(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005518
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】毛髪熱保護剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20240110BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240110BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240110BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/60
A61K8/49
A61Q5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105724
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真也
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC581
4C083AC582
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD201
4C083AD202
4C083EE29
(57)【要約】
【課題】これまでとは異なる成分又は保護機構等に基づく新規な毛髪熱保護剤を提供する。
【解決手段】本開示の毛髪熱保護剤は、ランチオニン形成抑制成分として、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種を含むか、或いは、中性アミノ酸を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランチオニン形成抑制成分として、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、毛髪熱保護剤。
【請求項2】
中性アミノ酸を含む、毛髪熱保護剤。
【請求項3】
前記中性アミノ酸が、環状アミノ酸及びγ-アミノ酪酸からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の毛髪熱保護剤。
【請求項4】
前記環状アミノ酸が、ヒドロキシプロリンである、請求項1又は3に記載の毛髪熱保護剤。
【請求項5】
前記環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種が、前記毛髪熱保護剤に0.001質量%以上含まれている、請求項1に記載の毛髪熱保護剤。
【請求項6】
前記中性アミノ酸が、前記毛髪熱保護剤に0.001質量%以上含まれている、請求項2又は3に記載の毛髪熱保護剤。
【請求項7】
ランチオニン形成抑制成分である、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種の毛髪熱保護剤としての使用。
【請求項8】
中性アミノ酸の毛髪熱保護剤としての使用。
【請求項9】
前記毛髪熱保護剤が、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する熱処理の前処理剤である、請求項7又は8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、毛髪熱保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、毛髪を保護したり或いは補修したりするための毛髪用組成物が開発されている。
【0003】
特許文献1には、エトキシジグリコールとシクロヘキサンジカルボン酸のジエステルと、引火点が180℃以上又は熱発生ヘアケア器具の使用温度以上であるジメチコンコポリオールとを含有する、熱ダメージケア用毛髪化粧料が開示されている。
【0004】
特許文献2には、(A)トレハロース、キシロース、キシリトール及びマルチトールから選ばれた少なくも一種、並びに(B)酸化エチレンの平均付加モル数が6以上であるポリエチレングリコールが配合された、毛髪用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、グルタミン酸及びトリメチルグリシンから選択される少なくとも一種を含み、80℃以上の温度で熱処理される毛髪に対して熱処理前に適用される、毛髪熱保護剤が開示されている。
【0006】
特許文献4には、タンパク質加水分解物、タンパク質加水分解物誘導体、及びポリアミノ酸からなる群から選ばれる1種以上を含有する、毛髪用熱保護剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-015440号公報
