔質ニッケル酸化物層115と、ニッケル酸化物ナノ粒子117を含む多孔質カーボン電極層116とを備えている。多孔質電子輸送材料層113、多孔質不導体酸化物層114、多孔質ニッケル酸化物層115及び多孔質カーボン電極層116は、内部空隙に充填されたペロブスカイト結晶103を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性導電層と、
前記透光性導電層の上に順次形成された、緻密電子輸送材料層、多孔質電子輸送材料層、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層、及びニッケル酸化物ナノ粒子を含む多孔質カーボン電極層とを備え、
前記多孔質電子輸送材料層、前記多孔質不導体酸化物層、前記多孔質ニッケル酸化物層及び前記多孔質カーボン電極層は、内部空隙に充填されたペロブスカイト結晶を含む、ペロブスカイト太陽電池。
【請求項2】
前記多孔質カーボン電極層に含まれる前記ニッケル酸化物ナノ粒子の割合は5質量%以上、25質量%以下であり、
前記多孔質ニッケル酸化物層の厚さは、0.5μm以上、2.0μm以下である、請求項1に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項3】
透光性導電層の上に、緻密電子輸送材料層及び多孔質電子輸送材料層を形成した後、前記多孔質電子輸送材料層の上に、多孔質不導体酸化物層の形成材料、多孔質ニッケル酸化物層の形成材料及びニッケル酸化物ナノ粒子含有多孔質カーボン電極層の形成材料を順次塗布して焼成し、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層及びニッケル酸化物ナノ粒子を含む多孔質カーボン電極層を形成する工程と、
前記多孔質カーボン電極層側から、ペロブスカイト前駆体溶液を含浸させて、前記多孔質電子輸送材料層、前記多孔質不導体酸化物層、前記多孔質ニッケル酸化物層及び前記多孔質カーボン電極層の空隙にペロブスカイト結晶を充填する工程とを備えている、ペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペロブスカイト太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気に変換する太陽電池は、温室効果ガスを排出しない電源として注目されている。特に、有機-無機ペロブスカイト結晶を用いたペロブスカイト太陽電池は、シリコン系の太陽電池と比べて光エネルギーの吸収係数が大きく、薄くて高い変換効率を有する太陽電池が実現できると期待されている。
【0003】
陰極と陽極との間にペロブスカイト結晶の薄膜を挟み込んだ薄膜型のペロブスカイト太陽電池は、陽極に銀や金等の高価な材料を必要とする。しかし、こうした金属の陽極を用いた太陽電池は、イオン性のペロブスカイト材料や大気中の酸素・水分と反応し破壊され、急速に劣化してしまうため、耐久性が低く長期間安定して使用することができない。そこで、陽極に炭素を用いるカーボン電極ペロブスカイト太陽電池が検討されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Anyi Mei他、Science、345巻,6194号,p295-298(2014年)
【非特許文献2】Fatemeh Behrouznejad他、ACS Appl. Mater. Interfaces、9巻, p25204-25215(2017年)
【非特許文献3】Da Li他、ACS Sustainable Chem. Eng、7巻, p2619-1625(2019年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボン電極は、耐久性の改善には有効であるものの、金属電極と比べて数十倍の抵抗を有しているので、金属電極を用いたペロブスカイト太陽電池と比べて、電荷の抽出及び輸送能力が低く、光電変換効率が低いという問題を有している。
【0006】
そのため、スペーサ層とカーボン電極との間にニッケル酸化物層を形成したり、カーボン電極に金属酸化物を含浸させたりすることにより光電変換効率を向上させることが試みられているが、十分な効果は得られていない(例えば、非特許文献2、3を参照。)。
【0007】
本開示の課題は、高価な金属電極を用いることなく、光電変換効率が高いペロブスカイト太陽電池を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のペロブスカイト太陽電池の一態様は、透光性導電層と、透光性導電層の上に順次形成された、緻密電子輸送材料層、多孔質電子輸送材料層、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層、及びニッケル酸化物ナノ粒子を含む多孔質カーボン電極層とを備え、多孔質電子輸送材料層、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層及び多孔質カーボン電極層は、内部空隙に充填されたペロブスカイト結晶を含む。
