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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055215
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】炭素構造体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20240411BHJP
   G01N 23/02 20060101ALI20240411BHJP
   G01N 23/05 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C01B32/15
G01N23/02
G01N23/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161968
(22)【出願日】2022-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [公開事由1]ウェブサイトへの掲載 アドレス:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2022/220627saitaku01.pdf(後記ウェブサイト2のアドレス) 尚、後記ウェブサイト2は、後記ウェブサイト1上の「令和4年度 成長型中小企業等研究開発支援事業 採択一覧(通常枠)(PDF形式:682KB)」をクリックすることで到達可能 掲載日:令和4年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】508144820
【氏名又は名称】株式会社インキュベーション・アライアンス
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 一生
(72)【発明者】
【氏名】岩田 英里
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一馬
(72)【発明者】
【氏名】須谷 康一
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 誠
(72)【発明者】
【氏名】猿田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕二郎
(72)【発明者】
【氏名】大竹 淑恵
【テーマコード(参考)】
2G001
4G146
【Fターム(参考)】
2G001AA04
2G001BA11
2G001CA04
4G146AA01
4G146AB01
4G146AB05
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC23A
4G146AC23B
4G146AD14
4G146AD16
4G146AD17
4G146AD40
4G146BA18
4G146BC02
4G146BC08
4G146BC23
4G146BC34B
4G146CB03
4G146CB05
4G146CB19
(57)【要約】
【課題】賦形性がよく、高い放射線場での耐久性にも優れ、さらに、干渉性散乱によって冷中性子や極冷中性子を高強度化することができる、冷中性子や極冷中性子の反射材を提供する。
【解決手段】ナノ炭素構造体を含んでなる三次元形状の炭素構造体であって、前記ナノ炭素構造体はグラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するものである、炭素構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ炭素構造体を含んでなる三次元形状の炭素構造体であって、
前記ナノ炭素構造体は、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するものである、炭素構造体。
【請求項2】
前記ナノ炭素構造体が、前記花弁状構造と前記凸凹状構造とを有するものである、請求項1記載の炭素構造体。
【請求項3】
炭素バインダーをさらに含む、請求項1または2記載の炭素構造体。
【請求項4】
前記炭素バインダーが、熱膨張黒鉛およびグラフェン集合体の少なくとも一つを含む請求項3記載の炭素構造体。
【請求項5】
前記炭素バインダーが、グラフェン集合体を含む請求項3記載の炭素構造体。
【請求項6】
前記炭素構造体の厚さが0.1mm以上である1または2記載の炭素構造体。
【請求項7】
曲げ強度が0.5MPa以上である請求項1または2記載の炭素構造体。
【請求項8】
かさ密度が0.70g/cm3以上である請求項1または2記載の炭素構造体。
【請求項9】
ラマン分光より得られるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比G/Dが3.00以上であり、2Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比G/2Dが3.00以下である請求項1または2記載の炭素構造体。
【請求項10】
前記三次元形状が、板状、円盤状、チューブ状、または、前記チューブ状の形状を分割した分割片の形状である請求項1または2記載の炭素構造体。
【請求項11】
0.5meVの中性子についての中性子透過率が80%以下である請求項1または2記載の炭素構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素構造体に関する。より詳しくは、物質の構造解析や、生命科学、医療など幅広い分野での活用が期待される冷中性子や極冷中性子を、干渉性散乱によって高強度化することができる、三次元形状の炭素構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
冷中性子(0.1~5meV)は、波長が長く、物質の構造を調べるのに適しており、高温超伝導体、生体物質等の構造解析といった分野での利用が進められてきている。また、極冷中性子(0.5μeV~0.1meV未満)は、自然界に存在する4つの力の働きを調べること等に有用である。
【0003】
冷中性子を含む中性子を高強度化する素材として、ナノダイヤモンド(ND)が注目されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Teshigawara, et al., Nuclear Inst. and Method in Physics Research, A 929 (2019) 113-120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ナノダイヤモンドを中性子反射材として利用する場合、賦形性が悪いため、減速材や中性子取り出し面に沿って十分な厚さと体積を保持した構造体にすることが困難である。また、中性子反射材には、高い放射線場での耐久性も要求される。
【0006】
本発明は、賦形性がよく、干渉性散乱によって冷中性子や極冷中性子を高強度化することができ、高い放射線場での耐久性も期待できる、冷中性子や極冷中性子の反射材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題解決のため、鋭意検討した結果、グラフェン骨格を有する所定の厚さ未満の薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造および所定の大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有する三次元形状の炭素構造体を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
ナノ炭素構造体を含んでなる三次元形状の炭素構造体であって、
前記ナノ炭素構造体は、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するものである、炭素構造体
