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特開2024-55207グラウト材の注入方法及びグラウト材の注入支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055207
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】グラウト材の注入方法及びグラウト材の注入支援装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240411BHJP
   C09K 8/46 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
E02D3/12 101
C09K8/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161935
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘明
(72)【発明者】
【氏名】奈須野 恭伸
(72)【発明者】
【氏名】神戸 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】寺内 健二
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡馬
(72)【発明者】
【氏名】林 健二
(72)【発明者】
【氏名】岡山 誠
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝矢
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040BB01
2D040CA01
2D040CB03
(57)【要約】
【課題】地盤を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減する。
【解決手段】グラウト材の注入方法は、削孔穴における地盤の透水係数を取得する透水係数取得ステップと、透水係数取得ステップにて取得された透水係数に基づいて、グラウト材の種類を決定するグラウト材決定ステップと、グラウト材決定ステップにて決定された種類のグラウト材を削孔穴に注入するグラウト材注入ステップと、を備え、グラウト材決定ステップでは、透水係数取得ステップにて取得された透水係数が予め定められた閾値より大きい場合には、グラウト材の種類を、第1セメントと水とを混合して生成された第1グラウト材とし、透水係数取得ステップにて取得された透水係数が閾値以下の場合には、グラウト材の種類を、平均粒子径が第1セメントの平均粒子よりも小さい第2セメントと水と混合して生成された第2グラウト材とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成された削孔穴にグラウト材を注入する方法であって、
前記削孔穴における前記地盤の透水係数を取得する透水係数取得ステップと、
前記透水係数取得ステップにて取得された透水係数に基づいて、前記グラウト材の種類を決定するグラウト材決定ステップと、
前記グラウト材決定ステップにて決定された種類の前記グラウト材を前記削孔穴に注入するグラウト材注入ステップと、を備え、
前記グラウト材決定ステップでは、前記透水係数取得ステップにて取得された透水係数が予め定められた閾値より大きい場合には、前記グラウト材の種類を、第1セメントと水とを混合して生成された第1グラウト材とし、前記透水係数取得ステップにて取得された透水係数が前記閾値以下の場合には、前記グラウト材の種類を、平均粒子径が前記第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水と混合して生成された第2グラウト材とする、
グラウト材の注入方法。
【請求項2】
前記第2グラウト材は、セメントの重量に対する水の重量の比である水セメント配合比が前記第1グラウト材よりも大きい、
請求項1に記載のグラウト材の注入方法。
【請求項3】
前記透水係数取得ステップにて取得された透水係数が、前記閾値以下であり、前記閾値より小さい基準値より大きい場合に、前記地盤に追加の削孔穴を形成し、
前記追加の削孔穴に対して、前記透水係数取得ステップと、前記グラウト材決定ステップと、前記グラウト材注入ステップと、を再び行う、
請求項1に記載のグラウト材の注入方法。
【請求項4】
前記透水係数取得ステップでは、前記削孔穴を複数の区域に区分けして、前記区域に対して前記透水係数を取得し、
前記グラウト材決定ステップでは、前記区域に対して、前記グラウト材の種類を決定する、
請求項1に記載のグラウト材の注入方法。
【請求項5】
地盤に形成された削孔穴へのグラウト材の注入を支援する装置であって、
前記削孔穴における透水係数を取得する透水係数取得部と、
前記透水係数取得部にて取得された透水係数に基づいて、グラウト材の種類を決定するグラウト材決定部と、を備え、
前記グラウト材決定部は、前記透水係数取得部にて取得された透水係数が予め定められた閾値より大きい場合には、前記グラウト材の種類を、第1セメントと水とを混合して生成された第1グラウト材とし、前記透水係数取得部にて取得された透水係数が前記閾値以下の場合には、前記グラウト材の種類を、平均粒子径が前記第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水とを混合して生成された第2グラウト材とする、