【0009】
本開示のペロブスカイト太陽電池は、多孔質ニッケル酸化物層とニッケル酸化物ナノ粒子を含む多孔質カーボン電極層とを備えており、電流損失を低減すると共に、開放電圧を向上させることができるので、光電変換効率を大きく向上させることができる。
【0010】
本開示のペロブスカイト太陽電池の一態様において、多孔質カーボン電極層に含まれるニッケル酸化物ナノ粒子の割合は5質量%以上、25質量%以下であり、多孔質ニッケル酸化物層の厚さは、0.5μm以上、2.0μm以下とすることができる。
【0011】
本開示のペロブスカイト太陽電池の製造方法の一態様は、透光性導電層の上に、緻密電子輸送材料層及び多孔質電子輸送材料層を形成した後、多孔質電子輸送材料層の上に、多孔質不導体酸化物層の形成材料、多孔質ニッケル酸化物層の形成材料及びニッケル酸化物ナノ粒子含有多孔質カーボン電極層の形成材料を順次塗布して焼成し、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層及びニッケル酸化物ナノ粒子を含む多孔質カーボン電極層を形成する工程と、多孔質カーボン電極層側から、ペロブスカイト前駆体溶液を含浸させて、多孔質電子輸送材料層、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層及び多孔質カーボン電極層の空隙にペロブスカイト結晶を充填する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本開示のペロブスカイト太陽電池によれば、高価な金属電極を用いることなく光電変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るペロブスカイト太陽電池を示す断面図である。
【
図2】ニッケル酸化物ナノ粒子を含む多孔質カーボン電極層の電子顕微鏡写真である。
【
図3】電流密度-電圧測定の結果を示すグラフである。
【
図4】多孔質ニッケル酸化物層の厚さと規格化PCEとの関係を示すグラフである。
【
図5】ニッケル酸化物ナノ粒子の濃度と規格化PCEとの関係を示すグラフである。
【
図6】熱湿度耐久性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態に係るペロブスカイト太陽電池100は、
図1に示すように、透光性導電層111を有する透光性基板105の上に順次形成された、透光性の緻密電子輸送材料層112と、多孔質電子輸送材料層113と、多孔質不導体酸化物層114と、多孔質ニッケル酸化物層115と、ニッケル酸化物ナノ粒子117を含む多孔質カーボン電極層116とを有している。多孔質電子輸送材料層113、多孔質不導体酸化物層114、多孔質ニッケル酸化物層115、及び多孔質カーボン電極層116を含む多孔質層101は、ペロブスカイト結晶103を含んでいる。
【0015】
透光性導電層111は、ガラス等からなる透光性基板105の表面に形成された透光性の導電性化合物からなる層である。透光性の導電性化合物として、フッ素ドープスズ酸化物(FTO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、ガリウムドープ亜鉛酸化物、アルミニウムドープ亜鉛酸化物、及びニオブドープチタン酸化物等を用いることができる。
【0016】
緻密電子輸送材料層112は、透光性導電層111の上に形成された透光性の電子輸送材料からなる平滑構造を有する層である。緻密電子輸送材料層112を設けることにより、生成した正孔が透光性導電層111に流れることを防ぎ、電子だけが流れるようにすることができるので、リーク電流を抑制することができる。リーク電流抑制の観点から、緻密電子輸送材料層112の厚さは、好ましくは1nm以上、より好ましくは20nm以上で、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。緻密電子輸送材料層112は、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、及びチタン酸ストロンチウム等の光電子伝導性に優れた材料により形成することができる。これらは単体で用いることも混合して用いることもでき、ドナーがドープされた状態とすることもできる。酸化チタンを用いる場合には、アナターゼ型の結晶形態とすることが好ましい。
【0017】