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、賦形性がよく、干渉性散乱によって冷中性子や極冷中性子を高強度化することができ、高い放射線場での耐久性も期待できる、冷中性子や極冷中性子の反射材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マッフル炉の構造を示す模式図である。
図2】ナノ炭素構造体1のSEM像である。
図3】ナノ炭素構造体1のSEM像である。
図4】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図5】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図6】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図7】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図8】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図9】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図10】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図11】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図12】ナノ炭素構造体2のSEM像である。
図13】熱膨張黒鉛のSEM像である。
図14】グラフェン集合体のSEM像である。
図15】三次元形状炭素構造体3の写真である。
図16】三次元形状炭素構造体4の写真である。
図17】三次元形状炭素構造体5の写真である。
図18】三次元形状炭素構造体6の写真である。
図19】三次元形状炭素構造体7の写真である。
図20】三次元形状炭素構造体4のSEM像である。
図21】三次元形状炭素構造体6のSEM像である。
図22】三次元形状炭素構造体7のSEM像である。
図23】三次元形状炭素構造体7のSEM像である。
図24】三次元形状炭素構造体7のSEM像である。
図25】三次元形状炭素構造体7のSEM像である。
図26】三次元形状炭素構造体の形状の例を示す模式図である。
図27】試験に供した各試料についての、エネルギー依存の中性子透過率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の三次元形状の炭素構造、すなわち、ナノ炭素構造体を含んでなる三次元形状の炭素構造体について説明する。ここで前記ナノ炭素構造体は、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するものである。
【0012】
理論に拘束されることは意図しないが、本発明の三次元形状の炭素構造体が、賦形性がよく、干渉性散乱によって冷中性子や極冷中性子を高強度化することができ、高い放射線場での耐久性も期待できる理由については、以下のように考えられる。
【0013】
本発明の三次元形状の炭素構造体は、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するナノ炭素構造体を含んでいる。こうしたナノサイズの微細構造は、冷中性子や極冷中性子の波長と相互作用するのに適した大きさと考えられ、このため、冷中性子や極冷中性子の干渉性散乱が引き起こされているものと考えられる。
【0014】
また、本明細書における三次元形状の炭素構造体の製造過程では、三次元形状の構造体を得る工程で炭素バインダーとしてグラフェン集合体等を用い、この炭素バインダーとナノ炭素構造体と混合した物を圧縮成形している。この場合、当該炭素バインダーのグラフェンに起因する強いファンデルワールス力がナノ炭素構造体同士を接着する一方で、この炭素バインダーは、それ自体グラフェンを有するナノサイズの炭素材料であるため、ナノ炭素構造体の花弁状構造や凸凹状構造を無効化してしまう影響を最小限に抑えながら、賦形性を提供していると考えられる。なお、炭素バインダーは、本発明の構成要素として必須ではないので、例えば、ナノ炭素構造体自体が本発明の三次元形状の炭素構造体として機能する場合には、炭素バインダーは不要である。
【0015】
さらに、本発明の三次元形状の炭素構造体は、結晶構造強度が高いグラフェンを骨格とする炭素材料で構成されているため、高い放射線場での耐久性に優れていると考えられる。すなわち、グラフェン骨格に係るグラファイト構造は、sp2炭素結合により形成されており、当該sp2炭素結合に関与しない電子が非局在化した状態で存在している。この非局在化した電子の存在が、ダイヤモンドのsp3炭素結合などの場合に比べて、高い放射線場での耐久性の発揮に寄与しているものと考えられる。
【0016】
<定義>
「炭素構造体の厚さ」とは、三次元空間で互いに直交する3本の座標軸(x軸、y軸、z軸)の下、炭素構造体の長軸方向をx軸方向とし、炭素構造体の短軸方向をy軸方向とするとき、炭素構造体のz軸方向の長さが厚さである。但し、「長軸」、「短軸」および「厚さ」の各長さは、長軸>短軸>厚さの順であるものとする。なお、前記手法の下、炭素構造体の厚さを認識することが困難な場合は、炭素構造体の厚さとは、炭素構造体の最大径を長径とし、前記長径に垂直な方向での炭素構造体の最大径を短径とするときの、前記長径と前記短径の双方に垂直な方向での炭素構造体の最大径をいう。
【0017】
「タップ密度」とは、粉体について測定される密度である。その測定方法は、例えば、粉体(熱膨張黒鉛等)を、容積100cm3のプラスチック製計量カップ(予め質量を測定したもの)に採取し、カップの上部を外径10mmのガラス棒を用いてすりきり、余分な粉体を除去し、ついで、当該粉体の質量を、当該計量カップごと天秤(例えば、分析用電子天秤HTR-80(新光電子(株)製、分析精度0.1mg))を使用して測定することにより求め、その値を100cm3で割り算することにより測定される値である。
【0018】
「かさ密度」とは、外寸(形状)から計算された体積で、実測した質量を割って算出される、単位体積あたりの質量(g/cm3)である。
【0019】
「Gバンド」とは、グラフェンのラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近に現れる特徴的なピークの一つであり、グラフェンの積層構造に由来するピークである。グラフェンの積層構造が正常なものであるほど、ピーク値が高くなる傾向にある。1580cm-1付近とは、±100nmのシフトを許容する意味である。
【0020】
「Dバンド」とは、グラフェンのラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近に現れる特徴的なピークの一つであり、グラフェンの積層構造の乱れと欠陥に由来するピークである。当該乱れと欠陥が増えるにつれて、ピーク値が高くなる傾向にある。1360cm-1付近とは、±100nmのシフトを許容する意味である。
【0021】
「2Dバンド」とは、グラフェンのラマンスペクトルにおいて、2700cm-1付近に現れる特徴的なピークの一つであり、グラフェンの積層数と相関がある。当該積層数が減るにつれて、ピーク値が高くなる傾向にある。2Dバンドのピークが2700cm-1付近とは、±100nmのシフトを許容する意味である。
【0022】
「ナノ炭素構造体」とは、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有する炭素材料である。なお、花弁状構造および凸凹状構造については後記する。なお、薄片状炭素の厚さは、15nm未満であってもよく、10nm未満であってもよい。
【0023】
「炭素バインダー」とは、ナノ炭素構造体を賦形するために、バインダーとしての役割を果たす炭素材料をいう。
【0024】
「熱膨張黒鉛」とは、炭素六角網面が重なって形成された黒鉛粒子が、その厚さ方向に数百倍に膨張した黒鉛をいう。黒鉛相間化合物を急速に熱することにより製造することができる。
【0025】
