(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055162
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】親水撥油性膜組成物、親水撥油性不織布、膜形成用液組成物、膜形成用液組成物の製造方法及び親水撥油性不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240411BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240411BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240411BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20240411BHJP
D06M 13/08 20060101ALI20240411BHJP
C09D 123/08 20060101ALI20240411BHJP
C09D 133/08 20060101ALI20240411BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09K3/18
C09D201/00
C09D7/63
C09D7/43
D06M13/08
C09D123/08
C09D133/08
C09D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161868
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久実
(72)【発明者】
【氏名】永井 綺愛
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
4L033
【Fターム(参考)】
4H020BA21
4J038BA012
4J038CB051
4J038CB141
4J038CG141
4J038GA06
4J038HA556
4J038JA11
4J038NA06
4J038NA07
4J038PC10
4L033AB04
4L033AC03
4L033AC04
4L033BA05
4L033BA54
(57)【要約】
【課題】親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性に優れ、不織布などの布製品の繊維表面に付着させることによって、その布製品が有する風合いを過度に低下させずに上記の特性を向上させることができる親水撥油性膜組成物を提供する。
【解決手段】親水撥油性膜組成物は、フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)とを含み、前記フッ素系化合物(A)は、一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であって、前記バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、前記フッ素系化合物(A)、前記バインダ(B)及び前記増粘剤(C)の合計量に対して、前記フッ素系化合物(A)の含有率が2~20質量%の範囲内、前記バインダ(B)の含有率が60~97質量%の範囲内、前記増粘剤(C)の含有率が1~20質量%の範囲内にある親水撥油性膜組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)とを含み、
前記フッ素系化合物(A)は、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であって、前記バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、
前記フッ素系化合物(A)、前記バインダ(B)及び前記増粘剤(C)の合計量に対して、前記フッ素系化合物(A)の含有率が2質量%以上20質量%以下の範囲内、前記バインダ(B)の含有率が60質量%以上97質量%以下の範囲内、前記増粘剤(C)の含有率が1質量%以上20質量%以下の範囲内にある親水撥油性膜組成物。
【化1】
【化2】
上記一般式(1)及び(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数を表し、Xは、エーテル結合、エステル結合、CO-NR結合、O-CO-NR結合及びSO
2-NR結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい炭素数が1~10の炭化水素(Rは、水素原子または1価の炭化水素基を表す)を表し、Yは、ベタイン構造である親水性基を表す。
【請求項2】
前記バインダ(B)は、カルボキシル基を有するポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体又はアクリル樹脂である請求項1記載の親水撥油性膜組成物。
【請求項3】
前記増粘剤(C)は、層状無機化合物又は増粘多糖類である請求項1記載の親水撥油性膜組成物。
【請求項4】
不織布と、前記不織布の繊維表面に形成された請求項1に記載の親水撥油性膜組成物とを含み、前記親水撥油性膜組成物の付着量が0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内にある親水撥油性不織布。
【請求項5】
前記繊維表面に前記親水撥油性膜組成物が形成される前の不織布の曲げ応力に対する曲げ応力の変動率が75%以内である請求項4に記載の親水撥油性不織布。
【請求項6】
フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)と、溶媒(D)とを含み、
前記フッ素系化合物(A)は、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であって、
前記バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、
前記溶媒(D)は、炭素数が1~3の範囲内にある1種又は2種以上のアルコールと、水とを含み、
前記フッ素系化合物(A)、前記バインダ(B)及び前記増粘剤(C)の合計量に対して、前記フッ素系化合物(A)の含有率が2質量%以上20質量%以下の範囲内、前記バインダ(B)の含有率が60質量%以上97質量%以下の範囲内、前記増粘剤(C)の含有率が1質量%以上20質量%以下の範囲内にある膜形成用液組成物。
【化3】
【化4】
上記一般式(1)及び(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数を表し、Xは、エーテル結合、エステル結合、CO-NR結合、O-CO-NR結合及びSO
2-NR結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい炭素数が1~10の炭化水素(Rは、水素原子または1価の炭化水素基を表す)を表し、Yは、ベタイン構造である親水性基を表す。
【請求項7】