緻密電子輸送材料層112は、例えば、FTOガラス基板のパターニングされた導電面にチタン(ジ-i-プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)とエタノールの混合溶液をスプレー熱分解法により塗布することにより形成することができる。このような方法に限らず、インジウム錫酸化物(ITO)やアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などの透明で導電性のある酸化物材料により緻密電子輸送材料層112を形成することもできる。
【0018】
多孔質電子輸送材料層113は、緻密電子輸送材料層112の上に接して形成された透光性の電子輸送材料からなる多孔質構造を有する層である。なかでも、粒状体、線状体針状体、チューブ状体、及び柱状体等となった電子輸送材料が集合して、全体としてナノスケールの空隙を有する構造となっているものが好ましい。多孔質電子輸送材料層113を設けることにより、電子収集能力及び光電変換効率を向上させることができる。電子収集能力の観点から、多孔質電子輸送材料層113の厚さは、好ましくは50nm以上、より好ましくは200nm以上で、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。
【0019】
緻密電子輸送材料層112と同様に、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化イットリウム、及びチタン酸ストロンチウム等により形成することができる。これらは単体で用いることも混合して用いることもでき、ドナーがドープされた状態とすることもできる。酸化チタンを用いる場合には、アナターゼ型の結晶形態とすることが好ましい。
【0020】
多孔質電子輸送材料層113は、例えば、緻密電子輸送材料層112の表面に、多孔質電子輸送材料層用のペーストをスクリーン印刷等により塗布し、500℃で焼成を行うことにより形成することができる。多孔質電子輸送材料層用のペーストは、例えば、酸化チタン等の電子輸送材料の微粒子をテルピネオールに分散させた混合物とすることができる。
【0021】
多孔質不導体酸化物層114は、多孔質電子輸送材料層113と多孔質ニッケル酸化物層115との間に形成された絶縁性の材料からなる多孔質構造を有する層である。多孔質不導体酸化物層114は、多孔質電子輸送材料層113と多孔質ニッケル酸化物層115又は多孔質カーボン電極層116との間を物理的に分離することで、生成した電子及び正孔の再結合を抑制する機能を有する。このため、厚さが好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上で、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。また、多孔質電子輸送材料層113と同様に、ナノメータスケールの空隙を有する構造が好ましい。多孔質不導体酸化物層114は、種々の絶縁性の酸化物により形成することができるが、多孔質不導体酸化物層114の水分や熱に対する安定性の観点から、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)及び酸化シリコン(SiO2)が好ましい。
【0022】
多孔質ニッケル酸化物層115は、多孔質不導体酸化物層114の上に接して形成されたニッケル酸化物からなる多孔質構造を有する層である。多孔質ニッケル酸化物層115は、ニッケル酸化物ナノ粒子117を含む多孔質カーボン電極層116と共に、正孔輸送電極として機能する。
【0023】
多孔質カーボン電極層116は、多孔質ニッケル酸化物層115の上に接して形成され、炭素からなる多孔質構造を有し、空隙内にニッケル酸化物ナノ粒子117が含まれている。効率的な電荷輸送及び安定性の観点から、多孔質カーボン電極層116の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上で、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。多孔質カーボン電極層116は、特に限定されないがフレーク状(薄片状)のグラファイト粒子を含むことが好ましい。フレーク状のグラファイト粒子を含むことにより、ニッケル酸化物ナノ粒子117及びペロブスカイト結晶103が十分に分散、充填された多孔質カーボン電極層116を得ることが容易にできる。
【0024】
多孔質カーボン電極層116に含まれるニッケル酸化物ナノ粒子117は、特に限定されないが、カーボン電極の導電経路を阻害しない範囲の大きさという観点から粒径が好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上で、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0025】