グラウト材の注入支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト材を地盤へ注入する方法、及びグラウト材の注入を支援する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム工事では、地盤の遮水性及び強度を高めるために、地盤に削孔穴を形成しグラウト材を注入して地盤中の亀裂を塞ぐグラウチングが行われる。グラウト材を亀裂の遠方まで浸させて地盤改良の効果を高めるために、種類の異なる複数のグラウト材を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された方法では、まず、極超微粒子セメントを水に混合撹拌してスラリー状にした極超微粒子セメント系グラウト材を削孔穴に注入する。次に、極超微粒子セメントよりも平均粒子径が大きい超微粒子セメントを水に混合撹拌してスラリー状にした超微粒子セメント系グラウト材を同一の削孔穴に注入する。先行注入された極超微粒子セメント系グラウト材は、後行注入された超微粒子セメント系グラウト材によって亀裂の遠方に押し出される。極超微粒子セメントは平均粒子径が超微粒子セメントと比較して小さいので、微少な亀裂にも浸透し、亀裂の遠方までグラウト材が浸透する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-172468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セメントは、鉱物質を半溶融状に焼成した塊(「クリンカー」とも呼ばれる)を粉砕することによって製造される。平均粒子径がより小さいセメントを製造するためにはクリンカーをより細かく粉砕する必要があるため、セメントは平均粒子径が小さいほど高価になる。
【0006】
特許文献1に開示された方法では、地盤に形成された削孔穴の全てに極超微粒子セメント系グラウト材を注入することになるため、遮水性が小さくなり、地盤の強度は大きくなるが、一方で、極超微粒子セメントの使用量が増え、グラウチングのコストが増大する。
【0007】
本発明は、地盤を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地盤に形成された削孔穴にグラウト材を注入する方法であって、削孔穴における地盤の透水係数を取得する透水係数取得ステップと、透水係数取得ステップにて取得された透水係数に基づいて、グラウト材の種類を決定するグラウト材決定ステップと、グラウト材決定ステップにて決定された種類のグラウト材を削孔穴に注入するグラウト材注入ステップと、を備え、グラウト材決定ステップでは、透水係数取得ステップにて取得された透水係数が予め定められた閾値より大きい場合には、グラウト材の種類を、第1セメントと水とを混合して生成された第1グラウト材とし、透水係数取得ステップにて取得された透水係数が閾値以下の場合には、グラウト材の種類を、平均粒子径が第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水と混合して生成された第2グラウト材とする。
【0009】
また、本発明は、地盤に形成された削孔穴へのグラウト材の注入を支援する装置であって、削孔穴における透水係数を取得する透水係数取得部と、透水係数取得部にて取得された透水係数に基づいて、グラウト材の種類を決定するグラウト材決定部と、を備え、グラウト材決定部は、透水係数取得部にて取得された透水係数が予め定められた閾値より大きい場合には、グラウト材の種類を、第1セメントと水とを混合して生成された第1グラウト材とし、透水係数取得部にて取得された透水係数が閾値以下の場合には、グラウト材の種類を、平均粒子径が第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水とを混合して生成された第2グラウト材とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地盤を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】グラウチングの概要を説明するための図である。
図2】本発明の実施形態に係るグラウト材の注入方法を説明するための断面図であり、削孔穴における第1区域の形成が完了した状態を示している。
図3】本発明の実施形態に係るグラウト材の注入支援装置の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係るグラウト材の注入方法を説明するための断面図であり、別の削孔穴における第1区域の形成が完了した状態を示している。
図5】本発明の実施例1によりグラウト材を注入した結果を示す図である。
図6】本発明の比較例1によりグラウト材を注入した結果を示す図である。
図7】本発明の比較例2によりグラウト材を注入した結果を示す図である。
図8】本発明の実施例2によりグラウト材を注入した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
まず、図1から図4を参照して、本実施形態に係るグラウト材の注入方法及びグラウト材の注入支援装置20について説明する。グラウト材の注入方法は、ダム工事におけるグラウチングに用いられる。グラウチングは、地盤中の亀裂をグラウト材により塞いで地盤の遮水性及び強度を高めるために行われる。グラウト材は、セメントと水とを混合して生成される。
【0014】
まず、グラウチングの概要について、図1を参照して簡単に説明する。ここでは、図1に例示するように、2つの亀裂2a、2bが存在する地盤1に対してグラウチングを行う場合について説明する。なお、図1では、説明の便宜上、亀裂2a,2bを直線状に描いているが、実際の亀裂は、曲がったり分岐したりしている。
【0015】
