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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055188
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20240411BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161907
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】福田 真
(72)【発明者】
【氏名】松井 穣
(72)【発明者】
【氏名】城澤 広幸
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 慎一
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB07
2G047BA03
2G047BB02
2G047BC07
2G047DB02
2G047DB17
2G047EA05
2G047GB02
2G047GB17
2G047GF15
2G047GF17
2G047GF18
(57)【要約】
【課題】溶接線の割れや介在物の検出に加えて、従来困難であった溶接鋼管の溶接部の近傍のフッククラックや外面切削疵に代表される微小なキズの検出を高感度にかつ広範囲に探傷する超音波探傷方法を提供する。
【解決手段】管周方向に並列させた超音波プローブを用い、鋼管内面側もしくは鋼管外面側で1回以上反射するように超音波を送信すると共に、該超音波を鋼管内部の探傷位置で管軸方向に集束させ、さらに管軸方向に超音波の方向を偏向しかつ管周方向に走査(電子スキャン)する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接鋼管における溶接部、溶接の熱影響部およびビード切削部を探傷範囲として斜角探傷する超音波探傷方法であって、
前記溶接鋼管の管周方向に並列させた超音波プローブを用い、鋼管内面側もしくは鋼管外面側で1回以上反射するように超音波を送信すると共に、該超音波を鋼管内部の探傷位置で管軸方向に集束させて、さらに管軸方向に超音波を送受信する方向をθ1の角度で偏向しかつ管周方向に電子走査する超音波探傷方法。
【請求項2】
前記超音波プローブを管軸方向および管周方向に複数の超音波素子を配置したマトリクスアレイプローブとして、マトリクスアレイプローブに配置されている複数の超音波素子からの超音波が鋼管内部の探傷位置ですべて重なる条件の遅延時間として送信し、さらに前記超音波プローブで受信した波形をかかる遅延時間に基づいて加算することにより前記探傷位置で管軸方向に超音波を集束させる請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記超音波プローブを、管軸方向に対する向きが変更可能なプローブホルダーに収め、角度θ1で偏向して超音波を送受信可能なリニアフェーズドアレイプローブとして、該リニアフェーズドアレイプローブの超音波を送信する面に、測定対象である鋼管の管厚および外径と反射スキップ数に応じて選定された音響レンズを装着し、超音波を管軸方向に対して集束させる請求項1に記載の超音波の探傷方法。
【請求項4】
前記角度θ1を5度以上30度以下とする請求項3に記載の超音波探傷方法。
【請求項5】
前記探傷範囲を、溶接鋼管の管厚をt(mm)としたとき、溶接シーム線を中心に管周方向に±3.0×t(mm)とする請求項1から4のいずれか1項に記載された超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷方法に関する。具体的には、溶接管の溶接部、溶接の熱影響部およびビード切削部に発生する欠陥の検出を高感度にかつ広範囲に超音波探傷する超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管軸方向に溶接するプロセスを用いて造管される溶接鋼管として、電縫鋼管やUOE鋼管などが知られている。
ここで、電縫鋼管は、鋼板を成形ロールによって円形または楕円形に変形させ、開先形状がつけられた突き合わせ部分を電気抵抗により加熱溶融し、アップセットをかけて接合することにより製造される。
【0003】
また、かような溶接鋼管は、母材の品質はもちろんのこと、溶接部の品質についても安全上および環境保全上の観点から重要である。