多孔質ニッケル酸化物層115を形成するニッケル酸化物及び多孔質カーボン電極層116に含まれるニッケル酸化物は、一酸化ニッケル(NiO)だけでなく、二酸化ニッケル(NiO2)や三酸化二ニッケル(Ni2O3)等の一般式NiOxにより表されるニッケルと酸素とが結合した種々の化合物とすることができる。これらの化合物は単一の組成物とすることも、複数の組成物の混合体とすることもできる。
【0026】
多孔質不導体酸化物層114、多孔質ニッケル酸化物層115及びニッケル酸化物ナノ粒子117を含む多孔質カーボン電極層116は、多孔質電子輸送材料層113の表面に、それぞれの形成用のペーストをスクリーン印刷等により順次塗布した後、400℃で焼成することにより形成することができる。多孔質不導体酸化物層形成用のペーストは、酸化ジルコニウム等の不導体酸化物と有機バインダー増粘剤とをテルピネオールに分散させたペーストとすることができる。多孔質ニッケル酸化物層形成用のペーストは、ニッケル酸化物と有機バインダー増粘剤とをテルピネオールに分散させたペーストとすることができる。多孔質カーボン電極層形成用のペーストは、ニッケル酸化物と、グラファイト、カーボンブラック、酸化ジルコニウム及び有機バインダー増粘剤をテルピネオールに分散させたペーストとすることができる。ニッケル酸化物は、例えば、硝酸ニッケル水和物(Ni(NO3)2・6H2O)に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて,80℃で18時間加熱して形成したベータ水酸化ニッケル(β-Ni(OH)2)を270℃で2時間加熱して形成することができる。
【0027】
本実施形態のペロブスカイト太陽電池100は、多孔質不導体酸化物層114と多孔質カーボン電極層116との間に多孔質ニッケル酸化物層115を有している。多孔質ニッケル酸化物層115を形成することにより、正孔の抽出効率が上昇し、電流損失を低減できる。これにより、短絡電流密度を向上することができるので光電変換効率が向上する。また、多孔質カーボン電極層116がニッケル酸化物ナノ粒子117を含むため、ニッケル酸化物ナノ粒子を含まない場合と比べて,価電子帯上端の状態密度の仕事関数を酸化ニッケルがマイナス側にシフトさせてペロブスカイト結晶の状態密度に近づけることができるため、開放電圧を向上させることができる。このため、光電変換効率をさらに向上させることができる。
【0028】
短絡電流密度を向上させる観点から、多孔質ニッケル酸化物層115の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上で、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.8μm以下である。また、開放電圧を向上させる観点から、ニッケル酸化物ナノ粒子の多孔質カーボン電極層116全体に対する割合(濃度)は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上で、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0029】
本実施形態のペロブスカイト太陽電池100は、多孔質層101である、多孔質カーボン電極層116、多孔質ニッケル酸化物層115、多孔質不導体酸化物層114及び多孔質電子輸送材料層113がペロブスカイト結晶を含んでいる。ペロブスカイト結晶は、一般式ABX3により表される有機金属ハロゲンペロブスカイト結晶を用いることができる。ここで、Aサイトは電荷中性を保つための一価のカチオンであり、Bサイトは鉛、スズ、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、パラジウム、カドミウム、ゲルマニウム、セシウム、又はユーロピウム等の二価カチオンであり、Xサイトはハロゲンである。Aサイトは、例えばメチルアンモニウム(CH3NH3)が好ましく、Bサイトは、例えば鉛(Pb)が好ましい。ハロゲンはヨウ素、塩素及び臭素を用いることができ、中でもヨウ素が好ましい。
【0030】
ペロブスカイト結晶103は、塗布及び焼成により各層を順次形成した後、ペロブスカイト結晶の前駆体の溶液を多孔質カーボン電極層116に滴下して各層に浸透させた後、50℃で加熱乾燥することにより形成することができる。このようにすれば、空隙内にペロブスカイト結晶103が充填された多孔質層101を容易に形成することができる。ペロブスカイト結晶の前駆体の溶液は、例えば、ヨウ化鉛(PbI2)、ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)、5-アミノ吉草酸ヨウ化水素酸塩(5-AVAI)、及びガンマブチロラクトンを含む溶液を加熱攪拌して形成することができる。
【実施例0031】