【特許文献2】特開2018-111693号公報
【特許文献3】特開2019-006694号公報
【特許文献4】特開2011-046632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、スタイリング、ストレートパーマ等の美容処理時に、ヘアアイロンなどが用いられ、これにより、毛髪には高温の熱が適用される。毛髪は高温の熱を受けると、例えば、毛髪内の構造が変化し、その結果、髪の触感が悪化したり、或いは、その後の美容処理において悪影響を及ぼしたりする場合があった。
【0009】
特許文献3にも記載されるように、従来から、毛髪を熱から保護するための毛髪熱保護剤が存在することは知られている。しかしながら、毛髪の種類には個人差等があるため、毛髪熱保護剤のバリエーションを増やし、種々の使用者の毛髪に対して最適な熱保護を提供し得るように、これまでとは異なる成分又は保護機構等に基づく新規な毛髪熱保護剤の開発が望まれていた。
【0010】
したがって、本開示の主題は、これまでとは異なる成分又は保護機構等に基づく新規な毛髪熱保護剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〈態様1〉
ランチオニン形成抑制成分として、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、毛髪熱保護剤。
〈態様2〉
中性アミノ酸を含む、毛髪熱保護剤。
〈態様3〉
前記中性アミノ酸が、環状アミノ酸及びγ-アミノ酪酸からなる群から選択される少なくとも一種である、態様2に記載の毛髪熱保護剤。
〈態様4〉
前記環状アミノ酸が、ヒドロキシプロリンである、態様1又は3に記載の毛髪熱保護剤。
〈態様5〉
前記環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種が、前記毛髪熱保護剤に0.001質量%以上含まれている、態様1に記載の毛髪熱保護剤。
〈態様6〉
前記中性アミノ酸が、前記毛髪熱保護剤に0.001質量%以上含まれている、態様2又は3に記載の毛髪熱保護剤。
〈態様7〉
ランチオニン形成抑制成分である、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種の毛髪熱保護剤としての使用。
〈態様8〉
中性アミノ酸の毛髪熱保護剤としての使用。
〈態様9〉
前記毛髪熱保護剤が、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する熱処理の前処理剤である、態様7又は8に記載の使用。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、これまでとは異なる成分又は保護機構等に基づく新規な毛髪熱保護剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0014】
本開示の毛髪熱保護剤(単に「保護剤」と称する場合がある。)は、ランチオニン形成抑制成分として、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種を含むか、或いは中性アミノ酸を含んでいる。また、本開示における「毛髪」とは、「体毛」と同義であり、体中のいかなる毛を包含する。具体的には、毛髪として、例えば、髪の毛、まつ毛、眉毛、及び髭などを挙げることができる。
【0015】
原理によって限定されるものではないが、本開示の保護剤が、毛髪を熱から保護し得る作用原理は以下のとおりであると考える。
【0016】
毛髪の熱によるダメージには、以下に示す2つの因子が影響すると考えられる:
(1)毛髪内部の規則性のあるタンパク質の鎖状構造体が、熱の影響を受けて変性し、絡み合って凝集する、構造的な因子。
(2)毛髪内部に存在するシスチン結合が、熱の影響を受けてランチオニン結合に変化する、化学的な因子。
【0017】
ここで、「シスチン結合」とは、毛髪中に存在する、システインというアミノ酸が2つ結合した形のシスチンにおいて、システインに含まれる硫黄原子と硫黄原子の間に形成された結合(S-S結合)を指す。シスチン結合は、毛髪に適度な強度と柔軟性を付与することができる。また、シスチン結合は、還元剤によりS-S結合を切断することができ、酸化剤により元のS-S結合に戻すことができる性能を有している。このように、シスチン結合は、還元剤及び酸化剤を用いることによって、結合状態を可逆的に変化させることができるため、パーマ処理等に利用されている。一方、「ランチオニン結合」は、シスチン結合の硫黄が1つ脱落した異常結合である。ランチオニン結合が増えると、毛髪が硬くなったり、毛髪の強度が低下したりする。また、シスチン結合からランチオニン結合への反応は不可逆反応であり、還元剤及び酸化剤を用いてもシスチン結合のような結合状態の可逆的な変化が生じないため、パーマ処理等に悪影響を及ぼし得る。