「グラフェン集合体」とは、単層または多層のグラフェンが堆積して形成されたグラフェンの集合体をいう。なお、本明細書において、「グラフェン」は、単層のもののみならず、このように多層のものも含む意味で使用する場合がある。ここで、グラフェンについて多層とは、好ましくは、厚さが100nm未満であり、層数にして290層以下である。当該層数は、例えば、200層以下、または100層以下、または50層以下、または25層以下であることもできる。
【0026】
グラフェン集合体について、その径は、液体中で分散した状態での一次粒子についての径(一次径)と、当該分散状態からろ過により液体を分離し、乾燥させ、粉砕した、一次粒子の堆積物の粉砕体についての径(二次径)とがある。一次径は、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。また、二次径は、成形するナノ炭素構造体の形状にもよるが、通常は、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。一方、グラフェン集合体の径の下限について特に限定はなく、例えば、1μm程度であっても差し支えない。なお、グラフェン集合体の径は、電子顕微鏡による観察により測定することができる。
【0027】
<炭素構造体>
本発明の、花弁状構造および/または凸凹状構造を有するナノ炭素構造体を含んでなる三次元形状の炭素構造体について以下説明する。
【0028】
前記三次元形状の炭素構造体は、花弁状構造および凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するナノ炭素構造体を含んでなるものである。ここで、ナノ炭素構造体は、花弁状構造を有するものであることが好ましく、とりわけ、花弁状構造と凸凹状構造とを有するものであることがより好ましい。
【0029】
(花弁状構造)
本発明における花弁状構造とは、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された構造である(図4図6等)。ここで、薄片状炭素の厚さの下限としては、特に限定されるものではなく、単層のグラフェンの厚さ(約0.34nm)以上である。
【0030】
(凸凹状構造)
本発明における凸凹状構造とは、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹を含んでいる微細な構造である(図7図12等)。ここで、凸凹状構造における凸凹の大きさは、1nm以上であることが好ましい。凸凹の大きさは5nm以上であることもでき、10nm以上であることもできる。一方、凸凹の大きさは90nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることがさらに好ましく、60nm以下であることがさらに好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、40nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。凸凹の大きさの範囲としては、例えば、1~90nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1~80nm、さらに好ましくは1~70nm、さらに好ましくは1~60nm、さらに好ましくは1~50nm、さらに好ましくは1~40nm、さらに好ましくは1~30nmの範囲である。
【0031】
例えば、図11(30万倍の倍率で観察されたSEM)において、100nmのスケールバーを示してあるが、100nm以下の形状の粒状および節状のものが、数珠様および連鎖様および葡萄様に連結し、直線状および螺旋状および放射状に存在している様子が確認できる。図11の四角で囲った部分を80万倍に拡大した写真が図12である。図12には50nmのスケールバーを示しているが、1~50nmの範囲の凸凹状構造もあることが確認できる。
【0032】
(三次元形状の炭素構造体)
本発明の三次元形状の炭素構造体において、三次元形状とは特に限定されるものではなく、冷中性子や極冷中性子の反射に供する構造体、または、該構造体の一部として該構造体の構成に使用可能な形状をいずれも含むものである。例えば、図26に示すように、そのような三次元形状は、具体的には、例えば、(a)の如き板状、(b)の如き円盤状、(c)の如きチューブ状、(d)の如き角チューブ状などが挙げられる。さらに、(e)の如きチューブ状を分割した分割片の形状であってもよいし、(f)の如き角チューブ状を分割した分割片の形状であってもよい。あるいは、(g)の如きチューブ状を連結した連結体の形状であってもよいし、(h)の如き角チューブ状を連結した連結体の形状であってもよい。
【0033】
(曲げ強度)
本発明の三次元形状の炭素構造体は、中性子の反射材として中性子発生装置内に部材として設置する必要があることから、装置を作製時のハンドリング、ネジに等による固定の際に破損、破壊することなく取り扱える必要がある。また、中性子の反射材として、装置内で連続的に使用する際に、振動等により破壊、破損することなく継続的に実用できる必要がある。このため、中性子反射材としての三次元形状の炭素構造体は、炭素以外のバインダーを含まない状態でありながら、良好な賦形性、機械的強度が必要である。このような観点から、本発明の三次元形状の炭素構造体は、曲げ強度が0.5MPa以上であることが好ましい。冷中性子や極冷中性子の反射材として使用する上で、ある程度の曲げ強度を有することが求められるからである。当該曲げ強度は、好ましくは0.7MPa以上、より好ましくは0.9MPa以上、さらに好ましくは1.0MPa以上、さらに好ましくは2.5MPa以上である。一方、当該曲げ強度の上限について特に制限はないが、通常、10.0MPa程度である。なお、曲げ強度は実施例の欄に記載の方法で測定される。
【0034】
(かさ密度)
本発明の三次元形状の炭素構造体は、中性子を効率よく散乱させ、反射させる所望のナノサイズの微細構造を有することを特徴としており、当該微細構造の存在量は多ければ多い程よいと考えられる。従って、所望の微細構造をできるだけ多く有しつつ、かつ、所望の機械的強度を有することが好ましい。炭素以外のバインダーを含まない状態でありながら、良好な賦形性と所望の機械的強度とを有し、さらに中性子反射能力に優れる観点から、かさ密度が0.70g/cm3以上であることが好ましく、より好ましくは0.80g/cm3以上、さらに好ましくは0.90g/cm3以上である。一方、当該かさ密度は、上限について特に制限はなく、通常2.2g/cm3程度であるが、中性子反射能力の観点から、1.10g/cm3以下であってもよく、1.00g/cm3以下であってもよく、0.95g/cm3以下であってもよく、0.91g/cm3以下であってもよい。なお、かさ密度は実施例の欄に記載の方法で測定される。
【0035】
(ラマン分光)
本発明の三次元形状の炭素構造体は、ラマン分光より得られるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比G/Dが3.00以上であり、かつ、2Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比G/2Dが3.00以下であることが好ましい。
【0036】
G/Dについて、Gバンドはグラフェンの積層構造が正常なものであるほどピーク値が高くなる傾向にあり、Dバンドはグラフェンの積層構造の乱れと欠陥が増えるにつれてピーク値が高くなる傾向にあるので、G/Dは高い程正常なグラファイト構造が形成されていることを示している。G/Dは、好ましくは3.30以上、より好ましくは4.30以上、さらに好ましくは5.30以上、さらに好ましくは6.30以上、さらに好ましくは6.90以上である。一方、G/Dの上限について特に制限はないが、通常、12.00程度である。
【0037】
G/2Dについて、Gバンドはグラフェンの積層構造が正常なものであるほどピーク値が高くなる傾向にあるものの、2Dバンドはグラフェンの積層数が減るにつれてピーク値が高くなる傾向にあるので、G/2Dは低い方が薄いグラフェンの積層構造(すなわち、よりグラフェンに近い構造)が形成されていることを示している。G/2Dは、好ましくは3.00以下、より好ましくは2.50以下、さらに好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.93以下、さらに好ましくは1.50以下、さらに好ましくは1.00以下である。一方、G/2Dの下限について特に制限はないが、通常、0.50程度である。