本開示のペロブスカイト太陽電池について、実施例を用いてさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、発明を限定することを意図しない。
【0032】
<ペロブスカイト太陽電池の形成>
導電面をパターニングしたFTOガラス電極の表面を洗浄した後、チタン(ジ-i-プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)とエタノールの混合溶液をスプレー熱分解法により塗布して、酸化チタンからなる緻密電子輸送材料層を形成した。緻密電子輸送材料層の表面に酸化チタンのペーストをスクリーン印刷により塗布し、500℃で焼成して、多孔質電子輸送材料層を形成した。多孔質電子輸送材料層の表面に、酸化ジルコニウムのペーストと、ニッケル酸化物のペーストと、ニッケル酸化物、グラファイト、カーボンブラック、酸化ジルコニウム及び有機バインダー増粘剤を含むカーボンペーストとを順次塗布し、400℃で焼成して、多孔質不導体酸化物層、多孔質ニッケル酸化物層及び多孔質カーボン電極層を形成した。
【0033】
多孔質カーボン電極層に、ペロブスカイト前駆体溶液を滴下し、多孔質層にペロブスカイト前駆体溶液を含浸させた後、50℃で加熱乾燥して、ペロブスカイト太陽電池を形成した。ペロブスカイト前駆体溶液は、ヨウ化鉛、ヨウ化メチルアンモニウム、5-アミノ吉草酸ヨウ化水素酸塩及びガンマブチロラクトンの混合溶液とした。ニッケル酸化物粒子は、硝酸ニッケル水和物(Ni(NO3)2・6H2O)に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて,80℃で18時間加熱して形成したベータ水酸化ニッケル(β-Ni(OH)2)を270℃で2時間加熱して形成した。検討のため、多孔質ニッケル酸化物層を有していないペロブスカイト太陽電池、多孔質カーボン電極層にニッケル酸化物ナノ粒子を含まないペロブスカイト太陽電池を形成した。
【0034】
得られた多孔質カーボン電極層を、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。
図2に示すように、グラファイト及びカーボンブラックを含む多孔質カーボン電極層の空隙にニッケル酸化物ナノ粒子が充填されていた。
【0035】
<光電変換効率の測定>
作成した太陽電池について測定面積を0.09cm2として、電流密度-電圧測定を行い、測定結果に基づいて短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、及びフィルファクター(FF)を求め、これから光電変換効率(PCE)を算出した。
【0036】
<各層の効果>
厚さ1.0μmの多孔質ニッケル酸化物層と、ニッケル酸化物ナノ粒子を10質量%含む多孔質カーボン電極層を有する太陽電池(サンプル1)の場合、
図3に示すように、他のサンプルと比べて高い電圧まで、電流密度の低下が生じていない。サンプル1のPCEは15.3%であった。一方、多孔質ニッケル酸化物層を有していない太陽電池(サンプル2)、及び多孔質ニッケル酸化物層を有するが多孔質カーボン電極層にニッケル酸化物ナノ粒子を含まない太陽電池(サンプル3)のPCEは、いずれも14.6%であった、多孔質ニッケル酸化物層を有さず、多孔質カーボン電極層もニッケル酸化物ナノ粒子を含まない太陽電池(サンプル4)のPCEは、13.0%であった。
【0037】
【0038】
<多孔質ニッケル酸化物層の最適化>
多孔質ニッケル酸化物層の厚さを0.4μm、0.7μm、0.9μm、1.8μm、及び2.7μmとした場合の、厚さが0μmの場合のPCEにより規格化した規格化PCEは、それぞれ1.08、1.08、1.12、1.11及び1.00であった。
図4に多孔質ニッケル酸化物層の厚さと規格化PCEとの関係を示す。
【0039】
<ニッケル酸化物ナノ粒子濃度の最適化>
多孔質カーボン電極層に含まれるニッケルナノ粒子の濃度を、5質量%、10質量%、25質量%、及び50質量%とした場合に、濃度が0%の場合のPCEにより規格化した規格化PCEは、それぞれ1.04、1.12、0.96、及び0.65であった。
図5にニッケル酸化物ナノ粒子の濃度と規格化PCEとの関係を示す。
【0040】
<熱湿度耐久性の測定>
厚さ1.0μmの多孔質ニッケル酸化物層と、ニッケル酸化物ナノ粒子を10質量%含む多孔質カーボン電極層を有する太陽電池を封止し、温度85℃、湿度85%の条件で放置し、1000時間までの光電変換効率(PCE)を測定した。放置開始時(0時間)の値により規格化した規格化PCEの変化を
図6に示す。1000時間後の規格化PCEは、1.0であり、放置開始時からのPCEの低下は認められなかった。一方、多孔質カーボン電極層がニッケル酸化物ナノ粒子を含まない場合は、1000時間後の規格化PCEは0.9となりPCEの低下が認められた。