【0018】
熱の影響を受けると、まず(1)の構造的な因子が毛髪に対して発現し、続いて、高温の熱をさらに受けると、(2)の化学的な因子も発現してくると考えている。つまり、毛髪の熱保護は、例えば、毛髪に適用する熱処理の温度などに応じて対応が異なり、(1)の構造的な因子に対して作用すれば足りる場合もある一方で、(2)の化学的な因子に対しても作用した方が好ましい場合もある。
【0019】
本発明者は、アミノ酸の中でも中性アミノ酸が、(1)の構造的な因子を低減又は抑制する作用を奏することを見出し、また、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンは、(1)の構造的な因子及び(2)の化学的な因子の両方を低減又は抑制する作用を奏することを見出した。
【0020】
例えば、特許文献4に記載されるポリアミノ酸等の成分は、毛髪の表面に皮膜を形成して毛髪を保護している。一方、本開示の中性アミノ酸等の成分は、ポリアミノ酸よりも低分子量の成分であるため、毛髪の内部に浸透しやすい成分であると考えている。そして、浸透した中性アミノ酸は、少なくとも(1)の構造的な因子の低減又は抑制に対して作用し、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンにおいては、(1)の構造的な因子と(2)の化学的な因子の両方の低減又は抑制に対して作用すると考えている。
【0021】
《毛髪熱保護剤》
本開示の毛髪熱保護剤は、ランチオニン形成抑制成分として、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種を含むか、或いは中性アミノ酸を含んでいる。
【0022】
〈ランチオニン形成抑制成分〉
本開示において「ランチオニン形成抑制成分」とは、毛髪に熱を加えたときに、シスチン結合からランチオニン結合に変化することによって形成されるランチオニンの発生量を、保護剤を毛髪に適用していない場合に比べて低減し得る性能を有する成分を意図する。また、ランチオニン形成抑制成分は、上述した(1)の構造的な因子を低減又は抑制する性能も有し得る。ランチオニン形成抑制成分は、具体的には、ランチオニンの発生量を、保護剤を毛髪に適用していない場合に比べ、例えば、2/3以下、1/2以下、1/3以下、1/4以下、又は1/5以下に低減することができる。ここで、毛髪中のランチオニンの発生量は、後述する実施例に記載される装置及び方法により求めることができる。
【0023】
ランチオニン形成抑制成分(単に「抑制成分」と称する場合がある。)としては、環状アミノ酸及びN-アセチルグルコサミンからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0024】
抑制成分の配合量としては特に制限はなく、例えば、毛髪熱保護剤の全量に対し、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.50質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、又は3.0質量%以上とすることができる。抑制成分の配合量の上限値については特に制限はなく、例えば、10質量%以下、8.0質量%以下、又は5.0質量%以下とすることができる。
【0025】
(環状アミノ酸)
本開示において「環状アミノ酸」とは、環状構造を有するアミノ酸を意図し、「アミノ酸」とは、分子内に酸性基であるカルボキシル基と塩基性基であるアミノ基とを有する化合物を意図する。なお、本開示におけるアミノ酸には、ポリアミノ酸(例えば平均アミノ酸重合度が5以上、10以上、又は20以上のポリアミノ酸)は包含されない。
【0026】
環状アミノ酸の環状構造としては特に制限はなく、例えば、3員環、4員環、5員環、6員環、7員環、8員環、又はこれらの組み合わせなどを挙げることができる。本開示における「環状構造」には、芳香環(例えばベンゼン環)などの炭素原子で構成されている環の他、複素環(環を構成する原子として炭素原子以外の原子を有する環)なども包含する。例えば、環状構造には、アミノ基(例えばNH)が含まれていてもよく、或いは含まれていなくてもよい。ランチオニン形成の抑制効果及び熱凝集の抑制効果をより向上させる観点から、環状構造は、5員環又は6員環であることが好ましく、複素環であることがより好ましく、環状構造内にアミノ基が含まれていることが特に好ましい。