ダム工事におけるグラウチングでは、まず、地盤1に削孔穴3a,3bを形成する。図1に示す例では、削孔穴3aが亀裂2aを貫通し、削孔穴3bが亀裂2bを貫通している。削孔穴3a、3bの形成後、削孔穴3a、3bにグラウト材6を注入する。グラウト材6は、削孔穴3a、3bから亀裂2a、2bに浸透し、固化する。これにより、亀裂2a、2bが塞がれ、地盤1の遮水性及び強度が高められる。
【0016】
以下において、亀裂2a、2bを総称する場合には、単に「亀裂2」とし、削孔穴3a、3b、及び後述する削孔穴3cを総称する場合には、単に「削孔穴3」とする。
【0017】
地盤1の遮水性及び強度は、透水試験による透水性で評価される。透水試験の結果であるルジオン値が大きいほど透水性が大きく、遮水性及び強度が低いと推定される。透水試験の結果であるルジオン値が小さいほど透水性が小さく、強度が大きいと推定される。
【0018】
そして、地盤の透水性に基づいてグラウチングが行われ、セメント等の固化材を含むグラウト材6が地盤に注入されて固化し透水性が低下する。すなわち、遮水性及び強度が向上する。
【0019】
グラウチングにおいては、透水性が大きい場合には、所定の透水性まで低下させて遮水性や強度を向上させる必要性から、地盤1の亀裂2の遠方まで、小さい間隙までグラウト材6を浸透させる必要性があることから、平均粒子径がより小さいセメントのグラウト材を用いることが有効である。ただし、セメントは、平均粒子径が小さいほど高価になる。
【0020】
一方で、図1に示す例において、削孔穴3aの透水性が比較的大きく、削孔穴3aに存在する亀裂2aが比較的大きいことが推定される。一方、削孔穴3bは透水性が比較的小さく、亀裂2bが比較的小さいことが推定される。削孔穴3aと削孔穴3bとに亘る地盤全体の透水性を低下させて、遮水性や強度を向上させるためには、すべての削孔穴に対して、平均粒子径の小さいセメントのグラウト材6を用いることは、地盤改良のコスト増加をまねき経済的ではない。
【0021】
そこで、本実施形態では、削孔穴3における地盤1の透水係数を取得し、取得された透水係数に基づいて、平均粒子径が相対的に大きいセメントを用いるか、平均粒子径が相対的に小さいセメントを用いるかを決定する。そして、透水係数の大きい(透水性の比較的大きい)削孔穴3には、平均粒子径が相対的に大きいセメントが使用され、透水係数が小さい(透水性が比較的小さい)削孔穴3には、平均粒子径が相対的に小さいセメントが使用される。したがって、亀裂2が大きく目詰まりが生じにくい亀裂2には、平均粒子径が相対的に大きいセメントが使用され、亀裂2が小さく目詰まりが生じやすい亀裂2には、平均粒子径が相対的に小さいセメントが使用され、亀裂2の遠方まで、地盤全体にグラウト材が浸透する。平均粒子径が相対的に大きいセメントと平均粒子径が相対的に小さいセメントを好適に使い分けることで、亀裂2にグラウト材6を効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さいセメントの使用量を減らすことができる。これにより、地盤1を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減することができる。
【0022】
図2図4を参照して、本実施形態に係るグラウト材6の注入方法をより具体的に説明する。ここでは、ステージ注入工法により削孔穴3にグラウト材6を注入する場合について説明する。
【0023】
ステージ注入工法では、予め設定された削孔穴3の全長(例えば25m)を鉛直方向に所定の長さ(例えば5m)で区割りして削孔穴3に複数の区域(ステージ)を設定する。鉛直方向上部の区域から、削孔と、グラウト材6の注入と、を順に行い、順次、深部(鉛直方向下部の区域)に施工を進める。
【0024】
図2は、グラウト材6の注入方法を説明するための断面図である。図2に示す例では、削孔穴3に5つの区域を設定し、地表から深部に向かって順に第1区域Z1、第2区域Z2、・・・・、第5区域Z5としている。図2では、削孔穴3aにおける第1区域Z1の形成が完了し削孔穴3bは形成されていない状態が示されている。なお、図2において、二点鎖線は、最終的な削孔穴3a、3bの形状を示している。また、図2では、亀裂2(図1参照)の図示を省略している。
【0025】
本実施形態では、図2に示すように、削孔穴3aにおける第1区域Z1の形成後、削孔穴3aの第1区域Z1における透水係数を測定し、取得する(透水係数取得ステップ)。ここでは、透水係数としてルジオン値を測定する。
【0026】
ルジオン値は、いわゆるルジオン試験により測定される。ルジオン試験は、削孔穴3に水を注入したときの注入圧力と注入流量とに基づいてルジオン値を算定する試験である。ルジオン値が高いほど削孔穴3の透水性が高い(水が浸透しやすい)ことを意味する。換言すれば、ルジオン値が高いほど、地盤1における遮水性及び強度が低いことを意味する。
【0027】
ルジオン試験機10は、注水管11と、注水管11に水を送出するポンプ12と、注水管11の先端近傍に設けられた拡縮可能なパッカ13と、注水管11における水の流量を測定する流量計14と、注水管11における水の圧力を測定する圧力計15と、流量計14及び圧力計15を用いて測定された流量及び圧力に基づいてルジオン値を算出するルジオン値算出装置16と、を備えている。
【0028】
ルジオン値算出装置16は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(random access memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。ルジオン値算出装置16は、単一のマイクロコンピュータで構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。