【0038】
なお、ラマン分光は実施例の欄に記載の方法(顕微レーザーラマン)により測定される。
【0039】
(厚さ)
本発明の三次元形状の炭素構造体は、その用途により、様々な厚さのものが使用され得るので、厚さは特に限定されない。そして、本発明の三次元形状の炭素構造体は高い賦形性を有するため、薄いものから厚いものまで、多様な厚さの構造体とすることができる。例えば、三次元形状の炭素構造体は、0.1mm以上であってもよく、1.0mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、100mm以上であってもよい。冷中性子や極冷中性子の反射板として使用するのに適しているからである。一方、当該厚さの上限について特に制限はないが、通常、100mm程度であってもよく、あるいは、400mm程度や、800mm程度であってもよい。
【0040】
(中性子透過率)
本発明の三次元形状の炭素構造体は、0.5meVの中性子についての中性子透過率が80%以下であることが好ましい。冷中性子や極冷中性子の反射板として使用するのに適しているからである。当該中性子透過率は、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、さらに好ましくは53%以下である。一方、当該中性子透過率の下限について特に制限はなく、低ければ低い程よいが、ナノダイヤモンドの場合で、44%程度である。なお、中性子透過率は実施例の欄に記載の方法により測定される。
【0041】
<製法>
本発明の三次元形状の炭素構造体は、少なくとも以下の方法により製造することができる。すなわち、原料として、ナノ炭素構造体と炭素バインダーとを混合したのち、これを成形することにより製造することができる。
【0042】
(ナノ炭素構造体)
ナノ炭素構造体は、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有する炭素材料である。花弁状構造および凸凹状構造の意義は上記のとおりである。また、ナノ炭素構造体は、前記花弁状構造と前記凸凹状構造の双方を有するものが好ましい。
【0043】
(炭素バインダー)
炭素バインダーとは、ナノ炭素構造体を賦形するために、バインダーとしての役割を果たす炭素材料をいう。本発明の三次元形状の炭素構造体を得るために適した炭素バインダーの具体例としては、熱膨張黒鉛およびグラフェン集合体が挙げられる。このうち、グラフェン集合体が好ましい。熱膨張黒鉛およびグラフェン集合体の意義は上記のとおりである。但し、本発明において、炭素バインダーは、ナノ炭素構造体を賦形することができ、かつ、ナノ炭素構造体を賦形した後も冷中性子や極冷中性子の反射材としての機能を十分に維持・発揮することができるものであれば限定されず、そのようなものであれば、熱膨張黒鉛およびグラフェン集合体以外の炭素材料も炭素バインダーとして用いることができる。
【0044】
(混合)
ナノ炭素構造体と炭素バインダーとの混合の方法は特に限定されず常法に従い実施することができる。該混合は、例えば、ナノ炭素構造体と炭素バインダーとを、ボールミルなどを用いて混合することにより、実施することができる。また、炭素バインダーがグラフェン集合体である場合においては、その製造過程でアルコールなどの溶媒中にグラフェンが分散している状態のときに、これにナノ炭素構造体を添加して混合し、次いで溶媒を分離することにより、製造することもできる。
【0045】
(配合比率)
ナノ炭素構造体と炭素バインダーとを混合する際の、ナノ炭素構造体と炭素バインダーとの配合比率は、賦形性を担保する観点から、炭素バインダーに対するナノ炭素構造体の質量比が5.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下である。一方、該配合比率は、冷中性子や極冷中性子の高強度化の観点から、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上である。
【0046】
(成形)
こうして得た混合物の成形は、目的物である三次元形状の炭素構造体の形状に応じた金型を用いて、これに混合物を充填し、所望の荷重をかけることにより実施することができる。このような操作により、ナノ炭素構造体が炭素バインダーによって接着され、三次元形状の炭素構造体が成形される。この場合において、当該金型は真空吸入機構を備えるものであることが好ましく、さらに荷重成形時に熱をかけてホットプレスできるよう、加熱機構を備えたものであってもよい。成形法としては、圧縮成形、インフレーション成形、エンゲル成形、押出成形、押出ラミネート成形、回転成形、カレンダー成形、射出成形、真空成形、スタンピング成形、スプレーアップ法、スラッシュ成形、積層成形、注形法、注入成形、手積み成形、低圧成形、トランスファー成形、発泡成形、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、ブロー成形、粉末成形、マッチドダイ成形、SMC法(シート・モールディング・コンパウンド)、Tダイ法などの各種の成形法を適用することができる。
【0047】
金型が真空吸入機構を備える場合、荷重成形前に金型内の真空度を100Pa以下に調節することが好ましい。また、金型が加熱機構を備える場合、荷重成形前に金型の温度を50℃以上に設定することが好ましい。荷重成形の際の荷重は2~100kN/cm2であることが好ましく、より好ましくは5~70kN/cm2、さらに好ましくは7~50kN/cm2、さらに好ましくは10~30kN/cm2である。荷重成形の時間は、0.5~20分であることが好ましく、より好ましくは1~10分、より好ましくは1~5分である。
【0048】
(切り出し加工)
一定の形状に成形された三次元形状の炭素構造体は、そのまま使用することもできるし、所望により、さらに切り出し加工(スライス加工)して、所望の厚さの炭素構造体とすることもできる。このような炭素構造体の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上であってよく、1.0mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、100mm以上であってもよい。一方、該厚さは、400mm程度であってもよい。このような厚さの範囲としては、例えば、1~100mm、1~50mmであってもよい。そして、このような切り出し加工は、マルチワイヤソー等を用いて好適に実施することができる。
【0049】
(原料の製法)
本発明の三次元形状の炭素構造体の原料となるナノ炭素構造体、および、炭素バインダーであるグラフェン集合体は、以下のようにして、製造することができる。
【0050】
≪ナノ炭素構造体≫
本発明に係るナノ炭素材料は、例えば、フェノール樹脂などの有機化合物を、一旦、仮焼したのち、該仮焼原料を、耐熱性材料製の密閉容器に入れて、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)の存在下、熱間静水圧加圧(HIP)処理することにより、製造することができる。
【0051】
有機化合物
有機化合物としては、加熱・焼成により炭化するものであれば使用することができ、例えば、天然有機高分子では、デンプン、セルロース、タンパク質、コラーゲン、アルギン酸、ダンマル、コバール、ロジン、グッタベルカ、天然ゴム等、半合成高分子ではセルロース系樹脂、セルロースアセテート、セルロースニトレート、セルロースアセテートプチレート、カゼインプラスチック、大豆タンパクプラスチックなどを、合成高分子では熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能基エポキシ樹脂、脂環状エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などを、および、熱可塑性樹脂であるポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂など)、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどを、合成ゴムではポリイソプレン、ブタジエンなどを、合成繊維ではナイロン、ビニロン、アクリル繊維、レーヨンなどを、その他ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、シリコン樹脂などを使用することができる。これら有機化合物は1種または2種以上を組合せて使用することができる。