【0027】
抑制成分としての環状アミノ酸としては、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸、及び酸性アミノ酸のいずれでもかまわないが、ランチオニン形成の抑制効果及び熱凝集の抑制効果をより向上させる観点から、中性アミノ酸が好ましい。ここで、アミノ酸における塩基性、中性及び酸性の区別は、アミノ酸が有するカルボキシル基とアミノ基の数に基づいて区別することができる。例えば、カルボキシル基の数がアミノ基の数よりも多い場合には、そのアミノ酸は酸性アミノ酸と称することができ、カルボキシル基とアミノ基の数が同一である場合には、そのアミノ酸は中性アミノ酸と称することができ、カルボキシル基の数がアミノ基の数よりも少ない場合には、そのアミノ酸は塩基性アミノ酸と称することができる。なお、例えば、ヒスチジンの環状構造(イミダゾール基)に含まれるNHは、アミノ基としてカウントするが、Hを有さない単なるNはアミノ基としてはカウントしない。
【0028】
環状アミノ酸としては、具体的には、例えば、プロリン、ヒドロキシプロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、及びヒスチジンを挙げることができる。なかでも、ランチオニン形成の抑制効果及び熱凝集の抑制効果をより向上させる観点から、プロリン及びヒドロキシプロリンが好ましく、ヒドロキシプロリンがより好ましい。環状アミノ酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
〈中性アミノ酸〉
中性アミノ酸を含む毛髪熱保護剤は、少なくとも、上述した(1)の構造的な因子を低減又は抑制し得る性能を有している。
【0030】
中性アミノ酸の配合量としては特に制限はなく、例えば、毛髪熱保護剤の全量に対し、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.50質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、又は3.0質量%以上とすることができる。抑制成分の配合量の上限値については特に制限はなく、例えば、10質量%以下、8.0質量%以下、又は5.0質量%以下とすることができる。
【0031】
中性アミノ酸としては特に制限はなく、例えば、環状アミノ酸、及びγ-アミノ酪酸(一般には「GABA」と称される場合もある。)からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0032】
環状アミノ酸としては、上述した環状アミノ酸を同様に使用することができる。なかでも、熱凝集の抑制効果をより向上させる観点から、プロリン及びヒドロキシプロリンが好ましく、ヒドロキシプロリンがより好ましい。環状アミノ酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
〈任意成分〉
本開示の毛髪熱保護剤は、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、例えば、液体油脂、固体油脂、ロウ、高級脂肪酸、ローズヒップ油、ツバキ油等の油分、高級アルコール、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、シリコーン化多糖類等の皮膜形成剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、各種抽出液(例えばローヤルゼリーエキス)、糖、上記以外の他のアミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、キレート剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止助剤、噴射剤、還元剤、酸化剤、有機系粉末、顔料、染料、色素、香料、水、酸成分、アルカリ成分を挙げることができる。任意成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
〈剤型〉
本開示の毛髪熱保護剤の剤型としては特に制限はなく、本発明の効果を発揮し得る形態であればどのようなものでもよい。例えば、液状、乳液状、クリーム状、ジェル状、ミスト、スプレー、エアゾール、及びムースが挙げられる。
【0035】
〈使用形態〉