そこで、溶接鋼管の溶接部の品質検査は、一般に、斜角探傷やタンデム探傷と呼ばれる超音波探傷法が用いられている。かかる超音波探傷法は、冷接と呼ばれる接合不良や巻き込んだスケール、排出不足で残留してしまう酸化物などの検出の為に用いられてきた。
【0004】
特に、電縫鋼管において、メタルフローに沿って開口してしまうフッククラックというキズが溶接部から離れた位置で発生する場合や、スパッタの押し込みなどが発生する場合があるため、溶接部から離れたキズの検出も重要である。
【0005】
また、管軸方向に対して数mm(たとえば3mm以上)サイズのキズは通常の超音波探傷方法でも検出することはできたが、近年、ユーザーからの品質要求の厳格化にともない、検査対象もより小さいもの、例えば、管軸方向に対して2mm以下の長さをもつフクッククラックやスパッタの押し込みといったキズの検出が要求されるようになった。
【0006】
ここで、溶接管の溶接部を高感度に探傷する技術として、例えば、特許文献1に記載のように、溶接鋼管でもUOE鋼管という、外径および肉厚の比較的大きな鋼管では、マトリクスアレイプローブを用いて管軸方向において集束させた超音波を溶接部に対して垂直に送信して高感度に探傷を行うという技術が提案されている。
【0007】
また、非特許文献1には、シングルプローブによる斜角探傷方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/16303号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】超音波探傷テキストシリーズII、溶接鋼管の超音波探傷法 改定3版、社団法人 日本鉄鋼協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、入射点から肉厚中央部を超音波探傷する技術であり、鋼管サイズによっては、溶接部近傍の表面付近(鋼管の内外面)が探傷できない場合がある。また、小径管、薄肉の鋼管の場合は、ウェッジや超音波プローブ内部の残響による不感帯に欠陥エコーが埋もれてしまい、十分な信号対ノイズ比(S/N比)で探傷できない。
【0011】
また、非特許文献1に記載されている、シングルプローブによる斜角探傷方法では、プローブから発信される超音波は距離が離れるに従い減衰する。特に、小径薄肉の鋼管においては管内外面で反射する回数が多くなり、反射損失が生じる。それにより、欠陥で反射した本来検出すべき超音波の強度が低下してしまい、かかる欠陥を検出することが困難となる。
【0012】
すなわち、斜角探傷方法では、探傷する鋼管が小径薄肉になるに従い、探傷素子の配置の都合上、超音波ビーム路程や反射回数が多くなって反射損失が増加し、探傷感度が低くなってしまうという問題があった。
【0013】
超音波プローブを鋼管の管軸方向に並列させたタンデム探傷も、上記斜角探傷法と同じ問題をもっている。
【0014】
電縫鋼管では、電気抵抗による溶融部に、かかる溶接時のアップセットにより外部に押し出されて凝固したビード部が存在する。一般的に、溶接後にこのビード部を切削するが、かかる切削の際に形成されるビード切削部には微小な段差が残る。この管軸方向に存在する段差は欠陥ではないものの、超音波探傷時に疑似エコーとなることが問題になる。
【0015】
すなわち、超音波探傷は溶接部の欠陥を検出することができるものの、前述したような、近年のユーザーからの品質厳格化に伴い、管軸方向に対して、溶接部周辺(溶接部から少し外れた(数十mm程度の範囲の)位置)に生じる2mm以下のフッククラック等も探傷の対象とすることが望まれている。また、溶接部周辺を探傷する際には、従来の超音波探傷法では識別が難しい内面ビードカット段差による疑似エコーを識別することが望まれている。
【0016】
さらにいえば、従来、超音波探傷法の校正(キャリブレーション)は、検査規格やユーザーとの取り決めた校正方法に則り、例えば、N5(5%×t管厚)のような深さに加工した人工キズで校正するが、かかる人工キズの長さは1インチ(=25.4mm)である。
ところが、近年では、前述したように、2mm以下の長さのキズといった、さらに微小な欠陥が対象物である。かかる微小な欠陥を検出するために、通常は検出感度をより高くして探傷する必要がある。
【0017】
しかしながら、かように感度をあげると、ノイズを拾うことが増えるので、S/N比(=欠陥部分の検出強度と欠陥の無い部分の検出強度の比)が下がってしまい、結局、前記のような微小な欠陥を探傷することができないという問題があった。
【0018】