【0052】
なお、石油、石炭などの化石燃料を精製する際などに生成する石油系ピッチ、石炭系ピッチ、石油コークス、石炭コークス、カーボンブラック、活性炭はもちろんのこと、資源循環型社会の形成に向け、廃棄物中の炭素の有効利用の観点から炭化システムの導入が各地で進められており、上記の各種樹脂などの混合物である廃プラスチック、廃ペットボトル、廃木材、廃植物、生ごみなどの食品系廃棄物なども、原料たる有機化合物として、上記と同様に使用することができる。
【0053】
仮焼
仮焼は、原料である有機化合物を、HIP処理に適した原料とするため、予め、加熱・燃焼させるステップである。仮焼は、電気、ガスなどによる外熱式のバッチ炉、マッフル炉、高い連続式多管炉、または内熱式の回転キルン炉、揺動キルン炉などを使用して、実施することができる。仮焼の雰囲気は、窒素気流中などの不活性雰囲気中で所定の昇温速度・仮焼温度で実施することが好ましい。
【0054】
一般に、有機化合物は、加熱することにより、高分子化が進行するとともに、構造中の酸素、窒素、水素原子が熱力学的に不安定になるために放出され、炭素化が進行する。したがって、大半の有機化合物は、約300℃以上の熱処理によりこれらの反応が進行し、約400℃以上では、炭素と適度に水素、酸素、窒素などが残留した仮焼原料になるため、本発明ではこのように仮焼きした有機化合物を仮焼原料として使用することができる。
【0055】
本発明において、仮焼温度(仮焼時のおける最高温度)は、通常、500℃~1000℃であることが好ましく、より好ましくは550℃~850℃、さらに好ましくは600℃~700℃である。仮焼の時間は、原料の種類および量、並びに仮焼温度等に依存するが、通常1~6時間程度行うことが好ましい。適切な仮焼の温度および時間は、仮焼原料の残留水素量を目安に決定することができる。仮焼原料の適切な残留水素量は、HIP処理時に、CVD反応に必要な水素、炭化水素、一酸化炭素、水蒸気などのガスが十分発生するようにするとの観点から、通常、約6500ppm以上、好ましくは約10000ppm以上、更に好ましくは約20000ppm以上である。
【0056】
耐熱性材料製の密閉容器
HIP処理に際しては、仮焼原料を、耐熱材料製の密閉容器に入れる。当該容器は、HIP処理中に仮焼原料から発生する水素、炭化水素、一酸化炭素、水蒸気などのガスによるCVD反応を生じせしめるための反応容器の役割を担う。ガス圧による等方的な高圧を保ちつつ、内部で生成する反応ガスを外部に拡散させずに化学反応を生じさせる。容器を構成する耐熱性材料としては、黒鉛の他、アルミナ、マグネシア、ジルコニアなどのセラミック、鉄、ニッケル、ジルコニウム、白金などの金属などが挙げられる。容器(例えば、坩堝)の材質には黒鉛材料が好適である。当該容器として、黒鉛坩堝を使用する場合の黒鉛材料の開気孔率(見掛け気孔率)は、約20%未満であることが好ましい。HIP処理の間、容器中の反応ガスの濃度を必要なレベル保つことができるからである。また、黒鉛坩堝は、HIP処理後の生成物の取り出しを効率的に行う観点から、ねじ式の黒鉛坩堝であることが好ましい。また、ねじ式黒鉛坩堝における、ねじの種類としては、三角ねじ(ねじ山の断面が正三角形に近い形をしたねじである。)、角ねじ、台形ねじなどが挙げられるが、このうち、三角ねじが好ましい。
【0057】
熱間静水圧加圧(HIP)処理
HIP処理は、仮焼原料を耐熱材料製の密閉式の容器に入れたものを、該容器ごと、HIP処理装置に入れ、不活性ガスの存在下、HIP処理することにより実施することができる。
【0058】
不活性ガスとしては、アルゴン、窒素など、この分野で通常使用する不活性ガスを使用することができる。
【0059】
HIP処理時の温度は、最高到達温度が仮焼温度よりも高い温度であって、かつ、約900℃以上であることが好ましく、より好ましくは約1000℃以上、さらに好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上である。一方、該最高到達温度は、励起された水素によるエッチングで目的物がダメージを受けることを避けるため、約2000℃)であり、好ましくは1900℃以下、さら好ましくは1800℃以下、さらに好ましくは1600℃以下である。なお、HIP処理時の最高到達温度は、仮焼温度よりも、通常100℃以上高い温度であることが好ましく、より好ましくは400℃以上高い温度である。HIP処理時の最高到達圧力としては、仮焼原料の粒子サイズなどにより変化するが、通常、約1MPa~約300MPaであることが好ましく、より好ましくは約10MPa~約200MPaの範囲、好ましくは約30MPa~約200MPaの範囲である。例えば、仮焼原料の粒径サイズが大きい場合には、より大きな最高到達圧力が好ましく、一方、該粒径サイズが小さい場合にはより小さな圧力で十分となる傾向がある。HIP処理においては、通常、仮焼きした温度付近まで温度を上昇させる前に、まず圧力を所定の圧力まで上げ(圧力先行パターン)、仮焼原料が飛散しないようにした上で温度を仮焼温度付近まで上昇させ、その後、必要に応じ、昇温・加圧し、最高到達温度および最高到達圧力に達せしめるのが、生産効率の観点から望ましい。一方、粒子サイズが約1μm以下の如きに小さい場合などは、上記のような圧力先行パターンを特に必要とすることなく、効率よくHIP処理を実施することができる。
【0060】
HIP処理において、仮焼きした原料は、圧力媒体である不活性ガスにより等方的に加圧される。したがって、HIP処理の初期段階では、仮焼原料の粒の周囲に、不活性ガスによる高圧、高密度な相が形成される。その後、HIP処理温度が仮焼温度よりも高くなると仮焼原料からの気体発生がはじまるが、高圧高密度の圧力媒体への気体の拡散係数が小さくなるため、仮焼原料の周囲に高濃度の反応気体領域(水素、炭化水素、一酸化炭素など)が形成される。HIP処理は等方的な加圧であるために、反応気体領域は粒子の外表面に均一に、また粒子の形状に相似的に形成される。
【0061】
これらの反応気体領域では、HIP処理温度がさらに高く、具体的には約900℃以上になると、いわゆる熱CVD(Chemical Vapor Deposition)反応が生じて、気相成長グラフェンが析出する。一般的にはCVD装置、プラズマCVD装置などを使用して基板表面に反応気体を供給してなされるCVD反応を、HIP装置を利用して耐熱材料製容器内の仮焼原料周囲に発生する反応気体領域にて実施することができる。
【0062】
また、使用する仮焼原料の粒子サイズについては、CVD反応が粒子の表面で主に生じるため、粒子サイズが大きいと体積に対する表面積の割合が小さくなり、結果として得られた材料に占める気相成長グラフェンの量が低下する。したがって、粒子サイズが小さい原料を使用した方が、気相成長グラフェンの生成比率を高めることができるので好ましい。生産効率の観点からは、球状の樹脂を使用する場合では、粒子サイズ(平均)約100μm以下のものを使用することが好ましい。なお、原料として、仮焼の過程で一旦溶融するもの(例えば、熱可塑性樹脂など)を使用する場合には、HIP処理に付すに際し、該仮焼後の原料を予め粉砕し、分級して、所望のサイズの仮焼原料とすればよい。例えば、熱可塑性樹脂は、仮焼後、発泡体(脆いスポンジ状のもの)として得られるので、該発泡体をHIP処理に付すに際して、予め粉砕し、その後分級して、所望のサイズの仮焼原料とする。
【0063】
以上のHIP処理を経て、花弁状構造および/または凸凹状構造を有するナノ炭素構造体を得ることができる。
【0064】
≪炭素バインダー≫