【0029】
削孔穴3aの第1区域Z1におけるルジオン値の測定では、注水管11を削孔穴3aの第1区域Z1に挿入し、パッカ13を拡張して、注水管11の外周と、削孔穴3aの第1区域Z1の内周と、の間を閉塞する。この状態でポンプ12を駆動し注水管11を通じて削孔穴3aの第1区域Z1に注水するとともに、流量計14及び圧力計15を用いて水の流量及び圧力を測定する。測定された流量及び圧力の情報は、ルジオン値算出装置16に送られ、ルジオン値算出装置16にて、ルジオン値が算出される。
【0030】
削孔穴3aの第1区域Z1におけるルジオン値を測定した後、ルジオン値に基づいて、削孔穴3aの第1区域Z1に注入するグラウト材6の種類を決定する(グラウト材決定ステップ)。グラウト材6の種類の決定には、注入支援装置20が用いられる。
【0031】
注入支援装置20は、ルジオン値算出装置16と同様に、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(random access memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。注入支援装置20は、単一のマイクロコンピュータで構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。注入支援装置20は、ルジオン値算出装置16を構成するマイクロコンピュータに組み込まれていてもよい。
【0032】
図3は、注入支援装置20のブロック図である。図3に示すように、注入支援装置20は、機能的には、透水係数取得部21と、グラウト材決定部22と、を備える。透水係数取得部21及びグラウト材決定部22は、注入支援装置20の機能を仮想的なユニットとしたものである。
【0033】
透水係数取得部21は、ルジオン値算出装置16により算出されたルジオン値を取得する。
【0034】
グラウト材決定部22は、透水係数取得部21にて取得されたルジオン値に基づいて、削孔穴3aの第1区域Z1に注入されるグラウト材6の種類を決定する。具体的には、グラウト材決定部22は、ルジオン値が予め定められた閾値(例えば、20ルジオン)より大きい場合には、グラウト材6の種類を、第1セメントと水とを混合して生成された第1グラウト材とし、ルジオン値が閾値以下の場合には、グラウト材6の種類を、平均粒子径が第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水とを混合して生成された第2グラウト材とする。
【0035】
第1セメントとしては、例えば、高炉セメントを用いることができる。高炉セメントは、平均粒子径が約10~20μmであり、最大粒子径が約90μmである。平均粒子径が第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントとしては、例えば、超微粒子セメントを用いることができる。超微粒子セメントは、平均粒子径が約4μmである。
【0036】
セメントの平均粒子径には、例えば、JIS Z 8901に規定される光錯乱法による球相当径の平均、及びJIS Z 8901に規定される顕微鏡法による円相当径の平均を用いることができる。
【0037】
グラウト材決定部22により決定されたグラウト材6の種類は、モニタ30に表示される。作業員は、モニタ30を確認し、決定された種類のグラウト材6を準備する。
【0038】
その後、決定された種類のグラウト材6を削孔穴3aの第1区域Z1に注入する(グラウト材注入ステップ)。グラウト材6の注入には、不図示のグラウト材注入装置が用いられる。グラウト材6は、削孔穴3aの第1区域Z1から亀裂2(図1参照)に浸透する。これにより、亀裂2が塞がれ、地盤1の遮水性及び強度が高められる。
【0039】
以上により、削孔穴3aの第1区域Z1へのグラウト材6の注入が完了する。
【0040】
その後、削孔穴3aの第2区域Z2から第5区域Z5まで順に、削孔、ルジオン値の計測、及びグラウト材6の注入を繰り返し行う。これにより、削孔穴3aの第1~第5区域Z1~Z5へのグラウト材6の注入が完了する。
【0041】
なお、削孔穴3aにおける第1区域Z1へのグラウト材6の注入が完了した時点では、削孔穴3aの第1区域Z1にグラウト材6が充填されている。そのため、削孔穴3aの第2区域Z2を形成するときには、削孔穴3aの第1区域Z1に充填されたグラウト材6を削孔することになる。同様に、削孔穴3aの第3区域Z3、第4区域Z4及び第5区域Z5、を形成するときには、それぞれ、削孔穴3aの第2区域Z2、第3区域Z3及び第4区域Z4に充填されたグラウト材6を削孔することになる。
【0042】
削孔穴3aの第1~第5区域Z1~Z5へのグラウト材6の注入が完了した後、削孔穴3bの第1~第5区域Z1~Z5へグラウト材6を注入する。削孔穴3bへグラウト材6を注入する手順は、削孔穴3aへグラウト材6を注入する手順と同じであるため、ここではその詳細を省略する。
【0043】
このように、本実施形態では、削孔穴3a,3bに注入されるグラウト材6の種類は、ルジオン値に基づいて決定されるため、透水係数の大きい(透水性の比較的大きい)、相対的に目詰まりが生じにくい亀裂2に、平均粒子径が相対的に大きい第1セメントが使用され、透水係数が小さい(透水性が比較的小さい)、目詰まりが生じやすい亀裂2に平均粒子径が相対的に小さい第2セメントが使用される。したがって、亀裂2にグラウト材6を効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さい第2セメントの使用量を減らすことができる。これにより、地盤1を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減することができる。