分散剤(E)を含む水に、フッ素系化合物(A)を分散させてフッ素系化合物(A)水性分散液を得るフッ素系化合物水性分散液作製工程と、
前記フッ素系化合物(A)水性分散液と、バインダ(B)を含有するバインダ(B)含有水性組成物と、増粘剤(C)を含有する増粘剤(C)含有水性組成物と、溶媒(D)とを混合する混合工程とを有し、
前記分散剤(E)は、ジカルボン酸、トリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸からな-る群より選ばれる少なくとも一種のカルボキシル基含有化合物であって、
前記フッ素系化合物(A)水性分散液の前記フッ素系化合物(A)に対する前記分散剤(E)の含有率が0.2質量%以上10質量%以下の範囲内である膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の膜形成用液組成物に、不織布をディッピングする含浸工程と、
前記ディッピングした不織布を脱液して、乾燥後の前記膜形成用液組成物の付着量が、0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内にある膜形成用液組成物含有不織布を得る脱液工程と、
前記膜形成用液組成物含有不織布を乾燥する乾燥工程と、
を有する親水撥油性不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水撥油性膜組成物、親水撥油性不織布、膜形成用液組成物、膜形成用液組成物の製造方法及び親水撥油性不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の繊維表面に親水撥油性膜組成物を付着させた親水撥油性不織布は、防汚機能を備えていて、油分による汚れが生じにくい。このため、親水撥油性不織布は、例えば、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇等において、油汚れを防止する分野並びに油水分離機能が求められる分野に用いられる。親水撥油性不織布の製造方法としては、親水撥油性膜形成用の液組成物に不織布をディッピングし、不織布の繊維表面に付着させた液組成物を乾燥する方法が用いられる。
【0003】
親水撥油性膜形成用の液組成物としては、親水撥油剤と、バインダ(造膜剤)と、溶媒とを含む液組成物が用いられる。親水撥油性膜形成用の液組成物としては、親水撥油剤として、ベタイン構造である親水性基を有するフッ素系化合物を用い、バインダとして、ポリアクリル酸を用いた液組成物が知られている(特許文献1)。また、親水撥油剤として、ベタイン構造である親水性基を有するフッ素系化合物を用い、バインダとして、自己反応型のカルボキシル基含有物及び/又はアセチル基含有物を用いた液組成物も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-132859号公報
【特許文献2】国際公開第2022/154134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油汚れを防止する分野並びに油水分離機能が求められる分野で利用する親水撥油性不織布は、長期間にわたって安定して親水撥油性を有することが好ましい。
しかしながら、特許文献1に記載されている親水撥油性膜成形用の液組成物において、バインダとして用いられているポリアクリル酸は水溶性である。このため、特許文献1に記載されている親水撥油性不織布は、水に対する耐久性が低く、擦り耐性が不十分となる場合があった。水に対する耐久性や擦り耐性を向上させるために、不織布の繊維表面への親水撥油性膜組成物の付着量を多くして、親水撥油性膜組成物の厚さを厚くすることが考えられる。しかしながら、親水撥油性膜組成物の付着量を多くしすぎると親水撥油性不織布の風合いが、不織布の風合いと比較して低下して、成形加工が難しくなることがある。
【0006】
また、特許文献2に記載されている親水撥油性膜成形用の液組成物において、バインダとして用いられている自己反応型のカルボキシル基及びアセチル基含有物は難水溶性である。しかしながら、カルボキシル基含有物及びアセチル基含有物は、不織布などの布製品に対する付着性が弱い。このため、バインダとして自己反応型のカルボキシル基含有物やアセチル基含有物を用いた膜形成用液組成物において膜成分の濃度を高めて、不織布の繊維表面に親水撥油性膜組成物を形成する必要があった。しかしながら、膜形成用液組成物の膜成分濃度を高くすると、親水撥油性膜組成物の付着量が多くなりすぎて、親水撥油性不織布の風合いが、不織布の風合いと比較して低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性に優れ、不織布などの布製品の繊維表面に付着させることによって、その布製品が有する風合いを過度に低下させずに上記の特性を向上させることができる親水撥油性膜組成物、並びにその親水撥油性膜組成物の製造に用いることができる膜形成用液組成物とその製造方法、さらに親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性が優れ、かつ風合いが良好な親水撥油性不織布とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の親水撥油性膜組成物は、フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)とを含み、前記フッ素系化合物(A)は、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であって、前記バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、前記フッ素系化合物(A)、前記バインダ(B)及び前記増粘剤(C)の合計量に対して、前記フッ素系化合物(A)の含有率が2質量%以上20質量%以下の範囲内、前記バインダ(B)の含有率が60質量%以上97質量%以下の範囲内、前記増粘剤(C)の含有率が1質量%以上20質量%以下の範囲内にある構成とされている。
【0009】
【0010】
上記一般式(1)及び(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数を表し、Xは、エーテル結合、エステル結合、CO-NR結合、O-CO-NR結合及びSO2-NR結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい炭素数が1~10の炭化水素(Rは、水素原子または1価の炭化水素基を表す)を表し、Yは、ベタイン構造である親水性基を表す。
【0011】
本発明の態様1の親水撥油性膜組成物によれば、フッ素系化合物(A)として、上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を上記の含有率で含むので、親水撥油性に優れたものとなる。また、バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、その含有率が上記の範囲内にあるので、水に溶解しにくく、かつ擦り特性が向上する。さらに増粘剤(C)を上記の含有率で含むので、不織布などの布製品の繊維表面に対する付着性が向上する。このため、態様1の親水撥油性膜組成物によれば、基材が不織布などの布製品である場合は、その布製品が有する風合いを過度に低下させない程度の付着量で、その布製品の親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性を向上させることができる。