本発明は、かかる現状に鑑み、溶接部における溶接シーム線(以下、溶接線ともいう)の割れや介在物の検出に加えて、従来困難であった溶接鋼管の溶接熱影響部周辺(溶接鋼管の管厚をt(mm)としたとき、溶接シーム線を中心に管周方向に±3.0×t(mm)程度の範囲)のフッククラックや外面切削疵に代表される微小なキズの検出を高感度にかつ広範囲(溶接部、溶接の熱影響部およびビード切削部)に亘って探傷する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らは、前記した課題を解決するために以下の実験を行った。
すなわち、管軸方向に並べたリニアアレイプローブを用いて、外面側にフォーカスするように所定の遅延時間をもって送信し、反射超音波を検出する探傷において、外径:89.1mm、管厚:8.5mmの鋼管母材部に加工した1.6mmのドリルホールに超音波を集束させ検出した強度と、切削後の溶接部に超音波を集束させ検出した強度の比を信号対ノイズ比(S/N比)として求めた。
【0020】
このとき、変動させる条件として、鋼管軸方向に偏向させる角度をθ1(図1参照)として、θ1の値を0度から45度に変化させた。その結果、図2に示す通り、θ1を0度にした場合に比べて2度にした場合ではS/N比が6dB上昇した。また、図1のθ2はθ3が40度となるように設定した。
具体的には、θ2が約27.4度のとき、θ3が約40度になる。かかる数値は、後述する式(1)より、鋼管サイズ(外径、管厚)からθ3が40度となるθ2を計算することができる。上述の事例では、式(1)の、Viを2320m/sとVtを3230m/sとして計算した。
なお、図1のa)は、溶接鋼管の上面からの本発明の超音波探傷例を示した図である。また、図1のb)は、溶接鋼管の断面における本発明の超音波探傷例を示した図である。図中、1はマトリクスアレイプローブ等の超音波プローブ、2は溶接部(溶接の熱影響部を含む)、3は鋼管を指す。
【0021】
また、θ1が15度の場合に、かかるS/N比は極大値をとり、15度ではS/N比が0度の場合に比べ16.4dB上昇することが分かる。すなわち、管軸方向に超音波を偏向することによって、ノイズである溶接ビード切削段差の影響を低減させ、検出対象であるキズの検出感度を上昇させることができることが分かった。
【0022】
このとき、1.6mmのドリルホールからの超音波の反射エコーの強さはかわらず、ビード切削部からの反射による疑似エコーの強さが下がることでS/N比の増加がみられている。すなわち、管軸方向に角度θ1で偏向させることで、2mm以下の欠陥からの反射強度はそのままに、ビード切削部からの反射による疑似エコーを抑えることができることを見出した。
よって、管軸方向に超音波を偏向することにより、ノイズである溶接ビード切削段差の影響が低減し、検出対象であるキズの検出感度を上昇させることができることが分かった。
【0023】
さらに、θ1は極大をとる角度にくらべて6dB低い10度から25度であっても適切な検出感度を維持する一方で、θ1が30度以上に増加すると、参照基準から反射する超音波が減少してしまうことが分かった。
【0024】
次に、発明者らは、鋼管内部に超音波を斜角入射する超音波探傷において、鋼管の内外面での超音波の反射損失や鋼管内部での減衰が起こった場合でも、高いS/N比を維持する探傷を確認するために、管軸方向に並べたリニアアレイプローブを用い、所定の遅延時間をもって送信し超音波を集束させた場合と集束させない場合との、反射超音波強度を比較した。
【0025】
その結果、管軸方向の超音波を集束させることにより欠陥検出感度を上昇できることが分かった。
【0026】
以上の結果をまとめ、管軸方向の超音波の集束を行い、かつ管軸方向に超音波を偏向させることによって溶接部の高感度超音波探傷が可能となることが明らかとなった。
【0027】
なお、前記実験における超音波探傷は、アレイプローブによる素子から発振する超音波の遅延の制御により管軸方向の超音波集束と管軸方向に対する偏向を行ったが、音響レンズや管軸方向に対する向きを変更可能なプローブホルダーを用いる方法によっても同じ効果が得られることを併せて知見している。
【0028】
すなわち、本発明は、上記の知見に基づきなされたものであって、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.溶接鋼管における溶接部、溶接の熱影響部およびビード切削部を探傷範囲として斜角探傷する超音波探傷方法であって、前記溶接鋼管の管周方向に並列させた超音波プローブを用い、鋼管内面側もしくは鋼管外面側で1回以上反射するように超音波を送信すると共に、該超音波を鋼管内部の探傷位置で管軸方向に集束させて、さらに管軸方向に超音波を送受信する方向をθ1の角度で偏向しかつ管周方向に電子走査する超音波探傷方法。