【0044】
また、削孔穴3を第1~第5区域Z1~Z5に区割りして、第1~第5区域Z1~Z5の各々に対してルジオン値を測定し、第1~第5区域Z1~Z5の各々に対して、グラウト材6の種類を決定する。そのため、削孔穴3における第1~第5区域Z1~Z5毎に、亀裂2における目詰まりの生じやすさに応じた種類のグラウト材6が使用される。したがって、亀裂2にグラウト材6をより効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さいセメントの使用量をより減らすことができる。これにより、地盤1をより効率よく改良しつつグラウチングのコストをより低減することができる。
【0045】
削孔穴3a,3bへグラウト材6の注入が完了した後、削孔穴3aと削孔穴3bに亘る地盤の透水性を確認するため、グラウト材6を注入した効果を確認するために、図4に示すように、削孔穴3a,3bの間に削孔穴3cを形成し、削孔穴3cにおけるルジオン値を測定する。削孔穴3cにおけるルジオン値の測定は、削孔穴3a,3bと同様に、第1~第5区域Z1~Z5の各々に行われる。図4では、削孔穴3cの第1区域Z1におけるルジオン値を測定している状態が示されている。なお、図4において、二点鎖線は、最終的な削孔穴3cの形状を示している。
【0046】
削孔穴3cにおけるルジオン値は、グラウト材6の種類を決定するルジオン値(本実施形態では、閾値として例えば20ルジオン)とともに、更に、地盤1の遮水性及び強度がダムに適した遮水性及び強度に達したか否かを判断するための基準値(例えば、5ルジオン)、すなわち、予め定められた閾値(例えば、20ルジオン)より小さい基準値(例えば、5ルジオン)と比較される。
【0047】
削孔穴3cにおけるルジオン値が基準値以下の場合には、地盤1の遮水性及び強度がダムに適した遮水性及び強度に達したとして、削孔穴3cへグラウト材6を注入して削孔穴3cを塞いだ後、グラウチングを終了する。地盤1の遮水性及び強度が基準に達したと判断されるのは、削孔穴3cにおける第1~第5区域Z1~Z5の全てにおいてルジオン値が基準値以下となる場合であってもよいし、削孔穴3cにおける第1~第5区域Z1~Z5のうち予め定められた割合(例えば6割)以上においてルジオン値が基準値以下となる場合であってもよい。なお、ルジオン値が基準値以下の場合に注入されるグラウト材6は、平均粒子径が第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水とを混合して生成された第2グラウト材であることが好ましい。
【0048】
削孔穴3cにおけるルジオン値が基準値より大きい場合には、地盤1の遮水性及び強度がダムに適した遮水性及び強度に達していないとして、グラウチングが継続される。具体的には、地盤1の遮水性及び強度を高めることを目的として、削孔穴3cにグラウト材6を注入する。このとき、グラウト材6の種類は、削孔穴3a、3bに注入されるグラウト材6と同様に、ルジオン値に基づいて決定される。したがって、削孔穴3cへのグラウト材6の注入においても、亀裂2にグラウト材6を効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さいセメントの使用量を減らすことができる。
【0049】
その後、削孔穴3cにグラウト材6を注入した効果を確認するために、削孔穴3aと削孔穴3cの間、及び削孔穴3bと削孔穴3cとの間に不図示の追加の削孔穴を形成し、追加の削孔穴におけるルジオン値を測定する。追加の削孔穴におけるルジオン値が基準値以下の場合には、地盤1の遮水性及び強度がダムに適した遮水性及び強度に達したとして、追加の削孔穴へグラウト材6を注入して追加の削孔穴を塞いだ後、グラウチングが終了する。
【0050】
追加の削孔穴におけるルジオン値が基準値より大きい場合には、さらにグラウチングが継続される。追加の削孔穴に注入されるグラウト材6の種類は、削孔穴3a、3bに注入されるグラウト材6と同様に、ルジオン値に基づいて決定される。したがって、地盤1の遮水性及び強度が基準に達するまで、亀裂2にグラウト材6を効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さいセメントの使用量を減らすことができる。
【0051】
なお、削孔穴3cにおけるルジオン値が基準値以下の場合であっても、必要に応じて、追加の削孔穴を地盤1に形成し、ルジオン値を計測し、グラウト材6を注入してもよい。
【0052】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0053】
本実施形態では、削孔穴3におけるルジオン値が閾値以下の場合に、平均粒子径が第1セメントの平均粒子径よりも小さい第2セメントと水とを混合した第2グラウト材が用いられる。そのため、ルジオン値が相対的に大きく、透水係数の大きい(透水性の比較的大きい)、目詰まりが生じにくい亀裂2には、平均粒子径が相対的に大きい第1セメントが使用され、ルジオン値が相対的に小さく、透水係数が小さい(透水性が比較的小さい)、目詰まりが生じやすい亀裂2には、平均粒子径が相対的に小さい第2セメントが使用される。したがって、亀裂2にグラウト材6を効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さい第2セメントの使用量を減らすことができる。これにより、地盤1を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減することができる。