本開示の毛髪熱保護剤の使用形態としては特に制限なく、例えば、毛髪に熱を適用する処理の前処理剤として使用することができる。かかる使用形態として、具体的には、例えば、ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料、ヘアオイル、ヘアトリートメント、マスカラ、カラーリング剤、ブリーチ剤、スタイリング剤、及びパーマ剤を挙げることができる。これらの使用形態は、毛髪に熱を適用する処理の前処理剤としての機能も兼ね備えることができる。また、このような具体的な使用形態ではなく、単に、毛髪に熱を適用する処理の前処理剤として別途使用することもできる。なかでも、本開示の毛髪熱保護剤、特にはランチオニン形成抑制成分を含む毛髪熱保護剤は、パーマ処理に悪影響を及ぼすランチオニンの形成を低減又は抑制することができるため、パーマ剤又はパーマの前処理剤として使用することが有利である。
【0036】
ここで、パーマ剤とは、還元反応、酸化反応等の化学反応を利用して毛髪形状を変化させるために用いられる毛髪処理剤である。パーマ剤としては、例えば、毛髪をウェーブ状に形成するためのウェーブ剤(なかでも、熱も利用するホット系ウェーブ剤)、ウェーブ状等の毛髪を直毛に近づけるためのストレート剤が挙げられる。本開示の毛髪熱保護剤をパーマ剤として使用する場合には、かかる毛髪熱保護剤は、例えば、1剤式パーマ剤、2剤式パーマ剤の還元剤が配合された第1剤、及び2剤式パーマ剤の酸化剤が配合された第2剤のいずれであってもよい。
【0037】
本開示の毛髪熱保護剤は、かかる保護剤を備えるキットの形態で提供されてもよい。例えば、毛髪熱保護剤を毛髪に熱を適用する処理の前処理剤として使用する場合には、かかる前処理剤と、例えば、パーマ剤とを備えるキットとして提供してもよい。また、毛髪熱保護剤を、例えば、2剤式のパーマ剤の第1剤又は第2剤として使用する場合には、第1剤及び第2剤を備えるキットとして提供してもよい。
【0038】
《毛髪熱保護剤の使用方法》
上述したように、本開示のランチオニン形成抑制成分又は中性アミノ酸は、毛髪熱保護剤として使用することができる。
【0039】
本開示の毛髪熱保護剤は、毛髪の熱によるダメージを低減又は抑制することができる剤であるため、毛髪に熱を適用する前に、かかる保護剤を毛髪に適用することが有利である。保護剤を毛髪に適用した後に、毛髪を水洗してもよく、或いは水洗しなくてもよい。保護剤が水を含む場合には、保護剤を毛髪に適用した後に、タオル又はドライヤー等を用いて毛髪を乾燥させてもよい。
【0040】
毛髪に対する熱処理としては、毛髪が凝集を引き起こし得るような熱処理、さらには、毛髪中のシスチン結合をランチオニン結合に変化させ得るような熱処理を挙げることができる。具体的には、このような熱処理の温度としては、毛髪表面に対し、例えば、70℃超、80℃以上、90℃以上、90℃超、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、又は150℃以上とすることができ、また、220℃以下、210℃以下、200℃以下、190℃以下、又は185℃以下とすることができる。なお、一般的なドライヤーの設定温度は100~120℃であるが、ドライヤーは、典型的には毛髪から10cm程度離れて使用されるため、そのときの毛髪表面の温度は、60~70℃程度である。
【0041】
熱処理の毛髪に対する適用時間は、使用する熱処理温度に応じて適宜設定することができる。例えば、熱処理温度が、100℃以下の場合には、熱処理の適用時間は、60分以下、45分以下、30分以下、又は20分以下とすることができ、また、1分以上、3分以上、5分以上、7分以上、又は10分以上とすることができる。熱処理温度が100℃を越える場合(例えば150~200℃程度)には、熱処理の適用時間は、1秒以上、3秒以上、5秒以上、10秒以上、15秒以上、又は20秒以上とすることができ、また、1分以下、50秒以下、40秒以下、又は30秒以下とすることができる。
【0042】
このような熱処理は、例えば、ヘアアイロン(「カールアイロン」と称する場合もある。)等の高温整髪用アイロン、及び一般的にデジタルパーマ又はホットパーマと称するパーマで使用される加熱装置、ホットビューラーなどを用いて実施することができる。具体的には、例えば、毛髪熱保護剤、又は毛髪保護剤を含むマスカラをまつ毛に塗布した後にホットビューラーを適用したり、或いは、毛髪熱保護剤、又は毛髪保護剤を含む化粧料を髪の毛にスプレー等で塗布した後にヘアアイロンを適用したりして実施することができる。
【0043】
《毛髪熱保護剤による毛髪保護性能》
本開示の毛髪熱保護剤による毛髪保護性能は、例えば、20%伸長時応力、及びランチオニン生成量を用いて評価することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、本開示の毛髪熱保護剤の毛髪保護性能は、未処理の毛髪における20%伸長時応力(「未処理応力」と称する場合がある。)と、後述する毛髪強度試験1又は2の処理条件で毛髪熱保護剤及び熱処理を適用した毛髪における20%伸長時応力(「処理応力」と称する場合がある。)を、以下の式1に代入して得られる、20%伸長時応力の減少率によって評価することができる:
20%伸長時応力の減少率(%)=(未処理応力-処理応力)×100/未処理応力
…式1
【0045】
本開示の毛髪熱保護剤は、20%伸長時応力の減少率に関し、10%未満、7.0%以下、5.0%以下、3.0%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、又は1.0%以下を達成することができる。かかる減少率の下限値としては特に制限はなく、例えば、0%以上、又は0%超とすることができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、本開示の毛髪熱保護剤の毛髪保護性能は、未処理の毛髪中のランチオニン量(「初期ランチオニン量」と称する場合がある。)と、後述するランチオニン生成抑制試験の処理条件で毛髪熱保護剤及び熱処理を適用した毛髪におけるランチオニン生成量を、以下の式2に代入して得られる、ランチオニン生成量の増加率によって評価することができる:
ランチオニン生成量の増加率(%)=(ランチオニン生成量-初期ランチオニン量)×100/初期ランチオニン量 …式2
【0047】
本開示の毛髪熱保護剤は、ランチオニン生成量の増加率に関し、400%以下、350%以下、300%以下、250%以下、200%以下、150%以下、100%以下、80%以下、70%以下、65%以下、又は60%以下を達成することができる。かかる増加率の下限値としては特に制限はなく、例えば、0%以上、0%超、1.0%以上、3.0%以上、5.0%以上、又は7.0%以上とすることができる。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量は質量%で示す。
【0049】
《試験例1~3》
〈試験例1:毛髪強度試験1(弱めの熱処理)〉
試験例1では、以下の条件で実施した20%伸長時応力試験の結果に基づき各種成分の毛髪保護性能を評価した。その結果を表1に示す。なお、かかる試験では、毛髪へのヘアアイロンの適用回数は3回であり、他の試験の5回よりも少ないため、他の試験での熱処理に比べて弱めの熱処理といえる。また、表1に示す、各成分の数値は、処理液中の各成分の配合量(質量%)であり、20%伸長時応力の値は、下記条件による試験を4回実施したもの平均値である。また、表1には、参考例1として、未処理の毛髪の結果を示し、比較例1として、この未処理の毛髪に対して下記の毛髪熱処理を適用した結果を示す。
【0050】
(20%伸長時応力の試験条件)
使用毛髪:中国人女性の同一人物の毛束
毛髪処理液:表1に記載される各種成分が5.0質量%になるように調製したpH6.5の水溶液
毛髪熱処理方法:各種の毛髪処理液に毛髪を25℃で1分間浸漬した後、タオルで毛髪の水分を拭き取った。次いで、180℃に設定したヘアアイロンが毛髪の根元から毛先を5秒で通過する速度で、ヘアアイロンを毛髪に対して3回適用した。この操作を1セットとして50セット実施した。
20%伸長時応力の試験装置:株式会社オリエンテック社製、単繊維用引張試験機
20%伸長時応力の試験方法:かかる試験は、上記試験装置を用いて20℃の水中で実施した。各毛髪試料を初期長20mmにセットし、伸長速度5mm/分で毛髪試料を伸長して応力値を測定した。伸長率λ(%)に対する毛髪断面積当たりの応力F(N/m2)を用いて強伸度曲線を作成し、伸長率20%時の応力を20%伸長時応力とした。ここで、毛髪試料の断面積に関しては、毛径直径測定システムLS-7000(株式会社キーエンス社製)を用い、60%RH、20℃の雰囲気下、毛髪試料の任意に選択した10箇所において、断面が略円形状の場合は毛髪断面の直径を測定し、又は断面が略円形状以外の場合は毛髪断面の長径及び短径を測定した後、その測定値から毛髪の断面積を各々算出し、その平均値を毛髪試料の断面積とした。
【0051】
【0052】
〈結果〉
表1の結果から明らかなように、毛髪処理液が適用されていない毛髪は、熱処理を受けると20%伸長時応力が減少することが分かった。また、酸性アミノ酸を含む毛髪処理液の場合には、かかる処理液を毛髪に適用しても、熱処理後における毛髪の20%伸長時応力の低下を抑制することができなかった。つまり、アミノ酸であればいかなるものでも本開示の効果を奏し得るわけではないことが分かった。
【0053】
一方、実施例1及び2の結果から、N-アセチルグルコサミンと、中性アミノ酸であるγ-アミノ酪酸は、熱処理後における毛髪の20%伸長時応力の低下を抑制し得ることが分かった。