炭素バインダーのうち、熱膨張黒鉛は、例えば、黒鉛相間化合物を急速に熱し、炭素六角網面が重なって形成された黒鉛粒子をその厚さ方向に数百倍に膨張させて製造黒することができる。
【0065】
また、グラフェン集合体は、例えば、単層または多層のグラフェンを低級アルコール(例えば、イソプロピルアルコール)や水を含んでなる溶媒に分散したグラフェン分散液を、ろ紙上に滴下し、溶媒を分離しながら堆積させ、こうして得た堆積物を乾燥して溶媒を除去したのち、所望により、粉砕することによって、調製することができる。
【0066】
ここで、グラフェン分散液は、種々の方法により、調製することができる。例えば、黒鉛層間化合物を熱処理して得た熱膨張黒鉛をイソプロピルアルコールに浸漬したのち、ホモジナイザーで解砕処理し、さらに遠心分離によって上澄を分離することにより製造することができる。あるいは、上記方法において、熱膨張黒鉛の代わりに、「残留水素を含むように仮焼したフェノール樹脂粉末などの原料を黒鉛容器に充填し、不活性ガス雰囲気下、該容器ごと、熱間静水圧加圧処理付して得られるバルク状のグラフェン塊」(国際公開第2011/102473号)を用いて、これをイソプロピルアルコールに浸漬したのち、その後の工程を行ってもよい。あるいは、熱膨張黒鉛は、「天然黒鉛粒子(例えば、SECカーボン(株)、日本黒鉛商事(株)から入手可能な高純度天然黒鉛粉末、土状黒鉛粉末など)」に置き換えることもできる。
【0067】
また、グラフェン分散液としては、例えば、(株)インキュベーション・アライアンス製のグラフェン分散液「GF10IPA-D0N」などを使用することもできる。
【0068】
グラフェン集合体を構成する多層グラフェンは、本発明の炭素バインダーとして使用することができるものである限り特に限定されず、上記製造方法以外の他の製造方法で製造されたものを使用することもできる。
【0069】
<その他の製法>
本発明の三次元形状の炭素構造体は、所定の花弁状構造および/または所定の凸凹状構造を含むものである限り、上記製造方法以外の他の製造方法により、製造したものであってもよい。また、そのような他の製法は、必ずしも、炭素バインダーを使用するものである必要はない。
【0070】
<用途>
こうして得た本発明の三次元形状の炭素構造体は、冷中性子や極冷中性子の反射材として有用であり、物質の構造解析や、生命科学、医療など幅広い分野で活用できる。
【実施例0071】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0072】
<製造例で使用する材料>
樹脂:ベルパールR800(エア・ウォーター・ベルパール(株)製の球状フェノール樹脂、平均粒径15μm)
膨張性黒鉛:SS-3(エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル(株)製)
【0073】
<製造例>
製造例1(ナノ炭素構造体)
表1の記載に従い、ナノ炭素構造体を調製した。すなわち、原料である樹脂を人造黒鉛製の坩堝(東邦カーボン(株)製の押し出し型でPSG-12)に投入し、当該坩堝を雰囲気ガスの導入・排出用配管を備えたステンレス製のマッフル内に装填し、当該マッフルを、光洋サーモシステム製の小型ボックス炉(KBF828N1)内に設置した。ステンレス製マッフルの構造を図1に示す。当該マッフルは、マッフル本体1、耐熱性ゴム(シール用途)2、マッフル蓋3から構成され、各部には固定用のネジ穴4があり、マッフル蓋3には、雰囲気ガス導入口5、雰囲気ガス排出口6を有するものであり、2~3L/分の雰囲気ガスを流すことにより、仮焼時の樹脂、炭化物の酸化を防ぐとともに、仮焼時に発生する水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、タール様の低沸点炭化水素等の発生がスを排出し、安定的に仮焼を実施することができる。マッフル蓋3の内部には水冷配管が埋め込まれており、冷却水入口7、冷却水出口8によりチラーにて冷却された水を循環させ、マッフル蓋3および小型ボックス炉の過熱を防いでいる。小型ボックス炉の温度を、室温~150℃の温度域での昇温速度を300℃/hとし(当該工程で、主に、樹脂中に吸収、吸着された水分が除去される)、150~400℃の温度域での昇温速度を15℃/hとし(当該工程で、主に、樹脂の化学構造中の水素、酸素、窒素、硫黄等の元素がガス化される)、400℃~仮焼温度の温度域での昇温速度を20℃/hとして(当該工程で、主に、炭化が進行し始める)、昇温を行い、所定の仮焼温度に到達後、当該仮焼温度にて5時間仮焼きした。
【0074】
仮焼き後の樹脂(粉末)を、ネジ式の上蓋により密閉が可能な人造黒鉛製の坩堝(材質は東邦カーボン(株)製のCIP材MGY-71)に装填し、熱間静水圧加圧装置((株)神戸製鋼所製のO2-Dr.HIP)の圧力容器内に装填し、加熱加圧処理(HIP処理)を実施した。ガス媒体にはアルゴンを使用し、室温~200度の温度域は真空引きをしながら600℃/hの昇温速度で昇温し、200~500℃の温度域は450℃/hの昇温速度で、500~900℃の温度域は850℃/hの昇温速度で、900~最高到達温度の温度域は750℃/hの昇温速度で昇温するとともに昇圧も同時に行い、所定の最高到達温度、最高到達圧力に到達後、当該温度および圧力で所定時間保持してHIP処理を実施した。結果を表1に記載する。
【0075】
【表1】
【0076】
ナノ炭素構造体1のSEM像を図2および図3に示す。図2において、花弁状構造が認められる。一方、凸凹状構造の生成は認められなかった。なお、図3は、図2において薄片状炭素の生成が認められた部分を拡大したものである。
【0077】
一方、ナノ炭素構造体2のSEM像を図4図12に示す。図4には原料樹脂の球状を反映し、球の表面から薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造が顕著に生成している様子が確認できる。図5図6は花弁状構造の部分をそれぞれ5万倍、10万倍に拡大した写真であるが、写真中の100nmのスケールバーを参照すると、花弁状構造を構成する薄片状炭素の1枚の厚さが20nm未満であることが分かる。また、図7図8からは表面に花弁状構造が生成している炭素球状体の内部にシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造が確認できる。図9図12は生成した凸凹状構造の拡大写真を示している。これらの図における100nmのスケールバーを参照すると、凸凹状構造が1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成されている微細な構造であることが確認できる。なお、図12は、図11で枠囲いされた部分の拡大図である。
【0078】
製造例2(炭素バインダー)
製造例2-1(熱膨張黒鉛)
熱膨張性黒鉛(SS-3)5gを人造黒鉛製の坩堝(東邦カーボン(株)製の押し出し型でPSG-12の型番)に入れ、当該坩堝を、炉内温度を750℃に設定した電気炉中に装填して、10分間保持し、黒鉛粒子の厚さ方向に数百倍に膨張した熱膨張黒鉛4.5gを得た。なお、得られた熱膨張黒鉛を、容積100cm3のアルミ計量カップに採取し、カップの上部を外径10mmのガラス棒を用いてすりきり、余分な熱膨張黒鉛を除去し、これを100cm3の容積分の熱膨張黒鉛とした。ついで分析用電子天秤HTR-80(新光電子(株)製、分析精度0.1mg)を使用して、100cm3の熱膨張黒鉛の重量を測定した。測定した重量を体積(100cm3)で除することにより、タップ密度を算出したところ、0.018g/cm3であった。
【0079】
製造例2-2(グラフェン集合体)
上記で得た熱膨張黒鉛4gを、ガラスビーカー中で、イソプロピルアルコール500mlに浸漬した後に、万能ホモジナイザー((株)マイクロテック・ニチオン製のヒストコロンNS52)を使用して、12500rpmの回転数で、15分間×8回、の解砕処理に付した。解砕処理物に、超音波ホモジナイザー(日本精機(株)製のUS300T)の超音波発信子を投入し、出力70%で、10分間×20回、超音波処理し、熱膨張黒鉛粒子を粉砕してグラフェン(単層のものの他、多層のものも含む)を遊離させた。得られた混合液を、12時間放置し、上澄みを回収して、グラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液50gを、表面をアルマイト処理したアルミ製カップに採取し、90℃で20時間保持した後、固形分の質量を測定し、分散液の質量比から固形分を算出したところ、0.8質量%であった。