【0012】
本発明の態様2は、態様1の親水撥油性膜組成物において、前記バインダ(B)は、カルボキシル基を有するポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体又はアクリル樹脂である構成とされている。
この場合、バインダ(B)が、カルボキシル基を有するポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体又はアクリル樹脂とされているので、親水撥油性膜組成物は水により溶解しにくくなり、水に対する耐久性がより向上する。
【0013】
本発明の態様3は、態様1または態様2の親水撥油性膜組成物において、前記増粘剤(C)は、層状無機化合物又は増粘多糖類である構成とされている。
この場合、増粘剤(C)が層状無機化合物又は増粘多糖類であり、フッ素系化合物(A)に対して不活性である。このため、フッ素系化合物(A)の性状を変えずに不織布などの布製品の繊維表面に対する付着性をより高くすることができる。
【0014】
本発明の態様4の親水撥油性不織布は、不織布と、前記不織布の繊維表面に付着させた態様1から3のいずれか1つに記載の親水撥油性膜組成物とを含み、前記親水撥油性膜組成物の付着量が0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内にある構成とされている。
【0015】
本発明の態様4の親水撥油性不織布によれば、不織布の繊維表面に上述の親水撥油性膜組成物を付着させているので、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性が向上する。また、親水撥油性膜組成物の付着量が上記の範囲内にあるので、基材となった不織布が有する風合いが損なわれない。
【0016】
本発明の態様5は、態様4の親水撥油性不織布において、前記繊維表面に前記親水撥油性膜組成物を付着させる前の不織布の曲げ応力に対する曲げ応力の変動率が75%以内である構成とされている。
この場合、親水撥油性膜組成物が付着した親水撥油性不織布は、基材である不織布の曲げ応力に対する曲げ応力の変動率が低いので基材となった不織布が有する風合いがより損なわれない。
【0017】
本発明の態様6の膜形成用液組成物は、フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)と、溶媒(D)とを含み、前記フッ素系化合物(A)は、上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であって、前記バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、前記溶媒(D)は、炭素数が1~3の範囲内にある1種又は2種以上のアルコールと、水とを含み、前記フッ素系化合物(A)、前記バインダ(B)及び前記増粘剤(C)の合計量に対して、前記フッ素系化合物(A)の含有率が2質量%以上20質量%以下の範囲内、前記バインダ(B)の含有率が60質量%以上97質量%以下の範囲内、前記増粘剤(C)の含有率が1質量%以上20質量%以下の範囲内にある構成とされている。
【0018】
本発明の態様6の膜形成用液組成物によれば、フッ素系化合物(A)として、上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を上記の含有率で含むので、この膜形成用液組成物を用いて形成した膜組成物は、親水撥油性に優れたものとなる。また、バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、その含有率が上記の範囲内とされているので、この膜形成用液組成物を用いて形成した膜組成物は、水に溶解しにくく、かつ擦り特性が向上する。
【0019】
また、増粘剤(C)を上記の含有率で含むので、膜形成用液組成物の粘度が高くなり、不織布などの布製品への膜形成用液組成物の付着性が向上する。さらに、溶媒(D)として炭素数が1~3の範囲内にあるアルコールと水とを含むので、フッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)を均一に分散させることができる。このため、本発明の膜形成用液組成物を用いることによって、布製品の繊維表面に付着させる膜組成物の量を少なくしても、厚さが薄く、且つ均一な親水撥油性膜組成物を形成することができる。よって、本実施形態の膜形成用液組成物を用いることによって、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性が優れ、かつ風合いが良好な親水撥油性不織布を得ることができる。
【0020】
本発明の態様7の膜形成用液組成物の製造方法は、分散剤(E)を含む水に、フッ素系化合物(A)を分散させてフッ素系化合物(A)水性分散液を得るフッ素系化合物分散液作製工程と、前記フッ素系化合物(A)水性分散液と、バインダ(B)を含有するバインダ含有水性組成物と、増粘剤(C)を含有する増粘剤(C)含有水性組成物と、溶媒(D)とを混合する混合工程とを有し、前記分散剤(E)は、ジカルボン酸、トリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボキシル基含有化合物であって、前記フッ素系化合物(A)水性分散液の前記フッ素系化合物(A)に対する前記分散剤(E)の含有率0.2質量%以上10質量%以下の範囲内である構成とされている。
【0021】
本発明の態様7の膜形成用液組成物の製造方法によれば、分散剤(E)を含む水に、フッ素系化合物(A)を分散させてフッ素系化合物(A)水性分散液を得るフッ素系化合物(A)水性分散液作製工程を含み、分散剤(E)は、ジカルボン酸、トリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボキシル基含有化合物であって、フッ素系化合物分散液は分散剤(E)を上記の含有率で含むので、フッ素系化合物(A)が均一に分散された膜形成用液組成物を製造することができる。
【0022】
本発明の態様8の親水撥油性不織布の製造方法は、本発明の態様5に記載の膜形成用液組成物に、不織布をディッピングして膜形成用液組成物含有不織布を得る含浸工程と、乾燥後の膜組成物の付着量が0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内となるように前記膜形成用液組成物含有不織布中の前記膜形成用液組成物を脱液する脱液工程と、脱液後の前記膜形成用液組成物含有不織布を乾燥する乾燥工程とを有する構成とされている。
【0023】