【0054】
また、本実施形態では、削孔穴3cにおけるルジオン値が、地盤1の遮水性及び強度が基準の遮水性及び強度にあるか、また、達したか否かを判断するための基準値より大きい場合に、地盤1に追加の削孔穴を形成し、追加の削孔穴に対して、透水係数取得ステップと、グラウト材決定ステップと、グラウト材注入ステップと、を再び行う。そのため、追加の削孔穴においても、ルジオン値が相対的に大きく、透水係数の大きい(透水性の比較的大きい)、目詰まりが生じにくい亀裂2には、平均粒子径が相対的に大きい第1セメントが使用され、ルジオン値が相対的に小さく、透水係数が小さい(透水性が比較的小さい)、目詰まりが生じやすい亀裂2には、平均粒子径が相対的に小さい第2セメントが使用される。したがって、地盤1の遮水性及び強度が基準に達するまで、亀裂2にグラウト材6を効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さい第2セメントの使用量を減らすことができる。これにより、地盤1を効率よく改良しつつグラウチングのコストを低減することができる。グラウチング工程のうち、先行してグラウチングが行われる先行グラウチング工程と、その後に後行してグラウチングが行われる後行グラウチング工程とにおいて、先行グラウチング工程では平均粒子径が相対的に大きいセメントのグラウト材6(第1グラウト材)の注入が行われたとしても、後行グラウチング工程では平均粒子径が相対的に小さいセメントのグラウト材6(第2グラウト材)の注入が行われるので、コスト低減と併せて、地盤全体の透水性を低下させることができる。
【0055】
また、透水係数取得ステップでは、削孔穴3を第1~第5区域Z1~Z5に区割りして、第1~第5区域Z1~Z5の各々に対してルジオン値を測定し、グラウト材決定ステップでは、第1~第5区域Z1~Z5の各々に対して、グラウト材6の種類を決定する。そのため、削孔穴3における第1~第5区域Z1~Z5毎に、亀裂2における透水係数(透水性)に応じた種類のグラウト材6が使用される。したがって、亀裂2にグラウト材6をより効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さい第2セメントの使用量をより減らすことができる。これにより、地盤1をより効率よく改良しつつグラウチングのコストをより低減することができる。
【0056】
上記実施形態において、平均粒子径が相対的に小さい第2セメントと水とを混合して生成された第2グラウト材は、セメントの重量に対する水の重量の比である水セメント配合比が第1グラウト材よりも大きくてもよい。この場合には、第2グラウト材の流動性が第1グラウト材よりも高くなり、ルジオン値が相対的に小さく目詰まりが生じやすい亀裂2に、流動性の高い第2グラウト材が使用される。したがって、亀裂2にグラウト材6をより効率よく浸透させることができる。
【0057】
また、上記実施形態において、ルジオン値が閾値以下の場合に、第2グラウト材のみを削孔穴3に注入するのではなく、第2グラウト材を削孔穴3に注入した後に、同じ削孔穴3に第1グラウト材を注入してもよい。
【0058】
また、グラウト材6の水セメント配合比は一定に限られず、グラウト材6の注入量の増加に伴って、水セメント配合比の小さいグラウト材6を削孔穴3に注入してもよい。具体的には、まず、水セメント配合比が10のグラウト材6を削孔穴3に注入し、次いで、水セメント配合比が8のグラウト材6を削孔穴3に注入してもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0060】
<実施例及び比較例>
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
まず、実施例1について説明する。実施例1では、ルジオン値が20ルジオン以下の場合に表1に示す配合・量フローAを用い、ルジオン値が20ルジオンを超える場合に表2に示す配合・量フローBを用い、グラウチングを行った。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1及び表2における普通粒子セメントは、JIS Z 8901に規定される光錯乱法又はJIS Z 8901に規定される顕微鏡法により測定された平均粒子径が約10~20μmのセメントであり、上記実施形態における第1セメントに対応する。表1における微粒子セメントは、JIS Z 8901に規定される光錯乱法又はJIS Z 8901に規定される顕微鏡法により測定された平均粒子径が約4μmのセメントであり、上記実施形態における第2セメントに相当する。
【0065】
表1に示す配合・量フローAでは、まず、グラウト材MF1(微粒子セメントと水とを水セメント配合比を10として混合して生成されたグラウト材)を削孔穴に注入する。グラウト材MF1の注入量が上限である400リットルに達したときに、グラウト材をグラウト材MF1からグラウト材MF2(微粒子セメントと水とを水セメント配合比を8として混合して生成されたグラウト材)に切換え削孔穴に注入する。グラウト材MF2の注入量が上限である600リットルに達したときに、グラウト材をグラウト材MF2からグラウト材F3(普通粒子セメントと水とを水セメント配合比を6として混合して生成したグラウト材)に切換え削孔穴に注入する。以下、同様に、注入量が上限に達する毎に、グラウト材を、グラウト材F3からグラウト材F4に、グラウト材F4からグラウト材F5に、グラウト材F5からグラウト材F6に切換え、削孔穴に注入する。グラウト材F6の注入量が上限の400リットルに達するか、グラウト材MF1、MF2、F3、F4、F5、F6の注入時に注入圧力が予め定められた圧力に達したところで、注入を終了する。