【0080】
ブッフナーロートに、ろ紙(アドバンテック東洋(株)製の定量ろ紙5A)を装填し、アスピレータで減圧しながら、上記で得たグラフェン分散液を徐々に滴下して、グラフェンとイソプロピルアルコールを分離し、ろ紙上にグラフェンを堆積させた。堆積物を、室温で5時間風乾した後、90℃に設定した電気炉で8時間乾燥し、イソプロピルアルコールを完全に除去して、固形物(グラフェンの堆積物)を得た。該固形物を、万能粉砕機(M20、アズワン(株)製)を使用して、粉砕時間15分で粗粒に粉砕し、目開き100μmのステンレス篩で分級した、100μmアンダーをグラフェン集合体とした。
【0081】
図13に熱膨張黒鉛のSEM像を、図14にグラフェン集合体のSEM像を示す。
【0082】
<実施例で使用する材料>
ナノ炭素構造体1:製造例1で製造したもの
ナノ炭素構造体2:製造例1で製造したもの
炭素バインダー1:製造例2-1で製造した熱膨張黒鉛(タップ密度:0.018g/cm3
炭素バインダー2:製造例2-2で製造したグラフェン集合体
【0083】
<実施例>
(三次元形状炭素構造体)
ナノ炭素構造体と炭素バインダーとを用いて、表2の記載に従い、三次元形状の炭素構造体を調製した。例えば、三次元形状炭素構造体7は、ナノ炭素構造体2と炭素バインダー2とをプラスチック容器の中に投入し、良く振盪させることにより十分に混合させた後、金属製の金型(外径25mmの円盤状)を使用して、30kNの荷重で加圧成形して得た。
【0084】
同様に、ナノ炭素構造体1のみ、ナノ炭素構造体2のみ、炭素バインダー2のみ、ナノ炭素構造体1と炭素バインダー1との混合物、ナノ炭素構造体1と炭素バインダー2との混合物、ナノ炭素構造体2と炭素バインダー1との混合物を加圧成形(20~30kNなどの条件)した(順に、それぞれ、三次元形状炭素構造体1~6)。
【0085】
ナノ炭素構造体1のみを成形した三次元形状炭素構造体1およびナノ炭素構造体2のみを成形した三次元形状炭素構造体2はとても脆く、うまく成形できなかった。炭素バインダー2のみを成形した三次元形状炭素構造体3は、賦形性は良好であった。
【0086】
ナノ炭素構造体1と、賦形力の大きい炭素バインダー1(熱膨張黒鉛)との混合物を成形した三次元形状炭素構造体4は細かいクラックが多数入り、やや不均一な成形体になった。ナノ炭素構造体1と、炭素バインダー2(グラフェン集合体)との混合物を成形した三次元形状炭素構造体5は、ナノ炭素構造体1の表面における薄片状炭素の成長がやや不十分であるためか、成形体にクラックが入った。ナノ炭素構造体2と、炭素バインダー1(熱膨張黒鉛)との混合物を成形した三次元形状炭素構造体6も細かいクラックが確認された。このように、三次元形状炭素構造体4~6は、成形体に多少の不均一さや、クラックが確認されたが、十分に賦形できるものであった。
【0087】
ナノ炭素構造体2と炭素バインダー2との混合物を成形した三次元形状炭素構造体7は良好な賦形性を示した。
【0088】
なお、三次元形状炭素構造体3~6について目視観察した結果(写真)を図15図19に示す。
【0089】
また、三次元形状炭素構造体4、6および7について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(SEM像)を、図20図25に示す。
【0090】
図20は三次元形状炭素構造体4のSEM像である。ナノ炭素構造体1に由来する花弁状構造が炭素バインダーによって覆われている様子が確認できる。但し、内部には、花弁状構造が存在していると推定される。
【0091】
図21は三次元形状炭素構造体6のSEM像である。ナノ炭素構造体2に由来する花弁状構造と凸凹状構造が炭素バインダーで覆われている領域が確認できるが、覆われていない領域も確認できる。
【0092】
図22は三次元形状炭素構造体7のSEM像である。ナノ炭素構造体2に由来する花弁状構造と凸凹状構造が炭素バインダーで覆われていない領域が、図21の場合よりも多く確認できる。図23図25はさらに拡大したSEM像である。図23では花弁状構造と凸凹状構造が確認でき、図24および図25は凸凹状構造をさらに拡大したSEM像である。
【0093】
【表2】
【0094】
上記で得た三次元形状炭素構造体のうち、所定のものについて、顕微レーザーラマンで分析するとともに、曲げ強度を測定した。結果を表3に示す。なお、顕微レーザーラマンについては、参考として、高結晶性黒鉛(グラフテック社SS400(厚さ240μm)、参考例2)および人造黒鉛板(東邦カーボン(株)製のCIP材MGY-71、参考例3)についても評価した。
【0095】
(顕微レーザーラマン)
各炭素構造体を、ラマン分光分析装置(堀場製作所社製のXploRA、励起波長531.12nm、Arレーザー)で分析して、ラマン分光によるスペクトルを得た。該スペクトルから、sp2炭素結合(グラフェン構造)の結晶性の指標となるG/D比、すなわち、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比、および、グラフェン積層数の少なさの指標となるG/2D比、すなわち、2Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比を算出した。
【0096】
(曲げ強度)
各炭素構造体について、外径25mmの円盤状に形状を揃えたサンプル(厚さ:2~4mm程度)を準備した。各サンプルについて、(株)イマダの荷重試験装置(ZTA-2500N)と曲げ試験ユニット(MX2)を使用して、支点間距離20mm、押し込み速度10mm/分の条件で、荷重変位曲線を測定し、材料が座屈した最大荷重を測定した。得られた最大荷重を、試料の断面積で除することにより最大応力を計算し、この数値を曲げ強度とした。実施例1の試料は荷重6Nで座屈し(曲げ強度1.0MPa)、実施例3の試料は荷重12Nで座屈した(曲げ強度1.6MPa)。
【0097】
【表3】
【0098】
実施例の三次元形状炭素構造体は、いずれも、一般的な黒鉛材料である人造黒鉛(参考例3)よりもG/D比が高く、かつ、G/2D比が低いことから、sp2炭素結合(グラフェン構造)の結晶性が高く、かつ、積層数の少ないグラフェンで構成されていることを示している。
【0099】
炭素バインダー2のみを成形した三次元形状炭素構造体3(参考例1)はG/Dは高い値を示すが、花弁状構造と凸凹状構造のいずれも含んでいないためG/2Dが3.38と大きな値となった。高結晶性黒鉛も、同様に、G/Dは高い値を示すが、G/2Dが3.26と大きな値となった。
【0100】
ナノ炭素構造体1と、賦形力の大きい炭素バインダー1(熱膨張黒鉛)との混合物を成形した三次元形状炭素構造体4(実施例1)は、G/Dは人造黒鉛よりも高く、G/2Dは人造黒鉛よりも低いものであった。ナノ炭素構造体2と、炭素バインダー1(熱膨張黒鉛)との混合物を成形した三次元形状炭素構造体6も、G/Dは人造黒鉛よりも高く、G/2Dは人造黒鉛よりも低いものであった(実施例2)。
【0101】
さらに、ナノ炭素構造体2と炭素バインダー2との混合物を成形した三次元形状炭素構造体7は、ナノ炭素構造体2の粒子表面に、薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造と、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造とが十分に成長し、かつ、グラフェン集合体との配合の後でも、SEM像で花弁構造と凸凹状構造が多く確認できる成形体を得た(実施例3)。このG/Dは他の実施例よりも高く、G/2Dは他の実施例よりも低いものであった。また、曲げ強度についても大きな値を示した(1.6MPa)。
【0102】