【0029】
2.前記超音波プローブを管軸方向および管周方向に複数の超音波素子を配置したマトリクスアレイプローブとして、該マトリクスアレイプローブに配置されている複数の超音波素子からの超音波が鋼管内部の探傷位置ですべて重なる条件の遅延時間として送信し、さらに前記超音波プローブで受信した波形をかかる遅延時間に基づいて加算することにより前記探傷位置で管軸方向に超音波を集束させる前記1に記載の超音波探傷方法。
【0030】
3.前記超音波プローブを、管軸方向に対する向きが変更可能なプローブホルダーに収め、角度θ1で偏向して超音波を送受信可能なリニアフェーズドアレイプローブとして、該リニアフェーズドアレイプローブの超音波を送信する面に、測定対象である鋼管の管厚および外径と反射スキップ数に応じて選定された音響レンズを装着し、超音波を管軸方向に対して集束させる前記1に記載の超音波の探傷方法。
【0031】
4.前記角度θ1を5度以上30度以下とする前記3に記載の超音波探傷方法。
【0032】
5.前記探傷範囲を、溶接鋼管の管厚をt(mm)としたとき、溶接シーム線を中心に管周方向に±3.0×t(mm)とする前記1から4のいずれか1つに記載された超音波探傷方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、鋼管を超音波探傷する場合、管軸方向に超音波を集束させて高感度に探傷し、かつ管軸方向に超音波を偏向させ、さらに管周方向に電子スキャンを行うことにより、電縫鋼管の溶接部周辺に発生するキズの検出を高感度にかつ広範囲に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】a)は、溶接鋼管の上面からの本発明の超音波探傷例を示した図である。b)は、溶接鋼管の断面における本発明の超音波探傷例を示した図である。
図2】偏向角度θ1とS/N比との関係を示した図である。
図3】管軸方向の超音波の集束のイメージを示した図である。
図4】管周方向の電子走査(スキャン)のイメージを示した図である。
図5】超音波の素子群を切り替えながら送受信するイメージを示した図である。
図6】マトリクスアレイプローブの例を示した図である。
図7】偏向角度θ1と集束有り無しのS/N比との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、溶接鋼管における溶接部、溶接の熱影響部またはビード切削部を探傷範囲として斜角探傷する超音波探傷方法である。
【0036】
本発明における溶接部とは、電気抵抗やレーザーなど外部から入熱されたことで、溶接の突合せ部分の金属が溶融して接合された箇所を意味する。また、本発明における溶接の突合せ部分とは、母材の端面を継ぎ手として、同一平面で接合された箇所を意味する。さらに、かかる溶接の熱影響部とは、溶接時に加えられた熱量により母材組織とは異なる組織が形成された箇所を意味する。
【0037】
本発明の超音波探傷方法は、前記溶接鋼管の管周方向に並列させた超音波プローブを用い、鋼管内面側もしくは鋼管外面側で1回以上反射するように超音波を送信すると共に、該超音波を鋼管内部の探傷位置で管軸方向に集束させ、さらに管軸方向に超音波の方向をθ1の角度で偏向しかつ管周方向に電子走査(電子スキャン)することを特徴とする。
【0038】
本発明では、かかる超音波プローブは、管周方向に並列させた超音波プローブであれば、公知公用のものでよく、特に限定されないが、管軸方向および管周方向に複数の超音波素子を配置したマトリクスアレイプローブや、管軸方向に対する向きが変更可能なプローブホルダーに収め、偏向して超音波を送受信可能なリニアフェーズドアレイプローブ、さらには、管軸方向に対する向きを変更可能なプローブホルダーに収め、管軸方向および管周方向に複数の超音波素子を配置したマトリクスアレイプローブを用いることが好ましい。
なお、マトリクスアレイプローブとは、2次元に複数の小さな超音波を送受信する素子が配置された超音波プローブである。
また、リニアフェーズドアレイプローブとは、1方向にのみ複数の小さな超音波を送受信する素子が配置された超音波プローブである。
【0039】
本発明では、鋼管内面側もしくは鋼管外面側で1回以上反射するように超音波を送信することが肝要である。鋼管の径が小さく、管厚が薄いために、超音波の入射位置と溶接位置までが近いことから、溶接部からの反射エコーが超音波送信直後に入るノイズ信号に重畳されてしまうからである。これを避けるために、鋼管内外面の反射回数を1回以上とすることで、超音波の伝搬距離を長くして、溶接部からの反射エコーが超音波送信直後にあるノイズ範囲から外れるようにする。一方、鋼管内面側もしくは鋼管外面側で4回を超えて反射すると、反射損失が生じ、本来検出すべき超音波の強度が得られずに欠陥を検出することが困難となる。よって、かかる超音波の反射の回数は4回までが好ましい。