【0066】
表2に示す配合・量フローBでは、まず、グラウト材F3(普通粒子セメントと水とを水セメント配合比を6として混合して生成したグラウト材)を削孔穴に注入する。グラウト材F3の注入量が上限である400リットルに達したときに、グラウト材をグラウト材F3からグラウト材F4(普通粒子セメントと水とを水セメント配合比を4として混合して生成したグラウト材)に切換え削孔穴に注入する。以下、同様に、注入量が上限に達する毎に、グラウト材を、グラウト材F4からグラウト材F5に、グラウト材F5からグラウト材F6に切換え、削孔穴に注入する。グラウト材F6の注入量が上限の1200リットルに達するか、グラウト材F3、F4、F5、F6の注入時に注入圧力が予め定められた圧力に達したところで、注入を終了する。
【0067】
表1及び表2に示す配合・量フローA、Bを、ルジオン値に基づいて使い分けてグラウチングを行ったシミュレーション結果を図5に示す。
【0068】
図5において、1-1次削孔穴は、図2及び図4に示す削孔穴3a、3bに対応し、1-2次削孔穴は、図4に示す削孔穴3cに対応する。2次削孔穴は、上記実施形態における追加の削孔穴に対応する。
【0069】
1-1次削孔穴の両方において、ルジオン値は、25ルジオンであったため、配合・量フローBを用いてグラウト材の注入を行った。グラウト材の注入量は、1-1次削孔穴の両方とも1800リットルであり、普通粒子セメントの使用量は、1-1次削孔穴の両方とも718.8kgであった。
【0070】
1-2次削孔穴におけるルジオン値は、18ルジオンであったため、配合・量フローAを用いてグラウト材の注入を行った。注入量は、2600リットルであり、微粒子セメントの使用量は110.8kg、普通粒子セメントの使用量は632.4kgであった。
【0071】
1-2次削孔穴におけるルジオン値が基準値(5ルジオン)より大きかったため、2次削孔穴を形成し、1-1、1-2次削孔穴にグラウト材を注入した後の地盤の透水係数(透水性)を確認した。2次削孔穴の両方において、ルジオン値は4ルジオンであり、基準値以下となったため、透水係数(透水性)は低減でき、所定の遮水性や強度が確保できたものとして、2次削孔穴にグラウト材を注入して、グラウチングを終了した。グラウト材の注入量は、2次削孔穴の両方とも1400リットルであり、微粒子セメントの使用量は110.8kg、普通粒子セメントの使用量は63.2kgであった。なお、実施例1のシミュレーションでは、2次削孔穴に対して、配合・量フローAを用いてグラウト材の注入は行うことが好ましいが、配合・量フローBを用いてグラウト材の注入を行ってもよい。
【0072】
実施例1において、微粒子セメントの使用量の総計は、332.4kgであり、普通粒子セメントの使用量の総計は2196.4kgとなった。セメント使用量の総計は、2528.8kgとなった。
【0073】
<比較例1>
比較例1では、実施例1のグラウチングが行われた地盤と同様の地盤に対して、ルジオン値に関わらず、表1に示す配合・量フローAを用い、グラウチングを行った。つまり、地盤の透水性に関わらず微粒子セメントを用いてグラウチングを行った。比較例1のシミュレーション結果を図6に示す。
【0074】
図6において、1-1次削孔穴、1-2次削孔穴及び2次削孔穴は、実施例1と同様に、図2及び図4に示す削孔穴3a、3b、図4に示す削孔穴3c、上記実施形態における追加の削孔穴に対応する。
【0075】
1-1次削孔穴の各々に配合・量フローAを用いてグラウト材の注入を行ったところ、グラウト材の注入量は、1-1次削孔穴の両方とも2600リットルであり、微粒子セメントの使用量は110.8kg、普通粒子セメントの使用量は632.4kgであった。
【0076】
1-2次削孔穴に配合・量フローAを用いてグラウト材の注入を行ったところ、グラウト材の注入量は、2600リットルであり、微粒子セメントの使用量は110.8kg、普通粒子セメントの使用量は632.4kgであった。
【0077】
1-2次削孔穴におけるルジオン値は12であり、基準値(5ルジオン)より大きかったため、2次削孔穴を形成し、1-1、1-2次削孔穴にグラウト材を注入した後の地盤の透水係数(透水性)を確認した。2次削孔穴の両方において、ルジオン値は3ルジオンであり、基準値以下となったため、2次削孔穴にグラウト材を注入して、グラウチングを終了した。グラウト材の注入量は、2次削孔穴の両方とも1200リットルであり、微粒子セメントの使用量は110.8kg、普通粒子セメントの使用量は31.6kgであった。なお、比較例1のシミュレーションでも、2次削孔穴に対して、配合・量フローAを用いてグラウト材の注入は行うことが好ましいが、配合・量フローBを用いてグラウト材の注入を行ってもよい。
【0078】
比較例1において、微粒子セメントの使用量の総計は、554.0kgであり、普通粒子セメントの使用量の総計は1960.4kgとなった。セメント使用量の総計は、2514.4kgとなった。
【0079】
比較例1におけるセメント使用量の総計は実施例1におけるセメント使用量の総計と比較して14.4kg(=2528.8kg-2514.4kg)だけ少ないのに対して、比較例1における微粒子セメントの使用量の総計は、実施例1における微粒子セメントの使用量と比較して、221.6kg(=554.0kg-332.4kg)増えている。つまり、実施例1では、微粒子セメントの使用量を比較例1よりも減らすことができている。したがって、グラウチングのコストを低減できることが確認された。
【0080】
<比較例2>