本発明の態様8の親水撥油性不織布の製造方法によれば、含浸工程において、膜形成用液組成物に不織布をディッピングするので、不織布の繊維表面に均一に上述の親水撥油性膜組成物を付着させることができ、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性に優れた親水撥油性不織布を安定して製造することができる。また、脱液工程において、乾燥後の膜形成用液組成物の付着量が0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内となるように膜形成用液組成物含有不織布中の膜形成用液組成物を脱液するので、風合いが良好な親水撥油性不織布を安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性が優れ、不織布などの布製品の繊維表面に付着させることによって、その布製品が有する風合いを過度に低下させずに上記の特性を向上させることができる親水撥油性膜組成物、並びにその親水撥油性膜組成物の製造に用いることができる膜形成用液組成物とその製造方法、さらに親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性に優れ、かつ風合いが良好な親水撥油性不織布とその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る膜形成用液組成物を製造する方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の一実施形態に係る実施形態について説明する。
【0027】
[膜形成用液組成物]
本実施形態の膜形成用液組成物は、フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)と、溶媒(D)とを含む。膜形成用液組成物は、さらに、分散剤(E)を含んでいてもよい。本実施形態の膜形成用液組成物は、親水撥油性膜組成物の原料として用いられる。本実施形態の膜形成用液組成物を不織布などの布製品に塗布して、布製品を構成する繊維表面に親水撥油性膜組成物を付着させることによって、布製品の親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性を向上させることができる。
【0028】
フッ素系化合物(A)は、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物とされている。
【0029】
【0030】
上記一般式(1)及び(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数を表し、Xは、エーテル結合、エステル結合、CO-NR結合、O-CO-NR結合及びSO2-NR結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい炭素数が1~10の炭化水素(Rは、水素原子または1価の炭化水素基を表す)を表し、Yは、ベタイン構造である親水性基を表す。
【0031】
一般式(1)で表されるフッ素系化合物(A)のペルフルオロエーテル基(CpF2P+1-O-CqF2q-O-CrF2r-)の例としては、下記式(3)~(7)で示される基を挙げることができる。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
一般式(2)で表されるフッ素系化合物(A)のペルフルオロエーテル基(CpF2P+1-O-CqF2q)の例としては、下記式(8)~(11)で示される基を挙げることができる。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
上記一般式(1)又は一般式(2)中のXとしては、下記式(12)~(16)で示される2価の基を挙げることができる。なお、下記式(12)はエーテル結合、下記式(13)はエステル結合、下記式(14)はCO-NR結合、下記式(15)はO-CO-NR結合、下記式(16)はSO2-NR結合を含む2価の基を示している。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
上記式(12)~(16)中、R2及びR3は、一方が単結合で他方が2価の炭化水素基もしくは両方がそれぞれ独立して2価の炭化水素基を表す。R2は、ペルフルオロエーテル基と接続され、R3は、親水性基と接続される。2価の炭化水素基は、特に限定されないが、炭素数が1~10の範囲内にあることが好ましい。2価の炭化水素基は、鎖状炭化水素基であってもよいし、環状炭化水素基であってもよいし、鎖状炭化水素基と環状炭化水素基とを組み合わせた基であってもよい。また、2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。2価の炭化水素基の例としては、アルキレン基、フェニレン基、アルキレン基とフェニレン基とを組み合わせた基を挙げることができる。アルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基を挙げることができる。R2及びR3の一方が単結合で他方が2価の炭化水素基である場合、R2が単結合であってもよい。
【0049】
式(14)~(16)中、Rは、水素原子または1価の炭化水素基を表す。1価の炭化水素基は、特に限定されないが、炭素数が1~6の範囲内にあることが好ましい。1価の炭化水素基は、鎖状炭化水素基であってもよいし、環状炭化水素基であってもよいし、鎖状炭化水素基と環状炭化水素基とを組み合わせた基であってもよい。また、2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。1価の炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基、ビニル基等を挙げることができる。
【0050】
上記一般式(1)又は一般式(2)中のYで表される親水性基のベタイン構造は、特に制限はない。ベタイン構造の例としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型、フォスフォベタイン型等を挙げることができる。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
バインダ(B)は、例えば、親水撥油性膜組成物を形成する際に、フッ素系化合物(A)同士を結び付けると共に、親水撥油性膜組成物を不織布などの基材に接着させる機能を有する。バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーとされていて、水と任意に混和させることができるものである。バインダ(B)の平均粒子径は、限定されるものでないが1μm以下であることが好ましい。バインダ(B)としては、例えば、カルボキシル基を有するポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体、アクリル樹脂を用いることができる。アクリル樹脂を水に分散させた分散液は、pHが8.0~9.0の弱アルカリ性を示してもよい。
【0058】