【0040】
鋼管には角度θ3で入射される。角度θ3は一般的に35度から70度の範囲で入射される。この角度は鋼管の管厚、外径サイズによって適宜、使用者によって選択される。
選択された角度θ3となるように、超音波プローブの角度θ2を設定して探傷を行う。θ2とθ3はスネルの法則の関係があり、スネルの法則にもとづいてθ2を設定する。具体的には以下の式(1)となる。
【0041】
【数1】
なお、Vtは鋼管の横波音速、Viは鋼管に入射される前にある媒体の縦波音速である。
【0042】
さらに、マトリクスアレイプローブを用いた際の送信は、前記したそれぞれの超音波素子からの超音波が鋼管内部の探傷位置で全て重なる条件の遅延時間として送信することが好ましい。欠陥に対して効率よく超音波を当てることができるからである。
【0043】
また、前記リニアフェーズドアレイプローブの超音波を送信する面に対し、測定対象である鋼管の管厚および外径と反射スキップ数に応じて選定された音響レンズを装着し、超音波を管軸方向に対して集束させることが好ましい。音響レンズを装着するのは、音響レンズの装着により欠陥からの反射エコーが強くなるからである。
なお、鋼管の管厚および外径と反射スキップ数に応じてとは、予め、鋼管の管厚および外径、反射スキップ数から計算された超音波の伝搬する路程に基き決定された曲率を有する音響レンズを事前に準備しておき、そして、探傷条件に合う音響レンズをかかる準備しておいたレンズ群のなかから選定することをいう。
【0044】
上記路程と上記曲率との関係は、外径:146mm、肉厚:7.5mmの鋼管をウェッジ高さ:30mmとし、屈折角度を45度として検査する場合において、1.5スキップで内面を探傷する際は、曲率半径:112mmとし、2.0スキップで外面を探傷する際は、約140mmの曲率半径とする、ことが例示される。
ここで、路程は、ウェッジ高さと鋼中を伝搬する距離の合計であり、曲率半径は、ウェッジ高さと鋼中を伝搬する距離に鋼中音速をウェッジの音速でわった値をかけた結果とを足した値となる。
【0045】
本発明では、図3に記載のように、超音波を鋼管内部の探傷位置で管軸方向に集束することが肝要である。超音波を管軸方向に集束することで、欠陥からの反射エコーの強さを大きくすることができるからである。なお、超音波を管軸方向に集束するとは、音を1点に集中させること意味する。また、図中、4は超音波アレイプローブを指す。
【0046】
さらに、マトリクスアレイプローブで受信した波形をかかる遅延時間に基づいて加算することにより前記探傷位置で管軸方向に超音波を集束させることが好ましい。S/N比を高めることができるからである。
【0047】
本発明では、前記探傷範囲を、溶接鋼管の管厚をt(mm)としたとき、溶接シーム線を中心に管周方向に±3.0×t(mm)とすることが好ましい。かかる位置までが、フッククラックの発生しやすい個所だからである。
なお、溶接シーム線(溶接線)とは、熱影響部の管周方向における中心位置である。
【0048】
すなわち、図4に記載のように、管軸方向に超音波の方向を偏向しかつ管周方向に走査(電子走査)することが肝要である。走査しない場合は、探傷可能な管周方向の範囲が限られてしまうが、電子走査することで、前述の溶接シーム線を中心に管周方向に±3.0×t(mm)とする範囲を十分に探傷することができるからである。
【0049】
かくして、本発明では、広範囲を高いS/N比で探傷することができるので、溶接部からすこし外れた位置にあるフッククラック等の欠陥も探傷の対象とすることができる。また、偏向することでビードカット時に発生する表面の段差からの反射エコーが小さくなるので、従来の探傷技術では識別が困難な、内面ビードカットの段差を識別することが可能となる。
なお、フッククラックとは、電気抵抗溶接管において、母材となる鋼の表面に並行に存在する非金属介在物や偏析などが原因となって発生する割れであって、溶接部を中心として広い範囲で発生する。
また、内面ビード段差とは、ビードを切削した際に生じる微小な段差である。段差が発生する位置はビード切削する刃の幅の形状に依存している。
【0050】