比較例1では、実施例1のグラウチングが行われた地盤と同様の地盤に対して、ルジオン値に関わらず、表3に示す配合・量フローCを用い、グラウチングを行った。つまり、地盤の透水性に関わらず普通粒子セメントを用いてグラウチングを行った。比較例2のシミュレーション結果を図7に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3における普通粒子セメントは、表1及び表2における普通粒子セメントと同じである。配合・量フローCにおける注入手順は、配合・量フローA、Bにおける注入手順とほぼ同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0083】
1-1次削孔穴の各々に配合・量フローCを用いてグラウト材の注入を行ったところ、注入量は1-1次削孔穴の両方において2600リットルであり、普通粒子セメントの使用量は743.2kgであった。
【0084】
1-2次削孔穴に配合・量フローCを用いてグラウト材の注入を行ったところ、注入量は、2200リットルであり、普通粒子セメントの使用量は439.6kgであった。
【0085】
1-2次削孔穴におけるルジオン値は15であり、基準値より大きかったため、2次削孔穴を形成し、1-1、1-2次削孔穴にグラウト材を注入した後の地盤の透水係数(透水性)を確認した。
【0086】
2次削孔穴の両方において、ルジオン値は6ルジオンであり、基準値より大きく、1-1、1-2次削孔穴へのグラウト材の注入ではグラウチングの効果は不十分であった。そこで、2次削孔穴にグラウト材を注入して地盤改良を行うと共に、3次削孔穴を形成し3次削孔穴におけるルジオン値を測定し、1-1、1-2、2次削孔穴にグラウト材を注入した後の地盤の透水係数(透水性)を確認した。
【0087】
2次削孔穴の各々へのグラウト材の注入量は、1200リットルであり、普通粒子セメントの使用量は142.4kgであった。
【0088】
3次削孔穴の全てにおけるルジオン値は4であり、基準値以下となったため、3次削孔穴にグラウト材を注入して、グラウチングを終了した。3次削孔穴の各々へのグラウト材の注入量は、700リットルであり、普通粒子セメントの使用量は74.8kgであった。
【0089】
比較例2において、普通粒子セメントの使用量の総計は2510.0kgとなった。
【0090】
実施例1では、1-1、1-2次削孔穴へのグラウト材の注入によりルジオン値が基準値以下となったが、比較例2では、ルジオン値を基準値以下とするためには2次削孔穴へのグラウト材の注入が必要であった。つまり、実施例では、追加の削孔穴を比較例2と比較して減らすことができている。したがって、地盤を効率よく改良できることが確認された。
【0091】
<実施例2>
実施例2では、実施例1のグラウチングが行われた地盤とは異なる地盤に対して、ルジオン値が20ルジオン以下の場合に表1に示す配合・量フローAを用い、ルジオン値が20ルジオンを超える場合に表2に示す配合・量フローBを用い、グラウチングを行った。比較例2のシミュレーション結果を図8に示す。
【0092】
1-1次削孔穴の各々におけるルジオン値は、25ルジオンであったため、配合・量フローBを用いてグラウト材の注入を行った。注入量は、1-1次削孔穴の両方とも2600リットルであり、普通粒子セメントの使用量は、743.2kgであった。
【0093】
1-2次削孔穴におけるルジオン値は、4ルジオンであり、基準値以下であったため、1-2次削孔穴にグラウト材を注入して、グラウチングを終了した。1-2次削孔穴へのグラウト材の注入量は、1600リットルであり、微粒子セメントの使用量は110.8kg、普通粒子セメントの使用量は109.6kgであった。
【0094】
実施例2では、1-1次削孔穴へのグラウト材の注入のみでグラウチングの効果は十分であり、2次削孔穴を形成することなくグラウチングを終了することができた。したがって、地盤を効率よく改良できることが確認された。なお、実施例2のシミュレーションでは、1-2次削孔穴に対して、配合・量フローAを用いてグラウト材の注入は行うことが好ましいが、配合・量フローBを用いてグラウト材の注入を行ってもよい。
【0095】
<実施例3>
実施例3では、1-1次削孔穴を3つの区域に区割りして、区域の各々に対してルジオン値を取得し、区域の各々に対して、表1に示す配合・量フローAを用いるか、表2に示す配合・量フローBを用いるか、を決定して、グラウチングを行った。
【0096】
図示を省略するが、1-1次削孔穴における第1区域(最も地表に近い区域)では、ルジオン値が25であったため、配合・量フローBを用いてグラウト材の注入を行った。第2区域(第1区域の次に地表に近い区域)、及び第3区域(最も地表から遠い区域)では、ルジオン値が15であったため、配合・量フローAを用いてグラウト材の注入を行った。
【0097】
1-2次削孔穴においても、3つの区域に区割りして、区域の各々に対してルジオン値を取得した。全ての区域でルジオン値は基準値以下であったため、1-2次削孔穴にグラウト材を注入して、グラウチングを終了した。
【0098】
実施例3では、1-1次削孔穴へのグラウト材の注入のみでグラウチングの効果は十分であり、2次削孔穴を形成することなくグラウチングを終了することができた。したがって、亀裂にグラウト材をより効率よく浸透させつつ平均粒子径が相対的に小さいセメントの使用量をより減らすことができることが確認できた。
【符号の説明】
【0099】
1・・・地盤
3、3a、3b、3c・・・削孔穴
6・・・グラウト材
20・・・注入支援装置
21・・・透水係数取得部
22・・・グラウト材決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8