増粘剤(C)は、例えば、膜形成用液組成物の粘度を調整する機能を有する。増粘剤(C)としては、増粘多糖類及び難水溶性の層状無機化合物を用いることができる。水溶性の増粘多糖類の例としては、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、デキストリン、カラギーナン、グァーガム、ペクチン等を挙げることができる。キサンタンガムとしては、キサンタンG(三晶株式会社製)が例示される。難水溶性の層状無機化合物の例としては、ベントナイト(商品名:モイストナイトS、クニミネ工業社製)、スメクトナイト(商品名:スメクトンSA、クニミネ工業社製)、ヘクトライト(商品名:ラポナイトRDS、ロックウッド社製)等を挙げることができる。これらの層状無機化合物は粒子状であって、好ましくは0.1μm~10μmの平均粒子径を有する。平均粒子径が0.1μm未満又は10μmを超えると、水分散液になりにくい。膜形成用液組成物の粘度は、特に限定されないが、25℃で0.5mPa・s以上、20mPa・s以下の範囲内であることが好ましく、1mPa・s以上、10mPa・s以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0059】
溶媒(D)は、炭素数が1~3の範囲内にある1種又は2種以上のアルコールと、水とを含む混合溶媒である。アルコールと水との割合は、例えば、質量比で0.45:99.55~0.60:99.40の範囲内にある。溶媒(D)は、アルコール及び水以外の他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒としては、炭素数が4以上のアルコール、グリコール、ケトン等を挙げることができる。他の溶媒の含有量は、例えば、溶媒の全体量に対して10質量%以下であってもよい。
【0060】
分散剤(E)は、例えば、フッ素系化合物(A)の溶媒(D)に対する分散性を向上させる機能を有する。分散剤(E)としては、カルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸、カルボキシル基と水酸基とを有するヒドロキシカルボン酸を用いることができる。カルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸は、ジカルボン酸またはトリカルボン酸であってもよい。ジカルボン酸の例としては、コハク酸、マレイン酸を挙げることができる。トリカルボン酸の例としてはクエン酸を挙げることができる。ヒドロキシカルボン酸の例としては、グルコン酸を挙げることができる。分散剤(E)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
膜形成用液組成物中のフッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)の合計濃度(以下、膜成分濃度ともいう)は、例えば、0.02質量%以上0.50質量%以下の範囲内にある。膜成分濃度が低くなりすぎると、不織布などの布製品の繊維表面に塗布したときに親水撥油性が発現しないおそれがある。膜成分濃度が高くなりすぎると、布製品の繊維表面に塗布する際に、膜成分の付着量が多くなりやすく、不織布の風合いを損なわずに、膜厚が薄く、且つ均一な膜組成物を形成するのが困難となるおそれがある。膜成分濃度は、特に限定されないが、0.03質量%以上0.45質量%以下の範囲内にあることが好ましく、0.04質量%以上0.40質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0062】
膜形成用液組成物中のフッ素系化合物(A)の含有率は、フッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)の合計量に対して、2質量%以上20質量%以下の範囲内とされている。フッ素系化合物(A)の含有率が少なくなりすぎると、膜組成物としたときの親水撥油性が低下するおそれがある。フッ素系化合物(A)の含有率が多くなりすぎると、膜組成物としたときにフッ素系化合物(A)が膜組成物から脱落しやすくなるおそれがある。フッ素系化合物(A)の含有率は、特に限定されないが、2.5質量%以上19.5質量%以下の範囲内にあることが好ましく、3.0質量%以上19.0質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0063】
膜形成用液組成物中のバインダ(B)の含有率は、フッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)の合計量に対して、60質量%以上97質量%以下の範囲内とされている。バインダ(B)の含有率は、特に限定されないが、62.0質量%以上96.5質量%以下の範囲内にあることが好ましく、65.0質量%以上96.0質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0064】
膜形成用液組成物中の増粘剤(C)の含有率は、フッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)の合計量に対して、1質量%以上20質量%以下の範囲内とされている。増粘剤(C)の含有率は、特に限定されないが、1.1質量%以上19.0質量%以下の範囲内にあることが好ましく、1.2質量%以上18.0質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0065】
膜形成用液組成物中の溶媒(D)の含有率は、例えば、80.0質量%以上99.5質量%以下の範囲内にある。溶媒(D)の含有率は、特に限定されないが、82.5質量%以上99.0質量%以下の範囲内にあることが好ましく、85.0質量%以上98.5質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0066】
分散剤(E)の含有率は、例えば、フッ素系化合物(A)の含有量に対して0.2質量%以上10質量%以下の範囲内にある。分散剤(E)の含有率が少なくなりすぎると、フッ素系化合物(A)の分散性が不十分となるおそれがある。一方、分散剤(E)の含有率が多くなりすぎると、フッ素系化合物(A)の分散性が不安定となるおそれがある。分散剤(E)の含有率は、特に限定されないが、0.3質量%以上9.0質量%以下の範囲内にあることが好ましく、0.5質量%以上8.5質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0067】
次に、本実施形態の膜形成用液組成物の製造方法について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る膜形成用液組成物を製造する方法を示すフロー図である。
【0068】
図1に示す膜形成用液組成物100の製造方法は、フッ素系化合物(A)水性分散液10を作製するフッ素系化合物(A)水性分散液作製工程と、バインダ(B)を含有するバインダ(B)含有水性組成物20を用意する工程と、増粘剤(C)を含有する増粘剤(C)含有水性組成物30を作製する増粘剤(C)含有水性組成物作製工程と、溶媒(D)40を用意する工程と、フッ素系化合物(A)水性分散液10、バインダ(B)含有水性組成物20、増粘剤(C)含有水性組成物30及び溶媒(D)40を混合する混合工程とを有する。