実施例1~3の三次元形状炭素構造体のSEM像(図20図25)について、図20(三次元形状ナノ炭素構造体4)では表面が炭素バインダーで完全に覆われていて、花弁状構造が確認できないが、該炭素バインダーの下に、花弁状構造が維持されているものと推定できる。というのも、図21(三次元形状ナノ炭素構造体6)では、炭素バインダーで覆われていない部分に、花弁状構造や、凸凹状構造が確認できるからである。さらに、図22(三次元形状ナノ炭素構造体7)や、拡大図である図23図25では、花弁状構造や、凸凹状構造が維持されたまま、バインダーであるグラフェン集合体で結合されている様子がはっきりと確認できる。図22および図23は低倍率のSEM像であり、図24および図25は高倍率のSEM像であるが、特に、図24および図25では凸凹状構造を捉えている。
【0103】
(中性子透過率)
各試料について、以下に示すようにして、中性子透過率を測定した。すなわち、理研小型中性子源システムRANS(RIKEN Accelerator-driven compact Neutron Source)で発生させた中性子を、メシチレン冷中性子モデレータで減速し、さらにスリットコリメータを通過させて周辺からの散乱中性子を除去しながら直径10mmの中性子束(ビーム)に集束させ、試料に照射した。試料は、試料支持枠に取り付けられた炭化ホウ素(B4C)分散ゴムの裏面に貼り付け、該試料支持枠は、冷中性子モデレータの表面から約1.5mの位置に設置した。前記炭化ホウ素分散ゴムの中心には直径10mmの穴が設けられており、該穴を通過する中性子は試料を一様に透過する。試料の約100mm先にGEM(Gas Electron Multiplier)検出器を設置し、試料を透過した中性子線の、中性子エネルギー依存の強度を測定した。試料有りの場合と試料無しの場合との比から、中性子エネルギー依存の透過率(%)を求めた。透過率は、試料の厚さ、密度から、1原子あたりの値に規格化した。なお、存在する原子はすべて炭素とした。結果を図27に示す。
≪RANSの概要≫
加速イオン:陽子
中性子発生核反応:9Be(p、n)9
最大中性子エネルギー:5MeV
加速方式:RFQ+DTL
【0104】
実験に用いた試料は以下のとおりである。これら試料の厚さ、密度および0.5meVでの透過率(%)を表4に示す。また、図27から、中性子エネルギーが0.5meVのときの各試料の中性子透過率を目視により読み取った。結果を表4に示す。
構造体4:三次元形状炭素構造体4
構造体7:三次元形状炭素構造体7
グラファイト:東洋炭素(株)製の等方性黒鉛(かさ密度:1.77g/cm3
ナノダイヤモンド:ND plate(「M. Teshigawara et Al. (2019). Measurement of neutron scattering cross section of nano-diamond with particle diameter of approximately 5 nm in energy range of 0.2 meV to 100 meV. Nuclea Inst. and Methods Physics Reserch, A 929, 113-120.」で調製されたND plate)
【0105】
【表4】
【0106】
実施例1の構造体4と実施例3の構造体7についてのエネルギー依存中性子透過率プロファイルは、参考例4のナノダイアモンドのプロファイルに近く、比較例1のグラファイト(参考例3の人造黒鉛板とかさ密度が同等のグラファイト材)よりも格段に透過率が低い。このような低い透過率は干渉性散乱に起因するものと考えられる。したがって、実施例の三次元形状炭素構造体は、冷中性子の反射材として冷中性子の高強度化に有用であると考えられる。また、図27のエネルギー依存中性子透過率プロファイルからは、冷中性子のみならず、極冷中性子についても低い透過率を示すことが期待できる結果となっている。
【0107】
本発明の好ましい実施形態を以下に記載する。
【0108】
[1]ナノ炭素構造体を含んでなる三次元形状の炭素構造体であって、
前記ナノ炭素構造体は、グラフェン骨格を有する20nm未満の厚さの薄片状炭素が花弁状に固定された花弁状構造、および、1~100nmの大きさのシード状構造体が集まって形成された凸凹状構造の少なくとも一つの構造を有するものである、炭素構造体。
[2]前記ナノ炭素構造体が、前記花弁状構造と前記凸凹状構造とを有するものである、上記[1]記載の炭素構造体。
[3]炭素バインダーをさらに含む、上記[1]または[2]記載の炭素構造体。
[4]前記炭素バインダーが、熱膨張黒鉛およびグラフェン集合体の少なくとも一つを含む上記[3]記載の炭素構造体。
[5]前記炭素バインダーが、グラフェン集合体を含む上記[3]記載の炭素構造体。
[6]前記炭素構造体の厚さが0.1mm以上である上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の炭素構造体。
[7]曲げ強度が0.5MPa以上である上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の炭素構造体。
[8]かさ密度が0.70g/cm3以上である上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の炭素構造体。
[9]ラマン分光より得られるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比G/Dが3.00以上であり、2Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比G/2Dが3.00以下である上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の炭素構造体。
[10]前記三次元形状が、板状、円盤状、チューブ状、または、前記チューブ状の形状を分割した分割片の形状である上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の炭素構造体。
[11]0.5meVの中性子についての中性子透過率が80%以下である上記[1]~上記[10]のいずれか1項に記載の炭素構造体。
【符号の説明】
【0109】
1 マッフル本体
2 耐熱性ゴム(シール用途)
3 マッフル蓋
4固定用のネジ穴
5 雰囲気ガス導入口
6 雰囲気ガス排出口
7 冷却水入口
8 冷却水出口
図1
図2
図3
図4
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図26
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【手続補正書】
【提出日】2023-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
「Gバンド」とは、グラフェンのラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近に現れる特徴的なピークの一つであり、グラフェンの積層構造に由来するピークである。グラフェンの積層構造が正常なものであるほど、ピーク値が高くなる傾向にある。1580cm-1付近とは、±100cm -1 のシフトを許容する意味である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
「Dバンド」とは、グラフェンのラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近に現れる特徴的なピークの一つであり、グラフェンの積層構造の乱れと欠陥に由来するピークである。当該乱れと欠陥が増えるにつれて、ピーク値が高くなる傾向にある。1360cm-1付近とは、±100cm -1 のシフトを許容する意味である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
「2Dバンド」とは、グラフェンのラマンスペクトルにおいて、2700cm-1付近に現れる特徴的なピークの一つであり、グラフェンの積層数と相関がある。当該積層数が減るにつれて、ピーク値が高くなる傾向にある。2Dバンドのピークが2700cm-1付近とは、±100cm -1 のシフトを許容する意味である。