【0054】
〈試験例2:毛髪強度試験2(強めの熱処理)〉
試験例2では、以下の条件で実施した20%伸長時応力試験の結果に基づき各種成分の毛髪保護性能を評価した。その結果を表2に示す。なお、表2に示す、各成分の数値は、処理液中の各成分の配合量(質量%)であり、20%伸長時応力の値は、下記条件による試験を5回実施したもの平均値である。また、表2には、参考例2として、未処理の毛髪の結果を示し、比較例3として、この未処理の毛髪に対して下記の毛髪熱処理を適用した結果を示す。
【0055】
(20%伸長時応力の試験条件)
使用毛髪:中国人女性の同一人物の毛束
毛髪処理液:表2に記載される各種成分が3.0質量%になるように調製したpH6.5の水溶液
毛髪熱処理方法:各種の毛髪処理液に毛髪を25℃で1分間浸漬した後、タオルで毛髪の水分を拭き取った。次いで、180℃に設定したヘアアイロンが毛髪の根元から毛先を5秒で通過する速度で、ヘアアイロンを毛髪に対して5回適用した。この操作を1セットとして50セット実施した。
20%伸長時応力の試験装置及び試験方法に関しては、試験例1における装置及び方法を同様に採用した。
【0056】
【0057】
〈結果〉
表2の比較例3及び上記表1の比較例1の結果から明らかなように、毛髪処理液が適用されていない毛髪は、試験例1よりも過酷な試験例2の熱処理を受けると、20%伸長時応力の減少率の値がより増加することが分かった。
【0058】
一方、実施例3及び4の結果から、N-アセチルグルコサミンと、中性環状アミノ酸であるヒドロキシプロリンは、試験例1よりも過酷な試験例2の熱処理後においても、毛髪の20%伸長時応力の低下を抑制し得ることが分かった。
【0059】
〈試験例3:ランチオニン生成抑制試験〉
試験例3では、以下の条件で実施したランチオニン生成抑制試験の結果に基づき各種成分の毛髪保護性能を評価した。その結果を表3に示す。なお、表3に示す、各成分の数値は、処理液中の各成分の配合量(質量%)であり、ランチオニン量の値は、下記条件による試験によって得られた値である。また、表3には、参考例3として、未処理の毛髪の結果を示し、比較例4として、この未処理の毛髪に対して下記のパーマ処理及び毛髪熱処理を適用したときの結果を示す。また、γ-アミノ酪酸は、以下に示すように、ランチオニンの生成を抑制する効果はなかったが、上記表1の結果より、毛髪を保護する性能は有していることから、表3では参考例4として記載している。
【0060】
(ランチオニン生成抑制試験の試験条件(強めの熱処理))
使用毛髪:中国人女性の同一人物の毛束
パーマ処理:チオグリコール酸(TG)を10%及び表3の各種成分を所定量含むpH9.2の水溶液で毛髪を処理した後、毛髪を40℃の雰囲気下で1時間処理した。続いて6%のブロム酸水溶液で毛髪を処理して室温で15分放置した。
毛髪処理液:表3に記載される各種成分が所定量含まれるように調製したpH6.5の水溶液
毛髪熱処理方法:パーマ処理した毛髪を各種の毛髪処理液に25℃で1分間浸漬した後、タオルで毛髪の水分を拭き取った。次いで、180℃に設定したヘアアイロンが毛髪の根元から毛先を5秒で通過する速度で、ヘアアイロンを毛髪に対して5回適用した。この操作を1セットとして50セット実施した。
ランチオニン量測定装置:株式会社日立ハイテク製、L-8900型高速アミノ酸分析計
分析法:ポストカラム法
ラベル化試薬:ニンヒドリン
検出波長:570nm、(プロリンのみ440nm)
ランチオニン量測定方法:細断した毛髪10mgに8mol/Lの塩酸を2ml添加して真空封管した後、110℃で24時間加水分解させた。得られた試料を減圧乾固し、0.02mol/Lの塩酸25mlで希釈して濾過した後、上記測定装置を用いて各アミノ酸量を測定し、ランチオニン量の定量を行った。アミノ酸分析でのランチオニンのモル分率を表3に示す。
【0061】
【0062】
〈結果〉
表3の結果より、N-アセチルグルコサミン、及びヒドロキシプロリン等の環状アミノ酸は、熱処理によって生じる毛髪中のランチオニン結合の発生量を抑制し得ることが確認できた。
【0063】
また、上記表1の結果及び参考例4の結果から、γ-アミノ酪酸は、毛髪中のランチオニン結合の発生量を抑制し得る効果は有さないものの、20%伸長時応力の低下を抑制し得ることから、γ-アミノ酪酸のような中性アミノ酸は、少なくとも熱凝集の抑制に対して効果を奏する成分であることが分かった。かかる結果からも明らかなように、種々あるアミノ酸における特定のアミノ酸(環状アミノ酸)と、N-アセチルグルコサミンが、ランチオニン形成の抑制効果及び熱凝集の抑制効果の両方を特異的に発現し得ることが判明した。