【0069】
フッ素系化合物(A)水性分散液作製工程では、分散剤(E)11と水12とを混合して、分散剤(E)水溶液13を作製する。また、フッ素系化合物(A)14とアルコール15とを混合して、フッ素化合物(A)のアルコール溶液16を作製する。次いで、分散剤(E)水溶液13とフッ素化合物(A)のアルコール溶液16とを混合して、フッ素化合物(A)を析出させて、フッ素系化合物(A)水性分散液10を得る。分散剤(E)11は、ジカルボン酸、トリカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種のカルボキシル基含有化合物であってもよい。フッ素系化合物(A)水性分散液10の分散剤(E)11の含有率は、フッ素系化合物(A)14の含有量に対して0.2質量%以上10質量%以下の範囲内にあってもよい。分散剤(E)水溶液13とフッ素化合物(A)のアルコール溶液16との混合方法には、特に制限はなく、例えば、分散剤(E)水溶液13を攪拌しながら、その分散剤(E)水溶液13にフッ素系化合物(A)のアルコール溶液16を滴下する方法を用いることができる。
【0070】
バインダ(B)含有水性組成物20は、例えば、バインダ(B)の水分散液(エマルジョン)もしくは乳化液であってもよい。バインダ(B)含有水性組成物20としては、カルボキシル基を有するポリオレフィン系水分散液、エチレン-酢酸ビニル共重合体の自己乳化液、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体の自己乳化液、アクリルエマルジョンを用いることができる。カルボキシル基を有するポリオレフィン系水分散液としては、ザイクセンA、ザイクセンL、ザイクセンN(いずれも住友精化株式会社製)を用いることができる。エチレン-酢酸ビニル共重合体の自己乳化液としては、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(スミカフレックス355HQ、スミカフレックス401Q、いずれも住友化学株式会社製)エチレン-酢酸ビニル-バーサチック酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(スミカフレックス950HQ、住友化学株式会社製)、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合樹脂エマルジョン(スミカフレックス830、住友化学株式会社製)を用いることができる。エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体の自己乳化液としては、スミカフレックスS-900HL(住友化学社製)を用いることができる。アクリルエマルジョンとしては、TOCRYL BCX-1160R-2(トーヨーケム株式会社製)を用いることができる。
【0071】
増粘剤(C)含有水性組成物30は、例えば、増粘剤(C)の水溶液もしくは水分散液であってもよい。増粘剤(C)含有水性組成物作製工程では、増粘剤(C)31と水32とを混合して、増粘剤(C)含有水性組成物30を作製する。
【0072】
混合工程において、フッ素系化合物(A)水性分散液10、バインダ(B)含有水性組成物20、増粘剤(C)含有水性組成物30及び溶媒(D)40を混合する方法には、特に制限はない。例えば、バインダ(B)含有水性組成物20と溶媒(D)との混合物に、フッ素系化合物(A)水性分散液10に加えて混合し、次いで、増粘剤(C)含有水性組成物30を加えて混合する方法を用いてもよい。
以上のようにして得られた膜形成用液組成物100は、さらに、必要に応じて溶媒(D)を添加して、膜成分濃度を調整してもよい。
【0073】
以上のような構成とされた本実施形態の膜形成用液組成物によれば、フッ素系化合物(A)として、上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を上記の含有率で含むので、この膜形成用液組成物を用いて形成した膜組成物は、親水撥油性に優れたものとなる。また、バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、バインダ(B)を上記の含有率で含むので、この膜形成用液組成物を用いて形成した膜組成物は、水に溶解しにくくなり、擦り特性が向上する。また、増粘剤(C)を上記の含有率で含むので、膜形成用液組成物の粘度が高くなり、不織布などの布製品への膜形成用液組成物の付着性が向上する。さらに、溶媒(D)として炭素数が1~3の範囲内にあるアルコールと水とを含むので、フッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)を均一に分散させることができる。このため、本実施形態の膜形成用液組成物を用いることによって、布製品の繊維表面に付着させる膜組成物の量を少なくしても、不織布の風合いを損なわずに、厚さが薄く、且つ均一な親水撥油性膜組成物を形成することができる。よって、本実施形態の膜形成用液組成物を用いることによって、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性が優れ、かつ風合いが良好な親水撥油性不織布を得ることができる。
【0074】
本実施形態の膜形成用液組成物において、バインダ(B)が、カルボキシル基を有するポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である場合は、この膜形成用液組成物を用いて形成した膜組成物は、水により溶解しにくくなるので、水に対する耐久性がより向上する。また、本実施形態の膜形成用液組成物において、増粘剤(C)が層状無機化合物又は増粘多糖類である場合は、フッ素系化合物(A)に対して不活性であるので、フッ素系化合物(A)の性状を変えずに、膜形成用液組成物の粘度を調整することができる。
【0075】
本実施形態の膜形成用液組成物の製造方法によれば、分散剤(E)水溶液13とフッ素化合物(A)のアルコール溶液16とを混合して、フッ素化合物(A)を析出させて、フッ素系化合物(A)水性分散液10を得るフッ素系化合物(A)分散液作製工程を含むので、フッ素化合物(A)が均一に分散した膜形成用液組成物100を製造することができる。なお、
図1に示す膜形成用液組成物の製造方法においては、増粘剤(C)31と水32とを混合して、増粘剤(C)含有水性組成物30を作製しているが、市販の増粘剤(C)含有水性組成物を用いてもよい。
【0076】
[親水撥油性膜組成物]
本実施形態の親水撥油性膜組成物は、フッ素系化合物(A)と、バインダ(B)と、増粘剤(C)と、溶媒(D)とを含む膜形成用液組成物の硬化物である。親水撥油性膜組成物は、例えば、膜形成用液組成物の溶媒(D)を除去することによって形成された硬化物であってもよい。溶媒(D)を除去する方法として、例えば、常圧加熱、減圧加熱などを用いることができる。