前記管軸方向に偏向する超音波の方向(角度θ1)は、前述したように、2度以上であれば問題はないが、5度以上とすることが、内面ビード段差による疑似エコーを抑制可能とする点で好ましく、10度以上がより好ましい。一方、上限は、あまり傾けすぎると欠陥からの反射エコーの弱くなってしまうことから、30度以下とすることが好ましい。かかる偏向角度を有することで、溶接部から少し外れた位置の探傷および内面ビードカット段差を効果的に識別することができる。
【0051】
なお、本発明における探傷位置ですべて重なる条件とは、図5に示したように、マトリクスアレイプローブ、または、リニアフェーズドアレイプローブに配置された超音波の素子群(図中、群A、群B、群C)を切り替えながら送受信する、すなわち、群単位ごとに群単位の中のみですべて重なる、という条件を含む。かかる条件とすることで、探傷する位置を管周方向に移動させることができ、溶接部に加えて溶接の熱影響部およびビード切削部を含めた広い範囲を感度良く探傷することができる。
【0052】
また、本発明に従う探傷方法では、本明細書に記載のない項目は、いずれも常法を用いることができる。
【実施例0053】
本実施例は、図6に示すように、管軸方向に1.1mmの素子を8チャンネル、管周方向に1.55mmの素子を16チャンネル、素子の隙間が0.05mmとして配置された8チャンネル×16チャンネルのマトリクスアレイプローブを用いた。かかるマトリクスアレイプローブは、管周方向に4チャンネル、管軸方向の素子は8チャンネルの32チャンネルを一つの送受信の群として、これを管周方向に群の位置を切り替えながら管周方向に電子走査するようにフェーズドアレイ超音波探傷装置を駆動させた。
偏向角度を0度から45度の範囲として、集束ありの条件と、集束無しの条件とで、鋼管に加工したφ1.6mmのドリルホールを溶接線上(0mm位置)と溶接線から管周方向に±20mmの範囲で5mmずつ前後にずらした条件でそれぞれ探傷をした。
【0054】
管周方向の16チャンネルの中央4チャンネルが溶接部外面に2スキップで集束する位置にマトリクスアレイプローブを配置し、管周方向両側:25.6mmを電子スキャンできる条件で探傷を行った。探傷した鋼管は、外径:146mm、管厚:7.5mmとし、溶接線から管厚と同じ長さ分、管周方向に離れた位置も探傷できるように電子スキャンの範囲を設定した。鋼管には約78μm程度のビードカットの段差がついていた。
【0055】
かかる探傷の結果として、図7に、外面側を探傷した際の集束ありの条件と、集束無しの条件とのS/N値を示し、表1に、外面側を探傷した際のS/N値をまとめた。また、表2に、内面側を探傷した際のS/N値をまとめた。なお、表1および2は、いずれも集束ありの条件である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1および表2に記載の通り、超音波を集束しかつ偏向角度を15度とした場合は、いずれの場合もφ1.6mmのドリルホールを24.0dB以上の感度で検出することができていることが分かる。
【0059】
よって、本実施例より、管軸方向に超音波を図1に記載の様に集束し、かつ、管軸方向に15度偏向させた条件において、S/N比が24.0dB以上と高感度にドリルホールを検出することができることが分かる。また、管軸方向に10度や30度に偏向させた条件でもS/N比が24.0dB以上といずれも高感度にドリルホールを検出することができる。
さらに、溶接線から20mmずれた位置のドリルホールが検出可能であることが分かる。
【0060】
これに対し、集束無しの条件は、図7より、いずれも20.0dB以下であることが分かる。φ1.6mmのドリルホールに対して、本発明で検出すべき対象である微小なフッククラックや外面の微小な割れからの反射波は16.0dBから20.0dBほど小さくなることが分かっている。すなわち、集束無しの条件では、十分なS/N比がとれないことがわかる。よって、集束無しの条件では、溶接部、溶接の熱影響部およびビード切削部を探傷範囲に存在する微小なフッククラックや外面の微小な割れを検出するのは困難である。
【0061】
また、超音波プローブを、管軸方向に対する向きが変更可能なプローブホルダーに収め、角度θ1で偏向して超音波を送受信可能なリニアフェーズドアレイプローブを用い、該リニアフェーズドアレイプローブの超音波を送信する面に、測定対象である鋼管の管厚および外径と反射スキップ数に応じて選定された音響レンズを装着し、超音波を管軸方向に対して超音波を集束させる方法を用いても、上記実施例と同等の効果を奏することを確認している。
【符号の説明】
【0062】
1 超音波プローブ
2 溶接部(溶接の熱影響部を含む)
3 鋼管
4 超音波アレイプローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7