【0077】
本実施形態の親水撥油性膜組成物は、マトリックス成分と、マトリックス成分に分散されているフッ素系化合物(A)とを含む構成とされていてもよい。マトリックス成分はバインダ(B)と増粘剤(C)を含有する。マトリックス成分は、分散剤(E)を含有していてもよい。
【0078】
親水撥油性膜組成物は、例えば、基材の表面に、上述の膜形成用液組成物を塗布し、膜形成用液組成物の溶媒(D)を除去することによって製造することができる。膜組成物用液組成物の塗布方法としては、例えば、ディッピング法、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、スピン法、刷毛塗り法等を用いることができる。
【0079】
以上のような構成とされた本実施形態の親水撥油性膜組成物によれば、フッ素系化合物(A)として、上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を上記の含有率で含むので、親水撥油性に優れたものとなる。また、バインダ(B)は、カルボキシル基及びアセチル基の少なくとも一方を含有するポリマーであり、その含有率が上記の範囲内にあるので、水に溶解しにくく、かつ擦り特性が向上する。さらに増粘剤(C)を上記の含有率で含むので、不織布などの布製品の繊維表面に対する付着性が向上する。このため、本実施形態の親水撥油性膜組成物によれば、基材が布製品である場合は、その布製品が有する風合いを過度に低下させない程度の付着量で、その布製品の親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性を向上させることができる。
【0080】
本実施形態の親水撥油性膜組成物において、バインダ(B)が、カルボキシル基を有するポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体又はアクリル樹脂である場合は、水により溶解しにくくなるので、水に対する耐久性がより向上する。また、本実施形態の親水撥油性膜組成物において、増粘剤(C)が層状無機化合物又は増粘多糖類である場合は、フッ素系化合物(A)に対して不活性であるので、フッ素系化合物(A)の性状を変えずに不織布などの布製品の繊維表面に対する付着性をより高くすることができる。
【0081】
[親水撥油性不織布]
本実施形態の親水撥油性不織布は、不織布と、不織布の繊維表面に形成された上述の親水撥油性膜組成物とを含む。親水撥油性不織布の親水撥油性膜組成物の付着量は、0.02g/m2以上0.50g/m2以下の範囲内とされている。親水撥油性膜組成物の付着量が少なくなりすぎると、親水撥油性が低下するおそれがある。一方、親水撥油性膜組成物の付着量が多くなりすぎると、風合いが低下するおそれがある。親水撥油性膜組成物の付着量は、0.03g/m2以上0.45g/m2以下の範囲内にあることが好ましく、0.05g/m2以上0.40g/m2以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0082】
親水撥油性不織布は、繊維表面に親水撥油性膜組成物を付着させる前の基材となった不織布の曲げ応力に対する曲げ応力の変動率は75%以内であってもよい。曲げ応力の変動率は、下記の式より算出した値である。変動率は、特に制限はないが、70%以内であることが好ましく、65%以内であることがより好ましい。
変動率(%)=(Y-X)/X×100
(Xは、繊維表面に膜組成物を付着させる前の不織布の曲げ応力を表し、Yは、繊維表面に膜組成物を付着させる不織布の曲げ応力を表す。)
【0083】
親水撥油性不織布は、例えば、含浸工程と、脱液工程と、乾燥工程とを有する方法によって製造することができる。
含浸工程は、上述の膜形成用液組成物に、不織布をディッピングして膜形成用液組成物含有不織布を得る工程である。
【0084】
脱液工程は、膜形成用液組成物含有不織布を脱液して、乾燥後の膜形成組成物の付着量が0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内となるように調整する工程である。ディッピングした不織布を脱液する方法としては、例えば不織布を絞る、ローラーを用いて脱液する方法がある。
【0085】
乾燥工程は、膜形成用液組成物含有不織布を乾燥する工程である。膜形成用液組成物含有不織布の乾燥方法としては、例えば、常圧加熱、減圧加熱などを用いることができる。
【0086】
以上のような構成とされた本実施形態の親水撥油性不織布によれば、不織布の繊維表面に上述の親水撥油性膜組成物を付着させているので、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性が向上する。また、本実施形態の親水撥油性不織布は、親水撥油性膜組成物の付着量が上記の範囲内にあるので、基材となった不織布が有する風合いが損なわれない。また、本実施形態の親水撥油性不織布において、繊維表面に親水撥油性膜組成物が形成される前の基材となった不織布の曲げ応力に対する曲げ応力の変動率が上記の範囲にある場合は、曲げ応力の変動率が低く、基材となった不織布が有する風合いがより損なわれない。
【0087】
本実施形態の親水撥油性不織布の製造方法によれば、含浸工程において、膜形成用液組成物に不織布をディッピングするので、不織布の繊維表面に均一に上述の親水撥油性膜組成物を付着させることができ、親水撥油性、水に対する耐久性及び擦り耐性などの特性に優れた親水撥油性不織布を安定して製造することができる。また、乾燥後の膜組成物の付着量を調整する工程である脱液工程において、膜形成用液組成物の付着量が0.02g/m2以上0.5g/m2以下の範囲内となるように膜形成用液組成物含有不織布中の膜形成用液組成物を脱液するので、風合いが良好な親水撥油性不織布を安定して製造することができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0089】
[本発明例1]
(1)フッ素系化合物分散液の作製
フッ素系化合物(A)として、上記の式(17)のフッ素系ベタイン化合物を用意した。このフッ素系ベタイン化合物をエタノールに溶解して、濃度50質量%のフッ素系化合物エタノール溶液を作製した。
【0090】
500mLビーカーに、水163.6gと、分散剤(E)としてマレイン酸1.4gとを入れて、攪拌機で攪拌混合してマレイン酸水溶液とした。このマレイン酸水溶液を攪拌しながら、マレイン酸水溶液に、上記のフッ素系化合物エタノール溶液を55.0g添加し、フッ素系化合物を析出させた。フッ素系化合物エタノール溶液の添加後、さらに30分間撹拌を続けて、フッ素系化合物分散液を作製した。フッ素系化合物分散液中のフッ素系化合物に対するマレイン酸の添加量は5質量%である。
【0091】
(2)膜形成用液組成物の作製
増粘剤(C)して、ベントナイト(モイストナイトS、クニミネ工業株式会社製)を用意した。このベントナイトを水に分散させて、濃度0.5質量%のベントナイト水分散液(増粘剤含有水性組成物)を作製した。
【0092】
500mLビーカーに、水91.38gと、バインダ含有水性組成物としてエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(スミカフレックス355HQ、不揮発分55%、住友化学株式会社製)0.32gと、上記(1)で作製したフッ素系化合物分散液0.30gを入れて、攪拌機で攪拌混合した。次いで、得られた混合液を攪拌しながら、混合液に、上記のベントナイト水分散液7.50gと工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業株式会社製)0.5gとを添加して、膜形成用液組成物を得た。
【0093】
[本発明例2~7、比較例1~5]
(1)フッ素系化合物分散液の作製において、フッ素系化合物(A)の種類、分散剤(E)の種類と添加量、水の添加量を、下記の表1に記載したように変えたこと以外は、本発明例1と同様にしてフッ素系化合物分散液を作製した。
次いで、(2)膜形成用液組成物の作製において、バインダ含有水性組成物及び増粘剤(C)の種類を、下記の表2に記載したものに変えたこと以外は、本発明例1と同様にして膜形成用液組成物を作製した。
【0094】
表2中、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンAは、スミカフレックス355HQ(住友化学株式会社製、平均粒子径:0.7μm)であり、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンBは、スミカフレックス401HQ(住友化学株式会社製、平均粒子径:0.8μm)であり、エチレン-酢酸ビニル-バーサチック酸ビニル共重合樹脂エマルジョンは、スミカフレックス950HQ(住友化学株式会社製、平均粒子径:0.6μm)であり、アクリルエマルジョンは、TOCRYL BCX-1160R-2(トーヨーケム株式会社製)であり、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合樹脂エマルジョンは、スミカフレックス830(住友化学株式会社製、平均粒子径:0.5μm)であり、ポリオレフィン系水性ディスパージョンAは、ザイクセンN(住友精化株式会社製、平均粒子径:0.2μm以下)であり、ポリオレフィン系水性ディスパージョンBは、ザイクセンL(住友精化株式会社製、平均粒子径:0.2μm以下)である。また、ベントナイトは、モイストナイトS(クニミネ工業株式会社製)であり、キサンタンガムは、キサンタンG(三晶株式会社製)であり、セルロース誘導体は、メトローズSM-15(信越化学工業株式会社製)であり、スメクトンは、スメクトンSA(クニミネ工業株式会社製)であり、合成ヘクトライトは、ラポナイトRDS(BYK社製)である。
【0095】
【0096】
【0097】
[評価]
本発明例1~7及び比較例1~5で用いたフッ素系化合物(A)分散液と、バインダ(B)含有水性組成物、増粘剤(C)及び溶媒(D)の合計量を100質量部とした各材料の配合量と、得られた膜形成用液組成物の組成を、表3に示す。
また、本発明例1~7及び比較例1~5で得られた膜形成用液組成物を用いて、下記の方法により、不織布の繊維表面に膜組成物を形成して、膜組成物付き不織布を作製した。そして、得られた膜組成物付き不織布について、下記の評価を行った。
【0098】
(膜組成物付きの不織布の作製方法)
ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維とガラス繊維とからなる不織布(商品名:336、安積濾紙株式会社製)を用意した。この不織布(50mm×80mm、厚み0.4mm)を、本発明例1~7及び比較例1~5で得られた膜形成用液組成物のそれぞれにディッピングして、膜形成用液組成物含有不織布を得た。次いで、膜形成用液組成物から取り出した不織布を、ローラーで液切りして、過剰の膜形成用液組成物を脱液した後、室温(25±3℃)で24時間乾燥して、膜組成物付きの不織布を作製した。得られた膜組成物付き不織布の膜組成物の付着量を表4に示す。なお、付着量は、膜組成物付きの不織布の重量からディッピングする前の不織布の重量を差し引いた値である。
【0099】
(濡れ性)
膜組成物付きの不織布の水に対する濡れ性とn-ヘキサデカン(油)に対する濡れ性を、次のようにして評価した。その結果を表4に示す。
水の濡れ性は、膜組成物付きの不織布に水を200μL滴下し、水の浸透性を観察することによって測定した。水を滴下してから1分以内に、水が浸透したものを良好とし、水が浸透しなかったものを不良とした。
n-ヘキサデカンの濡れ性は、膜組成物付きの不織布にn-ヘキサデカンを200μL滴下し、n-ヘキサデカンの浸透性を観察することによって測定した。n-ヘキサデカンを滴下してから1分以内に、n-ヘキサデカンが浸透しなかったものを良好とし、n-ヘキサデカンが浸透したものを不良とした。
【0100】
(曲げ応力)
ディッピングする前の不織布(不織布単体)と膜組成物付き不織布とについて、3点曲げ試験を行って曲げ応力を測定した。測定装置は、東洋精機社製の万能材料試験機ストログラフVG20Fを用い、直線形曲げ治具F-0(圧子及び支点の半径R5mm)を支点間距離15mmで取り付けた。2つに分かれた支持台の中央に試験片(不織布)を設置し、上方から速度5mm/分で圧子を降下させた際の試験片の曲げ応力を測定した。測定環境は、温度23℃、相対湿度:50%とした。その結果を表4に示す。
【0101】
(風合い)
不織布単体の曲げ応力に対する不織布の膜組成物付き不織布の曲げ応力の変動率が75%以下のものを良好とし、75%を超えたものを不良とした。その結果を表4に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
表4に示す評価結果から明らかなように、フッ素系化合物(A)、バインダ(B)及び増粘剤(C)の含有率が本発明の範囲内にある膜形成用液組成物を用いて製造し、且つ膜組成物の付着量が本発明の範囲内にある本発明例1~7の膜組成物付きの不織布は、親水撥油性を有し、且つ風合いが良好であることが確認された。これに対して、フッ素系化合物(A)及び増粘剤(C)の含有率が本発明の範囲よりも少なく、バインダ(B)の含有率が本発明の範囲を超える膜形成用液組成物を用いて製造した比較例1の膜組成物付きの不織布は、親水撥油性が発現しなかった。また、フッ素系化合物(A)及び増粘剤(C)の含有率が本発明の範囲を超え、バインダ(B)の含有率が本発明の範囲よりも少ない膜形成用液組成物を用いて製造した比較例2の膜組成物付きの不織布は、撥油性が発現せず、且つ風合いが不良となった。また、膜組成物の付着量が本発明の範囲を超える比較例3の膜組成物付きの不織布は、風合いが不良となった。また、膜組成物の付着量が本発明の範囲よりも少ない比較例4の膜組成物付きの不織布は、親水撥油性が発現しなかった。さらに、フッ素系化合物(A)及びバインダ(B)の含有率が本発明の範囲内にあり、増粘剤(C)を含まない膜形成用液組成物を用いて製造した比較例5の膜組成物付きの不織布は、親水撥油性が発現しなかった。これは、膜組成物の付着量が本発明の範囲より少なくなったためである。